(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056308
(43)【公開日】2023-04-19
(54)【発明の名称】3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸の安定性向上方法及び安定性向上剤
(51)【国際特許分類】
C09K 15/08 20060101AFI20230412BHJP
A23L 29/00 20160101ALN20230412BHJP
【FI】
C09K15/08
A23L29/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165591
(22)【出願日】2021-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】591082421
【氏名又は名称】丸善製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】阿波 里佳
【テーマコード(参考)】
4B035
4H025
【Fターム(参考)】
4B035LG04
4B035LK19
4H025AA12
4H025AA13
4H025AA16
4H025AA17
(57)【要約】
【課題】構造式(1)で表される化合物の経時的な安定性や加熱処理に対する安定性を向上することができる、前記構造式(1)で表される化合物の安定性向上方法及び安定性向上剤の提供。
【解決手段】構造式(A)で表される化合物を構造式(1)で表される化合物と共存させることを含む構造式(1)で表される化合物の安定性向上方法、及び構造式(1)で表される化合物の安定性を向上するために用いられる安定性向上剤であって、構造式(A)で表される化合物を含む安定性向上剤である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(A)で表される化合物を下記構造式(1)で表される化合物と共存させることを含むことを特徴とする下記構造式(1)で表される化合物の安定性向上方法。
【化1】
【化2】
【請求項2】
前記構造式(1)で表される化合物1質量部に対して、前記構造式(A)で表される化合物0.001質量部以上を共存させる請求項1に記載の安定性向上方法。
【請求項3】
飲食品に含まれる前記構造式(1)で表される化合物の安定性を向上する請求項1から2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
下記構造式(1)で表される化合物の安定性を向上するために用いられる安定性向上剤であって、
下記構造式(A)で表される化合物を含むことを特徴とする安定性向上剤。
【化3】
【化4】
【請求項5】
前記構造式(1)で表される化合物1質量部に対して、前記構造式(A)で表される化合物0.001質量部以上で用いられる請求項4に記載の安定性向上剤。
【請求項6】
飲食品に含まれる前記構造式(1)で表される化合物の安定性を向上する請求項4から5のいずれかに記載の安定性向上剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸の安定性向上方法及び安定性向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
下記構造式(1)で表される化合物の名称は、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸(英名:3-(4-Hydroxy-3-methoxyphenyl)propionic acid)である。下記構造式(1)で表される化合物については、特定の成分を含有する培地にてある種の乳酸菌を培養すると、当該化合物が検出されることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【化1】
【0003】
前記構造式(1)で表される化合物は、ジペプチジルペプチダーゼIV活性阻害剤などの有効成分であり、ジペプチジルペプチダーゼIV活性阻害用飲食品などに配合できることが知られている非常に有用な成分である(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
上述したように、前記構造式(1)で表される化合物は非常に有用な成分であるものの、経時的な安定性や加熱処理に対する安定性が十分とはいえず、その安定性を向上することができる技術の速やかな開発が強く求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-003929号公報
【特許文献2】特開2020-055887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、構造式(1)で表される化合物の経時的な安定性や加熱処理に対する安定性を向上することができる、前記構造式(1)で表される化合物の安定性向上方法及び安定性向上剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために本発明者が鋭意検討を重ねた結果、下記構造式(1)で表される化合物と、下記構造式(A)で表される化合物とを共存させると、下記構造式(1)で表される化合物の経時的な安定性、特に光照射下や高温下における経時的な安定性や、加熱処理に対する安定性を向上させることができることを知見し、本発明を完成した。
【化2】
【化3】
【0008】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 下記構造式(A)で表される化合物を下記構造式(1)で表される化合物と共存させることを含むことを特徴とする下記構造式(1)で表される化合物の安定性向上方法である。
【化4】
【化5】
<2> 前記構造式(1)で表される化合物1質量部に対して、前記構造式(A)で表される化合物0.001質量部以上を共存させる前記<1>に記載の安定性向上方法である。
<3> 飲食品に含まれる前記構造式(1)で表される化合物の安定性を向上する前記<1>から<2>のいずれかに記載の方法である。
<4> 下記構造式(1)で表される化合物の安定性を向上するために用いられる安定性向上剤であって、
下記構造式(A)で表される化合物を含むことを特徴とする安定性向上剤である。
【化6】
【化7】
<5> 前記構造式(1)で表される化合物1質量部に対して、前記構造式(A)で表される化合物0.001質量部以上で用いられる前記<4>に記載の安定性向上剤である。
<6> 飲食品に含まれる前記構造式(1)で表される化合物の安定性を向上する前記<4>から<5>のいずれかに記載の安定性向上剤である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、構造式(1)で表される化合物の経時的な安定性や加熱処理に対する安定性を向上することができる、前記構造式(1)で表される化合物の安定性向上方法及び安定性向上剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(構造式(1)で表される化合物の安定性向上方法)
本発明の構造式(1)で表される化合物の安定性向上方法(以下、「安定性向上方法」と称することがある。)は、共存工程を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
本明細書において、構造式(1)で表される化合物の安定性の向上とは、構造式(1)で表される化合物の含有量の経時的な低下を抑制したり、加熱処理による構造式(1)で表される化合物の含有量の低下を抑制したりすることをいう。
【0011】
<共存工程>
前記共存工程は、構造式(A)で表される化合物を構造式(1)で表される化合物と共存させる工程である。
前記共存工程では、前記構造式(A)で表される化合物、及び前記構造式(1)で表される化合物以外のその他の成分が存在していてもよい。
【0012】
-構造式(1)で表される化合物-
下記構造式(1)で表される化合物の名称は、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸(英名:3-(4-Hydroxy-3-methoxyphenyl)propionic acid)である(以下、「HMPA」と称することがある。)。
【化8】
【0013】
前記構造式(1)で表される化合物は、公知の化合物であり、市販品を使用してもよいし、公知の方法により製造したものを使用してもよい。
【0014】
-構造式(A)で表される化合物-
前記構造式(A)で表される化合物の名称は、4-ヒドロキシ-3-メトキシけい皮酸(英名:4-Hydroxy-3-methoxycinnamic acid)である(以下、「HMCA」と称することがある。)。
【化9】
【0015】
前記構造式(A)で表される化合物は、公知の化合物であり、市販品を使用してもよいし、公知の方法により製造したものを使用してもよい。
【0016】
前記構造式(A)で表される化合物の使用量(共存させる量)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記構造式(1)で表される化合物1質量部に対して、前記構造式(A)で表される化合物を0.001質量部以上用いることが好ましく、0.01質量部以上用いることがより好ましい。前記好ましい範囲内であると、前記構造式(1)で表される化合物の経時的な安定性や加熱処理に対する安定性をより向上することができる点で、有利である。なお、前記構造式(A)で表される化合物の使用量の上限値としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0017】
-その他の成分-
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、前記構造式(1)で表される化合物の用途などに応じて適宜選択することができ、例えば、賦形剤、防湿剤、防腐剤、強化剤、増粘剤、乳化剤、酸化防止剤、甘味料、酸味料、調味料、着色料、香料、美白剤、保湿剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色剤、水性成分、水、皮膚栄養剤、飲食品に用いられる成分などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記その他の成分の使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0018】
-共存-
前記共存の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記構造式(1)で表される化合物を含有する系に前記構造式(A)で表される化合物を加える方法、前記構造式(A)で表される化合物を含有する系に前記構造式(1)で表される化合物を加える方法、前記構造式(1)で表される化合物及び前記構造式(A)で表される化合物を同一の系に同時に加える方法などが挙げられる。これらは、いずれかの方法を単独で使用してもよいし、2種以上の方法を組み合わせてもよい。
【0019】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0020】
<態様>
前記構造式(1)で表される化合物の態様としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、飲食品に含まれる態様、ジペプチジルペプチダーゼIV活性阻害剤などの各種の製剤に含まれる態様などが挙げられる。
また、前記構造式(1)で表される化合物を含有する含有物は、液体であってもよいし、固体であってもよいし、半固体であってもよい。
前記構造式(1)で表される化合物を含有する含有物における前記構造式(1)で表される化合物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0021】
前記飲食品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、茶飲料、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料;アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;そば、うどん、はるさめ、ぎょうざの皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子、パン等の菓子類;カニ、サケ、アサリ、マグロ、イワシ、エビ、カツオ、サバ、クジラ、カキ、サンマ、イカ、アカガイ、ホタテ、アワビ、ウニ、イクラ、トコブシ等の水産物;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;カレー、シチュー、親子丼、お粥、雑炊、中華丼、かつ丼、天丼、うな丼、ハヤシライス、おでん、マーボドーフ、牛丼、ミートソース、玉子スープ、オムライス、餃子、シューマイ、ハンバーグ、ミートボール等のレトルトパウチ食品サラダ、漬物等の惣菜;種々の形態の健康・美容・栄養補助食品;錠剤、顆粒剤、カプセル剤、ドリンク剤、トローチ等の医薬品、医薬部外品などが挙げられる。なお、前記飲食品は上記例示に限定されるものではない。
【0022】
前記製剤の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、錠剤、粉剤、カプセル剤、顆粒剤、エキス剤、シロップ剤等の経口投与剤;注射剤、点滴剤、坐剤等の非経口投与剤;化粧水、乳液、クリーム、軟膏、美容液、ローション、パック、ゼリー、リップクリーム、口紅、ファンデーション、入浴剤、石鹸、ボディーソープ、アストリンゼント、ヘアトニック、ヘアローション、ヘアクリーム、ヘアリキッド、ポマード、シャンプー、リンス、コンディショナー等の外用剤などが挙げられる。
【0023】
本発明の安定性向上方法によれば、構造式(1)で表される化合物の経時的な安定性、特に光照射下や高温下における経時的な安定性や、加熱処理に対する安定性を向上させることができる。
【0024】
(構造式(1)で表される化合物の安定性向上剤)
本発明の構造式(1)で表される化合物の安定性向上剤(以下、「安定性向上剤」と称することがある。)は、構造式(1)で表される化合物の安定性を向上するために用いられる安定性向上剤であって、構造式(A)で表される化合物を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
【0025】
<構造式(A)で表される化合物>
前記構造式(A)で表される化合物は、上記した本発明の安定性向上方法における構造式(A)で表される化合物と同様である。
【0026】
前記構造式(A)で表される化合物の前記安定性向上剤における含有量としては、特に制限はなく、その使用量などに応じて適宜選択することができる。前記安定性向上剤は、前記構造式(A)で表される化合物のみからなるものであってもよい。
【0027】
前記構造式(A)で表される化合物の使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記構造式(1)で表される化合物1質量部に対して、前記構造式(A)で表される化合物を0.001質量部以上用いることが好ましく、0.01質量部以上用いることがより好ましい。前記好ましい範囲内であると、前記構造式(1)で表される化合物の経時的な安定性や加熱処理に対する安定性をより向上することができる点で、有利である。なお、前記構造式(A)で表される化合物の使用量の上限値としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0028】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、上記した本発明の安定性向上方法におけるその他の成分の項目に記載したものなどが挙げられる。
前記その他の成分の前記安定性向上剤における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0029】
本発明の安定性向上剤によれば、構造式(1)で表される化合物の経時的な安定性、特に光照射下や高温下における経時的な安定性や、加熱処理に対する安定性を向上させることができる。
【0030】
前記構造式(1)で表される化合物は、上記した本発明の安定性向上方法における構造式(1)で表される化合物と同様である。また、前記構造式(1)で表される化合物の態様も上記した本発明の安定性向上方法における<態様>の項目に記載したものと同様である。
【実施例0031】
以下、試験例を説明するが、本発明は、これらの試験例に何ら限定されるものではない。なお、以下の試験例では、HMPAは東京化成工業株式会社製のものを用い、HMCA及びアスコルビン酸は富士フイルム和光純薬株式会社製のものを用いた。
【0032】
(試験例1:光照射)
HMPA標準品及びHMCA標準品を0.1mg/mLとなるよう水に溶解させ、NaOHを添加し、pH3又はpH6に調整した。また、アスコルビン酸を10mg/mLとなるよう水に溶解させ、NaOHを添加し、pH3又はpH6に調整した。これらの液を用いて500mLに、HMPA、HMCA、及びアスコルビン酸が表1-1~1-4に記載の濃度となるよう希釈し、サンプルとした。
【0033】
前記サンプルを光照射(14,000lux、25℃)にて保管し、HMCA配合時のHMPAの安定性を確認した。HMPAの安定性は、下記の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)条件にて、保管前後のサンプルにおけるHMPAの量を測定し、HMPAの残存率を算出し、確認した。結果を表1-1~1-4に示す。
<HPLC条件>
・ カラム : Wakosil-II 5C18 HG 4.6mm×250mm(富士フイルム和光純薬株式会社)
・ 移動相 : 水(0.1%THF):アセトニトリル=80:20
・ 流速 : 1mL/分間
・ 温度 : 40℃
・ 注入量 : 10μL
・ 波長 : 280nm
・ オートサンプラー : 15℃
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
(試験例2:40℃保管)
HMPA標準品及びHMCA標準品を0.1mg/mLとなるよう水に溶解させ、NaOHを添加し、pH3又はpH6に調整した。この液を用いて500mLにHMPA及びHMCAが表2-1~2-2に記載の濃度となるよう希釈し、サンプルとした。
前記サンプルを40℃にて保管した以外は、試験例1と同様にして、HMCA配合時のHMPAの安定性を確認した。結果を表2-1~2-2に示す。
【0039】
【0040】
【0041】
(試験例3:殺菌)
HMPA標準品、HMCA標準品、及びアスコルビン酸を1mg/mLとなるよう水に溶解させ、NaOHを添加し、pH6に調整した。これらの液を用いて、HMPA、HMCA、及びアスコルビン酸が表3-1~3-2に記載の濃度となるように調整し、サンプルとした。
前記サンプルを95℃、1時間にて加熱を行った。
前記加熱前後のHMPAの量を試験例1と同様にして測定し、HMPAの安定性を確認した。結果を表3-1~3-2に示す。
【0042】
【0043】
【0044】
以上より、HMPAをHMCAと共存させることで、HMPAの安定性が向上することが確認された。また、この安定性の向上効果は、HMPAをアスコルビン酸と共存させた場合よりも優れていることも確認された。