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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057806
(43)【公開日】2023-04-24
(54)【発明の名称】難塑性加工金属の塑性加工方法
(51)【国際特許分類】
   B21J 1/04 20060101AFI20230417BHJP
   B21J 5/00 20060101ALI20230417BHJP
   B21J 5/08 20060101ALI20230417BHJP
   B21J 9/02 20060101ALI20230417BHJP
   C22F 1/06 20060101ALI20230417BHJP
   C22F 1/18 20060101ALI20230417BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20230417BHJP
   C22C 23/02 20060101ALN20230417BHJP
【FI】
B21J1/04
B21J5/00 D
B21J5/00 E
B21J5/08 Z
B21J9/02 A
C22F1/06
C22F1/18 H
B21J5/00 K
C22F1/00 685Z
C22F1/00 630K
C22F1/00 624
C22F1/00 612
C22C23/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167478
(22)【出願日】2021-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 敏
(72)【発明者】
【氏名】松本 良
(72)【発明者】
【氏名】外村 圭資
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 裕
【テーマコード(参考)】
4E087
【Fターム(参考)】
4E087AA03
4E087BA03
4E087BA05
4E087CA01
4E087CA31
4E087CA41
4E087CB03
4E087CB13
(57)【要約】
【課題】延性の低い難塑性加工金属に対して、冷間での圧縮塑性変形における変形能を高めることができる塑性加工技術を提供する。
【解決手段】難塑性加工金属を被加工材として、冷間で、圧縮により塑性変形させる難塑性加工金属の塑性加工方法であって、被加工材を上下方向から所定の速度v(mm/sec)で圧縮して、被加工材に圧縮力を付加すると同時に、被加工材を、被加工材の回転軸を中心として、所定の回転速度ω(°/sec)、所定の振幅α(°)で往復振動させて、被加工材に両振りねじり力による両振りねじり振動を付加することにより、被加工材を、冷間で塑性変形させる難塑性加工金属の塑性加工方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
難塑性加工金属を被加工材として、冷間で、圧縮により塑性変形させる難塑性加工金属の塑性加工方法であって、
被加工材を上下方向から所定の速度v(mm/sec)で圧縮して、前記被加工材に圧縮力を付加すると同時に、
前記被加工材を、前記被加工材の回転軸を中心として、所定の回転速度ω(°/sec)、所定の振幅α(°)で往復振動させて、前記被加工材に両振りねじり力による両振りねじり振動を付加することにより、
前記被加工材を、冷間で塑性変形させることを特徴とする難塑性加工金属の塑性加工方法。
【請求項2】
ω/v(°/mm)が、15~600°/mmであることを特徴とする請求項1に記載の難塑性加工金属の塑性加工方法。
【請求項3】
前記被加工材における振幅α(°)が、3°以上、55°未満であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の難塑性加工金属の塑性加工方法。
【請求項4】
前記被加工材を上下方向から圧縮する上下ラムのいずれかの圧縮面または両方の圧縮面から、前記被加工材に対して両振りねじり振動を付加することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の難塑性加工金属の塑性加工方法。
【請求項5】
前記両振りねじり振動を付加する圧縮面上に、同じ深さに形成されて等間隔で平行に配置された複数本の直線状の溝の複数組が互いに所定の角度で交差するように、ローレット溝を設けて、
前記被加工材への圧縮力付加と、前記被加工材への両振りねじり振動付加を行うことを特徴とする請求項4に記載の難塑性加工金属の塑性加工方法。
【請求項6】
前記ローレット溝が、深さ0.2~0.6mm、頂角60~120°、間隔0.4~0.8mm、交差角度60~90°のローレット溝であることを特徴とする請求項5に記載の難塑性加工金属の塑性加工方法。
【請求項7】
前記被加工材が、稠密六方格子構造の結晶構造を有する金属材料であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の難塑性加工金属の塑性加工方法。
【請求項8】
前記稠密六方格子構造の結晶構造を有する金属材料が、マグネシウム合金であることを特徴とする請求項7に記載の難塑性加工金属の塑性加工方法。
【請求項9】
前記稠密六方格子構造の結晶構造を有する金属材料が、チタン合金であることを特徴とする請求項7に記載の難塑性加工金属の塑性加工方法。
【請求項10】
前記塑性変形が、据え込み鍛造による塑性変形であることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の難塑性加工金属の塑性加工方法。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の難塑性加工金属の塑性加工方法により製造されていることを特徴とする金属材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難塑性加工金属の塑性加工方法および塑性加工装置に関し、より詳しくは、延性の低い難塑性加工金属を室温(冷間)での圧縮塑性変形により塑性加工(鍛造)する難塑性加工金属の塑性加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、比較的、比重が小さい一方で強度が高いという特性に着目して、マグネシウム合金(Mg合金)やチタン合金(Ti合金)などを塑性変形させて、自動車、航空宇宙、船舶、鉄道などの交通輸送機器や電気機器・電子機器などへ適用することが検討されている。
【0003】
しかしながら、上記したMg合金やTi合金などの金属材料は、冷間での延性が低く、伸びが殆どないため、現状、冷間での塑性加工が困難である(このため、これらの金属材料は「難塑性加工金属」といわれる)。
【0004】
即ち、Mg合金やTi合金は、その結晶構造が稠密六方格子構造(六方晶構造:hcp構造)であるため、十分な数のすべり系を確保できず、少しの加工度で塑性変形の限界に至り、割れの発生を招いてしまう。
【0005】
具体的には、Mg合金やTi合金などのhcp構造の金属材料において、割れ(延性破壊)が生じない塑性変形限界である変形能は、その軸比によって決定される。しかし、Mg合金では、相対的にc軸が伸びており、底面と底面の間の距離(面間隔)が大きく、底面で滑り易い構造となっているため、冷間では底面の2つのすべり系しか活動することができず、双晶の発現を招き、塑性加工が難しい。そして、Ti合金ではc軸が短く、底面滑りが活動し難い構造となっており、主に柱面でのみ滑るため、同様に、冷間での塑性加工が難しい。
【0006】
高温域においては活動できるすべり系の数が増加するため、難塑性加工金属の塑性加工は、一般的に、必要な延性が得られる高温域にまで温度を上昇させた状態で、塑性加工が行われている。しかしながら、高温域での塑性加工には、加熱設備を必要とするため、コストアップの要因となる。また、金属材料を高温で大気中に曝した場合、金属材料が酸化される恐れがある。
【0007】
そこで、従来より、難塑性加工金属の冷間での塑性加工について、冷間では活動し難かったすべり系の活動を図る技術が、種々、提案されている。
【0008】
例えば、密閉金型内にて、数百MPa~数GPaの背圧や静水圧を付加することにより、高圧力下で塑性加工を行う技術が提案されている。しかしながら、この技術の場合、特殊な加工機械や金型が必要であるため、余分なコストが掛かる。また、低速での塑性加工となるため、生産性に問題がある。さらに、高圧下での塑性加工には、安全性の確保という問題もある。
【0009】
また、金属の組織(結晶粒径・形、集合組織等)を予め調整して、室温での延性を高める技術も提案されている。しかしながら、この技術の場合、金属組織の調整範囲が狭く、また、加工条件毎に適切な金属組織が異なり、適切な金属組織も不明な場合が多い。
【0010】
そして、上記した技術のいずれも、加工条件(形状等)が大幅に限定されるため、実用や量産に適しているとは言えない。
【0011】
なお、冷間で底面以外のすべり系を活動し易くすることによりMg合金の変形能を向上させ、塑性加工性を改善する具体的な方法として、添加元素を加えて高温処理することで稠密六方格子構造の軸比を変える、臨界分解せん断応力(CRSS:critical resolved shear stress)を下げる、集合組織を調整してc軸を圧縮方向に対して直角方向に近づける、結晶粒を微細化するなどの技術も提案されている(例えば、特許文献1、2など)が、これらの技術も、変形能の向上は十分とは言えないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009-280846号公報
【特許文献2】再公表WO2017/154969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記した問題点に鑑み、延性の低い難塑性加工金属に対して、冷間での圧縮塑性変形における変形能を高めることができる塑性加工技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題の解決について鋭意検討を行い、以下に記載する発明により上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
請求項1に記載の発明は、
難塑性加工金属を被加工材として、冷間で、圧縮により塑性変形させる難塑性加工金属の塑性加工方法であって、
被加工材を上下方向から所定の速度v(mm/sec)で圧縮して、前記被加工材に圧縮力を付加すると同時に、
前記被加工材を、前記被加工材の回転軸を中心として、所定の回転速度ω(°/sec)、所定の振幅α(°)で往復振動させて、前記被加工材に両振りねじり力による両振りねじり振動を付加することにより、
前記被加工材を、冷間で塑性変形させることを特徴とする難塑性加工金属の塑性加工方法である。
【0016】
請求項2に記載の発明は、
ω/v(°/mm)が、15~600°/mmであることを特徴とする請求項1に記載の難塑性加工金属の塑性加工方法である。
【0017】
請求項3に記載の発明は、
前記被加工材における振幅α(°)が、3°以上、55°未満であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の難塑性加工金属の塑性加工方法である。
【0018】
請求項4に記載の発明は、
前記被加工材を上下方向から圧縮する上下ラムのいずれかの圧縮面または両方の圧縮面から、前記被加工材に対して両振りねじり振動を付加することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の難塑性加工金属の塑性加工方法である。
【0019】
請求項5に記載の発明は、
前記両振りねじり振動を付加する圧縮面上に、同じ深さに形成されて等間隔で平行に配置された複数本の直線状の溝の複数組が互いに所定の角度で交差するように、ローレット溝を設けて、
前記被加工材への圧縮力付加と、前記被加工材への両振りねじり振動付加を行うことを特徴とする請求項4に記載の難塑性加工金属の塑性加工方法である。
【0020】
請求項6に記載の発明は、
前記ローレット溝が、深さ0.2~0.6mm、頂角60~120°、間隔0.4~0.8mm、交差角度60~90°のローレット溝であることを特徴とする請求項5に記載の難塑性加工金属の塑性加工方法である。
【0021】
請求項7に記載の発明は、
前記被加工材が、稠密六方格子構造の結晶構造を有する金属材料であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の難塑性加工金属の塑性加工方法である。
【0022】
請求項8に記載の発明は、
前記稠密六方格子構造の結晶構造を有する金属材料が、マグネシウム合金であることを特徴とする請求項7に記載の難塑性加工金属の塑性加工方法である。
【0023】
請求項9に記載の発明は、
前記稠密六方格子構造の結晶構造を有する金属材料が、チタン合金であることを特徴とする請求項7に記載の難塑性加工金属の塑性加工方法である。
【0024】
請求項10に記載の発明は、
前記塑性変形が、据え込み鍛造による塑性変形であることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の難塑性加工金属の塑性加工方法である。
【0025】
請求項11に記載の発明は、
請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の難塑性加工金属の塑性加工方法により製造されていることを特徴とする金属材料である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、延性の低い難塑性加工金属に対して、冷間での圧縮塑性変形における変形能を高めることができる塑性加工技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施の形態において使用される塑性加工装置の主要構成部とその動作を説明する模式図である。
図2】本発明の一実施の形態において、ねじりに対する圧縮速度の比と、割れ(延性破壊)が発生する圧縮率(%)との関係を説明する図である。
図3】本発明の一実施の形態において、軸方向圧縮応力と、ねじり/圧縮速度との関係を説明する図である。
図4】非加工硬化性の等方性材料における軸方向圧縮応力σとrω/vとの関係を説明する図である。
図5】ねじり付加なし、一方向ねじり付加、両振りねじり振動付加のそれぞれにおける軸方向圧縮応力σ(MPa)とせん断応力τZθ(MPa)との関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[1]本発明の完成に至るまでの経緯
最初に、本発明の完成に至るまでの経緯について説明する。
【0029】
本発明者は、上記した課題の解決について検討するにあたって、従来の難塑性加工金属の塑性加工では、被加工材に対して一方向(軸方向)からのみ圧縮して荷重を付加していたため、軸方向に大きな圧縮応力(軸方向圧縮応力)が発生して、小さな塑性変形(ひずみ)で圧縮応力の限界を超え、割れ(延性破壊)を発生させていると考えた。
【0030】
そこで、本発明者は、塑性加工に際して、上記した軸方向圧縮応力の発生を抑制することができれば、延性破壊の発生を抑制した塑性加工が可能となるのではと考えた結果、ねじり力の付加に思い至った。
【0031】
即ち、塑性加工中、被加工材を回転させて、主加工(軸方向)とは異なる方向(軸方向に対して直角方向)からねじり力を付加した場合、ねじり力により生じた周方向せん断応力と軸方向圧縮応力、2つの応力成分が重ね合わされて、被加工材に対する圧縮応力となるため、成形荷重の変化、材料流動特性の変化、ひずみ分布の変化が生じる。そして、これによって、延性破壊の発生が抑制され、被加工材の材質制御が可能になり、成形荷重の低減、加工品の複雑形状化(ネットシェイプ化)、加工品の材質制御(高機能化)などが図れると考えた。
【0032】
この考えの下、実験を行ったところ、一方向にねじり力を付加した場合、軸方向圧縮応力は小さくできるものの、周方向せん断応力による転位が被加工材に蓄積されて転位密度の上昇を招いて、延性破壊を発生させるため、被加工材に対して、未だ、十分な塑性加工を行えないことが分かった。
【0033】
そこで、次に、上記した転位密度の上昇を抑制する方法について、さらに検討を行い、塑性加工中に繰り返し往復反転する両振りねじり振動の付加に思い至った。即ち、両振りねじり振動を付加したことにより、周方向せん断応力による転位が周期的に反転して打ち消されることになるため、被加工材における転位密度の上昇を抑制することができ、ねじり力の付加により軸方向圧縮応力を小さくさせることが可能となることとも相俟って、延性破壊を発生させることなく、冷間での塑性加工が可能であると考えた。
【0034】
そして、この考えの下、実験を行ったところ、圧縮(圧縮速度)と両振りねじり振動(回転速度および振幅)を適切に組み合わせた場合、Mg合金のように底面すべりのみにより変形する場合や、Ti合金のように柱面すべりのみにより変形する場合でも、両振りねじり振動の付加によって変形方向を刻々と変化させることができるため、冷間であっても、大きな変形能が得られて、十分な塑性加工が可能であることが確認でき、本発明を完成するに至った。
【0035】
なお、ねじりを付加する圧縮加工についての研究例は、従来も、応力-ひずみ曲線や変形能(割れ性)を評価する材料特性評価試験や、巨大ひずみ導入による金属組織変化を測定する強ひずみ加工試験などが存在しているが、いずれも鍛造加工終了後に一方向ねじりを付加して試験を行っており、本発明のように、鍛造加工中に圧縮変形と同時に両振りねじり振動を付加して圧縮加工を行うものではない。
【0036】
[2]本発明について
本発明は、上記した考え方に基づいて完成されたものであり、以下の特徴を有している。
【0037】
即ち、本発明に係る難塑性加工金属の塑性加工方法(以下、単に「塑性加工方法」ともいう)は、難塑性加工金属を被加工材として、冷間で、圧縮により塑性変形させる塑性加工方法であり、塑性加工に際して、以下の2つの作業を同時に行うことを特徴としている。
【0038】
1つ目の作業は、被加工材を上下方向から圧縮して、被加工材に圧縮力を付加する作業である。そして、2つ目の作業は、被加工材を、被加工材の回転軸を中心として、所定の回転速度、所定の振幅で往復振動させて、被加工材に両振りねじり力による両振りねじり振動を付加する作業である。そして、これらの作業を同時に行うことにより、被加工材を、冷間で塑性変形させて、塑性加工を行う。
【0039】
このように、圧縮力の付加と同時に、繰り返し往復反転する両振りねじり振動を被加工材に付加しながら塑性加工することにより、Mg合金やTi合金などの難塑性加工金属であっても、冷間で、高い変形能で鍛造して塑性加工することができる。
【0040】
[3]実施の形態
以下、本発明の具体的な実施の形態について説明する。
【0041】
1.塑性加工装置
本発明は、被加工材に上下方向から圧縮力を付加すると同時に、圧縮方向とは異なる方向から両振りねじり振動を付加して、塑性加工(鍛造)を行うものであるため、一軸方向からのみ圧縮力を付加する通常のプレス機では、対応することができない。そこで、本実施の形態においては、本実施の形態に係る塑性加工方法の実行に先立って、この塑性加工方法に対応した塑性加工装置を設計・作製した。
【0042】
本発明者は、被加工材を上下ラムの間に挟み込んで上下方向から圧縮する際、同時に、片方のラムを往復振動させれば、被加工材に両振りねじり振動を付加できると考えた。
【0043】
図1は、本実施の形態において使用される塑性加工装置の主要構成部とその動作を説明する模式図である。図1に示すように、本実施の形態において、塑性加工装置は、被加工材を上下方向から挟み込んで、上ラムを下降させることにより被加工材を圧縮できるように、上下2つのラムを備えている。そして、下ラムには、被加工材の回転軸を中心として、下ラムを回転速度ω(°/sec)、振幅α(°)で両振り回転させて、被加工材に両振りねじり振動を付加する両振りねじり振動付加機構(図示せず)が設けられている。
【0044】
なお、上記では、上ラムが上下移動、下ラムが往復振動するとしているが、被加工材を上下ラムで圧縮すると同時に、被加工材を回転させて被加工材に両振りねじり振動を付加することができる限り、上下ラムのいずれか、あるいはいずれもが、上下移動あるいは往復振動してもよい。
【0045】
本実施の形態において、上下ラムに挟み込まれた被加工材を往復振動させて両振りねじり振動を付加する側(本実施の形態においては、下ラム)の圧縮面上には、同じ深さに形成されて等間隔で平行に配置された複数本の直線状の溝の複数組が、互いに所定の角度で交差するように、ローレット溝が形成されていることが好ましい。このようなローレット溝を設けることにより、被加工材が圧縮面上で滑ることが防止できるため、下ラムの回転を確実に被加工材に伝達して、両振りねじり力を付加して、被加工材に両振りねじり振動を付加することができる。
【0046】
ローレット溝は、被加工材の滑りを適切に防止するという観点から、深さ0.2~0.6mm、頂角60~120°、間隔0.4~0.8mm、交差角度60~90°のローレット溝であることが好ましい。
【0047】
なお、従来の端面拘束試験においても、圧縮面に溝を設ける加工を施している場合があるが、この溝は、半径方向への滑りを防ぐために同心円状に設けられるものであり、通常、上記した同じ深さに形成されて等間隔で平行に配置された複数本の直線状の溝の複数組が、互いに所定の角度で交差して、被加工材の周方向の滑りを防止するローレット溝のような溝が設けられることはない。
【0048】
そして、このような塑性加工装置は、従来の塑性成形装置に、ねじり振動付加機構として機能するねじれモーション機構を付加し、対応する処理プログラムの入れ替えなど、比較的簡便な改造で対応することができるため、大きな費用の発生を抑制することができる。また、高温設備や、高圧設備を必要としないため、安全面からも好ましい。
【0049】
2.塑性加工方法
次に、上記した塑性加工装置を用いて行う塑性加工方法について説明する。なお、以下においては、本発明の内容のより具体的な理解を容易にするために、被加工材として、市販のAZ31Bマグネシウム合金(Mg-3mass%Al-1mass%Zn)の押出し棒材から採取した円柱素材を用いて、室温にて塑性加工を行っている例を挙げて説明するが、Ti合金など、他の難塑性加工金属についても、同様に考えることができる。
【0050】
図1に示すように、上ラムと下ラムの間に被加工材を挟み込んだ後、上ラムを-Z方向に、速度v(mm/sec)、ストロークs(mm)で下降させて被加工材を圧縮することにより、被加工材に圧縮変形を付与する。
【0051】
一方、下ラムの圧縮面上には、ローレット溝が設けられており、下ラムをZ軸中心まわりに、回転速度ω(°/sec)、振幅α(°)で両振り回転させる。これにより、圧縮面と被加工材との間にすべりを生じさせることなく、被加工材に両振りねじり力を与えて、両振りねじり振動を付加することができる。
【0052】
なお、ここにおいては、一実施の形態として、被加工材として上記AZ31Bを用い、下ラムの圧縮面上に、深さ:0.4mm、頂角:60°、間隔:0.8mmで、ローレット溝を形成した。そして、速度v:0.005~0.1mm/secで圧縮を開始し、ストロークsが0.3mmに達した後に、圧縮を維持した状態のまま、回転速度ω:0.5rpm、振幅α:3~45°(周波数:0.02~0.25Hz)で、被加工材の中心軸まわりに両振りねじり力を与えて、両振りねじり振動を付加した。
【0053】
このとき、ω/v(°/mm)で表すことができる圧縮速度に対するねじりの比と、s/hで表すことができる割れ(延性破壊)が発生する圧縮率(%)との関係を求めた。結果を図2に示す。なお、図2において、横軸はω/v(°/mm)、縦軸はs/h(%)であり、圧縮のみの場合における結果(破線)と、一方向のみにねじり(55°)を加えた場合における結果を併せて記載している。
【0054】
図2より、ω/vが大きくなるにつれて、s/hが上昇していき、ねじりを付加しない圧縮のみの場合に比べて、両振りねじり振動を付加することにより、最大で約1.8倍にまで向上していることが分かる。
【0055】
併せて、ω/vと、軸方向圧縮応力σ(MPa)との関係を求めた。結果を図3に示す。なお、図3において、横軸はω/v(°/mm)、縦軸はσ(MPa)であり、一方向のみにねじり(55°)を加えた場合における結果を併せて記載している。
【0056】
図3より、ω/vが大きくなるにつれて、σが低下しており、前記したs/hの上昇が、両振りねじり振動の付加による応力・ひずみ状態の変化に起因していることが分かる。
【0057】
この結果は、非加工硬化性の等方性材料を仮定して、rθz座標系においてZ方向に軸方向圧縮応力σとθ方向にせん断応力τZθあるいはτrθが同時に働く場合を考えた場合(なお、τZθ=τrθとして取り扱う)、Z方向、θ方向の塑性ひずみ増分、相当応力、相当ひずみ増分のそれぞれが、流れ則およびMisesの降伏条件式に従うと仮定して得られるσとrω/vとの関係(図4参照)ともよく整合している。
【0058】
即ち、図4では、Z方向に塑性変形させながらθ方向にねじりを付加することにより、Z方向荷重の低減、付加ひずみの増大が示唆されており、図3に示す本実施の形態における結果とよく一致している。そして、塑性加工に伴う被加工材の温度上昇は15℃以下に留まっており、図3に示す軸方向圧縮応力の低下は、被加工材の熱軟化によるものではないことが確認できた。
【0059】
そして、図2図3より、σ(MPa)とω/v(°/mm)とによって、変形能が大きく変化することが分かったため、次に、ねじり付加なし、一方向ねじり付加、両振りねじり振動付加のそれぞれにおける軸方向圧縮応力σ(MPa)とせん断応力τZθ(MPa)との関係を求めた。
【0060】
図5に結果を示す。なお、図5において、横軸は軸方向圧縮応力σ(MPa)、縦軸はせん断応力τZθ(MPa)である。そして、丸がねじり付加なし、四角が一方向ねじり付加、三角が両振りねじり振動付加のデータであり、黒塗りが割れの発生あり、白抜きが割れの発生なしであったことを示している。また、破線は鍛造の限界、一点鎖線は、降伏応力およびせん断降伏応力である。
【0061】
図5より、軸方向圧縮応力σ(MPa)とせん断応力τZθ(MPa)とが、破線と一点鎖線に囲まれた領域の内側であれば、割れ(延性破壊)を発生させることなく塑性加工できることが分かる。そして、ねじり付加なしや一方向ねじり付加の場合には、この領域には殆ど入らない一方で、両振りねじり振動付加の場合には、軸方向圧縮応力σ(MPa)とせん断応力τZθ(MPa)とが、適切なバランスで上記した領域内に留まるため、割れの発生を招くことなく、塑性加工できることが分かる。
【0062】
なお、前記したように、本実施の形態においては、ω/v(°/mm)が大きくなるにつれて、σ(MPa)が減少しs/hが上昇する。このとき、ω/v(°/mm)は、0°より大きければ変形能の向上効果を発揮するが、十分な変形能の向上を図るためには、15°/mm以上であることが好ましい。一方、ω/v(°/mm)は、一定以上大きくなると、変形能の向上が飽和していくため、実用上は、600°/mm以下であることが好ましい。即ち、適切な変形能向上の観点から、ω/v(°/mm)としては、15~600°/mmであることが好ましい。このとき、ωを大きくすると滑りを生じる恐れがあるため、ωは一定の値に維持して、vを減少させることにより、ω/vの増大化を図ることが好ましい。
【0063】
なお、上記においては、底面すべりのみにより変形するMg合金における塑性加工を例に挙げて説明しているが、柱面すべりのみにより変形するTi合金の場合でも同様に考えることができるのは、前記した通りであり、両振りねじり振動付加によって変形方向を刻々と変化させることにより、大きな変形能を得ることができる。
【0064】
そして、本実施の形態に係る塑性加工方法は、上記したように、圧縮と同時に両振りねじり振動を付加するという、従来に比べて極めて簡便な方法であり、稠密六方格子構造の金属材料のほかに、高強度鋼などの難塑性加工金属材料の塑性加工に対しても適用が期待できる。また、鍛造に限定されることなく、軸対称形状の金属材料の圧縮などにも、適用が期待できる。
【0065】
そして、本実施の形態に係る塑性加工方法を用いて塑性加工された金属材料は、その巨視的組織を観察することにより、従来の塑性加工材料と容易、かつ明確に区別することができる。
【0066】
即ち、本実施の形態では、両振りねじり振動を付加して塑性加工を行っているため、被加工材において変形が集中する領域のサイズが従来の塑性加工の場合とは大きく異なる。そして、この違いは、塑性加工された金属材料の巨視的組織を観察したとき、明確に、区別することができるため、この断面組織を観察することにより、使用された塑性加工方法が、従来の塑性加工法か、本実施の形態に係る塑性加工法かを容易に知ることができる。
【0067】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5