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特開2023-58411フッ化物蛍光体、その製造方法及び発光装置
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  • 特開-フッ化物蛍光体、その製造方法及び発光装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023058411
(43)【公開日】2023-04-25
(54)【発明の名称】フッ化物蛍光体、その製造方法及び発光装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/64 20060101AFI20230418BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20230418BHJP
   C09K 11/59 20060101ALI20230418BHJP
   C09K 11/61 20060101ALI20230418BHJP
   C09K 11/80 20060101ALI20230418BHJP
   C09K 11/66 20060101ALI20230418BHJP
   C09K 11/79 20060101ALI20230418BHJP
   C09K 11/62 20060101ALI20230418BHJP
   C09K 11/88 20060101ALI20230418BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20230418BHJP
【FI】
C09K11/64
C09K11/08 G
C09K11/08 J
C09K11/08 A
C09K11/59
C09K11/61
C09K11/80
C09K11/66
C09K11/79
C09K11/62
C09K11/88
H01L33/50
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021201557
(22)【出願日】2021-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2021168249
(32)【優先日】2021-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】▲吉▼田 智一
【テーマコード(参考)】
4H001
5F142
【Fターム(参考)】
4H001CA05
4H001CC11
4H001CF01
4H001XA09
4H001XA13
4H001XA14
4H001XA19
4H001XB11
4H001YA25
4H001YA58
4H001YA63
5F142AA62
5F142BA02
5F142BA24
5F142CA02
5F142CG04
5F142CG05
5F142CG43
5F142DA12
5F142DA22
5F142DA32
5F142DA48
5F142DA52
5F142DA56
5F142DA73
5F142GA01
5F142GA11
5F142GA21
(57)【要約】
【課題】高い耐久性を有する赤色発光のフッ化物蛍光体を提供する。
【解決手段】フッ化物蛍光体は、アルカリ金属と、Siと、Alと、Mnと、Fとを含み、前記アルカリ金属のモル数を2とする場合に、SiとAlとMnのモル数の合計が0.9以上1.1以下であり、Alのモル数が0を超えて0.10未満であり、Mnのモル数が0を超えて0.20未満であり、Fのモル数が5.9以上6.1以下である組成を有する第一フッ化物と、前記第一フッ化物の表面の少なくとも一部に配置され、アルカリ金属と、Siと、Fと、を含み、実質的にAl及びMnを含まない組成を有する第二フッ化物と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属と、Siと、Alと、Mnと、Fと、を含み、前記アルカリ金属のモル数を2とする場合に、SiとAlとMnのモル数の合計が0.9以上1.1以下であり、Alのモル数が0を超えて0.10未満であり、Mnのモル数が0を超えて0.20未満であり、Fのモル数が5.9以上6.1以下である組成を有する第一フッ化物と、
前記第一フッ化物の表面の少なくとも一部に配置され、アルカリ金属と、Siと、Fと、を含み、実質的にAl及びMnを含まない組成を有する第二フッ化物と、を含むフッ化物蛍光体。
【請求項2】
前記第一フッ化物は式(Ia)で表される組成を有し、前記第二フッ化物は式(Ib)で表される組成を有する請求項1に記載のフッ化物蛍光体。
[SiAlMn] (Ia)
(式(Ia)中、Mはアルカリ金属を示す。p、q、r及びsは、0.9≦p+q+r≦1.1、0<r<0.20、0<q<0.10、及び5.9≦s≦6.1を満たす。)
[Si] (Ib)
(式(Ib)中、Mはアルカリ金属を示す。u及びvは、0.9≦u≦1.1、及び5.9≦v≦6.1を満たす。)
【請求項3】
前記第二フッ化物の含有率が30モル%以下である請求項1又は2に記載のフッ化物蛍光体。
【請求項4】
前記第一フッ化物及び前記第二フッ化物におけるアルカリ金属はそれぞれ、少なくともKを含む請求項1から3のいずれか1項に記載のフッ化物蛍光体。
【請求項5】
前記第一フッ化物及び前記第二フッ化物におけるアルカリ金属はそれぞれ、実質的にKからなる請求項1から4のいずれか1項に記載のフッ化物蛍光体。
【請求項6】
前記フッ化物蛍光体は、下記式(II)で表される組成を有する請求項1から5のいずれか1項に記載のフッ化物蛍光体。
[SiAlMn] (II)
(式(II)中、Mはアルカリ金属を示す。x、y、zおよびwは、0.9≦x+y+z≦1.1、0<y≦0.1、0<z≦0.2、5.9≦w≦6.1を満たす。)
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のフッ化物蛍光体を含む第一発光材料と、
前記第一発光材料に光を照射する発光素子と、を含む発光装置。
【請求項8】
495nm以上590nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する第二発光材料をさらに含む請求項7に記載の発光装置。
【請求項9】
前記第二発光材料が、βサイアロン蛍光体、ハロシリケート蛍光体、シリケート蛍光体、希土類アルミン酸塩蛍光体、ペロブスカイト系量子ドット、窒化物蛍光体及びカルコパイライト系量子ドットからなる群から選択される少なくとも1種である請求項8に記載の発光装置。
【請求項10】
前記第二発光材料が、下記式(IIa)から(IIi)のいずれかで表される組成を有する発光材料からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項8又は9に記載の発光装置。
Si6-tAl8-t:Eu (IIa)
(式中、tは、0<t≦4.2を満たす数である。)
(Ca,Sr,Ba)MgSi16(F,Cl,Br):Eu (IIb)
(Ba,Sr,Ca,Mg)SiO:Eu (IIc)
(Y,Lu,Gd,Tb)(Al,Ga)12:Ce (IId)
CsPb(F,Cl,Br,I) (IIe)
(La,Y,Gd)Si11:Ce (IIf)
(Sr,Ca)LiAl:Eu (IIg)
(Ca,Sr)AlSiN:Eu (IIh)
(Ag,Cu,Au)(In,Ga)(S,Se,Te) (IIi)
【請求項11】
アルカリ金属と、Siと、Alと、Mnと、Fと、を含み、前記アルカリ金属のモル数を2とする場合に、SiとAlとMnのモル数の合計が0.9以上1.1以下であり、Alのモル数が0を超えて0.10未満であり、Mnのモル数が0を超えて0.20未満であり、Fのモル数が5.9以上6.1以下である組成を有する第一フッ化物を準備することと、
前記第一フッ化物と、Si及びFを含む第一溶液と、アルカリ金属を含む第二溶液と、を還元剤の存在下に接触させて、前記第一フッ化物の表面の少なくとも一部に、アルカリ金属と、Siと、Fと、を含み、実質的にAl及びMnを含まない組成を有する第二フッ化物を配置して複合フッ化物を得ることと、を含むフッ化物蛍光体の製造方法。
【請求項12】
前記第一溶液は、アルカリ金属を更に含む請求項11に記載のフッ化物蛍光体の製造方法。
【請求項13】
前記第一フッ化物は式(Ia)で表される組成を有し、前記第二フッ化物は式(Ib)で表される組成を有する請求項11又は12に記載のフッ化物蛍光体の製造方法。
[SiAlMn] (Ia)
(式(Ia)中、Mはアルカリ金属を示す。p、q、r及びsは、0.9≦p+q+r≦1.1、0<r<0.20、0<q<0.10、及び5.9≦s≦6.1を満たす。)
[Si] (Ib)
(式(Ib)中、Mはアルカリ金属を示す。u及びvは、0.9≦u≦1.1、及び5.9≦v≦6.1を満たす。)
【請求項14】
前記第二フッ化物が配置された複合フッ化物を、フッ素含有物質と接触させて、400℃以上の温度で熱処理をすることをさらに含む、請求項11から13のいずれか1項に記載のフッ化物蛍光体の製造方法。
【請求項15】
前記フッ素含有物質が、F、CHF、CF、NHHF、HF、SiF、KrF、XeF、XeF及びNFからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項14に記載のフッ化物蛍光体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フッ化物蛍光体、その製造方法及び発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発光素子と蛍光体とを組み合わせた発光装置が種々開発され、照明、車載照明、ディスプレイ、液晶用バックライト等の幅広い分野で利用されている。例えば、液晶用バックライト用途の発光装置に用いる蛍光体には、色純度が高い、すなわち発光ピークの半値幅が狭いことが求められている。発光ピークの半値幅の狭い赤色発光の蛍光体として、特許文献1には、例えばKSiF:Mnで表される組成を有するフッ化物蛍光体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-224536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液晶用バックライト用途の発光装置に用いられる蛍光体として、例えば特許文献1に開示されているフッ化物蛍光体は、耐久性をさらに向上させる余地があった。そこで本開示の一態様は、高い耐久性を有する赤色発光のフッ化物蛍光体及びそれを用いた発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第一態様は、アルカリ金属と、Siと、Alと、Mnと、Fとを含み、前記アルカリ金属のモル数を2とする場合に、SiとAlとMnのモル数の合計が0.9以上1.1以下であり、Alのモル数が0を超えて0.10未満であり、Mnのモル数が0を超えて0.20未満であり、Fのモル数が5.9以上6.1以下である組成を有する第一フッ化物と、第一フッ化物の表面の少なくとも一部に配置され、アルカリ金属と、Siと、Fと、を含み、実質的にAl及びMnを含まない組成を有する第二フッ化物と、を含むフッ化物蛍光体である。
【0006】
第二態様は、第一態様のフッ化物蛍光体を含む第一発光材料と、第一発光材料に光を照射する発光素子と、を含む発光装置である。
【0007】
第三態様は、アルカリ金属と、Siと、Alと、Mnと、Fと、を含み、前記アルカリ金属のモル数を2とする場合に、SiとAlとMnのモル数の合計が0.9以上1.1以下であり、Alのモル数が0を超えて0.10未満であり、Mnのモル数が0を超えて0.20未満であり、Fのモル数が5.9以上6.1以下である組成を有する第一フッ化物を準備することと、第一フッ化物と、Si及びFを含む第一溶液と、アルカリ金属を含む第二溶液と、を還元剤の存在下に接触させて、第一フッ化物の表面の少なくとも一部に、アルカリ金属と、Siと、Fと、を含み、実質的にAl及びMnを含まない組成を有する第二フッ化物を配置して複合フッ化物を得ることと、を含むフッ化物蛍光体の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、高い耐久性を有する赤色発光のフッ化物蛍光体及びそれを用いた発光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】フッ化物蛍光体の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図2】フッ化物蛍光体の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図3】フッ化物蛍光体を用いた発光装置の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。さらに本明細書に記載される数値範囲の上限及び下限は、数値範囲として例示された数値をそれぞれ任意に選択して組み合わせることが可能である。本明細書において、色名と色度座標との関係、光の波長範囲と単色光の色名との関係等は、JIS Z8110に従う。蛍光体の半値幅は、蛍光体の発光スペクトルにおいて、最大発光強度に対して発光強度が50%となる発光スペクトルの波長幅(半値全幅;FWHM)を意味する。本明細書において、蛍光体又は発光材料の組成を表す式中、カンマ(,)で区切られて記載されている複数の元素は、これらの複数の元素のうち少なくとも1種の元素を組成中に含有することを意味する。また、蛍光体の組成を表す式中、コロン(:)の前は母体結晶を表し、コロン(:)の後は賦活元素を表す。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、フッ化物蛍光体、その製造方法及び発光装置を例示するものであって、本発明は、以下に示すフッ化物蛍光体、その製造方法及び発光装置に限定されない。
【0011】
フッ化物蛍光体
フッ化物蛍光体は、第一フッ化物及び第一フッ化物の表面の少なくとも一部に配置される第二フッ化物を含む。第一フッ化物は、アルカリ金属と、Siと、Alと、Mnと、Fと、を含み、前記アルカリ金属のモル数を2とする場合に、SiとAlとMnのモル数の合計が0.9以上1.1以下であり、Alのモル数が0を超えて0.10未満であり、Mnのモル数が0を超えて0.20未満であり、Fのモル数が5.9以上6.1以下である組成を有する。第二フッ化物は、アルカリ金属と、Siと、Fと、を含み、実質的にAl及びMnを含まない組成を有する。
【0012】
フッ化物蛍光体は、第一フッ化物の表面に第二フッ化物が配置されていることで、より高い耐久性を示すことができる。これは例えば、以下のように考えることができる。第一フッ化物の表面に配置される第二フッ化物が、アルカリ金属、Si及びFを含む組成を有し、イオン半径の違いから結晶構造を変化させ得るAlとMnを実質的に含まない組成を有していることで、フッ化物蛍光体としての結晶構造が安定化するためと考えることができる。
【0013】
フッ化物蛍光体、第一フッ化物及び第二フッ化物の組成におけるアルカリ金属は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)及びセシウム(Cs)からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてもよく、少なくともカリウム(K)を含み、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、ルビジウム(Rb)及びセシウム(Cs)からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。また、第一フッ化物及び第二フッ化物の組成におけるアルカリ金属は、実質的にカリウム(K)からなっていてもよい。ここで、「実質的にKからなる」とは、組成に含まれるアルカリ金属の総モル数に対するKのモル数の比が、例えば0.90以上であってよく、好ましくは0.95以上、又は0.97以上であってよい。モル数の比の上限は、例えば1又は0.995以下であってよい。フッ化物蛍光体、第一フッ化物及び第二フッ化物においては、アルカリ金属の一部がアンモニウムイオン(NH )に置換されていてもよい。アルカリ金属の一部がアンモニウムイオンに置換される場合、組成におけるアルカリ金属の総モル数に対するアンモニウムイオンのモル数の比は、例えば0.10以下であってよく、好ましくは0.05以下、又は0.03以下である。アンモニウムイオンのモル数の比の下限は、例えば0を超えていてよく、好ましくは0.005以上であってよい。
【0014】
第一フッ化物は、例えば以下のような組成を有していてよい。アルカリ金属の総モル数2に対して、SiとAlとMnの総モル数の比が、例えば0.9以上1.1以下であってよく、好ましくは0.95以上、又は0.97以上であってよく、また好ましくは1.05以下、又は1.03以下であってよい。アルカリ金属の総モル数2に対するAlのモル数の比が、例えば0を超えて0.1以下であってよく、好ましくは0.002以上、又は0.003以上であってよく、また好ましくは0.03以下、0.02以下、又は0.015以下であってよい。アルカリ金属の総モル数2に対するMnのモル数の比が、例えば0を超えて0.2以下であってよく、好ましくは0.005以上、0.01以上、又は0.015以上であってよく、また好ましくは0.15以下、0.12以下、又は0.1以下であってよい。アルカリ金属の総モル数2に対するFのモル数の比が、例えば5.9以上6.1以下であってよく、好ましくは5.92以上、又は5.95以上であってよく、また好ましくは6.05以下、又は6.025以下であってよい。アルカリ金属の総モル数2に対するSiのモル数の比は、例えば0.7以上1.1以下であってよく、好ましくは0.8以上、0.85以上、又は0.92以上であってよく、また好ましくは1.03以下、1.01以下、又は0.95未満であってよい。さらに第一フッ化物の組成においては、Siのモル数に対するAlのモル数の比は、例えば0.001以上0.14以下であってよく、好ましくは0.002以上、又は0.003以上であってよく、また好ましくは0.04以下、又は0.015以下であってよい。
【0015】
第一フッ化物は、例えば下記式(Ia)で表される組成を有していてもよい。
[SiAlMn] (Ia)
式(Ia)中、Mはアルカリ金属を示し、少なくともKを含んでよい。Mnは4価のMnイオンであってよい。p、q、rおよびsは、0.9≦p+q+r≦1.1、0<q≦0.1、0<r≦0.2、5.9≦s≦6.1を満たしていてよい。好ましくは、0.95≦p+q+r≦1.05又は0.97≦p+q+r≦1.03、0<q≦0.03、0.002≦q≦0.02又は0.003≦q≦0.015、0.005≦r≦0.15、0.01≦r≦0.12又は0.015≦r≦0.1、5.92≦s≦6.05又は5.95≦s≦6.025であってよい。
【0016】
第一フッ化物は、その粒子表面に凹凸、溝等を有していてもよい。粒子表面の状態は、例えば、第一フッ化物からなる粉体の安息角を測定することで評価することができる。第一フッ化物からなる粉体の安息角は例えば、70°以下であってよく、好ましくは65°以下、又は60°以下であってよい。安息角の下限は例えば30°以上である。安息角は、例えば、注入法によって測定される。具体的には、例えば、粉体特性測定器(例えば、A.B.D粉体特性測定器、筒井理化学器械株式会社製)を用いて測定することができる。
【0017】
第一フッ化物が表面に凹凸、溝等を有することで、例えば、所定量の第二フッ化物を第一フッ化物の表面に配置する際に、第一フッ化物と第二フッ化物との接触面積が大きくなるために、第一フッ化物と第二フッ化物との間に強固な結合を得て、外力により剥離し難い第二フッ化物層を第一フッ化物の表面に配置することができる。また、所定量の第二フッ化物を第一フッ化物の表面に配置する工程において、比較的少量の第二フッ化物の原料を使用する場合であっても、所定量の第二フッ化物を第一フッ化物の表面に配置することが可能となる。
【0018】
第二フッ化物は、例えば以下のような組成を有していてよい。アルカリ金属の総モル数2に対するSiのモル数の比が、例えば0.9以上1.1以下であってよく、好ましくは0.95以上、又は0.97以上であってよく、また好ましくは1.05以下、又は1.03以下であってよい。アルカリ金属の総モル数2に対するFのモル数の比は、例えば5.9以上6.1以下であってよく、好ましくは5.95以上、又は5.97以上であってよく、また好ましくは6.05以下、又は6.03以下であってよい。
【0019】
第二フッ化物は、実質的にAl及びMnを含まない組成を有する。ここで「実質的にAl及びMnを含まない」とは、第二フッ化物の組成が、アルカリ金属の総モル数2に対するAl及びMnの合計モル数の比が、例えば0.005以下であることを意味し、好ましくは0.003以下、又は0.002未満であってよい。
【0020】
第二フッ化物は、例えば下記式(Ib)で表される組成を有していてもよい。
[Si] (Ib)
式(Ib)中、Mはアルカリ金属を示し、少なくともKを含んでよい。uおよびvは、0.9≦u≦1.1、5.9≦v≦6.1を満たしていてよい。好ましくは、0.95≦u≦1.05、又は0.97≦u≦1.03であってよく、5.95≦v≦6.05、又は5.97≦v≦6.03であってよい。
【0021】
フッ化物蛍光体は、例えば以下のような組成を有していてよい。アルカリ金属の総モル数2に対して、SiとAlとMnの総モル数の比が、例えば0.9以上1.1以下であってよく、好ましくは0.95以上、又は0.97以上であってよく、また好ましくは1.05以下、又は1.03以下であってよい。アルカリ金属の総モル数2に対するAlのモル数の比が、例えば0を超えて0.1以下であってよく、好ましくは0.002以上、又は0.003以上であってよく、また好ましくは0.03以下、0.02以下、又は0.015以下であってよい。アルカリ金属の総モル数2に対するMnのモル数の比が、例えば0を超えて0.2以下であってよく、好ましくは0.005以上、0.01以上、又は0.015以上であってよく、また好ましくは0.15以下、0.12以下、又は0.1以下であってよい。アルカリ金属の総モル数2に対するFのモル数の比が、例えば5.9以上6.1以下であってよく、好ましくは5.92以上、又は5.95以上であってよく、また好ましくは6.05以下、又は6.025以下であってよい。アルカリ金属の総モル数2に対するSiのモル数の比は、例えば0.7以上1.1以下であってよく、好ましくは0.8以上、0.85以上、又は0.92以上であってよく、また好ましくは1.03以下、1.01以下、又は0.95未満であってよい。さらに第一フッ化物の組成においては、Siのモル数に対するAlのモル数の比は、例えば0.001以上0.14以下であってよく、好ましくは0.002以上、又は0.003以上であってよく、また好ましくは0.04以下、又は0.015以下であってよい。
【0022】
フッ化物蛍光体は、下記式(II)で表される組成を有していてもよい。なお、下記式(II)で表される組成に含まれるAlとMnは、主に第一フッ化物の組成に含まれるAlとMnに起因する。
[SiAlMn] (II)
式(II)中、Mはアルカリ金属を示し、少なくともKを含んでよい。Mnは4価のMnイオンであってよい。x、y、zおよびwは、0.9≦x+y+z≦1.1、0<y≦0.1、0<z≦0.2、5.9≦w≦6.1を満たしていてよい。好ましくは、0.95≦x+y+z≦1.05又は0.97≦x+y+z≦1.03、0<y≦0.03、0.002≦y≦0.02又は0.003≦y≦0.015、0.005≦z≦0.15、0.01≦z≦0.12又は0.015≦z≦0.1、5.92≦w≦6.05又は5.95≦w≦6.025であってよい。
【0023】
第二フッ化物は、第一フッ化物の表面の少なくとも一部に配置されていていればよく、第一フッ化物の表面を第二フッ化物層として被覆していてもよい。第一フッ化物の表面に配置される第二フッ化物は、上述した第二フッ化物の組成を均一に有していてもよいし、第一フッ化物と接する領域においてAl及びMnを含む組成を部分的に有していてもよい。すなわち、フッ化物蛍光体は第一フッ化物と第二フッ化物からなる2層構造のような明確な界面でもって、第一フッ化物からなる内部領域と第二フッ化物からなる表面領域とが区画されていてもよいし、第二フッ化物からなる表面領域がフッ化物蛍光体の表面に向かって、Al及びMnの濃度が徐々に低下するような態様で形成されていてもよい。
【0024】
フッ化物蛍光体における第二フッ化物の含有率は、フッ化物蛍光体における輝度の低下を抑制しつつ、耐久性を向上させる観点から、例えば1モル%以上30モル%以下であってよい。フッ化物蛍光体における第二フッ化物の含有率は、好ましくは2モル%以上、又は3モル%以上であってよく、また好ましくは25モル%以下、又は20モル%以下であってよい。フッ化物蛍光体における第二フッ化物の含有率は、第二フッ化物が配置されたフッ化物蛍光体では、第二フッ化物が配置される前の第一フッ化物に比べて、組成における1モル当たりのMn量が減少することに基づいて算出できる。すなわち、第二フッ化物が配置される前の第一フッ化物1モルに含まれるMnのモル量Mから、第二フッ化物が配置されたフッ化物蛍光体1モルに含まれるMnのモル量Mを差し引いた値を、Mで除した値((M-M)/M)の百分率として、フッ化物蛍光体における第二フッ化物の含有率(モル%)を算出することができる。
【0025】
フッ化物蛍光体の体積基準のメディアン径は、例えば、輝度の向上の観点から、10μm以上90μm以下であってよい。フッ化物蛍光体の体積基準のメディアン径は、好ましくは15μm以上、又は20μm以上であってよく、また好ましくは70μm以下、又は50μm以下であってよい。また、より薄型化が要求される例えば、フッ化物蛍光体を含むシート状の波長変換部材では、その配合量の低減の観点から、フッ化物蛍光体の体積基準のメディアン径は、0.2μm以上15μm以下であってよい。フッ化物蛍光体の体積基準のメディアン径は、好ましくは0.3μm以上、又は0.5μm以上であってよく、また好ましくは12μm以下、又は10μm以下であってよい。フッ化物蛍光体の粒度分布は、例えば、輝度の向上の観点から、単一ピークの粒度分布を示してよく、好ましくは分布幅の狭い単一ピークの粒度分布を示してよい。具体的には、体積基準の粒度分布において、小径側からの体積累積10%に対応する粒径をD10、体積累積90%に対応する粒径をD90とすると、D10に対するD90の比(D90/D10)が、例えば3.0以下であってよい。なお、体積基準のメディアン径は、体積基準の累積粒度分布において、小径側からの体積累積50%に対応する粒径であり、体積基準の累積粒度分布はレーザー回折式粒度分布測定装置によって測定される。
【0026】
フッ化物蛍光体は、その粒子表面に凹凸、溝等を有していてもよい。粒子表面の状態は、例えば、フッ化物蛍光体からなる粉体の安息角を測定することで評価することができる。フッ化物蛍光体からなる粉体の安息角は例えば、70°以下であってよく、好ましくは65°以下、又は60°以下であってよい。安息角の下限は例えば30°以上である。安息角は、例えば、注入法によって測定される。
【0027】
第一フッ化物の表面の少なくとも一部に第二フッ化物が配置されて得られるフッ化物蛍光体は、第二フッ化物が表面に配置された後においても、その表面に凹凸、溝等を有していてよい。これにより、そのフッ化物蛍光体の表面の凹凸、溝等に起因してフッ化物蛍光体の粒子間の接触面積が低減されて粉体の凝集が抑制される。そのため、発光装置を製造する際に樹脂組成物中にフッ化物蛍光体をより均一に分散させることができる。また、例えば、発光装置の製造時にディスペンサーを使用する場合、ディスペンサーのニードル内にフッ化物蛍光体が詰まる等の不具合の発生が抑制される。そして、フッ化物蛍光体の凝集が少なく、色度のバラつきが少ない発光装置を得ることができる。
【0028】
フッ化物蛍光体のうち特に第一フッ化物の部分は、例えば、4価のマンガンで賦活された蛍光体であり、可視光の短波長領域の光を吸収して赤色発光する。フッ化物蛍光体に照射される光は、主に青色領域の光であってよく、そのピーク波長は、例えば、380nm以上485nm以下の波長範囲内であってよい。フッ化物蛍光体の発光スペクトルにおける発光ピーク波長は、例えば、610nm以上650nm以下の波長範囲内であってよい。フッ化物蛍光体の発光スペクトルにおける半値幅は、例えば、10nm以下であってよい。
【0029】
フッ化物蛍光体は、良好な発光効率を示すことができる。フッ化物蛍光体の内部量子効率は、例えば88%以上であってよく、好ましくは93%以上、又は94%以上であってよい。フッ化物蛍光体の内部量子効率は、例えば、量子効率測定装置を用いて、450nmの励起光によって測定される。
【0030】
フッ化物蛍光体の製造方法
図1及び図2はそれぞれ、フッ化物蛍光体の製造方法の工程の一例を示すフローチャートである。フッ化物蛍光体の製造方法は、第一フッ化物を準備する第一工程(S101)と、第一フッ化物の表面の少なくとも一部に第二フッ化物粒子を配置する第二工程(S102)と、を含んでいてよい。また、フッ化物蛍光体の製造方法は、第一フッ化物を準備する第一工程(S101)と、第一フッ化物の表面の少なくとも一部に第二フッ化物粒子を配置する第二工程(S102)と、第二フッ化物が配置された複合フッ化物をフッ素含有物質と接触させて、共に熱処理する第三工程(S103)と、を含んでいてよい。
【0031】
具体的に、フッ化物蛍光体の製造方法は、アルカリ金属と、Siと、Alと、Mnと、Fと、を含み、前記アルカリ金属のモル数を2とする場合に、SiとAlとMnのモル数の合計が0.9以上1.1以下であり、Alのモル数が0を超えて0.10未満であり、Mnのモル数が0を超えて0.20未満であり、Fのモル数が5.9以上6.1以下である組成を有する第一フッ化物を準備する第一工程と、第一フッ化物と、Si及びFを含む第一溶液と、アルカリ金属を含む第二溶液と、を還元剤の存在下に接触させて、第一フッ化物の表面の少なくとも一部に、アルカリ金属と、Siと、Fと、を含み、実質的にAlと、Mnを含まない組成を有する第二フッ化物を配置して複合フッ化物を得る第二工程と、を含んでいてよい。
【0032】
第一フッ化物と、Si及びFを含む第一溶液と、アルカリ金属を含む第二溶液と、を還元剤の存在下に接触させることで、第一フッ化物の表面の少なくとも一部に第二フッ化物が配置されたフッ化物蛍光体を効率的に製造することができる。得られるフッ化物蛍光体を含む波長変換部材を備える発光装置においては、例えば、高温駆動環境下における耐久性が向上する。
【0033】
第一工程では、特定の組成を有する第一フッ化物を準備する。第一フッ化物は購入して準備してもよく、所望の組成及び特性を有する第一フッ化物を製造して準備してもよい。第一フッ化物は、例えば、以下のような製造方法で製造することができる。なお、準備される第一フッ化物の詳細については、既述の通りである。
【0034】
第一フッ化物は、例えば、特願2020-212532号明細書に記載の製造方法で製造することができる。すなわち、アルカリ金属とSiとMnとFとを含む組成を有する第三フッ化物を準備することと、Alとアルカリ金属とFとを含む第四フッ化物を準備することと、アルカリ金属とSiとMnとFとを含む組成を有する第三フッ化物及びAlとアルカリ金属とFとを含む第四フッ化物を含む混合物を不活性ガス雰囲気中で、600℃以上780℃以下の温度で熱処理することと、を含む製造方法で製造することができる。ここでアルカリ金属とSiとMnとFとを含む組成を有する第三フッ化物の組成はアルカリ金属の総モル数2に対して、SiとMnの総モル数の比が0.9以上1.1以下であり、Mnのモル数の比が0を超えて0.2以下であり、Fのモル数の比が5.9以上6.1以下であってよい。Alとアルカリ金属とFとを含む第四フッ化物の組成は、Alのモル数1に対して、アルカリ金属の総モル数の比が1以上3以下であり、Fのモル数の比が4以上6以下であってよい。あるいは、Alのモル数1に対して、アルカリ金属の総モル数の比が2以上3以下であり、Fのモル数の比が5以上6以下であってよい。
【0035】
第一工程で準備される第一フッ化物は、フッ素含有物質とともに熱処理されたものであってもよい。すなわち、第一工程は必要に応じて、後述するような、第二工程で得られる第二フッ化物が表面に配置された複合フッ化物をフッ素含有物質と接触させて熱処理をする第三工程とは別に、購入又は製造された第一フッ化物を、フッ素含有物質と接触させて、400℃以上の温度で熱処理をするフッ素処理工程をさらに含んでいてもよい。フッ素処理工程を行うことで、より耐久性が向上するフッ化物蛍光体を製造することができる。
【0036】
フッ素処理工程で第一フッ化物と接触させるフッ素含有物質としては、例えばF、CHF、CF、NHHF、HF、SiF、KrF、XeF、XeF及びNFからなる群より選択される少なくとも1種を含むものであってよい。第一フッ化物とフッ素含有物質との接触方法としては、例えば第一フッ化物を熱処理する雰囲気にフッ素含有物質を存在させる方法を挙げることができる。すなわち、フッ素処理工程は、第一フッ化物を、フッ素含有物質を含む雰囲気下で熱処理することを含んでいてよい。
【0037】
フッ素含有物質を含む雰囲気は、フッ素含有物質に加えて窒素ガス、希ガス等の不活性ガスをさらに含んでいてよい。フッ素含有物質を含む雰囲気におけるフッ素含有物質の濃度は、例えば3体積%以上35体積%以下であってよい。フッ素含有物質の濃度は、好ましくは5体積%以上、又は10体積%以上であってよく、また好ましくは30体積%以下、又は25体積%以下であってよい。
【0038】
フッ素処理工程における熱処理の温度は、例えば400℃以上600℃以下であってよい。熱処理の温度は、好ましくは430℃以上、又は450℃以上であってよく、また好ましくは570℃以下、又は550℃以下であってよい。熱処理の時間は、例えば1時間以上40時間以下であってよい。熱処理の時間は好ましくは2時間以上、又は3時間以上であってよく、また好ましくは30時間以下、又は20時間以下であってよい。
【0039】
第二工程では、第一フッ化物と、Si及びFを含む第一溶液と、アルカリ金属を含む第二溶液と、を還元剤の存在下に接触させて、第一フッ化物の表面の少なくとも一部に、アルカリ金属と、Siと、Fと、を含み、実質的にAlと、Mnを含まない組成を有する第二フッ化物を配置して複合フッ化物を得る。得られる複合フッ化物は、フッ化物蛍光体を含んでいてよい。
【0040】
第一溶液は、Si及びFを含み、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。第一溶液は、好ましくはケイ素とフッ素イオンとを含む錯イオンとフッ化水素を少なくとも含んでいてよい。第一溶液は、例えば、ケイ素とフッ素イオンとを含む錯イオン源とフッ化水素を含む水溶液として得られる。ケイ素とフッ素イオンとを含む錯イオン源は、ケイ素とフッ化物イオンを含み、溶液への溶解性に優れる化合物であることが好ましい。ケイ素とフッ素イオンとを含む錯イオン源として、具体的には、HSiF、NaSiF、(NHSiF、RbSiF、CsSiF等を挙げることができる。これらの中でも、水への溶解度が高く、不純物としてアルカリ金属元素を含まないことにより、HSiFが好ましい。第一溶液を構成するケイ素とフッ素イオンとを含む錯イオン源は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
第一溶液におけるケイ素とフッ素イオンとを含む錯イオン濃度の下限値は、例えば0.5質量%以上であってよく、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上であってよい。また、第一溶液におけるケイ素とフッ素イオンとを含む錯イオン濃度の上限値は、例えば40質量%以下であってよく、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下であってよい。また、第一溶液におけるフッ化水素濃度の下限値は、例えば5質量%以上であってよく、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であってよい。また、第一溶液におけるフッ化水素濃度の上限値は、例えば80質量%以下であってよく、好ましくは75質量%以下、より好ましくは70質量%以下であってよい。
【0042】
第一溶液は、アルカリ金属をさらに含んでいてもよい。第一溶液にアルカリ金属を含むことで第一フッ化物の第一溶液に対する溶解度が低下し、第一溶液への第一フッ化物の溶解を抑制することができる。第一溶液に含まれるアルカリ金属は、第一フッ化物に含まれるアルカリ金属と同じアルカリ金属を含んでいてもよい。アルカリ金属は、アルカリ金属イオンとして含まれていてよく、少なくともカリウムイオンを含んでいてよい。第一溶液がSi及びFに加えてアルカリ金属を含む場合、第一溶液は、ケイ素とフッ素イオンとを含む錯イオンとフッ化水素を含む溶液に、アルカリ金属を含む化合物を溶解することで調製することができる。アルカリ金属を含む化合物としては、アルカリ金属イオンを含むハロゲン化物、フッ化水素化物、水酸化物、酢酸塩、炭酸塩等の水溶性の化合物が挙げられる。具体的には、KF、KHF、KOH、KCl、KBr、KI、CHCOOK、KCO等の水溶性アルカリ金属塩を挙げることができる。中でも溶解熱が小さく安全性が高いことから、KHFが好ましい。第一溶液を構成するアルカリ金属を含む化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
第一溶液がアルカリ金属を含む場合、第一溶液におけるアルカリ金属イオン濃度の下限値は、例えば0.05質量%以上であってよく、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上であってよい。また、第一溶液におけるアルカリ金属イオン濃度の上限値は、例えば10質量%以下であってよく、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下であってよい。
【0044】
第二溶液は、少なくともアルカリ金属を含み、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。アルカリ金属は、アルカリ金属イオンとして含まれていてよく、少なくともカリウムイオンを含んでいてよい。第二溶液はアルカリ金属に加えて、フッ化水素をさらに含んでいてよい。第二溶液は、例えば、アルカリ金属を含む化合物のフッ化水素酸の水溶液として得られる。第一溶液を構成するアルカリ金属を含む化合物としては、アルカリ金属イオンを含むハロゲン化物、フッ化水素化物、水酸化物、酢酸塩、炭酸塩等の水溶性の化合物が挙げられる。具体的には、KF、KHF、KOH、KCl、KBr、KI、CHCOOK、KCO等の水溶性アルカリ金属塩を挙げることができる。中でも溶液中のフッ化水素濃度を下げることなく溶解することができ、また、溶解熱が小さく安全性が高いことから、KHFが好ましい。第二溶液を構成するアルカリ金属を含む化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
第二溶液におけるアルカリ金属イオン濃度の下限値は、例えば0.1質量%以上であってよく、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.4質量%以上であってよい。また、第二溶液におけるアルカリ金属イオン濃度の上限値は、例えば40質量%以下であってよく、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下であってよい。また、第二溶液におけるフッ化水素濃度の下限値は、例えば5質量%以上であってよく、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であってよい。また、第二溶液におけるフッ化水素濃度の上限値は、例えば80質量%以下であってよく、好ましくは75質量%以下、より好ましくは70質量%以下であってよい。
【0046】
第二工程で用いられる還元剤は、還元剤を含む第三溶液であってよい。第三溶液は、還元剤を少なくとも含み、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。第三溶液としては、例えば、過酸化水素、シュウ酸等の還元剤を含有する溶液を利用することもできる。これらのうち、過酸化水素は、第一フッ化物に悪影響を及ぼすことなく、溶出した4価のMnイオンを還元できるという点で、また、最終的に無害な水と酸素に分解するため、製造工程上利用しやすく、環境負荷が少ない点で好ましい。第三溶液における還元剤の濃度は、例えば、1質量%以上70質量%以下であってよく、好ましくは5質量%以上50質量%以下であってよい。
【0047】
還元剤の存在下で、第一フッ化物、第一溶液及び第二溶液を接触させる方法としては、例えば、第一フッ化物、第一溶液、第二溶液及び還元剤とを混合することが挙げられる。具体的には、例えば第一溶液を撹拌しながら、第一フッ化物を添加し、次いで還元剤を添加する。その後、第二溶液を添加することで混合してもよい。還元剤の存在下で、第一フッ化物、第一溶液及び第二溶液を接触させることで、第一フッ化物から遊離し得る4価のマンガンイオンが還元されて、第二フッ化物へのMnの導入が抑制される。
【0048】
第二工程における反応温度は、例えば10℃以上40℃以下であってよく。好ましくは15℃以上30℃以下であってよい。第二工程において、第一溶液、第一フッ化物及び還元剤を含む混合物に第二溶液を添加する場合、第二溶液の添加に要する時間は、例えば1分以上60分以下であってよい。
【0049】
第一フッ化物と、第一溶液及び第二溶液を還元剤の存在下で接触させることにより、ケイ素とフッ素イオンとを含む錯イオンと、アルカリ金属イオンとが反応して、第一フッ化物の表面の少なくとも一部にアルカリ金属と、Siと、Fとを含む第二フッ化物が配置されて、複合フッ化物が得られる。第二フッ化物の組成は、アルカリ金属の総モル数を2とする場合に、Siのモル数が0.9以上1.1以下であり、Fのモル数が5.9以上6.1以下であってよい。第二フッ化物の詳細については既述の通りである。
【0050】
第二工程で得られる複合フッ化物は濾過等により固液分離して回収することができる。また、回収される複合フッ化物には、過酸化水素水などの還元剤を加えて洗浄してもよく、エタノール、イソプロピルアルコール、水、アセトン等の液媒体で洗浄してもよい。さらに乾燥処理を行ってもよい。乾燥処理は、例えば50℃以上であってよく、好ましくは55℃以上、より好ましくは60℃以上、また、例えば110℃以下であってよく、好ましくは105℃以下、より好ましくは100℃以下で実施すればよい。乾燥時間としては、複合フッ化物に付着した水分等を除去することができれば、特に制限はなく、例えば、10時間程度である。
【0051】
フッ化物蛍光体の製造方法は、第二工程で得られる第二フッ化物が表面に配置された複合フッ化物を、フッ素含有物質と接触させて、400℃以上の温度で熱処理をする第三工程をさらに含んでいてもよい。第三工程を行うことで、より耐久性が向上するフッ化物蛍光体を製造することができる。
【0052】
第三工程で複合フッ化物と接触させるフッ素含有物質としては、例えばF、CHF、CF、NHHF、HF、SiF、KrF、XeF、XeF及びNFからなる群より選択される少なくとも1種を含むものであってよい。複合フッ化物とフッ素含有物質との接触方法としては、例えば複合フッ化物を熱処理する雰囲気にフッ素含有物質を存在させる方法を挙げることができる。すなわち、第三工程は、複合フッ化物を、フッ素含有物質を含む雰囲気下で熱処理することを含んでいてよい。
【0053】
フッ素含有物質を含む雰囲気は、フッ素含有物質に加えて窒素ガス、希ガス等の不活性ガスをさらに含んでいてよい。フッ素含有物質を含む雰囲気におけるフッ素含有物質の濃度は、例えば3体積%以上35体積%以下であってよい。フッ素含有物質の濃度は、好ましくは5体積%以上、又は10体積%以上であってよく、また好ましくは30体積%以下、又は25体積%以下であってよい。
【0054】
第三工程における熱処理の温度は、例えば400℃以上600℃以下であってよい。熱処理の温度は、好ましくは430℃以上、又は450℃以上であってよく、また好ましくは570℃以下、又は550℃以下であってよい。熱処理の時間は、例えば1時間以上40時間以下であってよい。熱処理の時間は好ましくは2時間以上、又は3時間以上であってよく、また好ましくは30時間以下、又は20時間以下であってよい。
【0055】
発光装置
発光装置は、前記フッ化物蛍光体を含む第一発光材料を含む波長変換部材と、第一発光材料に光を照射する発光素子とを含む。発光装置は、必要に応じてその他の構成部材をさらに含んでいてもよい。
【0056】
発光装置の一例を図面に基づいて説明する。図3は、本実施形態に係る発光装置の一例を示す概略断面図である。この発光装置は、表面実装型発光装置の一例である。発光装置100は、例えば380nm以上485nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光を発する発光素子10と、発光素子10を載置する成形体40と、を有する。成形体40は第一のリード20と第二のリード30とを有しており、熱可塑性樹脂若しくは熱硬化性樹脂により一体成形されている。成形体40は底面と側面を持つ凹部が形成されており、凹部の底面に発光素子10が載置されている。発光素子10は一対の正負の電極を有しており、その一対の正負の電極は第一のリード20及び第二のリード30とワイヤ60を介して電気的に接続されている。発光素子10は波長変換部材50により封止されている。波長変換部材50は、発光素子10からの光を波長変換するフッ化物蛍光体を含む発光材料70を含有している。発光材料70は、前記フッ化物蛍光体を含む第一発光材料と、発光素子10からの光によりフッ化物蛍光体とは異なる波長範囲に発光ピーク波長を有する光を発する第二発光材料を含んでいてもよい。
【0057】
波長変換部材は、発光材料に加えて樹脂を含んでいてよい。波長変換部材を構成する樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂を挙げることができる。波長変換部材は、樹脂及び発光材料に加えて、光拡散材をさらに含んでいてもよい。光拡散材を含むことで、発光素子からの指向性を緩和させ、視野角を増大させることができる。光拡散材としては、例えば酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム等を挙げることができる。
【0058】
発光素子は、可視光の短波長領域である380nm以上485nm以下の波長範囲に発光ピーク波長を有する光を発する。発光素子は、フッ化物蛍光体に照射される光を発する。発光素子は、380nm以上480nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有することが好ましく、410nm以上480nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有することがより好ましく、430nm以上480nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有することがさらに好ましい。発光素子には、半導体発光素子を用いることが好ましい。半導体発光素子を用いることによって、高効率で入力に対する出力のリニアリティが高く、機械的衝撃にも強い安定した発光装置を得ることができる。半導体発光素子としては、例えば、窒化物系半導体を用いた半導体発光素子を用いることができる。発光素子の発光スペクトルにおける発光ピークの半値幅は、例えば、30nm以下であることが好ましい。
【0059】
発光装置は、フッ化物蛍光体を含む第一発光材料を含んで構成される。発光装置に含まれるフッ化物蛍光体の詳細については既述の通りである。フッ化物蛍光体は、例えば、発光素子を覆う波長変換部材に含有される。フッ化物蛍光体を含有する波長変換部材で覆われた発光装置は、発光素子から発せられた光の一部がフッ化物蛍光体に吸収されて、赤色光として放射される。380nm以上485nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光を発する発光素子を用いることで、放射される光をより有効に利用することができ、発光装置から出射される光の損失を少なくすることができ、高効率の発光装置を提供することができる。
【0060】
発光装置は、フッ化物蛍光体を含む第一発光材料に加えて、フッ化物蛍光体以外の発光材料を含む第二発光材料をさらに含むことが好ましい。フッ化物蛍光体以外の発光材料は、発光素子からの光の照射を受けて、フッ化物蛍光体とは異なる波長の光に発光するものであればよい。第二発光材料は、例えば、第一発光材料と同様に波長変換部材に含有させることができる。
【0061】
第二発光材料は、495nm以上590nm以下の波長範囲に発光ピーク波長を有していてよく、好ましくはβサイアロン蛍光体、ハロシリケート蛍光体、シリケート蛍光体、希土類アルミン酸塩蛍光体、ペロブスカイト系量子ドット、窒化物蛍光体及びカルコパイライト系量子ドットからなる群から選択される少なくとも1種であってよい。βサイアロン蛍光体は、例えば下記式(IIa)で表される組成を有していてよい。ハロシリケート蛍光体は、例えば下記式(IIb)で表される組成を有していてよい。シリケート蛍光体は、例えば下記式(IIc)で表される組成を有していてよい。希土類アルミン酸塩蛍光体は、下記式(IId)で表される組成を有していてよい。ペロブスカイト系量子ドットは、例えば下記式(IIe)で表される組成を有していてよい。窒化物蛍光体は、例えば下記式(IIf)、(IIg)又は(IIh)で表される組成を有していてよい。カルコパイライト系量子ドットは、例えば下記式(IIi)で表される組成を有していてよい。
Si6-tAl8-t:Eu (IIa)
(式中、tは、0<t≦4.2を満たす数である。)
(Ca,Sr,Ba)MgSi16(F,Cl,Br):Eu (IIb)
(Ba,Sr,Ca,Mg)SiO:Eu (IIc)
(Y,Lu,Gd,Tb)(Al,Ga)12:Ce (IId)
CsPb(F,Cl,Br,I) (IIe)
(La,Y,Gd)Si11:Ce (IIf)
(Sr,Ca)LiAl:Eu (IIg)
(Ca,Sr)AlSiN:Eu (IIh)
(Ag,Cu,Au)(In,Ga)(S,Se,Te) (IIi)
【実施例0062】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0063】
製造例1 第一フッ化物の製造
KHFを7029g秤量し、このKHFを55質量%のHF水溶液35.0Lに溶解させて、溶液Aを調製した。またKMnFを1309.5g秤量し、このKMnFを55質量%のHF水溶液12.0Lに溶解させて溶液Bを調製した。続いてHSiFを40質量%含む水溶液15.5Lを調整し、溶液Cとした。次に溶液Aを、室温で撹拌しながら、約20時間かけて溶液Bと溶液Cとを滴下した。滴下終了後に35%過酸化水素水400mlを加え、純水で洗浄を行い、得られた沈殿物を固液分離後、エタノール洗浄を行い、90℃で10時間乾燥することで、フッ化物Aを得た。得られたフッ化物Aは、K[Si0.930Mn0.070]で表される組成を有していた。
【0064】
得られたK[Si0.930Mn0.070]で表される組成を有するフッ化物Aの2000gと、K[AlF]で表される組成を有するフッ化物Bの28.48gを秤量し、混合して、混合物を調製した。窒素ガス濃度が100体積%である不活性ガス雰囲気中にて、温度を700℃、熱処理時間を5時間として、フッ化物Aとフッ化物Bの混合物に熱処理を行って熱処理物を得た。得られた熱処理物を、過酸化水素を1質量%含む洗浄水で充分に洗浄し、固液分離後、エタノール洗浄を行い、90℃で10時間乾燥した後、フッ素ガス(F)濃度が20体積%、窒素ガス濃度が80体積%である雰囲気中にて、フッ素ガスと接触させつつ、温度を500℃、保持時間を8時間として熱処理を行い、製造例1の第一フッ化物を製造した。
【0065】
得られた製造例1の第一フッ化物は、K[Si0.924Al0.010Mn0.0665.990]で表される組成を有していた。
【0066】
製造例2
フッ化物Aとして、K[Si0.945Mn0.055]で表される組成を有するフッ化物を用いたことと、フッ化物Bの質量を23.69gに変更したこと以外は、製造例1と同じ条件で製造例2の第一フッ化物を製造した。
【0067】
得られた製造例2の第一フッ化物は、K[Si0.939Al0.009Mn0.0525.991]で表される組成を有していた。
【0068】
製造例3
フッ化物Aとして、K[Si0.956Mn0.044]で表される組成を有するフッ化物を用いたことと、フッ化物Bの質量を30.89gに変更したこと以外は、製造例1と同じ条件で製造例3の第一フッ化物を製造した。
【0069】
得られた製造例3の第一フッ化物は、K[Si0.947Al0.011Mn0.0425.989]で表される組成を有していた。
【0070】
実施例1
55質量%HF水溶液14.0Lに40質量%HSiF水溶液2.61Lを加え、300gのKHFを溶解させて第一溶液を調製した。また55質量%HF水溶液6.0Lに133gのKHFを溶解させて第二溶液を調製した。さらに35質量%過酸化水素水を100mL準備して第三溶液とした。次に第一溶液を、室温で撹拌しながら、製造例1で製造した第一フッ化物3000gを投入し、第三溶液を加えた後、約10分間かけて第二溶液の滴下を行った。得られた沈殿物を固液分離後、エタノール洗浄を行い、90℃で10時間乾燥することで、複合フッ化物を含む実施例1のフッ化物蛍光体を作製した。
【0071】
得られた実施例1のフッ化物蛍光体は、K[Si0.930Al0.008Mn0.0625.992]で表される組成を有していた。
【0072】
実施例2
実施例1で得られた複合フッ化物を含むフッ化物蛍光体を、フッ素ガス濃度が20体積%、窒素ガス濃度が80体積%である雰囲気中にて、フッ素ガスと接触させつつ、温度を500℃、保持時間を8時間として熱処理を行い、実施例2のフッ化物蛍光体を作製した。
【0073】
得られた実施例2のフッ化物蛍光体は、K[Si0.930Al0.008Mn0.0625.992]で表される組成を有していた。
【0074】
実施例3
製造例1の第一フッ化物の代わりに製造例2の第一フッ化物を用いたこと以外は、実施例1と同じ条件でフッ化物蛍光体を作製した。得られた複合フッ化物を含むフッ化物蛍光体をフッ素ガス濃度が20体積%、窒素ガス濃度が80体積%である雰囲気中にて、フッ素ガスと接触させつつ、温度を500℃、保持時間を8時間として熱処理を行い、実施例3のフッ化物蛍光体を作製した。
【0075】
得られた実施例3のフッ化物蛍光体は、K[Si0.943Al0.008Mn0.0495.992]で表される組成を有していた。
【0076】
実施例4
製造例1の第一フッ化物の代わりに製造例3の第一フッ化物を用いたこと以外は、実施例3と同じ条件で実施例4のフッ化物蛍光体を作製した。
【0077】
得られた実施例4のフッ化物蛍光体は、K[Si0.951Al0.010Mn0.0395.990]で表される組成を有していた。
【0078】
比較例1
製造例1で得られた第一フッ化物を比較例1のフッ化物蛍光体とした。
【0079】
評価
色度座標
得られた実施例及び比較例の各フッ化物蛍光体について、量子効率測定装置(製品名:QE-2000、大塚電子株式会社製)を用いて、ピーク波長が450nmである励起光を各フッ化物蛍光体に照射し、室温(25℃)における各フッ化物蛍光体の発光スペクトルを測定した。実施例及び比較例の各フッ化物蛍光体の発光スペクトルデータから、CIE(国際照明委員会:Commission international de l’eclarirage)1931表色系におけるxy色度座標を求めた。結果を表1に示す。
【0080】
相対輝度
得られた実施例及び比較例の各フッ化物蛍光体について測定した発光スペクトルのデータから、比較例1のフッ化物蛍光体の発光輝度を100%として、実施例1から4のフッ化物蛍光体の発光輝度を相対輝度として求めた。結果を表1に示す。
【0081】
内部量子効率
得られた実施例及び比較例の各フッ化物蛍光体について、量子効率測定装置(製品名:QE-2000、大塚電子株式会社製)を用いて、450nmの励起光に対する内部量子効率を測定した。結果を表1に示す。
【0082】
組成
得られた実施例及び比較例の各フッ化物蛍光体について、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)による組成分析を行い、組成に含まれるカリウムを含むアルカリ金属を2モルとした場合のAlおよびMnそれぞれの元素のモル含有比(上記式(II)におけるy、z)を算出した。結果を表1に示す。
【0083】
第二フッ化物の含有率
表面領域の形成前後のMn分析値の差分から、フッ化物蛍光体に於ける第二フッ化物の含有率を算出した。具体的には、表面領域が形成される前のフッ化物蛍光体1モルに含まれるMnのモル量Mから、表面領域が形成された後のフッ化物蛍光体1モルに含まれるMnのモル量Mを差し引いた値を、Mで除した値((M-M)/M)の百分率として第二フッ化物の含有率(モル%)を算出した。結果を表1に示す。
【0084】
発光装置の製造例
得られた実施例及び比較例の各フッ化物蛍光体を第一発光材料として使用した。また、第二発光材料として、Si5.81Al0.190.197.81:Euで表される組成を有し、540nm付近に発光ピーク波長を有するβサイアロン蛍光体を使用した。CIE1931表色系における色度座標でxが0.280、yが0.270付近となるように第一発光材料71及び第二発光材料72を配合した発光材料70と、シリコーン樹脂とを混合して樹脂組成物を得た。次に、図2に示すような凹部を有する成形体40を準備し、凹部の底面に発光ピーク波長が451nmである、窒化ガリウム系化合物半導体を材料とする発光素子10を第一のリード20に配置した後、発光素子10の電極と第一のリード20、第二のリード30とをそれぞれワイヤ60で接続した。さらに、成形体40の凹部に発光素子10を覆うようにシリンジを用いて樹脂組成物を注入し、樹脂組成物を硬化させて波長変換部材を形成した。以上により発光装置を製造した。
【0085】
耐久性評価
実施例及び比較例にて得られた各フッ化物蛍光体を用いた各発光装置について、85℃の環境下で150mAの電流値で、連続発光させ、500時間経過後に評価する耐久性試験を行った。耐久性試験前の発光装置のCIE1931表色系における色度のx値を初期値とし、耐久性試験後の発光装置のCIE1931表色系におけるx値の初期値から変化した値の絶対値をΔxとして求めた。比較例1のフッ化物蛍光体を用いた発光装置のΔxを基準(100%)とし、実施例及び比較例の各発光装置について求めたΔxについて、基準100%に対する相対的なΔx変化率(%)を求めた。この相対的なΔx変化率(%)が低いほど、色度の変化が小さいことを示しており、耐久性が高いことを示す。結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
表1に示されるように、実施例1から4のフッ化物蛍光体では、表面領域に、AlとMnを実質的に含まない、アルカリ金属と、Siと、Fとから成る第二フッ化物を表面に形成したことで、比較例1と比べて、AlまたはMnの含有量が減少した。言い換えると、実施例1から4のフッ化物蛍光体では、フッ化物蛍光体における第二フッ化物の含有率が比較例1よりも高かった。実施例1から4のフッ化物蛍光体を用いた発光装置では、85℃の比較的高温の環境下における耐久性試験の前後で、比較例1のフッ化物蛍光体を用いた発光装置と比べて、Δxの変化率が小さく、耐久性が高かった。実施例1から4のフッ化物蛍光体では、表面領域に、イオン半径の違いから結晶構造を変化させるAlとMnを実質的に含まない第二フッ化物を形成することで、結晶構造が安定化し、耐久性が高くなったと推測される。
【0088】
実施例1のフッ化物蛍光体は、比較例1と比べて耐久性が向上しているものの、フッ素ガスを含む雰囲気中での熱処理を行った実施例2と比べて、内部量子効率がやや低く、Δxの変化率がやや大きい。この理由として、第二フッ化物を表面領域に形成する際にAlの溶出が起こり、溶出分の電荷を補うためにMnの価数が変化することで、賦活剤としての4価のMnが減少したと推定される。これに対して実施例2では、フッ素ガスを含む雰囲気中での熱処理を行うことにより、フッ素ガスが酸化剤として機能することで、賦活剤としてのMnの価数が4価に維持される傾向が高まり、より高い耐久性が得られたと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本開示の製造方法によって得られたフッ化物蛍光体は、照明用光源、LEDディスプレイ又は液晶バックライト用途等の光源、信号機、照明式スイッチ、各種センサ、各種インジケータ、及び小型ストロボ等に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0090】
10:発光素子、20:第一のリード、30:第二のリード、40:成形体、50:波長変換部材、60:ワイヤ、70:発光材料、100:発光装置。
図1
図2
図3