(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056377
(43)【公開日】2023-04-19
(54)【発明の名称】凝固卵加工品の製造方法及び凝固卵加工品並びに凝固卵加工品製造用の混合卵液
(51)【国際特許分類】
A23L 15/00 20160101AFI20230412BHJP
A23L 35/00 20160101ALI20230412BHJP
A23L 29/20 20160101ALI20230412BHJP
A23L 29/238 20160101ALI20230412BHJP
A23L 29/262 20160101ALI20230412BHJP
A23L 29/269 20160101ALI20230412BHJP
【FI】
A23L15/00 Z
A23L35/00
A23L29/20
A23L29/238
A23L29/262
A23L29/269
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165690
(22)【出願日】2021-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】海老原 脩
(72)【発明者】
【氏名】仲西 由美子
(72)【発明者】
【氏名】石田 亘
【テーマコード(参考)】
4B036
4B041
4B042
【Fターム(参考)】
4B036LC01
4B036LF19
4B036LH10
4B036LH11
4B036LH13
4B036LH41
4B036LH44
4B036LK01
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4B036LP02
4B041LC03
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4B042AC05
4B042AD40
4B042AE03
4B042AG07
4B042AH09
4B042AK06
4B042AK08
4B042AK09
4B042AK17
4B042AP04
4B042AP14
(57)【要約】
【課題】親子丼や天津丼、かつ丼の具等の卵とじ丼の具やオムライス、オムレツ等のような特にふんわりとした食感が求められる凝固卵加工品においても、チルド及び/又は冷凍解凍後のぼそつき等の食感低下を効果的に改善することができる。
【解決手段】本発明は、卵液24~65質量%、卵液に含まれる水分以外の水及び/又は調味液20~50質量%、並びに卵に由来しない油脂5~40質量%を含有し、更に、濃度1質量%水溶液の粘度が25℃において1~100mPa・sである多糖類を含む混合卵液を加熱調理に用いる、凝固卵加工品の製造方法である。前記混合卵液が、前記多糖類を0.05~1.2質量%含むことが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵液24~65質量%、卵液に含まれる水分以外の水及び/又は調味液20~50質量%、並びに卵に由来しない油脂5~40質量%を含有し、更に、濃度1質量%水溶液の粘度が25℃において1~100mPa・sである多糖類を含む混合卵液を加熱調理に用いる、凝固卵加工品の製造方法。
【請求項2】
前記混合卵液が、前記多糖類を0.05~1.2質量%含む、請求項1に記載の凝固卵加工品の製造方法。
【請求項3】
前記混合卵液において、油脂が乳化している、請求項1又は2に記載の、凝固卵加工品の製造方法。
【請求項4】
前記油脂が25℃で液状の油脂である、請求項1~3の何れか1項に記載の凝固卵加工品の製造方法。
【請求項5】
凝固卵加工品として卵とじ丼の具、丼もの以外の卵とじ料理、オムライス又はオムレツを製造する、請求項1~4の何れか1項に記載の凝固卵加工品の製造方法。
【請求項6】
卵液24~65質量%、卵液に含まれる水分以外の水及び/又は調味液20~50質量%、並びに卵に由来しない油脂5~40質量%を含有し、更に、濃度1質量%水溶液の粘度が25℃において1~100mPa・sである多糖類を含む混合卵液を加熱調理に用いた凝固卵加工品。
【請求項7】
卵液24~65質量%、卵液に含まれる水分以外の水及び/又は調味液20~50質量%、並びに卵に由来しない油脂5~40質量%を含有し、更に、濃度1質量%水溶液の粘度が25℃において1~100mPa・sである多糖類を含む、凝固卵加工品製造用の混合卵液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝固卵加工品の製造方法及び凝固卵加工品並びに凝固卵加工品製造用の混合卵液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、親子丼の具、天津丼の具、かつ丼の具等の卵とじ丼の具、丼もの以外の卵とじ料理、オムライス、オムレツ等の凝固卵加工品は、そのふんわりした食感が広く好まれるものである。
【0003】
一方、食品における冷凍解凍後又はチルド後の食感等を改善する技術としては、以下のものが知られている。
特許文献1には、卵黄と油脂からなる組成物と卵白とを混合して卵黄-油脂-卵白混合組成物を得る工程、及び当該組成物を加熱して卵凝固物を得る工程を含む、卵加工食品の製造方法が記載されている。同文献には、加熱調理済みの卵を加温あるいは凍結後解凍した際に生じる物性の変化による食感の低下を抑制することで、ふんわりしたソフトな食感を維持した卵加工品を提供できるとされている。
また、特許文献2には、シロキクラゲ多糖による離水抑制効果により、冷凍解凍耐性を向上できることが記載されている。
また特許文献3には、セルロースを用いたゲル状卵加工食品が記載され、同文献には、同食品が冷凍保存可能で、解凍後も滑らかな食感であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-161939号公報
【特許文献2】特開2018-157803号公報
【特許文献3】特開2012-235737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一定の水分を有し、ふんわりした食感が求められる凝固卵加工品では、特に、冷凍解凍後若しくはチルド後のぼそつき等の食感劣化を改善することが重要な問題である。
特許文献1~3の通り、従来より、卵の加工品を含めた食品におけるチルド又は冷凍解凍後の食感低下を考慮した技術は検討されていたものの、それらはいずれもふんわりした食感が求められる凝固卵加工品における上記の課題を十分に改善するものではなかった。
【0006】
従って本発明の課題は、凝固卵加工品における、チルド若しくは冷凍解凍後のぼそつき等の食感低下が効果的に改善された凝固卵加工品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、卵液24~65質量%、卵液に含まれる水分以外の水及び/又は調味液20~50質量%、並びに卵に由来しない油脂5~40質量%を含有し、更に、濃度1質量%水溶液の粘度が25℃において1~100mPa・sである多糖類を含む混合卵液を加熱調理に用いる、凝固卵加工品の製造方法を提供する。
【0008】
また本発明は、卵液24~65質量%、卵液に含まれる水分以外の水及び/又は調味液20~50質量%、並びに卵に由来しない油脂5~40質量%を含有し、更に、濃度1質量%水溶液の粘度が25℃において1~100mPa・sである多糖類を含む混合卵液を加熱調理に用いた凝固卵加工品を提供する。
【0009】
また本発明は、卵液24~65質量%、卵液に含まれる水分以外の水及び/又は調味液20~50質量%、並びに卵に由来しない油脂5~40質量%を含有し、更に、濃度1質量%水溶液の粘度が25℃において1~100mPa・sである多糖類を含む、凝固卵加工品製造用の混合卵液を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、凝固卵加工品における、チルド若しくは冷凍解凍後のぼそつき等の食感低下を効果的に改善することができる。特に、本発明は、親子丼や天津丼、かつ丼の具等の卵とじ丼の具や丼もの以外の卵とじ料理、オムライス、オムレツ等のような特にふんわりとした食感が求められる凝固卵加工品の製造に適したものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、その好適な実施形態に基づいて説明する。本発明では、卵液24~65質量%、卵液に含まれる水分以外の水及び/又は調味液20~50質量%、並びに卵に由来しない油脂5~40質量%を含有し、更に、濃度1質量%水溶液の粘度が25℃において1~100mPa・sである多糖類を含む混合卵液を加熱する。本発明においては、特に、混合卵液において、油脂が乳化状態となっていることが好ましい。
まず混合卵液の構成を説明する。
【0012】
(多糖類)
本発明に用いる混合卵液は、濃度1質量%水溶液の粘度が25℃において1~100mPa・sである多糖類を含むことを特徴の一つとする。当該粘度はB型粘度計により測定できる。当該所定粘度の多糖類を用いることで、冷凍・解凍後やチルド後の食感低下を抑制できる理由としては、当該多糖類は油脂、水分及び卵液の分離を効果的に抑制しながら油脂及び水分を乳化でき、冷凍・解凍後やチルド後も保水効果を持続させるだけでなく、冷凍・解凍後やチルド後における食感を良好としやすいためだと考えられる。一方、前記粘度が100mPa・s超の多糖類を使用した場合では、分離・離水はある程度抑制できるものの、ヌルヌルとした舌触りもしくは、硬い食感となり「なめらか」な食感は得られない。また前記粘度が1mPa・s未満であることは十分な乳化効果が得られないという不利益がある。
【0013】
上記の点から、本発明で用いる多糖類は濃度1質量%水溶液の粘度が25℃において2mPa・s以上100mPa・s以下であることがより好ましく、3mPa・s以上50mPa・s以下であることが特に好ましく、3mPa・s以上20mPa・s以下であることが最も好ましい。
【0014】
本発明で用いる多糖類として好適なものは離水抑制効果が高い点で、シロキクラゲ多糖、セルロース、セルロース複合体、ペクチン、澱粉類、デキストリン、プルラン、アルギン酸類、アラビアガム、大豆多糖類等が挙げられる。
なお、一般に食品用に用いられるシロキクラゲ多糖としては、ユニテックフーズ社が販売している製剤UT-WS、UT-WC、トレメルガム等が知られている。
また、セルロースや、セルロース複合体におけるセルロースとしては、結晶セルロースが好ましい。結晶セルロースとは、木材パルプ、精製リンターなどのセルロース系素材を、酸加水分解、アルカリ酸化分解、酵素分解などにより解重合処理して得られる平均重合度30~400、結晶性部分が10質量%を超えるものが挙げられる。セルロース複合体は、例えば、セルロースと親水性高分子を混合し、湿式磨砕して、乾燥・粉砕することにより得られるものである。セルロースやセルロース複合体としては、一般に旭化成(株)のセオラスシリーズにおけるセルロースやセルロース製剤が知られている。前記の親水性高分子としては例えば、カルボキシメチルセルロース及びその塩、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、キサンタンガム、カラヤガム、カラギーナン、アラビアガム、グルコマンナン、ジェランガム、タマリンドシードガム、アルギン酸及びその塩や、アルギン酸プロピレングリコールエステルのようなエステル体などの増粘多糖類が挙げられる。
本発明においてこれらの多糖類を用いる場合は、それらのうち、所定の粘度を満たすものを使用することができる。
【0015】
本発明において上記特定粘度の多糖類の量は、乾燥質量にて、混合卵液中、0.05~1.2質量%であることが好ましい。上記特定粘度の多糖類の量を0.05質量%以上1.2質量%以下とすることで、冷凍・解凍後やチルド後の離水抑制を容易化しやすいだけでなく、冷凍・解凍後やチルド後における食感を良好にする効果が得やすいほか、乳化安定性が向上するという利点もある。これらの点から、上記特定粘度の多糖類の量は、混合卵液中、0.05~1質量%であることがより好ましい。
【0016】
なお上記の「1質量%濃度」や「混合卵液中、0.05~1.2質量%」等、本明細書でいう特定粘度の多糖類の濃度は、多糖類としての量とする。従って、例えばセルロース複合体が、セルロース及び親水性高分子として挙げた増粘多糖類に加えて多糖類に該当しない成分を含有する場合、多糖類に該当する成分の量として、「1質量%濃度」「混合卵液中、0.05~1.2質量%」等の本明細書に記載の量を満たせばよい。例えば、セルロース複合体は、上記で挙げたセルロースや親水性高分子のほか、例えばデキストリンや難消化性デキストリン等の多糖類や、多糖類以外の水溶性成分を含有している場合がある。セルロース複合体において、セルロース含量は25質量%以上が好適に挙げられる。特にセルロース複合体における結晶セルロース含量が25質量%以上であることが好ましい。またセルロース複合体において親水性高分子の量は4質量%以上が好適に挙げられる。セルロース複合体以外で、多糖類を製剤として用いる場合、好ましくは、製剤中の多糖類の純度は、90質量%以上である。
【0017】
(卵液)
卵液は凝固卵の骨格を構成するものである。卵液を構成する卵としては、鶏、鶉、アヒルの卵など、一般に食用に供されるものであればいずれのものでもよいが、入手しやすい点から鶏卵を用いるとよい。
卵液は、卵黄を含有するものであり、生全卵液、生卵黄液をはじめ、それらを殺菌処理、冷凍処理、酵素処理したもの、または粉末卵を水戻ししたもの、例えば、凍結全卵、凍結卵黄、酵素処理卵等が挙げられる。なお、凍結卵黄等には卵由来成分以外の成分として、塩や砂糖等の調味料が含まれる場合があるが、食品である調味料(食品添加物に該当しない調味料、以下「食品調味料」ともいう。)は、調味液の量に含めるものとし、卵液の量には含めないものとする。ただし、食品調味料以外の成分は卵液の量に含めるものとする。卵液に含まれる卵由来成分及び食品調味料以外の成分としては、食品添加物が挙げられる。卵液中の卵由来成分及び食品調味料以外の成分は原料入手容易性や食味向上の点から、卵液中、15質量%以下が好ましく、12質量%以下が更に好ましく、6質量%以下であることが特に好ましい。また、本発明では、卵液において、卵由来成分以外の成分として食品調味料以外の成分が含まれている場合、卵由来成分の量が卵液の好ましい量範囲として下記で挙げる各範囲内(例えば混合卵液中24~65質量%)であることも好ましい。
【0018】
本発明では、混合卵液中、卵液を24質量%以上65質量%以下の量で用いる。卵液を当該範囲の量とすることで、チルド後又は冷凍解凍後の凝固卵加工品の食感改善効果が得られる。卵液の量が所定量存在しないとチルド後又は冷凍解凍後の食感改善効果が得難い理由は明確ではないが、発明者は最低限の凝固に必要なタンパク量が不足することが理由の一つではないかと考えている。また、混合卵液中、卵液を65質量%以下とすることで上記の効果が得られる理由としては、タンパク量を減少させることで凝固卵が硬くなりにくいことが考えられる。チルド後又は冷凍解凍後において一層なめらかでふんわりした食感又はボリューム感を得る点や最低限の凝固を生じさせる点から、混合卵液中、卵液は24質量%以上60質量%以下がより好ましく、30質量%以上55質量%以下が特に好ましい。
【0019】
(水及び/又は調味液)
混合卵液は、卵液に含まれる水分以外の水及び/又は調味液を用いる。調味液における調味料としては、みりん、酒、醤油、麹、味噌、塩、出汁、酢、食塩、胡椒、砂糖、塩、コンソメ、エキス類、アミノ酸、リン酸塩、核酸、有機酸、砂糖以外の甘味料、pH調整剤が挙げられる。調味液における固形分濃度は15質量%以下であることが凝固卵加工品の味が濃くなりすぎることを防止する点や物性安定性の点で好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0020】
前記の水及び/又は調味液は合計で、混合卵液中、20質量%以上50質量%以下とすることで、チルド後又は冷凍解凍後の凝固卵加工品の食感改善効果が得られる。前記の水及び/又は調味液を合計で、混合卵液中、20質量%以上とすることで、食感改善効果が得られる理由は明確ではないが、卵液由来のタンパク濃度を減少させることで、凝固卵の硬さを低減させることと考えられる。また、前記の水及び/又は調味液は合計で、混合卵液中、50質量%以下とすることで、食感改善効果が得られる理由としては最低限の凝固に必要なタンパク量を含んでいることが考えられる。チルド後又は冷凍解凍後において一層なめらかでふんわりした食感又はボリューム感を得る点や良好な食味の点から、混合卵液中、前記の水及び/又は調味液の量は22質量%以上48質量%以下がより好ましく、25質量%以上45質量%以下が特に好ましい。
【0021】
(油脂)
混合卵液に含まれ、卵に由来しない油脂としては、食用油脂であり、パーム油、パーム核油、ヤシ油、牛脂、豚脂、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ひまわり油、米油(米ぬか油、米胚芽油)、コーン油、ゴマ油、アマニ油、オリーブ油、サラダ油等や、これらの加工油脂(水素添加油、分別油、エステル交換油)など使用することができる。特に本発明では25℃で液状の油脂である液状油を用いることが乳化適性に優れる点や食感、作業容易性の点から好ましい。25℃で液状の油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ひまわり油、米油(米ぬか油、米胚芽油)、コーン油、ゴマ油、アマニ油、オリーブ油、サラダ油等が挙げられる。上記と同様の観点から、本発明では、融点(上昇融点)が30℃以下の油脂を用いることがより好ましい。
【0022】
前記の油脂は混合卵液中、5質量%以上40質量%以下とすることで、チルド後又は冷凍解凍後の凝固卵加工品の食感改善効果が得られる。前記の油脂が混合卵液中、40質量%以下であることで、チルド後又は冷凍解凍後の食感改善効果が得られる理由としては、乳化安定性が向上することが考えられる。また、前記の油脂が混合卵液中、5質量%以上であることで、チルド後又は冷凍解凍後の食感改善効果が得られる理由としては、油脂由来のなめらかな舌触りが得られることが考えられる。チルド後又は冷凍解凍後において一層なめらかでふんわりした食感又はボリューム感を得る点や乳化安定性の点から、混合卵液中、前記油脂の量は7質量%以上38質量%以下がより好ましく、10質量%以上35質量%以下が特に好ましい。
【0023】
なお、混合卵液は、卵液、水及び/又は調味液、卵に由来しない油脂、上記特定粘度の多糖類以外の成分を含有していてもよい。その様な成分としては、野菜類、穀類、穀粉類、澱粉類、乳製品、当該多糖類以外の食物繊維、ビタミン類、ミネラル類、微量元素、卵液以外の乳化剤、着色料、保存料、安定剤、酸化防止剤、発色剤等が挙げられる。混合卵液中、卵液、水及び/又は調味液、卵に由来しない油脂、上記特定粘度の多糖類以外の成分の量は、本発明によるチルド後又は冷凍解凍後の食感の改善効果を阻害しない範囲で有ればよいが、合計で20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。
【0024】
本発明では、混合卵液は、濃度1質量%水溶液の粘度が25℃において1~100mPa・sである多糖類以外の多糖類として、増粘多糖類を含んでいてもよい。増粘多糖類としては、上述したセルロース複合体で用いる親水性高分子の例として挙げた各種増粘多糖類のうち濃度1質量%水溶液の粘度が25℃において1~100mPa・sである多糖類以外のものが挙げられる。より食感改善効果を高める点からは、前記の特定粘度以外の増粘多糖類の量は、前記の特定粘度の多糖類100質量部に対し、80質量部以下であることが好ましく、70質量部以下であることがより好ましい。
【0025】
本発明では、卵に由来しない油脂が乳化状態となっていることが、チルド又は冷凍解凍後の凝固卵加工品の食感をなめらかなものにしやすい点で好ましい。より具体的には、本発明で用いる混合卵液は、上記油脂が上記特定粘度の多糖類の存在下で乳化される工程を経て製造されていることが、チルド後又は冷凍解凍後の食感改善効果に優れる点で好ましい。更に具体的には、上記特定粘度の多糖類、上記の水及び/又は調味液、上記油脂をそれぞれ混合し、当該多糖類の存在下で、水又は調味料と油脂とを乳化する工程を経ていることが好ましい。当該乳化工程は、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、ホイッパー等を用いて行うことができる。乳化の温度は例えば3~30℃が挙げられ、乳化に用いる時間は例えば1~5分が挙げられる。乳化物は水中油型であっても油中水型であってもよいが、水中油型であることがふんわりとしたなめらかな食感を実現可能な点から好ましい。
【0026】
当該多糖類の存在下で、水又は調味料と油脂とを乳化する工程において卵液を存在させてもよく、上記で得られた乳化物に混合卵液を混合させてもよいが、後者であることが均一な混合卵液を作成可能な点から好ましい。後者の場合には、乳化物と卵液との混合には、ホモミキサー、ホモジナイザー、ホイッパー等を用いて行うことができる。当該混合の際の品温温度は、3~30℃が挙げられ、混合に用いる時間は例えば1~5分が挙げられる。以上の工程により、卵が乳化剤の役割を果たし、より強固に水と油脂との分離を抑制できる。
以上の工程により、混合卵液を得ることが好ましい。
【0027】
本発明では、特許文献1のような卵黄と油脂からなる卵黄-油脂混合組成物と卵白とを混合して卵黄-油脂-卵白混合組成物を得る工程とは異なり、卵白と卵黄を両方有する場合は、両者を同時に乳化物と混合させることが、均一な混合卵液を得られる点で好ましい。
【0028】
(加熱調理)
上記のようにして得られた混合卵液を加熱調理に供する。加熱調理は、得られる凝固卵加工品に適したものであればよく、フライパン、鉄板、オーブン等を用いるほか、飽和水蒸気又は過熱水蒸気を用いる方法、電磁調理器を用いる方法等の各種の方法が挙げられる。とりわけ本発明では、スチームコンベクションオーブンを用いて行われることが作業の安全性と品質安定性の点から好ましい。スチームコンベクションオーブンは、一度に複数の料理を調理することができるため、主にホテルや外食産業、惣菜加工などで用いられる。
【0029】
本発明における加熱温度は、200℃以下であることが、食感のなめらかさ、ふんわり感、見た目のボリューム感を得る点から好ましく、100℃以上であることが、衛生面から好ましい。これらの点から、加熱温度は、100~180℃であることがより好ましい。加熱温度は、特に親子丼の具やカツ丼の具の場合、100~120℃であることが好ましい。また天津丼の場合、140~180℃であることが好ましく、150~170℃であることがより好ましい。
例えばスチームコンベクションオーブンを用いる場合等、加熱調理において飽和水蒸気又は過熱水蒸気を用いる場合、当該蒸気の温度が上記好ましい加熱温度の範囲内であることが好ましい。
【0030】
加熱調理においては、加熱調理用の容器に、油や調味液等の水分を事前に敷いておく、或いは、加熱した調味液等の水分に混合卵液を投入する等を行うことがあるが、これらの油や水分は、本発明の混合卵液の構成成分に含めない。これはこれらの成分が本発明における混合工程、具体的には乳化工程に含まれないためである。
【0031】
上記のようにして、凝固卵加工品が得られる。本発明で得られる凝固卵加工品の種類としては、天津丼の具材、親子丼の具材、かつ丼の具材、卵丼の具材等の卵とじ丼の具材のほか、丼もの以外の卵とじ料理、オムライス、オムレツが好適に挙げられ、卵とじ丼の具材であることが、上記のチルド又は冷凍解凍後におけるなめらかな食感が特に得やすい点で好ましい。本発明の凝固卵加工品では、チルド製品又は冷凍製品であることが、本発明のチルド又は冷凍解凍後における食感改善効果が発揮しやすい点で好ましい。尚、チルド製品とは、0℃超10℃以下の温度で流通・販売されている製品であることが好ましい。冷凍製品とは、冷凍状態で流通・販売されている製品であり、-18℃以下で流通・販売されていることが好ましい。
【0032】
本発明では、特許文献3と異なり、加工澱粉を1~15質量%含むゲル状卵加工食品を除くものであることが好ましい。本発明は、凝固卵加工品中の加工澱粉量が1質量%未満であっても、望ましい離水防止を図ることができる。また本発明の凝固卵加工品は、プリンや茶碗蒸し、玉子豆腐などのゲル状卵加工食品である必要はない。
【実施例0033】
以下の実施例・比較例において、混合卵液を得るための乳化工程及び得られた乳化物と卵液との混合工程は、いずれも3~30℃の範囲内で行った。
<多糖類の粘度測定>
下記表1に記載の多糖類について、1質量%濃度の水溶液を調製して下記方法にて粘度を測定した。使用した多糖類を以下に示し、結果を表1に示す。
・A-1:シロキクラゲ多糖(ユニテックフーズ社、トレメルガム)
・A-2:セルロース複合体(旭化成社、セオラス DX-2)
・A’-1:キサンタンガム(ユニテックフーズ社 SATIAXANE CX915)
・A’-2:タマリンドガム(DSP五協フード&ケミカル社 グリロイド3S)
・A’-3:グアーガム(ユニテックフーズ社 VIDOGUM A)
【0034】
〔粘度の測定方法〕
上記水溶液を、JIS∞Z∞8803「液体の粘度-測定方法」に準拠した方法でステンレス製の容器に入れた。B型粘度計(東機産業社製、TVB-20L)を用いて、ローターM1、回転数60rpm、品温25℃の条件で、ローターの回転開始から1分後に測定した。
【0035】
【0036】
〔凝固卵加工品の製造1〕
(実施例1)
■混合卵液の調製
(1)油脂(大豆油、上昇融点-16℃以下)35質量部に多糖類A-1の0.5質量部を分散溶解させた後、調味液(下記表2の組成のだし汁)34.5質量部を加えてホイッパーで1分間撹拌することにより水中油型乳化液を得た。
(2)上記(1)とは別にチルド液卵黄(未加熱品)30質量部を解凍して卵液を得た。
(3)(2)卵液を(1)の乳化液に添加し、ホイッパーで1分間撹拌することにより混合卵液を得た。
【0037】
■混合卵液の加熱調理
トレー(寿化成工業 製)に上記で得られた混合卵液40gを入れた。
次いで、トレーを100℃に予熱したスチームコンベクションオーブンに入れ、スチームモード、100℃の蒸気100%の条件にて、10分間焼成し、親子丼用具材を得た。
【0038】
【0039】
(実施例2~9、比較例1~2)
各成分の量を表3に記載の量に変更した。その点以外は実施例1と同様にして、親子丼用具材を得た。
【0040】
(実施例10、11)
各成分の量を表3の記載の量に変更した。また、「■混合卵液の調製の(1)」では、調味液へ添加する多糖類として多糖類A-2を用いた。その点以外は実施例1と同様とした。
【0041】
(比較例3~5)
各成分の量を表3の記載の量に変更した。また、「■混合卵液の調製の(1)」では、調味液へ添加する多糖類として多糖類A’-1~A’-3を用いた。その点以外は実施例1と同様とした。
【0042】
実施例及び比較例の親子丼用具材は以下の方法で評価した。結果を表3に示す。
〔官能評価〕
●評価(チルド後)
上記で得られた親子丼用具材を、そのまま上部にラップをした状態で4℃の冷蔵庫に入れて2日間保存した。保存後の具をラップをかけたトレーごと電子レンジにて600W、1分の条件にて加熱して、喫食し、以下の条件にて評価した。
【0043】
(評価基準)
5:とてもやわらかくなめらか。
4:やわらかく、なめらか。
3:ややかたいがぼそつきやざらつきはない。
2:ややかたく、ざらつき、ぼそつきがある。
1:かたく、ざらつきやぼそつきがある。
【0044】
●評価(冷凍解凍後)
上記で得られた親子丼用具材を、-40℃にて急速凍結し、そのままナイロンパウチに入れ、-18℃の冷凍庫に入れて7日間保存した。保存後の具をそのまま電子レンジにて600W、2分の条件にて加熱して、喫食し、「評価(チルド後)」と同じ評価基準にて評価した。
【0045】
【0046】
表3に示す通り、卵液、水及び/又は調味液、油脂の量を所定量とし、多糖類として、1質量%水溶液の粘度が所定範囲内である多糖類を用いた各実施例では、チルド後及び冷凍解凍後のざらつき、ぼそつきが抑制され、一定以上のなめらかさ、やわらかさが得られていた。一方、卵液量が所定値未満である比較例1、調味液が所定値超である比較例2、所定濃度で所定粘度である多糖類の代わりに、所定濃度での粘度が高い多糖類を用いた比較例3~5では、チルド後及び冷凍解凍後のざらつき、ぼそつきの点で大幅に劣ることが判る。
【0047】
〔凝固卵加工品の製造2〕
(実施例12)
■混合卵液の調製
(1)鶏ガラスープの素5質量部を水300質量部に溶解させて鶏ガラスープを得た。
(2)油脂(大豆油)10質量部に多糖類A-1の1質量部を分散溶解させた後、上記の鶏ガラスープ21.8質量部、水12.2質量部を加え、ホイッパーで1分間撹拌することにより水中油型乳化液を得た。
(3)上記とは別に凍結全卵(未加熱品)を解凍して卵液を得た。
(4)(3)の卵液55質量部を(2)の乳化液とを配合し、ホイッパーで1分間撹拌することにより混合卵液を得た。
【0048】
■混合卵液の加熱調理
雪平鍋に大豆油を5g塗広げた。上記で得られた混合卵液を100g投入した。
次いで、雪平鍋を160℃に予熱したスチームコンベクションオーブンに入れ、コンビモード、160℃の蒸気100%の条件にて、10分間焼成し、天津丼用具材を得た。
【0049】
(実施例13~20、比較例6~7)
各成分の量を表4に記載の量に変更した。その点以外は実施例1と同様にして、天津丼用具材を得た。
【0050】
(実施例21、22)
各成分の量を表4の記載の量に変更した。また、「■混合卵液の調製の(1)」では、
調味液へ添加する多糖類として多糖類A-2を用いた。その点以外は実施例12と同様とした。
【0051】
(比較例8~10)
各成分の量を表4の記載の量に変更した。また、「■混合卵液の調製の(1)」では、
調味液へ添加する多糖類として多糖類A’-1~A’-3を用いた。その点以外は実施例12と同様とした。
【0052】
実施例及び比較例の天津丼用具材は以下の方法で評価した。結果を表4に示す。
〔官能評価〕
●評価(チルド後)
上記で得られた天津丼用具材を、容器(寿化成工業製のトレー)に入れ、上部からラップをした状態で4℃の冷蔵庫に入れて2日間保存した。保存後の具をそのまま電子レンジにて600W、1分の条件にて加熱して、喫食し、以下の条件にて評価した。
【0053】
(評価基準)
5:見た目にふんわりとしたボリュームがあり、とてもなめらか。
4:見た目にふんわりとしたボリュームがあり、なめらか。
3:見た目にややボリュームがないが、なめらか。
2:見た目にややボリュームがなく、ぼそつきがある。
1:見た目にボリュームがなく、ぼそつきがある。
【0054】
●評価(冷凍解凍後)
上記で得られた天津丼用具材を、容器(寿化成工業製のトレー)に入れ、-40℃にて急速凍結し、ナイロンパウチに入れた状態で-18℃の冷凍庫に入れて7日間保存した。保存後の具をそのまま電子レンジにて600W、2分の条件にて加熱して、喫食し、「評価(チルド後)」と同じ評価基準にて評価した。
【0055】
【0056】
表4に示す通り、卵液、水及び/又は調味液、油脂の量を所定量とし、多糖類として、1質量%水溶液の粘度が特定範囲である多糖類を用いた各実施例では、チルド後及び冷凍解凍後のぼそつきが抑制されており一定以上のなめらかさ、ボリューム感が得られていた。一方、水及び/又は調味液量が所定値超である比較例6及び7、所定濃度で所定粘度である多糖類の代わりに、所定値よりも粘度が高い多糖類を用いた比較例8~10では、チルド後及び冷凍解凍後のぼそつきがあり、なめらかさ、ボリュームの点で大幅に劣ることが判る。