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特開2023-56309緑色飲食品の退色防止剤、緑色飲食品の退色防止方法、及び緑色飲食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056309
(43)【公開日】2023-04-19
(54)【発明の名称】緑色飲食品の退色防止剤、緑色飲食品の退色防止方法、及び緑色飲食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 3/3508 20060101AFI20230412BHJP
   A23F 3/16 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
A23L3/3508
A23F3/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165593
(22)【出願日】2021-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】591082421
【氏名又は名称】丸善製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】中村 冬馬
【テーマコード(参考)】
4B021
4B027
【Fターム(参考)】
4B021LW06
4B021MK20
4B021MK26
4B021MP01
4B027FB13
4B027FC05
4B027FP74
4B027FP80
(57)【要約】      (修正有)
【課題】緑色飲食品の緑色の退色を簡易に防止することができる緑色飲食品の退色防止剤、緑色飲食品の退色防止方法、及び緑色飲食品の提供。
【解決手段】構造式(1)で表される化合物を含む緑色飲食品の退色防止剤、緑色飲食品に対し、前記退色防止剤を作用させることを含む緑色飲食品の退色防止方法、及び前記退色防止剤を含む緑色飲食品である。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(1)で表される化合物を含むことを特徴とする緑色飲食品の退色防止剤。
【化1】
【請求項2】
アスコルビン酸類を更に含む、又はアスコルビン酸類と併用される請求項1に記載の退色防止剤。
【請求項3】
前記緑色飲食品が、緑茶である請求項1から2のいずれかに記載の退色防止剤。
【請求項4】
緑色飲食品に対し、請求項1から3のいずれかに記載の退色防止剤を作用させることを含むことを特徴とする緑色飲食品の退色防止方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載の退色防止剤を含むことを特徴とする緑色飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑色飲食品の退色防止剤、緑色飲食品の退色防止方法、及び緑色飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
緑茶などの緑色を呈する飲食品は、保管中に紫外線などの影響により、その緑色が退色(「変色」と称することもある。)してしまうことが知られている。このような退色は製品の品質の劣化につながるため、退色を防止するための様々な研究がなされている。
【0003】
例えば、マグネシウム含有化合物、アスコルビン酸類および/またはその塩、およびα-リポ酸および/またはその複合体を含有するクロロフィル含有食品用品質保持剤であって、該クロロフィル含有食品用品質保持剤の1重量%水溶液のpHが7.5~9.5である、クロロフィル含有食品用品質保持剤などが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、上記提案の技術では、緑色の退色を十分に満足するレベルで防止できているとはいえず、更なる改良が求められている。また、飲食品の味への影響を考慮すると、より簡易な構成で緑色の退色を防止できる技術が求められている。
【0005】
下記構造式(1)で表される化合物の名称は、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸(英名:3-(4-Hydroxy-3-methoxyphenyl)propionic acid)である。下記構造式(1)で表される化合物については、特定の成分を含有する培地にてある種の乳酸菌を培養すると、当該化合物が検出されることが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【化1】
【0006】
前記構造式(1)で表される化合物は、ジペプチジルペプチダーゼIV活性阻害剤などの有効成分であり、ジペプチジルペプチダーゼIV活性阻害用飲食品などに配合できることが知られている非常に有用な成分である(例えば、特許文献3参照)。
しかしながら、前記構造式(1)で表される化合物が、緑色飲食品の退色を防止することができることは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-208504号公報
【特許文献2】特開2014-003929号公報
【特許文献3】特開2020-055887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、緑色飲食品の緑色の退色を簡易に防止することができる緑色飲食品の退色防止剤、緑色飲食品の退色防止方法、及び緑色飲食品を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために本発明者が鋭意検討を重ねた結果、下記構造式(1)で表される化合物を緑色飲食品に作用させることにより、紫外線などの光による緑色の退色を防止することができることを知見し、本発明を完成した。
【化2】
【0010】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 下記構造式(1)で表される化合物を含むことを特徴とする緑色飲食品の退色防止剤である。
【化3】
<2> アスコルビン酸類を更に含む、又はアスコルビン酸類と併用される前記<1>に記載の退色防止剤である。
<3> 前記緑色飲食品が、緑茶である前記<1>から<2>のいずれかに記載の退色防止剤である。
<4> 緑色飲食品に対し、前記<1>から<3>のいずれかに記載の退色防止剤を作用させることを含むことを特徴とする緑色飲食品の退色防止方法である。
<5> 前記<1>から<3>のいずれかに記載の退色防止剤を含むことを特徴とする緑色飲食品である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、緑色飲食品の緑色の退色を簡易に防止することができる緑色飲食品の退色防止剤、緑色飲食品の退色防止方法、及び緑色飲食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(緑色飲食品の退色防止剤)
本発明の緑色飲食品の退色防止剤(以下、「退色防止剤」と称することがある。)は、構造式(1)で表される化合物を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
本明細書において、緑色飲食品の退色防止とは、緑色食品の緑色の退色(「変色」と称することもある。)を防止することをいう。なお、前記退色は、光、特に紫外線により生じることが多いが、これに限定されるものではない。
【0013】
<構造式(1)で表される化合物>
下記構造式(1)で表される化合物の名称は、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸(英名:3-(4-Hydroxy-3-methoxyphenyl)propionic acid)である(以下、「HMPA」と称することがある。)。
【化4】
【0014】
前記構造式(1)で表される化合物は、公知の化合物であり、市販品を使用してもよいし、公知の方法により製造したものを使用してもよい。
【0015】
前記構造式(1)で表される化合物の前記退色防止剤における含有量としては、特に制限はなく、使用量などに応じて適宜選択することができる。
【0016】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、賦形剤、防湿剤、防腐剤、強化剤、増粘剤、乳化剤、酸化防止剤、甘味料、酸味料、調味料、水、飲食品に用いられる成分などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記退色防止剤は、アスコルビン酸類を更に含む、又はアスコルビン酸類と併用されることが好ましい。
前記その他の成分の前記退色防止剤における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0017】
-アスコルビン酸類-
前記アスコルビン酸類は、塩の態様であってもよく、水和物の態様であってもよい。
前記アスコルビン酸類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、L-アスコルビン酸、エリソルビン酸(D-イソアスコルビン酸)、L-アスコルビン酸ナトリウム、L-アスコルビン酸カリウム、L-アスコルビン酸アンモニウム、L-アスコルビン酸モノエタノールアミン、L-アスコルビン酸ジエタノールアミン、エリソルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸カリウム、エリソルビン酸アンモニウム、エリソルビン酸モノエタノールアミン、エリソルビン酸ジエタノールアミンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記アスコルビン酸類の前記退色防止剤における含有量としては、特に制限はなく、使用量などに応じて適宜選択することができる。
【0018】
<態様>
前記退色防止剤は、前記構造式(1)で表される化合物と、必要に応じて前記その他の成分とを同一の包材に含む態様であってもよいし、前記各成分を別々の包材に入れ、使用時に併用する態様であってもよい。
前記退色防止剤の形態としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、粉末、顆粒等の固体、水などの溶媒に溶解させた液体などが挙げられる。
【0019】
<使用>
前記退色防止剤の使用方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、製造した緑色飲食品に添加する方法、緑色飲食品の製造過程で添加する方法などが挙げられる。これらは、1種単独の方法で行ってもよいし、複数の方法を組み合わせて行ってもよい。
【0020】
前記退色防止剤の使用量としては、特に制限はなく、前記構造式(1)で表される化合物や、必要に応じて前記その他の成分の使用量などを考慮して、適宜選択することができる。
【0021】
前記構造式(1)で表される化合物の使用量としては、特に制限はなく、対象とする緑色飲食品の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、対象とする緑色飲食品が緑茶などの飲料の場合は、飲料100mLあたり、1mg以上が好ましく、2mg以上がより好ましく、4mg以上がさらに好ましい。前記好ましい範囲内であると、緑色飲食品の退色防止効果がより優れる点で、有利である。なお、前記構造式(1)で表される化合物の使用量の上限値としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0022】
前記アスコルビン酸類の使用量としては、特に制限はなく、対象とする緑色飲食品の種類に応じて適宜選択することができるが、前記構造式(1)で表される化合物との質量比(構造式(1)で表される化合物:アスコルビン酸類)として、1:0.01~1:20が好ましく、1:0.1~1:10がより好ましく、1:0.5~1:5が特に好ましい。前記好ましい範囲内であると、緑色飲食品の退色防止効果がより優れる点で、有利である。
【0023】
前記退色防止剤は、単独で使用してもよいし、他の退色防止剤と組み合わせて使用してもよい。
【0024】
<緑色飲食品>
前記緑色飲食品としては、緑色を有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、緑茶、緑色野菜、クロレラ、ユーグリナ、スピルリナなどが挙げられる。これらは、1種単独の飲食品であってもよいし、2種以上の食品素材を含む飲食品の混合物であってもよい。
前記緑色飲食品は、前記退色保持剤を作用させる以外は、通常の方法により製造することができる。
【0025】
前記緑茶は、ツバキ科茶の樹の芽、葉、茎であり、その品種や産地としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記緑茶は、生のままであってもよいし、緑色が残存していれば飲料用の前処理(発酵、半発酵など)を施したものであってもよい。前記緑茶の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、煎茶、玉露、かぶせ茶、番茶、玉緑茶、抹茶、ほうじ茶、釜炒り茶、てん茶などが挙げられる。
【0026】
前記抹茶は挽き茶ともいわれ、一般には上記てん茶を臼で挽いて粉にしたものであるが、本明細書では、抹茶には、てん茶の粉に限らず広く緑茶を粉状化したものも含まれる。
【0027】
前記緑色野菜としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、グリーンピース、ブロッコリー、グリーン・アスパラガス、枝豆、ほうれん草、インゲンマメ、わらび、キャベツ、ピーマン、コマツナ、サヤエンドウ、オクラ、大麦若葉などが挙げられる。前記緑色野菜は、野菜全体であってもよいし、その一部であってもよい。
【0028】
前記緑色飲食品には、例えば、緑茶や抹茶等を利用した加工飲食品も含まれる。具体的には、茶飲料(いわゆる「お茶」);スナック類;栄養食品;炭酸飲料;機能性飲料;アルコール飲料;アイスクリーム、シャーベット等の冷菓類;ゼリー、プリン、羊かん等のデザート類;クッキー、ケーキ、チョコレート、チューイングガム、饅頭等の菓子類;蒸しパン、菓子パン、食パン等のパン類;ラムネ菓子;タブレット;錠菓類などが挙げられる。
【0029】
前記緑色飲食品の好ましいものとしては、緑茶が挙げられる。
【0030】
(緑色飲食品の退色防止方法)
本発明の緑色飲食品の退色防止方法(以下、「退色防止方法」と称することがある)は、緑色飲食品に対し、本発明の退色防止剤を作用させる。
【0031】
前記緑色飲食品に前記退色防止剤を作用させる方法としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、上記した本発明の退色防止剤における<使用>の項目に記載した方法と同様にして行うことができ、使用量も同様とすることができる。
【0032】
前記緑色飲食品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、上記した本発明の退色防止剤における<緑色飲食品>の項目に記載したものと同様のものが挙げられる。
【0033】
本発明の退色防止剤及び退色防止方法によれば、緑色飲食品の緑色の退色を簡易に防止することができる。
【0034】
(緑色飲食品)
本発明の緑色飲食品は、本発明の退色防止剤を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
【0035】
前記退色防止剤の前記緑色飲食品における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、上記した本発明の退色防止剤における<使用>の項目に記載の使用量と同様とすることができる。
【0036】
前記緑色飲食品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、上記した本発明の退色防止剤における<緑色飲食品>の項目に記載したものと同様のものが挙げられる。
【実施例0037】
以下、試験例を説明するが、本発明は、これらの試験例に何ら限定されるものではない。なお、以下の試験例で用いたHMPAは、東京化成工業株式会社製のものを用いた。
【0038】
(試験例1)
HMPA配合による緑色の退色防止効果を下記のようにして試験した。
【0039】
<検体調製>
緑色飲食品の一例として、緑茶を用いた。具体的には、熱湯150gに緑茶ティーバッグ(株式会社伊藤園製)を加え30秒間浸し、10回上下に振った後、HMPAを加えて(HMPAの濃度:23mg/50mL、23mg/150mL、23mg/500mL、又は23mg/2,000mL)混合し、検体とした。また、HMPAを加えない以外は同様にして、HMPA無配合品を調製した。
【0040】
<紫外線照射>
50W/mの紫外線量で、3時間紫外線を前記検体に照射した。
【0041】
<色差測定>
紫外線照射開始時(以下、「初発」と称することがある。)、並びに照射開始1時間後、2時間後、及び3時間後の検体について、分光色差計(SE6000、日本電色工業株式会社製)に付して透過測色モードにて色調を測定した。
値の測定値及び初発のa値との差(以下、「Δa値」と称することがある。)をまとめた結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1に示したように、HMPA無配合品に比べて、HMPAを配合した場合の方が、a値の上昇が抑制されていた。
値は、プラスの方向になるほど赤みが強く、マイナスの方向になるほど緑みが強いことを示す。そのため、HMPAを配合することで、緑色の退色防止効果が得られることが確認された。
【0044】
(試験例2)
HMPAとアスコルビン酸類の併用による緑色の退色防止効果を下記のようにして試験した。なお、本試験例では、アスコルビン酸類の一例として、L-アスコルビン酸を用いた。
【0045】
<検体調製>
緑色飲食品の一例として、緑茶を用いた。具体的には、熱湯150gに緑茶ティーバッグ(株式会社伊藤園製)を加え30秒間浸し、10回上下に振った後、表2に記載の濃度となるように各原料を加えて混合し、検体とした。また、HMPA及びL-アスコルビン酸を加えない以外は同様にして、HMPA及びL-アスコルビン酸無配合品を調製した。
【0046】
<紫外線照射>
50W/mの紫外線量で、3時間紫外線を前記検体に照射した。
【0047】
<色差測定>
紫外線照射開始時(以下、「初発」と称することがある。)、並びに照射開始3時間後の検体について、分光色差計(SE6000、日本電色工業株式会社製)に付して透過測色モードにて色調を測定した。
値の測定値及び初発のa値との差(以下、「Δa値」と称することがある。)をまとめた結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
表2に示したように、HMPAをアスコルビン酸類と併用することで、a値の上昇が抑制されることが示された。そのため、HMPAをアスコルビン酸類と併用することで、より優れた緑色の退色防止効果が得られることが確認された。