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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055684
(43)【公開日】2023-04-18
(54)【発明の名称】光学フィルタ
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/28 20060101AFI20230411BHJP
【FI】
G02B5/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161254
(22)【出願日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2021165073
(32)【優先日】2021-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000231475
【氏名又は名称】日本真空光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宅 雅章
(72)【発明者】
【氏名】龍岡 直人
【テーマコード(参考)】
2H148
【Fターム(参考)】
2H148GA07
2H148GA18
2H148GA33
2H148GA43
2H148GA48
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高い入射角度の光に対しても、近赤外光の高い透過率を維持したまま、近赤外光の反射率増大を抑制できる光学フィルタを提供する。
【解決手段】基材10と、前記基材の両主面側に積層された誘電体多層膜S1および誘電体多層膜S2とを備える光学フィルタであって、前記誘電体多層膜S1および誘電体多層膜S2は、それぞれ、低屈折率膜と、中屈折率膜と、高屈折率膜とが1層以上積層された積層体であり、前記誘電体多層膜S1および誘電体多層膜S2は、それぞれ、前記中屈折率膜を2層以上有し、前記誘電体多層膜S1および誘電体多層膜S2は、それぞれ、低屈折率膜、中屈折率膜、高屈折率膜の順に積層された構造を有し、下記特性を満たす、光学フィルタ。
(i-1)800~1600nmの波長領域における入射角0°での最大透過率が90%以上、
(i-2)800~1600nmの波長領域における入射角50°での最小反射率が1%以下
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の両主面側に積層された誘電体多層膜1および誘電体多層膜2とを備える光学フィルタであって、
前記誘電体多層膜1および誘電体多層膜2は、それぞれ、低屈折率膜と、中屈折率膜と、高屈折率膜とが1層以上積層された積層体であり、
前記誘電体多層膜1および誘電体多層膜2は、それぞれ、前記中屈折率膜を2層以上有し、
前記誘電体多層膜1および誘電体多層膜2は、それぞれ、低屈折率膜、中屈折率膜、高屈折率膜の順に積層された構造を有し、
前記光学フィルタは、下記分光特性(i-1)および分光特性(i-2)をすべて満たす、光学フィルタ。
(i-1)800nm~1600nmの波長領域における入射角0°での最大透過率T800-1600(0)MAXが90%以上
(i-2)800nm~1600nmの波長領域における入射角50°での最小反射率R800-1600(50)MINが1%以下
【請求項2】
前記光学フィルタが、下記分光特性(i-3)および分光特性(i-4)をさらに満たす、請求項1に記載の光学フィルタ。
(i-3)400nm~680nmの波長領域における入射角0°での平均透過率T400-680(0)AVEが2%以下
(i-4)400nm~680nmの波長領域における入射角5°での平均反射率R400-680(5)AVEが10%以下
【請求項3】
前記誘電体多層膜1の膜厚と前記誘電体多層膜2の膜厚の総和が1.2μm~2.9μmである、請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
前記誘電体多層膜1の積層数が10層~22層である、請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項5】
前記誘電体多層膜2の積層数が8層~26層である、請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項6】
前記誘電体多層膜1の膜厚が0.3μm~1.3μmである、請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項7】
前記誘電体多層膜2の膜厚が0.8μm~1.6μmである、請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項8】
前記誘電体多層膜1および誘電体多層膜2において、前記高屈折率膜の膜厚の総和が、それぞれ0.1μm~0.6μmである、請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項9】
前記誘電体多層膜1および誘電体多層膜2において、前記中屈折率膜の膜厚の総和が、それぞれ0.1μm~0.9μmである、請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項10】
前記誘電体多層膜1および誘電体多層膜2において、前記低屈折率膜の膜厚の総和がそれぞれ0.8μm~1.8μmである、請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の光学フィルタをセンサモジュールのカバーとして備えたLiDARセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視域の光を遮断し近赤外域の光を透過する光学フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
光検出測距(LiDAR)センサ等のセンサの感度を高めるため、近赤外レーザー光を対象物に照射して反射して戻る光を検知するセンサモジュールのカバーには、800nm以降の近赤外光を透過し、外乱要因となる可視光を遮断する光学フィルタが用いられる。特に、車載用のセンサモジュールカバーには、測定用の近赤外レーザー光が遠くまで照射されるように、近赤外光に対する高い透過性が求められる。
【0003】
特許文献1には、透明基体と、高屈折率膜および低屈折率膜が積層された反射防止膜とを有し、近赤外光センサを有する車載表示装置のカバーに好適な反射防止膜付透明基体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6881172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車載用のセンサモジュールにおいて、近赤外レーザー光源とセンサは、カバーに対して同一側に配置されている。ここで、カバーにおける近赤外光の反射率が高いと、カバー表面で反射した近赤外光がセンサに入射し、ノイズとなるおそれがある。また、対象物から戻る近赤外光がカバー表面で反射してしまい、センサ感度が低下するおそれがある。そして一般的に、光の入射角度が大きくなるほど、反射率は高くなる傾向がある。
【0006】
本発明は、高い入射角度の光に対しても、近赤外光の高い透過率を維持したまま、近赤外光の反射率増大を抑制できる光学フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成を有する光学フィルタを提供する。
〔1〕基材と、前記基材の両主面側に積層された誘電体多層膜1および誘電体多層膜2とを備える光学フィルタであって、
前記誘電体多層膜1および誘電体多層膜2は、それぞれ、低屈折率膜と、中屈折率膜と、高屈折率膜とが1層以上積層された積層体であり、
前記誘電体多層膜1および誘電体多層膜2は、それぞれ、前記中屈折率膜を2層以上有し、
前記誘電体多層膜1および誘電体多層膜2は、それぞれ、低屈折率膜、中屈折率膜、高屈折率膜の順に積層された構造を有し、
前記光学フィルタは、下記分光特性(i-1)および分光特性(i-2)をすべて満たす、光学フィルタ。
(i-1)800nm~1600nmの波長領域における入射角0°での最大透過率T800-1600(0)MAXが90%以上
(i-2)800nm~1600nmの波長領域における入射角50°での最小反射率R800-1600(50)MINが1%以下
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高入射角の光に対しても、近赤外光の高い透過率を維持したまま、近赤外光の反射率増大を抑制できる光学フィルタを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は一実施形態の光学フィルタの一例を概略的に示す断面図である。
図2図2は例1~5、例8の光学フィルタの入射角0°の分光透過率曲線を示す図である。
図3図3は例1~5、例8の光学フィルタの多層膜S1側から測定した入射角5°の分光反射率曲線を示す図である。
図4図4は例1~5、例8の光学フィルタの多層膜S2側から測定した入射角5°の分光反射率曲線を示す図である。
図5図5は例1~5、例8の光学フィルタの多層膜S2側から測定した入射角50°の分光反射率曲線を示す図である。
図6図6は例1~5、例8の光学フィルタの多層膜S2側から測定した入射角50°の近赤外領域における分光反射率曲線を示す図である。
図7図7は例6、例7の光学フィルタの入射角0°の分光透過率曲線を示す図である。
図8図8は例6、例7の光学フィルタの多層膜S1側から測定した入射角5°の分光反射率曲線を示す図である。
図9図9は例6、例7の光学フィルタの多層膜S2側から測定した入射角5°の分光反射率曲線を示す図である。
図10図10は例6、例7の光学フィルタの多層膜S2側から測定した入射角50°の分光反射率曲線を示す図である。
図11図11は例6、例7の光学フィルタの多層膜S2側から測定した入射角50°の近赤外領域における分光反射率曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、特定の波長域について、透過率が例えば90%以上とは、その全波長領域において透過率が90%を下回らない、すなわちその波長領域において最小透過率が90%以上であることをいう。同様に、特定の波長域について、透過率が例えば1%以下とは、その全波長領域において透過率が1%を超えない、すなわちその波長領域において最大透過率が1%以下であることをいう。特定の波長域における平均透過率は、該波長域の1nm毎の透過率の相加平均である。
なお、特に断らない限り、屈折率は、20℃における波長589nmの光に対する屈折率をいう。
分光特性は、分光光度計を用いて測定できる。または、光学薄膜計算ソフトによるシミュレーションにて算出できる。
分光特性に関し、入射角が特に表記されていない場合は0°(光学フィルタ主面に対し垂直方向)であることを意味する。
本明細書において、数値範囲を表す「~」では、上下限を含む。
【0011】
<光学フィルタ>
本発明の一実施形態の光学フィルタ(以下、「本フィルタ」ともいう)は、基材と、前記基材の両主面側に積層された誘電体多層膜1および誘電体多層膜2とを備える。
【0012】
図面を用いて本フィルタの構成例について説明する。図1は、一実施形態の光学フィルタの一例を概略的に示す断面図である。
図1に示す光学フィルタ1Aは、基材10の一方の主面側に誘電体多層膜S1を有し、他方の主面側に誘電体多層膜S2を有する例である。なお、「基材の主面側に特定の層を有する」とは、基材の主面に接触して該層が備わる場合に限らず、基材と該層との間に、別の機能層が備わる場合も含む。誘電体多層膜S1、S2は、最外層として積層されることが好ましい。
【0013】
<誘電体多層膜>
誘電体多層膜は波長選択性を有するように設計され、本発明においては、可視光を遮断し、かつ、近赤外光を透過し、近赤外光の反射性が小さい層である。
誘電体多層膜1および誘電体多層膜2(以下、本発明における「誘電体多層膜」とも記載する。)は、それぞれ、低屈折率膜と、中屈折率膜と、高屈折率膜とが1層以上積層された積層体である。中屈折率膜の屈折率は高屈折率膜の屈折率よりも低く、低屈折率膜の屈折率よりも高い。屈折率の異なる薄膜を積層することで、光の干渉作用を利用して反射率を増減できる。
【0014】
本発明における誘電体多層膜は、中屈折率膜を2層以上有し、かつ、低屈折率膜、中屈折率膜、高屈折率膜の順に積層された構造を少なくとも一つ有する。中屈折率膜の積層パターンとしては、高屈折率膜、中屈折率膜、高屈折率膜の積層パターン(部分構造A)、低屈折率膜、中屈折率膜、高屈折率膜の積層パターン(部分構造B)、低屈折率膜、中屈折率膜、低屈折率膜の積層パターン(部分構造C)が考えられるが、本発明における誘電体多層膜においては、屈折率が段階的に変化する部分構造Bを必須とする。中屈折率膜を2層以上有し、かつ、部分構造Bを一以上有することで、高入射角の光であっても、近赤外光の高い透過率を維持したまま、近赤外光の反射率増大を抑制できる。すなわち、本発明における誘電体多層膜は、近赤外光領域において反射防止膜として機能する。なお、部分構造Bにおける誘電体膜の順序は問わず、低屈折率膜、中屈折率膜、高屈折率膜の積層パターンでもよく、高低屈折率膜、中屈折率膜、低屈折率膜の積層パターンでもよい。
誘電体多層膜における中屈折率膜の層数は、層切り替えによる生産性の悪化防止と多層による膜厚制御性の低下防止の観点から、好ましくは4層以下である。
また、中屈折率膜の積層パターンとしては、部分構造Bと共に部分構造Aおよび部分構造Cを有してもよいが、高い入射角度の光に対する反射率増大の抑制効果が大きい観点から、全てが部分構造Bであるか、もしくは部分構造Bと部分構造Aとの組み合わせであることが好ましい。
【0015】
高屈折率膜の材料としては、例えばシリコン(Si)が挙げられる。なかでも、可視光吸収能を有する観点から、アモルファスシリコンが好ましく、水素がドープされていない(アモルファス)シリコンが特に好ましい。
高屈折率膜は、好ましくは、屈折率が3.0以上であり、より好ましくは4.0以上である。
【0016】
中屈折率膜の材料としては、高屈折率膜材料よりも屈折率が低く、後述の低屈折率膜材料よりも屈折率が高い材料を用いることができ、例えばTa、Nb、TiO、ZrO、HfO、SiO、Al等が挙げられる。なかでも、高い入射角度の光に対する反射率増大の抑制効果が大きい良好な膜設計が得やすい事と、光学定数の再現性の高さの観点から、NbとTaが好ましい。
中屈折率膜は、好ましくは、屈折率が1.6~3.0であり、より好ましくは1.8~2.5である。
【0017】
低屈折率膜の材料としては、中屈折率膜材料よりも屈折率が低い材料を用いることができ、例えばSiO、SiO、SiO、SiN、Al等が挙げられる。なかでも生産性の観点から、SiOが好ましい。
低屈折率膜は、好ましくは、屈折率が2.0以下であり、より好ましくは1.5以下である。
【0018】
誘電体多層膜1の積層数は、可視域の反射率を低減する観点、及び、層切り替えによる生産性の悪化防止と多層による膜厚制御性の低下防止の観点から、好ましくは10層~22層、より好ましくは12層~20層である。
誘電体多層膜2の積層数は、可視域の透過率を低減する観点、及び、層切り替えによる生産性の悪化防止と多層による膜厚制御性の低下防止の観点から、好ましくは8層~26層、より好ましくは10層~24層である。
【0019】
誘電体多層膜1において、高屈折率膜の積層数は、可視域の反射率低減と近赤外域の高い入射角度の光に対する反射率増大の抑制効果の観点、及び、層切り替えによる生産性の悪化防止と多層による膜厚制御性の低下防止の観点から、好ましくは5層~9層であり、中屈折率膜の積層数は、好ましくは2層~3層であり、低屈折率膜の積層数は、好ましくは5層~8層である。
誘電体多層膜2において、高屈折率膜の積層数は、近赤外域の高い入射角度の光に対する反射率増大の抑制効果の観点、及び、層切り替えによる生産性の悪化防止と多層による膜厚制御性の低下防止の観点から、好ましくは2層~10層であり、中屈折率膜の積層数は、好ましくは2層~3層であり、低屈折率膜の積層数は、好ましくは5層~12層である。
【0020】
誘電体多層膜1および誘電体多層膜2の合計積層数は、可視域の反射率低減と近赤外域の高い入射角度の光に対する反射率増大の抑制効果の観点から、好ましくは25層以上、より好ましくは28層以上である。また、層切り替えによる生産性の悪化防止と多層による膜厚制御性の低下防止の観点から、好ましくは50層以下、より好ましくは40層以下である。
【0021】
誘電体多層膜1の膜厚は、可視域の反射率低減の観点、及び、層切り替えによる生産性の悪化防止と多層による膜厚制御性の低下防止の観点から好ましくは0.3μm~1.3μm、より好ましくは0.4μm~1.2μmである。
誘電体多層膜2の膜厚は、可視域の透過率低減の観点、及び、層切り替えによる生産性の悪化防止と多層による膜厚制御性の低下防止の観点から好ましくは0.8μm~1.6μm、より好ましくは0.9μm~1.5μmである。
【0022】
誘電体多層膜1の膜厚と前記誘電体多層膜2の膜厚の総和は、可視域の反射率低減の観点、及び、可視域の透過率低減の観点、及び、層切り替えによる生産性の悪化防止と多層による膜厚制御性の低下防止の観点から好ましくは1.2μm~2.9μm、より好ましくは1.3μm~2.7μmである。
【0023】
誘電体多層膜1および誘電体多層膜2において、高屈折率膜の膜厚の総和が、可視域の透過率低減、及び、層切り替えによる生産性の悪化防止と多層による膜厚制御性の低下防止の観点から好ましくはそれぞれ0.1μm~0.6μmであり、より好ましくは0.2μm~0.5μmである。
【0024】
誘電体多層膜1および誘電体多層膜2において、中屈折率膜の膜厚の総和が、近赤外域の高い入射角度の光に対する反射率増大の抑制効果の観点、及び、層切り替えによる生産性の悪化防止と多層による膜厚制御性の低下防止の観点から好ましくはそれぞれ0.1μm~0.9μmであり、より好ましくは0.2μm~0.8μmである。
【0025】
誘電体多層膜1および誘電体多層膜2において、低屈折率膜の膜厚の総和が、近赤外域の高い入射角度の光に対する反射率増大の抑制効果の観点、及び、層切り替えによる生産性の悪化防止と多層による膜厚制御性の低下防止の観点から好ましくはそれぞれ0.8μm~1.8μmであり、より好ましくは1.0μm~1.6μmである。
【0026】
誘電体多層膜の形成には、例えば、CVD法、スパッタリング法、真空蒸着法等の乾式成膜プロセスや、スプレー法、ディップ法等の湿式成膜プロセス等を使用できる。
【0027】
本発明の光学フィルタは、誘電体多層膜を2層(1群の誘電体多層膜を2層)備え、少なくとも一つの誘電体多層膜において上記要件を満たすことが好ましい。
【0028】
なお、高屈折率膜としてシリコン(Si)膜を使用し、シリコン(Si)膜の直後に中屈折率膜を成膜する場合、シリコン膜表層部分が酸化される可能性がある。従って、本明細書において、基材側からシリコン膜、シリコン酸化膜、中屈折率膜となる構造がある場合、シリコン膜の厚さとシリコン酸化膜の厚さを合わせて高屈折率膜の厚さと解釈しても構わない。
【0029】
<基材>
本フィルタにおける基材は、単層構造であっても、複層構造であってもよい。また基材の材質としては近赤外光を透過する透明性材料であれば、有機材料でも無機材料でもよく、特に制限されない。また、異なる複数の材料を複合して用いてもよい。
【0030】
透明性無機材料としては、ガラスや結晶材料が好ましい。
ガラスとしては、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス、アルミノシリケートガラス等が挙げられる。
ガラスとしては、ガラス転移点以下の温度で、イオン交換により、ガラス板主面に存在するイオン半径が小さいアルカリ金属イオン(例えば、Liイオン、Naイオン)を、イオン半径のより大きいアルカリイオン(例えば、Liイオンに対してはNaイオンまたはKイオンであり、Naイオンに対してはKイオンである。)に交換して得られる化学強化ガラスを使用してもよい。
【0031】
結晶材料としては、水晶、ニオブ酸リチウム、サファイア等の複屈折性結晶が挙げられる。
【0032】
基材の形状は特に限定されず、ブロック状、板状、フィルム状でもよい。
また基材の厚さは、誘電体多層膜成膜時の反り低減、光学フィルタ低背化、割れ抑制の観点から、0.1mm~5mmが好ましく、より好ましくは2mm~4mmである。
【0033】
<光学フィルタ>
上記基材と誘電体多層膜を備える本発明の光学フィルタは、可視光を遮断し、近赤外光を透過する、IRバンドパスフィルタとして機能する。
【0034】
光学フィルタは、下記分光特性(i-1)~(i-2)をすべて満たす。
(i-1)800nm~1600nmの波長領域における入射角0°での最大透過率T800-1600(0)MAXが90%以上
(i-2)800nm~1600nmの波長領域における入射角50°での最小反射率R800-1600(50)MINが1%以下
【0035】
分光特性(i-1)は、800nm~1600nmの近赤外光領域の透過率が高いことを意味し、分光特性(i-2)は、同領域の入射角50°における反射率が低いことを意味する。分光特性(i-1)~(i-2)を満たすことで、高入射角の光に対しても、近赤外光の高い透過率を維持したまま、近赤外光の反射率増大が抑制された、光学フィルタが得られる。分光特性(i-1)は、例えば、高屈折率膜として近赤外光領域の吸収性が小さい材料を用いることで達成でき、特に、高屈折率膜としてシリコン膜を用いることが好ましい。分光特性(i-2)は、上記した特定構造の誘電体多層膜1および誘電体多層膜2、すなわち、中屈折率膜を特定の条件で有する誘電体多層膜を両主面側に有することで達成できる。
【0036】
分光特性(i-1)におけるT800-1600(0)MAXは、好ましくは92%以上、より好ましくは94%以上である。
分光特性(i-2)におけるR800-1600(50)MINは、好ましくは0.8%以下、より好ましくは0.6%以下である。
【0037】
なお、分光特性(i-2)の反射率は、誘電体多層膜2側から測定した値である。
【0038】
分光特性(i-1)および分光特性(i-2)を満たす波長範囲は、800nm~1600nmの近赤外光領域内において同一範囲であることが好ましく、光学フィルタは、下記分光特性(i-11)および分光特性(i-21)をすべて満たすことがより好ましい。
(i-11)X~Ynmの波長領域における入射角0°での最大透過率TX-Y_(0)MAXが90%以上(ただしX=800nm~1560nm、Y=840nm~1600nm、Y-X=40nm)
(i-21)X~Ynmの波長領域における入射角50°での最小反射率RX-Y(50)MINが1%以下(ただしX=800nm~1560nm、Y=840nm~1600nm、Y-X=40nm)
【0039】
光学フィルタは、分光特性(i-1)~(i-2)のうちさらに特定の近赤外光波長領域において高透過性および低反射性を満たすことが好ましい。これにより波長領域に応じてセンサ感度が高められる。具体的には、下記分光特性(i-1A)および分光特性(i-2A)、分光特性(i-1B)および分光特性(i-2B)、または分光特性(i-1C)および分光特性(i-2C)をさらに満たすことが好ましい。
【0040】
(i-1A)880nm~920nmの波長領域における入射角0°での最小透過率T880-920(0)MINが90%以上
(i-2A)880nm~920nmの波長領域における入射角50°での平均反射率R800-920(50)AVEが1%以下
【0041】
(i-1B)1310nm~1350nmの波長領域における入射角0°での最小透過率T1310-1350(0)MINが90%以上
(i-2B)1310nm~1350nmの波長領域における入射角50°での平均反射率R1310-1350(50)AVEが1%以下
【0042】
(i-1C)1530nm~1570nmの波長領域における入射角0°での最小透過率T1530-1570(0)MINが90%以上
(i-2C)1530nm~1570nmの波長領域における入射角50°での平均反射率R1530-1570(50)AVEが1%以下
【0043】
分光特性(i-1A)、分光特性(i-1B)、または分光特性(i-1C)は、例えば、屈折率膜として近赤外光領域の吸収性が小さい材料を用いることで達成でき、特に、高屈折率膜としてシリコン膜を用いることが好ましい。
分光特性(i-2A)、分光特性(i-2B)、または分光特性(i-2C)は、上記した特定構造の誘電体多層膜1および2、すなわち、中屈折率膜を特定の条件で有する誘電体多層膜を両主面側に有し、さらに、各分光特性で規定する近赤外光波長領域における反射率を低く設計することで達成できる。
【0044】
光学フィルタは、上記近赤外光領域の分光特性(i-1)および分光特性(i-2)に加え、可視光領域に関する下記分光特性(i-3)および分光特性(i-4)をさらに満たすことが好ましい。
(i-3)400nm~680nmの波長領域における入射角0°での平均透過率T400-680(0)AVEが2%以下
(i-4)400nm~680nmの波長領域における入射角5°での平均反射率R400-680(5)AVEが10%以下
【0045】
分光特性(i-3)は、400nm~680nmの可視光領域の透過率が低いことを意味し、分光特性(i-4)は、同領域の入射角5°における反射率が低いことを意味する。分光特性(i-3)~(i-4)を満たすことで、透過色も反射色も黒色となり、意匠性の高い光学フィルタが得られる。また、光学フィルタの外観が黒色であることで、センサ内を外部から視認しにくくする効果も得られ、車載用のカバーに適した光学フィルタが得られる。分光特性(i-3)は、例えば、高屈折率膜として可視光領域の吸収性が大きい材料を用いることで達成でき、特に、高屈折率膜としてシリコン膜を用いることが好ましい。分光特性(i-4)は、例えば、所望の可視光反射率となるように設計した誘電体多層膜を用いることで達成できる。
【0046】
分光特性(i-3)におけるT400-680(0)AVEは、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下である。
分光特性(i-4)におけるR400-680(5)AVEは、好ましくは8%以下、より好ましくは6%以下である。
【0047】
なお、分光特性(i-4)の反射率は、誘電体多層膜1側から測定した値である。
【0048】
以上説明した実施形態によれば、高い入射角度の光に対しても、近赤外光の高い透過率を維持したまま、近赤外光の反射率増大を抑制できる光学フィルタが得られる。
【0049】
また、本発明に係る光学フィルタは、必要に応じて、上記基材および誘電体多層膜以外の構成を有していてもよい。例えば、光学フィルタの表面の汚れを落としやすくするために、各誘電体多層膜上にさらに防汚膜を有してもよい。また、外光を散乱して視認性を向上するために、各誘電体多層膜上にさらに防眩層を有してもよい。また、光学フィルタの表面の水を落としやすくするために、各誘電体多層膜上にさらに撥水膜を有してもよい。また、光学フィルタにヒーター機能や電磁障害(EMI:Electromagnetic Interference)対策機能を付与するために、各誘電体多層膜の上または下に導電膜を有してもよい。
【0050】
本発明に係る光学フィルタをセンサモジュールのカバーとして実装する際は、分光特性(i-2)を満たす、すなわち高入射角における近赤外光領域の低反射特性を満たす観点から、誘電体多層膜2を、センサ側(内側)となるように配置することが好ましい。また、分光特性(i-4)を満たす、すなわち可視光領域の低反射特性を満たす観点から、誘電体多層膜1を、外側となるように配置することが好ましい。
【0051】
また、本発明のLiDARセンサは、上記本発明の光学フィルタをセンサモジュールのカバーとして備える。これにより感度と外観に優れたセンサが得られる。
【0052】
上記の通り、本明細書は下記の光学フィルタ等を開示する。
〔1〕基材と、前記基材の両主面側に積層された誘電体多層膜1および誘電体多層膜2とを備える光学フィルタであって、
前記誘電体多層膜1および誘電体多層膜2は、それぞれ、低屈折率膜と、中屈折率膜と、高屈折率膜とが1層以上積層された積層体であり、
前記誘電体多層膜1および誘電体多層膜2は、それぞれ、前記中屈折率膜を2層以上有し、
前記誘電体多層膜1および誘電体多層膜2は、それぞれ、低屈折率膜、中屈折率膜、高屈折率膜の順に積層された構造を有し、
前記光学フィルタは、下記分光特性(i-1)および分光特性(i-2)をすべて満たす、光学フィルタ。
(i-1)800nm~1600nmの波長領域における入射角0°での最大透過率T800-1600(0)MAXが90%以上
(i-2)800nm~1600nmの波長領域における入射角50°での最小反射率R800-1600(50)MINが1%以下
〔2〕前記光学フィルタが、下記分光特性(i-3)および分光特性(i-4)をさらに満たす、〔1〕に記載の光学フィルタ。
(i-3)400nm~680nmの波長領域における入射角0°での平均透過率T400-680(0)AVEが2%以下
(i-4)400nm~680nmの波長領域における入射角5°での平均反射率R400-680(5)AVEが10%以下
〔3〕前記誘電体多層膜1の膜厚と前記誘電体多層膜2の膜厚の総和が1.2μm~2.9μmである、〔1〕または〔2〕に記載の光学フィルタ。
〔4〕誘電体多層膜1の積層数が10層~22層である、〔1〕~〔3〕のいずれか1に記載の光学フィルタ。
〔5〕前記誘電体多層膜2の積層数が8層~26層である、〔1〕~〔4〕のいずれか1に記載の光学フィルタ。
〔6〕前記誘電体多層膜1の膜厚が0.3μm~1.3μmである、〔1〕~〔5〕のいずれか1に記載の光学フィルタ。
〔7〕前記誘電体多層膜2の膜厚が0.8μm~1.6μmである、〔1〕~〔6〕のいずれか1に記載の光学フィルタ。
〔8〕前記誘電体多層膜1および誘電体多層膜2において、前記高屈折率膜の膜厚の総和が、それぞれ0.1μm~0.6μmである、〔1〕~〔7〕のいずれか1に記載の光学フィルタ。
〔9〕前記誘電体多層膜1および誘電体多層膜2において、前記中屈折率膜の膜厚の総和が、それぞれ0.1μm~0.9μmである、〔1〕~〔8〕のいずれか1に記載の光学フィルタ。
〔10〕前記誘電体多層膜1および誘電体多層膜2において、前記低屈折率膜の膜厚の総和がそれぞれ0.8μm~1.8μmである、〔1〕~〔9〕のいずれか1に記載の光学フィルタ。
〔11〕〔1〕~〔10〕のいずれか1に記載の光学フィルタをセンサモジュールのカバーとして備えたLiDARセンサ。
【実施例0053】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明する。
分光特性は、光学薄膜計算ソフトによるシミュレーションにて算出した。
分光特性に関し、入射角が特に表記されていない場合は0°(光学フィルタ主面に対し垂直方向)での測定値である。
透明ガラス基板として厚さ2mmのアルミノシリケートガラス板を用いた。
誘電体多層膜の材料としては、Si(水素ドープされていないアモルファスシリコン)(屈折率4.5)、Ta(屈折率2.1)、SiO(屈折率1.5)、またはSi(水素ドープされていないアモルファスシリコン)(屈折率4.5)、Nb(屈折率2.3)、SiO(屈折率1.5)を用いた。
【0054】
(例1)
透明ガラス基板の一方の主面に、スパッタリング法により、Si、SiOを順不同で積層して、誘電体多層膜(S1-1)を形成し、他方の主面に、スパッタリング法により、Si、SiOを順不同で積層して、誘電体多層膜(S2-1)をそれぞれ形成した。
多層膜総積層数、多層膜総膜厚、Si膜積層数、SiO膜積層数、Si膜総膜厚、SiO膜総膜厚を下記表1に示す。
以上より、例1の光学フィルタを得た。
【0055】
(例2~7)
透明ガラス基板の一方の主面に、スパッタリング法により、Si、Ta、SiOを順不同で積層して、誘電体多層膜(S1-2)~(S1-7)のいずれかを形成し、他方の主面に、スパッタリング法により、Si、Ta、SiOを順不同で積層して、誘電体多層膜(S2-2)~(S2-7)のいずれかをそれぞれ形成した。
多層膜総積層数、多層膜総膜厚、Si膜積層数、Ta膜積層数、SiO膜積層数、Si膜総膜厚、Ta膜総膜厚、SiO膜総膜厚について下記表1に示す。部分構造A(Si/Ta/Si)、部分構造B(SiO/Ta/Si)、部分構造C(SiO/Ta/SiO)の膜厚について下記表2に示す。
以上より、例2~例7の光学フィルタを得た。
【0056】
(例8)
透明ガラス基板の一方の主面に、スパッタリング法により、Si、Nb、SiOを順不同で積層して、誘電体多層膜(S1-8)を形成し、他方の主面に、Si、Nb、SiOを順不同で積層して、誘電体多層膜(S2-8)をそれぞれ形成した。
多層膜総積層数、多層膜総膜厚、Si膜積層数、Nb膜積層数、SiO膜積層数、Si膜総膜厚、Nb膜総膜厚、SiO膜総膜厚を下記表1に示す。また、部分構造A(Si/Nb/Si)、部分構造B(SiO/Nb/Si)、部分構造C(SiO/Nb/SiO)の膜厚について下記表2に示す。
以上より、例8の光学フィルタを得た。
なお、例8における分光特性は、分光光度計(Agilent Cary 7000)を用いて測定した。
【0057】
上記各光学フィルタの分光特性を下記表3および図2図11に示す。表3における近赤外光領域の反射率は誘電体多層膜S2側の測定値であり、可視光領域の反射率は誘電体多層膜S1側の測定値である。
なお、例2~4、例6~8は実施例であり、例1、5は比較例である。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
上記結果より、Ta層を2層以上含み、かつ部分構造B(SiO/Ta/Si)を含む例2~4、6、7の光学フィルタは、800~1600nmの波長領域において、最大透過率T800-1600(0)MAXが90%以上と大きく、かつ入射角50°での最小反射率R800-1600(50)MINが1%以下と小さいことから、近赤外光の高透過性と高入射角における低反射性とを両立できたことが分かる。
Nb層を2層以上含み、かつ部分構造B(SiO/Nb/Si)を含む例8の光学フィルタも、800~1600nmの波長領域において、最大透過率T800-1600(0)MAXが90%以上と大きく、かつ入射角50°での最小反射率R800-1600(50)MINが1%以下と小さいことから、近赤外光の高透過性と高入射角における低反射性とを両立できたことが分かる。
Ta層を含まない例1の光学フィルタ、およびTa層を含むが、部分構造B(SiO/Ta/Si)を含まない例5の光学フィルタは、800~1600nmの波長領域において入射角50°での最小反射率R800-1600(50)MINが1%を超え、高入射角における近赤外光の低反射性が達成できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の光学フィルタは、近赤外光の透過性および低反射性と、可視光の遮蔽性に優れることから、近年、高性能化が進む、例えば、輸送機用のカメラやセンサ等の情報取得装置の用途に有用である。
【符号の説明】
【0063】
1A…光学フィルタ
10…基材
S1…誘電体多層膜
S2…誘電体多層膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図11