(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055111
(43)【公開日】2023-04-17
(54)【発明の名称】チタン膜を形成する方法、及びチタン膜を形成する装置
(51)【国際特許分類】
C23C 16/14 20060101AFI20230410BHJP
C23C 16/56 20060101ALI20230410BHJP
C23C 16/515 20060101ALI20230410BHJP
H01L 21/285 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
C23C16/14
C23C16/56
C23C16/515
H01L21/285 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021164248
(22)【出願日】2021-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐野 達也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 理志
(72)【発明者】
【氏名】坂本 祐也
【テーマコード(参考)】
4K030
4M104
【Fターム(参考)】
4K030AA03
4K030AA16
4K030AA17
4K030BA18
4K030BB14
4K030CA04
4K030CA12
4K030DA09
4K030FA01
4K030FA10
4K030GA02
4K030GA12
4K030JA01
4K030JA03
4K030JA10
4K030JA11
4K030JA16
4K030JA18
4K030KA41
4K030LA15
4M104BB14
4M104DD43
4M104DD44
4M104DD48
(57)【要約】
【課題】基板に形成されたアスペクト比が25以上の凹部内にチタン膜を形成する技術を提供すること。
【解決手段】アスペクト比が25以上の凹部が形成された基板に対し、チタン原料ガスを供給すると共に、前記原料ガスが供給されている空間に対し、オン/オフを交互に繰り返しながら高周波電力を印加してチタン原料ガスをプラズマ化することと、次いで前記高周波電力のオン/オフの1周期よりも長い期間、前記高周波電力の印加を停止することと、を交互に複数回繰り返すことにより、前記凹部内に前記チタン膜を成膜する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に形成された凹部内にチタン膜を形成する方法において、
幅寸法に対する深さ寸法の比であるアスペクト比が25以上の前記凹部が形成された基板に対し、チタン原料ガスを供給する工程と、
前記チタン原料ガスを供給する工程を実施している期間中に、前記原料ガスが供給されている空間に対し、オン/オフを交互に繰り返しながら高周波電力を印加して、前記チタン原料ガスをプラズマ化することと、次いで前記高周波電力のオン/オフの1周期よりも長い期間、前記高周波電力の印加を停止することと、を交互に複数回繰り返すことにより、前記凹部内に前記チタン膜を成膜する工程と、を含む、方法。
【請求項2】
前記凹部の幅寸法は、10nm~5μmの範囲内である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記チタン膜の膜厚は、0.1~150nmの範囲内である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記高周波電力のオン/オフの周期は、40マイクロ秒~100ミリ秒の範囲内の期間である、請求項1ないし3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
前記チタン原料ガスを供給する工程では、前記チタン原料ガスと反応して前記チタン膜を形成する反応ガスの供給が並行して行われる、請求項1ないし4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
前記チタン原料ガスは四塩化チタンガスであり、前記反応ガスは水素ガスである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記高周波電力を印加する期間と、前記高周波電力の印加を停止する期間とは、各々、2秒以上、20秒以下の範囲内で設定される、請求項1ないし6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
前記チタン原料ガスを供給する工程を実施している期間中に、前記基板を400~800℃の範囲内の温度に加熱する工程を含む、請求項1ないし7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
前記高周波電力は、0Wより大きく、2000W以下の範囲内の値である、請求項1ないし8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
前記チタン膜は、シリコンが露出する面に沿って形成され、前記チタン膜の形成後、シリコン原子の拡散によりチタンシリサイド膜となる、請求項1ないし9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
前記シリコンが露出する面は、前記凹部の側壁面及び底面である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記シリコンが露出する面は、前記凹部の底面であり、前記凹部の側壁面にはケイ素酸化物が露出していて、前記側壁面には前記チタン膜が形成されない、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
基板の表面に形成された凹部内にチタン膜を形成する装置であって、
幅寸法に対する深さ寸法の比であるアスペクト比が25以上の前記凹部が形成された基板を収容する処理容器と、
前記処理容器にチタン原料ガスを供給する原料ガス供給部と、
原料ガス供給部から前記チタン原料ガスが供給されている前記処理容器内の空間に高周波電力を印加するための高周波電力供給部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、前記処理容器内の前記基板に対し、チタン原料ガスを供給するステップと、前記チタン原料ガスを供給するステップを実施している期間中に、前記原料ガスが供給されている空間に対し、オン/オフを交互に繰り返しながら高周波電力を印加して、前記チタン原料ガスをプラズマ化することと、次いで前記高周波電力のオン/オフの1周期よりも長い期間、前記高周波電力の印加を停止することと、を交互に複数回繰り返すことにより、前記凹部内に前記チタン膜を成膜するステップと、を実行するための制御信号を出力するように構成された、装置。
【請求項14】
前記制御部は、前記高周波電力のオン/オフの周期が、40マイクロ秒~100ミリ秒の範囲内の期間となるように、前記制御信号を出力する、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
チタン原料ガスと反応して前記チタン膜を形成する反応ガスを前記処理容器に供給する反応ガス供給部をさらに備え、
前記制御部は、前記チタン原料ガスを供給するステップにて、前記反応ガスの供給が並行して行われるように前記制御信号を出力する、請求項13または14に記載の装置。
【請求項16】
前記チタン原料ガスは四塩化チタンガスであり、前記反応ガスは水素ガスである、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記制御部は、前記高周波電力を印加する期間と、前記高周波電力の印加を停止する期間とが、各々、2秒以上、20秒以下の範囲内となるように、前記制御信号を出力する、請求項13ないし16のいずれか一つに記載の装置。
【請求項18】
前記処理容器内に収容された前記基板を加熱する加熱部を備え、
前記制御部は、前記チタン原料ガスを供給するステップを実施している期間中に、前記基板を400~800℃の範囲内の温度に加熱するステップを実行するための制御信号を出力する、請求項13ないし17のいずれか一つに記載の装置。
【請求項19】
前記制御部は、0Wより大きく、2000W以下の範囲内の値の高周波電力が供給されるように前記制御信号を出力する、請求項13ないし18のいずれか一つに記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、チタン膜を形成する方法、及びチタン膜を形成する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイスや集積回路用のデバイスの製造工程においては、基板である半導体ウエハ(以下、「ウエハ」という)の表面に形成されたトレンチやビアホールなどの凹部内に、金属膜、例えばチタン膜を形成する処理が行われる場合がある。
一方、これらのデバイスは、高性能・高機能化や高集積化などに伴い、凹部の深さ寸法に対する幅寸法の比であるアスペクト比が大きくなる傾向がある。
【0003】
例えば特許文献1には、Si基板が配置されたチャンバ内にTiCl4ガスを導入した後、このチャンバ内にプラズマを生成することにより、前記Si基板に形成されたコンタクトホール内にTi膜を成膜する技術が記載されている。このTi膜は、下地のSiと反応することによりTiSi膜となる。また、特許文献2には、コンタクトホールの形成されたSiウエハへのチタン化合物ガスの供給と、その後の水素ガスのプラズマ供給とを交互に繰り返し、Siウエハの表面のシリコンと反応させてチタンシリサイド膜を形成する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-111888号公報
【特許文献2】特開2008-112803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、基板に形成されたアスペクト比が25以上の凹部内にチタン膜を形成する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、基板の表面に形成された凹部内にチタン膜を形成する方法において、
深さ寸法に対する幅寸法の比であるアスペクト比が25以上の前記凹部が形成された基板に対し、チタン原料ガスを供給する工程と、
前記チタン原料ガスを供給する工程を実施している期間中に、前記原料ガスが供給されている空間に対し、オン/オフを交互に繰り返しながら高周波電力を印加して、前記チタン原料ガスをプラズマ化することと、次いで前記高周波電力のオン/オフの1周期よりも長い期間、前記高周波電力の印加を停止することと、を交互に複数回繰り返すことにより、前記凹部内に前記チタン膜を成膜する工程と、を含む、方法である。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、基板に形成されたアスペクト比が25以上の凹部内にチタン膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】比較形態に係るTi膜の成膜の様子を示す模式図である。
【
図2】本開示に係るTi膜の成膜の様子を示す模式図である。
【
図3】Ti膜の成膜装置の構成例を示す縦断側面図である。
【
図4】Ti膜の成膜時の高周波電力の印加に係るタイムチャートである。
【
図5】他の実施形態に係るTi膜の成膜の様子を示す模式図である。
【
図6】凹部へのTi膜の成膜を行った実験結果を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<比較形態に係るTi膜の成膜方法>
本開示に係るチタン(Ti)膜の成膜方法を示す前に、比較形態に係る成膜方法の課題について説明する。
図1には、例えばパワーデバイスの製造にあたり、ウエハの表面に形成された凹部50内に、比較形態に係る成膜方法によりTi膜61aを形成する場合を示している。この例では、ウエハWを構成するシリコン部材51に凹部50が形成されている。従って、当該凹部50の側壁面及び底面には、シリコン部材51が露出した状態となっている。本例では、幅寸法Wに対する深さ寸法Hの比であるアスペクト比が25以上の凹部50内にTi膜61aを形成する。パワーデバイスの場合には、凹部50の幅寸法Wは、0.1~5μmの範囲内の0.4μm、深さ寸法は2.5~125μmの範囲内の10μmとする場合を例示できる。なお、左記の深さ寸法の範囲は、幅寸法Wが0.1~5μmの場合に、アスペクト比が25となる最低限度の範囲であり、これ以上、深い凹部50を形成してもよい。
【0010】
比較形態では、公知のプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法によりTi膜61aを形成する。本法では、処理空間に対し、チタン原料ガスである四塩化チタン(TiCl4)ガスと、反応ガス(還元ガス)である水素(H2)ガスとが連続的に供給される。そして例えば数百kHz~数GHz、800~1300W程度の高周波電力を印加してガスをプラズマ化する。このとき、ウエハWは、450~650℃程度の温度に加熱されている。
【0011】
上述の処理により、凹部50の近傍には反応性の高いTiCl
2ラジカル7aが豊富に形成されTi膜61aの成膜が進行していく。このとき、反応性が高いTiCl
2ラジカル7aによるTi膜61aの形成が支配的な環境下では、反応が速く進行し、TiCl
2ラジカル7aが凹部50内の下部側の領域に進入する前にTiが析出してしまう場合がある。この結果、
図1に示すように、凹部50の開口部付近に集中してTi膜61aが形成され、TiCl
2ラジカル7aは凹部50内への進入が阻害され、均一な膜厚を有するTi膜61の形成が困難になってしまうおそれが大きい。
【0012】
この傾向は、凹部50のアスペクト比が大きくなるに連れて発生しやすくなり、アスペクト比が25以上にもなる、いわば「超深穴」ともいうべき凹部50では、均一な膜厚のTi膜61の形成は、困難性の高い処理となる。なお、幅寸法Wが0.4μmの場合、一般に「深穴」と呼ばれる凹部50の深さ寸法Hは、高々5μm(アスペクト比が12.5)程度である。
【0013】
<成膜装置>
本開示に係る成膜法では高周波電力の供給を工夫することにより、TiCl
2ラジカル7aと比較して反応性の低いTiCl
3ラジカル7bによる成膜を進行させつつ、凹部50内にもTiCl
3ラジカル7bを進入させる(
図2)。これにより、アスペクト比の高い凹部50内に膜厚の均一なTi膜61の形成を図る。なお、
図2におけるシリコン部材51や凹部50の構成は、
図1を用いて説明した例と同様である。
以下、
図3を参照しながら、当該成膜法を実施するための成膜装置1の構成例について説明する。
【0014】
図1は、本例の成膜装置1の縦断側面図である。この成膜装置1は、ウエハWの表面にTiCl
4ガス、H
2ガス及びアルゴン(Ar)ガスを連続的に供給し、プラズマCVD法によりTi膜61を成膜する装置として構成されている。
成膜装置1は、塩素に対する耐食性を備え、接地されたる金属製の略円筒状の処理容器10を備えている。処理容器10の底面の中央部には下方に向けて突出する例えば円筒状の排気室11が形成され、排気室11の側面には、排気路12が接続されている。
前記排気路12には、例えばバタフライバルブからなる圧力調整バルブを含む真空排気部13が接続され、予め設定された真空圧力まで処理容器10内を減圧できるように構成されている。この処理容器10内の空間にてウエハWの処理が行われる。
【0015】
処理容器10の側面には、図示しない真空搬送室との間でウエハWの搬入出を行うための搬入出口14が形成されている。この搬入出口14はゲートバルブ15により開閉自在に構成されている。さらに処理容器10を構成する壁部内には、処理容器10内の温度を調節するためのヒータ16が埋設されている。
【0016】
また処理容器10内にはウエハWを略水平に保持するための載置台2が設けられている。載置台2は、排気室11の底部から伸びる支持部21によって支持されている。載置台2には加熱部であるヒータ20が埋設され、ウエハWを設定温度に加熱することができる。本例では、ウエハWの加熱温度は、400~800℃の範囲内の例えば500℃に設定されている。
【0017】
また載置台2には、整合器22を介して、イオンの引き込み用の高周波電力を供給する高周波電源23が接続されている。さらに載置台2には、載置台2上のウエハWを保持して昇降させるための図示しない昇降ピンが設けられている。昇降ピンの昇降により載置台2と外部の図示しない搬送機構との間でウエハWの受け渡しを行うことができる。
【0018】
また処理容器10の天井面には、ウエハWに向けて基板処理ガスを供給するための扁平な円盤状のシャワーヘッド3が設けられている。シャワーヘッド3は、絶縁部材17を介して処理容器10に取り付けられている。
シャワーヘッド3の内部には、ガスを拡散させるための拡散室31が形成されている。またシャワーヘッド3の底面には、ウエハWに向けてガスを吐出する多数の吐出孔32が分散して設けられている。さらにシャワーヘッド3の面側にはヒータ36が埋設されている。
【0019】
上述のシャワーヘッド3には、整合器33を介して、プラズマ形成用の高周波電力を供給する高周波電源34が接続されている。即ち、本開示の成膜装置1は、上部電極をなすシャワーヘッド3と、下部電極をなす載置台2とにより平行平板型のプラズマ処理装置を構成している。これらシャワーヘッド3と載置台2との間の空間にウエハWを載置し、TiCl4ガスやH2ガスなどを供給して高周波電力を印加することにより、これらのガスが電離してプラズマが形成される。
高周波電源34は、450KHz、13.56MHz、915MHzまたは2.45GHzのいずれの周波数の高周波電力を供給するように構成してもよい。また、高周波電源34からは、0Wより大きく、2000W以下の範囲内の高周波電力が供給される。
【0020】
さらに本例の高周波電源34には、給電制御部35が設けられている。給電制御部35は、予め設定した周期での高周波電力のオン/オフの切り替えを制御する機能と、前記オン/オフの切り替えを行いながら、前記平行平板への高周波電力の印加と、当該高周波電力の印加の停止とが交互に実行されるように制御する機能と、を備える。これら高周波電力の制御の内容については、
図4を参照しながら後ほど説明する。高周波電源34、給電制御部35は、本実施の形態の高周波電力供給部に相当する。
【0021】
またシャワーヘッド3の拡散室31には、ガス供給路40の下流側端部が接続されている。このガス供給路40の上流側には、チタン原料ガスであるTiCl4ガスの供給用流路であるTiCl4ガス供給管41、プラズマ発生用に添加されるArガスの供給用流路であるArガス供給管42、及び、反応ガスであるH2ガスの供給用流路であるH2ガス供給管43が合流している。
【0022】
TiCl4ガス供給管41の上流側端部には、TiCl4ガス供給源410が接続され、上流側から順に流量調節部M41、バルブV41が介設されている(原料ガス供給部)。またArガス供給管42の上流側端部には、Arガス供給源420が接続され、上流側から順に流量調節部M42、バルブV42が介設されている。さらにH2ガス供給管43の上流側端部には、H2ガス供給源430が接続され、上流側から順に流量調節部M43、バルブV43が介設されている(反応ガス供給部)。
これらTiCl4ガス、H2ガス及びArガスの混合ガス(以下、「成膜ガス」ともいう)は、ガス供給路40を介してシャワーヘッド3の拡散室31に流れ込み、吐出孔32を通って処理容器10内に供給される。
【0023】
上述の構成を備えた成膜装置1は、
図3に示すように制御部100を備えている。制御部100は、プログラムを記憶した記憶部、メモリ、CPUを含むコンピュータにより構成される。プログラムは、制御部100から成膜装置1の各部に向けて制御信号を出力し、各ガスの給断や高周波電力の供給制を行うことにより、Ti膜61の成膜処理を実行するように命令(ステップ)が組まれている。プログラムは、コンピュータの記憶部、例えばフレキシブルディスク、コンパクトディスク、ハードディスク、MO(光磁気ディスク)、不揮発性メモリなどに格納され、この記憶部から読み出されて制御部100にインストールされる。
【0024】
図4は、上述の成膜装置1を用いて実施される成膜処理に関わるタイムチャートの例である。このタイムチャートには、処理容器10への成膜ガスの給断タイミング、及び高周波電源34からの高周波電力(
図4中には「RF」と記載)の印加タイミングを模式的に示してある。
このタイムチャートによれば、成膜ガスは、予め設定された流量にて、所定の期間、連続的に供給される。
【0025】
一方、シャワーヘッド3(上部電極)を介して供給される高周波電力は、前記成膜ガスの供給期間中の所定のタイミングに限定して、成膜ガスが供給されている空間へと印加される。
詳細には、高周波電力を印加して、TiCl4ガスを含む成膜ガスをプラズマ化する期間と、当該高周波電力の印加を停止する期間とが交互に設定されている。さらに高周波電力を印加する期間においても、高周波電力の「オン(高周波電力の印加)」と「オフ(高周波電力の印加停止)」とが短時間に交互に繰り返される。
【0026】
高周波のオン/オフの周期は、40マイクロ秒~100ミリ秒の範囲内の期間、例えば100マイクロ秒を例示することができる。この期間中における高周波がオンの期間の割合は、20.0~99.9%の範囲内の例えば20%(オン:20マイクロ秒、オフ80マイクロ秒)を例示できる。
【0027】
なお、高周波電力の周期は、450kHzの場合に2.22マイクロ秒、13.56MHzの場合に73.7ナノ秒、915MHzの場合に1.06ナノ秒、また2.45GHzの場合に0.4ナノ秒である。従って、「オン」の期間においては、いずれの周波数であっても、各周期よりも十分に長い期間、高周波電力が成膜ガスに印加される。
【0028】
上記のオン/オフを繰り返しながら高周波電力を印加する期間と、高周波電力の印加を停止する期間とは、各々、2秒以上、20秒以下の範囲内で設定される。ここでは、高周波電力を印加する期間は5秒、印加を停止する期間は5秒と設定する場合を例示できる。
【0029】
前記期間設定により、高周波電力を印加する期間においては、オン/オフが複数周期、実施される。なお、
図4は、高周波電力のオン/オフが実行される様子を模式的に示したものであり、実際のオン/オフの実施回数を示したものではない。また高周波電力の印加を停止する期間については、上記時間設定により、高周波電力のオン/オフの1周期よりも長い印加停止時間が確保される。これにより、高周波電力の供給期間における「オフ」の時間と、高周波電力の印加停止時間とを明確に区別することができる。
例えば、0.1~150nmの範囲内の10nmの膜厚を有するTi膜61を形成する場合には、高周波電力を印加/停止は、10~80サイクルの範囲の40サイクル程度、実施される。
【0030】
ここで、オン/オフを繰り返しながら高周波電力の供給を行う理由は、プラズマ生成時における成膜ガスの電離を調節するためである。高周波電力の連続的に印加しないことにより、反応性の高いTiCl2ラジカル7aの形成を抑え、より反応性が穏やかなTiCl3ラジカル7bの形成を促している。
また、高周波電力の印加を停止する期間を設けている理由は、電離していない成膜ガスが凹部50内へ進入する期間を確保する趣旨である。
【0031】
成膜ガスの給断制御、高周波電力の印加タイミング制御は、制御部100や給電制御部35により制御され、
図4に示すタイムチャートが実行される。
即ち、制御部100は、バルブV41、V42、V43の開閉制御を行い、各ガスの給断を実行すると共に、各流量調節部M41、M42、M43の流量設定を行う。また、制御部100は、給電制御部35に対して高周波のオン/オフの周期やオンの期間の割合、高周波電力を印加する期間、停止する期間の設定を行う。
【0032】
<成膜方法>
以上に説明した構成を備える成膜装置1の作用について説明する。
初めに、ゲートバルブ15を開き、不図示の真空搬送室内に設けられた搬送機構により、搬入出口14を介してウエハWを搬入する。搬入されたウエハWは、不図示の昇降ピンを介して搬送機構から載置台2に受け渡され、当該載置台2の上面に載置される。次いで処理容器10内から搬送機構を退避させ、ゲートバルブ15を閉じたら、真空排気部13により処理容器10内の真空排気を実施し、処理容器10内を予め設定された圧力に調節する。また、ヒータ20によりウエハWを既述の500℃に加熱する(基板を加熱する工程)。
【0033】
しかる後、
図4に示す時刻T
0にて、成膜ガスの供給を開始する(チタン原料ガスを供給する工程)。その後、高周波電力の印加停止期間として設定された時間(例えば5秒間)の経過を待ち、時刻T
1にて高周波電力の印加を開始する。高周波電力の印加期間は、既述のようにオン/オフを繰り返し(例えばオン;20マイクロ秒間、オフ;80マイクロ秒)、予め設定した時間(例えば5秒間)の高周波電力印加を行う。そして、これら高周波電力の印加/停止を所定サイクル繰り返す(例えば40サイクル)。このとき、高周波電源34から供給可能な既述の電力範囲(0Wより大きく、2000W以下)のうち、比較的低い電力を供給することが好ましい。好適例を挙げると、100~500Wの範囲内の300Wの高周波電力を印加する場合を例示できる。
【0034】
上述の動作により、
図2に模式的に示すように、反応性が穏やかなTiCl
3ラジカル7bが豊富に形成された雰囲気下にてTi膜61の成膜が行われる。なお、成膜ガスに含まれるArガスは、プラズマの形成を阻害しない一方、H
2ガスとは異なりTiCl
4ガスとの反応性は低いので、成膜ガスの反応性を穏やかにする希釈効果を呈する。
これらの作用により、
図1を用いて説明した比較形態のように、凹部50の開口部付近に集中してTi膜61aが形成される、不均一な成膜処理の進行を抑えることができると理解できる。
【0035】
また、高周波電力の印加を停止する期間を設けていることにより、プラズマ形成前の成膜ガスが、凹部50に進入する時間が確保される。その後、高周波電力の印加により、凹部50の内部を含む、平行平板(シャワーヘッド3-載置台2)間でプラズマが形成される。この作用により、凹部50内の深い位置にある側壁面や底面にもTiCl3ラジカル7bが供給され、これらの領域にもTi膜61を形成することができるといえる。
【0036】
こうして予め設定された回数、高周波電力の印加/停止のサイクルを実行し、予め設定された膜厚のTi膜61が形成する(Ti膜61を形成する工程)る。次いで、高周波電力印加を終了すると共に、成膜ガスの供給、ウエハWの加熱を停止する。その後、搬入時とは反対の手順でウエハWを処理容器10から搬出し、次のウエハWの搬入を待つ。
【0037】
ここでシリコン部材51の露出面に沿って形成されたTi膜61においては、時間の経過に従ってシリコン部材51側からシリコン原子が拡散し、やがてチタンシリサイド(TiSi)膜となる。
【0038】
以上に説明した実施の形態によれば以下の効果がある。高周波電力の印加を停止する期間を設けることにより、成膜ガスが、凹部50に進入する時間を確保し、さらに高周波電力のオン/オフを繰り返して反応性が穏やかなTiCl3ラジカル7bを豊富に形成する。これらにより、ウエハWに形成されたアスペクト比が25以上の凹部50内に均一な膜厚のTi膜61を形成することができる。
【0039】
<他の実施形態>
ここで
図3、
図4を用いて説明した成膜装置1、高周波電力の印加手法を用いてTi膜61を形成する対象は、シリコン部材51に凹部50を形成した
図2に示す構成に限定されない。例えば、
図5(a)、(b)に示すように、シリコン部材51を覆うケイ素酸化物の膜(SiO膜52)に対して凹部50を形成した構成であってもよい。なお、
図5において、
図1、
図2に示したものと共通の構成要素に対しては、これらの図に示したものと同じ符号を付してある。また、
図5においはて記載を省略しているが、当該図に示す凹部50についても、そのアスペクト比は25以上となっている。
【0040】
ここで、TiCl
4ガスは、チタンをエッチングする作用も持っている。一方でシリコン部材51と比較してSiO膜52は、ケイ素と酸素との結合が強く、その表面に形成されるTi膜61との結合は相対的に弱い。このため、シリコン部材51が露出している面(
図5に示す例では凹部50の底面)と比較して、TiCl
4ガスによるエッチングが進行しやすい。
【0041】
このようなSiO膜52が露出している凹部50にて、
図4を用いて説明したタイムチャートに基づく成膜処理を実行する。このとき、高周波電力をオンとしている期間(
図5(a)に「RFオン」と表示)には、TiCl
3ラジカル7bなどによる凹部50の底面(シリコン部材51が露出)及び側壁面(SiO膜52が露出)へのチタンの析出が進行する。
【0042】
一方、高周波電力をオフとしている期間(
図5(b)に「RFオフ」と表示)には、Tiとの結合が弱い側壁面にて、TiCl
4分子と析出後のTiとが反応する。この結果、新たにTiCl
Xが形成され、SiO膜52の表面に析出したTiのエッチングが進行する。
これらの作用により、凹部50の側壁面側にはTi膜61bは殆ど形成されない一方、シリコン部材51が露出する凹部50の底面側のみにTi膜61bを形成することができる。
【0043】
また本開示の成膜装置1、高周波電力の印加手法を用いてTi膜61を形成する対象のデバイスは、パワーデバイスの例に限定されず、集積回路用のデバイスであってもよい。この場合においても、本開示の技術は、アスペクト比が25以上の凹部50内にTi膜61を形成する場合に好適である。ここで集積回路用のデバイスの場合には、凹部50の幅寸法Wは、10.0nm~5.0μmの範囲内であり、深さ寸法は0.25~125μmの範囲内である場合を例示できる。なお、左記の深さ寸法の範囲は、幅寸法Wが10.0nm~5.0μmの場合に、アスペクト比が25となる最低限度の範囲であり、これ以上、深い凹部50を形成してもよい。また、TiN膜61の膜厚は、例えば0.1~150nmの範囲内である。
【0044】
さらに、本開示の手法を用いてTi膜61の成膜が行われる対象の凹部50は、
図2や
図5(a)、(b)に例示したように、ウエハWの板面と交差する上下方向に延びるように形成されているものに限定されない。例えば、ウエハWの表面に縦溝が形成され、さらに当該縦溝の側壁面に対し、ウエハWの厚さ方向に向けて並ぶように複数の横溝が形成される場合がある。これらの横溝を凹部として、当該凹部内にTi膜61の成膜を行ってもよい。
また、凹部50が形成される部材についてもシリコン部材51に限定されるものではなく、他の金属や金属化合物であってもよい。
【0045】
このほか、チタン原料ガスは、TiCl4ガスの例に限定されず、チタン原子を含む他のガスであってもよい。他のガスとしては、有機チタンであるTDMAT(テトラキスジメチルアミノチタニウム)、TDEAT(テトラキスジエチルアミノチタン)を用いてもよい。さらにチタン原料ガスと共に反応ガス(既述の例ではH2ガス)を供給することは必須の要件ではない。例えばチタン原料ガスとArガスとの混合ガスを成膜ガスとして処理容器10内に供給してもよい。この場合にも、既述の手法により印加された高周波電力により、成膜ガスをプラズマ化して、凹部50内にTi膜61を形成することができる。
【0046】
今回開示された実施形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【実施例0047】
(実験1)
図2~
図4を用いて説明した実施形態に対応させてTi膜61の成膜を行い、凹部50内におけるTi膜61の形成状況を確認した。
A.実験条件
シリコン製のウエハWの表面に、幅寸法(直径)Wが0.2μm、深さ寸法Hが10μm(アスペクト比50)の円孔状の凹部50を多数形成した。このウエハWに対し、
図3を用いて説明した成膜装置1を用い、
図4を用いて説明したタイムチャートに基づいて高周波電力を印加してTi膜61の成膜を行った。
【0048】
TiCl4ガスの供給流量は18sccm、Arガスの供給流量は、1600sccm、H2ガスの供給流量は4000sccmであり、処理容器10内の圧力は0.67kPa(5Torr)、ウエハWの加熱温度は500℃に設定した。高周波電力の供給に関し、高周波のオン/オフの周期は100マイクロ秒(オン:20マイクロ秒、オフ80マイクロ秒)、高周波電力の印加する期間は5秒、印加を停止する期間は5秒と設定した。高周波電力の印加/停止は40サイクル行いTi膜61を成膜した。
【0049】
B.実験結果
Ti膜61の成膜処理後のウエハWについて、凹部50の形成領域をSEM(Scanning Electron Microscope)を用いて拡大・撮影した電子顕微鏡写真を
図6に示す。
図6(a)は、凹部50全体の写真、
図6(b)、(c)は凹部50のトップ領域またはボトム領域の一部拡大写真である。
図6(a)~(c)において、凹部50の側壁面及び底面に沿って形成された白色領域がTi膜61に相当する。
【0050】
図6(a)~(c)によれば、
図1を用いて説明した凹部50の開口部付近に集中したTi膜61の形成は観察されなかった。そして、凹部50のトップ領域から、ボトム領域に亘って、ほぼ均一な膜厚のTi膜61が形成されていることが確認できる。従って、本開示に係る技術は、アスペクト比が25以上の凹部50内に均一なTi膜61を形成する手法として好適な手法であると評価することができる。
【0051】
W ウエハ
1 成膜装置
10 処理容器
2 載置台
34 高周波電源
410 TiCl4ガス供給源
61 Ti膜