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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023059642
(43)【公開日】2023-04-27
(54)【発明の名称】点検装置、点検方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/26 20060101AFI20230420BHJP
   G01R 31/00 20060101ALI20230420BHJP
   G01N 27/04 20060101ALI20230420BHJP
【FI】
G01N27/26 391A
G01R31/00
G01N27/04 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021169756
(22)【出願日】2021-10-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(71)【出願人】
【識別番号】591044647
【氏名又は名称】株式会社 スズキ技研
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100153017
【弁理士】
【氏名又は名称】大倉 昭人
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 航
(72)【発明者】
【氏名】涌井 一清
(72)【発明者】
【氏名】加藤 清輝
(72)【発明者】
【氏名】片岡 亮
(72)【発明者】
【氏名】井上 晩太
(72)【発明者】
【氏名】田中 昌広
【テーマコード(参考)】
2G036
2G060
【Fターム(参考)】
2G036AA24
2G036BA35
2G060AA01
2G060AB05
2G060AE19
2G060AE27
2G060AF01
2G060BA01
2G060HA06
2G060HC15
2G060HC24
(57)【要約】
【課題】より簡易に酸素濃度測定器のセンサ部の劣化パターンを判定する。
【解決手段】点検装置10は、センサ出力値に対応する酸素濃度が、許容範囲内に含まれる場合、監視電圧を所定値だけ低下させ、監視電圧の低下によるセンサ出力値の変化量が第1の閾値以上であれば、第1の劣化パターンの劣化が発生していると判定する第1劣化判定部11と、センサ出力値に対応する酸素濃度が許容範囲の上限よりも大きい場合、第2の劣化パターンの劣化が発生していると判定する第2劣化判定部12と、センサ出力値に対応する酸素濃度が許容範囲の下限よりも小さい場合、酸素濃度測定器の周辺の換気によるセンサ出力値の変化量が第2の閾値よりも小さければ、第1の劣化パターン、第3の劣化パターンまたは第4の劣化パターンの劣化が発生していると判定する第3劣化判定部13と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素濃度測定器が備えるセンサ部の劣化パターンを判定する点検装置であって、
前記センサ部は、電極に挟まれたジルコニア素子を備え、前記電極への電圧の印加により、前記ジルコニア素子に流れる電流をセンサ出力値として出力し、
前記電極には、前記センサ出力値が酸素濃度に応じた一定の電流値である限界電流値となる前記電極に印加される最小電圧以上の電圧である監視電圧が印加され、
前記センサ部の劣化パターンは、
前記最小電圧が、高電圧側にシフトする第1の劣化パターンと、
所定の基準により許容可能な酸素濃度の範囲である許容範囲の上限よりも低い酸素濃度における限界電流値が、前記許容範囲の上限における電流限界値よりも高くなる第2の劣化パターンと、
酸素濃度に関わらず、前記電流限界値が、前記許容範囲の下限の酸素濃度における限界電流値よりも低くなる第3の劣化パターンと、
酸素濃度に関わらず、前記限界電流値が、前記許容範囲の下限の酸素濃度における限界電流値よりも低くなり、前記限界電流値の低下量が前記第3の劣化パターンよりも小さい第4の劣化パターンと、を含み、
前記センサ出力値に対応する酸素濃度が、前記許容範囲内に含まれる場合、前記監視電圧を所定値だけ低下させ、前記監視電圧の低下によるセンサ出力値の変化量が第1の閾値以上であれば、前記第1の劣化パターンの劣化が発生していると判定する第1劣化判定部と、
前記センサ出力値に対応する酸素濃度が前記許容範囲の上限よりも大きい場合、前記第2の劣化パターンの劣化が発生していると判定する第2劣化判定部と、
前記センサ出力値に対応する酸素濃度が前記許容範囲の下限よりも小さい場合、前記酸素濃度測定器の周辺の換気によるセンサ出力値の変化量が第2の閾値よりも小さければ、前記第1の劣化パターン、前記第3の劣化パターンまたは前記第4の劣化パターンの劣化が発生していると判定する第3劣化判定部と、を備える、点検装置。
【請求項2】
請求項1に記載の点検装置において、
前記第3劣化判定部は、前記換気によるセンサ出力値の変化量が前記第2の閾値よりも小さい場合、前記監視電圧を所定値だけ低下させ、
前記監視電圧の低下によるセンサ出力値の変化量が前記第1の閾値以上であれば、前記第1の劣化パターンの劣化が発生していると判定し、
前記監視電圧の低下によるセンサ出力値の変化量が前記第1の閾値より小さい場合、前記換気後のセンサ出力値が第3の閾値より小さければ、前記第3の劣化パターンの劣化が発生していると判定し、前記換気後のセンサ出力値が前記第3の閾値以上であれば、前記第4の劣化パターンの劣化が発生していると判定する、点検装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の点検装置において、
前記酸素濃度測定器は、酸素濃度が前記許容範囲から外れるとアラームを出力する感知器を備え、
前記第1劣化判定部は、前記監視電圧の低下によるセンサ出力値の変化量が前記第1の閾値以上である場合、前記センサ出力値に対応する酸素濃度が、前記感知器が前記アラームを出力する酸素濃度となるように前記監視電圧を低下させ、該監視電圧の低下により前記感知器がアラームを出力した場合、前記第1の劣化パターンの劣化が発生していると判定し、前記感知器がアラームを出力しない場合、前記酸素濃度測定器において回路異常が生じていると判定する、点検装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の点検装置において、
前記酸素濃度測定器は、酸素濃度が前記許容範囲から外れるとアラームを出力する感知
器を備え、
前記第2劣化判定部は、前記センサ出力値に対応する酸素濃度が前記許容範囲の上限よりも大きい場合、前記センサ出力値に対応する酸素濃度が、前記感知器が前記アラームを出力する酸素濃度となるように前記監視電圧を低下させ、該監視電圧の低下により前記感知器がアラームを出力した場合、前記第2の劣化パターンの劣化が発生していると判定し、前記感知器がアラームを出力しない場合、前記酸素濃度測定器において回路異常が生じていると判定する、点検装置。
【請求項5】
酸素濃度測定器が備えるセンサ部の劣化パターンを判定する点検装置による点検方法であって、
前記センサ部は、電極に挟まれたジルコニア素子を備え、前記電極への電圧の印加により、前記ジルコニア素子に流れる電流をセンサ出力値として出力し、
前記電極には、前記センサ出力値が酸素濃度に応じた一定の電流値である限界電流値となる前記電極に印加される最小電圧以上の電圧である監視電圧が印加され、
前記センサ部の劣化パターンは、
前記最小電圧が、高電圧側にシフトする第1の劣化パターンと、
所定の基準により許容可能な酸素濃度の範囲である許容範囲の上限よりも低い酸素濃度における限界電流値が、前記許容範囲の上限における電流限界値よりも高くなる第2の劣化パターンと、
酸素濃度に関わらず、前記電流限界値が、前記許容範囲の下限の酸素濃度における限界電流値よりも低くなる第3の劣化パターンと、
酸素濃度に関わらず、前記限界電流値が、前記許容範囲の下限の酸素濃度における限界電流値よりも低くなり、前記限界電流値の低下量が前記第3の劣化パターンよりも小さい第4の劣化パターンと、を含み、
前記センサ出力値に対応する酸素濃度が、前記許容範囲内に含まれる場合、前記監視電圧を所定値だけ低下させ、前記監視電圧の低下によるセンサ出力値の変化量が第1の閾値以上であれば、前記第1の劣化パターンの劣化が発生していると判定するステップと、
前記センサ出力値に対応する酸素濃度が前記許容範囲の上限よりも大きい場合、前記第2の劣化パターンの劣化が発生していると判定するステップと、
前記センサ出力値に対応する酸素濃度が前記許容範囲の下限よりも小さい場合、前記酸素濃度測定器の周辺の換気によるセンサ出力値の変化量が第2の閾値よりも小さければ、前記第1の劣化パターン、前記第3の劣化パターンまたは前記第4の劣化パターンの劣化が発生していると判定するステップと、を含む点検方法。
【請求項6】
コンピュータを、請求項1から4に記載の点検装置として機能させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、点検装置、点検方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
対象環境の酸素濃度の常時測定に、酸素濃度計が実用されている。酸素濃度計の一種であるジルコニア式(限界電流方式)酸素濃度測定器(以下、単に「酸素濃度測定器」と称する。)は、ガルバニ式およびポーラロ式と比べて、酸素濃度の変化に対する応答速度が高く、また、長寿命であることから、多く実用されている。
【0003】
酸素濃度測定器は、ジルコニア素子を電極で挟んだジルコニアセンサ部(以下、「センサ部」と称する。)を備える。ジルコニア素子を挟んだ電極に電圧を印加すると、ジルコニア素子中を酸素イオンが移動し、その反応によって電流が生じる。センサ部は、ジルコニア素子中を流れる電流をセンサ出力値として出力する(非特許文献1,2参照)。細孔などによりジルコニア素子の陰極側の酸素の流入を制限すると、図8に示すような、バイアス電圧(電極への印加電圧)とセンサ出力値との特性(以下、「V-I特性」と称する。)が得られる。
【0004】
図8に示すように、バイアス電圧を0から増加させていくと、初期段階では、バイアス電圧の増加とともにセンサ出力値も増加する。バイアス電圧をある一定値まで増加させると、その後は、バイアス電圧を増加させても、センサ出力値(電流値)が一定値(限界電流値)となる。限界電流値は酸素濃度に比例するため、測定したい酸素濃度帯において、センサ出力値が限界電流値となる電圧(以下、「監視電圧」と称する。)を常時印加することで、酸素濃度の測定が可能となる。
【0005】
また、酸素濃度測定器は、所定の酸素濃度を感知するとアラームを出力する感知器を備えている。例えば、労働安全衛生法に定める酸欠状態に陥る酸素濃度が、感知器がアラームを出力する閾値(以下、「アラーム閾値」と称する。)として設定され、センサ出力値に対応する酸素濃度がアラーム閾値を下回ると、感知器がアラームを出力する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】中沢 光博、外1名、「限界電流式ジルコニア酸素センサの開発(藤倉電線(株)グループ)」、電気化学および工業物理化学 60(7),613-616,1992
【非特許文献2】佐治 啓市、外2名、「限界電流式ジルコニア酸素センサの開発(藤倉電線(株)グループ)」、電気化学および工業物理化学 60(7),608-612,1992
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
酸素濃度測定器は上述した原理により酸素濃度の測定を可能としているが、センサ部は通常、使用を続けると様々な要因によって劣化が進行し、設置環境の酸素濃度を正確に測定することができなくなることがある。センサ部の劣化パターンは、以下の第1から第4の劣化パターンに分類することができる。
【0008】
第1の劣化パターンは、センサ部の経年的な劣化によるセンサ出力値の低下である。酸素濃度測定器は、上述したように、センサ部の反応により酸素濃度を測定しているが、経
年使用によってセンサ部の酸素イオン伝導性が低下し、正常に反応することが困難になる。その際、限界電流値が発生する最小電圧値(以下、「フラット域開始電圧」と称する。)が高電圧側にシフトし、図9に示すように、(1),(2),(3)の順に、V-I特性が変化する。フラット域開始電圧のシフトが進行し、図9の(3)のように監視電圧を超えてしまった場合、センサ出力値が低下する。例えば、図9の(2)の状態では、酸素濃度21%のV-I特性において、フラット域開始電圧と監視電圧とが一致している。そのため、これ以上劣化が進行すると、設置環境において酸素濃度が21%以上であるときに、本来のセンサ出力値よりも低い値が出力され、酸素濃度が低く測定されてしまう。つまり、危険な状態でないにも関わらず、アラームが出力される(以下、「誤報」と称する。)要因となる。
【0009】
第2の劣化パターンは、センサ部に熱衝撃あるいは機械的衝撃が加わることによって起こる劣化である。センサ部に熱衝撃あるいは機械的衝撃が加わると、センサ部に大量の酸素が流れ込み、その量をコントロールできなくなる。そのため、図10に示すように、低酸素濃度時の限界電流値が、所定の基準(例えば、法令上の基準)により許容可能な酸素濃度の範囲である許容範囲(例えば、18%以上、25%以下)の上限(例えば、25%)時の限界電流値を示す判定閾値より高くなってしまう。そのため、設置環境の酸素濃度よりも高い酸素濃度を測定してしまい、仮に設置環境の酸素濃度がアラーム閾値を下回っていても、アラームが出力されないという状態を招くことが危惧される。
【0010】
第3の劣化パターンは、センサ部の気体拡散孔の全てが不純物などで塞がれることによって起こる劣化である。センサ部は、気体拡散孔から吸引した酸素に反応して、酸素濃度を測定する。気体拡散孔に不純物が付着して気体拡散孔が完全に塞がれた場合、酸素の吸引が不可能となり、センサ出力値が低下してしまう。また、図11に示すように、限界電流値が、許容範囲の下限(例えば、18%よりも)の限界電流値よりも低下し、実際の酸素濃度に関わらず、極端に低い酸素濃度(例えば、1%)が測定されてしまうため、アラームが常時、出力されてしまう。
【0011】
第4の劣化パターンは、センサ部の気体拡散孔の一部が不純物なので塞がれることによって起こる劣化である。劣化が発生する過程は、3つ目の劣化パターンと同じであり、気体拡散孔が大きく塞がれるほど、センサ出力値が低下し、図12に示すように、限界電流値が低下する。ここで、第4の劣化パターンでは気体拡散孔の一部が塞がれていても酸素の吸引が可能であるため、限界電流値の低下量は、3つ目の劣化パターンよりも小さくなる。第4の劣化パターンでは、センサ出力値の低下の程度にもよるが、実際の酸素濃度よりも低い酸素濃度が測定され、誤報が発生してしまうことがある。
【0012】
このように、センサ部の劣化の要因は様々であるが、センサ部の劣化パターンは、設置環境の酸素濃度よりも測定される酸素濃度が低くなる3つの劣化パターン(第1、第3および第4の劣化パターンと)と、設置環境の酸素濃度よりも測定される酸素濃度が高くなる1つの劣化パターン(第2の劣化パターン)とに大別することができる。酸素濃度測定器がアラームを出力した場合、設置環境が危険な状態であると推測されるため、換気などを行い、酸素濃度を向上させる必要がある。しかしながら、センサ部の劣化によって、実際の酸素濃度よりも測定値が低く出力される劣化パターンが発生した場合、酸素濃度の改善は不必要であるため、換気などを行うと、無駄なコストがかかってしまう。また、実際の酸素濃度よりも測定値が高く出力される劣化パターンが発生した場合、低酸素濃度状態であっても、アラームが出力されないため、酸素濃度測定器付近の作業者に危険をもたらしてしまう。そのため、センサ部に発生している劣化パターンを判定する技術が求められていた。
【0013】
従来、センサ部に発生している劣化パターンを判別するためには、酸素濃度測定器のV
-I特性を個々に測定する必要があった。そのため、設置数が多い場合あるいは設置場所のへのアクセスが悪い場合には、点検コストが膨大になるという問題があった。そこで、酸素濃度測定器のセンサ部の劣化パターンを、より簡易に判定することができる技術が求められていた。
【0014】
上記のような問題点に鑑みてなされた本開示の目的は、より簡易に酸素濃度測定器のセンサ部の劣化パターンを判定することができる点検装置、点検方法およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本開示に係る点検装置は、酸素濃度測定器が備えるセンサ部の劣化パターンを判定する点検装置であって、前記センサ部は、電極に挟まれたジルコニア素子を備え、前記電極への電圧の印加により、前記ジルコニア素子に流れる電流をセンサ出力値として出力し、前記電極には、前記センサ出力値が酸素濃度に応じた一定の電流値である限界電流値となる前記電極に印加される最小電圧以上の電圧である監視電圧が印加され、前記センサ部の劣化パターンは、前記最小電圧が、高電圧側にシフトする第1の劣化パターンと、所定の基準により許容可能な酸素濃度の範囲である許容範囲の上限よりも低い酸素濃度における限界電流値が、前記許容範囲の上限における電流限界値よりも高くなる第2の劣化パターンと、酸素濃度に関わらず、前記電流限界値が、前記許容範囲の下限の酸素濃度における限界電流値よりも低くなる第3の劣化パターンと、酸素濃度に関わらず、前記限界電流値が、前記許容範囲の下限の酸素濃度における限界電流値よりも低くなり、前記限界電流値の低下量が前記第3の劣化パターンよりも小さい第4の劣化パターンと、を含み、前記センサ出力値に対応する酸素濃度が、前記許容範囲内に含まれる場合、前記監視電圧を所定値だけ低下させ、前記監視電圧の低下によるセンサ出力値の変化量が第1の閾値以上であれば、前記第1の劣化パターンの劣化が発生していると判定する第1劣化判定部と、前記センサ出力値に対応する酸素濃度が前記許容範囲の上限よりも大きい場合、前記第2の劣化パターンの劣化が発生していると判定する第2劣化判定部と、前記センサ出力値に対応する酸素濃度が前記許容範囲の下限よりも小さい場合、前記酸素濃度測定器の周辺の換気によるセンサ出力値の変化量が第2の閾値よりも小さければ、前記第1の劣化パターン、前記第3の劣化パターンまたは前記第4の劣化パターンの劣化が発生していると判定する第3劣化判定部と、を備える。
【0016】
また、上記課題を解決するため、本開示に係る点検方法は、酸素濃度測定器が備えるセンサ部の劣化パターンを判定する点検装置による点検方法であって、前記センサ部は、電極に挟まれたジルコニア素子を備え、前記電極への電圧の印加により、前記ジルコニア素子に流れる電流をセンサ出力値として出力し、前記電極には、前記センサ出力値が酸素濃度に応じた一定の電流値である限界電流値となる前記電極に印加される最小電圧以上の電圧である監視電圧が印加され、前記センサ部の劣化パターンは、前記最小電圧が、高電圧側にシフトする第1の劣化パターンと、所定の基準により許容可能な酸素濃度の範囲である許容範囲の上限よりも低い酸素濃度における限界電流値が、前記許容範囲の上限における電流限界値よりも高くなる第2の劣化パターンと、酸素濃度に関わらず、前記電流限界値が、前記許容範囲の下限の酸素濃度における限界電流値よりも低くなる第3の劣化パターンと、酸素濃度に関わらず、前記限界電流値が、前記許容範囲の下限の酸素濃度における限界電流値よりも低くなり、前記限界電流値の低下量が前記第3の劣化パターンよりも小さい第4の劣化パターンと、を含み、前記センサ出力値に対応する酸素濃度が、前記許容範囲内に含まれる場合、前記監視電圧を所定値だけ低下させ、前記監視電圧の低下によるセンサ出力値の変化量が第1の閾値以上であれば、前記第1の劣化パターンの劣化が発生していると判定するステップと、前記センサ出力値に対応する酸素濃度が前記許容範囲の上限よりも大きい場合、前記第2の劣化パターンの劣化が発生していると判定するステップと、前記センサ出力値に対応する酸素濃度が前記許容範囲の下限よりも小さい場合、
前記酸素濃度測定器の周辺の換気によるセンサ出力値の変化量が第2の閾値よりも小さければ、前記第1の劣化パターン、前記第3の劣化パターンまたは前記第4の劣化パターンの劣化が発生していると判定するステップと、を含む。
【0017】
また、上記課題を解決するため、本開示に係るプログラムは、コンピュータを、上述した点検装置として機能させる。
【発明の効果】
【0018】
本開示に係る点検装置、点検方法およびプログラムによれば、より簡易に酸素濃度測定器のセンサ部の劣化パターンを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本開示の一実施形態に係る点検装置の構成例を示す図である。
図2図1に示す点検装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図3図1に示す第1劣化判定部の動作の一例を示すフローチャートである。
図4図1に示す第2劣化判定部の動作の一例を示すフローチャートである。
図5図1に示す第3劣化判定部の動作の一例を示すフローチャートである。
図6】酸素濃度の人体への影響の一例を示す図である。
図7図1に示す点検装置のハードウェア構成の一例を示すフローチャートである。
図8】酸素濃度測定器のセンサ部のI-V特性を示す図である。
図9】センサ部の第1の劣化パターンについて説明するための図である。
図10】センサ部の第2の劣化パターンについて説明するための図である。
図11】センサ部の第3の劣化パターンについて説明するための図である。
図12】センサ部の第4の劣化パターンについて説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0021】
図1は、本開示の一実施形態に係る点検装置10の構成例を示す図である。本開示に係る点検装置10は、設置環境における酸素濃度を測定する、ジルコニア式の酸素濃度測定器20の点検により、酸素濃度測定器20が備えるセンサ部21の劣化パターンを判定するものである。センサ部21は、電極に挟まれたジルコニア素子を備え、電極への電圧の印加によりジルコニア素子に流れる電流をセンサ出力値として出力する。センサ部21の電極には、センサ出力値が酸素濃度に応じた一定の電流値である限界電流値となる最小電圧以上の電圧である監視電圧が印加される。酸素濃度測定器20は、感知器22をさらに備える。感知器22は、センサ部21により測定された酸素濃度が、予め定められた許容範囲から外れるとアラームを出力する。
【0022】
上述したように、センサ部21の劣化パターンには、4つのパターン(第1の劣化パターン~第4の劣化パターン)がある。第1の劣化パターンは、最小電圧が、高電圧側にシフトするパターンである。第2の劣化パターンは、所定の基準により許容可能な酸素濃度の範囲である許容範囲の上限よりも低い酸素濃度における限界電流値が、許容範囲の上限における電流限界値よりも高くなるパターンである。第3の劣化パターンは、酸素濃度に関わらず、電流限界値が、許容範囲の下限の酸素濃度における限界電流値よりも低くなるパターンである。第4の劣化パターンは、酸素濃度に関わらず、限界電流値が、許容範囲の下限の酸素濃度における限界電流値よりも低くなり、限界電流値の低下量が第3の劣化パターンよりも小さいパターンである。点検装置10は、センサ出力値を取得し、必要に応じて監視電圧を調整することで、上述した第1から第4の劣化パターンの劣化のいずれの劣化が発生しているかを判定する。
【0023】
点検装置10は、例えば、酸素濃度測定器20を遠隔で監視する監視センタに設けられる。酸素濃度測定器20は、図1においては記載を省略しているが、監視センタからの制御に従い、監視電圧を変更する機能、および、センサ部21からのセンサ出力値を監視センタに送信する機能を備える。監視センタには、点検装置10の他に、監視電圧の制御信号を酸素濃度測定器20に送信し、監視電圧を遠隔で制御する機能、酸素濃度測定器20から送信されたセンサ出力値を受信する機能、点検装置10による劣化パターンの判定結果を表示する機能などを備える。
【0024】
点検装置10は、酸素濃度測定器20側に設けられてもよい。この場合、点検装置10は、劣化パターンの判定結果を監視センタに送信し、監視センサ側でその判定結果を表示する。
【0025】
図1に示すように、点検装置10は、第1劣化判定部11と、第2劣化判定部12と、第3劣化判定部13とを備える。図1においては、点検装置10が備える機能の内、劣化パターンを判定する機能に関する構成のみを示しており、他の機能に関する構成については記載を省略している。
【0026】
第1劣化判定部11は、センサ出力値に対応する酸素濃度が許容範囲内に含まれる場合、監視電圧を所定値だけ低下させ、監視電圧の低下によるセンサ出力値の変化量がγ(第1の閾値)以上であれば、第1の劣化パターンの劣化が発生していると判定する。
【0027】
第2劣化判定部12は、センサ出力値に対応する酸素濃度が許容範囲の上限よりも大きい場合、第2の劣化パターンの劣化が発生していると判定する。
【0028】
第3劣化判定部13は、センサ出力値に対応する酸素濃度が許容範囲の下限よりも小さい場合、酸素濃度測定器20の周辺の換気によるセンサ出力値の変化量がδ(第2の閾値)よりも小さければ、第1の劣化パターン、第3の劣化パターンまたは第4の劣化パターンの劣化が発生していると判定する。なお、第3劣化判定部13による判定において、条件によっては、第1劣化判定部11による判定処理あるいは第2劣化判定部12による判定処理に戻ることがある。第1劣化判定部11、第2劣化判定部12および第3劣化判定部13による劣化パターンの判定の詳細は後述する。
【0029】
次に、本実施形態に係る点検装置10の動作について説明する。
【0030】
図2は、本実施形態に係る点検装置10の動作の一例を示すフローチャートであり、点検装置10による点検方法を説明するための図である。なお、以下では、センサ出力値をx1とし、センサ出力値x1に対応する酸素濃度をX1とする。また、以下では、許容範囲は、18%以上、25%以下であるとする。
【0031】
第1劣化判定部11は、18%≦X1≦25%である場合、すなわち、センサ出力値x1に対応する酸素濃度X1が許容範囲内に含まれる場合、第1の劣化パターンが発生しているか否かを判定する(ステップS100)。具体的には、第1劣化判定部11は、18%≦X1≦25%である場合、監視電圧を所定値だけ低下させ、監視電圧の低下によるセンサ出力値の変化量がγ(第1の閾値)以上であれば、第1の劣化パターンの劣化が発生していると判定する。第1劣化判定部11による判定の詳細は後述する。
【0032】
第2劣化判定部12は、25%<X1である場合、すなわち、センサ出力値x1に対応する酸素濃度X1が許容範囲の上限よりも大きい場合、第2の劣化パターンの劣化が発生しているか否かを判定する(ステップS200)。第2劣化判定部12による判定の詳細は後述する。
【0033】
第3劣化判定部13は、X1<18%である場合、すなわち、センサ出力値x1に対応する酸素濃度X1が許容範囲の下限よりも小さい場合、第1の劣化パターン、第3の劣化パターンまたは第4の劣化パターンの劣化が発生しているか否かを判定する(ステップS300)。第3劣化判定部13による判定の詳細は後述する。
【0034】
次に、第1劣化判定部11、第2劣化判定部12および第3劣化判定部13それぞれによる判定の詳細について説明する。まず、第1劣化判定部11による判定について説明する。
【0035】
図3は、第1劣化判定部11の動作の一例を示す図である。
【0036】
第1劣化判定部11は、センサ部21から出力されたセンサ出力値x1を取得する(ステップS101)。
【0037】
第1劣化判定部11は、センサ出力値x1に対応する酸素濃度X1が、18%≦X1≦25%を満たすか否かを判定する(ステップS102)。
【0038】
18%≦X1≦25%を満たさないと判定された場合(ステップS102:No)、第2劣化判定部12による判定が開始される(ステップS200)。
【0039】
18%≦X1≦25%を満たすと判定した場合(ステップS102:Yes)、第1劣化判定部11は、図9に示すように、監視電圧をαだけ減少させ、t秒間待機する(ステップS103)。t秒間待機後のセンサ出力値をYとする。ここで、αは、図9に示すように、第1の劣化パターンによる劣化が進行し、最小電圧がある程度、高電圧側にシフトした場合のセンサ部21のI-V特性と、酸素濃度の許容範囲の下限(図9に示す例では、18%)の酸素濃度におけるフラット域との交点が、監視電圧となるような値である。αをこのように設定することで、設置環境における酸素濃度が18%以上である場合、第1劣化判定部11は、第1の劣化パターンの劣化が発生しているか否かを判定することができる。また、t秒間待機することで、センサ出力値の揺らぎを抑え、定常状態におけるセンサ出力値Yを取得可能となる。
【0040】
t秒間待機後、第1劣化判定部11は、x1-Y<γを満たすか否かを判定する(ステップ104)。すなわち、第1劣化判定部11は、監視電圧の低下によるセンサ出力値の変化量がγ(第1の閾値)より小さいか否かを判定する。ここで、γは、任意に設定可能な値である。第1の劣化パターンの劣化が発生していた場合、センサ出力値x1よりも監視電圧の減少後のセンサ出力値Yの方が小さくなる。そのため、x1-Yの値は、劣化が進行しているほど大きくなり、x1-Y<γを満たさなくなる。一方、第1の劣化パターンの劣化が発生してない場合、理論上は、x1=Yとなるため、x1-Y<γを満たす。しかしながら、監視電圧をαだけ減少させた場合、第1の劣化パターンの劣化が発生していなくても、監視電圧の減少後のセンサ出力値Yが微小に揺れ、x1-Yが微小に大きくなることが問題として挙げられる。そこで、γを用いた不等式条件を設定することにより、揺らぎを許容する範囲を設定し、上述した問題に対処することが可能となる。
【0041】
また、図9の(1)の状態を想定すると、γの設定値によっては、設置環境の酸素濃度が18%である場合にはx1-Y<γを満たし、設置環境の酸素濃度が21%である場合にはx1-Y<γを満たさないという状況が生じ得る。この場合、設置環境の酸素濃度が18%である場合には、図9の(2)の状態までは達していないにも関わらず、第1の劣化パターンの劣化が発生していると判定されてしまう。そのため、γの値は、酸素濃度に応じて変える必要がある。具体的には、酸素濃度が大きいほどγを大きく、酸素濃度が小
さいほどγを小さくすることが好ましい。こうすることで、上述した問題に対処することが可能となる。
【0042】
x1-Y<γを満たさないと判定した場合、すなわち、x1-Y≧γであると判定した場合(ステップS104:No)、第1劣化判定部11は、監視電圧をA以下とし、t秒間待機する(ステップS105)。ここで、Aは、感知器22が確実にアラームを出力するような値(例えば、0.4V)とする。すなわち、第1劣化判定部11は、センサ出力値に対応する酸素濃度が、感知器22がアラームを出力する酸素濃度となるように、監視電圧を低下させる。感知器22が確実にアラームを出力する監視電圧を設定することで、疑似的にセンサ出力値をアラーム閾値まで低下させることができる。
【0043】
第1劣化判定部11は、感知器22がアラームを出力したか否かを判定する(ステップS106)。
【0044】
感知器22がアラームを出力していないと判定した場合(ステップS106:No)、第1劣化判定部11は、酸素濃度測定器20において回路異常が発生していると判定する(ステップS107)。感知器22が確実にアラームを出力するような監視電圧を設定した状態で、感知器22がアラームを出力するか否かを判定することで、酸素濃度測定器20における回路異常の有無を判定することができる。
【0045】
感知器22がアラームを出力したと判定した場合(ステップS106:Yes)、第1劣化判定部11は、監視電圧を初期値に戻し、t秒間待機する(ステップS108)。その後、第1劣化判定部11は、センサ部21に第1の劣化パターンの劣化が発生していると判定し(ステップS109)、判定結果を監視センタに設けられた表示部に表示するなどして出力する。このように、第1劣化判定部11は、監視電圧の低下によるセンサ出力値の変化量がγ(第1の閾値)以上である場合(x1-Y≧γ)、センサ出力値に対応する酸素濃度が、感知器22がアラームを出力する酸素濃度となるように監視電圧を低下させる。そして、第1劣化判定部11は、監視電圧の低下により感知器22がアラームを出力した場合、第1の劣化パターンの劣化が発生していると判定する。また、第1劣化判定部11は、感知器22がアラームを出力しない場合、酸素濃度測定器20において回路異常が生じていると判定する。感知器22がアラームを出力した場合、酸素濃度測定器20において回路異常が生じている可能性を排除することができ、第1の劣化パターンの劣化の発生を、より正確に判定することができる。
【0046】
x1-Y<γを満たすと判定した場合(ステップS104:Yes)、第1劣化判定部11は、監視電圧をA以下とし、t秒間待機する(ステップS110)。
【0047】
第1劣化判定部11は、感知器22がアラームを出力したか否かを判定する(ステップS111)。
【0048】
感知器22がアラームを出力していないと判定した場合(ステップS111:No)、第1劣化判定部11は、ステップS107の処理に進む。
【0049】
感知器22がアラームを出力したと判定した場合(ステップS111:Yes)、第1劣化判定部11は、監視電圧を初期値に戻し、t秒間待機する(ステップS112)。その後、第1劣化判定部11は、第1の劣化パターンの劣化は発生しておらず、センサ部21は正常であると判定する(ステップS113)。
【0050】
ステップS107,ステップS109またはステップS113の処理の後、第1劣化判定部11は、劣化判定を終了する(ステップS114)。
【0051】
次に、第2劣化判定部12の動作について説明する。
【0052】
図4は、第2劣化判定部12の動作の一例を示すフローチャートである。
【0053】
第2劣化判定部12は、センサ部21から出力されたセンサ出力値x1を取得する(ステップS201)。
【0054】
第2劣化判定部12は、センサ出力値x1に対応する酸素濃度X1がX1>25%を満たすか否かを判定する(ステップS202)。
【0055】
X1>25%を満たさないと判定された場合(ステップS202:No)、第3劣化判定部13による判定が開始される(ステップS300)。なお、本実施形態においては、許容範囲の上限を25%としているが、これに限られるものではない。通常、酸素濃度が21%よりも高くなることは考えにくい。そのため、許容範囲の上限は、設置環境の酸素濃度が21%よりも高くなっていることを検出することが可能であれば、任意の値であってよい。
【0056】
X1>25%を満たすと判定した場合(ステップS202:Yes)、第2劣化判定部12は、監視電圧をA以下とし、t秒間待機する(ステップS203)。すなわち、第2劣化判定部12は、センサ出力値に対応する酸素濃度が、感知器22がアラームを出力する酸素濃度となるように、監視電圧を低下させる。
【0057】
第2劣化判定部12は、感知器22がアラームを出力したか否かを判定する(ステップS204)。
【0058】
感知器22がアラームを出力していないと判定した場合(ステップS204:No)、第2劣化判定部12は、酸素濃度測定器20において回路異常が発生していると判定する(ステップS205)。
【0059】
感知器22がアラームを出力したと判定した場合(ステップS204:Yes)、第2劣化判定部12は、監視電圧を初期値に戻し、t秒間待機する(ステップS206)。その後、第2劣化判定部12は、センサ部21に第2の劣化パターンの劣化が発生していると判定し(ステップS207)、判定結果を監視センタに設けられた表示部に表示するなどして出力する。X1>25%を満たす場合、センサ部21のV-I特性が図10に示すような特性になっていると考えられる。また、監視電圧をAに設定し、感知器22がアラームを出力したことで、酸素濃度測定器20において回路異常が発生していないと判定することができる。したがって、第2劣化判定部12は、第2の劣化パターンの劣化が発生していると判定することができる。
【0060】
ステップS205またはステップS207の処理の後、第2劣化判定部12は、劣化判定を終了する(ステップS208)。
【0061】
次に、第3劣化判定部13の動作について説明する。
【0062】
図5は、第3劣化判定部13の動作の一例を示すフローチャートである。
【0063】
第3劣化判定部13は、センサ部21から出力されたセンサ出力値x1を取得する。また、第3劣化判定部13は、変数n=0と設定する(ステップS301)。
【0064】
第3劣化判定部13は、X1<18%であり、設置環境における酸素濃度が低いため、設置環境に設けられた換気設備を作動させる。第3劣化判定部13は、換気開始後、m分後のセンサ出力値x2を取得する(ステップS302)。mは、設置環境の酸素濃度が換気によって改善されるまでの時間であり、酸素濃度測定器20の設置場所によって異なるため、設置場所に応じて柔軟に設定すればよい。また、本実施形態では、換気手段として、換気設備を用いる例を示しているが、これに限られるものではなく、設置環境における酸素濃度を改善することができ、監視センタから遠隔操作可能であれば、任意の換気手段を用いることができる。
【0065】
第3劣化判定部13は、センサ出力値x2に対応する酸素濃度X2が18%≦X2≦25%を満たすか否かを判定する(ステップS303)。
【0066】
18%≦X2≦25%を満たすと判定された場合(ステップS303:Yes)、第1劣化判定部11による判定が開始される(ステップS100)。
【0067】
18%≦X2≦25%を満たさないと判定した場合(ステップS303:No)、第3劣化判定部13は、X2<18%を満たすか否かを判定する(ステップS304)。
【0068】
X2<18%を満たさないと判定された場合(ステップS304:No)、X2>25%であるので、第2劣化判定部12による判定が開始される(ステップS200)。
【0069】
X2<18%を満たすと判定した場合(ステップS304:Yes)、第3劣化判定部13は、換気後のセンサ出力値x2とセンサ出力値x1との差がδ(第2の閾値)よりも小さい(x2-x1<δ)か否かを判定する(ステップS305)。
【0070】
x2-x1<δを満たさないと判定した場合(ステップS305:No)、第3劣化判定部13は、変数nに1を加算(n=n+1)し(ステップS306)、n>N(Nは所定の定数)を満たすか否かを判定する(ステップS307)。
【0071】
n>Nを満たさないと判定した場合(ステップS307:No)、第3劣化判定部13は、ステップS302の処理に戻る。換気後のセンサ出力値x2とセンサ出力値x1との差がδ以上である場合、ある程度換気が行われたものの、まだ十分ではない可能性がある。そのため、第3劣化判定部13は、x2-x1<δが満たされるまで、最大でN回、換気を繰り返す。
【0072】
x2-x1<δを満たすと判定した場合(ステップS305:Yes)、あるいは、n>Nを満たすと判定した場合(ステップS307:Yes)、第3劣化判定部13は、監視電圧をαだけ減少させ、t秒間待機する(ステップS308)。t秒間待機後のセンサ出力値をYとする。
【0073】
次に、第3劣化判定部13は、x2-Y<γを満たすか否かを判定する(ステップ309)。すなわち、第3劣化判定部13は、監視電圧の低下によるセンサ出力値の変化量がγ(第1の閾値)より小さいか否かを判定する。
【0074】
x2-Y<γを満たすと判定した場合(ステップS309:Yes)、第3劣化判定部13は、第1の劣化パターンの劣化は発生していないと判定する。そして、第3劣化判定部13は、第3の劣化パターンの劣化および第4の劣化パターンの劣化のいずれが発生しているかを判定する。そのために、第3劣化判定部13は、換気後のセンサ出力値x2がx2<βを満たすか否かを判定する(ステップS310)。上述したように、第3の劣化パターンは、第4の劣化パターンよりも、限界電流値の低下量が大きい。βは、第3の劣
化パターンの劣化と、第4の劣化パターンの劣化とを区別することが可能な値、例えば、1%が設定される。
【0075】
x2<βを満たすと判定した場合(ステップS310:Yes)、第3劣化判定部13は、第3の劣化パターンの劣化が判定していると判定し(ステップS311)、判定結果を監視センタに設けられた表示部に表示するなどして出力する。
【0076】
x2<βを満たさないと判定した場合(ステップS310:No)、第3劣化判定部13は、第4の劣化パターンの劣化が判定していると判定し(ステップS312)、判定結果を監視センタに設けられた表示部に表示するなどして出力する。
【0077】
x2-Y<γを満たさないと判定した場合(ステップS309:No)、第3劣化判定部13は、監視電圧を初期値に戻し、t秒間待機する(ステップS313)。その後、第3劣化判定部13は、センサ部21に第1の劣化パターンの劣化が発生していると判定し(ステップS314)、判定結果を監視センタに設けられた表示部に表示するなどして出力する。
【0078】
このように、第3劣化判定部13は、換気によるセンサ出力値の変化量がδ(第2の閾値)よりも小さい場合、監視電圧をαだけ低下させる。第3劣化判定部13は、監視電圧の低下によるセンサ出力値の変化量がγ(第1の閾値)以上であれば、第1の劣化パターンの劣化が発生していると判定する。第3劣化判定部13は、監視電圧の低下によるセンサ出力値の変化量がγより小さい場合、換気後のセンサ出力値x2がβ(第3の閾値)より小さければ、第3の劣化パターンの劣化が発生していると判定する。また、第3劣化判定部13は、換気後のセンサ出力値x2がβ以上であれば、第4の劣化パターンの劣化が発生していると判定する。
【0079】
ステップS311,ステップS312またはステップS314の処理の後、第3劣化判定部13は、劣化判定を終了する(ステップS315)。
【0080】
なお、実運用を考慮した場合、N回換気を行った際にX2<18%を満たす場合、換気設備が十分でないか、あるいは、センサ部21に劣化が発生しているかのいずれかであると考えられる。そのため、換気設備により設置環境の酸素濃度を十分に改善可能であることが事前に確認できている場合、センサ部21に劣化が発生していると判定し、ステップS308以降の処理を省略してよい。
【0081】
また、上述した例では、β=1%である例を用いて説明したが、これに限られるものではなく、第3の劣化パターンと第4の劣化パターンとを区別することができれば、βは任意の値であってよい。ただし、β=1%である場合、実際の酸素濃度が1%以下になっていることも考えられるが、本願発明者らが実際のとう道内で確認した結果、酸素濃度が1%以下となる事例はなかった。また、図6に示すように、酸素濃度が6%以下になると、人間は死亡する可能性が高くなる。そのため、人間が作業を行う場所においては、酸素濃度が6%を下回ることがないように換気などが行われることが多いと考えられる。そのため、実環境において、酸素濃度が1%以下となる可能性は低いと考えられる。したがって、βとして1%程度の値を設定することで、安全性を損なうことなく、図11に示す第3の劣化パターンと、図12に示す第4の劣化パターンとを区別することができる。
【0082】
このように本実施形態に係る点検装置10は、第1劣化判定部11と、第2劣化判定部12と、第3劣化判定部13とを備える。第1劣化判定部11は、センサ出力値に対応する酸素濃度が、許容範囲内に含まれる場合、監視電圧を所定値だけ低下させ、監視電圧の低下によるセンサ出力値の変化量がγ(第1の閾値)以上であれば、第1の劣化パターン
の劣化が発生していると判定する。第2劣化判定部12は、センサ出力値に対応する酸素濃度が許容範囲の上限よりも大きい場合、第2の劣化パターンの劣化が発生していると判定する。第3劣化判定部13は、センサ出力値に対応する酸素濃度が許容範囲の下限よりも小さい場合、酸素濃度測定器20の周辺の換気によるセンサ出力値の変化量がδ(第2の閾値)よりも小さければ、第1の劣化パターン、第3の劣化パターンまたは第4の劣化パターンの劣化が発生していると判定する。
【0083】
センサ出力値の範囲に応じて自動でセンサ部21の劣化パターンを判定することができるので、より簡易に、酸素濃度測定器20のセンサ部21の劣化パターンを判定することができる。
【0084】
図7は、本開示の一実施形態に係る点検装置10のハードウェア構成の一例を示す図である。図7においては、点検装置10がプログラム命令を実行可能なコンピュータにより構成される場合の、点検装置10のハードウェア構成の一例を示している。ここで、コンピュータは、汎用コンピュータ、専用コンピュータ、ワークステーション、PC(Personal Computer)、電子ノートパッドなどであってもよい。プログラム命令は、必要なタスクを実行するためのプログラムコード、コードセグメントなどであってもよい。
【0085】
図7に示すように、点検装置10は、プロセッサ110、ROM(Read Only Memory)120、RAM(Random Access Memory)130、ストレージ140、入力部150、表示部160および通信インタフェース(I/F)170を有する。各構成は、バス190を介して相互に通信可能に接続されている。プロセッサ110は、具体的にはCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、SoC(System on a Chip)などであり、同種または異種の複数のプロセッサにより構成されてもよい。
【0086】
プロセッサ110は、各構成の制御および各種の演算処理を実行するコントローラである。すなわち、プロセッサ110は、ROM120またはストレージ140からプログラムを読み出し、RAM130を作業領域としてプログラムを実行する。プロセッサ110は、ROM120あるいはストレージ140に記憶されているプログラムに従って、上述した点検装置10の各構成の制御および各種の演算処理を行う。本実施形態では、ROM120またはストレージ140には、コンピュータを本開示に係る点検装置10として機能させるためのプログラムが格納されている。当該プログラムがプロセッサ110により読み出されて実行されることで、点検装置10の各構成、すなわち、第1劣化判定部11、第2劣化判定部12および第3劣化判定部13が実現される。
【0087】
プログラムは、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)、USB(Universal Serial Bus)メモリなどの非一時的(non-transitory)記憶媒体に記憶された形態で提供されてもよい。また、プログラムは、ネットワークを介して外部装置からダウンロードされる形態としてもよい。
【0088】
ROM120は、各種プログラムおよび各種データを格納する。RAM130は、作業領域として一時的にプログラムまたはデータを記憶する。ストレージ140は、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラムおよび各種データを格納する。
【0089】
入力部150は、マウスなどのポインティングデバイス、およびキーボードを含み、各種の入力を行うために使用される。
【0090】
表示部160は、例えば、液晶ディスプレイであり、各種の情報を表示する。表示部160は、タッチパネル方式を採用して、入力部150として機能してもよい。
【0091】
通信インタフェース170は、他の装置(例えば、酸素濃度測定器20)などと通信するためのインタフェースであり、例えば、イーサネット(登録商標)、FDDI、Wi-Fi(登録商標)などの規格が用いられる。
【0092】
上述した点検装置10の各部として機能させるためにコンピュータを好適に用いることが可能である。そのようなコンピュータは、点検装置10の各部の機能を実現する処理内容を記述したプログラムを該コンピュータの記憶部に格納しておき、該コンピュータのプロセッサ110によってこのプログラムを読み出して実行させることで実現することができる。すなわち、当該プログラムは、コンピュータを、上述した点検装置10として機能させることができる。また、当該プログラムを非一時的記録媒体に記録することも可能である。また、当該プログラムを、ネットワークを介して提供することも可能である。
【0093】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本開示の趣旨および範囲内で、多くの変更および置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形または変更が可能である。例えば、実施形態の構成図に記載の複数の構成ブロックを1つに組み合わせたり、あるいは1つの構成ブロックを分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0094】
10 点検装置
11 第1劣化判定部
12 第2劣化判定部
13 第3劣化判定部
20 酸素濃度測定器
21 センサ部
22 感知器
110 プロセッサ
120 ROM
130 RAM
140 ストレージ
150 入力部
160 表示部
170 通信I/F
190 パス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12