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2023-55415紫外線光源、オゾン発生装置、紫外線の放射方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055415
(43)【公開日】2023-04-18
(54)【発明の名称】紫外線光源、オゾン発生装置、紫外線の放射方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/14 20060101AFI20230411BHJP
   H01J 65/00 20060101ALI20230411BHJP
   H01J 63/04 20060101ALI20230411BHJP
   H01J 61/44 20060101ALI20230411BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20230411BHJP
   C01B 13/10 20060101ALI20230411BHJP
   H01L 33/28 20100101ALI20230411BHJP
   C09K 11/55 20060101ALI20230411BHJP
   C09K 11/02 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
H05B33/14 Z
H01J65/00 D
H01J63/04
H01J61/44 Z
H05B33/02
C01B13/10 Z
H01L33/28
C09K11/55
C09K11/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】27
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021164777
(22)【出願日】2021-10-06
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】501241645
【氏名又は名称】学校法人 工学院大学
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】000128496
【氏名又は名称】株式会社オーク製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】尾沼 猛儀
(72)【発明者】
【氏名】藤田 静雄
(72)【発明者】
【氏名】金子 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】小川 広太郎
(72)【発明者】
【氏名】矢島 英樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 剛
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 和泉
【テーマコード(参考)】
3K107
4G042
4H001
5C043
5F241
【Fターム(参考)】
3K107AA07
3K107AA09
3K107BB02
3K107CC07
3K107DD12
3K107DD13
3K107DD14
3K107DD16
3K107DD17
3K107DD33
3K107DD34
3K107DD44
3K107DD54
3K107FF13
4G042CA03
4G042CB29
4H001CA02
4H001XA08
4H001XA12
4H001XA30
5C043AA20
5C043BB01
5C043CC16
5C043DD28
5C043EB01
5C043EC14
5F241CA06
5F241CA12
5F241CA41
5F241CA93
5F241FF16
(57)【要約】
【課題】深紫外線を放射可能な半導体発光素子に基づいて、従来の紫外線ランプと代替可能、または同等の発光効率を実現可能な固体光源を提供する。
【解決手段】紫外線光源100は、基体30上に、岩塩構造の酸化マグネシウム亜鉛を主成分とする発光層20を形成した半導体発光素子を備え、発光層20の表面20Sに、櫛状の電極部10’A、10’Bを対向配置させた電極を配設する。交流電圧を印加することにより、発光層20ではドリフトが生じ、母材となる岩塩構造の酸化マグネシウム亜鉛が発光中心となって紫外線が放射する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
岩塩構造の酸化マグネシウム亜鉛を主成分とする発光層を形成した半導体発光素子を備え、
前記半導体発光素子に対する交流電界の印加によって、真空紫外線または深紫外線の波長域でピーク波長をもつ紫外線が、前記発光層から放射することを特徴とする紫外線光源。
【請求項2】
前記発光層上に配置される電極をさらに備え、
紫外線が、前記発光層の表面全体から放射することを特徴とする請求項1に記載の紫外線光源。
【請求項3】
前記電極が、前記発光層に対してMIS型構造をもつ電極によって構成されることを特徴とする請求項2に記載の紫外線光源。
【請求項4】
前記電極が、前記発光層に対してMIS型構造をもつ電極と、前記発光層に対してオーミック接合する電極とによって構成されることを特徴とする請求項2に記載の紫外線光源。
【請求項5】
前記電極が、前記発光層に対してショットキー接合する電極と、前記発光層に対してオーミック接合する電極とによって構成されることを特徴とする請求項2に記載の紫外線光源。
【請求項6】
前記電極が、前記発光層に対してショットキー接合する電極によって構成されることを特徴とする請求項2に記載の紫外線光源。
【請求項7】
前記電極が、互いに向かい合って電極部分が交互に並ぶ櫛型電極で構成されることを特徴とする請求項2乃至6のいずれかに記載の紫外線光源。
【請求項8】
前記発光層が、岩塩構造の酸化マグネシウム(RS-MgO)と岩塩構造の酸化亜鉛(RS-MgZ)とを混晶化した結晶構造であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の紫外線光源。
【請求項9】
前記発光層が、酸化マグネシウム(MgO)、石英ガラス、スズ添加酸化インジウム(ITO)またはポリイミド膜から成る基体上に、薄膜状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の紫外線光源。
【請求項10】
160~240nmの波長域でピーク波長をもつ紫外線を放射することを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の紫外線光源。
【請求項11】
岩塩構造の酸化マグネシウム亜鉛を主成分とする発光層を形成した半導体発光素子と、
放電空間に希ガスまたは希ガスを含む混合ガス以外の放電ガスが封入された放電容器と、
前記放電空間に放電を生じさせるように配置された電極とを備え、
誘電体バリア放電または沿面放電が前記放電空間に生じることによって、真空紫外線または深紫外線の波長域でピーク波長をもつ紫外線が、前記発光層から放射することを特徴とする紫外線光源。
【請求項12】
前記放電用電極が、絶縁体である前記放電容器の外側あるいは容器内壁に配置された外側電極を備え、
前記放電空間に生じる誘電体バリア放電によって、紫外線が前記発光層から放射することを特徴とする請求項11に記載の紫外線光源。
【請求項13】
前記放電容器が、放電管によって構成され、
前記発光層が、前記放電管の内面上に管軸に沿って形成されていることを特徴とする請求項12に記載の紫外線光源。
【請求項14】
前記放電容器が、箱型であって、紫外線を透過する面状の窓を上部に備え、
前記窓を通じて面発光することを特徴とする請求項12に記載の紫外線光源。
【請求項15】
前記発光層が、前記窓の背面側に設けられていることを特徴とする請求項13に記載の紫外線光源。
【請求項16】
前記発光層が、前記放電空間内で前記窓と対向するように設けられることを特徴とする請求項13に記載の紫外線光源。
【請求項17】
前記放電容器が、箱型であって、紫外線を透過する面状の窓を上部に備え、
前記発光層が、前記放電空間内で前記窓と対向するように設けられ、
前記放電空間に生じる沿面放電によって、紫外線が前記発光層から放射し、前記窓を通じて面発光することを特徴とする請求項11に記載の紫外線光源。
【請求項18】
前記窓が、フッ化マグネシウム(MgF)またはOH基含有量が1ppm以下である合成石英ガラスから成ることを特徴とする請求項14乃至17のいずれかに記載の紫外線光源。
【請求項19】
前記放電ガスが、希ガスまたは希ガスを含む混合ガスから成ることを特徴とする請求項11乃至18のいずれかに記載の紫外線光源。
【請求項20】
前記発光層が、160~200nmの範囲でピーク波長をもつ紫外線をバンド端発光することを特徴とする請求項11乃至19のいずれかに記載の紫外線光源。
【請求項21】
前記発光層が、200~240nmの範囲でピーク波長をもつ紫外線をバンド端発光することを特徴とする請求項11乃至20のいずれかに記載の紫外線光源。
【請求項22】
前記発光層が、190~210nmの範囲でピーク波長をもつ紫外線をバンド端発光することを特徴とする請求項11乃至20のいずれかに記載の紫外線光源。
【請求項23】
前記放電ガスおよび前記発光層による紫外線の波長域以外の波長域の光を遮断する紫外線カットフィルタが、前記放電容器に設けられていないことを特徴とする請求項11乃至22のいずれかに記載の紫外線光源。
【請求項24】
請求項11乃至23のいずれかに記載の紫外線光源を備えたことを特徴とするオゾン発生装置。
【請求項25】
岩塩構造の酸化マグネシウム亜鉛を主成分とする発光層を形成した半導体発光素子に対し、電極を前記発光層上に配置し、
前記電極に対して交流電圧を印加することによって、真空紫外線または深紫外線の波長域でピーク波長をもつ紫外線を、前記発光層から放射させることを特徴とする紫外線の放射方法。
【請求項26】
岩塩構造の酸化マグネシウム亜鉛を主成分とする発光層を形成した半導体発光素子を、希ガスまたは希ガスを含む混合ガスを放電ガスとして放電容器内に封入し、
前記放電空間に放電を生じさせるように電極を配置し、
誘電体バリア放電または沿面放電を前記放電空間に生じさせることによって、真空紫外線または深紫外線の波長域でピーク波長をもつ紫外線を、前記発光層から放射させることを特徴とする紫外線の放射方法。
【請求項27】
前記発光層から、紫外線を面発光させることを特徴とする請求項25または26に記載の紫外線の放射方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線を放射する光源に関し、特に、真空深紫外線、深紫外線を放射可能な紫外線光源に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線を放射する光源として、水銀ランプ、エキシマランプが知られている。そこでは、水銀や希ガスなどの放電ガスが封入された放電容器に電極を配置し、電圧を印加することによって放電を生じさせる。放電によって放射される紫外線のピーク波長は、放電ガスの種類などに従い、用途に応じて使用される紫外線の波長域が異なる。
【0003】
例えば、水銀ランプから得られる波長254nmの紫外線は、細菌を破壊するため殺菌灯として用いられている。また、波長207~222nmの紫外線を放射するエキシマランプは、人体への影響を抑えながらウィルスを殺菌可能であると報告されている。さらに、深紫外線よりも波長の短い(200nm以下)真空紫外線(例えば、172nm)は、酸化力のあるオゾンを効果的に発生させることができる。
【0004】
このような深紫外線、真空紫外線を放射する水銀ランプ、エキシマランプは、除菌などを目的として直接紫外線を照射するUV光源や半導体製造工程におけるリソグラフィー光源として利用可能である。また、オゾン発生によって除菌、消臭などを行うオゾン発生装置の光源として有効である。
【0005】
しかしながら、水銀を使用する水銀ランプは、環境規制などの問題を抱えている。そのため、水銀などを使用せずに、真空紫外線あるいは深紫外線を発光可能な固体光源の実現が、近年求められている。
【0006】
固体光源として、紫外線を放射する半導体発光素子(光半導体)の研究開発が進められており、その中に、岩塩構造の酸化マグネシウム亜鉛を主成分とする発光層を形成した半導体材料が知られている(特許文献1参照)。
【0007】
岩塩構造の酸化マグネシウム亜鉛は、MgとZnの組成比に応じてバンドキャップが変化し、真空紫外線(VUV)の波長域あるいは深紫外線(DUV)波長域でピーク波長をもつ紫外線を放射することが、電子線励起によって確認されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2017-204642号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】学校法人工学院大学、“尾沼猛儀教授(応用物理学科)と京都大学が共同研究し、波長200nm以下の深紫外線が発光可能な新しい半導体材料を開発”、[online]、令和2年3月26日、学校法人工学院大学ホームページ News お知らせ、[令和3年10月6日検索]、インターネット<URL: https://www.kogakuin.ac.jp/news/2019/2020032692.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
真空紫外線、深紫外線を放射可能な半導体発光素子に基づいて、従来の紫外線ランプと代替可能、または同等の放射効率(発光効率)を実現可能な固体光源を提供することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、半導体発光素子をベースにした紫外線光源であって、半導体発光素子に対し、交流電界の印加、もしくは誘電体バリア放電又は沿面放電を生じさせることで、従来の紫外線ランプとは相違する固体光源の構成を、新たに導き出している。これは、半導体発光素子の研究開発において当業者が従来認識していなかった(あるいは否定的だった)技術的事項、技術的方向性に着目した結果によるものである。
【0012】
まず、本発明の一態様である紫外線光源は、岩塩構造の酸化マグネシウム亜鉛を主成分とする発光層を形成した半導体発光素子を備える。そして、半導体発光素子に対する交流電界の印加によって、真空紫外線または深紫外線の波長域でピーク波長をもつ紫外線が、発光層から放射する。ここで「主成分」とは、発光層20におけるMgとZnの組成比(原子比)に関し、上述した酸化マグネシウム亜鉛において酸化亜鉛(MgO)が50%以上含まれることをいう。岩塩構造の酸化マグネシウム亜鉛は、酸化マグネシウム(MgO)が70%以上、90%以上含まれるようにすることが可能であり、ここでは100%の場合も含まれるものとする。
【0013】
本発明では、既存の発光ダイオード(LED)のように、キャリアの再結合によって発光させるのではなく、交流電界の印加によってドリフトを生じさせ、半導体発光素子における発光中心に対し、ドリフトにより得られたキャリアのエネルギーを移行させる(キャリアを衝突させる)。これにより、発光層から紫外線が放射する。
【0014】
岩塩構造の酸化マグネシウム亜鉛(RS-MgxZn1-xO:x=モル分率)は、他の半導体と比べてバンドキャップが大きく、岩塩構造は立方晶であるため対称性が高く発光効率が高い。また、MgとZnとの組成比を調整させることで、バンドギャップを変化させる、すなわちピーク波長を含めた紫外線の波長域を調整することが可能である。結晶構造としては、単結晶、多結晶、アモルファスいずれの結晶構造を採用することも可能であり、微粒子状であってもよい。
【0015】
岩塩構造の酸化マグネシウム亜鉛(RS-MgxZn1-xO)のMgとZnの組成比は、その結晶構造によって異なり、また、製造過程において調整可能である。例えば、岩塩構造の酸化マグネシウム(RS-MgO)と岩塩構造の酸化亜鉛(RS-ZnO)を混晶化した結晶構造をもつ半導体発光素子を構成することが可能である。また、MgとZnの組成比を調整することにより、混晶組成比に応じたピーク波長をもつバンド端発光を実現させることも可能である。
【0016】
また、岩塩構造の酸化マグネシウム亜鉛(RS-MgxZn1-xO)の場合、真空紫外線波長域における160nm~200nmの波長域でピーク波長をもつ紫外線、また、深紫外線波長域における200nm~240nmでピーク波長をもつ紫外線を発光することができる。さらに、真空紫外線と深紫外線の波長域に跨る190nm~210nmの波長域でピーク波長をもつ紫外線を放射させることも可能である。このように、岩塩構造の酸化マグネシウム亜鉛(RS-MgxZn1-xO)は、160nm~240nmの範囲でピーク波長をもつ紫外線を発光可能であり、室温に近い絶対温度においても実現可能である。
【0017】
岩塩構造の酸化マグネシウム亜鉛(RS-MgxZn1-xO)を主成分とする発光層を備えた半導体発光素子の製造方法としては、様々な製造方法を採用することができる。例えば、ミストCVD法によって、基体(結晶成長用基板)上に薄膜状の発光層を形成した半導体発光素子を製造することができる。あるいは、組成比の異なる岩塩構造の酸化マグネシウム亜鉛を重ねた量子井戸構造を構成することも可能である。
【0018】
ミストCVD法などによって薄膜状の半導体発光素子を製造する場合、前駆体溶液のモル濃度比を調整してMgとZnの組成比を調整することが可能である。基体としては、例えば、酸化マグネシウム(MgO)、石英ガラス、スズ添加酸化インジウム(ITO)またはポリイミド膜から成る基体を構成することが可能である。
【0019】
薄膜状の発光層を形成した半導体発光素子の場合、発光層における発光中心は、母材、すなわち岩塩構造の酸化マグネシウム亜鉛そのものに該当する。そのため、半導体発光素子を横型デバイスとして構成することによって、面発光するデバイス構成を採用することが可能である。また、発光中心となる母材そのものが発光層表面に沿って全体的に存在することで、発光面エリアを拡大することができる。このような構成により、電極による紫外線吸収を抑制しながら、発光(光取り出し)効率を向上させることができる。
【0020】
例えば、半導体発光素子の構成として、発光層上に交流電圧駆動する電極を配置し、電極間で交流電圧を印加する構成にすることが可能である。電極配置は様々な構成を採用することができる。例えば、一対のプレート電極を、発光層上において対向配置させることが可能である。また、電極部分が互い違いに交互に並ぶ櫛形電極で構成することが可能である。
【0021】
交流電圧を印加する電極は、発光層に対し直接接合(接触)させて配置してもよく、あるいは絶縁体(誘電体)を介在させて配置してもよい。交流電界の印加によって整流作用が機能し、発光層においてドリフトが生じるような電極構造が採用可能である。
【0022】
例えば、MIS型構造をもつ電極を隣り合わせた電極配置にすることができる。あるいは、MIS型構造をもつ電極と、オーミック接合(接触)する電極が隣り合うように電極配置することも可能である。
【0023】
また、発光層に対してショットキー接合(接触)する電極と、発光層に対してオーミック接合(接触)する電極とを隣り合うように電極配置することも可能であり、さらには、発光層に対してショットキー接合(接触)する電極を隣り合わせるように配置することも可能である。
【0024】
次に、本発明の他の一態様である紫外線光源は、上述した半導体発光素子を用いながら放電ガスを利用したオゾン発生装置の光源などに適用可能な紫外線光源であり、上述した紫外線光源と技術的に関連する。
【0025】
その本発明の他の一態様の紫外線光源は、岩塩構造の酸化マグネシウム亜鉛を主成分とする発光層を形成した半導体発光素子と、放電ガスが封入される放電空間を形成する放電容器と、放電空間に放電を生じさせるように配置された電極とを備える。放電空間には、キセノン、アルゴン、ネオンなどの希ガスまたは希ガスを含む混合ガスが封入されている。
【0026】
本発明では、誘電体バリア放電または沿面放電が放電空間に生じることによって、真空紫外線または深紫外線の波長域でピーク波長をもつ紫外線が、発光層から放射する。例えば、誘電体バリア放電の場合、放電用電極が、絶縁体である放電容器の外側あるいは容器内壁に配置された外側電極として構成可能である。
【0027】
誘電体バリア放電では、電極間に電圧印加することにより、絶縁体を間に挟んで極細の線状で寿命が短時間(数十n秒程度)の放電プラズマが放電容器内に多数発生する。その結果、希ガスがプラズマ励起され、紫外線が放電容器内で放射されることになる。そして、岩塩構造の酸化マグネシウム亜鉛を主成分とする発光層に対し、放電ガスに起因する紫外線が照射することで、紫外線による光励起によって発光層から紫外線が放射する。
【0028】
放電容器の形状および発光層の配置関係を考慮した紫外線光源を構成することにより、発光層全体から紫外線を放射させることができる。例えば、放電容器を管状に構成し、発光層が、放電管の内面上に管軸に沿って形成された構成にすることが可能である。
【0029】
あるいは、面発光可能な箱型(コンテナ形状、パネル形状を含む)の放電容器を設け、紫外線を透過する面状の窓を上部に備えるようにしてもよい。ここでの「箱型」は、直方体形状、立方体形状、薄板状に限定されず、フラットな発光面を形成するように放電空間が形成可能な3次元形状であればよい。
【0030】
箱型の放電容器の場合、発光層は、発光層を窓の背面側に設ける構成にすることも可能である。あるいは、放電空間内で窓と対向するように容器底部側に設けることが可能である。窓の素材としては、例えばフッ化マグネシウム(MgF)から成る光学窓で構成することができる。
【0031】
一方、放電空間に生じる沿面放電によって、紫外線が発光層から放射する構成にすることも可能である。例えば、放電容器を箱型に構成し、紫外線を透過する面状の窓を上部に備えるとともに、発光層が、放電空間内で窓と対向するように設ける構成にすることができる。
【0032】
上述したように、MgとZnの組成比を変えることによってバンドキャップが変わる。すなわち紫外線の波長域を変えることができるため、使用目的、用途に応じて紫外線のピーク波長を調整することができる。また、岩塩構造の酸化マグネシウム亜鉛(RS-MgxZn1-xO)の場合、紫外線をその波長域においてバンド端発光させることが可能である。
【0033】
誘電体バリア放電によって放電ガスが励起されることで放射される紫外線は、そのガスの種類に従い、輝線に近い狭帯域の紫外線となる。したがって、放電ガスの種類を選択することで、放電ガスに起因する紫外線および発光層から発光される紫外線を同じような波長域の紫外線にすることが可能である。よって、所望する紫外線波長域以外の波長域の光をカットするフィルタを、放電容器に設けないように構成することができる。
【0034】
本発明の他の一態様である紫外線の放射方法は、岩塩構造の酸化マグネシウム亜鉛を主成分とする発光層を形成した半導体発光素子に対し、電極を発光層上に配置し、電極に対して交流電圧を印加することによって、真空紫外線または深紫外線の波長域でピーク波長をもつ紫外線を、発光層から放射させる。
【0035】
あるいは、岩塩構造の酸化マグネシウム亜鉛を主成分とする発光層を形成した半導体発光素子を、希ガスまたは希ガスを含む混合ガスが封入された放電容器内に封入し、放電空間に放電を生じさせるように電極を配置し、誘電体バリア放電または沿面放電を放電空間に生じさせることによって、真空紫外線または深紫外線の波長域でピーク波長をもつ紫外線を、発光層から放射させる。これらの紫外線の発光方法は、放電容器からの面発光を可能にする。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、深紫外線を放射可能な半導体発光素子に基づいて、従来の紫外線ランプと代替可能、または同等の発光効率を実現可能な固体光源を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】第1の実施形態である紫外線光源の模式的斜視図である。
図2図1のII-IIに沿った紫外線光源の概略的断面図である。
図3図3は、第2の実施形態である紫外線光源を上から見た模式的平面図である。
図4】第2の実施形態である紫外線光源の図3のIV-IVに沿った概略的断面図である。
図5】第2の実施形態の変形例を示した概略的断面図である。
図6】第3の実施形態である紫外線光源の概略的断面図である。
図7】第4の実施形態である紫外線光源の概略的断面図である。
図8】第5の実施形態である紫外線光源の概略的断面図である。
図9】第6の実施形態である紫外線光源の概略的断面図である。
図10】第7の実施形態である紫外線光源の概略的断面図である。
図11】第8の実施形態である紫外線光源の概略的断面図である。
図12】第9の実施形態である紫外線光源の概略的斜視図である。
図13】第9の実施形態である紫外線光源の概略的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面を参照して、本実施形態である紫外線光源について説明する。まず、図1~8を用いて、交流電界の印加によって発光する紫外線光源の実施形態について説明する。そして、図9~13を用いて、半導体発光素子および放電ガスを利用した紫外線光源の実施形態について説明する。
【0039】
図1は、第1の実施形態である紫外線光源の模式的斜視図である。図2は、図1のII-IIに沿った紫外線光源の概略的断面図である。ここでの紫外線光源は、チップ化された固体光源として構成されており、複数の紫外線光源を配置したモジュール構造にすることも可能である。
【0040】
紫外線光源100は、板状の基体(基板)30の上に発光層20を薄膜状に形成した半導体発光素子を発光体として備えた固体光源であり、発光層20の表面全体から上方に向けて面発光する横型デバイスとして構成されている。発光層20のサイズ、縦横比は任意であり、例えば、2mm×2mmの発光エリアを有する。
【0041】
発光層20は、岩塩構造の酸化マグネシウム亜鉛(RS-MgxZn1-xO:1>x>0.5)の結晶構造をもつ半導体材料から成り、MgとZnの組成比に応じたバンドキャップに応じて、真空紫外線の波長域または深紫外線の波長域にピーク波長をもつ紫外線を放射する。岩塩構造の酸化マグネシウム亜鉛は、バンドキャップが大きいため通常絶縁性となるが、不純物添加でn型半導体とすることも可能である。
【0042】
ここでの発光層20(岩塩構造の酸化マグネシウム亜鉛)は、160nm~240nmの波長域でピーク波長をもつ紫外線を放射するように構成されている。例えば発光層20は、岩塩構造の酸化マグネシウム(RS-MgO)と岩塩構造の酸化亜鉛(RS-ZnO)を混晶化させた結晶構造になっている。
【0043】
発光層20の表面20S上には、電極10が誘電体(絶縁体)12を介して横型配置されている。電極10は、その長手方向で向かい合う一対のプレート状電極10A、10Bを備え、発光層20の両縁に沿って配置された導電体14A、14Bにそれぞれ接続されている。導電体14A、14Bは、交流電源50に接続されている。
【0044】
プレート状電極10A、10Bは、同サイズのプレート状誘電体12A、12Bの上に層状に配置され、隣り合うプレート状電極10A、10Bが、ともにMIS(Metal-Insulator-Semiconductor)型構造で配置されている。以下では、このようなMIS型電極が隣り合う配置構造(Metal-Insulator-Semiconductor-Insulator-Metal)を、MIS-MIS型構造という。
【0045】
電極10は、発光層20の発光エリアサイズに応じて、そのサイズ、長手方向長さ、電極間距離を定めればよい。例えば、プレート状電極10A、10Bは、2mm×10μmであって、また、電極間距離は、数μm程度に定めることが可能である。
【0046】
電極10は、ここではショットキー接合型の金属、すなわち、半導体との接触によってショットキー障壁を生じさせるようなニッケル、プラチナ、金など仕事関数の大きな金属が適用可能である。あるいは、オーミック接合型金属、すなわち、半導体との接触によりショットキー接触を生じさせないような比較的仕事関数の小さい金属を適用することも可能である。
【0047】
交流電源50は、導電体14A、14Bを介して電極10に対し交流電圧を印加する。例えば、数kHzの周波数、数百Vの交流電圧によって駆動される。発光層20に電界が加えられることでドリフトが生じ、キャリアに対してエネルギーが付与された状態で発光中心に衝突する。その結果、紫外線光源100は、発光層20の表面20Sから紫外線を放射する。
【0048】
紫外線光源100では、母材そのもの、すなわち岩塩構造の酸化マグネシウム亜鉛が発光中心となって発光する。上述したように、薄膜状発光層20を備えた半導体発光素子として構成されているため、紫外線が発光層20の表面20Sから全体的に放射(面発光)することになる。図1では、符号Lで放射イメージを示している。
【0049】
プレート状電極10A、10Bの極性は、定められた周波数に従って交互に切り替わる(図2では、時系列的にある時点での極性を示している)。一方、MIS-MIS型構造であるプレート状電極10A、10Bには、整流作用が働き、空乏層が形成される。このときの電界発生によりキャリアにドリフトが生じる。
【0050】
電極10に対して交流電圧が印加されている間、極性の反転に応じて交互に異なる方向へ電界が発生し、プレート状電極10A、10Bに対してドリフト現象が継続することによって、紫外線の放射が維持される。
【0051】
電極10がMIS-MIS型構造であることで、逆方向への電界の発生時に漏れ電流の影響を低減することができる。また、電極10と発光層20との間に誘電体12を設ける構成であるため、電極10の素材として任意の金属を適用することが可能となる。誘電体12の素材としては、酸化シリコン、酸化ハウニウム、酸化アルミニウムなどの酸化物や他の絶縁体(誘電体)を採用することが可能である。
【0052】
電極10の配置エリアの占める割合が大きいと、電極10による紫外線吸収などによって面発光の障害となる可能性がある。そのため、発光層20の表面20Sに対して電極10の配置エリアサイズを抑えながら、発光(光取り出し)効率を高める必要がある。そこで、以下説明する櫛形電極の配置構成を採用することが可能である。
【0053】
図3、4を用いて、第2の実施形態である紫外線光源について説明する。図3は、第2の実施形態である紫外線光源を上から見た模式的平面図である。図4は、第2の実施形態である紫外線光源の図3のIV-IVに沿った概略的断面図である。
【0054】
櫛型の電極10’は、2つの櫛状の電極部10’A、10’Bから構成され、細長い電極部分が発光層20の横方向に沿って交互に並ぶように、互いに向かい合って配置されている。第1の実施形態と同様、交流電源部(図示せず)によって交流電圧が櫛状の電極部10’A、10’Bに印加される。誘電体12’が櫛形電極10’と発光層20との間に介在し、電極10’は、MIS-MIS型構造を採用している。
【0055】
櫛形電極10’に対してMIS-MIS型構造を採用することにより、高電界を印加させることができる。また、櫛形状の電極10’の場合、細長い電極部分によって紫外線吸収の影響を抑えることが可能となる。さらに、隣り合う電極間の距離が短くなることによって、印加電圧を抑えることが可能となる。すなわち、発光層20の表面20Sのエリア拡大を図る場合、比較的小さい交流電圧で駆動しながら高電界を加えて発光効率を上げることができる。例えば、電極間距離を0.5~1μmに定めることが可能となる。
【0056】
図5は、第2の実施形態の変形例を示した概略的断面図である。誘電体12’は、発光層20の表面20S全体に渡って配置されている。このような電極10’のMIS-MIS型構造により、より高電界を印加させることができる。
【0057】
図6は、第3の実施形態である紫外線光源の概略的断面図である。第3の実施形態では、MIS型ダイオード(Metal-Insulator-Semiconductor-Metal)の電極構造を採用している。第2の実施形態と同様、櫛形の電極が採用されている。
【0058】
図6に示すように、電極10’を構成する櫛状の電極部10’Aは、誘電体12’を介して発光層20に配置されている。一方、櫛状の電極部10’Bは、発光層20の表面20Sに接触配置されている。電極部10’Aは、ショットキー接合型、オーミック接合型いずれの金属も適用可能である。一方、電極部10’Bは、オーミック接合(接触)し、比較的仕事関数の小さい金属によって構成される。本実施形態では、MIS型ダイオードとして機能する電極構造を採用することで、発光面エリアの拡大を図ることができる。
【0059】
図7は、第4の実施形態である紫外線光源の概略的断面図である。第4の実施形態では、ショットキー型ダイオード(Metal(Schottky)-Semiconductor-Metal(Ohmic))の電極構造を採用している。
【0060】
電極10を構成する櫛状の電極部10’A、10’Bは、いずれも発光層20の表面20Sに接触配置されている。そして、電極部10’Aは、ショットキー接合(接触)する、すなわち、ショットキー障壁型の金属によって構成される一方、電極部10’Aは、オーミック接合(接触)している。このようなショットキーダイオードとして機能する電極構造を採用する事でも、発光面エリアの拡大を図ることができる。
【0061】
図8は、第5の実施形態である紫外線光源の概略的断面図である。第5の実施形態では、MSM(Metal(Schottky)-Semiconductor-Metal(Schottky))型ダイオードの電極構造を採用している。電極10を構成する櫛状の電極部10’A、10’Bは、発光層20の表面20Sに直接配置されるとともに、いずれもショットキー接合(接触)する。このような構成でも、発光面エリアの拡大を図ることができる。
【0062】
第1~第5の実施形態で示す薄膜状半導体発光素子の製造方法は、任意の方法を採用することが可能である。例えば、上記特許文献1に記載された従来公知のミストCVD法を適用可能である。
【0063】
ミストCVD法では、原料溶液を霧化する工程と、霧化工程によるミストをキャリアガスによって基体へ搬送する搬送工程と、ミストを基体表面で熱反応させて成膜する成膜工程とを含む。基体としては、ガラス、MgO基板、MgFなど様々な素材によって構成することが可能である。また、基体の上にバッファ層を介して成膜させてもよい。
【0064】
原料溶液は、MgおよびZnを含むのであれば限定されず、無機溶媒または有機溶媒水もしくは水、アルコール、水と酸の混合溶媒などに対し、MgまたはZnを錯体または塩の形態で溶解または分散させればよい。そして、MgとZnのイオンモル濃度比([Mg2+]/[Mg2+]+[Zn2+])が薄膜のモル分率(x)に転写されるとみなすことにより、原料溶液のMgとZnのモル濃度比を調整することで、MgとZnの組成比を所望の組成比となるように構成することができる。
【0065】
発光層20は、岩塩構造の酸化マグネシウム亜鉛(RS-MgxZn1-xO)が主成分となるように構成すればよい。すなわち、発光層20における組成比(原子比)で、酸化マグネシウム亜鉛(MgxZn1-xO)薄膜のモル分率(x)が0.5以上になるようにすればよい。好ましくは、0.7、さらには0.9以上含むようにすればよい。
【0066】
例えば、原料溶液のモル濃度比([Mg2+]/([Mg2+]+[Zn2+])をMとした場合、M≧0.9(x≧0.9)とすることによって、160~200nmの真空紫外線波長域でピーク波長をもつ紫外線を放射することが可能である(以下、真空紫外線放射という)。
【0067】
また、モル濃度比Mが、0.6≦M<0.9(0.6≦x<0.9)の場合、200~240nmの深紫外線の波長域でピーク波長をもつ紫外線を放射することが可能である(深紫外線放射という)。さらに、モル濃度比Mが、0.8≦M(0.8≦x)の場合、190~210nmという真空紫外線と深紫外線の波長域を跨る波長域でピーク波長をもつ紫外線が放射可能となる(以下、真空-深紫外線放射という)。
【0068】
上述した紫外線の放射は、常温付近の絶対温度(例えば300K)において実現可能である。また、絶対温度ゼロ度付近(例えば、6K)などにおいても、より波長の短い真空紫外線を放射させることが可能である。さらに、バンド端発光するように組成比を調整することも可能である。したがって、6K~300Kの温度範囲などを配慮した光源設備を用意することによって、所望する波長の紫外線を放射することが可能となる。
【0069】
具体的には、160nm~200nmでピーク波長をもつ紫外線を放射させるように、発光層20を形成した半導体発光素子、200nm~240nmでピーク波長をもつ紫外線を放射させるように、発光層20を形成した半導体発光素子、190nm~210nmピーク波長をもつ紫外線を放射させるように、発光層20を形成した半導体発光素子を、用途などに応じて選択的に製造することが可能である。いずれにおいても、上記波長域で半値全幅をもつ分光スペクトルの紫外線を放射させることが可能である。
【0070】
このような真空紫外線と深紫外線との両波長域において所望する紫外線スペクトルを得られる紫外線光源を製造可能であることから、様々な用途の従来ランプを代替する固体光源として利用することが可能である。また、バンド端発光によって単一のピーク波長を有する分光スペクトルの紫外線を放射可能であることから、従来ランプのように、用途に応じた特定波長以外の波長域の紫外線をカットする紫外線カットフィルタなどを設けないように構成することができる。
【0071】
例えば、真空紫外線放射の場合、殺菌、消臭作用の高いオゾンを効果的に発生させることができるため、オゾン発生装置用の紫外線光源として適用可能である。あるいは、半導体リソグラフィー工程における表面改質などにも利用可能である。さらには、重水素ランプなどが使用されているイオン化ランプにおいても、波長選択性によってイオン化を選択的に行うことができる。
【0072】
TOC(全有機体炭素測定)装置の場合、水の透過率が低い波長185nmの水銀ランプによる輝線の代わりに、185nm~200nmのピーク波長をもつ紫外線光源を適用することができる。さらに、液晶リソグラフィー光源として使用されているArFレーザの光学系検査のために使用されるArFエキシマランプ(波長193nm)の代替光源として使用可能である。
【0073】
深紫外線光源放射の場合、紫外線水処理に使用されている低圧水銀灯、中圧水銀灯、LEDなど、波長265nm~280nmを主波長として紫外線を放射する光源から代替することができる。微生物への紫外線照射による殺菌効果は、265nmよりも短波長になるにつれてより効果がある。
【0074】
一方、真空-深紫外線放射の場合、参考文献(特許第6025756号公報)などに記載されている222nmをピーク波長とする紫外線光源に対して代替可能である。タンパク質の吸収波長とDNA吸収波長との間には違いがあり、また、殺菌効果の作用スペクトルがDNAの吸収スペクトルと類似する。そして、190nm~210nmの波長域における紫外線の方が、低人体侵襲の殺菌作用が効果的に働くことが知られている。
【0075】
次に、図9~13を用いて、誘電体バリア放電または沿面放電を利用して、半導体発光素子の発光層から紫外線を放射させる紫外線光源について説明する。いずれの実施形態においても、第1~第5の実施形態で示した岩塩構造の酸化マグネシウム亜鉛を主成分とする発光層を設けている。
【0076】
図9は、第6の実施形態である紫外線光源の概略的断面図である。紫外線光源200は、管状の放電容器(以下、放電管)210を備え、放電管210内に内側電極230が同軸的に配置されている。放電管210の外表面には、外側電極240が管軸に沿って螺旋状あるいはメッシュ状に配設されている。なお、内側電極230を誘電体で覆う構成にするなど、放電管210を2重管構造にしてもよい。
【0077】
放電管210内の放電空間Sには、希ガスまたは希ガスを含む混合ガスが放電ガスとして封入されている。ここでは、真空紫外線または深紫外線を放射するように、キセノン、アルゴン、ネオン、クリプトンなどが放電ガスとして封入可能である。電源部250は、内側電極230、外側電極240と接続している。
【0078】
放電管210の内壁面には、管軸に沿って発光層220を備えた半導体発光素子が設けられている。発光層220は、第1~第5の実施形態と同様、放電管210の内壁面に設けた図示しない基体上に薄膜状に形成可能である。例えば、ミストCVD法に基づいて、従来公知の放電管製造過程で発光層220を成膜させればよい。
【0079】
内側電極230、外側電極240に対して電圧が印加されると(例えば数kHz数百V)、放電ガスがプラズマ励起し、紫外線が放射される。このとき、原料ガスに応じた波長域の紫外線が放射される。そして、放電によって生じた紫外線が発光層220に入射すると、発光層220では光励起によって紫外線が放射する。この紫外線は、母材そのもの、すなわち岩塩構造の酸化マグネシウム亜鉛(RS-MgxZn1-xO)から放射される。
【0080】
極細の放電プラズマが放電管210の管軸全体に渡って径方向に生じる誘電体バリア放電の特性により、放電ガスに起因する紫外線は、放電空間S全体に渡って放射される。その結果、発光層220全体から紫外線が放射する。
【0081】
なお、放電ガスの光励起によって生じる紫外線も、真空紫外線または深紫外線の波長域の紫外線であり、放電ガス、発光層220両方の紫外線が紫外線光源200から放射されることになる。アルゴン、クリプトンなどの希ガスによる真空紫外域の励起光については、窓材にOH基含有量が1ppm未満の合成石英ガラスを使用することによりカットすることが可能である。一方で、フッ化マグネシウムMgFなどの真空紫外線に対して透過性の高い材料を使用することにより、励起光と発光層の紫外線を同時に取り出す構造も可能である。したがって、放電ガスの種類と、放電管(窓材)の材料、発光層の紫外線波長域とを適切に調整することで、他の波長域の紫外線をカットする紫外線カットフィルタを紫外線光源200に対して設ける必要がない構成にすることができる。
【0082】
図10は、第7の実施形態である紫外線光源の概略的断面図である。第7の実施形態では、面発光光源となるように放電容器が構成されている。
【0083】
紫外線光源300は、箱型の放電容器300Bを備え、上部には紫外線を透過する光学窓380が設けられている。光学窓380は、例えばフッ化マグネシウムMgFから成る。光学窓380の背面には、発光層320を備えた半導体発光素子が設けられている。第6の実施形態と同様、ミストCVD法によって基体上に発光層320を成膜することができる。
【0084】
放電容器300Bの底部は、電極配線用基板360によって構成され、その背面側には高電圧電極390が設けられている。放電容器300Bの側面は、紫外線を透過しないフリット材(ガラスフリット)370で構成され、光学窓380および電極配線用基板360と接続している。そして、キセノン、アルゴンなどの希ガスが、放電ガスとして放電容器300B内に形成された放電空間Sに封入されている。光学窓380(放電容器300B)の上面には、外側電極340が螺旋状またはメッシュ状に配設されている。
【0085】
交流電源部350によって交流電圧が印加されると、誘電体バリア放電によって放電ガスに起因する紫外線が、放電空間Sにおいて放射される。放電空間Sに露出した発光層320は、その紫外線の光励起によって紫外線を放射する。その結果、光学窓380を通じて紫外線が面発光する。誘電体バリア放電によってプラズマ分布が放電空間Sにおいて均一になるため、均等な光による面発光を実現することができる。
【0086】
図11は、第8の実施形態である紫外線光源の概略的断面図である。紫外線光源400は、放電容器400Bを備え、上部には光学窓480が設けられ、底部には結晶成長用基板430が設けられている。放電容器400Bの底部背面側には、高電圧電極490が設けられている。結晶成長用基板430上には、膜状の発光層420が光学窓480と向かい合うように形成されている。例えば、ミストCVD法によって、発光層420を成膜することができる。
【0087】
放電容器400Bの側面を構成するフリット材470は、二酸化ケイ素材あるいはソーダライム材を介して発光層420上に配置され、光学窓480と接続している。光学窓480の上面には、外側電極440が配設されている。
【0088】
交流電源部450によって交流電圧が印加されると、誘電体バリア放電によって放電ガスに起因する紫外線が、放電空間Sにおいて放射される。放電空間Sに露出した発光層420は、その紫外線の光励起によって紫外線を放射する。その結果、光学窓480を通じて紫外線が面発光する。
【0089】
発光層420が光学窓480側へ向けて紫外線を放射するため、高い発光(光取り出し)効率を有した、面内均一性のある発光を実現することができる。また、結晶成長用基板430上に発光層420を成膜するため、その膜厚さなどを自在に調整可能であるとともに、放電空間Sのスペースサイズ、光学窓480と発光層420との距離間隔を調整することが可能となる。
【0090】
次に、図12、13を用いて、第9の実施形態である紫外線光源について説明する。第9の実施形態では、沿面放電によって発光層から紫外線を放射させる。
【0091】
図12は、第9の実施形態である紫外線光源の概略的斜視図である。図13は、第9の実施形態である紫外線光源の概略的断面図である。紫外線光源500は、放電容器500Bを備え、上部には光学窓580が設けられている。
【0092】
放電容器500Bの底部には電極配線用基板590が設けられ、その上には櫛状の電極部510A、510Bから構成される櫛型電極510が配設されている。放電容器500Bは、その側面をフリット材570で構成し、光学窓580と電極配線用基板590とを接続する。櫛側電極510上方には、結晶成長用基板530が設けられ、その上に発光層520が形成されている。第8の実施形態と同様、キセノンなどの希ガスが放電ガスとして放電空間Sに封入されている。
【0093】
交流電源部550が、導電体540A、540Bを通じて櫛型電極510に交流電圧を印加すると、互いに隣り合う電極部510A、510B同士で沿面放電が生じる。沿面放電によって、放電ガスが光励起されるとともに、発光層520が光励起される。その結果、紫外線が光学窓580から放射する。プラズマ密度の高い領域に発光層520が形成されているため、高効率で紫外線を放射させることが可能である。また、外側電極を光学窓580には設けない構成であるため、より均一な紫外線を面発光させることができる。
【符号の説明】
【0094】
10 電極
20 発光層
30 基体
100 紫外線光源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13