(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056328
(43)【公開日】2023-04-19
(54)【発明の名称】成膜装置およびこれを用いた結晶性半導体膜の成膜方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/365 20060101AFI20230412BHJP
H01L 21/368 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
H01L21/365
H01L21/368 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165618
(22)【出願日】2021-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000190105
【氏名又は名称】信越エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】橋上 洋
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 宗之
【テーマコード(参考)】
5F045
5F053
【Fターム(参考)】
5F045AA03
5F045AB40
5F045AC11
5F045AC12
5F045AC16
5F045AD09
5F045AF02
5F045AF03
5F045AF04
5F045AF07
5F045AF09
5F045AF10
5F045BB08
5F045DP03
5F045EE02
5F045EF02
5F045EK07
5F053AA50
5F053BB60
5F053DD20
5F053FF01
5F053GG01
5F053HH01
5F053HH04
5F053HH05
5F053RR05
(57)【要約】
【課題】安定かつ高い生産性で結晶配向性の良好な結晶性半導体膜を成膜可能な成膜装置、及び結晶性半導体膜の成膜方法を提供する。
【解決手段】成膜装置であって、原料溶液を霧化して原料ミストを発生させる霧化手段と、前記原料ミストを搬送するキャリアガス供給手段と、前記原料ミストと前記キャリアガスが混合された混合気を基体表面に供給するミスト供給手段と、前記基体を載置するステージと、前記基体を加熱する加熱手段と、前記ステージに直接または間接的に配管接続された排気手段と、を具備するものであることを特徴とする成膜装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜装置であって、
原料溶液を霧化して原料ミストを発生させる霧化手段と、
前記原料ミストを搬送するキャリアガス供給手段と、
前記原料ミストと前記キャリアガスが混合された混合気を基体表面に供給するミスト供給手段と、
前記基体を載置するステージと、
前記基体を加熱する加熱手段と、
前記ステージに直接または間接的に配管接続された排気手段と、
を具備するものであることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記ステージと前記排気手段を直接または間接的に前記配管接続する配管が、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ナイロン、アセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンゴム、スチルゴム、エチレン・プロピレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ソーダガラス、ホウ珪酸ガラス、石英ガラス、炭化シリコン、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、ニッケル合金、ステンレスのいずれか、またはこれらの組合せで構成されているものであることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
更に、前記排気手段に配管接続された除害手段を具備するものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記排気手段と前記除害手段を前記配管接続する配管が、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ナイロン、アセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンゴム、スチルゴム、エチレン・プロピレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ソーダガラス、ホウ珪酸ガラス、石英ガラス、炭化シリコン、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、ニッケル合金、ステンレスのいずれか、またはこれらの組合せで構成されているものであることを特徴とする請求項3に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記排気手段の接ガス部が、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ナイロン、アセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンゴム、スチルゴム、エチレン・プロピレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ソーダガラス、ホウ珪酸ガラス、石英ガラス、炭化シリコン、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、ニッケル合金のいずれか、またはこれらの組合せで構成されているものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記ステージと前記排気手段を直接または間接的に前記配管接続する配管に、該配管を冷却する冷却手段をさらに具備するものであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の成膜装置を用いた結晶性半導体膜の成膜方法であって、
前記基体を前記ステージに載置するステップと、
前記排気手段によって前記基体を真空吸着することにより前記ステージに固定するステップと、
前記基体を加熱するステップと、
前記原料溶液を霧化するステップと、
前記霧化された原料溶液と前記キャリアガスを混合させて前記混合気を形成するステップと、
前記混合気を前記基体に供給して前記基体上に成膜を行うステップを含む
ことを特徴とする結晶性半導体膜の成膜方法。
【請求項8】
更に、前記原料溶液のpHを0.4以上4.0以下とすることを特徴とする請求項7に記載の結晶性半導体膜の成膜方法。
【請求項9】
前記基体として主表面積が15cm2以上のものを用いることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の結晶性半導体膜の成膜方法。
【請求項10】
前記ステージに固定するステップにおいて、配管内の真空度を80kPa以下とすることを特徴とする請求項7から請求項9のいずれか1項に記載の結晶性半導体膜の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置およびこれを用いた結晶性半導体膜の成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低温かつ大気圧雰囲気で基体上に様々な薄膜を形成できる方法としてミスト化学気相成長法(Mist Chemical Vapor Deposition:Mist CVD。以下、「ミストCVD法」ともいう)が知られている。中でも、電子デバイス用途に有用な結晶性半導体薄膜が形成可能という点で注目されている。特許文献1には、ガリウムアセチルアセトナート錯体を塩酸と水の混合液に溶解した原料溶液をミスト化して反応器内に設けられた狭い空間(ファインチャネル)に設置されたサファイア基板に供給し、350℃から500℃に保持された該基板上にα-Ga2O3膜を形成する方法が記載されている。特許文献2には、臭化ガリウムの水溶液に臭化水素酸加えた原料溶液をミスト化し、ホットプレート上で550℃に保たれたサファイア基板へ供給してα-Ga2O3膜を形成した例が記載されている。また特許文献3には、塩化ガリウムとフッ化アンモニウムが溶解された水溶液を原料として用い、750℃に加熱されたβ-Ga2O3膜基板にエピタキシャル成長を行う方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-028480号公報
【特許文献2】特開2020-107636号公報
【特許文献3】特開2020-188170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、ミストCVDによる結晶薄膜成長は高温に保たれた基体に液滴として原料を供給する点が特徴である。しかしながら、加熱された基体に液滴が供給されることで、基体の厚さ方向には大きな温度勾配が発生する。これにより、基体の直径が大きくなるにしたがって基体の反りや割れが頻繁に発生するようになり、生産性が著しく悪化するという問題があった。そのため一般的にはミスト供給量やキャリアガス流量を低減するなどして温度勾配を緩和する方法が採られるが、これにより膜の成長速度が低下するため生産性の改善が困難であった。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、安定かつ高い生産性で結晶配向性の良好な結晶性半導体膜を成膜可能な成膜装置、及び結晶性半導体膜の成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明では、成膜装置であって、
原料溶液を霧化して原料ミストを発生させる霧化手段と、
前記原料ミストを搬送するキャリアガス供給手段と、
前記原料ミストと前記キャリアガスが混合された混合気を基体表面に供給するミスト供給手段と、
前記基体を載置するステージと、
前記基体を加熱する加熱手段と、
前記ステージに直接または間接的に配管接続された排気手段と、
を具備するものである成膜装置を提供する。
【0007】
このような成膜装置であれば、基体を安定して保持することができるので、安定かつ高い生産性で結晶配向性の良好な結晶性半導体膜を成膜可能な成膜装置とすることができる。
【0008】
このとき、前記ステージと前記排気手段を直接または間接的に前記配管接続する配管が、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ナイロン、アセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンゴム、スチルゴム、エチレン・プロピレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ソーダガラス、ホウ珪酸ガラス、石英ガラス、炭化シリコン、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、ニッケル合金、ステンレスのいずれか、またはこれらの組合せで構成されているものであることが好ましい。
【0009】
このような成膜装置であれば、反応性の高い原料やガスに対して堅牢な装置とすることができ、容易に安定的に成膜可能で高い生産性の装置とすることができる。
【0010】
このとき、更に、前記排気手段に配管接続された除害手段を具備するものであることが好ましい。
【0011】
このような成膜装置であれば、排気ガスに含まれる有害物質を除去できるため、配管内の真空度を安定して維持できるものとなる。
【0012】
このとき、前記排気手段と前記除害手段を前記配管接続する配管が、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ナイロン、アセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンゴム、スチルゴム、エチレン・プロピレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ソーダガラス、ホウ珪酸ガラス、石英ガラス、炭化シリコン、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、ニッケル合金、ステンレスのいずれか、またはこれらの組合せで構成されているものであることが好ましい。
【0013】
このような成膜装置であれば、反応性の高い原料やガスに対してさらに堅牢な装置とすることができ、より容易に安定的に成膜可能で高い生産性の装置とすることができる。
【0014】
またこのとき、前記排気手段の接ガス部が、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ナイロン、アセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンゴム、スチルゴム、エチレン・プロピレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ソーダガラス、ホウ珪酸ガラス、石英ガラス、炭化シリコン、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、ニッケル合金のいずれか、またはこれらの組合せで構成されているものであることが好ましい。
【0015】
このような成膜装置であれば、安定して基体を固定することができるので、さらに安定的に成膜可能で高い生産性の装置とすることができる。
【0016】
このとき、前記ステージと前記排気手段を直接または間接的に前記配管接続する配管に、該配管を冷却する冷却手段をさらに具備するものであることが好ましい。
【0017】
このような成膜装置であれば、装置構成とプロセス条件の自由度を高くすることができるので、より高品質な結晶性半導体膜を安定的に成膜可能な装置とすることができる。
【0018】
また本発明は、上記成膜装置を用いた結晶性半導体膜の成膜方法であって、
前記基体を前記ステージに載置するステップと、
前記排気手段によって前記基体を真空吸着することにより前記ステージに固定するステップと、
前記基体を加熱するステップと、
前記原料溶液を霧化するステップと、
前記霧化された原料溶液と前記キャリアガスを混合させて前記混合気を形成するステップと、
前記混合気を前記基体に供給して前記基体上に成膜を行うステップを含む
ことを特徴とする結晶性半導体膜の成膜方法を提供する。
【0019】
このような成膜方法であれば、結晶配向性の良好な結晶性半導体膜を安定且つ高い生産性で成膜できる。
【0020】
このとき、更に、前記原料溶液のpHを0.4以上4.0以下とすることが好ましい。
【0021】
このような結晶性半導体膜の成膜方法であれば、金属元素の脱離が支配的にならず、膜成長が阻害されることがなく金属の水酸化物の析出が顕著にならず、該析出物起因の欠陥が成長膜に導入されず膜の品質が低下することがない。
【0022】
このとき、前記基体として主表面積が15cm2以上のものを用いることが好ましい。
【0023】
このようにすることで、結晶配向性の良好な結晶性半導体膜をより高い生産性で成膜できる。
【0024】
このとき、前記ステージに固定するステップにおいて、前記配管内の真空度を80kPa以下とすることが好ましい。
【0025】
このような結晶性半導体膜の成膜方法であれば、基体に生じる熱ストレスに起因した反りを十分抑制でき、基体が割れてしまうことがない。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、大面積且つ優れた結晶配向性の結晶性半導体膜を安定して成膜できる生産性の高い成膜装置が得られる。また本発明によれば、大面積且つ優れた結晶配向性の結晶性半導体膜を安定的かつ高い生産性で成膜可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明に係る成膜装置の一形態を示す概略図である。
【
図2】本発明に係る基体保持手段の一形態を示す概略図である。
【
図3】本発明に係る基体保持手段の別の形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
上述のように、安定かつ高い生産性で結晶配向性の良好な結晶性半導体膜を成膜可能な成膜装置の開発が求められていた。
【0029】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、基体を載置するステージに直接または間接的に配管接続された排気手段を具備すれば、安定かつ高い生産性で結晶配向性の良好な結晶性半導体膜を成膜可能な成膜装置となることを見出し、本発明を完成させた。
【0030】
即ち、本発明は、成膜装置であって、
原料溶液を霧化して原料ミストを発生させる霧化手段と、
前記原料ミストを搬送するキャリアガス供給手段と、
前記原料ミストと前記キャリアガスが混合された混合気を基体表面に供給するミスト供給手段と、
前記基体を載置するステージと、
前記基体を加熱する加熱手段と、
前記ステージに直接または間接的に配管接続された排気手段と、
を具備するものである成膜装置である。
【0031】
以下、本発明について
図1を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0032】
[成膜装置]
本発明の成膜装置は、霧化手段と、キャリアガス供給手段と、ミスト供給手段と、基体を載置するステージと、加熱手段と、前記ステージに直接または間接的に配管接続された排気手段と、を具備するものである成膜装置である。以下詳細について説明する。
【0033】
図1は、本発明に好適に用いられる成膜装置の構成の一形態を説明する図である。本発明に好適に用いられる成膜装置100は、原料溶液121を霧化して原料ミスト122を発生させる原料容器120に接する霧化手段123と、原料ミスト122を基体130に供給して基体130上に膜を形成する成膜室131と、配管136で接続された成膜室131から排出される排気ガスを処理する除害手段137と、基体130を載置するステージ135と、基体130とステージ135を加熱する加熱手段132と、基体130を減圧吸引(真空吸着)により固定するためのステージ135に直接的に配管接続されたポンプなどの排気手段142と、排気手段142の排気を処理するための除害手段143を具備する。
【0034】
成膜装置100は、さらに、キャリアガス供給手段111を具備し、キャリアガス供給手段111、原料容器120、および成膜室131は配管113および配管124で接続されている。キャリアガス151と原料ミスト122は原料容器120で混合されて混合気152を形成し、ミスト供給手段160によって成膜室131へ供給される。
【0035】
(原料溶液)
原料溶液121はミスト化が可能であれば特に限定されず、金属を錯体または塩の形態で、水や有機溶媒である溶媒に溶解あるいは分散させたものを用いることができる。
【0036】
このとき、前記溶媒に塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸といった酸や、アンモニアなどのアルカリを添加し、該溶媒のpHを調整して用いるのが良い。
【0037】
(霧化手段)
原料溶液121の霧化手段123は、原料溶液121を霧化または液滴化できさえすれば特に限定されず、公知の手段であってよいが、本発明においては、超音波を用いる霧化手段が好ましい。超音波を用いて得られたミストまたは液滴は、初速度がゼロであり、空中に浮遊するので好ましく、例えば、スプレーのように吹き付けるのではなく、空間に浮遊してガスとして搬送することが可能なミストであるので衝突エネルギーによる損傷がないため非常に好適である。液滴サイズは、特に限定されず、数mm程度の液滴であってもよいが、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは0.1~10μmである。
【0038】
(原料容器)
また、原料容器120は、成膜する材料などに応じて複数台を備えていても良い。またこの場合、複数の原料容器120から成膜室131へ供給される混合気152は、それぞれ独立して成膜室131に供給されても良いし、配管124中、あるいは混合用の容器(不図示)などを別途設けて混合しても良い。
【0039】
原料容器120は原料溶液121を直接的または間接的に温度調整する温度制御手段(不図示)をさらに具備していて良い。原料溶液121の温度は、霧化が可能な温度であれば特に限定されないが、好ましくは10℃から90℃であるのがよく、より好ましくは20℃から50℃とするのが良い。このようにすることで、基体130の膜形成面における温度低下が緩和され、より良好な成膜が可能になる。90℃以下であれば、原料ミスト122の気化が有効に抑制され、成膜での収率を安定して維持でき、膜表面の欠陥の導入がより安定して抑制できる。
【0040】
原料容器120は、図には示していない原料溶液121を補充する手段をさらに具備していて良い。この場合、原料溶液121を補充する手段は、原料溶液121の重量あるいは液面を直接または間接的に検出する手段をさらに備えていて良い。
【0041】
(キャリアガス供給手段)
キャリアガス供給手段111は、キャリアガス151を供給する。キャリアガス151の種類は特に限定されず、窒素やアルゴンといった不活性ガスの他、空気、酸素、オゾン、あるいは水素やフォーミングガスといった還元ガスを用いることもできるし、これらのガスを複数混合して用いることもできる。キャリアガスの流量は、基体サイズや成膜室の大きさにより適宜設定すればよく、例えば0.01~100L/分程度とすることができる。
【0042】
また、キャリアガス供給手段111は、空気圧縮機や各種ガスボンベまたは窒素ガス分離機などでもよく、また、ガスの供給流量を制御する機構を備えることもできる。
【0043】
(成膜室)
成膜室131には、配管124に連結され、混合気152を成膜室131内に供給する供給管134が設置されている。供給管134は、たとえば石英やガラス、あるいは樹脂製のチューブ等を使用することができる。また供給管134からのミスト供給に影響を及ぼさない位置に排気ガスの排気口133を設けていて良い。また排気口133は配管136を介して除害手段137に接続されていてもよい。また配管136または除害手段137は、排気流量や外気導入量を調節する手段をさらに備えていて良い。除害手段137は、排気ガスに含まれる有害物質を除去できるものであれば特に限定されず、例えばミストトラップ、ウェットスクラバー、燃焼除害装置、バグフィルターといった公知の技術を広く適用することができる。
【0044】
成膜室131の構造や材質等は特に限定されるものではなく、例えば、アルミニウムやステンレスなどの金属や、ソーダガラス、ホウ珪酸ガラスを用いてもよいし、より高温で成膜を行う場合には石英や炭化シリコン、酸化アルミ、窒化アルミを用いても良い。
【0045】
成膜室131の底部にはステージ135が設置されており、ステージ135には基体130が載置されている。ステージ135は加熱手段132を備えており、ステージ135が加熱されることにより基体130が加熱される。基体130の加熱は、使用する原料ミスト122や成膜条件により適宜調整されるが、一般に120℃~800℃の範囲とすることができる。
【0046】
(ミスト供給手段)
ミスト供給手段160は、混合気152を基体130表面に供給するものであれば特に限定されない。例えば、配管124と供給管134を合わせてミスト供給手段160とすることができる。
【0047】
(加熱手段)
加熱手段132には公知の加熱手段が適用でき、抵抗加熱、電磁誘導加熱、あるいはランプ加熱などが好適に用いられる。
【0048】
(ステージ)
ステージ135の材料は、成膜に用いる原料の酸性度や加熱温度などのプロセス条件に応じて適宜選択されれば良いが、特にステージ135の表面の少なくとも一部がニッケル合金、グラファイト、炭化ケイ素、酸化アルミ、窒化アルミ、石英であるのが良く、原料溶液に対してより高い耐蝕性を求める場合には、炭化ケイ素、酸化アルミ、窒化アルミ、石英であるのがより好ましい。尚、ニッケル合金とはニッケルを50%以上含む合金を指す。
【0049】
また、ステージ135は、原料溶液の種類やプロセス条件に応じて、交換可能な構造としてもよい。この場合、例えばステージを台座と該台座に載せた上板の積層構造とし、基体を該上板に載置する構造としてもよい。このとき基体と上板は、上板に施された貫通孔を通して、該台座へ同時に吸着固定されてよい。
【0050】
またステージ135は、基体を搬送もしくは回転させる機構をさらに具備していて良い。
【0051】
またステージ135の基体載置部には、ステージ135の基体載置面とその裏面をつなぐ単一または複数の吸着孔135aが形成されており、吸着孔135aと排気手段142と除害手段143は、配管141と配管144で接続されている。基体130は、排気手段142によって吸着孔135aおよび配管141の内部が減圧されることにより、ステージ135上に固定される。
【0052】
ステージ135の基体載置面は、基体130の形状に適した形状とすることができ、平面でも良いし、湾曲部を有していてもよいし、凹凸形状を呈していてもよい。
【0053】
(配管)
配管113、124は原料溶液121や成膜室131内外における温度などに対して十分な安定性を持つものであれば特に限定されず、石英の他、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、シリコン樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂などといった一般的な樹脂製の配管を広く用いることができる。
【0054】
また、図には示していないが、キャリアガス供給手段111から原料容器120を介さない配管を別途配管124に接続し、混合気152へさらに希釈ガスを添加し、原料ミスト122とキャリアガス151の割合を調節することも可能である。希釈ガスの流量は適宜設定すればよく、例えばキャリアガスの0.1~20倍/分とすることができる。希釈ガスは、例えば原料容器120の下流側へ供給するとよい。希釈ガスはキャリアガス151と同じものを用いても良いし、異なるものを用いても良い。
【0055】
配管141、144は原料溶液121の種類やステージ135の使用温度により適宜選択されるが、少なくとも一部がポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ナイロン、アセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンゴム、スチルゴム、エチレン・プロピレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ソーダガラス、ホウ珪酸ガラス、石英ガラス、炭化シリコン、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、ニッケル合金、ステンレスのいずれか、またはこれらの組合せで構成されているのが好ましい。このようにすることで、成膜に反応性の高い原料溶液を用いた場合でも配管が損傷を受けることがなくなるので、継続して安定的に基体の固定が可能になる。
【0056】
また、ステージ135が300℃以上の高温になる場合には、少なくとも配管141のステージ135との接続部分に石英ガラス、酸化アルミニウム、炭化シリコン、窒化アルミニウム、ニッケル合金、ステンレスといった耐熱材を用いるのが好ましい。このようにすることで、ステージ135と配管141を断熱したり、あるいはステージ135からの熱を放熱することが可能となるので、使用可能な配管材の自由度が高くすることができ、より多様な装置設計が可能となる。
【0057】
(冷却手段)
配管141の放熱をより積極的に促す場合には、
図2に示すように、ステージ135と排気手段142を接続する配管241の任意の箇所に冷却手段238を備えていてもよい。冷却手段238は公知の冷却方法が広く適用でき、空冷でも良いし水冷でも良い。また金属ブロックや放熱フィンを併用しても良いし、上記耐熱材で構成した配管241の長さや形状を調整して放熱を促すようにしたものでもよい。
【0058】
(排気手段)
排気手段142は、エジェクターあるいは真空ポンプが好適に用いられる。また、排気手段142の接ガス部が、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ナイロン、アセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンゴム、スチルゴム、エチレン・プロピレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ソーダガラス、ホウ珪酸ガラス、石英ガラス、炭化シリコン、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、ニッケル合金のいずれか、またはこれらの組合せで構成されているとよい。このようにすることで、成膜に反応性の高い原料溶液を用いた場合でも機器が損傷を受けることがなくなるので、継続して安定的に基体の固定が可能になる。
【0059】
また、排気手段142による到達真空度は、基体130を安定して固定できる範囲であれば特に限定されないが、基体130をより安定して保持するため、好ましくは80kPa以下、より好ましくは40kPa以下である。また、到達真空度を監視するため、配管141、242が図には示していない圧力計を具備していてもよい。またこの場合、該圧力計は計測値に応じた信号を外部計器に出力できるものであって良い。
【0060】
(除害手段)
上述のように、前記排気手段に配管接続された除害手段143を備えることが好ましい。この場合除害手段143は、ステージ135から吸引された排気ガスに含まれる有害物質を除去できるものであれば特に限定されず、例えばミストトラップ、ウェットスクラバー、燃焼除害装置、バグフィルターといった公知の技術を広く適用することができる。これにより、排気ガスに含まれる有害物質を除去できるため、配管内の真空度を安定して維持できるものとなる。
【0061】
尚、
図1の成膜装置100は除害手段137、143を別々に具備する形態を示しているが、本発明はこれに限らず、除害手段137、143は同一の手段で以て一括処理される形態とすることもできる。
【0062】
また、
図1、2では除害手段143が排気手段142からの排気を処理する形態の例を示したが、本発明はこれに限らず、
図3に示すように、除害手段143を配管341aと配管341b(配管341)で以てステージ135と排気手段142の間に設け、除害手段143で処理されたガスを排気手段が吸引する形態としてもよい。
【0063】
[結晶性半導体膜の成膜方法]
また、本発明では、成膜装置を用いた結晶性半導体膜の成膜方法であって、前記基体を前記ステージに載置するステップと、前記排気手段によって前記基体を真空吸着することにより前記ステージに固定するステップと、前記基体を加熱するステップと、前記原料溶液を霧化するステップと、前記霧化された原料溶液と前記キャリアガスを混合させて前記混合気を形成するステップと、前記混合気を前記基体に供給して前記基体上に成膜を行うステップを含む結晶性半導体膜の成膜方法を提供する。即ち、本発明の上記成膜装置を用いた結晶性半導体膜の成膜方法であって、原料溶液をミスト化し、ミスト化された原料溶液(原料ミスト)を前記成膜装置のステージに吸着固定された基体に供給して前記基体上に成膜を行うことを特徴とする結晶性半導体膜の成膜方法である。
【0064】
基体130は、形成する結晶性半導体膜を支持できるものであれば特に限定されない。本発明においては、基体130の形状は、平板や円板等の板状であるのがよいが、これに限らず棒状、円柱状、角柱状、筒状、リング状などとすることもできる。基体130の材料も、特に限定されず、公知のものであってよく、有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。例えば、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、鉄やアルミニウム、ステンレス鋼、金等の金属や、石英、ガラス、炭酸カルシウム、酸化ガリウム、ZnO等が挙げられるが、特に単結晶が好ましく、GaN、SiC、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、シリコン、サファイア、α型酸化ガリウムの単結晶を用いるとより結晶配向性の良好な結晶性半導体膜が得られやすくなるので好ましい。
【0065】
また、結晶性半導体膜形成面の面積(主表面積)が好ましくは15cm2以上、より好ましくは20cm2以上の基体が好適に使用でき、さらに厚さが好ましくは50~5000μm、より好ましくは100~2000μmの基体も好適に使用できる。厚さが50μm以上であれば結晶性半導体膜を支持することが容易であり、5000μm以下であれば原料ミストによる基体表面の温度低下が著しくならず、結晶性半導体膜の結晶配向性が低下しない。また、主表面積が15cm2以上であれば、結晶配向性の良好な結晶性半導体膜をより高い生産性で成膜できる。
【0066】
基体をステージに載置するステップにおいて、基体をステージに載置する方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0067】
基体130を吸着固定するステップでは、基体130をステージ135の基体載置面に載せ、排気手段142によって基体130で塞がれた吸着孔135aに真空を形成することによって基体130をステージ135に固定する。このときの真空度は成膜条件や基体の特性に応じて適宜調整されるが、一般に80kPa以下、より好ましくは40kPa以下とするのが良い。80kPa以下であれば、基体130に生じる熱ストレスに起因した反りを十分抑制でき、基体が割れてしまうことがない。
【0068】
前記基体を加熱するステップにおいて、加熱方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができるが、特に前記ステージを加熱することが好ましい。また、加熱温度は特に限定されない。
【0069】
原料溶液を霧化するステップにおいて、原料溶液を霧化する方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができ、好ましくは超音波を用いるのがよい。
【0070】
原料溶液には金属を錯体または塩の形態で有機溶媒または水に溶解あるいは分散させたものを用いることができる。このとき、前記有機溶媒や水などの溶媒に塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸といった酸や、アンモニアなどのアルカリを添加し、該溶媒のpHを調整して用いるのが良い。この場合好ましくは原料溶液のpHを0.4~4.0、より好ましくは0.8~2.0とするのが良い。pHが0.4以上であれば金属元素の脱離が支配的にならず、膜成長が阻害されることがなく、また4.0以下であれば金属の水酸化物の析出が顕著にならず、該析出物起因の欠陥が成長膜に導入されず膜の品質が低下することがない。
【0071】
塩の形態としては、例えば塩化金属塩、臭化金属塩、ヨウ化金属塩といったハロゲン化塩が挙げられる。また、上記金属を塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸といったハロゲン化水素などに溶解した塩溶液として用いることもできる。錯体の形態としては、例えばアセチルアセトン錯体、カルボニル錯体、アンミン錯体、ヒドリド錯体などが挙げられる。また上記塩溶液にアセチルアセトンを混合することによってもアセチルアセトナート錯体を形成することもできる。
【0072】
原料溶液中の金属の含有量は、特に限定されず、目的に応じて適宜設定できる。好ましくは、0.001mol/L以上、2mol/L以下であり、より好ましくは0.01mol/L以上、0.7mol/L以下であるのがよい。
【0073】
また、原料溶液にはドーパントが含まれていてもよい。例えば酸化ガリウム膜にドーピングする場合、ドーパントにはスズ、シリコン、ゲルマニウム、チタン、ジルコニウム、バナジウムまたはニオブなどのn型ドーパントや、あるいは、銅、銀、コバルト、イリジウム、ロジウム、マグネシウム、ニッケル等のp型ドーパントなどが用いられる。
【0074】
前記霧化された原料溶液とキャリアガスを混合させて混合気を形成するステップにおいて、霧化された原料溶液とキャリアガスを混合させて混合気を形成する方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。キャリアガスの種類は特に限定されず、窒素やアルゴンといった不活性ガスの他、空気、酸素、オゾン、あるいは水素やフォーミングガスといった還元ガスを用いることもできるし、これらのガスを複数混合して用いることもできる。キャリアガスの流量は、基体サイズや成膜室の大きさにより適宜設定すればよく、例えば0.01~100L/分程度とすることができる。
【0075】
前記混合気を前記基体に供給して成膜を行うステップにおいて、混合気を基体に供給する方法や成膜を行う方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【実施例0076】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0077】
(実施例1)
[装置]
図1の成膜装置において、キャリアガス供給手段111に窒素ボンベを用い、ホウ珪酸ガラス製の原料容器120をPFA製の配管113で接続した。また石英製の成膜室131を用意し、石英製の供給管134と原料容器120をPFA製の配管124で原料容器に接続した。また成膜室131の排気口133を塩化ビニル製の配管136でスクラバー(除害手段137)に接続した。ステージ135は炭化ケイ素製であり、ステージ135の下部にステージ135の加熱手段132として抵抗加熱ヒーターを設置した。またステージ135と接ガス部がPFAの排気手段142であるポンプ(Rocker社製Chemker410)をハステロイ製の配管141で接続し、さらにポンプの排気の除害手段143としてPFAメンブレンフィルター付きのミストトラップをPFA製の配管144でポンプに接続した。
【0078】
[基体準備]
直径約10cm、厚さ0.7mmのc面サファイア基体をステージに載置してポンプで吸着固定した後、ヒーターでステージを加熱してステージ温度を500℃に保った。この時の配管141内の圧力を測定したところ、28kPaであった。
【0079】
[原料溶液作製]
塩酸と純水を混合した酸溶液にガリウムアセチルアセトナートを溶解してガリウム濃度0.05mol/Lの溶液を用意し、原料溶液121とした。この溶液のpHを測定したところ、0.9であった。
【0080】
[原料霧化]
次に、原料容器120に原料溶液121を充填し、原料溶液121に2.4MHzの超音波振動を加えて霧化した。
【0081】
[成膜]
窒素ボンベから窒素ガスを5L/分で原料容器120に導入し、生成された混合気を成膜室131に供給して成膜をおこなった。
この後、同様の手順を繰り返し、合計10枚の試料を作製した。
XRD(Rigaku SmartLab)による測定により、基体上に形成された膜はα相のGa2O3であることが確認された。
この後、全試料についてさらにロッキングカーブを測定し、半値幅を評価した。
【0082】
(比較例1)
基板の吸着固定を行わなかったことを除き、実施例1と同様に成膜をおこなった。
この後、同様の手順を繰り返し、合計10回成膜を行ったが、このうち4回は基体が割れた。
割れずに残った6枚については、XRD測定により、基体上に形成された膜がα相のGa2O3であることが確認された。
この後、作製した6枚の試料についてさらにロッキングカーブを測定し、半値幅を評価した。
【0083】
(実施例2)[配管冷却]
図1の成膜装置において、ステージからポンプまでの配管を
図2の構成とし、ハステロイ製の配管241aにヒートシンクを取り付け、さらにPFA製の配管241bで配管241aとポンプを接続した。
以上の他は実施例1と同様に成膜と評価を行った。
【0084】
実施例1、2および比較例1で得られた膜のロッキングカーブ半値幅の平均値を表1に示す。実施例では結晶配向性の高い結晶性半導体膜が安定して得られているのに対し、比較例の結晶性半導体膜は結晶配向性が著しく低下した。比較例では基体固定がされていないために基体の加熱が不十分になり、成膜面の温度が低下したことが要因と考えられる。
【表1】
【0085】
(参考例1)
純水に塩酸のみを混合してpH0.9の塩酸水溶液を用意した。
次に該塩酸水溶液を実施例1で使用した成膜装置の原料容器120に充填し、さらに霧化した。
次に、直径約10cm、厚さ0.7mmのサファイア基板をステージ135に載置してポンプで吸着固定した後、ヒーターでステージを加熱してステージ温度を500℃に保った。
次に窒素ガスを5L/分で原料容器120に導入し、生成された混合気を成膜室131に供給した。
この状態を積算1000時間保持し、この間における配管141内の圧力を測定したところ、28±2kPaで一定であった。
【0086】
(参考例2)
ステージ135とポンプを鉄製の配管141で接続した他は、参考例1と同様に実験と配管141内の圧力測定を行った。配管141内の圧力は800時間後に84kPaまで上昇した。配管141には腐食が認められた。
【0087】
上記の結果から、本発明によれば従来技術よりも高品質な結晶性半導体膜を安定的かつ高い生産性で生産可能となることがわかった。
【0088】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。