(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057188
(43)【公開日】2023-04-21
(54)【発明の名称】印刷物の作成方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B41M 3/14 20060101AFI20230414BHJP
B42D 25/21 20140101ALI20230414BHJP
【FI】
B41M3/14
B42D25/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021166544
(22)【出願日】2021-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】宇治 俊男
【テーマコード(参考)】
2C005
2H113
【Fターム(参考)】
2C005HA08
2C005JA09
2C005JB26
2H113AA04
2H113BB02
2H113BB22
2H113CA34
2H113CA36
2H113CA39
2H113CA44
(57)【要約】
【課題】本発明は、可視画像に応じて潜像画像の濃度を変化させることによって、潜像画像の隠ぺい性を良好とするとともに、印刷物が異なる光源下で用いられる、あるいは異なる基材に印刷する場合においても、潜像画像の隠ぺい性の良好な印刷物の作成方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】本発明は、可視原画像データと潜像原画像データの基準座標を合わせて合成したパッチ印刷データに基づきサンプル基材に印刷するパッチ印刷工程と、パッチ印刷物に対して、異なる複数の可視光源下における可視画像と潜像画像の画素と濃度の組み合わせに対する潜像画像が隠ぺい状態を示す評価テーブルを作成する評価テーブル作成工程と、評価テーブルを用いて、潜像画像が隠ぺい可能となる濃度の組み合わせを選択し、潜像画像データと可視画像原データを合成した印刷物データに基づき、基材に印刷を行う選択工程から成ることを特徴とする印刷物の作成方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の観察条件下において視認可能な潜像画像と、前記潜像画像を隠ぺいするように形成された可視光源下において視認可能な可視画像が形成された印刷物の作成方法であって、
前記可視画像及び前記潜像画像の同じ一角を基準座標とし、前記基準座標に対して対角する座標を最終座標として、前記基準座標から前記最終座標までの領域に対し、前記基準座標から画素と濃度を規則的に加算した可視原画像データと潜像原画像データを作成し、前記可視原画像データと前記潜像原画像データの共通する位置である少なくとも三つの点の座標を基準点とし、前記基準点を重ねて合成したパッチ印刷データに基づきサンプル基材に印刷してパッチ印刷物を作成するパッチ印刷工程と、
前記パッチ印刷物に対して、異なる複数の可視光源下における前記可視画像と前記潜像画像の前記画素と濃度の組み合わせに対する前記潜像画像が隠ぺいされているか否かを示す評価テーブルを作成する評価テーブル作成工程と、
前記評価テーブルを用いて、前記潜像画像が前記可視画像に隠ぺい可能となる前記濃度の組み合わせを選択して、選択した前記潜像原画像データの濃度に基づき潜像画像データを作成し、前記潜像画像データと前記可視原画像データを合成した印刷物データを使用して、基材に印刷を行う選択工程から成ることを特徴とする印刷物の作成方法。
【請求項2】
請求項1記載の印刷物の作成方法をコンピュータに実行させるための印刷物の作成プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果を必要とする銀行券、パスポ-ト、有価証券、身分証明書、カ-ド、通行券等のセキュリティ印刷物の分野において、偽造防止及び改ざん防止機能が必要とされる印刷物の作成方法及びプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、カラー複写機の高画質化及びカラー製版技術のコンピュータ化に伴い、商品券及び有価証券類の偽造手段が多様化する傾向にある。特に、印刷産業分野で使用される画像入出力機器の解像度が著しく向上し、有価証券類に使用されている細画線や微小文字の抽出が比較的容易になってきた。
【0003】
これにより、現在の有価証券の多くに採用されている地紋、彩紋、レリーフ模様等、細画線で構成されたものが、スキャナ等の入出力機器によって、高精度に抽出できることとなったため、単にCMYKの4色の網点構成から成る一般商業印刷法による偽造だけではなく、特色版を多用したより本格的な偽造製品が増えてきた。
【0004】
そこで、本出願人は、高解像度なハードコピーにおける偽造防止策として、基材上に、第一の特性を有する第一のインキを用いた第一の網点部から成る第一のハーフトーン領域(1)により形成された可視画像と、第一の特性と異なる第二の特性を有する第二のインキを用いた第二の網点部から成る潜像画像と、第二の網点部と隣接する位置に、第一の特性を有する第二のインキと等色の第一のインキを用いた第三の網点部により形成された可視画像から成る第二のハーフトーン領域(2)を第一のハーフトーン領域(1)に隣接して形成されたことを特徴とする網点印刷物を出願している(例えば、特許文献1から特許文献3参照)。
【0005】
また、本出願人は、前述の網点印刷物を作成する方法及びプログラムとして、可視画像として認識させる第一の連続階調画像の元となる第一画像と、特定の観察条件下のみで潜像画像として認識される第二の連続階調画像の元となる第二画像とを入力する画像入力手段と、網点データにおける解像度の設定、着色の設定及び網点形状の設定を設定項目ごとに行う設定項目設定手段と、画像入力手段によって入力された第一画像及び第二画像から、それぞれ第一の連続階調画像及び第二の連続階調画像を生成し、生成した第一の連続階調画像と第二の連続階調画像を合成する演算手段を有する網点データの作製装置及びその装置を実行するプログラムを出願している(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3544536号公報
【特許文献2】特許第4461234号公報
【特許文献3】特許第5707595号公報
【特許文献4】特許第4958117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1から特許文献4の技術は、第二のインキ(例えば、赤外吸収性インキ(K(黒))(2a))と第一のインキ(例えば、赤外吸収性を有さないインキ(CMY(シアン、マゼンタ、イエロー)(2b))で構成した第二のハーフトーン領域(2)が印刷条件(ハーフトーンの解像度、ハーフトーンの処理方法、インキの種類)、可視画像及び潜像画像のデザインと印刷濃度の組み合わせにより、潜像画像が隠ぺいされない条件が存在した。そのため、可視画像の濃度が平坦な部分と潜像画像の濃度の変化が大きい部分が組み合わさると潜像画像が見えてしまうという課題があった。
【0008】
また、潜像画像を目視でわからないように隠ぺいするために、可視画像の濃度調整、潜像画像の濃度調整を行い、印刷を行っては目視確認する手順を繰り返す試行錯誤が必要であった。結果として、潜像画像の隠ぺい性が悪くなったり、可視画像及び潜像画像のデザインが制限されるという課題があった。
【0009】
また、上記の試行錯誤により、最適な条件が得られた場合においても、当該印刷物の利用条件、例えば視認する際の光源、あるいは基材の種類が異なる場合、潜像画像が隠ぺいされない場合があった。
【0010】
本発明は、前述した問題の解決を目的としたものであり、可視画像に応じて潜像画像の濃度を変化させることによって、潜像画像の隠ぺい性を良好とするとともに、印刷物が異なる光源下で用いられる、あるいは異なる基材に印刷する場合においても、潜像画像の隠ぺい性の良好な印刷物の作成方法及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、所定の観察条件下において視認可能な潜像画像と、潜像画像を隠ぺいするように形成された可視光源下において視認可能な可視画像が形成された印刷物の作成方法であって、可視画像及び潜像画像の同じ一角を基準座標とし、基準座標に対して対角する座標を最終座標として、基準座標から最終座標までの領域に対し、基準座標から画素と濃度を規則的に加算した可視原画像データと潜像原画像データを作成し、可視原画像データと潜像原画像データの共通する位置である少なくとも三つの点の座標を基準点とし、基準点を重ねて合成したパッチ印刷データに基づきサンプル基材に印刷してパッチ印刷物を作成するパッチ印刷工程と、パッチ印刷物に対して、異なる複数の可視光源下における可視画像と潜像画像の画素と濃度の組み合わせに対する潜像画像が隠ぺいされているか否かを示す評価テーブルを作成する評価テーブル作成工程と、評価テーブルを用いて、潜像画像が可視画像に隠ぺい可能となる濃度の組み合わせを選択して、選択した潜像原画像データの濃度に基づき潜像画像データを作成し、潜像画像データと可視原画像データを合成した印刷物データを使用して、基材に印刷を行う選択工程から成ることを特徴とする印刷物の作成方法である。
【0012】
本発明は、印刷物の作成方法をコンピュータに実行させるための印刷物の作成プログラムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、可視画像に応じて潜像画像の濃度を変化させることによって、潜像画像の視認性を良好とするとともに、印刷物が異なる光源下で用いられる、あるいは異なる基材に印刷される場合においても、潜像画像の隠ぺい性の良好な印刷物を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の作成の対象となる網点印刷物の一例図である。
【
図2】本発明の印刷物の作成方法及び印刷物の作成プログラムを示す一例図である。
【
図6】可視画像と潜像画像を合成したパッチ印刷物を示す一例図である。
【
図11】実施例1の可視原画像データを示す一例図である。
【
図12】実施例1の潜像原画像データを示す一例図である。
【
図13】実施例1のパッチ印刷物データを示す一例図である。
【
図14】実施例1の評価テーブルを示す一例図である。
【
図16】二種類の光源下における網点印刷物の観察画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
【0016】
本発明は、一例として
図17(a)及び(b)に便宜上斜線で示す潜像画像(14)と可視画像(13)が隣接して形成された様々な印刷物(10)に適用可能であるが、
図1に示す網点印刷物(A1)を例に用いて説明する。
図1(a)は、網点印刷物(A1)の概略図であり、
図1(b)は、網点印刷物(A1)の網点の構成を示す一部拡大図である。以下、
図1(b)に示す網点の構成について説明する。なお、本明細書における隣接とは、隣り合う二つの領域、画線又は網点の少なくとも一部が接していることを言う。
【0017】
(網点の構成)
網点の構成は、第一の領域である第一のハーフトーン領域(1)及び第二の領域である第二のハーフトーン領域(2)が基本単位の一つとして、第一のハーフトーン領域(1)が第二のハーフトーン領域(2)を囲むように規則的に複数配置されている。第一のハーフトーン領域(1)と第二のハーフトーン領域(2)を複数配置する際、互いの領域の形状は、同一又は異なる形状であってもよく、互いの領域の少なくとも一部が隣接して配置されていればよい。なお、潜像画像の視認性を考慮した場合には、互いの領域が同一形状、かつ、互いに隙間なく隣接して配置されることがより好ましい。
【0018】
(第一のハーフトーン領域)
第一のハーフトーン領域(1)は、全て同一形状であり、多角形、円形、図形でも良いが、正方形又は長方形であることがさらに好ましい。第一のハーフトーン領域(1)は、画像形成部(1a)と第一の背景部(1b)から構成される。第一のハーフトーン領域(1)を複数配置することで、印刷物上において可視画像として認識される第一の連続階調画像となる。
【0019】
(第二のハーフトーン領域)
第二のハーフトーン領域(2)は、全て同一形状であり、多角形、円形、図形でも良いが、正方形又は長方形であることが好ましい。第二のハーフトーン領域(2)は、画像部(2a)及び第二の背景部(2b)から構成される。第二のハーフトーン領域(2)を複数配置することで、印刷物上において特定の観察条件下のみで潜像画像として認識される第二の連続階調画像となる。
【0020】
網点印刷物(A1)を形成するインキは、第一のハーフトーン領域(1)の画像形成部(1a)及び第一の背景部(1b)と、第二のハーフトーン領域(2)の画像部(2a)及び第二の背景部(2b)の双方の領域の各部が、互いに異なる特性を有するインキにより形成する。例えば、第一のハーフトーン領域(1)の画像形成部(1a)と第一の背景部(1b)、及び第二のハーフトーン領域(2)の第二の背景部(2b)を赤外線を吸収しないCMYインキにより形成し、第二のハーフトーン領域(2)の画像部(2a)を赤外線を吸収する黒インキ(K)により形成した場合、
図16(a)に示すように、可視光源下では、第一のハーフトーン領域(1)の画像形成部(1a)と第一の背景部(1b)により形成された第一の連続階調画像(8)が出現し、別の観察条件下である赤外線光源下では、
図16(b)に示すような第二のハーフトーン領域(2)の画像部(2a)により形成された第二の連続階調画像(9)が出現するような網点印刷物(A1)が得られる。この網点印刷物(A1)に用いられている技術が、「ImageSwitch(商標登録番号第4718813号)」である。なお、前述の本明細書における異なる特性とは、赤外線吸収特性の有無、発光特性の有無、溶剤特性の有無等が挙げられる。
【0021】
(第一の実施形態)
本発明の印刷物の作成方法及び印刷物の作成プログラムは、
図2に示すように、可視原画像データ(3)と潜像原画像データ(4)のそれぞれの濃度を変化させて、濃度変化させた可視原画像データ(3)と潜像原画像データ(4)を組み合わせてパッチ印刷物(5)を作成するパッチ印刷工程(S1)と、パッチ印刷物(5)から可視画像と潜像画像の濃度の組み合わせについて、視認した際に潜像画像が隠ぺいされているか否かを評価した評価テーブルを作成する評価テーブル作成工程(S2)と、可視画像の濃度から評価テーブルを用いて、潜像画像が隠ぺい可能となる濃度を選択して印刷を行う選択工程(S3)から成る。
【0022】
本明細書においては、可視原画像データ(3)がグレー階調の印刷物における実施形態を示すが、カラーでも同様に行うことが出来る。また、本発明における画像は、
図1に示すように、画像の左上を原点(0、0)として横(幅)方向をX、縦(高さ)方向をYとして表現し、座標(位置)をX,Yで表記する。画像は、コンピュータで表現できる最小単位の画素で構成されており、画素単位で明るさを持ち、本明細書では、濃度として表記している。
【0023】
濃度(明るさ)は、0~255の階調値で表現され255の方が明るい(白い、淡い)。色は、RGB(赤、緑、青)の濃度(0~255)で表現され、グレー階調であればRGBの階調値は全て同じ値である。また、画像におけるCMYKの濃度については0~100%で表記し、%の数値が大きい程、濃くなる。Kであれば0%は白、100%は黒である。また、濃度の表記については、基本的にRGBの濃度を示し、CMYKの場合には、%のように表記する。次に、各工程について詳細に説明する。
【0024】
(パッチ印刷工程)
パッチ印刷工程(S1)は、
図3に示す方法により、可視原画像データ(3)と潜像原画像データ(4)の濃度を変化させた可視原画像データ(3)と潜像原画像データ(4)、濃度変化させたそれぞれの画像を組み合わせたパッチ印刷データを作成して、作成したパッチ印刷データを中質紙、上質紙又は塗工紙等のサンプル基材上に印刷して、LED、蛍光灯、白熱灯等の複数の異なる可視光源下で可視画像から潜像画像が隠ぺいされているか否かを確認するパッチ印刷物(5)を作成する工程である。なお、サンプル基材とは、パッチ印刷物(5)を形成するための中質紙、上質紙又は塗工紙等の公知の材料であり、当該サンプル基材を基にしてパッチ印刷物(5)の後述の評価を行い、サンプル基材を基にして最終的な印刷物を形成するために最適な基材の確認となる材料である。
【0025】
可視原画像データ(3)の作成工程(S1-1)は、可視画像を形成する可視原画像データ(3)の領域の確保(幅、高さ)、座標(X、Y)、濃度、Y方向の濃度ステップ(変化)の初期化を行う。初期化後、可視原画像データ(3)の基準座標(X
0、Y
0)から座標(X
Z、Y
n)までの領域に濃度(0)でべたの塗りつぶしを行う。なお、基準座標(X
0、Y
0)は、可視原画像データ(3)の一角であり、
図4では、左上の一角を基準座標(X
0、Y
0)とした。次に、Y方向の座標(Y
0)に対して画素(+n)と濃度(+m)を規則的に加算して塗りつぶし濃度を変更し、座標(X
0、Y
0+n)から所定の座標(X
Z、Y
0+n)までの領域に濃度(T+m)でべたの塗りつぶしを行う。この動作を最終座標(X
Z、Y
Z)まで繰り返すことで、
図4に示すように、縦方向(Y)に濃度が階段状に変化する可視原画像データ(3)を得ることが出来る。なお、べたの塗りつぶしを行う領域の大きさは、適宜設定される。また、最終座標(X
Z、Y
Z)は、基準座標(X
0、Y
0)とした一角に対して可視原画像データ(3)上で対角となる一角となる。
【0026】
次に、潜像原画像データ(4)の作成工程(S1-2)について説明する。本第一の実施の形態では、可視原画像データ(3)と区別を図るため、便宜上、画像として文字を使用して説明するが、模様、記号等、特に限定はない。潜像原画像データ(4)の作成工程(S1-2)は、最初に可視原画像データ(3)と同じ大きさの画像の領域の確保(幅、高さ)、座標(X,Y)、濃度、X方向の濃度ステップ(変化)の初期化を行う。初期化後、潜像原画像データ(4)の基準座標(X
0、Y
0)から座標(X
Z、Y
n)までの領域内に濃度0で文字の作成を行う。なお、潜像原画像データ(4)の基準座標(X
0、Y
0)は、前述した可視原画像データ(3)の基準座標(X
0、Y
0)とした一角と同じ一角を基準座標(X
0、Y
0)とする。例えば、
図5では、可視原画像データ(3)と同じ左上の一角を基準座標(X
0、Y
0)とした。文字数は、可視原画像データ(3)の同一濃度のべたの部分内に収まる様に作成する。文字内の濃度は、同一濃度である。次にX方向の座標(X
0)に対して画素(+n)と濃度(+m)を加算した、座標(X
0+n、Y
0)から所定の座標(X
Z、Y
n)までの領域に濃度(T+m)で文字の作成を行う(S1-2)。この動作を最終座標(X
Z、Y
Z)まで繰り返すことで、
図5に示すような、横方向(X方向)に濃度が変化している潜像原画像データ(4)を得ることが出来る。なお、最終座標(X
Z、Y
Z)は基準座標(X
0、Y
0)とした一角に対して潜像原画像データ(4)上で対角となる一角となる。
【0027】
合成工程(S1-3)は、作成した可視原画像データ(3)と潜像原画像データ(4)を合成してパッチ印刷データを作成し、作成したパッチ印刷データを用いて可視光源下で視認可能な第一のインキにより可視画像と、可視光源下で第一のインキと等色、かつ、非可視光源下(赤外線、紫外線)で視認可能な第二のインキにより潜像画像をサンプル基材上に印刷して、
図6に示すパッチ印刷物(5)を作成する(S1-4)。なお、可視原画像データ(3)と潜像原画像データ(4)の合成は、各データにおける共通する位置である座標(X
0、Y
0)から座標(X
Z、Y
n)から、任意の少なくとも三つの点の座標を、可視原画像データ(3)と潜像原画像データ(4)におけるそれぞれの基準点として、当該基準点を重ねて合成する。例えば、
図18に示すように可視原画像データ(3)の基準点(P1、P2、P3)と潜像原画像データ(4)の基準点(P1´、P2´、P3´)として合成する。
【0028】
なお、
図1(b)に示す網点の構成を形成する場合は、第一のハーフトーン領域(1)の画像形成部(1a)及び第一の背景部(1b)の各データと、潜像原画像データ(4)により第二のハーフトーン領域(2)の画像部(2a)及び第二の背景部(2b)の各データを形成し、第一のハーフトーン領域(1)を形成するデータと、潜像原画像データ(4)により第二のハーフトーン領域(2)を形成するデータにおける共通する位置である座標(X
0、Y
0)から座標(X
Z、Y
n)から、任意の少なくとも三つの点の座標を、可視原画像データ(3)と潜像原画像データ(4)におけるそれぞれの基準点として、第一のハーフトーン領域(1)が第二のハーフトーン領域(2)を囲むように規則的に複数配置されるように当該基準点を重ねて合成して、パッチ印刷物データを作成する。
【0029】
次に、作成したパッチ印刷物データを使用して、赤外線を吸収しないCMYインキを使用して第一のハーフトーン領域(1)の画像形成部(1a)と第一の背景部(1b)、及び第二のハーフトーン領域(2)の第二の背景部(2b)を形成し、赤外線を吸収する黒インキ(K)を使用して第二のハーフトーン領域(2)の画像部(2a)により前述のサンプル基材上に印刷して、パッチ印刷物(5)を作成する。
【0030】
図3に示すパッチ印刷工程(S1)は、パッチ印刷物(5)が1枚の場合の方法を示しており、黒の階調を増やす場合や、カラーなどの色数が多いときは、パッチ印刷工程(S1)を複数回実施し、色ごとに複数枚のパッチ印刷物(5)を作成する。なお、サンプル基材の種類が多数の場合も、サンプル基材の種類ごとにパッチ印刷物(5)を作成する。
【0031】
(評価テーブル作成工程)
評価テーブル作成工程(S2)は、
図7に示すように、作成したパッチ印刷物(5)を前述のLED、蛍光灯、白熱灯等の複数の異なる可視光源下において、潜像画像(本実施の形態では1文字ずつ)を目視又はカメラ等の光学装置により確認し、各濃度及び各光源下で潜像画像が可視画像に隠ぺいされているか否かを確認し、隠ぺいされているか否かの濃度の組み合わせを評価し、
図8に示す評価テーブル(6)に評価結果を入力する。また、サンプル基材の種類ごとにパッチ印刷物(5)を作成した場合は、サンプル基材の種類ごとに評価テーブル(6)を作成する。
【0032】
評価テーブル(6)は、潜像画像が確認できた濃度の組み合わせ、つまり、潜像画像が可視画像に隠ぺいされていない濃度の組み合わせの数値を入力する。例えば、
図9に示すように、数値は、LED、蛍光灯等の各種可視光源ごとに点数をつけて、当該数値の合計により隠ぺいされていないことを示すものであり、点線で示す数字が1以上の領域(7´)は潜像画像が隠ぺいされていない濃度(7´)であり、太線である0の領域(7)は、複数の光源どれにおいても、隠ぺいされている濃度であることを意味する。
【0033】
また、評価テーブル作成工程(S2)におけるパッチ印刷物(5)の確認は、人間が見る替わりにカラーカメラ等の光学装置を用いてもよい。カラーカメラで確認する際には、目視同様に1枚のパッチ印刷物(5)に対して、複数の光源をそれぞれに切り替えて撮像を行い、撮像した画像に対して、潜像画像のない領域の一定面積の階調値の平均値、潜像画像のある領域の一定面積の階調値の平均値をそれぞれ算出し、平均値の比較を行う。
【0034】
比較の結果、一定の階調値以上の差がある場合は、隠ぺいされていない(人間の目で目視が出来る)と判断し、評価テーブル(6)に記録する。記録方法は、目視と同様であり、当該方法をプログラムで処理することで、評価テーブル作成工程(S2)を自動化してもよい。また、比較方法として平均値、相関係数を用いて評価することも可能である。
【0035】
(選択工程)
選択工程(S3)は、
図10に示すように、評価テーブル(6)を用いて、可視画像の濃度に対し、潜像画像が隠ぺいされる濃度を選択して印刷を行う。詳細には、
図9に示すように、評価テーブル(6)から、全ての可視光源下及び/又はすべてのサンプル基材で潜像画像が可視画像に隠ぺいされている組み合わせを探索し、全ての光源下で隠ぺいされる可視画像の濃度と潜像画像の最大濃度(A)として選択(S3-1)する。
【0036】
次に、潜像画像が最大濃度(A)となる潜像画像データを作成、又は潜像原画像データ(4)を選択した最大濃度(A)に濃度変換した潜像画像データを作成(S3-2)する。濃度変換方法としては、トーンカーブを用いる方法、ルックアップテーブルを用いる方法等があるが、本第一の実施の形態では、トーンカーブが直線の濃度線形変換を用いた。なお、濃度線形変換とは、画像の濃度(階調値)が特定の範囲から別の異なる範囲になる様に変換を行う処理であり、下記の数式1で示される。
【0037】
【0038】
ここで、Xは変換元の1画素の値であり、Yは変換先の1画素の値であり、Ymaxは変換元の画像の最大の画素値であり、Xminは変換元の画像の最小の画素値であり、Ymaxは変換先の画像の最大の画素値(実施例1ではA)であり、Yminは変換先の画像の最小の画素値(実施例1では0)である。
【0039】
本第一の実施の形態では、選択工程(S3)の一例として、濃度変換法を使用して潜像画像の濃度を最大濃度(A)に変換したが、公知の手法として潜像画像の1画素と同じ位置(座標)に対応した可視画像の1画素及び/又はその周辺画素の平均値を算出し、潜像画像が隠ぺいされる最大濃度(A)を探索し、潜像画像の最大濃度(A)に変更してもよい。
【0040】
あるいは、他の公知の手法として、ぼかし処理を潜像画像が隠ぺいされない部分にのみ行い、潜像画像の濃度をぼかしたエッジ画像の強度に応じて、潜像画像の濃度を最大濃度(A)に変更してもよい。あるいは、可視画像に対してエッジ抽出処理を行い、可視画像の濃度をぼかしたエッジ画像の強度に応じて、潜像画像の濃度を最大濃度(A)に変更してもよい。
【0041】
なお、本第一の実施の形態では、可視画像の濃度に合わせて潜像画像の濃度を変更させているが、潜像画像の濃度に合わせて可視画像の濃度を変更させてもよい。
【0042】
次に、可視原画像データ(3)に対し、前述の可視原画像データ(3)と潜像原画像データ(4)の合成方法の同様に、濃度(A)に変換した潜像画像データを合成して印刷物データを作成し(S3-3)、作成した印刷物データを使用して、サンプル基材と同様に潜像画像が隠ぺい可能となる基材に対して印刷物を作成する。
【0043】
なお、
図1(b)に示す網点の構成を形成する場合も同様に、可視原画像データ(3)により第一のハーフトーン領域(1)を形成するデータに対して、濃度(A)に変換した第二のハーフトーン領域(2)を形成するデータを合成して印刷物データを作成し、基材に
図1に示す網点印刷物(A1)を作成する。
【0044】
(プログラム)
また、本発明は、コンピュータに、印刷物の作成方法を実行させるためのプログラムである。
【0045】
以下、上記実施の形態による印刷物の作成方法に基づいて、具体的に
図1に示す網点印刷物(A1)の作成を行った実施例について説明する。ただし、本発明の内容は、以下に示す実施例の範囲に限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
実施例1では、プリンタはRICOH社製のデジタルカラー複写機RICOH Pro7100S(印刷解像度600DPI)を使用し、サンプル基材と基材は上質紙を選択した。なお、網点印刷物(A1)を形成するインキは、第一のハーフトーン領域(1)の画像形成部(1a)と第一の背景部(1b)、及び第二のハーフトーン領域(2)の第二の背景部(2b)を赤外線を吸収しないCMYインキにより形成し、第二のハーフトーン領域(2)の画像部(2a)を赤外線を吸収する黒インキ(K)により形成することとした。
【0047】
可視原画像データ(3)は、原点の基準座標(0,0)から基準座標と対角の最終座標(2349,105)まで濃度を規則的に加算して
図11に示す可視原画像データ(3)を作成した。潜像原画像データ(4)も同様に、原点の基準座標(0,0)から基準座標と対角の最終座標(2349,105)まで濃度を規則的に加算して
図12に示す潜像原画像データ(4)を作成する。
【0048】
合成工程(S1-3)において、可視原画像データ(3)により第一のハーフトーン領域(1)の画像形成部(1a)及び第一の背景部(1b)を形成する第一のハーフトーン領域データを作成し、潜像原画像データ(4)により第二のハーフトーン領域(2)の画像部(2a)及び第二の背景部(2b)を形成する第二のハーフトーン領域データを作成して、各データにおける共通する位置である三つの点の座標を、第一のハーフトーン領域データと第二のハーフトーン領域データにおけるそれぞれの基準点として、当該基準点を重ねて合成しパッチ印刷データを作成する(図示せず)。
【0049】
次に、第一のハーフトーン領域(1)の画像形成部(1a)及び第一の背景部(1b)をCMYインキにより作成し、第二のハーフトーン領域(2)は、第二の背景部(2b)を赤外線を吸収しないCMYインキを使用してCMYの濃度100%により形成した。また、画像部(2a)は、赤外線を吸収する黒インキ(K)により形成した。次に、第一のハーフトーン領域(1)が第二のハーフトーン領域(2)を囲むように規則的に複数配置して、サンプル基材である上質紙に
図13に示すパッチ印刷物(5)を作成する。
【0050】
次に、評価テーブル(6)は、作成したパッチ印刷物(5)をD65光源、LED光源、蛍光灯の三種類の異なる可視光源下を使用して、1文字ずつ目視又はカメラ等の光学装置により確認し、潜像画像が可視原画像に隠ぺいされていない濃度の組み合わせを抽出して作成する。
【0051】
評価の数値は、全ての光源で視認不可となる場合は0、D65光源で見える場合は1、LED光源で見える場合は2、蛍光灯で見える場合は4として、視認可能な値の全ての合計を示す。
【0052】
評価の結果は、
図14に示すように、全ての光源で見える場合は合計値が最大で7となり、LED光源と蛍光灯の双方で見える場合は6、D65光源で見える場合と蛍光灯の双方で見える場合は5、D65光源とLED光源の双方で見える場合は3として評価し、その他の単独の光源の数値もそれぞれ評価する。
【0053】
次に、潜像画像の最大濃度(A)の選択は、
図14に示す評価テーブル(6)を使用して、すべての可視画像の濃度において潜像画像の濃度が隠ぺいされる領域を探索し、全ての光源で視認不可となる0の値となる濃度が244から255の点線で囲む領域(7)を最大濃度(A)とする。
【0054】
次に、潜像原画像データ(4)の濃度を244から255の最大濃度(A)となるようにトーンカーブを用いた直線の濃度線形変換を使用して、潜像原画像データ(4)の変換を行い、最大濃度(A)に変換した潜像原画像データ(4)を使用して、
図15(a)に示す第二のハーフトーン領域データ(15)を作成する。
【0055】
次に、可視原画像データ(3)を使用して作成した
図15(b)に示す第一のハーフトーン領域データ(16)に濃度(A)に変換した第二のハーフトーン領域データ(15)を合成して埋め込んで印刷物データ(図示せず)を作成し、上質紙に
図1に示す網点印刷物(A1)を印刷し、D65光源、LED光源及び蛍光灯で確認したところ、いずれの光源においても潜像画像を視認することができず、隠ぺいされていることが確認できた。なお、赤外線光源下で確認した場合は、潜像画像のみ視認することができた。
【符号の説明】
【0056】
A1 網点印刷物
1 第一のハーフトーン領域
1a 画像形成部
1b 第一の背景部
2 第二のハーフトーン領域
2a 画像部
2b 第二の背景部
3 可視原画像データ
4 潜像原画像データ
5 パッチ印刷物
6 評価テーブル
7 潜像画像が隠ぺいされる領域
7´ 潜像画像が隠ぺいされていない領域
8 第一の連続階調画像
9 第二の連続階調画像
10 印刷物
11 可視画像データ
12 潜像画像データ
13 可視画像
14 潜像画像
15 第二のハーフトーン領域データ
16 第一のハーフトーン領域データ