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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057667
(43)【公開日】2023-04-24
(54)【発明の名称】曲げセンサ及び曲げセンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/16 20060101AFI20230417BHJP
【FI】
G01B7/16 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167265
(22)【出願日】2021-10-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2018年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期/フィジカル空間デジタルデータ処理基盤/サブテーマII:超低消費電力IoTデバイス・革新的センサ技術/ヒューマンインタラクションセンサデバイスシステム技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】金澤 周介
(72)【発明者】
【氏名】植村 聖
【テーマコード(参考)】
2F063
【Fターム(参考)】
2F063AA25
2F063BA29
2F063BD11
2F063CA07
2F063CA09
2F063DA02
2F063DA05
2F063DD07
2F063EC02
2F063EC05
2F063EC13
2F063EC15
2F063EC26
2F063FA08
(57)【要約】
【課題】 導電膜に与えられた亀裂の開閉による抵抗変化を利用した曲げセンサにおいて、曲げに対する抵抗変化の感度を高く、安定して動作を得られるようにすること。
【解決手段】 帯状の導電路を形成するように基材の主面上に与えられた導電膜に導入された亀裂の開閉による抵抗変化から曲げを検出する曲げセンサである。基材は主面に一定周期で凹凸を有する織布であって、導電路には厚さ方向及び幅方向に導電膜を貫通する亀裂を複数含むとともに、亀裂が凹凸に対応した位置にあることを特徴とする。また、製造方法において、基材は主面に一定周期で凹凸を有する織布であって、導電膜を与える導電性材料を基材の上に塗布し、基材を曲げることで、導電路には厚さ方向及び幅方向に導電膜を貫通する亀裂を複数与えるとともに、亀裂を凹凸に対応した位置に与えることを特徴とする。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の導電路を形成するように基材の主面上に与えられた導電膜に導入された亀裂の開閉による抵抗変化から曲げを検出する曲げセンサであって、
前記基材は前記主面に一定周期で凹凸を有する織布であって、前記導電路には厚さ方向及び幅方向に前記導電膜を貫通する亀裂を複数含むとともに、前記亀裂が前記凹凸に対応した位置にあることを特徴とする曲げセンサ。
【請求項2】
前記織布は互いに直交する縦糸及び横糸を織り合わせてなり、前記縦糸又は前記横糸が前記導電路の幅方向に配置されていることを特徴とする請求項1記載の曲げセンサ。
【請求項3】
前記織布は前記縦糸及び前記横糸を平織りしてなることを特徴とする請求項2記載の曲げセンサ。
【請求項4】
前記織布の前記主面には絶縁膜を間に介して前記導電膜を与えられていることを特徴とする請求項1乃至3のうちの1つに記載の曲げセンサ。
【請求項5】
前記導電膜は前記基材の前記主面に対向して与えられた保護膜と間隙を有してその下部に与えられていることを特徴とする請求項1乃至4のうちの1つに記載の曲げセンサ。
【請求項6】
帯状の導電路を形成するように基材の主面上に与えられた導電膜に導入された亀裂の開閉による抵抗変化から曲げを検出する曲げセンサの製造方法であって、
前記基材は前記主面に一定周期で凹凸を有する織布であって、前記導電膜を与える導電性材料を前記基材の上に塗布し、前記基材を曲げることで、前記導電路には厚さ方向及び幅方向に前記導電膜を貫通する亀裂を複数与えるとともに、前記亀裂を前記凹凸に対応した位置に与えることを特徴とする曲げセンサの製造方法。
【請求項7】
前記織布は互いに直交する縦糸及び横糸を織り合わせてなり、前記縦糸又は前記横糸が前記導電路の幅方向に配置されるように前記導電性材料を前記基材の上に塗布することを特徴とする請求項6記載の曲げセンサの製造方法。
【請求項8】
前記織布は前記縦糸及び前記横糸を平織りしてなることを特徴とする請求項7記載の曲げセンサの製造方法。
【請求項9】
前記織布の前記主面に絶縁膜を与え、この上に前記導電性材料を塗布することを特徴とする請求項6乃至8のうちの1つに記載の曲げセンサの製造方法。
【請求項10】
前記導電膜が前記基材の前記主面に対向して与えられた保護膜と間隙を有してその下部に与えられるように、前記基材の上に前記導電膜を囲んでスペーサを与えこの上に前記保護膜を形成することを特徴とする請求項6乃至9のうちの1つに記載の曲げセンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電膜に与えられた亀裂の開閉による抵抗変化を利用した曲げセンサ及び曲げセンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
部材の曲げ量や曲率の変化を検出するための曲げセンサやひずみセンサがある。近年では、かかるセンサを人の使用する装具に一体化させることで、使用者の動作や関節の動きなどを連続的に計測し、健康管理やIoTサービスに連動させることも提案されている。このようなセンサのうち、電気抵抗の変化を介して曲げ量などを検出するセンサ、特に、導電膜に与えられた亀裂の開閉による抵抗変化を利用したセンサが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、部材上に与えられる可撓性の基板上に微小な亀裂を形成させた導電膜を与え、部材の変形とともに基板を曲げることで導電膜の亀裂を開閉させ、その電気抵抗(導電率)が変化することを利用して、部材の曲げやその変化を検知する曲げセンサを開示している。具体的には、予め導電性エラストマーに斜めに切り込みを入れておくと、曲がり角の増大とともに切り込みが開き、導電性エラストマーの電気抵抗が増加する。一方、真っ直ぐにすると、切り込みが閉じて導電性エラストマーの電気抵抗が減少する。かかる電気抵抗の変化から導電性エラストマーを与えられた部材の曲げを検知するのである。
【0004】
このような導電膜に与えられた亀裂の開閉による抵抗変化を利用したセンサにおいて、亀裂が安定して開閉しないと、曲げに対する抵抗変化の感度が変化し、動作が不安定となってしまう。
【0005】
そこで、例えば、特許文献2では、高抵抗導電膜(高抵抗層)と、予め亀裂(クラック)を導入した低抵抗導電膜(低抵抗層)と、を間に絶縁部を隔てて配置し、複数の電極部に対して並列に接続し、オン・オフ動作をさせる曲げセンサを開示している。オフ状態においては、低抵抗層の亀裂は閉じており、複数の電極部から、高抵抗層の電気抵抗と、低抵抗層の電気抵抗と、の合成抵抗がオフ抵抗として出力される。一方、オン状態においては、低抵抗層の亀裂が開き、複数の電極部から、少なくとも高抵抗層の電気抵抗がオン抵抗として出力されるとしている。低抵抗層の電気抵抗は、主にクラックの状態(クラックの分布、開度、形状など)に依存するため、高抵抗層は低抵抗層よりも電気抵抗、感度のばらつきを生じにくく、クラックの開くオン状態において高抵抗層の電気抵抗を出力することで、動作を安定し得るとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5086785号明細書
【特許文献2】国際公開第2012/060427号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、導電膜に与えられた亀裂の開閉による抵抗変化を利用したセンサにおいて、曲げに対する抵抗変化の感度を高く、かつ、安定して動作を得られるようにすることが求められる。これには、亀裂が安定して開閉することが必要である。また、導電膜への亀裂の導入にムラがあると、同じ曲げ量であっても、曲げ方によって抵抗変化に差を生じて、やはり安定した動作を得られない。
【0008】
本発明は、上記したような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、導電膜に与えられた亀裂の開閉による抵抗変化を利用した曲げセンサにおいて、曲げに対する抵抗変化の感度を高く、かつ、安定して動作を得られるセンサ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による曲げセンサは、帯状の導電路を形成するように基材の主面上に与えられた導電膜に導入された亀裂の開閉による抵抗変化から曲げを検出する曲げセンサであって、前記基材は前記主面に一定周期で凹凸を有する織布であって、前記導電路には厚さ方向及び幅方向に前記導電膜を貫通する亀裂を複数含むとともに、前記亀裂が前記凹凸に対応した位置にあることを特徴とする。
【0010】
かかる特徴によれば、導電膜に与えられた亀裂の開閉による抵抗変化を利用した曲げセンサにおいて、曲げに対する抵抗変化の感度を高く、かつ、安定して動作を得られるのである。
【0011】
また、本発明による曲げセンサの製造方法は、帯状の導電路を形成するように基材の主面上に与えられた導電膜に導入された亀裂の開閉による抵抗変化から曲げを検出する曲げセンサの製造方法であって、前記基材は前記主面に一定周期で凹凸を有する織布であって、前記導電膜を与える導電性材料を前記基材の上に塗布し、前記基材を曲げることで、前記導電路には厚さ方向及び幅方向に前記導電膜を貫通する亀裂を複数与えるとともに、前記亀裂を前記凹凸に対応した位置に与えることを特徴とする。
【0012】
かかる特徴によれば、導電膜に与えられた亀裂の開閉による抵抗変化を利用した曲げセンサにおいて、曲げに対する抵抗変化の感度を高く、かつ、安定して動作を得られる曲げセンサを容易に製造できるのである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明による実施例としての曲げセンサの(a)上面図及び(b)要部の拡大図である。
図2】本発明による実施例としての曲げセンサの側断面図である。
図3】他の実施例による曲げセンサの(a)上面図、(b)要部の拡大図及び(c)側断面図である。
図4】さらに他の実施例による曲げセンサの(a)上面図及び(b)側断面図である。
図5】曲げセンサの製造工程を示す側断面図である。
図6】製造した曲げセンサの要部の拡大写真である。
図7】製造した曲げセンサの要部を(a)反射光観察、(b)透過光観察した写真である。
図8】撚糸による織布を基材として製造した曲げセンサの要部の拡大写真である。
図9】製造試験における基材上の導電膜のパターン図である。
図10】電機抵抗値の測定方法とひずみ算出方法を説明する図である。
図11】ひずみと抵抗変化率との関係を示すグラフである。
図12】基材によるゲージ率の違いを示す表である。
図13】製造試験において導電膜上に形成した(a)密着させた保護膜と、(b)間隙を設けた保護膜の上面図である。
図14】保護膜の導電膜に対する間隙の有無とゲージ率の関係を示す表である。
図15】芯材の直径を変えて製造した曲げセンサの要部の拡大写真である。
図16】芯材の直径による亀裂の数とゲージ率を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明による1つの実施例である曲げセンサ及びその制御方法について、図1乃至図5を用いて説明する。
【0015】
図1に示すように、曲げセンサ10は、基材1の主面上に帯状の導電路を形成するように導電膜2が与えられ、導電膜2に複数の亀裂3を導入させたものである。ここでは、導電路はコの字状に配置されている。基材1は、主面に一定周期で凹凸を有する織布であり、かかる凹凸に対応した位置において厚さ方向及び幅方向に導電膜2を貫通する亀裂を形成している。例えば、織布は、互いに直交する縦糸1a及び横糸1bを織り合わせたものである。つまり、凹凸は、織布の縦糸1a及び横糸1bの織り合わせによって織布の表面に形成されるものである。織布としては、縦糸1a及び横糸1bを平織したものとすると、高い強度を有し、摩耗しづらく、伸びて変形することが少ないなど、曲げセンサの基材1として好適に用い得る。
【0016】
ここで、亀裂3は、曲げセンサ10の幅方向に延びて厚さ方向及び幅方向に導電膜2を貫通するように形成されている。さらに、亀裂3は、凹凸に対応した位置にある。例えば、曲げセンサ10の長さ方向に縦糸1aを配置し、幅方向に横糸1bを配置したとする。そして、このとき、幅方向に延びる横糸1bの2本に対し亀裂3が1本、などのように長さ方向に数えた亀裂の数が横糸1bによる凹凸の数に対応するのである。つまり、織布のメッシュと亀裂3の数が対応し、基材1である織布のメッシュによる一定周期の凹凸に合わせて、亀裂3も周期性をもって配置される。なお、この長さ方向の数の対応については、亀裂3の数を横糸1bの数の整数分の1とすることが観察されている。換言すれば、長手方向に計数した亀裂の数は、同方向に計数した糸の数の整数分の1となり、亀裂の生成した位置の周期は糸の周期の整数倍となる。
【0017】
そして、図2に示すように、(a)曲げセンサ10の基材1を平板状にした状態のときに亀裂3は閉じ、(b)曲げセンサ10の導電膜2を基材1よりも外側とするように長手方向に曲げたときに亀裂3は開く。この亀裂の開閉によって導電膜2の電気抵抗が変化するから、かかる抵抗変化から曲げセンサ10及び曲げセンサ10を貼りつけた部材等の曲げを検出できる。
【0018】
このように、曲げセンサ10によれば、織布からなる基材1の一定周期の凹凸に対応した位置に厚さ方向及び幅方向に貫通する亀裂3が配置されるから、一定の曲げに対する亀裂3の開閉の再現性を高くできる。その結果、亀裂3の開閉による抵抗変化は安定するとともに高い感度を得られるのである。
【0019】
図3に示すように、さらに基材1の主面に絶縁膜4を介して導電膜2を設けた曲げセンサ10aを得ることもできる。例えば、絶縁膜4は、導電膜2の下面全体を覆うように形成され、基材1に対して導電膜2を絶縁することができる。これによって、基材1には導電性の材料を用いることもできる。なお、亀裂3は、導電膜2及び絶縁膜4の両者を厚さ方向及び幅方向に貫通するように形成される。
【0020】
また、図4に示すように、保護膜5を設けた曲げセンサ10bを得ることもできる。保護膜5は、基材1の主面に対向するとともに、導電膜2と間隙を有するように形成される。つまり、導電膜2は、保護膜5の下部に間隙を有して与えられ、かかる間隙により亀裂3の開閉に保護膜5からの影響を受けないようにできる。このような配置は、例えば、保護膜5の外周に合わせた導電膜2を囲む位置において、基材1や導電膜2との間にスペーサ6を形成させることで得られる。なお、上記した絶縁膜4を用いた曲げセンサ10aにさらに保護膜5を設けてもよい。
【0021】
次に、曲げセンサ10、10a及び10bの製造方法について説明する。
【0022】
図5(a)に示すように、まず、基材1を用意する。上記したように基材1は、その主面に一定周期で凹凸を有する織布である。なお、基材1は、複数の曲げセンサを並べて配置できるような大きさのものとし、複数の曲げセンサを同時に製造するようにしてもよい。
【0023】
次に、同図(b)に示すように、基材1の一方の主面に導電膜2を与える導電性材料2’を塗布する。導電性材料2’としては、例えば導電性カーボンペーストを好適に用い得る。塗布においては、導電膜2のパターン(形状)を精度良く得るためにスクリーン印刷などの印刷技術を用いるとよい。導電性材料2’は塗布後、例えば、乾燥されるなどして導電膜2とされる。
【0024】
このとき、同図(c)に示すように、基材1には縦糸1a及び横糸1bによる凹凸が形成されている。そして、基材1の主面の凹凸により導電膜2の厚さ部分的に薄くするなど、亀裂の発生のしやすさを部位によって変化させている。
【0025】
次いで、同図(d)に示すように、一定の曲率で基材1に曲げを与えて、導電膜2に亀裂を生じさせる。曲げの方向としては、導電膜2により形成される帯状の導電路の長手方向への曲げである。このとき、導電膜2に引張り方向の歪みを与えるよう導電膜2を基材1の外側に配置するように曲げる。曲げを与えるにあたって、例えば、表面に一定の曲率を有する丸棒などの芯材11に導電膜2を外側にして基材1を折り返すように部分的に巻き付け、これをしごくようにして基材1の全体に曲げを与えるようにするとよい。
【0026】
このとき、横糸1bの表面で導電膜2は薄く、亀裂を生じやすくなっている(図中小矢印部)。そして、芯材11の外側で大きな曲率の曲げを受けたときに横糸1bに沿った方向に延びる亀裂3を生じて引張歪みを吸収する。すると、亀裂3を生じた部分の近傍においては歪みが小さくなりそれ以上の亀裂を生じづらくなる。このようにして、横糸1bによる凹凸に対応した位置に複数の亀裂3を形成させることができる。そして、長手方向(曲げ方向)に延びる直線上の横糸1bの数と亀裂3の数との対応は、亀裂3を形成させる曲率の選択によって制御し得る。つまり、芯材11の直径を、適宜、選択することで亀裂3の数を制御できる。
【0027】
その結果、同図(e)に示すように、基材1の凹凸に対応した位置に亀裂3の形成された導電膜2を得られる。これによって、曲げセンサ10を得ることができる。
【0028】
さらに、同図(f)に示すように、基材1の上に導電膜2を囲むスペーサ6を形成し、さらにその上に保護膜5を重ねることで、曲げセンサ10bを得ることもできる。
【0029】
なお、絶縁膜4を形成させる場合には、導電性材料2’の塗布の前に、基材1の主面に絶縁膜4を形成させ、この上に導電性材料2’を塗布するようにすればよい。これによって、曲げセンサ10aを得ることができる。
【0030】
[製造試験]
曲げセンサを製造し、その詳細について調査した結果を図6乃至図16を用いて説明する。
【0031】
[試験1]
モノフィラメントの織布、撚糸の織布をそれぞれ基材として用いた曲げセンサを製造し、導電膜に形成された亀裂を観察した。
【0032】
図6に示すように、縦糸及び横糸をモノフィラメントとする平織の織布を基材として曲げセンサを製造した。(a)モノフィラメントの線径が0.12mmの100メッシュの織布を基材に用いた場合、(b)モノフィラメントの線径が0.09mmの200メッシュの織布を基材に用いた場合、いずれにおいても織布の凹凸と亀裂との対応は同様であった。すなわち、曲げセンサの長手方向(紙面横方向)に延びる直線と交差する糸(紙面上下に延びる糸)の数に対して長手方向に延びる直線と交差する亀裂の数は1/2になった。亀裂は途中で枝分かれすることもあるが、亀裂の数は糸の数に対応して、すなわち基材1の凹凸に対応して一定であることが判る。なお、製造にあたっては、直径2.0mmの鉄棒を芯材として用い、折り返すようにしごく動作を20回繰り返して曲げを付与した。
【0033】
図7に示すように、(a)反射光で観察される写真と(b)透過光で観察した写真とを比べると、反射光で観察される亀裂と同じ位置に透過光による明るい部分が観察される。つまり、亀裂は少なくとも厚さ方向に貫通していることが判る。
【0034】
図8に示すように、縦糸及び横糸を撚糸とする平織の織布を基材として曲げセンサを製造した。撚糸の線径は0.18mmであり、織布のメッシュ数は100である。写真の撮影にあたって、糸の数を観察できる光量と、亀裂の数を観察できる光量とが異なったため、(a)糸の数を観察できる写真及び(b)亀裂の数を観察できる写真の2枚を並べた。ここでは、糸の数と亀裂の数は同じとなった。モノフィラメントの場合と同様に、亀裂は途中で枝分かれしても、長手方向に横断する直線上の亀裂の数は一定であることが判る。
【0035】
[試験2]
メッシュ数の異なる平織の織布と、凹凸のないPET(ポリエチレンテレフタラート)フィルムとを基材として用いて曲げセンサを製造し、曲げを付与したときの電気抵抗を測定した。
【0036】
基材として用いた織布はいずれもポリエチレンのモノフィラメントによる平織の織布であり、メッシュ数をそれぞれ100、150、200とした。なお、モノフィラメントの線径は、それぞれ、0.12mm、0.10mm、0.08mmであった。基材の厚みはそれぞれ線径と同じである。なお、PETフィルムによる基材の厚みは0.1mmであった。
【0037】
図9に示すように、それぞれの基材1に導電性カーボンペースト(十条ケミカル株式会社製:CH-8)による導電性材料をスクリーン印刷でパターニングし、100℃のオーブンで30分間乾燥させた。得られた導電膜の膜厚は0.03mm、導電膜の全長の抵抗値は5kΩであった。なお、基材1はA4サイズとし、1枚の基材に縦横4つずつ、計16個の曲げセンサを配置できるよう導電膜2をパターニングした。
【0038】
次いで、直径2.0mmの鉄棒による芯材11で折り返すようにしごく動作を20回繰り返して、導電膜2に亀裂3を形成させた(図5(d)参照)。亀裂の形成後、基材を切り離して同一の製造条件の曲げセンサを16個ずつ作製した。
【0039】
図10(a)に示すように、得られた曲げセンサ10は、所定の曲率半径Rを持つ半円柱の治具21に固定されて電気抵抗値を計測された。ここで、曲げセンサ10は、長手方向を治具21の外周に沿った方向とし、導電膜2を外側とする向きに向けられた。曲率半径Rは、10mm、20mm、30mm、40mm、50mm、無限大(平面)、の6種類とした。そして、同図(b)に示すように、tを曲げセンサの厚みとし、ひずみε=t/2Rとして導電膜の全長の電気抵抗を測定し、ひずみに対する抵抗変化率の関係を求めた。抵抗変化率は、ひずみ0のとき(平面治具使用時)の電気抵抗値を1として比の値で示した。
【0040】
図11に示すように、ひずみに対し、抵抗変化率はほぼ直線状に変化することが判った。また、抵抗変化率/ひずみで求められるゲージ率は、基材のメッシュ数によって変化することが判った。さらに、凹凸のないPETフィルムを基材に用いた場合に比べて、一定周期で凹凸を有する織布を基材に用いることで、ゲージ率が高くなる、すなわち曲げに対する感度が高くなることも判った。
【0041】
さらに、図12に示すように、ゲージ率のばらつきを求めたところ、織布を基材に用いた(100~200メッシュの)場合、凹凸のないPETフィルムを基材に用いた場合に比べて、ゲージ率のばらつきを小さくできることが判った。つまり、一定周期で凹凸を有する織布を基材に用いることで、曲げセンサの動作を安定して得られることが判った。
【0042】
[試験3]
異なる保護膜のある曲げセンサを製造し、保護膜のない曲げセンサと併せてその性能を比較した。
【0043】
図13(a)に示すように、導電膜2に対して隙間なく密着するように保護膜5’となる樹脂をベタ塗りして形成させた曲げセンサを製造した。保護膜5’となる樹脂として、PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)を溶媒として用いたエポキシ樹脂と、水を溶媒として用いたPVA(ポリビニルアルコール)樹脂の2通りとした。
【0044】
また、同図(b)に示すように、導電膜2の電極部を除いた周囲を囲むようにスペーサ6となる接着性樹脂を印刷によって塗布し、その上に保護膜5となるPETフィルムを貼り付けたものを製造した。接着性樹脂としては、エポキシ樹脂とPVA樹脂の2通りとした。
【0045】
図14に示すように、「保護膜あり」のうち「中空状」との表示のない2つが保護膜を導電膜に対して密着させたものであり、「中空状」がスペーサ6を介して保護膜5を配置したものである。保護膜を密着させると、「保護膜なし」の場合に比べてゲージ率を半分以下に低下させてしまった。一方、間隙を設けて保護膜5を配置した場合、「保護膜なし」に対してゲージ率の低下をほとんど生じなかった。つまり、導電膜に対して間隙を有するように保護膜を設けることで、高いゲージ率を維持できた。なお、保護膜を密着させた場合も、スペーサを設けた場合も、エポキシ樹脂とPVA樹脂との間に有意差は観察されなかった。
【0046】
[試験4]
曲げセンサの製造において、亀裂を形成させるための芯材の曲率を変化させた場合の影響を調査した。
【0047】
基材にメッシュ数100のポリエチレンメッシュを用いて、試験2と同様に曲げセンサを製作し、ゲージ率を測定した。ただし、亀裂の形成にあたって用いた芯材の直径は、2.0mm、4.0mm、6.0mmの3種類とした。
【0048】
図15には、亀裂を観察した写真を示した。符号のa、b、cが、それぞれ芯材の直径2.0mm、4.0mm、6.0mmを示し、符号の数字1が反射光撮影、2が透過光撮影であることを示す。これによると、芯材の直径を2.0mmとした(a1)(a2)において、長手方向(紙面横方向)の直線が横切る亀裂の数は、糸の数の1/2となった。同様に、芯材の直径を4.0mmとした(b1)(b2)では1/3、芯材の直径を6.0mmとした(c1)(c2)では1/6であった。
【0049】
また、図16に示すように、ゲージ率の測定結果を併せて表示した。今回の試験範囲においては、芯材の直径を小さくした方が高いゲージ率を得られた。つまり、芯材の直径によって、基材の凹凸の周期に対する亀裂の周期を制御でき、曲げセンサのゲージ率を制御し得ることが判った。
【0050】
以上、本発明による実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0051】
1 基材
2 導電膜
3 亀裂
10 曲げセンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16