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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023059561
(43)【公開日】2023-04-27
(54)【発明の名称】玉子焼きの素
(51)【国際特許分類】
   A23L 15/00 20160101AFI20230420BHJP
   A23L 35/00 20160101ALI20230420BHJP
【FI】
A23L15/00 Z
A23L35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021169646
(22)【出願日】2021-10-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501149411
【氏名又は名称】キユーピータマゴ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】野倉 望
(72)【発明者】
【氏名】新井 亜沙実
【テーマコード(参考)】
4B036
4B042
【Fターム(参考)】
4B036LC01
4B036LE02
4B036LF17
4B036LF19
4B036LH01
4B036LH11
4B036LH13
4B036LH41
4B036LK01
4B036LP01
4B036LP19
4B036LP24
4B042AC05
4B042AD30
4B042AE08
4B042AH09
4B042AK01
4B042AK02
4B042AK06
4B042AP02
4B042AP30
(57)【要約】
【課題】
本発明は、ふわっとやわらかく、かつジューシーな玉子焼きを簡単に調理することができる、玉子焼きの素を提供する。
【解決手段】
液卵様組成物と凝固卵を含有する玉子焼きの素であって、
前記凝固卵の割合が15~30%であり、
前記液卵様組成物に含まれる液全卵の割合が固形分換算で10~17%であり、
前記液卵様組成物の20℃における粘度が100~1500mPa・sである、
玉子焼きの素。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液卵様組成物と凝固卵を含有する玉子焼きの素であって、
前記凝固卵の割合が15~30%であり、
前記液卵様組成物に含まれる液全卵の割合が固形分換算で10~17%であり、
前記液卵様組成物の20℃における粘度が100~1500mPa・sである、
玉子焼きの素。
【請求項2】
液卵様組成物に含まれる食用油脂の割合が10~25%である、
請求項1記載の玉子焼きの素。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玉子焼きの素に関する。具体的には、フライパン等に流しいれて焼くだけで、ふわっとやわらかく、かつジューシーな玉子焼きを簡単に調理することができる、玉子焼きの素に関する。
【背景技術】
【0002】
玉子焼きは、古くから親しまれている卵料理の1種である。玉子焼きの味付けは、だし巻のようにだしの味をきかせたものから醤油と砂糖で味をつけた厚焼きまで多岐にわたるが、一般的にふわっとやわらかく、かつジューシーなものが、好まれる傾向にある。
【0003】
しかしながら、このようなふわっとやわらかく、かつジューシーな玉子焼きを作るためには熟練の技術が必要であり、誰もが簡単に調理できるものではなかった。
【0004】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許4896945号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、ふわっとやわらかく、かつジューシーな玉子焼きを簡単に調理できる玉子焼きの素を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、液卵様組成物と凝固卵を含有する玉子焼きの素であって、凝固卵の割合、液卵様組成物に含まれる液全卵の割合、粘度等を調整することにより、ふわっとやわらかく、かつジューシーな玉子焼きを簡単に調理できる玉子焼きの素が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)液卵様組成物と凝固卵を含有する玉子焼きの素であって、
前記凝固卵の割合が15~30%であり、
前記液卵様組成物に含まれる液全卵の割合が固形分換算で10~17%であり、
前記液卵様組成物の20℃における粘度が100~1500mPa・sである、
玉子焼きの素、
(2)液卵部に含まれる食用油脂の割合が10~25%である、(1)記載の玉子焼きの素、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡単に、ふわっとやわらかく、かつジューシーな玉子焼きを調理できることから、玉子焼き市場の更なる拡大が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味する。
【0011】
<玉子焼きの素>
本発明において玉子焼きの素とは、液卵様組成物と凝固卵を含有するものであり、液卵様組成物の中に多数の凝固卵が浮遊又は沈殿している状態で存在している。そして本発明の玉子焼きの素を用いることにより、液卵を薄く焼いては、巻いて成型したり、液卵を追加で投入したりする等の手間や技術を要する作業を一切することなく、フライパン等の調理器具に所望の厚みになるまで投入し、加熱するだけで、ふわっとやわらかく、かつジューシーな玉子焼きを調理できるものである。本発明の玉子焼きの素で調理する玉子焼きとしては、厚焼き玉子、だし巻き卵等、いわゆる玉子焼きだけでなく、ふわっとやわらかく、かつジューシーな食感が求められるオムレツやだて巻も含まれる。
【0012】
<液卵様組成物>
本発明の玉子焼きの素に用いる液卵様組成物は、液全卵を所定量含有し、生の液全卵又は液卵黄様の外観を有する液状物である。前記液全卵は、鳥類の卵を割卵し、均質化したものでもよいし、液卵黄及び液卵白を任意の割合で混合して調製したものでもよい。また、それらの乾燥物を水戻ししたものを用いてもよいし、殺菌処理、冷凍処理、ホスフォリパーゼA1、ホスフォリパーゼA2、ホスフォリパーゼC、ホスフォリパーゼD又はプロテアーゼ等による酵素処理、酵母又はグルコースオキシダーゼ等による脱糖処理、超臨界二酸化炭素処理等の脱コレステロール処理を行ったものを用いてもよい。前記鳥類の卵としては、鶏、鶉、アヒルの卵など、一般に食用に供されるものであればいずれのものでもよいが、入手しやすい点から鶏卵を用いるとよい。
【0013】
前記液卵様組成物に含まれる液全卵の割合は、固形分換算で10~17%である。液卵様組成物に含まれる液全卵の割合が前記範囲未満である場合、液卵様組成物が凝固しにくく、玉子焼きを成型することが難しくなる。また、液全卵の割合が前記範囲を超える場合、玉子焼きの食感が固くなり、ふわっとやわらかい食感にならない。
ふわっとやわらかく、かつジューシーな食感の玉子焼きが得られやすいことから、液卵様組成物に含まれる液全卵の割合は、固形分換算10~16%であることが好ましく、さらに12~16%であることがより好ましい。
【0014】
<液卵様組成物の粘度>
本発明の玉子焼きの素に用いる液卵様組成物は、下記手順により測定した粘度が、100~1500mPa・sである。液卵様組成物の粘度が前記範囲未満である場合、玉子焼きを成型しにくかったり、玉子焼きの食感がやわらかくなりすぎる場合がある。液卵様組成物の粘度が前記範囲を超える場合、保水力が強くなりすぎてジューシーさを感じにくくなり好ましくない。ふわっとやわらかく、かつジューシーな食感の玉子焼きが得られやすいことから、150~1000mPa・sであることが好ましく、300~800mPa・sであることが好ましく、さらに500~800mPa・sであることがより好ましい。
前記液卵様組成物の粘度は、本発明の玉子焼きの素を3mmパンチングのストレーナーに入れて凝固卵を分離して得た液部を、B型粘度計を用い、20℃、ローターNo.6、4rpmの条件で測定した値である。
【0015】
<液卵様組成物の食用油脂含量>
本発明の玉子焼きの素に用いる液卵様組成物は、食用油脂を含有することが好ましい。食用油脂を配合することにより、ふわっとやわらかく、かつジューシーな食感の玉子焼きが得られやすくなる。前記食用油脂としては、食用に用いられるものであればいずれの油脂でもよいが、例えば、菜種油、大豆油、パーム油、綿実油、コーン油、ひまわり油、サフラワー油、胡麻油、オリーブ油、亜麻仁油、米油、椿油、荏胡麻油、グレープシードオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、アボカドオイル、魚油、牛脂、豚脂、鶏脂、又はMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油、エステル交換油等のような化学的あるいは酵素的処理等を施して得られる油脂等を挙げることができる。
また、前記食用油脂の割合は特に限定しないが、ふわっとやわらかく、かつジューシーな食感の玉子焼きがより得られやすくなることから、10~25%であることが好ましく、13~23%であることが好ましく、さらに15~20%であることがより好ましい。
【0016】
<凝固卵>
本発明の玉子焼きの素に用いる凝固卵は、卵液を、加熱やゲル化剤等の処理により凝固させたものである。前記卵液を構成する卵としては、鶏、鶉、アヒルの卵など、一般に食用に供されるものであればいずれのものでもよいが、入手しやすい点から鶏卵を用いるとよい。また、前記卵液は、卵黄を含有していればいずれのものでもよく、例えば、液全卵、液卵黄をはじめ、それらを殺菌処理、冷凍処理、ホスフォリパーゼA1、ホスフォリパーゼA2、ホスフォリパーゼC、ホスフォリパーゼD又はプロテアーゼ等による酵素処理、酵母又はグルコースオキシダーゼ等による脱糖処理、超臨界二酸化炭素処理等の脱コレステロール処理、食塩又は糖類等の混合処理、有機溶媒等による抽出処理等の1種又は2種以上の処理、前記各種処理物をスプレードライ又はフリーズドライ等の乾燥処理を施した後に水戻ししたもの等が挙げられる。
【0017】
さらに、前記卵液として、本発明の効果を損なわない範囲で、卵以外の成分を含んだ混合卵液を用いてもよく、例えば、醤油、塩、胡椒等の調味料類、牛乳、バター、生クリーム等の乳製品、小麦粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉等の生澱粉およびこれらを物理的処理、酵素処理、化学的処理等を行った加工澱粉等の澱粉類、スクロース、グルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノース、ラクトース、マルトース、トレハロース、糖アルコール、澱粉を加水分解して製したデキストリン、サイクロデキストリン、還元デキストリン、イヌリン等の糖類、キサンタンガム、グァーガム、カラギーナン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム等の増粘多糖類、β―カロテン、クチナシ色素、アトナー色素などの着色成分等を混合することができる。
【0018】
<玉子焼きの素に含まれる凝固卵の割合>
本発明の玉子焼きの素は、凝固卵を15~30%含有する。凝固卵の割合が前記範囲未満である場合、玉子焼き中の細かな空洞が少なくなり、ジューシーな玉子焼きが得られない。また、表面がつるつるとした茶わん蒸しのような食感になり好ましくない。また、凝固卵の割合が前記範囲を超える場合、玉子焼きの食感が固くなり、ふわっとやわらかい食感にならない。
ふわっとやわらかく、かつジューシーな食感の玉子焼きが得られやすいことから、本発明の玉子焼きの素に含まれる凝固卵の割合は、15~25%であることが好ましく、さらに17~23%であることがより好ましい。
【0019】
<凝固卵の形状>
凝固卵の形状は特に限定されないが、例えば、薄膜状、棒状、鱗片状、薄肉偏平状の小片、大豆状等の様々な形状とすることができ、薄膜状であるとよい。
また、本発明の玉子焼きの素に含まれる凝固卵は、厚さが3mm以下、面積が5mm以上500mm以下の凝固卵の集合であるとよい。凝固卵が上述した形状を有することによって、ふんわりかつジューシーな食感の玉子焼きが得られやすい。
なお、凝固卵すべてが上述した厚み又は面積でなくとも、凝固卵の70%以上が前記範囲の凝固卵であると、ふんわりかつジューシーな食感の玉子焼きが得られやすく、より好ましい。
【0020】
<凝固卵の形状の確認方法>
本発明の玉子焼きの素における凝固卵の形状の確認は下記のように行うことができる。
まず、玉子焼きの素200gをフルイ(目開き30メッシュ、18-8ステンレススチール製)にあけた後、凝固卵に付着した液卵様組成物を清水により洗い流す。
続いて、フルイ上に残った凝固卵をバットの上に取り出し、形状を目視にて確認し、また面積や厚さを測定する。凝固卵が丸まっている場合には、広げて面積の測定を行うものとする。
【0021】
以下、本発明の玉子焼きの素について、具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例0022】
[実施例1]
<玉子焼きの素の調製>
液全卵85%、食用油脂10%、その他調味料等5%を混合して混合卵液を調製し、得られた混合卵液を90℃に加熱した0.6%食塩水に徐々に注加することにより多数の薄膜上の凝固卵を調製した。各々の凝固卵の厚さ及び面積を確認した結果、厚さ3mm以下、面積5~500mmの凝固卵の割合が70%以上であった。
次いで、液全卵56%(固形分換算で14%)、食用油脂18%、澱粉1%、調味料(食塩等)1.0%、増粘多糖類0.1%を混合後、清水で100%に調整し、液卵様組成物を調製した。液卵様組成物の粘度は600mPa・sであった。
調製した凝固卵と液卵様組成物を2:8の割合で混合後、容器に充填し、実施例1の玉子焼きの素を得た。
【0023】
[試験例1]凝固卵の割合の検討
玉子焼きの素に含まれる凝固卵の割合を表1に記載の割合に変更した以外は実施例1と同様の方法で、実施例2~4、比較例1及び2の玉子焼きの素を調製した。厚さ3mm以下、面積5~500mmの凝固卵の割合はいずれも70%以上であった。
調製した実施例1~4、比較例1及び2の玉子焼きの素を厚さが2.3cmになるように長方形の型に流し込み、天板に水を張った後、180℃のオーブンで25分間焼成し、玉子焼きを得た。得られた各玉子焼きについて、試食し、下記基準で評価を行った。結果は表1に示した。
【0024】
[評価基準]
〇:ふわっとやわらかで、かつジューシーな食感がとても感じられた。
△:ふわっとやわらかで、かつジューシーな食感がやや感じられた。
×:ふわっとやわらかな、又はジューシーな食感が感じられなかった。
【0025】
[表1]
【0026】
表1の結果から、凝固卵の割合が15~30%であることにより、ふわっとやわらかで、かつジューシーな食感となることが分かった。
【0027】
[試験例2]液卵様組成物に含まれる液全卵の割合の検討
液卵様組成物に含まれる液全卵の割合を表2の割合に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例5~7、比較例3,4の玉子焼きの素を調製した。なお、液全卵の増減分は清水で調整した。実施例1、5~7、比較例3、4の玉子焼きの素を試験例1と同様の方法で玉子焼きを調製し、評価を行った。結果を表2に示した。
【0028】
[表2]
【0029】
表2の結果から、液卵様組成物に含まれる液全卵の割合を固形分換算で10~17%、特に12~16%とすることにより、ふわっとやわらかで、かつジューシーな食感の玉子焼きが得られることが分かった。
【0030】
[試験例3]液卵様組成物の粘度の検討
液卵様組成物に配合する増粘多糖類の割合を変更し、表3に記載の粘度の液卵様組成物を調製した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例8、9、比較例5の玉子焼きの素を調製した。なお、増粘多糖類の増減分は清水で調整した。調製した実施例1、8、9、比較例5の玉子焼きの素を試験例1と同様の方法で玉子焼きを調製し、評価を行った。結果を表3に示した。
【0031】
[表3]
【0032】
表3の結果から、液卵様組成物の粘度が100~1500mPa・s、特に300~800mPa・sとすることにより、ふわっとやわらかで、かつジューシーな食感の玉子焼きが得られることが分かった。
【0033】
[試験例4]液卵様組成物に含まれる食用油脂の割合の検討
食用油脂の割合を表4の割合に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例10、11の玉子焼きの素を調製した。なお、食用油脂の増減分は清水で調整した。調製した実施例1、10、11の玉子焼きの素を試験例1と同様の方法で玉子焼きを調製し、評価を行った。結果を表2に示した。
【0034】
[表4]
【0035】
表4の結果から、液卵様組成物に配合する食用油脂の割合を13~23%とすることにより、ふわっとやわらかで、かつジューシーな食感の玉子焼きがより得られやすいことが分かった。