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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057215
(43)【公開日】2023-04-21
(54)【発明の名称】窒素化合物の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20230414BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20230414BHJP
   C23C 16/455 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
H01L21/205
C23C16/34
C23C16/455
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021166589
(22)【出願日】2021-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】王 学論
(72)【発明者】
【氏名】金 載浩
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 直人
(72)【発明者】
【氏名】榊田 創
(72)【発明者】
【氏名】山田 永
(72)【発明者】
【氏名】清水 鉄司
【テーマコード(参考)】
4K030
5F045
【Fターム(参考)】
4K030AA11
4K030AA13
4K030BA11
4K030BA38
4K030BB02
4K030CA04
4K030CA12
4K030EA04
4K030EA05
4K030EA06
4K030FA01
4K030KA17
4K030KA30
4K030LA14
5F045AA04
5F045AB09
5F045AB17
5F045AB33
5F045AC08
5F045AC09
5F045AC12
5F045AC16
5F045AC17
5F045AE21
5F045AE23
5F045AE25
5F045CA10
5F045CA12
5F045DA59
5F045DP03
5F045DP28
5F045EF05
5F045EH05
5F045EM10
(57)【要約】
【課題】高品位な窒素化合物薄膜を高い効率で得られる窒素化合物の製造方法及び製造装置の提供。
【解決手段】
基板に対向させたノズル面を有するガス供給モジュールを用いた気相成長による窒素化合物の製造方法および製造装置である。窒素元素を含むプラズマ源ガスをプラズマ化してノズル面に配置された開口を有するプラズマノズルから基板へ向けて吐出させた上で、原材料ガスをノズル面のプラズマノズルの外側周囲にて開口する原材料ノズルから吐出させ、プラズマに含まれる窒素を含む活性種と原材料ガスとを反応させて基板上に窒素化合物を成膜させる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に対向させたノズル面を有するガス供給モジュールを用いた気相成長による窒素化合物の製造方法であって、
窒素元素を含むプラズマ源ガスをプラズマ化して前記ノズル面に配置された開口を有するプラズマノズルから前記基板へ向けて吐出させた上で、原材料ガスを前記ノズル面の前記プラズマノズルの外側周囲にて開口する原材料ノズルから吐出させ、プラズマに含まれる窒素を含む活性種と前記原材料ガスとを反応させて前記基板上に窒素化合物を成膜させることを特徴とする窒素化合物の製造方法。
【請求項2】
前記基板と前記プラズマノズルの前記開口との距離は150mm以下であることを特徴とする請求項1記載の窒素化合物の製造方法。
【請求項3】
前記基板及び前記ガス供給モジュールを収容した容器内部の圧力を1kPa以上で反応させることを特徴とする請求項1又は2に記載の窒素化合物の製造方法。
【請求項4】
前記基板を取り外した状態で、前記基板の位置における窒素原子密度を1×1014cm-3以上とすることを特徴とする請求項1乃至3のうちの1つに記載の窒素化合物の製造方法。
【請求項5】
V族元素を含む包摂ガスを前記ノズル面の前記原材料ノズルの更に外側周囲にて開口する包摂ガスノズルから前記基板へ向けて吐出させることを特徴とする請求項1乃至4のうちの1つに記載の窒素化合物の製造方法。
【請求項6】
前記基板を面内回転させ、前記プラズマノズルの前記開口に対向する前記基板の位置を移動させることを特徴とする請求項1乃至5のうちの1つに記載の窒素化合物の製造方法。
【請求項7】
前記原材料ガスはInを含む有機金属ガスであることを特徴とする請求項1乃至6のうちの1つに記載の窒素化合物の製造方法。
【請求項8】
前記原材料ガスは複数の有機金属からなる混合ガスであって、前記混合ガス中のInを含む有機金属の混合量を変化させて前記窒素化合物中のIn量を変化させることを特徴とする請求項7記載の窒素化合物の製造方法。
【請求項9】
基板に対向させたノズル面を有するガス供給モジュールを用いた気相成長による窒素化合物の製造装置であって、
前記ガス供給モジュールは、
窒素元素を含むプラズマ源ガスをプラズマ化して前記ノズル面に配置させた開口から前記基板へ向けて吐出させるプラズマノズルと、
原材料ガスを前記ノズル面の前記プラズマノズルの外側周囲にて開口し吐出させる原材料ノズルと、を含み、
プラズマに含まれる窒素を含む活性種と前記原材料ガスとを反応させて前記基板上に窒素化合物を成膜させることを特徴とする窒素化合物の製造装置。
【請求項10】
前記基板と前記プラズマノズルの前記開口との距離は150mm以下であることを特徴とする請求項9記載の窒素化合物の製造装置。
【請求項11】
V族元素を含む包摂ガスを前記ノズル面の前記原材料ノズルの更に外側周囲にて開口する包摂ガスノズルから前記基板へ向けて吐出させることを特徴とする請求項9又は10に記載の窒素化合物の製造装置。
【請求項12】
前記基板を面内回転させ、前記プラズマノズルの前記開口に対向する前記基板の位置を移動させるサセプターを含むことを特徴とする請求項9乃至11のうちの1つに記載の窒素化合物の製造装置。
【請求項13】
前記プラズマノズルの1つの前記開口に対応させて前記原材料ノズルの前記開口を複数設けることを特徴とする請求項11記載の窒素化合物の製造装置。
【請求項14】
前記原材料ノズルの複数の前記開口を包囲して、前記包摂ガスノズルの前記開口を複数設けることを特徴とする請求項13記載の窒素化合物の製造装置。
【請求項15】
前記プラズマノズルの前記開口を複数設けることを特徴とする請求項13又は14に記載の窒素化合物の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相成長による窒素化合物の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機金属を含む原材料をキャリアガスとともに基板(ウェハ)上に運び、高温で分解して化学反応させ、薄膜をエピタキシャル成長させるMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、炉内部で基板にその主面を対向させるように平板形状のシャワーヘッド電極を組み込んだ縦型MOCVD装置によるIII族窒化物半導体膜の製造方法を開示している。詳細には、平板形状のシャワーヘッド電極の主面に設けられた複数の貫通孔から窒素を含む混合ガスが供給され、該シャワーヘッド電極の直下でプラズマ化されて窒素ラジカルと電子とその他の荷電粒子を含んだラジカル混合気体となり、シャワー状に基板に向けて送出される。一方、シャワーヘッド電極の下方且つ基板近傍にあるリング部の複数の貫通孔からは、基板に向けてIII族金属の有機金属ガスが供給される。かかる有機金属ガスは、ラジカル混合気体に巻き込まれて基板に到達し、該基板上に所定の成分組成のIII族窒化物半導体膜を成膜できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-073999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有機金属気相成長により、基板上に欠陥の少ない高品位なIII-V族化合物からなる窒素化合物薄膜を成膜することが求められている。特に、Inを含む窒素化合物では、Inを25%以上含む実用的な高品位の窒素化合物の薄膜は得られておらず、In含有量を調整させつつ高品位な窒素化合物の薄膜を成膜することが求められている。これらについては、基板上で成膜に十分な窒素原子密度を得た上で原材料ガスの供給を制御し反応を進行させることが必要となる。
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、高品位な窒素化合物薄膜を得られる窒素化合物の製造方法及び製造装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、気相成長法において、プラズマ源と基板との距離を短縮せしめることで、これらを収容した容器内を比較的高い圧力(1kPa以上)としても窒素化合物薄膜の成膜に必要とされる窒素原子密度(1014cm-3以上)を得られることを考慮し、プラズマを吐出する開口を小型化するとともに、その外側周囲に原材料ガスを吐出する開口を設けたガス供給モジュールを利用することに想到した。結果、イオンの平均自由行程をデバイ長よりも小さくでき、基板へのイオン衝撃を大幅に軽減できるとともに、原材料ガスをプラズマ中に制御性よく供給できて、高品位な窒素化合物の薄膜を得られるようになるのである。特に、In系の窒素化合物において、Inを25%以上含む実用的な高品位の窒素化合物薄膜は得られていなかったが、本発明によれば、In含有量を調整しつつ高品位な薄膜も得られるようになるのである。
【0008】
つまり、本発明による製造方法は、基板に対向させたノズル面を有するガス供給モジュールを用いた気相成長による窒素化合物の製造方法であって、窒素元素を含むプラズマ源ガスをプラズマ化して前記ノズル面に配置された開口を有するプラズマノズルから前記基板へ向けて吐出させた上で、原材料ガスを前記ノズル面の前記プラズマノズルの外側周囲にて開口する原材料ノズルから吐出させ、プラズマに含まれる窒素を含む活性種と前記原材料ガスとを反応させて前記基板上に窒素化合物を成膜させることを特徴とする。
【0009】
また、本発明による製造装置は、基板に対向させたノズル面を有するガス供給モジュールを用いた気相成長による窒素化合物の製造装置であって、前記ガス供給モジュールは、窒素元素を含むプラズマ源ガスをプラズマ化して前記ノズル面に配置させた開口から前記基板へ向けて吐出させるプラズマノズルと、原材料ガスを前記ノズル面の前記プラズマノズルの外側周囲にて開口し吐出させる原材料ノズルと、を含み、プラズマに含まれる窒素を含む活性種と前記原材料ガスとを反応させて前記基板上に窒素化合物を成膜させることを特徴とする。
【0010】
かかる特徴によれば、プラズマノズル、原材料ノズル及び包摂ガスノズルを組み込んだ所定のガス供給モジュールにより与えられる基板上での高い窒素原子密度に起因し、高品位な窒素化合物を成膜できるのである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明による製造装置の図である。
図2】本発明による製造装置の要部の図である。
図3】本発明によるガス供給モジュールの斜視図である。
図4】本発明による製造装置におけるプラズマ源の斜視図である。
図5】本発明によるガス供給モジュールのノズル面の平面図である。
図6】本発明によるガス供給モジュールのノズル面の平面図である。
図7】窒素原子密度の真空容器内の圧力依存性を示すグラフである。
図8】プラズマ源及び基板の間での発光の状態を示す写真である。
図9】発光部を可視分光器で測定したスペクトル強度のグラフである。
図10】窒化ガリウム上の単結晶窒化インジウムの断面の透過型電子顕微鏡写真である。
図11】単結晶窒化インジウム膜のX線回折法で測定した回折強度分布のグラフである。
図12】単結晶窒化インジウム膜のX線ロッキングカーブ法による強度分布のグラフである。ここで、(a)は(0002)対称面、(b)は(10-12)非対称面の信号である。
図13】単結晶窒化インジウム膜のフォトルミネッセンスを室温で測定したスペクトル強度分布図である。
図14】単結晶窒化インジウムガリウム膜(In組成41%)のω-2θスキャン回折折強度分布図である。
図15】単結晶窒化インジウムガリウム膜(In組成41%)のフォトルミネッセンススペクトルの5~295Kにおける温度依存性を示すグラフである。ここで、ガス組成比{TMI/(TMI+TEG)}は、0.5である。
図16】ガス組成比{TMI/(TMI+TEG)}とインジウム含有率との関係を示すグラフである。ここで、黒丸印はプラズマガスに窒素、四角印はプラズマガスにアンモニアを用いたものである。
図17】プラズマガスに窒素を用いて成膜された膜のXRDプロットである。ここで、ガス組成比TMI/(TMI+TEG)は、(a)0.39、(b)0.59、(c)0.71である。
図18】プラズマガスにアンモニアを用いて成膜された膜のXRDプロットである。ここで、ガス組成比TMI/(TMI+TEG)は、(a)0.39、(b)0.59、(c)0.65である。
図19】プラズマノズルの位置を変えて成膜した単結晶窒化インジウム膜のX線ロッキングカーブ法による強度分布のグラフである。ここで、(a)は(0002)対称面、(b)は(10-12)非対称面の信号である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、III-V族化合物からなる窒素化合物を作製する際の材料供給装置として利用可能であって、例えば、GaN(窒化ガリウム)、InN(窒化インジウム)、AlN(窒化アルミニウム)、BN(窒化ボロン)の2元化合物、或いは、これらの組み合わせによる3元以上の多元化合物を作製できる。かかる窒素化合物は、発光デバイス(レーザーダイオード、発光ダイオード)、受光デバイス(全波長型太陽電池、光検出器)、パワーデバイスへの利用が可能であるとともに、高輝度・高解像度・低消費電力な次世代フルカラー拡張現実用μLEDヘッドマウントディスプレイへの適用も期待できる。特に、In系の窒素化合物において、Inを25%以上含む高品位な窒素化合物薄膜も得られるようになるのである。ここで、窒化インジウムについては、バンド端からの発光波長の温度依存性が非常に小さく、また電子移動度が大きいことから、発光デバイス又は受光デバイスだけでなく、Heterojunction field-effect transistors(HFETs)、メモリー、central processing units(CPUs)などの高周波デバイスにも利用され得る。
【0013】
以下に、本発明の実施例として、基板に対向させたノズル面を有するガス供給モジュールを用いた気相成長による窒素化合物の製造装置及び製造方法について図1乃至図6を用いて説明する。
【0014】
図1に示すように、窒素化合物の製造装置1の容器(炉体)10の内部には、基板5をその上に載置させて水平面内で回転させつつ加熱可能なサセプターシステム50が設置され、その上方には、ガス供給モジュール20が間隔をあけてそのノズル面20aを対向させて設置されている。
【0015】
ガス供給モジュール20には、プラズマ源ガスを高周波電力により分解して得られるプラズマを基板5へ向けて吐出するプラズマ源21が含まれる。かかるプラズマ源21には、電源30から同軸ケーブル31、スタブチューナー32、及びコネクター(図示せず)を介して、連続波又はパルス波として高周波電力が供給される。また、ガス供給管34から窒素元素を含むプラズマ源ガスが導かれる。更に、ガス供給モジュール20には、III族元素の有機金属からなる原材料ガスを供給する原材料供給管24’、及び、V族元素を含む包摂ガスを供給する包摂ガス供給管26’が接続されている。
【0016】
なお、ここでは、原材料ガス及び包摂ガスの拡散を抑制してその流れを制御できるように、カバー16が設けられて、容器10の下部の排気方向へ導かれるようになっている。また、任意に、カバー16の穴部16aを介して基板5の表面近傍の発光部Rを分光分析する分光システム40が組み込まれる。
【0017】
図2及び図3に模式的に示すように、ガス供給モジュール20の下部は、ノズル面20aを画定するように、好ましくは、略椀状に中央部を凹ませて、略円板状のヘッド板20’が本体部と一体又は別体として取り付けられている。ノズル面20aの略中央部には、プラズマ源21のプラズマノズル22がその先端部22aを開口させている。なお、先端部22aの開口は、ノズル面20aに対して、面一に必ずしもせずとも、突出又は凹ませて設けてもよい。また、ノズル面20aにおいて、プラズマノズル22の先端部22aの外側周囲には、III族元素の有機金属からなる原材料ガスを吐出させる原材料ノズル24の開口が一定間隔で複数設けられている。更に、原材料ノズル24の外側周囲には、V族元素を含む包摂ガスを吐出させる包摂ガスノズル26の開口が一定間隔で複数設けられている。なお、原材料ノズル24及び包摂ガスノズル26は、ガス供給モジュール20の内部において、配管を複数に分岐させて複数の開口と連通するように設けてもよい。
【0018】
なお、ノズル面20aを画定する略円板状のヘッド板20’は設けなくともよいが、これを設けることにより、原材料ガスや包摂ガス、プラズマ、これにより生じる活性粒子などが原材料ノズル24、包摂ガスノズル26などの外周壁に沿って上流(上部)へと拡散することを防ぐことができる。また、後述するサセプターシステム50における基板5の加熱によるプラズマ源21などへの輻射熱の影響を防ぐこともできる。
【0019】
サセプターシステム50は、その上面をガス供給モジュール20のノズル面20aに対向させるように設けられている。グラファイト製のサセプター51の上面には、シリコンカーバイドのコーティングが施されており、この上に基板5が載置され、これを加熱するとともに、水平面内で回転可能である。基板5を面内回転させることで、プラズマノズル22の先端部(開口)22aに対向する基板5の位置を移動させることができて、先端部22aの形状がスリット状等の小型且つ基板5とは異なる形状であっても、基板5上に窒素化合物の薄膜を均一に成膜できるのである。また、サセプター51により、基板5とプラズマノズル22の先端部22aとの距離を調整できるが、これを150mm以下、好ましくは、50mm以下に近接させ、かかる調整により、容器10内を比較的高い圧力としても基板5上での高い窒素原子密度を与え得るようになるのである。
【0020】
図4に示すように、プラズマ源21は、板状の誘電体基板23からなり、ガス供給管34に接続されたガス供給路27を介して誘電体基板23の内部の図示しない空間に窒素ガス又はアンモニアなどの窒素元素を含むプラズマ源ガスが供給され、プラズマノズル22のスリット状に開口した先端部22aへと流れる。また、誘電体基板23のマイクロストリップ線路28には、電源30から高周波電力が導かれて伝搬し、プラズマノズル22の先端部22aの内部及び/又は周縁部に印加される。これにより、プラズマ源ガスが分解され、プラズマノズル22の先端部22aからプラズマが放出される。なお、かかるプラズマ源21については、国際公開WO2017/078082にて公知のものを用い得る。
【0021】
プラズマ源ガスは、窒素元素を含むガスであって、例えば、窒素やアンモニアのガスであり、適宜、不活性ガス(アルゴン、ヘリウム等)を混合して用いてもよい。不活性ガスを混合することで、容器10内を高い圧力としてもプラズマを安定的に維持できて好ましい。また、ガス流量も適宜調整され得るが、典型的には、0.1~10L/minの範囲である。
【0022】
プラズマ源21に接続される電源30は、900MHzから5GHzまでの間の連続波又はパルス波として高周波を発生させるもので、その電力は概ね0~200W程度の範囲で調整される。
【0023】
ここで、プラズマノズル22の先端部22aの幅及び隙間は原材料ノズル24からの原材料ガスの供給及び基板5での成膜状態を考慮して設定できるが、後述する実施例では、先端部22aの大きさ(断面)を幅40mm×隙間0.2mmのスリット状の長方形とした。なお、プラズマノズル22の先端部22aを長方形のスリット状の開口ではなく、円形又は異形の開口として、単数又は複数配置するようにしてもよい。
【0024】
更に、プラズマ源21は、上記した以外、小型の容量結合型プラズマ源、小型の誘導結合型プラズマ源や、小型のホローカソードプラズマ源などを用いてもよい。
【0025】
また、プラズマ源21には、電源30からの電力供給に伴う熱や、サセプターシステム50での基板5を加熱する際に発生する輻射熱から熱保護するための過熱や熱損傷を防止する手段を追加的に与えられることが好ましい、例えば、プラズマ源21を冷却する水冷管を与え、及び/又は、プラズマ源21の熱を真空容器10の外部へと逃がす熱流路を与えるようにしてもよい。
【0026】
原材料ノズル24は、ノズル面20aのプラズマノズル22の外側周囲にて開口し、得ようとするIII-V族化合物からなる窒素化合物によって選択されるIII族元素の有機金属からなる原材料ガスを吐出させる。例えば、Ga系の窒素化合物であればトリエチルガリウム(TEG)又はトリメチルガリウム(TMG)、In系の窒素化合物であればトリメチルインジウム(TMI)からなるガスであり、後述するような、Inを含むGaNの窒素化合物であれば、TMIの一部をTEG又はTMGで置換した混合ガスである。
【0027】
包摂ガスノズル26は、ノズル面20aの原材料ノズル24の更に外側周囲にて開口し、V族元素、典型的には窒素を含む包摂ガスを基板5へ向けて吐出させる。かかる包摂ガスは、容器10内を高い圧力としてもプラズマノズル22からのプラズマを制御し、且つ、プラズマ中への原材料ガスの供給や、基板5上への窒素化合物の成膜を安定化させる。
【0028】
図5には、ノズル面20aにおけるプラズマノズル22の先端部(開口)22a、原材料ノズル24の開口24a、及び、包摂ガスノズル26の開口26aのいくつかの配置例を示した。これらは、いずれもノズル面20aに、プラズマノズル22の先端部22aを複数配置するとともに、これらのそれぞれに対応させて、原材料ノズル24の開口24aを並べて配置し、更に、包摂ガスノズル26の開口26aの複数を原材料ノズル24の開口24aの外側周囲に所定間隔で配置するものである。ここで、各種ノズルの開口形状や大きさ、その配置は、基板5上での窒素化合物の成膜の制御を鑑みて、適宜、設計し得る。例えば、窒素系活性種や原材料ガスの単位時間当たりの供給量の制御、供給された各物質の混合状態の制御などを鑑みて設計され得る。以下では、プラズマノズル22の先端部(開口)22aの形状を四角形断面とした例を示すが、ここでも基板5上での成膜を制御する観点から、また、プラズマ源21の各種機構を考慮し、適宜、丸形をはじめとする異形状を採用し得る。
【0029】
図5(a)では、ノズル面20aの中心部を通る直線上に、長方形断面のプラズマノズル22の先端部22aを直列に2つ配置している。その上で、先端部22aのそれぞれの外側周囲である四角形線上に、原材料ノズル24の丸断面の開口24aの複数を等間隔で並べて配置している。更に、これら複数の開口24aの外側周囲である四角形線上には、包摂ガスノズル26の丸断面の開口26aの複数を等間隔で並べて配置している。
【0030】
同様に、図5(b)では、ノズル面20aの中心部を通る直線上に、長方形断面のプラズマノズル22の先端部22aを直列に4つ配置している。図5(a)と同様に、プラズマノズル22の先端部22aのそれぞれの外側周囲である四角形線上に、原材料ノズル24の丸断面の開口24aの複数を等間隔で並べて配置し、更に、この外側周囲である四角形線上には、包摂ガスノズル26の丸断面の開口26aの複数を等間隔で並べて配置している。
【0031】
他の例として、図5(c)では、ノズル面20aの中心部を通る十字直線上に、長方形断面のプラズマノズル22の先端部22aを4つ配置している。その上で、先端部22aのそれぞれ外側周囲に原材料ノズル24の丸断面の開口24aの複数を等間隔で並べて配置し、この外側周囲には、包摂ガスノズル26の丸断面の開口26aの複数を等間隔で並べて配置している。
【0032】
また、図5(d)では、ノズル面20aの中心部を通る十字直線上に、長方形断面のプラズマノズル22の先端部22aを8つ配置している。その上で、先端部22aのそれぞれ外側周囲に原材料ノズル24の丸断面の開口24aの複数を等間隔で並べて配置し、この外側周囲には、包摂ガスノズル26の丸断面の開口26aの複数を等間隔で並べて配置している。
【0033】
図5(e)では、ノズル面20aの中心部を通る直線上に、長方形断面のプラズマノズル22の先端部22aを直列に4つ配置する一方、図5(b)などと比べ、プラズマノズル22の先端部22aに対する、原材料ノズル24の開口24aの開口数及び包摂ガスノズル26の開口26aの開口数を増やしたものである。
【0034】
図5(f)では、ノズル面20aの中心部を通る直線上に、正方形断面のプラズマノズル22の先端部22aを直列に6つ配置する一方、図5(b)などと比べ、プラズマノズル22の先端部22aの開口面積を減じたものである。
【0035】
また、図5(g)では、図5(f)に対して、正方形断面のプラズマノズル22の先端部22a及び原材料ノズル24の開口24aの並ぶ列数を増やし、これらの外側周囲の四角形線上に包摂ガスノズル26の開口26aの複数を配置したものである。
【0036】
図5(h)では、ノズル面20aの中心部を通る直線に対して垂直方向に、長方形断面のプラズマノズル22の先端部22aを並列に3つ配置している。その上で、先端部22aのそれぞれの外側周囲である四角形線上に、原材料ノズル24の丸断面の開口24aの複数を等間隔で並べて配置している。更に、これら複数の開口24aの外側周囲である四角形線上には、包摂ガスノズル26の丸断面の開口26aの複数を等間隔で並べて配置している。
【0037】
図5(i)では、ノズル面20aの中心部を通る直線状及び直線に対して垂直方向に、長方形断面のプラズマノズル22の先端部22aを並列に6つ配置している。その上で、先端部22aのそれぞれの外側周囲である四角形線上に、原材料ノズル24の丸断面の開口24aの複数を等間隔で並べて配置している。更に、これら複数の開口24aの外側周囲である四角形線上には、包摂ガスノズル26の丸断面の開口26aの複数を等間隔で並べて配置している。
【0038】
図5(j)では、図5(h)で示した各ノズル配置を一つの単位として、ノズル面20a内に4個配置している。
【0039】
図5(k)では、ノズル面20aの中心部を通る十字直線上に、長方形断面のプラズマノズル22の先端部22aを4つ配置している。その上で、先端部22aのそれぞれ外側周囲に原材料ノズル24の丸断面の開口24aの複数を並べて配置し、この外側周囲には、包摂ガスノズル26の丸断面の開口26aの複数を並べて配置している。なお、それぞれのノズル間隔は、等間隔でなくともよいが、一定の規則性を持って配列させることが好ましい。
【0040】
図6には、ノズル面20aにおける原材料ノズル24の開口24a、及び、包摂ガスノズル26の開口26aの形状を変えた配置例を示した。
【0041】
図6(a)では、ノズル面20aの中心部を通る直線上に、長方形断面のプラズマノズル22の先端部22aを配置している。その上で、先端部22aのそれぞれの外側周囲である四角形線上に、原材料ノズル24の長方形断面の開口24aの複数を並べて配置している。更に、これら複数の開口24aの外側周囲である四角形線上には、包摂ガスノズル26の長方形断面の開口26aの複数を並べて配置している。
【0042】
図6(b)では、ノズル面20aの中心部を通る直線上及び直線に対して垂直方向に、長方形断面のプラズマノズル22の先端部22aを配置している。その上で、先端部22aのそれぞれの外側周囲である四角形線上に、原材料ノズル24の長方形断面の開口24aの複数を並べて配置している。更に、これら複数の開口24aの外側周囲である四角形線上には、包摂ガスノズル26の長方形断面の開口26aの複数を並べて配置している。
【0043】
図6(c)では、ノズル面20aの中心部を通る直線上に、長方形断面のプラズマノズル22の先端部22aを配置している。その上で、先端部22aのそれぞれの外側周囲である四角形線上に、原材料ノズル24の長方形断面の開口24aの複数を並べて配置している。更に、これら複数の開口24aの外側周囲である四角形線上には、包摂ガスノズル26の丸断面の開口26aの複数を等間隔で並べて配置している。
【0044】
図6(d)では、ノズル面20aの中心部を通る直線上及び直線に対して垂直方向に、長方形断面のプラズマノズル22の先端部22aを配置している。その上で、先端部22aのそれぞれの外側周囲である四角形線上に、原材料ノズル24の長方形断面の開口24aの複数を並べて配置している。更に、これら複数の開口24aの外側周囲である四角形線上には、包摂ガスノズル26の丸断面の開口26aの複数を等間隔で並べて配置している。
【0045】
図6(e)では、ノズル面20aの中心部を通る直線上に、長方形断面のプラズマノズル22の先端部22aを配置している。その上で、先端部22aのそれぞれの外側周囲である四角形線上に、原材料ノズル24の丸形断面の開口24aの複数を等間隔で並べて配置している。更に、これら複数の開口24aの外側周囲である四角形線上には、包摂ガスノズル26の長方形断面の開口26aの複数を並べて配置している。
【0046】
図6(f)では、ノズル面20aの中心部を通る直線上及び直線に対して垂直方向に、長方形断面のプラズマノズル22の先端部22aを配置している。その上で、先端部22aのそれぞれの外側周囲である四角形線上に、原材料ノズル24の丸形断面の開口24aの複数を等間隔で並べて配置している。更に、これら複数の開口24aの外側周囲である四角形線上には、包摂ガスノズル26の長方形断面の開口26aの複数を並べて配置している。
【0047】
なお、プラズマノズル22の先端部22a、原材料ノズル24の開口24a、及び包摂ガスノズル26の開口26aのノズル面20aに対する凹凸高さ位置は、基板5の上での窒素化合物の成膜状態に応じて適宜、調整される。つまり、ガス供給モジュール20への原材料ノズル24及び包摂ガスノズル26の取り付けについては、原材料ガスの流速や、基板5の表面に当たるこれらガスの流れの向きを考慮して、その角度や開口面積、位置などを調整され、結果として、基板5の上に成膜される窒化物化合物の面一様性や膜質を制御するのである。
【0048】
上記した窒素化合物の製造装置1では、容器10内の圧力を1kPa以上にした上で、基板5の温度を従来よりも低温としても、例えば、欠陥の少ない、高品位な窒素化合物の製造が可能となる。つまり、プラズマにおけるイオンの平均自由行程がデバイ長よりも小さくなるように圧力を上げ成膜できるのである。これによれば、GaN、InGaN、InN、又はAlN、及び、その混合組成のいずれのIII-V族化合物からなる窒素化合物であっても、その薄膜を高品位なものとして得られるのである。
【0049】
上記方法は、シリコンと窒素からなる窒化ケイ素のような窒素化合物の薄膜の成膜に好適である。また、原材料ガスに添加物を加えることで、添加物に由来する元素をドーピングした窒素化合物を成膜できる。例えば、添加物としてマグネシウムが考慮される。
【実施例0050】
まず、図1及び2に示した装置を用い、真空容器10内で得られる窒素原子密度を測定した。つまり、プラズマ源21のプラズマノズル22のスリット状の先端部22aの大きさ(断面)を幅40mm×隙間0.2mmのスリット状の長方形とし、プラズマ源21には、プラズマガスとして窒素ガスを2L/minで導入するとともに、110Wのマイクロ波を印加した。なお、原材料ガスは流さなかった。また、プラズマノズル22の先端部22aから直径10mmの領域Rの窒素原子密度は、真空紫外吸収分光システム(Chen, S., et al. Behaviors of Absolute Densities of N, H, and NH3 at Remote Region of High-Density Radical Source Employing N2-H2 Mixture Plasmas. Jpn. J. Appl. Phys. 50, 01AE03 (2011)を参照)を組み込み、計測した。
【0051】
図7には、基板5を配置せず、真空容器10内での基板5の位置での窒素原子密度の圧力依存性を測定した結果を示した。真空容器10内の圧力を1kPaから10kPaに上昇させつつ、窒素原子密度を1×1014cm-3から1×1015cm-3近くまで上昇させ得ることがわかる。
【0052】
次に、図1及び2に示した装置を用い、以下のように、窒化インジウム膜の成膜を行った(成膜試験1)。つまり、サセプター51上に基板5として窒化ガリウムを載置した。プラズマノズル22の先端部22a及び基板5の間の距離を10mmとするように、サセプターシステム50の高さを調整した。プラズマノズル22の先端部22aはノズル面20aから0.1mm突出するように、プラズマ源21がガス供給モジュール20に取り付けられている。その上で、プラズマ源21には、プラズマガスとして窒素ガスを2L/minで導入し、90Wのマイクロ波を印加した。そして、原材料ノズル24からIII族ガスとしてトリメチルインジウム(TMI)ガスをキャリア用の窒素ガスとともに3.5L/minで導入した。また、包摂ガスノズル26からは、窒素ガスを1L/minで導入した。真空容器10内の圧力は圧力調整バルブを用いて2.0kPaに保持し、基板5を設置したサセプターシステム50によりその温度を650℃にした。なお、基板回転速度は、5rpmである。
【0053】
図8には、真空容器10内でのプラズマノズル22の先端部22aと、基板5との間の発光部R(図1参照)での発光の状態を示した。
【0054】
また、図9には、発光部Rからの光を分光システム40(Stellarnet Inc.製ファイバーマルチチャンネル小型分光器、Blue-Wave-UVNb)を用いて計測した結果を示した。窒素分子の発光スペクトル群、CN分子バンド(~388nm)の発光スペクトル、及びIn原子の発光スペクトルIn I [In 5s6s (s)→In 5s5p (p), 451.13nm]が測定された。特に、窒素分子の発光スペクトル群において、2nd positive systemの発光ピーク値が1st positive systemの発光ピーク値よりも1桁程度以上高くなっていた。
【0055】
図10には、122分間の成膜を行って成長させた窒化インジウム膜について、断面を透過型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、H-9000UHR)にて観察した写真を示した(10万3000倍)。約700nmの厚さを有する単結晶窒化インジウムが形成されていたが、~3×10cm-2の低い欠陥密度であって、高品位であることがわかる。なお、膜厚が厚くなるほど、高品位となる傾向にあった。
【0056】
図11には、図10の単結晶窒化インジウム膜のX線回折(XRD)測定結果(Malvern Panalytical社製、X’Pert MRD)を示した。33度の金属インジウムに由来した信号は観察されず、31.35度の位置に現れるスペクトル幅の狭い窒化インジウムの信号が測定された。つまり、成膜された窒化インジウムには、金属インジウムの析出がなく、結晶性が良いことを示している。また、基板の窒化ガリウムに由来した信号が34.58度の位置に観察された。
【0057】
図12には、図10の単結晶窒化インジウム膜のX線ロッキングカーブ(XRC)法での測定結果を示した。(a)の(0002)対称面、及び(b)の(10-12)非対称面の半値全幅は、それぞれ618arcsec及び999arcsecであった。逆格子空間マップから格子定数を求めると、それぞれ、c=0.570635nm、a=0.353008nmとなった。
【0058】
また、欠陥密度Dは、(半値全幅)/{9×(格子定数)}(Zheng, X. H., et al. Determination of twist angle of in-plane mosaicspread of GaN films by high-resolution X-ray diffraction, J. Cryst. Growth 255, 63-67 (2003)を参照)で計算できるが、これによると、格子定数cを用いて、半値幅を618arcsecから螺旋転位欠陥密度は、0.306×10cm-2となる。
【0059】
一方、格子定数aを用いて、半値幅を999arcsecから刃状転位欠陥密度は、2.089×10cm-2となる。全転位欠陥密度は、螺旋転位欠陥密度と刃状転位欠陥密度を足し合わせたものとなるから、2.395×10cm-2となる。この値は、上記した図9の透過型電子顕微鏡観察による写真から観察された欠陥密度の値である3×10cm-2にほぼ一致し、結晶性が良いことを示している。
【0060】
図13には、図9の単結晶窒化インジウム膜のフォトルミネッセンス(PL)を室温で測定したスペクトルを示した。フォトンエネルギー0.687eV(波長1806.4nm)の発光スペクトルについて、狭い半値幅0.1eVで得られた。ここでは、株式会社フォトンデザイン社製のPL測定システムを用いて測定した。詳細には、647nmの励起用レーザーを100mWで出力させ、1%の光学フィルターをセットするとともに、基板部でのレーザービーム径を1.2μm、パワー密度8.9×10W/cmで照射し、対物レンズ100倍、露光時間0.5秒で発光スペクトルデータを取得し、これを10回積算したものである。
【0061】
次に、図1及び2に示した装置を用い、以下のように、窒化インジウムガリウム膜の成膜を行った(成膜試験2)。成膜は、上記した成膜試験1について、III族ガスとしてトリメチルインジウム(TMI)ガスの一部をトリエチルガリウム(TEG)ガスに置き換えて行ったものである。なお、基板5を載置させたサセプターシステム50により、その温度を700℃にするとともに、基板回転速度を5rpmとし、30分間、窒化インジウムガリウム膜を成長した。
【0062】
図14には、ガス組成比{TMI/(TMI+TEG)}を0.5として成膜した窒化インジウムガリウム膜のXRDの測定結果を示した。これから分かるように、インジウムの含有量は、41%であった。
【0063】
図15には、図14の窒化インジウムガリウム膜について、5~295Kの温度範囲でのフォトルミネッセンススペクトルの温度依存性を示した。これから分かるように、700nmをピークとする発光分布が得られた。なお、700nm付近の輝線は、サファイア基板中のクロムに由来する信号である。ここでは、クライオスタット(モンタナ社製)を用いて基板の温度を制御するとともに、波長375nmのレーザー(昭和オプトロニクス社製)を励起光として、70mWのレザーパワーで、集光レンズを用いてレーザービーム径を50μmに絞り照射を行った。そして、分光器及びCCD検出器システム(堀場製作所社製)を用いて、露光時間0.5秒、積算回数5回のデータを取得している。なお、CCD検出器は、液体窒素を用いてマイナス125℃まで冷却した。
【0064】
図16には、ガス組成比{TMI/(TMI+TEG)}を0~1の間で変えたときの窒素化合物膜中のIn含有量の測定結果を示した。これから分かるように、窒化ガリウム(GaN)~窒化インジウムガリウム(InGaN)~窒化インジウムとIn量を変化させた膜を得られる。ここで、In量は、0.99×{TMI/(TMI+TEG)}-0.07の関係式で表されるように、ガス組成比に比例していた(黒色丸印参照)。なお、一般的には、In量は、~0.25×{TMI/(TMI+TEG)}の関係式で表されるとされることから、本実施例が従来知られる一般的な反応とは異なることがわかる。
【0065】
図17には、図16の窒素化合物膜について、{TMI/(TMI+TEG)}の組成比について、(a)0.39、(b)0.59、(c)0.71として得られる窒素化合物膜のXRDによるω-2θ曲線を示した。それぞれIn量の異なるInGaNが成膜されていることを示しており、原材料ガスの組成比(混合比)でIn量を制御できることがわかる。
【0066】
次に、図1及び図2に示した装置を用い、上記した成膜試験1及び2について、プラズマ源ガスとして、アンモニアを用いて、窒化ガリウム、窒化インジウムガリウム膜、及び窒化インジウムの成膜を行った(成膜試験3)。
【0067】
図18には、{TMI/(TMI+TEG)}の組成比について、(a)0.39、(b)0.59、(c)0.65として得られる窒素化合物膜のXRDによるω-2θ曲線を示した。ここでも、それぞれIn量の異なるInGaNが成膜されていることを示しており、原材料ガスの組成比(混合比)でIn量を制御できることがわかる。なお、In量は、1.00×{TMI/(TMI+TEG)}-0.26の関係式で表され、図16にこれを示した(白色四角印参照)。
【0068】
次に、図1及び図2に示した装置を用い、以下のように、窒化インジウム膜の成膜を行った(成膜試験4)。つまり、サセプター51上に窒化ガリウムからなる基板5を載置した。プラズマノズル22の先端部22a及び基板5の間の距離を10mmとするように、サセプターシステム50の高さを調整した。プラズマノズル22の先端部22aはノズル面20aから0.1mm突出するように(d=0.1mm)、10mm凹むように(d=-10mm)、20mm凹むように(d=-20mm)、プラズマ源21がガス供給モジュール20にそれぞれ取り付けられている。その上で、プラズマ源21には、プラズマガスとして窒素ガスを2L/minで導入し、90Wのマイクロ波を印加した。そして、原材料ノズル24からIII族ガスとしてトリメチルインジウム(TMI)ガスをキャリア用の窒素ガスとともに3.5L/minで導入した。また、包摂ガスノズル26からは、窒素ガスを1L/minで導入した。真空容器10内の圧力は圧力調整バルブを用いて2.0kPaに保持し、基板5を設置したサセプターシステム50によりその温度を650℃にした。なお、基板回転速度は、5rpm、成膜時間は30分とした。
【0069】
図19には、図12と同様に、単結晶窒化インジウム膜ついて、(a)では(0002)対称面、(b)では(10-12)非対称面のX線ロッキングカーブ(XRC)法での測定結果を示した。
【0070】
d=0.1mmでは、(0002)対称面及び(10-12)非対称面のそれぞれの測定結果における半値全幅は、それぞれ578arcsec及び1315arcsecであった。また、d=-10mmではそれぞれ559arcsec及び1363arcsec、d=-20mmではそれぞれ529arcsec及び1408arcsecであった。これらは、いずれも、図12(a)の(0002)対称面の半値全幅よりも小さいことから、螺旋転位欠陥密度は小さくなっていることがわかる。一方、図12(b)の(10-12)非対称面の半値全幅よりも若干大きいことから、刃状転位欠陥密度については若干大きくなっていることがわかる。つまり、プラズマ源の位置を変化させたときにあっても、十分な量の窒素原子を供給できるように制御すれば、高品位な膜を形成し得るのである。
【0071】
以上のように、プラズマを吐出する開口の外側周囲に原材料ガスを吐出する開口を設けたガス供給モジュールを用いることで、窒素系活性種の密度と原材料ガスとを独立して制御し、高品位な窒素化合物を得られ、しかも、幅広いインジウム含有量の制御が可能となる。
【0072】
ここまで、本発明による代表的な実施形態及びこれに基づく改変例について説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。当業者であれば、添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0073】
1 製造装置
5 基板
10 容器(炉体)
20 ガス供給モジュール
20a ノズル面
21 プラズマ源
22 プラズマノズル
24 原材料ノズル
26 包摂ガスノズル
30 電源
40 分光システム
50 サセプターシステム
51 サセプター
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
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