IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本放送協会の特許一覧

<>
  • 特開-時刻同期誤差生成装置及びプログラム 図1
  • 特開-時刻同期誤差生成装置及びプログラム 図2
  • 特開-時刻同期誤差生成装置及びプログラム 図3
  • 特開-時刻同期誤差生成装置及びプログラム 図4
  • 特開-時刻同期誤差生成装置及びプログラム 図5
  • 特開-時刻同期誤差生成装置及びプログラム 図6
  • 特開-時刻同期誤差生成装置及びプログラム 図7
  • 特開-時刻同期誤差生成装置及びプログラム 図8
  • 特開-時刻同期誤差生成装置及びプログラム 図9
  • 特開-時刻同期誤差生成装置及びプログラム 図10
  • 特開-時刻同期誤差生成装置及びプログラム 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056929
(43)【公開日】2023-04-20
(54)【発明の名称】時刻同期誤差生成装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04L 7/00 20060101AFI20230413BHJP
【FI】
H04L7/00 990
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021166441
(22)【出願日】2021-10-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100121119
【弁理士】
【氏名又は名称】花村 泰伸
(72)【発明者】
【氏名】山口 隆裕
【テーマコード(参考)】
5K047
【Fターム(参考)】
5K047AA15
5K047AA18
(57)【要約】
【課題】PTPにより時刻同期を行うネットワークにおいて、マスター機器とスレーブ機器との間の時刻同期の誤差を任意に生成する。
【解決手段】時刻同期誤差生成装置2-1の設定部10は、任意の滞留時間d1,d2,d3,d4及び時刻同期誤差Δtを設定する。パケット識別部12は、マスター側から受信したSyncのPTPパケットを識別し、遅延部13は時間(d1-(dA+dB))だけ遅延させる。滞留時間追記部15は、そのPTPパケットの補正領域に滞留時間D1(=d1+Δt)を追記する。パケット識別部17は、スレーブ側から受信したDelay RequestのPTPパケットを識別し、遅延部18は時間(d2-(dC+dD))だけ遅延させる。滞留時間追記部20は、そのPTPパケットの補正領域に滞留時間D2(=d2-Δt)を追記する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタークロックを備えたマスター機器と、スレーブクロックを備え、時刻同期の仕組みがワンステップ(One Step)方式のPTP(Precision Time Protocol)に従って、前記マスター機器から送信されたSyncのPTPパケットに含まれる滞留時間D1及び前記SyncのPTPパケットが送信された時刻T1、前記SyncのPTPパケットを受信した時刻T2、Delay RequestのPTPパケットが送信される時刻T3、並びに、前記マスター機器から送信されたDelay ResponseのPTPパケットに含まれる滞留時間D2及び前記マスター機器が前記Delay RequestのPTPパケットを受信した時刻T4に基づいて、前記スレーブクロックを前記マスタークロックに合わせるための前記時刻同期を行うスレーブ機器と、前記マスター機器及び前記スレーブ機器の間で前記PTPパケットを含むIPデータの伝送を行うネットワーク機器と、前記マスター機器及び前記スレーブ機器の間で前記PTPパケットを含む前記IPデータの伝送を行うと共に、前記スレーブ機器に対し、前記時刻同期の誤差を生成させる時刻同期誤差生成装置と、により構成されるIPネットワークにおける前記時刻同期誤差生成装置であって、
ユーザの操作に従い、前記マスター機器から送信された前記SyncのPTPパケットを前記スレーブ機器へ伝送する際の滞留時間d1、及び前記スレーブ機器から送信された前記Delay RequestのPTPパケットを前記マスター機器へ伝送する際の滞留時間d2を設定すると共に、前記スレーブ機器に生成させる前記時刻同期の誤差を時刻同期誤差Δtとして設定する設定部と、
前記マスター機器から送信された前記SyncのPTPパケットを識別する第1パケット識別部と、
前記設定部により設定された前記滞留時間d1だけ当該時刻同期誤差生成装置にて滞留するように、前記第1パケット識別部により識別された前記SyncのPTPパケットを遅延させる第1遅延部と、
前記設定部により設定された前記滞留時間d1に前記時刻同期誤差Δtを加算することで、前記滞留時間D1(=d1+Δt)を求め、前記第1遅延部により遅延した前記SyncのPTPパケットの補正領域に、前記滞留時間D1を追記する第1滞留時間追記部と、
前記スレーブ機器から送信された前記Delay RequestのPTPパケットを識別する第2パケット識別部と、
前記設定部により設定された前記滞留時間d2だけ当該時刻同期誤差生成装置にて滞留するように、前記第2パケット識別部により識別された前記Delay RequestのPTPパケットを遅延させる第2遅延部と、
前記設定部により設定された前記滞留時間d2から前記時刻同期誤差Δtを減算することで、前記滞留時間D2(=d2-Δt)を求め、前記第2遅延部により遅延した前記Delay RequestのPTPパケットの補正領域に、前記滞留時間D2を追記する第2滞留時間追記部と、
を備えたことを特徴とする時刻同期誤差生成装置。
【請求項2】
マスタークロックを備えたマスター機器と、スレーブクロックを備え、時刻同期の仕組みがツーステップ(Two Step)方式のPTP(Precision Time Protocol)に従って、前記マスター機器から送信されたFollow UpのPTPパケットに含まれる滞留時間D1及びSyncのPTPパケットが送信された時刻T1、前記SyncのPTPパケットを受信した時刻T2、Delay RequestのPTPパケットが送信される時刻T3、並びに、前記マスター機器から送信されたDelay ResponseのPTPパケットに含まれる滞留時間D2及び前記マスター機器が前記Delay RequestのPTPパケットを受信した時刻T4に基づいて、前記スレーブクロックを前記マスタークロックに合わせるための前記時刻同期を行うスレーブ機器と、前記マスター機器及び前記スレーブ機器の間で前記PTPパケットを含むIPデータの伝送を行うネットワーク機器と、前記マスター機器及び前記スレーブ機器の間で前記PTPパケットを含む前記IPデータの伝送を行うと共に、前記スレーブ機器に対し、前記時刻同期の誤差を生成させる時刻同期誤差生成装置と、により構成されるIPネットワークにおける前記時刻同期誤差生成装置であって、
ユーザの操作に従い、前記マスター機器から送信された前記SyncのPTPパケット及び前記Follow UpのPTPパケットを前記スレーブ機器へ伝送する際の滞留時間d1、前記スレーブ機器から送信された前記Delay RequestのPTPパケットを前記マスター機器へ伝送する際の滞留時間d2を設定すると共に、前記スレーブ機器に生成させる前記時刻同期の誤差を時刻同期誤差Δtとして設定する設定部と、
前記マスター機器から送信された前記SyncのPTPパケット及び前記Follow UpのPTPパケットを識別する第1パケット識別部と、
前記設定部により設定された前記滞留時間d1だけ当該時刻同期誤差生成装置にて滞留するように、前記第1パケット識別部により識別された前記SyncのPTPパケット及び前記Follow UpのPTPパケットを遅延させる第1遅延部と、
前記設定部により設定された前記滞留時間d1に前記時刻同期誤差Δtを加算することで、前記滞留時間D1(=d1+Δt)を求め、前記第1遅延部により遅延した前記Follow UpのPTPパケットの補正領域に、前記滞留時間D1を追記する第1滞留時間追記部と、
前記スレーブ機器から送信された前記Delay RequestのPTPパケットを識別する第2パケット識別部と、
前記設定部により設定された前記滞留時間d2だけ当該時刻同期誤差生成装置にて滞留するように、前記第2パケット識別部により識別された前記Delay RequestのPTPパケットを遅延させる第2遅延部と、
前記設定部により設定された前記滞留時間d2から前記時刻同期誤差Δtを減算することで、前記滞留時間D2(=d2-Δt)を求め、前記第2遅延部により遅延した前記Delay RequestのPTPパケットの補正領域に、前記滞留時間D2を追記する第2滞留時間追記部と、
を備えたことを特徴とする時刻同期誤差生成装置。
【請求項3】
マスタークロックを備えたマスター機器と、スレーブクロックを備え、時刻同期の仕組みがワンステップ(One Step)方式またはツーステップ(Two Step)方式のPTP(Precision Time Protocol)に従って、前記マスター機器から送信されたSyncのPTPパケットまたはFollow UpのPTPパケットに含まれる滞留時間D1及びSyncのPTPパケットが送信された時刻T1、前記SyncのPTPパケットを受信した時刻T2、Delay RequestのPTPパケットが送信される時刻T3、並びに、前記マスター機器から送信されたDelay ResponseのPTPパケットに含まれる滞留時間D2及び前記マスター機器が前記Delay RequestのPTPパケットを受信した時刻T4に基づいて、前記スレーブクロックを前記マスタークロックに合わせるための前記時刻同期を行うスレーブ機器と、前記マスター機器及び前記スレーブ機器の間で前記PTPパケットを含むIPデータの伝送を行うネットワーク機器と、前記マスター機器及び前記スレーブ機器の間で前記PTPパケットを含む前記IPデータの伝送を行うと共に、前記スレーブ機器に対し、前記時刻同期の誤差を生成させる時刻同期誤差生成装置と、により構成されるIPネットワークにおける前記時刻同期誤差生成装置であって、
ユーザの操作に従い、前記マスター機器から送信された前記SyncのPTPパケット及び前記Follow UpのPTPパケットを前記スレーブ機器へ伝送する際の滞留時間d1、前記スレーブ機器から送信された前記Delay RequestのPTPパケットを前記マスター機器へ伝送する際の滞留時間d2を設定すると共に、前記スレーブ機器に生成させる前記時刻同期の誤差を時刻同期誤差Δtとして設定する設定部と、
前記マスター機器から送信された前記SyncのPTPパケット及び前記Follow UpのPTPパケットを識別する第1パケット識別部と、
前記設定部により設定された前記滞留時間d1だけ当該時刻同期誤差生成装置にて滞留するように、前記第1パケット識別部により識別された前記SyncのPTPパケット及び前記Follow UpのPTPパケットを遅延させる第1遅延部と、
前記第1遅延部により遅延した前記SyncのPTPパケットにおけるPTPの時刻同期の仕組みが前記ワンステップ方式であるか、または前記ツーステップ方式であるかを識別し、
前記設定部により設定された前記滞留時間d1に前記時刻同期誤差Δtを加算することで、前記滞留時間D1(=d1+Δt)を求め、前記第1遅延部により遅延した前記ワンステップ方式の前記SyncのPTPパケットの補正領域、及び前記第1遅延部により遅延した前記Follow UpのPTPパケットの補正領域に、前記滞留時間D1を追記するステップ識別及び滞留時間追記部と、
前記スレーブ機器から送信された前記Delay RequestのPTPパケットを識別する第2パケット識別部と、
前記設定部により設定された前記滞留時間d2だけ当該時刻同期誤差生成装置にて滞留するように、前記第2パケット識別部により識別された前記Delay RequestのPTPパケットを遅延させる第2遅延部と、
前記設定部により設定された前記滞留時間d2から前記時刻同期誤差Δtを減算することで、前記滞留時間D2(=d2-Δt)を求め、前記第2遅延部により遅延した前記Delay RequestのPTPパケットの補正領域に、前記滞留時間D2を追記する第2滞留時間追記部と、
を備えたことを特徴とする時刻同期誤差生成装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の時刻同期誤差生成装置において、
前記第1遅延部により遅延した前記ツーステップ方式の前記SyncのPTPパケットの補正領域を、ゼロに設定する、ことを特徴とする時刻同期誤差生成装置。
【請求項5】
マスタークロックを備えたマスター機器と、スレーブクロックを備え、時刻同期の仕組みがワンステップ(One Step)方式のPTP(Precision Time Protocol)に従って、前記マスター機器から送信されたSyncのPTPパケットに含まれる滞留時間D1及び前記SyncのPTPパケットが送信された時刻T1、前記SyncのPTPパケットを受信した時刻T2、Delay RequestのPTPパケットが送信される時刻T3、並びに、前記マスター機器から送信されたDelay ResponseのPTPパケットに含まれる滞留時間D2及び前記マスター機器が前記Delay RequestのPTPパケットを受信した時刻T4に基づいて、前記スレーブクロックを前記マスタークロックに合わせるための前記時刻同期を行うスレーブ機器と、前記マスター機器及び前記スレーブ機器の間で前記PTPパケットを含むIPデータの伝送を行うネットワーク機器と、前記マスター機器及び前記スレーブ機器の間で前記PTPパケットを含む前記IPデータの伝送を行うと共に、前記スレーブ機器に対し、前記時刻同期の誤差を生成させる時刻同期誤差生成装置と、により構成されるIPネットワークにおける前記時刻同期誤差生成装置を構成するコンピュータを、
ユーザの操作に従い、前記マスター機器から送信された前記SyncのPTPパケットを前記スレーブ機器へ伝送する際の滞留時間d1、及び前記スレーブ機器から送信された前記Delay RequestのPTPパケットを前記マスター機器へ伝送する際の滞留時間d2を設定すると共に、前記スレーブ機器に生成させる前記時刻同期の誤差を時刻同期誤差Δtとして設定する設定部、
前記マスター機器から送信された前記SyncのPTPパケットを識別する第1パケット識別部、
前記設定部により設定された前記滞留時間d1だけ当該時刻同期誤差生成装置にて滞留するように、前記第1パケット識別部により識別された前記SyncのPTPパケットを遅延させる第1遅延部、
前記設定部により設定された前記滞留時間d1に前記時刻同期誤差Δtを加算することで、前記滞留時間D1(=d1+Δt)を求め、前記第1遅延部により遅延した前記SyncのPTPパケットの補正領域に、前記滞留時間D1を追記する第1滞留時間追記部、
前記スレーブ機器から送信された前記Delay RequestのPTPパケットを識別する第2パケット識別部、
前記設定部により設定された前記滞留時間d2だけ当該時刻同期誤差生成装置にて滞留するように、前記第2パケット識別部により識別された前記Delay RequestのPTPパケットを遅延させる第2遅延部、及び、
前記設定部により設定された前記滞留時間d2から前記時刻同期誤差Δtを減算することで、前記滞留時間D2(=d2-Δt)を求め、前記第2遅延部により遅延した前記Delay RequestのPTPパケットの補正領域に、前記滞留時間D2を追記する第2滞留時間追記部として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PTP(Precision Time Protocol)により時刻同期を行う技術に関し、特に、時刻同期の誤差を生成する装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、IP(Internet Protocol)ネットワーク上で精密な時刻同期を行うための規格として、PTPが知られている(例えば、非特許文献1を参照)。このPTPの規格に従って時刻同期を行うことにより、ナノ秒オーダの精度を実現することができる。
【0003】
このため、PTPは、ミリ秒オーダの精度を実現するNTP(Network Time Protocol)に比べ、1000倍以上の高精度を実現することができるため、放送局では、IPネットワークによる番組制作のシステムに利用されている。
【0004】
図9は、IPを用いた番組制作システムの構成例を示す概略図である。このIPを用いた番組制作システムは、IPの通信規格に従って映像信号を送受信するシステムであり、マスター機器201、スレーブ機器202-1,202-2,202-3及びネットワーク機器203を備えて構成される。
【0005】
マスター機器201は、マスタークロックを備えており、マスタークロックのリファレンスとして、GNSS(Global Navigation Satellite System)信号または放送局の基準同期信号であるBB信号等を使用する。
【0006】
マスター機器201は、マスタークロックを用いてタイムスタンプを生成し、タイムスタンプを含むPTPパケットを、ネットワーク機器203を介してスレーブ機器202-1,202-2,202-3へ送信する。また、マスター機器201は、スレーブ機器202-1,202-2,202-3からネットワーク機器203を介して、タイムスタンプを含むPTPパケットを受信する。
【0007】
スレーブ機器202-1,202-2,202-3は、例えば番組制作機器であり、スレーブクロックをそれぞれ備えている。スレーブ機器202-1,202-2はカメラであり、スレーブ機器202-3は映像スイッチャーである。スレーブ機器202-1,202-2は、映像信号を、ネットワーク機器203を介してスレーブ機器202-3へ送信し、スレーブ機器202-3は、スレーブ機器202-1,202-2からネットワーク機器203を介して、映像信号を受信する。
【0008】
スレーブ機器202-1,202-2,202-3は、マスター機器201からネットワーク機器203を介して、タイムスタンプを含むPTPパケットを受信する。
【0009】
また、スレーブ機器202-1,202-2,202-3は、スレーブクロックを用いてタイムスタンプを生成し、タイムスタンプを含むPTPパケットを、ネットワーク機器203を介してマスター機器201へ送信する。
【0010】
スレーブ機器202-1,202-2,202-3は、受信したPTPパケットに含まれるタイムスタンプ、当該PTPパケットの受信時刻等に基づいて、スレーブクロックを調整することで、スレーブクロックの時刻をマスタークロックの時刻に合わせる。
【0011】
これにより、マスター機器201とスレーブ機器202-1,202-2,202-3との間でタイムスタンプを含むPTPパケットを交換することで、スレーブクロックの時刻をマスタークロックの時刻に合わせることができ、時刻同期を実現することができる。
【0012】
次に、図9に示したIPを用いた番組制作システムにおいて、PTPの時刻同期の仕組みについて説明する。PTPパケットの送受信方式には、3種類のPTPパケットを送受信するワンステップ(One Step)方式、及び4種類のPTPパケットを送受信するツーステップ(Two Step)方式がある。
【0013】
(PTPの時刻同期の仕組み/ワンステップ方式)
まず、ワンステップ方式のPTPによる時刻同期の仕組みについて説明する。図10(1)は、ワンステップ方式のPTPによる時刻同期のシーケンスを説明する図である。図9におけるスレーブ機器202-1,202-2,202-3を総称して、スレーブ機器202とする。
【0014】
前述のとおり、ワンステップ方式は、3種類のPTPパケットを送受信する方式である。3種類のPTPパケットは、図10(1)に示すように、Sync(シンク)のPTPパケット、Delay Request(ディレイリクエスト)のPTPパケット、及びDelay Response(ディレイレスポンス)のPTPパケットである。
【0015】
マスター機器201は、マスタークロックを用いて、SyncのPTPパケットを送信する時刻T1を特定し、時刻T1を含むSyncのPTPパケットを生成し、当該PTPパケットを、ネットワーク機器203を介してスレーブ機器202へ送信する。
【0016】
スレーブ機器202は、マスター機器201からネットワーク機器203を介して、時刻T1を含むSyncのPTPパケットを受信し、スレーブクロックを用いて、SyncのPTPパケットを受信した時刻T2を特定する。また、スレーブ機器202は、時刻T1を含むSyncのPTPパケットから、時刻T1を抽出する。
【0017】
そして、スレーブ機器202は、スレーブクロックを用いて、Delay RequestのPTPパケットを送信する時刻T3を特定し、時刻T3を含むDelay RequestのPTPパケットを生成する。スレーブ機器202は、当該PTPパケットを、ネットワーク機器203を介してマスター機器201へ送信する。
【0018】
マスター機器201は、スレーブ機器202からネットワーク機器203を介して、時刻T3を含むDelay RequestのPTPパケットを受信し、マスタークロックを用いて、Delay RequestのPTPパケットを受信した時刻T4を特定する。
【0019】
そして、マスター機器201は、時刻T4を含むDelay ResponseのPTPパケットを生成し、当該PTPパケットを、ネットワーク機器203を介してスレーブ機器202へ送信する。
【0020】
スレーブ機器202は、マスター機器201からネットワーク機器203を介して、時刻T4を含むDelay ResponseのPTPパケットを受信し、時刻T4を含むDelay ResponseのPTPパケットから、時刻T4を抽出する。
【0021】
スレーブ機器202は、マスター側からスレーブ側への伝送遅延及びスレーブ側からマスター側への伝送遅延が等しいとして、時刻T1,T2,T3,T4を用いて、以下の式にて、片道伝送遅延及び時刻ずれを算出する。スレーブ機器202は、時刻ずれが0となるように、スレーブクロックを調整する。時刻ずれは、マスタークロックの時刻に対するスレーブクロックの時刻のずれである。
[数1]
片道伝送遅延={(T2-T1)+(T4-T3)}/2 ・・・(1)
[数2]
時刻ずれ=(T2-T1)-片道伝送遅延
={(T2-T1)-(T4-T3)}/2 ・・・(2)
【0022】
ここで、時刻T1は、マスター機器201によりSyncのPTPパケットが送信される時刻であり、時刻T2は、スレーブ機器202によりSyncのPTPパケットが受信された時刻である。時刻T3は、スレーブ機器202によりDelay RequestのPTPパケットが送信される時刻であり、時刻T4は、マスター機器201によりDelay RequestのPTPパケットが受信された時刻である。
【0023】
このように、マスター機器201とスレーブ機器202との間でタイムスタンプを含むPTPパケットを交換することで、時刻ずれが算出され、時刻ずれが0となるようにスレーブクロックが調整される。これにより、スレーブクロックの時刻をマスタークロックの時刻に合わせることができ、時刻同期を実現することができる。
【0024】
図10(2)は、IPネットワーク上で伝送遅延変動がある場合のワンステップ方式のPTPによる時刻同期のシーケンスを説明する図である。PTPには、IPネットワークの経路の通過時間を補正する仕組みとしてTC(Transparent Clock)がある。
【0025】
このTCの仕組みを用いて、ネットワーク機器203により、滞留時間がPTPパケットの補正領域に追記される。ここで、滞留時間がPTPパケットの補正領域に追記されるとは、ネットワーク機器203が複数存在するとして、補正領域に既に記録されている滞留時間(滞留時間の累積値)に滞留時間D1が加算され、加算結果である新たな滞留時間の累積値が補正領域に記録されることを意味する。
【0026】
これにより、スレーブ機器202は、スレーブクロックを調整する際に、滞留時間を用いることで、IPネットワーク上の経路での滞留時間の影響を補正することができる。つまり、IPネットワーク上で伝送遅延変動がある場合に、これに対応した時刻同期を実現することができる。
【0027】
マスター機器201は、マスタークロックを用いて、SyncのPTPパケットを送信する時刻T1を特定し、時刻T1を含むSyncのPTPパケットを生成し、当該PTPパケットをネットワーク機器203へ送信する。
【0028】
ネットワーク機器203は、マスター機器201から、時刻T1を含むSyncのPTPパケットを受信し、滞留時間D1をSyncのPTPパケットの補正領域に追記する。ここで、滞留時間D1は、ネットワーク機器203がSyncのPTPパケットを受信してから送信するまでの間の時間、すなわちネットワーク機器203におけるSyncのPTPパケットの滞留時間である。
【0029】
ネットワーク機器203は、時刻T1及び滞留時間D1を含むSyncのPTPパケットをスレーブ機器202へ送信する。
【0030】
スレーブ機器202は、ネットワーク機器203から、時刻T1及び滞留時間D1を含むSyncのPTPパケットを受信し、スレーブクロックを用いて、SyncのPTPパケットを受信した時刻T2を特定する。また、スレーブ機器202は、SyncのPTPパケットから時刻T1を抽出すると共に、SyncのPTPパケットの補正領域から滞留時間D1を抽出する。
【0031】
そして、スレーブ機器202は、スレーブクロックを用いて、Delay RequestのPTPパケットを送信する時刻T3を特定し、時刻T3を含むDelay RequestのPTPパケットを生成し、当該PTPパケットをネットワーク機器203へ送信する。
【0032】
ネットワーク機器203は、スレーブ機器202から、時刻T3を含むDelay RequestのPTPパケットを受信し、滞留時間D2をDelay RequestのPTPパケットの補正領域に追記する。ここで、滞留時間D2は、ネットワーク機器203がDelay RequestのPTPパケットを受信してから送信するまでの間の時間、すなわちネットワーク機器203におけるDelay RequestのPTPパケットの滞留時間である。
【0033】
ネットワーク機器203は、時刻T3及び滞留時間D2を含むDelay RequestのPTPパケットをマスター機器201へ送信する。
【0034】
マスター機器201は、ネットワーク機器203から、時刻T3及び滞留時間D2を含むDelay RequestのPTPパケットを受信し、マスタークロックを用いて、Delay RequestのPTPパケットを受信した時刻T4を特定する。また、マスター機器201は、Delay RequestのPTPパケットの補正領域から滞留時間D2を抽出する。
【0035】
そして、マスター機器201は、滞留時間D2をDelay ResponseのPTPパケットの補正領域にコピーし、時刻T4及び滞留時間D2を含むDelay ResponseのPTPパケットを生成する。マスター機器201は、当該PTPパケットを、ネットワーク機器203を介してスレーブ機器202へ送信する。
【0036】
スレーブ機器202は、マスター機器201からネットワーク機器203を介して、時刻T4及び滞留時間D2を含むDelay ResponseのPTPパケットを受信する。そして、スレーブ機器202は、Delay ResponseのPTPパケットから時刻T4を抽出すると共に、Delay ResponseのPTPパケットの補正領域から滞留時間D2を抽出する。
【0037】
スレーブ機器202は、マスター側からスレーブ側への伝送遅延及びスレーブ側からマスター側への伝送遅延が等しいとして、時刻T1,T2,T3,T4及び滞留時間D1,D2を用いて、以下の式にて、片道伝送遅延及び時刻ずれを算出する。そして、スレーブ機器202は、時刻ずれが0となるように、スレーブクロックを調整する。
[数3]
片道伝送遅延={(T2-T1-D1)+(T4-T3-D2)}/2 ・・・(3)
[数4]
時刻ずれ=(T2-T1-D1)-片道伝送遅延
={(T2-T1-D1)-(T4-T3-D2)}/2 ・・・(4)
【0038】
前述のとおり、滞留時間D1は、ネットワーク機器203におけるSyncのPTPパケットの滞留時間であり、滞留時間D2は、ネットワーク機器203におけるDelay RequestのPTPパケットの滞留時間である。
【0039】
このように、マスター機器201とスレーブ機器202との間でタイムスタンプ及び滞留時間を含むPTPパケットを交換することで、時刻ずれが算出され、時刻ずれが0となるようにスレーブクロックが調整される。これにより、IPネットワーク上で伝送遅延変動がある場合であっても、スレーブクロックの時刻をマスタークロックの時刻に合わせることができ、時刻同期を実現することができる。
【0040】
(PTPの時刻同期の仕組み/ツーステップ方式)
次に、ツーステップ方式のPTPによる時刻同期の仕組みについて説明する。図11(1)は、ツーステップ方式のPTPによる時刻同期のシーケンスを説明する図である。
【0041】
前述のとおり、ツーステップ方式は、4種類のPTPパケットを送受信する方式である。4種類のPTPパケットは、図11(1)に示すように、SyncのPTPパケット、Follow Up(フォローアップ)のPTPパケット、Delay RequestのPTPパケット、及びDelay ResponseのPTPパケットである。ツーステップ方式の4種類のPTPパケットは、ワンステップ方式の3種類のPTPパケットに加え、Follow UpのPTPパケットにより構成される。
【0042】
マスター機器201がSyncのPTPパケットを送信する際に、その送信時刻である時刻T1を当該SyncのPTPパケットに記録することは、技術的に困難である。このため、マスター機器201は、SyncのPTPパケットを送信した後に、SyncのPTPパケットの送信時刻である時刻T1をFollow UpのPTPパケットに記録し、時刻T1を含むFollow UpのPTPパケットを送信する。
【0043】
マスター機器201は、SyncのPTPパケットを生成し、当該PTPパケットを、ネットワーク機器203を介してスレーブ機器202へ送信すると共に、マスタークロックを用いて、SyncのPTPパケットを送信した時刻T1を特定する。そして、マスター機器201は、時刻T1を含むFollow UpのPTPパケットを生成し、当該PTPパケットを、ネットワーク機器203を介してスレーブ機器202へ送信する。
【0044】
スレーブ機器202は、マスター機器201からネットワーク機器203を介して、SyncのPTPパケットを受信し、スレーブクロックを用いて、SyncのPTPパケットを受信した時刻T2を特定する。
【0045】
スレーブ機器202は、マスター機器201からネットワーク機器203を介して、時刻T1を含むFollow UpのPTPパケットを受信し、時刻T1を含むFollow UpのPTPパケットから、時刻T1を抽出する。
【0046】
そして、スレーブ機器202は、スレーブクロックを用いて、Delay RequestのPTPパケットを送信する時刻T3を特定し、時刻T3を含むDelay RequestのPTPパケットを生成する。スレーブ機器202は、当該PTPパケットを、ネットワーク機器203を介してマスター機器201へ送信する。
【0047】
マスター機器201は、スレーブ機器202からネットワーク機器203を介して、時刻T3を含むDelay RequestのPTPパケットを受信し、マスタークロックを用いて、Delay RequestのPTPパケットを受信した時刻T4を特定する。
【0048】
そして、マスター機器201は、時刻T4を含むDelay ResponseのPTPパケットを生成し、当該PTPパケットを、ネットワーク機器203を介してスレーブ機器202へ送信する。
【0049】
スレーブ機器202は、マスター機器201からネットワーク機器203を介して、時刻T4を含むDelay ResponseのPTPパケットを受信し、時刻T4を含むDelay ResponseのPTPパケットから、時刻T4を抽出する。
【0050】
スレーブ機器202は、マスター側からスレーブ側への伝送遅延及びスレーブ側からマスター側への伝送遅延が等しいとして、時刻T1,T2,T3,T4を用いて、前記式(1)及び前記式(2)にて、片道伝送遅延及び時刻ずれを算出する。スレーブ機器202は、時刻ずれが0となるように、スレーブクロックを調整する。
【0051】
これにより、ワンステップ方式と同様に、スレーブクロックの時刻をマスタークロックの時刻に合わせることができ、時刻同期を実現することができる。
【0052】
図11(2)は、IPネットワーク上で伝送遅延変動がある場合のツーステップ方式のPTPによる時刻同期のシーケンスを説明する図である。ワンステップ方式と同様に、前述のTCの仕組みを用いて、ネットワーク機器203により、滞留時間がPTPパケットの補正領域に追記される。
【0053】
マスター機器201は、SyncのPTPパケットを生成し、当該PTPパケットをネットワーク機器203へ送信すると共に、マスタークロックを用いて、SyncのPTPパケットを送信した時刻T1を特定する。そして、マスター機器201は、時刻T1を含むFollow UpのPTPパケットを生成し、当該PTPパケットをネットワーク機器203へ送信する。
【0054】
ネットワーク機器203は、マスター機器201からSyncのPTPパケットを受信し、SyncのPTPパケットの補正領域を0(ゼロ)に設定する。そして、ネットワーク機器203は、SyncのPTPパケットをスレーブ機器202へ送信する。
【0055】
ネットワーク機器203は、マスター機器201から、時刻T1を含むFollow UpのPTPパケットを受信し、滞留時間D1をFollow UpのPTPパケットの補正領域に追記する。ここで、滞留時間D1は、ネットワーク機器203がFollow UpのPTPパケットを受信してから送信するまでの間の時間、すなわちネットワーク機器203におけるFollow UpのPTPパケットの滞留時間である。
【0056】
ネットワーク機器203は、時刻T1及び滞留時間D1を含むFollow UpのPTPパケットをスレーブ機器202へ送信する。
【0057】
スレーブ機器202は、ネットワーク機器203からSyncのPTPパケットを受信し、スレーブクロックを用いて、SyncのPTPパケットを受信した時刻T2を特定する。
【0058】
スレーブ機器202は、ネットワーク機器203から、時刻T1及び滞留時間D1を含むFollow UpのPTPパケットを受信する。そして、スレーブ機器202は、Follow UpのPTPパケットから時刻T1を抽出すると共に、Follow UpのPTPパケットの補正領域から滞留時間D1を抽出する。
【0059】
スレーブ機器202は、スレーブクロックを用いて、Delay RequestのPTPパケットを送信する時刻T3を特定し、時刻T3を含むDelay RequestのPTPパケットを生成する。スレーブ機器202は、当該PTPパケットをネットワーク機器203へ送信する。
【0060】
ネットワーク機器203は、スレーブ機器202から、時刻T3を含むDelay RequestのPTPパケットを受信し、滞留時間D2をDelay RequestのPTPパケットの補正領域に追記する。ここで、滞留時間D2は、ネットワーク機器203がDelay RequestのPTPパケットを受信してから送信するまでの間の時間、すなわちネットワーク機器203におけるDelay RequestのPTPパケットの滞留時間である。
【0061】
そして、ネットワーク機器203は、時刻T3及び滞留時間D2を含むDelay RequestのPTPパケットをマスター機器201へ送信する。
【0062】
マスター機器201は、ネットワーク機器203から、時刻T3及び滞留時間D2を含むDelay RequestのPTPパケットを受信し、マスタークロックを用いて、Delay RequestのPTPパケットを受信した時刻T4を特定する。また、マスター機器201は、Delay RequestのPTPパケットの補正領域から滞留時間D2を抽出する。
【0063】
そして、マスター機器201は、滞留時間D2をDelay ResponseのPTPパケットの補正領域にコピーし、時刻T4及び滞留時間D2を含むDelay ResponseのPTPパケットを生成する。マスター機器201は、当該PTPパケットを、ネットワーク機器203を介してスレーブ機器202へ送信する。
【0064】
スレーブ機器202は、マスター機器201からネットワーク機器203を介して、時刻T4及び滞留時間D2を含むDelay ResponseのPTPパケットを受信する。そして、スレーブ機器202は、Delay ResponseのPTPパケットから時刻T4を抽出すると共に、Delay ResponseのPTPパケットの補正領域から滞留時間D2を抽出する。
【0065】
スレーブ機器202は、マスター側からスレーブ側への伝送遅延及びスレーブ側からマスター側への伝送遅延が等しいとして、時刻T1,T2,T3,T4及び滞留時間D1,D2を用いて、前記式(3)及び前記式(4)にて、片道伝送遅延及び時刻ずれを算出する。そして、スレーブ機器202は、時刻ずれが0となるように、スレーブクロックを調整する。
【0066】
これにより、ワンステップ方式と同様に、IPネットワーク上で伝送遅延変動がある場合であっても、スレーブクロックの時刻をマスタークロックの時刻に合わせることができ、時刻同期を実現することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0067】
【非特許文献1】IEEE Std, 1588-2008,“IEEE Standard for a Precision Clock Synchronization Protocol for Networked Measurement and Control Systems”,(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0068】
しかしながら、ワンステップ方式またはツーステップ方式のPTPにより時刻同期を行う図9に示したIPを用いた番組制作システムでは、番組制作機器であるスレーブ機器202が正常に動作可能なPTPの時刻同期精度の許容範囲が不明である、という問題があった。すなわち、スレーブ機器202が正常に動作するための、マスタークロックに対するスレーブクロックの許容可能な時間差が不明である。
【0069】
放送環境のオーディオ及びビデオ機器の同期のためのPTPプロファイル(以下の非特許文献を参照。)によれば、マスタークロック及びスレーブクロックにおけるPTPの時刻同期精度は、1μs以下が目標値であると規定されている。
[非特許文献]
SMPTE ST 2059-2,“SMPTE Profile for Use of IEEE-1588 Precision Time Protocol in Professional Broadcast Applications”,(2015)
【0070】
しかしながら、図9に示したようなIPを用いた番組制作システムのネットワーク環境では、その時刻同期精度が1μs以下にならない場合がある。例えば一般的なインターネット回線のように、PTP非対応のネットワーク機器がIPネットワークに含まれる場合には、そのネットワーク機器内の滞留時間を計測することができず、経路の通過時間を補正する仕組みである前述のTCを適用できないからである。
【0071】
番組制作機器であるスレーブ機器202のメーカーは、時刻同期精度が1μs以下であれば、当該スレーブ機器202が正常に動作することを保証している。また、多くのスレーブ機器202の時刻同期精度の許容誤差は、メーカーから公表されておらず、定量的な検証もされていない。
【0072】
このような状況において、マスタークロックに対するスレーブクロックにおけるPTPの時刻同期の誤差を任意に生成することが所望されていた。PTPの時刻同期の誤差を任意に生成することができれば、スレーブ機器202が正常に動作するときの時刻同期誤差の許容範囲を把握することができるからである。また、PTPが途切れてスレーブクロックが自走した場合に、スレーブ機器202が正常に動作可能な時間を見積もることもできる。さらに、PTPパケットの伝送時間が変動する際の、その変動の許容範囲を検証することもできる。
【0073】
そして、PTPの時刻同期の誤差を任意に生成することで検証される時刻同期誤差の許容範囲、スレーブクロックが自走した場合の動作可能時間、及びPTPパケットの伝送時間変動の許容範囲は、機器選択及びネットワーク設計の参考とすることができる。
【0074】
従来、IPパケットの伝送遅延を任意に変動させるネットワークシミュレーター装置は既に存在するが、PTPの時刻同期誤差を任意に生成する装置は存在しない。
【0075】
そこで、本発明は前記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、PTPにより時刻同期を行うネットワークにおいて、マスター機器とスレーブ機器との間の時刻同期の誤差を任意に生成可能な時刻同期誤差生成装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0076】
前記課題を解決するために、請求項1の時刻同期誤差生成装置は、マスタークロックを備えたマスター機器と、スレーブクロックを備え、時刻同期の仕組みがワンステップ(One Step)方式のPTP(Precision Time Protocol)に従って、前記マスター機器から送信されたSyncのPTPパケットに含まれる滞留時間D1及び前記SyncのPTPパケットが送信された時刻T1、前記SyncのPTPパケットを受信した時刻T2、Delay RequestのPTPパケットが送信される時刻T3、並びに、前記マスター機器から送信されたDelay ResponseのPTPパケットに含まれる滞留時間D2及び前記マスター機器が前記Delay RequestのPTPパケットを受信した時刻T4に基づいて、前記スレーブクロックを前記マスタークロックに合わせるための前記時刻同期を行うスレーブ機器と、前記マスター機器及び前記スレーブ機器の間で前記PTPパケットを含むIPデータの伝送を行うネットワーク機器と、前記マスター機器及び前記スレーブ機器の間で前記PTPパケットを含む前記IPデータの伝送を行うと共に、前記スレーブ機器に対し、前記時刻同期の誤差を生成させる時刻同期誤差生成装置と、により構成されるIPネットワークにおける前記時刻同期誤差生成装置であって、ユーザの操作に従い、前記マスター機器から送信された前記SyncのPTPパケットを前記スレーブ機器へ伝送する際の滞留時間d1、及び前記スレーブ機器から送信された前記Delay RequestのPTPパケットを前記マスター機器へ伝送する際の滞留時間d2を設定すると共に、前記スレーブ機器に生成させる前記時刻同期の誤差を時刻同期誤差Δtとして設定する設定部と、前記マスター機器から送信された前記SyncのPTPパケットを識別する第1パケット識別部と、前記設定部により設定された前記滞留時間d1だけ当該時刻同期誤差生成装置にて滞留するように、前記第1パケット識別部により識別された前記SyncのPTPパケットを遅延させる第1遅延部と、前記設定部により設定された前記滞留時間d1に前記時刻同期誤差Δtを加算することで、前記滞留時間D1(=d1+Δt)を求め、前記第1遅延部により遅延した前記SyncのPTPパケットの補正領域に、前記滞留時間D1を追記する第1滞留時間追記部と、前記スレーブ機器から送信された前記Delay RequestのPTPパケットを識別する第2パケット識別部と、前記設定部により設定された前記滞留時間d2だけ当該時刻同期誤差生成装置にて滞留するように、前記第2パケット識別部により識別された前記Delay RequestのPTPパケットを遅延させる第2遅延部と、前記設定部により設定された前記滞留時間d2から前記時刻同期誤差Δtを減算することで、前記滞留時間D2(=d2-Δt)を求め、前記第2遅延部により遅延した前記Delay RequestのPTPパケットの補正領域に、前記滞留時間D2を追記する第2滞留時間追記部と、を備えたことを特徴とする。
【0077】
また、請求項2の時刻同期誤差生成装置は、マスタークロックを備えたマスター機器と、スレーブクロックを備え、時刻同期の仕組みがツーステップ(Two Step)方式のPTP(Precision Time Protocol)に従って、前記マスター機器から送信されたFollow UpのPTPパケットに含まれる滞留時間D1及びSyncのPTPパケットが送信された時刻T1、前記SyncのPTPパケットを受信した時刻T2、Delay RequestのPTPパケットが送信される時刻T3、並びに、前記マスター機器から送信されたDelay ResponseのPTPパケットに含まれる滞留時間D2及び前記マスター機器が前記Delay RequestのPTPパケットを受信した時刻T4に基づいて、前記スレーブクロックを前記マスタークロックに合わせるための前記時刻同期を行うスレーブ機器と、前記マスター機器及び前記スレーブ機器の間で前記PTPパケットを含むIPデータの伝送を行うネットワーク機器と、前記マスター機器及び前記スレーブ機器の間で前記PTPパケットを含む前記IPデータの伝送を行うと共に、前記スレーブ機器に対し、前記時刻同期の誤差を生成させる時刻同期誤差生成装置と、により構成されるIPネットワークにおける前記時刻同期誤差生成装置であって、ユーザの操作に従い、前記マスター機器から送信された前記SyncのPTPパケット及び前記Follow UpのPTPパケットを前記スレーブ機器へ伝送する際の滞留時間d1、前記スレーブ機器から送信された前記Delay RequestのPTPパケットを前記マスター機器へ伝送する際の滞留時間d2を設定すると共に、前記スレーブ機器に生成させる前記時刻同期の誤差を時刻同期誤差Δtとして設定する設定部と、前記マスター機器から送信された前記SyncのPTPパケット及び前記Follow UpのPTPパケットを識別する第1パケット識別部と、前記設定部により設定された前記滞留時間d1だけ当該時刻同期誤差生成装置にて滞留するように、前記第1パケット識別部により識別された前記SyncのPTPパケット及び前記Follow UpのPTPパケットを遅延させる第1遅延部と、前記設定部により設定された前記滞留時間d1に前記時刻同期誤差Δtを加算することで、前記滞留時間D1(=d1+Δt)を求め、前記第1遅延部により遅延した前記Follow UpのPTPパケットの補正領域に、前記滞留時間D1を追記する第1滞留時間追記部と、前記スレーブ機器から送信された前記Delay RequestのPTPパケットを識別する第2パケット識別部と、前記設定部により設定された前記滞留時間d2だけ当該時刻同期誤差生成装置にて滞留するように、前記第2パケット識別部により識別された前記Delay RequestのPTPパケットを遅延させる第2遅延部と、前記設定部により設定された前記滞留時間d2から前記時刻同期誤差Δtを減算することで、前記滞留時間D2(=d2-Δt)を求め、前記第2遅延部により遅延した前記Delay RequestのPTPパケットの補正領域に、前記滞留時間D2を追記する第2滞留時間追記部と、を備えたことを特徴とする。
【0078】
また、請求項3の時刻同期誤差生成装置は、マスタークロックを備えたマスター機器と、スレーブクロックを備え、時刻同期の仕組みがワンステップ(One Step)方式またはツーステップ(Two Step)方式のPTP(Precision Time Protocol)に従って、前記マスター機器から送信されたSyncのPTPパケットまたはFollow UpのPTPパケットに含まれる滞留時間D1及びSyncのPTPパケットが送信された時刻T1、前記SyncのPTPパケットを受信した時刻T2、Delay RequestのPTPパケットが送信される時刻T3、並びに、前記マスター機器から送信されたDelay ResponseのPTPパケットに含まれる滞留時間D2及び前記マスター機器が前記Delay RequestのPTPパケットを受信した時刻T4に基づいて、前記スレーブクロックを前記マスタークロックに合わせるための前記時刻同期を行うスレーブ機器と、前記マスター機器及び前記スレーブ機器の間で前記PTPパケットを含むIPデータの伝送を行うネットワーク機器と、前記マスター機器及び前記スレーブ機器の間で前記PTPパケットを含む前記IPデータの伝送を行うと共に、前記スレーブ機器に対し、前記時刻同期の誤差を生成させる時刻同期誤差生成装置と、により構成されるIPネットワークにおける前記時刻同期誤差生成装置であって、ユーザの操作に従い、前記マスター機器から送信された前記SyncのPTPパケット及び前記Follow UpのPTPパケットを前記スレーブ機器へ伝送する際の滞留時間d1、前記スレーブ機器から送信された前記Delay RequestのPTPパケットを前記マスター機器へ伝送する際の滞留時間d2を設定すると共に、前記スレーブ機器に生成させる前記時刻同期の誤差を時刻同期誤差Δtとして設定する設定部と、前記マスター機器から送信された前記SyncのPTPパケット及び前記Follow UpのPTPパケットを識別する第1パケット識別部と、前記設定部により設定された前記滞留時間d1だけ当該時刻同期誤差生成装置にて滞留するように、前記第1パケット識別部により識別された前記SyncのPTPパケット及び前記Follow UpのPTPパケットを遅延させる第1遅延部と、前記第1遅延部により遅延した前記SyncのPTPパケットにおけるPTPの時刻同期の仕組みが前記ワンステップ方式であるか、または前記ツーステップ方式であるかを識別し、前記設定部により設定された前記滞留時間d1に前記時刻同期誤差Δtを加算することで、前記滞留時間D1(=d1+Δt)を求め、前記第1遅延部により遅延した前記ワンステップ方式の前記SyncのPTPパケットの補正領域、及び前記第1遅延部により遅延した前記Follow UpのPTPパケットの補正領域に、前記滞留時間D1を追記するステップ識別及び滞留時間追記部と、前記スレーブ機器から送信された前記Delay RequestのPTPパケットを識別する第2パケット識別部と、前記設定部により設定された前記滞留時間d2だけ当該時刻同期誤差生成装置にて滞留するように、前記第2パケット識別部により識別された前記Delay RequestのPTPパケットを遅延させる第2遅延部と、前記設定部により設定された前記滞留時間d2から前記時刻同期誤差Δtを減算することで、前記滞留時間D2(=d2-Δt)を求め、前記第2遅延部により遅延した前記Delay RequestのPTPパケットの補正領域に、前記滞留時間D2を追記する第2滞留時間追記部と、を備えたことを特徴とする。
【0079】
また、請求項4の時刻同期誤差生成装置は、請求項2または3に記載の時刻同期誤差生成装置において、前記第1遅延部により遅延した前記ツーステップ方式の前記SyncのPTPパケットの補正領域を、ゼロに設定する、ことを特徴とする。
【0080】
さらに、請求項5のプログラムは、マスタークロックを備えたマスター機器と、スレーブクロックを備え、時刻同期の仕組みがワンステップ(One Step)方式のPTP(Precision Time Protocol)に従って、前記マスター機器から送信されたSyncのPTPパケットに含まれる滞留時間D1及び前記SyncのPTPパケットが送信された時刻T1、前記SyncのPTPパケットを受信した時刻T2、Delay RequestのPTPパケットが送信される時刻T3、並びに、前記マスター機器から送信されたDelay ResponseのPTPパケットに含まれる滞留時間D2及び前記マスター機器が前記Delay RequestのPTPパケットを受信した時刻T4に基づいて、前記スレーブクロックを前記マスタークロックに合わせるための前記時刻同期を行うスレーブ機器と、前記マスター機器及び前記スレーブ機器の間で前記PTPパケットを含むIPデータの伝送を行うネットワーク機器と、前記マスター機器及び前記スレーブ機器の間で前記PTPパケットを含む前記IPデータの伝送を行うと共に、前記スレーブ機器に対し、前記時刻同期の誤差を生成させる時刻同期誤差生成装置と、により構成されるIPネットワークにおける前記時刻同期誤差生成装置を構成するコンピュータを、ユーザの操作に従い、前記マスター機器から送信された前記SyncのPTPパケットを前記スレーブ機器へ伝送する際の滞留時間d1、及び前記スレーブ機器から送信された前記Delay RequestのPTPパケットを前記マスター機器へ伝送する際の滞留時間d2を設定すると共に、前記スレーブ機器に生成させる前記時刻同期の誤差を時刻同期誤差Δtとして設定する設定部、前記マスター機器から送信された前記SyncのPTPパケットを識別する第1パケット識別部、前記設定部により設定された前記滞留時間d1だけ当該時刻同期誤差生成装置にて滞留するように、前記第1パケット識別部により識別された前記SyncのPTPパケットを遅延させる第1遅延部、前記設定部により設定された前記滞留時間d1に前記時刻同期誤差Δtを加算することで、前記滞留時間D1(=d1+Δt)を求め、前記第1遅延部により遅延した前記SyncのPTPパケットの補正領域に、前記滞留時間D1を追記する第1滞留時間追記部、前記スレーブ機器から送信された前記Delay RequestのPTPパケットを識別する第2パケット識別部、前記設定部により設定された前記滞留時間d2だけ当該時刻同期誤差生成装置にて滞留するように、前記第2パケット識別部により識別された前記Delay RequestのPTPパケットを遅延させる第2遅延部、及び、前記設定部により設定された前記滞留時間d2から前記時刻同期誤差Δtを減算することで、前記滞留時間D2(=d2-Δt)を求め、前記第2遅延部により遅延した前記Delay RequestのPTPパケットの補正領域に、前記滞留時間D2を追記する第2滞留時間追記部として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0081】
以上のように、本発明によれば、PTPにより時刻同期を行うネットワークにおいて、マスター機器とスレーブ機器との間の時刻同期の誤差を任意に生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
図1】本発明の概要を説明する図である。
図2】実施例1,2の時刻同期誤差生成装置を含むIPネットワークの全体構成例を示す概略図である。
図3】実施例1の時刻同期誤差生成装置の構成例を示すブロック図である。
図4】実施例1の時刻同期誤差生成装置におけるマスター側からスレーブ側への伝送遅延処理例を示すフローチャートである。
図5】実施例1の時刻同期誤差生成装置におけるスレーブ側からマスター側への伝送遅延処理例を示すフローチャートである。
図6】実施例2の時刻同期誤差生成装置の構成例を示すブロック図である。
図7】ステップ識別及び滞留時間追記部の構成例を示すブロック図である。
図8】実施例2の時刻同期誤差生成装置におけるマスター側からスレーブ側への伝送遅延処理例を示すフローチャートである。
図9】IPを用いた番組制作システムの構成例を示す概略図である。
図10】(1)は、ワンステップ方式のPTPによる時刻同期のシーケンスを説明する図である。(2)は、IPネットワーク上で伝送遅延変動がある場合のワンステップ方式のPTPによる時刻同期のシーケンスを説明する図である。
図11】(1)は、ツーステップ方式のPTPによる時刻同期のシーケンスを説明する図である。(2)は、IPネットワーク上で伝送遅延変動がある場合のツーステップ方式のPTPによる時刻同期のシーケンスを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0083】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて詳細に説明する。
〔本発明の概要〕
まず、PTPの時刻同期誤差を任意に生成する本発明の概要について説明する。図1は、本発明の概要を説明する図である。図9に示したIPを用いた番組制作システムにおいて、マスター機器201、時刻同期誤差生成装置2及びスレーブ機器202を備えているものとする。マスター機器201と時刻同期誤差生成装置2、及び時刻同期誤差生成装置2とスレーブ機器202は、IPネットワークにより接続される。
【0084】
時刻同期誤差生成装置2は、PTPパケットの補正領域に、任意の時間Δtを反映した滞留時間D1,D2を追記することにより、スレーブ機器202に対し、マスタークロックに対するスレーブクロックにおけるPTPの時刻同期誤差(すなわちΔt)を生成させる。つまり、時刻同期誤差生成装置2は、PTPの時刻同期誤差を生成するための滞留時間D1,D2を、PTPパケットの補正領域に追記する。
【0085】
以下、ワンステップ方式のPTPを例に挙げて説明する。マスター機器201は、時刻T1を含むSyncのPTPパケットを、時刻同期誤差生成装置2を介してスレーブ機器202へ送信する。このとき、時刻同期誤差生成装置2は、マスター機器201からSyncのPTPパケットを受信する。時刻T1は、マスター機器201のマスタークロックを用いて特定されたSyncのPTPパケットの送信時刻である。
【0086】
時刻同期誤差生成装置2は、図1に示すように、PTP対応ネットワーク機器である当該時刻同期誤差生成装置2内の実際の滞留時間d1に、ユーザにより設定された任意の時間Δtを加算することで滞留時間D1を求める。そして、時刻同期誤差生成装置2は、滞留時間D1を、SyncのPTPパケットの補正領域に追記し、SyncのPTPパケットをスレーブ機器202へ送信する。
【0087】
スレーブ機器202は、時刻同期誤差生成装置2からSyncのPTPパケットを受信する。時刻T2は、スレーブ機器202のスレーブクロックにより特定されたSyncのPTPパケットの受信時刻である。
【0088】
スレーブ機器202は、時刻T3を含むDelay RequestのPTPパケットを、時刻同期誤差生成装置2を介してマスター機器201へ送信する。このとき、時刻同期誤差生成装置2は、スレーブ機器202からDelay RequestのPTPパケットを受信する。時刻T3は、スレーブ機器202のスレーブクロックを用いて特定されたDelay RequestのPTPパケットの送信時刻である。
【0089】
時刻同期誤差生成装置2は、図1に示すように、PTP対応ネットワーク機器である当該時刻同期誤差生成装置2内の実際の滞留時間d2から、ユーザにより設定された任意の時間Δtを減算することで滞留時間D2を求める。そして、時刻同期誤差生成装置2は、滞留時間D2を、Delay RequestのPTPパケットの補正領域に追記し、Delay RequestのPTPパケットをマスター機器201へ送信する。
【0090】
マスター機器201は、時刻同期誤差生成装置2からDelay RequestのPTPパケットを受信する。時刻T4は、マスター機器201のマスタークロックにより特定されたDelay RequestのPTPパケットの受信時刻である。
【0091】
滞留時間D1,D2は、以下の式にて表される。
[数5]
D1=d1+Δt
D2=d2-Δt ・・・(5)
d1,d2は実際の滞留時間である。Δtは、ユーザにより設定された任意の時間であり、正数であってもよいし、負数であってもよい。Δtが正数の場合、スレーブクロックはマスタークロックに対して|Δt|だけ遅れるが、Δtが負数の場合、スレーブクロックはマスタークロックに対して|Δt|だけ進むこととなる。
【0092】
片道伝送遅延の計算値ΔD及び実測値ΔD’は、以下の式にて表される。
[数6]
ΔD={(T2-T1-D1)+(T4-T3-D2)}/2
={(T2-T1-d1-Δt)+(T4-T3-d2+Δt)}/2
={(T2-T1-d1)+(T4-T3-d2)}/2
ΔD’={(T2-T1-d1)+(T4-T3-d2)}/2 ・・・(6)
したがって、ΔD=ΔD’となり、片道伝送遅延の計算値ΔD及び実測値ΔD’は同じである。
【0093】
一方、時刻ずれの計算値ΔT及び実測値ΔT’は、以下の式にて表される。
[数7]
ΔT={(T2-T1-D1)-(T4-T3-D2)}/2
={(T2-T1-d1-Δt)-(T4-T3-d2+Δt)}/2
={(T2-T1-d1)+(T4-T3-d2)}/2-Δt
ΔT’={(T2-T1-d1)+(T4-T3-d2)}/2 ・・・(7)
したがって、ΔT=ΔT’-Δtとなり、時刻ずれの計算値ΔT及び実測値ΔT’は異なる。
【0094】
スレーブ機器202により、計算値ΔTが0となるようにスレーブクロックが調整されると、ΔT’=Δtとなり、スレーブクロックは、マスタークロックに対して時間Δtだけずれることとなる。したがって、時間Δtを変更することにより、マスター機器201とスレーブ機器202との間のPTPの時刻同期の誤差を任意に生成することができる。時間Δtは時刻同期誤差であるため、以下、時間Δtを時刻同期誤差Δtとして説明する。
【0095】
〔IPネットワーク〕
次に、後述する実施例1,2の時刻同期誤差生成装置2を含むIPネットワークの全体構成例について説明する。図2は、実施例1,2の時刻同期誤差生成装置を含むIPネットワークの全体構成例を示す概略図である。
【0096】
このIPネットワーク1は、マスター機器201、スレーブ機器202-1,202-2,202-3、ネットワーク機器203及び時刻同期誤差生成装置2を備えて構成されている。IPネットワーク1は、PTPのTCの仕組みを用いて、マスター機器201に備えたマスタークロックと、スレーブ機器202-1,202-2,202-3にそれぞれ備えたスレーブクロックとの間で、時刻同期を行う。
【0097】
マスター機器201とネットワーク機器203、ネットワーク機器203と時刻同期誤差生成装置2、及び時刻同期誤差生成装置2とスレーブ機器202-1は、IPネットワークにより接続される。また、ネットワーク機器203とスレーブ機器202-2,202-3は、IPネットワークにより接続される。
【0098】
ネットワーク機器203は、マスター機器201とスレーブ機器202(202-1,202-2,202-3)との間で、PTPパケットを含むIPデータの伝送を行う。
【0099】
時刻同期誤差生成装置2は、マスター機器201とスレーブ機器202-1との間で、PTPパケットを含むIPデータの伝送を行う。時刻同期誤差生成装置2は、ネットワーク機器203とスレーブ機器202-1との間に設置されており、ユーザの操作により時刻同期誤差Δtが時刻同期誤差生成装置2に設定される。そして、時刻同期誤差生成装置2は、前述の発明の概要にて説明した処理を行う。これにより、スレーブ機器202-1のスレーブクロックに対し、マスター機器201に備えたマスタークロックとの間の時刻同期誤差Δtを発生させることができる。
【0100】
尚、時刻同期誤差生成装置2がネットワーク機器203とスレーブ機器202-2との間に設置されることで、スレーブ機器202-2のスレーブクロックに対し、マスタークロックとの間の時刻同期誤差Δtを発生させることができる。同様に、時刻同期誤差生成装置2がネットワーク機器203とスレーブ機器202-3との間に設置されることで、スレーブ機器202-3のスレーブクロックに対し、マスタークロックとの間の時刻同期誤差Δtを発生させることができる。
【0101】
図1に示したIPネットワーク1において、時刻同期誤差生成装置2は、例えばユーザの操作に従い、様々に変化する時刻同期誤差Δtを入力する。これにより、ユーザは、スレーブ機器202-1が正常に動作するか否かを判断することで、スレーブ機器202-1が正常に動作するときの時刻同期誤差Δtの許容範囲を検証することができる。また、PTPが途切れることでスレーブクロックが自走した場合のスレーブ機器202-1が正常に動作する時間を検証することができる。
【0102】
同様に、時刻同期誤差生成装置2は、例えばユーザの操作に従い、様々に変化する滞留時間d1,d2を入力する。これにより、ユーザは、スレーブ機器202-1が正常に動作するか否かを判断することで、PTPパケットの伝送時間変動の許容範囲を検証することができる。
【0103】
〔実施例1〕
次に、図2に示した時刻同期誤差生成装置2について詳細に説明する。実施例1の時刻同期誤差生成装置2は、ワンステップ方式のPTPに適用する装置である。図3は、実施例1の時刻同期誤差生成装置2の構成例を示すブロック図である。
【0104】
この時刻同期誤差生成装置2-1は、設定部10、入出力IF11,16、パケット識別部12,17、遅延部13,14,18,19及び滞留時間追記部15,20を備えている。
【0105】
設定部10は、ユーザによる当該時刻同期誤差生成装置2-1への直接の入力操作、またはWeb GUI等の入力操作に従い、滞留時間d1,d2,d3,d4及び時刻同期誤差Δtを予め設定する。
【0106】
設定部10は、滞留時間d1を遅延部13に、滞留時間d2を遅延部18に、滞留時間d3を遅延部14に、滞留時間d4を遅延部19にそれぞれ出力する。また、設定部10は、滞留時間d1及び時刻同期誤差Δtを滞留時間追記部15に、滞留時間d2及び時刻同期誤差Δtを滞留時間追記部20にそれぞれ出力する。
【0107】
ここで、滞留時間d1は、SyncのPTPパケットがマスター側からスレーブ側へ伝送する際の当該時刻同期誤差生成装置2-1にて滞留する時間、すなわち遅延させる時間である。滞留時間d3は、SyncのPTPパケット以外(のIPパケット)がマスター側からスレーブ側へ伝送する際の当該時刻同期誤差生成装置2-1にて滞留する時間、すなわち遅延させる時間である。
【0108】
滞留時間d2は、Delay RequestのPTPパケットがスレーブ側からマスター側へ伝送する際の当該時刻同期誤差生成装置2-1にて滞留する時間、すなわち遅延させる時間である。滞留時間d4は、Delay RequestのPTPパケット以外(のIPパケット)がスレーブ側からマスター側へ伝送する際の当該時刻同期誤差生成装置2-1にて滞留する時間、すなわち遅延させる時間である。
【0109】
マスター側とは、図2において、当該時刻同期誤差生成装置2-1から見てネットワーク機器203及びマスター機器201側をいい、スレーブ側とは、スレーブ機器202-1側をいう。
【0110】
時刻同期誤差Δtは、マスター機器201に備えたマスタークロックに対するスレーブ機器202-1に備えたスレーブクロックにおける時刻の同期誤差、すなわち当該時刻同期誤差生成装置2-1がスレーブ機器202-1に生成させる時刻同期の誤差である。
【0111】
これらの滞留時間d1,d2,d3,d4及び時刻同期誤差Δtは、ユーザにより任意の値が設定される。滞留時間d1,d2の上限値は、滞留時間D1(=d1+Δt)及び滞留時間D2(d2-Δt)がPTPパケットの補正領域に追記可能な最大値である。ただし、滞留時間D1,D2は、D1,D2>0であればよく、滞留時間d1,d2としては、例えば1時間等の現実的でない値が設定されることはない。
【0112】
ユーザ操作により、滞留時間d1,d2及び時刻同期誤差Δtを変化させることで、実際のIPネットワーク1における時刻同期の誤差及びPTPパケットの伝送遅延の変動を疑似的に再現することができる。
【0113】
尚、図3では、SyncのPTPパケット以外(のIPパケット)についての滞留時間を、滞留時間d3とするようにしたが、滞留時間d1とするようにしてもよい。また、Delay RequestのPTPパケット以外(のIPパケット)についての滞留時間を、滞留時間d4とするようにしたが、滞留時間d2とするようにしてもよい。後述する図6に示す時刻同期誤差生成装置2-2についても同様である。
【0114】
また、時刻同期誤差生成装置2-1は、PTPパケット以外のIPパケットを受信し、後述する伝送遅延処理を行い、伝送遅延処理後の当該IPパケットを送信するようにしてもよい。後述する図6に示す時刻同期誤差生成装置2-2についても同様である。
【0115】
図4は、実施例1の時刻同期誤差生成装置2-1におけるマスター側からスレーブ側への伝送遅延処理例を示すフローチャートである。マスター側からスレーブ側への伝送遅延処理は、入出力IF11,16、パケット識別部12、遅延部13,14及び滞留時間追記部15により行われる。
【0116】
入出力IF11は、マスター側のネットワーク機器203から、複数のIPパケットにより構成されたIPデータを受信し(ステップS401)、IPデータをパケット識別部12に出力する。
【0117】
パケット識別部12は、入出力IF11からIPデータを入力し、IPヘッダ及びPTPヘッダに基づいて、SyncのPTPパケットであるか、またはその他のIPパケットであるかを識別する(ステップS402)。
【0118】
具体的には、パケット識別部12は、IPヘッダのプロトコル番号が17(UDP)であり、UDPのポート番号が319(PTP event messages)または320(PTP general messages)である場合、PTPパケットであると判断する。さらに、パケット識別部12は、PTPヘッダ内のmessageTypeが0である場合、当該PTPパケットがSyncのPTPパケットであると判断することで、SyncのPTPパケットであるか、またはその他のIPパケットであるかを識別する。
【0119】
パケット識別部12は、ステップS402において、SyncのPTPパケットであると識別した場合(ステップS402:Sync)、当該SyncのPTPパケットを遅延部13に出力し、ステップS403へ移行する。
【0120】
一方、パケット識別部12は、ステップS402において、SyncのPTPパケット以外のIPパケットであると識別した場合(ステップS402:その他)、当該IPパケットを遅延部14に出力し、ステップS404へ移行する。
【0121】
遅延部13は、設定部10から滞留時間d1を入力すると共に、ステップS402(Sync)から移行して、パケット識別部12からSyncのPTPパケットを入力する。
【0122】
遅延部13は、予め設定された時間dAに予め設定された時間dBを加算し、滞留時間d1から加算結果を減算し、入力したSyncのPTPパケットを、減算結果の時間(d1-(dA+dB))だけ遅延させ(ステップS403)、ステップS405へ移行する。遅延部13は、遅延させたSyncのPTPパケットを滞留時間追記部15に出力する。つまり、遅延部13は、SyncのPTPパケットが当該時刻同期誤差生成装置2-1にて滞留時間d1だけ滞留するように、当該SyncのPTPパケットを遅延させる。
【0123】
時間dAは、パケット識別部12の処理時間(入出力IF11の処理時間を無視できない場合は、入出力IF11及びパケット識別部12の処理時間)である。時間dBは、滞留時間追記部15の処理時間(入出力IF16の処理時間を無視できない場合は、滞留時間追記部15及び入出力IF16の処理時間)である。
【0124】
これにより、時刻同期誤差生成装置2-1がマスター側から受信したSyncのPTPパケットをスレーブ側へ伝送する際に、当該時刻同期誤差生成装置2-1において、滞留時間d1だけ遅延させることができる。
【0125】
一方、遅延部14は、設定部10から滞留時間d3を入力すると共に、ステップS402(その他)から移行して、パケット識別部12からIPパケット(SyncのPTPパケット以外)を入力する。
【0126】
遅延部14は、滞留時間d3から予め設定された時間dAを減算し、入力したIPパケット(SyncのPTPパケット以外)を、減算結果の時間(d3-dA)だけ遅延させ(ステップS404)、ステップS407へ移行する。遅延部14は、遅延させたIPパケット(SyncのPTPパケット以外)を入出力IF16に出力する。つまり、遅延部14は、IPパケットが当該時刻同期誤差生成装置2-1にて滞留時間d3だけ滞留するように、当該IPパケットを遅延させる。
【0127】
これにより、時刻同期誤差生成装置2-1がマスター側から受信した、SyncのPTPパケット以外のIPパケットをスレーブ側へ伝送する際に、当該時刻同期誤差生成装置2-1において、滞留時間d3だけ遅延させることができる。
【0128】
滞留時間追記部15は、設定部10から滞留時間d1及び時刻同期誤差Δtを入力すると共に、ステップS403から移行して、遅延部13からSyncのPTPパケットを入力する。
【0129】
滞留時間追記部15は、滞留時間d1に時刻同期誤差Δtを加算することで、滞留時間D1(=d1+Δt)を求める(ステップS405)。そして、滞留時間追記部15は、SyncのPTPパケットの補正領域に滞留時間D1を追記し(ステップS406)、ステップS407へ移行する。
【0130】
前述のとおり、補正領域に滞留時間D1を追記するとは、補正領域に既に記録されている滞留時間(滞留時間の累積)に滞留時間D1を加算し、加算結果の滞留時間を補正領域に新たに記録することを意味する。つまり、滞留時間追記部15は、SyncのPTPパケットの補正領域に記録された滞留時間(滞留時間の累積)を抽出し、当該滞留時間に滞留時間D1を加算し、加算結果の滞留時間を補正領域に記録する。
【0131】
滞留時間追記部15は、滞留時間D1が追記されたSyncのPTPパケットを入出力IF16に出力する。
【0132】
入出力IF16は、ステップS406から移行して、滞留時間追記部15から滞留時間D1が追記されたSyncのPTPパケットを入力する。また、入出力IF16は、ステップS404から移行して、遅延部14からIPパケット(SyncのPTPパケット以外)を入力する。そして、入出力IF16は、IPデータをスレーブ側のスレーブ機器202-1へ送信する(ステップS407)。
【0133】
図5は、実施例1の時刻同期誤差生成装置2-1におけるスレーブ側からマスター側への伝送遅延処理例を示すフローチャートである。スレーブ側からマスター側への伝送遅延処理は、入出力IF11,16、パケット識別部17、遅延部18,19及び滞留時間追記部20により行われる。
【0134】
入出力IF16は、スレーブ側のスレーブ機器202-1からIPデータを受信し(ステップS501)、IPデータをパケット識別部17に出力する。
【0135】
パケット識別部17は、入出力IF16からIPデータを入力し、IPヘッダ及びPTPヘッダに基づいて、Delay RequestのPTPパケットであるか、またはその他のIPパケットであるかを識別する(ステップS502)。
【0136】
具体的には、パケット識別部17は、IPヘッダのプロトコル番号が17(UDP)であり、UDPのポート番号が319(PTP event messages)または320(PTP general messages)である場合、PTPパケットであると判断する。さらに、パケット識別部17は、PTPヘッダ内のmessageTypeが1である場合、当該PTPパケットがDelay RequestのPTPパケットであると判断することで、Delay RequestのPTPパケットであるか、またはその他のIPパケットであるかを識別する。
【0137】
パケット識別部17は、ステップS502において、Delay RequestのPTPパケットであると識別した場合(ステップS502:Delay Request)、当該Delay RequestのPTPパケットを遅延部18に出力し、ステップS503へ移行する。
【0138】
一方、パケット識別部17は、ステップS502において、Delay RequestのPTPパケット以外のIPパケットであると識別した場合(ステップS502:その他)、当該IPパケットを遅延部19に出力し、ステップS504へ移行する。
【0139】
遅延部18は、設定部10から滞留時間d2を入力すると共に、ステップS502(Delay Request)から移行して、パケット識別部17からDelay RequestのPTPパケットを入力する。
【0140】
遅延部18は、予め設定された時間dCに予め設定された時間dDを加算し、滞留時間d2から加算結果を減算し、入力したDelay RequestのPTPパケットを、減算結果の時間(d2-(dC+dD))だけ遅延させ(ステップS503)、ステップS505へ移行する。遅延部18は、遅延させたDelay RequestのPTPパケットを滞留時間追記部20に出力する。つまり、遅延部18は、Delay RequestのPTPパケットが当該時刻同期誤差生成装置2-1にて滞留時間d2だけ滞留するように、当該Delay RequestのPTPパケットを遅延させる。
【0141】
時間dCは、パケット識別部17の処理時間(入出力IF16の処理時間を無視できない場合は、入出力IF16及びパケット識別部17の処理時間)である。時間dDは、滞留時間追記部20の処理時間(入出力IF11の処理時間を無視できない場合は、滞留時間追記部20及び入出力IF11の処理時間)である。
【0142】
これにより、時刻同期誤差生成装置2-1がスレーブ側から受信したDelay RequestのPTPパケットをマスター側へ伝送する際に、当該時刻同期誤差生成装置2-1において、滞留時間d2だけ遅延させることができる。
【0143】
一方、遅延部19は、設定部10から滞留時間d4を入力すると共に、ステップS502(その他)から移行して、パケット識別部17からIPパケット(Delay RequestのPTPパケット以外)を入力する。
【0144】
遅延部19は、滞留時間d4から予め設定された時間dCを減算し、入力したIPパケット(Delay RequestのPTPパケット以外)を、減算結果の時間(d4-dC)だけ遅延させ(ステップS504)、ステップS507へ移行する。遅延部19は、遅延させたIPパケット(Delay RequestのPTPパケット以外)を入出力IF11に出力する。つまり、遅延部19は、IPパケットが当該時刻同期誤差生成装置2-1にて滞留時間d4だけ滞留するように、当該IPパケットを遅延させる。
【0145】
これにより、時刻同期誤差生成装置2-1がスレーブ側から受信したIPパケット(Delay RequestのPTPパケット以外)をマスター側へ伝送する際に、当該時刻同期誤差生成装置2-1において、滞留時間d4だけ遅延させることができる。
【0146】
滞留時間追記部20は、設定部10から滞留時間d2及び時刻同期誤差Δtを入力すると共に、ステップS503から移行して、遅延部18からDelay RequestのPTPパケットを入力する。
【0147】
滞留時間追記部20は、滞留時間d2から時刻同期誤差Δtを減算することで、滞留時間D2(=d2-Δt)を求める(ステップS505)。そして、滞留時間追記部20は、Delay RequestのPTPパケットの補正領域に滞留時間D2を追記し(ステップS506)、ステップS507へ移行する。具体的には、滞留時間追記部20は、Delay RequestのPTPパケットの補正領域に記録された滞留時間(滞留時間の累積)に滞留時間D2を加算し、加算結果の滞留時間を補正領域に記録する。
【0148】
滞留時間追記部20は、滞留時間D2が追記されたDelay RequestのPTPパケットを入出力IF11に出力する。
【0149】
入出力IF11は、ステップS506から移行して、滞留時間追記部20から滞留時間D2が追記されたDelay RequestのPTPパケットを入力する。また、入出力IF11は、ステップS504から移行して、遅延部19からIPパケット(Delay RequestのPTPパケット以外)を入力する。そして、入出力IF11は、IPデータをマスター側のネットワーク機器203へ送信する(ステップS507)。
【0150】
以上のように、実施例1の時刻同期誤差生成装置2-1によれば、設定部10は、ユーザによる入力操作に従い、任意の滞留時間d1,d2,d3,d4及び時刻同期誤差Δtを予め設定する。
【0151】
パケット識別部12は、マスター側から受信したIPデータに対し、SyncのPTPパケットであるか、またはその他のIPパケットであるかを識別し、遅延部13は、SyncのPTPパケットである場合、SyncのPTPパケットを時間(d1-(dA+dB))だけ遅延させる。
【0152】
滞留時間追記部15は、滞留時間d1に時刻同期誤差Δtを加算することで、滞留時間D1(=d1+Δt)を求め、SyncのPTPパケットの補正領域に滞留時間D1を追記する。
【0153】
一方、遅延部14は、SyncのPTPパケット以外のIPパケットである場合、IPパケットを時間(d3-dA)だけ遅延させる。
【0154】
そして、補正領域に滞留時間D1が追記されたSyncのPTPパケット、及びSyncのPTPパケット以外のIPパケット(例えばDelay ResponseのPTPパケット、映像及び音声等のIPパケット)は、スレーブ側のスレーブ機器202-1へ送信される。
【0155】
これにより、マスター側から受信したSyncのPTPパケットをスレーブ側へ伝送する際に、滞留時間d1だけ遅延させることができる。また、マスター側から受信したSyncのPTPパケット以外のIPパケットをスレーブ側へ伝送する際に、滞留時間d3だけ遅延させることができる。
【0156】
また、パケット識別部17は、スレーブ側のスレーブ機器202-1から受信したIPデータに対し、Delay RequestのPTPパケットであるか、またはその他のIPパケットであるかを識別する。遅延部18は、Delay RequestのPTPパケットである場合、Delay RequestのPTPパケットを時間(d2-(dC+dD))だけ遅延させる。
【0157】
滞留時間追記部20は、滞留時間d2から時刻同期誤差Δtを減算することで、滞留時間D2(=d2-Δt)を求め、Delay RequestのPTPパケットの補正領域に滞留時間D2を追記する。
【0158】
一方、遅延部19は、Delay RequestのPTPパケット以外のIPパケットである場合、IPパケットを時間(d4-dC)だけ遅延させる。
【0159】
そして、補正領域に滞留時間D2が追記されたDelay RequestのPTPパケット、及びDelay RequestのPTPパケット以外のIPパケットは、マスター側へ送信される。
【0160】
これにより、スレーブ側から受信したDelay RequestのPTPパケットをマスター側へ伝送する際に、滞留時間d2だけ遅延させることができる。また、スレーブ側から受信した、Delay RequestのPTPパケット以外のIPパケットをマスター側へ伝送する際に、滞留時間d4だけ遅延させることができる。
【0161】
ここで、スレーブ機器202-1は、時刻同期誤差生成装置2-1から受信したIPデータに含まれるSyncのPTPパケットから、時刻T1及び滞留時間D1(=d1+Δt)を抽出すると共に、スレーブクロックを用いて、SyncのPTPパケットを受信した時刻T2を特定する。そして、スレーブ機器202-1は、スレーブクロックを用いて、Delay RequestのPTPパケットを送信する時刻T3を特定し、時刻T3を含むDelay RequestのPTPパケットを時刻同期誤差生成装置2-1へ送信する。
【0162】
Delay RequestのPTPパケットには、時刻同期誤差生成装置2-1にて滞留時間D2が追記され、マスター機器201へ送信される。そして、マスター機器201から、Delay RequestのPTPパケットが受信された時刻T4及び滞留時間D2を含むDelay ResponseのPTPパケットが送信される。
【0163】
スレーブ機器202-1は、時刻同期誤差生成装置2-1から受信したDelay ResponseのPTPパケットから、時刻T4及び滞留時間D2(=d2-Δt)を抽出する。
【0164】
スレーブ機器202-1は、時刻T1,T2,T3,T4及び滞留時間D1,D2を用いて、前記式(7)に示した時刻ずれの計算値ΔTを算出し、時刻ずれの計算値ΔTが0となるように、スレーブクロックを調整する。
【0165】
これにより、スレーブクロックは、マスタークロックに対して時刻同期誤差Δtだけずれることとなる。
【0166】
したがって、設定部10により予め設定された時刻同期誤差Δtが、マスター機器201とスレーブ機器202-1との間の時刻同期の誤差となるため、PTPにより時刻同期を行うIPネットワーク1において、前述の非特許文献1によるPTPの規格を何ら変更することなく、時刻同期の誤差を任意に生成することができる。
【0167】
そして、ユーザの入力操作に従い、マスター機器201とスレーブ機器202-1との間の時刻同期誤差Δtが任意に生成されるため、番組制作機器であるスレーブ機器202-1が正常に動作する時刻同期誤差Δtの許容範囲を検証することができる。つまり、ユーザが時刻同期誤差Δtを変更し、スレーブ機器202-1が正常に動作するか否かを判断し、正常に動作可能な最大の時刻同期誤差Δtを特定することにより、スレーブ機器202-1が正常に動作する時刻同期誤差Δtの許容範囲を検証することができる。
【0168】
また、ユーザの入力操作に従い、滞留時間d1,d2を任意に変更できるため、PTPパケットの伝送時間変動の許容範囲を検証することができる。例えば、ユーザが滞留時間d1,d2を任意の規則(例えば平均及び分散の正規分布、ランダム分布)で変更した場合、スレーブ機器202-1のスレーブクロックの時刻同期精度を検証することができ、スレーブ機器202-1が正常に動作するか否かを検証することができる。
【0169】
また、PTPが途切れてスレーブクロックが自走した場合に、スレーブ機器202-1がどの程度の時間、正常に動作可能であるかを検証することができる。一般に、PTPが途切れてスレーブクロックが自走すると、マスタークロックに対するスレーブクロックの時刻誤差は徐々に大きくなる。例えば、滞留時間d1,d2を一定とし、時刻同期誤差Δtを徐々に変化させることにより、スレーブクロックの時刻誤差を任意の方向(マスタークロックに対して進むまたは遅れる方向)に、かつ任意の速度で発生させることができる。これにより、スレーブ機器202-1について、どの方向にどの程度の時刻誤差が発生するまで正常動作するのかを検証することができる。
【0170】
〔実施例2〕
次に、実施例2の時刻同期誤差生成装置2について詳細に説明する。実施例2の時刻同期誤差生成装置2は、ツーステップ方式のPTPに適用する装置である。図6は、実施例2の時刻同期誤差生成装置2の構成例を示すブロック図である。
【0171】
この時刻同期誤差生成装置2-2は、設定部10、入出力IF11,16、パケット識別部21,17、遅延部13,14,18,19、ステップ識別及び滞留時間追記部22、及び滞留時間追記部20を備えている。
【0172】
図3に示した実施例1の時刻同期誤差生成装置2-1とこの実施例2の時刻同期誤差生成装置2-2とを比較すると、両時刻同期誤差生成装置2-1,2-2は、設定部10、入出力IF11,16、遅延部13,14,18,19、パケット識別部17及び滞留時間追記部20を備えている点で共通する。一方、時刻同期誤差生成装置2-2は、パケット識別部21、及び、ステップ識別及び滞留時間追記部22を備えている点で、パケット識別部12及び滞留時間追記部15を備えた時刻同期誤差生成装置2-1と相違する。
【0173】
設定部10は、図3に示した実施例1の時刻同期誤差生成装置2-1に備えた設定部10と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0174】
設定部10は、滞留時間d1を遅延部13に、滞留時間d2を遅延部18に、滞留時間d3を遅延部14に、滞留時間d4を遅延部19にそれぞれ出力する。また、設定部10は、滞留時間d1及び時刻同期誤差Δtをステップ識別及び滞留時間追記部22に、滞留時間d2及び時刻同期誤差Δtを滞留時間追記部20にそれぞれ出力する。
【0175】
図7は、図6に示したステップ識別及び滞留時間追記部22の構成例を示すブロック図である。このステップ識別及び滞留時間追記部22は、ステップ識別部30、滞留時間追記部31,34、パケット識別部32及び補正領域ゼロ設定部33を備えている。
【0176】
図8は、実施例2の時刻同期誤差生成装置2-2におけるマスター側からスレーブ側への伝送遅延処理例を示すフローチャートである。マスター側からスレーブ側への伝送遅延処理は、入出力IF11,16、パケット識別部21、遅延部13,14、及び、ステップ識別及び滞留時間追記部22により行われる。
【0177】
入出力IF11は、マスター側のネットワーク機器203からIPデータを受信し(ステップS801)、IPデータをパケット識別部21に出力する。
【0178】
パケット識別部21は、入出力IF11からIPデータを入力し、IPヘッダ及びPTPヘッダに基づいて、SyncのPTPパケットであるか、Follow UpのPTPパケットであるか、またはその他のIPパケットであるかを識別する(ステップS802)。
【0179】
具体的には、パケット識別部21は、IPヘッダのプロトコル番号が17(UDP)であり、UDPのポート番号が319(PTP event messages)または320(PTP general messages)である場合、PTPパケットであると判断する。さらに、パケット識別部21は、PTPヘッダ内のmessageTypeが0である場合、当該PTPパケットがSyncのPTPパケットであると判断し、PTPヘッダ内のmessageTypeが8である場合、当該PTPパケットがFollow UpのPTPパケットであると判断することで、SyncまたはFollow UpのPTPパケットであると判断する。
【0180】
パケット識別部21は、ステップS802において、SyncまたはFollow UpのPTPパケットであると識別した場合(ステップS802:Sync,Follow Up)、当該SyncまたはFollow UpのPTPパケットを遅延部13に出力し、ステップS803へ移行する。
【0181】
一方、パケット識別部21は、ステップS802において、SyncのPTPパケットでなく、かつFollow UpのPTPパケットでもないその他のIPパケットを識別した場合(ステップS802:その他)、当該IPパケットを遅延部14に出力し、ステップS804へ移行する。
【0182】
遅延部13は、設定部10から滞留時間d1を入力すると共に、ステップS802(SyncまたはFollow Up)から移行して、パケット識別部21からSyncまたはFollow UpのPTPパケットを入力する。
【0183】
遅延部13は、予め設定された時間dAに予め設定された時間dB’を加算し、滞留時間d1から加算結果を減算し、入力したSyncまたはFollow UpのPTPパケットを、減算結果の時間(d1-(dA+dB’))だけ遅延させ(ステップS803)、ステップS805へ移行する。遅延部13は、遅延させたSyncまたはFollow UpのPTPパケットをステップ識別及び滞留時間追記部22に出力する。
【0184】
時間dAは、パケット識別部21の処理時間(入出力IF11の処理時間を無視できない場合は、入出力IF11及びパケット識別部21の処理時間)である。時間dB’は、ステップ識別及び滞留時間追記部22の処理時間(入出力IF16の処理時間を無視できない場合は、ステップ識別及び滞留時間追記部22、及び入出力IF16の処理時間)である。
【0185】
これにより、時刻同期誤差生成装置2-2がマスター側から受信したSyncまたはFollow UpのPTPパケットをスレーブ側へ伝送する際に、当該時刻同期誤差生成装置2-2において、滞留時間d1だけ遅延させることができる。
【0186】
一方、遅延部14は、設定部10から滞留時間d3を入力すると共に、ステップS802(その他)から移行して、パケット識別部21から、SyncのPTPパケットでなく、かつFollow UpのPTPパケットでもないその他のIPパケット(以下、「IPパケット(SyncまたはFollow UpのPTPパケット以外)」という。)を入力する。
【0187】
遅延部14は、滞留時間d3から予め設定された時間dAを減算し、入力したIPパケット(SyncまたはFollow UpのPTPパケット以外)を、減算結果の時間(d3-dA)だけ遅延させ(ステップS804)、ステップS810へ移行する。遅延部14は、遅延させたIPパケット(SyncまたはFollow UpのPTPパケット以外)を入出力IF16に出力する。
【0188】
これにより、時刻同期誤差生成装置2-2がマスター側から受信したIPパケット(SyncまたはFollow UpのPTPパケット以外)をスレーブ側へ伝送する際に、当該時刻同期誤差生成装置2-2において、滞留時間d3だけ遅延させることができる。
【0189】
ステップ識別及び滞留時間追記部22のステップ識別部30は、ステップS803から移行して、遅延部13からSyncまたはFollow UpのPTPパケットを入力する。そして、ステップ識別部30は、PTPヘッダに基づいて、PTPの時刻同期の仕組みがワンステップ方式であるか、またはツーステップ方式であるかを識別する(ステップS805)。
【0190】
具体的には、ステップ識別部30は、PTPヘッダ内のflagFieldのtwoStepFlagがFALSEの場合、PTPの時刻同期の仕組みがワンステップ方式であると判断する。また、ステップ識別部30は、PTPヘッダ内のflagFieldのtwoStepFlagがTRUEの場合、PTPの時刻同期の仕組みがツーステップ方式であると判断する。
【0191】
尚、ステップ識別部30は、ステップS805において、SyncのPTPパケットについて、PTPの時刻同期の仕組みがワンステップ方式であるか、またはツーステップ方式であるかを識別するようにしてもよい。
【0192】
ステップ識別部30は、ステップS805において、PTPの時刻同期の仕組みがワンステップ方式であると識別した場合(ステップS805:ワンステップ/Sync)、ワンステップ方式のPTPパケット(SyncのPTPパケット)を滞留時間追記部31に出力し、ステップS806へ移行する。
【0193】
一方、ステップ識別部30は、ステップS805において、PTPの時刻同期の仕組みがツーステップ方式であると識別した場合(ステップS805:ツーステップ/Sync,Follow Up)、ツーステップ方式のPTPパケット(SyncまたはFollow UpのPTPパケット)をパケット識別部32に出力し、ステップS808へ移行する。
【0194】
滞留時間追記部31は、設定部10から滞留時間d1及び時刻同期誤差Δtを入力すると共に、ステップS805(ワンステップ/Sync)から移行して、ステップ識別部30からワンステップ方式のSyncのPTPパケットを入力する。
【0195】
滞留時間追記部31は、滞留時間d1に時刻同期誤差Δtを加算することで、滞留時間D1(=d1+Δt)を求める(ステップS806)。そして、滞留時間追記部31は、ワンステップ方式のSyncのPTPパケットの補正領域に滞留時間D1を追記し(ステップS807)、ステップS810へ移行する。
【0196】
滞留時間追記部31は、滞留時間D1が追記されたワンステップ方式のSyncのPTPパケットを入出力IF16に出力する。
【0197】
パケット識別部32は、ステップS805(ツーステップ/Sync,Follow Up)から移行して、ステップ識別部30からツーステップ方式のSyncまたはFollow UpのPTPパケットを入力する。
【0198】
パケット識別部32は、PTPヘッダに基づいて、SyncのPTPパケットであるか、またはFollow UpのPTPパケットであるかを識別する(ステップS808)。
【0199】
具体的には、パケット識別部32は、PTPヘッダ内のmessageTypeが0である場合、当該PTPパケットがSyncのPTPパケットであると判断する。また、パケット識別部32は、PTPヘッダ内のmessageTypeが8である場合、当該PTPパケットがFollow UpのPTPパケットであると判断する。
【0200】
パケット識別部32は、ステップS808において、SyncのPTPパケットであると識別した場合(ステップS808:Sync)、当該IPパケット(ツーステップ方式のSyncのPTPパケット)を補正領域ゼロ設定部33に出力し、ステップS809へ移行する。
【0201】
一方、パケット識別部32は、ステップS808において、Follow UpのPTPパケットであると識別した場合(ステップS808:Follow Up)、当該IPパケット(Follow UpのPTPパケット)を滞留時間追記部34に出力し、ステップS806へ移行する。
【0202】
補正領域ゼロ設定部33は、ステップS808(Sync)から移行して、パケット識別部32からIPパケット(ツーステップ方式のSyncのPTPパケット)を入力する。そして、補正領域ゼロ設定部33は、ツーステップ方式のSyncのPTPパケットの補正領域をゼロに設定し(ステップS809)、ステップS810へ移行する。具体的には、補正領域ゼロ設定部33は、ツーステップ方式のSyncのPTPパケットの補正領域に記録されたデータにゼロを上書きすることで、補正領域をクリアする。
【0203】
補正領域ゼロ設定部33は、補正領域がゼロに設定されたツーステップ方式のSyncのPTPパケットを入出力IF16に出力する。
【0204】
滞留時間追記部34は、設定部10から滞留時間d1及び時刻同期誤差Δtを入力すると共に、ステップS808(Follow Up)から移行して、パケット識別部32からFollow UpのPTPパケットを入力する。
【0205】
滞留時間追記部34は、滞留時間追記部31によるステップS806の処理と同様に、滞留時間d1に時刻同期誤差Δtを加算することで、滞留時間D1(=d1+Δt)を求める。そして、滞留時間追記部34は、滞留時間追記部31によるステップS807の処理と同様に、Follow UpのPTPパケットの補正領域に滞留時間D1を追記し、ステップS810へ移行する。
【0206】
滞留時間追記部34は、滞留時間D1が追記されたFollow UpのPTPパケットを入出力IF16に出力する。
【0207】
入出力IF16は、ステップS807から移行して、滞留時間追記部31から滞留時間D1が追記されたワンステップ方式のSyncのPTPパケット、または滞留時間追記部34から滞留時間D1が追記されたFollow UpのPTPパケットを入力する。また、入出力IF16は、ステップS809から移行して、補正領域ゼロ設定部33から、補正領域がゼロに設定されたツーステップ方式のSyncのPTPパケットを入力する。また、入出力IF16は、ステップS804から移行して、遅延部14からIPパケット(SyncまたはFollow UpのPTPパケット以外)を入力する。そして、入出力IF16は、IPデータをスレーブ側のスレーブ機器202-1へ送信する(ステップS810)。
【0208】
尚、実施例2の時刻同期誤差生成装置2-2におけるスレーブ側からマスター側への伝送遅延処理は、図5に示した実施例1の時刻同期誤差生成装置2-1におけるスレーブ側からマスター側への伝送遅延処理と同様であるため、説明を省略する。スレーブ側からマスター側への伝送遅延処理は、入出力IF11,16、パケット識別部17、遅延部18,19及び滞留時間追記部20により行われる。
【0209】
以上のように、実施例2の時刻同期誤差生成装置2-2によれば、設定部10は、ユーザによる入力操作に従い、任意の滞留時間d1,d2,d3,d4及び時刻同期誤差Δtを予め設定する。
【0210】
パケット識別部21は、マスター側から受信したIPデータに対し、SyncのPTPパケットであるか、Follow UpのPTPパケットであるか、またはその他のIPパケットであるかを識別する。遅延部13は、SyncまたはFollow UpのPTPパケットである場合、SyncまたはFollow UpのPTPパケットを時間(d1-(dA+dB’))だけ遅延させる。
【0211】
ステップ識別及び滞留時間追記部22は、PTPの時刻同期のステップ方式を識別する。
【0212】
ステップ識別及び滞留時間追記部22は、ワンステップ方式を識別した場合、またはFollow Upを識別した場合、滞留時間d1に時刻同期誤差Δtを加算することで、滞留時間D1(=d1+Δt)を求め、ワンステップ方式のSyncのPTPパケットまたはFollow UpのPTPパケットの補正領域に滞留時間D1を追記する。
【0213】
ステップ識別及び滞留時間追記部22は、ツーステップ方式のSyncを識別した場合、ツーステップ方式のSyncのPTPパケットの補正領域をゼロに設定する。
【0214】
一方、遅延部14は、IPパケット(SyncまたはFollow UpのPTPパケット以外)、すなわちSyncのPTPパケットでなく、かつFollow UpのPTPパケットでもないその他のIPパケットを、時間(d3-dA)だけ遅延させる。
【0215】
そして、補正領域に滞留時間D1が追記されたワンステップ方式のSyncのPTPパケットまたはFollow UpのPTPパケット、補正領域がゼロに設定されたツーステップ方式のSyncのPTPパケット、及び、SyncのPTPパケットでなく、かつFollow UpのPTPパケットでもないその他のIPパケット(例えばDelay ResponseのPTPパケット、映像及び音声等のIPパケット)は、スレーブ側のスレーブ機器202-1へ送信される。
【0216】
これにより、マスター側から受信したSyncまたはFollow UpのPTPパケットをスレーブ側へ伝送する際に、滞留時間d1だけ遅延させることができる。また、マスター側から受信した、SyncのPTPパケットでなく、かつFollow UpのPTPパケットでもないその他のIPパケットをスレーブ側へ伝送する際に、滞留時間d3だけ遅延させることができる。
【0217】
また、実施例1と同様に、パケット識別部17、遅延部18,19及び滞留時間追記部20により、スレーブ側から受信したDelay RequestのPTPパケットをマスター側へ伝送する際に、滞留時間d2だけ遅延させることができる。また、スレーブ側から受信した、Delay RequestのPTPパケット以外のIPパケットをマスター側へ伝送する際に、滞留時間d4だけ遅延させることができる。
【0218】
ここで、スレーブ機器202は、時刻同期誤差生成装置2-2から受信したFollow UpのPTPパケットから、時刻T1及び滞留時間D1(=d1+Δt)を抽出する。また、スレーブ機器202は、実施例1と同様の処理にて、時刻T1,T2,T3,T4及び滞留時間D1,D2を用いて、前記式(7)に示した時刻ずれの計算値ΔTを算出し、時刻ずれの計算値ΔTが0となるように、スレーブクロックを調整する。
【0219】
これにより、スレーブクロックは、マスタークロックに対して時刻同期誤差Δtだけずれることとなる。
【0220】
したがって、ワンステップ方式及びツーステップ方式の両方式に適用し、PTPにより時刻同期を行うネットワークにおいて、実施例1と同様に、マスター機器とスレーブ機器との間の時刻同期の誤差を任意に生成することができる。
【0221】
また、実施例1と同様に、番組制作機器であるスレーブ機器202が正常に動作する時刻同期誤差Δtの許容範囲、及びPTPパケットの伝送時間変動の許容範囲を検証することができ、PTPが途切れてスレーブクロックが自走した場合のスレーブ機器202が正常に動作する時間等を検証することができる。
【0222】
以上、実施例1,2を挙げて本発明を説明したが、本発明は前記実施例1,2に限定されるものではなく、その技術思想を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
【0223】
例えば実施例1では、ワンステップ方式のPTPに適用する例を示し、実施例2では、ワンステップ方式及びツーステップ方式の両方式のPTPに適用する例を示したが、実施例1の変形例として、ツーステップ方式のPTPにのみ適用するようにしてもよい。
【0224】
実施例1の変形例の時刻同期誤差生成装置2-1’は、設定部10、入出力IF11,16、パケット識別部12,17、遅延部13,14,18,19、滞留時間追記部15,20及び補正領域ゼロ設定部を備えている。
【0225】
設定部10は、ユーザによる入力操作に従い、任意の滞留時間d1,d2,d3,d4及び時刻同期誤差Δtを予め設定する。
【0226】
入出力IF11は、マスター側のネットワーク機器203からIPデータを受信する。パケット識別部12は、マスター側から受信したIPデータに対し、SyncのPTPパケットであるか、Follow UpのPTPパケットであるか、またはその他のIPパケットであるかを識別する。遅延部13は、SyncまたはFollow UpのPTPパケットである場合、SyncまたはFollow UpのPTPパケットを時間(d1-(dA+dB))だけ遅延させる。
【0227】
滞留時間追記部15は、滞留時間d1に時刻同期誤差Δtを加算することで、滞留時間D1(=d1+Δt)を求め、Follow UpのPTPパケットの補正領域に滞留時間D1を追記する。また、補正領域ゼロ設定部は、SyncのPTPパケットの補正領域をゼロに設定する。
【0228】
一方、遅延部14は、SyncのPTPパケットでなく、かつFollow UpのPTPパケットでもないその他のIPパケットを時間(d3-dA)だけ遅延させる。
【0229】
入出力IF16は、補正領域に滞留時間D1が追記されたFollow UpのPTPパケット、補正領域にゼロが設定されたSyncのPTPパケット、及びこれら以外のその他のIPパケット(例えばDelay ResponseのPTPパケット、映像及び音声等のIPパケット)を、スレーブ側のスレーブ機器202-1へ送信する。
【0230】
入出力IF16は、スレーブ機器202-1からIPデータを受信する。パケット識別部17、遅延部18,19及び滞留時間追記部20は、図3に示した構成部と同様であるため、説明を省略する。入出力IF11は、IPデータをネットワーク機器203へ送信する。
【0231】
尚、本発明の実施例1,2及び実施例1の変形例による時刻同期誤差生成装置2-1,2-2,2-1’のハードウェア構成としては、通常のコンピュータを使用することができる。時刻同期誤差生成装置2-1,2-2,2-1’は、CPU、RAM等の揮発性の記憶媒体、ROM等の不揮発性の記憶媒体、及びインターフェース等を備えたコンピュータによって構成される。
【0232】
時刻同期誤差生成装置2-1に備えた設定部10、入出力IF11,16、パケット識別部12,17、遅延部13,14,18,19及び滞留時間追記部15,20の各機能は、これらの機能を記述したプログラムをCPUに実行させることによりそれぞれ実現される。
【0233】
また、時刻同期誤差生成装置2-2に備えた設定部10、入出力IF11,16、パケット識別部21,17、遅延部13,14,18,19、ステップ識別及び滞留時間追記部22、及び滞留時間追記部20の各機能も、これらの機能を記述したプログラムをCPUに実行させることによりそれぞれ実現される。
【0234】
また、時刻同期誤差生成装置2-1’に備えた設定部10、入出力IF11,16、パケット識別部12,17、遅延部13,14,18,19、滞留時間追記部15,20及び補正領域ゼロ設定部の各機能も、これらの機能を記述したプログラムをCPUに実行させることによりそれぞれ実現される。
【0235】
これらのプログラムは、前記記憶媒体に格納されており、CPUに読み出されて実行される。また、これらのプログラムは、磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク等)、光ディスク(CD-ROM、DVD等)、半導体メモリ等の記憶媒体に格納して頒布することもでき、ネットワークを介して送受信することもできる。
【符号の説明】
【0236】
1 IPネットワーク
2 時刻同期誤差生成装置
10 設定部
11,16 入出力IF(インターフェース)
12,17,21,32 パケット識別部
13,14,18,19 遅延部
15,20,31,34 滞留時間追記部
22 ステップ識別及び滞留時間追記部
30 ステップ識別部
33 補正領域ゼロ設定部
101 同期信号発生器
102-1,102-2 カメラ
103 映像スイッチャー
201 マスター機器
202,202-1,202-2,202-3 スレーブ機器
203 ネットワーク機器
T1,T2,T3,T4 時刻
D1,D2,d1,d2,d3,d4 滞留時間
Δt 時間、時刻同期誤差
ΔD 片道伝送遅延の計算値
ΔD’ 片道伝送遅延の実測値
ΔT 時刻ずれの計算値
ΔT’ 時刻ずれの実測値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11