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特開2023-58203土壌中の放射性セシウムの除染に必要な成分の特定
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023058203
(43)【公開日】2023-04-25
(54)【発明の名称】土壌中の放射性セシウムの除染に必要な成分の特定
(51)【国際特許分類】
   A01H 1/00 20060101AFI20230418BHJP
   A01H 5/00 20180101ALI20230418BHJP
   A01H 6/20 20180101ALI20230418BHJP
   A01H 6/14 20180101ALI20230418BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20230418BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20230418BHJP
   C09K 17/14 20060101ALI20230418BHJP
   C07K 14/415 20060101ALI20230418BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20230418BHJP
【FI】
A01H1/00 A ZNA
A01H5/00 A
A01H6/20
A01H6/14
A01G7/00 601Z
C09K3/00 S
C09K17/14 H
C07K14/415
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021168047
(22)【出願日】2021-10-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2021年2月12日 https://www.cell.com/molecular-plant/fulltext/S1674-2052(21)00048-4?_returnURL=https%3A%2F%2Flinkinghub.elsevier.com%2Fretrieve%2Fpii%2FS1674205221000484%3Fshowall%3Dtrue#relatedArticlesを通じて発表 2021年2月16日 岩手大学のウェッブサイト https://www.iwate-u.ac.jp/cat-research/2021/02/003917.html https://www.iwate-u.ac.jp/upload/images/press-release0215.pdf https://www.iwate-u.ac.jp/english/info/news/2021/02/003918.htmlを通じて発表 2021年2月17日 島根大学のウェッブサイト https://www.shimane-u.ac.jp/docs/2021021700012/ https://www.shimane-u.ac.jp/docs/2021021700012/file_contents/kenkyu-syousai-aki.pdfを通じて発表
(71)【出願人】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(71)【出願人】
【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】アビドゥール ラーマン
(72)【発明者】
【氏名】秋廣 高志
(72)【発明者】
【氏名】田野井 慶太朗
【テーマコード(参考)】
2B022
2B030
4H026
4H045
【Fターム(参考)】
2B022DA19
2B030AA02
2B030AA03
2B030AD08
2B030CA17
4H026AA10
4H026AB04
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA30
4H045EA60
(57)【要約】
【課題】本発明は、セシウム特異的輸送体を特定して、これを利用してセシウム汚染土壌を浄化する方法を提供することを課題とする。さらに、本発明は、植物のセシウム吸収を抑制する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明によれば、カリウム非依存性セシウム取り込みタンパク質を過剰発現する植物を利用することを含む、セシウム汚染土壌を浄化する方法が提供される。さらに本発明によれば、カリウム非依存性セシウム取り込みタンパク質を過剰発現する植物に提供される。加えて、本発明によれば、セシウム取り込みタンパク質をコードする遺伝子の機能が抑制または喪失させることを含む、植物のセシウム吸収を抑制する方法、およびセシウム取り込みタンパク質をコードする遺伝子の機能が抑制または喪失されている、セシウム低吸収性植物またはその一部が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カリウム非依存性セシウム取り込みタンパク質を過剰発現する植物を利用することを含む、セシウム汚染土壌を浄化する方法。
【請求項2】
カリウム非依存性セシウム取り込みタンパク質が、以下のa)からd)から選択される何れかである、請求項1に記載の方法。
a)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、
b)配列番号2に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、
c)配列番号3に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、
d)配列番号4に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質。
【請求項3】
請求項2に記載のカリウム非依存性セシウム取り込みタンパク質のいずれかを過剰発現する植物。
【請求項4】
遺伝子組換え植物またはトランスジェニック植物である、請求項3に記載の植物。
【請求項5】
ヒマワリ(Helianthus)、アブラナ(Brassica)、ポプラ(Populus)、またはヤナギ(Salix)である、請求項4に記載の植物。
【請求項6】
以下のa)からd)から選択される何れかのタンパク質の機能を抑制または喪失させることを含む、植物のセシウム吸収を抑制する方法。
a)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、
b)配列番号2に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、
c)配列番号3に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、
d)配列番号4に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質。
【請求項7】
以下のa)からd)から選択される何れかのタンパク質の機能が抑制または喪失されている、セシウム低吸収性植物またはその一部。
a)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、
b)配列番号2に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、
c)配列番号3に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、
d)配列番号4に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カリウム非依存性セシウム取り込みタンパク質を過剰発現する植物を利用することを含む、セシウム汚染土壌を浄化する方法に関する。さらに本発明は、カリウム非依存性セシウム取り込みタンパク質を過剰発現する植物に関する。加えて、本発明は、セシウム取り込みタンパク質の機能を抑制または喪失させることを含む、植物のセシウム吸収を抑制する方法、およびセシウム取り込みタンパク質の機能が抑制または喪失されている、セシウム低吸収性植物またはその一部に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所の事故で発生した放射性セシウム(セシウム134およびセシウム137)は、拡散して土壌に蓄積し、環境への深刻な脅威となっている。セシウムはカリウム輸送体を利用して植物に吸収されることが知られており、放射性セシウムによる土壌汚染は農作業や作物生産を制限する。
【0003】
セシウム汚染された土壌を浄化方法する方法として、植物を用いた環境修復であるファイトレメディエーションが行われている。例えば、特許文献1は、土壌にシバ類を植栽して土壌中のセシウムをシバ類に吸収させることをこと含むセシウム汚染土壌浄化方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-223698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自然界の植物は、セシウムを吸収する際にカリウムも吸収する、即ち、カリウム依存性を有している。そのため、放射性セシウムに対して、ファイトレメディエーションを実現しようとすると、土壌中のセシウムを多く吸収しようとするほどにカリウムも多く吸収されてしまい、土壌中のカリウムが枯渇して農業ができない土壌になってしまうということが問題となっていた。
【0006】
セシウムとカリウムは、共にアルカリ金属元素であり、類似の化学的性質を有するため、セシウム(Cs+)とカリウム(K+)の輸送と密接に結びついている。これまでCs+輸送体として特徴づけられてきた輸送体のほとんどは、K+の輸送に直接的または間接的に関連する。カリウムは必須元素である。カリウム輸送体の過剰発現は、カリウムが枯渇した土壌に帰着する。したがって、カリウム輸送体を過剰に発現させて土壌から十分なセシウムを吸収させることは現実的ではない。
【0007】
そのため、カリウムに依存しないセシウム輸送体を同定し、セシウムに汚染された土壌を浄化して、再び農業に利用できるような新しい技術を開発する必要があった。よって、本発明は、セシウム特異的輸送体を特定して、これを利用してセシウム汚染土壌を浄化する方法を提供することを課題とする。さらに、本発明は、植物のセシウム吸収を抑制する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1] カリウム非依存性セシウム取り込みタンパク質を過剰発現する植物を利用することを含む、セシウム汚染土壌を浄化する方法。
[2] カリウム非依存性セシウム取り込みタンパク質が、以下のa)からd)から選択される何れかである、[1]に記載の方法。
a)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、
b)配列番号2に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、
c)配列番号3に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、
d)配列番号4に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質。
[3] [2]に記載のカリウム非依存性セシウム取り込みタンパク質のいずれかを過剰発現する植物。
[4] 遺伝子組換え植物またはトランスジェニック植物である、[3]に記載の植物。
[5] ヒマワリ(Helianthus)、アブラナ(Brassica)、ポプラ(Populus)、またはヤナギ(Salix)である、[4]に記載の植物。
[6] 以下のa)からd)から選択される何れかのタンパク質の機能を抑制または喪失させることを含む、植物のセシウム吸収を抑制する方法。
a)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、
b)配列番号2に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、
c)配列番号3に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、
d)配列番号4に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質。
[7] 以下のa)からd)から選択される何れかのタンパク質の機能が抑制または喪失されている、セシウム低吸収性植物またはその一部。
a)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、
b)配列番号2に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、
c)配列番号3に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、
d)配列番号4に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、セシウム汚染土壌からセシウムを特異的に除去する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】シロイヌナズナのABCG33のアミノ酸配列を示す(配列番号1)。
図1B】シロイヌナズナのABCG37のアミノ酸配列を示す(配列番号2)。
図1C】ヒマワリのPDR5のアミノ酸配列(配列番号3)を示す。
図1D】ヒマワリのPIS1のアミノ酸配列(配列番号4)を示す。
図1E】シロイヌナズナのABCG33、シロイヌナズナのABCG37、ヒマワリのPDR5およびヒマワリのPIS1がクラスターを形成することを示す系統樹である。外群には、シロイヌナズナのABCG11、ABCG31、ABCG32、ABCG34、ABCG35、ABCG36およびABCG38を用いた。系統解析は、clustalw(Larkin MA et al., 2007, Clustal W and Clustal X version 2.0. Bioinformatics, 23, 2947-2948.)を用いて行った。
【0011】
図2】(A)本研究で用いたABCG37変異体の代表的な図である。黒い実線と分断された黒線はそれぞれエキソンとイントロンを示す。(B)1.5mMのCs+の存在下でのCol-0、abcb37-1、abcg37-2、abcg37-3、およびabcg37-4の一次根伸長を示す。3日齢の照明育成実生を1.5mM Cs+含有または無しの新しい寒天プレートに移し、23℃で3日間インキュベートした。エラーバーは、3回の独立した実験から得られた±SEで、1回の実験につき8本の実生を観察した。星印は、スチューデントのt検定で判断した処理間の統計的有意性を表す:***P<0.001。(C)対照区(control)および1.5mM Cs+プレートでの3日間のインキュベーション後の野生型(Col-0)およびabcg37変異体の根の表現型を示す。画像は、1回の実験につき8本の実生を観察し、少なくとも3回の独立した実験を代表するものである。バーは10mmである。(D)対照区(control)および1.5mM Cs+プレートでの3日間のインキュベーション後の野生型(Col-0)およびabcg37変異体の根の表現型を示す。画像は、1回の実験につき8本の実生を観察し、少なくとも3回の独立した実験を代表するものである。バーは10mmである。(E)1、1.5、および2mM Cs+の存在下でのCol-0、「abcg33-1 abcb37-2-11」、「abcg33-1 abcb37-2-21」、および「abcg33-1 abcb37-2-23」の一次根伸長である。3日齢の照明育成実生を新しい寒天プレートに移し、23℃で3日間インキュベートした。エラーバーは、3回の独立した実験から得られた±SEで、1回の実験につき8本の実生が観察された。星印は、スチューデントのt検定で判断した処理間の統計的有意性を表す:*P<0.05、**P<0.01、および***P<0.001。
【0012】
図3】3日齢の照明育成ABCG37‐GFPおよびABCG33‐GFP実生を対照区(control)および1.5mMのCs+含有プレートに移した。(A)ABCG37-GFPおよびABCG33-GFPのGFP蛍光が24、48、72時間の時点で観察された。画像は、3つの独立した実験を代表する単一の共焦点切片であり、各実験について処理ごとに5つの実生が観察される。バー、50mm。(B)24、48、72時間時点での対照区(control)および1.5mMのCs+含有プレートのABCG37-GFP、ABCG33-GFP、PIN2-GFP、およびEGFP-LTI6bにおけるGFPシグナルの定量化。各実験の処理ごとに5個の実生を観察し、3つの独立した実験から定量を行った。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。(C-F)タンパク質合成阻害剤シクロヘキシミド(CHX)およびユビキチンプロテアソーム阻害剤MG132のABCG33およびABCG37発現のCs+誘導変更に対する効果。5日齢のABCG37‐GFPおよびABCG33‐GFP実生を液体増殖培地に移し、50mMのMG132または50mMのCHXの存在下または非存在下で1時間処理した後、1.5または15mMのCs+の存在下または非存在下で3時間処理した。インキュベーション後、同じレーザ設定を用いて共焦点レーザ走査顕微鏡でGFP蛍光を可視化した。画像は、各実験について処理ごとに5または6個の実生を観察した、少なくとも4回の独立した実験を代表する単一共焦点切片である。(CおよびE)バー、100mm。(DおよびF)4回または5回の独立した実験から得られた20~30の実生からのGFPシグナルの定量化。垂直棒は±SEである。(B、D、F)複数の処理間の比較は分散分析に続いてTukeyのHSD検定を行った。同じレベル/アルファベット文字は、差がないことを示す(P<0.05)。
【0013】
図4】(A-C)Col-0、「abcg33-1 abcg37-2-11」、「abcg33-1 abcg37-2-21」、および「abcg33-1 abcg37-2-23」の根端における137Cs+の短期取り込み試験を示す。4日齢の照明育成Col-0および単一および二重変異体実生を、K+の存在下(6mM)または非存在下、10μM(A)、1.5mM(B)、15mM(C)の137Cs+で2時間インキュベートした。培養後、実生を3回洗浄し、各試料につき10本の根から10mmの根端を切除し、シンチレーションカウンターを用いて放射能を計数した。データは、少なくとも3回の独立した実験からの平均であり、ミリメートルの根端当たりで表す。エラーバーは±SEであり、星印はスチューデントのt検定で判断した遺伝子型間の統計的有意性を表す:*P<0.05、**P<0.01。(D)Col-0およびabcg二重変異体中のセシウム含量を示す。3日齢の照明育成Col-0および二重変異体実生を、種々のK+濃度の存在下で1.5mM Cs+プレートに移し、3日間インキュベートした。実生全体のCs+量をICP-MSで測定した。データは3つの独立した実験から得た。エラーバーは±SEであり、星印はスチューデントのt検定で判断した処理間の統計的有意性を表す:*P<0.05、**P<0.01。
【0014】
図5】(A)Col-0およびabcg二重突然変異体実生におけるカリウム含量を示す。3日齢の照明育成のCol0と二重変異体の実生を種々濃度のK+を含む新鮮なプレートに移し、3日間インキュベートした。実生全体のK+量をICP-MSで測定した。(B)100mM塩化カリウム存在下でのCol-0、「abcg33-1 abcg37-2-11」、「abcg33-1 abcg37-2-21」、および「abcg33-1 abcg37-2-23」の一次根伸長反応を示す。3日齢の照明育成のCol-0と二重変異体実生を100mMの塩化カリウム含有プレートに移し、3日間インキュベートした。(C)K+制限およびK+十分条件でのCol-0と「abcg33-1 abcg37-2-21」の実生表現型を示す。3日齢の照明育成Col-0と二重変異体実生をカリウム欠乏または6mMカリウム含有プレートに移し、さらに3日間成長させた。プレート裏面のティックマークは、移植時間を示す。写真は3回の独立した実験の代表である。二重変異体はK+の有無にかかわらず野生型様の表現型を示すことに注意されたい。バー、5mm。(D)K+制限およびK+十分条件のへの移行後のCol-0と「abcg33-1 abcg37-2-21」の根伸長の定量化。(A)および(B)および(D)のエラーバーについては、3回の独立した実験からの±SEである。二重変異体におけるK+含量と根伸長率は、スチューデントt検定で判断し、野生型と比較して統計学的に有意ではなかった。
【0015】
図6】(A)At ABCG33およびAt ABCG37を発現する出芽酵母W303-1A細胞におけるCs+耐性アッセイを示す。空のpYES2プラスミド、ABCG33、ABCG37、およびOsHAK5(通性Cs+輸送体)を持つ酵母形質転換体を、0および30mMのCsClを添加したSD-Gal固体培地上で培養し、72時間後に写真をとった。各スポットを左から右に10倍希釈した。写真は、3回の独立した実験の代表的な画像である。(B-F)137Cs取り込み実験を示す。ABCG33とABCG37を発現する出芽酵母W303-1A細胞を用いて、At ABCG33とAt ABCG37のCs+取り込み能を調べた。プラスミドを持つ酵母形質転換体(1×107細胞)を0.4(B),1.4(C),10(D),100μM(E)および10mM(F)133CsCl含有137CsCl(390Bq(100μl)-1)で1時間培養した。培養後、細胞を10mM 133CsClで5回洗浄し、細胞の137CsCl含量をNaIシンチレーションオートガンマカウンターで測定した。実験は3回繰り返し、データは平均±SD(n=12)を表した。星印は、スチューデントのt検定で判断した空ベクターと形質転換体の間の統計的有意性を表す:***P<0.0001。(G)ABCG33またはABCG37を発現する出芽酵母BYT12(trk1Δ trk2Δ)細胞の増殖表現型を示す。空のpYES2プラスミド、ABCG33、ABCG37、およびAtAKT1(カリウム輸送体)を持つ形質転換体を、0~100mMのKClを添加したSD-Gal固体培地上で培養し、96時間後に写真をとった。各スポットを左から右に10倍希釈した。写真は、3回の独立した実験の代表的な画像である。(H)1.0mMのRbClの存在下でのAtABCG33、AtABCG37、またはAtAKT1を発現する酵母におけるRb+の取り込みを示す。CY192(Δtrk1trk2)酵母細胞を空ベクターpYES2またはAtABCG33、AtABCG37、またはAtAKT1 cDNAを含むベクターで形質転換した。プラスミドを持つ酵母形質転換体(1×107細胞)を1mM RbClの存在下で2時間培養した。細胞のRb+含量をNaIシンチレーションオートガンマカウンターで測定した。実験は3回繰り返し、データは平均±SD(n=6)を表した。星印は、スチューデントのt検定で判断した空ベクターと形質転換体の間の統計的有意性を表す:***P<0.0001。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に記載する本発明の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0017】
(セシウム取り込みタンパク質の過剰発現)
本発明者らは、カリウム(K+)輸送に影響しないセシウム(Cs+)取り込み植物タンパク質を世界で初めて発見した。カリウムの輸送に影響しないセシウム取り込み植物タンパク質を過剰発現させた植物は、放射性セシウム汚染土壌のファイトレメディエーション法の実現に有用である。ファイトレメディエーションは、セシウム、カドミウムやヒ素などによって汚染された土壌を、特定の植物を用いて、汚染物質を根から吸収させ、植物体内に蓄積させながら成長させることにより、浄化する手法である。従来の方法とは異なり、植物を用いることで土壌環境を大きく変化させることなく汚染土壌を浄化することが出来るため、コスト面にも優れる。
【0018】
本発明によれば、カリウム非依存性セシウム取り込みタンパク質を過剰発現する植物を利用することを含む、セシウム汚染土壌を浄化する方法が提供される。より具体的には、セシウム汚染土壌を浄化する方法は、カリウム非依存性セシウム取り込みタンパク質を過剰発現する植物を作製する工程、作製したカリウム非依存性セシウム取り込みタンパク質を過剰発現する植物をセシウム汚染土壌に植え付けて成長させる工程、および成長した作製したカリウム非依存性セシウム取り込みタンパク質を過剰発現する植物を収穫する工程を含むことができる。植物の植え付けは、種子の播種や幼植物の植え付けにより行うことができる。植え付けた植物は、一定期間成長させることにより、セシウム(Cs+)を根から吸収させ、植物体内に蓄積させることができる。植物は、根を含む植物全体を収穫することが好ましい。根を含む植物全体に放射性セシウムが蓄積されている可能性があるためである。収穫した植物は、吸収された放射性セシウムが再分散しない手段で、保存され、処分される。本発明のセシウム汚染土壌を浄化する方法によれば、カリウム(K+)を過度に除去することなく、セシウム汚染土壌を浄化することができる。
【0019】
本明細書における過剰発現とは、形質転換されていない植物細胞または植物における産生レベルを超える、形質転換された植物細胞または植物における遺伝子産物の産生をいう。「過剰発現された」カリウム非依存性セシウム取り込みタンパク質は、形質転換されていない植物の細胞内で産生される量より多い量が産生される。例えば、形質転換遺伝子(カリウム非依存性セシウム取り込みタンパク質をコードする遺伝子)を適切な構成的プロモーターと結合させて、その形質転換遺伝子を持続的に発現させることによって過剰発現させることができる。必要な場合のみに選択的に過剰発現され得るようにするためには、形質転換遺伝子を強力な誘導性プロモーターに連結するようにすることができる。本発明の実施に使用することができるプロモーターには、カリフラワーモザイクウイルス35S(CaMV35S)、ユビキチンプロモーター、APX、PGD1、R1G1Bプロモーター等が含まれるがこれらに限定されない。
【0020】
カリウム非依存性セシウム取り込みタンパク質を過剰発現する植物は、公知の遺伝子改変技術を用いて作出することができる。例えば、遺伝子組換え植物を作製するための技術として、組織培養法やin planta形質転換法を用いることができるがこれらに限定されない。外来遺伝子を導入する手法として、例えば、アグロバクテリウムを用いる方法、パーティクルボンバードメント法やエレクトロポレーション法を用いることができるが、これらに限定されない。
【0021】
具体的には、カリウム非依存性セシウム取り込みタンパク質をコードする遺伝子に特異的なクローニング用プライマーを用いて核酸増幅法によりcDNAを得る。シロイヌナズナのABCG33およびABCG37をコードする遺伝子の塩基配列は、以下のNCBI Accession NOに基づき取得することができる。シロイヌナズナのABCG33:NM_001336646、シロイヌナズナのABCG37:NM_115208。ヒマワリのPDR5およびPIS1をコードする遺伝子の塩基配列はEnsembleplant (https://plants.ensembl.org/index.html)の遺伝子IDから得ることができる。PDR5- HannXRQ_Chr11g0339671 (https://plants.ensembl.org/Helianthus_annuus/Search/Results?species=Helianthus_annuus;idx=;q=PDR5;site=ensemblunit)、PIS1-HannXRQ_Chr11g0339701 (https://plants.ensembl.org/Helianthus_annuus/Gene/Summary?g=HannXRQ_Chr11g0339701;r=11:105945644-105958600;t=OTG08261;db=core)。cDNAはプロモーター、ターミネーター等の必要なすべての調節配列を有する適切なベクターに導入される。ベクターは、例えば、pENTR-D/TOPO(Invitrogen, USA)である。これをバイナリーベクター(例えば、pK7WGF)に導入するには、メーカーの指示に従って、構成的プロモーターを用いたゲートウェイ・クローニング手法を用いる。挿入された遺伝子をシークエンスで確認した後、アグロバクテリウムを用いた形質転換法により、植物に目的の遺伝子を導入する。抗生物質のスクリーニングを行った後、陽性の植物を育てる。過剰発現株は、定量的PCRによる転写レベルとウェスタンブロットによる翻訳レベルの両方で確認される。
【0022】
カリウム非依存性セシウム取り込みタンパク質を過剰発現する植物ではセシウム吸収が増加しており、放射性セシウム汚染土壌で生育させると、植物に蓄積される放射性セシウムの量が、同種の野生型植物に比較して増加する。カリウム非依存性セシウム取り込みタンパク質を過剰発現する植物のセシウム吸収が増加していることは、例えば対象となるカリウム非依存性セシウム取り込みタンパク質を過剰発現する植物と、適切なコントロールである植物を、一定量のセシウムが含まれる培地で栽培し、得られた植物またはその一部に含まれるセシウム量を比較することにより、判断することができる。
【0023】
本発明者らは、アラビドプシスにおいて、ABCタンパク質のABCG33およびABCG37がセシウム取り込みタンパク質であることを見出した。後記する実施例には、ABCG33とABCG37の二重欠損変異体では、普通のシロイヌナズナに比べて、植物体内の放射性セシウム量が有意に減少することが示されている。出芽酵母を用いた実験では、ABCG33およびABCG37を発現させた株では、放射性セシウム吸収量が有意に増加すること、およびこれらのタンパク質が、カリウム輸送には関与していないことが示されている。
【0024】
本発明の一実施態様において、植物が過剰発現するカリウム非依存性セシウム取り込みタンパク質が、シロイヌナズナのABCG33およびABCG37およびそのホモログのいずれかであってもよい。シロイヌナズナのABCG33およびABCG37およびそのホモログは、例えば、以下のa)からd)から選択される何れかであってもよい。
a)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、
b)配列番号2に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、
c)配列番号3に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、
d)配列番号4に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質。
【0025】
シロイヌナズナのABCG33およびABCG37は、それぞれ配列番号1および2に記載のアミノ酸配列を有する。シロイヌナズナのABCG33およびABCG37のヒマワリ(Helianthus annuus)のホモログは、PDR5(配列番号3)およびPIS1(配列番号4)である。系統解析において、ヒマワリのPDR5およびPIS1は、シロイヌナズナのABCG33およびABCG37と共に系統樹中でクラスターを形成した。ABCG33とPDR5のアミノ酸配列同一性は65%である。ABCG37とPIS1のアミノ酸配列同一性は65%である。「ホモログ」とは、共通の祖先をもち、実質的に同じ機能を有するタンパク質またはそれをコードするDNAを意味し、特定の場合には、オルソログ(種分岐相同)を意味する。
【0026】
本発明の一実施態様において、植物が過剰発現するカリウム非依存性セシウム取り込みタンパク質は、配列番号1、2、3または4に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質である。
【0027】
本発明の一実施態様において、植物が過剰発現するカリウム非依存性セシウム取り込みタンパク質は、配列番号1、2、3または4に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質の何れか1つであってよいし、配列番号1、2、3または4に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質の任意の組合せであってよい。さらには、配列番号1、2、3または4に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質の何れか1つであってよいし、配列番号1、2、3または4に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質の任意の組合せであってよい。
【0028】
本発明の一実施態様において、植物が過剰発現するカリウム非依存性セシウム取り込みタンパク質は、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質と配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質の両方であってもよいし、さらには配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質と配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質の両方であってもよい。あるいは、配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質と配列番号2に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質の両方であってもよいし、さらには配列番号3に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質と配列番号4に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質の両方であってもよい。
【0029】
本発明の一実施態様において、植物が過剰発現するカリウム非依存性セシウム取り込みタンパク質は、配列番号1、2、3または4に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、または少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つセシウム取り込み活性を有する、タンパク質であってもよい。
【0030】
参照ポリペプチド配列に関する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」は、配列を整列させ、最大のパーセント配列同一性を得るために必要ならばギャップを導入した後、いかなる保存的置換も配列同一性の一部と考えないとした場合の、参照ポリペプチドのアミノ酸 残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセントとして定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決定する目的のためのアラインメントは、当業者の技量の範囲にある種々の方法、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN、またはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアのような公に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用して達成可能である。当業者であれば、比較される配列の完全長に対して最大のアライ ンメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列を整列させるための適切なパラメータを決定することができる。
【0031】
さらには、本発明の一実施態様において、植物が過剰発現するカリウム非依存性セシウム取り込みタンパク質は、配列番号1、2、3または4に記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、挿入、欠失および/または付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質からなり、且つセシウム取り込み活性を有するポリペプチドであってもよい。本明細書で言う「1もしくは数個のアミノ酸が置換、挿入、欠失および/または付加されたアミノ酸配列」における「1もしく数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個程度を意味する。
【0032】
本発明によれば、上記のカリウム非依存性セシウム取り込み機能を有するタンパク質を過剰発現する植物およびその一部が提供される。本発明の一実施態様では、植物は、遺伝子組換え植物またはトランスジェニック植物である。植物は、ファイトレメディエーションに利用できる植物であればよいが、例えば面積に対してたくさんの植物を植えることができ、大きく育つ植物が好ましく、例えば、これらに限定されないが、ヒマワリ(Helianthus)、アブラナ(Brassica)、ポプラ(Populus)、およびヤナギ(Salix)を利用することができる。さらに本発明によれば、上記のカリウム非依存性セシウム取り込み機能を有するタンパク質を過剰発現する植物またその一部を含む、セシウム吸収材を提供することができる。本明細書において、植物に関する「その一部」は、種子(発芽種子、未熟種子を含む)、器官またはその部分(葉、根、茎、花、おしべ、めしべ、萼などを含む)、植物培養細胞、カルス、プロトプラストを含む。
【0033】
本発明の一実施態様では、ヒマワリの植物体にアラビドプシスのセシウム取り込みタンパク質、ABCG33および/またはABCG37の遺伝子を遺伝子導入して、このタンパク質を過剰発現する植物を作製することができる。別の実施態様では、ヒマワリの植物体において、ヒマワリのセシウム取り込みタンパク質、PDR5および/またはPIS1を遺伝子導入して過剰発現する植物を作製してもよい。
【0034】
本明細書において「トランスジェニック植物」は、別の植物種または非植物種由来の遺伝子を有する植物である。本明細書において「遺伝子組換え植物」は、1つ以上の遺伝的改変、例えば、1つ以上の設計された変異を含む遺伝子を有する植物のことをいう。設計された変異は、天然のものと異なる活性を有するタンパク質をもたらし得、天然のものと異なる活性には、発現レベルの増加が含まれ得る。本明細書において使用する場合、「トランスジェニック植物」は、「遺伝子組換え植物」の一種である。
【0035】
本発明は、植物細胞または植物体に対して、カリウム非依存性セシウム取り込みの増加した活性を付与するタンパク質を提供することができ、ここで本発明のタンパク質は、ABCG33およびABCG37およびそのホモログを含む。より具体的には、これらのタンパク質は、以下のa)からd)から選択される何れかであってもよい。
a)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、
b)配列番号2に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、
c)配列番号3に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、
d)配列番号4に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質。
【0036】
さらに、本発明は、植物細胞または植物体に対して、カリウム非依存性セシウム取り込みの増加した活性を付与するタンパク質をコードする核酸を提供することができ、ここで、カリウム非依存性セシウム取り込みの増加した活性を付与するタンパク質は上記のa)~d)のタンパク質の何れかである。
【0037】
本発明は、上記のa)~d)のタンパク質の何れかをコードする核酸を含むベクターを提供することができる。本発明において使用することができるベクターは、植物宿主細胞中で複製可能なものであればよく、例えば、プラスミドDNA、ファージDNAなどを使用することができる。プラスミドDNAとしては、アグロバクテリウム由来のプラスミド(例えば、Tiプラスミド、Riプラスミドなど)、大腸菌由来のプラスミド(例えばpUC19、pBR322など)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpAMα1など)、酵母由来のプラスミド(例えばpGILDA、YACなど)などを使用することができ、ファージDNAとしては、λファージ(λEMBL、λZAP、λgt10など)などを使用することができる。
【0038】
(セシウム取り込みタンパク質の発現抑制)
本発明の別の局面では、植物のセシウム吸収を抑制する方法が提供される。上記のとおり、本発明者らは、ABCタンパク質のABCG33およびABCG37がセシウム取り込みタンパク質であることを見出した。後記する実施例には、ABCG33とABCG37の二重欠損変異体では、普通のシロイヌナズナに比べて、植物体内の放射性セシウム量が有意に減少することが示されている。植物のセシウム吸収を抑制する方法は、セシウム取り込みタンパク質ABCG33および/またはABCG37またはそのホモログの活性を抑制または喪失させることにより実施することができる。
【0039】
植物のセシウム吸収を抑制するとは、特に記載した場合を除き、植物の根からのセシウム吸収を抑制することである。セシウム吸収が抑制されていることは、例えば対象となるセシウム吸収が抑制されているであろう植物と、適切なコントロールである植物を、一定量のセシウムが含まれる培地で栽培し、得られた植物またはその一部に含まれるセシウム量を比較することにより、判断することができる。セシウム吸収が抑制された植物を、「セシウム低吸収性」ということができる。上記のとおり、ABCG33および/またはABCG37は、カリウム輸送には関与していないので、本発明の方法によれば、植物の成長に必要なカリウムの吸収を阻害せずに、植物のセシウム吸収を抑制することができる。
【0040】
具体的には、本発明は、以下のa)からd)から選択される何れかのタンパク質の機能を抑制または喪失させることを含む、植物のセシウム吸収を抑制する方法に関する。
a)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、
b)配列番号2に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、
c)配列番号3に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、
d)配列番号4に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質。
【0041】
上記タンパク質の機能を抑制または喪失は、上記a)からd)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子のエキソン部分に少なくとも1カ所の変異を生じさせることにより行うことができるが、これに限定されない。変異は、遺伝子が転写される際に重要な配列(例えば、5’非翻訳領域、3’非翻訳領域)に少なくとも1カ所の変異を生じさせることにより行ってもよい。これらの領域に変異がある場合、発現量が減るか、またはその遺伝子が発現しなくなる等の影響が生じる可能性がある。変異は、例えば、フレームシフトが起こす塩基の挿入または欠損等があるが、これに限定されない。変異を生じさせる手法は限定されず、人為的に、例えば化学物質(例えば、アジ化ナトリウム、MNU)、UV照射、放射線照射、イオンビーム照射等により生じさせたものであってもよく、天然に存在するものであってもよい。
【0042】
上記タンパク質の機能の抑制または喪失は、また、アンチセンス法による遺伝子ノックダウンや、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)、短鎖干渉RNA(siRNA)を介して遺伝子のノックダウンを行うRNA干渉(RNAi)技術を利用して行うこともできる。また、人工制限酵素(ZFN、TALEN、CRISPR/Cas9)を用いるゲノム編集により、ノックアウト株を作製することもできる。
【0043】
さらに、本発明は、以下のa)からd)から選択される何れかのタンパク質の機能が抑制または喪失されている、セシウム低吸収性植物またはその一部を提供する。
a)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、
b)配列番号2に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、
c)配列番号3に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、
d)配列番号4に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質。
【0044】
セシウム吸収を抑制する対象となる植物は、その植物種におけるABCG33および/またはABCG37のホモログを抑制または喪失することにより、セシウム吸収を抑制することができるものであれば特に限定されないが、好ましくは被子植物であり、双子葉植物、単子葉植物である。具体的には、ダイコン、カブ、ハクサイ、キャベツ、ハナヤサイ、シロナ、ミズナ、 ミブナ、コマツナ、ブロッコリー、カリフラワー、シュンギク、ゴボウ、レタス、フキ、ピーマン、ナス、トマト、トウガラシ、ジャガイモ、シシトウ、エンドウ、ソラマメ、エダマメ、インゲン、ラッカセイとして食用にされている植物などであるがこれらに限定されない。
【実施例0045】
以下の例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、本明細書において、特に記載しない限り、「%」等は質量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0046】
方法
植物原料
用いたすべての株はArabidopsis thalianaのコロンビア系統にある。abcb1/mdr2、abcb3/mdr4、abcb5/mdr5、abcb6/mdr6、abcb7/mdr9、abcb10/mdr10、abcb11/mdr8、abcb13/mdr15、abcb15/mdr13、abcb17/mdr19、abcb19/mdr11、abcb20/mdr14、abcb22/mdr21は、Edgar Spalding博士(Department of Botany, University of Wisconsin Madison)から、abcg37-1/pdr9-1はWillian M. Gray博士(Department of Plant Biology, University of Minnesota)から提供された。他のトランスファーDNA挿入変異体はABRC (シロイヌナズナ生物資源センター)から入手した。以下の変異体は、文献に記載されている:35S::ABCG37-GFP (Ruzicka et al., 2010. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A 107:10749-10753.)、35S:ABCG33-GFP(Schuetz et al., 2014. Plant Physiol. 166:798-807.)、PIN2-GFP (Xu and Scheres, 2005. Plant Cell 17:525-536.)、EGFP-LTI6b (Kurup et al., 2005. Plant J. 42:444-453.)、pCyclinB1;1-GUS(Colon-Carmona et al., 1999. Plant J. 20:503-508.)。
【0047】
3つの独立した二重欠損変異体(abgc37‐2 abcg33‐1)は、交配により作製し、遺伝子型タイピングによりホモ接合系統を選択した。遺伝子型タイピングに使用したプライマーを表1に示す。
【表1】
【0048】
生育条件
表面滅菌した種子を円形9cmのペトリ平板に入れ、1%(w/v)ショ糖と0.8%(w/v)寒天(Difco Bacto寒天;BD Laboratories)を含む改良ホアグランド培地(4mM KNO3、1mM Ca(NO32、0.3mM MgSO4、2mM KH2PO4、89μM クエン酸鉄、46.3μM H3BO3、9.1μM MnCl2、0.77μM ZnSO4、0.31μM CuSO4、および0.11μM MoO3、 Baskin and Wilson, 1997. Plant Physiol. 113:493-502.)を用いた。暗所での4℃での層化の2日後に、プレートを23℃の育成チャンバー(NKシステム; LH‐70CCFL‐CT,http://www.nihonika.co.jp)の連続白色光(約100μmol m-2-1の放射光)下に移した。実生は3日間垂直に成長した。塩化セシウム処理のために、3日齢実生を種々の濃度の塩化セシウム含有プレートに移し、種々の時間インキュベートした。根の伸長データは、対応する培地に移した後、記載した濃度での根の伸長を表している。根の伸長を測定するために、デジタルカメラ(パワーショットA640、キャノン)を用いてプレートの写真を撮影し、画像解析ソフトImageJ (http://rsb.info.nih.gov/ij/)により解析した。
【0049】
塩化セシウムはSigma Chemicals(www.sigmaaldrich.com)から購入した。キャリアフリーの137Cs溶液(3.7MBq ml-1)は、Eckert&Ziegler(https://www.ezag.com)から購入した。その他の化学物質は、富士フィルム和光純薬株式会社から購入した。運動学的分析はRahman et al., 2007 (Plant J. 50:514-528. )に記載の通り行った。
【0050】
根におけるセシウム輸送アッセイ
4日齢の照明育成実生を10μM、1.5mM、および15mMの137Cs+含有液体ホアグランド溶液にカリウム存在下(6mM K+)またはカリウム非存在下で2時間インキュベートし、ナイロンメッシュ上に移し、液体ホアグランド溶液で短時間3回洗浄した。10個の実生から10ミリメートルの根端を各試料ごとに集め、500μlのMicroScint 40(PerkinElmer、米国)とともにシンチレーションバイアルに入れた。137Cs+の取り込みは、NaIシンチレーションカウンター(ARC‐300,Aloka,Japan,www.hitachi‐aloka.co.jp)で測定した。実験は3回繰り返した。
【0051】
イオン含有量の測定
3日齢のCol‐0および二重欠損変異体実生を、様々なK+濃度の対照区および1.5mMの塩化セシウム含有プレートに移し、連続白色光下で23℃で3日間インキュベートした。実生全体を回収し、超純水で3回洗浄し、ペーパータオルに浸し、新鮮重量を測定した。試料を65℃で乾燥し、95℃で超高純度硝酸(関東化学、日本)を用いて10時間消化した。イオン含有量は、誘導結合プラズマ質量分析計(NexION350S、パーキンエルマー、日本)を用いて決定した。
【0052】
出芽酵母を用いたセシウム輸送・育成試験
酵母ベクターにおけるABCG33およびABCG37のクローニング
At ABCG33およびAt ABCG37のcDNAは、製造業者の指示に従って、pENTR-D/TOPOベクター(Invitrogen、米国)中でクローン化した。ABCG33およびABCG37 cDNAを、製造業者の指示に従ってQ5-High Fidelityポリメラーゼを用いて増幅し(米国ニューイングランド・バイオラボ)、クローニング前に配列決定した。続いて、ABCG33とABCG37を、酵母発現ベクター(pYES2)中のGAL1プロモーターの下流でサブクローニングした。クローニングは、ギャップ修復クローニングアプローチを利用する相同組換えベースのクローニング法を用いて達成された(Ma et al.,1987, Gene 58:201-216.)。pYES2でクローニングするために、以下のプライマーを用いた。
【0053】
ABCG33
フォワードプライマー(配列番号19)
5'-GCTGTAAATACGACTCACTATAGGGAATATTAAGCTTATGGGATCCAGTTTTAGGAGC-3'
リバースプライマー(配列番号20)
5'-GCATGCTCGAGCGGCCGCCAGTGTGAATGGATATCTGTCATCGTTTTTGAAAGTTG-3'
【0054】
ABCG37
フォワードプライマー(配列番号21)
5'-GCTGTAAATACGACTCACTATAGGGAATATTAAGCTTATGGCTCATATGGTTGGAGC-3'
リバースプライマー(配列番号22)
5'-GCATGCTCGAGCGGCCGCCAGTGTGAATGGATATCTGTCAACTTCCAACGAAGATGA-3'
【0055】
校正PCRは、Prime STAR Max DNAポリメラーゼ(Takara Bio, Japan)を用い、メーカーのプロトコールに従って行った。pYES2ベクターをBamHIおよびEcoRIで消化し、消化した断片を1.0%アガロースゲルで電気泳動した。電気泳動したDNAのクリーンアップはMag Extractor-PCR & Gel cleanupキット(東洋紡、大阪、日本)を用いて行った。出芽酵母W303-1A (MATa leu 2-3/112 ura3-1 trp1-1his3-11/15 ade2-1 can1-100) (Thomas and Rothstein 1969. Cell 56:619-630.)を、増幅断片3mlおよび改良した酢酸リチウム形質転換法(Hill et al.,1991. Nucleic Acids Res. 19:5791.)を用いてBamHIおよびEcoRIで消化したpYES2(クローンあたり0.5ng)ベクターで形質転換した。原法では、30℃で45分間インキュベート後にDMSOを添加する。改良法では、インキュベーション前に10% DMSOを酢酸リチウム(LiOAc)溶液および50%ポリエチレングリコール溶液に添加した。
【0056】
ABCG33またはABCG37を発現する出芽酵母W303-1AおよびBYT12(trk1Δ trk2Δ)の増殖表現型
ABCG33、ABCG37、およびOsHAK5で形質転換した前培養した出芽酵母W303‐1A細胞をSD‐Glc液体培地(pH 8.5)に移し、30℃で一晩培養した。細胞計数器(CDA‐1000、シスメックス社)を用いて細胞数を得た。次に、細胞を、107、106、105、104、および103に、蒸留水で希釈した。培養細胞を、Bell Blotter 96ウェルレプリケーター(Tech Jam Co.、大阪、日本)を用いて、0または30mM CsClのいずれかを含むSD‐Gal(2%ガラクトース)固体培地上にスポットした。この細胞を30℃で3日間培養し、陽性対照として通性Cs+輸送体であるOsHAK5(Yamaki et al., 2017. Physiol. Plant 160:425-436.)を用いた。
【0057】
高親和性K+輸送体を欠損した出芽酵母BYT12(trk1Δ trk2Δ)細胞を用いて、K+に対する増殖反応を調べた。培養のOD600nmはプレートリーダー(イマーク、バイオ・ラッド・ラボラトリーズ、ヘラクルス、カリフォルニア州)を用いて測定した。細胞を、蒸留水で0.01のOD600nm値に希釈した。続いて、At ABCG33、At ABCG37、およびAt AKT1を発現する培養細胞10mlを、様々な濃度のKClを含むSD‐Gal(2%ガラクトース)固体培地上に、SD‐Gal培地中の30℃で4日間スポットした。カリウム輸送体であるAt AKT1を陽性対照として用いた(Gaymard et al., 1996J. Biol. Chem. 271:22863-22870.)。実験は少なくとも3回繰り返した。
【0058】
Cs+取り込み実験
ABCG33およびABCG37を発現する出芽酵母W303‐1A細胞を用いて、At ABCG33およびAt ABCG37のCs+取り込み能を調べた。酵母形質転換体を10mlのSD‐Gal培地で一晩培養した。その後、30℃(PlateSpin II、クボタ)で2000gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。次に計5mlのSD-Galを加え、30℃で3時間培養した。50mMの5-フルオロウラシルを5マイクロリットル加え、30℃Cでさらに1時間培養した。その後、細胞計数装置(CDA-1000、シスメックス社、兵庫)を用いて細胞数を測定した。それぞれの培養物を、50mMの5-フルオロウラシルを含むSD-Gal培地で希釈して、1×107細胞(100μl)-1の細胞密度を得た。次に、希釈細胞を30℃で1時間振とう(2000rpm)で培養した(マイクロプレートミクサーN‐704、日伸理化)。次に細胞を3500rpmで2分間遠心分離し、上清を捨て、細胞を20mM HEPES-NaOH(pH 8.5)、2%ブドウ糖、0~10mM 133CsCl、3.9kBq/ml 137CsCl(担体として0.4mMの133CsClを含む)、および50mM 5-フルオロウラシルを含む100μl溶液中で30℃で1時間振とう(2000rpm)で培養した。Cs+でインキュベーション後、培養細胞を2000gで遠心分離し、上清を捨て、細胞を10mM氷冷133CsClで5回洗浄した。媒体から分離した細胞の137CsCl含量を、自動ガンマカウンター(2470 WIZARD2,PerkinElmer,Waltham, MA)で測定した。実験は3回繰り返した。
【0059】
Rb+取り込み実験
実験はTakahashi et al., 2007(J. Exp. Bot. 58:4387-4395.)の方法を若干改変して行った。形質転換酵母細胞をSD培地(ウラシル無添加Dropout培地)で増殖させた。Rb+取り込み実験のために、細胞を取り込み緩衝液(2.0%ガラクトース、10mM MES[pH 8.0])に懸濁し、1mM RbCl中で2時間インキュベートした。細胞を蒸留水中で2回洗浄し、0.1M HCl中で一晩、酸抽出した。細胞試料を5000gで5分間遠心分離して採取し、上清中のRb+を測定した。Rb+含量はICP‐MS(8800 Triple Quadrupole ICP-MS; Agilent)により測定した。挿入断片のないプラスミドpYES2で形質転換した酵母CY192(Δtrk1Δtrk2)を用いて、対照実験を行った。
【0060】
バイオインフォマティクス解析
ABCG37突然変異体の突然変異情報を、SALKトランスファーDNAレポジトリーから収集した(http://signal.salk.edu/cgi-bin/tdnaexpress)および図2Aの概略図は、エクソン-イントロングラフィックマーカー(http://wormweb.org/exonintron)に基づいて描いた。
ABCG輸送体のタンパク質配列をTAIRデータベースから収集し(https://www.arabidopsis.org/index.jsp)およびオンラインクラスターオメガ(https://www.ebi.ac.uk/Tools/msa/clustalo/)ツールを用いて系統樹を構築した。
【0061】
実施例1
1)機能獲得変異体abcg37-1はセシウムに対する感受性の増加を示す
Cs+の新たな輸送体を見出すための探索では、ABC輸送体に着目した。Cs+輸送におけるABCタンパク質の役割を解明するために、ABCタンパク質の原形質膜局在性サブファミリーABCBとABCGに焦点を当て、1.5mM セシウムに対する根の成長反応について利用可能な20のABCB変異体と17のABCG変異体をスクリーニングした。1.5mM セシウムは、野生型で根の生長を約50%阻害する。
【0062】
スクリーニングにより、Cs+に対する応答の変化を示す4つの変異体(abcb15-1、abcg36-1、abcg37-1、abcg42)が明らかになった。土壌からのCs+取り込みに興味があるため、PDR9/ABCG37量の増加をもたらし(Ito, H., and Gray, W.M. (2006), Plant Physiol. 142:63-74)、Cs+に対する感受性の増加を示した機能獲得変異体であることから、さらに研究を進めるためにabcg37-1を選択した。経時的および用量-反応分析により、abcg37-1は、試験したすべての濃度およびすべてのインキュベーション期間において根の生長に対する感受性の増加を示すことが明らかになった。機能獲得変異体におけるCs+の感受性は、ABCG37がCs+の取り込みを促進し、根の増殖阻害および葉のクロロシスの増加をもたらす可能性があることを示唆している(図2BおよびC)。もしそうであれば、機能喪失型変異体が逆の反応を示すことが予想される。これを検証するために、ABCG37の機能欠損変異体(abcg37-2、abcg37-3、およびabcg37-4)のいくつかのアリルを用いた。これらの変異体は、対照条件では目に見える根の表現型を示さない(図2AおよびC)。機能欠損変異体はCs+抵抗性の表現型を示さなかった。
【0063】
2)ABCG37およびABCG33は、根におけるセシウム応答を調節するために重複的に機能する
Cs+に対する機能喪失型ABCG37変異体の野生型様反応(図2B)によって、ABCG37の喪失が別のABCタンパク質によって代償されているのではないかという仮説が立てられた。この仮説を検証するために、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の43のABCGタンパク質の系統解析に基づいて、ABCG37と近縁なホモログを探索した。ABCG33はABCG37の最も近いホモログであり、同じクレードに存在することがわかった。これらはタンパク質レベルで~80%の相同性を示した。
【0064】
二重欠損ホモ接合型「abcg33-1 abcg37-2」変異体を作製し、重複機能仮説を検証した。交配に先立ち、遺伝子発現解析を用いて、abcg33-1とabcg37-2の両変異体がヌル変異体であることを確認した。仮説と一致して、「abcg33-1 abcg37-2-11」、「abcg33-1 abcg37-2-21」、および「abcg33-1 abcg37-2-23」(abcg37-2とabcg33-1の間の3つの独立した交配から得られた3つの独立した植物)が、根の生育抑制と葉のクロロシスの両方についてCs+に対する抵抗性を示すことを見出した(図2DおよびE)。具体的には、対照区と比較して、1.5mMセシウム添加培地で育成した野生型(Col-2)では葉が白く枯れているが、二重欠損変異体(abcg33-1 abcg37-2-11)では葉が白く枯れていない(図2D)。すなわち、二重欠損変異体は、培地からセシウムを吸収することができず、セシウム抵抗性の表現型を示し、セシウム添加培地でも生育可能であるといえる。
【0065】
時間経過および用量反応アッセイから、二重変異体は、全てのインキュベーション期間において、より低い濃度のCs+誘導根の生長阻害に対して強い耐性を示すことが明らかになった。抵抗性の表現型は、Cs+の濃度が次第に高くなるにつれて弱くなる。しかし、初期インキュベーション時点(Cs+で2日間インキュベーションなど)では、二重変異体は濃度にかかわらずCs+に対して強い抵抗性を示した。ABCG37は、IBA(インドール-3-酪酸)排出担体として機能することが示されている(Ruzicka et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U S A 107:10749-10753, 2010)。IBAの大部分はインドール-3-酢酸(IAA)への転換を介して植物発生において機能するため、abcg37、abcg33、および「abcg33 abcg37」変異体が外因性IAAに対する根-成長反応の変化を示すかどうかを調べた。これらの変異体はすべてIAA誘導根成長阻害に対して野生型様反応を示し、これらの変異体のCs+に対する反応の変化はオーキシンの主要な内因性型、IAAとは結びついていないことを示している。これらの結果は、まとめて、ABCG33とABC37は、根におけるCs+応答を調節するために重複的に作用することを確認している。
【0066】
3)セシウムはABCG37とABCG33タンパク質の発現を翻訳レベルで調節する
多くの金属(Cd2+、Pb2+)は、それらに対応するABC輸送体(AtABCG36、AtABCB25、およびAtABCG40)の遺伝子発現を調節することが知られている。さらに、ABCタンパク質を含むシロイヌナズナ遺伝子群の差次的発現がCs+中毒植物で観察された(Hampton, C.R. et al., (2004) Plant Physiol. 136:3824-3837.)。Cs+がABCG37とABCG33の発現を調節するかどうかを試験するために、定量的リアルタイムPCRを用いたが、野生型と比較して、Cs+処理植物におけるABCG37およびABCG33の転写物に有意な変化は観察されなかった。この観察結果は矛盾するものではなく、輸送体の転写が基質の適用によって影響を受けないことが示されている場合も少なくない。
【0067】
ABCG37とABCG33の定量的リアルタイムPCR分析は、ABCG37とABCG33がセシウムの直接的転写調節下にないことを示した。Cs+が翻訳レベルでABCG33とABCG37を調節するかどうかを理解するために、GFP標識株を用いてこれらのタンパク質の細胞発現をモニターした。以前に、ABCG33とABCG37の両方が細胞膜に局在することが報告されている(Ruzicka et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U S A 107:10749-10753, 2010;Schuetz et al., 2014, Plant Physiol. 166:798-807.)。また、PIとの共局在化試験により、ABCG33とABCG37の膜局在を確認した。興味深いことに、ABCG37‐GFPとABCG33‐GFP細胞内シグナルの両方が1.5mM Cs+処理により時間依存性で激減することを見出した。GFPシグナルの減少は3日目に最大となるが、これらのタンパク質に対するCs+の効果は2日目から明らかである(図3Aおよび3B)。ABCG33およびABCG37タンパク質に対するCs+効果の特異性を明らかにするため、2種類の根特異的膜タンパク質、PIN2-GFP(Xu, J., and Scheres, B. (2005). Plant Cell 17:525-536.)およびEGFP-LTI6b(Kurup, S. et al. 2005, Plant J. 42:444-453.)を用いた。Cs+はPIN2-GFPシグナルをわずかに低下させたが、LTI6b発現には影響しなかった(図3B)。これらの結果は、Cs+誘導性のABCG33およびABCG37発現の抑制が毒性によるものである可能性を否定するものであり、むしろ、Cs+が膜タンパク質のサブセットを選択的に阻害することを示唆している。
【0068】
ABCG33およびABCG37タンパク質の長期Cs+処理下での蓄積の減少は、タンパク質合成またはタンパク質分解の抑制、または両者の組合せのいずれかによる可能性があった。この点を明らかにするために、短期実験的手法をとり、一般的なタンパク質生合成阻害剤シクロヘキシミド(CHX)とユビキチンプロテアソーム阻害剤MG132を用いた。初期の研究では、50mMのCHXまたはMG132とのプレインキュベーションにより、それぞれタンパク質の合成とタンパク質の分解をうまく阻止できることが示されていた(Geldner, N. et al., (2001) Nature 413:425-428; Takahashi, M. et al., 2017, Plant J. 89:940-956.)。この短期アッセイのために、5日齢のABCG33およびABCG37実生を、モック溶液、50mMのCHX、またはMG132で1時間前処理した後、1.5mMまたは15mMのCs+で3時間インキュベートし、その後撮像に供した。興味深いことに、長期処理とは対照的に、短期Cs+はABCG33およびABCG37発現の有意な上昇をもたらした(図3C~F)。このタンパク質発現の誘導は、CHXで前処理することによって完全に阻止できたが、MG132では阻止できなかった(図3C~F)。このことは、Cs+がタンパク質合成装置を標的として、ABCG33およびABCG37発現を阻害することを示唆している。ABCG33およびABCG37タンパク質発現に対するCs+の対照的な効果は、取り込み担体としてのそれらの効果と一致している。最初は、植物がCs+を感知すると、ABCG33とABCG37を使用してCs+を取り込むが、Cs+が成長に悪影響を及ぼすと植物が感じたらすぐに(それは1.5mM Cs+でのインキュベーション約2日目から開始する(図3A~B))、Cs+の長期毒性から保護するための防御機構として輸送体活性を遮断する。このプロセスは、ABCG33とABCG37の特異的タンパク質合成経路の標的化を介して行われる。
【0069】
4)ABCG37およびABCG33は機能的に重複したセシウム流入担体である
Cs+取り込みにおけるABCG33およびABCG37の潜在的役割を確認するために、まず、放射性標識セシウム(137Cs)を用いてシロイヌナズナの根における短期取り込みアッセイを行った。野生型および二重変異体のCs+取り込み能を放射性137Cs+を用いた直接取り込み試験により測定した。Cs+取り込みは、低濃度から高濃度の様々なCs+濃度で、K+存在下または非存在下で、2時間観測された(図3)。短期アッセイ系は輸送に対する非特異的効果の可能性を排除する。K+の有無にかかわらず、「abcg33-1 abcg37-2」二重変異体は、試験したすべてのセシウム濃度において、野生型と比較してセシウム取り込み能の低下を示した(図4A~C)。二重変異体株がCs+取り込み能を真に欠いていることを確認するため、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)を用いて、3日間Cs+培養後の野生型と「abcg33-1 abcg37-2」変異体の根のCs+含量を比較した。野生型と比較して、Cs+含量は、すべての試験したK+濃度で「abcg33-1 abcg37-2」変異体株で有意に減少した(図4D)。ICP-MSデータとともに短期間の取り込みデータは、ABCG37およびABCG33がCs+流入担体として機能することを示唆している。
【0070】
5)「abcg33 abcg37」二重変異体ではカリウム応答は変化しない
Cs+とK+は構造的に類似しているため、分かっているほとんどのCs+輸送体がK+を輸送している。本研究では、シロイヌナズナの根のCs+流入を調節する2つのABCGタンパク質を同定した。これらのタンパク質がCs+のみを取り込み、K+は取り込まないことを検証するために、ICP-MSを用いて、野生型および二重変異体における内在K+含量を測定し、さらに、野生型で根成長を50%抑制するK+濃度に対する根成長反応を比較した。ICP-MSデータでは、さまざまなK+濃度で成長した野生型と二重変異体のK+含量に有意差は認められなかった(図5A)。この二重変異体は野生型のように根の生長のための外因性K+に応答する(図5B)。さらに、K+不足やK+十分条件に対する二重変異体の応答もテストした。両条件下で、二重変異体実生の表現型と根の成長反応は、正確に野生型のものと似ていることがわかった(図5CとD)。これらの結果は、ABCG33とABCG37がK+独立型Cs+取り込み担体であるという仮説を支持する証拠を提供する。
【0071】
6)ABCG33とABCG37は酵母細胞でCs + 取り込み活性を示す
異種発現系でABCG33とABCG37の活性によるCs+の取り込みを評価するため、ABCG33とABCG37をGAL1プロモーターで、出芽酵母S.cerevisiaeのW303-1A(Thomas and Rothstein, 1969. Cell 56:619-630.)とBYT12(Rodriguez-Navarro and Ramos 1984. J. Bacteriol. 159:940-945.)株で発現させた。増殖アッセイは、ABCG33とABCG37を発現させた酵母細胞が、ベクターコントロールと比較してCs+に対する感受性が向上したことを示した。通性Cs+輸送体のOsHAK5(Yamaki et al., 2017. Physiol. Plant 160:425-436.)をポジティブコントロールとして使用した場合も同様の感受性を示した(図6A)。137Csを用いた短期取り込みアッセイでは、ABCG33またはABCG37を発現する酵母細胞は、すべての濃度において、空のベクターを保有する細胞よりも2倍多くのCs+を取り込むことができることがわかった(図6B~F)。ABCG33およびABCG37を発現する酵母細胞は、高濃度および低濃度のCs+で同様の取り込みパターンを示したことは、ABCG33およびABCG37が高親和性Cs+輸送体として機能していることを示している。増殖アッセイと取り込みアッセイの両方でABCG33とABCG37が真のCs+輸送体であることを示している。
【0072】
カリウム応答と含量の植物アッセイでは、ABCG33とABCG37がK+とリンクしたCs+取り込み担体ではないことが明らかになった。高親和性カリウム輸送体TRK1およびTRK2を欠くS.cerevisiae BYT12(trk1Δ trk2Δ)細胞を使用して、この仮説を検証した。ABCG33およびABCG37で形質転換されたBYT12細胞は、低濃度のK+で増殖できず、ABCG33およびABCG37にはK+を流入させる能力がないことを示唆す(図6G)。BYT12細胞をカリウム輸送体AtAKT1(Gaymard et al., 1996J. Biol. Chem. 271:22863-22870.)で形質転換すると、低濃度のK+でも増殖でき、増殖遅延はK+の取り込み不足によるものであることが確認された。ABCG33およびABCG37のCs+担体としての特異性をさらに確認するために、K+アナログであるRb+を使用した。ABCG33およびABCG37を発現する酵母細胞は、空のベクターを発現する細胞と比較して、Rb+取り込み能力の変化を何ら示さなかったが、K+輸送体AKT1を発現する細胞は2倍のRb+取り込みを示し(図6H)、ABCG33およびABCG37がCs+特異的担体であることを示している。まとめると、異種発現系データは、植物内のデータを完全に補完し、ABCG33とABCG37がカリウムに依存しないセシウム輸送体であることが確認された。
【配列表フリーテキスト】
【0073】
配列番号1:ABCG33のアミノ酸配列
配列番号2:ABCG37のアミノ酸配列
配列番号3:PDR5のアミノ酸配列
配列番号4:PIS1のアミノ酸配列
配列番号5~22:プライマー
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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