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特開2023-59486検査方法、および楕円偏光板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023059486
(43)【公開日】2023-04-27
(54)【発明の名称】検査方法、および楕円偏光板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20230420BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20230420BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALN20230420BHJP
【FI】
G02B5/30
G09F9/00 352
G09F9/00 313
G02F1/1335 510
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021169537
(22)【出願日】2021-10-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100176658
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 信次
(72)【発明者】
【氏名】川下 隆志
【テーマコード(参考)】
2H149
2H291
5G435
【Fターム(参考)】
2H149AA13
2H149AA18
2H149AB01
2H149BA02
2H149BA12
2H149DA02
2H149DA04
2H149DA12
2H149EA02
2H149EA04
2H149EA10
2H149EA19
2H149FA02X
2H149FA03W
2H149FA05Y
2H149FB03
2H149FB08
2H291FA22X
2H291FA30X
2H291FA40X
2H291FC42
2H291FD12
2H291PA44
5G435AA17
5G435BB05
5G435BB12
5G435FF05
5G435KK07
(57)【要約】
【課題】偏光サングラス対策がされた楕円偏光板であっても、直線偏光子の吸収軸の方向を簡便に検査できる方法及びその方法を含む楕円偏光板の製造方法を提供する。
【解決手段】一形態に係る検査方法は、検査対象(楕円偏光板)内のλ/4板から出射される楕円偏光のn個の測定波長λi(i=1~n)に対する方位角Ψ(λi)を測定する工程であり、測定波長λiは、直線偏光子とλ/4板の積層体内のλ/4板の遅相軸又は進相軸を基準軸とした場合、直線偏光子の吸収軸又は透過軸と基準軸の相対角と、λ/4板から出射される楕円偏光の方位角とが直線関係を満たす波長である工程と、積層体のλ/4板から出射される楕円偏光の方位角Ψ(λi)と、積層体の直線偏光子の吸収軸又は透過軸の積層体の基準辺に対する角度が満たす直線関係式及び上記方位角Ψ(λi)の測定結果に基づいて、検査対象の直線偏光子の吸収軸又は透過軸の方向を求める工程とを備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線偏光を解消するための直線偏光解消フィルム、直線偏光子およびλ/4板がこの順に積層されており、前記直線偏光子の吸収軸と前記λ/4板の遅相軸との相対角が45°±5°である楕円偏光板を検査対象として検査する方法であって、
前記検査対象が有する直線偏光解消フィルム側から光を入射し、前記検査対象が有するλ/4板から出射される楕円偏光のn個(ただし、nは2~6)の測定波長λi(i=1~n)それぞれに対する方位角Ψ(λi)を測定する測定工程であって、
前記n個の測定波長λiは、直線偏光子とλ/4板とがこの順に積層された積層体が有するλ/4板の遅相軸または進相軸を基準軸とした場合において、前記積層体が有する直線偏光子の吸収軸または透過軸と前記基準軸との相対角と、前記積層体が有するλ/4板から出射される楕円偏光の方位角とが、前記積層体が有するλ/4板の遅相軸と前記直線偏光子の吸収軸との相対角が45°±5°の範囲内において直線関係を満たす波長である、
前記測定工程と、
前記積層体が有するλ/4板から出射される楕円偏光の前記n個の測定波長λiに対する方位角Ψ(λi)と、前記積層体が有する直線偏光子の吸収軸または透過軸の前記積層体の基準辺に対する角度との関係を示しており予め決定されている直線関係式、および、前記測定工程における前記検査対象に対する方位角Ψ(λi)の測定結果に基づいて、前記検査対象が有する直線偏光子の吸収軸または透過軸の方向を求める軸方向決定工程と、
を備える、
検査方法。
【請求項2】
前記n個の測定波長λiを選択する測定波長選択工程と、
前記積層体が有する直線偏光子の吸収軸または透過軸の前記積層体の基準辺に対する角度をXとし、前記積層体が有するλ/4板から出射される楕円偏光の前記n個の測定波長λiに対する方位角Ψ(λi)と、前記Xとの直線関係を示す式(1)を決定する直線関係式決定工程と、
を更に備え、
前記軸方向決定工程では、前記測定結果と前記式(1)とに基づいて、前記検査対象が有する直線偏光子の吸収軸または透過軸の方向を求める、
請求項1に記載の検査方法。
【数1】

((1)中において、aiおよびbはフィッティングによって決定される定数である)
【請求項3】
前記直線関係式決定工程では、前記積層体に対応する複数の積層体サンプルであり各積層体サンプルにおける前記吸収軸または透過軸と前記基準軸との相対角が異なる前記複数の積層体サンプルを準備し、前記複数の積層体サンプルそれぞれの前記Xと、前記n個の測定波長に対する前記方位角Ψ(λi)との測定結果に基づいて、前記式(1)を決定し、
前記複数の積層体サンプルは、直線偏光を楕円偏光に変換可能であるとともに、楕円偏光を直線偏光に変換可能な楕円偏光板である、
請求項2に記載の検査方法。
【請求項4】
前記nが2である、
請求項1~3の何れか一項に記載の検査方法。
【請求項5】
前記n個の測定波長λiは、波長548nmと波長629nmを含む、
請求項1~4の何れか一項に記載の検査方法。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項に記載の検査方法を含む、
楕円偏光板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査方法、および楕円偏光板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やタブレット端末などの普及が進み、画像表示装置として液晶表示装置や有機EL表示装置(OLED)が広く用いられるようになってきた。また、表示装置の薄型化に伴い、表示装置に用いられる偏光板などの各部材の薄型化が求められている。例えば、有機EL表示装置は、通常、外光が金属電極(陰極)で反射されて鏡面のように視認されることを抑制するために、有機ELパネルの視認側表面に楕円偏光板が配置される。
【0003】
上記楕円偏光板としては、一般的には直線偏光板とλ/4板との積層体が用いられている。楕円偏光板として、例えば、直線偏光子と、特定の屈折率特性を有する1枚の位相差層を積層したものも知られている(例えば、特許文献1~2参照)。
【0004】
さらに、偏光サングラス越しに画面を見たときの視認性を改善するための手段(偏光サングラス対策)が従来いくつか提案されている(特許文献4~12)。
【0005】
偏光サングラス対策が施された楕円偏光板は、どちらから検査光を入射しても直線偏光が得られず、通常用いられるクロスニコルの検査方法で楕円偏光板に用いられている直線偏光子の吸収軸を測定することができない。このような場合には、楕円偏光板から出射される楕円偏光の偏光状態を測定し楕円偏光板に用いられている直線偏光子の吸収軸の方向を計算によって求める手法が知られている(例えば、非特許文献1)。しかしながら、このような方法では吸収軸の方向の検査が煩雑になることから、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3325560号公報
【特許文献2】特開2014-63143号公報
【特許文献3】特開平9-229817号公報
【特許文献4】特開2009-122454号公報
【特許文献5】特開2011-107198号公報
【特許文献6】特開2011-215646号公報
【特許文献7】特開2012-230390号公報
【特許文献8】特開平03-174512号公報
【特許文献9】特開2013-231761号公報
【特許文献10】特開2011-113018号公報
【特許文献11】特開2013-182162号公報
【特許文献12】特開2013-200445号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】王子計測機器株式会社,「9.楕円偏光の測定方法」、[online]、[令和3年6月29日検索]、インターネット<URL: https://oji-keisoku.co.jp/cms/uploads/kbr_shiryo09.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明では、偏光サングラス対策がされた楕円偏光板であっても、楕円偏光板に用いられる直線偏光子の吸収軸の方向を簡便に検査できる検査方法およびその検査方法を含む楕円偏光板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る検査方法は、直線偏光を解消するための直線偏光解消フィルム、直線偏光子およびλ/4板がこの順に積層されており、上記直線偏光子の吸収軸と上記λ/4板の遅相軸との相対角が45°±5°である楕円偏光板を検査対象として検査する方法であって、
上記検査対象が有する直線偏光解消フィルム側から光を入射し、上記検査対象が有するλ/4板から出射される楕円偏光のn個(ただし、nは2~6)の測定波長λi(i=1~n)それぞれに対する方位角Ψ(λi)を測定する測定工程であって、
上記n個の測定波長λiは、直線偏光子とλ/4板とがこの順に積層された積層体が有するλ/4板の遅相軸または進相軸を基準軸とした場合において、上記積層体が有する直線偏光子の吸収軸または透過軸と上記基準軸との相対角と、上記積層体が有するλ/4板から出射される楕円偏光の方位角とが、上記積層体が有するλ/4板の遅相軸と上記直線偏光子の吸収軸との相対角が45°±5°の範囲内において直線関係を満たす波長である、
上記測定工程と、
上記積層体が有するλ/4板から出射される楕円偏光の上記n個の測定波長λiに対する方位角Ψ(λi)と、上記積層体が有する直線偏光子の吸収軸または透過軸の上記積層体の基準辺に対する角度との関係を示しており予め決定されている直線関係式、および、上記測定工程における上記検査対象に対する方位角Ψ(λi)の測定結果に基づいて、上記検査対象が有する直線偏光子の吸収軸または透過軸の方向を求める軸方向決定工程と、
を備える。
【0010】
上記検査方法では、上記直線関係式を用いることから、測定工程で楕円偏光板のλ/4板側から出射される楕円偏光を測定すれば、吸収軸または透過軸の方向を得ることができる。そのため、偏光サングラス対策がされた楕円偏光板であっても、楕円偏光板に用いられる直線偏光子の吸収軸の方向を簡便に検査できる。
【0011】
一実施形態に係る検査方法は、上記n個の測定波長λiを選択する測定波長選択工程と、上記積層体が有する直線偏光子の吸収軸または透過軸の上記積層体の基準辺に対する角度をXとし、上記積層体が有するλ/4板から出射される楕円偏光の上記n個の測定波長λiに対する方位角Ψ(λi)と、上記Xとの直線関係を示す式(1)を決定する直線関係式決定工程と、を更に備えてもよい。この場合、上記軸方向決定工程では、上記測定結果と上記式(1)とに基づいて、上記検査対象が有する直線偏光子の吸収軸または透過軸の方向を求める。
【数1】

((1)中において、aiおよびbはフィッティングによって決定される定数である)
【0012】
この場合、上記式(1)を用いて吸収軸または透過軸の方向を求めることが可能である。
【0013】
上記直線関係式決定工程では、上記積層体に対応する複数の積層体サンプルであり各積層体サンプルにおける上記吸収軸または透過軸と上記基準軸との相対角が異なる上記複数の積層体サンプルを準備し、上記複数の積層体サンプルそれぞれの上記Xと、上記n個の測定波長に対する上記方位角Ψ(λi)との測定結果に基づいて、上記式(1)を決定し、 上記複数の積層体サンプルは、直線偏光を楕円偏光に変換可能であるとともに、楕円偏光を直線偏光に変換可能な楕円偏光板であってもよい。
【0014】
この場合、複数の積層体サンプルの測定結果に基づいて式(1)を決定する。たとえば、上記測定結果を得るために使用する測定器に、測定工程で使用する測定器を採用することによって、測定器における測定誤差の影響を低減できる。その結果、吸収軸または透過軸の方向を精度良く求めることが可能である。
【0015】
上記nが2であってもよい。この場合、測定工程での測定時間を短縮できる。
【0016】
上記n個の測定波長λiは、波長548nmと波長629nmを含んでもよい。この場合、測定精度の向上を図れる。
【0017】
本発明の他の側面に係る楕円偏光板の製造方法は、上記検査方法を含む。
【0018】
この場合、偏光サングラス対策がされた楕円偏光板の製造する場合であっても、楕円偏光板に用いられる直線偏光子の吸収軸の方向を簡便に検査できる。そのため、楕円偏光板の製造に要する時間(楕円偏光板の検査時間を含む)を短縮可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、偏光サングラス対策がされた楕円偏光板であっても、楕円偏光板に用いられる直線偏光子の吸収軸の方向を簡便に検査できる検査方法およびその検査方法を含む楕円偏光板の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る検査方法の検査対象としての楕円偏光板の構成の一例を示す模式図である。
図2図2(a)は、遅相軸(進相軸)と透過軸の配置関係を示す図であり、図2(b)は、図2(a)の場合において、楕円偏光板から出射される3つの波長に対する楕円偏光に対応する楕円を模式的に示す図である。
図3図3(a)は、遅相軸(進相軸)と透過軸の配置関係を示す図であり、図3(b)は、図3(a)の場合において、楕円偏光板から出射される3つの波長に対する楕円偏光に対応する楕円を模式的に示す図である。
図4図4は、一実施形態に係る検査方法のフローチャートを示す図である。
図5図5は、一実施形態に係る検査方法が有する測定波長選択工程および直線関係式決定工程で使用する積層体の層構成の一例を示す模式図である。
図6図6は、一実施形態に係る検査方法が有する測定波長選択工程において、選択すべき測定波長が満たす条件を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
まず、本開示で使用する用語および記号を説明する。
【0022】
(1)屈折率(nx、ny、nz)
「nx」は面内の屈折率が最大となる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、「ny」は面内で遅相軸と直交する方向の屈折率であり、「nz」は厚み方向の屈折率である。
【0023】
(2)面内位相差値
面内位相差値(Re(λ))は、23℃、波長λ(nm)におけるフィルムの面内の位相差値をいう。Re(λ)は、フィルムの厚みをd(nm)としたとき、Re(λ)=(nx-ny)×dによって求められる。
【0024】
(3)厚み方向の位相差値
厚み方向の位相差値(Rth(λ))は、23℃、波長λ(nm)におけるフィルムの厚み方向の位相差値をいう。Rth(λ)は、フィルムの厚みをd(nm)としたとき、Rth(λ)=((nx+ny)/2-nz)×dによって求められる。
【0025】
次に、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を付し、重複する説明を省略する。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0026】
図1は、一実施形態に係る検査方法で検査する検査対象の構成を説明するための模式図である。図1に示した検査対象は、楕円偏光板10である。楕円偏光板10は、直線偏光子11、λ/4板12および直線偏光解消フィルム13を有する。直線偏光子11、λ/4板12および直線偏光解消フィルム13は、直線偏光解消フィルム13、直線偏光子11およびλ/4板12の順に積層されている。
【0027】
<直線偏光子>
直線偏光子11は、その吸収軸に平行な振動面を持つ直線偏光を吸収し、吸収軸に直交する(透過軸と平行な)振動面をもつ直線偏光を透過する性質を有する吸収型の偏光子である。代表的な偏光子としては、重合性液晶化合物の硬化物を含む液晶偏光子、一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着配向させた偏光フィルム(以下、「PVA系偏光フィルム」と称す場合もある)等が挙げられる。
【0028】
液晶偏光子の典型的な製造方法を簡単に説明する。まず、適当な支持体を準備する。次いで、当該支持体の表面上に配向膜を形成する。続いて、配向膜上に、重合性液晶化合物と二色性色素とを含む液状組成物を塗工し乾燥することで、配向膜上に重合性液晶化合物を含む塗工層を形成する。その後、塗工層を光照射により重合・硬化させて、液晶偏光子が支持体上に得られる。かかる支持体として、透明樹脂フィルムを用いれば、当該透明樹脂フィルムを保護フィルムとする液晶偏光子を製造することができる。
【0029】
液晶偏光子としては、例えば、特開2016-170368号公報に記載されるものであってもよい。二色性色素としては、波長380~800nmの範囲内に吸収を有するものを用いることができ、有機染料を用いることが好ましい。二色性色素として、例えば、アゾ化合物が挙げられる。液晶化合物は、配向したままの状態で重合することができる液晶化合物であり、分子内に重合性基を有することができる。WO2011/024891に記載されるように、液晶性を有する二色性色素から液晶偏光子を形成してもよい。重合後(液晶硬化層からなる偏光子の形成後)は、液晶化合物はもはや液晶性を示す必要はない。
【0030】
液晶偏光子の厚みは、例えば、0.2μm~10μmである。
【0031】
続いて、PVA系偏光フィルムを簡単に説明する。PVA系偏光フィルムは、例えば、PVA系樹脂フィルムを一軸延伸する工程;PVA系樹脂フィルムを二色性色素で染色することにより二色性色素を吸着させる工程(染色処理);二色性色素が吸着されたPVA系樹脂フィルムをホウ酸水溶液等の架橋液で処理する工程(架橋処理);及び、架橋液による処理後に水洗する工程(洗浄処理)を含む方法等によって製造できる。
【0032】
PVA系樹脂としては、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化したものを用いることができる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルの他、酢酸ビニルと共重合可能な他の単量体との共重合体等が挙げられる。酢酸ビニルに共重合可能な他の単量体の例は、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類、及びアンモニウム基を有する(メタ)アクリルアミド類等を含む。
【0033】
本開示において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルから選択される少なくとも一方を意味する。
【0034】
PVA系樹脂のケン化度は通常、85~100mol%であり、98mol%以上が好ましい。PVA系樹脂は変性されていてもよく、例えば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマール又はポリビニルアセタール等を用いることもできる。PVA系樹脂の平均重合度は通常、1000~10000であり、1500~5000が好ましい。PVA系樹脂の平均重合度は、JIS K 6726に準拠して求めることができる。
【0035】
このようなPVA系樹脂を製膜したものが、偏光子製造用の原反フィルム(PVA系樹脂フィルム)として用いられる。PVA系樹脂を製膜する方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法が採用される。PVA系樹脂フィルムの厚みは特に制限されないが、偏光フィルムの厚みを15μm以下とするためには、5~35μmのものを用いることが好ましい。より好ましくは、20μm以下である。かかるPVA系樹脂フィルムの厚みは、最終的に得られるPVA系偏光フィルムが所望の厚みとなるようにして選択することができる。
【0036】
PVA系樹脂フィルムの一軸延伸は、二色性色素による染色処理前に行っても、当該染色処理と同時に行っても、染色処理の後に行ってもよい。一軸延伸を染色処理の後で行う場合、かかる一軸延伸は、架橋処理の前に行っても、架橋処理中に行ってもよい。また、これらの複数の処理の段階で一軸延伸を複数回に分けて行ってもよい。
【0037】
一軸延伸にあたっては、長尺状のPVA系樹脂フィルムを用いる場合には例えば、このPVA系樹脂フィルムをロールに掛け渡し、当該ロールの周速を異ならせることにより、ロール間で一軸に延伸してもよいし、熱ロールを用いて一軸に延伸してもよい。また一軸延伸は、大気中で延伸を行う乾式延伸であってもよいし、溶剤や水を用いてPVA系樹脂フィルムを膨潤させた状態で延伸を行う湿式延伸であってもよい。延伸倍率は通常、3~8倍である。複数回の一軸延伸により、PVA系樹脂フィルムを延伸する場合には、元長に比しての延伸倍率が通常、3~8倍になるようにする。なお、この延伸倍率も、最終的に得られるPVA系偏光フィルムが所望の厚みとなるようにして選択することができる。
【0038】
PVA系樹脂フィルムを二色性色素で染色する方法(染色処理)としては、典型的には、かかるPVA系樹脂フィルムを、二色性色素を含有した水溶液に浸漬する方法が採用される。二色性色素としては、ヨウ素や二色性有機染料が用いられる。なお、PVA系樹脂フィルムは、染色処理の前に水への浸漬処理を施しておくことが好ましい。
【0039】
二色性色素による染色処理後の架橋処理としては通常、染色されたPVA系樹脂フィルムをホウ酸含有水溶液に浸漬する方法などが採用される。二色性色素としてヨウ素を用いる場合、このホウ酸含有水溶液は、ヨウ化カリウムを含有することが好ましい。
【0040】
かくして、PVA系偏光フィルムが得られる。PVA系偏光フィルムの厚みも液晶偏光子と同様に、より薄膜であると好ましく、好ましくは15μm以下であり、より好ましくは13μm以下であり、さらに好ましくは10μm以下であり、特に好ましくは8μm以下である。偏光フィルムの厚みは、通常2μm以上であり、3μm以上であることが好ましい。
【0041】
直線偏光子11は、単独で用いることもできるが、一般的には、直線偏光子11の片面又は両面に保護フィルムを貼合した構成でも用いることができる。
【0042】
上記保護フィルムとしては、例えば、透明な樹脂フィルムが用いられ、かかる樹脂フィルムを構成する透明樹脂としては、トリアセチルセルロースやジアセチルセルロースに代表されるアセチルセルロース系樹脂、ポリメチルメタクリレートに代表されるメタクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリスルホン樹脂等が挙げられる。これらのうち、複数種の透明樹脂からなる樹脂フィルムを保護フィルムとすることもできる。保護フィルムの一例は、トリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)である。
【0043】
直線偏光子11を楕円偏光板10の構成で用いる形態において、後述するλ/4板12を積層する側に保護フィルムを有する場合、その保護フィルムは実質的に無配向であるものを用いる。ここで、実質的に無配向とは、フィルムの面内位相差値Re(550)と厚み方向の位相差値Rth(550)がともに-10nm~10nmであることをいう。
【0044】
<λ/4板>
λ/4板12は、入射した直線偏光を楕円偏光に変換する機能を有する。λ/4板12の面内位相差値Re(550)は、80nm~200nmである。λ/4板12は、直線偏光子11に対して、λ/4板12の遅相軸と直線偏光子11の吸収軸との相対角が45°±5°となるように配置される。
【0045】
λ/4板12としては、特に限定されず、公知のものが使用できる。例えば、特開平5-100114号公報に記載されているポリカーボネートフィルム、特開2006―171713号公報に記載のノルボルネン系樹脂からなるフィルム、特開2009-276753号公報に記載のポリプロピレン系樹脂からなるフィルム、特許第5706071号公報に記載の位相差フィルム、特開2006-171240号公報に記載の位相差フィルムなどの位相差フィルムが好ましく用いられる。
【0046】
薄型化の観点からλ/4板12として重合性液晶化合物の硬化物層を用いることも好ましい。重合性液晶化合物の材料としては、特に限定されないが、例えば、棒状液晶化合物、ディスコチック液晶化合物のほか、特許第5463666号公報、特開2010-031223号公報、特開2010-030979号公報、特開2009-173893号公報、特開2009-227667号公報、特開2010-241919号公報、特開2010-024438号公報、特開2011-162678号公報、特開2011-207765号公報、特開2010-270108号公報、特開2011-246381号公報、特開2012-021068号公報、特開2016-121339号公報、特開2018-087152号公報、特開2017-179367号公報、特開2017-210601号公報、特開2019-151763号公報、特許第6700468、特開2020-074021号公報、特許第5084293号公報、特開2018-40876号公報、特開2019-56727号公報、特開2020-42149号公報、特開2020-143205号公報などに記載の重合性液晶化合物が挙げられる。
【0047】
<直線偏光解消フィルム>
直線偏光解消フィルム13とは、入射した直線偏光を直線偏光とは別の状態、例えば、無偏光や楕円偏光に変換する機能を持つフィルムである。直線偏光解消フィルム13としては、前述のλ/4板12と同様のものを用いることができる。この場合には、λ/4板12と同様に、直線偏光解消フィルム13は、直線偏光子11に対して、直線偏光解消フィルム13の遅相軸と直線偏光子11の吸収軸との相対角が45°±5°となるように配置される。
【0048】
λ/4板以外の直線偏光解消フィルム13としては、特に制限されず、公知のものを用いることができる。例えば、1000nm~30000nmのポリエチレンテレフタレート系樹脂からなる位相差フィルムや特許第5643744号公報、特開2014-219632号公報、特開2018-28614号公報、特開2019-124920号公報などに記載の直線偏光解消フィルムが挙げられる。
【0049】
<接着剤および粘着剤>
直線偏光解消フィルム13、直線偏光子11およびλ/4板12は、接着剤層または粘着剤層を介して積層される。図1では、接着剤層または粘着剤層の図示を省略している。接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール系接着剤等の水系接着剤、紫外線硬化型接着剤等の活性エネルギー線硬化型接着剤が挙げられる。また、粘着剤としては、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、ポリオレフィン系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、ポリビニルアルコール系粘着剤、ポリビニルピロリドン系粘着剤、ポリアクリルアミド系粘着剤、セルロース系粘着剤等が挙げられる。
【0050】
楕円偏光板10では、直線偏光解消フィルム13から光が入射されると、λ/4板12側から楕円偏光の光が出射される。逆に、λ/4板12側から光が入射されると、直線偏光解消フィルム13の機能によって、直線偏光が解消された状態で光が出射される。たとえば、直線偏光解消フィルム13が前述したようにλ/4板として機能する場合、直線偏光解消フィルム13側からも楕円偏光の光が出射される。
【0051】
有機ELパネル、液晶表示装置などの表示装置では、表示装置内の電極などの外光反射によって表示面が鏡面のように視認されることを防止するため、通常、楕円偏光板が使用される。このような楕円偏光板として楕円偏光板10を用いることが可能である。楕円偏光板10を上記表示装置に適用した場合、直線偏光解消フィルム13の上記作用によって、表示装置の画面からは直線偏光が解消された状態の光が出射される。よって、楕円偏光板10を上記表示装置に適用した場合、たとえば偏光サングラス越しでも表示装置で表示される映像などを確実に視認可能である。
【0052】
楕円偏光板10は、たとえば、次のように製造される。
【0053】
まず、直線偏光解消フィルム13、直線偏光子11およびλ/4板12を積層することによって楕円偏光板10を形成する(積層工程)。直線偏光解消フィルム13、直線偏光子11およびλ/4板12を積層するタイミングは限定されない。たとえば、直線偏光子11とλ/4板12を積層した後に、直線偏光子11上に直線偏光解消フィルム13を積層してもよい。或いは、直線偏光子11に対して直線偏光解消フィルム13およびλ/4板12を同じタイミングで積層してもよい。直線偏光子11の片面または両面に前述した保護フィルムが配置される場合には、直線偏光子11の片面または両面に保護フィルムが配置されれば、保護フィルムの積層タイミングも限定されない。
【0054】
楕円偏光板10を構成する各層は、上述した接着剤または粘着剤を介して積層されればよい。積層工程において、直線偏光子11およびλ/4板12は、前述したように、λ/4板12の遅相軸と直線偏光子11の吸収軸との相対角が45°±5°となるように配置される。
【0055】
次に、直線偏光子11の吸収軸の方向を検査する(検査工程)。以下の説明では断らない限り、吸収軸の方向とは、楕円偏光板10における基準辺に対する方向である。一実施形態において、基準辺は、測定装置など楕円偏光板10をセットする場合において、測定装置が有する押し当て板に接する辺でよい。たとえば、楕円偏光板10を厚さ方向から見た場合の形状が長方形または正方形である場合、上記基準辺は、上記長方形または正方形の一辺に対して規定される。よって、吸収軸の方向は、上記基準辺に対する方向に相当する。
【0056】
<検査方法>
本検査方法では、直線偏光子とλ/4板とを有する楕円偏光板の次の特性を利用し、直線偏光子11の吸収軸の方向を検査する。楕円偏光板が有する特性を図2および図3を参照して説明する。図2は、吸収軸と遅相軸との間の相対角が45°の場合に対応し、図2(a)は、遅相軸(進相軸)と透過軸の配置関係を示す図であり、図2(b)は、図2(a)の場合において、楕円偏光板から出射される3つの波長に対する楕円偏光に対応する楕円を模式的に示す図である。図3は、吸収軸と遅相軸との間の相対角が45°からズレしている場合に対応し、図3(a)は、遅相軸(進相軸)と透過軸の配置関係を示す図であり、図3(b)は、図3(a)の場合において、楕円偏光板から出射される3つの波長に対する楕円偏光に対応する楕円を模式的に示す図である。
【0057】
直線偏光子の吸収軸とλ/4板の遅相軸が、図2(a)に示したように、45°で配置されている場合、直線偏光子側から入射されλ/4板から出射された光の偏光状態は、楕円偏光である。
【0058】
図2(a)では、直線偏光子の透過軸を軸A1として示しており、λ/4板の遅相軸および進相軸それぞれを軸B1および軸B2として示している。λ/4板において、遅相軸と進相軸との間の角度は90°である。
【0059】
λ/4板から出射された楕円偏光の方位角(本実施形態では、透過軸に対する楕円の長軸方向。以下、同様)は、図2(b)に示したように、光の波長によらず直線偏光子の透過軸に一致する。つまり、方位角が、複数の波長に対して同じ値であることは、直線偏光子の吸収軸とλ/4板が45°で配置されていることに相当する。
【0060】
図2(b)における3つの線種(破線、一点鎖線、二点鎖線)で示した3つの楕円は、3つの異なる波長の光に対する楕円偏光の状態を示している。図2(b)では、説明の便宜のため、図2(a)と同様に、軸A、軸B1および軸B2を示している。
【0061】
一方、図3(a)に示したように、直線偏光子の吸収軸(図3(a)中の軸A)とλ/4板の遅相軸(図3(a)中の軸B1)が45°の配置からズレている場合(図3(a)では47°)、図3(b)に示したように、波長ごとに楕円偏光の方位角(透過軸に対する楕円の長軸方向)が異なる。図3(b)における3つの線種の異なる楕円の意味は、図2(b)の場合と同様であり、図2(b)の場合と同様に、図3(b)でも軸A、軸B1および軸B2を示している。
【0062】
本願発明者らは楕円偏光板の上記特性に着目し、測定波長ごとの楕円偏光の方位角のずれ量から、直線偏光子の吸収軸を検査可能なことを見いだした。
【0063】
上記特性を利用した一実施形態に係る検査方法を具体的に説明する。検査方法は、図4に示したように、測定工程S3と、軸方向決定工程S4とを有する。検査方法は、測定波長選択工程S1および直線関係式決定工程S2を有してもよい。本実施形態では、測定波長選択工程S1および直線関係式決定工程S2を有する場合を説明する。
【0064】
測定波長選択工程S1および直線関係式決定工程S2は、何れも光学シミュレーションで実施してもよいし、実際の測定結果を用いて実施してもよい。以下では、測定波長選択工程S1を光学シミュレーションで実施し、直線関係式決定工程S2を実際の測定結果を用いて行う場合を説明する。
【0065】
本実施形態における測定波長選択工程S1および直線関係式決定工程S2では、図5に示した積層体20を使用する。積層体20は、直線偏光子21とλ/4板22とを有する楕円偏光板であり、直線偏光子21およびλ/4板22は、この順に積層されている。測定波長選択工程S1を光学シミュレーションで実施する場合、具体的には、積層体20に対応するモデルを使用する。このモデルを、積層体モデル(楕円偏光板モデル)20Mと称す。直線関係式決定工程S2を実際の測定結果を用いて実施する場合、具体的には、積層体20に対応するサンプルを使用する。このサンプルを、積層体サンプル(楕円偏光板サンプル)20Sと称す。積層体モデル20Mおよび積層体サンプル20Sが有する直線偏光子21は、直線偏光子の機能を有すれば、直線偏光子11と厚さなどは異なっていてもよい。一実施形態において、積層体モデル20Mおよび積層体サンプル20Sが有するλ/4板22は、λ/4板12と同じ構成を有する。λ/4板22とλ/4板12の構成が同じであることで、波長分散性も同じである。その結果、後述する楕円の方位角の波長による変化も同じになり、一層正確に測定可能である。
【0066】
直線関係式決定工程S2では、積層体サンプル20Sを実際の測定器に設置するため、積層体サンプル20Sは、直線偏光子21に対してλ/4板22と反対側に、保護フィルムが配置されていてもよい。積層体サンプル20Sを用いる場合、後述するように、直線偏光子21の吸収軸の方向を測定器で実験的に測定することから、直線偏光を楕円偏光に変換可能であるとともに、楕円偏光を直線偏光に可能なサンプルである。すなわち、積層体サンプル20Sは。図1に示した直線偏光解消フィルム13の機能を有しない。よって、積層体サンプル20Sが保護フィルムを有する場合、保護フィルムは、入射された光の偏光状態を維持したまま出射可能なフィルムであり、たとえば、TACフィルムである。
【0067】
測定波長選択工程S1および直線関係式決定工程S2の一例を説明する。
【0068】
[測定波長選択工程]
測定波長選択工程S1では、測定工程S3で使用するn個(nは2~6)の測定波長λi(i=1~n)を選択する。
【0069】
測定波長選択工程S1では、前述したように、図5に示した積層体モデル20Mを使用して、n個の測定波長λiを選択する。
【0070】
n個の測定波長λiは、積層体モデル20Mが有するλ/4板22の遅相軸(基準軸)と積層体モデル20Mが有する直線偏光子21の吸収軸との相対角と、λ/4板22から出射される楕円偏光の方位角とが、λ/4板22の遅相軸と直線偏光子21の吸収軸との相対角が45°±5°の範囲内において直線関係を満たす波長である。
【0071】
測定波長選択工程S1では、積層体モデル20Mにおいて、直線偏光子21側から光を入射した場合においてλ/4板22から出射される楕円偏光の方位角を計算する。このような計算を、相対角を45°からずらしながら実施するとともに、入射光の波長を変えながら実施する。得られた計算結果において、図6に示したように、相対角と方位角とが直線関係にある波長を測定波長λiとして選択する。図6において、縦軸は方位角を示しており、横軸は、相対角における45°からのズレ角を示しており、横軸の0°の位置は、相対角が45°に相当する。すなわち、横軸に示したズレ角に45°を加算した値が相対角に対応する。たとえば、横軸が、2°の位置は、相対角が47°(45°+2°)の場合に相当する。図6では、異なる3つの測定波長(測定波長λa,測定波長λbおよび測定波長λc)の場合を模式的に示している。
【0072】
λ/4板22の遅相軸と直線偏光子21の吸収軸との間の相対角とλ/4板22から出射される楕円偏光の方位角との関係が直線関係にあるとは、図6に示したように、横軸に相対角(図6では、45°からのズレ角で表記)をとり縦軸にλ/4板22から出射される楕円偏光の方位角をとった場合に、相対角が45°±5°の範囲において線形の関係にあることをいう。相対角が45°の前後で方位角が90°反転する場合においては、相対角が45°前後の一方の方位角の値を90°補正することで線形の関係が得られる場合には測定波長として採用可能である。
【0073】
測定波長λiの数は、少ないほうが測定にかかる時間を短縮できるため望ましい。たとえば、nは、4以下が好ましく、さらに3以下が好ましく、最も好ましいのは2である。n個の測定波長λiは、たとえば、波長548nmと波長629nmを含む。nが2の場合、すなわち、2つの測定波長λi(すなわち、測定波長λ1と測定波長λ2)を選択する場合、波長548nmと波長629nmを選択することが好ましい。測定波長λiを選択する場合、直線関係における傾きが大きい測定波長を選択することが好ましい。傾きが大きい場合、方位角の変化に対する吸収軸の角度のずれ量が小さく、方位角の測定結果における装置誤差等の影響を低減し易い。その結果、吸収軸の方向の測定精度の向上を図れる。波長548nmと波長629nmを用いる場合、上記直線関係における傾きが大きくなりやすい。
【0074】
[直線関係式決定工程]
直線関係式決定工程S2は、測定波長選択工程S1の後に実施される。この工程では、前述したように、図5に示した積層体サンプル20Sを使用する。
【0075】
直線関係式決定工程S2では、λ/4板22側から出射される測定波長λiにおける楕円偏光の方位角Ψ(λi)と、直線偏光子21の吸収軸のλ/4板22に対する角度Xとの直線関係式である下記式(1)を決定する。式(1)を決定することは、aiおよびbを決定することに相当する。
【0076】
【数2】

式(1)中において、aiおよびbはフィッティングによって決定される定数である。
【0077】
式(1)を決定する方法の一例を具体的に説明する。直線偏光子21の吸収軸とλ/4板22の遅相軸との間の相対角が異なる複数の積層体サンプル20Sを準備する。上記相対角は、たとえば、40°~50°の範囲から選択される。複数の積層体サンプル20Sとしては、10個以上を準備することが好ましい。
【0078】
準備した各積層体サンプル20Sを、測定器にセットして、直線偏光子21側から光を入射しλ/4板22側から出射された楕円偏光の方位角Ψを、測定波長選択工程S1で選択したn個の測定波長λiに対して測定する。更に、λ/4板22側から光を入射し、直線偏光子21から出射される直線偏光を利用して吸収軸の方向を測定する。測定器は、上記方位角Ψおよび吸収軸の方向を測定可能な測定器であればよく、測定器の例は、位相差測定装置(例えば、王子計測機器株式会社製の「KOBRA-HBPR」)である。本実施形態において、上記測定器には、後述する測定工程S3で使用する測定器と同じ測定器を使用する。
【0079】
複数の積層体サンプル20Sに対して得られた測定結果(すなわち、方位角Ψ(λi)と対応する角度X)に対して重回帰分析を適用することによって、式(1)のaiおよびbを決定する。これにより、式(1)が得られる。
【0080】
[測定工程]
検査対象である楕円偏光板10が有する直線偏光解消フィルム13側から光を入射し、楕円偏光板10が有するλ/4板12から出射される楕円偏光の各測定波長λiに対する方位角Ψ(λi)を測定する。本実施形態における測定工程S3では、直線関係式決定工程S2で使用した測定器を用いて、上記方位角Ψ(λi)を測定する。
【0081】
[軸方向決定工程]
軸方向決定工程S4では、直線関係式(1)、および、測定工程S3における楕円偏光板10に対する方位角Ψ(λi)の測定結果に基づいて、楕円偏光板10が有する直線偏光子11の吸収軸の方向、すなわち、角度Xを求める。
【0082】
上記検査方法の説明では、測定波長選択工程S1および直線関係式決定工程S2を実施する場合を説明した。しかしながら、これらの工程を一度実施し、選択した測定波長に対する式(1)が得られていれば、楕円偏光板10を検査する場合、測定波長選択工程S1および直線関係式決定工程S2を省略して、測定工程S3および軸方向決定工程S4を実施することが可能である。
【0083】
上述した検査方法では、前述した楕円偏光板の特性を用いており、且つ、予め式(1)を準備しておくことから、直線偏光解消フィルム13を有する場合でも簡便に吸収軸の方向を検査できる。この点を、式(1)を使用せずに楕円偏光板10を検査する場合と比較して説明する。
【0084】
楕円偏光板10では、直線偏光解消フィルム13側から直線偏光が出射されないことから、式(1)を予め決定していない場合、たとえば、次のような検査方法(以下、「参考検査方法」と称す)が考えられる。
・ステップ1:位相差測定装置(例えば、王子計測機器株式会社製の「KOBRA-HBPR」)を用いて、光を直線偏光解消フィルム13側から楕円偏光板10に入射し、λ/4板12側から出力される楕円偏光を測定する。
・ステップ2:測定した楕円偏光をポアンカレ球上にプロットする。
・ステップ3:ポアンカレ球におけるプロット点を、ポアンカレ球の赤道面に投影する。
・ステップ4:ステップ1~ステップ3を5以上(たとえば、5~6)の異なる波長に対して実施する。
・ステップ5:ステップ4までを実施することで得られたポアンカレ球の赤道面に投影された複数の投影点に対してフィッティングを実施し、得られた結果から、吸収軸の方向を推定する。通常、ステップ5における複数の投影点は、直線偏光子11を光が通過することで得られる直線偏光の方向(透過軸)の方向に沿うため、上記フィッティングによって吸収軸(又は透過軸)の方向が推定できる。
【0085】
上記のようにステップ1~ステップ5を経て吸収軸の方向を推定する場合、吸収軸の方向を推定するごとに、ステップ5のフィッティングが必要になる。更に、吸収軸の方向を推定するまでに時間を要する。
【0086】
これに対して、本開示で説明した検査方法では、測定波長選択工程S1および直線関係式決定工程S2を実施して、予め式(1)を準備する。そのため、測定工程S3において、検査対象である楕円偏光板10を測定器にセットし、λ/4板12側から出射される楕円偏光を測定することによって、吸収軸の方向を計算できる。すなわち、本検査方法では、簡便に吸収軸の方向を検査できる。更に、吸収軸の方向の検査を短時間で実施可能である。
【0087】
上記ステップ1~ステップ5を実施する参考検査方法では、検査対象として楕円偏光板によっては、赤道面に投影された複数の投影点が密集し、吸収軸の方向の測定精度が低下する場合がある。これに対して、本検査方法では、測定工程S3での楕円偏光の方位角と式(1)に基づいて吸収軸の方向を得るため、測定精度を確保可能である。
【0088】
測定波長選択工程S1において、前述したように、光学シミュレーションを用いて測定波長λiを選択する場合、測定波長選択工程S1を簡便に実施できるとともに、測定波長選択工程S1に要する時間を短縮可能である。測定波長選択工程S1は、実験的に実施してもよい。この場合には、直線関係式決定工程S2で説明した楕円偏光板サンプルを用いて、吸収軸の方向の測定および楕円偏光の測定を行い、その測定結果に基づいて測定波長λiを選択することができる。
【0089】
直線関係式決定工程S2は、光学シミュレーションで実施してもよい。しかしながら、たとえば、前述したように、測定工程S3で使用する測定器と同じ測定器を用いた実際の測定結果に基づいて式(1)を決定することによって、測定工程S3での測定誤差を小さくできる。その結果、吸収軸の方向の測定精度(検査精度)が向上する。
【0090】
測定波長λiの個数が2個、すなわち、n=2の場合、測定工程S3でも2つの測定波長に対して測定を実施すればよいことから、測定工程S3に要する時間を短縮できる。
【0091】
上記検査方法を含む楕円偏光板の製造方法では、楕円偏光板10が有する吸収軸の方向を簡便に検査できる。その結果、所望の吸収軸の方向を有する楕円偏光板10を効率的に製造可能である。
【0092】
以上、本発明の実施形態を説明した。しかしながら、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示される範囲が含まれることが意図されるとともに、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0093】
λ/4板12の遅相軸(基準軸)と直線偏光子の吸収軸との相対角と、楕円偏光板10の基準辺に対する方位角とに基づいて、式(1)を算出する場合を説明した。しかしながら、基準軸は進相軸でもよいし、上記遅相軸または進相軸に対する相対角を規定するための直線偏光子における軸は透過軸でもよい。これは、λ/4板では、遅相軸と進相軸との間の角度は90°であり、直線偏光子では、吸収軸と透過軸との間の角度は90°であり、相対角を規定する2つの軸の組み合わせの違いは、式(1)におけるaiおよびbの違いとして式(1)に反映されるからである。式(1)におけるXは、透過軸の方向(換言すれば基準辺に対する角度)でもよい。すなわち、軸方向決定工程S4では、透過軸の方向を決定してもよい。
【実施例0094】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明は以下の実施例に限定され制限されるものではない。
【0095】
(1)厚さの測定:
株式会社ニコン製のデジタルマイクロメーター“MH-15M”を用いて測定した。
【0096】
(2)面内位相差値Re(550)および厚み方向の位相差値Rth(550)の測定:
王子計測機器株式会社製の平行ニコル回転法を原理とする位相差計“KOBRA(登録商標)-HBPR”を用い、23℃の温度において、波長550nmでの面内位相差値および厚み方向の位相差値を測定した。
【0097】
(3)楕円偏光の方位角の測定:
王子計測機器株式会社製の平行ニコル回転法を原理とする位相差計“KOBRA(登録商標)-HBPR”を用い、23℃の温度において、波長548.3nmおよび波長629.1nmの2波長について楕円偏光の方位角Ψ(548.3)およびΨ(629.1)を測定した。
【0098】
(直線偏光子の作製)
厚み30μmのポリビニルアルコールフィルム(平均重合度約2400、ケン化度99.9モル%以上)を、乾式延伸により約4倍に一軸延伸し、さらに緊張状態を保ったまま、40℃の純水に40秒間浸漬した後、ヨウ素/ヨウ化カリウム/水の重量比が0.052/5.7/100の水溶液に28℃で30秒間浸漬して染色処理を行った。その後、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水の重量比が11.0/6.2/100の水溶液に70℃で120秒間浸漬した。引き続き、8℃の純水で15秒間洗浄した後、300Nの張力で保持した状態で、60℃で50秒間、次いで75℃で20秒間乾燥して、ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素が吸着配向している厚み12μmの吸収型偏光フィルムを得た。
【0099】
(λ/4板)
λ/4板として、厚み25μmのノルボルネン系樹脂からなる延伸フィルムに、厚み3μmのハードコート層を形成したフィルム(日本製紙株式会社製、商品名「COP25ST-HC」)を用いた。λ/4板のRe(550)は、98.1nmであった。
【0100】
(保護フィルム)
保護フィルムとして、トリアセチルセルロースフィルム(コニカミノルタ株式会社製、「KC2CT」)を用いた。保護フィルムの厚みは20μmであった。保護フィルムのRe(550)は2.6nmであり、Rth(550)は1.2nmであった。
【0101】
(楕円偏光板の作製)
λ/4板と直線偏光子及び保護フィルムを、厚み5μmのシート状粘着剤〔リンテック株式会社製の「NCF #L2」〕を介して貼合し、楕円偏光板を作製した。この際、直線偏光子の吸収軸とλ/4板の遅相軸の相対角を、45°±3°の範囲内で貼合した12枚の楕円偏光板を作製した。
【0102】
こうして作製した12枚の楕円偏光板それぞれを、長辺150mm×短辺100mmの大きさに裁断した。このようにして得られた長辺150mm×短辺100mmの大きさを有する楕円偏光板を評価サンプルと称す。この時、評価サンプル(楕円偏光板)を保護フィルム側からみて、長辺を基準辺(長辺に平行な線を0°とし時計回りを正とする)とした場合に、直線偏光子の吸収軸の角度が135°、λ/4板の遅相軸の角度がそれぞれ約90°となるようにした。
【0103】
作製した12枚の評価サンプルについて、λ/4板側から光を入射させ直線偏光子の吸収軸の角度と、保護フィルム側から光を入射させ楕円の方位角Ψ(548.3)およびΨ(629.1)を測定した。直線偏光子の吸収軸の角度は、位相差計“KOBRA(登録商標)-HBPR”を用いて測定した。測定角度の基準は、評価サンプルの長辺方向とした。測定結果は、表1に示したとおりであった。表1では、測定で得られた実測値(角度)をXpとして表記している。
【0104】
こうして得られた測定結果から重回帰分析を行い、直線偏光子の吸収軸の角度X(保護フィルム側から見た場合の角度に統一するため90°加えた値)と楕円の方位角Ψ(548.3)、Ψ(629.1)との関係式を得た。得られた関係式は下記の式(2)であった。
X(°)=-1.43368×Ψ(548.3)
+2.42946×Ψ(629.1)+90.21133・・・(2)
【0105】
こうして得られた式(2)と、上記方位角Ψ(548.3)およびΨ(629.1)とを用いて、12枚の評価サンプルの直線偏光子の吸収軸の角度Xを計算した計算結果は表1のとおりであった。表1には、吸収軸の角度の計算値(計算結果)と実測値との差も示している。
【表1】
【0106】
評価サンプルは、λ/4板、直線偏光子および保護フィルムを有する積層体であり、直線偏光解消フィルムを有しない。しかしながら、上記保護フィルムを直線偏光解消フィルムに置き換えても、方位角Ψ(548.3)およびΨ(629.1)の測定結果は同じである。したがって、式(2)と、上記方位角Ψ(548.3)およびΨ(629.1)とを用いて、12枚の評価サンプルそれぞれが有する直線偏光子の吸収軸の角度Xを得ることは、図4を用いて説明した検査方法における吸収軸の角度の測定に対応する。
【0107】
表1に示した実測値の吸収軸の角度Xpに対し、計算値の角度Xをグラフにプロットして、XとXpとの関係を示す近似式と、それらの相関係数を得た。近似式は、式(3)に示したように、比例係数が1.000の直線近似式であり、相関係数は、0.99911であった。
X=1.0000Xp・・・(3)
【0108】
これらの結果より、方位角の測定結果と、上記式(2)とを用いることによって、非常によい精度で吸収軸の角度を得ることができることが確認できた。
【符号の説明】
【0109】
10…楕円偏光板(検査対象)、11…直線偏光子、12…λ/4板、13…直線偏光解消フィルム、20…積層体、20M…積層体モデル、20S…積層体サンプル、A…透過軸、B1…遅相軸、B2…進相軸。
図1
図2
図3
図4
図5
図6