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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056647
(43)【公開日】2023-04-20
(54)【発明の名称】分離膜及び分離膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/70 20060101AFI20230413BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20230413BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20230413BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
B01D71/70
B01D71/02
B01J20/26 A
B01J20/28 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165977
(22)【出願日】2021-10-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年3月8日公益社団法人化学工学会発行 化学工学会第86年会講演要旨集(USBメモリ) 令和3年3月8日ウェブサイト掲載 http://www3.scej.org/meeting/86a/abst/J119.pdf 令和3年3月20日開催 化学工学会第86年会 令和3年4月7日発行 MATERIALS CHEMISTRY FRONTIERS、2021、Volume5、Number7、3029-3042 令和3年5月6日発行 APPLIED MATERIALS INTERFACES、2021、13、23247-23259
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「機能性化学品の連続精密生産プロセス技術の開発」のうち「2-b.連続濃縮分離技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100196380
【弁理士】
【氏名又は名称】森 匡輝
(72)【発明者】
【氏名】都留 稔了
(72)【発明者】
【氏名】アンガリニ ウファファ
(72)【発明者】
【氏名】金指 正言
(72)【発明者】
【氏名】長澤 寛規
【テーマコード(参考)】
4D006
4G066
【Fターム(参考)】
4D006GA25
4D006GA41
4D006MA09
4D006MB01
4D006MB03
4D006MB14
4D006MC02
4D006MC03
4D006MC04
4D006MC05
4D006MC65
4D006NA46
4D006NA62
4D006NA64
4D006PB32
4D006PB68
4G066AA53A
4G066AB05A
4G066AB13A
4G066AB18A
4G066AC28B
4G066BA03
4G066BA25
4G066BA26
4G066CA27
4G066CA35
4G066DA01
4G066FA21
(57)【要約】
【課題】分離層に均一な細孔を形成することにより、選択性を向上させることのできる分離膜及び分離膜の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る分離膜は、電子供与性配位子を含みシロキサン結合を有するポリマーと、金属イオンとを含むアモルファス構造を有する分離層を備える。分離層に含まれる窒素原子と金属イオンとが配位結合することにより、分離層に均一な細孔を形成し、分離膜の選択性を向上させることが可能となる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子供与性配位子を含みシロキサン結合を有するポリマーと金属イオンとを含み、アモルファス構造を有する分離層を備える、
ことを特徴とする分離膜。
【請求項2】
前記電子供与性配位子は、アミノ基、イミノ基及びイミダゾール基の少なくともいずれかを含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の分離膜。
【請求項3】
前記ポリマーは、ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピルアミン]、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、トリメトキシ[3-(メチルアミノ)プロピル]シラン又はN-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-4,5-ジヒドロイミダゾールを前駆体として調製される、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の分離膜。
【請求項4】
前記金属イオンは、ニッケル、銅、銀、コバルト及び亜鉛の少なくともいずれかを含む、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の分離膜。
【請求項5】
電子供与性配位子を含みシロキサン結合を有するポリマーと金属イオンとを含む金属ドープアミノシリカゾルを調製する金属ドープアミノシリカゾル調製工程と、
前記金属ドープアミノシリカゾルを多孔質支持体上に塗布する塗布工程と、
前記塗布工程で塗布された前記金属ドープアミノシリカゾルを焼成して分離層を形成する焼成工程と、を含む、
ことを特徴とする分離膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜及び分離膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質分離膜を用いた分離法は、濾過、蒸発、結晶化、溶媒抽出、蒸留等の分離法に比べ、安価で高い分離能を有する。多孔質分離膜は、分子ふるいによって目的の物質を分離する。
【0003】
シリコン系材料は、機械強度、耐熱性、化学安定性に優れており、多孔質無機分離膜の材料として用いられる。シリコン系材料を分離膜の材料として用いた場合、高温水蒸気下において細孔の緻密化が起こり、分離膜の透過性が低下する。よって、緻密化を低減させるため、シリコン系材料に金属イオンをドープした分離層を備える分離膜が開発されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-151708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、金属イオンをドープすることにより、分離層中に細孔が形成される。しかしながら、形成される細孔のサイズは小さく、水素のみを選択的に透過させ、比較的大きな分子である窒素、二酸化炭素の透過性は低い。さらに、分離層中に均一な細孔を形成し、選択性を向上させることは困難である。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、分離層に均一な細孔を形成し、選択性を向上させることのできる分離膜及び分離膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の第1の観点に係る分離膜は、
電子供与性配位子を含みシロキサン結合を有するポリマーと金属イオンとを含み、アモルファス構造を有する分離層を備える。
【0008】
また、前記電子供与性配位子は、アミノ基、イミノ基及びイミダゾール基の少なくともいずれかを含む、
こととしてもよい。
【0009】
また、前記ポリマーは、ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピルアミン]、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、トリメトキシ[3-(メチルアミノ)プロピル]シラン又はN-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-4,5-ジヒドロイミダゾールを前駆体として調製される、
こととしてもよい。
【0010】
また、前記金属イオンは、ニッケル、銅、銀、コバルト及び亜鉛の少なくともいずれかを含む、
こととしてもよい。
【0011】
この発明の第2の観点に係る分離膜の製造方法は、
電子供与性配位子を含みシロキサン結合を有するポリマーと金属イオンとを含む金属ドープアミノシリカゾルを調製する金属ドープアミノシリカゾル調製工程と、
前記金属ドープアミノシリカゾルを多孔質支持体上に塗布する塗布工程と、
前記塗布工程で塗布された前記金属ドープアミノシリカゾルを焼成して分離層を形成する焼成工程と、を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明の分離膜及び分離膜の製造方法によれば、分離層に含まれる窒素原子と金属イオンとが配位結合を形成することにより分離膜に均一な細孔が形成されるので、分離膜の選択性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態に係る分離膜の概略図である。
図2】本発明の実施の形態に係る分離膜製造方法のフローチャートである。
図3】ニッケルドープBTPA及びBTPAの特性を示す図であり、(a)は紫外可視分光法の測定結果、(b)はX線光電子分光法の測定結果、(c)はフーリエ変換赤外分光分析(波数650~4000cm-1)の測定結果、(d)はフーリエ変換赤外分光分析(波数1500~1800cm-1)の測定結果である。
図4】ニッケルドープBTPA粉末及びBTPA粉末の特性を示す図であり、(a)は150℃、250℃で焼成した場合及び焼成しなかった場合の粉末のX線回折法の測定結果、(b)は250℃で焼成した粉末のX線回折法の測定結果、(c)は透過電子顕微鏡の撮影画像である。
図5】(a)はニッケルドープBTPA粉末、BTPA粉末のN吸脱着等温線であり、(b)はニッケル比率と組織特性(表面積、細孔容積)との関係を示すグラフである。
図6】ニッケルドープBTPA粉末の蒸気吸着特性を示す図であり、(a)はメタノール蒸気吸着等温線、(b)はトルエン蒸気吸着等温線、(c)はニッケル比率と蒸気吸着量(メタノール、トルエン)との関係を示すグラフである。
図7】(a)は気体分子サイズと気体透過率との関係を示すグラフであり、(b)は気体分子サイズとヘリウムの透過率を基準とした気体透過率との関係を示すグラフである。
図8】ニッケル比率による特性変化を示す図であり、(a1)はニッケル比率と透過率比との関係を示すグラフ、(a2)はニッケル比率と透過率との関係を示すグラフ、(b1)はニッケル比率と活性化エネルギーとの関係を示すグラフ、(b2)はニッケル比率と膜孔径との関係を示すグラフである。
図9】窒素透過率と窒素/六フッ化硫黄の透過率比との関係を示すグラフである。
図10】浸透気化法によるメタノール/トルエン混合物の分離における分離係数、透過率、透過流束の経時変化を示すグラフであり、(a)はSiO-ZrO分離膜の膜性能、(b)はBTPA分離膜の膜性能、(c)はニッケルドープBTPA分離膜(ニッケル比率=0.125)の膜性能、(d)はニッケルドープBTPA分離膜(ニッケル比率=0.25)の膜性能、(e)はニッケルドープBTPA分離膜(ニッケル比率=0.50)の膜性能のグラフである。
図11】(a)はニッケルドープBTPA分離膜のニッケル比率と浸透気化法によるメタノール/トルエン混合物の分離における透過流束及び分離係数との関係を示すグラフであり、(b)は各種分離膜のメタノール/トルエン混合物の分離における透過流束と分離係数との関係を示すグラフである。
図12】メタノール/トルエン混合物のメタノール濃度と分離係数、透過率及び透過流束との関係を示すグラフである。
図13】メタノール/トルエン混合物の分離における温度と分離係数、透過率及び透過流束との関係を示すグラフである。
図14】気体分子サイズと気体透過率との関係を示す図であり、(a)はニッケルBTPA分離膜の測定結果、(b)はニッケルTMAPS分離膜の測定結果、(c)はニッケルAPTES分離膜の測定結果である。
図15】金属ドープBTPAの特性を示す図であり、(a)は金属ドープBTPAゾルの紫外可視分光法の測定結果、(b)はフーリエ変換赤外分光分析(波数600~4000cm-1)の測定結果、(c)はフーリエ変換赤外分光分析(波数1500~1700cm-1)の測定結果、(d)はX線光電子分光法の測定結果、(e)はX線光電子分光法(N1s)の測定結果である。
図16】金属ドープBTPA粉末の特性を示す図であり、(a)はX線回折法の測定結果、(b)は透過電子顕微鏡の撮影画像である。
図17】金属ドープBTPA粉末、BTPA粉末のN吸脱着等温線である。
図18】金属ドープBTPA粉末、BTPA粉末のCO吸脱着等温線である。
図19】ニッケルドープBTPA粉末の特性を示す図であり、(a)はN吸脱着等温線、(b)はX線回折法の測定結果である。
図20】コバルトドープTESPHIの特性を示す図であり、(a)はN吸脱着等温線、(b)はCO吸脱着等温線である。
図21】本実施の形態に係る分離膜の断面の走査電子顕微鏡の撮影画像である。
図22】金属ドープBTPA分離膜の特性を示す図であり、(a)は気体分子サイズと気体透過率との関係を示すグラフ、(b)は気体分子サイズとヘリウムの透過率を基準とした気体透過率との関係を示すグラフ、(c)はドープする金属と気体透過率との関係を示すグラフである。
図23】金属ドープBTPA分離膜のヘリウム/窒素の透過率比とヘリウム/六フッ化硫黄の透過率比との関係を示すグラフである。
図24】金属ドープBTPA分離膜の透過率を示す図であり、(a)は水素透過率と水素/窒素の透過率比との関係を示すグラフ、(b)は窒素透過率と窒素/六フッ化硫黄の透過率比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施の形態に係る分離膜10について説明する。本実施の形態に係る分離膜10は、図1の断面図に示すように、支持体11、中間層12、分離層13を備える。
【0015】
(支持体)
分離膜10は、分離膜10の機械的強度を高めるために、支持体11を備える。本実施の形態に係る支持体11は、酸化アルミニウム等の多孔質基材である。多孔質基材の材料は、特に限定されないが、例えば、ムライト、シリカガラス、炭化ケイ素等である。
【0016】
(中間層)
中間層12は、分離層13と支持体11との中間に形成される。中間層12を備えることにより、透過抵抗の大きい分離層13を薄膜化させ、分離膜10の透過性を向上させることができる。中間層12の細孔径は、支持体11の細孔径よりも小さく、分離層13の細孔径よりも大きいこととする。
【0017】
(分離層)
本実施の形態に係る分離層13は、中間層12上に形成され、目的の物質を透過させる細孔によって目的の物質を分離する。分離層13は、電子供与性配位子を含みシロキサン結合を有するポリマーと金属イオンとを含み、アモルファス構造を有する。電子供与性配位子は、アミノ基、イミノ基及びイミダゾール基の少なくともいずれかを含む。分離層13に含まれる金属イオンとポリマーの窒素原子とは、それぞれ金属イオンが電子受容体として、窒素原子が電子供与体として配位結合を形成する。シロキサン結合を有するポリマー中の電子供与体となる窒素原子に、窒素原子よりも電気陰性度の小さい炭素原子が結合することにより、窒素原子と炭素原子の間に電荷の偏りが生じ配位結合の形成が促進される。
【0018】
本実施の形態では、ポリマーの前駆体として、ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピルアミン](bis[3-(trimethoxysilyl)propyl]amine:BTPA)を用いる。また、金属イオンとしてニッケルを用いる。ポリマーの前駆体は、BTPAに限られず、電子供与性配位子を含み、シロキサン結合を有するものであればよい。ポリマーの前駆体は、例えば、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(3-Aminopropyltriethoxysilane:APTES)、トリメトキシ[3-(メチルアミノ)プロピル]シラン(Trimethoxy[3- (MethylAmino) Propyl] Silane:TMAPS)、N-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-4,5-ジヒドロイミダゾール(N-[3-(Triethoxysilyl)propyl]-4,5-dihydroimidazole:TESPHI)等である。また、金属イオンはニッケルに限られず、銀、銅、コバルト、亜鉛等でも良い。
【0019】
(分離膜の製造方法)
以下、図2のフローチャートを参照しつつ、本実施の形態に係る分離膜の製造方法について説明する。本実施の形態に係る分離膜10の製造方法は、分離層13の材料となる金属ドープアミノシリカゾルを調製する金属ドープアミノシリカゾル調製工程と、支持体11上に中間層12を形成する中間層形成工程と、中間層12上に金属ドープアミノシリカゾルを塗布する塗布工程と、支持体、中間層及び金属ドープアミノシリカゾルを焼成する焼成工程とを含む。
【0020】
本実施の形態に係る分離膜製造方法では、まず、金属ドープアミノシリカゾル調製工程として、中間層12上に塗布する金属ドープアミノシリカゾルを調製する。金属ドープアミノシリカゾルは、窒素原子及び炭素原子を含むシロキサン結合を有するポリマーと、金属イオンとを含む。
【0021】
金属ドープアミノシリカゾルの調製方法について説明する。まず、エタノールに溶解させたBTPAに、水及び硝酸を加える。これにより、BTPAを脱水分解、縮合反応させる。この時のモル濃度は、BTPA/HO/HNO=1/300/1である。そして、室温で12時間攪拌させることにより、BTPAゾルを調製する(ステップS11)。また、BTPAの濃度は、エタノールを用いて5wt%に調製される。
【0022】
続いて、BTPAゾルに、金属塩であるNi(NO・6HOを加え攪拌する。これにより金属ドープアミノシリカゾルであるニッケルドープBTPAゾル(Ni-BTPA)を調製する(ステップS12)。
【0023】
本実施の形態では、金属塩としてNi(NO・6HOを用い、金属ドープアミノシリカゾルとしてニッケルドープBTPAゾルを調製することとしたが、これに限られない。例えば、金属塩としてAgNOを用い、金属ドープアミノシリカゾルである銀ドープBTPAゾル(Ag-BTPA)を調製することとしてもよい。また、金属塩としてCu(NO・3HOを用いて銅ドープBTPAゾル(Cu-BTPA)を調製することとしてもよい。また、金属塩としてCo(NO・6HOを用いてコバルトドープBTPAゾル(Co-BTPA)を調整することとしてもよい。また、金属塩としてZn(NO・6HOを用いて亜鉛ドープBTPAゾル(Zn-BTPA)を調製することとしてもよい。
【0024】
続いて、中間層形成工程として、支持体11の均質化を行う。具体的には、支持体11である多孔質支持体のα-アルミナ管(株式会社ニッカトー製、長さ100mm、内径8mm、外径10mm)を膜支持体とする。2wt%SiO-ZrOゾルを混合したα-アルミナ粒子からα-Al粒子層を形成しコーティングする。そして、550℃、大気下で15分間焼成する。
【0025】
次に、支持体11上にSiO-ZrOゾルを塗布する(ステップS13)。SiO-ZrOゾルが塗布された支持体11を、550℃、大気下で焼成する。これにより、支持体11上に、中間層12が形成される(ステップS14)。
【0026】
続いて、塗布工程として、金属ドープアミノシリカゾル調製工程で調製した0.1wt%金属ドープアミノシリカゾルを、中間層12上に塗布する(ステップS15)。尚、本実施の形態では、金属ドープアミノシリカゾル調製工程の後に中間層形成工程を行うこととしたがこれに限られず、中間層形成工程後に金属ドープアミノシリカゾル調製工程を行うこととしてもよい。また、金属ドープアミノシリカゾル調製工程と中間層形成工程とを並行して行うこととしてもよい。
【0027】
続いて、焼成工程として、中間層12上に金属ドープアミノシリカゾルを塗布した分離膜材料を250℃、N雰囲気下で30~60分間焼成する(ステップS16)。以上の工程により、分離膜10は製造される。
【0028】
以下、上述の実施の形態に係る分離膜10の特性、特に分離層13に対する金属ドープの効果の確認のために実施したニッケルドープアミノシリカゾル、ニッケルドープアミノシリカ薄膜、ニッケルドープアミノシリカ粉末の特性評価について説明する。本特性評価では比較のため、ニッケル比率(=ニッケル/アミノ基)がそれぞれ0.125、0.25、0.50であるニッケルBTPAゾルを調製して特性評価に用いた。
【0029】
(ニッケルドープアミノシリカゾルの特性)
図3(a)に、ニッケルドープBTPAゾル、BTPAゾル、Ni(NO・6HOの紫外可視分光法(UV-Vis)による測定結果を示す。BTPAゾルでは、アミノ基が持つ電子の配位子内遷移(n→σ)を示す212nmのみにピークが検出された。ニッケルドープBTPAゾルでは、227~241nm、282~313nm、420~422nmの3つのピークが検出された。それぞれ、n→σ(N-H)、n→Π(N=O)、d→d(dNi2+)の遷移に起因する。また、ニッケル比率が高くなるにつれて、アミノ基の自由電子の状態の変化により、212nm付近のピークが高波長側にシフトした。
【0030】
また、異なるニッケル比率のニッケルドープBTPAゾル及びニッケルをドープしないBTPAゾルをシリコンウェハーにコーティングし、250℃で焼成後、XPSによる測定を行った。
【0031】
図3(b)に、X線光電子分光法(XPS)による測定結果を示す。N(1s)結合エネルギーはBTPAでは399.8eVであり、ニッケルと配位結合する窒素原子を含むニッケルドープBTPAでは、400.5eV、401.3eVであった。結合エネルギーの増加は、配位結合する電子供与体である窒素に起因するものと考えられる。
【0032】
異なるニッケル比率のニッケルドープBTPAゾル及びニッケルをドープしないBTPAゾルをそれぞれKBrプレートにコーティングし、N雰囲気下50℃又は250℃で焼成後、FT-IRによる測定を行った。
【0033】
図3(c)にフーリエ変換赤外分光分析(FT-IR)(波数650~4000cm-1)による測定結果を、図3(d)にFT-IR(波数1500~1800cm-1)の測定結果を示す。アミノ基のN-H結合は、波数1550~1650cm-1にピークを示し、図3(c)に示すように焼成温度が250℃の場合、波数1610~1620cm-1においてピークが幅広くなり、強度が大きくなった。これは、BTPAの加水分解、縮合反応により、アミノ基と金属イオンとの配位結合が促進したことに起因すると考えられる。また、図3(d)に示すように、焼成温度が高くなるほどBTPAの脱水が進行し、アミノ基に配位する金属イオンが増加したと考えられる。
【0034】
UV-Vis、FT-IR、XPSによる測定結果から、いずれのニッケル比率のニッケルドープBTPAゾルでもアミノシリカのアミノ基と金属イオンとの間に配位結合が形成されていることがわかる。
【0035】
(ニッケルドープアミノシリカ粉末の特性)
ニッケル比率の異なるニッケルドープBTPAゾル及びニッケルをドープしないBTPAゾルを50℃で乾燥させ、砕いて粉末化しN雰囲気下で30分間焼成した。そして、生成された粉末についてX線回折法(XRD)、透過電子顕微鏡(TEM)による撮影画像、N吸脱着、メタノール/トルエン蒸気吸着による特性評価を行った。
【0036】
図4(a)に、粉末化後150℃、250℃で焼成したニッケルドープBTPA粉末及びBTPA粉末、焼成を行わないニッケルドープBTPA粉末及びBTPA粉末のXRDによる測定結果を示す。図4(b)に、250℃で焼成したニッケルドープBTPA粉末、BTPA粉末のXRDによる測定結果を示す。ニッケル比率が0.50、1.0の場合、ニッケル比率が0.25の場合よりもニッケルが凝集したニッケルナノ粒子を示すピークが多く確認された。
【0037】
図4(c)に、ニッケルドープBTPA粉末、BTPA粉末のTEM画像を示す。上段は低解像度のTEM画像、下段は高解像度のTEM画像である。ニッケル比率が0.50の場合、ニッケルナノ粒子が確認された。これに対し、ニッケル比率が0.25以上の場合、ニッケルが不均一に分布し、アミノ基と配位結合を形成していない非配位性のニッケルが多く確認された。
【0038】
図5(a)に、ニッケルドープBTPA粉末、BTPA粉末のN吸脱着等温線(-196℃)を示す。BTPA粉末のN吸着量と比べ、ニッケルを含むニッケルドープBTPA粉末のN吸着量は大きくなった。このN吸着量の増加は、ニッケルの添加により、電子受容体であるニッケルと電子供与体であるアミノ基との間に配位結合が形成され、粉末の粒子内に細孔が形成されたためと考えられる。
【0039】
図5(b)に、ニッケル比率と組織特性(表面積、細孔容積)との関係を示す。金属であるニッケル比率が大きいほど、粒子内に微細細孔構造が形成され、表面積が大きくなっている。
【0040】
図6(a)に、ニッケルドープBTPA粉末、BTPA粉末のメタノール蒸気吸着等温線を示す。図6(b)に、ニッケルドープBTPA粉末、BTPA粉末のトルエン蒸気吸着等温線を示す。図6(a)、(b)に示す吸着量から、ニッケルドープBTPA粉末は、非極性溶媒であるトルエンよりも、極性の小さいメタノールの吸着に適していることがわかる。また、ニッケル比率が増加するにつれて、ニッケルドープBTPA粉末のメタノール吸着量は増加し、小さなヒステリシスループを示した。これに対し、ニッケルをドープしないBTPA粉末のメタノール吸着量は小さく、大きなヒステリシスループを示した。
【0041】
図6(c)に、ニッケル比率と蒸気吸着量(メタノール、トルエン)との関係を示す。ニッケル比率が0であるBTPA粉末は、0.24[mol/mol]のメタノールの吸着量を示し、ニッケル比率が0.50であるBTPA粉末は、0.57[mol/mol]のメタノールの吸着量を示した。トルエンの吸着量もメタノールの吸着量と同様に、ニッケルの添加によって増加した。吸着量の増加から、ニッケルのドープによって粒子内に微細構造である細孔が形成されたと考えられる。
【0042】
(ニッケルドープアミノシリカ分離膜の特性)
上述した方法により製造したニッケル比率の異なる分離膜10の透過性評価を、ヘリウム、水素、二酸化炭素、窒素、メタン、四フッ化炭素、六フッ化硫黄について行った。透過させるガスを、分離膜10の分離層13側から200~400kPaの圧力により供給し、50~200℃で透過性評価を行った。透過性の評価指標として、透過流束、透過率、分離係数を算出した。
【0043】
透過流束は以下の式により算出されるものとした。
J=w/At、J=J・yi.p
J:総透過流束[kg/m・h]
:成分iの透過流束[kg/m・h]
w:透過重量[kg]
A:膜表面積[m
t:透過時間[h]
i.p:透過液の成分iの重量分率
【0044】
透過率は以下の式により算出されるものとした。
=JMi/(Pif-Pip
:成分iの透過率[mol/m・s・Pa]
Mi:成分iのモル流束[mol/m・h]
if;成分iの上流分圧[Pa]
ip:成分iの下流分圧[Pa]
【0045】
分離係数は以下の式により算出されるものとした。
α=(Y/Y)/(X/X)
:分離膜上流のメタノールのモル濃度
:分離膜上流のトルエンのモル濃度
:分離膜下流のメタノールのモル濃度
:分離膜下流のトルエンのモル濃度
【0046】
図7(a)に、気体分子サイズと気体透過率との関係を示す。図7(b)に、気体分子サイズと、ヘリウムの透過率を基準とした気体透過率との関係を示す。図7(a)、(b)に示すように、分離層13のニッケル比率が増加するにつれて、気体の透過率は大きくなった。
【0047】
図8(a1)に、ニッケル比率と透過率比との関係、図8(a2)に、ニッケル比率と透過率との関係を示す。窒素の直径は0.36nm、六フッ化硫黄の直径は0.55nmである。したがって、図8(a1)に示す窒素と六フッ化硫黄の透過率比(N/SF)の値が大きいほど、分離層13に適当な径の細孔が形成されており、分離膜10は高い分離能を有するといえる。図8(b1)に、ニッケル比率と活性化エネルギーとの関係、図8(b2)に、ニッケル比率と膜孔径との関係を示す。膜孔径は、公知の文献(M. Kanezashi, T. Sasaki, H. Tawarayama, H. Nagasawa,T. Yoshioka, K. Ito and T. Tsuru, Experimental and theoretical study on small gas permeation properties through amorphous silica membranes fabricated at different temperatures, J. Phys. Chem. C, 2014, 118, 20323-20331)に記載のm-GT(modified Gas Translation)モデルを用いて算出した。
【0048】
具体的には、膜孔径は以下の式により算出されるものとした。
:透過ガスの分子量
:透過率
R:気体定数
T:温度
-d:拡散距離
p、i:定数
:定数
【0049】
図8(a2)に示すように、ニッケル比率が大きくなるにつれて、水素、窒素、六フッ化硫黄の透過率は大きくなった。しかしながら、図8(b1)に示すように、膜の細孔壁と透過分子の間の相互作用を反映する活性化エネルギーは、ニッケル比率が大きくなるにつれて減少した。
【0050】
また、図8(a2)に示すように、ニッケル比率が0.125、0.25の場合、ニッケルをドープしない場合(ニッケル比率が0の場合)と比較して、六フッ化硫黄の透過率は小さくなった。この六フッ化硫黄の透過率の低下は、ニッケルとアミノ基の配位結合により、分離層13中に六フッ化硫黄(直径0.55nm)が透過できない径の細孔が形成されたためと考えられる。これにより、ニッケル比率は0.125~0.25であることが好ましいと考えられる。
【0051】
図9に、窒素透過率と窒素/六フッ化硫黄の透過率比との関係を示す。ニッケルドープBTPA分離膜は、1.0×10-7[mol/m・s・Pa]の高い窒素透過率を示した。また、ニッケルドープBTPA分離膜の六フッ化硫黄に対する窒素透過率比(N2/SF6)は100~1000の高い値を示した。よって、ニッケルドープBTPA分離膜は、0.36(窒素の直径)~0.55(六フッ化硫黄の直径)の直径を持つ分子の分離に適していると考えられる。
【0052】
また、ニッケル比率が0.25の場合に、窒素透過率及び六フッ化硫黄に対する窒素の透過率比が最も大きくなった。よって、ニッケル比率は、0.25程度であることが好ましいと考えられる。
【0053】
続いて、浸透気化法によるメタノール/トルエン混合物の分離の透過性評価について説明する。本評価例では、混合液の供給側の圧力を大気圧に、透過液側の圧力を真空ポンプにより0~2kPaに維持した。また、供給する混合液(メタノール/トルエン=10wt%/90wt%)の温度は、30~50℃に維持した。メタノール/トルエン混合物の分離には、支持体11及び中間層12で構成され、分離層13を備えないSiO-ZrO分離膜を比較例として用いた。また、混合液及び透過液の組成は、ガスクロマトグラフィーにより分析した。
【0054】
図10(a)~(e)に、浸透気化法によるメタノール/トルエン混合物の分離における膜性能(分離係数、透過率、透過流束)の経時変化を示す。ここで図10(a)はSiO-ZrO分離膜の場合、図10(b)はニッケルをドープしないBTPA分離膜の場合、図10(c)はニッケル比率が0.125であるニッケルドープBTPA分離膜の場合、図10(d)はニッケル比率が0.25であるニッケルドープBTPA分離膜の場合、図10(e)はニッケル比率が0.50であるニッケルドープBTPA分離膜の場合である。図10(c)~(e)に示すように、ニッケルをドープした分離膜10では、経時的に、安定した膜性能が観察された。また、ニッケル比率が0.50である場合に、メタノールの高い透過流束を示した。
【0055】
図11(a)に、浸透気化法によるメタノール/トルエン混合物の分離における膜性能(透過流束、分離係数)とニッケル比率との関係を示す。図11(b)に、メタノール/トルエン混合物の分離における透過流束と分離係数との関係を示す。ニッケル比率が0.125、0.25であるニッケルドープBTPA分離膜は、ニッケルをドープしないBTPA分離膜より高い透過流束を示した。また、ニッケル比率が0.5の場合、透過流束がBTPA分離膜の70倍である1[kg/m・h]以上であった。また、図11(b)に示すように、BTPA分離膜の分離係数が442であるのに対し、ニッケル比率が0.5であるニッケルドープBTPA分離膜の分離係数は907であった。
【0056】
図12に、メタノール/トルエン混合物のメタノール濃度と膜性能(分離係数、透過率、透過流束)との関係を示す。具体的には、ニッケル比率が0.50である分離膜10に対する混合溶液のメタノール濃度の影響を示す。メタノール供給濃度を10~50wt%の間で変化させた場合、メタノールの透過流束は大きくなり、トルエンの透過流束は一定であった。
【0057】
図13に、メタノール/トルエン混合物の分離における温度と膜性能(分離係数、透過率、透過流束)との関係を示す。メタノール/トルエン混合物の分離には、ニッケル比率が0.50であるニッケルドープBTPA分離膜を用いた。図13に示すように、メタノールの透過流束は、温度の上昇にともなって大きくなった。
【0058】
続いて、窒素原子と炭素原子とを含むシロキサン結合を有するポリマーの前駆体として、BTPA、TMAPS、APTESを用いた分離膜の特性評価について説明する。図14に、(a)ニッケルBTPA分離膜、(b)ニッケルTMAPS分離膜、(c)ニッケルAPTES分離膜の気体分子サイズと気体透過率との関係を示す。分離層13のニッケル比率が増加するにつれて、気体の透過率は大きくなった。
【0059】
以下、図を参照しつつ、ドープされる金属を変えた場合の金属ドープアミノシリカゾル、金属ドープアミノシリカ薄膜、金属ドープアミノシリカ粉末の特性評価について説明する。
【0060】
(金属ドープアミノシリカゾルの特性)
図15(a)に、金属ドープBTPAゾル、金属をドープしないBTPAゾル、金属塩のUV-Visスペクトルの結果を示す。
【0061】
金属ドープBTPAゾルでは、アミノ基の電子の遷移(n→σ)を示す212nm付近の最大吸収ピークが高波長側にシフトした。金属と配位子間の配位相互作用を示す遷移ピークがCu(d)とNi(d)複合体では観測されたが、d軌道に電子が十分に充填されているAg(d10)複合体ではピークが検出されなかった。
【0062】
また、金属ドープBTPAゾルをそれぞれKBrプレートにコーティングし、N雰囲気下50℃又は250℃で焼成後、FT-IRによる測定を行った。
【0063】
図15(b)に、FT-IR(波数600~4000cm-1)による測定結果を示す。焼成温度が250℃の場合、シロキサン結合(波数1110~1025cm-1)が増加し、シラノール結合(波数909cm-1)が減少した。
【0064】
図15(c)に、FT-IR(波数1500~1700cm-1)による測定結果を示す。金属ドープBTPAでは、250℃での焼成により、N-Hを示すピーク(波数1591cm-1)が、高波長側(波数1617~1623cm-1)にシフトしたことから、窒素原子と金属イオンとの間に配位結合が形成されていると考えられる。焼成温度が高くなるほどBTPAの脱水が進行し、アミノ基に配位する金属イオンが増加したと考えられる。
【0065】
また、金属ドープBTPAゾルをシリコンウェハーにコーティングし、250℃で焼成後、XPSによる測定を行った。図15(d)にXPSスペクトルの結果を示す。また、図15(e)にN(1s)のXPSスペクトルによる結果を示す。金属ドープBTPAでは、アミノ基と金属との間の相互作用により、N(1s)結合エネルギーがBTPAより大きい値となった。
【0066】
UV-Vis、FT-IR、XPSによる測定結果から、アミノシリカのアミノ基と金属イオンとの間に配位結合が形成されていると考えられる。
【0067】
(金属ドープアミノシリカ粉末の特性)
金属ドープBTPAゾルを50℃で乾燥させ、砕いて粉末化しN雰囲気下で30分間焼成後、XRD、TEM画像、N吸脱着、CO吸着による特性評価を行った。
【0068】
図16(a)に、粉末化後250℃で焼成した金属ドープBTPA粉末及びBTPA粉末のXRDによる測定結果を示す。銀ドープBTPA粉末では、38.5、44.4、64.6、77.6にピークが検出され、銀が凝集した銀ナノ粒子の形成が確認された。銅ドープBTPA粉末では、非常に小さいピークが検出され、銅が凝集した銅ナノ粒子の形成が確認された。
【0069】
図16(b)に、金属ドープBTPA粉末及びBTPA粉末のTEM画像を示す。上段は、低解像度のTEM画像、下段は、高解像度のTEM画像である。銀ドープBTPA粉末及び銅ドープBTPA粉末では、金属が凝集したナノ粒子の形成が確認された。
【0070】
図17に、粉末化後250℃で焼成した金属ドープBTPA粉末、BTPA粉末のN吸脱着等温線(-196℃)を示す。N吸脱着量等温線による結果により、BET(Brunauer-Emmett-Teller)表面積と全細孔容積を算出した。また、t-プロット解析により微細孔容積を算出した。
【表1】
【0071】
また、コバルトドープBTPA粉末、亜鉛ドープBTPA粉末のN吸脱着量等温線の結果からBET表面積と全細孔容積を算出した。コバルトをドープした場合、BET表面積は97.0(m-1)、全細孔容積は0.115(cm-1)であった。また、亜鉛をドープした場合、BET表面積は2.79(m-1)、全細孔容積は0.003(cm-1)であった。
【0072】
表1に示すように、ニッケルドープBTPAは、銀ドープBTPAと銅ドープBTPAと比べ、最大の表面積と全細孔容積を有する。これらの金属ドープBTPA粉末において、金属をドープすることにより、BTPA分子内のアミノ基と金属イオンとの間の配位結合の形成が促進される。そして、電子供与体であるBTPA分子内のアミノ基と電子受容体である金属イオンとの間の配位結合により、細孔が形成される。
【0073】
図18に、粉末化後250℃で焼成した金属ドープBTPA粉末、BTPA粉末のCO吸脱着等温線を示す。ニッケルドープBTPAと銅ドープBTPAへのCO吸着は可逆的であった。銀ドープBTPAでは、ヒステリシスループが観察され、CO吸着は非配位性のアミノ基により不可逆的であった。
【0074】
図19(a)、(b)に、アミノ基を有しないビス(トリメトキシシリル)ヘキサン(bis(trimethoxysilyl)hexane:BTMSH)を、金属イオンと配位結合を形成しない比較例として用いた、N吸脱着及びXRDによる特性評価の結果を示す。図19(a)は、粉末化後250℃で焼成したニッケルドープBTPA粉末、ニッケルドープBTMSH粉末のN吸脱着等温線のグラフである。ニッケルの添加により、BTPA粉末のN吸着量は大きくなった。ニッケルの添加により、BTMSH粉末のN吸着量も僅かに大きくなったが、これは細孔の形成によるものではなく、ニッケルが凝集したニッケルナノ粒子によるものであると考えられる。
【0075】
図19(b)は、粉末化後250℃又は500℃で焼成したニッケルドープBTPA粉末、ニッケルドープBTMSH粉末、BTPA粉末、BTMSH粉末のXRDによる測定結果を示すグラフである。ニッケルドープBTMSH粉末では、250℃で焼成した場合でも、500℃で焼成した場合でも、ニッケルが凝集したニッケルナノ粒子が形成されたことがわかる。
【0076】
続いて、コバルトをドープしたTESPHIゾルを50℃で乾燥させた後、砕いて粉末化しN雰囲気下で30分間焼成した粉末について、N吸脱着、CO吸着による特性評価を行った。N吸脱着等温線(-196℃)を図20(a)に、CO吸脱着等温線を図20(b)に示す。図20(b)に示すように、コバルトドープTESPHIへのCO吸着は可逆的であった。また、BET表面積は119(m-1)、全細孔容積は0.165(cm-1)であった。
【0077】
(金属ドープアミノシリカ分離膜の特性)
図21に、ニッケルドープBTPA分離膜とBTPA分離膜の断面の走査電子顕微鏡(SEM)による撮影画像を示す。図21に示すように、分離層と中間層の厚さは、235~275nm、分離層の厚さは13~50nmであると推測される。
【0078】
上述した方法に基づいて、異なる金属をドープして製造した分離膜の透過性評価を、ヘリウム、水素、二酸化炭素、窒素、メタン、四フッ化炭素、六フッ化硫黄について行い、透過率を算出した。
【0079】
図22(a)に、気体分子サイズと気体透過率との関係を示す。図22(b)に、気体分子サイズとヘリウムの透過率を基準とした気体透過率との関係を示す。透過させる気体の分子サイズが大きくなるにつれて透過率は減少した。よって、本実施の形態に係る分離膜による気体分離は、分子ふるいによるものであると考えられる。
【0080】
図22(c)に、ドープする金属と気体透過率との関係を示す。水素の透過率はBTPA分離膜では、7.13×10-7[mol/m・s・Pa]、ニッケルドープBTPA分離膜では、4.45×10-6[mol/m・s・Pa]であり、ニッケルをドープした分離膜では水素の透過性が大きくなった。ヘリウム、二酸化炭素、メタン、窒素の透過性もニッケルをドープした場合に最大となった。銀ドープBTPA、銅ドープBTPA、ニッケルドープBTPAの順に気体透過性が大きくなり、気体透過性の大きさは金属のアミノ基へ配位する結合能の大きさと一致した。また、ニッケルドープBTPA分離膜の六フッ化硫黄の透過性は、BTPA分離膜に比べ大きく減少した。したがって、ニッケルドープBTPAの孔径分布が、窒素(0.36nm)から六フッ化硫黄(0.55nm)の範囲であると考えられる。
【0081】
図23に、ヘリウム/窒素の透過率比とヘリウム/六フッ化硫黄の透過率比との関係を示す。ニッケルに比べアミノ基への親和性の低い銀または銅をドープした場合、六フッ化硫黄(0.55nm)が透過可能な孔径の大きい細孔が形成され、ヘリウム/六フッ化硫黄の透過率比が小さくなり、細孔径分布が広くなった。
【0082】
ニッケルをドープした場合では、ニッケルとアミノ基との間の安定した配位結合により、より均一な細孔が形成されたため、高い選択性を示したものと考えられる。
【0083】
図24(a)に、水素透過率と水素/窒素の透過率比との関係を示す。ニッケルドープBTPA分離膜は、水素透過率が1.14×10-6~4.45×10-6[mol/m・s・Pa]、水素/窒素の透過率比が10~28であった。銅ドープBTPAは、水素透過率4.36×10-6[mol/m・s・Pa]、水素/窒素の透過率比27であった。シリカ系多孔性膜であるBTESE、TEOSと比較して、金属ドープBTPAは水素/窒素の分離において高い透過性と選択性を示した。
【0084】
図24(b)に、窒素透過率と窒素/六フッ化硫黄の透過率比との関係を示す。ニッケルドープBTPAは、窒素透過率が3.75×10-7[mol/m・s・Pa]、窒素/六フッ化硫黄の透過率比が1900であった。よって、ニッケルドープBTPA分離膜は、高い透過性と選択性を有することが分かる。
【0085】
以上説明したように、窒素原子と炭素原子とを含むシロキサン結合を有するポリマーに金属をドープすることにより、分離層13に含まれる窒素原子と金属イオンとが配位結合を形成し、均一な細孔を形成することが可能となる。これにより、分離膜10の選択性を向上させることが可能となる。また、特に、金属イオンとしてニッケルをドープした場合、分離層13に含まれる窒素原子とニッケルとの安定した配位結合により、より均一な細孔が形成され分離膜10の選択性を大きく向上させることができる。
【0086】
また、シロキサン結合を有するポリマーは、電子供与体となる窒素原子に、窒素原子よりも電気陰性度の小さい炭素原子が結合することにより、窒素原子と炭素原子の間に電荷の偏りが生じ配位結合の形成が促進される。したがって、分離膜の分離性能を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、混合気体及び混合有機溶媒からの目的の物質の分離に好適である。
【符号の説明】
【0088】
10 分離膜、11 支持体、12 中間層、13 分離層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
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