(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055661
(43)【公開日】2023-04-18
(54)【発明の名称】推定装置、推定方法および推定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 25/18 20060101AFI20230411BHJP
G01N 17/00 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
G01N25/18 C
G01N17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152654
(22)【出願日】2022-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2021164870
(32)【優先日】2021-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 俊平
(72)【発明者】
【氏名】田中 仁章
(72)【発明者】
【氏名】波津久 達也
(72)【発明者】
【氏名】盛田 元彰
(72)【発明者】
【氏名】井原 智則
【テーマコード(参考)】
2G040
2G050
【Fターム(参考)】
2G040AA08
2G040AB09
2G040BA15
2G040BA25
2G040CA01
2G050AA02
2G050EB10
(57)【要約】
【課題】配管内の析出物厚さを精度よく推定することができる。
【解決手段】推定装置10は、流体が流れる配管の第1の位置の配管外部に対応する位置における第1の温度データを取得する第1取得部15aと、第1の位置とは熱伝達に関する条件が異なる配管の第2の位置の配管外部に対応する位置における第2の温度データを取得する第2取得部15bと、第1の温度データおよび第2の温度データに基づいて配管の内表面に付着した析出物の熱抵抗を算出し、析出物の厚さを推定する推定部15cを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流れる配管の第1の位置の配管外部に対応する位置における第1の温度データを取得する第1取得部と、
前記第1の位置とは熱伝達に関する条件が異なる前記配管の第2の位置の配管外部に対応する位置における第2の温度データを取得する第2取得部と、
前記第1の温度データおよび前記第2の温度データに基づいて前記配管の内表面に付着した析出物の熱抵抗を算出し、前記析出物の厚さを推定する推定部と、
を備える推定装置。
【請求項2】
前記第1取得部は、
前記第1の温度データとして、前記配管の内表面に前記析出物が付着した前記第1の位置の配管外部に対応する位置における温度データを取得し、
前記第2取得部は、
前記第2の温度データとして、前記析出物が付着した前記第2の位置の配管外部に対応する位置における温度データを取得し、
前記推定部は、
前記第1の温度データおよび前記第2の温度データを用いて温度差データを算出し、前記温度差データに基づいて前記析出物の熱抵抗を算出し、前記析出物の厚さを推定するとともに、前記温度差データに基づいて前記配管を流れる前記流体の温度を推定する、
請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記第1取得部は、
前記第1の温度データとして、前記配管に被覆材が被覆されている前記第1の位置の配管外部に対応する位置における1または複数の温度データを取得し、
前記第2取得部は、
前記第2の温度データとして、前記第1の位置とは前記被覆材の熱抵抗が異なる前記第2の位置の配管外部に対応する位置における1または複数の温度データを取得し、
前記推定部は、
前記温度差データと、前記流体、前記配管および前記被覆材の各熱抵抗とを用いて前記析出物の熱抵抗を算出し、前記析出物の厚さを推定する、
請求項2に記載の推定装置。
【請求項4】
前記第1取得部は、
前記第1の温度データとして、前記第1の位置の前記配管の外表面の温度である第1の配管表面温度、および前記第1の位置から前記配管の半径方向外側にある被覆材表面の温度である第1の被覆材表面温度を取得し、
前記第2取得部は、
前記第2の温度データとして、前記第2の位置の前記配管の外表面の温度である第2の配管表面温度、および前記第2の位置から前記配管の半径方向外側にある被覆材表面の温度である第2の被覆材表面温度を取得し、
前記推定部は、
前記第1の配管表面温度と前記第1の被覆材表面温度との温度差と、前記第2の配管表面温度と前記第2の被覆材表面温度との温度差と、前記第1の配管表面温度と前記第2の配管表面温度との温度差と、前記流体、前記配管および前記被覆材の各熱抵抗とを用いて前記析出物の熱抵抗を算出し、前記析出物の厚さを推定する、
請求項3に記載の推定装置。
【請求項5】
前記第1取得部は、
前記第1の温度データとして、前記第1の位置から前記配管の半径方向外側にある被覆材内部の2つの第1の温度データを取得し、
前記第2取得部は、
前記第2の温度データとして、前記第2の位置から前記配管の半径方向外側にある被覆材内部の2つの第2の温度データを取得し、
前記推定部は、
前記2つの第1の温度データの温度差と、前記2つの第2の温度データの温度差と、前記2つの第1の温度データおよび前記2つの第2の温度データのうち取得された位置に基づき選択される第1の温度データと第2の温度データの温度差と、前記流体、前記配管および前記被覆材の各熱抵抗とを用いて前記析出物の熱抵抗を算出し、前記析出物の厚さを推定する、
請求項3に記載の推定装置。
【請求項6】
前記第1取得部は、
前記第1の温度データとして、前記配管に被覆材が被覆されていない前記第1の位置の配管外部に対応する位置における1または複数の温度データを取得し、
前記第2取得部は、
前記第2の温度データとして、前記被覆材が被覆されている前記第2の位置の配管外部に対応する位置における1または複数の温度データを取得し、
前記推定部は、
前記温度差データと、前記流体、前記配管および前記被覆材の各熱抵抗とを用いて前記析出物の熱抵抗を算出し、前記析出物の厚さを推定する、
請求項2に記載の推定装置。
【請求項7】
前記推定部は、
配管外部の気温もしくは流体温度、または前記被覆材の表面の熱伝達率を用いて前記析出物の熱抵抗を算出し、前記析出物の厚さを推定する、
請求項3または6に記載の推定装置。
【請求項8】
前記第1取得部は、
前記第1の位置における前記流体から配管外部への熱移動量の算出に利用する第1の熱流束データをさらに取得し、
前記第2取得部は、
前記第2の位置における前記流体から配管外部への熱移動量の算出に利用する第2の熱流束データをさらに取得し、
前記第1の温度データ、前記第2の温度データ、前記第1の熱流束データおよび前記第2の熱流束データを用いて前記析出物の熱抵抗を算出し、前記析出物の厚さを推定する、
請求項1に記載の推定装置。
【請求項9】
前記第1取得部は、
坑井から生産されるオイルまたはガスを輸送している前記配管において、前記第1の温度データを取得し、
前記第2取得部は、
前記オイルまたは前記ガスを輸送している前記配管において、前記第2の温度データを取得し、
前記推定部は、
前記第1の温度データおよび前記第2の温度データに基づいて、ハイドレート、ワックス、アスファルテン、またはスケールの厚さを推定する、
請求項1に記載の推定装置。
【請求項10】
コンピュータが、
流体が流れる配管の第1の位置の配管外部に対応する位置における第1の温度データを取得し、
前記配管において、前記第1の位置とは熱伝達に関する条件が異なる第2の位置の配管外部に対応する位置における第2の温度データを取得し、
前記第1の温度データおよび前記第2の温度データに基づいて前記配管の内表面に付着した析出物の熱抵抗を算出し、前記析出物の厚さを推定する、
処理を実行する推定方法。
【請求項11】
コンピュータに、
流体が流れる配管の第1の位置の配管外部に対応する位置における第1の温度データを取得し、
前記配管において、前記第1の位置とは熱伝達に関する条件が異なる第2の位置の配管外部に対応する位置における第2の温度データを取得し、
前記第1の温度データおよび前記第2の温度データに基づいて前記配管の内表面に付着した析出物の熱抵抗を算出し、前記析出物の厚さを推定する、
処理を実行させる推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推定装置、推定方法および推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オイルやガスのパイプラインでは、温度や圧力といった条件によってハイドレート、ワックス、アスファルテン、スケール等の析出物が発生する。このため、これらの析出物の発生を抑制するインヒビター(inhibitor)と呼ばれる薬剤を投入する手法や、ピグ(pig)と呼ばれる器具をパイプライン内に通す手法により、これらの析出物を除去する等の対処法が行われている。しかし、現状では、これらの析出物の発生厚さ(適宜、「析出物厚さ」)を測定する手段がないために、インヒビターやピグといった対処法を最適に運用することができていない。よって、配管内の析出物厚さを推定する技術が要求されており、そのような技術として特許文献1~3等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-133596号公報
【特許文献2】米国特許出願公開2004/0059505号明細書
【特許文献3】米国特許第8960305号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記技術では、配管内の析出物厚さを精度よく推定することは難しい。なぜならば、上記技術では以下のような課題があるからである。まず、特許文献1は、円周上の管表面に設置した複数の温度センサから析出物の形状を推定する技術であるが、この技術では、配管内外の流体の温度を精度よく推定あるいは測定できていなければ、析出物形状を精度よく推定することはできない。例えば、配管内外の流体温度の推定値が誤っていた場合は、この手法では析出物の形状を実際よりも厚くあるいは薄く推定してしまう。
【0005】
また、この特許文献1では、流体温度を経験あるいはフローシミュレータ等の解析から与えた場合には、その値が実際の値と大きく異なる可能性がある。これらの値を過去の測定結果をもとに推定する場合は、配管内外の温度が時間とともに変化する等の現象によって、推定値と実際の値の差が時間とともに大きくなる。
【0006】
特許文献2は、オイルやガスのパイプラインの配管表面温度をアレイ温度センサで測定することで、析出物を監視技術であるが、この技術では、配管内外の流体の温度を正確に推定あるいは測定できなければ、析出物形状を精度よく推定することができない。
【0007】
特許文献3は、DTS(Distributed Temperature Sensor)によってパイプラインの管軸方向の温度、振動、圧力、歪み分布を測定し、フローアシュランスシミュレータ等のパイプラインのモデルを校正することで、パイプライン全体の状態を監視する技術である。この技術では、管内の流体温度を精度よく推定できないために、精度よく析出物厚さを推定することはできない。以上より、配管内の析出物厚さを精度よく推定する推定装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、流体が流れる配管の第1の位置の配管外部に対応する位置における第1の温度データを取得する第1取得部と、前記第1の位置とは熱伝達に関する条件が異なる前記配管の第2の位置の配管外部に対応する位置における第2の温度データを取得する第2取得部と、前記第1の温度データおよび前記第2の温度データに基づいて前記配管の内表面に付着した析出物の熱抵抗を算出し、前記析出物の厚さを推定する推定部とを備える推定装置を提供する。
【0009】
また、本発明は、コンピュータが、流体が流れる配管の第1の位置の配管外部に対応する位置における第1の温度データを取得し、前記第1の位置とは熱伝達に関する条件が異なる前記配管の第2の位置の配管外部に対応する位置における第2の温度データを取得し、前記第1の温度データおよび前記第2の温度データに基づいて前記配管の内表面に付着した析出物の熱抵抗を算出し、前記析出物の厚さを推定する、処理を実行する推定方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、コンピュータに、流体が流れる配管の第1の位置の配管外部に対応する位置における第1の温度データを取得し、前記第1の位置とは熱伝達に関する条件が異なる前記配管の第2の位置の配管外部に対応する位置における第2の温度データを取得し、前記第1の温度データおよび前記第2の温度データに基づいて前記配管の内表面に付着した析出物の熱抵抗を算出し、前記析出物の厚さを推定する、処理を実行させる推定プログラムを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、配管内の析出物厚さを精度よく推定することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る推定システムの構成例を示す図である。
【
図2】実施形態に係る推定システムの構成例を示すブロック図である。
【
図3】実施形態に係る処理全体の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図4】実施形態に係る第1取得処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図5】実施形態に係る第2取得処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図6】実施形態に係る析出物厚さ推定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図7】実施形態に係る管内流体温度推定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図8】実施形態に係る配管と温度センサの具体例1を示す断面図である。
【
図9】実施形態に係る配管と温度センサの具体例2を示す断面図である。
【
図10】実施形態に係る配管と温度センサの具体例3を示す断面図である。
【
図11】実施形態に係る配管と温度センサの具体例4を示す断面図である。
【
図12】実施形態に係る配管と温度センサの具体例5を示す断面図である。
【
図13】実施形態に係る配管と温度センサの具体例6を示す断面図である。
【
図14】実施形態に係る配管と温度センサの具体例7を示す断面図である。
【
図15】実施形態に係る配管と温度センサの具体例8を示す断面図である。
【
図16】実施形態に係る配管と温度センサの具体例9を示す断面図である。
【
図17】実施形態に係る配管と温度センサの具体例10を示す断面図である。
【
図18】実施形態に係る配管と温度センサの具体例11を示す断面図である。
【
図19】実施形態に係る配管と温度センサの具体例12を示す断面図である。
【
図20】実施形態に係る配管と温度センサの具体例13を示す断面図である。
【
図21】実施形態に係る配管と温度センサの具体例14を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の一実施形態に係る推定装置、推定方法および推定プログラムを、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態により限定されるものではない。
【0014】
〔実施形態〕
以下に、本実施形態に係る推定システム100の構成、推定装置10等の構成、各処理の流れ、配管と温度センサの具体例を順に説明し、最後に本実施形態の効果を説明する。
【0015】
〔推定システム100の構成〕
図1を用いて、本実施形態に係る推定システム(以下、適宜、本システムともいう)100の構成を詳細に説明する。
図1は、実施形態に係る推定システムの構成例を示す図である。以下に、本システム100全体の構成例を示した上で、本システム100の処理について説明する。なお、本実施形態では、オイルやガスのパイプラインを一例にして説明するが、対象を限定するものではなく、冷却水を発電所に導く配管や温泉水を所定の場所に導く配管等、様々な流体が流れる配管に適用することができる。
【0016】
(システム全体の構成例)
本システム100は、推定装置10および温度センサ40(40A-1、40A-2、40B-1、40B-2)を有する。ここで、推定装置10と、温度センサ40とは、図示しない所定の通信網を介して、有線または無線により通信可能に接続される。また、
図1に示した推定システム100には、複数台の推定装置10が含まれてもよい。
【0017】
ここで、温度センサ40A-1は、オイルまたはガスのパイプラインの配管20の外表面に設置され、温度センサ40A-2は、配管20を被覆する断熱材30Aの外表面に設置される。同様にして、温度センサ40B-1は、オイルまたはガスのパイプラインの配管20の外表面に設置され、温度センサ40B-2は、配管20を被覆し、断熱材30Aとは厚さが異なる断熱材30Bの外表面に設置される。また、オイルやガス等の流体50は、配管20内を流れる。また、ハイドレート、ワックス、アスファルテン、スケール等の析出物60は、配管20の内表面に発生する。
【0018】
(システム全体の処理)
上記のようなシステムにおいて、配管内の析出物厚さを推定する例を説明する。まず、推定装置10は、配管20の内表面に析出物60が付着している位置(適宜、「第1の析出物発生位置」)の配管外部において、温度センサ40A-1から配管表面温度を取得し、温度センサ40A-2から断熱材表面温度を取得する(ステップS1)。また、推定装置10は、第1の析出物発生位置とは異なり、配管20の内表面に析出物60が付着している位置(適宜、「第2の析出物発生位置」)の配管外部において、温度センサ40B-1から配管表面温度を取得し、温度センサ40B-2から断熱材表面温度を取得する(ステップS2)。
【0019】
ここで、温度センサ40(40A、40B)は、例えば、熱電対、測温抵抗体、DTS、サーモカメラ等である。温度センサ40Aは、第1の析出物発生位置の配管表面温度および断熱材表面温度を測定する。温度センサ40Bは、第2の析出物発生位置の配管表面温度および断熱材表面温度を測定する。
図1では、温度センサ40A、40Bは、それぞれ2つずつ設置されているが、配管または断熱材全体に3つ以上を設置することもできる。
【0020】
次に、推定装置10は、温度センサ40Aおよび温度センサ40Bから取得した温度データを用いて、析出物60の熱抵抗を算出し、析出物厚さを推定する(ステップS3)。なお、析出物厚さの推定処理の詳細な説明については、〔各処理の流れ〕(4.析出物厚さ推定処理の流れ)にて後述する。さらに、推定装置10は、温度センサ40Aおよび温度センサ40Bから取得した温度データを用いて、管内流体温度を推定することもできる。なお、管内流体温度の推定処理の詳細な説明については、〔各処理の流れ〕(5.管内流体温度推定処理の流れ)にて後述する。
【0021】
上述のステップS1~S3の処理を実行することにより、オイルまたはガスのパイプライン内部の流体温度を測定することなく、パイプライン内部に発生する析出物の厚さを、安価に非侵襲で精度よく推定することができる。
【0022】
〔推定装置10等の構成〕
図2を用いて、
図1に示したシステム100が有する各装置の機能構成について説明する。
図2は、実施形態に係る推定システムの構成例を示すブロック図である。以下では、本実施形態に係る推定装置10の構成、温度センサ40の構成、その他の機器の構成を順に説明する。
【0023】
(1.推定装置10の構成)
推定装置10は、入力部11、出力部12、通信部13、記憶部14および制御部15を有する。入力部11は、当該推定装置10への各種情報の入力を司る。例えば、入力部11は、マウスやキーボード等で実現され、当該推定装置10への設定情報等の入力を受け付ける。また、出力部12は、当該推定装置10からの各種情報の出力を司る。例えば、出力部12は、ディスプレイ等で実現され、当該推定装置10に記憶された設定情報等を出力する。
【0024】
通信部13は、他の装置との間でのデータ通信を司る。例えば、通信部13は、図示しないネットワーク装置を介して、各装置との間でデータ通信を行う。また、通信部13は、図示しないオペレータの端末との間でデータ通信を行うことができる。
【0025】
記憶部14は、制御部15が動作する際に参照する各種情報や、制御部15が動作した際に取得した各種情報を記憶する。ここで、記憶部14は、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、または、ハードディスク、光ディスク等の記憶装置等で実現され得る。なお、
図2の例では、記憶部14は、推定装置10の内部に設置されているが、推定装置10の外部に設置されてもよいし、複数の記憶部が設置されていてもよい。
【0026】
ここで、記憶部14は、推定部15cによる推定処理に用いられる情報を記憶する。例えば、記憶部14は、配管、断熱材、析出物のそれぞれの熱伝導率kp、ki(ki1、ki2)、kdepositと、配管の外半径(=断熱材の内半径)rpoと、配管の内半径rpiと、断熱材の外半径ri(ri1、ri2)とを記憶する。また、記憶部14は、断熱材の厚さ・材質・形状・層数、温度センサ40の配置、配管の構造等の配管に関する情報の他、配管、断熱材のそれぞれの表面の熱伝達率houter1、houter2、配管内の流体の流速、周囲の気温、風の有無等の測定値や推定値を記憶する。
【0027】
制御部15は、当該推定装置10全体の制御を司る。制御部15は、第1取得部15a、第2取得部15bおよび推定部15cを有する。ここで、制御部15は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)等の電子回路やASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の集積回路により実現され得る。
【0028】
(第1取得部15a)
第1取得部15aは、流体50が流れる配管20の第1の位置の配管外部に対応する位置における第1の温度データを取得する。ここで、第1の温度データは、流体50が流れる配管20の任意の位置の配管外部に対応する位置の1または複数の温度データであって、配管表面温度、断熱材表面温度、断熱材内部の温度、気温、配管外の流体温度等である。
【0029】
第1の位置について説明すると、例えば、第1取得部15aは、第1の温度データとして、配管20の内表面に析出物60が付着した第1の位置の配管外部に対応する位置における温度データを取得する。また、第1取得部15aは、第1の温度データとして、配管20に被覆材が被覆されている第1の位置の配管外部に対応する位置における1または複数の温度データを取得する。また、第1取得部15aは、第1の温度データとして、配管20に断熱材30等の被覆材が被覆されていない第1の位置の配管外部に対応する位置における1または複数の温度データを取得する。ここで、被覆材とは、配管20の周囲に被覆されている断熱材、保護材、緩衝材等である。
【0030】
また、
図1に示した例を用いて説明すると、第1取得部15aは、坑井から生産されるオイルまたはガスを輸送している配管(パイプライン)20において、第1の温度データを取得する。なお、第1取得部15aの処理は上記例に限定されず、例えば、第1取得部15aは、冷却水を発電所に輸送する配管や、温泉水を所定の場所に輸送する配管等において、配管表面温度、断熱材表面温度等を取得することもできる。
【0031】
取得する温度データについて説明すると、例えば、第1取得部15aは、第1の温度データとして、第1の位置の配管外部における配管表面および被覆材表面の温度データを取得する。このとき、第1取得部15aは、第1の位置の配管20の外表面の温度である第1の配管表面温度、および第1の位置から配管20の半径方向外側にある被覆材表面の温度である第1の被覆材表面温度を取得する。また、第1取得部15aは、第1の温度データとして、第1の位置から配管20の半径方向外側にある被覆材内部の2つの温度データを取得する。すなわち、第1取得部15aは、配管表面温度や配管表面付近の断熱材内部の温度であるT1(T5)、断熱材表面温度や断熱材表面付近の断熱材内部の温度であるT3の温度データを取得する。また、第1取得部15aは、第1の温度データとして、第1の位置の配管外部における気温または管外流体温度を取得する。すなわち、第1取得部15aは、気温や管外流体温度であるT6の温度データを取得する。さらに、温度データ以外の取得について説明すると、第1取得部15aは、第1の位置における流体50から配管外部への熱移動量Q1の算出に利用される第1の熱流束データを取得する。
【0032】
(第2取得部15b)
第2取得部15bは、第1の位置とは熱伝達に関する条件が異なる配管20の第2の位置の配管外部に対応する位置における第2の温度データを取得する。ここで、熱伝達に関する条件とは、断熱材の熱抵抗や熱伝導率、配管表面の熱伝達率等の熱の移動量に関する条件である。すなわち、第2取得部15bは、第2の温度データとして、第1の位置とは被覆材の厚さ、材質、形状および層数のうち少なくとも1つが異なることによって、熱抵抗が異なる第2の位置の配管外部に対応する位置における1または複数の温度データを取得する。
【0033】
さらに、第2の位置について説明すると、第2取得部15bは、第2の温度データとして、析出物60が付着した第2の位置の配管外部に対応する位置における温度データを取得する。このとき、第2取得部15bは、第2の温度データとして、第1の位置と等しい条件で析出物60が付着した第2の位置の配管外部に対応する位置における温度データを取得する。すなわち、第2取得部15bは、第2の温度データとして、第1の位置と等しい厚さで、同一の種類の析出物60が付着した第2の位置の配管外部に対応する位置における温度データを取得する。また、第2取得部15bは、第2の温度データとして、断熱材30等の被覆材が被覆されている第2の位置の配管外部に対応する位置における1または複数の温度データを取得する。一方、第2取得部15bは、第2の温度データとして、配管20に断熱材30等の被覆材が被覆されていない第2の位置の配管外部に対応する位置における1または複数の温度データを取得してもよい。
【0034】
また、
図1に示した例を用いて説明すると、第2取得部15bは、坑井から生産されるオイルまたはガスを輸送している配管(パイプライン)20において、第2の温度データを取得する。なお、第2取得部15bの処理は上記例に限定されず、例えば、第2取得部15bは、冷却水を発電所に輸送する配管や、温泉水を所定の場所に輸送する配管等において、配管表面温度、断熱材表面温度等を取得することもできる。
【0035】
取得する温度データについて説明すると、例えば、第2取得部15bは、第2の温度データとして、第2の位置の配管外部における配管表面および被覆材表面の温度データを取得する。このとき、第2取得部15bは、第2の温度データとして、第2の位置の配管20の外表面の温度である第2の配管表面温度、および第2の位置から配管20の半径方向外側にある被覆材表面の温度である第2の被覆材表面温度を取得する。また、第2取得部15bは、第2の位置から配管20の半径方向外側にある被覆材内部の2つの第2の温度データを取得する。すなわち、第2取得部15bは、配管表面温度や配管表面付近の断熱材内部の温度であるT2、断熱材表面温度や断熱材表面付近の断熱材内部の温度であるT4の温度データを取得する。また、第2取得部15bは、第2の温度データとして、第2の位置の配管外部における気温または管外流体温度を取得する。すなわち、第2取得部15bは、気温や管外流体温度であるT6の温度データを取得する。さらに、温度データ以外の取得について説明すると、第2取得部15bは、第2の位置における流体50から配管外部への熱移動量Q2の算出に利用される第2の熱流束データを取得する。
【0036】
(推定部15c)
推定部15cは、第1の温度データおよび第2の温度データに基づいて配管20の内表面に付着した析出物60の熱抵抗Rdepositを算出し、析出物60の厚さδを推定する。例えば、推定部15cは、第1の温度データおよび第2の温度データを用いて温度差データを算出し、温度差データに基づいて析出物60の熱抵抗Rdepositを算出し、析出物60の厚さδを推定する。さらに、推定部15cは、温度差データと、流体50、配管20および断熱材30等の被覆材の各熱抵抗とを用いて析出物60の熱抵抗Rdepositを算出し、析出物60の厚さδを推定する。このとき、推定部15cは、第1の配管表面温度と第1の被覆材表面温度との温度差と、第2の配管表面温度と第2の被覆材表面温度との温度差と、第1の配管表面温度と第2の配管表面温度との温度差と、流体50、配管20および被覆材の各熱抵抗とを用いて析出物60の熱抵抗Rdepositを算出し、析出物60の厚さを推定する。また、2つの第1の温度データの温度差と、2つの第2の温度データの温度差と、2つの第1の温度データおよび2つの第2の温度データのうち取得された位置に基づき選択される第1の温度データと第2の温度データとの温度差と、流体50、配管20および被覆材の各熱抵抗とを用いて析出物60の熱抵抗を算出し、析出物60の厚さを推定する。
【0037】
すなわち、推定部15cは、第1の温度データとしてT1(T5)、T3、第2の温度データとしてT2、T4を用いて、温度差データとしてT1-T3、T2-T4、T2-T1等の数値、流体50の熱抵抗としてRinnhtの数値、配管20の熱抵抗としてRpipeの数値、断熱材30A、30Bそれぞれの熱抵抗としてR1、R2の数値を用いて析出物60の熱抵抗Rdepositの数値を算出し、記憶部14の析出物60の熱伝導率kdepositを参照して析出物60の厚さδの推定値を算出する。
【0038】
推定部15cは、配管外部の気温もしくは流体温度、または断熱材30等の被覆材の表面の熱伝達率を用いて析出物60の熱抵抗Rdepositを算出し、析出物60の厚さδを推定する。すなわち、推定部15cは、気温や管外流体温度としてT6の数値、断熱材30A、30Bそれぞれの表面の熱伝達率houter1、houter2の数値を用いて析出物60の熱抵抗Rdepositの数値を算出し、記憶部14の析出物60の熱伝導率kdepositを参照して析出物60の厚さδの推定値を算出する。
【0039】
推定部15cは、第1の温度データ、第2の温度データ、第1の熱流束データおよび第2の熱流束データを用いて析出物60の熱抵抗Rdepositを算出し、析出物60の厚さδを推定する。すなわち、推定部15cは、第1の温度データとしてT1(T5)の数値、第2の温度データとしてT2の数値、第1の熱流束データから求められた熱移動量Q1の数値、第2の熱流束データから求められた熱移動量Q2の数値を用いて析出物60の熱抵抗Rdepositの数値を算出し、記憶部14の析出物60の熱伝導率kdepositを参照して析出物60の厚さδの推定値を算出する。
【0040】
また、
図1に示した例を用いて説明すると、推定部15cは、第1の温度データおよび第2の温度データに基づいて、ハイドレート、ワックス、アスファルテン、またはスケールの厚さを推定する。すなわち、推定部15cは、坑井から生産されるオイルまたはガスを輸送している配管(パイプライン)20から取得された第1の温度データT
1、T
3、第2の温度データT
2、T
4を用いて、パイプラインの析出物であるハイドレート、ワックス、アスファルテン、スケール等の熱抵抗R
depositの数値を算出し、記憶部14の析出物ごとの熱伝導率k
depositを参照してパイプラインの析出物の厚さδの推定値を算出する。
【0041】
さらに、析出物厚さ以外の推定について説明すると、推定部15cは、温度差データに基づいて配管20を流れる流体50の温度を推定する。すなわち、推定部15cは、温度差データとしてT1-T3、T2-T4等の数値、断熱材30A、30Bそれぞれの熱抵抗としてR1、R2の数値を用いて管内流体温度Tinnerの推定値を算出する。また、推定部15cは、配管20に析出物60が付着していない条件では、温度差データとしてT1-T3、T2-T4、T2-T1等の数値、配管20の熱抵抗としてRpipeの数値、断熱材30A、30Bそれぞれの熱抵抗としてR1、R2の数値を用いて、流体50の熱抵抗Rinnhtの推定値を算出することもできる。
【0042】
(2.温度センサ40の構成)
温度センサ40(40A-1、40A-2、40B-1、40B-2)は、温度を測定する測定部(図示せず)や、他の装置との間での各種データの送受信を司る送受信部(図示せず)等の機能部を有する。
【0043】
(測定部)
温度センサ40A-1の測定部は、第1の温度データのうち、第1の位置の配管外部における配管表面の温度データ、被覆材内部の温度データ、気温等を取得する。すなわち、温度センサ40A-1の測定部は、配管表面温度や配管表面付近の断熱材内部の温度であるT1(T5)、気温や管外流体温度であるT6の温度データを取得する。また、温度センサ40A-2の測定部は、第1の温度データのうち、第1の位置の配管外部における被覆材表面の温度データ、被覆材内部の温度データ、気温等を取得する。すなわち、温度センサ40A-2の測定部は、断熱材表面温度や断熱材表面付近の断熱材内部の温度であるT3、気温や管外流体温度であるT6の温度データを取得する。
【0044】
温度センサ40B-1の測定部は、第2の温度データのうち、第2の位置の配管外部における配管表面の温度データ、被覆材内部の温度データ、気温等を取得する。すなわち、温度センサ40B-1の測定部は、配管表面温度や配管表面付近の断熱材内部の温度であるT2、気温や管外流体温度であるT6の温度データ等を取得する。また、温度センサ40B-2の測定部は、第2の温度データのうち、第2の位置の配管外部における被覆材表面の温度データ、被覆材内部の温度データ、気温等を取得する。すなわち、温度センサ40B-2の測定部は、断熱材表面温度や断熱材表面付近の断熱材内部の温度であるT4、気温や管外流体温度であるT6の温度データ等を取得する。
【0045】
(送受信部)
温度センサ40(40A-1、40A-2、40B-1、40B-2)の送受信部は、各測定部によって測定された温度データを推定装置10に送信する。すなわち、温度センサ40の送受信部は、測定された温度データT1~T6を推定装置10に送信する。
【0046】
(3.その他の機器の構成)
図示しない熱流束計は、断熱材30A、30Bそれぞれの内側に設置される。また、熱流束計は、断熱材のない配管20の表面に設置されてもよい。熱流束計は、熱流束データを測定する測定部や、他の装置との間での各種データの送受信を司る送受信部等の機能部を有する。熱流束計の測定部は、断熱材30A、30Bや断熱材のない配管20の熱流束データや温度データを測定する。熱流束計の送受信部は、測定部によって測定された熱流束データや温度データを推定装置10に送信する。
【0047】
〔各処理の流れ〕
図3~
図7を用いて、本実施形態に係る各処理の流れを説明する。以下では、実施形態に係る処理全体の流れ、第1取得処理の流れ、第2取得処理の流れ、析出物厚さ推定処理の流れ、管内流体温度推定処理の流れの順に説明する。
【0048】
(1.処理全体の流れ)
図3を用いて、本実施形態に係る処理全体の流れを説明する。
図3は、実施形態に係る処理全体の流れの一例を示すフローチャートである。まず、推定装置10の第1取得部15aは、第1の温度データの温度取得処理である第1取得処理を実行する(ステップS101)。次に、推定装置10の第2取得部15bは、第2の温度データの温度取得処理である第2取得処理を実行する(ステップS102)。そして、推定装置10の推定部15cは、析出物厚さ推定処理を実行する(ステップS103)。また、推定部15cは、配管内の流体温度推定処理を実行し(ステップS104)、処理を終了する。
【0049】
このとき、ステップS101とステップS102の処理は同時に実行されてもよいし、ステップS102の処理の後にステップS101の処理が実行されてもよい。同様に、ステップS103とステップS104の処理は同時に実行されてもよいし、ステップS104の処理の後にステップS103の処理が実行されてもよい。さらに、ステップS103とステップS104の処理のうち、省略される処理があってもよい。
【0050】
(2.第1取得処理の流れ)
図4を用いて、本実施形態に係る第1取得処理の流れを説明する。
図4は、実施形態に係る第1取得処理の流れの一例を示すフローチャートである。まず、推定装置10の第1取得部15aは、析出物60が析出している析出物発生位置(第1の析出物発生位置)に対応する配管20の表面に設置された温度センサ40A-1から、配管表面温度T
1を取得する(ステップS201)。次に、第1取得部15aは、析出物60が析出している析出物発生位置に対応する配管20を被覆する断熱材30Aの表面に設置された温度センサ40A-2から、配管表面温度T
3を取得し(ステップS202)、処理を終了する。このとき、ステップS201とステップS202の処理は同時に実行されてもよいし、ステップS202の処理の後にステップS201の処理が実行されてもよい。
【0051】
(3.第2取得処理の流れ)
図5を用いて、本実施形態に係る第2取得処理の流れを説明する。
図5は、実施形態に係る第2取得処理の流れの一例を示すフローチャートである。まず、推定装置10の第2取得部15bは、析出物60が析出しており、第1の析出物発生位置とは異なる析出物発生位置(第2の析出物発生位置)に対応する配管20の表面に設置された温度センサ40B-1から、配管表面温度T
2を取得する(ステップS301)。次に、第2取得部15bは、析出物60が析出している析出物発生位置に対応する配管20を被覆する断熱材30Bの表面に設置された温度センサ40B-2から、配管表面温度T
4を取得し(ステップS302)、処理を終了する。このとき、ステップS301とステップS302の処理は同時に実行されてもよいし、ステップS302の処理の後にステップS301の処理が実行されてもよい。
【0052】
(4.析出物厚さ推定処理の流れ)
図6を用いて、本実施形態に係る析出物厚さ推定処理の流れを説明する。
図6は、実施形態に係る析出物厚さ推定処理の流れの一例を示すフローチャートである。以下では、本実施形態に係る析出物厚さ推定方式について数式を用いて説明した上で、本実施形態に係る析出物厚さ推定処理の流れを詳細に説明する。
【0053】
(析出物厚さ推定方式)
以下に、断熱材の厚さが異なる析出物発生位置における配管表面温度と断熱材表面温度から析出物厚さを推定する手法の例を示す。第1取得部15aが取得する配管表面温度がT1、断熱材30Aの断熱材表面温度がT3であり、第2取得部15bが取得する配管表面温度がT2、断熱材30Bの断熱材表面温度がT4であった場合、断熱材30A、30Bのそれぞれの位置での管内の流体50から管外部への熱移動量Q1、Q2は、管内の流体50から配管表面までの熱の移動を考えることで、下記(1)式および(2)式のように表わされる。
【0054】
【0055】
【0056】
ここで、Tinnerは管内流体温度であり、Rdepositは析出物60の熱抵抗であり、Rpipeは配管20の熱抵抗であり、Rinnhtは配管内部の流体50の熱伝達による熱抵抗である。また、配管表面から断熱材表面までの移動を考えることで、熱移動量Q1、Q2に関して、下記(3)式および(4)式の関係が得られる。
【0057】
【0058】
【0059】
ここで、R1、R2はそれぞれ、断熱材30A、30Bの熱抵抗である。上記(1)式~(4)式から、析出物60の熱抵抗Rdepositは、下記(5)式のように計算できる。
【0060】
【0061】
また、同様にして上記(1)式~(4)式から、管内流体温度Tinnerは、下記(6)式のように計算できる。
【0062】
【0063】
ここで、断熱材30A、30Bの熱抵抗R1、R2は、記憶部14に記録された断熱材30A、30Bそれぞれの熱伝導率ki1、ki2、それぞれの外半径ri1、ri2、配管の外半径rpo、および熱の移動を考える領域の管軸方向の長さLを用いて、下記(7)式および(8)式のように計算できる。なお、式中の「ln」は、自然対数である。
【0064】
【0065】
【0066】
なお、記憶部14にR1、R2の値を記録しておいてもよい。また、配管の熱抵抗Rpipeは、配管の内半径rpi、配管内の熱伝導率kpを用いて、下記(9)式のように計算できる。なお、式中の「ln」は、自然対数である。
【0067】
【0068】
さらに、配管内部の流体50の熱伝達による熱抵抗Rinnhtは、配管内の熱伝達率hinnerを用いて、下記(10)式のように計算できる。
【0069】
【0070】
このとき、析出物厚さδと析出物60の熱抵抗Rdepositの間には、下記(11)式のような関係がある。ここで、配管の内半径rpiは析出物60の外半径に対応し、rpi-δは析出物60の内半径に対応する。また、下記(11)式より、析出物厚さδの数値が大きくなれば、析出物60の熱抵抗Rdepositの数値が大きくなる。なお、式中の「ln」は、自然対数である。
【0071】
【0072】
以上より、記憶部14の析出物60の熱伝導率kdepositを用いることで、析出物60の熱抵抗Rdepositから析出物60の厚さが計算できる。
【0073】
(推定処理の流れ)
以下に、
図6を用いて、析出物厚さ推定処理の流れの例を示す。第1に、推定装置10の推定部15cは、第1の析出物発生位置に対応する配管表面温度T
1、断熱材表面温度T
3の入力を受け付ける(ステップS401)。第2に、推定部15cは、第2の析出物発生位置に対応する配管表面温度T
2、断熱材表面温度T
4の入力を受け付ける(ステップS402)。第3に、推定部15cは、断熱材30A、30Bの熱抵抗の数値として、R
1、R
2の入力を受け付ける(ステップS403)。第4に、推定部15cは、流体50の熱抵抗の数値として、R
innhtの入力を受け付ける(ステップS404)。第5に、推定部15cは、配管20の熱抵抗の数値として、R
pipeの入力を受け付ける(ステップS405)。第6に、推定部15cは、析出物60の熱伝導率k
deposit、配管の内半径r
piの入力を受け付ける(ステップS406)。第7に、推定部15cは、析出物60の熱抵抗R
depositの数値から、析出物厚さδの数値を出力する(ステップS407)。
【0074】
推定部15cは、上記のステップS401~S407の処理を実行し、析出物厚さ推定処理を終了する。なお、ステップS401~S406の入力受付処理の順序や実行のタイミングは、動的に、または静的に変更することができる。
【0075】
(5.管内流体温度推定処理の流れ)
図7を用いて、本実施形態に係る管内流体温度推定処理の流れを説明する。
図7は、実施形態に係る管内流体温度推定処理の流れの一例を示すフローチャートである。第1に、推定装置10の推定部15cは、第1の析出物発生位置に対応する配管表面温度T
1、断熱材表面温度T
3の入力を受け付ける(ステップS501)。第2に、推定部15cは、第2の析出物発生位置に対応する配管表面温度T
2、断熱材表面温度T
4の入力を受け付ける(ステップS502)。第3に、推定部15cは、断熱材30A、30Bの熱抵抗の数値として、R
1、R
2の入力を受け付ける(ステップS503)。第4に、推定部15cは、配管20内の流体50の温度T
innerの数値を出力する(ステップS504)。なお、管内流体温度T
innerの推定処理に際しては、上述した(6)式を用いて計算する。
【0076】
推定部15cは、上記のステップS501~S504の処理を実行し、析出物厚さ推定処理を終了する。なお、ステップS501~S503の入力受付処理の順序や実行のタイミングは、動的に、または静的に変更することができる。
【0077】
〔配管と温度センサの具体例〕
図8~
図21を用いて、配管と温度センサの配置や利用の具体例について説明する。具体例1~10では、少なくとも4点の温度を測定する温度センサを設置した配管における推定処理について説明し、具体例11~14では、少なくとも3点の温度を測定する温度センサを設置した配管における推定処理について説明する。
【0078】
(1.具体例1)
図8を用いて、4点の温度を測定する温度センサを設置した配管における推定処理であって、2つの対になる温度データを取得する例について説明する。
図8は、実施形態に係る配管と温度センサの具体例1を示す断面図である。また、
図8は、厚さの異なる断熱材31A、31Bによって被覆された配管21における管軸方向の断面を表わす図であり、流体51が流れることにより、配管21の管内に一様に析出物61が付着している。温度センサ41A(41A-1、41A-2)は、断熱材31Aに設置され、温度センサ41B(41B-1、41B-2)は、断熱材31Bに設置されている。また、温度センサ41A-1および41A-2は、配管21の同一半径方向上に設置され、温度センサ41B-1および41B-2は、配管21の温度センサ41Aとは異なる位置の同一半径方向上に設置されている。
【0079】
推定装置10は、
図8のように厚さが異なり、熱抵抗の異なる断熱材ごとの配管表面温度、断熱材表面温度を測定することで、析出物厚さを推定できる。すなわち、まず、推定装置10は、第1の位置における第1の温度データとして、断熱材31Aの配管表面温度である温度センサ41A-1が測定した温度T
1、および断熱材31Aの断熱材表面温度である温度センサ41A-2が測定した温度T
3とを取得する。また、推定装置10は、第2の位置における第2の温度データとして、断熱材31Bの配管表面温度である温度センサ41B-1が測定した温度T
2、および断熱材31Bの断熱材表面温度である温度センサ41B-2が測定した温度T
4とを取得する。
【0080】
次に、推定装置10は、取得したT1~T4の温度データ、記憶する流体51の熱抵抗Rinnht、配管21の熱抵抗Rpipe、および断熱材31A、31Bそれぞれの熱抵抗R1、R2を用いて、上述した(5)式から析出物61の熱抵抗Rdepositを求める。そして、推定装置10は、記憶する析出物61の熱伝導率kdepositを用いて析出物61の厚さδを推定する。また、推定装置10は、T1~T4の温度データ、および断熱材31A、31Bそれぞれの熱抵抗R1、R2を用いて、上述した(6)式から流体51の温度Tinnerを推定してもよい。
【0081】
(2.具体例2)
図9を用いて、4点の温度を測定する温度センサを設置した配管における推定処理であって、3以上の対になる温度データを取得する例について説明する。
図9は、実施形態に係る配管と温度センサの具体例2を示す断面図である。また、
図9は、断熱材32と断熱材32とは厚さ等の異なる断熱材(図示せず)とによって被覆された配管22における半径方向の断面を表わす図であり、流体52が流れることにより、配管22の管内に不均一に析出物62が付着している。温度センサ42a(42a-1、42a-2)、温度センサ42b(42b-1、42b-2)、温度センサ42c(42c-1、42c-2)、温度センサ42d(42d-1、42d-2)は、断熱材32のそれぞれ異なる半径方向の位置に設置されている。
【0082】
推定装置10は、
図9のように配管表面温度、断熱材表面温度を円周上で複数点測定することで、析出物が円周方向に不均一に付着する場合にも、析出物厚さを精度よく推定できる。このとき、推定装置10は、一方の表面温度のみを多点で測定した場合は、もう一方の断熱材の配管表面温度と断熱材表面温度は1点ずつだけ測定すればよい。すなわち、推定装置10は、例えば断熱材32に設置された温度センサ42a(42a-1、42a-2)が測定したT
1、T
3の対となる温度データ以外にも、温度センサ42c(42c-1、42c-2)が測定したT
1、T
3の対となる温度データを取得し、いずれかを第1の温度データとして採用することができる。このとき、推定装置10は、例えば断熱材32とは厚さ等が異なる断熱材(図示せず)に設置された温度センサ(図示せず)が測定したT
2、T
4の対となる温度データを第2の温度データとして採用すればよい。また、推定装置10は、第2の温度データを複数点の温度データから取得することもできる。
【0083】
次に、推定装置10は、上記の具体例1と同様にして、採用したT1~T4の温度データ、記憶する流体52の熱抵抗Rinnht、配管22の熱抵抗Rpipe、および断熱材32等の熱抵抗R1、R2を用いて、上述した(5)式から析出物62の熱抵抗Rdepositを求め、記憶する析出物62の熱伝導率kdepositを用いて析出物62の厚さδを推定する。また、推定装置10は、T1~T4の温度データ、および断熱材32等の熱抵抗R1、R2を用いて、上述した(6)式から流体52の温度Tinnerを推定してもよい。
【0084】
(3.具体例3)
図10を用いて、4点の温度を測定する温度センサを設置した配管における推定処理であって、断熱材内部の2つの対になる温度データを取得する例について説明する。
図10は、実施形態に係る配管と温度センサの具体例3を示す断面図である。また、
図10は、厚さの異なる断熱材33A、33Bによって被覆された配管23における管軸方向の断面を表わす図であり、流体53が流れることにより、配管23の管内に一様に析出物63が付着している。温度センサ43A(43A-1、43A-2)は、断熱材33Aに設置され、温度センサ43B(43B-1、43B-2)は、断熱材33Bに設置されている。また、温度センサ43A-1および43A-2は、配管23の同一半径方向上に設置され、温度センサ43B-1および43B-2は、配管23の温度センサ43Aとは異なる位置の同一半径方向上に設置されている。
【0085】
推定装置10は、
図10のように厚さが異なり、熱抵抗の異なる断熱材ごとの断熱材内部の複数点の温度データを測定することで、析出物厚さを推定できる。すなわち、推定装置10は、第1の位置における第1の温度データとして、断熱材33Aの配管表面付近の断熱材内部の温度である温度センサ43A-1が測定した温度T
1、および断熱材33Aの断熱材表面付近の断熱材内部の温度である温度センサ43A-2が測定した温度T
3を取得する。また、推定装置10は、第2の位置における第2の温度データとして、断熱材33Bの配管表面付近の断熱材内部の温度である温度センサ43B-1が測定した温度T
2、および断熱材33Bの断熱材表面付近の断熱材内部の温度である温度センサ43B-2が測定した温度T
4を取得する。そして、推定装置10は、上記の具体例1と同様にして、析出物63の厚さδや流体53の温度T
innerを推定する。
【0086】
(4.具体例4)
図11を用いて、4点の温度を測定する温度センサを設置した配管における推定処理であって、材質が異なる断熱材から2つの対になる温度データを取得する例について説明する。
図11は、実施形態に係る配管と温度センサの具体例4を示す断面図である。また、
図11は、材質の異なる断熱材34A(34A-1、34A-2)、34Bによって被覆された配管24における管軸方向の断面を表わす図であり、流体54が流れることにより、配管24の管内に一様に析出物64が付着している。温度センサ44A(44A-1、44A-2)は、断熱材34Aに設置され、温度センサ44B(44B-1、44B-2)は、断熱材34Bに設置されている。また、温度センサ44A-1および44A-2は、配管24の同一半径方向上に設置され、温度センサ44B-1および44B-2は、配管24の温度センサ44Aとは異なる位置の同一半径方向上に設置されている。
【0087】
推定装置10は、
図11のように材質が異なり、熱抵抗の異なる断熱材ごとの配管表面温度、断熱材表面温度を測定することで、析出物厚さを推定できる。このとき、断熱材34A、34Bは、厚さと材質がともに異なっていてもよい。また、断熱材34A、34Bは、材質としてプラスチックや金属のように熱伝導率の高いものを用いてもよいし、断熱材34A、34Bは、単一の材質の断熱材から構成されていなくてもよい。例えば、断熱材34A、34Bは、
図11のように、断熱材34Aを2層構造にして、その片方の層に断熱材34Bとは異なる材質を用いてもよい。
【0088】
さらに、温度センサ44Aの設置位置を2層の断熱材の間としてもよい。また、断熱材を3層以上の多層構造としてもよいし、その層にプラスチックや金属のような熱伝導率の高い材質が含まれていてもよいし、その層の中に、温度測定や通信のための回路基板や電源が含まれていてもよい。また、断熱材の一部または全体が金属等の入れ物に覆われていてもよく、温度センサ44Aがその入れ物の内部に設置されていてもよい。
【0089】
図11の例を用いて説明すると、まず、推定装置10は、第1の位置における第1の温度データとして、断熱材34A(34A-1)の配管表面温度である温度センサ44A-1が測定した温度T
1、および断熱材34A(34A-2)の断熱材表面温度である温度センサ44A-2が測定した温度T
3を取得する。また、推定装置10は、第2の位置における第2の温度データとして、断熱材34Bの配管表面温度である温度センサ44B-1が測定した温度T
2、および断熱材34Bの断熱材表面温度である温度センサ44B-2が測定した温度T
4を取得する。
【0090】
次に、推定装置10は、取得したT1~T4の温度データ、記憶する流体54の熱抵抗Rinnht、配管24の熱抵抗Rpipe、断熱材34A全体の熱抵抗に相当するR1、および断熱材34Bの熱抵抗R2を用いて、上述した(5)式から析出物64の熱抵抗Rdepositを求め、記憶する析出物64の熱伝導率kdepositを用いて析出物64の厚さδを推定する。また、推定装置10は、T1~T4の温度データ、断熱材34A全体の熱抵抗に相当するR1、および断熱材34Bの熱抵抗R2を用いて、上述した(6)式から流体54の温度Tinnerを推定してもよい。
【0091】
(5.具体例5)
図12を用いて、4点の温度を測定する温度センサを設置した配管における推定処理であって、管軸方向に同一の位置において、材質が異なる断熱材から2つの対になる温度データを取得する例について説明する。
図12は、実施形態に係る配管と温度センサの具体例5を示す断面図である。また、
図12は、管軸方向に同一の位置において、配管の上下で厚さ等の異なる断熱材35A、35Bによって被覆された配管25における半径方向の断面を表わす図であり、流体55が流れることにより、配管25の管内に一様に析出物65が付着している。断熱材35A、35Bは、互いに厚さや材質が異なる断熱材である。温度センサ45A(45A-1、45A-2)は、断熱材35Aに設置され、温度センサ45B(45B-1、45B-2)は、断熱材35Bに設置されている。また、温度センサ45A-1および45A-2は、配管25の同一半径方向上に設置され、温度センサ45B-1および45B-2も同様に、配管25の同一半径方向上に設置されている。
【0092】
推定装置10は、
図12のように管軸方向に異なる位置でなくても、厚さ、材質、形状、層数等が異なり、熱抵抗の異なる断熱材ごとの配管表面温度、断熱材表面温度を測定することで、析出物厚さを推定できる。すなわち、推定装置10は、第1の位置における第1の温度データとして、配管25の下部の断熱材35Aの配管表面温度である温度センサ45A-1が測定した温度T
1、および断熱材35Aの断熱材表面温度である温度センサ45A-2が測定した温度T
3を取得する。また、推定装置10は、第2の位置における第2の温度データとして、配管25の上部の断熱材35Bの配管表面温度である温度センサ45B-1が測定した温度T
2、および断熱材35Bの断熱材表面温度である温度センサ45B-2が測定した温度T
4を取得する。そして、推定装置10は、上記の具体例1と同様にして、析出物65の厚さδや流体55の温度T
innerを推定する。
【0093】
(6.具体例6)
図13を用いて、4点の温度を測定する温度センサを設置した配管における推定処理であって、管軸方向に同一の位置において、材質の一部が異なる断熱材から2つの対になる温度データを取得する例について説明する。
図13は、実施形態に係る配管と温度センサの具体例6を示す断面図である。また、
図13は、管軸方向に同一の位置において、断熱材36Aの一部を材質の異なる断熱材36Bによって置き換えた配管26における半径方向の断面を表わす図であり、流体56が流れることにより、配管26の管内に一様に析出物66が付着している。断熱材36A、36Bは、互いに材質が異なる断熱材である。温度センサ46A(46A-1、46A-2)は、断熱材36Aに設置され、温度センサ46B(46B-1、46B-2)は、断熱材36Bに設置されている。また、温度センサ46A-1および46A-2は、配管26の同一半径方向上に設置され、温度センサ46B-1および46B-2も同様に、配管26の同一半径方向上に設置されている。
【0094】
推定装置10は、
図13のように管軸方向に異なる位置でなくても、厚さ、材質、形状、層数等が異なり、熱抵抗の異なる断熱材ごとの配管表面温度、断熱材表面温度を測定することで、析出物厚さを推定できる。すなわち、推定装置10は、第1の位置における第1の温度データとして、配管26の全体を被覆する断熱材36Aの配管表面温度である温度センサ46A-1が測定した温度T
1、および断熱材36Aの断熱材表面温度である温度センサ46A-2が測定した温度T
3を取得する。また、推定装置10は、第2の位置における第2の温度データとして、配管26の一部を被覆する断熱材36Bの配管表面温度である温度センサ46B-1が測定した温度T
2、および断熱材36Bの断熱材表面温度である温度センサ46B-2が測定した温度T
4とを取得する。そして、推定装置10は、上記の具体例1と同様にして、析出物66の厚さδや流体56の温度T
innerを推定する。
【0095】
(7.具体例7)
図14を用いて、4点の温度を測定する温度センサを設置した配管における推定処理であって、管軸方向に同一の位置において、追加された断熱材から2つの対になる温度データを取得する例について説明する。
図14は、実施形態に係る配管と温度センサの具体例7を示す断面図である。また、
図14は、管軸方向に同一の位置において、一様な断熱材37Aの一部に断熱材37Bを追加した配管27における半径方向の断面を表わす図であり、流体57が流れることにより、配管27の管内に一様に析出物67が付着している。温度センサ47A-1、47A-2、47B-1は、断熱材37Aに設置され、温度センサ47B-2は、断熱材37Bに設置されている。また、温度センサ47A-1および47A-2は、配管27の同一半径方向上に設置され、温度センサ47B-1および47B-2も同様に、配管27の同一半径方向上に設置されている。
【0096】
推定装置10は、
図14のように管軸方向に異なる位置でなくても、厚さ、材質、形状、層数等が異なり、熱抵抗の異なる断熱材ごとの配管表面温度、断熱材表面温度を測定することで、析出物厚さを推定できる。すなわち、推定装置10は、第1の位置における第1の温度データとして、配管27の全体を被覆する断熱材37Aの配管表面温度である温度センサ47A-1が測定した温度T
1、および断熱材37Aの断熱材表面温度である温度センサ47A-2が測定した温度T
3を取得する。また、推定装置10は、第2の位置における第2の温度データとして、断熱材37Bが追加された位置の配管表面温度である温度センサ47B-1が測定した温度T
2、および断熱材37Bが追加された位置の断熱材表面温度である温度センサ47B-2が測定した温度T
4とを取得する。そして、推定装置10は、上記の具体例1と同様にして、析出物67の厚さδや流体57の温度T
innerを推定する。
【0097】
(8.具体例8)
図15を用いて、4点の温度を測定する温度センサを設置した配管における推定処理であって、管軸方向に同一の位置において、配管の一部を被覆する断熱材から2つの対になる温度データを取得する例について説明する。
図15は、実施形態に係る配管と温度センサの具体例8を示す断面図である。また、
図15は、管軸方向に同一の位置において、配管28の一部が断熱材38A、38Bによって被覆された配管28における半径方向の断面を表わす図であり、流体58が流れることにより、配管28の管内に一様に析出物68が付着している。断熱材38A、38Bは、互いに厚さや材質が異なる断熱材である。温度センサ48A(48A-1、48A-2)は、断熱材38Aに設置され、温度センサ48B(48B-1、48B-2)は、断熱材38Bに設置されている。また、温度センサ48A-1および48A-2は、配管28の同一半径方向上に設置され、温度センサ48B-1および48B-2は、配管28の温度センサ48Aとは異なる位置の同一半径方向上に設置されている。
【0098】
推定装置10は、
図15のように管軸方向に異なる位置でなくても、厚さ、材質、形状、層数等が異なり、熱抵抗の異なる断熱材ごとの配管表面温度、断熱材表面温度を測定することで、析出物厚さを推定できる。すなわち、推定装置10は、第1の位置における第1の温度データとして、配管28の一部を被覆する断熱材38Aの配管表面温度である温度センサ48A-1が測定した温度T
1、および断熱材38Aの断熱材表面温度である温度センサ48A-2が測定した温度T
3を取得する。また、推定装置10は、第2の位置における第2の温度データとして、配管28の一部を被覆する断熱材38Bの配管表面温度である温度センサ48B-1が測定した温度T
2、および断熱材38Bの断熱材表面温度である温度センサ48B-2が測定した温度T
4を取得する。そして、推定装置10は、上記の具体例1と同様にして、析出物68の厚さδや流体58の温度T
innerを推定する。
【0099】
(9.具体例9)
図16を用いて、4点の温度を測定する温度センサを設置した配管における推定処理であって、厚みが一様でない断熱材から2つの対になる温度データを取得する例について説明する。
図16は、実施形態に係る配管と温度センサの具体例9を示す断面図である。また、
図16は、厚さが一様でない断熱材39によって被覆された配管29における管軸方向の断面を表わす図であり、流体59が流れることにより、配管29の管内に一様に析出物69が付着している。温度センサ49A(49A-1、49A-2)と、温度センサ49B(49B-1、49B-2)とは、断熱材39の互いに厚さが異なる管軸方向の位置に設置されている。また、温度センサ49A-1および49A-2は、配管29の同一半径方向上に設置され、温度センサ49B-1および49B-2は、配管29の温度センサ49Aとは異なる位置の同一半径方向上に設置されている。
【0100】
推定装置10は、
図16のように1つの断熱材であっても、厚さや形状が異なり、熱抵抗の異なる断熱材ごとの配管表面温度、断熱材表面温度を測定することで、析出物厚さを推定できる。すなわち、推定装置10は、第1の位置における第1の温度データとして、断熱材39の薄い位置の配管表面温度である温度センサ49A-1が測定した温度T
1、および断熱材39の薄い位置の断熱材表面温度である温度センサ49A-2が測定した温度T
3を取得する。また、推定装置10は、第2の位置における第2の温度データとして、断熱材39の厚い位置の配管表面温度である温度センサ49B-1が測定した温度T
2、および断熱材39の厚い位置の断熱材表面温度である温度センサ49B-2が測定した温度T
4を取得する。そして、推定装置10は、上記の具体例1と同様にして、析出物69の厚さδや流体59の温度T
innerを推定する。
【0101】
(10.具体例10)
図17を用いて、4点の温度を測定する温度センサを設置した配管における推定処理であって、断熱材に被覆されていない位置から2つの対になる温度データを取得する例について説明する。
図17は、実施形態に係る配管と温度センサの具体例10を示す断面図である。また、
図17は、配管210の一部が断熱材310によって被覆された配管210における管軸方向の断面を表わす図であり、流体510が流れることにより、配管210の管内に一様に析出物610が付着している。温度センサ410Aは、断熱材310によって被覆されていない配管210に設置され、温度センサ410B(410B-1、410B-2)は、断熱材310に設置され、温度センサ410Cは、配管210および断熱材310に接触しない配管外部に設置されている。また、温度センサ410B-1および410B-2は、配管210の同一半径方向上に設置されている。以下では、具体例10の実施形態に係る析出物厚さ推定方式について数式を用いて説明した上で、具体例10の実施形態に係る析出物厚さ推定処理を詳細に説明する。
【0102】
(析出物厚さ推定方式)
以下に、具体例10の実施形態に係る析出物厚さを推定する手法の例を示す。推定装置10の第1取得部15aが取得する、断熱材310がない位置での配管表面温度がT5であり、第2取得部15bが取得する配管表面温度がT2、断熱材310の断熱材表面温度がT4であり、配管周囲の気温がT6であった場合、断熱材のない位置での管内の流体から管外への熱移動量Q1は、管内流体から配管表面までの熱の移動と、管表面から管外大気への熱の移動を考えることで、下記(12)式のように表わされる。
【0103】
【0104】
ここで、Tinnerは流体510の管内流体温度であり、Rdepositは析出物610の熱抵抗であり、Rpipeは配管210の熱抵抗であり、Rinnhtは配管内部の流体510の熱伝達による熱抵抗であり、Routht1は配管表面から配管外部の大気への熱伝達による熱抵抗である。
【0105】
一方、断熱材310の位置での管内の流体から管外への熱移動量Q2は、管内流体から配管表面までの熱の移動と、管表面から断熱材表面までの熱の移動と、断熱材表面から管外大気への熱の移動を考えることで、下記(13)式のように表わされる。
【0106】
【0107】
ここで、R2は断熱材310の熱抵抗であり、Routht2は断熱材310表面から配管外部の大気への熱伝達による熱抵抗である。
【0108】
Routht1は、配管の外半径rpo、配管表面の熱伝達率houter1を用いて、下記(14)式のように計算できる。
【0109】
【0110】
Routht2は、断熱材310の外半径ri2、断熱材表面の熱伝達率houter2を用いて、下記(15)式のように計算できる。
【0111】
【0112】
また、上記(15)式と測定温度から、Routht2は、下記(16)式のように求められる。
【0113】
【0114】
よって、上記(15)式および(16)式より、断熱材表面の熱伝達率houter2を測定温度から求められる。さらに、配管表面の熱伝達率houter1と断熱材表面の熱伝達率houter2が同じであるとみなせば、上記(14)式からRoutht1を求められる。
【0115】
そして、上記(12)式、(13)式、および求めたRoutht1から、析出物610の熱抵抗Rdepositおよび流体510の管内流体温度Tinnerは、下記(17)式および(18)式の関係が得られる。
【0116】
【0117】
【0118】
以上より、上記(17)式から、析出物610の熱抵抗Rdepositが求められ、記憶部14の析出物610の熱伝導率kdepositを用いることによって上述した(11)式から析出物610の厚さδが計算できる。また、上記(18)式から、流体510の温度である管内流体温度Tinnerが計算できる。
【0119】
(推定処理)
推定装置10は、
図17のように断熱材が一部しか設置されていなくても、断熱材のない配管表面温度、気温、断熱材の配管表面温度、および断熱材表面温度を測定することで、析出物厚さを推定できる。すなわち、まず、推定装置10は、第1の位置における第1の温度データとして、断熱材310のない配管表面温度である温度センサ410Aが測定した温度T
5、および配管210の周辺の気温である温度センサ410Cが測定した温度T
6とを取得する。また、推定装置10は、第2の位置における第2の温度データとして、断熱材310の配管表面温度である温度センサ410B-1が測定した温度T
2、および断熱材310の断熱材表面温度である温度センサ410B-2が測定した温度T
4を取得する。
【0120】
次に、推定装置10は、取得したT2、T4、T5、T6の温度データ、記憶する流体510の熱抵抗Rinnht、配管210の熱抵抗Rpipe、配管表面から配管外部の大気への熱伝達による熱抵抗Routht1、および断熱材310の熱抵抗R2を用いて、上述した(17)式から析出物610の熱抵抗Rdepositを求める。そして、推定装置10は、記憶する析出物610の熱伝導率kdepositを用いて析出物610の厚さδを上述した(11)式から推定する。また、推定装置10は、T2、T4、T5、T6の温度データ、配管表面から配管外部の大気への熱伝達による熱抵抗Routht1、および断熱材310の熱抵抗R2を用いて、上述した(18)式から流体510の温度Tinnerを推定してもよい。
【0121】
(11.具体例11)
図18を用いて、3点の温度を測定する温度センサを設置した配管における推定処理であって、配管周囲の温度データを取得する例について説明する。
図18は、実施形態に係る配管と温度センサの具体例11を示す断面図である。また、
図18は、配管211の一部が断熱材311によって被覆された配管211における管軸方向の断面を表わす図であり、流体511が流れることにより、配管211の管内に一様に析出物611が付着している。温度センサ411Aは、断熱材311によって被覆されていない配管211に設置され、温度センサ411Bは、断熱材311に設置され、温度センサ411Cは、配管211および断熱材311に接触しない配管外部に設置されている。以下では、具体例11の実施形態に係る析出物厚さ推定方式について数式を用いて説明した上で、具体例11の実施形態に係る析出物厚さ推定処理を詳細に説明する。
【0122】
(析出物厚さ推定方式)
以下に、具体例11の実施形態に係る析出物厚さを推定する手法の例を示す。推定装置10の第1取得部15aが取得する、断熱材311がない位置での配管表面温度がT5であり、第2取得部15bが取得する配管表面温度がT2、配管周囲の気温がT6であった場合、断熱材のない位置での管内の流体から管外への熱移動量Q1は、管内流体から配管表面までの熱の移動と、管表面から管外大気への熱の移動を考えることで、下記(19)式のように表わされる。
【0123】
【0124】
ここで、Tinnerは流体511の管内流体温度であり、Rdepositは析出物611の熱抵抗であり、Rpipeは配管211の熱抵抗であり、Rinnhtは配管内部の流体511の熱伝達による熱抵抗であり、Routht1は配管表面から配管外部の大気への熱伝達による熱抵抗である。
【0125】
一方、断熱材311の位置での管内の流体から管外への熱移動量Q2は、管内流体から配管表面までの熱の移動と、管表面から管外大気への熱の移動を考えることで、下記(20)式のように表わされる。
【0126】
【0127】
ここで、R2は断熱材311の熱抵抗であり、Routht2は断熱材311表面から配管外部の大気への熱伝達による熱抵抗である。
【0128】
このとき、管外の風の強さや、管外の流体の種類(水中管など大気ではない場合など)から、配管表面の熱伝達率houter1と断熱材表面の熱伝達率houter2を予想する。風速計で風の強さを測定して、それを元に予想をしてもよいし、風の強さが大きく変動しない環境であるならば、予め熱伝達率の値を設定しておいてもよい。例えば、無風に近い環境であるならば、houter1=houter2=5W/m2Kと設定することができる。そして、上述の(14)式、(15)式によって、熱伝達率houter1、houter2から、熱抵抗Routht1、Routht2を計算できる。
【0129】
そして、求めた熱抵抗と測定温度、上記(19)式および(20)式を用いて、析出物611の熱抵抗Rdeposit、および流体511の管内流体温度Tinnerは、下記(21)式および(22)式の関係が得られる。
【0130】
【0131】
【0132】
以上より、記憶部14の析出物611の熱伝導率kdepositを用いることで、上記(21)式をもとに、析出物611の熱抵抗Rdepositから析出物611の厚さが計算できる。また、上記(22)式から、流体511の温度である管内流体温度Tinnerが計算できる。
【0133】
(推定処理)
推定装置10は、
図18のように断熱材が一部しか設置されていなくても、断熱材のない配管表面温度、気温、および断熱材の配管表面温度を測定することで、析出物厚さを推定できる。すなわち、まず、推定装置10は、第1の位置における第1の温度データとして、断熱材311のない配管表面温度である温度センサ411Aが測定した温度T
5、および配管211の周辺の気温である温度センサ411Cが測定した温度T
6を取得する。また、推定装置10は、第2の位置における第2の温度データとして、断熱材311の配管表面温度である温度センサ411Bが測定した温度T
2を取得する。
【0134】
次に、推定装置10は、取得したT2、T5、T6の温度データ、記憶する流体511の熱抵抗Rinnht、配管211の熱抵抗Rpipe、配管表面から配管外部の大気への熱伝達による熱抵抗Routht1、断熱材311の熱抵抗R2、および断熱材表面から配管外部の大気への熱伝達による熱抵抗Routht2を用いて、上述した(21)式から析出物611の熱抵抗Rdepositを求める。そして、推定装置10は、記憶する析出物611の熱伝導率kdepositを用いて析出物611の厚さδを推定する。また、推定装置10は、T2、T5、T6の温度データ、配管表面から配管外部の大気への熱伝達による熱抵抗Routht1、断熱材311の熱抵抗R2、および断熱材表面から配管外部の大気への熱伝達による熱抵抗Routht2を用いて、上述した(22)式から流体511の温度Tinnerを推定してもよい。
【0135】
(12.具体例12)
図19を用いて、3点の温度を測定する温度センサを設置した配管における推定処理であって、具体例11とは異なり、配管周囲の温度データを取得しない例について説明する。
図19は、実施形態に係る配管と温度センサの具体例12を示す断面図である。また、
図19は、配管212の一部が断熱材312によって被覆された配管212における管軸方向の断面を表わす図であり、流体512が流れることにより、配管212の管内に一様に析出物612が付着している。温度センサ412Aは、断熱材312によって被覆されていない配管212に設置され、温度センサ412Bは、断熱材312に設置されている。
【0136】
推定装置10は、
図19のように断熱材が一部しか設置されておらず、気温を測定、推定していなくとも、断熱材のない配管表面温度、断熱材の配管表面温度、断熱材の表面温度を測定した上で、配管表面の熱伝達率h
outer1と断熱材表面の熱伝達率h
outer2とが予想できれば、析出物厚さを推定できる。すなわち、まず、推定装置10は、第1の位置における第1の温度データとして、断熱材312のない配管表面温度である温度センサ412Aが測定した温度T
5を取得する。また、推定装置10は、第2の位置における第2の温度データとして、断熱材312の配管表面温度である温度センサ412B-1が測定した温度T
2、および断熱材312の断熱材表面温度である温度センサ412B-2が測定した温度T
4を取得する。さらに、推定装置10は、配管表面の熱伝達率h
outer1、および断熱材表面の熱伝達率h
outer2の予想値を取得し、配管表面から配管外部の大気への熱伝達による熱抵抗R
outht1、および断熱材表面から配管外部の大気への熱伝達による熱抵抗R
outht2を算出する。
【0137】
次に、推定装置10は、取得したT2、T4、T5の温度データ、記憶する流体512の熱抵抗Rinnht、配管212の熱抵抗Rpipe、求めた熱抵抗Routht1、Routht2、および断熱材312の熱抵抗R2を用いて、上述した(12)式および(13)式から連立方程式を解くことによって、未知数である析出物612の熱抵抗Rdeposit、配管周囲の気温T6、および流体512の管内流体温度Tinnerを求める。そして、推定装置10は、記憶する析出物612の熱伝導率kdepositを用いて析出物612の厚さδを推定する。
【0138】
(13.具体例13)
図20を用いて、3点の温度を測定する温度センサを設置した配管における推定処理であって、配管周囲の温度データを取得し、断熱材表面温度を取得しない例について説明する。
図20は、実施形態に係る配管と温度センサの具体例13を示す断面図である。また、
図20は、厚さの異なる断熱材313A、313Bによって被覆された配管213における管軸方向の断面を表わす図であり、流体513が流れることにより、配管213の管内に一様に析出物613が付着している。温度センサ413Aは、断熱材313Aに設置され、温度センサ413Bは、断熱材313Bに設置されている。
【0139】
推定装置10は、
図20のように、断面材表面温度を測定、推定していなくとも、熱抵抗の異なる断熱材ごとの配管表面温度、気温を測定した上で、断熱材313A表面の熱伝達率h
outer1と断熱材313B表面の熱伝達率h
outer2とが予想できれば、析出物厚さを推定できる。すなわち、まず、推定装置10は、第1の位置における第1の温度データとして、断熱材313Aの配管表面温度である温度センサ413Aが測定した温度T
1、および配管213の周辺の気温である温度センサ413Cが測定した温度T
6を取得する。また、推定装置10は、第2の位置における第2の温度データとして、断熱材313Bの配管表面温度である温度センサ413Bが測定した温度T
2を取得する。このとき、推定装置10は、第2の位置における第2の温度データとして、配管213の周辺の気温である温度センサ413Cが測定した温度T
6を取得してもよい。さらに、推定装置10は、断熱材313A表面の熱伝達率h
outer1、および断熱材313B表面の熱伝達率h
outer2の予想値を取得し、断熱材313A表面から配管外部の大気への熱伝達による熱抵抗R
outht1、および断熱材313B表面から配管外部の大気への熱伝達による熱抵抗R
outht2を算出する。
【0140】
このとき、求めた熱抵抗と測定温度、上述した具体例11の(21)式および(22)式と同様に、析出物613の熱抵抗Rdeposit、および流体513の管内流体温度Tinnerは、下記(23)式および(24)式の関係が得られる。
【0141】
【0142】
【0143】
次に、推定装置10は、取得したT1、T2、T6の温度データ、記憶する流体513の熱抵抗Rinnht、配管213の熱抵抗Rpipe、断熱材313Aの熱抵抗R1、断熱材313A表面から配管外部の大気への熱伝達による熱抵抗Routht1、断熱材313Bの熱抵抗R2、および断熱材313B表面から配管外部の大気への熱伝達による熱抵抗Routht2を用いて、上記(23)式から析出物613の熱抵抗Rdepositを求める。そして、推定装置10は、記憶する析出物613の熱伝導率kdepositを用いて析出物613の厚さδを推定する。また、推定装置10は、T1、T2、T6の温度データ、断熱材313Aの熱抵抗R1、断熱材313A表面から配管外部の大気への熱伝達による熱抵抗Routht1、断熱材313Bの熱抵抗R2、および断熱材313B表面から配管外部の大気への熱伝達による熱抵抗Routht2を用いて、上記(24)式から流体513の温度Tinnerを推定してもよい。
【0144】
(14.具体例14)
図21を用いて、3点の温度を測定する温度センサを設置した配管における推定処理であって、具体例13とは異なり、配管周囲の温度データを取得しない例について説明する。
図21は、実施形態に係る配管と温度センサの具体例14を示す断面図である。また、
図21は、厚さの異なる断熱材314A、314Bによって被覆された配管214における管軸方向の断面を表わす図であり、流体514が流れることにより、配管214の管内に一様に析出物614が付着している。温度センサ414Aは、断熱材314Aに設置され、温度センサ414B(414B-1、414B-2)は、断熱材314Bに設置されている。
【0145】
推定装置10は、
図21のように、気温を測定、推定していなくとも、熱抵抗の異なる断熱材ごとの配管表面温度と、少なくとも一方の断熱材の表面温度とを測定した上で、断熱材314A表面の熱伝達率h
outer1と断熱材314B表面の熱伝達率h
outer2とが予想できれば、析出物厚さを推定できる。すなわち、まず、推定装置10は、第1の位置における第1の温度データとして、断熱材314Aの配管表面温度である温度センサ414Aが測定した温度T
1を取得する。また、推定装置10は、第2の位置における第2の温度データとして、断熱材314Bの配管表面温度である温度センサ414B-1が測定した温度T
2、および断熱材314Bの断熱材表面温度である温度センサ414B-2が測定した温度T
4を取得する。さらに、推定装置10は、断熱材314A表面の熱伝達率h
outer1、および断熱材314B表面の熱伝達率h
outer2の予想値を取得し、断熱材314A表面から配管外部の大気への熱伝達による熱抵抗R
outht1、および断熱材314B表面から配管外部の大気への熱伝達による熱抵抗R
outht2を算出する。
【0146】
次に、推定装置10は、取得したT1、T2、T4の温度データ、記憶する流体514の熱抵抗Rinnht、配管214の熱抵抗Rpipe、求めた熱抵抗Routht1、Routht2、断熱材314Aの熱抵抗R1、および断熱材314Bの熱抵抗R2を用いて、下記(25)式および(26)式から連立方程式を解くことによって、未知数である析出物614の熱抵抗Rdeposit、配管周囲の気温T6、および流体514の管内流体温度Tinnerを求める。そして、推定装置10は、記憶する析出物614の熱伝導率kdepositを用いて析出物614の厚さδを推定する。
【0147】
【0148】
【0149】
また、断熱材314Aの位置での管内の流体から管外への熱移動量Q1は、管内流体から配管表面までの熱の移動、管表面から断熱材表面までの熱の移動、および断熱材表面から管外大気への熱の移動を考えることで、下記(27)式のように表わされる。
【0150】
【0151】
したがって、上記(27)式を用いることにより、測定していない断熱材314Aの断熱材表面温度T3をさらに求めることができる。
【0152】
(15.その他の具体例)
上述した具体例1~14以外の具体例を説明する。以下では、熱流束測定に基づく析出物厚さ推定処理、管内流体速度推定処理、離れた位置に断熱材が設置された場合の析出物厚さ推定処理の順に説明する。
【0153】
(熱流束測定に基づく析出物厚さ推定処理)
まず、推定装置10は、熱抵抗の異なる断熱材を2種持つ構成において、それぞれの断熱材内側に熱流束計を設置し、それぞれの断熱材内側の熱流束と温度とを測定する。次に、推定装置10は、熱流束計によって、上述した(1)式のQ1、および(2)式のQ2を直接測定することができるので、(1)式および(2)式の連立方程式を解いて、未知数である析出物の熱抵抗Rdeposit、および管内流体温度Tinnerを求める。そして、推定装置10は、記憶する析出物の熱伝導率kdepositを用いて析出物の厚さδを推定する。
【0154】
また、推定装置10は、断熱材を1種である構成において、断熱材のない配管表面と断熱材の内側に熱流束計を設置し、断熱材のない配管表面温度と熱流束、断熱材内側の配管表面温度と熱流束を用いた場合も、同様の手順で析出物厚さを推定できる。
【0155】
(管内流体速度推定処理)
配管外部の測定温度から、内部の流体温度を推定するセンサがプラント向けに利用されている。しかし、このような測定方法では、内部の流体温度を推定する上で、流体と配管間の熱伝達の影響を推定することが必要となる。水等の粘性の低い流体では、この熱伝達の影響は小さいが、オイル等の粘性の高い流体では熱伝達の影響は大きくなる。流体の粘性や流速などが分かれば、この影響を推定することができるが、流体の流速が変化すれば熱伝達の影響も変化してしまう。
【0156】
推定装置10は、厚さの異なる断熱材のそれぞれの内側外側の温度を測定すれば、上述した(6)式によって、熱伝達の影響が分からない条件でも、その影響を考慮して流体温度を推定できる。また、析出物がないのであれば、上述した(5)式より、下記(28)式が成立する。
【0157】
【0158】
したがって、推定装置10は、上記(28)式を用いることにより、流体の熱伝達による熱抵抗Rinnhtを推定でき、ここから管内流体流速を推定して出力することもできる。
【0159】
(離れた位置に断熱材が設置された場合の析出物厚さ推定処理)
推定装置10は、2種の熱抵抗の異なる断熱材が離れた場所に設置されている場合でも、それぞれの位置で、管内流体温度と析出物厚さに大きな違いがないのであれば、上述した具体例1等と同様に析出物厚さδと管内流体温度Tinnerを推定できる。また、推定装置10は、それぞれの位置で、管内流体温度と析出物厚さに大きな違いがないのであれば、異なる配管における析出物厚さδと管内流体温度Tinnerを推定することもできる。
【0160】
〔実施形態の効果〕
第1に、上述した本実施形態に係る処理では、流体50が流れる配管20の第1の位置の配管外部に対応する位置における第1の温度データを取得し、第1の位置とは熱伝達に関する条件が異なる配管20の第2の位置の配管外部に対応する位置における第2の温度データを取得し、第1の温度データおよび第2の温度データに基づいて配管20の内表面に付着した析出物60の熱抵抗を算出し、析出物60の厚さを推定する。このため、本処理では、配管内の析出物厚さを精度よく推定することができる。
【0161】
第2に、上述した本実施形態に係る処理では、第1の温度データとして、配管20の内表面に析出物60が付着した第1の位置の配管外部に対応する位置における温度データを取得し、第2の温度データとして、析出物60が付着した第2の位置の配管外部に対応する位置における温度データを取得し、第1の温度データおよび第2の温度データを用いて温度差データを算出し、温度差データに基づいて析出物60の熱抵抗を算出し、析出物60の厚さを推定するとともに、温度差データに基づいて配管20を流れる流体50の温度を推定する。このため、本処理では、複数点間の温度差データを用いることで、配管内の析出物厚さを精度よく推定することができる。
【0162】
第3に、上述した本実施形態に係る処理では、第1の温度データとして、配管20に被覆材が被覆されている第1の位置の配管外部に対応する位置における1または複数の温度データを取得し、第2の温度データとして、第1の位置とは被覆材の熱抵抗が異なる第2の位置の配管外部に対応する位置における1または複数の温度データを取得し、算出した温度差データと、流体50、配管20および被覆材の各熱抵抗とを用いて析出物60の熱抵抗を算出し、析出物60の厚さを推定する。このため、本処理では、熱抵抗の異なる断熱材の複数点間の温度差データを用いることで、配管内の析出物厚さを精度よく推定することができる。
【0163】
第4に、上述した本実施形態に係る処理では、第1の温度データとして、第1の位置の配管20の外表面の温度である第1の配管表面温度、および第1の位置の半径方向上の被覆材表面の温度である第1の被覆材表面温度を取得し、第2の温度データとして、第2の位置の配管20の外表面の温度である第2の配管表面温度、および前記第2の位置の半径方向上の被覆材表面の温度である第2の被覆材表面温度を取得し、第1の配管表面温度と第1の被覆材表面温度との温度差と、第2の配管表面温度と第2の被覆材表面温度との温度差と、第1の配管表面温度と第2の配管表面温度との温度差と、流体50、配管20および被覆材の各熱抵抗とを用いて析出物60の熱抵抗を算出し、析出物60の厚さを推定する。このため、本処理では、熱伝達方向の温度差データを用いることで、配管内の析出物厚さを精度よく推定することができる。
【0164】
第5に、上述した本実施形態に係る処理では、第1の温度データとして、第1の位置の半径方向における複数の被覆材内部の温度データを取得し、第2の温度データとして、第2の位置の半径方向における複数の被覆材内部の温度データを取得する。このため、本処理では、予め断熱材に温度センサを設置することが可能となり、配管内の析出物厚さを精度よく、効率的に推定することができる。
【0165】
第6に、上述した本実施形態に係る処理では、第1の温度データとして、配管20に被覆材が被覆されていない第1の位置の配管外部に対応する位置における1または複数の温度データを取得し、第2の温度データとして、被覆材が被覆されている第2の位置の配管外部に対応する位置における1または複数の温度データを取得し、算出した温度差データと、流体50、配管20および被覆材の各熱抵抗とを用いて析出物60の熱抵抗を算出し、析出物60の厚さを推定する。このため、本処理では、一部にのみ断熱材が設置されている配管20においても、配管内の析出物厚さを精度よく推定することができる。
【0166】
第7に、上述した本実施形態に係る処理では、配管外部の気温もしくは流体温度、または被覆材の表面の熱伝達率を用いて析出物60の熱抵抗を算出し、析出物60の厚さを推定する。このため、本処理では、一部にのみ断熱材が設置されている配管20においても、配管内の析出物厚さを精度よく、より効果的に推定することができる。
【0167】
第8に、上述した本実施形態に係る処理では、第1の位置における流体50から配管外部への熱移動量の算出に利用する第1の熱流束データをさらに取得し、第2の位置における流体50から配管外部への熱移動量の算出に利用する第2の熱流束データをさらに取得し、第1の温度データ、第2の温度データ、第1の熱流束データおよび第2の熱流束データを用いて析出物60の熱抵抗を算出し、析出物60の厚さを推定する。このため、本処理では、熱移動量を直接求めることにより、配管内の析出物厚さを精度よく推定することができる。
【0168】
第9に、上述した本実施形態に係る処理では、坑井から生産されるオイルまたはガスを輸送している配管20において、第1の温度データおよび第2の温度データを取得し、第1の温度データおよび第2の温度データに基づいて、ハイドレート、ワックス、アスファルテン、またはスケールの厚さを推定する。このため、本処理では、オイルまたはガスのパイプラインにおいて、配管内の析出物厚さを精度よく推定することができる。
【0169】
〔システム〕
上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0170】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散や統合の具体的形態は図示のものに限られない。つまり、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。
【0171】
さらに、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPUおよび当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0172】
〔ハードウェア〕
次に、推定装置10のハードウェア構成例を説明する。なお、他の装置も同様のハードウェア構成とすることができる。
図22は、ハードウェア構成例を説明する図である。
図22に示すように、推定装置10は、通信装置10a、HDD(Hard Disk Drive)10b、メモリ10c、プロセッサ10dを有する。また、
図22に示した各部は、バス等で相互に接続される。
【0173】
通信装置10aは、ネットワークインタフェースカードなどであり、他のサーバとの通信を行う。HDD10bは、
図2に示した機能を動作させるプログラムやDBを記憶する。
【0174】
プロセッサ10dは、
図2に示した各処理部と同様の処理を実行するプログラムをHDD10b等から読み出してメモリ10cに展開することで、
図2等で説明した各機能を実行するプロセスを動作させる。例えば、このプロセスは、推定装置10が有する各処理部と同様の機能を実行する。具体的には、プロセッサ10dは、第1取得部15a、第2取得部15b、推定部15c等と同様の機能を有するプログラムをHDD10b等から読み出す。そして、プロセッサ10dは、第1取得部15a、第2取得部15b、推定部15c等と同様の処理を実行するプロセスを実行する。
【0175】
このように、推定装置10は、プログラムを読み出して実行することで各種処理方法を実行する情報処理装置として動作する。また、推定装置10は、媒体読取装置によって記録媒体から上記プログラムを読み出し、読み出された上記プログラムを実行することで上記した実施形態と同様の機能を実現することもできる。なお、この他の実施形態でいうプログラムは、推定装置10によって実行されることに限定されるものではない。例えば、他のコンピュータまたはサーバがプログラムを実行する場合や、これらが協働してプログラムを実行するような場合にも、本発明を同様に適用することができる。
【0176】
このプログラムは、インターネットなどのネットワークを介して配布することができる。また、このプログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD-ROM、MO(Magneto-Optical disk)、DVD(Digital Versatile Disc)などのコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することができる。
【符号の説明】
【0177】
10 推定装置
11 入力部
12 出力部
13 通信部
14 記憶部
15 制御部
15a 第1取得部
15b 第2取得部
15c 推定部
20 配管
30 断熱材(被覆材)
40 温度センサ
50 流体
60 析出物
100 推定システム