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特開2023-58381タンパク質、ポリヌクレオチド、組換えベクター、形質転換体、ポリエチレンテレフタレート分解用組成物、及びリサイクル品の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023058381
(43)【公開日】2023-04-25
(54)【発明の名称】タンパク質、ポリヌクレオチド、組換えベクター、形質転換体、ポリエチレンテレフタレート分解用組成物、及びリサイクル品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/55 20060101AFI20230418BHJP
   C12N 9/14 20060101ALI20230418BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20230418BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230418BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230418BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230418BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230418BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230418BHJP
   C12P 1/00 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
C12N15/55
C12N9/14
C12N15/10 200Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021168388
(22)【出願日】2021-10-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)Akihiko Nakamura,Naoya Kobayashi,Nobuyasu Koga,and Ryota Iino,Positive Charge Introduction on the Surface of Thermostabilized PET Hydrolase Facilitates PET Binding and Degradation,ACS Catal.2021,11,8550-8564(令和3年6月29日公開) (2)第3回ExCELLSシンポジウム オンラインポスター(令和2年12月21日公開) (3)令和3年7月1日付プレスリリース(国立大学法人 静岡大学のウェブサイトに掲載されたpdf資料) (4)令和3年7月1日付プレスリリース(国立大学法人 静岡大学のウェブサイト) (5)令和3年7月1日付プレスリリース(大学共同利用機関法人 自然科学研究機構分子化学研究所のウェブサイト)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(71)【出願人】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 彰彦
(72)【発明者】
【氏名】飯野 亮太
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC04
4B050DD02
4B050FF14E
4B050LL05
4B064CA21
4B064DA16
4B065AA26X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC15
4B065BA02
4B065CA31
4B065CA55
(57)【要約】
【課題】耐熱性及びPET加水分解活性に優れる新規のタンパク質、前記タンパク質をコードする核酸配列を含むポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む組換えベクター、前記組換えベクターを含む形質転換体、前記タンパク質を含むポリエチレンテレフタレート分解用組成物、及び前記タンパク質を用いたリサイクル品の製造方法を提供する。
【解決手段】タンパク質はPET加水分解活性を有し、PET2野生型に対してR20C及びG62Cの変異を少なくとも有する。
【選択図】図6A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレート加水分解活性を有する、以下のいずれかのアミノ酸配列を含むタンパク質。
(A)配列番号1のアミノ酸配列に対してR20C及びG62Cの変異を有するアミノ酸配列;
(A1)配列番号1のアミノ酸配列に対してR20C及びG62Cの変異を有するアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ前記R20C及びG62Cの変異を有するアミノ酸配列;
(B)配列番号1のアミノ酸配列に対してR20C、G62C、S129P、及びT270Pの変異を有するアミノ酸配列;
(B1)配列番号1のアミノ酸配列に対してR20C、G62C、S129P、及びT270Pの変異を有するアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ前記R20C、G62C、S129P、及びT270Pの変異を有するアミノ酸配列;
(C)配列番号1のアミノ酸配列に対してR20C、G62C、S129P、T270P、G153A、E83K、及びF78Rの変異を有するアミノ酸配列;又は
(C1)配列番号1のアミノ酸配列に対してR20C、G62C、S129P、T270P、G153A、E83K、及びF78Rの変異を有するアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ前記R20C、G62C、S129P、T270P、G153A、E83K、及びF78Rの変異を有するアミノ酸配列。
【請求項2】
前記ポリエチレンテレフタレート加水分解活性のpH7.0における至適温度が60.0℃超である、請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
融解温度が70.0℃以上である、請求項1又は2に記載のタンパク質。
【請求項4】
前記ポリエチレンテレフタレート加水分解活性が、カルシウムイオン非依存性である、請求項1~3のいずれか1項に記載のタンパク質。
【請求項5】
pH7.0において、配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質よりも高いポリエチレンテレフタレート加水分解活性を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のタンパク質。
【請求項6】
前記R20C及びG62Cの変異の箇所の2つのシステイン残基がジスルフィド結合を形成する、請求項1~5のいずれか1項に記載のタンパク質。
【請求項7】
以下のいずれかのアミノ酸配列を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のタンパク質。
(A)配列番号1のアミノ酸配列に対してR20C及びG62Cの変異を有するアミノ酸配列;
(B)配列番号1のアミノ酸配列に対してR20C、G62C、S129P、及びT270Pの変異を有するアミノ酸配列;又は
(C)配列番号1のアミノ酸配列に対してR20C、G62C、S129P、T270P、G153A、E83K、及びF78Rの変異を有するアミノ酸配列。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のタンパク質をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項8に記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
【請求項10】
請求項9に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか1項に記載のタンパク質を含む、ポリエチレンテレフタレート分解用組成物。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか1項に記載のタンパク質によりポリエチレンテレフタレートを分解することを含む、リサイクル品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タンパク質、ポリヌクレオチド、組換えベクター、形質転換体、ポリエチレンテレフタレート分解用組成物、及びリサイクル品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックによる環境汚染の解決や持続可能な社会の構築が重要視されている。その中でポリエチレンテレフタレート(PET)は国内で生産されているプラスチックの約4%を占めており、飲料ボトル、衣類等、身近に使用されている。現在PETの大半は焼却処分されたり、カーペット等に変換利用されたりしているが、持続可能な利用のためには再利用することが望ましい。現在実用化されているPETのリサイクルでは、粉砕後熱処理して再成形する物理リサイクルと、化学触媒で分解後再重合するケミカルリサイクルの2通りが採用されている。しかしながら、前者では物性の低下や着色が問題となり、後者では危険性の高い薬品や高温処理が必要である。腐食性の高い薬品の使用量と必要な熱量を減らすことができる酵素を用いたPET分解技術は今後の社会で重要となる技術である。
【0003】
PET分解酵素として、PET資化性細菌由来のIsPETaseの活性を向上させた変異体が報告されている(特許文献1参照)。また、ワックス層であるクチンを分解するクチナーゼを起源とするCut190(特許文献2参照)、並びに耐熱性及びPET分解活性を向上させた変異体としてもう1つのクチナーゼであるLCCも報告されている(特許文献3、4参照)。
【0004】
一方でPETのエステル結合は、上記以外のエステラーゼでも分解が可能である。例えば、2009年にリパーゼとして発見された環境ゲノム由来のLipIAF5.2酵素(非特許文献1参照)は、2018年に、PET分解活性を持つことが報告され、PET2と命名された(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2019/168811号
【特許文献2】特開2015-119670号公報
【特許文献3】国際公開第2012/099018号
【特許文献4】特表2019-527060号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Meilleur, C.; Hupe, J. F.; Juteau, P.; Shareck, F. Isolation and Characterization of a New Alkali-Thermostable Lipase Cloned from a Metagenomic Library. J. Ind. Microbiol. Biotechnol. 2009, 36, 853-61.
【非特許文献2】Danso, D.; Schmeisser, C.; Chow, J.; Zimmermann, W.; Wei, R.; Leggewie, C.; Li, X.; Hazen, T.; Streit, W. R. New Insights into the Function and Global Distribution of Polyethylene Terephthalate (Pet)-Degrading Bacteria and Enzymes in Marine and Terrestrial Metagenomes. Appl. Environ. Microbiol. 2018, 84, No. e02773-17.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来知られているPET分解酵素は、リサイクルに使用するうえではそれぞれ課題を有する。例えば、IsPETaseは耐熱性が低いという問題がある。また、Cut190及びLCCはカルシウムイオン依存性を有し、不純物を可能な限り低減することが望まれるリサイクルに用いるうえでは不利である。さらに、PET2も、耐熱性とPET分解活性は他の酵素と比較して高いとはいえなかった。
【0008】
本開示は、耐熱性及びPET加水分解活性に優れる新規のタンパク質、前記タンパク質をコードする核酸配列を含むポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む組換えベクター、前記組換えベクターを含む形質転換体、前記タンパク質を含むポリエチレンテレフタレート分解用組成物、及び前記タンパク質を用いたリサイクル品の製造方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段は、以下の態様を含む。
<1> ポリエチレンテレフタレート加水分解活性を有する、以下のいずれかのアミノ酸配列を含むタンパク質。
(A)配列番号1のアミノ酸配列に対してR20C及びG62Cの変異を有するアミノ酸配列;
(A1)配列番号1のアミノ酸配列に対してR20C及びG62Cの変異を有するアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ前記R20C及びG62Cの変異を有するアミノ酸配列;
(B)配列番号1のアミノ酸配列に対してR20C、G62C、S129P、及びT270Pの変異を有するアミノ酸配列;
(B1)配列番号1のアミノ酸配列に対してR20C、G62C、S129P、及びT270Pの変異を有するアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ前記R20C、G62C、S129P、及びT270Pの変異を有するアミノ酸配列;
(C)配列番号1のアミノ酸配列に対してR20C、G62C、S129P、T270P、G153A、E83K、及びF78Rの変異を有するアミノ酸配列;又は
(C1)配列番号1のアミノ酸配列に対してR20C、G62C、S129P、T270P、G153A、E83K、及びF78Rの変異を有するアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ前記R20C、G62C、S129P、T270P、G153A、E83K、及びF78Rの変異を有するアミノ酸配列。
<2> 前記ポリエチレンテレフタレート加水分解活性のpH7.0における至適温度が60.0℃超である、<1>に記載のタンパク質。
<3> 融解温度が70.0℃以上である、<1>又は<2>に記載のタンパク質。
<4> 前記ポリエチレンテレフタレート加水分解活性が、カルシウムイオン非依存性である、<1>~<3>のいずれか1項に記載のタンパク質。
<5> pH7.0において、配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質よりも高いポリエチレンテレフタレート加水分解活性を有する、<1>~<4>のいずれか1項に記載のタンパク質。
<6> 前記R20C及びG62Cの変異の箇所の2つのシステイン残基がジスルフィド結合を形成する、<1>~<5>のいずれか1項に記載のタンパク質。
<7> 以下のいずれかのアミノ酸配列を含む、<1>~<6>のいずれか1項に記載のタンパク質。
(A)配列番号1のアミノ酸配列に対してR20C及びG62Cの変異を有するアミノ酸配列;
(B)配列番号1のアミノ酸配列に対してR20C、G62C、S129P、及びT270Pの変異を有するアミノ酸配列;又は
(C)配列番号1のアミノ酸配列に対してR20C、G62C、S129P、T270P、G153A、E83K、及びF78Rの変異を有するアミノ酸配列。
<8> <1>~<7>のいずれか1項に記載のタンパク質をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
<9> <8>に記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
<10> <9>に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
<11> <1>~<7>のいずれか1項に記載のタンパク質を含む、ポリエチレンテレフタレート分解用組成物。
<12> <1>~<7>のいずれか1項に記載のタンパク質によりポリエチレンテレフタレートを分解することを含む、リサイクル品の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、耐熱性及びPET加水分解活性に優れる新規のタンパク質、前記タンパク質をコードする核酸配列を含むポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む組換えベクター、前記組換えベクターを含む形質転換体、前記タンパク質を含むポリエチレンテレフタレート分解用組成物、及び前記タンパク質を用いたリサイクル品の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】PET加水分解酵素によるPET加水分解の概要、並びにPET及びその加水分解産物の概要を示す図である。PETは水不溶性の合成ポリマーであり結晶性領域及び非晶性領域を有する。PET加水分解酵素はPET表面に結合し非晶性領域の可動域において分子鎖を捕捉して活性部位に取り込む。PET鎖はビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)、(ヒドロキシエチル)テレフタレート(MHET)、テレフタル酸(TPA)、及びエチレングリコール(EG)に加水分解される。
図2A】PET2野生型の評価を示す。図2Aは残存活性から調べた熱安定性を表す。pH7.0において40~90℃の各温度で1時間処理後、1mMのBHETを0.1μMの酵素で60℃、10分間、pH7.0で加水分解した。生産されたMHET濃度(μM)を定量し、酵素濃度(0.1μM)及び反応時間(600秒)で除算して活性を算出した。
図2B】PET2野生型の評価を示す。図2Bは60℃、10分間のBHET加水分解活性のpH依存性を示す。生産されたMHET濃度(μM)を定量し、酵素濃度(0.1μM)及び反応時間(600秒)で除算して活性を算出した。PET2の非存在下で産生されたMHET濃度はバックグランドとして差し引いた。
図2C】PET2野生型の評価を示す。図2Cは20℃(実線)及び95℃(破線)における、10mMリン酸ナトリウム溶液(pH7.0)内でのPET2野生型のCDスペクトルを示す。230nmでのシグナルを融解温度(Tm)解析に用いた。
図2D】PET2野生型の評価を示す。図2Dは昇温中の230nmでのシグナル変化を示す。
図3A】PET2の各変異体のTmと非晶性PET加水分解活性を示す。図3AはPET2野生型のホモロジーモデリング構造を示す。変異の位置は棒状に表示されている。
図3B】PET2の各変異体のTmと非晶性PET加水分解活性を示す。図3Bは単一変異及びジスルフィド結合形成のためのシステイン対の概要を表す。IsPETaseの野生型又は変異体に基づく変異(◆)、プロリン変異(●)、アラニン変異(▲)、システイン対変異(▼)を野生型(WT)(■)と共にプロットしている。非晶性PETディスク(0.32cm、4.0mg)を、50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)中で、60℃で60分、0.1μMの酵素と共にインキュベートした。生産されたTPA、MHET,BHETを合計した。活性値は、生成物の総濃度(μM)を酵素濃度(0.1μM)及び反応時間(60分)で除算して算出した。
図3C】PET2の各変異体のTmと非晶性PET加水分解活性を示す。図3Cは変異の統合の概要を表す。変異の順序は矢印で示されている。活性分析条件は図3Bで示したものと同じである。
図4】PET2変異体のX線結晶構造を示す。 (A)PET2(2M)のX線結晶構造。非対称ユニットのB鎖分子が示されている。触媒トライアド(S175、D221、及びH253)及び変異を受けるアミノ酸残基が示されている。 (B)PET2(7M)のX線結晶構造。触媒トライアド(S175、D221、及びH253)及び変異したアミノ酸残基が示されている。 (C)pH7.0でのPET2野生型、PET2(7M)、及びIsPETaseの表面電荷。PET2野生型構造は、PET2(2M)変異構造の逆変異によって再構築した。各構造において、触媒ポケットは破線の円で示されている。
図5A】PET薄膜上のPET2野生型とPET2(7M)の結合及び解離の単一分子蛍光イメージングを示す。図5AはPET薄膜の明視野像を示す。スケール=2μm。
図5B】PET薄膜上のPET2野生型とPET2(7M)の結合及び解離の単一分子蛍光イメージングを示す。図5Bは50pMでのAlexa Fluor 555標識PET2(7M)の結合及び解離の例を示す。シグナル強度の経時変化から推定される結合時間は0.6秒である。
図5C】PET薄膜上のPET2野生型とPET2(7M)の結合及び解離の単一分子蛍光イメージングを示す。図5Cは10nMのPET2(7M)で染色されたPET薄膜の蛍光画像を示す。図5Aと同じ視野を観察した。スケール=2μm。
図5D】PET薄膜上のPET2野生型とPET2(7M)の結合及び解離の単一分子蛍光イメージングを示す。図5Dは結合分子の累積数の経時変化を示す。PET2野生型とPET2(7M)の各動画の個々の軌跡が示されている。100分子の結合に要する時間から結合速度定数を算出した。
図5E】PET薄膜上のPET2野生型とPET2(7M)の結合及び解離の単一分子蛍光イメージングを示す。図5Eは二重指数関数的減衰関数によりフィッティングしたPET2野生型の結合時間の分布を示す。フィッティング曲線の面積から遅い解離イベントと速い解離イベントの割合を算出した。
図5F】PET薄膜上のPET2野生型とPET2(7M)の結合及び解離の単一分子蛍光イメージングを示す。図5Fは、二重指数関数的減衰関数によりフィッティングしたPET2(7M)の結合時間の分布を示す。野生型と同様の方法により遅い解離イベントと速い解離イベントの割合を算出した。
図6A】活性の温度依存性と経時変化を示す。図6Aは非晶性PET加水分解活性の温度依存性を示す。PET2野生型(■)、PET2(4M)(●)、PET2(5M)(▲)、PET2(7M)(▼)の温度依存性が示されている。TPA、MHET及びBHETの濃度を合計し、生成物の合計として示している。活性は、生成物(μM)の合計を酵素濃度(0.1μM)及び反応時間(60分)で除算して算出した。68℃でのPET2(7M)の最大活性は60℃での野生型の最大活性の6.8倍であった。プロットは3回の測定の平均と標準偏差を示す。
図6B】活性の温度依存性と経時変化を示す。図6Bは非晶性PET加水分解活性の経時変化を示す。PET2野生型とPET2(7M)は、それぞれ60℃、68℃で反応させた。プロットは3回の測定の平均と標準偏差を示す。
図6C】活性の温度依存性と経時変化を示す。図6CはPET2野生型(左)及びPET2(7M)(右)により非晶性PETフィルムから生成したTPA、MHET、及びBHETのプロットを塗りつぶしたものを表す。生成物の合計量は図6Bと合致する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本開示の実施形態は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示の実施形態を制限するものではない。
【0013】
本開示において「工程」との語及びこれに準ずる語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0014】
本開示において、アミノ酸配列の「同一性」とは、比較する2つのアミノ酸配列を、アミノ酸残基の一致数が最大となるように、必要に応じて一方又は双方に適宜ギャップを挿入してアラインメントしたときの、全アミノ酸残基数における一致アミノ酸残基数の割合をいう。アラインメントは、BLAST、FASTA、CLUSTAL W等の周知のアラインメントツールを用いて行うことができる。例えば、アラインメントは、BLASTのデフォルトパラメータで評価することができる。
【0015】
本開示において、基準とするアミノ酸配列と「X%以上の配列同一性を有する」とは、比較対象のアミノ酸配列の全長又は一部分が、基準とするアミノ酸配列の全長に対してX%以上の配列同一性を有することを意味する。
【0016】
本開示において、アミノ酸残基は以下の括弧内の一文字表記又は三文字表記で示すことがある。
アラニン(A、Ala)、アルギニン(R、Arg)、アスパラギン(N、Asn)、アスパラギン酸(D、Asp)、システイン(C、Cys)、グルタミン(Q、Gln)、グルタミン酸(E、Glu)、グリシン(G、Gly)、ヒスチジン(H、His)、イソロイシン(I、Ile)、ロイシン(L、Leu)、リシン(K、Lys)、メチオニン(M、Met)、フェニルアラニン(F、Phe)、プロリン(P、Pro)、セリン(S、Ser)、スレオニン(T、Thr)、トリプトファン(W、Trp)、チロシン(Y、Tyr)、バリン(V、Val)。
【0017】
本開示において、ペプチド又はタンパク質のアミノ酸変異は、変異前のアミノ酸の一文字表記、N末端からのアミノ酸位置番号、変異後のアミノ酸の一文字表記、の順に並べて表記することがある。例えば、「配列番号1のアミノ酸配列に対してR20Cの変異を有する」とは、配列番号1のN末端から数えて20番目のアルギニンがシステインに置換されていることを意味する。
【0018】
本開示において、「Xのアミノ酸配列を含むタンパク質」とは、当該タンパク質のアミノ酸配列の全部又は一部がXのアミノ酸配列であることを意味する。すなわち、当該タンパク質は、Xのアミノ酸配列のみからなってもよく、Xのアミノ酸配列に加えて、Xのアミノ酸のN末端及びC末端の一方又は両方に付加配列(例えばタンパク質発現及び回収のための配列、例えばシグナル配列、タグ配列等)を有していてもよい。かかるシグナル配列、タグ配列等の付加配列は当業者に周知である。塩基配列についても同様であり、例えば「Yの塩基配列を含むポリヌクレオチド」とは、当該ポリヌクレオチドの塩基配列の全部又は一部がYの塩基配列であることを意味する。
【0019】
本開示において、タンパク質の「PET加水分解活性」は、測定対象のタンパク質とPETを所定の反応条件下に置いた後、HPLCで分解産物濃度を分析し、分解産物濃度の合計をタンパク質濃度及び反応時間で除算して得られる値とする。本開示におけるPET加水分解活性は、別段の指定がない場合、pH7.0における活性を表す。
カラム:Phenomenex Luna C18 (2)
溶離液:20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)からメタノールまでの勾配
流量 :1ml/min.
カラム温度:25℃
検出 :210nm
注入量:10μL
【0020】
PETの加水分解による分解産物としては、図1に示すように、ビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)、(ヒドロキシエチル)テレフタレート(MHET)、テレフタル酸(TPA)、及びエチレングリコール(EG)が挙げられる。本開示のタンパク質によるPETの分解産物は、これらすべてであってもよく、これらのうち一部であってもよく、これらが連結した部分分解産物であってもよい。
【0021】
<タンパク質>
本開示のタンパク質は、ポリエチレンテレフタレート加水分解活性を有する、以下のいずれかのアミノ酸配列を含むタンパク質である。
(A)配列番号1のアミノ酸配列に対してR20C及びG62Cの変異を有するアミノ酸配列;
(A1)配列番号1のアミノ酸配列に対してR20C及びG62Cの変異を有するアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ前記R20C及びG62Cの変異を有するアミノ酸配列;
(B)配列番号1のアミノ酸配列に対してR20C、G62C、S129P、及びT270Pの変異を有するアミノ酸配列;
(B1)配列番号1のアミノ酸配列に対してR20C、G62C、S129P、及びT270Pの変異を有するアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ前記R20C、G62C、S129P、及びT270Pの変異を有するアミノ酸配列;
(C)配列番号1のアミノ酸配列に対してR20C、G62C、S129P、T270P、G153A、E83K、及びF78Rの変異を有するアミノ酸配列;又は
(C1)配列番号1のアミノ酸配列に対してR20C、G62C、S129P、T270P、G153A、E83K、及びF78Rの変異を有するアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ前記R20C、G62C、S129P、T270P、G153A、E83K、及びF78Rの変異を有するアミノ酸配列。
【0022】
以下、便宜上、上記(A)のアミノ酸配列(配列番号2)を「アミノ酸配列A」とも称し、上記(A1)のアミノ酸配列(アミノ酸配列Aを除く)を「アミノ酸配列A1」とも称し、上記(B)のアミノ酸配列(配列番号3)を「アミノ酸配列B」とも称し、上記(B1)のアミノ酸配列(アミノ酸配列Bを除く)を「アミノ酸配列B1」とも称し、上記(C)のアミノ酸配列(配列番号4)を「アミノ酸配列C」とも称し、上記(C1)のアミノ酸配列(アミノ酸配列Cを除く)を「アミノ酸配列C1」とも称する。
【0023】
配列番号1は、PET2野生型の有するアミノ酸配列を示す。以下、配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質をPET2野生型とも称する。発明者らは、PET2野生型に対して少なくともR20C及びG62Cの変異を有する上記タンパク質が、優れた耐熱性及びPET加水分解活性を有することを見出した。
アミノ酸配列Aは、PET2野生型に対してR20C及びG62Cの変異を少なくとも有する。R20C及びG62Cの変異はPET2の活性部位とは離れた位置に存在するが、驚くべきことに、これらの変異により耐熱性及び活性をいずれも向上できることが見出された。理論に拘束されないが、R20C及びG62Cの変異は、システイン残基対によりジスルフィド結合を形成し、タンパク質自体の安定性を向上させると推測される。
アミノ酸配列Bは、PET2野生型に対してR20C、G62C、S129P、及びT270Pの変異を少なくとも有する。理論に拘束されないが、S129P及びT270Pにより、タンパク質の可動域(不安定部位)に環状のプロリン残基が導入されることによって、タンパク質構造が安定化されると推測される。
アミノ酸配列Cは、PET2野生型に対してR20C、G62C、S129P、T270P、G153A、E83K及びF78Rの変異を少なくとも有する。理論に拘束されないが、G153Aの変異は、PET2のα-ヘリックス内のグリシンをアラニンに置換することにより、構造の安定化に寄与していると推測される。F78Rの変異は、表面電荷を改変することにより、PET加水分解活性を増強すると推測される。また、E83Kの変異により、耐熱性が向上するが、この機序は明らかではない。
【0024】
以下に、配列番号1のアミノ酸配列(PET2野生型のアミノ酸配列)及びアミノ酸配列A~Cを示す。囲み文字は変異部位を表す。
【0025】
【表1】
【0026】
本開示のタンパク質は、アミノ酸配列A~Cの配列を含むか、又はアミノ酸配列A~Cのいずれか1つと90%以上の配列同一性を有し、好ましくは、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ上述した特定の変異を有する。本開示のタンパク質は、アミノ酸配列Aに対して90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものであってもよい。本開示のタンパク質は、上記アミノ酸配列を含み、かつPET加水分解活性を有するタンパク質である。前記PET加水分解活性は、pH7.0においてPET2野生型のPET加水分解活性よりも高いことが好ましい。この場合のPET加水分解活性の比較は、後述の方法により行う。
【0027】
例えば、本開示のタンパク質は、PET加水分解活性を有する範囲で、上記アミノ酸配列同一性を維持し、かつアミノ酸配列A~Cのいずれかに対して1個又は2個以上のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列を含むものであってもよく、かつ上述した特定の変異を有する。この場合、欠失、置換、又は付加されるアミノ酸の個数は、タンパク質がPET加水分解活性を有する限り制限されず、例えば、1~28個、1~25個、1~20個、1~19個、1~18個、1~17個、1~16個、1~15個、1~14個、1~13個、1~12個、1~11個、1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、又は1~2個であってもよい。欠失、置換、又は付加されるアミノ酸の位置は、例えば配列番号1のN末端から1~147番目、149~193番目、195~225番目、及び227~281番目に相当する範囲から選択されてもよい。
【0028】
一態様において、アミノ酸A1は、配列番号1のアミノ酸配列に対してR20C及びG62Cの変異を有するアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ前記R20C及びG62Cの変異を有し、かつS129P、T270P、G153A、E83K、及びF78Rからなる群より選択される少なくとも1つの変異をさらに有してもよい。
一態様において、アミノ酸B1は、配列番号1のアミノ酸配列に対してR20C、G62C、S129P、及びT270Pの変異を有するアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ前記R20C、G62C、S129P、及びT270Pの変異を有し、かつG153A、E83K、及びF78Rからなる群より選択される少なくとも1つの変異を有してもよい。
【0029】
一態様において、本開示のタンパク質は、PET加水分解を有し、アミノ酸配列B、B1、C、又はC1のいずれかのアミノ酸配列を含むタンパク質であることが好ましく、アミノ酸配列C又はC1のいずれかのアミノ酸配列を含むタンパク質であることがより好ましい。
【0030】
一態様において、本開示のタンパク質は、PET加水分解活性を有し、アミノ酸配列A~Cのいずれかのアミノ酸配列を含むタンパク質であることが好ましく、アミノ酸配列B又はCのいずれかのアミノ酸配列を含むタンパク質であることがより好ましく、アミノ酸配列Cのアミノ酸配列を含むタンパク質であることがさらに好ましい。
【0031】
本開示のタンパク質は、PET加水分解活性を損なわない範囲で、N末端又はC末端に付加的なアミノ酸配列を有していてもよい。付加的なアミノ酸配列としては、本開示のタンパク質を組み換え技術により作製するための付加配列が挙げられる。かかる付加配列としては、タンパク質の合成開始点となるアミノ酸(N末端のメチオニン残基等)、N末端のシグナル配列(例えば、大腸菌におけるタンパク質分泌のためのシグナル配列)、タグ配列(例えば、ヒスチジンタグ、GSTタグ、FLAGタグ等)、プロテアーゼ認識配列(例えば、TEVプロテアーゼ認識配列)等が挙げられる。一態様において、付加的なアミノ酸配列は、N末端に付加される配列番号6のアミノ酸配列であってもよく、C末端に付加される配列番号7のアミノ酸配列と配列番号7のC末端にさらに付加される配列番号8のアミノ酸配列との組み合わせであってもよく、これらの組み合わせであってもよい。配列番号6~8は実施例の項に記載する。
付加的なアミノ酸配列のアミノ酸の個数は、タンパク質がPET加水分解活性を有する限り制限されず、例えば、1末端当たり1~50個、1~45個、1~40個、1~35個、1~30個、1~25個、1~20個、1~15個、1~10個、又は1~5個であってもよい。
例えば、本開示のタンパク質は、PET加水分解活性を損なわない範囲で、アミノ酸配列A、A1、B、B1、C、又はC1の配列のいずれかからなる配列のN末端又はC末端に、上記付加的なアミノ酸配列が付加されたものであってもよい。付加的なアミノ酸配列の詳細は上記のとおりである。
【0032】
R20C及びG62Cの変異の箇所の2つのシステイン残基は、ジスルフィド結合を形成していることが好ましい。ジスルフィド結合の形成の有無はX線結晶構造解析により確認できる。
【0033】
本開示のタンパク質のPET加水分解活性の至適pH(最も活性が高いpH)は特に制限されず、中性付近であることが実用上好ましい。例えば、至適pHはpH5.0~9.5であることが好ましく、pH5.5~9.0であることがより好ましく、pH6.0~8.0であってもよい。
【0034】
PETは70℃付近にガラス転移温度を有し、PETの分解を高温で行うと分解効率が高まることが期待されることから、本開示のタンパク質のPET加水分解活性の至適温度(最も活性が高い温度)は、PET2野生型のPET加水分解活性の至適温度より高いことが好ましい。かかる観点から、本開示のタンパク質のPET加水分解活性の至適温度は、pH7.0において、60.0℃超であることが好ましく、65.0℃以上であることがより好ましい。また、PETの分解が促進される範囲で、低エネルギーで分解を行う観点からは、本開示のタンパク質のPET加水分解活性の至適温度は90.0℃以下であってもよく、85.0℃以下であってもよく、80.0℃以下であってもよい。
上記至適温度は以下のように測定する。2枚の非晶性PETディスク(厚さ0.25mm、表面積合計0.32cm、質量合計4.0mg)に、50mMリン酸ナトリウム溶液(pH7.0)中の250μLの0.1μMタンパク質を添加し、各温度で60分間インキュベートする。HPLCで分解産物濃度を分析し、分解産物濃度の合計をタンパク質濃度及び反応時間で除算して、活性値を得る。
【0035】
同様の観点から、本開示のタンパク質の融解温度(Tm)は、PET2野生型のTmよりも高いことが好ましい。本開示のタンパク質のTmは70.0℃以上であることが好ましく、72.0℃以上であることがより好ましく、74.0℃以上であることがさらに好ましい。PETの分解が促進される範囲で、低エネルギーで分解を行うことが望ましいため、本開示のタンパク質の融解温度(Tm)は、100.0℃以下であってもよく、95.0℃以下であってもよく、90.0℃以下であってもよい。
本開示において、タンパク質の融解温度(Tm)は以下の手順で円偏光二色性(CD)スペクトルにより測定される。10mMリン酸ナトリウム溶液(pH7.0)中の13μMのタンパク質溶液を調製する。20℃で250~200nmにおけるタンパク質のCDスペクトルを測定する。タンパク質を20℃から1℃/分の速度で加熱しながら、230nmにおけるタンパク質のシグナルを追跡する。95℃で、250~200nmにおける変性タンパク質のCDスペクトルを測定する。230nmにおけるシグナルの温度依存性のカーブフィッティングにより、タンパク質のTmを推定する。
【0036】
本開示のタンパク質をリサイクル用途に用いる場合の便宜性の観点から、タンパク質のPET加水分解活性はカルシウムイオン非依存性であることが好ましい。
本開示において、タンパク質のPET加水分解活性が「カルシウムイオン非依存性」であることは以下の手順で確認する。0、10、100、及び300mMのCaClを含むbis-Tris-HCl(pH7.0)中の0.1μMのタンパク質溶液の250μLを2枚の非晶性PETフィルム(厚さ0.25mm、表面積合計0.32cm、質量合計4.0mg)と共に60℃で60分間インキュベートする。インキュベーション後、上清を200μL回収し、60μLの超純水又はCaCl溶液と混合し、CaCl濃度を231mMに調整する。混合物をさらに68.6μLの1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)と混合し、リン酸カルシウムを沈殿させる。0.22μmスピンカラムフィルターを用いて15,000gで3分間処理して沈殿物を除去する。HPLCで分解産物濃度を分析し、分解産物濃度の合計をタンパク質濃度及び反応時間で除算して、活性値を得る。PET加水分解活性が、CaCl濃度が0mMである場合と比べて、10、100、及び300mMである場合のいずれにおいても、PET加水分解活性が50%以上変化しない場合に、PET加水分解活性がカルシウム非依存性であると判断する。
【0037】
本開示のタンパク質のpH7.0におけるPET加水分解活性は、PET2野生型のpH7.0における加水分解活性より高いことが好ましく、例えばPET2野生型のpH7.0における加水分解活性より2.0倍以上高いことが好ましく、3.0倍以上高いことがより好ましく、4.0倍以上高いことがさらに好ましく、5.0倍以上高いことが特に好ましい。
PET2野生型と変異体のPET加水分解活性の比較は、それぞれのタンパク質の至適温度での活性の比較により行う。この場合の反応条件は以下の条件とする。2枚の非晶性PETディスク(厚さ0.25mm、表面積合計0.32cm、質量合計4.0mg)に、50mMリン酸ナトリウム溶液(pH7.0)中の250μLの0.1μMタンパク質を添加し、至適温度で60分間インキュベートする。HPLCで分解産物濃度を分析し、分解産物濃度の合計をタンパク質濃度及び反応時間で除算して、活性値を得る。
【0038】
本開示のタンパク質は、ポリヌクレオチドを利用して、公知の遺伝子工学的手法で製造することができる。例えば、対象となるタンパク質のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを作製し、これを発現ベクターに組み込んで組換えベクターを取得し、これを宿主に導入して形質転換体を得る。得られた形質転換体を培養することにより、目的のタンパク質を産生させる。得られたタンパク質を常法により回収することにより、本開示のタンパク質を得ることができる。
【0039】
本開示のタンパク質の用途は特に制限されず、例えば、PETを分解してリサイクルするために用いることができる。また、本開示のタンパク質による分解産物をさらにMHETaseといった分解酵素と作用させることで、テレフタル酸やエチレングリコールの製造に用いることもできる。
【0040】
<ポリヌクレオチド、組換えベクター、形質転換体>
本開示のポリヌクレオチドは、本開示のタンパク質をコードする塩基配列を含む。
本開示の組換えベクターは、前記ポリヌクレオチドを含む。
本開示の形質転換体は、前記組換えベクターを含む。
【0041】
ポリヌクレオチドは、本開示のタンパク質をコードする任意のポリヌクレオチドであってよい。ポリヌクレオチドの核酸配列は、コドンの縮重の範囲内で変化させることができる。組換えベクターを宿主に導入して形質転換体を得て、タンパク質を発現させる場合、宿主において使用頻度の高いコドンを採用することが好ましい。一態様において、大腸菌を宿主とする発現系を用いる場合、R20C及びG62Cのシステイン残基にTGCコドン、S129P及びT270Pのプロリン残基にCCGコドン、G153Aのアラニン残基にGCGコドン、E83Kのリシン残基にAAAコドン、F78Rのアルギニン残基にCGCコドンを用いてもよい。
【0042】
組換えベクターは、本開示のタンパク質を発現可能な任意の組換えベクターであってよい。好ましい組換えベクターとしては、プラスミド、ファージ等が挙げられる。発現ベクターは、発現に必要なプロモーターを有し、ターミネーター、選択マーカー(薬剤耐性遺伝子等)などの他の構成要素を有してもよい。
宿主は、本開示のタンパク質を発現可能であれば特に制限されず、用いる組換えベクターと併せて選択される。宿主として、微生物細胞を用いることが簡便であり、例えば、原核生物(例えば、大腸菌)、真核生物(例えば、酵母)等を用いてもよい。
発現ベクター及び宿主を用いてタンパク質の作製を行う際の、形質転換、発現、及び回収における条件は、当業者に周知の方法を採用できる。
【0043】
<ポリエチレンテレフタレート分解用組成物>
本開示のPET分解用組成物は、本開示のタンパク質を含む。本開示のタンパク質は、未精製の状態(例えば、タンパク質を発現する宿主を含む状態、又はタンパク質を発現する宿主から分泌された粗タンパク質液を含む状態)、又は精製された状態で組成物に含まれていてもよく、好ましくは精製された状態で組成物に含まれる。
【0044】
PET分解用組成物は、本開示のタンパク質の他に、タンパク質の安定化に適する緩衝液等を含んでもよい。緩衝液としては、溶液を中性付近に維持する緩衝液が好ましく、例えば、リン酸緩衝液、リン酸ナトリウム緩衝液、Tris-HCl緩衝液、HEPES等が挙げられる。
【0045】
PET分解用組成物は、カルシウム塩等の塩を含んでもよいが、リサイクル用途を考慮すると、塩の含有率は可能な限り低いことが好ましい。PET分解用組成物において、塩濃度は、50mM以下であることが好ましく、30mM以下であることがより好ましく、20mM以下であることがさらに好ましい。
【0046】
PET分解用組成物は、本開示のタンパク質及び緩衝液の他、安定化剤等の添加剤を含んでもよい。
【0047】
<リサイクル品の製造方法>
本開示のリサイクル品の製造方法は、本開示のタンパク質によりPETを分解することを含む。PETの分解は、PETと本開示のタンパク質を接触させることにより行うことができる。例えば、前述のPET分解用組成物を用いてPETの分解を行ってもよい。
PETとしては、例えば廃PETを利用することができる。
分解反応は、前述の至適pH及び至適温度に近い条件で行うことが好ましい。例えば、分解反応は、好ましくはpH5.0~9.5、より好ましくはpH5.5~9.0の範囲で行われ、pH6.0~8.0の範囲で行ってもよい。分解反応は、上記pHを維持するための適切な緩衝液内で行われることが好ましい。緩衝液としては、上述した緩衝液が挙げられる。また、分解反応は、好ましくは60.0℃超、より好ましくは65.0℃以上の温度で行われる。分解反応の温度の上限は、好ましくは100.0℃未満、より好ましくは95.0℃未満、さらに好ましくは90.0℃未満の温度で行われる。
分解のための反応時間は、リサイクル品の製造に十分な分解が可能であれば、特に制限されない。本開示のタンパク質を用いれば効率的なPET加水分解が可能であるため、反応時間の短縮が期待される。例えば、反応時間は、3日以内でもよく、2日以内でもよく、24時間以内でもよく、18時間以内でもよく、12時間以内でもよく、6時間以内でもよく、3時間以内でもよく、2時間以内でもよく、1時間以内でもよい。十分に分解を行う観点からは、反応時間は10分以上でもよく、30分以上でもよい。反応産物は、十分に再重合可能な状態まで(例えば、基質となるPETの70質量%以上、80質量%以上、又は90質量%以上が分解されるまで)分解されていることが好ましい。
【0048】
一態様において、PETの分解後、分解産物を回収する。回収方法は特に制限されず、公知の方法で行い得る。回収後、分離、抽出、吸着、濃縮、ろ過等の公知の方法により精製してもよい。
分解産物を、再重合によりポリマーを合成するために再利用することによって、リサイクル品を製造できる。分解産物は、PETの製造のために再利用されてもよく、その他のポリマーの製造のために再利用されてもよい。
【実施例0049】
次に本開示の実施形態を実施例により具体的に説明するが、本開示の実施形態はこれらの実施例に限定されない。
【0050】
以下の実施例では、PET2変異体を、大腸菌で発現及び分泌させるためのシグナル配列(27アミノ酸)を用いているため、N末端からのアミノ酸位置番号は、シグナル配列を含むN末端からの位置番号で表されている。例えば、上述の本開示のタンパク質における、配列番号1に対するR20C、G62C、S129P、T270P、G153A、E83K、及びF78Rの変異は、以下の実施例では、それぞれ、PET2野生型に対するR47C、G89C、S156P、T297P、G180A、E110K、及びF105Rの変異に対応する。実施例で用いられたPET2(7M)のアミノ酸配列(配列番号5)(N末端のシグナル配列、並びにC末端のプロテアーゼ認識部位及びヒスチジンタグを含む)、並びにこれに含まれるシグナル配列(配列番号6;配列番号5の1~27番目)、プロテアーゼ認識配列(配列番号7;配列番号5の309~315番目)及びヒスチジンタグ(配列番号8:配列番号5の316~321番目)を以下に示す。配列番号5における囲み文字は変異部位を表し、網掛け文字はN末端側からそれぞれシグナル配列、並びにプロテアーゼ認識部位及びヒスチジンタグを含むタグ配列を表す。実施例で用いられたPET2(2M)は、配列番号5に表示される変異のうち、F105R及びE110Kのみを有するものである。実施例で用いられたPET2(4M)は、配列番号5に表示される変異のうち、F105R、E110K、S156P及びT297Pのみを有するものである。実施例で用いられたPET2(5M)は、配列番号5に表示される変異のうち、F105R、E110K、S156P、T297P、及びG180Aのみを有するものである。
【0051】
【表2】
【0052】
以下に、配列番号5に対応するPET2(7M)の塩基配列(配列番号9)(終止コドンを含む)を示す。
【0053】
【表3】
【0054】
1.緒論
合成ポリマーで構成されるプラスチックは比較的安価で加工性に優れ、現代社会で広く扱われている(1)。しかしながら、持続可能性の観点から、これらによる環境汚染が深刻な問題となっている。特に、ポリエチレンテレフタレート(PET)は大量に生産され、飲料ボトル、衣類、包装材等に広く用いられている(2)。PETは物理的及び化学的に安定な結晶構造を形成でき(3)、エンジニアリングプラスチックに分類される。この安定性により、PETは環境中に長期間残留すると考えられる(4)
【0055】
PETは生分解に対して高い耐性を有するが、その分子鎖はテレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)のカルボン酸エステルにより構成される。したがって、エステラーゼはPETを加水分解により分解する能力を有するはずである。効率的なPET加水分解酵素として最初に報告された酵素はThermobifida fuscaに由来するクチナーゼ(TfH)である(5)。クチナーゼ(EC3.1.1.74)は一般的には植物のワックス層(クチン)の加水分解酵素として登録されているが、Mullerらは、TfHがPET加水分解活性を有することも見出している。2016年には、PETを炭素源とし、PET加水分解酵素(IsPETase)を産生する細菌であるIdeonella sakaiensis 201-F6が発見された(6)。以来、IsPETaseの構造決定、反応メカニズムなど、IsPETaseに関する多くの研究が活発に行われてきた(7-10)。IsPETaseはPET加水分解酵素(EC3.1.1.101)に分類されるが、熱安定性が低く産業的利用が困難であるため、熱安定性を向上した様々な変異体が報告されている(9、11)。かかる観点からは、いくつかのクチナーゼのほうがIsPETaseよりも熱安定性が高く、熱安定PET加水分解酵素の構築に適したテンプレートであるといえる。最も期待されるPET加水分解酵素として、枝葉コンポスト由来クチナーゼ(leaf-branch compost cutinase、LCC)が挙げられる(12)。また、Thermobifida fusca由来のクチナーゼ(TfCut2)は高い熱安定性及び活性を有し(13)、Saccharomonospora viridis由来のクチナーゼ(Cut190)も熱安定性及び活性を改良したものとして作製されている(14、15)。さらに、リパーゼ(EC3.1.1.3)もカルボン酸エステル加水分解酵素の一部であり、PET(16)、ポリ(テトラメチレンサクシネート)(17)、ポリ(ω-ヒドロキシアルカン酸)(18)などのポリエステルに対する加水分解活性を有するものがある。最近、ゼラチン分解リアクターのメタゲノムライブラリーからリパーゼとしてクローン化された酵素(19)が、PET加水分解酵素であるPET2として再発見された(20)。PET2は、人工的な高温環境から得られた遺伝子ライブラリーから見出された熱安定性酵素であり、耐熱性PET加水分解酵素の候補の1つである。
【0056】
PETは水不溶性の合成ポリマーであり、その酵素分解は固液界面で発生する不均一反応である(図1参照)。さらに、PETは分解されやすい非晶性領域と分解されにくい結晶性領域とを有するため、PET加水分解酵素は、PETの非晶性領域の特に可動域を優先的に加水分解すると予想される(12、13、21)。天然ポリマーのなかでは、植物細胞壁の主要構成要素であるセルロースや甲殻類及び菌類の細胞壁の成分であるキチンも水不溶性の結晶性多糖類である(22、23)。これらの水不溶性ポリマーの効率的な分解のためには、固相表面への酵素の結合が重要である。そのため、結晶性セルロースや結晶性キチンに高い分解活性を有するセルラーゼやキチナーゼは、結晶性ポリマー表面に高い親和性で結合するためのドメイン構造を有する(24)。この知見と一致して、IsPETaseは他のカルボキシエステラーゼと比較して酵素表面により多くの塩基性アミノ酸残基を有し、これらの正に帯電した残基がPET分解活性に寄与することが報告されている(25)
【0057】
固体基質への結合親和性は、通常、生化学的吸着測定により得られる解離定数(又は結合定数)を使用して定量的に比較される。しかしながら、この定数は、結合速度定数に対する解離速度定数の比率であるため、生化学的測定のみに基づいて、いずれの速度定数が解離定数の変化の原因であるかを明確に特定することは困難である。したがって、セルラーゼ及びキチナーゼの分析では、単一分子蛍光イメージングを使用して、結合速度定数及び解離速度定数が直接測定されてきた(26-28)。単一分子分析により、結合に重要なアミノ酸残基、及び、細菌由来のセルラーゼと糸状菌由来のセルラーゼとの間でセルロースへの結合に対する各ドメインの寄与についての相違を特定することが可能となった。
【0058】
本研究では、最初に、水溶性モデル基質としてビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)を使用して、PET2野生型(WT)の反応の熱安定性と至適pHを調査した。次に、単一変異のスクリーニング及び単一変異の組み合わせに基づき、PET2野生型に7つまでの変異を導入した。その結果、熱安定性とPET加水分解活性が大幅に向上したPET2変異体を特定することに成功した。X線結晶構造解析により変異酵素の構造を決定し、熱安定性及び吸着特性に寄与する変異に起因する構造変化を検証した。分解活性が増強されるメカニズムを解明するために、単一分子蛍光イメージングを使用して、PET薄膜上で、最も良い結果を示した変異体と野生型との吸着特性を比較した。最後に、変異酵素の分解活性の温度依存性を評価し、24時間までの分解実験により長期熱安定性を試験した。
【0059】
2.材料及び方法
2.1 変異位置の選択のためのPET2野生型構造のホモロジーモデリング
SWISS-MODELサーバー(29)を用いて、IsPETase(PDB ID:6EQE)の結晶構造をテンプレートとして、PET2野生型のホモロジーモデリング構造を構築した。次に、IsPETaseの結晶構造とPET2野生型のモデリング構造をPymolでアラインメントし、IsPETaseの特有の塩基性残基と有効な変異の位置に対応するPET2の変異位置を選択した。
【0060】
2.2 プラスミド構築と酵素精製
アルカリ耐熱性リパーゼlipIAF5-2として登録され(UniProt: C3RYL0)(19)、最近PET加水分解活性を有することからPET2に改名された酵素の遺伝子(20)を、C末端でTEVプロテアーゼ認識配列(ENLYFQG)及びヒスチジン-6タグの配列と融合した遺伝子を合成した。この遺伝子をpET27bプラスミドにNdeI-NotI部位でライゲーションした。pET27bのpelBリーダー配列に代えて、lipIAF5-2のシグナル配列を使用した。OverExpress E.coli C41(DE3)(Lucigen社)をこのプラスミドで形質転換し、50μg/mLのカナマイシンを含むLBプレートに播種した。コロニーを20mLのsuper broth培地(2.5w/v%トリプトン、1.5w/v%酵母エキス、0.5w/v%塩化ナトリウム)に回収し、50μg/mLカナマイシンを含む700mLのsuper broth培地に接種した。フラスコを140rpm、37℃で3時間振とうし、その後30分間氷冷した。700μLの1M IPTGをフラスコに添加し、16℃、140rpmで16時間インキュベートした。3000g、20分間の遠心分離により細胞を回収した。
【0061】
回収した細胞を、1g/mL濃度の100mM塩化ナトリウムを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁した。超音波処理により細胞を破壊し、懸濁液を20,000gで20分間遠心分離した。上清を、100mM塩化ナトリウムを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)で平衡化した5mLのNi-NTAアガロース(Qiagen社)にロードした。未結合画分を50mLの同じ緩衝液で洗浄し、50mMイミダゾールを含む50mLの同じ緩衝液で混入物質を洗浄した。精製酵素を、100mMイミダゾールを含む緩衝液で溶出した。この酵素をVivaspin20(分子量カットオフ=10K;Sartorius社)により8000gで500μLに濃縮し、100mM塩化ナトリウムを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)で平衡化したNAP10カラム(Cytiva社)にロードした。400μMの酵素1mLあたり、100μLの5mg/mL TEVプロテアーゼを添加し、16℃で16時間インキュベートした。酵素/TEVプロテアーゼ混合溶液を、100mM塩化ナトリウムを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)で平衡化した1mLのNi-NTAアガロースにロードし、未結合酵素を同じ緩衝液で溶出した。溶出した酵素をVivaspin20(分子量カットオフ=10K)により8000gで500μLに濃縮し、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)で平衡化したSuperdex 75 Increase(Cytiva社)にロードした。各画分の純度をSDS-PAGEで確認し、純粋な酵素を高濃度で含む3画分をガラスバイアルに収集した。280nmと340nmの吸光度の差から酵素濃度を計算した。野生型の分子吸光係数はε280=52,420M-1cm-1であった。
【0062】
PET2変異体の遺伝子をPCRにより構築した。変異を含むプライマーペアを使用し、生成物を、NEBuilder HiFi Assembly(New England Biolabs社)により製造元の指示に従ってライゲーションした。ライゲーションしたプラスミドをTuner(DE3)コンピテントセル(Novagen社)に形質転換し、細胞を37℃で1時間インキュベートした後、50μg/mLカナマイシンを含むLB寒天プレートに播種した。単一コロニーを10mLのLB培地に接種し、37℃、140rpmで16時間インキュベートした。細胞からプラスミドを精製し、コード領域の配列を確認した。変異酵素を、野生型と同じ手順で精製した。R47C-G89C又はL265C-A295Cを含む変異体の分子吸光係数はε280=52,540M-1cm-1であり、Y262C-L298Cを含む変異体の分子吸光係数はε280=51,280M-1cm-1であり、W174H又はQ134Yを含む変異体の分子吸光係数はそれぞれε280=46,730M-1cm-1又はε280=53,600M-1cm-1であった。
【0063】
結晶化用の酵素は、若干異なる手順で精製した。ヒスチジン-6タグでアフィニティー精製を行った後、酵素溶液を10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)でNAP10から溶出し、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)で平衡化した5mLのToyopearl DEAE-650にロードした。未結合酵素を同じ緩衝液で溶出し、Vivaspin20(分子量カットオフ=10K)により8000gで濃縮した。500μLの酵素溶液を、10mMのTris-HCl緩衝液(pH7.5)で平衡化したSuperdex 75 Increase(Cytiva社)にロードした。溶出した酵素をVivaspin20(分子量カットオフ=10K)により8000gで濃縮した。
【0064】
単一分子蛍光イメージングでは、Alexa Fluor 555マレイミドによる標識のために、PET2野生型及びPET2(7M)(R47C-G89C-F105R-E110K-S156P-G180A-T297P)のC末端にシステイン残基(Cys309)を追加した。この酵素を、活性測定と同じ手順で精製した。精製した酵素を1mM DTTを用いて25℃で1時間還元し、反応混合物を10mMリン酸ナトリウム溶液(pH7.0)で平衡化したNAP5カラムにロードした。DMSOに溶解させたAlexa Fluor 555マレイミドを、25℃で1時間酵素と混合した。酵素とAlexa Fluor 555の混合比は1:3(モル比)とした。VIVAspin20により8000gで濃縮し、続いて10mMリン酸ナトリウム溶液(pH7.0)で平衡化されたNAP10カラムにより未反応色素を除去した。650nm~250nmの範囲で吸収スペクトルを測定した後、標識酵素は4℃で保存した。Alexa Fluor 555の分子吸光係数はε556=158,000M-1cm-1であった。吸収スペクトルから、Alexa Fluor 555の280nmでの吸光度は556nmでの吸光度の5.5%と算出された。補正後のPET2野生型-C309とPET2(7M)-C309の標識率はそれぞれ109%と122%であった。対照実験として、C309を有しないPET2野生型及びPET2(7M)に対する標識反応を併せて行ったところ、PET2野生型とPET2(7M)の標識率はそれぞれ3.4%と7.1%であり、主にC309がAlexa Fluor 555マレイミドと反応したことが確認された。
【0065】
2.3 モデル基質を使用した熱安定性と至適pHの測定
100mMリン酸ナトリウム溶液(pH7.0)に溶解した1μMのPET2野生型を、様々な温度(40~90℃)で1時間インキュベートした後、氷冷した。続いてこの酵素を200mMリン酸ナトリウム溶液(pH7.0)で200nMに希釈した。25μLの酵素溶液を、同体積の超純水中の2mM BHETと混合し、60℃で10分間インキュベートした。10μLの反応混合物をLUNA C18カラム(Phenomenex社)にインジェクションし、テレフタル酸(TPA)、モノ-2-ヒドロキシエチルテレフタレート(MHET)、及びBHETを、20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)からメタノールまでの勾配で分離した。各化合物を210nmの吸光度で検出した。TPAとBHETは東京化成工業株式会社から購入し、MHETはActiva Scientific社から購入した。活性値は、生成物の総濃度(μM)を酵素濃度(0.1μM)及び反応時間(600秒)で除算して算出した。
【0066】
PET2野生型のBHET加水分解活性を、pHの異なる各種緩衝液でも測定した(pH3.0の場合はクエン酸ナトリウム緩衝液、pH4.0及びpH5.0の場合は酢酸ナトリウム緩衝液、pH6.0及びpH7.0の場合はリン酸ナトリウム緩衝液、pH8.0の場合はTris-HCl緩衝液、pH9.0の場合はグリシン-NaOH緩衝液、pH10.0の場合はホウ酸-NaOH緩衝液)。200mM緩衝液中の200nM酵素25μLを、同体積の超純水中の2mM BHETと混合し、60℃で10分間インキュベートした。酵素の非存在下におけるBHETの自然分解をバックグラウンドとして差し引いた。生成物の分離及び検出の手順は上記と同様とした。活性値は、生成物の総濃度(μM)を酵素濃度(0.1μM)及び反応時間(600秒)で除算して算出した。
【0067】
2.4 PETフィルム分解活性
非晶性PETフィルム(厚さ=0.25mm、コードES301445)及び二軸配向(結晶性)PETフィルム(厚さ=0.25mm、コードES301450)はGoodfellow社から購入した。このPETフィルムを打ち抜いて、円形ディスク(直径3mm、表面積0.16cm/ディスク、2.0mg/非晶性ディスク、2.3mg/結晶性ディスク)を作製した。次に、PETディスクを20体積%エタノールに浸漬して洗浄し、25℃、20rpmで1時間インキュベートした。洗浄したディスクを室温で乾燥させ、ガラスバイアルに保管した。
【0068】
2枚のPETディスク(0.32cm、非晶性ディスク4.0mg)をガラスバイアルに挿入し、50mMリン酸ナトリウム溶液(pH7.0)中に溶解させた250μLの0.1μM酵素を添加して分解を開始させた。反応混合物を60℃で60分間インキュベートした。上清を収集し、BHET加水分解の分析と同じ手順によりHPLCで生成物濃度を分析した。活性値は生成物の濃度(μM)の合計を酵素濃度(0.1μM)及び反応時間(60分)で除算して算出した。
【0069】
上記と同じ手順で、60℃~80℃の範囲で反応至適温度を評価した。活性値は生成物の濃度(μM)の合計を酵素濃度(0.1μM)及び反応時間(60分)で除算して算出した。また、同様の手順で中程度の温度(30℃)での活性測定を960分間(16時間)行った。活性値は生成物の濃度(μM)の合計を酵素濃度(0.1μM)及び反応時間(960分)で除算して算出した。長期分解アッセイのため、2枚のPETディスク(0.32cm、非晶性ディスク4.0mg又は結晶性ディスク4.6mg)を、50mMリン酸ナトリウム溶液(pH7.0)中の0.1μM PET2野生型250μLと合わせて60℃の条件で、及び50mMリン酸ナトリウム溶液(pH7.0)中の0.1μM PET2(7M)と合わせて68℃の条件で、1、2、4、8、16、及び24時間インキュベートした。
【0070】
2.5 CDスペクトルによる熱安定性測定
石英セルに10mMリン酸ナトリウム溶液(pH7.0)中の13μM酵素400μLを入れ、ペルチェ恒温セルホルダー(日本分光株式会社(JASCO))を備えたJ-1500KSを使用して、20℃で250~200nmにおける酵素のCDスペクトルを測定した。酵素を20℃から95℃に1℃/分の速度で加熱しながら、230nmにおけるシグナルを追跡した。250~200nmにおける変性酵素のCDスペクトルを95℃で測定した。変性タンパク質解析ソフトウェア(日本分光株式会社(JASCO))を使用して、230nmにおけるシグナルの温度依存性のカーブフィッティングにより、酵素の融解温度(Tm)を推定した。
【0071】
2.6 X線結晶構造解析
1μLの精製PET2(2M)(F105R-E110K変異体)(40mg/mL)を100mM Tris-HCl(pH8.0)中の1M硫酸アンモニウム1μLと混合し、20℃でインキュベートした。1μLの精製PET2(7M)(80mg/mL)を100mM Tris-HCl(pH7.5)中の10w/v%PEG3350の1μLと混合し、20℃でインキュベートした。回折測定の直前に、30体積%エチレングリコールを含むリザーバーに両結晶を浸漬した。SWISS-MODELサーバー(29)で構築されたPET2野生型のホモロジーモデリング構造を用いて、phaserによる分子置換によって位相を決定した。Phenix refineプログラム(30)を使用してモデル構造を精密化し、Coot(31)で改善した。PDB2PQR(32)を使用してpH7.0での酵素のプロトン化状態を算出し、APBS(33)を用いて表面電荷を算出し、Pymolで描画した。
【0072】
2.7 結合及び解離の単一分子蛍光イメージング
作製した全反射蛍光顕微鏡を使用して25℃での観察を行った。細かく切断した非晶性PETフィルム50mgを1mLのヘキサフルオロ-2-プロパノールに溶解し、20mLのアセトンで沈殿させて、PETフィルム上の自家蛍光性の混入物質を除去した。20,000g、5分間の遠心分離後、上清を除去し、沈殿物を5mLのアセトンに懸濁した。20,000g、5分間の遠心分離後、上清を除去し、70℃で1時間、沈殿物を完全に乾燥させ、1mLのヘキサフルオロ-2-プロパノールに溶解した。PET溶液をヘキサフルオロ-2-プロパノールで5mg/mLとなるように希釈し、希釈したPET溶液50μLを、10M KOHで一晩インキュベートして洗浄したカバーガラス上に、3000rpmで10秒間スピンコートし、その後、超純水で十分に洗浄した。PETでスピンコートされたカバーガラスを室温で一晩乾燥させた。カバーガラス上に形成されたPET薄膜を明視野像として観察した。Alexa Fluor 555で標識した酵素を50mMリン酸ナトリウム溶液(pH7.0)で50pMに希釈し、カバーガラス上のPET薄膜に滴下した後、トップコート壁でカバーして酵素溶液を保持した。電力密度0.25μW/μmのレーザーにより532nmで試料面の色素を励起させ、蛍光画像を5フレーム/秒で1000秒間記録した。単一分子観察後、PET薄膜を10nMの色素標識酵素溶液で染色し、PETで覆われた面積を算出した。結合速度定数解析では、各動画において時間の関数として結合分子の累積個数をカウントし、酵素分子100個の結合に要した時間を測定した。その後100(分子)を所要時間で除算し、得られた値をさらに視野内のPET薄膜の面積及び溶液中の酵素濃度で除算することにより結合速度定数を推定した。したがって結合速度定数の単位はs-1μm-2-1である。視野内のPET薄膜の平均面積は、PET2野生型及びPET2(7M)においてそれぞれ163±31μm及び169±19μmであった。解離速度定数は、個々の分子の結合時間の分布を二重指数関数的減衰関数の合計でフィッティングすることにより得た。フィッティング曲線の面積から、遅い解離イベントと速い解離イベントの比率を推定した。
【0073】
Alexa Fluor 555の光退色時間を確認するため、50μLの100pM PET2-Alexa Fluor 555をカバーガラスに3000rpmで10秒間直接スピンコーティングした。結合及び解離の単一分子イメージングと同条件で、20μLの50mMリン酸ナトリウム溶液(pH7.0)を滴下した後、カバーガラスに強固に結合した酵素分子を観察した。各スポットの光退色時間の分布を単一指数関数的減衰関数によりフィッティングし、時定数を38.1秒と推定した。
【0074】
2.8 単一分子イメージングに使用したPET薄膜の分解アッセイ
単一分子イメージングの場合と同じ方法でPET薄膜を作製した。50mMリン酸ナトリウム溶液(pH7.0)中の0.1μM PET2野生型又はPET2(7M)の50μLをフィルムに滴下し、室温(約26℃)で60分間インキュベートした。液滴の蒸発を防ぐため、PET薄膜でコーティングしたカバーガラスをペトリ皿で覆った。インキュベーション後、液滴を回収し、生成物濃度をHPLCにより分析した。活性値は、生成物濃度(μM)の合計を酵素濃度(0.1μM)及び反応時間(60分)で除算して算出した。
【0075】
2.9 Alexa Fluor 555標識酵素の活性測定
50mMリン酸ナトリウム溶液(pH7.0)中のAlexa Fluor 555で標識した、又は標識しない、0.1μM PET2野生型又はPET2(7M)の250μLを、2枚の非晶性PETフィルムのディスク(0.32cm、4.0mg)と共に60℃で60分間インキュベートした。インキュベーション後、上清を回収し、HPLCにより生成物濃度を分析した。活性値は、生成物濃度(μM)の合計を酵素濃度(0.1μM)及び反応時間(60分)で除算して算出した。
【0076】
2.10 PET2野生型によるPET分解活性のCa2+依存性
0、10、100、及び300mMのCaClを含むbis-Tris-HCl(pH7.0)中の0.1μM PET2野生型の250μLを2枚の非晶性PETフィルムのディスク(0.32cm、4.0mg)と合わせて60℃で60分間インキュベートした。インキュベーション後、上清を200μL回収し、60μLの超純水又はCaCl溶液と混合し、CaCl濃度を231mMに調整した。混合物をさらに68.6μLの1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)と混合し、リン酸カルシウムを沈殿させた。0.22μmスピンカラムフィルターを用いて15,000gで3分間処理して沈殿物を除去し、10μLのフロースルーをHPLCにインジェクションした。活性値は、生成物濃度(μM)の合計を酵素濃度(0.1μM)及び反応時間(60分)で除算して算出した。
【0077】
2.11 示差走査熱量測定(DSC)及びX線回折(XRD)によるPETフィルムの結晶化度評価
非晶性PETフィルム及び二軸配向結晶性PETフィルムを直径5mmに打ち抜き、分解活性測定と同じ手順で洗浄した。1枚のディスクをアルミ皿に入れ、示差走査熱量計(DSC)(モデルDSC-60、株式会社島津製作所)で熱流を測定した。ディスクは30℃から290℃まで10℃/分で加熱した。ヘキサフルオロ-2-プロパノール溶液からの再生PETの測定のため、単一分子イメージングで使用した50mg/μL PET溶液の50μLをアルミ皿に滴下し、室温で2時間乾燥させる操作を2回行った。両PETフィルムに対して同じ手順で熱流を測定した。ピーク面積から熱結晶化と熱融解を推定し、当該結晶化熱及び融解熱の差から吸熱量(ΔH)を算出した。完全結晶PETの融解熱(ΔH)は140.1J/gであり、ΔHとΔHから両PETフィルムの結晶化度を算出した(34)。本研究で用いた非晶性PET、結晶性PET、及び再生PETの結晶化度の推定値はそれぞれ0.02%、59.3%、及び5.89%であった。
【0078】
PETフィルムのX線回折(XRD)は、RINT-UltimaIII(株式会社リガク)を用いて行った。PETフィルムをステージに固定し、25℃で、銅ターゲットからのX線回折(40mA、40kV)を回折角3°~90°で測定した。非晶性PETはピークを示さず、結晶性PETは[100]結晶面に相当する強いピークを示した。
【0079】
3.結果
3.1 PET2野生型の熱安定性と至適pH
PET2野生型を、中程度に水溶性のPET構成ブロックであるBHETと共にインキュベートし、産生されたMHETをHPLCで定量した(本試験条件ではTPAは検出されなかった)。pH7.0で、40~90℃の間の各温度での1時間処理後の残留活性を調べることによりPET2野生型の熱安定性を評価した。65℃までは、1.3s-1の分解活性が維持されていた。一方70℃を超える温度では、活性はほぼ検出されなかった(図2A)。分解活性は60℃、pH3.0~pH10.0の条件でも測定し、pH6.0、60℃にて最も高い活性が見られた(図2B)。このため、60℃、pH7.0を標準反応条件とした。
【0080】
次に、pH7.0でPET2野生型のCDスペクトルを20℃及び95℃で比較した(図2C)。20℃でのPET2野生型のCDスペクトルは、α-ヘリックスとβ-シートの混合を示し、さらに約230nmで下向きのピークが観察された。95℃でのCDスペクトルは、短波長範囲ではランダムコイルのように見えたが、二次構造由来のシグナルも残っていた。α-ヘリックスとβ-シートにそれぞれ対応する222nm、215nmでのシグナル差が20℃と95℃の間であまり大きくなかったため、PET2野生型のTmはトリプトファン残基に基づく230nmのシグナル変化に基づいて算出した(35)。その結果、PET2野生型のTmは69.0℃と推定され(図2D)、この値は熱処理後の分解活性と整合するものであった(図2A)。
【0081】
クチナーゼLCC、TfCut2、及びCut190の熱安定性及びPET分解活性はCa2+存在下で増強されることが報告されているため(36-38)、PET2野生型のPET分解活性のCa2+依存性を試験した。PET2野生型では、生産物の産生濃度は、10mM及び100mMのCa2+存在下において、Ca2+非存在下に比べて1.1倍となるにすぎなかった。300mMのCaClでも、PET分解活性はCa2+非存在下と同程度であった。これらの結果から、以下の実験では、CaClの非存在下でPET2変異体のPET分解活性を測定している。
【0082】
3.2 単一変異のスクリーニング
PET2の熱安定性と活性を改善するために、ホモロジーモデル構造に基づいて単一の変異を導入し(図3A)、変異による影響を調べた。野生型酵素及び変異酵素のTm及び非晶性PETの分解活性を測定し、各値をプロットした(図3B)。まずIsPETaseに特徴的な塩基性アミノ酸残基(11)、及びIsPETaseで活性を増強させることが報告されている単一変異(39)を導入した(図3B、◆)。その結果、F105R及びE110Kの変異は、野生型に比べてTmをそれぞれ1℃超上昇させ、PET分解活性をそれぞれ1.5倍、1.4倍増強させた。F105R及びE110Kと同一面上に位置するがIsPETaseには存在しないL298R変異は、Tm及び活性を減少させた。改変IsPETaseの変異に基づく変異のうち(39)、Q183R及びQ134Yは活性を増強させた。しかしながら、Q183R変異はTmを低下させ、またQ134Y変異は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)中の溶出時間が大幅に延長し、精製後の収率が大きく低下した。また、S202Q及びS155Dの変異は、Tmを上昇させたものの、活性を低下させた。
【0083】
ホモロジーモデリング構造に基づき、プロリンの二面角に適合するアミノ酸残基を検索し、プロリン変異を導入した(図3B、●)。S156P及びT297P変異のTm値は野生型よりも1~2℃高かったのに対し、D53P及びA192P変異のTm値は野生型よりも低かった。これらの変異体の活性は、野生型の半分未満の活性しかみられなかったA192Pを除き、野生型と大きく変わらなかった。
【0084】
多くのPET分解酵素では、4つの連続するグリシン残基が触媒トライアドのセリン残基(PET2ではSer175)近傍にα-ヘリックスを形成し、PET2もこれに相当するグリシン残基(Gly177~Gly180)を有する。このGly177~Gly180を1つずつアラニンに変異させた(図3B、▲)。G180A変異は最も効果のあった変異の1つであり、Tm(+2.6℃)及び活性(1.5倍)を大幅に改善させた。一方、他の3つの変異はTm又は活性を野生型よりも低下させた。
【0085】
さらに、PET2のN末端又はC末端付近における4対のシステイン変異を試験した(図3B、▼)。R47C-G89Cの変異対のTmは72.0℃であり、野生型のTmよりと3℃高かった。C末端のシステイン変異対(Y262C-L298C及びL265C-A295C)も野生型のTmよりも1~2℃高いTmを示したが、これらの変異対の活性は野生型の約半分に低下した。T64C-T86Cの変異も試みたが、精製収率が非常に低く、特性評価に十分な量の試料が得られなかった。
【0086】
3.3 変異の組み合わせ
野生型よりも高いTm又は活性を示した単一変異を統合した(図3C)。PET2 F105R-E110K変異体(PET2(2M))は70.7℃のTmを示し、非晶性PETを0.71min-1で加水分解した。これらの値はそれぞれの単一変異のものよりも高い。PET2 F105R-E110K-S156P-T297P変異体(PET2(4M))は上記2変異導入体よりも1.6℃高いTmを示したが、活性は0.13min-1の改善にとどまった(0.71min-1から0.84min-1へ変化)。さらにG180Aを導入すると(PET2(5M))、活性が顕著に向上したが(PET2(4M)の1.4倍)、Tmはわずかに上昇したのみであった。さらに、追加のジスルフィド結合はTmを3.1℃上昇させ、活性もやや増加させた。得られたR47C-G89C-F105R-E110K-S156P-G180A-T297P変異体(PET2(7M))は、60℃で野生型よりも6.7℃高いTm及び3倍高い活性を示した。なかでも、R47C-G89Cの変異に基づくジスルフィド結合はTmを大幅に上昇させ、また、このジスルフィド結合は活性部位から離れた位置に存在するにもかかわらず、活性も向上させたことから、最も有効な変異のひとつと考えられた。
【0087】
3.4 PET2変異体のX線結晶構造
PET2(2M)及びPET2(7M)のX線結晶構造をそれぞれ1.3Å及び1.8Åの分解能で解析した。PET2野生型の結晶は得られなかった。このため、PymolでPET2(2M)の逆変異によりPET2野生型構造を再構築した。PET2(7M)とPET2(2M)の間の全体構造の二乗平均平方根偏差(RMSD)は0.241Åであり、これらの構造は非常に類似していた。PET2変異体の電子密度マップは変異した残基の側鎖を認識するのに十分であった(図4A及び図4B)。2つのプロリン変異(S156P及びT297P)の導入によりループ構造は変化しなかったため、これらの位置は予想通りプロリンの二面角に適していると考えられた。Gly180のアラニンへの変異は、このAla180を含むα-ヘリックス構造自体は変化させなかったが、隣接するα-ヘリックスがより安定化しているように見受けられた(図4A及び図4B、右)。PET2野生型は配列中に6つのシステイン残基を有し、PET2(2M)構造では2つの天然ジスルフィド結合(Cys218-Cys255及びCys289-Cys306)が観察された。もう1つのシステイン残基対(Cys43及びCys39)は、N末端の無秩序領域(Ala28からAsn44)に存在し、観察できなかった。PET2(7M)構造では、N末端に導入されたシステイン残基対(R47C-G89C)が明らかにジスルフィド結合を形成していた(図4B)。これらの変異は、2ループ構造にわずかなシフトを引き起こし(図4A及び図4B、左)、Tyr45の電子密度は観察できなかった。N末端残基(Ala28からAsn44)は、PET2(2M)及びPET2(7M)のいずれにおいても、電子密度マップが不明確でモデル化できず、PET2ではN末端残基が無秩序であると考えられた。
【0088】
次に、PET2野生型構造をPET2(2M)構造の逆変異により再構築し、pH7.0での表面電荷をPET2(7M)及びIsPETaseの表面電荷と比較した(図4C)。PET2野生型では、Phe105とGlu110の周辺に中性から負の電荷が観察された(図4C、左)。一方、PET2(7M)(図4C、中央)では、PET2野生型よりも正電荷領域が大きくなり、IsPETaseの正電荷領域と同程度となっていた(図4C、右)。
【0089】
PET2は当初リパーゼとして発見されたため(19)、PET2(2M)の触媒トライアド周辺の構造をリパーゼとも比較した。Thermomyces lanuginoseのリパーゼは触媒トライアドを覆うlid(蓋)ドメインを有するが(47)、PET2(2M)の触媒トライアドはBacillus subtilisのLipAのように溶媒に曝されていた。PET2(2M)のIsPETase(PDB ID:6ANE)に対する全体的なRMSDは0.552Åであり、LipA(PDB ID:1I6W)に対する全体的なRMSDは15.4Åであった。したがって、構造的観点からは、PET2はリパーゼではなく、PET加水分解酵素である。
【0090】
PET2のPET分解活性のカルシウム非依存性を説明するため、Cut190(15)のカルシウム結合部位に対応する位置を、LCC、IsPETase、及びPET2(2M)間で比較した。結合部位1は基本的に主鎖のカルボニル基により構築され、Ca2+はLCCとPET2に結合できる。結合部位2では、Cut190のアスパラギン酸(Asp250)と2つのグルタミン酸(Glu220及びGlu296)が、PET2ではスレオニン、グルタミン、セリンにそれぞれ変化している。そのため、Ca2+への親和性はCut190よりもPET2の方が低くなる。また、Cut190の結合部位3は、PET2では完全にループに占められている。このため、構造的観点から、PET2のPET分解活性のカルシウム非依存性は合理的である。
【0091】
3.5 単一分子蛍光イメージングによるPET2の結合及び解離の特性評価
単一分子蛍光イメージングを使用して、PET2野生型とPET2(7M)の結合速度定数及び解離速度定数を比較した。フリーのシステイン残基(Cys309)を酵素のC末端とTEVプロテアーゼ認識部位の間に挿入し、Alexa Fluor 555マレイミドで標識した。PET2野生型-C309とPET2(7M)-C309の標識率はそれぞれ109%、122%であった。PET2野生型とPET2野生型-C309-Alexa Fluor 555、又はPET2(7M)とPET2(7M)-C309-Alexa Fluor 555のPET分解活性は互いに類似しており、色素標識は活性に影響を与えないと考えられた。また、Cys309を有しないPET2野生型及びPET2(7M)の標識率はそれぞれ3.4%、7.1%にすぎず、本標識条件では色素は主にCys309と反応すると考えられた。元のPETフィルムは自己蛍光が強く、色素標識PET2酵素の単一分子イメージングが難しいことがわかった。自己蛍光の理由は定かではないが、PETをヘキサフルオロ-2-プロパノールに溶解し、アセトンで沈殿させることで自己蛍光を低減できた。
【0092】
色素標識PET2酵素の単一分子イメージングのため、アセトンで沈殿させたPETをヘキサフルオロ-2-プロパノールに再溶解し、カバーガラスにスピンコートし、完全に乾燥させて、一部未形成部分を残したPET薄膜を形成した。カバーガラス上のPET薄膜から、室温において、PET2(7M)はPET2野生型の2.6倍の濃度の生成物を生成した。このとき、PET薄膜の外観は元の非晶性PETフィルムとは大きく異なっていた(図5A)。PET薄膜に対するPET2野生型とPET2(7M)の活性の違いは、60℃で非晶性PETフィルムを用いて試験した場合と同様であった。そのため、カバーガラス上のPET薄膜は、PET2の結合及び解離の単一分子イメージングのモデル基質に使用できると考えた。低濃度(50pM)の色素標識したPET2野生型及びPET2(7M)で、個々の分子からの蛍光シグナルが明確に観察された(図5B)。単一分子観察後、PET薄膜を高濃度(10nM)の色素標識酵素で染色し(図5C)、この画像にPET2の単一分子動画を重ねてPET薄膜の位置を特定した。色素標識酵素はPET薄膜にのみ結合し、カバーガラスには結合しない。次に、PET2野生型とPET2(7M)の結合速度定数と結合時間(解離速度定数)を解析して比較した。結合速度定数を計算するために、各動画で時間の関数として結合分子の累積数をカウントし、100個の酵素分子の結合に必要な時間を測定した(図5D)。次いで、100(分子)を所要時間(秒)で除算し、得られた値をさらに視野内のPET薄膜の面積(μm)及び溶液中の酵素濃度(M)で除算することにより結合速度定数を推定した。その結果、PET2野生型の結合速度定数は(2.8±1.6)×10-1μm-2-1であり、PET2(7M)の結合速度定数は(7.5±3.0)×10-1μm-2-1であった(表1)。したがって、PET2(7M)の結合速度定数は野生型の2.7倍であった。
【0093】
一方、解離速度定数は、PET2野生型とPET2(7M)との間で大きな差がなかった。PET2野生型の結合時間の分布は、単一指数関数的減衰関数よりも二重指数関数的減衰関数の合計によくフィットし、少なくとも2つのPET結合状態が存在すると考えられた(図5E、表1)。速い解離の速度定数は4.3s-1であり、遅い解離の速度定数は0.71s-1であった。フィッティング式の面積から、速い解離と遅い解離の割合はそれぞれ69.3%、30.7%と算出された。PET2(7M)の結合時間の分布も二重指数関数的減衰関数によく適合し、速い解離及び遅い解離の速度定数(割合)はそれぞれ5.0s-1(85.2%)、0.54s-1(14.8%)であった(図5F、表1)。PET2野生型とPET2(7M)のいずれにおいても、これらの解離速度定数は、Alexa Fluor 555の光退色の速度定数(0.026s-1)よりもはるかに大きかった。したがってAlexa Fluor 555の光退色は速い成分と遅い成分の原因ではない。
【0094】
【表1】
【0095】
表1注:
a:Alexa Fluor 555標識のためCys309をC末端に追加導入した。
b:結合速度定数は、100個の酵素分子の結合に要する時間から算出し、視野内のPETで被覆された面積と溶液中の酵素濃度でさらに正規化した。
c:解離速度定数は、個々の分子の結合時間の分布を2つの指数関数的減衰関数の合計でフィッティングすることにより算出した。
d:速い解離イベントと遅い解離イベントの割合は、フィッティング式の面積から算出した。
e:値は5つの独立した動画からの平均±SDとした。
【0096】
3.6 活性の温度依存性と長期安定性
野生型及び変異体における非晶性PET分解活性の温度依存性を測定し、最も高い活性が観察される至適温度を決定した。PET2野生型では60℃で0.4min-1の最高活性が観察され、より高温側では活性が減少した(図6A)。一方、変異数の増加に伴い、至適温度は60℃より高温側にシフトした。PET2(7M)は68℃で2.7min-1の最高活性を示し、これは60℃における活性よりも2倍高かった(図6A)。また、PET2(7M)は80℃でも検出可能な活性を保持していたが、野生型及び他の2つの変異体(4M及び5M)は失活した。この結果は、PET2(7M)のR47C-G89C変異が最終的な変異体の熱安定性に大きく寄与することを示している。また、PET2(5M)とPET2(7M)との活性の比較により、R47C-G89Cの変異が各温度において活性も向上させていることが明らかになった。さらに、中程度の温度での活性の差を確認するため、30℃でもPET2野生型及びPET2(7M)による非晶性PETディスクの加水分解活性を測定した。PET2野生型及びPET2(7M)の加水分解活性は30℃では非常に低かったが、PET2(7M)の活性値は野生型の活性値の3倍であった。したがって、その差は60℃で観察された場合と同様であった。
【0097】
次に、PET2野生型及びPET2(7M)によるPET分解を、それぞれの至適温度である60℃及び68℃で、最大24時間のインキュベーション時間で比較した。非晶性PET分解では、PET2(7M)により生成した生成物量は、PET2野生型により生成した生成物の3倍超を常に維持していた(図6B)。さらに、重要なことに、PET2(7M)は1~24時間の間ほぼ一定の分解速度を維持しており、このことは、至適温度である68℃での長期熱安定性を示唆している。さらに、結晶性PETの分解についても調べた。PET2(7M)はPET2野生型の2倍の活性を常に維持していた。この場合も、PET2(7M)は、1~24時間の間ほぼ一定の分解速度を維持していた。しかし、0.1μMのPET2野生型とPET2(7M)では、結晶性PETから、24時間反応後にそれぞれ1.7μM、4.5μMの生成物しか生成しなかった。これらの結果は、PET2酵素がPETの非晶性領域の可動部分を優先的に加水分解することを示唆しており、他のPET加水分解酵素の以前の研究と整合している(4、12、13、48)
【0098】
4.考察
残存活性から推定されたPET2野生型の反応上限温度(65℃)(図2A)は、230nmでのCDシグナルの変化から推定されたTm(69.0℃)(図2D)とよく一致した。さらに、以前の研究で、PET2野生型のリパーゼ活性は60℃であり、より高温では活性が低下することがわかっている(リパーゼとしての当初の名称はLipIAF5.2であるが、ここでは便宜上PET2の名称を用いている)(19)。これらの結果は、230nmにおけるトリプトファン残基のシグナルがPET2野生型の触媒活性と非常によく相関することを示唆している。我々はPET2 W174H変異体の230nmにおけるシグナルが野生型よりも非常に微弱であることを見出した。そのため、PET2の230nmにおける特徴的なシグナルは、触媒トライアドのSer175残基の隣に位置するTrp174に起因している可能性があり、これは上述の相関関係と整合する。一方、PET2によるBHET加水分解の至適pHは、本研究では約7であった(図2B)。以前の研究では、p-ニトロフェニルミリステート加水分解では至適pHは10.5であった。BHETは高pHではPET2の非存在下でもMHETに自然分解することから、この違いは基質安定性の差異に起因するものと推測される。
【0099】
興味深いことに、1mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA)や1%Tween80ではPET2のリパーゼ活性は30%しか阻害されないが、1mMエチレングリコール四酢酸(EGTA)又は1%TritonX-100によりPET2は完全にリパーゼ活性を失う(19)。EGTAとEDTAとでは2対の酢酸基を連結する連結基の構造に違いがある。EGTAのエチレングリコール構造はPET2の活性部位近傍に結合し基質の結合を妨げる可能性がある。また、試験された界面活性剤のなかで、Triton X-100のみが構造中に芳香環を有する。これらの結果は、PET2がエチレングリコール及び芳香環に結合親和性を有することを示唆している。本研究ではPET2野生型においてPET分解活性にCa2+濃度依存性は観察されなかった。PET2(2M)構造ではCut190の部位1に相当する潜在的Ca2+結合部位しか存在しないことに鑑みると、この結果は妥当である。そのため、EGTA及びEDTAのイオンキレート能はPET2のリパーゼ活性の変化とは無関係である。
【0100】
PET2の単一変異に関する結果は、IsPETaseの熱安定性と活性を増加させた変異がPET2に対してはあまり効果的ではないことを示唆している。特に、W174H変異は野生型に比べ、Tmは5℃高かったものの、活性は4分の1に低下した(図3B)。対照的に、IsPETaseの表面電荷改変に倣うPET2の表面電荷における変異(F105R及びE110K)は活性を増強させた。興味深いことに、これらの変異はPET2のTmも上昇させた。F105R変異は、酵素表面の疎水性残基を正電荷を有する残基に置換する。類似の変異がアセチルコリンエステラーゼの熱安定性を高めることが報告されている(49)。一方、E110K変異がPET2を熱安定化する理由は明らかではない。G180AはPET2のTm及び活性をいずれも向上させた最も効果的な変異の1つである。PET2(2M)とPET2(7M)の間で、Gly180とAla180に隣接するα-ヘリックス構造は微妙に異なっている(図4A及び図4B、右)。PET2(7M)ではArg138とArg139の主鎖はわずかにシフトして理想的なα-ヘリックスを形成している。これが熱安定性と活性の向上に寄与している可能性がある。一方、G177A及びG179Aの変異はTm及び活性を低下させた。これは、PET2(2M)の結晶構造から確認されるように、これらのアラニン残基の側鎖がPro100及びTrp199の主鎖カルボニル酸素原子と近接しすぎていることに起因すると推測される(図4A)。R47C-G89C変異はジスルフィド結合を形成し、Y262C-L298CやL265C-A295CよりもさらにTmを上昇させた(図3B)。結晶構造では、ペプチド鎖の電子密度が不明確でありN末端残基(Ala28~Asn44)はモデル化されなかった。これらの結果は、PET2のN末端領域がC末端領域よりもフレキシブルであることを示唆している。したがって、N末端領域でのジスルフィド結合の形成は、C末端領域でのジスルフィド結合よりも効果的な熱安定化をもたらすと考えられる。LCC及びCut190の場合、Ca2+結合部位2でのジスルフィド結合の形成が安定性を向上させた(12、15)。PET2及びIsPETaseはこの近傍に既にジスルフィド結合を有しているため、本研究では、同部位に新たなジスルフィド結合の導入は試みなかった。
【0101】
単一分子蛍光イメージングにより、PET2(7M)の結合速度定数はPET2野生型の2.7倍であることがわかった(図5D、表1)。一方、いずれの酵素も、解離速度定数において速い成分及び遅い成分を有し、両酵素においてこれらの値及び割合は同様であった(図5E図5F、表1)。我々は当初、変異体における活性増強は、変異体表面のリシン又はアルギニン残基とPETの芳香環との間での強力なカチオン-π相互作用により得られたと予測した(50)。しかしながら、本研究の結果は、PET2(7M)のPET結合状態は表面電荷変異により安定化しているのではないことを示唆している。速い解離成分及び遅い解離成分の割合に基づき、我々は次にこれらの成分の結合速度定数を算出した(表1)。その結果、PET2野生型では、速い成分及び遅い成分での値はそれぞれ1.9×10-1μm-2-1及び0.86×10-1μm-2-1であった。また、PET2(7M)では、速い成分及び遅い成分での値はそれぞれ6.4×10-1μm-2-1、1.1×10-1μm-2-1であった。我々はさらに、速い成分と遅い成分の結合速度定数と解離速度定数との比に基づき、これらの解離定数を算出した(表1)。PET2野生型では、値は速い成分及び遅い成分でそれぞれ2.3×10-8μmM、0.83×10-8μmMであった。PET2(7M)では、値は速い成分及び遅い成分でそれぞれ0.78×10-8μmM、0.49×10-8μmMであった。したがって、PET2(7M)の速い成分の結合速度定数はPET2野生型と比べて3.4倍高く、解離定数はPET2野生型と比べて2.9倍低い。興味深いことに、60℃におけるPET2(7M)の非晶性PETフィルムに対する活性はPET2野生型と比べて3.2倍高く(図6A)、室温でのPET薄膜に対する活性は2.6倍高かった。PET2野生型とPET2(7M)の活性の差は、速い成分の結合速度定数と解離定数の差と同程度であった。したがって、変異体はpH7.0でPET2野生型よりも多くの正電荷を有し(図4C)、PET表面は負電荷を有するため(51)、1つの妥当な説明として、PET2(7M)が静電的に引き付けられてPET表面近くの局所酵素濃度が増加し、速い結合が促進されると説明することができる。Rhizopus oryzaeのリパーゼは脂肪族ポリマー(ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリ乳酸)に効率的に結合するが、PETには結合しないことが報告されている(52)。上記結果は、PETへの結合が異なる相互作用を要することを示唆している。PET2の結合速度定数をさらに高めるには、PET表面に適合するように酵素の表面形状を改変する必要がある可能性がある。例えば、セルロース結合ドメイン(CBM)は、結晶セルロースの平面に適合するように、細かく調整された平面を有する(53)。興味深いことに、CBMとPET表面とは強く相互作用することが過去に報告されている(54)。例えば、Cellulomonas fimiのCBM-W68Y変異体と融合したT.fuscaのクチナーゼは、24時間のインキュベーション後に1.5倍高い生成物濃度を示した(55)。また、Alcaligenes faecalisのポリヒドロキシ酪酸デポリメラーゼの結合ドメインと融合したThermomyces cellullosyliticaのクチナーゼは、結合ドメインを有しないものと比べて3倍高い生成物濃度を示した(56)。PET表面への結合親和性を改善するための別のアプローチとして、ハイドロフォビンとクチナーゼの融合タンパク質が報告されている(57)。速い成分と遅い成分のメカニズムはまだ明らかではないが、遅い成分の結合速度定数と解離定数はいずれもPET2野生型とPET2(7M)との間に大きな違いはなかったため、遅い成分はPET分解に寄与していないと考えられる(表1)。
【0102】
本研究では、PET2(7M)は長期熱安定性を示し、0.1μMの酵素により、非晶性PETフィルム(1.3cm/mL、16mg/mL)から68℃、24時間のインキュベーションで129μMの生成物が生産された(図6B)。ここで、本PET2変異体と、過去に報告されている他のPET加水分解酵素とを比較する。合理的に改変された0.5μMのIsPETase変異体(S121E-D186H-R280A)は、我々の用いた非晶性PETと同様のDSCプロファイルを示す2.0cm/mLの非晶性PETから、40℃、1日間のインキュベーションにより約70μMの生成物を生産した(58)。したがって、PET2(7M)はこのIsPETase変異体よりも大量の生成物を生産したといえる。同様に、IIa型PET加水分解酵素に属する新規酵素PE-H(Y250S)変異体(59)は非晶性PETに対してPET2(7M)に比べて非常に少量しか生成物を生産していない。一方、2μMのCut190変異体(Q138A-D250C-E296C-Q123H-N202H)は、我々の研究で使用したものと同じ非晶性PETから、70℃、3日間のインキュベーションにおいて、17.5mMの生成物を生成した(15)。この量は我々のものよりもはるかに多く、同じ生産量に達するにはPET2(7M)の活性を2倍に増強させる必要がある。また、Bacillus subtilisで発現した1.5nmolのTfCut2は、70℃、24時間(速度23.5min-1)後に9.9mgの非晶性PETチップを分解し、120時間後にはチップはほぼ完全に分解された(13)。PET2(7M)の活性をさらに改善するため、以下の戦略が有効であろう。PET2野生型及びPET2(7M)による非晶性PETフィルムの分解中、比較的大量のMHETが生成物として溶液中に残留していた(図6C)。IsPETaseとMHETaseの融合酵素はPET分解に相乗的効果を示したことから(60)、MHETをTPAに完全に分解するには、MHETaseとの融合酵素の作製が効果的であろう。基質に関しては、接触可能な表面積を増やして分解を促進する効果的な方法として、PETの粉砕が挙げられる。実際、TfCut2のPETナノ粒子(<100nm)に対する解離定数は低く、等温滴定熱量測定により0.043mg/mL-1と決定された(61)。さらに、アガロースゲル(平均直径=164nm)に固定化したPETナノ粒子に対する比濁分析による解離定数は0.031mg/mL-1であった(62)。基質の接触可能な表面を増加させることは酵素の結合を改善するための有望な手段である。さらに、Tournier et al.は天然LCCを用いて2mg/mLの非晶性PET粉末懸濁液(500μmメッシュよりも小さい)から1時間、mg酵素当たり93.2mgのTPA等量の生成物を生産した(約270min-1に相当)(12)。彼らはまた、20kgの廃棄PET粉末の90%を10時間未満で加水分解する熱安定性LCC変異体(F243I-D238C-S283C-Y127G)の作製にも成功している(12)
【0103】
酵素の観点からは、酵素あたりの活性をさらに向上させるためには、酵素がポリマー基質から解離することなく触媒サイクルを繰り返す、いわゆる「プロセッシブな触媒作用」が望ましい。例えば、ポリカプロラクトンの場合、樹脂に埋め込まれた酵素によるプロセッシブな分解を利用することで、1日でほぼ完全な分解が達成されている(63)。ポリマー鎖間に強い疎水性相互作用を有するPETのプロセッシブな分解のために、PET加水分解酵素はPETのガラス転移温度よりも高い温度での熱安定性を獲得することが望ましい。さらに、PET加水分解酵素は、プロセッシブなセルラーゼやキチナーゼと同様に、解離せずに単一のポリマー鎖に沿って一方向に移動する能力も獲得することが望ましい(64)
【0104】
結論として、PET加水分解酵素であるPET2の熱安定化と表面電荷修飾により、PET加水分解活性の向上に成功した。X線結晶構造解析により、プロリン変異は元のループ構造を維持し、システイン残基変異対はPET2のN末端でジスルフィド結合を形成することが明らかになった。IsPETaseの活性を増加させる変異に対応する変異のなかにはPET2に効果がないものもあったが、単一分子イメージング分析により、IsPETaseを参照として行った表面電荷修飾によりPET2の結合速度定数が増加し、活性の向上に寄与したことが明らかになった。なかでも、R47CとG89Cの2つのシステイン残基の導入はTmの大幅な上昇をもたらし、PET2の活性も向上させることから、最も有用な変異のひとつであることが明らかになった。7つの変異の組み合わせによりPET2のTmが6.7℃上昇し、反応至適温度は8℃上昇した。PET2(7M)はさらに効率的なPET加水分解酵素の構築のテンプレートの1つとなりうる。
【0105】
アクセッションコード
PET2(2M)(F105R-E110K)及びPET2(7M)(R47CG89C-F105R-E110K-S156P-G180A-T297P)のPDB IDはそれぞれ7EC8、7ECBである。
【0106】
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図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6A
図6B
図6C
【配列表】
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