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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057912
(43)【公開日】2023-04-24
(54)【発明の名称】アルミニウム合金板加工方法
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/043 20060101AFI20230417BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20230417BHJP
   B21D 22/20 20060101ALI20230417BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20230417BHJP
【FI】
C22F1/043
C22C21/02
B21D22/20 H
C22F1/00 623
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692B
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/00 692A
C22F1/00 681
C22F1/00 684C
C22F1/00 685A
C22F1/00 686A
C22F1/00 691A
C22F1/00 630K
C22F1/00 602
C22F1/00 630A
C22F1/00 611
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167665
(22)【出願日】2021-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 隆
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA13
4E137AA17
4E137AA23
4E137BA05
4E137BA09
4E137BB01
4E137CA09
4E137CA21
4E137DA03
4E137DA10
4E137DA11
4E137DA15
4E137EA26
4E137EA36
4E137FA02
4E137FA15
4E137GB02
(57)【要約】
【課題】Siを含むアルミニウム合金板材のホットスタンプ加工技術を提供する。
【解決手段】重量比で、5%以上11%未満のSiを含むアルミニウム合金を原料としたアルミニウム合金板を350℃以上580℃未満の温度で10分以内の時間保持する加熱工程と、前記アルミニウム合金板を金型に供給してプレス加工し、当該プレス加工の下死点で前記アルミニウム合金板を100℃以下に冷却するプレス加工工程とを含み、前記アルミニウム合金板の厚さは1.5mm以上5mm未満である、アルミニウム合金板加工方法とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量比で、5%以上11%未満のSiを含むアルミニウム合金を原料としたアルミニウム合金板を350℃以上580℃未満の温度で10分以内の時間保持する加熱工程と、
前記アルミニウム合金板を金型に供給してプレス加工し、当該プレス加工の下死点で前記アルミニウム合金板を100℃以下に冷却するプレス加工工程とを含み、
前記アルミニウム合金板の厚さは1.5mm以上5mm未満である、
アルミニウム合金板加工方法。
【請求項2】
アルミニウム合金による鋳物を原料としたアルミニウム合金板を350℃以上580℃未満の温度で10分以内の時間保持する加熱工程と、
前記アルミニウム合金板を金型に供給してプレス加工し、当該プレス加工の下死点で前記アルミニウム合金板を100℃以下に冷却するプレス加工工程とを含み、
前記アルミニウム合金板の厚さは1.5mm以上5mm未満である、
アルミニウム合金板加工方法。
【請求項3】
前記アルミニウム合金板は、重量比で、5%以上11%未満のSi、0.2%以上0.6%未満のMg、0.01%以上2.0%未満のCuを含む、
請求項1または2に記載のアルミニウム合金板加工方法。
【請求項4】
前記アルミニウム合金板は、100ppm未満のP、または、100ppm未満のNaを添加されている、
請求項3に記載のアルミニウム合金板加工方法。
【請求項5】
前記アルミニウム合金板は、前記アルミニウム合金を、溶解、鋳造し、400℃以上530℃未満の温度で均質化熱処理、300℃以上400℃未満の温度で2mm以上8mm未満の厚さにする熱間圧延処理、1.5mm以上5mm未満の厚さにする冷間圧延処理を行うことにより製造される、
請求項1から4のいずれか1項に記載のアルミニウム合金板加工方法。
【請求項6】
前記金型に、前記アルミニウム合金板の面積100cm当たり10mg以上3000mg未満の量でミスト状の水または水溶性潤滑剤を噴霧する噴霧工程を含み、
前記プレス加工工程における下死点保持時間は1秒以上5秒未満である、
請求項1から5のいずれか1項に記載のアルミニウム合金板加工方法。
【請求項7】
前記プレス加工工程後、前記アルミニウム合金板を190℃以上250℃未満の温度で5分以上60分以内の時間保持するベーキング工程を含む、
請求項1から6のいずれか1項に記載のアルミニウム合金板加工方法。
【請求項8】
前記プレス加工工程後、前記アルミニウム合金板を150℃以上180℃未満の温度で5時間以上20時間以内の時間保持するベーキング工程を含む、
請求項1から6のいずれか1項に記載のアルミニウム合金板加工方法。
【請求項9】
前記金型は、凸側に逃げ角の付与、または、メッキ加工が施される、
請求項1から8のいずれか1項に記載のアルミニウム合金板加工方法。
【請求項10】
前記プレス加工工程後、前記アルミニウム合金板の一部に力を印加して、前記金型から前記アルミニウム合金板を離脱させる離脱工程を含む、
請求項1から9のいずれか1項に記載のアルミニウム合金板加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金板加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミ(アルミニウム合金)板材は、鋼板製品等の軽量化代替材として有効であり、例えば、自動車部品としても使用されている。アルミ板材のプレス品用途としては、フード、トランク、フェンダ、ドア等の外板製品がある。また、アルミ板材の車載用内部製品用途としては、放熱性のための、エンジン回りの熱交換器部材(ラジエータ等)、ヒートインシュレータ等がある。アルミ板材の内部製品用途としては、これら以外はあまり採用されていない。アルミ板材は、鋼板に比べて成形性が大幅に劣る他、同じ剛性を得るためには板厚をかなり厚くすることが求められる。
【0003】
また、アルミニウム合金の製品として、エンジン関係部品(アルミ鋳造品)および制御・機能集約用のケース類(アルミダイガスト品)が挙げられる。これらはアルミ溶湯を型に入れて成型するもので、複雑形状と一体成型を得意とする。使用されているアルミ合金は4000系のAl-Si材であり、加工に用いられる展伸材(1000系、2000系、3000系、5000系、6000系、7000系)とは要求される材料特性が異なる。鋳造用アルミ合金では溶湯の流動性が重要であり、高Si成分が特徴である。鋳物合金の代表例としてAC4Aが、ダイカスト合金としてADC12が挙げられる。鋳造技術は、大物、小物を問わず量産性に優れる。しかし、例えば、ダイガスト品(ADC12)でと鋳造品であることに起因する課題(内部材料欠陥:引け巣等、寸法精度:切削加工必要)の他、アルミ合金中のCu添加(強度確保)に伴う耐食性の劣化といった課題がある。
【0004】
一方、自動車業界では、電動車(PHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle)、E
V(Electric Vehicle)等)、自動運転(各種センサ搭載)、安全性確保等の観点から、マルチマテリアル化による車両全体の軽量化がすすめられている。さらに、近年では、カーボンニュートラルの推進が求められ、材料自身の素性も重要となる。すなわち、材料として、製造に大量の電力を消費する新地金が使用されるのか、大量の電力を消費しないリサイクル品が使用されるのかが重要となる。車体重量の大半を占める鋼板においては、従来のプレス(冷間)技術に加えて、ホットスタンプ技術の採用が顕著になっている。ホットスタンプ技術は、特に搭乗者保護向けキャビン用構造部品(鋼板の超ハイテン材)に適用されつつある。しかしながら、アルミニウム合金板のホットスタンプ技術については展示会で試作品として認められるが、いずれも実用化をイメージされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-92895号公報
【特許文献2】特開2016-211999号公報
【特許文献3】特許5681631号公報
【特許文献4】特開平9-78210号公報
【特許文献5】特願2002-80887号公報
【特許文献6】特開平9-78210号公報
【特許文献7】特願平6-203720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年の世界情勢で地球温暖化防止を目的に、カーボンフリー化が望まれている。自動車
部品の多くは原料、材料および加工の段階で多くのエネルギーを必要とする。CO2排出量は発電の種類(火力、水力、原子力、太陽光・風力等)により変化するが、将来的(2050年以降)には再生可能エネルギーの使用が望ましく、カーボンフリー化には化石燃料からの転換が重要になる。とは言え、当面は原料(材料)に起因するCO2削減に有効なリサイクル、リユースの推進、また製造工程では化石燃料の使用量低減、部品製造では加工および熱処理の時間短縮が求められる。
【0007】
日本国内のアルミ材料は、輸入されたアルミ新地金(7V地金:99.7%Al)を多用して、顧客ニーズにマッチした材料(成分、強度等)を製作したものである。その中で、飲料用缶材およびダイカスト材ADC12は、上手くリサイクルされている製品である。その他の用途材も無駄なく再生されているものの、新地金の使用比率が高いため、CO2削減には更なる改善活動が求められる。
【0008】
ところで、近年のカーボンニュートラル(2050年目標)化におけるアルミ材料を鑑みると、アルミ新地金は、莫大なエネルギーで製造されるため、多くのCO2を排出する。このため、アルミ新地金の使用を控えることが望ましい。アルミ製品のリサイクル或いはリユースの促進が非常に重要となる。アルミ製品の再利用は、新地金製造に対して約3%のエネルギーで済むので、省エネルギーには勿論、LCA(Life-Cycle Assessment)
および将来のカーボンニュートラル化に有効である。
【0009】
そのような中、自動車の電動化(特にEV(Electric Vehicle)、FCV(Fuel Cell Vehicle))は、2030年以降、急激に拡大することが予測される。一方、エンジン搭
載車は激減していくことが予想される。エンジン搭載車のエンジン部品にはアルミ鋳物製が多く、エンジン搭載車の廃車から出てくるアルミ鋳物(アルミニウム合金の鋳物)の行き場所(用途、その加工法)は今後の課題である。特に、アルミ鋳物は、主に、Si成分量の多い(例えば、重量比で5%以上)4000系アルミニウム合金であり、展伸材(1000系、2000系、3000系、5000系、6000系、7000系アルミニウム合金)への転換が難しい。展伸材同士であれば、同種の展伸材(成分調整:スクラップ及び少量の新地金)に戻すことが容易にできる。鋳物材を展伸材に戻す場合には多量の新地金及び展伸材屑でSi成分を薄める手法が考えられ、CO2削減効果は少ない。アルミ鋳物を、多量の新地金を用いることなく、展伸材として使用できることが望ましい。
【0010】
本発明は、Siを含むアルミニウム合金板材のホットスタンプ加工技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、以下の手段を採用する。
即ち、第1の態様は、
重量比で、5%以上11%未満のSiを含むアルミニウム合金を原料としたアルミニウム合金板を350℃以上580℃未満の温度で10分以内の時間保持する加熱工程と、
前記アルミニウム合金板を金型に供給してプレス加工し、当該プレス加工の下死点で前記アルミニウム合金板を100℃以下に冷却するプレス加工工程とを含み、
前記アルミニウム合金板の厚さは1.5mm以上5mm未満である、
アルミニウム合金板加工方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、Siを含むアルミニウム合金板材のホットスタンプ加工技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、プレス加工装置の金型の構成例を示す図である。
図2図2は、金型100の下型ダイセット122に設けられる冷却用水路150、熱電対設置孔160の例を示す図である。
図3図3は、プレス加工装置の金型の構成例を示す図である。
図4図4は、アルミニウム合金板のホットスタンプ加工方法の動作フローの例を示す図である。
図5図5は、4000系アルミニウム合金板と6000系アルミニウム合金板の強度及び成形性を示す図である。
図6図6は、4000系アルミニウム合金板と6000系アルミニウム合金板との、時効処理による強度特性の例を示す図である。
図7図7は、4000系アルミニウム合金板の、短時間ベーキング処理による強度特性の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して実施形態について説明する。実施形態の構成は例示であり、発明の構成は、開示の実施形態の具体的構成に限定されない。発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。
【0015】
〔実施形態〕
(構成例)
図1は、プレス加工装置の金型の構成例を示す図である。金型100は、上型110、下型120を含む。上型110は、上型ダイセット111、上型シワ押さえ部112、ポンチ113を含む。下型120は、下型シワ押さえ部121、下型ダイセット122を含む。ここで、図1は、金型100を正面から見ている図である。図1の左から右への方向をx方向、紙面の表面から裏面への方向(金型100の正面から裏面への帆方向)をy方向、下から上への方向(下型ダイセット122から上型ダイセット111への方向)をz方向とする。上型ダイセット111及び下型ダイセット122は、プレス成形装置に固定される。上型シワ押さえ部112、ポンチ113は、上型ダイセット111に固定される。ポンチ113は、加工対象のアルミニウム合金板200を所定の形状に変形させる。ポンチ113の先端(下型120側)の形状は、例えば、錐形状、柱形状、または、任意の形状である。上型シワ押さえ部112、下型シワ押さえ部121は、加工対象のアルミニウム合金板200のしわの発生の抑制をする。下型シワ押さえ部121は、下型ダイセットに固定される。下型120は、上型110に対向して配置される。下型シワ押さえ部121の上には、加工対象となるアルミニウム合金板(供試材)200がセットされる。上型ダイセット111は、熱電対310を設置するための熱電対設置孔140を有する。また、下型ダイセット122は、冷却用冷媒を流す冷却用水路150、熱電対320を設置するための熱電対設置孔160を有する。冷却用水路150には、流入口及び流出口が設けられ、当該流入口から金型100を冷却するための水などの冷媒が導入され、当該流出口から排出される。熱電対設置孔140、熱電対設置孔160には、熱電対310、熱電対320が設置され、金型100の温度を測定する。金型100の材料は、例えば、鋼材(工具鋼、ハイス鋼、超鋼など)である。ここでは、縮みフランジ変形を抑制するためのシワ押さえ制御機構を必要としない。金型100の構成は、ここに記載されるものに限定されるものではない。
【0016】
上型110(または下型120)が、プレス加工装置の動作により上下方向に上死点と下死点との間を往復運動することで、上型110と下型120とが近づいたり遠ざかったりする。上型110と下型120とが近づいた際に、ポンチ113がアルミニウム合金板200に押し当てられ、アルミニウム合金板200が変形することによりプレス加工される。また、プレス加工装置は、水または水溶性潤滑剤をミスト状にして、金型100の上型110および下型120に向けて噴霧する金型用スプレー噴霧器を備える。金型用スプ
レー噴霧器は、加工対象のアルミニウム合金板が金型100にセットされる前に、上型110および下型120に、所定量のミスト状の水または水溶性潤滑剤を噴霧する。
【0017】
絞り加工(縮みフランジ変形)では、金型100が、シワ押さえをスプリング等によりアルミニウム合金板200に押しつける制御をするシワ押さえ制御機構を有することが一般的である。しかし、シワ押さえ制御機構を使用すると、プレス加工時にアルミニウム合金板200とシワ押さえ制御機構とが接触してアルミニウム合金板200の温度を低下させ成形性低下を招くことがある。ここでは、シワ押さえ制御機構は使用されない。即ち、下型120のシワ押さえ部121の接触部は極力低減し、ポンチ113の受け形状が下型120に存在する。
【0018】
金型100の材料として、例えば、アルミニウム合金(例えば、5000系、7000系)、工具鋼(例えば、SKD61等)、ハイス鋼、または、超鋼などの鋼材が使用される。5000系アルミニウム合金は、コスト面に優れる。7000系アルミニウム合金は、強度面に優れる。金型100の材料は、加工製品の要求特性等に応じて選択され得る。アルミニウム合金、工具鋼、ハイス鋼、超鋼の鋼材は、金型100の表層部(加工表面)にのみ使用されてもよい。金型100の表面は、研磨面のままでもよいが、アルミニウム合金板200の凝着防止のために、高硬度のクロムメッキ、ニッケルメッキ等のメッキ加工を施し、金型100の表面に低摩擦係数となる被膜を形成させることが望ましい。例えば、5-10μmの被膜厚の無電解ニッケルメッキとすることが望ましい。金型100に対するメッキ加工の方法として、電解、無電解、溶射等の方法があるが、金型100のサイズなどにより適宜、適切な方法が採用され得る。金型100は、鋼材金型の一例である。工具鋼、ハイス鋼、超鋼などの鋼材は、アルミニウム合金と比べて、低熱伝導率であるが、加工容易であり、低コストである。
【0019】
また、プレス加工装置の近傍には、アルミニウム合金板用スプレー噴霧器が備えらえる。アルミニウム合金板用スプレー噴霧器は、プレス加工後のアルミニウム合金板(成型品)に、所定量のミスト状の水または水溶性潤滑剤を噴霧する。
【0020】
図2は、金型100の下型ダイセット122に設けられる冷却用水路150、熱電対設置孔160の例を示す図である。下型ダイセット122は、直方体形状を有する。冷却用水路150は、第1部分151、第2部分152、第3部分153を有する。
【0021】
図2の例では、下型ダイセット122の右側の側面に、冷却用水路150の流入口および流出口、熱電対投入口が設けられる。冷却用水路150の第1部分151は、流入口からx方向に平行に伸びる円筒形の水路である。冷却用水路150の第2部分152は、第1部分151の流入口側の端とは反対側の端に接続され、y方向に平行に伸びる円筒形の水路である。冷却用水路150の第3部分153は、第2部分152の第1部分151と接続する端とは反対側の端に接続され、x方向に平行に流出口まで伸びる円筒形の水路である。冷却用水路150の流入口、流出口には、例えば、ホースやパイプなどが接続される。水などの冷媒が、冷却用水路150の流入口から導入され、第1部分151、第2部分152、第3部分153を通り、流出口から排出されることで、下型ダイセット122が冷却される。冷却用水路150の流入口、流出口には、例えば、ホースやパイプなどが接続される。下型ダイセット122が冷却されることで、下型シワ押さえ部121を含む下型120が冷却される。また、プレスの際に下型120と接触する上型110も冷却され得る。冷却用水路150の直径は、例えば、下型ダイセット122の厚さ(z方向の長さ)が50mmであるとき、10mmである。
【0022】
熱電対設置孔160は、下型ダイセット122の右側の側面に設けられる熱電対挿入口から、x方向に平行に伸びる円筒形の孔である。熱電対設置孔160は、下型ダイセット
122の中央付近まで伸びる。熱電対設置孔160には、熱電対320が熱電対挿入口から挿入される。熱電対320の測温接点(温度を計測する部分)は、熱電対設置孔160内で、下型ダイセット122の中央付近に配置される。熱電対設置孔160に挿入された熱電対320により、金型100の下型ダイセット122の温度を測定することができる。
【0023】
冷却用水路150、熱電対設置孔160の形状は、ここに記載したものに限定されるものではなく、金型100などの形状等に合わせて適宜変更され得る。また、複数の冷却用水路が設けられてもよい。また、複数の熱電対設置孔が設けられ、複数の位置で温度が測定されてもよい。上型ダイセット111に設けられる熱電対設置孔160、熱電対310についても、下型ダイセット122に設けられる熱電対設置孔160、熱電対320と同様である。熱電対310、熱電対320の代わりに、サーミスタ、測温抵抗体、サーモカメラ等が使用されて、金型100の温度が測定されてもよい。冷却用水路150に冷媒が流されることで、金型100が冷却され、金型100にセットされたアルミニウム合金板200が冷却される。
【0024】
図3は、プレス加工装置の金型の構成例を示す図である。図3の金型100では、上型ダイセット111に、下型ダイセット122の冷却用水路150と同様の冷却用水路130が設けられる。図3の金型100の他の構成については、図1の金型100と同様である。上型ダイセット111、及び、下型ダイセット122に、冷却用水路が設けられることで、金型100をより適切に冷却することができる。冷却用水路130に流される冷媒の量は、冷却用水路150に流される冷媒の量と同様である。
【0025】
(アルミニウム合金板の製造方法)
ここで、本実施形態のホットスタンプ加工方法において使用するアルミニウム合金板の製造方法について説明する。ここで使用するアルミニウム合金板は、例えば、4000系アルミニウム合金による鋳物(鋳物製品)のスクラップ等を原料とする。アルミニウム合金による鋳物は、高温で溶かしたアルミニウム合金を、型の空洞部分に流し込み、冷やし固めたものである。
【0026】
4000系アルミニウム合金(Al-Si系合金)は、アルミニウムに主にシリコン(Si)を添加したアルミニウム合金である。ここで使用する4000系アルミニウム合金は、例えば、重量比で、5%以上11%未満のSiを含むアルミニウム合金である。5%未満のSiを含むアルミニウム合金は、Si添加成分の固溶体強化に加え、Al-Mg-Si系、Al-Cu-Mg-Si系による析出硬化が少ない。11%以上のSiを含むアルミニウム合金は、圧延性が低いため、耳割れ、圧延破断しやすい。よって、5%以上11%未満のSiを含むアルミニウム合金は、アルミニウム合金板にした際の、圧延性、強度特性の面で好ましい。また、ここで使用する4000系アルミニウム合金は、例えば、重量比で、5%以上11%未満のSi、0.6%未満のMn、0.6%未満のMg、2.0%未満のCuを含むアルミニウム合金であってもよい。また、ここで使用する4000系アルミニウム合金は、例えば、重量比で、5%以上11%未満のSi、0.2%以上0.6%未満のMn、0.2%以上0.6%未満のMg、0.05%以上2.0%未満のCuを含むアルミニウム合金であってもよい。Mn、Mgは、アルミニウム合金の強度向上に寄与する。MnまたはMgの量が0.2%未満では、強度向上の効果が小さい。MnまたはMgの量が0.6%以上では、Al-Mn系、Al-Fe-Mn-Mg系の化合物および巨大化合物の形成が促され、加工時の割れ発生が促進される。よって、0.2%以上0.6%未満のMn、0.2%以上0.6%未満のMgが好ましい。Cuは特に強度向上に有効な元素である。0.05%未満のCuでは、強度向上の効果が少ない。2.0%以上のCuでは、耐食性の低下、割れ感受性の過剰な促進、成形後の遅れ破壊が招かれる。よって、0.05%以上2.0%未満のCuが好ましい。4000系アルミニウム合金は
、これに限定されるものではない。各アルミニウム合金は、ここに示した元素以外の元素を含む場合がある。例えば、Fe、Zn、Ti等が含まれ得る。Fe、Zn、Ti等は、成形性に悪影響しない範囲で許容される。例えば、Feは、Al-Fe系巨大化合物形成による成形性低下防止のため、0.3%未満とする。Znは、Al-Zn-Mg系析出物による析出硬化抑制し、応力腐食割れ防止のため、0.5%未満とする。Tiは、巨大化合物形成の核低減のため、0.10%未満とする。アルミニウム合金による鋳物のJIS成分規格には、用途に応じてAC1BからAC9Bまでが存在する。これらは、4000系アルミニウム合金の例である。
【0027】
原料のアルミニウム合金(例えば、4000系アルミニウム合金による鋳物製品)を溶解、鋳造して、スラブが生成される。この際、脱ガス処理、介在物除去処理が行われる。脱ガス処理は、アルミニウム合金を溶解した溶湯の中に含まれる水素ガス等を除去する処理である。介在物除去処理は、溶湯の中に含まれる酸化物、炭化物、窒化物等の介在物を除去する処理である。溶湯の中に介在物が含まれると、鋳造性の悪化などの問題が生じる。また、鋳造されたスラブに対して、偏析部除去処理が行われる。偏析部除去処理は、スラブから、鋳造の際に生じる不均質な偏析部を除去する処理である。また、鋳造の際、100ppm未満の量のPまたはNaが添加されてもよい。PまたはNaが添加されることで、アルミニウム合金の鋳造組織が微細化される。
【0028】
次に、偏析部除去処理をされたスラブに対して、400℃以上530℃未満の温度で均質化熱処理が行われる。均質化熱処理は、鋳造で得られたスラブにおける原子の不均一分布を解消する処理である。400℃未満の均質化熱処理では、鋳造組織が残存し、熱間圧延時の耳(端)割れ、冷間圧延時の成形性低下を招く。530℃以上の均質化熱処理では、スラブ表面にバーニングが発生し、アルミニウム合金板表面に焼き付き等の表面欠陥が発生する。よって、均質化熱処理は、400℃以上530℃未満の温度で行われることが好ましい。さらに、均質化熱処理が行われたスラブは、熱間圧延処理により、2mm以上8mm未満の板厚のホットコイルとなる。ホットコイルは、熱間圧延処理により生成されたアルミニウム合金板をコイル状に巻き取ったものである。この際、巻き取り温度は、300℃以上400℃未満とする。2mm未満の板厚は、巻き取り時に内外面での擦れが生じて疵(きず)発生の原因となる。8mm以上の板厚は、巻き緩みによる疵発生の原因となる。よって、ホットコイルの板厚は2mm以上8mm未満とすることが好ましい。なお、巻き取り温度300℃未満では、再結晶が不十分である。巻き取り温度400℃以上では、固溶強化が高くなり、変形抵抗力の変化がもたらされる。不適切な巻き取り温度は、変形抵抗力の変化を招き、疵発生の原因となる。よって、巻き取り温度は、300℃以上400℃未満とすることが好ましい。
【0029】
この後、300℃以上400℃未満の粗鈍が行われて、冷間圧延処理にて1.5mm以上5mm未満の厚さのアルミニウム合金板が製造される。冷間圧延処理は、例えば、常温(例えば、0℃以上150℃未満)で行われる。冷間圧延処理は、熱間圧延処理よりも低い温度で行われる。粗鈍は、冷間圧延処理時の耳(端)割れ防止に繋がる。粗鈍は、アルミニウム合金板を軟質化する温度として300℃以上400℃未満で行われることが適正である。例えば、熱間圧延温度が300℃を超えている場合には、粗鈍は、行われなくてもよい。冷間圧延処理の後、330℃以上400℃未満の仕上げ焼鈍、歪矯正が行われてもよい。330℃以上400℃未満の仕上げ焼鈍が行われることで、アルミニウム合金板の強度が安定し、残存応力が低減する。
【0030】
(動作例)
図4は、アルミニウム合金板のホットスタンプ加工方法の動作フローの例を示す図である。アルミニウム合金板は、加工対象のアルミニウム合金の板である。アルミニウム合金板は、例えば、上記の方法により製造された4000系アルミニウム合金板である。ここ
では、アルミニウム合金板は、プレス加工のために適切な大きさの切板に加工されている。ここでは、プレス加工装置に金型100がセットされ、金型100の冷却用水路150には、冷媒が流されているとする。冷却用水路150には、3L(リットル)/分から15L/分の量の冷媒としての水が供給されているとする。金型100がアルミニウム合金である場合、例えば、3L/分-10L/分の供給量が適正である。金型100が工具鋼などの鋼材である場合、例えば、7L/分-15L/分の供給量が適正である。プレス加工中において、冷媒により、金型100の内部温度及び表面温度が、100℃以下に維持される。金型100の内部温度及び表面温度が、100℃以下になるように、熱電対310、熱電対320で測定される金型100の温度に応じて、冷却用水路150に供給される冷媒の量が調整されてもよい。100℃を超えると、加工対象のアルミニウム合金板200において、Si、Mg、Cuの固溶量が減少し、また、アルミニウム合金板200の冷却時間が長くなり生産性の低下を招く。例えば、熱電対310、熱電対320で測定される温度が高いほど、冷却用水路150に供給される冷媒の量を多くする。ミスト噴霧により、金型100が十分冷却される場合には、冷却用水路150による冷却が行われなくてもよい。
【0031】
S101では、電気ヒータ炉(電気炉)、誘導加熱炉、赤外線加熱炉などの加熱炉により、加工対象のアルミニウム合金板200に対して、450℃以上560℃未満の到達温度で10分未満の保持時間で加熱を行う。すなわち、加熱炉で、アルミニウム合金板200に対して、アルミニウム合金板200の温度を到達温度に上昇させた後、さらに、当該到達温度で10分未満の保持時間、加熱を行う。加熱の際、アルミニウム合金板200内の各位置の温度の温度差は、最大で40℃以内になることが望ましい。また、加熱の際、50℃/分以上の加熱速度であることが望ましい。加熱速度は、材料組織(結晶粒)に影響し、50℃/分未満では、結晶粒成長による成形性の低下、加工表面の肌荒れを招くほか、生産性の低下につながる。一方、材料内の温度分布の幅が大きいと強度ばらつきが大きくなるので、アルミニウム合金板200内の各位置の温度の温度差を40℃以内にすることが望ましい。また、アルミニウム合金板の厚さは、例えば、1.5mm以上5mm未満である。到達温度は、アルミニウム合金の種類によって変更され得る。
【0032】
到達温度は、450℃-560℃であることが好ましい。到達温度が450℃未満では、アルミニウム合金板の添加成分の固溶が不十分であり、高強度化が難しい。また、到達温度が560℃以上では、合金添加元素によってバーニング(表面溶解)が生じるため、好ましくない。到達温度での保持時間は60分以上でもよいが、到達温度での保持時間が長いと生産性が大幅に低下するので、到達温度での保持時間は60分未満が望ましい。特に、到達温度が500℃-560℃である場合、保持時間はより短時間であることが好ましく、10分以内であっても十分である。また、到達温度が500℃-560℃である場合、成形性、強度の向上に貢献する。保持時間が短いほど、生産性の向上、省エネルギーに寄与する。また、アルミニウム合金板の厚さが薄い(例えば、3mm未満)場合、到達温度での保持時間は1分未満であっても問題なく、できるだけ短くすることが望ましい。アルミニウム合金板の厚さが1.5mm未満では、搬送時等に変形が生じやすいため好ましくない。また、アルミニウム合金板の厚さが5mm以上でも、当該加工は可能であるが、押出し型材など他の方法の方が使い勝手がよい。また、アルミニウム合金板の厚さが5mm以上では、プレス加工前の加熱やプレス加工後の冷却に時間を要し、生産性が低下する。よって、ここでのアルミニウム合金板200の厚さは、1.5mm以上5mm未満であることが好ましい。
【0033】
S102では、プレス加工機の金型用スプレー噴霧器は、金型100の上型110および下型120に向けて、ミスト状の水または水溶性潤滑剤を噴霧する。金型用スプレー噴霧器は、上型110、下型120に対して、加工対象のアルミニウム合金板200の面積100cm当たり10mg以上の量のミスト状の水または水溶性潤滑剤を噴霧する。金
型用スプレー噴霧器によるミスト状の水または水溶性潤滑剤の噴霧は、金型100に加工対象のアルミニウム合金板200がセットされる前に行われる。噴霧量が、加工対象のアルミニウム合金板200の面積100cm当たり10mg未満では、冷却能力および潤滑性能が不足し、金型100へのアルミニウム合金板200の凝着を招く。また、噴霧量が、加工対象のアルミニウム合金板200の面積100cm当たり3000mg以上では、十分に冷却されるものの、金型100内に水または水溶性潤滑剤が過剰となる。金型100内に水または水溶性潤滑剤が過剰となると、金型100から液体(水または水溶性潤滑剤)を抜く水抜き作業が求められ、作業性悪化、品質低下を招く。また、過剰な量の噴霧は、アルミニウム合金板200の温度むらによる強度ばらつきの原因となる。よって、噴霧量は、加工対象のアルミニウム合金板200の面積100cm当たり10mg以上3000mg未満が好ましい。例えば、冷却された金型100にて十分な冷却が得られる場合には、ミスト噴霧による冷却は、行われなくてもよい。金型用スプレー噴霧器によるミストの噴霧は、アルミニウム合金板200の冷却に効果的である。噴霧量は、アルミニウム合金板200の板厚が大きいほど、多くすることが好ましい。
【0034】
S103では、S101で加熱したアルミニウム合金板200を、加熱炉から取り出して、速やかに(例えば、5秒以内に)、プレス加工装置の金型100の下型シワ押さえ部121の上にセットする。アルミニウム合金板の加熱炉からの取り出し及び金型100へのセットは、例えば、周知のロボット等により行われる。当該ロボットは、例えば、アルミニウム合金板200を把持するアームを有し、所定時間加熱されたアルミニウム合金板200を加熱炉から取り出し、金型100に移動させる。また、当該ロボットは、プレス加工されたアルミニウム合金板200を金型100から取り出してもよい。
【0035】
S104では、プレス加工装置において、金型100の上型110を下死点まで移動させて、ポンチ113及び上型シワ押さえ部112をアルミニウム合金板200に接触させることで、アルミニウム合金板200を所定の形状に変形加工(プレス加工)させる。ここで、アルミニウム合金板200に加工した後の絞り加工の成形品の高さは、40mm未満であることが好ましい。ここではシワ押さえ制御機構を使用しないため、成形品の高さが40mm以上になると、フランジ部しわに伴う材料流入不足が生じる。ここで、縮みフランジ加工により得られる、成形品の高さとは、例えば、成形方向、すなわち、プレス加工における加工後のプレス方向での加工品の寸法をいう。よって、成形品の高さが40mm以上では、成形品にくびれ等が顕在化し製品性能を満足しないことがある。
【0036】
S105では、金型100の上型110を下死点で維持して、アルミニウム合金板200を200℃以下まで冷却する。例えば、上型110を下死点で1-5秒間維持すること(下死点保持時間1秒-5秒)で、アルミニウム合金板200が100℃以下まで冷却される。下死点保持時間が1秒未満では、アルミニウム合金板200を100℃以下まで冷却することは難しい。下死点保持時間が5秒超では、生産性が劣る。金型100は、予め水冷などにより冷却されているため、金型100の上型110と下型120との間に挟まれるアルミニウム合金板200も冷却される。アルミニウム合金板200の温度が100℃超では、強度を高める添加元素が析出し高強度を確保できない、成形品の変形が生じ易いといった問題がある。また、アルミニウム合金板200を100℃以下まで冷却することで、アルミニウム合金板200の到達温度と下死点での冷却温度との温度差(熱収縮率)を活用して、成形品の平坦度と金型100からの離型性を向上させることができる。アルミニウム合金板200の温度は金型100に接触することによって低下し、温度差がアルミニウム合金板200にテンション(張り)を与えて平坦度の向上に寄与する。下死点での温度は低いほどよい。一方、熱収縮はアルミニウム合金板200がポンチ113側に張り付き、離型を困難にさせる。よって、アルミニウム合金板200の到達温度を適正化してテンションを低減することが好ましい。また、アルミニウム合金板200の熱収縮対策でも離型の難しい形状が存在する場合、例えば、金型100の凸側であるポンチ113
側に数度(例えば、1~3度)の逃げ角を付与すると共に、加工時の変形抵抗の低減化が有効である。変形抵抗は、焼き付きである。変形抵抗は、金型100へのメッキ(例えば、ニッケルメッキ、クロムメッキ)加工、水溶性クーラント(潤滑剤)の塗布を適宜組合わせることで、低減される。潤滑剤として、周知の離型剤が使用され得る。金型100へのメッキは、金型100とアルミニウム合金板200との間の摩擦係数を低減させることができる。金型100への凸側逃げ角の付与、メッキ加工などにより、成形品の寸法精度(平坦度等)の向上を図ることができる。また、強制離脱方式により、成形品の寸法精度の向上を図ることができる。強制離脱方式は、機械的な方法(ノックアウトバー、ストリッパー等)で成形品(アルミニウム合金板200)の一部に変形しない程度に力を与える(印加する)ことで、金型100から成型品(アルミニウム合金板200)を離脱する方法である。
【0037】
S106では、電気ヒータ炉(電気炉)、誘導加熱炉、赤外線加熱炉などの加熱炉により、アルミニウム合金板200に対して、190℃以上250℃未満の到達温度で5分以上60分以下の保持時間で加熱をする短時間ベーキング処理を行う。すなわち、加熱炉で、アルミニウム合金板200に対して、アルミニウム合金板200の温度を到達温度に上昇させた後、さらに、当該到達温度で5分以上60分以下の保持時間、加熱を行う。190℃未満では、析出硬化が不十分であり、250℃以上では、析出物が大きくなり析出硬化が低減する。よって、短時間ベーキング処理は、190℃以上250℃未満が好ましい。また、短時間ベーキング処理の代わりに、長時間ベーキング処理が行われてもよい。長時間ベーキング処理は、電気ヒータ炉(電気炉)、誘導加熱炉、赤外線加熱炉などの加熱炉により、アルミニウム合金板200に対して、例えば、150℃以上180℃未満の到達温度で5時間以上20時間未満の保持時間(例えば、170℃、8時間)で加熱をする。長時間ベーキング処理の温度、時間は、確実に、所望の強度を得られる条件として決められればよく、ここに記載したものに限定されるものではない。短時間ベーキング処理、長時間ベーキング処理は、人工時効処理の例である。S106の処理は、上記のS101からS105のアルミニウム合金板200に対する処理後の他の処理(トリミング、ピアス、リストライク等の冷間プレスなど)の後に行われてもよい。また、S106の処理は、上記のS101からS105のアルミニウム合金板200に対する処理後、100℃-200℃で維持されるようにしてもよい。これにより、人工時効処理での高強度化が促進される。また、人工時効処理の代わりに、自然時効(室温(25℃程度)に放置)が行われてもよい。
【0038】
(実施例1)
図5は、4000系アルミニウム合金板と6000系アルミニウム合金板の強度及び成形性を示す図である。ここでは、4000系アルミニウム合金板として、AC4Aによる鋳造部品のスクラップ(Al-8.9%Si-0.1%Cu-0.4%Mn-0.5%Mg)を、溶融鋳造し、480℃で均質化熱処理した後、熱間圧延処理、冷間圧延処理、350℃の仕上げ焼鈍を施して、2mm厚のアルミニウム合金板を生成する。また、6000系アルミニウム合金板として、6022-T4材を使用する。ここでは、生成した2mm厚の4000系アルミニウム合金板(AC4A材)と、2mm厚の6000系アルミニウム合金板(6022-T4材)とで、引張強度、耐力、伸び率、エリクセン値、限界絞り比LDRを比較する。
【0039】
AC4A材は、6022-T4材に比べて、強度、耐力は劣る。また、AC4A材は6022-T4材に比べて、伸び率、エリクセン値が低い。一方、AC4A材と6022-T4材とでは、限界絞り比LDRは同等である。これは、材料組織(結晶粒、共晶組織等)の影響である。なお、AC4A屑材の低強度による縮みフランジ性向上(シワ抑制)の寄与により、両者の絞り加工性は同等である。よって、AC4A材の強度が6022-T4材の強度と同等であれば、AC4A材の成形性は劣る。
【0040】
(実施例2)
ここでは、実施例1のAC4A材、6022-T4材の試験材を用いて、自動車用ECUケースでの冷間プレス及び上記のホットスタンプ加工方法による成形試験を実施する。冷間プレスでは、両試験材とも下死点10mm手前で割れを生じる。割れの程度は、6022-T4材よりもAC4A材の方が大きい。一方、上記のホットスタンプ加工方法(到達温度550℃、水溶性潤滑剤塗布、水冷金型、下死点保持時間2秒)では、両試験材とも割れが発生せず、成形性は良好である。
【0041】
(実施例3)
図6は、4000系アルミニウム合金板と6000系アルミニウム合金板との、時効処理による強度特性の例を示す図である。ここでは、実施例1のAC4A材、6022-T4材の試験材(JIS5号試験片)に対して、ホットスタンプ加工を想定して、550℃で溶体化処理、水冷をし、さらに、自然時効処理(2週間、室温で放置)または人工時効処理(長時間ベーキング処理、170℃で8時間)を行う。それぞれの試験材に対して、引張強度、耐力、伸び率を測定する。AC4A材に対して人工時効処理を行った試験材では、鋼板(ハイテン)並みの高強度が得られる。AC4A材に対して人工時効処理を行った試験材は、6022-T4材に対して人工時効処理を行った試験材と比べても、高強度である。AC4A材は、4000系アルミニウム合金であり、非熱処理合金に属する。非熱処理合金は、基本的に析出硬化挙動を示さないと言われているが、4000系アルミニウム合金に対する上記のようなホットスタンプ加工(到達温度450℃以上の加熱、その後の急冷)により、高強度が得られる。特に、AC4A材に対して人工時効処理を行った試験材では、自動車のパネル材として使用される6022-T4材に対して人工時効処理を行った試験材よりも強度の高いものが得られる。
【0042】
(実施例4)
図7は、4000系アルミニウム合金板の、短時間ベーキング処理による強度特性の例を示す図である。ここでは、実施例1のAC4A材の試験材(JIS5号試験片)に対して、ホットスタンプ加工を想定して、550℃で溶体化処理、水冷をし、さらに、人工時効処理(短時間ベーキング処理)を行う。人工時効処理まで施した試験材に対して、引張強度、耐力、伸び率を測定する。短時間ベーキング処理のベーキング条件は、180℃で20分、200℃で20分、220℃で20分、240℃で20分、260℃で20分とする。ここでは、引張強度320MPa以上、かつ、耐力250MPa以上を合格とする。ベーキング温度が、200℃、220℃、240℃である場合、引張強度が320MPa以上となっている。また、ベーキング温度が、180℃、260℃である場合、引張強度が320MPa未満となっている。また、ベーキング温度が、200℃、220℃、240℃である場合、耐力が250MPa以上となっている。また、ベーキング温度が、180℃、260℃である場合、耐力が250MPa未満となっている。よって、ベーキング時間が20分である場合、ベーキング温度は190℃以上250℃未満であることが望ましい。また、各条件において伸び率は8%以上となっており、8%以上の伸び率は十分な値である。短時間ベーキング処理のベーキング条件200℃、20分で、試験材の引張強度は365MPaとなる。引張強度365MPaは、実施例3のAC4Aの試験材の長時間ベーキング処理(170℃で8時間)の引張強度380MPaの96%に相当する。このように短時間ベーキング処理を行うことで、長時間ベーキング処理で得られる強度と同等の強度のアルミニウム合金板を得ることができる。短時間ベーキング処理を行うことで、長時間ベーキング処理よりも省エネルギーで、長時間ベーキング処理と同等のアルミニウム合金板を得ることができる。
【0043】
(実施形態の作用、効果)
本実施形態では、4000系アルミニウム合金などのアルミニウム合金の鋳造製品を原
料として、4000系アルミニウム合金のアルミニウム合金板を生成する。このとき、例えば、アルミニウム合金の鋳造製品のスクラップ材を溶解、鋳造して、スラブが生成される。この際、脱ガス処理、介在物除去処理が行われる。さらに、鋳造されたスラブに対して、偏析部除去処理が行われる。また、鋳造の際、100ppm未満の量のPまたはNaが添加されてもよい。PまたはNaが添加されることで、アルミニウム合金の鋳造組織が微細化される。次に、偏析部除去処理をされたスラブに対して、400℃以上530℃未満の温度で均質化熱処理が行われる。さらに、均質化熱処理が行われたスラブは、熱間圧延処理により、2mm以上8mm未満の板厚のホットコイルとなる。この際、巻き取り温度は、300℃以上400℃未満とする。さらに、300℃以上400℃未満の粗鈍が行われて、冷間圧延処理にて1.5mm以上5mm未満の厚さのアルミニウム合金板が製造される。当該アルミニウム合金板200に対して、ホットスタンプ加工が行われる。
【0044】
本実施形態のアルミニウム合金板に対するホットスタンプ加工方法は、アルミニウム合金板200を、450℃以上560℃未満の到達温度で10分未満の保持時間、加熱炉で加熱する。金型100は、アルミニウム合金、工具鋼、ハイス鋼、超鋼などによる金型である。金型100は、冷却用水路150に流される冷媒により冷却される。また、金型100は、ミスト噴霧により、冷却される。加熱されたアルミニウム合金板200は、加熱炉から取り出されて、金型100にセットされ、プレス加工される。プレス加工の際、アルミニウム合金板200は、金型100の下死点で100℃以下に冷却される。これにより、強度に寄与するSi、Mg、Cuを固溶させることができる。本実施形態のアルミニウム合金板に対するホットスタンプ加工方法によれば、アルミニウム合金の成形性を向上させ、これまで困難であった形状を可能とし、金型の工程数を減少させることができる。金型100を冷却することで、金型100の温度を100℃未満にすることができる。金型100を冷却することで、加工対象のアルミニウム合金板200を冷却することができる。プレス加工後のアルミニウム合金板200に、短時間ベーキング処理をすることで、アルミニウム合金板200を高強度化(引張強度320MPa以上)することができる。金型100への冷媒の導入、ミスト噴霧をすることで、アルミニウム合金板を所定の温度まで冷却することができる。また、アルミニウム合金板200を100℃以下に冷却することで、形状凍結性、平坦度に優れた成形品を生成することができる。冷却用水路による冷却、ミスト噴霧により、プレス加工後のアルミニウム合金板の直接水冷を省略することができる。直接水冷を行わないことで、プレス速度の低下、金型形状の複雑化、加工工程の複雑化を抑制できる。これにより、プレス加工工程の生産性、簡易性を向上させることができる。
【0045】
本実施形態のアルミニウム合金板に対するホットスタンプ加工方法は、Si成分量の多い4000系のAl-Si合金のプレス加工品を実現させることができる。本実施形態によれば、4000系アルミニウム合金で、6000系アルミニウム合金と同等の強度を有するプレス加工品を製造することができる。本実施形態によれば、4000系アルミニウム合金による鋳造製品を原料としてアルミニウム合金板を生成しプレス加工品を製造することで、アルミニウム新地金を使用してプレス加工品を製造する場合に比べて、消費エネルギーの削減することができる。消費エネルギーの削減により、CO2排出量削減を実現することができる。
【0046】
以上の各実施形態は、可能な限りこれらを組み合わせて実施され得る。
【符号の説明】
【0047】
100 金型
110 上型
111 上型ダイセット
112 上型シワ押さえ部
113 ポンチ
120 下型
121 下型シワ押さえ部
122 下型ダイセット
130 冷却用水路
140 熱電対設置孔
150 冷却用水路
151 第1部分
152 第2部分
153 第3部分
160 熱電対設置孔
200 アルミニウム合金板
310 熱電対
320 熱電対
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7