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特開2023-59309スラリーの流量制御装置、流量制御方法、および粗硫酸ニッケル水溶液の脱鉄設備、脱鉄方法
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  • 特開-スラリーの流量制御装置、流量制御方法、および粗硫酸ニッケル水溶液の脱鉄設備、脱鉄方法 図1
  • 特開-スラリーの流量制御装置、流量制御方法、および粗硫酸ニッケル水溶液の脱鉄設備、脱鉄方法 図2
  • 特開-スラリーの流量制御装置、流量制御方法、および粗硫酸ニッケル水溶液の脱鉄設備、脱鉄方法 図3
  • 特開-スラリーの流量制御装置、流量制御方法、および粗硫酸ニッケル水溶液の脱鉄設備、脱鉄方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023059309
(43)【公開日】2023-04-27
(54)【発明の名称】スラリーの流量制御装置、流量制御方法、および粗硫酸ニッケル水溶液の脱鉄設備、脱鉄方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/02 20060101AFI20230420BHJP
   C01G 53/10 20060101ALI20230420BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20230420BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20230420BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20230420BHJP
   G05D 7/06 20060101ALI20230420BHJP
   C22B 3/08 20060101ALI20230420BHJP
   B01J 4/00 20060101ALI20230420BHJP
【FI】
C22B3/02
C01G53/10
C01G53/00 B
C22B3/44 101A
C22B23/00 102
G05D7/06 Z
C22B3/08
B01J4/00 105Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021169225
(22)【出願日】2021-10-15
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宣好
(72)【発明者】
【氏名】永井 啓明
(72)【発明者】
【氏名】柴山 敬介
【テーマコード(参考)】
4G048
4G068
4K001
5H307
【Fターム(参考)】
4G048AA07
4G048AB03
4G048AB08
4G048AE01
4G068AA01
4G068AB17
4G068AC13
4G068AC16
4G068AD21
4G068AF01
4G068AF20
4G068AF33
4K001AA19
4K001BA19
4K001DB23
5H307AA01
5H307BB14
5H307DD17
5H307EE04
5H307HH01
5H307HH12
(57)【要約】
【課題】弁などの閉塞を抑制しつつ、流量を細かく制御できるスラリーの流量制御装置を提供する。
【解決手段】流量制御装置AAは、スラリーが流れる配管10に設けられた弁21と、弁21の開閉を制御する制御装置22とを有する。制御装置22は、指示開度を周期に対する全開時間の比率に変換し、比率に従って弁21の全開、全閉を周期的に切り替える。周期に対する全開時間の比率に従って弁21の全開、全閉を周期的に切り替えることで、スラリーの移動平均的な流量を細かく制御できる。また、弁21は全開または全閉のいずれかの状態であるから、弁内部に固形分が付着しにくい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラリーが流れる配管に設けられた弁と、
前記弁の開閉を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、指示開度を周期に対する全開時間の比率に変換し、前記比率に従って前記弁の全開、全閉を周期的に切り替える
ことを特徴とするスラリーの流量制御装置。
【請求項2】
前記周期は3~15秒である
ことを特徴とする請求項1記載のスラリーの流量制御装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の流量制御装置を備える脱鉄設備であって、
鉄を含む粗硫酸ニッケル水溶液に対して酸化中和処理を行ない、水酸化鉄の沈澱物を含む中和スラリーを生成する中和槽と、
前記中和槽に中和剤スラリーを供給する中和剤供給管と、を備え、
前記弁は前記中和剤供給管に設けられている
ことを特徴とする粗硫酸ニッケル水溶液の脱鉄設備。
【請求項4】
前記中和槽内の前記粗硫酸ニッケル水溶液のpHを測定するpH計を備え、
前記制御装置は、前記pH計の測定値と予め定められたpH目標値との偏差に基づいて前記指示開度を決定する
ことを特徴とする請求項3記載の粗硫酸ニッケル水溶液の脱鉄設備。
【請求項5】
スラリーが流れる配管に設けられた弁で前記スラリーの流量を制御する方法であって、
指示開度を周期に対する全開時間の比率に変換し、前記比率に従って前記弁の全開、全閉を周期的に切り替える
ことを特徴とするスラリーの流量制御方法。
【請求項6】
前記周期は3~15秒である
ことを特徴とする請求項5記載のスラリーの流量制御方法。
【請求項7】
請求項5または6記載の流量制御方法により、鉄を含む粗硫酸ニッケル水溶液への中和剤スラリーの添加量を制御し、
前記粗硫酸ニッケル水溶液に対して酸化中和処理を行ない、水酸化鉄の沈澱物を含む中和スラリーを生成する
ことを特徴とする粗硫酸ニッケル水溶液の脱鉄方法。
【請求項8】
前記粗硫酸ニッケル水溶液のpHの測定値と、予め定められたpH目標値との偏差に基づいて前記指示開度を決定する
ことを特徴とする請求項7記載の粗硫酸ニッケル水溶液の脱鉄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラリーの流量制御装置、流量制御方法、および粗硫酸ニッケル水溶液の脱鉄設備、脱鉄方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、弁などを閉塞しやすいスラリーの流量を制御する装置および方法に関する。または、本発明は、粗硫酸ニッケル水溶液に中和剤スラリーを添加して酸化中和処理により鉄を除去する設備および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルマット、ニッケル水酸化物などのニッケル原料を浸出して得られる粗硫酸ニッケル水溶液には、鉄、砒素などの不純物元素が含まれている。粗硫酸ニッケル水溶液から鉄を除去する方法として、粗硫酸ニッケル水溶液に圧縮空気を吹き込んで酸化しつつ中和剤を添加することによって鉄を沈澱させて除去する酸化中和法が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
粗硫酸ニッケル水溶液の酸化中和処理に用いられる中和剤として消石灰スラリーが選択されることが多い。粗硫酸ニッケル水溶液を酸化中和処理に適したpHに調整するには消石灰スラリーの添加量を制御する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-158381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、消石灰スラリーの添加量を流量制御弁で制御すると弁が閉塞することがある。例えば、流量制御弁の開度を10%にしたまま消石灰スラリーを流すと、弁内の複雑な形状で狭小な流路部分に固形分が付着し、ひいては弁が閉塞する。また、配管を流れる消石灰スラリーの流量が少ないと、配管内面に固形分が付着し、配管が閉塞することがある。
【0006】
そのため、消石灰スラリーの添加量はON/OFF弁で制御されている。例えば、粗硫酸ニッケル水溶液のpHが目標値を下回っている間はON/OFF弁を全開として消石灰スラリーを添加する。一方、粗硫酸ニッケル水溶液のpHが目標値を上回っている間はON/OFF弁を全閉として消石灰スラリーの添加を停止する。ON/OFF弁は全開または全閉のいずれかの状態であるから、弁内の複雑な形状で狭小な流路部分に固形分が付着しにくい。また、ON/OFF弁を全開としている間は消石灰スラリーが最大流量で流れるため、配管の閉塞が起きにくい。
【0007】
しかし、ON/OFF弁を全開として消石灰スラリーの添加を開始してから、粗硫酸ニッケル水溶液のpHが上昇するまでにはタイムラグがある。このタイムラグの間も消石灰スラリーが添加され続けるため、結果として過剰な量の消石灰スラリーが添加されることになる。すなわち、ON/OFF弁によるpHの直接制御では、全開流量と流量ゼロとの間の細かい流量制御ができないため、過剰添加と添加不足とを繰返し、pHの変動が大きくなる。そのため、粗硫酸ニッケル水溶液のpHを安定的に調整することが困難である。酸化中和処理を行なうと水酸化鉄の沈澱物が生じるとともに、微量ながらニッケルも共沈する。過剰な量の消石灰スラリーが添加されると、水酸化ニッケルが生成されやすくなる。水酸化ニッケルが多くなると、ニッケルロスが増大する。
【0008】
粗硫酸ニッケル水溶液に消石灰スラリーを添加する例に限らず、他のスラリーにおいても流量を細かく制御したいという要望はある。しかし、弁などの閉塞を抑制しつつ、これを実現する技術は知られてない。
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、弁などの閉塞を抑制しつつ、流量を細かく制御できるスラリーの流量制御装置および流量制御方法を提供することを目的とする。
または、本発明は、粗硫酸ニッケル水溶液のpHを安定的に調整できる脱鉄設備および脱鉄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明のスラリーの流量制御装置は、スラリーが流れる配管に設けられた弁と、前記弁の開閉を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、指示開度を周期に対する全開時間の比率に変換し、前記比率に従って前記弁の全開、全閉を周期的に切り替えることを特徴とする。
第2発明のスラリーの流量制御装置は、第1発明において、前記周期は3~15秒であることを特徴とする。
第3発明の粗硫酸ニッケル水溶液の脱鉄設備は、第1または第2発明の流量制御装置を備える脱鉄設備であって、鉄を含む粗硫酸ニッケル水溶液に対して酸化中和処理を行ない、水酸化鉄の沈澱物を含む中和スラリーを生成する中和槽と、前記中和槽に中和剤スラリーを供給する中和剤供給管と、を備え、前記弁は前記中和剤供給管に設けられていることを特徴とする。
第4発明の粗硫酸ニッケル水溶液の脱鉄設備は、第3発明において、前記中和槽内の前記粗硫酸ニッケル水溶液のpHを測定するpH計を備え、前記制御装置は、前記pH計の測定値と予め定められたpH目標値との偏差に基づいて前記指示開度を決定することを特徴とする。
第5発明のスラリーの流量制御方法は、スラリーが流れる配管に設けられた弁で前記スラリーの流量を制御する方法であって、指示開度を周期に対する全開時間の比率に変換し、前記比率に従って前記弁の全開、全閉を周期的に切り替えることを特徴とする。
第6発明のスラリーの流量制御方法は、第5発明において、前記周期は3~15秒であることを特徴とする。
第7発明の粗硫酸ニッケル水溶液の脱鉄方法は、第5または第6発明の流量制御方法により、鉄を含む粗硫酸ニッケル水溶液への中和剤スラリーの添加量を制御し、前記粗硫酸ニッケル水溶液に対して酸化中和処理を行ない、水酸化鉄の沈澱物を含む中和スラリーを生成することを特徴とする。
第8発明の粗硫酸ニッケル水溶液の脱鉄方法は、第7発明において、前記粗硫酸ニッケル水溶液のpHの測定値と、予め定められたpH目標値との偏差に基づいて前記指示開度を決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1発明によれば、周期に対する全開時間の比率に従って弁の全開、全閉を周期的に切り替えることで、スラリーの移動平均的な流量を細かく制御できる。また、弁は全開または全閉のいずれかの状態であるから、弁内部に固形分が付着しにくい。
第2発明によれば、周期が3秒以上であるので、一回の全開時間としてある程度の時間を確保できる。その結果、配管内のスラリーの流量を一定以上にでき、配管の閉塞を抑制できる。また、周期が15秒以下であるので、一回の全開時間および全閉時間が充分に短く、脈動による流量の振れ幅が小さくなる。その結果、安定して精密な流量制御ができる。
第3発明によれば、粗硫酸ニッケル水溶液のpHを安定的に調整できるので、pHが高くなりすぎず、水酸化ニッケルの生成を抑制できる。
第4発明によれば、フィードバック制御により消石灰スラリーの添加量を調整することで、粗硫酸ニッケル水溶液のpHを精度良く調整できる。
第5発明によれば、周期に対する全開時間の比率に従って弁の全開、全閉を周期的に切り替えることで、スラリーの移動平均的な流量を細かく制御できる。また、弁は全開または全閉のいずれかの状態であるから、弁内部に固形分が付着しにくい。
第6発明によれば、周期が3秒以上であるので、一回の全開時間としてある程度の時間を確保できる。その結果、配管内のスラリーの流量を一定以上にでき、配管の閉塞を抑制できる。また、周期が15秒以下であるので、一回の全開時間および全閉時間が充分に短く、脈動による流量の振れ幅が小さくなる。その結果、安定して精密な流量制御ができる。
第7発明によれば、粗硫酸ニッケル水溶液のpHを安定的に調整できるので、pHが高くなりすぎず、水酸化ニッケルの生成を抑制できる。
第8発明によれば、フィードバック制御により消石灰スラリーの添加量を調整することで、粗硫酸ニッケル水溶液のpHを精度良く調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態に係る流量制御装置の説明図である。
図2】指示開度および弁開度の時間変化の一例を示すグラフである。
図3】一実施形態に係る脱鉄設備の説明図である。
図4】実施例1および比較例1におけるpH測定値の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
〔流量制御装置〕
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る流量制御装置AAは、スラリーが流れる配管10に設けられた弁21と、弁21の開閉を制御する制御装置22とを有する。
【0014】
配管10を流れるスラリーは特に限定されない。配管10には弁などを閉塞しやすい性質を有するスラリーを流すことができる。例えば、消石灰スラリーは流速が遅いと固形分が弁内の複雑な形状で狭小な流路部分や配管の内面などに付着しやすい。このような性質を有するスラリーでも配管10に流すことができる。
【0015】
弁21の一次側にはスラリーを貯留するタンクなどスラリー供給源が接続される。また、弁21の二次側には流量制御されたスラリーの供給先が接続される。
【0016】
弁21は弁開度として全開および全閉の2つの状態をとることができる弁である。弁21として全開および全閉の2つの状態のみしかとることができない構造の弁を用いることができる。弁21として弁開度を連続的に変化させることができる構造の弁を、全開および全閉の2つ状態のみで切り替えるように用いてもよい。弁21の構造は特に限定されないが、例えば、ダイヤフラムバルブ、ボールバルブなどを用いることができる。また、弁21は弁体を駆動するアクチュエータを有する。アクチュエータとして、空気式、ソレノイド、電動モータなどが挙げられる。
【0017】
制御装置22は、弁21のアクチュエータの駆動を制御して、弁21の開閉を切り替える。制御装置22として、CPU、メモリなどで構成されたコンピュータやシーケンサ(PLC)などを用いることができる。
【0018】
図2に示すように、制御装置22は弁21の弁解度を全開と全閉とが繰り返されるように周期的に切り替える。切り替えの周期をTとすると、周期Tの間に1回の全開および/または1回の全閉が行なわれる。周期Tの間に行なわれる1回の全開時間をτとする。周期Tに対する全開時間τの比率Dはτ/Tで求められる。
【0019】
制御装置22は指示開度を比率Dに変換する。ここで、指示開度は弁21の仮想的な開度である。指示開度は、入力装置などを介して作業員が制御装置22に入力してもよいし、他の装置から制御装置22に入力してもよい。また、制御装置22に入力される他の情報に基づき、制御装置22が指示開度を決定してもよい。
【0020】
例えば、指示開度が30%であるとすると、制御装置22は比率Dを30%とする。この場合、周期Tを5秒とすれば、全開時間τは1.5秒と定められる。また、指示開度が60%であるとすると、制御装置22は比率Dを60%とする。この場合、周期Tを5秒とすれば、全開時間τは3秒と定められる。なお、比率Dが0%の場合は周期Tの間常に全閉とされる。また、比率Dが100%の場合は周期Tの間常に全開とされる。
【0021】
以上のように、制御装置22は比率Dに従って、弁21の全開、全閉を周期的に切り替える。これにより、配管10を流れるスラリーの移動平均的な流量を細かく制御できる。具体的には、弁21の全開、全閉を繰り返すため、スラリーの流量は脈動するものの、周期Tのスパンで平均すると指示開度に従った流量に制御できる。すなわち、弁21は全開または全閉のいずれかの状態しかとらないにも関わらず、流量を細かく制御できる。一方、弁21は全開または全閉のいずれかの状態であるから、弁内部に固形分が付着しにくい。このように、流量制御装置AAは、弁などの閉塞を抑制しつつ、安定した流量制御ができる。
【0022】
弁21の全開、全閉を周期的に切り替えるにあたり、周期Tは3~15秒が好ましい。周期Tを3秒以上とすれば、一回の全開時間τとしてある程度の時間を確保できる。その結果、配管10内のスラリーの流量を一定以上にでき、配管10の閉塞を抑制できる。また、周期Tを15秒以下とすれば、一回の全開時間τおよび全閉時間T-τが充分に短く、脈動による流量の振れ幅が小さくなる。その結果、安定して精密な流量制御ができる。
【0023】
〔脱鉄設備〕
つぎに、本発明の一実施形態に係る脱鉄設備BBを説明する。
脱鉄設備BBは粗硫酸ニッケル水溶液から鉄を除去する設備である。処理対象の粗硫酸ニッケル水溶液には不純物として少なくとも鉄が含まれている。粗硫酸ニッケル水溶液は、例えば、ニッケル濃度が100~120g/L、鉄濃度が0.1~0.8g/Lである。粗硫酸ニッケル水溶液は鉄以外の不純物が含まれてもよい。
【0024】
図3に示すように、脱鉄設備BBは中和槽30を有する。中和槽30には粗硫酸ニッケル水溶液の供給口31が設けられている。また、中和槽30には酸化中和処理により生じた中和スラリーの排出口32が設けられている。中和槽30内の中和スラリーはオーバーフローにより排出口32から排出される。
【0025】
排出口32は静水筒33の内部に配置されることが好ましい。静水筒33は中和槽30の内壁面に沿って底部近傍から液面より上方に至るまで上下方向に延在する筒形の部材である。中和スラリーは静水筒33の下端から静水筒33の内部に流入して排出口32から排出される。静水筒33が存在することにより、供給口31から供給された粗硫酸ニッケル水溶液が短時間で排出口32から排出されるショートパスを抑制できる。
【0026】
中和槽30にはその内部(粗硫酸ニッケル水溶液)に酸化剤として空気を吹き込む空気吹込管34が設けられている。また、中和槽30にはその内部に中和剤スラリーを供給する中和剤供給管10が設けられている。さらに、中和槽30には撹拌装置35が設けられている。撹拌装置35の駆動により中和槽30内の粗硫酸ニッケル水溶液が撹拌される。
【0027】
粗硫酸ニッケル水溶液に空気を吹き込むと水溶液に含まれるFe2+がFe3+に酸化される。ここに中和剤を添加して中和反応を生じさせると水酸化第二鉄(Fe(OH))が生じる。このように、中和槽30では、粗硫酸ニッケル水溶液に対して酸化中和処理を行ない、水酸化鉄を含む沈澱物を生成する。この沈澱物を含むスラリーを中和スラリーと称する。
【0028】
中和槽30から排出された中和スラリーは固液分離装置に導入される。固液分離装置は中和スラリーを残渣と脱鉄終液とに固液分離する。水酸化鉄を含む残渣を除去することで粗硫酸ニッケル水溶液から鉄が除去される。
【0029】
脱鉄終液は粗硫酸ニッケル水溶液から鉄が除去された溶液である。脱鉄終液は、例えば、ニッケル濃度が100~120g/L、鉄濃度が15mg/L未満である。脱鉄終液は溶媒抽出工程に送られる。溶媒抽出工程では溶媒抽出により脱鉄終液に残留する不純物を除去して、高純度の硫酸ニッケル水溶液を得る。
【0030】
なお、複数の中和槽30を直列に接続して多段階の酸化中和処理を行なうことが好ましい。この場合、粗硫酸ニッケル水溶液は最前段の中和槽30に連続的に供給された後、最後段の中和槽30に向かって順に流れる。最後段の中和槽30から排出された中和スラリーが固液分離装置に導入される。
【0031】
酸化中和処理において粗硫酸ニッケル水溶液のpHが低すぎると水酸化鉄が生成されにくくなる。また、粗硫酸ニッケル水溶液のpHが高すぎると水酸化ニッケルが生成されやすくなる。そのため、中和槽30内の粗硫酸ニッケル水溶液は、水酸化鉄が生成されやすく、かつ、水酸化ニッケルが生成されにくいpHに調整される。具体的には、粗硫酸ニッケル水溶液のpHは2.2~5.9が好ましく、4.6~5.9がより好ましい。なお、酸化中和処理を複数段の中和槽30を用いて行なう場合には、最前段の中和槽30から最後段の中和槽30にかけてpHを段階的に上昇させることが好ましい。
【0032】
そこで、中和槽30内の粗硫酸ニッケル水溶液は、pHが予め定められた目標値となるように調整される。粗硫酸ニッケル水溶液のpHが予め定められた目標範囲(上限値および下限値の間)に収まるように調整してもよい。このpH調整のため、中和槽30には粗硫酸ニッケル水溶液のpHを測定するpH計36が設けられる。
【0033】
粗硫酸ニッケル水溶液のpHは中和剤の添加量により調整できる。本発明の一実施形態では中和剤スラリーとして消石灰スラリーを用いる。また、脱鉄設備BBは消石灰スラリーを中和槽30に供給する機器を備えている。
【0034】
脱鉄設備BBは消石灰スラリーを貯留する中和剤貯槽40を有する。中和剤貯槽40には循環路41が接続されている。循環路41は中和剤貯槽40の底部と上部とを接続する配管である。循環路41にはポンプ42が設けられている。ポンプ42の駆動により、中和剤貯槽40内の消石灰スラリーは中和剤貯槽40の底部から循環路41に流入し、中和剤貯槽40の上部に戻される。すなわち、循環路41内には常に消石灰スラリーが循環している。循環路41内の消石灰スラリーは常に流れているので、循環路41を構成する配管の内面などに固形分が付着することが抑制される。
【0035】
中和剤供給管10の一端は循環路41に接続され、他端は中和槽30に接続されている。したがって、循環路41内の消石灰スラリーは中和剤供給管10を介して中和槽30に供給される。
【0036】
中和槽30に供給される消石灰スラリーの流量を制御するため、中和剤供給管10に流量制御装置AAが設けられている。すなわち、中和剤供給管10に弁21が設けられている。また、弁21には制御装置22が接続されている。さらに、本実施形態では制御装置22にpH計36が接続されており、pH計36の測定値が入力されている。
【0037】
制御装置22は中和槽30内の粗硫酸ニッケル水溶液のpHを制御量、中和槽30に供給される消石灰スラリーの流量を操作量とするフィードバック制御を行なう。例えば、制御装置22には予め定められた粗硫酸ニッケル水溶液のpH目標値が記憶されている。制御装置22はpH計36の測定値とpH目標値との偏差を求め、偏差に基づいて弁21の指示開度を決定する。なお、偏差に基づく指示開度の決定は、P制御、PI制御、PID制御のいずれで行なってもよい。
【0038】
つぎに、制御装置22は指示開度を比率Dに変換する。そして、制御装置22は比率Dに従って、弁21の全開、全閉を周期的に切り替える。その詳細は前述のとおりである。
【0039】
このように粗硫酸ニッケル水溶液への消石灰スラリーの添加量を制御すれば、粗硫酸ニッケル水溶液のpHを安定的に調整できる。また、フィードバック制御により消石灰スラリーの添加量を調整することで、粗硫酸ニッケル水溶液のpHを精度良く調整できる。
【0040】
ところで、酸化中和処理では、水酸化ニッケルの生成を抑制するため、粗硫酸ニッケル水溶液のpH目標値をNi2+の安定領域に設定する。しかし、pH測定値がpH目標値を下回っている間はON/OFF弁を全開とし、pH測定値がpH目標値を上回っている間はON/OFF弁を全閉とする流量制御を行なうと、水酸化ニッケルが生成されやすい。
【0041】
ON/OFF弁を全開として消石灰スラリーの添加を開始してから、粗硫酸ニッケル水溶液のpHが上昇するまでにはタイムラグがある。このタイムラグの間も消石灰スラリーが添加され続けるため、結果として過剰な量の消石灰スラリーが添加されることになる。すなわち、ON/OFF弁によるpHの直接制御では、全開流量と流量ゼロとの間の細かい流量制御ができないため、過剰添加と添加不足とを繰返し、pHの変動が大きくなる。そのため、粗硫酸ニッケル水溶液のpHが高くなり、水酸化第一ニッケル(Ni(OH))の安定領域となる。そのため、水酸化ニッケルが生成されやすい。
【0042】
これに対して本発明の一実施形態の流量制御方法では、消石灰スラリーの添加量を細かく調整できるため、粗硫酸ニッケル水溶液のpHを安定的かつ精密に調整できる。そのため、粗硫酸ニッケル水溶液のpHが高くなりすぎず、水酸化ニッケルの生成を抑制できる。また、水酸化ニッケルの生成が抑制できることから、水酸化鉄の沈澱物とともに除去されるニッケルの量を低減できる。すなわち、ニッケルロスを低減できる。
【0043】
以上では、粗硫酸ニッケル水溶液に対して酸化中和処理を行なうに際して、中和剤スラリーとして消石灰スラリーを用いる場合について説明した。しかし、中和剤スラリーは消石灰スラリーに限定されず、例えば水酸化マグネシウムスラリーを用いることもできる。
【実施例0044】
つぎに、実施例を説明する。
(実施例1)
図3に示す構成の脱鉄設備BBを用いて粗硫酸ニッケル水溶液の酸化中和処理を行なった。中和槽30内の粗硫酸ニッケル水溶液に中和剤として消石灰スラリーを添加してpH調整を行なった。制御装置22は、pH計36の測定値とpH目標値との偏差に基づきPID制御により指示開度を決定した。また、指示開度から変換した比率Dに従って、弁21の全開、全閉を周期的に切り替えた。ここで、pH目標値は2.32とし、周期Tは5秒とした。
【0045】
図4に、pH計36の測定値の推移を示す。pH測定値の標準偏差は0.024であった。また、pH測定値の最大値とpH目標値との差は0.03であった。
【0046】
(比較例1)
実施例1において消石灰スラリーの流量制御を従来法により行なった。すなわち、pH測定値がpH目標値を下回っている間はON/OFF弁を全開として消石灰スラリーを添加した。一方、pH測定値がpH目標値を上回っている間はON/OFF弁を全閉として消石灰スラリーの添加を停止した。ここで、pH目標値は3.27とした。
【0047】
図4に、pH計の測定値の推移を示す。pH測定値の標準偏差は0.124であった。また、pH測定値の最大値とpH目標値との差は0.37であった。
【0048】
以上より、実施例1は比較例1に比べて標準偏差が小さく、粗硫酸ニッケル水溶液のpHを安定的に調整できることが確認された。また、実施例1は比較例1に比べてpH測定値の最大値とpH目標値との差が小さい。これより、実施例1では粗硫酸ニッケル水溶液のpHが高くなりすぎず、水酸化ニッケルの生成を抑制できることが確認された。
【符号の説明】
【0049】
AA 流量制御装置
10 配管(中和剤供給管)
21 弁
22 制御装置
BB 脱鉄設備
30 中和槽
31 供給口
32 排出口
33 静水筒
34 空気吹込管
35 撹拌装置
36 pH計
40 中和剤貯槽
41 循環路
42 ポンプ
図1
図2
図3
図4