(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055085
(43)【公開日】2023-04-17
(54)【発明の名称】脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂及びゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 240/00 20060101AFI20230410BHJP
C08L 57/02 20060101ALI20230410BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20230410BHJP
C08L 9/06 20060101ALI20230410BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20230410BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
C08F240/00
C08L57/02
C08L9/00
C08L9/06
C08K3/36
B60C1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021164201
(22)【出願日】2021-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】由里 貴史
(72)【発明者】
【氏名】内田 良樹
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
3D131AA03
3D131BA05
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3D131BC02
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3D131BC31
4J002AC062
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4J100FA28
4J100GA02
4J100GB02
4J100GC29
4J100JA29
(57)【要約】
【課題】 ゴムの耐破壊特性を向上し、タイヤのウェットグリップ性と転がり抵抗性の両立を可能とする新規な脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂及びそれを用いたゴム組成物を提供することを目的とするものである。
【解決手段】 石油類の熱分解留分である不飽和脂肪族炭化水素、不飽和芳香族化合物とジシクロペンタジエン類との共重合体であって、(1)軟化点が80~130℃、(2)Mw1500~2500、Mz2500~6000、Mz/Mw1.5~2.5、(3)(I)脂肪族性水素面積比率が69~74%、(II)非環状二重結合性水素面積比率が2.0~4.0%、(III)ジシクロペンタジエン類二重結合性水素面積比率が1.3~2.5%、(IV)芳香族性水素面積比率が20~27%、の特性を満足する脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
石油類の熱分解留分である不飽和脂肪族炭化水素、不飽和芳香族化合物とジシクロペンタジエン類との共重合体であって、下記(1)~(3)の特性を満足することを特徴とする脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂。
(1)JISK-2531(1960)(環球法)に準拠した軟化点が80~130℃。
(2)標準ポリスチレンを標準物質とし、JISK-0124(1994年)に準拠し、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した重量平均分子量(Mw)が1500~2500、Z平均分子量(Mz)が2500~6000、重量平均分子量に対するZ平均分子量の比(Mz/Mw)が1.5~2.5。
(3)重クロロホルム中、室温下において測定したプロトンNMRスペクトルにおいて、(I)脂肪属性水素に由来する0.2~4.0ppmに位置するピークの面積比率が69~74%、(II)非環状二重結合性水素に由来する4.4~5.4ppmに位置するピークの面積比率が2.0~4.0%、(III)ジシクロペンタジエン類二重結合性水素に由来する5.4~6.3ppmに位置するピークの面積比率が1.3~2.5%、(IV)芳香族性水素に由来する6.3~7.6ppmに位置するピークの面積比率が20~27%。
【請求項2】
更に下記(4)の特性をも満足することを特徴とする請求項1に記載の脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂。
(4)スチレン-ブタジエンゴム100重量部に対し、脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂30重量部、硫黄1.5重量部及びスルフェンアミド系加硫促進剤2.5重量部を配合し、150℃で30分間プレス加硫した加硫ゴムをJISK-6251に準拠し引張試験を行った際に、破断強度(MPa)×破断伸張(%)>500を満足する。
【請求項3】
石油類の熱分解留分が、植物由来油及び/又はケミカルリサイクル油を含む熱分解油であることを特徴とする請求項1又は2に記載の脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂。
【請求項4】
ジエン系ゴムに対して少なくとも請求項1~3のいずれかに記載の脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂を含むことを特徴とするゴム組成物。
【請求項5】
ジエン系ゴム100重量部に対して、前記脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂1~50重量部を含むことを特徴とする請求項4に記載のゴム組成物。
【請求項6】
ジエン系ゴムが、スチレン-ブタジエンゴムを10重量%以上含むジエン系ゴムであることを特徴とする請求項4又は5に記載のゴム組成物。
【請求項7】
ジエン系ゴム100重量部に対し、さらにシリカ20~200重量部を含むことを特徴とする請求項4~6のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項8】
請求項4~7のいずれかに記載のゴム組成物を含むことを特徴とするタイヤ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂およびそれを用いたゴム組成物に関するものであり、特に当該ゴム組成物をタイヤのトレッド部に用いた際に、タイヤの耐久性の指標となる耐破壊特性を向上すると共に、ウェットグリップ性と転がり抵抗性の両立をも可能とする新規な脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂およびそれを用いたゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の高性能化、高機能化に伴い、タイヤ性能への要求が高まっている。例えば、相反関係にあるウェットグリップ性、転がり抵抗性を向上したタイヤが求められている。また、駆動用バッテリーを搭載した電気自動車やプラグインハイブリッド車等は、車両重量の増加に伴い、タイヤに掛かる負荷が増加するため、耐久性を向上したタイヤが求められている。従来より、タイヤのウェットグリップ性および転がり抵抗性を改善するため、ゴムにシリカを配合する技術や、転がり抵抗性および耐摩耗性を改善するため、末端にシリカと親和性の高い、又は化学結合し得る官能基を導入した末端変性ゴムを使用する技術が利用されている。
【0003】
タイヤの機械特性の向上や未加硫のゴム組成物に良好な粘着性を付与することを目的に、ゴムに脂肪族/芳香族共重合樹脂(例えば特許文献1参照)、脂肪族/脂環族共重合樹脂を配合すること(例えば特許文献2参照)、等が提案されている。
【0004】
また、乾燥路面、湿潤路面の両方で高い制御性能を発現することを目的に、天然ゴムを70質量%以上含むゴム成分に対して、C5系樹脂、C5/C9系樹脂、C9系樹脂などの熱可塑性樹脂を配合すること(例えば特許文献3参照)が提案されている。
【0005】
さらに、タイヤのウェットグリップ性、転がり抵抗性、耐摩耗性に優れ、加工性の向上を可能とすることを目的に、ジエン系ゴムに対して、脂肪族-芳香族-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂を配合すること(例えば特許文献4参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5309529号
【特許文献2】特許第5375101号
【特許文献3】特許第6346325号
【特許文献4】特開2020-203962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~2に提案の方法においては、主なゴムとして天然ゴム、充填剤としてカーボンブラックの配合について提案されたものであり、ウェットグリップ性、転がり抵抗性の両立については検討されておらず、特許文献3~4に提案の方法においては、耐破壊特性の効果については検討されていないものであり、これら課題を解決した耐破壊特性を向上すると共に、ウェットグリップ性と転がり抵抗性の両立を可能とする新規な脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂およびそれを用いたゴム組成物の出現が望まれている。
【0008】
そこで、本発明は、従来技術の課題を解決し、ゴム組成物の耐破壊特性を向上し、タイヤのウェットグリップ性と転がり抵抗性の両立を可能とする新規な石油樹脂およびそれを用いたゴム組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を進めた結果、特定の特性を満足する脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂、およびそれを用いたゴム組成物が、優れた耐破壊特性、ウェットグリップ性、転がり抵抗性を発揮するゴム組成物となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明は石油類の熱分解留分である不飽和脂肪族炭化水素、不飽和芳香族化合物とジシクロペンタジエン類との共重合体であって、下記(1)~(3)の特性を満足することを特徴とする脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂およびこれを含むゴム組成物に関するものである。
(1)JISK-2531(1960)(環球法)に準拠した軟化点が80~130℃。
(2)標準ポリスチレンを標準物質とし、JISK-0124(1994年)に準拠し、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、GPCと記す場合がある)により測定した重量平均分子量(以下、Mwと記す場合がある)が1500~2500、Z平均分子量(以下、Mzと記す場合がある)が2500~6000、Mwに対するMzの比(以下、Mz/Mwと記す場合がある)が1.5~2.5。
(3)重クロロホルム中、室温下において測定したプロトンNMRスペクトルにおいて、(I)脂肪属性水素に由来する0.2~4.0ppmに位置するピークの面積比率が69~74%、(II)非環状二重結合性水素に由来する4.4~5.4ppmに位置するピークの面積比率が2.0~4.0%、(III)ジシクロペンタジエン類二重結合性水素に由来する5.4~6.3ppmに位置するピークの面積比率が1.3~2.5%、(IV)芳香族性水素に由来する6.3~7.6ppmに位置するピークの面積比率が20~27%。
【0011】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂は、石油類の分離・精製により得られる熱分解留分の重合により得られるものであり、例えば脂肪族炭化水素留分であるC5留分(例えば沸点範囲20~110℃の留分)及び芳香族化合物留分であるC9留分(例えば沸点範囲140~280℃の留分)、場合によってはジシクロペンタジエン類留分を加え、共重合してなる石油樹脂である。そして、上記(1)~(3)の特性を満足するものである。また、その際の石油類としては、ナフサ等に代表される石油由来のものは無論、バイオエタノール、バイオナフサ等に代表される植物由来油、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、アクリル、ポリスチレンに代表されるプラスチックのケミカルリサイクル由来油を含むものであってもよい。
【0013】
本発明の脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂を構成する脂肪族炭化水素成分としては、脂肪族炭化水素留分であるC5留分と称される留分に属する成分を挙げることができ、例えば沸点範囲20~110℃の留分、より具体的にはイソプレン、ピペリレン等の鎖状不飽和脂肪族炭化水素;シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン等の環状不飽和脂肪族炭化水素;それら混合物等が挙げられる。また、シクロペンタジエン類は、二量化能を有しその保存中にジシクロペンタジエン類となることから、シクロペンタジエン類を含むC5留分である場合、その二量体であるジシクロペンタジエン類を含むものであってもよい。
【0014】
本発明の脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂を構成する芳香族化合物成分としては、芳香族化合物留分であるC9留分と称される留分を挙げることができ、例えば沸点範囲140~280℃の留分、より具体的にはスチレン等の炭素数8の不飽和芳香族化合物;α-メチルスチレン、ビニルトルエン、インデン、1-メチルインデン、2-メチルインデン、3-メチルインデンなどの不飽和芳香族化合物;それらの混合物が挙げられる。
【0015】
本発明の脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂を構成するジシクロペンタジエン類成分としては、ジシクロペンタジエン類に属するものであればよく、例えばジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン、ジメチルジシクロペンタジエン等、それらの混合物が挙げられる。そして、該ジシクロペンタジエン類としては、該C9成分として含まれるものであってもよい。
【0016】
本発明の新規な脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂は、(1)JISK-2531(1960)(環球法)に準拠した軟化点が80~130℃のものであり、85~125℃であることが好ましい。ここで、軟化点が80℃未満である場合、ゴムに配合した組成物をタイヤとした際のウェットグリップ性が劣り、軟化点が130℃を超える場合、タイヤとした際の転がり抵抗性が劣るゴム組成物となる。
【0017】
本発明の新規な脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂は、標準ポリスチレンを標準物質とし、JISK-0124(1994年)に準拠し、GPCにより測定したMwが1500~2500、Mzが2500~6000、Mz/Mwが1.5~2.5のものである。ここで、Mwが1500未満またはMzが2500未満のものである場合、ゴムに配合した組成物をタイヤとした際のウェットグリップ性が劣るものとなり、Mwが2500またはMzが6000を超えるものである場合、タイヤとした際の転がり抵抗性が劣るものとなる。また、Mz/Mwが1.5未満のものである場合、ゴムに配合した組成物をタイヤとした際の耐破壊特性が劣るもとなり、Mz/Mwが2.5を超えるものとなる場合、ゴム組成物とした際の相溶性に劣るものとなり、タイヤとした際の転がり抵抗性が劣るものとなる。
【0018】
本発明の新規な脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂は、(I)脂肪族性水素面積比率が69~74%、(II)非環状二重結合性水素面積比率が2.0~4.0%、(III)ジシクロペンタジエン類二重結合性水素面積比率が1.3~2.5%、(IV)芳香族性水素面積比率が20~27%を満たす石油樹脂であり、それぞれの水素面積比率は、重クロロホルムを溶媒として用いたプロトンNMRにより、測定・観測したスペクトルのピーク面積の百分率により下記(ア)~(エ)の条件により測定することが出来る。
(ア)0.2~4.0ppmに観測される脂肪族成分に由来する水素の面積比率による求める。
(イ)4.4~5.4ppmに観測される非環状成分の二重結合に由来する水素の面積比率により求める。
(ウ)5.4~6.3ppmに観測されるジシクロペンタジエン類成分の二重結合に由来する水素の面積比率により求める。
(エ)6.3~7.6ppmに観測される芳香族成分に由来する水素の面積比率により求める。
【0019】
そして、本発明の新規な脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂は、これら(I)~(IV)のいずれの特性をも満足することにより、ゴム、特にジエン系ゴムとの相溶性に優れ、タイヤとした際に性能の優れるタイヤとすることを可能とするものである。
【0020】
また、本発明の新規な脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂は、特にゴムに配合した際の耐破壊特性と柔軟性のバランスに優れるものとなることから。(4)スチレン-ブタジエンゴム100重量部に対し、該脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂30重量部、硫黄1.5重量部及びスルフェンアミド系加硫促進剤2.5重量部を配合し、150℃で30分間プレス加硫し加硫ゴムとした後に、JISK-6251に準拠し引張試験を行い、得られた破断強度(MPa)と破断伸張(%)が、破断強度(MPa)×破断伸張(%)>500の関係を満足するものであることが好ましい。
【0021】
本発明の新規な脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂の製造方法としては特に制限はなく、いかなる方法で製造しても差し支えなく、例えば、石油類の熱分解により得られる沸点範囲が20~110℃のC5留分である脂肪族炭化水素留分、沸点範囲が140~280℃のC9留分である芳香族化合物留分、さらに場合によっては、ジシクロペンタジエン類留分を含む混合物を原料油として用い、この混合物に触媒を加え、加熱し重合することにより製造できる。重合に用いる触媒としては、特に制限はなく、例えば三塩化アルミニウム、三臭化アルミニウム、三フッ化ホウ素あるいはその錯体等が挙げられる。重合時の溶媒は、C5留分およびC9留分中の飽和炭化水素を挙げることができる。
【0022】
そして、製造を行う際の重合温度としては、特に制限はなく、重合活性が高く生産性に優れるものとなることから、20~80℃が好ましく、特に30~60℃であることが好ましい。また、触媒量及び重合時間は、温度や原料油中の水分濃度により適宜選択可能であり、通常、例えば原料油に対し、触媒0.1~2.0重量%、重合時間0.1~10時間が好ましい。反応圧力も特に制限はなく、大気圧~1MPaが好ましい。雰囲気も特に制限はなく、中でも窒素雰囲気が好ましい。
【0023】
本発明の新規な脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂は、ゴム、特にジエン系ゴムに対して配合することにより、優れた耐破壊特性、ウェットグリップ性、転がり抵抗性を発揮するゴム組成物となる。その際のジエン系ゴムとしては、例えば天然ゴム、 ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム等が挙げられる。これらは単独で使用しても混合して使用しても良い。ジエン系ゴムの製造方法は特に制限されず、アニオン重合品であっても、乳化重合品であっても良い。ジエン系ゴムの分子末端が、アミン、アミド、シリル、アルコキシシリル、カルボキシル、ヒドロキシル基等で末端変性されていても、エポキシ化されていても良い。特に該脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂との相溶性に優れることから、天然ゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴムのうち少なくとも1種以上をスチレン-ブタジエン共重合体ゴムと併用するものであることが好ましい。そして、ゴム組成物としては、ウェットグリップ性、低燃費性および耐破壊特性に優れるタイヤ用ゴム組成物、タイヤとなることから、ジエン系ゴム100重量部に対し、該脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂1~50重量部含むものであることが好ましい。
【0024】
また、ゴム組成物は、ウェットグリップ性および転がり抵抗性を改良したものとするため、シリカを配合することも出来る。その際のシリカとしては、特に制限はなく、市販のゴム組成物に使用されているものが使用でき、中でも湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、コロイダルシリカ等を使用することができ、特に、湿式シリカであることが好ましい。シリカの使用量としては、ウェットグリップ性、転がり抵抗性、加工性に優れるゴム組成物となることからジエン系ゴム100重量部に対し、20~200重量部の範囲が好ましく、さらに好ましくは、30~150重量部の範囲とすることが望ましい。
【0025】
シリカを使用する際にはシランカップリング剤を併用することが好ましい。シランカップリング剤を併用することにより、シランカップリング剤を介してジエン系ゴムとシリカとの結合が強化され、ウェットグリップ性、転がり抵抗性、耐破壊特性を向上することが出来る。シランカップリング剤としては、例えばスルフィド系、メルカプト系、ビニル系、アミノ系、エポキシ系、グリシジル系、ニトロ系、クロロ系等のシランカップリング剤が挙げられる。これらのシランカップリング剤は単独、または2種以上用いることが出来る。
【0026】
そして、ゴム組成物においては、上記シリカ以外にも補強性充填剤として、例えばカーボンブラックなどを併用することができ、該カーボンブラックとしては、例えば、SAF、ISAF、HAF、FEF、SRFなどのグレードを用いることが出来る。また、該カーボンブラックの含有量としては、特に制限はなく、ジエン系ゴム100重量部に対し、1~100重量部であることが好ましい。
【0027】
ゴム組成物は、さらに通常樹脂組成物やゴム組成物に配合剤を使用しても良い。例えば、硫黄をはじめとする架橋剤、加硫促進剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、可塑剤、オイル、ワックス、老化防止剤などの配合剤を加えても良い。これらの配合剤としては市販品を好適に使用することが出来る。
【0028】
また、ゴム組成物としては、ゴムを含むものであれば、いかなる組成、形態、形状物をも含むものであり、架橋剤、加硫促進剤、加硫促進助剤等を含み架橋(加硫)を行った架橋物(加硫物)であってもよく、特にタイヤのトレッドとして用いることにより、ウェットグリップ性、転がり抵抗性、耐久性に優れるタイヤを提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の新規な脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂は、特にゴム成分に対し配合することで、耐破壊特性を向上し、タイヤとしてのウェットグリップ性と転がり抵抗性を両立したゴム組成物を提供することが可能となる。
【実施例0030】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限を受けるものではない。尚、実施例、比較例において用いた原料油、得られた石油樹脂の分析方法は下記の通りである。
【0031】
1.原料
<原料油>
ナフサの分解・精製により得られた脂肪族炭化水素留分である沸点範囲20~110℃のC5留分((A)、(B))留分、芳香族化合物留分である沸点範囲140~280℃のC9留分((A)、(B))、ジシクロペンタジエン類留分のそれぞれの組成を表1~3に示す。なお、表1~3中のDCPDはジシクロペンタジエン、CPDはシクロペンタジエンの略記である。
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
<石油樹脂製造用触媒>
三フッ化ホウ素フェノール:三フッ化ホウ素30重量%品(ステラケミファ(株)製)。
三フッ化ホウ素ブタノール:三フッ化ホウ素30重量%品(ステラケミファ(株)製)。
【0036】
<ゴム>
スチレン-ブタジエンゴム:JSR社製(商品名)SL563。
イソプレンゴム:JSR社製(商品名)IR2200。
【0037】
<配合剤>
シリカ:東ソー・シリカ製(商品名)NipsilAQ。
シランカップリング剤:大阪ソーダ製(商品名)CABRUS2。
カーボンブラック:旭カーボン製(商品名)旭#70。
オイル:出光興産製(商品名)ダイアナプロセスオイルAH-16。
ステアリン酸:富士フィルム和光純薬製試薬。
亜鉛華:井上石灰工業製。
老化防止剤:大内新興化学工業製(商品名)ノクラック6C。
ワックス:大内新興化学工業製(商品名)サンノック。
硫黄:鶴見化学工業製(商品名)サルファックス5。
加硫促進剤1:大内新興化学工業製(商品名)ノクセラーCZ。
加硫促進剤2:大内新興化学工業製(商品名)ノクセラーD。
【0038】
2.分析方法
<原料油成分分析>
JIS K-0114(2000年)に準拠してガスクロマトグラフ法を用いて分析した。
【0039】
<プロトンNMR測定>
重クロロホルム中で核磁気共鳴測定装置(日本電子製、(商品名)GSX400、周波数400MHz)によりプロトンNMRスペクトルを測定した。
【0040】
<Mn、重量平均分子量(Mw)、Mzの測定>
ポリスチレンを標準物質とし、JIS K-0124(1994年)に準拠してGPCにより測定した。
【0041】
<軟化点の測定>
JIS K-2531(1960)(環球法)に準拠した方法で測定した。
【0042】
<ウェットグリップ性>
粘弾性測定装置(レオメトリックス社製)を使用し、温度0℃、歪み5%、周波数50Hzでtanδを測定し、0℃の値をウェットグリップ性の指標とした。tanδ値が大きいものほどウェットグリップ性に優れると判断した。
【0043】
<転がり抵抗性>
粘弾性測定装置(レオメトリックス社製)を使用し、温度60℃、歪み5%、周波数50Hzでtanδを測定し、60℃の値を転がり抵抗性の指標とした。tanδ値が小さいものほど転がり抵抗性に優れると判断した。
【0044】
<耐破壊特性>
JIS K-6251の試験法に準じて、引張試験機(島津製作所社製)を使用し、破断強度、破断伸張を測定した。破断強度(MPa)×破断伸張(%)>500を満足するものを耐破壊特性に優れると判断した。
【0045】
実施例1
内容積2リットルのガラス製オートクレーブに、原料油としてナフサの分解により得たC5(A)留分(組成は表1参照。)200g及びC9留分(A)(組成は表2参照。)300gを仕込んだ(C5留分(A)/C9留分(A)=40/60(重量%))。次に、窒素雰囲気下で40℃に加熱した後、事前に混合した三フッ化ホウ素フェノール0.4gを原料油に加えて40℃で2時間重合した。重合反応終了後、苛性ソーダ水溶液を添加して中和した後、油層の未反応油を蒸留して脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂(以下、石油樹脂Aと記す場合がある)を回収した。
【0046】
重合条件及び結果を表4に示し、得られた石油樹脂Aの物性(分子量、軟化点、NMR分析値)を表5に示す。
【0047】
そして、ラボプラストミル(容量600cc)にスチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)((株)JSR製)100重量部に対し、石油樹脂Aを30重量部加え、全練り時間5分後に取出した。その際、取出し時のコンパウンド温度が120~130℃となるようにラム圧や回転数を調整した。得られたコンパウンドを室温にて冷却した後、硫黄(鶴見化学工業製(商品名)サルファックス5)を1.5重量部、加硫促進剤1(大内新興化学工業製(商品名)ノクセラーCZ)を1.2重量部、加硫促進剤2(大内新興化学工業製(商品名)ノクセラーD)を1.8重量部添加して1分間混練り後、ロールを用いてシーティングして未加硫ゴム組成物を得た。さらに加熱プレス機を用い、加硫温度150℃、加硫時間30分とすることにより加硫ゴムを得た。
【0048】
得られた加硫ゴムの引張測定を行い破断強度、破断伸張の測定を行った。得られた石油樹脂Aは、破断強度×破断伸張=864を示す耐破壊特性に優れる加硫ゴムを提供することが可能なものであった。その結果を表6に示す。
【0049】
実施例2~4
原料油の配合、量、重合触媒の種類、量を表4に示す通りとした以外は、実施例1と同様の方法により脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂(石油樹脂B~D)を得た。
【0050】
得られた石油樹脂B~Dの物性(分子量、軟化点、NMR分析値)を表5に示すと共に、実施例1と同様に加硫ゴムとした際の評価結果を表6に示す。耐破壊特性に優れる加硫ゴムを提供することが可能なものであった。
【0051】
比較例1~4
原料油の配合、量、重合触媒の種類、量を表4に示す通りとした以外は、実施例1と同様の方法により石油樹脂(石油樹脂E~H)を得た。
【0052】
得られた石油樹脂E~Hの物性(分子量、軟化点、NMR分析値)を表5に示すと共に、実施例1と同様に加硫ゴムとした際の評価結果を表6に示す。得られた石油樹脂E~Hはいずれも耐破壊特性に優れる加硫ゴムを提供することのできないものであった。
【0053】
参考例
石油樹脂を配合しなかったこと以外は、実施例1と同様に加硫ゴムとした際の評価結果を表6に示す。得られた加硫ゴムは耐破壊特性に劣るものであった。
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
実施例5
ラボプラストミル(容量600cc)にてスチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)((株)JSR製、(商品名)SL563)70重量部、イソプレンゴム(IR)((株)JSR製、(商品名)IR2200)30重量部を30秒間素練り後、シリカ(東ソー・シリカ製(商品名)NipsilAQ)を60重量部、シランカップリング剤(大阪ソーダ製(商品名)CABRUS2)を4.8重量部、カーボンブラック(旭カーボン製(商品名)旭#70)を15重量部、オイル(出光興産製(商品名)ダイアナプロセスオイルAH-16)を10重量部、ステアリン酸(富士フィルム和光純薬製試薬)を2重量部、亜鉛華(井上石灰工業製)を3重量部、老化防止剤(大内新興化学工業製(商品名)ノクラック6C)を1重量部、ワックス(大内新興化学工業製(商品名)サンノック)を2重量部、実施例1により得られた石油樹脂Aを15重量部加え、全練り時間5分後にコンパウンドを取り出した。取り出し時のコンパウンド温度を140~150℃となるようにラム圧、回転数を調整し、ゴム組成物を得た。
【0058】
そして、更に硫黄(鶴見化学工業製(商品名)サルファックス5)を1.5重量部、加硫促進剤1(大内新興化学工業製(商品名)ノクセラーCZ)を1.2重量部、加硫促進剤2(大内新興化学工業製(商品名)ノクセラーD)を1.8重量部添加して1分間混練後、8インチロールを用いてシーティングして未加硫ゴム組成物を得た。その後、加熱プレス機を用い、加硫温度150℃、加硫時間30分により加硫を行い、加硫ゴム組成物を得た。
【0059】
得られた加硫ゴム組成物のウェットグリップ性、転がり抵抗性の測定結果を表7に示す。
【0060】
実施例6~8
石油樹脂Aの代わりに、石油樹脂B、C、Dをそれぞれ用いた以外は、実施例5と同様の方法によりゴム組成物を調製し、その評価を行った。その結果を表7に示す。
【0061】
実施例9
石油樹脂A15重量部の代わりに30重量部を用いた以外は、実施例5と同様の方法によりゴム組成物を調製し、その評価を行った。その結果を表7に示す。
【0062】
比較例1
石油樹脂Aを用いないこと以外は、実施例5と同様の方法によりゴム組成物を得た。得られたゴム組成物はウェットグリップ性に劣るものであった。その評価結果を表7に示す。
【0063】
比較例6~9
石油樹脂Aの代わりに、石油樹脂E、F、G、Hをそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様の方法によりゴム組成物を調製し、評価を行った。得られたゴム組成物はウェットグリップ性と低転がり抵抗性の両立を行うことは困難なものであった。その結果を表7に示す。
【0064】
本発明の脂肪族炭化水素-芳香族化合物-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂は、耐破壊特性、ウェットグリップ性、転がり抵抗性に優れるゴム組成物を提供することを可能とし、該ゴム組成物は、タイヤのトレッド用ゴムとして使用可能であり、その産業的価値は極めて高いものである。