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特開2023-58876圧縮機用リング弁の摩耗試験方法、及び、摩耗試験装置
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  • 特開-圧縮機用リング弁の摩耗試験方法、及び、摩耗試験装置 図1
  • 特開-圧縮機用リング弁の摩耗試験方法、及び、摩耗試験装置 図2
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  • 特開-圧縮機用リング弁の摩耗試験方法、及び、摩耗試験装置 図4
  • 特開-圧縮機用リング弁の摩耗試験方法、及び、摩耗試験装置 図5
  • 特開-圧縮機用リング弁の摩耗試験方法、及び、摩耗試験装置 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023058876
(43)【公開日】2023-04-26
(54)【発明の名称】圧縮機用リング弁の摩耗試験方法、及び、摩耗試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/003 20190101AFI20230419BHJP
【FI】
G01M13/003
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021168657
(22)【出願日】2021-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000148357
【氏名又は名称】株式会社前川製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】奥 達也
(72)【発明者】
【氏名】辻 琢磨
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AA15
2G024BA21
2G024DA01
2G024DA08
2G024DA09
2G024EA14
(57)【要約】
【課題】リング弁の耐摩耗性を正確に評価できる圧縮機用リング弁の摩耗試験方法、及び、摩耗試験装置を提供する。
【解決手段】本開示の少なくとも一実施形態に係る圧縮機用リング弁の摩耗試験方法は、圧縮機用の弁シートを模した模擬弁シートに対して傾斜させた圧縮機用のリング弁を、リング弁の片面の周方向の一部が模擬弁シートに片当たりするように保持するステップ(S11)と、片面のうちで模擬弁シートと片当たりする片当たり部位が模擬弁シートに対して摺動するとともに、片面における片当たり部位が周方向に変化するよう、リング弁を模擬弁シートに対して相対運動させるステップ(S15)とを備える。
【選択図】図6

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機用の弁シートを模した模擬弁シートに対して傾斜させた圧縮機用のリング弁を、前記リング弁の片面の周方向の一部が前記模擬弁シートに片当たりするように保持するステップと、
前記片面のうちで前記模擬弁シートと片当たりする片当たり部位が前記模擬弁シートに対して摺動するとともに、前記片面における前記片当たり部位が前記周方向に変化するよう、前記リング弁を前記模擬弁シートに対して相対運動させるステップと
を備える圧縮機用リング弁の摩耗試験方法。
【請求項2】
前記相対運動させるステップでは、前記リング弁を前記模擬弁シートに向けて付勢する
請求項1に記載の圧縮機用リング弁の摩耗試験方法。
【請求項3】
前記保持するステップでは、前記模擬弁シートに対して偏心するように前記リング弁を保持する
請求項1または2に記載の圧縮機用リング弁の摩耗試験方法。
【請求項4】
前記相対運動させるステップでは、前記模擬弁シートを規定位置に固定する
請求項1乃至3の何れか1項に記載の圧縮機用リング弁の摩耗試験方法。
【請求項5】
前記相対運動させるステップでは、前記リング弁に対して前記リング弁の軸線を中心とした回転を許容する
請求項1乃至4の何れか1項に記載の圧縮機用リング弁の摩耗試験方法。
【請求項6】
前記相対運動させるステップでは、前記リング弁に対して前記リング弁の軸線を中心とした回転を阻止する制動力を付与する
請求項1乃至4の何れか1項に記載の圧縮機用リング弁の摩耗試験方法。
【請求項7】
前記相対運動させるステップでは、回転駆動する前記模擬弁シートに従動する前記リング弁を、前記模擬弁シートに対して相対運動させる
請求項1乃至3の何れか1項に記載の圧縮機用リング弁の摩耗試験方法。
【請求項8】
前記相対運動させるステップでは、前記リング弁の前記片面と対向する前記模擬弁シートの対向面のうちで前記リング弁に向かって隆起する領域を前記片面に当てる請求項1乃至7の何れか1項に記載の圧縮機用リング弁の摩耗試験方法。
【請求項9】
前記相対運動させるステップの実行時、前記リング弁と前記模擬弁シートとの間に潤滑油を供給する油供給ステップをさらに備える
請求項1乃至8の何れか1項に記載の圧縮機用リング弁の摩耗試験方法。
【請求項10】
第1シャフトと、
前記第1シャフトに対して傾斜した状態で前記第1シャフトと連動して回転するように構成された第2シャフトと、
前記第1シャフトと同軸に設けられ、圧縮機用の弁シートを模した模擬弁シートと、
圧縮機用のリング弁の片面が前記模擬弁シートに片当たりするよう、前記リング弁を保持するためのリング弁保持部と、
前記片面のうちで前記模擬弁シートと片当たりする片当たり部位が前記模擬弁シートに対して摺動するとともに、前記片面における前記片当たり部位が前記リング弁の周方向に変化するように、前記第1シャフトおよび前記第2シャフトを回転させるための駆動源と
を備える圧縮機用リング弁の摩耗試験装置。
【請求項11】
前記リング弁保持部を前記模擬弁シートに向けて付勢する付勢手段をさらに備える請求項10に記載の圧縮機用リング弁の摩耗試験装置。
【請求項12】
前記第2シャフトは、前記第1シャフトに対して偏心する
請求項10または11に記載の圧縮機用リング弁の摩耗試験装置。
【請求項13】
前記模擬弁シートは規定位置にて固定される
請求項10乃至12の何れか1項に記載の圧縮機用リング弁の摩耗試験装置。
【請求項14】
前記第2シャフトは、前記第1シャフトに直接的に連結され、
前記リング弁保持部は、軸受を介して前記第2シャフトに連結される
請求項10乃至13の何れか1項に記載の圧縮機用リング弁の摩耗試験装置。
【請求項15】
前記第1シャフトは前記駆動源に連結され、
前記模擬弁シートは、前記第1シャフトに固定され、
前記模擬弁シートに接触するための前記リング弁を保持するように構成される前記リング弁保持部は、前記第2シャフトに固定される
請求項10乃至12の何れか1項に記載の圧縮機用リング弁の摩耗試験装置。
【請求項16】
前記第1シャフトと前記第2シャフトとに連結される継手をさらに備える
請求項15に記載の圧縮機用リング弁の摩耗試験装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧縮機用リング弁の摩耗試験方法、及び、摩耗試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示される摩耗試験装置は、自動車用の変速装置に設けられるシールリングの耐摩耗性の評価を可能とする。同装置は、供試品としてのシールリングと、シールリングが押し当てられるディスクと、ディスクに連結される回転軸とを備える。回転軸が回転すると、ディスクはシールリングに対して相対的に回転する。シールリングとディスクとの間で生じる摺動によってシールリングは摩耗する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-161981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シールリングに代えて圧縮機用のリング弁が供試品として採用されることが考えられる。このリング弁の耐摩耗性を正確に評価するには、圧縮機が動作するときのリング弁の挙動を摩耗試験装置が再現することが好ましい。しかし、このような構成は上記特許文献には開示されていない。
【0005】
本開示の目的は、リング弁の耐摩耗性を正確に評価できる圧縮機用リング弁の摩耗試験方法、及び、摩耗試験装置を提供することある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の少なくとも一実施形態に係る圧縮機用リング弁の摩耗試験方法は、
圧縮機用の弁シートを模した模擬弁シートに対して傾斜させた圧縮機用のリング弁を、前記リング弁の片面の周方向の一部が前記模擬弁シートに片当たりするように保持するステップと、
前記片面のうちで前記模擬弁シートと片当たりする片当たり部位が前記模擬弁シートに対して摺動するとともに、前記片面における前記片当たり部位が前記周方向に変化するよう、前記リング弁を前記模擬弁シートに対して相対運動させるステップと
を備える。
【0007】
本開示の少なくとも一実施形態に係る圧縮機用リング弁の摩耗試験装置は、
第1シャフトと、
前記第1シャフトに対して傾斜した状態で前記第1シャフトと連動して回転するように構成された第2シャフトと、
前記第1シャフトと同軸に設けられ、圧縮機用の弁シートを模した模擬弁シートと、
圧縮機用のリング弁の片面が前記模擬弁シートに片当たりするよう、前記リング弁を保持するためのリング弁保持部と、
前記片面のうちで前記模擬弁シートと片当たりする片当たり部位が前記模擬弁シートに対して摺動するとともに、前記片面における前記片当たり部位が前記リング弁の周方向に変化するように、前記第1シャフトおよび前記第2シャフトを回転させるための駆動源と
を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、リング弁の耐摩耗性を正確に評価できる圧縮機用リング弁の摩耗試験方法、及び、摩耗試験装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係るレシプロ圧縮機の概念的な断面図である。
図2】一実施形態に係る吸入弁シートと吸入弁の概略的な斜視図である。
図3】第1の実施形態に係る摩耗試験装置の概略的な断面図である。
図4】一実施形態に係る摩耗試験におけるリング弁の挙動を概略的に示す説明図である。
図5】第2の実施形態に係る摩耗試験装置の概略的な断面図である。
図6】一実施形態に係る摩耗試験方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
なお、同様の構成については同じ符号を付し説明を省略することがある。
【0011】
<1.圧縮機10の概要>
図1は、本開示の一実施形態に係る圧縮機10の概念的な断面図である。圧縮機10は、例えば、凝縮器及び蒸発器などの複数の熱交換器を含んだ冷凍サイクルに組み込まれる。冷凍サイクルとしては、2元冷凍サイクル、2段圧縮冷凍サイクル、または逆ブレイトン冷凍サイクルなどが挙げられる。この場合、圧縮機10によって圧縮されるガスは冷媒ガスである。他の実施形態では、圧縮機10は内燃機関などに組み込まれてもよく、圧縮機10によって圧縮されるガスは燃焼用ガスであってもよい。
【0012】
本開示の一実施形態に係る圧縮機10はレシプロ圧縮機である。圧縮機10は、クランクケース16と、クランクケース16に収容される複数のシリンダスリーブ40とを備える。各シリンダスリーブ40は、ピストン42が収容されるシリンダ室Scを内側に形成する。各々のピストン42は、クランクケース16に設けられたスラスト軸受50によって支持されるクランク軸48に、コネクティングロッド52とクランクピン53とを介して接続されている。また、クランク軸48の一端はモータ54に連結されており、モータ54の駆動によって各ピストン42は各シリンダスリーブ40の内部で往復動することができる。
【0013】
なお、図1で示す例示的な実施形態では、2個のシリンダスリーブ40が並列に設けられ、2個のシリンダスリーブ40のピストン42は、クランク軸48の回転角度で180°異なる位相で往復動するようにクランク軸48に接続されている。
【0014】
シリンダスリーブ40の一端側(図1ではシリンダスリーブ40の上端側)には、吐出弁67を支持するための支持プレート44が設けられる。支持プレート44に形成される開口の内側には、截頭円錐形の弁プレート70が配置される。弁プレート70は、ボルト68によってバルブケージ66と結合されており、弁プレート70とバルブケージ66との間では吐出弁67が保持される。バルブケージ66は、コイルバネ64によってシリンダスリーブ40に向けて付勢されている。また、バルブケージ66に設けられたスプリング穴69に収容されるバルブスプリング(図示外)によって、吐出弁67は弁プレート70に向けて付勢されている。
【0015】
本開示の一実施形態に係る圧縮機10は、シリンダスリーブ40のシリンダ室Scの周囲に設けられる吸入弁63と、吸入弁63が着座するように構成される吸入弁シート61をさらに備える。吸入弁63は、シリンダスリーブ40の軸線を基準とした周方向に亘り連続して延在するOリング状である。本実施形態の吸入弁シート61は、吸入弁63と対向する対向面を含み、その対向面には吸入弁63に向かって隆起する領域である隆起部61Pが形成される。吸入弁63の片面は部分的に隆起部61Pに接触する。
【0016】
図1で示される圧縮機10が、ガスを吸入して圧縮する動作の概要は以下の通りである。モータ54の駆動に伴いピストン42が下降してシリンダスリーブ40内のシリンダ室Scが減圧されると、シリンダスリーブ40の外側に形成されている吸入空間Siの圧力がシリンダ室Scの圧力を一定程度上回る。吸入弁シート61に着座していた吸入弁63が押し上げられ、吸入空間Siにある吸入されたガスが吸入弁シート61を通ってシリンダ室Scに流入する。その後、ピストン42が下降を終えて上昇を開始する。ピストン42によってガスが圧縮されてシリンダ室Scが加圧される結果、吸入弁63は押し下げられて吸入弁シート61に着座する。ピストン42がさらに上昇してシリンダ室Scの圧力が吐出空間Sdの圧力を一定程度上回ると、吐出弁67が押し上げられ、シリンダ室Scにある圧縮ガスは吐出空間Sdに吐出される。
【0017】
<2.吸入弁63の着座前の挙動>
図2を参照し、本開示の一実施形態に係る吸入弁63の着座前の挙動の詳細を例示する。図2は、吸入弁シート61と吸入弁63を概略的に示す斜視図である。なお、図2では、吸入弁シート61の上述した隆起部61Pの図示を省略している。
【0018】
吸入弁シート61から浮き上がっている吸入弁63が押し下げられるとき、シリンダ室Scのガス圧力と吸入空間Siのガス圧力との圧力差は、吸入弁63の周方向において厳密には均一にはならない。従って、吸入弁63は、シリンダスリーブ40の軸線方向に対して傾斜した姿勢で押し下げられる。このとき、吸入弁63に作用する圧力などに起因して吸入弁63において曲げ応力が発生し、吸入弁63は、内側部が吸入弁シート61側に位置するよう撓む(矢印B)。従って、吸入弁63と吸入弁シート61との接触が開始されるとき、吸入弁63の片面63A(図2では吸入弁63の下面)が吸入弁シート61に対して片当たりする。言い換えると、吸入弁63の片面63Aの一部が吸入弁シート61に対して接触する。片当たりに伴い吸入弁63に作用する反力の一部は、吸入弁63を周方向に回転させる回転力となる(矢印R)。片面63Aにおける片当たり部位63Pは、吸入弁63の回転に伴って変化する。吸入弁63は回転しながら徐々に倒れ、その後、吸入弁シート61に対向する姿勢で接触する。これにより、吸入弁63は回転を終えて吸入弁シート61に着座する。なお、吸入弁63は、吸入弁シート61に対して摺動する間、吸入弁シート61の軸線を基準とした径方向に移動してもよい。つまり、吸入弁シート61の周方向のみならず径方向においても、吸入弁63は吸入弁シート61に対して相対運動をしてもよい。
【0019】
圧縮機10が動作をする間、吸入弁63は、浮き上がった状態から着座する状態に変化する度に上記の挙動を繰り返す。従って、吸入弁63の片面63Aと吸入弁シート61との摺動が繰り返され、片面63Aは徐々に摩耗する。吸入弁63が要求される水準以上の耐摩耗性を有するかを正確に評価するためには、圧縮機10が動作するときの吸入弁63の上記挙動を再現した摩耗試験を行うことが好ましい。
【0020】
なお、圧縮機10に吸入されるガスに圧縮機油が混入していてもよい。この場合、吸入弁シート61の片面63Aと、吸入弁シート61の隆起部61Pとの間には圧縮機油が介在し、吸入弁63の摩耗を低減することができる。
【0021】
また、他の実施形態に係る圧縮機10は、吸入弁63の回転を阻止(規制)するためのストッパー機構(図示外)を備えてもよい。一例としてストッパー機構は、吸入弁63の外周端に設けられた凸部と、凸部に嵌るように固定された凹部とを備える。あるいはストッパー機構は、吸入弁63に設けられた貫通孔と、貫通孔に差し込まれるように固定されたピンとを備えてもよい。貫通孔は吸入弁63の軸方向に開放される。ストッパー機構が設けられることで、吸入弁63の上述の回転動作が抑制される。ただし、この場合であっても、互いに嵌り合う2つの部材の間にクリアランスが不可避的に形成されるため、着座前の吸入弁63の回転は完全には消失しない。
【0022】
さらに、他の実施形態に係る圧縮機10は、吸入弁63を吸入弁シート61に押し当てる吸入弁バネ(図示外)を備えてもよい。吸入弁バネは、例えば吸入弁63と対向して接触するプレート形状を呈する。この場合であっても、着座前の吸入弁63の回転は完全には消失しない。なお、吸入弁バネから吸入弁63に付与される付勢力が、吸入弁63の曲げ応力として作用してもよい(図2の矢印B)。曲げ応力の増加に伴い、吸入弁63の片面63Aのうちで片当たり部位63Pに該当する領域が増加することがあってもよい。
【0023】
<3.圧縮機用リング弁の摩耗試験装置1>
本開示の一実施形態に係る圧縮機用リング弁の摩耗試験装置1(以下、単に「摩耗試験装置1」という場合がある)を説明する。以下では、第1の実施形態に係る摩耗試験装置1A(1)と、第2の実施形態に係る摩耗試験装置1B(1)をそれぞれ順に説明する。
【0024】
<3-1.第1の実施形態に係る圧縮機用リング弁の摩耗試験装置1A>
図3は、摩耗試験装置1Aの概略的な断面図である。図4は、摩耗試験装置1Aによって評価される圧縮機用のリング弁15の挙動を概略的に示す説明図である。本実施形態では一例として、圧縮機用のリング弁15(以下、単に「リング弁15」という場合がある)は、上述した圧縮機10の吸入弁63である。
【0025】
図3で例示されるように、第1の実施形態に係る摩耗試験装置1A(1)は、水平に延在する支持台72と、支持台72に複数の軸受98を介して連結される第1シャフト11A(11)と、第1シャフト11Aと同軸に設けられた模擬弁シート21A(21)と、第1シャフト11Aに対して傾斜した状態で第1シャフト11Aと連動して回転するように構成された第2シャフト12A(12)とを備える。
【0026】
第1シャフト11Aは支持台72に対して回転可能であり、鉛直方向と平行に延在する。模擬弁シート21Aは、圧縮機用の弁シートの一例である吸入弁シート61(図1参照)を模している。本例では、供試用に追加工された吸入弁シート61が模擬弁シート21Aに該当する。模擬弁シート21Aは支持台72に固定される。また、模擬弁シート21Aは、第1シャフト11Aの軸線方向の一方側(図3の例では上側)を向く対向面21Fを含む。対向面21Fには、隆起する領域である隆起部21Pが形成されている。対向面21Fと隆起部21Pはいずれも、第1シャフト11を中心としたOリング状である。本例の第2シャフト12Aは、鉛直方向に対して傾斜して延在する。また、第2シャフト12Aは、第1シャフト11Aの一端と直接的に連結されている。より具体的な一例として、第2シャフト12Aは第1シャフト11Aに締結部材(図示外)によって固定される。なお、第2シャフト12Aは第1シャフト11Aと一体的に形成されてもよい。
【0027】
本実施形態の摩耗試験装置1Aは、圧縮機用のリング弁15を保持するように構成されたリング弁保持部29A(29)をさらに備える。リング弁保持部29Aは、第2シャフト12Aに対して回転可能に連結される。リング弁保持部29Aによって保持されるリング弁15は、模擬弁シート21Aに対して第1シャフト11Aの軸線方向の一方側に位置し、模擬弁シート21Aの対向面21Fに対向する。また、リング弁15は、第2シャフト12Aと同軸であり、第1シャフト11Aの軸線L1に対して傾斜する。これにより、リング弁15の片面15Aは対向面21Fの上述した隆起部21Pに片当たりする。
【0028】
リング弁保持部29が第2シャフト12Aに対して回転可能となる具体的構造の一例は、以下の通りである。リング弁保持部29Aは、第1シャフト11Aに対して軸受97を介して連結する基部295と、複数の第1締結部材91によって基部295に固定される第1保持体291と、複数の第2締結部材92によって第1保持体291に固定される第2保持体292とを備える。第1保持体291と第2保持体292は互いに対向して接触し合う。基部295と第2シャフト12Aとの間に軸受97が介在しているので、リング弁保持部29は第2シャフト12Aに対して回転可能となる。
【0029】
リング弁保持部29Aがリング弁15を保持する具体的構造の一例は、以下の通りである。
第1保持体291のうちで第2シャフト12Aを基準とした径方向の外側端部には、凹部289が形成されている。この凹部289は、第2シャフト12Aの軸線方向において第2保持体292から遠ざかる方向に凹む。また、凹部289の形状は、第2シャフト12Aの軸線方向視においてOリング状である。凹部289には、リング弁15の内側部が収容される。リング弁15のうちで凹部289に収容される部位は、第1保持体291と第2保持体292によって挟まれている。このように保持されるリング弁15の軸線方向は、第1シャフト11Aの軸線方向と一致する。リング弁15の片面15Aは、模擬弁シート21Aの隆起部21Pに片当たりする。
【0030】
なお、リング弁15を別のリング弁15に交換するには、第2締結部材92を外して第2保持体292を第1保持体291から外す。これにより、保持されていたリング弁15をリング弁保持部29Aから取り外すことができる。その後、Oリング状の新しいリング弁15の内端が凹部289に当たるようリング弁15は配置される。凹部289に収容されるリング弁15を第2保持体292で挟んだ後、第2締結部材92によって第2保持体292を第1保持体291に固定する。これにより、リング弁15の交換は完了し、リング弁保持部29は新しいリング弁15を保持することができる。
【0031】
本実施形態の摩耗試験装置1Aは、駆動源30をさらに備える。駆動源30は、第1シャフト11Aおよび第2シャフト12Aを回転させるように構成されるモータである。本例では、駆動源30は第1シャフト11Aに対して連結している。駆動源30が第1シャフト11Aに駆動力を付与することで、第1シャフト11Aは軸線L1を中心に回転し、第2シャフト12Aは第1シャフト11Aの軸線L1を中心に旋回する。従って、リング弁保持部29Aによって保持されるリング弁15は、第1シャフト11Aに対して傾斜した姿勢で軸線L1を中心に旋回する。
【0032】
リング弁15がリング弁保持部29Aと共に軸線L1を中心に旋回するとき、リング弁15の片当たり部位15Pは隆起部21Pに対して摺動する(図4参照)。なお、第1シャフト11の軸線方向視における概略図である図4では、第2シャフト12の軸線L2を簡略な図示を目的に点によって示す。
【0033】
図4で例示されるように、リング弁15が軸線L1を中心に旋回することで、片当たり部位15Pは模擬弁シート21の隆起部21Pに対して摺動する。摺動に伴って片当たり部位15Pと隆起部21Pとの間で生じる摩擦力は、軸線L2を中心にリング弁15を回転させる(矢印R)。従って、リング弁15の片面15Aのうち片当たり部位15Pに該当する部位は、旋回に伴ってリング弁15の周方向に変化する。傾斜したリング弁15の模擬弁シート21に対するこのような相対運動は、上述した吸入弁63の吸入弁シート61に対する相対運動と同様である。
【0034】
上記構成によれば、第1シャフト11Aに対して第2シャフト12Aが傾斜しているので、駆動源30が駆動すると、模擬弁シート21Aに対して傾斜したリング弁15が第1シャフト11Aの軸線L1を中心に旋回する。この旋回によって、リング弁15の片面15Aのうちで模擬弁シート21と片当たりする片当たり部位15Pが模擬弁シート21に対して摺動するとともに、リング弁15の片面15Aにおける片当たり部位15Pが周方向に変化するよう、リング弁15は模擬弁シート21に対して相対運動することができる。これにより、摩耗試験装置1Aは、圧縮機10が動作する間のリング弁15の挙動を再現して、リング弁15の片面15Aを模擬弁シート21Aに対して摺動させることができる。よって、リング弁15の耐摩耗性を正確に評価できる摩耗試験装置1Aが実現する。
【0035】
図3に戻り、本開示の一実施形態では、第2シャフト12Aを中心としたリング弁保持部29Aの回転を阻止するためのストッパー87が、例えば試験条件に応じて選択的に設置されてもよい。ストッパー87は、一例として水平に延在する固定板25に揺動可能に連結される。固定板25は固定台24によって支持される。ストッパー87が設けられる実施形態では、第2シャフト12Aが旋回しても、リング弁保持部29Aとリング弁15の軸線L2を中心とした回転は阻止される。言い換えると、ストッパー87は、リング弁15に対してリング弁15の軸線を中心とした回転を阻止する制動力を付与する。但しこの場合でも、第1シャフト11Aの回転に伴って、リング弁15は第2シャフト12Aと共に軸線L1を中心に旋回できる。リング弁15の第2シャフト12の軸線L2を中心とした回転が阻止されるので、圧縮機10に上述のストッパー機構が設けられた場合の吸入弁63の挙動を再現することができる。
【0036】
さらに摩耗試験装置1Aは、リング弁保持部29Aを模擬弁シート21に向けて付勢する付勢手段35をさらに備えてもよい。本実施形態の付勢手段35は、固定板25を固定台24に向けて押圧するスタッドボルトである。他の実施形態では、付勢手段35は、固定板25とストッパー87との間に介在するスプリングであってもよい。また、付勢手段35は、リング弁保持部29Aを直接的に付勢してもよい。
【0037】
上記構成によれば、リング弁15の片当たり部位15Pが模擬弁シート21Aに押し当たるので、片当たり部位15Pが模擬弁シート21Aに対して摺動することで生じる摩擦力は増加し、片面15Aにおける摩耗の進行を早めることができる。よって、リング弁15の耐摩耗性を短時間で正確に評価することができる。
【0038】
本実施形態では、第2シャフト12Aは第1シャフト11Aに対して偏心する。図3の例では、第2シャフト12Aの第1シャフト11Aに対する偏心量が、寸法Eに該当する。この場合、図4に示すように、模擬弁シート21Aの軸線(つまり、第1シャフト11Aの軸線L1)を基準とした径方向に模擬弁シート21に対してリング弁15は相対運動する。従って、リング弁15の旋回に伴いリング弁15と軸線L1との間の径方向距離は変化する。これにより、片当たり部位15Pが模擬弁シート21Aに対して摺動する摺動量が増大するので、リング弁15の耐摩耗性を短時間で正確に評価することができる。また、圧縮機10において吸入弁シート61に対して径方向に相対的に運動する吸入弁63の挙動を再現することができる。
【0039】
また、本実施形態では、模擬弁シート21Aが規定位置に固定され、駆動源30の駆動に伴う回転運動および旋回運動を行わない。本例では、模擬弁シート21Aは支持台72に、複数の締結部材によって固定される。上記構成によれば、模擬弁シート21Aとリング弁15のうち模擬弁シート21Aを運動させる駆動機構が不要になるので、摩耗試験装置1Aを簡素化することができる。
【0040】
また、本実施形態では、第2シャフト12Bは、第1シャフト11Bに直接的に連結され、リング弁保持部29Aは軸受97を介して第2シャフト12Bに連結される。第1シャフト11Aに対して直接的に連結される第2シャフト12Aにリング弁保持部29Aが軸受97を介して連結する構成が採用されるだけで、リング弁15の片当たり部位15Pが模擬弁シート21Aに対して摺動するとともに、リング弁15の片面15Aにおける片当たり部位15Pが周方向に変化する運動が実現する。よって、摩耗試験装置1Aを簡素化できる。
【0041】
<3-2.第2の実施形態に係る摩耗試験装置1B>
図5を参照し、第2の実施形態に係る摩耗試験装置1B(1)を例示する。図5は第2の実施形態に係る摩耗試験装置1Bの概略的な断面図である。
【0042】
摩耗試験装置1Bは、第1支持台31と、第1支持台31に複数の軸受39を介して連結される第1シャフト11B(11)を備える。第1シャフト11Bの一端部には、模擬弁シート21B(21)が例えば締結部材59によって固定される。第1シャフト11Bと同軸な模擬弁シート21Bは、リング弁15と対向する対向面21Fと、対向面21Fのうちで隆起する領域である隆起部21Pとを含む。第2実施形態における隆起部21Pは、第1シャフト11の軸線M1を中心としたOリング状である。
【0043】
摩耗試験装置1Bは、さらに、第2支持台32と、第2支持台32に複数の軸受38を介して連結される第2シャフト12Bと、第2シャフト12Bに固定されるリング弁保持部29B(29)とを備える。第2シャフト12Bは、第1シャフト11Bに対して傾斜し且つ偏心している。リング弁保持部29Bによって保持されるリング弁15は、その片面15Aが模擬弁シート21Bの隆起部21Pに片当たりするよう保持される。リング弁15は、図示外の締結部材によってリング弁保持部29Bに固定される。なお、詳細な図示は省略するが、第2支持台32は、第1シャフト11Bの軸線M1を中心に旋回できるよう別の支持台によって支持されてもよい。
【0044】
摩耗試験装置1Bは、第1シャフト11Bに連結される駆動源30をさらに備える。駆動源30が駆動することによって、模擬弁シート21Bは第1シャフト11Bと共に回転する。第1シャフト11Bの軸線M1を中心とした回転力が、模擬弁シート21Bからリング弁15に伝わる。これにより、リング弁15は、リング弁保持部29Bと第2シャフト12Bと共に軸線M1を中心に旋回する。つまり、リング弁15、リング弁保持部29B、及び第2シャフト12Bは、回転駆動する模擬弁シート21に従動する。また、隆起部21Pとリング弁15の片面15Aとの間に生じる摩擦力によって、リング弁15は、リング弁保持部29Bと第2シャフト12Bと共に、第2シャフト12Bの軸線M2を中心に回転する。リング弁15と模擬弁シート21との間で滑りが生じなければ、第2シャフト12Bの軸線M2を中心とした回転の速さは、第1シャフト11Bの軸線M1を中心とした回転速さと同じである。滑りが生じた場合には、第2シャフト12Bの回転速さは第1シャフト11Bの回転速さよりも遅くなる。
【0045】
以上の原理によって、リング弁15は、図4を用いて説明したのを同様の挙動をする。つまり、片面15Aのうちで模擬弁シート21Bと片当たりする片当たり部位15Pが模擬弁シート21Bに対して摺動するとともに、片面15Aにおける片当たり部位15Pがリング弁15の周方向に変化する。片面15Aにおける片当たり部位15Pが周方向に変化する速さは、第2シャフト12Bの回転速さと同じである。
【0046】
以上説明した第2の実施形態に係る摩耗試験装置1Bは、第1の実施形態に係る摩耗試験装置1Bと同様、リング弁15の耐摩耗性の正確な評価を実現することができる。なお、図5で示される第2シャフト12Bは、第1シャフト11Bに対して偏心せずに、第1シャフト11Bに対して傾斜のみしていてもよい。また、図3を用いて既述した付勢手段35が摩耗試験装置1Bに設けられてもよい。
【0047】
また本実施形態では、模擬弁シート21Bは第1シャフト11Bに固定される。また、リング弁保持部29Bは第2シャフト12Bに固定され、リング弁保持部29Bによって保持されるリング弁15の片面15Aは、模擬弁シート21に片当たりする。回転駆動する模擬弁シート21Bにリング弁15は従動し、リング弁15は、模擬弁シート21に対して上述の相対運動をする。
【0048】
上記構成によれば、摩耗試験の条件を変更するには、回転駆動できるよう模擬弁シート21Bを支持するための第1支持台31などの支持機構、または、従動回転できるようリング弁15を支持するための第2支持台32などの支持機構のいずれかの構成を変更すればよい。例えば、第1支持台31の位置および傾斜姿勢を変更することによって、第2シャフト12Bの第1シャフト11Bに対する偏心量と傾斜角のそれぞれを調整することが可能になる。よって、試験条件を変更する自由度の高い摩耗試験装置1Bが実現する。
【0049】
また、図5で例示される摩耗試験装置1Bは、第1シャフト11Bと第2シャフト12Bとに連結される継手88を備えてもよい。継手88は、ユニバーサルジョイントまたは軸継手などである。継手88が設けられることで、第1シャフト11Bと第2シャフト12Bは同じ速さで回転することができる。
【0050】
上記構成によれば、リング弁15が模擬弁シート21の隆起部21Pに対して滑るなどして、リング弁15の模擬弁シート21Bに対する摺動状態が変化した場合であっても、第2シャフト12Bの回転速度と第1シャフト11Bの回転速度とが互いにずれるのを抑制できる。従って、リング弁15の軸線M1を中心とした旋回速度が遅くなるのを抑制でき、リング弁15の片面15Aにおける片当たり部位15Pの、リング弁15の周方向における変化が遅くなるのを抑制できる。従って、リング弁15の耐摩耗性を短時間で正確に評価することができる。
【0051】
<4.リング弁15の摩耗試験方法>
図3図5図6を参照し、リング弁15の摩耗試験方法を例示する。図6は、本開示の一実施形態に係るリング弁15の摩耗試験方法を示すフローチャートである。以下の説明では、ステップを「S」と略記する場合がある。
【0052】
摩耗試験装置1Aを用いたリング弁15の摩耗試験方法は、一例として以下の手順で行われる。はじめに、模擬弁シート21Aに対して傾斜させたリング弁15を、片面15Aの一部が模擬弁シート21に片当たりするよう保持する(S11)。リング弁保持部29Aにリング弁15を取り付ける方法は上述した通りである。
【0053】
次に、リング弁15と模擬弁シート21との間に潤滑油が供給される(S13)。これにより、リング弁15の片面15Aと模擬弁シート21の隆起部21Pとの間に潤滑油が進入する。その後、リング弁15を模擬弁シート21に対して相対運動させる(S15)。具体的には、摩耗試験装置1Aの駆動源30が駆動することで、リング弁15の相対運動は開始され、リング弁15の片面15Aの片当たり部位15Pが摺動するとともに、片面15Aにおける片当たり部位15Pがリング弁15の周方向に変化する。駆動源30が駆動を開始してから規定の時間が経過したのち、駆動源30を停止させる。その後、摩耗試験装置1Aからリング弁15を取り外して片面15Aの摩耗量を測定すれば、リング弁15の耐摩耗性を評価することができる。
【0054】
S15の実行時、リング弁15の片面15Aは、模擬弁シート21の隆起部21Pに片当たりする。上記構成によれば、リング弁15と吸入弁シート61とが部分的に接触する圧縮機10の動作環境をより忠実に再現した摩耗試験方法が実現する。
【0055】
なお、S15の実行時、摩耗試験装置1Aにストッパー87が設けられなくてもよい。つまり、S15では、リング弁15に対してリング弁15の軸線(図4では、第1シャフト11の軸線L2と一致する)を中心とした回転を許容してもよい。上記構成によれば、リング弁15(本例では吸入弁63)が周方向に回転できる構成を有する圧縮機10でのリング弁15の挙動をより忠実に再現することができる。
【0056】
他の実施形態では、S15の実行時に、摩耗試験装置1Aにストッパー87が設けられてもよい。つまり、S15では、リング弁15に対してリング弁15の軸線を中心とした回転を阻止する制動力が付与されてもよい。上記構成によれば、吸入弁63の軸線回りの回転を規制する構成(例えばストッパー機構)を有する圧縮機10でのリング弁15の挙動をより忠実に再現することができる。
【0057】
また、本実施形態では、S15の実行前に、潤滑油を供給するステップ(S13)が実行される。上記構成によれば、実際の圧縮機(10)の動作環境をより忠実に再現した圧縮機用リング弁の摩耗試験方法が実現する。なお、S13は、S15の実行中に行われてもよい。また、上述の圧縮機用リング弁の摩耗試験方法が摩耗試験装置1Bにおいて使用されてもよい。
【0058】
<5.まとめ>
上述した幾つかの実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握されるものである。
【0059】
1)本開示の少なくとも一実施形態に係る圧縮機用リング弁の摩耗試験方法は、
圧縮機用の弁シート(吸入弁シート61)を模した模擬弁シート(21)に対して傾斜させた圧縮機用のリング弁(15)を、前記リング弁(15)の片面(15A)の周方向の一部が前記模擬弁シート(21)に片当たりするように保持するステップ(S11)と、
前記片面(15A)のうちで前記模擬弁シート(21)と片当たりする片当たり部位(15P)が前記模擬弁シート(21)に対して摺動するとともに、前記片面(15A)における前記片当たり部位(15P)が前記周方向に変化するよう、前記リング弁(15)を前記模擬弁シート(21)に対して相対運動させるステップ(S15)と
を備える。
【0060】
実際の圧縮機(10)が動作するとき、弁シート(吸入弁シート61)に向かって移動するリング弁(15)は、弁シート(吸入弁シート61)に対して傾斜した姿勢になる。この姿勢のままリング弁(15)が弁シート(吸入弁シート61)に当たると、ガス圧またはバネなどによる付勢に起因した曲げ応力によってリング弁(15)は撓み、リング弁(15)の片面(15A)の周方向の一部が弁シート(吸入弁シート61)に片当たりする。その後、リング弁(15)が弁シート(吸入弁シート61)に着座する前、リング弁(15)の片面(15A)の片当たり部位(15P)は弁シート(吸入弁シート61)に対して摺動するとともに、リング弁(15)の片面(15A)におけるこの片当たり部位(15P)はリング弁(15)の周方向に変化する。以上のような挙動をリング弁(15)は圧縮機(10)の動作中に繰り返すので、リング弁(15)の片面(15A)は摩耗する。上記1)の構成によれば、リング弁(15)を模擬弁シート(21)に対して相対運動させるステップが実行されることで、圧縮機(10)が動作するときのリング弁(15)の挙動を再現してリング弁(15)の片面(15A)を模擬弁シート(21)に対して摺動させることができる。よって、リング弁(15)の耐摩耗性を正確に評価できる圧縮機用リング弁の摩耗試験方法が実現する。
【0061】
2)幾つかの実施形態では、上記1)に記載の圧縮機用リング弁の摩耗試験方法であって、
前記相対運動させるステップ(S15)では、前記リング弁(15)を前記模擬弁シート(21)に向けて付勢する。
【0062】
上記2)の構成によれば、リング弁(15)の片当たり部位(15P)が模擬弁シート(21)に押し当たるので、リング弁(15)における摩耗の進行を早めることができる。よって、リング弁(15)の耐摩耗性を短時間で正確に評価することができる。
【0063】
3)幾つかの実施形態では、上記1)または2)のいずれかに記載の圧縮機用リング弁の摩耗試験方法であって、
前記保持するステップ(S11)では、前記模擬弁シート(21)に対して偏心するように前記リング弁(15)を保持する。
【0064】
上記3)の構成によれば、相対運動をさせるステップ(S15)の実行時に、リング弁(15)は、模擬弁シート(21)の軸線を基準とした径方向に模擬弁シート(21)に対して相対移動する。これにより、リング弁(15)の片当たり部位(15P)が模擬弁シート(21)に対して摺動する摺動量が増大するので、リング弁(15)の耐摩耗性を短時間で正確に評価することができる。
【0065】
4)幾つかの実施形態では、上記1)から3)のいずれかに記載の圧縮機用リング弁の摩耗試験方法であって、
前記相対運動させるステップ(S15)では、前記模擬弁シート(21)を規定位置に固定する。
【0066】
上記4)の構成によれば、模擬弁シート(21)とリング弁(15)のうち、模擬弁シート(21)を運動させる駆動機構が不要となるので、圧縮機用リング弁の摩耗試験方法を実施するための装置を簡素化することができる。
【0067】
5)幾つかの実施形態では、上記1)から4)のいずれかに記載の圧縮機用リング弁の摩耗試験方法であって、
前記相対運動させるステップ(S15)では、前記リング弁(15)に対して前記リング弁(15)の軸線を中心とした回転を許容する。
【0068】
上記5)の構成によれば、リング弁(15)が軸線回りに回転できる構成を有する圧縮機(10)でのリング弁(15)の挙動をより忠実に再現した圧縮機用リング弁の摩耗試験方法が実現する。
【0069】
6)幾つかの実施形態では、上記1)から4)のいずれかに記載の圧縮機用リング弁の摩耗試験方法であって、
前記相対運動させるステップ(S15)では、前記リング弁(15)に対して前記リング弁(15)の軸線を中心とした回転を阻止する制動力を付与する。
【0070】
上記6)の構成によれば、リング弁(15)の軸線回りの回転を規制する構成を有する圧縮機(10)でのリング弁(15)の挙動をより忠実に再現した圧縮機用リング弁の摩耗試験方法が実現する。
【0071】
7)幾つかの実施形態では、上記1)から3)のいずれかに記載の圧縮機用リング弁の摩耗試験方法であって、
前記相対運動させるステップ(S15)では、回転駆動する前記模擬弁シート(21)に従動する前記リング弁(15)を、前記模擬弁シート(21)に対して相対運動させる。
【0072】
上記7)の構成によれば、回転駆動できるよう模擬弁シート(21)を支持するための機構、または、従動回転できるようリング弁(15)を支持するための機構のいずれかの構成を変更することで、試験条件を変更することができる。よって、試験条件を変更する自由度の高い圧縮機用リング弁の摩耗試験方法が実現する。
【0073】
8)幾つかの実施形態では、上記1)から7)のいずれかに記載の圧縮機用リング弁の摩耗試験方法であって、
前記相対運動させるステップ(S15)では、前記リング弁(15)の前記片面(15A)と対向する前記模擬弁シート(21)の対向面(21F)のうちで前記リング弁(15)に向かって隆起する領域(隆起部21P)を前記片面(15A)に当てる。
【0074】
上記8)の構成によれば、リング弁(15)と弁シート(吸入弁シート61)とが部分的に接触する圧縮機(10)の動作環境をより忠実に再現した圧縮機用リング弁の摩耗試験方法が実現する。
【0075】
9)幾つかの実施形態では、上記1)から8)のいずれかに記載の圧縮機用リング弁の摩耗試験方法であって、
前記相対運動させるステップ(S15)の実行時、前記リング弁(15)と前記模擬弁シート(21)との間に潤滑油を供給する油供給ステップ(S13)をさらに備える。
【0076】
上記9)の構成によれば、実際の圧縮機(10)の動作環境をより忠実に再現した圧縮機用リング弁の摩耗試験方法が実現する。
【0077】
10)本開示の少なくとも一実施形態に係る圧縮機用リング弁の摩耗試験装置(1)は、
第1シャフト(11)と、
前記第1シャフト(11)に対して傾斜した状態で前記第1シャフト(11)と連動して回転するように構成された第2シャフト(12)と、
前記第1シャフト(11)と同軸に設けられ、圧縮機用の弁シート(吸入弁シート61)を模した模擬弁シート(21)と、
圧縮機用のリング弁(15)の片面(15A)が前記模擬弁シート(21)に片当たりするよう、前記リング弁(15)を保持するためのリング保持部(29)と、
前記片面(15A)のうちで前記模擬弁シート(21)と片当たりする片当たり部位(15P)が前記模擬弁シート(21)に対して摺動するとともに、前記片面(15A)における前記片当たり部位(15P)が前記リング弁(15)の周方向に変化するように、前記第1シャフト(11)および前記第2シャフト(12)を回転させるための駆動源(30)と
を備える。
【0078】
上記10)の構成によれば、第1シャフト(11)に対して第2シャフト(12)が傾斜しているので、駆動源(30)が駆動すると、第1シャフト(11)に対して傾斜したリング弁(15)は第1シャフト(11)の軸線(L1、M1)を中心に旋回する。この旋回に伴って、リング弁(15)の片面(15A)のうちで模擬弁シート(21)と片当たりする片当たり部位(15P)が模擬弁シート(21)に対して摺動するとともに、リング弁(15)の片面(15A)における片当たり部位(15P)が周方向に変化するよう、リング弁(15)は模擬弁シート(21)に対して相対運動することができる。これにより、上記1)と同様の理由により、リング弁(15)の耐摩耗性を正確に評価できる圧縮機用リング弁の摩耗試験装置(1)が実現する。
【0079】
11)幾つかの実施形態では、上記10)に記載の圧縮機用リング弁の摩耗試験装置(1)であって、
前記リング保持部(29)を前記模擬弁シート(21)に向けて付勢する付勢手段(35)をさらに備える。
【0080】
上記11)の構成によれば、上記2)と同様の理由によって、リング弁(15)の耐摩耗性を短時間で正確に評価することができる。
【0081】
12)幾つかの実施形態では、上記10)または11)のいずれかに記載の圧縮機用リング弁の摩耗試験装置(1)であって、
前記第2シャフト(12)は、前記第1シャフト(11)に対して偏心する。
【0082】
上記12)の構成によれば、駆動源(30)が駆動するとき、リング弁(15)は、模擬弁シート(21)の軸線を基準とした径方向に模擬弁シート(21)に対して相対移動する。これにより、上記3)と同様の理由によって、リング弁(15)の耐摩耗性を短時間で正確に評価することができる。
【0083】
13)幾つかの実施形態では、上記10)から12)のいずれかに記載の圧縮機用リング弁の摩耗試験装置(1)であって、
前記模擬弁シート(21)は規定位置にて固定される。
【0084】
上記13)の構成によれば、上記4)と同様の理由によって、圧縮機用リング弁の摩耗試験装置(1)を簡素化できる。
【0085】
14)幾つかの実施形態では、上記10)から13)のいずれかに記載の圧縮機用リング弁の摩耗試験装置(1)であって、
前記第2シャフト(12)は、前記第1シャフト(11)に直接的に連結され、
前記リング保持部(29)は、軸受(97)を介して前記第2シャフト(12)に連結される。
【0086】
上記14)の構成によれば、第1シャフト(11)に対して直接的に連結される第2シャフト(12)にリング保持部(29)が軸受(97)を介して連結する構成が採用されるだけで、リング弁(15)の片当たり部位(15P)が模擬弁シート(21)に対して摺動するとともに、リング弁(15)の片面(15A)における片当たり部位(15P)が周方向に変化する運動が実現する。よって、圧縮機用リング弁の摩耗試験装置(1)を簡素化できる。
【0087】
15)幾つかの実施形態では、上記10)から12)のいずれかに記載の圧縮機用リング弁の摩耗試験装置(1)であって、
前記第1シャフト(11)は、前記駆動源(30)に連結され、
前記模擬弁シート(21)は、前記第1シャフト(11)に固定され、
前記模擬弁シート(21)に接触するための前記リング弁(15)を保持するように構成される前記リング保持部(29)は、前記第2シャフト(12)に固定される。
【0088】
上記15)の構成によれば、駆動源(30)が回転駆動させる模擬弁シート(21)にリング弁(15)が従動する。その結果、リング弁(15)は、模擬弁シート(21)に対して相対運動する。よって、上記7)と同様の理由によって、試験条件を変更する自由度の高い圧縮機用リング弁の摩耗試験装置(1)が実現する。
【0089】
16)幾つかの実施形態では、上記15)に記載の圧縮機用リング弁の摩耗試験装置(1)であって、
前記第1シャフト(11)と前記第2シャフト(12)とに連結される継手(88)をさらに備える。
【0090】
上記16)の構成によれば、リング弁(15)の模擬弁シート(21)に対する摺動状態の変化に起因して第2シャフト(12)の回転速度と第1シャフト(11)の回転速度とが互いにずれるのを抑制できる。従って、リング弁(15)の片面(15A)における片当たり部位(15P)の周方向の変化が遅くなるのを抑制できるので、リング弁(15)の耐摩耗性を短時間で正確に評価することができる。
【符号の説明】
【0091】
1 :摩耗試験装置
10 :圧縮機
11 :第1シャフト
12 :第2シャフト
15 :リング弁
15A :片面
15P :片当たり部位
21 :模擬弁シート
21F :対向面
21P :隆起部
30 :駆動源
35 :付勢手段
40 :シリンダスリーブ
63 :吸入弁
63A :片面
63P :片当たり部位
88 :継手
97 :軸受

図1
図2
図3
図4
図5
図6