(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055836
(43)【公開日】2023-04-18
(54)【発明の名称】血管内皮機能の改善用組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/12 20160101AFI20230411BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20230411BHJP
A61K 31/201 20060101ALI20230411BHJP
A61K 31/202 20060101ALI20230411BHJP
A61K 31/231 20060101ALI20230411BHJP
A61K 31/232 20060101ALI20230411BHJP
A61K 35/60 20060101ALI20230411BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230411BHJP
A61P 9/14 20060101ALI20230411BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
A23L33/12
A23D9/00 516
A61K31/201
A61K31/202
A61K31/231
A61K31/232
A61K35/60
A61P9/10 101
A61P9/14
A61P25/00
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013740
(22)【出願日】2023-02-01
(62)【分割の表示】P 2019520276の分割
【原出願日】2018-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2017101459
(32)【優先日】2017-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】株式会社ニッスイ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100188374
【弁理士】
【氏名又は名称】一宮 維幸
(72)【発明者】
【氏名】堤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】竹尾 仁良
(72)【発明者】
【氏名】宮原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】阪上 浩
(57)【要約】 (修正有)
【課題】血管内皮機能の改善用組成物を提供する。
【解決手段】炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびそのエステルから選択される成分を有効成分として含有し、組成物中の総脂肪酸に対する炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸の割合が、10重量%以上である、血管内皮機能の改善用組成物を提供する。また本発明は、炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびそのエステルから選択される成分を有効成分として含有する、睡眠改善用組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血流依存性血管拡張反応の改善用食品組成物であって、
炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびそのエステルから選択される成分を有効成分として含有し、
組成物中の総脂肪酸に対する炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸の割合が、10重量%以上であり、
有効成分が魚油由来である、
前記食品組成物。
【請求項2】
有効成分が、炭素数20のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびそのエステルから選択される成分、炭素数22のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびそのエステルから選択される成分、またはそれらの組み合わせである、請求項1に記載の食品組成物。
【請求項3】
有効成分が、炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含むグリセリドである、請求項1または2に記載の食品組成物。
【請求項4】
グリセリドがトリグリセリドである、請求項3に記載の食品組成物。
【請求項5】
n-3系多価不飽和脂肪酸およびn-6系多価不飽和脂肪酸をさらに含み、n-6系多価不飽和脂肪酸に対するn-3系多価不飽和脂肪酸の面積比が4.0以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の食品組成物。
【請求項6】
血流依存性血管拡張反応の改善が、血流依存性血管拡張反応値(FMD値)の増加である、請求項1~5のいずれか一項に記載の食品組成物。
【請求項7】
FMD値の増加が、FMD値が6%以上の対象におけるFMD値の増加である、請求項6に記載の食品組成物。
【請求項8】
FMD値の増加が、FMD値が6%未満の対象におけるFMD値の増加である、請求項6に記載の食品組成物。
【請求項9】
FMD値が2.1%以上の対象によって摂取されることを特徴とする、請求項1~6および8のいずれか一項に記載の食品組成物。
【請求項10】
20歳以上の対象によって摂取されることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の食品組成物。
【請求項11】
魚油がサンマ油である、請求項1~10のいずれか一項に記載の食品組成物。
【請求項12】
炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸に換算して2 mg/kg体重/日以上の有効成分が4週間以上経口投与されるように用いられることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内皮機能の改善用組成物に関する。また本発明は、睡眠改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
魚類には不飽和脂肪酸であるn-3系多価不飽和脂肪酸が豊富に含まれていることが知られている。これまでに、魚類を食べる頻度が高いと心血管疾患に罹患するリスクが低下することを示した多くの研究が報告されている。特に、n-3系多価不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)が心血管疾患の予防または治療において注目されることとなった先駆的な疫学研究として、グリーンランドにおける疫学研究が有名である。当該疫学研究では、グリーンランド先住民であるイヌイットには急性心筋梗塞を発症する者が少なく、虚血性心疾患による死亡率も低いことが明らかとなり、さらにその食生活を調べた結果、アザラシや魚類を多く食べる食習慣によってEPAやドコサヘキサエン酸(DHA)などのn-3系多価不飽和脂肪酸を多く摂っており、逆に陸生の動物や植物に多く含まれているn-6系多価不飽和脂肪酸の摂取は少ないことが判明した。このように食事として摂取する脂肪酸構成の違いが、イヌイットにおける急性心筋梗塞発症率や虚血性心疾患による死亡率が低い要因であることが報告されている(非特許文献1~3)。またヒトの臨床試験では、EPAやDHAによる中性脂肪低下作用が明らかとなっているが、コレステロール低下作用はほとんど認められないか、または弱いことが知られている。
【0003】
一方、サンマ油やスケトウタラ油に豊富に含まれることが知られている炭素数20および22の長鎖モノ不飽和脂肪酸(LC-MUFA)には、EPAやDHAと異なり、コレステロール低下作用があることが報告されている(特許文献1)。またこれまでに、食餌誘導性肥満モデルマウスや2型糖尿病モデルマウスにおいて、サンマ油やスケトウタラ油摂取による血液中の総コレステロール、LDL-コレステロール、中性脂肪および血糖値の低下やインスリン抵抗性の改善などの効果が見出されている(非特許文献4~6)。同様の効果は、LC-MUFAを選択的に濃縮した油脂でも確認されている(非特許文献5)。これに関連して、日本人男女5万人を対象としたコホート研究から魚介類摂取量が多い男性ほど糖尿病発症リスクが少ないとする報告があり、特にサンマやサバなどの小・中型魚およびサケなどの脂の多い魚を多量に摂取するグループほどリスクが低いと報告されている(非特許文献7)。
【0004】
また動脈硬化モデルマウスを用いた試験では、LC-MUFAの摂取によって大動脈洞におけるアテローム性動脈硬化巣の形成が抑制されたこと、またこれは血中炎症性サイトカイン濃度の低下とPPARシグナル伝達経路の刺激によるマクロファージからのコレステロール除去の促進とを組合せた保護効果による結果である可能性が高いことが報告されている(非特許文献8)。しかしながら、非特許文献8にはLC-MUFAの摂取による血管内皮機能そのものへの影響については全く開示されていない。
【0005】
血管内皮細胞は、一酸化窒素(NO)、エンドセリンなどの血管作動性物質を分泌することにより血管壁の収縮および弛緩を調節している。また血管内皮細胞は、血圧の維持、血管透過性の調節などの機能を担っている。このような血管内皮細胞の機能(すなわち血管内皮機能)の低下は様々な疾患につながると考えられており、例えば動脈硬化の発症および進展に関わっていることが知られている。近年、非侵襲的血管内皮機能検査として、血流依存性血管拡張反応(Flow Mediated Dilation(FMD))検査が注目されている。FMD値の低い被験者は心血管のイベントを起こし易いと考えられている(非特許文献9)。またFMD検査は日本において保険適用されており、動脈硬化に基づく様々な疾患の早期発見・早期治療に使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Dyerberg J, Bang HO, Hjorne N: Fatty acid composition of the plasma lipids in Greenland Eskimos. Am J Clin Nutr., 28(9):958-66, 1975.
【非特許文献2】Dyerberg J, Bang HO, Stoffersen E, Moncada S, Vane JR: Eicosapentaenoic acid and prevention of thrombosis and atherosclerosis. Lancet, 2(8081):117-9, 1978
【非特許文献3】Bang HO, Dyerberg J, Sinclair HM: The composition of the Eskimo food in north western Greenland. Am J Clin Nutr., 33(12):2657-61, 1980.
【非特許文献4】Yang ZH, Miyahara H, Takemura S, Hatanaka A: Dietary saury oil reduces hyperglycemia and hyperlipidemia in diabetic KKAy mice and in diet-induced obese C57BL/6J mice by altering gene expression. Lipids, 46(5):425-34, 2011.
【非特許文献5】Yang ZH, Miyahara H, Mori T, Doisaki N, Hatanaka A: Beneficial effects of dietary fish-oil-derived monounsaturated fatty acids on metabolic syndrome risk factors and insulin resistance in mice. J Agric Food Chem., 59(13):7482-9, 2011.
【非特許文献6】Yang ZH, Miyahara H, Takeo J, Hatanaka A, Katayama M: Pollock oil supplementation modulates hyperlipidemia and ameliorates hepatic steatosis in mice fed a high-fat diet. Lipids Health Dis., 10:189-98, 2011.
【非特許文献7】Nanri A, Mizoue T, Noda M, Takahashi Y, Matsushita Y, Poudel-Tandukar K, Kato M, Oba S, Inoue M, Tsugane S: Fish intake and type 2 diabetes in Japanese men and women: the Japan Public Health Center-based Prospective Study. Am J Clin Nutr., 94(3):884-91, 2011.
【非特許文献8】Yang ZH, Bando M, Sakurai T, Chen Y, Emma-Okon B, Wilhite B, Fukuda D, Vaisman B, Pryor M, Wakabayashi Y, Sampson M, Zu-Xi Yu, Sakurai A, Zarzour A, Miyahara H, Takeo J, Sakaue H, Sata M, Remaley AT: Long-chain monounsaturated fatty acid-rich fish oil attenuates the development of atherosclerosis in mouse models. Mol Nutr Food Res., 0:1-11, 2016.
【非特許文献9】J-ISCP会誌「心血管薬物療法」、3(1)、35-43(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
血管内皮機能の低下に起因する疾患は近年問題となっており、安全性が高く長期間にわたって実施可能な血管内皮機能を改善する手法が求められていた。
【0009】
また、LC-MUFAの中で、特にC20:1n-11やC22:1n-11といった位置異性体はサンマ以外にもスケトウタラ、サバ、サケなどの魚種由来の魚油にも含まれているが、植物油にはほとんど含まれていない。サンマやスケトウタラは日本人に人気の高い魚であり、産業価値の高い魚であることから、これらの魚種から調製されるLC-MUFAを豊富に含む魚油の新規用途の開発が強く望まれている。
【0010】
本発明は、LC-MUFAを含む魚油の成分の新規用途、特に健康増進に関する新規用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、LC-MUFAを豊富に含むサンマ油の摂取により血流依存性血管拡張反応が改善することを見出した。これまでにEPAやDHAの血管内皮機能への影響についての報告はなされていたが、LC-MUFAを豊富に含む油が血管内皮機能に影響することについては知られていなかった。
【0012】
また本発明者らは、LC-MUFAを豊富に含むサンマ油の摂取により朝の目覚めが良くなることを見出した。これまでにLC-MUFAを豊富に含む油が睡眠に影響することについては知られていなかった。
【0013】
本発明者らは、これらの知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下の通りである。
【0014】
[1]血管内皮機能の改善用組成物であって、
炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびそのエステルから選択される成分を有効成分として含有し、
組成物中の総脂肪酸に対する炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸の割合が、10重量%以上である、
前記組成物。
【0015】
[2]有効成分が、炭素数20のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびそのエステルから選択される成分、炭素数22のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびそのエステルから選択される成分、またはそれらの組み合わせである、[1]に記載の組成物。
【0016】
[3]有効成分が、炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含むグリセリドである、[1]または[2]に記載の組成物。
【0017】
[4]グリセリドがトリグリセリドである、[3]に記載の組成物。
【0018】
[5]n-3系多価不飽和脂肪酸およびn-6系多価不飽和脂肪酸をさらに含み、n-6系多価不飽和脂肪酸に対するn-3系多価不飽和脂肪酸の面積比が4.0以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
【0019】
[6]有効成分が魚油由来である、[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
【0020】
[7]魚油がサンマ油である、[6]に記載の組成物。
【0021】
[8]炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸に換算して2mg/kg体重/日以上の有効成分が4週間以上経口投与されるように用いられることを特徴とする、[1]~[7]のいずれかに記載の組成物。
【0022】
[9]血流依存性血管拡張反応の改善用である、[1]~[8]のいずれかに記載の組成物。
【0023】
[10]血管内皮障害に起因する疾患に罹患するリスクの低減用である、[1]~[9]のいずれかに記載の組成物。
【0024】
[11]食品組成物である、[1]~[10]のいずれかに記載の組成物。
【0025】
[12]医薬組成物である、[1]~[10]のいずれかに記載の組成物。
【0026】
[13]炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびそのエステルから選択される成分を有効成分として含有する、睡眠改善用組成物。
【0027】
[14]有効成分が、炭素数20のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびそのエステルから選択される成分、炭素数22のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびそのエステルから選択される成分、またはそれらの組み合わせである、[13]に記載の組成物。
【0028】
[15]有効成分が、炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含むグリセリドである、[13]または[14]に記載の組成物。
【0029】
[16]グリセリドがトリグリセリドである、[15]に記載の組成物。
【0030】
[17]組成物中の総脂肪酸に対する炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸の割合が、10重量%以上である、[13]~[16]のいずれかに記載の組成物。
【0031】
[18]n-3系多価不飽和脂肪酸およびn-6系多価不飽和脂肪酸をさらに含み、n-6系多価不飽和脂肪酸に対するn-3系多価不飽和脂肪酸の面積比が4.0以上である、[13]~[17]のいずれかに記載の組成物。
【0032】
[19]有効成分が魚油由来である、[13]~[18]のいずれかに記載の組成物。
【0033】
[20]魚油がサンマ油である、[19]に記載の組成物。
【0034】
[21]炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸に換算して2 mg/kg体重/日以上の有効成分が4週間以上経口投与されるように用いられることを特徴とする、[13]~[20]のいずれかに記載の組成物。
【0035】
[22]目覚めの改善用である、[13]~[21]のいずれかに記載の組成物。
【0036】
[23]食品組成物である、[13]~[22]のいずれかに記載の組成物。
【0037】
[24]医薬組成物である、[13]~[22]のいずれかに記載の組成物。
【0038】
[25]血管内皮機能の改善方法であって、
有効量の炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびそのエステルから選択される成分を有効成分として含有する組成物を対象に投与することを含み、
組成物中の総脂肪酸に対する炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸の割合が、10重量%以上である、
前記方法。
【0039】
[26]有効成分が、炭素数20のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびそのエステルから選択される成分、炭素数22のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびそのエステルから選択される成分、またはそれらの組み合わせである、[25]に記載の方法。
【0040】
[27]有効成分が、炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含むグリセリドである、[25]または[26]に記載の方法。
【0041】
[28]グリセリドがトリグリセリドである、[27]に記載の方法。
【0042】
[29]組成物が、n-3系多価不飽和脂肪酸およびn-6系多価不飽和脂肪酸をさらに含み、組成物中のn-6系多価不飽和脂肪酸に対するn-3系多価不飽和脂肪酸の面積比が4.0以上である、[25]~[28]のいずれかに記載の方法。
【0043】
[30]有効成分が魚油由来である、[25]~[29]のいずれかに記載の方法。
【0044】
[31]魚油がサンマ油である、[30]に記載の方法。
【0045】
[32]炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸に換算して2mg/kg体重/日以上の有効成分を4週間以上経口投与することを含む、[25]~[31]のいずれかに記載の方法。
【0046】
[33]血流依存性血管拡張反応の改善用である、[25]~[32]のいずれかに記載の方法。
【0047】
[34]血管内皮障害に起因する疾患に罹患するリスクの低減用である、[25]~[33]のいずれかに記載の方法。
【0048】
[35]組成物が食品組成物である、[25]~[34]のいずれかに記載の方法。
【0049】
[36]組成物が医薬組成物である、[25]~[34]のいずれかに記載の方法。
【0050】
[37]血管内皮機能の改善用組成物の製造のための、炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩またはそのエステルの使用であって、
組成物中の総脂肪酸に対する炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸の割合が、10重量%以上である、
前記使用。
【0051】
[38]炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩またはそのエステルが、炭素数20のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびそのエステルから選択される成分、炭素数22のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびそのエステルから選択される成分、またはそれらの組み合わせである、[38]に記載の使用。
【0052】
[39]炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩またはそのエステルが、炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含むグリセリドである、[37]または[38]に記載の使用。
【0053】
[40]グリセリドがトリグリセリドである、[39]に記載の使用。
【0054】
[41]組成物が、n-3系多価不飽和脂肪酸およびn-6系多価不飽和脂肪酸をさらに含み、組成物中のn-6系多価不飽和脂肪酸に対するn-3系多価不飽和脂肪酸の面積比が4.0以上である、[37]~[40]のいずれかに記載の使用。
【0055】
[42]炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩またはそのエステルが魚油由来である、[37]~[41]のいずれかに記載の使用。
【0056】
[43]魚油がサンマ油である、[42]に記載の使用。
【0057】
[44]組成物が、炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸に換算して2mg/kg体重/日以上の炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩またはそのエステルが4週間以上経口投与されるように用いられることを特徴とする、[37]~[43]のいずれかに記載の使用。
【0058】
[45]組成物が、血流依存性血管拡張反応の改善用である、[37]~[44]のいずれかに記載の使用。
【0059】
[46]組成物が、血管内皮障害に起因する疾患に罹患するリスクの低減用である、[37]~[45]のいずれかに記載の使用。
【0060】
[47]組成物が、食品組成物である、[37]~[46]のいずれかに記載の使用。
【0061】
[48]組成物が、医薬組成物である、[37]~[46]のいずれかに記載の使用。
【0062】
[49]睡眠改善方法であって、
有効量の炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびそのエステルから選択される成分を有効成分として含有する組成物を対象に投与することを含む、
前記方法。
【0063】
[50]有効成分が、炭素数20のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびそのエステルから選択される成分、炭素数22のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびそのエステルから選択される成分、またはそれらの組み合わせである、[49]に記載の方法。
【0064】
[51]有効成分が、炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含むグリセリドである、[49]または[50]に記載の方法。
【0065】
[52]グリセリドがトリグリセリドである、[51]に記載の方法。
【0066】
[53]組成物中の総脂肪酸に対する炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸の割合が、10重量%以上である、[49]~[52]のいずれかに記載の方法。
【0067】
[54]組成物が、n-3系多価不飽和脂肪酸およびn-6系多価不飽和脂肪酸をさらに含み、組成物中のn-6系多価不飽和脂肪酸に対するn-3系多価不飽和脂肪酸の面積比が4.0以上である、[49]~[53]のいずれかに記載の方法。
【0068】
[55]有効成分が魚油由来である、[49]~[54]のいずれかに記載の方法。
【0069】
[56]魚油がサンマ油である、[55]に記載の方法。
【0070】
[57]炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸に換算して2 mg/kg体重/日以上の有効成分を4週間以上経口投与することを含む、[49]~[56]のいずれかに記載の方法。
【0071】
[58]目覚めの改善用である、[49]~[57]のいずれかに記載の方法。
【0072】
[59]組成物が食品組成物である、[49]~[58]のいずれかに記載の方法。
【0073】
[60]組成物が医薬組成物である、[49]~[58]のいずれかに記載の方法。
【0074】
[61]睡眠改善用組成物の製造のための、炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩またはそのエステルの使用。
【0075】
[62]炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩またはそのエステルが、炭素数20のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびそのエステルから選択される成分、炭素数22のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびそのエステルから選択される成分、またはそれらの組み合わせである、[61]に記載の使用。
【0076】
[63]炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩またはそのエステルが、炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含むグリセリドである、[61]または[62]に記載の使用。
【0077】
[64]グリセリドがトリグリセリドである、[63]に記載の使用。
【0078】
[65]組成物中の総脂肪酸に対する炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸の割合が、10重量%以上である、[61]~[64]のいずれかに記載の使用。
【0079】
[66]組成物が、n-3系多価不飽和脂肪酸およびn-6系多価不飽和脂肪酸をさらに含み、組成物中のn-6系多価不飽和脂肪酸に対するn-3系多価不飽和脂肪酸の面積比が4.0以上である、[61]~[65]のいずれかに記載の使用。
【0080】
[67]炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩またはそのエステルが魚油由来である、[61]~[66]のいずれかに記載の使用。
【0081】
[68]魚油がサンマ油である、[67]に記載の使用。
【0082】
[69]組成物が、炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸に換算して2 mg/kg体重/日以上の炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩またはそのエステルが4週間以上経口投与されるように用いられることを特徴とする、[61]~[68]のいずれかに記載の使用。
【0083】
[70]組成物が目覚めの改善用である、[61]~[69]のいずれかに記載の使用。
【0084】
[71]組成物が食品組成物である、[61]~[70]のいずれかに記載の使用。
【0085】
[72]組成物が医薬組成物である、[61]~[70]のいずれかに記載の使用。
【発明の効果】
【0086】
本発明により、サンマ油などのLC-MUFAを豊富に含む魚油の成分を含有する血管内皮機能の改善用組成物が提供される。これにより、血管内皮障害に起因する疾患に罹患するリスクを低減させることができる。
【0087】
また本発明により、サンマ油などのLC-MUFAを豊富に含む魚油の成分を含有する睡眠改善用組成物が提供される。これにより、良好な睡眠が提供され、特に健常者の健康増進がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【
図1-1】実施例1のサンマ油カプセルを摂取した被験者の摂取前および摂取後のFMD値の変化を表した図である。摂取後にFMD値が約44%増加したことを表している。★★は、有意差(p=0.0003)を示す。
【0089】
【
図1-2】実施例1のサンマ缶詰を摂取した被験者の摂取前および摂取後のFMD値の変化を表した図である。摂取後にFMD値が約12%増加したことを表している。
【0090】
【
図1-3】実施例1のサンマ油カプセルを摂取した被験者のうち摂取後にFMD値が増加した6名について、摂取前、摂取後、および摂取終了後1か月のウォッシュアウト期間後の、FMD値の変化を表した図である。摂取後にFMD値が約82%増加し、ウォッシュアウト期間後にそこから20%低下したことを表している。★は、有意差(p=0.0402)を示す。
【0091】
【
図1-4】実施例1のサンマ缶詰を摂取した被験者のうち摂取後にFMD値が増加した3名について、摂取前、摂取後、および摂取終了後1か月のウォッシュアウト期間後の、FMD値の変化を表した図である。摂取後にFMD値が約66%増加し、ウォッシュアウト期間後にそこから18%低下したことを表している。
【0092】
【
図1-5】実施例1のサンマ油カプセルを摂取した被験者のうち、摂取前のFMD値が正常範囲外(6%未満)であり血管内皮障害が疑われた4名について、摂取前および摂取後のFMD値の変化を表した図である。摂取後にFMD値が約253%増加したことを表している。
【0093】
【
図1-6】実施例1のサンマ缶詰を摂取した被験者のうち、摂取前のFMD値が正常範囲外(6%未満)であり血管内皮障害が疑われた4名について、摂取前および摂取後のFMD値の変化を表した図である。摂取後にFMD値が約45%増加したことを表している。
【0094】
【
図2】実施例1のサンマ油カプセルを摂取した被験者の摂取前および摂取後の目覚めの良さの変化を表した図である。朝、気持よく起きることができる場合を100、全く気持ちよく起きられない場合を0とし、相対評価として目覚めた時の気分を数値化したものである。数値が高いほど目覚めが良いことを表す。摂取前と比較して摂取後に朝の目覚めが14%改善されたことを表している。
【0095】
【
図3】実施例1のサンマ油カプセルを摂取した被験者の摂取前および摂取後の体脂肪量の変化を表した図である。摂取後に体脂肪量が約0.7%低下したことを表している。★★は、有意差(p=0.0057)を示す。
【0096】
【
図4】実施例2のサンマ油カプセルまたはブレンド油カプセルを摂取した被験者の摂取前および摂取後のFMD値の変化を表した図である。***は、有意差(p=0.0008)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0097】
以下、本発明をより具体的に説明する。
【0098】
なお本明細書中、以下の略号を使用する場合がある。
MUFA:モノ不飽和脂肪酸
LC-MUFA:長鎖モノ不飽和脂肪酸、特にC20:1およびC22:1の異性体の総称
PUFA:多価不飽和脂肪酸
【0099】
<血管内皮機能の改善用組成物>
本発明は、血管内皮機能の改善用組成物であって、炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびそのエステルから選択される成分を有効成分として含有し、組成物中の総脂肪酸に対する炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸の割合が、10重量%以上である、前記組成物(以下、本発明の血管内皮機能の改善用組成物という場合がある)を提供する。
【0100】
本発明で使用される炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩、またはそのエステルは、特に限定されず、医薬品用または食品用として許容されるものであればよい。炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含有するグリセリドは、公知の方法により製造することができ、例えばWO1996/26647などに記載された煮取法により、天然物由来の油脂として製造することもできる。天然物由来の油脂としては、海産物油(例えば、サンマ油などの魚油、アザラシ、クジラなどの哺乳動物の油脂など)、微生物油などが挙げられる。後述の通り、魚油は炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸の含有量が高い。したがって本発明の血管内皮機能の改善用組成物中の有効成分は、魚油(例えばサンマ油)由来であることが好ましい。また、遊離の炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびグリセリド以外のエステルは、例えば上記グリセリドを原料として公知の方法により調製することができる。
【0101】
例えばサンマ原油は、通常、その他の魚油と同様に以下のような方法で採取される。サンマ全体または水産加工から発生する魚の頭、皮、中骨、内臓等の加工残滓を粉砕して蒸煮した後、圧搾して煮汁(スティックウォーター、SW)と圧搾ミールに分離する。煮汁とともに得られる油脂を煮汁から遠心分離により分離する。
【0102】
日本食品標準成分表2015年版(七訂)には、サンマ(皮つき、生)の脂肪酸中に含まれるドコセン酸(C22:1)は26.0重量%、イコセン酸(C20:1)は17.6重量%、モノ不飽和脂肪酸の総量は54.2重量%であることが記載されている。サンマ油は魚油の中でもモノ不飽和脂肪酸の含有量が多いのが特徴である。
【0103】
魚油の原油は、脱ガム、脱酸、脱色、脱臭工程などの精製工程を経て精製魚油とされる。炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびそのエステルから選択される成分の供給源として、この精製魚油を用いることもできる。
【0104】
一態様において、炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびそのエステルから選択される成分の供給源として、モノ不飽和脂肪酸の濃度を高めた油を用いてもよい。この場合、リパーゼ反応を用いて濃縮する方法や、エチルエステル化してからモノ不飽和脂肪酸エチルエステルを濃縮し、その後グリセリンとエステル交換してトリグリセリドに再構成する方法などにより、MUFAが濃縮されたトリグリセリドを得ることができる。
【0105】
炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸としては、炭素数20のモノ不飽和脂肪酸(C20:1)(例えばC20:1 n-11、C20:1 n-9、C20:1 n-7)、炭素数22のモノ不飽和脂肪酸(C22:1)(例えばC22:1 n-11、C22:1 n-9、C22:1 n-7、C22:1 n-13)、炭素数24のモノ不飽和脂肪酸(C24:1)(例えばC24:1 n-9)などが挙げられる。好ましい態様において、本発明の血管内皮機能の改善用組成物の有効成分は、C20:1、その塩およびそのエステルから選択される成分、C22:1、その塩およびそのエステルから選択される成分、またはそれらの組み合わせである。
【0106】
C22:1およびC20:1の含有量は、魚種により異なるが、それらの含有量が多い魚種としては、サンマなどサンマ科に属する魚、マダラ、スケトウダラ、タイセイヨウダラ、ギンダラなどのタラ科に属する魚、シロザケ、ギンザケ、ベニザケ、カラフトマス、タイヘイヨウサケ、ニジマスなどのサケ科の魚、カラフトシシャモ、シシャモなどのキュウリウオ科の魚、ニシンなどのニシン科の魚などが例示される。このほか、イカナゴ、マグロ、サバ、キンメダイなどの魚にも比較的多く含まれている。また、アブラツノザメ、ウバザメ、ギンザメなどのサメ類の肝油にも多く含まれる。本発明においては、これらの魚から調製された魚油をそのまま、精製して、または濃縮して使用することができる。
【0107】
本発明の血管内皮機能の改善用組成物中の総脂肪酸に対する炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸の割合は、10重量%以上、例えば11重量%以上、12重量%以上、13重量%以上、14重量%以上、15重量%以上、16重量%以上、17重量%以上、18重量%以上、19重量%以上、20重量%以上、21重量%以上、22重量%以上、23重量%以上、24重量%以上、25重量%以上、26重量%以上、27重量%以上、28重量%以上、29重量%以上、30重量%以上、40重量%以上、50重量%以上、60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、または90重量%以上である。
【0108】
なお本明細書中、組成物中の総脂肪酸に対する脂肪酸の割合(重量%)は、特に明記しない限り、AOCS official method Ce1b-89に従い、組成物中の成分をエステル化した後、ガスクロマトグラフィーにより測定した値に基づいて算出される。脂肪酸の含有量という場合も、上記の総脂肪酸に対する当該脂肪酸の割合(重量%)を意味する。ガスクロマトグラフィーの分析条件は以下の通りである。
装置:Agilent6890N GC system(Agilent社)
カラム:DB-WAX(Agilent Technologies, 30m x 0.25mm ID, 0.25im film thickness)
キャリアガス:ヘリウム(1.0mL/min, コンスタントフロー)
注入口温度:250℃
注入量:1μL
注入法:スプリット
スプリット比:20:1
カラムオーブン:180℃ - 3℃/min - 230℃
検出器:FID
検出器温度:250℃
【0109】
本発明における炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸の塩としては、カリウム塩およびナトリウム塩などが例示される。また、炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸のエステルとしては、炭素数5以下の低級アルコールのエステル(例えばメチルエステル、エチルエステル、n-プロピルエステル、i-プロピルエステル、n-ブチルエステル、s-ブチルエステル、t-ブチルエステル、n-ペンチルエステルなど)、モノグリセリド、ジグリセリドおよびトリグリセリドなどのグリセリンとのエステル(すなわちグリセリド)、並びにリン脂質などが例示される。好ましい態様において、本発明の血管内皮機能の改善用組成物の有効成分は、炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含むグリセリドであり、より好ましくはトリグリセリドである。
【0110】
本発明における炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸として、遊離の炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸を含有する天然物由来の油脂をそのまま、精製して、または濃縮して使用してもよい。また炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸のエステルとして、炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするグリセリドを含有する天然物由来の油脂をそのまま、精製して、または濃縮して使用してもよい。
【0111】
また炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸のエステルとして、天然物由来の油脂をエステル化した後、高速液体クロマトグラフィーなどにより分画して得られる分画油を使用することもできる。分画油としては、C20:1が濃縮された分画油、C22:1が濃縮された分画油、C24:1が濃縮された分画油などが挙げられる。
【0112】
本発明の血管内皮機能の改善用組成物は、n-3系多価不飽和脂肪酸およびn-6系多価不飽和脂肪酸をさらに含んでもよい。この場合、n-6系多価不飽和脂肪酸に対するn-3系多価不飽和脂肪酸の面積比は4.0以上、例えば5.0以上、6.0以上、7.0以上、8.0以上、9.0以上、または10.0以上である。本明細書中、n-3系多価不飽和脂肪酸は、2個以上の炭素-炭素二重結合を有する炭素数18以上の不飽和脂肪酸であって、脂肪酸鎖の末端のメチル基の炭素から数えて3番目と4番目の炭素原子間に最初の二重結合があるものをいい、例えばα-リノレン酸(C18:3 n-3)、オクタデカテトラエン酸(C18:4 n-3)、エイコサテトラエン酸(C20:4 n-3)、エイコサペンタエン酸(C20:5 n-3)、ドコサペンタエン酸(C22:5 n-3)、ドコサヘキサエン酸(C22:6 n-3)などが挙げられる。またn-6系多価不飽和脂肪酸は、2個以上の炭素-炭素二重結合を有する炭素数18以上の不飽和脂肪酸であって、脂肪酸鎖の末端のメチル基の炭素から数えて6番目と7番目の炭素原子間に最初の二重結合があるものをいい、例えばリノール酸(C18:2 n-6)、アラキドン酸(C20:4 n-6)などが挙げられる。また本明細書中、脂肪酸の面積比とは、AOCS official method Ce1b-89に従い、組成物中の脂肪酸をエステル化した後、ガスクロマトグラフィーにより検出したピーク面積の比をいう。ガスクロマトグラフィーの分析条件は上記の通りである。
【0113】
本発明において、血管内皮機能の改善とは、血管内皮細胞の機能、例えば一酸化窒素(NO)、エンドセリンなどの血管作動性物質を分泌することにより血管壁の収縮および弛緩を調節する機能が改善することを言う。そのような血管内皮細胞の機能(血管内皮機能)を評価する方法としては、例えばストレインゲージ式プレチスモグラフィ、FMD(flow-mediated dilatation)(血流依存性血管拡張反応)、RH-PAT(reactive hyperemia peripheral arterial tonometry)などが知られている(「血管機能の非侵襲的評価法に関するガイドライン」、循環器病の診断と治療に関するガイドライン2013、p. 3~112、一般社団法人日本循環器学会)。本発明の好ましい態様において、血管内皮機能の評価にはFMDが用いられる。FMD値(%)は、安静時血管径に対する最大拡張幅の比率であり、以下の式により算出される。
FMD値(%)=最大拡張幅(mm)/安静時血管径(mm)x100
【0114】
本発明の血管内皮機能の改善用組成物は、FMD値を改善することができることから、血流依存性血管拡張反応の改善用組成物として用いることができる。
【0115】
後述の実施例における試験は健常者を対象としており、そこでのFMD値の改善は、動脈硬化などの疾患の治療を意味するものではないが、正常な血管内皮機能をさらに亢進させるか、または血管内皮障害の状態を改善することにより、血管内皮障害に起因する疾患に罹患するリスクを低減することができる。したがって、一態様において、本発明の血管内皮機能の改善用組成物は、血管内皮障害に起因する疾患に罹患するリスクの低減用組成物である。ここで血管内皮障害とは、動脈硬化には至っていないが、血管内皮機能が低下した状態をいう。例えば、血管に動脈硬化巣が見られなくても、FMD値が5%未満である場合には血管内皮障害の状態にあることが疑われる。血管内皮障害に起因する疾患としては、例えば、動脈硬化などの心血管疾患、高血圧、歯周病、2型糖尿病、高脂血症などが挙げられる。
【0116】
本発明の血管内皮機能の改善用組成物の投与対象は、哺乳動物であり、好ましくはヒトである。投与対象の年齢は、本発明の効果が得られる限り特に限定されない。一態様において、投与対象の年齢は、20歳以上、例えば25歳以上、30歳以上、35歳以上、40歳以上、45歳以上、50歳以上、55歳以上、60歳以上である。
【0117】
炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩、またはそのエステルをFMD値が6%未満の対象に投与すると、FMD値の改善効果がより顕著となる場合がある。したがって、一態様において、本発明の血管内皮機能の改善用組成物の投与対象は、FMD値が6%未満である。例えば、投与対象は、20歳以上、例えば25歳以上、30歳以上、35歳以上、40歳以上、45歳以上、50歳以上、55歳以上、60歳以上であって、FMD値が6%未満であり得る。
【0118】
本発明の血管内皮機能の改善用組成物は、医薬組成物、食品組成物(例えば機能性食品、健康食品、サプリメントなど)などに適した形態、例えば顆粒剤(ドライシロップを含む)、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)、錠剤(チュアブル剤などを含む)、散剤(粉末剤)、丸剤などの各種の固形製剤、又は内服用液剤(液剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)などの液状製剤などの形態で調製してもよい。例えば本発明の血管内皮機能の改善用組成物は、精製した魚油をゼラチン皮膜に充填したソフトカプセルとして製剤化することができる。
【0119】
製剤化のための添加物としては、例えば、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、流動化剤、分散剤、湿潤剤、防腐剤、粘稠剤、pH調整剤、着色剤、矯味矯臭剤、界面活性剤、溶解補助剤が挙げられる。また、液剤の形態にする場合は、ペクチン、キサンタンガム、グアガムなどの増粘剤を配合することができる。また、コーティング剤を用いてコーティング錠剤にしたり、ペースト状の膠剤とすることもできる。さらに、他の形態に調製する場合であっても、従来の方法に従えばよい。
【0120】
本発明の血管内皮機能の改善用組成物は、食品組成物の形態をとることができる。本発明において、食品組成物は、飲料を含む食品全般を意味し、サプリメントなどの健康食品を含む一般食品の他、消費者庁の保健機能食品制度に規定される特定保健用食品や栄養機能食品をも含む。例えば、血管内皮機能の改善効果を有する旨の表示を付した機能性食品が提供される。例えば、魚油を含有する食品をそのまま提供することができる。また、本発明の食品組成物は、他の食品に添加し、混合し、または塗布することなどにより血管内皮機能の改善効果を付与するための、食品素材も含む。食品の他に、動物用の餌料などとして提供することもできる。
【0121】
本発明の血管内皮機能の改善用組成物が食品の形態をとる場合、当該食品は特に限定されず、飲料、菓子類、パン類、スープ類などであってよく、例えば、一般的なレトルト食品、冷凍食品、インスタント食品(ヌードルなど)、缶詰、ソーセージ、クッキー、ビスケット、シリアルバー、クラッカー、スナック(ポテトチップなど)、ペストリー、ケーキ、パイ、キャンデー、チューインガム(ペレットおよびスティックを含む)、ゼリー、スープ、アイス、ドレッシング、ヨーグルトなど、錠剤、カプセル剤、エマルションなどの形態のサプリメント、清涼飲料などが含まれる。これらの食品の製造方法は、本発明の効果を損なわないものであれば特に限定されず、各食品について当業者によって使用されている方法に従えばよい。
【0122】
本発明の血管内皮機能の改善用組成物の奏する効果を、包装容器、製品の説明書、パンフレットに表示して本発明の係る製品を販売することは本発明の範囲に含まれる。またテレビ、インターネットのウェブサイト、パンフレット、新聞、雑誌などに本発明の効果を表示して、本発明に係る製品を宣伝・販売することも本発明の範囲に含まれる。
【0123】
本発明において対象が摂取する炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびそのエステルから選択される成分の量は特に限定されず、例えば、所望の効果を得るための有効量以上の量で摂取される。ここで所望の効果を得るための有効量とは、血管内皮機能の改善のために必要な量をいう。例えば、成人の場合、対象の年齢、体重および健康状態などの条件に応じて、炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸に換算して2 mg/kg体重/日以上、例えば3 mg/kg体重/日以上、4 mg/kg体重/日以上、5 mg/kg体重/日以上、6 mg/kg体重/日以上、7 mg/kg体重/日以上、8 mg/kg体重/日以上、9 mg/kg体重/日以上、10 mg/kg体重/日以上、11 mg/kg体重/日以上、12 mg/kg体重/日以上、13 mg/kg体重/日以上、14 mg/kg体重/日以上、15 mg/kg体重/日以上、16 mg/kg体重/日以上、17 mg/kg体重/日以上、18 mg/kg体重/日以上、19 mg/kg体重/日以上、20 mg/kg体重/日以上、21 mg/kg体重/日以上、22 mg/kg体重/日以上、23 mg/kg体重/日以上、24 mg/kg体重/日以上、25 mg/kg体重/日以上、30 mg/kg体重/日以上、40 mg/kg体重/日以上、50 mg/kg体重/日以上、100 mg/kg体重/日以上、または200 mg/kg体重/日以上の有効成分を4週間以上、例えば5週間以上、6週間以上、7週間以上、8週間以上、9週間以上、10週間以上、11週間以上、12週間以上、摂取させることができる。また、炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびそのエステルから選択される成分は、強い副作用を有するものではないので、1日の摂取量に制限はない。
【0124】
<睡眠改善用組成物>
本発明は、炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびそのエステルから選択される成分を有効成分として含有する、睡眠改善用組成物(以下、本発明の睡眠改善用組成物という場合がある)を提供する。
【0125】
本発明で使用される炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩、またはそのエステルは、特に限定されず、医薬品用または食品用として許容されるものであればよい。炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含有するグリセリドは、公知の方法により製造することができ、例えばWO1996/26647などに記載された煮取法により、天然物由来の油脂として製造することもできる。天然物由来の油脂としては、海産物油(例えば、サンマ油などの魚油、アザラシ、クジラなどの哺乳動物の油脂など)、微生物油などが挙げられる。後述の通り、魚油は炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸の含有量が高い。したがって本発明の睡眠改善用組成物中の有効成分は、魚油(例えばサンマ油)由来であることが好ましい。また、遊離の炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびグリセリド以外のエステルは、例えば上記グリセリドを原料として公知の方法により調製することができる。
【0126】
例えばサンマ原油は、通常、その他の魚油と同様に以下のような方法で採取される。サンマ全体または水産加工から発生する魚の頭、皮、中骨、内臓等の加工残滓を粉砕して蒸煮した後、圧搾して煮汁(スティックウォーター、SW)と圧搾ミールに分離する。煮汁とともに得られる油脂を煮汁から遠心分離により分離する。
【0127】
日本食品標準成分表2015年版(七訂)には、サンマ(皮つき、生)の脂肪酸中に含まれるドコセン酸(C22:1)は26.0重量%、イコセン酸(C20:1)は17.6重量%、モノ不飽和脂肪酸の総量は54.2重量%であることが記載されている。サンマ油は魚油の中でもモノ不飽和脂肪酸の含有量が多いのが特徴である。
【0128】
魚油の原油は、脱ガム、脱酸、脱色、脱臭工程などの精製工程を経て精製魚油とされる。炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびそのエステルから選択される成分の供給源として、この精製魚油を用いることもできる。
【0129】
一態様において、炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびそのエステルから選択される成分の供給源として、モノ不飽和脂肪酸の濃度を高めた油を用いてもよい。この場合、リパーゼ反応を用いて濃縮する方法や、エチルエステル化してからモノ不飽和脂肪酸エチルエステルを濃縮し、その後グリセリンとエステル交換してトリグリセリドに再構成する方法などにより、MUFAが濃縮されたトリグリセリドを得ることができる。
【0130】
炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸としては、炭素数20のモノ不飽和脂肪酸(C20:1)(例えばC20:1 n-11、C20:1 n-9、C20:1 n-7)、炭素数22のモノ不飽和脂肪酸(C22:1)(例えばC22:1 n-11、C22:1 n-9、C22:1 n-7、C22:1 n-13)、炭素数24のモノ不飽和脂肪酸(C24:1)(例えばC24:1 n-9)などが挙げられる。好ましい態様において、本発明の睡眠改善用組成物の有効成分は、C20:1、その塩およびそのエステルから選択される成分、C22:1、その塩およびそのエステルから選択される成分、またはそれらの組み合わせである。
【0131】
C22:1およびC20:1の含有量は、魚種により異なるが、それらの含有量が多い魚種としては、サンマなどサンマ科に属する魚、マダラ、スケトウダラ、タイセイヨウダラ、ギンダラなどのタラ科に属する魚、シロザケ、ギンザケ、ベニザケ、カラフトマス、タイヘイヨウサケ、ニジマスなどのサケ科の魚、カラフトシシャモ、シシャモなどのキュウリウオ科の魚、ニシンなどのニシン科の魚などが例示される。このほか、イカナゴ、マグロ、サバ、キンメダイなどの魚にも比較的多く含まれている。また、アブラツノザメ、ウバザメ、ギンザメなどのサメ類の肝油にも多く含まれる。本発明においては、これらの魚から調製された魚油をそのまま、精製して、または濃縮して使用することができる。
【0132】
本発明の睡眠改善用組成物中の総脂肪酸に対する炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸の割合は、10重量%以上、例えば11重量%以上、12重量%以上、13重量%以上、14重量%以上、15重量%以上、16重量%以上、17重量%以上、18重量%以上、19重量%以上、20重量%以上、21重量%以上、22重量%以上、23重量%以上、24重量%以上、25重量%以上、26重量%以上、27重量%以上、28重量%以上、29重量%以上、30重量%以上、40重量%以上、50重量%以上、60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、または90重量%以上である。
【0133】
なお本明細書中、組成物中の総脂肪酸に対する脂肪酸の割合(重量%)は、特に明記しない限り、「五訂増補日本食品標準成分表分析マニュアル」(文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会食品成分委員会資料(平成16年))に従い、組成物中の成分をエステル化した後、ガスクロマトグラフィーにより測定した値に基づいて算出される。脂肪酸の含有量という場合も、上記の総脂肪酸に対する当該脂肪酸の割合(重量%)を意味する。ガスクロマトグラフィーの分析条件は以下の通りである。
装置:Agilent6890N GC system(Agilent社)
カラム:DB-WAX(Agilent Technologies, 30m x 0.25mm ID, 0.25im film thickness)
キャリアガス:ヘリウム(1.0mL/min, コンスタントフロー)
注入口温度:250℃
注入量:1μL
注入法:スプリット
スプリット比:20:1
カラムオーブン:180℃ - 3℃/min - 230℃
検出器:FID
検出器温度:250℃
【0134】
本発明における炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸の塩としては、カリウム塩およびナトリウム塩などが例示される。また、炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸のエステルとしては、炭素数5以下の低級アルコールのエステル(例えばメチルエステル、エチルエステル、n-プロピルエステル、i-プロピルエステル、n-ブチルエステル、s-ブチルエステル、t-ブチルエステル、n-ペンチルエステルなど)、モノグリセリド、ジグリセリドおよびトリグリセリドなどのグリセリンとのエステル(すなわちグリセリド)、並びにリン脂質などが例示される。好ましい態様において、本発明の睡眠改善用組成物の有効成分は、炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含むグリセリドであり、より好ましくはトリグリセリドである。
【0135】
本発明における炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸として、遊離の炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸を含有する天然物由来の油脂をそのまま、精製して、または濃縮して使用してもよい。また炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸のエステルとして、炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするグリセリドを含有する天然物由来の油脂をそのまま、精製して、または濃縮して使用してもよい。
【0136】
また炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸のエステルとして、天然物由来の油脂をエステル化した後、高速液体クロマトグラフィーなどにより分画して得られる分画油を使用することもできる。分画油としては、C20:1が濃縮された分画油、C22:1が濃縮された分画油、C24:1が濃縮された分画油などが挙げられる。
【0137】
本発明の睡眠改善用組成物は、n-3系多価不飽和脂肪酸およびn-6系多価不飽和脂肪酸をさらに含んでもよい。この場合、n-6系多価不飽和脂肪酸に対するn-3系多価不飽和脂肪酸の面積比は4.0以上、例えば5.0以上、6.0以上、7.0以上、8.0以上、9.0以上、または10.0以上である。本明細書中、n-3系多価不飽和脂肪酸は、2個以上の炭素-炭素二重結合を有する炭素数18以上の不飽和脂肪酸であって、脂肪酸鎖の末端のメチル基の炭素から数えて3番目と4番目の炭素原子間に最初の二重結合があるものをいい、例えばα-リノレン酸(C18:3 n-3)、オクタデカテトラエン酸(C18:4 n-3)、エイコサテトラエン酸(C20:4 n-3)、エイコサペンタエン酸(C20:5 n-3)、ドコサペンタエン酸(C22:5 n-3)、ドコサヘキサエン酸(C22:6 n-3)などが挙げられる。またn-6系多価不飽和脂肪酸は、2個以上の炭素-炭素二重結合を有する炭素数18以上の不飽和脂肪酸であって、脂肪酸鎖の末端のメチル基の炭素から数えて6番目と7番目の炭素原子間に最初の二重結合があるものをいい、例えばリノール酸(C18:2 n-6)、アラキドン酸(C20:4 n-6)などが挙げられる。また本明細書中、脂肪酸の面積比とは、AOCS official method Ce1b-89に従い、組成物中の脂肪酸をエステル化した後、ガスクロマトグラフィーにより検出したピーク面積の比をいう。ガスクロマトグラフィーの分析条件は上記の通りである。
【0138】
本発明において、睡眠改善とは、睡眠の質の改善を意味し、不眠症、過眠症を含む睡眠障害の治療は含まない。睡眠の質の改善としては、自覚症状、例えば、朝に目覚めた時の気分、寝つきの良さ、睡眠の深さなどの改善が挙げられる。一態様において、本発明の睡眠改善用組成物は、目覚めの改善用である。
【0139】
本発明の睡眠改善用組成物の投与対象は、哺乳動物であり、好ましくはヒトである。
【0140】
本発明の睡眠改善用組成物は、医薬組成物、食品組成物(例えば機能性食品、健康食品、サプリメントなど)などに適した形態、例えば顆粒剤(ドライシロップを含む)、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)、錠剤(チュアブル剤などを含む)、散剤(粉末剤)、丸剤などの各種の固形製剤、又は内服用液剤(液剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)などの液状製剤などの形態で調製してもよい。例えば本発明の睡眠改善用組成物は、精製した魚油をゼラチン皮膜に充填したソフトカプセルとして製剤化することができる。
【0141】
製剤化のための添加物としては、例えば、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、流動化剤、分散剤、湿潤剤、防腐剤、粘稠剤、pH調整剤、着色剤、矯味矯臭剤、界面活性剤、溶解補助剤が挙げられる。また、液剤の形態にする場合は、ペクチン、キサンタンガム、グアガムなどの増粘剤を配合することができる。また、コーティング剤を用いてコーティング錠剤にしたり、ペースト状の膠剤とすることもできる。さらに、他の形態に調製する場合であっても、従来の方法に従えばよい。
【0142】
本発明の睡眠改善用組成物は、食品組成物の形態をとることができる。本発明において、食品組成物は、飲料を含む食品全般を意味し、サプリメントなどの健康食品を含む一般食品の他、消費者庁の保健機能食品制度に規定される特定保健用食品や栄養機能食品をも含む。例えば、睡眠改善効果を有する旨の表示を付した機能性食品が提供される。例えば、魚油を含有する食品をそのまま提供することができる。また、本発明の食品組成物は、他の食品に添加し、混合し、または塗布することなどにより睡眠改善効果を付与するための、食品素材も含む。食品の他に、動物用の餌料などとして提供することもできる。
【0143】
本発明の睡眠改善用組成物が食品の形態をとる場合、当該食品は特に限定されず、飲料、菓子類、パン類、スープ類などであってよく、例えば、一般的なレトルト食品、冷凍食品、インスタント食品(ヌードルなど)、缶詰、ソーセージ、クッキー、ビスケット、シリアルバー、クラッカー、スナック(ポテトチップなど)、ペストリー、ケーキ、パイ、キャンデー、チューインガム(ペレットおよびスティックを含む)、ゼリー、スープ、アイス、ドレッシング、ヨーグルトなど、錠剤、カプセル剤、エマルションなどの形態のサプリメント、清涼飲料などが含まれる。これらの食品の製造方法は、本発明の効果を損なわないものであれば特に限定されず、各食品について当業者によって使用されている方法に従えばよい。
【0144】
本発明の睡眠改善用組成物の奏する効果を、包装容器、製品の説明書、パンフレットに表示して本発明の係る製品を販売することは本発明の範囲に含まれる。またテレビ、インターネットのウェブサイト、パンフレット、新聞、雑誌などに本発明の効果を表示して、本発明に係る製品を宣伝・販売することも本発明の範囲に含まれる。
【0145】
本発明において対象が摂取する炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびそのエステルから選択される成分の量は特に限定されず、例えば、所望の効果を得るための有効量以上の量で摂取される。ここで所望の効果を得るための有効量とは、睡眠改善のために必要な量をいう。例えば、成人の場合、対象の年齢、体重および健康状態などの条件に応じて、炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸に換算して2 mg/kg体重/日以上、例えば3 mg/kg体重/日以上、4 mg/kg体重/日以上、5 mg/kg体重/日以上、6 mg/kg体重/日以上、7 mg/kg体重/日以上、8 mg/kg体重/日以上、9 mg/kg体重/日以上、10 mg/kg体重/日以上、11 mg/kg体重/日以上、12 mg/kg体重/日以上、13 mg/kg体重/日以上、14 mg/kg体重/日以上、15 mg/kg体重/日以上、16 mg/kg体重/日以上、17 mg/kg体重/日以上、18 mg/kg体重/日以上、19 mg/kg体重/日以上、20 mg/kg体重/日以上、21 mg/kg体重/日以上、22 mg/kg体重/日以上、23 mg/kg体重/日以上、24 mg/kg体重/日以上、25 mg/kg体重/日以上、30 mg/kg体重/日以上、40 mg/kg体重/日以上、50 mg/kg体重/日以上、100 mg/kg体重/日以上、または200 mg/kg体重/日以上の有効成分を4週間以上、例えば5週間以上、6週間以上、7週間以上、8週間以上、9週間以上、10週間以上、11週間以上、12週間以上、摂取させることができる。また、炭素数20以上のモノ不飽和脂肪酸、その塩およびそのエステルから選択される成分は、強い副作用を有するものではないので、1日の摂取量に制限はない。
【実施例0146】
次に実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお実施例中、%表示されているものは、特記なければ、重量%である。
【0147】
(実施例1)介入試験1
(1)試験方法
a)試験食品:サンマ由来の魚油(LC-MUFAを全脂肪酸に対して約29%(魚油全重量に対して27重量%)の割合で含有する)を0.35 g含有するカプセルおよびサンマ塩焼き缶詰(日本水産株式会社市販品)。
【0148】
カプセル中の精製サンマ油およびサンマ塩焼き缶詰の脂肪酸組成を表1に示す。精製サンマ油の脂肪酸組成は、AOCS official method Ce1b-89に従い、組成物中の成分をエステル化した後、ガスクロマトグラフィーにより測定した値に基づいて算出した。サンマ塩焼き缶詰の脂肪酸組成は、日本食品分析センターによる分析結果である。AOCS official method Ce1b-89に従うガスクロマトグラフィーの分析条件は以下の通りである。
装置:Agilent6890N GC system(Agilent社)
カラム:DB-WAX(Agilent Technologies, 30m x 0.25mm ID, 0.25im film thickness)
キャリアガス:ヘリウム(1.0mL/min, コンスタントフロー)
注入口温度:250℃
注入量:1μL
注入法:スプリット
スプリット比:20:1
カラムオーブン:180℃ - 3℃/min - 230℃
検出器:FID
検出器温度:250℃
【0149】
【0150】
またサンマ油カプセルの一般成分表および脂肪酸含有量を表2に、サンマ塩焼き缶詰の一般成分表および脂肪酸含有量を表3に示す。またカプセル中の精製サンマ油の分析結果(酸価、過酸化物価、pアニシジン価、および脂質組成)を表4に示す。
【0151】
【0152】
【0153】
【0154】
b)被験者:20歳以上の徳島大学学生を含む健常成人49名を2群(カプセル摂取群および缶詰摂取群)にわけた。カプセル摂取群としては平均年齢22歳の24名(平均体重:53.2 kg(摂取前)および52.9 kg(摂取後))が、缶詰摂取群としては平均年齢21歳25名(平均体重:53.3 kg(摂取前)および53.0 kg(摂取後))が参加した(表7-1および7-2)。試験中、カプセル摂取群1名については中性脂肪が高値を示したため試験を中止し、缶詰摂取群1名は摂取基準に反したため試験から除外した。
【0155】
c)試験内容:カプセル摂取群は、1日12カプセルを4週間摂取した。缶詰摂取群は、1週間に4缶摂取の割合で計4週間摂取した。12カプセル中には、サンマ油が4.2 g含まれており、被験者は1日あたりLC-MUFAとして約1.1 g摂取することとなる。またサンマ塩焼き缶詰中には、油脂が1缶(75 g)あたり約15 g含まれており、被験者は1日あたりLC-MUFAとして約4.9g摂取することとなる。
【0156】
試験開始前および4週間摂取後に、血液・生化学検査、QOLアンケート調査、血管内皮機能測定を行なった。
【0157】
血液・生化学検査は、株式会社SRLにて行った。
【0158】
QOLアンケート調査は、6項目の質問事項(空腹感、膨満感、疲れやすさ、目覚め、美味しさ、楽しみ)につき、VAS(visual analogue scale)を用いて実施した。被験者は各質問事項について0~100の間で現在の状態を回答した。例えば目覚めについては、朝、気持よく起きることができる場合を100とし、全く気持ちよく起きられない場合を0とし、相対評価として目覚めた時の気分を数値化した。数値が高いほど、目覚めが良くなっていることを表す。
【0159】
血管内皮機能は、血流依存性血管拡張反応(FMD)検査装置ユネスクイーエフ(株式会社ユネスク製)を用いてFMD値を測定することで評価した。FMD値(%)は、最大拡張幅(mm)/安静時血管径(mm)x100で算出した。
【0160】
統計処理には、統計ソフトGraphpad Prism(有限会社エムデーエフ製)を用いた。多群の検定には一元配置分散分析法を用い、多重比較検定にはTukey’s multiple comparisons testを用いた。2群の群間比較の場合には、対応のない2群の比較であるunpaired t-testを用い、群内比較の場合には、対応のある2群の比較であるpaired t-testを用いた。
【0161】
d)実施期間:2016年4月5日~6月30日
【0162】
(2)試験結果
(2-1)FMD検査
表5ならびに
図1-1および1-2に示すように、カプセルあるいは缶詰の摂取開始から4週間後には、摂取前と比較して両群ともに顕著なFMD値の向上が認められた。カプセル摂取群では、約44%のFMD値の向上が認められた。缶詰摂取群では、約12%のFMD値の向上が認められた。
【0163】
【0164】
さらに、FMD値の増加が見られた被験者9名について、摂取終了後4週間のウォッシュアウト期間を設けて再度FMD値を測定した。その結果、
図1-3および1-4に示すように、ウォッシュアウト期間後にFMD値が低下する傾向が認められた。このことから、魚油の摂取によってFMD値が増加した可能性が高いことが確認された。
【0165】
また、摂取前のFMD値が6%未満であり血管内皮障害が疑われた被験者についてデータを解析したところ、両群とも摂取後にFMD値が増加する傾向を示した。このことから、サンマ油の摂取が、FMD値が正常範囲内である対象における血管内皮機能を亢進させるのみならず、FMD値が正常範囲外である対象における血管内皮障害も改善しうることが示唆された。またサンマ油はLC-MUFAを豊富に含むことから、LC-MUFAが血管内皮に影響し、血管内皮機能を向上させる可能性が示された。
【0166】
(2-2)QOLアンケート調査
表6-1および6-2、ならびに
図2に示すように、カプセル群で目覚めが改善された。
【0167】
【0168】
【0169】
(2-3)体組成測定
体組成評価(体重、体脂肪、除脂肪量、筋肉量、体水分量、BMI)についてデュアル周波数体組成表計(DC-320、株式会社タニタ製)を用いて測定した。表7-1および7-2、ならびに
図3に示すように、カプセル群で体脂肪率が有意に低下した。
【0170】
【0171】
【0172】
(2-4)血液検査、血液生化学検査
血液検査では、両群ともに異常は認められなかった(表8)。血液生化学検査では、カプセル群で摂取後に中性脂肪(TG)濃度が低下することが見出された(表9)。
【0173】
【0174】
【0175】
(実施例2)介入試験2
(1)試験方法
a)試験食品:サンマ油カプセルは、LC-MUFAを全脂肪酸に対して約29%の割合で含有するサンマ由来の魚油を0.35g含有する。ブレンド油カプセルは、マグロ油と精製オリーブ油を重量比1:1で混合した油(LC-MUFAを全脂肪酸に対して約1.8%の割合で含有する)を0.35g含有する。サンマ油カプセルおよびブレンド油カプセルの脂肪酸組成におけるEPA+DPA+DHAの合計は、それぞれ19.4%および19.7%であり、ほぼ同等であった。
【0176】
サンマ油カプセルおよびブレンド油カプセル中の脂肪酸組成を表10に示す。脂肪酸組成は、AOCS official method Ce1b-89に従い、組成物中の成分をエステル化した後、ガスクロマトグラフィーにより測定した値に基づいて算出した。
【0177】
【0178】
b)被験者:20歳以上の徳島大学学生を含む健常成人52名を2群(サンマ油カプセル摂取群およびブレンド油カプセル摂取群)にわけた。サンマ油カプセル摂取群としては平均年齢21歳の26名(平均体重:54.2 kg(摂取前)および54.8kg(摂取後))が、ブレンド油カプセル摂取群としては平均年齢21歳26名(平均体重:52.8kg(摂取前)および53.0kg(摂取後))が参加した(表11)。
【0179】
c)試験内容:被験者は、1日12カプセルを4週間摂取した。サンマ油カプセル12カプセル中にはサンマ油が4.2g含まれており、被験者は1日あたりLC-MUFAとして約1.1gおよびn‐3多価不飽和脂肪酸(EPA+DPA+DHA)として約0.7g摂取することとなる。またブレンド油カプセル12カプセル中には、マグロ油2.1gと精製オリーブ油2.1gが含まれており、被験者は1日あたりLC-MUFAとして約0.07gおよびn‐3多価不飽和脂肪酸(EPA+DPA+DHA)として約0.7g摂取することとなる。したがって、各カプセル群におけるLC-MUFAの摂取量は異なるが、n‐3多価不飽和脂肪酸(EPA+DPA+DHA)の摂取量はほぼ同じとなる。
【0180】
試験開始前および4週間摂取後に、血管内皮機能測定を行った。血管内皮機能は、血流依存性血管拡張反応(FMD)検査装置ユネスクイーエフ(株式会社ユネスク製)を用いてFMD値を測定することで評価した。FMD値(%)は、最大拡張幅(mm)/安静時血管径(mm)x100で算出した。
【0181】
統計処理には、統計ソフトGraphpad Prism(有限会社エムデーエフ製)を用いた。多群の検定には一元配置分散分析法を用い、多重比較検定にはTukey’s multiple comparisons testを用いた。2群の群間比較の場合には、対応のない2群の比較であるunpaired t-testを用い、群内比較の場合には、対応のある2群の比較であるpaired t-testを用いた。
【0182】
d)実施期間:2017年10月17日~12月7日
【0183】
(2)試験結果
(2-1)FMD検査
表11および
図4に示すように、いずれの群においても、カプセルの摂取開始から4週間後には、摂取前と比較してFMD値の向上が認められた。サンマ油カプセル摂取群では、約44%の顕著なFMD値の向上が認められた。ブレンド油カプセル摂取群では、約21%のFMD値の向上が認められた。各カプセル中のn‐3多価不飽和脂肪酸を同量にしていることから、LC-MUFAの作用によって、血管内皮機能を亢進させる可能性が示された。
【0184】
本発明により、血管内皮障害に起因する疾患に罹患するリスクを低減させる食品組成物および医薬組成物が提供される。また本発明により、目覚めの良さを改善し、生活の質を改善するための食品組成物および医薬組成物が提供される。