(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023059919
(43)【公開日】2023-04-27
(54)【発明の名称】量子ドット組成物、波長変換材料、波長変換フィルム、バックライトユニット、画像表示装置及び量子ドット組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 11/08 20060101AFI20230420BHJP
C09K 11/70 20060101ALI20230420BHJP
C09K 11/88 20060101ALI20230420BHJP
C08L 27/12 20060101ALI20230420BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20230420BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20230420BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20230420BHJP
【FI】
C09K11/08 G
C09K11/08 A
C09K11/70
C09K11/88
C08L27/12
C08K9/04
C08L101/00
G02B5/20
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020324
(22)【出願日】2023-02-13
(62)【分割の表示】P 2019098395の分割
【原出願日】2019-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】野島 義弘
(72)【発明者】
【氏名】青木 伸司
(72)【発明者】
【氏名】鳶島 一也
(57)【要約】
【課題】
高い安定性を有し、含フッ素樹脂中に添加した場合にも凝集が起こりにくい結晶性ナノ粒子蛍光体である量子ドットを提供する。
【解決手段】
結晶性ナノ粒子蛍光体である量子ドットであって、前記量子ドットの表面がフッ素を含有するリガンドで修飾されたものである量子ドット。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ナノ粒子蛍光体である量子ドットが含フッ素樹脂中に分散した量子ドット組成物であって、
前記量子ドットは、表面がフッ素を含有するリガンドで修飾されたものであり、
前記フッ素を含有するリガンドが、フッ素含有シランカップリング剤、フッ素含有シロキサンポリマー及び含フッ素アクリレートから選ばれる少なくとも1つの化合物を含むものであることを特徴とする量子ドット組成物。
【請求項2】
前記含フッ素樹脂が、フッ素重合体、フッ素環状化合物、フッ素共重合体から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載の量子ドット組成物。
【請求項3】
前記含フッ素樹脂が、下記一般式(1)から(7)から選ばれる少なくとも一つの構造単位を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の量子ドット組成物。
(-CF
2-CF
2-) (1)
(-CF
2-CF(O-R)-)
(但し、Rはパーフルオロアルキル基である。) (2)
(-CF
2-CFCl-) (3)
(-CF
2-CF(CF
3)-) (4)
(-CF
2-CF
2-) (5)
(-CF
2-CHF-) (6)
【化1】
(7)
【請求項4】
前記含フッ素樹脂が、前記一般式(1)から(7)から選ばれる少なくとも1つの構造単位を有する共重合体であり、該共重合体がブロック共重合体、交互共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体のいずれかであることを特徴とする請求項3に記載の量子ドット組成物。
【請求項5】
前記量子ドット組成物が、さらにフッ素非含有樹脂を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の量子ドット組成物。
【請求項6】
前記フッ素非含有樹脂が、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂から選ばれる少なくとも一つ以上の樹脂を含むことを特徴とする請求項5に記載の量子ドット組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の量子ドット組成物の硬化物であることを特徴とする波長変換材料。
【請求項8】
請求項7に記載の波長変換材料からなる波長変換層を含むものであることを特徴とする波長変換フィルム。
【請求項9】
請求項5又は6に記載の量子ドット組成物の硬化物である波長変換材料からなる波長変換層を含む波長変換フィルムであって、前記含フッ素樹脂と前記フッ素非含有樹脂が少なくとも部分的に相分離しているものであることを特徴とする波長変換フィルム。
【請求項10】
前記波長変換フィルムが、単層の前記波長変換層からなるものであることを特徴とする請求項8又は9に記載の波長変換フィルム。
【請求項11】
前記波長変換フィルムが、前記波長変換層と、該波長変換層の両側に透明フィルムを積層した構造のものであることを特徴とする請求項8又は9に記載の波長変換フィルム。
【請求項12】
請求項8から11のいずれか一項に記載の波長変換フィルムを有するものであることを特徴とするバックライトユニット。
【請求項13】
請求項1から6のいずれか一項に記載の量子ドット組成物であって、420nm~470nmの波長範囲に発光中心を有する前記量子ドット組成物と、600nm~660nmの波長範囲に発光中心を有する前記量子ドット組成物が、それぞれ画素部に分けてパターニングされたものであることを特徴とするカラーフィルタ。
【請求項14】
請求項8から11のいずれか一項に記載の波長変換フィルムを有するものであることを特徴とする画像表示装置。
【請求項15】
結晶性ナノ粒子蛍光体である量子ドットが含フッ素樹脂中に分散した量子ドット組成物の製造方法であって、
量子ドットを溶媒に分散させて量子ドット溶液を作製し、
前記量子ドット溶液に、フッ素を含有するリガンドを添加して加熱下で撹拌することで、前記量子ドットの表面を前記フッ素を含有するリガンドで修飾し、フッ素を含有するリガンドで修飾された量子ドットを作製し、
前記フッ素を含有するリガンドで修飾された量子ドットと含フッ素樹脂とを混合して量子ドット組成物とすることを特徴とする量子ドット組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドット、量子ドット組成物、波長変換材料、波長変換フィルム、バックライトユニット及び画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子径がナノサイズである半導体結晶粒子は量子ドットと呼ばれ、光吸収により生じた励起子がナノサイズの領域に閉じ込められることにより、半導体結晶粒子のエネルギー準位は離散的となる。また、そのバンドギャップは粒子径により変化する。これらの効果により、量子ドットの蛍光発光は一般的な蛍光体と比較して高輝度、かつ、高効率かつその発光はシャープである。また、その粒子径によりバンドギャップが変化するという特性から、発光波長を制御できるという特徴を有しており、固体照明やディスプレイの波長変換材料としての応用が期待されている。例えば、ディスプレイに量子ドットを波長変換材料として用いることで、従来の蛍光体材料よりも広色域化、低消費電力が実現できる。
【0003】
量子ドットを波長変換材料として用いる実装方法として、量子ドットを樹脂材料中に分散させ、透明フィルムで量子ドットを含有した樹脂材料をラミネートすることで、波長変換フィルムとしてバックライトユニットに組み込む方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2013-544018号公報
【特許文献2】国際公開第2011-081037号
【特許文献3】特許5900720号公報
【特許文献4】特開2018-109141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、量子ドットは、粒子径がナノメートルサイズと小さいため、比表面積が大きい。そのため、表面エネルギーが高く表面活性であることから、不安定化しやすい。量子ドット表面のダングリングボンドや酸化反応などにより表面欠陥が生じ易く、これが蛍光発光特性の劣化の原因となる。これらは、特に、カドミウムフリーの量子ドットやペロブスカイト型の量子ドットで顕著な問題となっている。現在得られている量子ドットはこのような安定性に関する問題を有し、熱や湿度、光励起などにより発光特性の劣化を引き起こすことが知られている。量子ドットの発光特性の経時変化は、ディスプレイに使用する場合において色ムラや発光ムラ、ドット落ちなどの欠陥となるため、量子ドットの安定性は重要な問題である。
【0006】
このような問題に対し、ポリマーや無機酸化物等で量子ドット表面を被覆させる方法(特許文献2)や、酸素・湿度透過性の低いガスバリア性フィルムを用いることによる量子ドットの安定性を向上させる方法(特許文献3)が検討されている。
【0007】
しかしながら、このような安定性を向上させるための量子ドット表面の被覆を行う工程において、量子ドットの発光特性を維持できず、特性の劣化が起こることが問題となっている。また、バリアフィルムによる安定化についても、フィルム端面からの酸素・水蒸気の拡散による劣化が進行する問題がある。さらにタブレットやスマートフォンなどのモバイル用途では、波長変換フィルムの薄膜化が求められるが、一般的にバリアフィルムは20~200μm程度の厚さがあり、フィルム両面を保護するため、厚さが少なくとも40μm以上厚くなってしまうため、波長変換フィルムの厚さを薄くすることに限界が生じる。また、フィルムの薄膜化に伴い励起光の変換量が減少するので、それを補うため波長変換フィルムに含まれる量子ドットの含有量を増やす必要が出てくる。量子ドット組成物中の量子ドット濃度の増加は、量子ドットの分散性を低下させ、凝集が発生しやすくなり、フィルム化工程において量子ドットの沈降などの問題が発生する。
【0008】
さらに、量子ドットを波長変換フィルムとしてではなく、カラーフィルタとして直接青色の励起光を緑色及び赤色に変換させる方法が提案されている(特許文献4)。カラーフィルタとして量子ドットを用いる場合、前述の波長変換フィルムのようにバリアフィルム等を用いることは出来ず、量子ドット組成物の硬化やその後の製造工程や長時間の使用による量子ドットの発光特性の劣化が重要な問題となる。また、この方法では、波長変換フィルムとして用いる場合と異なり、ディスプレイの演色評価数(CRI)の低下の原因となる励起光である青色の透過を抑制することが求められる。このためには、量子ドット組成物中の量子ドット粒子の濃度を高くする必要がある。しかしながら、量子ドット組成物中の量子ドットの濃度を高くすると凝集が発生し、これが発光波長のシフトや発光効率の低下、発光の不均一性をもたらすという問題がある。
【0009】
含フッ素樹脂は耐水性、耐熱性等優れた特性を有しているが、他材料との相溶性が低いという問題があり、含フッ素樹脂中に添加する量子ドット濃度を高くしていくと量子ドットの凝集が起こりやすくなるという問題がある。
【0010】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、高い分散性及び安定性を有し、含フッ素樹脂中に添加した場合にも凝集が起こりにくい結晶性ナノ粒子蛍光体である量子ドットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、結晶性ナノ粒子蛍光体である量子ドットであって、前記量子ドットの表面がフッ素を含有するリガンドで修飾されたものである量子ドットを提供する。
【0012】
このような量子ドットによれば、高い安定性を有するとともに、含フッ素樹脂中に添加した場合にも凝集が起こりにくいものとなる。
【0013】
このとき、前記フッ素を含有するリガンドが、フッ素含有シランカップリング剤、フッ素含有シロキサンポリマー、パーフルオロポリエーテル及び含フッ素アクリレートから選ばれる少なくとも1つの化合物を含むものとすることができる。
【0014】
これにより、含フッ素樹脂中に添加した場合の凝集がより起こりにくいものとなる。
【0015】
このとき、上記量子ドットと、含フッ素樹脂とを含む量子ドット組成物とすることができる。
【0016】
これにより、高い安定性を有するとともに、分散性が高く量子ドットの凝集が起こりにくい量子ドット組成物となる。
【0017】
このとき、前記含フッ素樹脂が、フッ素重合体、フッ素環状化合物、フッ素共重合体から選ばれる少なくとも一つのものとすることができる。
【0018】
また、前記含フッ素樹脂が、下記一般式(1)から(7)から選ばれる少なくとも一つの構造単位を有する量子ドット組成物とすることができる。
(-CF
2-CF
2-) (1)
(-CF
2-CF(O-R)-)
(但し、Rはパーフルオロアルキル基である。) (2)
(-CF
2-CFCl-) (3)
(-CF
2-CF(CF
3)-) (4)
(-CF
2-CF
2-) (5)
(-CF
2-CHF-) (6)
【化1】
(7)
【0019】
さらに、前記含フッ素樹脂が、前記一般式(1)から(7)から選ばれる少なくとも1つの構造単位を有する共重合体であり、該共重合体がブロック共重合体、交互共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体のいずれかである量子ドット組成物とすることができる。
【0020】
また、前記含フッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フルオロエチレン・ビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体、フルオロオレフィン・アクリル酸エステル共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロジオキソール共重合体、又は、これらの誘導体から選ばれるポリマーである量子ドット組成物とすることができる。
【0021】
これにより、安定性がより高く、量子ドットの凝集がより起こりにくい量子ドット組成物となる。
【0022】
このとき、さらにフッ素非含有樹脂を含む量子ドット組成物とすることができ、より好ましくは、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂から選ばれる少なくとも一つ以上の樹脂を含む量子ドット組成物とすることができる。
【0023】
これにより、量子ドット組成物を用いた成形品の特性の設定が容易になり、適用範囲の広いものとなる。
【0024】
このとき、上記量子ドット組成物の硬化物である波長変換材料とすることができ、さらに、波長変換材料からなる波長変換層を含む波長変換フィルムとすることができる。
【0025】
これにより、材料中での量子ドットの凝集が抑制され、安定性の優れた波長変換材料、波長変換フィルムとなる。
【0026】
このとき、上記波長変換フィルムが、前記含フッ素樹脂と前記フッ素非含有樹脂が少なくとも部分的に相分離しているものとすることができる。
【0027】
これにより、樹脂加工物を塗布したときの密着性の向上等、塗工性を向上できるとともに、含フッ素樹脂の使用量の低減によるコストダウンが可能なものとなる。
【0028】
また、波長変換フィルムが、単層の前記波長変換層からなるものとすることができる。
【0029】
これにより、波長変換フィルムの厚さをより薄いものとできるため、特にモバイル用途などに適したものとなる。
【0030】
一方、前記波長変換フィルムが、前記波長変換層と、該波長変換層の両側に透明フィルムを積層した構造のものとすることもできる。
【0031】
これにより、強度の向上や、表面保護、光拡散等の特性を有するものとなる。
【0032】
また、上記波長変換フィルムを有するバックライトユニットとすることができる。
【0033】
これにより、安定した発光特性を有するバックライトユニットとなる。
【0034】
このとき、420nm~470nmの波長範囲に発光中心を有する前記量子ドット組成物と、600nm~660nmの波長範囲に発光中心を有する前記量子ドット組成物が、それぞれ画素部に分けてパターニングされたものであるカラーフィルタとすることができる。
【0035】
これにより、発光特性の安定性に優れたカラーフィルタとなる。
【0036】
また、上記波長変換フィルムを有する画像表示装置とすることができる。
【0037】
これにより、安定した発光特性を有する画像表示装置となる。
【発明の効果】
【0038】
以上のように、本発明に係る量子ドットによれば、高い安定性を有するとともに、含フッ素樹脂中に添加した場合にも凝集が起こりにくい(分散性の高い)ものとなり、安定性に優れた波長変換材料を提供可能なものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
上述のように、高濃度の量子ドットを含む波長変換材料としたときの、含フッ素樹脂中への分散性を向上させ、波長変換材料として信頼性を向上させることが求められていた。
【0041】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、結晶性ナノ粒子蛍光体である量子ドットであって、前記量子ドットの表面がフッ素を含有するリガンドで修飾されたものである量子ドットにより、高い安定性を有するとともに、含フッ素樹脂中に添加した場合にも凝集が起こりにくいものとなることを見出し、本発明を完成した。
【0042】
(量子ドット)
本発明に係る量子ドットは、その表面にフッ素を含有するリガンドを含んでおり、リガンドは特に限定されず目的に応じ適宜選択できる。リガンドは1種類であっても良く、また2種類以上の複数のリガンドが混合していても良い。該リガンドにおけるフッ素原子の含有量は特に限定されず、目的に応じ適宜設定できる。
【0043】
リガンドとしての化合物としては、フッ素含有シランカップリング剤、フッ素含有シロキサンポリマー、パーフルオロポリエーテル、含フッ素アクリレートなどが好ましい。フッ素含有シランカップリング剤としては1,1,1-トリフルオロ-3-[ジメトキシ(メチル)シリル]プロパン、ペンタフルオロフェニルエトキシジメチルシラン、トリエトキシ-1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチルシラン、トリメトキシ(3,3,3-トリフルオロプロピル)シラン、トリエトキシ(1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシル)シラン、トリエトキシ-1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルシラン、トリメトキシ(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)シラン、トリメトキシ(1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシル)シラン、トリエトキシ(ペンタフルオロフェニル)シラン、トリメトキシ(11-ペンタフルオロフェノキシウンデシル)シラン、トリエトキシ(ペンタフルオロフェニル)シラン、トリエトキシ[5,5,6,6,7,7,7-ヘプタフルオロ-4,4-ビス(トリフルオロメチル)ヘプチル]シラン、トリメトキシ(ペンタフルオロフェニル)シラン、トリメトキシ(1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチル)シランなどが挙げられる。フッ素含有シロキサンポリマーとしては、KP-911(信越化学工業社製)などが挙げられる。パーフルオロポリエーテルとしては、フルオロリンクF10、フルオロリンクS10、フルオロリンクAD1700、フルオロリンクMD700(ソルベイスペシャリティポリマーズ社製)などが挙げられる。含フッ素アクリレートとしては、ビスコート3F、ビスコート4F、ビスコート8F、ビスコート8FM、ビスコート13F(大阪有機化学工業社製)などが挙げられる。
【0044】
また、本発明において、量子ドットの構造、組成、製法等は特に限定されず、目的とする特性に応じた構造、組成、製法等を選択することができる。
【0045】
量子ドットは、コアのみでも、コアシェル構造であってもよい。また、量子ドットの粒子径は、目的とする波長範囲に合わせ適宜選択できる。
【0046】
量子ドットの組成としては、II-IV族半導体、III-V族半導体、II-VI族半導体、I-III-VI族半導体、II-IV-V族半導体、IV族半導体、ペロブスカイト型半導体などが例示される。具体的には、CdSe、CdS、CdTe、InP、InAs、InSb、AlP、AlAs、AlSb、ZnSe、ZnS、ZnTe、Zn3P2、GaP、GaAs、GaSb、CuInSe2、CuInS2、CuInTe2、CuGaSe2、CuGaS2、CuGaTe2、CuAlSe2、CuAlS2、CuAlTe2、AgInSe2、AgInS2、AgInTe、AgGaSe2、AgGaS2、AgGaTe2、PbSe、PbS、PbTe、Si、Ge、グラフェン、CsPbCl3、CsPbBr3、CsPbI3、CH3NH3PbCl3、さらにこれらの混晶やドーパントを添加したものが例示される。
【0047】
さらに、量子ドット表面に、有機分子や無機分子あるいはポリマーの被覆層を有していても良く、その構造は限定されない。被覆層を有する場合には、その厚さも目的に応じ適宜選択できる。被覆層の厚さは特に限定されないが、量子ドットの粒子径が100nm以下であれば、分散性の低下をより抑制でき、その結果光透過率の低下や凝集をより抑制できるため、量子ドットの粒子径が100nm以下となる程度の厚さであることが好ましい。
【0048】
被覆層としては、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ジメルカプトコハク酸、オレイルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、1-ドデカンチオールなどの有機分子やポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン、ポリシルセスキオキサン、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリアクリロニトリル、ポリエチレングリコールなどのポリマー、シリカやアルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化亜鉛、酸化ガリウム、窒化ケイ素、窒化ガリウムなどの無機分子が例示される。
【0049】
さらに、量子ドットの形状は限定されず、球形であっても良く、また立方体状や棒状でも良く、自由に選択できる。量子ドットの平均粒子径は、20nm以下であることが好ましい。平均粒子径がこのような範囲であれば、安定して量子サイズ効果を得ることができ、発光効率の著しい低下が効果的に抑制でき、粒子径によるバンドギャップのより安定した制御が可能となる。なお、量子ドットの粒子径は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)により得られる粒子画像を計測し、粒子20個以上の定方向最大径、即ち、フェレ(Feret)径の平均値から計算することができる。もちろん、平均粒子径の測定方法はこれに限定されず、他の方法で測定を行うことが可能である。
【0050】
(量子ドット組成物)
本発明に係る量子ドット組成物は、表面がフッ素を含有するリガンドで修飾された量子ドットと含フッ素樹脂を含むものであり、前記含フッ素樹脂は、フッ素重合体、フッ素環状化合物あるいはフッ素共重合体から選ばれる少なくとも1つの成分を有することが好ましい。これにより、安定性がより高く、量子ドットの凝集がより起こりにくい量子ドット組成物となる。
【0051】
上記フッ素重合体、上記フッ素環状化合物あるいは上記フッ素共重合体の重合度は特に限定されず、目的の粘度・硬度などの特性に合わせ適切に選択される。
【0052】
上記フッ素重合体、該フッ素環状化合物あるいは該フッ素共重合体の存在比率は特に限定されず、目的とする特性に合わせ自由に選択できる。
【0053】
上記フッ素重合体、該フッ素環状化合物あるいは該フッ素共重合体としては下記一般式(1)~(7)から選ばれる少なくとも一つの構造単位を有するものとすることが好ましい。
(-CF
2-CF
2-) (1)
(-CF
2-CF(O-R)-)
(但し、Rはパーフルオロアルキル基である。) (2)
(-CF
2-CFCl-) (3)
(-CF
2-CF(CF
3)-) (4)
(-CF
2-CF
2-) (5)
(-CF
2-CHF-) (6)
【化2】
(7)
【0054】
含フッ素樹脂における上記一般式(1)~(7)の構造単位の存在比率は特に限定されず、目的とする樹脂特性に合わせ自由に選択できる。
【0055】
また、上記一般式(1)~(7)の構造単位以外の構造単位を含んでいても良く、その種類は特に限定されず目的とする含フッ素樹脂の特性に合わせ適宜選択できる。上記一般式(1)~(7)の構造単位以外の構造単位としては、ビニルアルコール、ビニルエーテル、ビニルエステル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリルアミド、ウレタン、スチレン、エチレン、酢酸ビニル、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデン、アクリロニトリル、ビニルアルキルエーテル、オルガノシロキサンなどが例示される。
【0056】
また、上記フッ素共重合体の構造としては、ブロック共重合体、交互共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体であることが好ましい。
【0057】
上記フッ素重合体、上記フッ素環状化合物あるいは上記フッ素共重合体として、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フルオロエチレン・ビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体、フルオロオレフィン・アクリル酸エステル共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロジオキソール共重合体及びこれらの誘導体から選ばれるポリマーなどが、ガスバリア性や加工性などの観点から好適に用いられる。
【0058】
量子ドット組成物中に含まれる量子ドットの濃度は特に限定されず、フィルム厚さや量子ドットの発光効率、目的とする波長変換フィルムの特性に合わせ適切に調整される。
【0059】
また、量子ドット組成物には、さらにフッ素非含有樹脂が含まれていてもよい。フッ素非含有樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられ、これらのフッ素非含有樹脂の一つ以上の樹脂を含むことができる。フッ素非含有樹脂が含まれた量子ドット組成物を用いることで、成形品の特性の設定が容易になり、適用範囲が広くなる。
【0060】
また、量子ドット組成物中には、量子ドット以外の物質が含まれていても良く、光散乱体としてシリカやジルコニア、アルミナ、チタニアなどの微粒子が含まれていても良く、無機蛍光体や有機蛍光体が含まれていても良い。無機蛍光体としては、YAG、LSN、LYSN、CASN、SCASN、KSF、CSO、β-SIALON、GYAG、LuAG、SBCAが、有機蛍光体としてペリレン誘導体、アントラキノン誘導体、アントラセン誘導体、フタロシアニン誘導体、シアニン誘導体、ジオキサジン誘導体、ベンゾオキサジノン誘導体、クマリン誘導体、キノフタロン誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、ピラリゾン誘導体などが例示される。
【0061】
量子ドットと含フッ素樹脂の混合方法は特に限定されず、用いる含フッ素樹脂の性状や、目的とする波長変換フィルムの特性に合わせ適宜選択できる。溶剤に溶解させたフッ素樹脂に量子ドットが分散した溶液を混合しても良い。フッ素樹脂フレークに、量子ドット溶液あるいは量子ドット溶液から遠心分離等により回収した量子ドットの固体を添加し、混練しても良い。量子ドットと含フッ素樹脂は必ずしも均一に分散する必要はなく、波長変換フィルムの発光の均一性が維持される範囲において部分的に相分離していても良い。この場合、樹脂組成物を塗布したときの濡れ性や密着性の向上等、塗工性を向上できるとともに、含フッ素樹脂の使用量の低減によるコストダウンが期待できるものとなる。
【0062】
(波長変換材料)
本発明に係る波長変換材料は、表面がフッ素を含有するリガンドで修飾された量子ドットと含フッ素樹脂を含む量子ドット組成物の硬化物である。
【0063】
本発明に係る波長変換材料の適用例として、上記量子ドット組成物を硬化させて得られる波長変換材料からなる波長変換層を含む波長変換フィルムが挙げられる。波長変換フィルムの厚さは特に限定されず、目的に応じ適宜選択できる。波長変換フィルムの厚さとしては、5~500μm以下が好ましく、200μm以下がさらに好ましく、100μm以下が特に好ましい。波長変換フィルムが5μm以上の厚さを有するものであれば、より安定な発光特性を得ることができる。
【0064】
波長変換フィルムの構造は特に限定されず、量子ドット組成物の硬化物である波長変換材料からなる波長変換層を透明性フィルムで挟んだ積層構造であっても良く、基材である透明フィルム上に波長変換層を塗布した2層構造であっても良い。積層構造とすれば、強度の向上や、表面保護、光拡散等の機能を付与することができる。透明性フィルムは特に限定されず、適宜選択できる。透明フィルムとしては、PET、PPやPEなどが例示される。透明フィルムと波長変換層の間に、接着層が存在しても良い。また、波長変換フィルムと光拡散フィルムなどの別種のフィルムを組み合わせて使用しても良い。波長変換層と、光拡散フィルムの密着性を向上させるために、シランカップリング剤等によりフィルム表面、波長変換層表面の表面処理を行ってもよい。
【0065】
また、波長変換フィルムは、波長変換層のみからなる単層フィルムであっても良い。単層のフィルムであれば、フィルムの厚さをより薄いものとできるため、特にモバイル用途などに適したものとなる。
【0066】
波長変換フィルムの製造方法は特に限定されず、量子ドット組成物の性状や目的とする波長変換フィルムの特性に合わせ適宜選択できる。波長変換フィルムの製造方法としては、溶液キャスト法、溶液流涎法、溶融押出成型法などが例示される。
【0067】
本発明の実施形態の一つとして、波長変換フィルムが、青色LEDが結合された導光パネル面に設置されるバックライトユニットを提供する。また、他の実施形態の1つとして、該波長変換フィルムが、青色LEDが結合された導光パネル面と液晶ディスプレイパネルとの間に配置される画像表示装置を提供する。これらの実施形態において、該波長変換フィルムは光源である1次光の青色光の少なくとも一部を吸収し、1次光よりも波長の長い2次光を放出することにより、量子ドットの発光波長に依存した任意の波長分布を持った光に変換する。これにより、発光特性の安定性に優れたバックライトユニット、画像表示装置を提供できる。
【0068】
また、波長変換フィルムにおいて、含フッ素樹脂とフッ素非含有樹脂が少なくとも部分的に相分離していてもよい。このような波長変換フィルムであれば、樹脂加工物を塗布したときの密着性の向上等、塗工性を向上できるとともに、含フッ素樹脂の使用量の低減によるコストダウンが可能なものとなる。
【0069】
本発明の他の実施形態の一つとして、量子ドット組成物を用いたカラーフィルタを提供する。カラーフィルタの構造としては従来のカラーフィルタと同様であり、ブラックマトリックスが形成されたガラス基板や透明フィルム上に、420nm~470nmの波長範囲に発光を有する量子ドット組成物、600nm~660nmの波長範囲に発光を有する量子ドット組成物、及び光散乱体が含まれる樹脂組成物を、それぞれ画素に合わせてパターニングし硬化させることで、カラーフィルタを形成することができる。これにより、発光特性の安定性に優れたカラーフィルタを提供できる。なお、量子ドット組成物のパターニング方法としては特に限定されず、例えばインクジェット法やオフセット印刷法、スクリーン印刷法などが挙げられる。
【0070】
次に、本発明に係る量子ドットを用いた波長変換材料の製造方法について、具体例を用いて説明する。なお、波長変換フィルム及びカラーフィルタの製造方法は特に限定されず、目的に応じ適宜選択できる。
【実施例0071】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0072】
量子ドットとして、球状で粒子径が6nmのInP/ZnSe/ZnSコアシェル量子ドット(QD-G)、及び、球状で粒子径が8nmのInP/ZnSe/ZnSコアシェル量子ドット(QD-R)を用いた。この2種類の量子ドットを混合し、ヘキサン中に分散させ、量子ドットが20質量%のヘキサン溶液である量子ドット溶液とした。
【0073】
次に、実施例に用いる量子ドットを作製するために、下記(1)、(2)、(3)、(4)の方法により、それぞれ量子ドットの表面処理を行った。
【0074】
(1)前述の量子ドット溶液に、トリエトキシ-1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチルシランを、量子ドットに対し10質量%となるよう添加し、50℃に加温しながら24時間撹拌した。この溶液に対し、体積比で5倍のアセトンを添加し量子ドットを沈殿させ、遠心分離機により10000rpmで10分間処理し、表面がリエトキシ-1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチルシランで処理された量子ドットを回収した。
【0075】
(2)前述の量子ドット溶液に、KP-911を、量子ドットに対し15質量%となるよう添加し、50℃に加温しながら24時間撹拌した。この溶液を減圧留拠により溶媒を除去し、表面がフッ素含有シロキサンポリマーで処理された量子ドットを回収した。
【0076】
(3)前述の量子ドット溶液に、フルオロリンクAD1700を、量子ドットに対し15質量%となるよう添加し、50℃に加温しながら24時間撹拌した。この溶液を減圧留拠により溶媒を除去し、表面がパーフルオロポリエーテルで処理された量子ドットを回収した。
【0077】
(4)前述の量子ドット溶液に、ビスコート8Fを、量子ドットに対し15質量%となるよう添加し、50℃に加温しながら24時間撹拌した。この溶液を減圧留拠により溶媒を除去し、表面が含フッ素アクリレートで処理された量子ドットを回収した。
【0078】
上記(1)、(2)、(3)、(4)のようにして表面修飾を行った量子ドットを用いて、それぞれ下記の手順にて波長変換材料を作製した。また、このとき同様の手順で、量子ドット組成物中に含まれる量子ドットの濃度が、それぞれ5質量%、10質量%、15質量%となるように、3水準の量子ドット組成物を調整し、波長変換材料を作製した。
【0079】
(実施例1)
含フッ素樹脂としてのETFE(AGC社製 C-88AXP)に対し、上記(1)~(4)の表面修飾処理をそれぞれ別々に行った量子ドットQD-G及びQD-Rがそれぞれ所定の濃度となるように加え、単軸押出機に投入し混練後、300℃の条件でT型ダイス及び押出しロールを通し、冷却・固化させフィルムを形成した。得られたフィルムの厚さを測定したところ、71μmであった。
【0080】
(実施例2)
含フッ素樹脂としてのPFA(ダイキン工業社製 ネオフロンPFA AP-202)に対し、上記(1)~(4)の表面修飾処理をそれぞれ別々に行った量子ドットが所定の濃度となるように加え、単軸押出機に投入し混練後、320℃の条件でT型ダイス及び押出しロールを通し、冷却・固化させフィルムを形成した。得られたフィルムの厚さを測定したところ、84μmであった。
【0081】
(実施例3)
含フッ素樹脂としてのPCTFE(ダイキン工業社製 ネオフロンPCTFE M-300P)に対し、上記(1)~(4)の表面修飾処理をそれぞれ別々に行った量子ドットが所定の濃度となるように加え、単軸押出機に投入し混練後、290℃の条件でT型ダイス及び押出しロールを通し、冷却・固化させフィルムを形成した。得られたフィルムの厚さを測定したところ、110μmであった。
【0082】
(実施例4)
含フッ素樹脂としてのポリフッ化ビニリデン樹脂(アルケマ社製 KYNAR740)に対し、上記(1)~(4)の表面修飾処理をそれぞれ別々に行った量子ドットが所定の濃度となるように加え、単軸押出機に投入し混練後、220℃の条件でT型ダイス及び押出しロールを通し、冷却・固化させフィルムを形成した。得られたフィルムの厚さを測定したところ、46μmであった。
【0083】
(実施例5)
含フッ素樹脂としてのポリフッ化ビニリデン樹脂(アルケマ社製 KYNAR740)を、溶媒としてのDMF(関東化学社製)に、固形分濃度が20質量%となるように溶解させた。この樹脂溶液に、上記(1)~(4)の表面修飾処理をそれぞれ別々に行った量子ドットを、樹脂成分に対し量子ドットが所定の濃度となるように添加し、混合して量子ドット組成物を含む混合溶液を得た。この混合溶液を撹拌脱泡し、バーコーターにより25μmのPETフィルム(東レ社製 ルミラーフィルムT60)上に塗布し、80℃のオーブンにて30分加熱し固化させ、波長変換層を含むフィルムを形成した。さらに波長変換層上にPETフィルムを貼り合せラミネート加工した。このフィルムを85℃で1時間加熱し波長変換層を硬化させた。得られたフィルムの厚さを測定したところ、波長変換層の厚さは108μmであり、波長変換フィルムとしては158μmであった。
【0084】
(実施例6)
含フッ素樹脂であるフルオロエチレン・ビニルエーテル共重合体(AGC製 ルミフロンLF200)の40%キシレン溶液に、上記(1)~(4)の表面修飾処理をそれぞれ別々に行った量子ドットを、樹脂固形分に対しそれぞれの量子ドットが所定の濃度となるよう添加して量子ドット組成物を含む混合溶液を得た。この量子ドット組成物を含む混合溶液を撹拌脱泡し、バーコーターにより25μmのPETフィルム(東レ社製 ルミラーフィルムT60)上に塗布し、80℃のオーブンにて60分間加熱し固化させフィルムを形成した。得られたフィルムの厚さを測定したところ、波長変換層の厚さは70μmであり、波長変換フィルムとしては95μmであった。
【0085】
(実施例7)
含フッ素樹脂であるフルオロエチレン・ビニルエーテル共重合体(AGC製 ルミフロンLF200)の40%キシレン溶液に、上記(1)~(4)の表面修飾処理をそれぞれ別々に行った量子ドットを、樹脂固形分に対しそれぞれの量子ドットが所定の濃度となるよう添加して量子ドット組成物を含む混合溶液を得た。さらにこの混合溶液に、平均粒径30μmのシリカ粒子(信越化学工業QSG-30)を、混合溶液の溶液量に対し5質量%添加し分散させた。このシリカ粒子を含む混合溶液を撹拌脱泡し、バーコーターにより25μmのPETフィルム(東レ社製 ルミラーフィルムT60)上に塗布し、80℃のオーブンにて60分間加熱し固化させフィルムを形成した。得られたフィルムの厚さを測定したところ、波長変換層の厚さは77μmであり、波長変換フィルムとしては102μmであった。
【0086】
(実施例8)
含フッ素樹脂であるフルオロエチレン・ビニルエーテル共重合体(AGC製 ルミフロンLF200)の40%キシレン溶液に対し、上記(1)~(4)の表面修飾処理をそれぞれ別々に行った量子ドットを、樹脂固形分に対しそれぞれの量子ドットが所定の濃度となるよう添加して量子ドット組成物を含む混合溶液を得た。この混合溶液に対し、アクリル樹脂(DIC社製:アクリディック BL-616-BA)を、重量比でフッ素樹脂:アクリル樹脂が3:7となるように添加し、撹拌した。この量子ドット、フッ素樹脂、アクリル樹脂を含む混合溶液を撹拌脱泡し、バーコーターにより25μmのPETフィルム上に塗布し、80℃のオーブンにて60分間加熱し、固化させフィルムを形成した。得られたフィルムの厚さを測定したところ、波長変換層の厚さは83μmであり、波長変換フィルムとしては108μmであった。
【0087】
(実施例9)
前述の量子ドット(QD-G)及び(QD-R)を混合せず、(QD-G)及び(QD-R)をそれぞれ別々に上記(1)、(2)、(3)、(4)の処理を行い、表面処理された量子ドット(QD-G)及び(QD-R)を個別に作製した。これら表面処理された量子ドット(QD-G)及び(QD-R)を、それぞれ含フッ素樹脂であるフルオロエチレン・ビニルエーテル共重合体(AGC製 ルミフロンLF200)の40%キシレン溶液に対し、それぞれの量子ドットが所定の濃度となるよう添加して量子ドット組成物を含む混合溶液を得た。また、カラーフィルタの青色画素部に適用する混合溶液については、上記の量子ドット組成物を含まない上記フルオロエチレン・ビニルエーテル共重合体のキシレン溶液量に対し、平均粒径30μmのシリカ粒子(信越化学工業製 QSG-30)を、15質量%添加し分散させた混合溶液を作製した。これらの混合溶液を、画素部が30μm角となるようにブラックマトリックスが形成されたガラス基板上の、それぞれ赤、緑、青の画素部にインクジェット装置(マイクロジェト社製、LaboJet-600)を用いて樹脂層を形成し、80℃、60分間の熱処理を行い硬化させた。得られたカラーフィルタの波長変換層の厚さは、9μmであった。
【0088】
(比較例1)
アクリル樹脂(DIC社製:アクリディック BL-616-BA)に、表面処理を行っていない量子ドットQD-G及びQD-Rを、樹脂固形分に対し、量子ドットが所定の濃度となるよう添加、混合し撹拌して量子ドット組成物を含む混合溶液を得た。この混合溶液を撹拌脱泡し、バーコーターにより25μmのPETフィルム上に塗布し、60℃で2時間加熱、その後150℃で4時間加熱し、固化させフィルムを形成した。さらに、樹脂層上に25μmのPETフィルムを貼り合せ、ラミネート加工した。このフィルムを85℃で1時間加熱し、樹脂層を硬化させた。得られたフィルムの厚さを測定したところ、波長変換層の厚さは84μmであり、波長変換フィルムとしては134μmであった。
【0089】
(比較例2)
エポキシ樹脂(ファインポリマーズ社製:EpiFine TO-0107-20)に、表面処理を行っていない量子ドット溶液QD-G及びQD-Rを、樹脂固形分に対し、量子ドットが所定の濃度となるよう添加し撹拌して量子ドット組成物を含む混合溶液を得た。この混合溶液を撹拌脱泡し、バーコーターにより25μmのPETフィルム上に塗布し、さらに25μmのPETフィルムを貼り合わせた。これを、365nm UV LEDランプにより100W/cm2、20秒UV照射し、硬化させフィルムを形成した。得られたフィルムの厚さを測定したところ、波長変換層の厚さは67μmであり、波長変換フィルムとしては117μmであった。
【0090】
(比較例3)
アクリル樹脂(DIC社製:アクリディック BL-616-BA)に、表面処理を行っていない量子ドット溶液QD-G及びQD-Rを、樹脂固形分に対し量子ドットが所定の濃度なるよう添加し撹拌して量子ドット組成物を含む混合溶液を得た。この混合溶液を撹拌脱泡し、バーコーターにより15μmのバリアフィルム(凸版印刷社製 GLフィルム)上に塗布し、60℃で2時間加熱、その後150℃で4時間加熱し、固化させフィルムを形成した。さらに、樹脂層上に15μmのバリアフィルムを貼り合せ、ラミネート加工した。このフィルムを85℃で1時間加熱し、樹脂層を硬化させた。得られたフィルムの厚さを測定したところ、波長変換層の厚さは83μm、波長変換フィルムとしては113μmであった。
【0091】
(比較例4)
表面処理を行っていない量子ドット溶液QD-G及びQD-Rそれぞれ20mLに、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(東京化成製)を0.2mL添加し、室温で24時間混合した。この3-アミノプロピルトリメトキシシランで処理した量子ドット溶液に、テトラメトキシシラン(東京化成)0.5mLを、激しく撹拌した状態で滴下した。撹拌したまま、10%アンモニア水を1mLずつ滴下し、20時間撹拌を行った。反応後、遠心分離により、SiO2層を有する量子ドットが得られた。アクリル樹脂(DIC社製:アクリディック BL-616-BA)に、得られたSiO2層を有する量子ドットQD-G及びQD-Rを、樹脂固形分に対し、量子ドットが所定の濃度となるよう添加し撹拌してSiO2被覆層を有する量子ドット組成物を含む混合溶液を得た。この混合溶液を撹拌脱泡し、バーコーターにより25μmのPETフィルム上に塗布し、60℃で2時間加熱、その後150℃で4時間加熱し、固化させフィルムを形成した。さらに樹脂層上に25μmのPETフィルムを貼り合せラミネート加工した。このフィルムを85℃で1時間加熱し樹脂層を硬化させた。得られたフィルムの厚さを測定したところ、波長変換層の厚さは72μm、波長変換フィルムとしては122μmであった。
【0092】
(比較例5)
表面処理を行っていない量子ドット(QD-G)及び(QD-R)を、それぞれフルオロエチレン・ビニルエーテル共重合体(AGC製 ルミフロンLF200)の40%キシレン溶液に、量子ドットが所定の濃度となるよう添加して量子ドット組成物を含む混合溶液を得た。また、カラーフィルタの青色画素部に適用する混合溶液については、量子ドット組成物を含まない上記フルオロエチレン・ビニルエーテル共重合体のキシレン溶液量に対し、平均粒径30μmのシリカ粒子(信越化学工業製 QSG-30)を、15質量%添加し分散させた混合溶液を作製した。これらの混合溶液を、ブラックマトリックスが形成されたガラス基板上の、それぞれ赤、緑、青の画素部にインクジェット装置(マイクロジェト社製、LaboJet-600)を用いて樹脂層を形成し、80℃、60分間の熱処理を行い、硬化させた。得られたカラーフィルタの波長変換層のサイズは、30μm角で、厚さは9μmであった。
【0093】
上記の各方法(実施例、比較例)により作製した波長変換フィルム及びカラーフィルタについて、蛍光顕微鏡(Olympus社製、IX83)により量子ドットの凝集状態を観察した。量子ドットの凝集体の直径が1μm未満であれば○、1μm以上5μm未満であれば△、5μm以上であれば×として、それぞれの量子ドット濃度において作製した波長変換材料における分散状態の評価結果を、表1に示した。
【0094】
【0095】
表1に示すように、フッ素を含有するリガンドで修飾された量子ドットとすることで、含フッ素樹脂を含む量子ドット組成物としたときに、量子ドット濃度を高くしても分散性を維持できることがわかる。
【0096】
さらに、上記方法により作製した波長変換フィルムの初期発光特性を測定し、高温高湿状態(温度85℃、湿度85%、保持時間250時間)で保持した後、再び発光特性を評価した。初期発光時の量子収率を基準としたときの、高温高湿状態保持後の量子収率の相対強度の変化量が5%未満のものを◎、5%以上10%未満のものを○、10%以上20%未満のものを△、20%以上のものを×として評価し、それぞれ比較したものを、表2に示した。なお、これらの蛍光発光特性評価は、量子効率測定システム(大塚電子製QE-2100)を用い、励起波長を450nmとして発光特性を測定した。
【0097】
【0098】
表2に示すように、フッ素を含有するリガンドで修飾された量子ドットとすることで、含フッ素樹脂中での量子ドットの凝集の抑制、量子ドットの劣化の抑制が可能となり、信頼性の高い波長変換材料を得ることができることがわかる。
【0099】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。