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特開2023-58252液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、液体を吐出する装置、及び、液体吐出ヘッドの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023058252
(43)【公開日】2023-04-25
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、液体を吐出する装置、及び、液体吐出ヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20230418BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
B41J2/14 603
B41J2/14 305
B41J2/16 305
B41J2/16 517
B41J2/14 613
B41J2/16 507
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021168153
(22)【出願日】2021-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(72)【発明者】
【氏名】黒田 隆彦
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF40
2C057AF93
2C057AG75
2C057AN01
2C057AN05
2C057AP31
2C057AP53
2C057BA04
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】微細な構造をもつ液体吐出ヘッドであっても、ダンパー部材が適切に機能を発揮して高い液体吐出精度を得る。
【解決手段】液体流路から供給される各圧力室内の液体を、アクチュエータ基板上の電気機械変換素子を駆動して各ノズルから吐出する液体吐出ヘッドであって、ダンパーフレーム基板65上に成膜されたダンパー膜66によって前記液体流路内の圧力変動を吸収するダンパー部材60を備え、ダンパー部材が適切に機能を発揮して高い液体吐出精度を得る。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体流路から供給される各圧力室内の液体を、アクチュエータ基板上の電気機械変換素子を駆動して各ノズルから吐出する液体吐出ヘッドであって、
ダンパーフレーム基板上に成膜されたダンパー膜によって前記液体流路内の圧力変動を吸収するダンパー部材を備えることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記ダンパー膜は、互いに材料の異なる複数の層からなる積層膜であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項3】
請求項2に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記複数の層は、圧縮応力が生じる層と引っ張り応力が生じる層とを含むことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記ダンパー膜の応力は、圧縮応力であれば50[MPa]以下であり、引っ張り応力であれば150[MPa]以下であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記ダンパー膜は、無機材料で形成されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドを含むことを特徴とする液体吐出ユニット。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド、又は、請求項6に記載の液体吐出ユニットを備えることを特徴とする液体を吐出する装置。
【請求項8】
液体流路から供給される各圧力室内の液体を、アクチュエータ基板上の電気機械変換素子を駆動して各ノズルから吐出するとともに、前記液体流路内の圧力変動をダンパー部材によって吸収する液体吐出ヘッドの製造方法であって、
ダンパーフレーム基板上にダンパー膜を成膜して前記ダンパー部材を形成することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の液体吐出ヘッドの製造方法において、
前記ダンパーフレーム基板上に形成した犠牲層の上に前記ダンパー膜を構成するダンパー膜構成層を形成した後、該犠牲層の一部を除去して前記ダンパー膜の変位空間を形成することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の液体吐出ヘッドの製造方法において、
前記犠牲層の一部を除去するために前記ダンパー膜構成層に形成した空間形成用孔を、該ダンパー膜構成層の上に積層される他のダンパー膜構成層によって封止することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の液体吐出ヘッドの製造方法において、
前記ダンパーフレーム基板上に前記犠牲層を形成して、該犠牲層の前記一部と他部との間に隔壁形成用孔を形成した後、前記ダンパー膜構成層を形成して該隔壁形成用孔を該ダンパー膜構成層で充填し、その後、前記犠牲層の前記一部をエッチングにより除去するものであり、
前記犠牲層は、前記ダンパー膜構成層に対するエッチングレートが高いことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の液体吐出ヘッドの製造方法において、
前記犠牲層はシリコンであり、前記ダンパー膜構成層はシリコン酸化膜であることを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項13】
請求項11に記載の液体吐出ヘッドの製造方法において、
前記犠牲層はシリコン酸化膜であり、前記ダンパー膜構成層はシリコン膜又はポリシリコン膜であることを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、液体を吐出する装置、及び、液体吐出ヘッドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液体流路から供給される圧力室内の液体を、アクチュエータ基板上の電気機械変換素子を駆動してノズルから吐出する液体吐出ヘッドが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、インク貯留室(液体流路)の圧力変動を吸収するダンパー板(ダンパー部材)の耐インクを向上させる目的で、ダンパー板をセラミックで形成したインクジェット式記録ヘッド(液体吐出ヘッド)が開示されている。この記録ヘッドでは、打ち抜き法を用いて所望のパターンが形成されたセラミック材料(グリーンシート)からなるダンパー板を、セラミック材料(グリーンシート)からなるダンパー室形成板(ダンパーフレーム基板)に重ねた後に焼成することによって、ダンパー板がダンパー室形成板に接合されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来の液体吐出ヘッドは、微細な構造では、ダンパー部材の機能を十分に発揮できず、クロストークによる液体吐出精度の低下という課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するために、本発明は、液体流路から供給される各圧力室内の液体を、アクチュエータ基板上の電気機械変換素子を駆動して各ノズルから吐出する液体吐出ヘッドであって、ダンパーフレーム基板上に成膜されたダンパー膜によって前記液体流路内の圧力変動を吸収するダンパー部材を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、微細な構造をもつ液体吐出ヘッドであっても、ダンパー部材が十分に機能を発揮できるので、クロストークによる液体吐出精度の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態における液体吐出ヘッドの外観斜視説明図。
図2】同液体吐出ヘッドの分解斜視説明図。
図3】同液体吐出ヘッドの断面斜視説明図。
図4】同液体吐出ヘッドのフレーム部材を除いた分解斜視説明図。
図5】同液体吐出ヘッドの流路部分の断面斜視説明図。
図6】同液体吐出ヘッドの流路部分の拡大断面斜視説明図。
図7】同液体吐出ヘッドの流路部分の平面説明図。
図8】同液体吐出ヘッドのダンパー部材を示す斜視図。
図9図8に示す破線部分を拡大した平面図。
図10図9における符号Aで示す箇所の断面図。
図11図9における符号Bで示す箇所の断面図。
図12】(a)~(e)は、同ダンパー部材の各製造工程における図9の符号Aで示す箇所の断面図。
図13】(a)~(e)は、同ダンパー部材の各製造工程における図9の符号Bで示す箇所の断面図。
図14】変形例1のダンパー部材について、図9における符号Aで示す箇所に相当する箇所の断面図。
図15】変形例2のダンパー部材について、図9における符号Aで示す箇所に相当する箇所の断面図。
図16】実施形態のヘッドモジュールの分解斜視説明図。
図17】実施形態のヘッドモジュールのノズル面側から見た分解斜視説明図。
図18】実施形態における印刷装置の概略説明図。
図19】印刷装置のヘッドユニットの一例の平面説明図。
図20】印刷装置の一例の要部平面説明図。
図21】印刷装置の一例の要部側面説明図。
図22】液体吐出ユニットの一例の要部平面説明図。
図23】液体吐出ユニットの一例の正面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を、液体を吐出する装置に設けられる液体吐出ヘッドに適用した一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態における液体吐出ヘッドの外観斜視説明図である。
図2は、同液体吐出ヘッドの分解斜視説明図である。
図3は、同液体吐出ヘッドの断面斜視説明図である。
図4は、同液体吐出ヘッドのフレーム部材を除いた分解斜視説明図である。
図5は、同液体吐出ヘッドの流路部分の断面斜視説明図である。
図6は、同液体吐出ヘッドの流路部分の拡大断面斜視説明図である。
図7は、同液体吐出ヘッドの流路部分の平面説明図である。
【0009】
本実施形態の液体吐出ヘッド1は、ノズル板10と、流路板(個別流路部材)20と、振動板部材30と、共通流路部材50と、ダンパー部材60と、フレーム部材80と、駆動回路102を実装した基板(フレキシブル配線基板)101とを備えている。ノズル板10を構成するノズル基板、個別流路部材20及び振動板部材30を構成するアクチュエータ基板、共通流路部材50を構成するサブフレーム基板、及び、ダンパー部材60を構成するダンパー基板は、いずれも単結晶Siウェハを基板材料とし、MEMSや半導体デバイスの微細加工技術によって、Siウェハ上に複数のチップ(液体吐出ヘッド)を同時に作製し、チップ化後の各基板を接合して、液体吐出ヘッドとなる。
【0010】
ノズル板10には、液体を吐出する複数のノズル11が設けられている。複数のノズル11は、二次元状にマトリクス配置され、図7に示すように、第1方向F、第2方向S及び第3方向Tの三方向に並んで配置されている。
【0011】
個別流路部材20は、複数のノズル11に各々連通する複数の圧力室(個別液室)21と、複数の圧力室21に各々通じる複数の個別供給流路22と、複数の圧力室21に各々通じる複数の個別回収流路23とを形成している。1つの圧力室21とこれに通じる個別供給流路22及び個別回収流路23とを併せて個別流路25と称する。
【0012】
振動板部材30は、圧力室21の変形可能な壁面である振動板31を形成し、振動板31には圧電素子40が一体に設けられている。また、振動板部材30には、個別供給流路22に通じる供給側開口32と、個別回収流路23に通じる回収側開口33とが形成されている。圧電素子40は、電気機械変換素子であり、振動板31を変形させて圧力室21内の液体を加圧する圧力発生手段である。
【0013】
なお、個別流路部材20と振動板部材30とは、部材として別部材であることに限定さるものではない。例えば、SOI(Silicon On Insulator)基板を使用して個別流路部材20及び振動板部材30を同一部材で一体に形成することができる。つまり、シリコン基板上に、シリコン酸化膜、シリコン層、シリコン酸化膜の順に成膜されたSOI基板を使用し、シリコン基板を個別流路部材20とし、シリコン酸化膜、シリコン層及びシリコン酸化膜とで振動板31を形成することができる。この構成では、SOI基板のシリコン酸化膜、シリコン層及びシリコン酸化膜の層構成が振動板部材30となる。このように、振動板部材30は個別流路部材20の表面に成膜された材料で構成されるものを含む。
【0014】
共通流路部材50は、2以上の個別供給流路22に通じる複数の共通供給流路支流52と、2以上の個別回収流路23に通じる複数の共通回収流路支流53とを、ノズル11の第2方向Sに交互に隣接して形成している。
【0015】
共通流路部材50には、個別供給流路22の供給側開口32と共通供給流路支流52を通じる供給口54となる貫通孔と、個別回収流路23の回収側開口33と共通回収流路支流53を通じる回収口55となる貫通孔とが形成されている。
【0016】
また、共通流路部材50は、複数の共通供給流路支流52に通じる1又は複数の共通供給流路本流56と、複数の共通回収流路支流53に通じる1又は複数の共通回収流路本流57とを形成している。
【0017】
ダンパー部材60は、共通供給流路支流52の供給口54と対面する(対向する)供給側ダンパー62と、共通回収流路支流53の回収口55と対面する(対向する)回収側ダンパー63とを有している。
【0018】
ここで、共通供給流路支流52及び共通回収流路支流53は、同じ部材である共通流路部材50に交互に並べて配列された溝部を、ダンパー部材60の供給側ダンパー62又は回収側ダンパー63で封止することで構成している。なお、ダンパー部材60のダンパー材料としては、有機溶剤に強い金属薄膜又は無機薄膜を用いることが好ましい。ダンパー部材60の供給側ダンパー62、回収側ダンパー63の部分の厚みは10μm以下が好ましい。
【0019】
本実施形態の液体吐出ヘッド1には、ノズル11からの液体吐出時に生じる液体流路(例えば個別供給流路22)の圧力変動が他のノズル11からの液体吐出に与える影響(例えばクロストーク)を抑制するダンパー部材60が設けられている。ダンパー部材60が適切にダンパー機能を発揮することで、液体吐出時の振動(圧力変動)が液体を介して伝播して、隣接するノズルの液体吐出に影響するというクロストークを抑制でき、各ノズル11の液体吐出精度を安定させることができる。
【0020】
一般的なダンパー部材は、ダンパー板の変位を可能とするための変位空間(空隙)が形成されたダンパーフレーム基板にダンパー板を重ね合わせ、両者を接着剤により接合して構成される。しかしながら、接着剤を用いた接合方法では、ダンパー板とダンパーフレーム基板との位置合わせ精度のばらつきや、変位空間への接着剤のはみ出し量のばらつきが避けられず、ダンパー機能のばらつきが大きく、液体吐出精度のばらつきが生じる。
【0021】
一方、セラミックで形成されるダンパー板及びダンパーフレーム基板を焼結により接合する従来の液体吐出ヘッドによれば、接着剤を用いない接合方法であるため、変位空間(空隙)への接着剤のはみ出し量のばらつきが発生しない。しかしながら、ダンパーフレーム基板に対し、これと別部材であるダンパー板を重ね合わせる必要があるため、ダンパー板の薄層化が困難である。そのため、近年の微細化が進んでいる液体吐出ヘッドにおいて要求されるダンパー機能を実現することが難しく、各ノズルの高い液体吐出精度を得ることが難しい。
【0022】
そこで、本実施形態におけるダンパー部材60は、ダンパーフレーム基板上にダンパー膜を成膜した構成となっている。この構成においては、半導体製造プロセスの成膜技術等を用いることで、薄いダンパー膜をダンパーフレーム基板上に高い精度で成膜することが可能である。よって、本実施形態の液体吐出ヘッド1は、微細化が進んでいる液体吐出ヘッドに要求されるダンパー機能を実現可能なダンパー部材60を備えることができる。したがって、本実施形態によれば、微細な構造をもつ液体吐出ヘッド1において、ダンパー部材60が適切にダンパー機能を発揮し、液体吐出精度を安定化させることができる。
【0023】
図8は、本実施形態におけるダンパー部材60を示す斜視図である。
図9は、図8に示す破線部分を拡大した平面図である。
図10は、図9における符号Aで示す箇所の断面図である。
図11は、図9における符号Bで示す箇所の断面図である。
【0024】
なお、実際には、複数のチップ(液体吐出ヘッド1)に対応する複数のダンパー部材60をSiウェハ上に作成するが、ここでは、1つの液体吐出ヘッド1に対応する1つのダンパー部材60について説明する。
【0025】
図8に示すように、ダンパー部材60は矩形板状の部材であり、ダンパー部材60には、その長辺に沿って、共通流路部材50の共通供給流路本流56と共通回収流路本流57とに連通する貫通孔61A,61Bが形成されており、これらの貫通孔61A,61Bに挟まれた領域に、ダンパー膜である供給側ダンパー62及び回収側ダンパー63が形成されている。
【0026】
ダンパー部材60の供給側ダンパー62及び回収側ダンパー63は、図8及び図9に示すように、ダンパーフレーム基板65に形成される凹部(空隙)64とその凹部を覆うダンパー膜66とから構成される。凹部(空隙)64は、ダンパー膜66の変位を可能とするための変位空間である。供給側ダンパー62及び回収側ダンパー63の空隙64は、空隙隔壁によって互いに仕切られている。
【0027】
ダンパー部材60は、ダンパー膜66を構成する複数の層(ダンパー構成膜)のうちの一部のダンパー構成膜をダンパーフレーム基板65上に成膜した後、当該一部のダンパー構成膜に空間形成用孔である空隙形成孔64bを形成する。そして、犠牲層除去法により、空隙形成孔64bを介して、当該一部のダンパー構成膜及び空隙隔壁67に囲まれたダンパーフレーム基板65の部分を除去し、除去した空間が空隙64となる。空隙64の形成後、空隙形成孔64bを封止するために、残りのダンパー構成膜を成膜する。
【0028】
残りのダンパー構成膜での封止(成膜)は真空中で行うため、後で空隙64を大気解放する必要がある。そのため、空隙64の形成とともに、空隙64に連通した大気連通部68を形成し、ダイシングでチップ化するときに、チップ端部で大気連通部68が露出し、空隙64が大気解放されるようにしている。
【0029】
次に、本実施形態におけるダンパー部材60の製造工程の一例について説明する。
図12(a)~(e)は、ダンパー部材60の各製造工程における図9の符号Aで示す箇所の断面図である。
図13(a)~(e)は、ダンパー部材60の各製造工程における図9の符号Bで示す箇所の断面図である。
まず、ダンパー部材60を構成するダンパーフレーム基板65として、図12(a)及び図13(a)に示すSOIウェハを準備する。このSOIウェハは、例えば、面方位(110)のシリコン単結晶基板(例えば板厚400[μm])65の上に、BOX層65aとして厚さ0.3[μm]の熱酸化膜が形成され、その上にシリコン単結晶膜として厚さ10[μm]の活性層65bが形成されたものである。
【0030】
活性層65bには、図12(a)及び図13(a)に示すように、後の犠牲層除去法による空隙作成工程におけるエッチングのバリア層を充填するための隔壁形成用孔としてのバリア層充填溝65cを形成する。このバリア層充填溝65cは、例えば、一般的なリソエッチ法によって形成することができる。
【0031】
ダンパーフレーム基板65上の活性層65bにバリア層充填溝65cを形成したら、図12(b)及び図13(b)に示すように、バリア層となるダンパー構成膜のうちの1層目であるシリコン酸化膜66aを熱酸化法で成膜する。このシリコン酸化膜66aは、バリア層充填溝65c内に充填されることで、バリア層となる。
【0032】
ダンパー構成膜の1層目であるシリコン酸化膜66aでバリア層充填溝65cを埋めるためには、例えば、以下の式(1)に示す条件を満たす必要がある。なお、式(1)において、「W」は、バリア層充填溝65cの溝幅であり、「T」は、シリコン酸化膜66aの膜厚である。例えば、シリコン酸化膜66aの膜厚Tを0.9[μm]とする場合、バリア層充填溝65cは、約1[μm]の溝幅Wを必要とする。
W ≧ 0.56×2T ・・・(1)
【0033】
バリア層充填溝65cに充填されるシリコン酸化膜66aは、後述するように、空隙64を区画する空隙隔壁64aとなる。この空隙隔壁64aの強度を確保する必要がある場合には、バリア層充填溝65cを並列に複数形成し、並列する複数の空隙隔壁64aによって空隙64を区画するように構成してもよい。
【0034】
ここで、成膜されたシリコン酸化膜66aには圧縮応力が作用するため、このまま空隙64を形成すると、シリコン酸化膜66aが座屈してしまうおそれがある。そこで、本実施形態では、シリコン酸化膜66aの座屈を抑制するために、シリコン酸化膜66aの上に、引っ張り応力が作用する膜として、例えばシリコン窒化膜66bを形成する。これにより、空隙64を覆うダンパー膜66の応力バランスをとることができ、座屈やシワの発生を抑制することができる。
【0035】
このとき、ダンパー膜66の全体応力は、圧縮応力であれば50[MPa]以下であり、引っ張り応力であれば150[MPa]以下であるのが好ましい。この範囲であれば、必要なダンパー機能を確保でき、かつ、応力によるダンパー膜66の破損を抑制できる。
【0036】
また、ダンパー膜66は、無機材料で形成するのが好ましい。無機材料を採用することで、樹脂材料を採用する場合のような工法の熱履歴の制約がなく、選択できる工法の自由度が高い。
【0037】
続いて、空隙64を形成するために、図12(c)及び図13(c)に示すように、シリコン酸化膜66a及びシリコン窒化膜66bに、空隙形成孔64bを一般的なリソエッチ法で形成する。その後、シリコン単結晶膜である活性層65bをエッチングできる方法、例えばSFガスのドライエッチ法による犠牲層除去法により、空隙形成孔64bを介して、空隙64となる部分の活性層65bを除去し、変位空間としての空隙64を形成する。
【0038】
次に、空隙形成孔64bを封止するために、図12(d)及び図13(d)に示すように、ダンパー膜66を構成する3層のうちの残りの1層のダンパー構成膜として、例えばシリコン酸化膜66cを、CVD法等により成膜する。これにより、3層の積層膜であるダンパー膜66が成膜される。
【0039】
本実施形態のダンパー膜66は、上述したように、ダンパー機能としての膜剛性の確保、座屈回避、バリア層充填溝65cへの充填による空隙隔壁64aの形成、空隙形成孔64bの封止という複数の役割を果たすために、積層構成を採用している。本実施形態では、ダンパー膜66が、シリコン酸化膜(シリコン熱酸化膜)66a、シリコン窒化膜66b、シリコン酸化膜66cの3層構成としたが、これに限られない。ダンパー膜66は、上述した複数の役割のうちの少なくとも1つの役割を果たすことのできる材料であれば、別の材料であってもよく、また層数も2層以下でも4層以上でもよい。
【0040】
また、次に、図12(e)及び図13(e)に示すように、一般的なリソエッチ法によって、液体供給用の貫通孔61A,61Bを形成する。その後、液体に触れる箇所に液体耐性膜69として、例えば厚さ50[nm]程度のTaSiO膜を、ALD法等により成膜する。
【0041】
最後に、ダンパー部材60をチップ化するためにステルスダイシングを実施する。チップ化前までは、空隙64が真空下で成膜され、密閉されているため、大気圧に対して負圧になっており、空隙64を覆っているダンパー膜66(66a,66b,66c)は空隙64側に撓んでいる。しかしながら、この撓みは、チップ化と同時に大気連通部68を介して空隙64が大気解放されるため、解消される。
【0042】
以上、本実施形態では、ダンパー部材60の作成において、接着剤による接合工程が無いため、空隙64への接着剤のはみ出し量のばらつきによるダンパー機能のばらつきが生じず、液体吐出精度のばらつきが抑制される。また、本実施形態のダンパー部材60は、上述したように、半導体製造プロセス等における微細加工技術によって作製されるため、今後もさらなる高密度化、高精度化が進む液体吐出ヘッド1に対応することができる。したがって、高精度で信頼性の高いダンパー部材60を提供でき、高精度で信頼性の高い液体吐出ヘッド1を実現できる。
【0043】
加えて、従来のダンパー部材のように、ダンパー板とダンパーフレーム基板という別々の部材を接合して作製するのではなく、Siウェハ上でダンパー膜66とダンパーフレーム基板65とからなるダンパー部材60を一体形成するので、製造コストの低減や歩留まり改善効果も得ることができる。
【0044】
〔変形例1〕
次に、本実施形態における液体吐出ヘッド1のダンパー部材60の一変形例(以下、本変形例を「変形例1」という。)について説明する。
図14は、本変形例1のダンパー部材60について、図9における符号Aで示す箇所に相当する箇所の断面図である。
【0045】
本変形例1は、上述した実施形態のダンパー部材60に比べて、材料コストを低減するものである。具体的には、上述した実施形態のダンパー部材60はSOIウェハからなるダンパーフレーム基板65を用いて作製するが、本変形例1においては、ウェハコストがSOIウェハよりも大幅に安価(例えば約1/10程度)なシリコンウェハからなるダンパーフレーム基板65を用いて作製する。
【0046】
上述した実施形態では、空隙64を形成するエッチング(犠牲層除去法)の際、除去される空隙64の深さは、SOIウェハが有する活性層65bの厚さで決まる。すなわち、エッチングによって活性層65bがエッチングされてBOX層65aが露出しても、エッチングの選択比(エッチングレート)が非常に大きいため、BOX層65aでエッチングは停止する結果、空隙64の深さは活性層65bの厚さのみによって実質的に決まる。
【0047】
これに対し、本変形例1では、シリコンウェハの表面部分(シリコン部分)をエッチング(犠牲層除去法)で除去することで空隙64を形成することになる。そのため、上述した実施形態のBOX層65aのようなエッチングを停止させるバリア層(エッチングストップ層)が存在しないので、除去される空隙64の深さは、図14に示すように、上述した実施形態に比べてばらつきが大きくなる。特に、空隙64の深さが空隙隔壁64aの高さよりも大きくならないように注意が必要である。
【0048】
本変形例1においては、エッチング条件を適切に選択することで、空隙64の深さについて、所望のダンパー機能が得られる空隙64の深さ公差許容値を設計上のばらつき範囲内に制御することが可能である。したがって、本変形例1によれば、材料コストを抑えて製造コストを低減しつつも、十分なダンパー機能を発揮するダンパー部材60を得ることができる。
【0049】
〔変形例2〕
次に、本実施形態における液体吐出ヘッド1のダンパー部材60の他の変形例(以下、本変形例を「変形例2」という。)について説明する。
図15は、本変形例2のダンパー部材60について、図9における符号Aで示す箇所に相当する箇所の断面図である。
【0050】
本変形例2も、上述した変形例1と同様、上述した実施形態のダンパー部材60に比べて材料コストを低減するため、シリコンウェハからなるダンパーフレーム基板65を用いてダンパー部材60を作製する。ただし、本変形例2では、シリコンウェハ上に、犠牲層及び空隙隔壁67となる層として、例えばシリコン酸化膜65dを成膜する。そして、このシリコン酸化膜65dにバリア層充填溝65cを形成した後、バリア層となるダンパー構成膜のうちの1層目の層を成膜する。
【0051】
このとき、ダンパー構成膜のうちの1層目の層としては、犠牲層となるシリコン酸化膜65dに対する選択比が高い例えばポリシリコン膜66a'を成膜する。その後の工程は、上述した実施形態と同様であるが、犠牲層除去法ではHFベーパー処理を用いてシリコン酸化膜65dを除去する。
【0052】
本変形例2においても、材料コストを抑えて製造コストを低減しつつも、十分なダンパー機能を発揮するダンパー部材60を得ることができる。
【0053】
次に、本実施形態の液体吐出ヘッド1を備えるヘッドモジュールの一例について、図16及び図17を参照して説明する。
図16は、本実施形態のヘッドモジュールの分解斜視説明図である。
図17は、本実施形態のヘッドモジュールのノズル面側から見た分解斜視説明図である。
【0054】
ヘッドモジュール100は、液体を吐出する液体吐出ヘッド(以下、単に「ヘッド」ともいう。)1と、複数のヘッド1を保持するベース部材103と、複数のヘッド1のノズルカバー15となるカバー部材113とを備えている。また、ヘッドモジュール100は、放熱部材104と、複数のヘッド1に対して液体を供給する流路を形成しているマニホールド105と、フレキシブル配線部材101と接続するプリント基板(PCB)106と、モジュールケース107とを備えている。
【0055】
次に、本発明に係る液体を吐出する装置の一例について、図18及び図19を参照して説明する。
図18は、本実施形態における液体を吐出する装置としてのインクジェット記録装置である印刷装置の概略説明図である。
図19は、本実施形態の印刷装置のヘッドユニットの一例の平面説明図である。
【0056】
この液体を吐出する装置である印刷装置500は、連続体510を搬入する搬入手段501と、搬入手段501から搬入された連続体510を印刷手段505に案内搬送する案内搬送手段503と、連続体510に対して液体を吐出して画像を形成する印刷を行う印刷手段505と、連続体510を乾燥する乾燥手段507と、連続体510を搬出する搬出手段509などを備えている。
【0057】
連続体510は搬入手段501の元巻きローラ511から送り出され、搬入手段501、案内搬送手段503、乾燥手段507、搬出手段509の各ローラによって案内、搬送されて、搬出手段509の巻取りローラ591にて巻き取られる。この連続体510は、印刷手段505において、搬送ガイド部材559上をヘッドユニット550に対向して搬送され、ヘッドユニット550から吐出される液体によって画像が印刷される。
【0058】
本実施形態の印刷装置500では、ヘッドユニット550に、上述した本実施形態に係る2つのヘッドモジュール100A,100Bを共通ベース部材552に備えている。
【0059】
そして、ヘッドモジュール100A,100Bの搬送方向と直交する方向におけるヘッド1の並び方向をヘッド配列方向とするとき、ヘッドモジュール100Aのヘッド列1A1,1A2で同じ色の液体を吐出する。同様に、ヘッドモジュール100Aのヘッド列1B1、1B2を組とし、ヘッドモジュール100Bのヘッド列1C1、1C2を組とし、ヘッド列1D1、1D2を組として、それぞれ所要の色の液体を吐出する。
【0060】
次に、本発明に係る液体を吐出する装置としての印刷装置の他の例について、図20及び図21を参照して説明する。
図20は、本例の印刷装置の要部平面説明図である。
図21は、本例の印刷装置の要部側面説明図である。
【0061】
本例の印刷装置500は、シリアル型装置であり、主走査移動機構493によって、キャリッジ403は主走査方向に往復移動する。主走査移動機構493は、ガイド部材401、主走査モータ405、タイミングベルト408等を含む。ガイド部材401は、左右の側板491A、491Bに架け渡されてキャリッジ403を移動可能に保持している。そして、主走査モータ405によって、駆動プーリ406と従動プーリ407間に架け渡したタイミングベルト408を介して、キャリッジ403は主走査方向に往復移動される。
【0062】
このキャリッジ403には、本発明に係る液体吐出ヘッドであるヘッド1及びヘッドタンク441を一体にした液体吐出ユニット440を搭載している。液体吐出ユニット440のヘッド1は、例えば、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色の液体を吐出する。また、液体吐出ヘッド1は、複数のノズルからなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配置し、吐出方向を下方に向けて装着している。液体吐出ヘッド1は、液体循環装置と接続されて、所要の色の液体が循環供給される。
【0063】
この印刷装置500は、用紙410を搬送するための搬送機構495を備えている。搬送機構495は、搬送手段である搬送ベルト412、搬送ベルト412を駆動するための副走査モータ416を含む。搬送ベルト412は用紙410を吸着してヘッド1に対向する位置で搬送する。この搬送ベルト412は、無端状ベルトであり、搬送ローラ413と、テンションローラ414との間に掛け渡されている。吸着は静電吸着、あるいは、エアー吸引などで行うことができる。そして、搬送ベルト412は、副走査モータ416によってタイミングベルト417及びタイミングプーリ418を介して搬送ローラ413が回転駆動されることによって、副走査方向に周回移動する。
【0064】
さらに、キャリッジ403の主走査方向の一方側には搬送ベルト412の側方に液体吐出ヘッド1の維持回復を行う維持回復機構420が配置されている。維持回復機構420は、例えばヘッド1のノズル面をキャッピングするキャップ部材421、ノズル面を払拭するワイパ部材422などで構成されている。また、主走査移動機構493、維持回復機構420、搬送機構495は、側板491A,491B、背板491Cを含む筐体に取り付けられている。
【0065】
このように構成した印刷装置500においては、用紙410が搬送ベルト412上に給紙されて吸着され、搬送ベルト412の周回移動によって用紙410が副走査方向に搬送される。そこで、キャリッジ403を主走査方向に移動させながら画像信号に応じてヘッド1を駆動することにより、停止している用紙410に液体を吐出して画像を形成する。
【0066】
次に、本発明に係る液体吐出ユニットの他の例について、図22を参照して説明する。
図22は、本例の液体吐出ユニットの要部平面説明図である。
【0067】
この液体吐出ユニット440は、前記液体を吐出する装置を構成している部材のうち、側板491A、491B及び背板491Cで構成される筐体部分と、主走査移動機構493と、キャリッジ403と、ヘッド1で構成されている。
【0068】
なお、この液体吐出ユニット440の例えば側板491Bに、前述した維持回復機構420を更に取り付けた液体吐出ユニットを構成することもできる。
【0069】
次に、本発明に係る液体吐出ユニットの更に他の例について、図23を参照して説明する。
図23は、本例の液体吐出ユニットの正面説明図である。
【0070】
この液体吐出ユニット440は、流路部品444が取付けられたヘッド1と、流路部品444に接続されたチューブ456で構成されている。
【0071】
なお、流路部品444はカバー442の内部に配置されている。流路部品444に代えてヘッドタンク441を含むこともできる。また、流路部品444の上部には液体吐出ヘッド1と電気的接続を行うコネクタ443が設けられている。
【0072】
本願において、吐出される液体は、ヘッドから吐出可能な粘度や表面張力を有するものであればよく、特に限定されないが、常温、常圧下において、または加熱、冷却により粘度が30mPa・s以下となるものであることが好ましい。より具体的には、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やたんぱく質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、などを含む溶液、懸濁液、エマルジョンなどであり、これらは例えば、インクジェット用インク、表面処理液、電子素子や発光素子の構成要素や電子回路レジストパターンの形成用液、3次元造形用材料液等の用途で用いることができる。
【0073】
液体を吐出するエネルギー発生源として、圧電アクチュエータ(積層型圧電素子及び薄膜型圧電素子)、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、振動板と対向電極からなる静電アクチュエータなどを使用するものが含まれる。
【0074】
「液体吐出ユニット」は、液体吐出ヘッドに機能部品、機構が一体化したものであり、液体の吐出に関連する部品の集合体が含まれる。例えば、「液体吐出ユニット」は、ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、主走査移動機構、液体循環装置の構成の少なくとも一つを液体吐出ヘッドと組み合わせたものなどが含まれる。
【0075】
ここで、一体化とは、例えば、液体吐出ヘッドと機能部品、機構が、締結、接着、係合などで互いに固定されているもの、一方が他方に対して移動可能に保持されているものを含む。また、液体吐出ヘッドと、機能部品、機構が互いに着脱可能に構成されていても良い。
【0076】
例えば、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。また、チューブなどで互いに接続されて、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。ここで、これらの液体吐出ユニットのヘッドタンクと液体吐出ヘッドとの間にフィルタを含むユニットを追加することもできる。
【0077】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジが一体化されているものがある。
【0078】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドを走査移動機構の一部を構成するガイド部材に移動可能に保持させて、液体吐出ヘッドと走査移動機構が一体化されているものがある。また、液体吐出ヘッドとキャリッジと主走査移動機構が一体化されているものがある。
【0079】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドが取り付けられたキャリッジに、維持回復機構の一部であるキャップ部材を固定させて、液体吐出ヘッドとキャリッジと維持回復機構が一体化されているものがある。
【0080】
また、液体吐出ユニットとして、ヘッドタンク若しくは流路部品が取付けられた液体吐出ヘッドにチューブが接続されて、液体吐出ヘッドと供給機構が一体化されているものがある。このチューブを介して、液体貯留源の液体が液体吐出ヘッドに供給される。
【0081】
主走査移動機構は、ガイド部材単体も含むものとする。また、供給機構は、チューブ単体、装填部単体も含むものとする。
【0082】
なお、ここでは、「液体吐出ユニット」について、液体吐出ヘッドとの組み合わせで説明しているが、「液体吐出ユニット」には上述した液体吐出ヘッドを含むヘッドモジュールやヘッドユニットと上述したような機能部品、機構が一体化したものも含まれる。
【0083】
「液体を吐出する装置」には、液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、ヘッドモジュール、ヘッドユニットなどを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて液体を吐出させる装置が含まれる。液体を吐出する装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0084】
この「液体を吐出する装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
【0085】
例えば、「液体を吐出する装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
【0086】
また、「液体を吐出する装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0087】
上記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
【0088】
上記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0089】
また、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。
【0090】
また、「液体を吐出する装置」としては、他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液を、ノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などがある。
【0091】
なお、本願の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形等はいずれも同義語とする。
【0092】
以上に説明したものは一例であり、次の態様毎に特有の効果を奏する。
[第1態様]
第1態様は、液体流路(例えば個別供給流路22)から供給される各圧力室21内の液体(例えばインク)を、アクチュエータ基板(例えば個別流路部材20及び振動板部材30)上の電気機械変換素子(例えば圧電素子40)を駆動して各ノズル11から吐出する液体吐出ヘッド1であって、ダンパーフレーム基板65上に成膜されたダンパー膜66によって前記液体流路内の圧力変動を吸収するダンパー部材60を備えることを特徴とするものである。
一般的なダンパー部材は、ダンパー板の変位を可能とするための変位空間(例えば空隙64)が形成されたダンパーフレーム基板にダンパー板を重ね合わせ、両者を接着剤により接合して構成される。
しかしながら、接着剤を用いた接合方法では、ダンパー板とダンパーフレーム基板との位置合わせ精度のばらつきや、変位空間への接着剤のはみ出し量のばらつきが避けられず、ダンパー機能のばらつきが大きく、液体吐出精度のばらつきが生じる。
一方、セラミック材料(グリーンシート)同士のダンパー板及びダンパーフレーム基板を焼結により互いに接合する従来の液体吐出ヘッドによれば、接着剤を用いない接合方法であるため、変位空間への接着剤のはみ出し量のばらつきが発生しない。しかしながら、ダンパーフレーム基板に対し、これと別部材であるダンパー板を重ね合わせる必要があるため、その重ね合わせ作業時に必要となる剛性確保などの観点から、ダンパー板に相応の厚みを持たせる必要があり、ダンパー板の薄層化が困難である。近年の微細化が進んでいる液体吐出ヘッドにおいて十分なダンパー機能を実現するためには、より薄いダンパー板が必要とされるため、従来の液体吐出ヘッドでは、微細化時に要求されるダンパー機能を実現することが難しく、各ノズルの高い液体吐出精度を得ることが難しい。
本態様においては、ダンパー部材が、ダンパーフレーム基板上にダンパー膜を成膜した構成となっている。この構成においては、半導体製造プロセスの成膜技術等を用いることで、薄いダンパー膜をダンパーフレーム基板上に高い精度で成膜することが可能である。よって、本態様の液体吐出ヘッドは、微細化が進んでいる液体吐出ヘッドに要求されるダンパー機能を実現可能なダンパー部材を備えることができる。したがって、本態様によれば、微細な構造をもつ液体吐出ヘッドであっても、ダンパー部材が適切に機能を発揮して高い液体吐出精度を得ることができる。
【0093】
[第2態様]
第2態様は、第1態様において、前記ダンパー膜は、互いに材料の異なる複数の層66a~66cからなる積層膜であることを特徴とするものである。
これによれば、ダンパー膜66の応力制御、ダンパー膜66の剛性制御が容易になる。
【0094】
[第3態様]
第3態様は、第2態様において、前記複数の層は、圧縮応力が生じる層(例えばシリコン酸化膜66a,66c)と引っ張り応力が生じる層(例えばシリコン窒化膜66b)とを含むことを特徴とするものである。
ダンパー膜66に大きな圧縮応力が作用する場合、ダンパー板の変位を可能とするための変位空間(例えば空隙64)を形成した後にダンパー膜66が座屈して破損したりシワが発生したりする。一方、ダンパー膜66に大きな引っ張り応力が作用する場合、ダンパー膜66に過剰な張力が生じてダンパー膜66が破損する。本態様によれば、ダンパー膜66に作用する応力を適切な範囲に制御(応力制御)が容易である。
【0095】
[第4態様]
第4態様は、第1乃至第3態様のいずれかにおいて、前記ダンパー膜の応力は、圧縮応力であれば50[MPa]以下であり、引っ張り応力であれば150[MPa]以下であることを特徴とするものである。
このような応力範囲であれば、必要なダンパー機能を確保でき、かつ、応力によるダンパー膜66の破損を抑制できる。
【0096】
[第5態様]
第5態様は、第1乃至第4態様のいずれかにおいて、前記ダンパー膜は、無機材料で形成されていることを特徴とするものである。
これによれば、ダンパー膜として樹脂材料を採用する場合のような工法の熱履歴の制約がないので、選択できる工法の自由度が高い。
【0097】
[第6態様]
第6態様は、液体吐出ユニットであって、第1乃至第5態様のいずれかの液体吐出ヘッドを含むことを特徴とするものである。
本態様によれば、微細な構造をもつ液体吐出ヘッドであってもダンパー部材が適切に機能を発揮して高い液体吐出精度が得られる液体吐出ユニットを提供することができる。
【0098】
[第7態様]
第7態様は、液体を吐出する装置であって、第1乃至第5態様のいずれかの液体吐出ヘッド、又は、第6態様の液体吐出ユニットを備えることを特徴とするものである。
本態様によれば、微細な構造をもつ液体吐出ヘッドであってもダンパー部材が適切に機能を発揮して高い液体吐出精度が得られる液体を吐出する装置を提供することができる。
【0099】
[第8態様]
第8態様は、液体流路(例えば個別供給流路22)から供給される各圧力室21内の液体(例えばインク)を、アクチュエータ基板(例えば個別流路部材20及び振動板部材30)上の電気機械変換素子(例えば圧電素子40)を駆動して各ノズル11から吐出するとともに、前記液体流路内の圧力変動をダンパー部材60によって吸収する液体吐出ヘッド1の製造方法であって、ダンパーフレーム基板65上にダンパー膜66を成膜して前記ダンパー部材60を形成することを特徴とするものである。
本態様によれば、微細な構造をもつ液体吐出ヘッドであっても、ダンパー部材が適切に機能を発揮して高い液体吐出精度が得られる液体吐出ヘッドを提供することができる。
【0100】
[第9態様]
第9態様は、第8態様において、前記ダンパーフレーム基板上に形成した犠牲層(例えば活性層65b)の上に前記ダンパー膜を構成するダンパー膜構成層(例えばシリコン酸化膜66a)を形成した後、該犠牲層の一部を除去して前記ダンパー膜の変位空間(例えば空隙64)を形成することを特徴とするものである。
本態様によれば、微細な構造をもつ液体吐出ヘッドであっても、ダンパー部材が適切に機能を発揮して高い液体吐出精度が得られる液体吐出ヘッドを提供することができる。
【0101】
[第10態様]
第10態様は、第9態様において、前記犠牲層の一部を除去するために前記ダンパー膜構成層に形成した空間形成用孔(例えば空隙形成孔64b)を、該ダンパー膜構成層の上に積層される他のダンパー膜構成層(例えばシリコン酸化膜66c)によって封止することを特徴とするものである。
空間形成用孔を封止しないまま残すと、後の工程において既存の一般的な工法を採用することが難しくなるが、本態様によれば、空間形成用孔が封止されるため、後の工程において既存の一般的な工法を採用できる。また、ダンパー膜の成膜工程時に空間形成用孔を封止することができるので、封止のための追加の工程が不要となる。したがって、製造工程の簡素化、製造コストの低減を図ることができる。
【0102】
[第11態様]
第11態様は、第9又は第10態様において、前記ダンパーフレーム基板上に前記犠牲層を形成して、該犠牲層の前記一部(例えば空隙64となる部分)と他部(例えば空隙隔壁67となる部分)との間に隔壁形成用孔(例えばバリア層充填溝65c)を形成した後、前記ダンパー膜構成層を形成して該隔壁形成用孔を該ダンパー膜構成層で充填し、その後、前記犠牲層の前記一部をエッチングにより除去するもの(犠牲層除去法)であり、前記犠牲層は、前記ダンパー膜構成層に対するエッチングレートが高いことを特徴とするものである。
これによれば、犠牲層のうちの変位空間(例えば空隙64)となる一部をエッチングにより除去する際、エッチングにより除去しないで残す他部(例えば空隙隔壁67)がエッチングされないようにすることができる。
【0103】
[第12態様]
第12態様は、第11態様において、前記犠牲層はシリコンであり、前記ダンパー膜構成層はシリコン酸化膜であることを特徴とする液体吐出ヘッドのものである。
本態様によれば、上述した変形例1で述べたとおり、安価なシリコンウェハを用いてダンパー部材60を作製することができるので、製造コストの低減を図ることができる。
【0104】
[第13態様]
第13態様は、第11態様において、前記犠牲層はシリコン酸化膜であり、前記ダンパー膜構成層はシリコン膜又はポリシリコン膜であることを特徴とする液体吐出ヘッドのものである。
本態様によれば、上述した変形例2で述べたとおり、安価なシリコンウェハを用いてダンパー部材60を作製することができるので、製造コストの低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0105】
1 :液体吐出ヘッド
10 :ノズル板
11 :ノズル
20 :個別流路部材
21 :圧力室
22 :個別供給流路
23 :個別回収流路
25 :個別流路
30 :振動板部材
31 :振動板
32 :供給側開口
33 :回収側開口
40 :圧電素子
50 :共通流路部材
52 :共通供給流路支流
53 :共通回収流路支流
54 :供給口
55 :回収口
56 :共通供給流路本流
57 :共通回収流路本流
60 :ダンパー部材
61 :貫通孔
62 :供給側ダンパー
63 :回収側ダンパー
64 :空隙
64a :空隙隔壁
64b :空隙形成孔
65 :ダンパーフレーム基板
65a :BOX層
65b :活性層
65c :バリア層充填溝
65d :シリコン酸化膜
66 :ダンパー膜
66a :シリコン酸化膜
66a' :ポリシリコン膜
66b :シリコン窒化膜
66c :シリコン酸化膜
67 :空隙隔壁
68 :大気連通部
69 :液体耐性膜
80 :フレーム部材
100 :ヘッドモジュール
101 :フレキシブル配線部材
102 :駆動回路
103 :ベース部材
104 :放熱部材
105 :マニホールド
107 :モジュールケース
440 :液体吐出ユニット
500 :印刷装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0106】
【特許文献1】特開2002-36539号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23