(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057831
(43)【公開日】2023-04-24
(54)【発明の名称】炊飯用油脂組成物、飯類、及び飯類の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20230417BHJP
A23L 7/10 20160101ALI20230417BHJP
【FI】
A23D9/00 518
A23L7/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167524
(22)【出願日】2021-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡田 孝宏
(72)【発明者】
【氏名】田中 妙子
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 美由希
【テーマコード(参考)】
4B023
4B026
【Fターム(参考)】
4B023LC05
4B023LE11
4B023LK05
4B023LL04
4B023LP11
4B026DC06
4B026DG04
4B026DG20
4B026DH05
4B026DK10
4B026DX01
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、飯類の粘りを抑制させる炊飯油、さらに、粘りが抑制された飯類、及び粘りが抑制された飯類の製造方法を提供することである。
【解決手段】構成脂肪酸が中鎖脂肪酸であるトリグリセリドを2~14質量%、ポリグリセリン脂肪酸エステルを0.6~4質量%含有し、前記中鎖脂肪酸が、炭素数6~12の直鎖飽和脂肪酸である、炊飯用油脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成脂肪酸が中鎖脂肪酸であるトリグリセリドを2~14質量%、ポリグリセリン脂肪酸エステルを0.6~4質量%含有し、
前記中鎖脂肪酸が、炭素数6~12の直鎖飽和脂肪酸である、炊飯用油脂組成物。
【請求項2】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルが、HLB3~8のポリグリセリン脂肪酸エステルである、請求項1に記載の炊飯用油脂組成物。
【請求項3】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸の50質量%以上が炭素数16~22の不飽和脂肪酸であり、構成ポリグリセリンの重合度が4~12である、請求項1又は2に記載の炊飯用油脂組成物。
【請求項4】
前記中鎖脂肪酸が、炭素数8及び/又は10の直鎖飽和脂肪酸のみから構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の炊飯用油脂組成物。
【請求項5】
炊飯用油脂組成物中の油脂が10℃で液状である、請求項1~4のいずれか1項に記載の炊飯用油脂組成物。
【請求項6】
炊飯用油脂組成物が、米飯用である、請求項1~5のいずれか1項に記載の炊飯用油脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の炊飯用油脂組成物を含有する、飯類。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の炊飯用油脂組成物を、炊飯前の生穀類に対して、0.1~5質量%添加して炊飯することを特徴とする、飯類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飯類の粘りを抑制させる炊飯油、さらに、粘りが抑制された飯類、及び飯類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ご飯のおいしさは、甘味や粘り、ご飯の硬さ等によるものであり、特に粘り等は高い方がよいとされることが多い。しかし、おにぎりやお弁当の白米などのように、低温で食す場合は、ご飯粒そのものが硬くなるだけでなく、ご飯の粘りの影響で、咀嚼時のご飯塊の崩壊性が悪くなり、よりご飯が硬く感じる問題があった。そのため、低温時のご飯の食感を少しでも改善させるために、粘りが少ないものが求められていた。
一方、ご飯のほぐれ性や艶、風味等を改善するために炊飯時に、水につけた生米に食用油を添加することが行われている。これらの十分な効果を得るために、水との親和性が悪い食用油を均一に分散させる必要があり、食用油にポリグリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤を添加する方法(特許文献1)が提案されている。また、構成脂肪酸が中鎖脂肪酸であるトリグリセリドを15~99.9質量%、ポリグリセリン脂肪酸エステルを0.1~3質量%含有する炊飯油(特許文献2)が提案されている。
これらの炊飯油により、飯粒同士の付着が低減されるものの、飯粒同士の付着性とご飯(塊)の粘りは必ずしも一致しないため、直ちにこれらの炊飯油で解決できるものではなかった。
【特許文献1】特開2002-153209号公報
【特許文献2】特開2018-108052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、飯類の粘りを抑制させる炊飯油、さらに、粘りが抑制された飯類、及び粘りが抑制された飯類の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、特定のトリグリセリドとポリグリセリン脂肪酸エステルを特定量含有させることにより、飯類の粘りが抑制されることを見出し、本発明を完成させた。
【0005】
すなわち、本発明は、下記の[1]~[9]を提供する。
[1] 構成脂肪酸が中鎖脂肪酸であるトリグリセリドを2~14質量%、ポリグリセリン脂肪酸エステルを0.6~4質量%含有し、
前記中鎖脂肪酸が、炭素数6~12の直鎖飽和脂肪酸である、炊飯用油脂組成物。
[2] 前記ポリグリセリン脂肪酸エステルが、HLB3~8のポリグリセリン脂肪酸エステルである、[1]の炊飯用油脂組成物。
[3] 前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸の50質量%以上が炭素数16~22の不飽和脂肪酸であり、構成ポリグリセリンの重合度が4~12である、[1]又は[2]の炊飯用油脂組成物。
[4] 前記中鎖脂肪酸が、炭素数8及び/又は10の直鎖飽和脂肪酸のみから構成されている、[1]~[3]のいずれかの炊飯用油脂組成物。
[5] 炊飯用油脂組成物中の油脂が10℃で液状である、[1]~[4]のいずれかの炊飯用油脂組成物。
[6] 炊飯用油脂組成物が、米飯用である、[1]~[5]のいずれかの炊飯用油脂組成物。
[7] [1]~[6]のいずれかの炊飯用油脂組成物を含有する、飯類。
[8] [1]~[6]のいずれかの炊飯用油脂組成物を、炊飯前の生穀類に対して、0.1~5質量%添加して炊飯することを特徴とする、飯類の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、粘りが低減されたご飯を提供することができ、冷えた状態(室温)のご飯類の食感・風味を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に例示説明する。なお、本発明の実施の形態において、A(数値)~B(数値)は、A以上B以下を意味する。なお、以下で例示する好ましい態様やより好ましい態様等は、「好ましい」や「より好ましい」等の表現にかかわらず適宜相互に組み合わせて使用することができる。また、数値範囲の記載は例示であって、「好ましい」や「より好ましい」等の表現にかかわらず各範囲の上限と下限並びに実施例の数値とを適宜組み合わせた範囲も好ましく使用することができる。さらに、「含有する」又は「含む」等の用語は、適宜「本質的になる」や「のみからなる」と読み替えてもよい。
【0008】
[炊飯用油脂組成物]
<油脂>
本発明の炊飯用油脂組成物は、構成脂肪酸が中鎖脂肪酸であるトリグリセリドを炊飯用油脂組成物中に2~14質量%含有する。なお、中鎖脂肪酸は炭素数6~12の直鎖飽和脂肪酸である。中鎖脂肪酸は、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸を例示できるが、融点が低く、液状、もしくは液状になりやすいことから、炭素数6~10の直鎖飽和脂肪酸が好ましい。一方、炭素数が小さい中鎖脂肪酸のトリグリセリドは食後の喉、胃への刺激がみられる人もいるため、炭素数8以上の直鎖飽和脂肪酸が多いことが好ましく、炭素数10以上の直鎖飽和脂肪酸が多いことがより好ましい。トリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸が、炭素数8及び/又は10の直鎖飽和脂肪酸のみから構成されていることが特に好ましい。
【0009】
本発明の炊飯用油脂組成物は、構成脂肪酸が中鎖脂肪酸であるトリグリセリドを炊飯用油脂組成物中に2~14質量%含有するが、同トリグリセリドが2質量%以上であれば、後述のポリグリセリン脂肪酸エステルと共存させることで、粘りが抑制された飯類を得ることができる。また、14質量%以下であれば、粘りが抑制されつつ、適度な粘りを有する飯類を得ることができる。
本発明の炊飯用油脂組成物は、構成脂肪酸が中鎖脂肪酸であるトリグリセリドを炊飯用油脂組成物中に4~14質量%含有することが好ましく、5~12質量%含有することがより好ましく、8~12質量%含有することがさらに好ましい。
【0010】
構成脂肪酸が中鎖脂肪酸であるトリグリセリドは、中鎖脂肪酸とグリセロールとを、脱水縮合させたもの、あるいは中鎖脂肪酸のアルキルエステルとグリセリンをエステル交換したものを用いることができ、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)として市販されているものを用いることができる。また、MCTと同様に、中鎖脂肪酸と炭素数14~22の脂肪酸と、グリセロールとを、脱水縮合させもの、同脂肪酸のアルキルエステルとグリセロールをエステル交換したものを用いることができる。また、少なくとも脱臭工程を経た精製油脂であることが好ましい。
【0011】
本発明の「炊飯用油脂組成物」は、構成脂肪酸が中鎖脂肪酸であるトリグリセリドの含量が上記特定の範囲を満たしている限り、他のどのような油脂原料をさらに含有していてもよく、動植物油を用いることができる。例えば、大豆油、菜種油、綿実油、ヒマワリ油、サフラワー油、コーン油、米油、ゴマ油、オリーブ油、えごま油、亜麻仁油、落花生油、ぶどう種子油、ヤシ油、パーム核油、パーム油等の植物油脂、乳脂、ラード等の動物油脂を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。また、パームオレイン、パームスーパーオレイン、パームミッドフラクション、パームステアリン等の植物油の分別油や、油脂あるいは油脂と脂肪酸低級アルコールエステルを原料にしたエステル交換油等を用いることができる。なお、エステル交換油は、エステル交換後に分別を行ったものも用いることができる。10℃で液状の油脂が好ましく、少なくとも脱臭工程を経た精製油脂であることが好ましい。
【0012】
本発明の炊飯用油脂組成物が植物油を含有する場合、植物油の含有量は、82~97.4質量%が好ましく、85~94.3質量%がより好ましく、86~91.2質量%がさらに好ましい。本発明では、構成脂肪酸が中鎖脂肪酸であるトリグリセリドとポリグリセリン脂肪酸エステルを含有させることで、炊飯による植物油由来の風味劣化を抑えることができる。
【0013】
<ポリグリセリン脂肪酸エステル>
本発明の炊飯用油脂組成物は、ポリグリセリン脂肪酸エステルを0.6~4質量%含有する。この範囲であれば、粘りが抑制されつつ、適度な粘りを有する飯類を得ることができ、さらに飯類の風味も良好である。ポリグリセリン脂肪酸エステルの配合量は、本発明の炊飯用油脂組成物中に、0.7~3質量%含有することが好ましく、0.8~2質量%含有することがより好ましい。
【0014】
本発明の炊飯用油脂組成物で用いるポリグリセリン脂肪酸エステルは、油脂への溶解及び炊飯用油脂組成物の炊飯時の水への分散性の点からHLB3~8であることが好ましい。
なお、HLBとは、親水性疎水性バランス(Hydrophile Lipophile Balance)の略であって、乳化剤が親水性か親油性かを知る指標となるもので、0~20の値をとる。HLB値が小さい程、親油性が強いことを示す。本発明において、HLB値の算出はアトラス法の算出法を用いる。アトラス法の算出法は、
HLB=20×(1-S/A)
S:ケン化価
A:エステル中の脂肪酸の中和価
からHLB値を算出する方法を言う。
【0015】
本発明の炊飯用油脂組成物で用いるポリグリセリン脂肪酸エステルは、炊飯用油脂組成物が液状になりやすいことから、構成脂肪酸の50質量%以上が炭素数16~22の不飽和脂肪酸であることが好ましく、不飽和脂肪酸がオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸であることがより好ましい。酸化安定性の点から、オレイン酸、エルカ酸がより好ましい。例えば、ペンタグリセリンのオレイン酸エステル、デカグリセリンのオレイン酸エステル等を用いることができる。
【0016】
本発明の炊飯用油脂組成物で用いるポリグリセリン脂肪酸エステルは、構成するポリグリセリン部分は、種々の重合度のボリグリセリンを含有することができる。好ましくは、平均重合度として、4以上のポリグリセリン(テトラポリグリセリン)の脂肪酸エステルを用いる。また、平均重合度4~40のポリグリセリンの脂肪酸エステルを用いることが、より好ましく、平均重合度4~12のポリグリセリンの脂肪酸エステルを用いることが、さらに好ましい。
【0017】
本発明の炊飯用油脂組成物は、上記成分以外にも、炊飯用油脂組成物に一般的に配合される原材料を使用することができる。具体的には、例えば、pH調整剤、調味剤、着色料、香料、酸化防止剤、糖類、糖アルコール類、安定剤、乳化剤等を使用することができる。これらの成分の量は、本発明の効果を損なわない限り任意の量とすることができるが、例えば、炊飯用油脂組成物中に10質量%以下含有させることができ、好ましくは0~3質量%、より好ましくは0~1質量%含有させることができる。
【0018】
[飯類及びその製造方法]
本発明の飯類は、前述の炊飯用油脂組成物を含有することを特徴とする。
【0019】
<炊飯前の生穀類>
本発明で用いる生穀類として、米、粟、ひえ、キヌア、麦を用いることができ、通常、米、粟、ひえ、麦は脱穀されている。飯類の粘りを抑制することが、炊飯用油脂組成物の使用目的の一つであることから、粘りを有する生米が50質量%以上の生穀類であることが好ましく、全てが生米であることがより好ましい。生米の種類や産地なども特に制限されない。例えば、ジャポニカ米、インディカ米、ジャバニカ米だけでなく、これらの交配品種等を用いることができる。また、生米の精米度合も特に制限されない。白米だけでなく、玄米、五分づき米、発芽玄米、無洗米なども本発明で用いることができる。
【0020】
<炊飯>
本発明では、前述の[炊飯用油脂組成物]で示した炊飯用油脂組成物を、炊飯前に、生穀類と水に添加する。生穀類と水と炊飯用油脂組成物の添加順序は、特に限定されない。添加後に撹拌してもかまわないが、生穀物が破損することがあるので、強く撹拌しないことが好ましい。
本発明の飯類は、炊飯前の生穀類に対して、0.1~5質量%添加する。この範囲であれば、ほぐれ性や風味が良好な飯類を得ることができる。より好ましくは、0.3~2質量%であり、より好ましくは、0.5~1.5質量%である。
炊飯時の、水量、加熱温度、加熱時間等は通常の炊飯と同様に行う。
【実施例0021】
次に、実施例、比較例及び参考例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。また。以下において「%」とは、特別な記載がない場合、質量%を示す。
【0022】
[炊飯用油脂組成物(組成物1~10)]
菜種サラダ油(日清オイリオグループ株式会社製)、MCT(日清オイリオ株式会社製:カプリル酸:カプリン酸=75:25のトリグリセリド)、A-173E(「サンソフトA-173E」太陽化学株式会社製:トリオレイン酸ペンタグリセリン HLB7)、O-50D(「リョートーポリグリセルテルO-50D」三菱ケミカル株式会社製:ペンタオレイン酸デカグリセリン HLB7)を表1の配合にてブレンドし、組成物1~10を得た。
<炊飯試験>
精白米を、精白米の1.4倍質量の水中で1時間浸漬させた。浸漬後、精白米100質量部に対して、1質量部の組成物を加えて、撹拌した。その後、電気炊飯器(パナソニック株式会社製「SR-FC107」)で炊きあげ、米飯をバットに移して、軽くほぐし、真空冷却器で30℃まで冷却し、さらに20℃で3時間放冷し評価サンプルを得た。
<物性測定>
評価サンプルを、食感測定器(有限会社タケトモ電機製「テンシプレッサーLite 」)を使用し、粘り、付着性の測定を行った。評価サンプル10gを食感測定器付属のシャーレ(Φ: 42 mm)に詰め、食感測定器付属の米飯成型治具を用いて成形した。食感測定器付属の円柱プローブ(接触面積2.5 cm2)、「米飯2×3測定解析」プログラムを使用し、「粘り」及び「付着」の測定を行った。測定は3回行い、平均値を表1に示した。
なお、「粘り」は数値が高いほど、粘りが強いことを示し、「付着」は数値が高いほど付着性が強いことを示す。
【0023】
<官能評価>
評価サンプルを、フレーバープロファイル法(5名の訓練されたパネルが、試食評価を行った後に意見を交換し、合議して総合評価を行う方法)により評価を実施した。評価内容は下記の通りであり、結果を表1に示した。
(粘り)
評価は1~5点とし、1点を最も粘りが強い米飯塊、5点を最も粘りが少ない米飯塊とした。また、評価点が3点以上は、適切な粘りを有する米飯塊と判断できるものとした。
(味)
異味を感じなかったものを〇、異味を感じたものを×とした。
【0024】
【0025】
表1の結果から明らかであるように、構成脂肪酸が中鎖脂肪酸であるトリグリセリドとポリグリセリン脂肪酸エステルを一定量含む、実施例1~6は、粘りが低減され、風味も良好であった。なお、「粘り」と「付着」の比較から、両者に必ずしも相関があるわけではないことが確認された。