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特開2023-56134窒素酸化物吸着材及びディーゼル排気浄化システム
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  • 特開-窒素酸化物吸着材及びディーゼル排気浄化システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056134
(43)【公開日】2023-04-19
(54)【発明の名称】窒素酸化物吸着材及びディーゼル排気浄化システム
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/06 20060101AFI20230412BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20230412BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20230412BHJP
   C01G 49/00 20060101ALI20230412BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20230412BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
B01J20/06 C ZAB
B01J20/28 Z
B01D53/94 222
C01G49/00 A
F01N3/08 A
F01N3/08 B
F01N3/24 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165267
(22)【出願日】2021-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 龍起
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 信也
(72)【発明者】
【氏名】細谷 満
(72)【発明者】
【氏名】平林 浩
(72)【発明者】
【氏名】羽田 政明
(72)【発明者】
【氏名】望月 大輝
【テーマコード(参考)】
3G091
4D148
4G002
4G066
【Fターム(参考)】
3G091AA17
3G091AA18
3G091AB02
3G091AB05
3G091AB09
3G091AB13
3G091BA03
3G091BA14
3G091GB01Y
3G091GB10Y
3G091HA20
4D148AA06
4D148AA07
4D148AA08
4D148AA18
4D148AB01
4D148AB02
4D148AC03
4D148CD01
4D148CD05
4G002AA06
4G002AB02
4G002AE05
4G066AA23B
4G066AA27B
4G066BA31
4G066BA36
4G066CA28
4G066DA02
4G066FA37
(57)【要約】
【課題】窒素酸化物に対するより優れた吸着特性を示す、窒素酸化物吸着材を提供すること。
【解決手段】ZrOにFeが固溶したFe-ZrOを含み、Fe-ZrOの結晶構造が正方晶を含み、正方晶の格子定数が、a軸:0.34~0.36nmであり、c軸:0.49~0.52nmである、窒素酸化物吸着材。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZrOにFeが固溶したFe-ZrOを含み、
前記Fe-ZrOの結晶構造が正方晶を含み、
前記正方晶の格子定数が、a軸:0.340~0.360nmであり、c軸:0.490~0.520nmである、窒素酸化物吸着材。
【請求項2】
Feの含有量が、前記Fe-ZrOの全量を基準として1~50質量%である、請求項1に記載の窒素酸化物吸着材。
【請求項3】
少なくとも選択式還元触媒(SCR)を備え、前記選択式還元触媒よりも上流に配置されるディーゼル排気浄化用部材の少なくともいずれかが請求項1又は2に記載の窒素酸化物吸着材を担持する、ディーゼル排気浄化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒素酸化物吸着材及びディーゼル排気浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
担体基材と、パラジウムと、ゼオライトと、を含む触媒が知られている(例えば、特許文献1)。この触媒は、ディーゼルエンジン等から生じる排気ガスを浄化するために用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2020-531240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、窒素酸化物の吸着特性向上の観点から、パラジウム及びゼオライトを組み合わせて用いる上記材料に代わる、新しい材料が求められている。
【0005】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、窒素酸化物に対するより優れた吸着特性を示す、窒素酸化物吸着材を提供することを目的とする。本開示はまた、当該吸着材を備えるディーゼル排気浄化システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る窒素酸化物吸着材は、ZrOにFeが固溶したFe-ZrOを含み、Fe-ZrOの結晶構造が正方晶を含み、正方晶の格子定数が、a軸:0.340~0.360nmであり、c軸:0.490~0.520nmである。
【0007】
窒素酸化物吸着材の一態様において、Feの含有量は、Fe-ZrOの全量を基準として1~50質量%とすることができる。
【0008】
本開示の一側面に係るディーゼル排気浄化システムは、少なくとも選択式還元触媒(SCR)を備え、前記選択式還元触媒よりも上流に配置されるディーゼル排気浄化用部材の少なくともいずれかが上記の窒素酸化物吸着材を担持する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、窒素酸化物に対するより優れた吸着特性を示す、窒素酸化物吸着材を提供することができる。また、本開示によれば、当該吸着材を備えるディーゼル排気浄化システムを提供することができる。
【0010】
本開示の窒素酸化物吸着材には、その他以下の利点がある。
・パラジウム及びゼオライトを組み合わせて用いる上記材料に比して耐熱性を有し易い(水熱劣化が生じ難い)傾向がある。
・パラジウム及びゼオライトを組み合わせて用いる上記材料に比して嵩密度が高く、ハニカム担体やディーゼル微粒子除去装置(DPF)に対し、担持後の圧損上昇を抑制できる。
・DOCやDPF、あるいはDOCより下流に配置される部材に担持させた場合、DPF再生時の600℃程度の高温により、吸着被毒を引き起こすS分等のパージが行われ、性能回復が容易にできる。
・白金族金属(PGM)を使用しないため安価である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、広角X線回折法により得られた回折チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、場合により図面を参照しつつ本開示の実施形態について詳細に説明する。ただし、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
<窒素酸化物吸着材>
窒素酸化物吸着材は、ZrOにFeが固溶したFe-ZrOを含む。Fe-ZrOは、共沈法により製造することができる酸化物である。例えば、鉄及びジルコニウムの原料(硝酸鉄及びオキシ硝酸ジルコニウム)を含む水溶液を混合し、原料混合物を得る。これにアルカリ溶液を滴下して沈殿物を得る。得られた沈殿物を洗浄して乾燥させた後に焼成することで、ZrOにFeが固溶したFe-ZrOを得ることができる。
【0014】
Fe-ZrOの結晶構造は正方晶を含む。Fe-ZrOの結晶構造は主として正方晶を含んでよく、結晶構造は正方晶であってもよい。ZrOの結晶系は単斜晶であるが、ここにFeが固溶することにより結晶系が正方晶にシフトする。そのため、Fe-ZrOの結晶構造は正方晶及び単斜晶を含んでいてもよい(両者の混晶であってもよい)。結晶構造に含まれる正方晶の割合は、結晶構造に含まれる全晶系を基準として30%以上、望ましくは80%以上とすることができ、100%であってもよい。正方晶の割合は、リートベルト法により求めることができる。
【0015】
窒素酸化物の吸着性の観点から、正方晶のFe-ZrOのa軸の格子定数は0.340~0.360nmであり、望ましくは0.350~0.360nmである。窒素酸化物の吸着性の観点から、正方晶のFe-ZrOのc軸の格子定数は0.490~0.520nmであり、望ましくは0.500~0.515nmである。Fe-ZrOの格子定数は、Feの固溶量を変えることで調整することができる。格子定数は、広角X線回折法により得られるX線回折データから算出することができる。
【0016】
Fe-ZrOにおけるFeの含有量(固溶量)は、窒素酸化物の吸着性の観点から、Fe-ZrOの全量を基準として1~50質量%とすることができ、2~40質量%であってもよく、3~35質量%であってもよく、4~30質量%であってもよい。
【0017】
窒素酸化物としては、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO)、三酸化窒素(NO)、亜酸化窒素(一酸化二窒素)(NO)、三酸化二窒素(N)、四酸化二窒素(N)、五酸化二窒素(N)等のNOxが挙げられる。本開示の窒素酸化物吸着材は、これらのうち特にNO、NO及びNOに対する吸着性に優れる。
【0018】
窒素酸化物吸着材は主としてFe-ZrOを含むものであるが、窒素酸化物の吸着性を損なわない範囲において、それ以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては酸化鉄(III)等が挙げられる。窒素酸化物吸着材は、Fe-ZrOを50質量%以上含んでいてもよく、100質量%含んでいてもよい。すなわち、窒素酸化物吸着材がFe-ZrOからなる(Feが固溶したZrOからなる)ものであってよい。
【0019】
本開示の窒素酸化物吸着材は、常温から200℃程度の低温で、10~2000ppm程度の窒素酸化物を含むディーゼルエンジンの排気から窒素酸化物を選択的に吸着することができる。また、本開示の窒素酸化物吸着材は、温度上昇に伴って吸着した窒素酸化物を徐々に放出することができる。そのため、本開示の窒素酸化物吸着材は、ディーゼル排気浄化システムが備える各種の部材(ディーゼル排気浄化用部材)に担持させて用いることができる。ただし、本開示の窒素酸化物吸着材の用途はこれに限らず、その他、工場排気、ガソリンエンジン排気、道路トンネル内の脱硝等の用途において用いてもよい。
【0020】
<ディーゼル排気浄化システム>
ディーゼル排気浄化システムは、例えば、ディーゼルエンジン、ディーゼル酸化触媒(DOC)、ディーゼル微粒子フィルタ(DPF)、選択式還元触媒(SCR、特に尿素SCR)、アンモニアスリップ触媒(ASC)、窒素酸化物吸着部材等のディーゼル排気浄化用部材を備えるものである。なお、窒素酸化物吸着部材とは、ハニカム担体等に窒素酸化物吸着材を担持させてなるものであり、DOCやDPFとは独立して、窒素酸化物の吸着を主たる目的として設けられる部材である。
【0021】
本開示のディーゼル排気浄化システムは、少なくともSCRを備えており、かつSCRよりも上流(ディーゼルエンジン側)に配置されるディーゼル排気浄化用部材の少なくともいずれかが、上記窒素酸化物吸着材を担持する。これにより、SCRが不活性であるディーゼルエンジン始動時の低温においても、窒素酸化物を好適に吸着することができる。SCRよりも上流に配置されるディーゼル排気浄化用部材としては、DOC、DPF及び窒素酸化物吸着部材が挙げられる。なお、上記窒素酸化物吸着材は耐熱性にも優れており、高温に晒されるDOC及びDPFにおいても劣化し難い。
【0022】
各部材に窒素酸化物吸着材を担持させる方法としては、例えば窒素酸化物吸着材を含むスラリーを調製し、各部材へ塗布した後、乾燥及び焼成する方法が挙げられる。
【実施例0023】
以下、本開示を実施例を用いて詳細に説明するが、本開示は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0024】
<窒素酸化物吸着材の作製>
ZrOにFeが固溶したFe-ZrOを共沈法により作製した。Fe-ZrOの全量を基準として、Feの含有量が5~25質量%の範囲で異なる複数のサンプルを準備した。以下、Fe含有量がx質量%であるサンプルをxFe-ZrOと表記する。
【0025】
<広角X線回折法による結晶性測定>
作製した各サンプルについて、広角X線回折法による結晶性の分析を行った。測定装置にはX線回折装置(株式会社リガク製、Mini Flex-II、特性X線:CuKα)を用い、測定条件は大気雰囲気とした。図1は、広角X線回折法により得られた回折チャートである。同図より、各サンプルの結晶構造が正方晶を含むことが理解される。
また、得られたX線回折データから正方晶の格子定数を算出した。結果を表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
<NOx吸着量測定>
作製した各サンプルの一部について、NOx吸着量測定を行った。測定装置には化学発光式NOx計(株式会社島津製作所製、NOA-7000)を用い、測定条件は、ガス組成:NO=150volppm、O=10vol%、He=balance、流量:100ml/min、ガス温度:80℃とした。結果を表2に示す。
表2中、参照試料としてのPd-ゼオライト及びPt-ゼオライトは、それぞれ以下のようにして作製した。
Pd-ゼオライト:イオン交換法によりゼオライトにPdを担持し、乾燥させた後に焼成して作製した。
Pt-ゼオライト:イオン交換法によりゼオライトにPtを担持し、乾燥させた後に焼成して作製した。
【0028】
【表2】
図1