(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023059700
(43)【公開日】2023-04-27
(54)【発明の名称】呼吸数測定装置、呼吸数測定システム、呼吸数測定プログラム及び呼吸数測定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/08 20060101AFI20230420BHJP
G01S 13/34 20060101ALI20230420BHJP
A61B 5/113 20060101ALI20230420BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20230420BHJP
【FI】
A61B5/08
G01S13/34
A61B5/113
A61B5/11 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021169855
(22)【出願日】2021-10-15
(71)【出願人】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】及川 和夫
(72)【発明者】
【氏名】城本 一馬
【テーマコード(参考)】
4C038
5J070
【Fターム(参考)】
4C038SS08
4C038SV01
4C038SX07
5J070AB17
5J070AC02
5J070AE09
5J070AE10
5J070AH35
5J070AK22
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本開示は、レーダを用いて非接触で人間又は動物の呼吸数を測定するにあたり、誤検出をなくし高精度化を図ったうえで、人間又は動物の睡眠状態(安眠、安静、荒い呼吸又は呼吸停止)を高精度に判定するとともに、人間又は動物の活動状態(不在、存在、活動又は非活動)を判定することを目的とする。
【解決手段】本開示は、異なる送受信周期のビート信号間の差分信号について、周波数スペクトルの所定積算期間内の周波数積算スペクトルを算出し、周波数積算スペクトルのピーク強度の時間変化が、1回分の呼吸周期において2個分のピークに分裂しないようにする。そして、複数の送受信周期のビート信号から、掃引周波数のうちの複数の離散周波数を有する送信信号に対する複数の時系列データを抽出し、複数の時系列データのうちの最大振幅を有する時系列データを選択する。すると、上記課題を解決することができる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FMCWレーダを用いて測定対象の呼吸数を測定する呼吸数測定装置であって、
前記FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得部と、
異なる送受信周期の前記ビート信号間の差分信号を算出する差分信号算出部と、
前記差分信号の周波数スペクトルを算出する周波数スペクトル算出部と、
前記周波数スペクトルの所定積算期間内の周波数積算スペクトルを算出することにより、前記周波数積算スペクトルのピーク強度の時間変化が、1回分の呼吸周期において2個分のピークに分裂しないようにする周波数積算スペクトル算出部と、
前記周波数積算スペクトルのピーク強度に基づいて測定した物標活動量が、所定活動量閾値と比べて小さいときに、又は、前記周波数積算スペクトルのピーク周波数に基づいて測定した物標距離が、所定距離閾値と比べて大きいときに、前記測定対象が前記FMCWレーダの照射範囲に不在であることを判定する不在判定部と、
を備えることを特徴とする呼吸数測定装置。
【請求項2】
前記測定対象が前記FMCWレーダの照射範囲に存在することが判定されたうえで、
前記周波数積算スペクトルのピーク周波数に基づいて測定した所定活動判定期間内の物標距離について、最大値と最小値との間の差分である距離偏差が、所定距離偏差閾値と比べて大きいときに、前記測定対象が活動していることを判定する活動判定部、
をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の呼吸数測定装置。
【請求項3】
前記測定対象が前記FMCWレーダの照射範囲に存在することが判定されるとともに、前記測定対象が活動していないことが判定されたうえで、
複数の送受信周期の前記ビート信号から、掃引周波数のうちの複数の離散周波数を有する送信信号に対する複数の時系列データを抽出する時系列データ抽出部と、
複数の前記時系列データのうちの最大振幅を有する前記時系列データの変動周期に基づいて、前記測定対象の呼吸数を測定する呼吸数測定部と、
複数の前記時系列データのうちの最大振幅を有する前記時系列データの変動周期の標準偏差に基づいて、前記測定対象の呼吸数の信頼度を判定する呼吸数信頼度判定部と、
所定安眠判定期間内の前記測定対象の呼吸数の信頼度について、所定信頼度閾値と比べて高い期間比率が、所定期間比率閾値と比べて大きい/小さいときに、前記測定対象が安眠している/安静していることを判定する安眠判定部と、
をさらに備えることを特徴とする、請求項2に記載の呼吸数測定装置。
【請求項4】
前記所定安眠判定期間内の前記測定対象の呼吸数の信頼度について、前記所定信頼度閾値と比べて高い期間比率が、前記所定期間比率閾値と比べて大きいものの、前記所定安眠判定期間内の前記測定対象の呼吸数について、前記所定信頼度閾値と比べて高い信頼度を有する呼吸数の平均値が、所定呼吸数閾値と比べて大きいときに、前記測定対象の安眠を判定せず、前記測定対象の呼吸数のアラームを発報するアラーム発報部、
をさらに備えることを特徴とする、請求項3に記載の呼吸数測定装置。
【請求項5】
前記測定対象が前記FMCWレーダの照射範囲に存在することが判定されるとともに、前記測定対象が活動していないことが判定されたうえで、
前記周波数積算スペクトルのピーク強度に基づいて測定した物標活動量について、想定呼吸停止期間と比べて長期間内のメディアン値から、前記想定呼吸停止期間と比べて短期間内のメディアン値、又は、一時刻での瞬間値を減算した減算値が、所定減算値閾値と比べて大きいときに、前記測定対象が呼吸停止していることを判定する呼吸停止判定部、
をさらに備えることを特徴とする、請求項2から4の何れかに記載の呼吸数測定装置。
【請求項6】
前記呼吸停止判定部は、前記周波数積算スペクトルのピーク強度に基づいて測定した物標活動量について、前記長期間内のメディアン値から、前記長期間内の時間中心と同一の時間中心を有する前記短期間内のメディアン値、又は、前記長期間内の時間中心と同一の時刻である前記一時刻での瞬間値を減算した前記減算値が、前記所定減算値閾値と比べて大きいときに、前記測定対象が呼吸停止していることを判定する
ことを特徴とする、請求項5に記載の呼吸数測定装置。
【請求項7】
前記呼吸停止判定部は、前記想定呼吸停止期間を時間軸上で移動させながら、前記想定呼吸停止期間内の前記減算値の最大値を抽出したうえで、前記想定呼吸停止期間内の前記減算値の最大値が前記所定減算値閾値と比べて大きくなり始めた時刻から小さくなり始めた時刻までを、前記測定対象の1回の連続する呼吸停止期間として判定する
ことを特徴とする、請求項5又は6に記載の呼吸数測定装置。
【請求項8】
請求項1から7の何れかに記載の呼吸数測定装置と、前記FMCWレーダのレーダ送受信装置と、を備えることを特徴とする呼吸数測定システム。
【請求項9】
請求項1から7の何れかに記載の呼吸数測定装置が備える各処理部が行なう各処理ステップをコンピュータに実行させるための呼吸数測定プログラム。
【請求項10】
請求項1から7の何れかに記載の呼吸数測定装置が備える各処理部が行なう各処理ステップを実行することを特徴とする呼吸数測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーダを用いて非接触で人間又は動物の呼吸数を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダを用いて非接触で人間又は動物の呼吸数を測定することにより、人間又は動物の睡眠時の無呼吸症候群等を監視することができる(例えば、特許文献1~5等を参照。)。
【0003】
従来技術の第1の呼吸数測定を
図1に示す。
図1では、ドップラレーダの送受信信号間のドップラ信号(I成分及びQ成分)を取得する。そして、ドップラ信号(I成分及びQ成分)の周期に基づいて、人間又は動物の呼吸数[回/min]=60/周期[sec]を測定する。しかし、ドップラ信号(I成分及びQ成分)は、距離の情報を含まないため、ベッド又は壁面等の振動を人間又は動物の呼吸に誤検知することがある。
【0004】
従来技術の第2の呼吸数測定を
図2に示す。
図2では、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得する。そして、異なる送受信周期のビート信号間の差分信号を算出する。すると、差分信号は、呼吸する人間又は動物については有限振幅を有するが、静止するベッド又は壁面等についてはほぼ振幅を有さない。そして、差分信号の周波数スペクトルを算出する。さらに、周波数スペクトルのピーク位相又はピーク強度の時間変化の周期に基づいて、人間又は動物の呼吸数[回/min]=60/周期[sec]を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-210137号公報
【特許文献2】特開2017-134040号公報
【特許文献3】特開2018-094225号公報
【特許文献4】特開2019-152441号公報
【特許文献5】特表2018-003751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、人間又は動物の睡眠時の呼吸には、以下の特徴がある。第1の特徴として、睡眠が深くなるにつれて、呼吸数は低くなるが、気温又は体温が高いときは、呼吸数は高くなる。第2の特徴として、呼吸数が低いときは、体表の変位は、正弦波状に時間変化せず、パルス状に時間変化する(例えば、後述の
図4等を参照。)。第3の特徴として、被検体の大きさによるが、体表の変位は、数mm程度であり短距離である。第4の特徴として、睡眠が深いときは、被検体の位置は、あまり変わらず同位置に留まる。
【0007】
第1の呼吸数測定の解決課題を
図3に示す。
図1では、体表の変位が、送信信号の波長の半分以上にわたるため、ドップラ信号(I成分及びQ成分)は、位相範囲が360°以上にわたり、振幅が大きくなる。
図3では、人間又は動物の睡眠時の呼吸の第3の特徴として説明したように、体表の変位が、送信信号の波長の半分程度又は半分以下でしかないため、ドップラ信号(I成分及びQ成分)は、
図1と異なり得られない。
【0008】
図3の上段では、I成分信号は、人間又は動物の距離に応じて、初期位相が90°であり、位相範囲が90°を中心とする狭い範囲でしかないため、振幅が小さくなるうえに、信号周期が本来の呼吸周期の半分となる。Q成分信号は、人間又は動物の距離に応じて、初期位相が0°であり、位相範囲が0°を中心とする狭い範囲でしかないものの、振幅が大きくなるうえに、信号周期が本来の呼吸周期を維持する。よって、人間又は動物の睡眠時の呼吸の第4の特徴として説明したように、被検体の位置があまり変わらず同位置に留まるときには、被検体の呼吸数を高精度に測定することができないことがある。
【0009】
図3の中段では、I成分信号は、人間又は動物の距離に応じて、初期位相が45°であり、位相範囲が45°を中心とする狭い範囲でしかないため、信号周期が本来の呼吸周期を維持するものの、振幅が中程度になる。Q成分信号は、人間又は動物の距離に応じて、初期位相が-45°であり、位相範囲が-45°を中心とする狭い範囲でしかないため、信号周期が本来の呼吸周期を維持するものの、振幅が中程度になる。とはいえ、上記の第4の特徴として説明したように、被検体の位置があまり変わらず同位置に留まるときでも、被検体の呼吸数をある程度は高精度に測定することができる。
【0010】
図3の下段では、I成分信号は、人間又は動物の距離に応じて、初期位相が-45°であり、位相範囲が-45°を中心とする狭い範囲でしかないため、信号周期が本来の呼吸周期を維持するものの、振幅が中程度になる。Q成分信号は、人間又は動物の距離に応じて、初期位相が-135°であり、位相範囲が-135°を中心とする狭い範囲でしかないため、信号周期が本来の呼吸周期を維持するものの、振幅が中程度になる。とはいえ、上記の第4の特徴として説明したように、被検体の位置があまり変わらず同位置に留まるときでも、被検体の呼吸数をある程度は高精度に測定することができる。
【0011】
第2の呼吸数測定の解決課題を
図4に示す。
図3では、I成分信号又はQ成分信号は、速度に比例する周波数を有するにすぎず、ヌル信号となることがある。
図2では、ビート信号又は差分信号は、距離に比例する周波数を有するため、ヌル信号となることがない。しかし、周波数スペクトルのピーク周波数に基づいて、人間又は動物の呼吸数を測定するときには、周波数帯域の制限により、距離測定の精度が低く、呼吸数測定の精度が低い。そして、周波数スペクトルのピーク位相の時間変化の周期に基づいて、人間又は動物の呼吸数を測定するときには、位相範囲が360°以上にわたり、位相変化の連続性が失われると、体表の変位の急激な変化に対応不能である。そこで、周波数スペクトルのピーク強度の時間変化の周期に基づいて、人間又は動物の呼吸数を測定するところ、人間又は動物の睡眠時の呼吸の第2の特徴として説明したように、呼吸数が低いときは、体表の変位は、正弦波状に時間変化せず、パルス状に時間変化することが問題となる。
【0012】
つまり、
図4の上段に示したように、体表の変位が、急激に変化するときには(例えば、胸又は腹が膨れる又はしぼむとき。)、差分信号は、振幅が大きくなる。すると、
図4の下段に示したように、周波数スペクトルのピーク強度は、大きくなる。一方で、
図4の上段に示したように、体表の変位が、ほとんど変化しないときには(例えば、胸又は腹が膨れ切った又はしぼみ切ったとき。)、差分信号は、振幅が小さくなる。すると、
図4の下段に示したように、周波数スペクトルのピーク強度は、小さくなる。よって、
図4の下段に示したように、周波数スペクトルのピーク強度の時間変化が、本来の呼吸周期の1回分において、2個分の山に分裂するため、人間又は動物の呼吸数は、本来の呼吸数の約2倍に誤検知されてしまい、高精度に測定することができなかった。
【0013】
このように、レーダを用いて非接触で人間又は動物の呼吸数を測定するにあたり、誤検出をなくし高精度化を図ることができなかった。よって、人間又は動物の睡眠状態(安眠、安静、荒い呼吸又は呼吸停止)を高精度に判定することができなかった。そもそも、人間又は動物の活動状態(不在、存在、活動又は非活動)を判定していなかった。
【0014】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、レーダを用いて非接触で人間又は動物の呼吸数を測定するにあたり、誤検出をなくし高精度化を図ったうえで、人間又は動物の睡眠状態(安眠、安静、荒い呼吸又は呼吸停止)を高精度に判定するとともに、人間又は動物の活動状態(不在、存在、活動又は非活動)を判定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するために、異なる送受信周期のビート信号間の差分信号について、周波数スペクトルの所定積算期間内の周波数積算スペクトルを算出し、周波数積算スペクトルのピーク強度の時間変化が、1回分の呼吸周期において2個分のピークに分裂しないようにする。そして、複数の送受信周期のビート信号から、掃引周波数のうちの複数の離散周波数を有する送信信号に対する複数の時系列データを抽出し、複数の時系列データのうちの最大振幅を有する時系列データを選択する。すると、以下のように、所定積算期間内の周波数積算スペクトル又は最大振幅を有する時系列データに基づいて、人間又は動物の睡眠状態(安眠、安静、荒い呼吸又は呼吸停止)を高精度に判定するとともに、人間又は動物の活動状態(不在、存在、活動又は非活動)を判定することができる。
【0016】
具体的には、本開示は、FMCWレーダを用いて測定対象の呼吸数を測定する呼吸数測定装置であって、前記FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得部と、異なる送受信周期の前記ビート信号間の差分信号を算出する差分信号算出部と、前記差分信号の周波数スペクトルを算出する周波数スペクトル算出部と、前記周波数スペクトルの所定積算期間内の周波数積算スペクトルを算出することにより、前記周波数積算スペクトルのピーク強度の時間変化が、1回分の呼吸周期において2個分のピークに分裂しないようにする周波数積算スペクトル算出部と、前記周波数積算スペクトルのピーク強度に基づいて測定した物標活動量が、所定活動量閾値と比べて小さいときに、又は、前記周波数積算スペクトルのピーク周波数に基づいて測定した物標距離が、所定距離閾値と比べて大きいときに、前記測定対象が前記FMCWレーダの照射範囲に不在であることを判定する不在判定部と、を備えることを特徴とする呼吸数測定装置である。
【0017】
この構成によれば、体表の変位がほとんど変化しないときでも(例えば、胸又は腹が膨れ切ったとき。)、差分信号の振幅は小さくなるものの、周波数積算スペクトルのピーク強度は大きくなる。よって、体表の変位が正弦波状に時間変化せずパルス状に時間変化するときでも、人間又は動物の活動量及び距離を誤検知なく高精度に測定することができる。そして、所定積算期間内の周波数積算スペクトルに基づいて、人間又は動物の活動状態(FMCWレーダの照射範囲に不在又は存在)を判定することができる。
【0018】
また、本開示は、前記測定対象が前記FMCWレーダの照射範囲に存在することが判定されたうえで、前記周波数積算スペクトルのピーク周波数に基づいて測定した所定活動判定期間内の物標距離について、最大値と最小値との間の差分である距離偏差が、所定距離偏差閾値と比べて大きいときに、前記測定対象が活動していることを判定する活動判定部、をさらに備えることを特徴とする呼吸数測定装置である。
【0019】
この構成によれば、所定積算期間内の周波数積算スペクトルに基づいて、人間又は動物の活動状態(寝返り等がある活動又は寝返り等がない非活動)を判定することができる。
【0020】
また、本開示は、前記測定対象が前記FMCWレーダの照射範囲に存在することが判定されるとともに、前記測定対象が活動していないことが判定されたうえで、複数の送受信周期の前記ビート信号から、掃引周波数のうちの複数の離散周波数を有する送信信号に対する複数の時系列データを抽出する時系列データ抽出部と、複数の前記時系列データのうちの最大振幅を有する前記時系列データの変動周期に基づいて、前記測定対象の呼吸数を測定する呼吸数測定部と、複数の前記時系列データのうちの最大振幅を有する前記時系列データの変動周期の標準偏差に基づいて、前記測定対象の呼吸数の信頼度を判定する呼吸数信頼度判定部と、所定安眠判定期間内の前記測定対象の呼吸数の信頼度について、所定信頼度閾値と比べて高い期間比率が、所定期間比率閾値と比べて大きい/小さいときに、前記測定対象が安眠している/安静していることを判定する安眠判定部と、をさらに備えることを特徴とする呼吸数測定装置である。
【0021】
この構成によれば、体表の変位が送信信号の波長の半分程度又は半分以下でしかないときでも、そして、人間又は動物の位置があまり変わらず同位置に留まるときでも、人間又は動物の呼吸数を誤検知なく高精度に測定することができる。そして、最大振幅を有する時系列データが距離の情報を含まないためベッド又は壁面等のノイズを含みやすいときでも、人間又は動物の呼吸数の信頼度を誤検知なく高精度に判定することができる。よって、最大振幅を有する時系列データに基づいて、人間又は動物の睡眠状態(けいれん等がない安眠又はけいれん等がある安静)を高精度に判定することができる。
【0022】
また、本開示は、前記所定安眠判定期間内の前記測定対象の呼吸数の信頼度について、前記所定信頼度閾値と比べて高い期間比率が、前記所定期間比率閾値と比べて大きいものの、前記所定安眠判定期間内の前記測定対象の呼吸数について、前記所定信頼度閾値と比べて高い信頼度を有する呼吸数の平均値が、所定呼吸数閾値と比べて大きいときに、前記測定対象の安眠を判定せず、前記測定対象の呼吸数のアラームを発報するアラーム発報部、をさらに備えることを特徴とする呼吸数測定装置である。
【0023】
この構成によれば、最大振幅を有する時系列データに基づいて、人間又は動物の睡眠状態(荒い呼吸又は落ち着いた呼吸)を高精度に判定することができる。
【0024】
また、本開示は、前記測定対象が前記FMCWレーダの照射範囲に存在することが判定されるとともに、前記測定対象が活動していないことが判定されたうえで、前記周波数積算スペクトルのピーク強度に基づいて測定した物標活動量について、想定呼吸停止期間と比べて長期間内のメディアン値から、前記想定呼吸停止期間と比べて短期間内のメディアン値、又は、一時刻での瞬間値を減算した減算値が、所定減算値閾値と比べて大きいときに、前記測定対象が呼吸停止していることを判定する呼吸停止判定部、をさらに備えることを特徴とする呼吸数測定装置である。
【0025】
この構成によれば、所定積算期間内の周波数積算スペクトルに基づいて、人間又は動物の睡眠状態(呼吸停止又は呼吸非停止)を高精度に判定することができる。
【0026】
また、本開示は、前記呼吸停止判定部は、前記周波数積算スペクトルのピーク強度に基づいて測定した物標活動量について、前記長期間内のメディアン値から、前記長期間内の時間中心と同一の時間中心を有する前記短期間内のメディアン値、又は、前記長期間内の時間中心と同一の時刻である前記一時刻での瞬間値を減算した前記減算値が、前記所定減算値閾値と比べて大きいときに、前記測定対象が呼吸停止していることを判定することを特徴とする呼吸数測定装置である。
【0027】
この構成によれば、所定積算期間内の周波数積算スペクトルに基づいて、人間又は動物の睡眠状態として呼吸停止を誤って判定してしまうことを防止することができる。
【0028】
また、本開示は、前記呼吸停止判定部は、前記想定呼吸停止期間を時間軸上で移動させながら、前記想定呼吸停止期間内の前記減算値の最大値を抽出したうえで、前記想定呼吸停止期間内の前記減算値の最大値が前記所定減算値閾値と比べて大きくなり始めた時刻から小さくなり始めた時刻までを、前記測定対象の1回の連続する呼吸停止期間として判定することを特徴とする呼吸数測定装置である。
【0029】
この構成によれば、所定積算期間内の周波数積算スペクトルに基づいて、人間又は動物の睡眠状態(1回の連続する呼吸停止)を高精度に判定することができる。
【0030】
また、本開示は、以上に記載の呼吸数測定装置と、前記FMCWレーダのレーダ送受信装置と、を備えることを特徴とする呼吸数測定システムである。
【0031】
この構成によれば、以上に記載の効果を有するシステムを提供することができる。
【0032】
また、本開示は、以上に記載の呼吸数測定装置が備える各処理部が行なう各処理ステップをコンピュータに実行させるための呼吸数測定プログラムである。
【0033】
この構成によれば、以上に記載の効果を有するプログラムを提供することができる。
【0034】
また、本開示は、以上に記載の呼吸数測定装置が備える各処理部が行なう各処理ステップを実行することを特徴とする呼吸数測定方法である。
【0035】
この構成によれば、以上に記載の効果を有する処理手順を提供することができる。
【発明の効果】
【0036】
このように、本開示は、レーダを用いて非接触で人間又は動物の呼吸数を測定するにあたり、誤検出をなくし高精度化を図ったうえで、人間又は動物の睡眠状態(安眠、安静、荒い呼吸又は呼吸停止)を高精度に判定するとともに、人間又は動物の活動状態(不在、存在、活動又は非活動)を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】従来技術の第1の呼吸数測定を示す図である。
【
図2】従来技術の第2の呼吸数測定を示す図である。
【
図3】第1の呼吸数測定の解決課題を示す図である。
【
図4】第2の呼吸数測定の解決課題を示す図である。
【
図5】本開示の呼吸数測定システムの構成を示す図である。
【
図6】本開示の睡眠状態判定部の構成を示す図である。
【
図8】本開示の周波数積算スペクトルの算出処理を示す図である。
【
図9】本開示の周波数積算スペクトルの算出効果を示す図である。
【
図10】本開示の時系列データの算出処理を示す図である。
【
図11】本開示の呼吸数の測定処理を示す図である。
【
図12】本開示の呼吸数の信頼度の判定処理を示す図である。
【
図13】本開示の不在・活動判定手順を示す図である。
【
図16】本開示の安眠・安静判定手順を示す図である。
【
図17】本開示の安眠・安静判定処理を示す図である。
【
図18】本開示のアラーム発報処理を示す図である。
【
図19】本開示の呼吸停止判定手順を示す図である。
【
図20】本開示の呼吸停止判定処理を示す図である。
【
図21】本開示の呼吸停止判定処理を示す図である。
【
図22】本開示の呼吸停止判定処理を示す図である。
【
図23】本開示の呼吸停止判定処理を示す図である。
【
図24】本開示の呼吸停止判定処理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0039】
(本開示の呼吸数測定システムの構成)
本開示の呼吸数測定システムの構成を
図5に示す。呼吸数測定システムSは、FMCWレーダ送受信装置1及び呼吸数測定装置2を備える。FMCWレーダ送受信装置1は、FMCWレーダを人間又は動物Tに照射する。呼吸数測定装置2は、ビート信号取得部21、差分信号算出部22、周波数スペクトル算出部23、周波数積算スペクトル算出部24、時系列データ抽出部25、呼吸数測定部26、呼吸数信頼度判定部27及び睡眠状態判定部28を備える。呼吸数測定装置2は、
図7に示す呼吸数測定プログラムをコンピュータにインストールすることにより、実現することができる。
【0040】
本開示の睡眠状態判定部の構成を
図6に示す。睡眠状態判定部28は、不在判定部281、活動判定部282、安眠判定部283、アラーム発報部284及び呼吸停止判定部285を備える。睡眠状態判定部28は、
図13、
図16及び
図19に示す睡眠状態判定プログラムをコンピュータにインストールすることにより、実現することができる。
【0041】
本開示の呼吸数測定手順は、ビート信号取得部21から呼吸数信頼度判定部27までを用いて実行される。本開示の不在・活動判定手順は、不在判定部281及び活動判定部282を用いて実行される。本開示の安眠・安静判定手順は、安眠判定部283及びアラーム発報部284を用いて実行される。本開示の呼吸停止判定手順は、呼吸停止判定部285を用いて実行される。以下では、本開示の各処理手順を説明する。
【0042】
(本開示の呼吸数測定手順)
本開示の呼吸数測定手順を
図7に示す。本開示の周波数積算スペクトルの算出処理を
図8に示す。本開示の周波数積算スペクトルの算出効果を
図9に示す。本開示の時系列データの算出処理を
図10に示す。本開示の呼吸数の測定処理を
図11に示す。本開示の呼吸数の信頼度の判定処理を
図12に示す。ビート信号取得部21は、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得・記憶する(ステップS1)。以下では、ステップS2~S4及びステップS5~S7が、並行して実行されてもよく、前後して実行されてもよい。
【0043】
差分信号算出部22は、異なる送受信周期のビート信号間の差分信号を算出する(ステップS2)。周波数スペクトル算出部23は、差分信号の周波数スペクトルを算出する(ステップS3)。差分信号及び周波数スペクトルは、
図2の第2の従来技術と同様である。
【0044】
周波数積算スペクトル算出部24は、周波数スペクトルの所定積算期間内の周波数積算スペクトルを算出することにより、周波数積算スペクトルのピーク強度の時間変化が、1回分の呼吸周期において2個分のピークに分裂しないようにする(ステップS4)。
【0045】
図8の左欄では、周波数スペクトルは、人間又は動物Tの距離に対応する周波数の近傍にピークを有し、周波数スペクトルのピーク値は、体表の変位に応じて時間変化する。
図8の右欄では、周波数積算スペクトルも、人間又は動物Tの距離に対応する周波数の近傍にピークを有し、周波数スペクトルの所定積算期間は、後述の方針で設定される。
【0046】
そして、
図9の上段に示したように、体表の変位が、急激に変化するときには(例えば、胸又は腹が膨れる又はしぼむとき。)、差分信号は、振幅が大きくなる。すると、
図9の下段に示したように、周波数スペクトルのピーク強度は、大きくなる。一方で、
図9の上段に示したように、体表の変位が、ほとんど変化しないときには(例えば、胸又は腹が膨れ切った又はしぼみ切ったとき。)、差分信号は、振幅が小さくなる。すると、
図9の下段に示したように、周波数スペクトルのピーク強度は、小さくなる。
【0047】
しかし、
図9の上段及び下段に示したように、体表の変位が、極大値をとるときでも(例えば、胸又は腹が膨れ切ったとき。)、周波数積算スペクトルのピーク強度も、極大値をとる。むろん、
図9の上段及び下段に示したように、体表の変位が、急激に変化するときには(例えば、胸又は腹が膨れる又はしぼむとき。)、周波数積算スペクトルのピーク強度も、急激に変化する。つまり、周波数積算スペクトルのピーク強度の時間変化は、本来の呼吸周期の1回分において、第2の従来技術と異なり2個分の山に分裂しない。
【0048】
ここで、周波数スペクトルの所定積算期間が、人間又は動物Tの想定最短呼吸周期の半分以下の短期間であれば、周波数積算スペクトルのピーク強度の時間変化は、ピークの間のボトムを際立たせるため、人間又は動物Tの呼吸数の測定精度を高くする。一方で、周波数スペクトルの所定積算期間が、人間又は動物Tの想定呼吸停止期間と等しい程度の長期間であれば、周波数積算スペクトルのピーク強度の時間変化は、ピークの間のボトムを底上げするため、人間又は動物Tの活動量及び距離の測定精度を高くする。
【0049】
このように、体表の変位がほとんど変化しないときでも(例えば、胸又は腹が膨れ切ったとき。)、差分信号の振幅は小さくなるものの、周波数積算スペクトルのピーク強度は大きくなる。よって、体表の変位が正弦波状に時間変化せずパルス状に時間変化するときでも、人間又は動物Tの活動量及び距離を誤検知なく高精度に測定することができる。
【0050】
時系列データ抽出部25は、複数の送受信周期のビート信号から、掃引周波数のうちの複数の離散周波数を有する送信信号に対する複数の時系列データを抽出する(ステップS5)。
図10では、時系列データ抽出部25は、第1及び第2の送受信周期のビート信号から、掃引周波数のうちの離散周波数f
1を有する送信信号に対する時系列データ(電圧v
11、時間t
11)、(電圧v
12、時間t
12)、・・・を抽出する。そして、時系列データ抽出部25は、第1及び第2の送受信周期のビート信号から、掃引周波数のうちの離散周波数f
2を有する送信信号に対する時系列データ(電圧v
21、時間t
21)、(電圧v
22、時間t
22)、・・・を抽出する。さらに、時系列データ抽出部25は、第1及び第2の送受信周期のビート信号から、掃引周波数のうちの離散周波数f
3を有する送信信号に対する時系列データ(電圧v
31、時間t
31)、(電圧v
32、時間t
32)、・・・を抽出する。
【0051】
呼吸数測定部26は、複数の時系列データのうちの最大振幅を有する時系列データの変動周期に基づいて、人間又は動物Tの呼吸数を測定する(ステップS6)。
図11では、呼吸数測定部26は、5個の離散周波数を有する送信信号に対するI成分及びQ成分を有する各5個の時系列データを取得する。そして、呼吸数測定部26は、I成分及びQ成分を有する各5個の時系列データのうちの最大振幅を有する時系列データ(信号周期が本来の呼吸周期を維持する。)の変動周期に基づいて、人間又は動物Tの呼吸数[回/min]=60/周期[sec]を測定する。一方で、呼吸数測定部26は、I成分及びQ成分を有する各5個の時系列データのうちの最小振幅を有する時系列データ(信号周期が本来の呼吸周期の半分となる。)の変動周期に基づいて、人間又は動物Tの呼吸数を測定しない。
【0052】
このように、体表の変位が送信信号の波長の半分程度又は半分以下でしかないときでも、そして、人間又は動物Tの位置があまり変わらず同位置に留まるときでも、人間又は動物Tの呼吸数を誤検知なく高精度に測定することができる。
【0053】
呼吸数信頼度判定部27は、複数の時系列データのうちの最大振幅を有する時系列データの変動周期の標準偏差に基づいて、人間又は動物Tの呼吸数の信頼度を判定する(ステップS7)。
図12では、呼吸数測定部26及び呼吸数信頼度判定部27は、最大振幅を有し最大値と最小値との間の中点値をゼロにオフセットした時系列データでの、負から正へのゼロクロス又は正から負へのゼロクロスの間隔t
1、t
2、t
3、t
4を測定する。
【0054】
図12の左欄では、呼吸数信頼度判定部27は、負から正へのゼロクロス又は正から負へのゼロクロスの間隔t
1、t
2、t
3、t
4について、標準偏差が小さいほど、人間又は動物Tの呼吸数の信頼度が高いと判定する。そして、呼吸数信頼度判定部27は、人間又は動物Tの呼吸数の信頼度が高いと判定したときには、
図17及び
図18で後述するように、人間又は動物Tの呼吸数を採用・出力することができる。
【0055】
図12の右欄では、呼吸数信頼度判定部27は、負から正へのゼロクロス又は正から負へのゼロクロスの間隔t
1、t
2、t
3、t
4について、標準偏差が大きいほど、人間又は動物Tの呼吸数の信頼度が低いと判定する。そして、呼吸数信頼度判定部27は、人間又は動物Tの呼吸数の信頼度が低いと判定したときには、
図17及び
図18で後述するように、人間又は動物Tの呼吸数を棄却・非出力することができる。
【0056】
このように、最大振幅を有する時系列データが距離の情報を含まないためベッド又は壁面等のノイズを含みやすいときでも、時系列データの変動周期の標準偏差に基づいて、人間又は動物Tの呼吸数の信頼度を誤検知なく高精度に判定することができる。
【0057】
(本開示の不在・活動判定手順)
本開示の不在・活動判定手順を
図13に示す。本開示の不在判定処理を
図14に示す。本開示の活動判定処理を
図15に示す。本開示の活動判定処理は、人間又は動物TがFMCWレーダの照射範囲に存在することが判定されたうえで実行される。
【0058】
不在判定部281は、周波数積算スペクトルのピーク強度に基づいて、物標活動量を測定する(ステップS11)。或いは、不在判定部281は、周波数積算スペクトルのピーク周波数に基づいて、物標距離を測定する(ステップS12)。
【0059】
不在判定部281は、物標活動量が所定活動量閾値と比べて小さいときに(ステップS13、YES)、人間又は動物TがFMCWレーダの照射範囲に不在であることを判定する(ステップS14)。一方で、不在判定部281は、物標活動量が所定活動量閾値と比べて大きいときに(ステップS13、NO)、人間又は動物TがFMCWレーダの照射範囲に存在することを判定する(ステップS15)。ここで、所定活動量閾値は、人間又は動物Tの物標活動量と環境雑音(ベッド又は壁面等)の物標活動量との間の値に設定される。
【0060】
図14の上段では、時刻t
0まで及び時刻t
1からにおいて、物標活動量が所定活動量閾値と比べて大きいため、人間又は動物TがFMCWレーダの照射範囲に存在すると判定される。一方で、時刻t
0から時刻t
1までにおいて、物標活動量が所定活動量閾値と比べて小さいため、人間又は動物TがFMCWレーダの照射範囲に不在であると判定される。
【0061】
不在判定部281は、物標距離が所定距離閾値と比べて大きいときに(ステップS13、YES)、人間又は動物TがFMCWレーダの照射範囲に不在であることを判定する(ステップS14)。一方で、不在判定部281は、物標距離が所定距離閾値と比べて小さいときに(ステップS13、NO)、人間又は動物TがFMCWレーダの照射範囲に存在することを判定する(ステップS15)。ここで、所定距離閾値は、人間又は動物Tの物標距離と環境雑音(ベッド又は壁面等)の物標距離との間の値に設定される。
【0062】
図14の下段では、時刻t
0まで及び時刻t
1からにおいて、物標距離が所定距離閾値と比べて小さいため、人間又は動物TがFMCWレーダの照射範囲に存在すると判定される。一方で、時刻t
0から時刻t
1までにおいて、物標距離が所定距離閾値と比べて大きいため、人間又は動物TがFMCWレーダの照射範囲に不在であると判定される。
【0063】
このように、所定積算期間内の周波数積算スペクトルに基づいて、人間又は動物Tの活動状態(FMCWレーダの照射範囲に不在又は存在)を判定することができる。ここで、周波数積算スペクトルのピーク強度の時間変化は、周波数スペクトルのピーク強度の時間変化と比べて、ピークの間のボトムであっても比較的大きな強度を有するため(
図9を参照。)、所定活動量閾値と比べて十分に大きい物標活動量を得ることができる。
【0064】
活動判定部282は、周波数積算スペクトルのピーク周波数に基づいて測定した所定活動判定期間内の物標距離について、最大値と最小値との間の差分である距離偏差を算出する(ステップS16)。ここで、所定活動判定期間は、人間又は動物Tの1回の寝返り等の活動が始まってから終わるまでの期間と等しい程度の値に設定される。
【0065】
活動判定部282は、距離偏差が所定距離偏差閾値と比べて大きいときに(ステップS17、YES)、人間又は動物Tが活動していることを判定する(ステップS18)。一方で、活動判定部282は、距離偏差が所定距離偏差閾値と比べて小さいときに(ステップS17、NO)、人間又は動物Tが活動していないことを判定する(ステップS19)。ここで、所定距離偏差閾値は、人間又は動物Tの1回の寝返り等の活動が始まってから終わるまでの物標距離変化と比べてやや小さい程度の値に設定される。
【0066】
図15では、時刻t
0において、時刻t
0以前の所定活動判定期間内の物標距離が大きく変化し、時刻t
0以前の所定活動判定期間内の距離偏差が所定距離偏差閾値と比べて大きいため、人間又は動物Tが活動していると判定される。一方で、時刻t
1において、時刻t
1以前の所定活動判定期間内の物標距離がほぼ変化せず、時刻t
1以前の所定活動判定期間内の距離偏差が所定距離偏差閾値と比べて小さいため、人間又は動物Tが活動していないと判定される。時刻t
0、t
1以外においても、同様の活動判定が実行される。
【0067】
このように、所定積算期間内の周波数積算スペクトルに基づいて、人間又は動物Tの活動状態(寝返り等がある活動又は寝返り等がない非活動)を判定することができる。ここで、周波数積算スペクトルのピーク強度の時間変化は、周波数スペクトルのピーク強度の時間変化と比べて、ピークの間のボトムであっても比較的大きな強度を有するため(
図9を参照。)、十分に高精度で物標距離ひいては距離偏差を得ることができる。
【0068】
(本開示の安眠・安静判定手順)
本開示の安眠・安静判定手順を
図16に示す。本開示の安眠・安静判定処理を
図17に示す。本開示のアラーム発報処理を
図18に示す。本開示の安眠・安静判定処理は、人間又は動物TがFMCWレーダの照射範囲に存在することが判定されるとともに、人間又は動物Tが活動していないことが判定されたうえで実行される。
【0069】
安眠判定部283は、所定安眠判定期間内の人間又は動物Tの呼吸数の信頼度について、所定信頼度閾値と比べて高い期間比率を算出する(ステップS21)。ここで、所定安眠判定期間は、人間又は動物Tの1回のけいれん等の状態が始まってから終わるまでの期間と等しい程度の値に設定され、所定信頼度閾値は、人間又は動物Tの1回のけいれん等の状態が始まってから終わるまでの低い信頼度と比べてやや高い程度の値に設定される。
【0070】
安眠判定部283は、期間比率が所定期間比率閾値と比べて大きいときに(ステップS22、YES)、人間又は動物Tが安眠していることを判定する(ステップS25)。一方で、安眠判定部283は、期間比率が所定期間比率閾値と比べて小さいときに(ステップS22、NO)、人間又は動物Tが安静していることを判定する(ステップS27)。ここで、所定期間比率閾値は、人間又は動物Tのけいれん等がある状態での期間比率と、人間又は動物Tのけいれん等がない状態での期間比率と、の間の値に設定される。
【0071】
図17では、時刻t
0において、時刻t
0以前の所定安眠判定期間内の呼吸数の信頼度が8ポイントで高く2ポイントで低く、時刻t
0以前の所定安眠判定期間内の呼吸数の有効率8/10が所定期間比率閾値と比べて大きいため、人間又は動物Tが安眠していると判定される。一方で、時刻t
1において、時刻t
1以前の所定安眠判定期間内の呼吸数の信頼度が7ポイントで高く3ポイントで低く、時刻t
1以前の所定安眠判定期間内の呼吸数の有効率7/10が所定期間比率閾値と比べて小さいため、人間又は動物Tが安静していると判定される。時刻t
0、t
1以外においても、同様の安眠判定が実行される。
【0072】
このように、最大振幅を有する時系列データに基づいて、人間又は動物Tの睡眠状態(けいれん等がない安眠又はけいれん等がある安静)を高精度に判定することができる。ここで、最大振幅を有する時系列データの信号周期は、本来の呼吸周期を維持するため(
図11を参照。)、十分に高精度で呼吸数及び呼吸数の信頼度を得ることができる。
【0073】
ところで、期間比率が所定期間比率閾値と比べて大きいのみでは(ステップS22、YES)、人間又は動物Tの呼吸が荒い呼吸か落ち着いた呼吸か判定することができない。アラーム発報部284は、所定安眠判定期間内の人間又は動物Tの呼吸数について、所定信頼度閾値と比べて高い信頼度を有する呼吸数の平均値を算出する(ステップS23)。
【0074】
アラーム発報部284は、平均値が所定呼吸数閾値と比べて大きいときに(ステップS24、YES)、人間又は動物Tの安眠を判定せず、人間又は動物Tの呼吸数のアラームを発報する(ステップS26)。一方で、アラーム発報部284は、平均値が所定呼吸数閾値と比べて小さいときに(ステップS24、NO)、人間又は動物Tの呼吸数のアラームを発報せず、人間又は動物Tの安眠を判定する(ステップS25)。ここで、所定呼吸数閾値は、人間又は動物Tの呼吸が荒い呼吸である状態での呼吸数と、人間又は動物Tの呼吸が落ち着いた呼吸である状態での呼吸数と、の間の値に設定される。
【0075】
図18では、時刻t
0において、時刻t
0以前の所定安眠判定期間内の呼吸数の信頼度が8ポイントで高く2ポイントで低く、時刻t
0以前の所定安眠判定期間内の呼吸数の有効率8/10が所定期間比率閾値と比べて大きく、時刻t
0以前の所定安眠判定期間内の有効呼吸数の平均値が所定呼吸数閾値と比べて大きいため、人間又は動物Tの呼吸数のアラームが発報される。一方で、時刻t
1において、時刻t
1以前の所定安眠判定期間内の呼吸数の信頼度が全10ポイントで高く、時刻t
1以前の所定安眠判定期間内の呼吸数の有効率10/10が所定期間比率閾値と比べて大きく、時刻t
1以前の所定安眠判定期間内の有効呼吸数の平均値が所定呼吸数閾値と比べて小さいため、人間又は動物Tの安眠が判定される。時刻t
0、t
1以外においても、同様の安眠判定及びアラーム発報が実行される。
【0076】
このように、最大振幅を有する時系列データに基づいて、人間又は動物Tの睡眠状態(荒い呼吸又は落ち着いた呼吸)を高精度に判定することができる。ここで、最大振幅を有する時系列データの信号周期は、本来の呼吸周期を維持するため(
図11を参照。)、十分に高精度で呼吸数及び呼吸数の信頼度を得ることができる。
【0077】
(本開示の呼吸停止判定手順)
本開示の呼吸停止判定手順を
図19に示す。本開示の呼吸停止判定処理を
図20から
図24までに示す。本開示の呼吸停止判定処理は、人間又は動物TがFMCWレーダの照射範囲に存在することが判定されるとともに、人間又は動物Tが活動していないことが判定されたうえで、本開示の安眠・安静判定処理と並行して実行される。
【0078】
呼吸停止判定部285は、周波数積算スペクトルのピーク強度に基づいて測定した物標活動量について、想定呼吸停止期間と比べて長期間内のメディアン値から、想定呼吸停止期間と比べて短期間内のメディアン値を減算した減算値を算出する(ステップS31)。或いは、呼吸停止判定部285は、周波数積算スペクトルのピーク強度に基づいて測定した物標活動量について、想定呼吸停止期間と比べて長期間内のメディアン値から、一時刻での瞬間値を減算した減算値を算出する(ステップS31)。ここで、想定呼吸停止期間以上に渡り、物標活動量が小さくなるときに、呼吸停止と判定され、想定呼吸停止期間以下でしか、物標活動量が小さくならないときに、呼吸非停止と判定される。
【0079】
呼吸停止判定部285は、減算値が所定減算値閾値と比べて大きいときに(ステップS32、YES)、人間又は動物Tが呼吸停止していることを判定する(ステップS33)。一方で、呼吸停止判定部285は、減算値が所定減算値閾値と比べて小さいときに(ステップS32、NO)、人間又は動物Tが呼吸停止していないことを判定する(ステップS34)。ここで、所定減算値閾値は、人間又は動物Tの呼吸が停止している状態での減算値と、人間又は動物Tの呼吸が停止していない状態での減算値と、の間の値に設定される。
【0080】
図20では、短期間内のメディアン値は、一時刻の瞬間値と比べて、ノイズを除去されるが、一時的な物標活動量の減少を除去されない。一方で、長期間内のメディアン値は、一時刻の瞬間値と比べて、ノイズを除去されており、一時的な物標活動量の減少も除去される。時刻t
0において、減算値が所定減算値閾値と比べて大きいため、人間又は動物Tの呼吸停止が判定される。時刻t
0以外においても、同様の呼吸停止判定が実行される。
【0081】
このように、所定積算期間内の周波数積算スペクトルに基づいて、人間又は動物Tの睡眠状態(呼吸停止又は呼吸非停止)を高精度に判定することができる。ここで、周波数積算スペクトルのピーク強度の時間変化は、周波数スペクトルのピーク強度の時間変化と比べて、ピークの間のボトムであっても比較的大きな強度を有するため(
図9を参照。)、ピークの間のボトムでもって呼吸停止と判定されることがなくなる。
【0082】
図21では、呼吸停止判定部285は、長期間内のメディアン値から、長期間内の終了時刻と同一の終了時刻を有する短期間内のメディアン値を減算した減算値を算出している。或いは、呼吸停止判定部285は、長期間内のメディアン値から、長期間内の終了時刻と同一の時刻である一時刻での瞬間値を減算した減算値を算出している。
【0083】
すると、長期間内のメディアン値は、短期間内のメディアン値及び一時刻での瞬間値と比べて、時間変化に遅れを生じている。しかし、実際に呼吸が停止している時刻t0において、減算値が所定減算値閾値と比べて大きいため、人間又は動物Tの呼吸停止が正しく判定される。一方で、実際に呼吸が停止していない時刻t2において、減算値が所定減算値閾値と比べて大きいため、人間又は動物Tの呼吸停止が誤って判定される。
【0084】
図22では、呼吸停止判定部285は、長期間内のメディアン値から、長期間内の時間中心と同一の時間中心を有する短期間内のメディアン値を減算した減算値を算出している。或いは、呼吸停止判定部285は、長期間内のメディアン値から、長期間内の時間中心と同一の時刻である一時刻での瞬間値を減算した減算値を算出している。
【0085】
すると、長期間内のメディアン値は、短期間内のメディアン値及び一時刻での瞬間値と比べて、時間変化に遅れを生じていない。よって、実際に呼吸が停止している時刻t0において、減算値が所定減算値閾値と比べて大きいため、人間又は動物Tの呼吸停止が正しく判定される。一方で、実際に呼吸が停止していない時刻t2において、減算値が所定減算値閾値と比べて小さいため、人間又は動物Tの呼吸非停止が正しく判定される。
【0086】
よって、
図22では、所定積算期間内の周波数積算スペクトルに基づいて、人間又は動物Tの睡眠状態として呼吸停止を誤って判定してしまうことを防止することができる。
【0087】
呼吸停止判定部285は、想定呼吸停止期間を時間軸上で移動させながら、想定呼吸停止期間内の減算値の最大値を抽出する(ステップS35)。そして、呼吸停止判定部285は、想定呼吸停止期間内の減算値の最大値が所定減算値閾値と比べて大きくなり始めた時刻から小さくなり始めた時刻までを、人間又は動物Tの複数回の断続する呼吸停止期間ではなく1回の連続する呼吸停止期間として判定する(ステップS36)。
【0088】
図23では、時刻t
0において、時刻t
0以前の想定呼吸停止期間t内の減算値の最大値が、所定減算値閾値と比べて大きくなり始める。そして、時刻t+t
1において、時刻t+t
1以前の想定呼吸停止期間t内の減算値の最大値が、所定減算値閾値と比べて小さくなり始める。よって、時刻t
0から時刻t+t
1までにおいて、人間又は動物Tの1回の連続する呼吸停止が判定される。そして、時刻t
0以前の想定呼吸停止期間t内の時間中心と、時刻t+t
1以前の想定呼吸停止期間t内の時間中心と、の間の時間中心(t
0+t
1)/2において、人間又は動物Tの呼吸停止のポイントが判定される。
【0089】
図24の左欄では、時刻t
0において、減算値が所定減算値閾値と比べて大きく最大値を有する。時刻t
0以前の想定呼吸停止期間t内の減算値の最大値から、時刻t
0+t以前の想定呼吸停止期間t内の減算値の最大値まで、期間tに渡って同じ値であり続ける。よって、時刻t
0において、人間又は動物Tの呼吸停止のポイントが判定される。
【0090】
図24の中欄では、時刻t
1において、減算値が所定減算値閾値と比べて大きく第1最大値を有し、時刻t
1のしばらく後に、減算値が所定減算値閾値と比べて大きく第2最大値を有する。時刻t
1以前の想定呼吸停止期間t内の減算値の最大値から、時刻t
1+t以前の想定呼吸停止期間t内の減算値の最大値まで、期間tに渡って同じ値であり続ける。よって、時刻t
1において、人間又は動物Tの呼吸停止のポイントが判定される。
【0091】
図24の右欄では、時刻t
2から時刻t
3までにおいて、減算値が所定減算値閾値と比べて大きくほぼフラットな最大値を有する。時刻t
2以前の想定呼吸停止期間t内の減算値の最大値から、時刻t
3+t以前の想定呼吸停止期間t内の減算値の最大値まで、期間t+(t
3-t
2)に渡って同じ値であり続ける。よって、時刻t
2から時刻t
3+tまでにおいて、人間又は動物Tの1回の連続する呼吸停止が判定される。そして、時刻(t
2+t
3)/2において、人間又は動物Tの呼吸停止のポイントが判定される。
【0092】
このように、所定積算期間内の周波数積算スペクトルに基づいて、人間又は動物Tの睡眠状態(1回の連続する呼吸停止)を高精度に判定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本開示の呼吸数測定装置、呼吸数測定システム、呼吸数測定プログラム及び呼吸数測定方法は、レーダを用いて非接触で人間又は動物の呼吸数を測定することにより、人間又は動物に与えるストレスを軽減することができ、日常的な人間又は動物の睡眠状態を継続的に記録することができ、入院時又は介護時の人間又は動物の睡眠状態を監視することができ、人間又は動物の睡眠時の無呼吸症候群等を監視することができる。
【符号の説明】
【0094】
S:呼吸数測定システム
T:人間又は動物
1:FMCWレーダ送受信装置
2:呼吸数測定装置
21:ビート信号取得部
22:差分信号算出部
23:周波数スペクトル算出部
24:周波数積算スペクトル算出部
25:時系列データ抽出部
26:呼吸数測定部
27:呼吸数信頼度判定部
28:睡眠状態判定部
281:不在判定部
282:活動判定部
283:安眠判定部
284:アラーム発報部
285:呼吸停止判定部