(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023060125
(43)【公開日】2023-04-27
(54)【発明の名称】表皮水疱症の治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 35/545 20150101AFI20230420BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20230420BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230420BHJP
A61K 35/36 20150101ALI20230420BHJP
A61K 35/33 20150101ALI20230420BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230420BHJP
C12N 5/074 20100101ALN20230420BHJP
C12N 5/077 20100101ALN20230420BHJP
【FI】
A61K35/545
A61P17/02
A61P17/00
A61K35/36
A61K35/33
A61P43/00 105
C12N5/074
C12N5/077
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032458
(22)【出願日】2023-03-03
(62)【分割の表示】P 2019525640の分割
【原出願日】2018-06-19
(31)【優先権主張番号】P 2017119854
(32)【優先日】2017-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(71)【出願人】
【識別番号】514121804
【氏名又は名称】株式会社生命科学インスティテュート
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(72)【発明者】
【氏名】清水 宏
(72)【発明者】
【氏名】藤田 靖幸
(72)【発明者】
【氏名】桝富 直哉
(57)【要約】
【課題】本発明は、表皮水疱症等の皮膚疾患の治療のための細胞製剤を提供することを目的とする。
【解決手段】生体の間葉系組織又は培養間葉系細胞に由来するSSEA-3陽性の多能性幹細胞(Muse細胞)を含む、表皮水疱症を治療するための細胞製剤を提供する。表皮水疱症は好ましくは単純型表皮水疱症、接合部型表皮水疱症又は栄養障害型表皮水疱症である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の間葉系組織又は培養間葉系細胞に由来するSSEA-3陽性の多能性幹細胞を含む、表皮水疱症を治療するための細胞製剤。
【請求項2】
表皮水疱症が、単純型表皮水疱症である、請求項1に記載の細胞製剤。
【請求項3】
表皮水疱症が、接合部型表皮水疱症である、請求項1に記載の細胞製剤。
【請求項4】
表皮水疱症が、栄養障害型表皮水疱症である、請求項1に記載の細胞製剤。
【請求項5】
栄養障害型表皮水疱症が、優性栄養障害型表皮水疱症又は劣性栄養型表皮水疱症である、請求項4に記載の細胞製剤。
【請求項6】
前記多能性幹細胞が、以下の性質の全てを有する多能性幹細胞である、請求項1~5のいずれかに記載の細胞製剤:
(i)テロメラーゼ活性が低いか又は無い;
(ii)三胚葉のいずれの胚葉の細胞に分化する能力を持つ;
(iii)腫瘍性増殖を示さない;及び
(iv)セルフリニューアル能を持つ。
【請求項7】
前記多能性幹細胞が、以下の性質の全てを有する多能性幹細胞である、請求項1~5のいずれかに記載の細胞製剤:
(i)SSEA-3陽性;
(ii)CD105陽性;
(iii)テロメラーゼ活性が低いか又は無い;
(iv)三胚葉のいずれかの胚葉に分化する能力を持つ;
(v)腫瘍性増殖を示さない;及び
(vi)セルフリニューアル能を持つ。
【請求項8】
生体の間葉系組織又は培養間葉系細胞に由来するSSEA-3陽性の多能性幹細胞から分化誘導された皮膚細胞。
【請求項9】
皮膚細胞がケラチノサイトおよび/または線維芽細胞である、請求項8に記載の皮膚細胞。
【請求項10】
請求項8または9に記載の皮膚細胞を含む、皮膚疾患を治療するための細胞製剤。
【請求項11】
皮膚疾患が表皮水疱症である、請求項10に記載の細胞製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生医療における細胞製剤に関する。より具体的には、表皮水疱症の治療に有効な多能性幹細胞を含有する細胞製剤および表皮水疱症等の皮膚疾患の治療に有効な多能性幹細胞から分化誘導された皮膚細胞を含有する細胞製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
表皮水疱症(epidermolysis bullosa, EB)は、皮膚基底膜領域における接着構造制御
蛋白質の遺伝子異常により表皮・真皮間の接着機能が破綻し、日常生活の軽微な外力で表皮が基底膜レベルで剥離して全身熱傷様の水疱、潰瘍を形成する遺伝性水疱性皮膚難病である(表1)。表皮水疱症は、水疱の形成する部位によって単純型、接合部型、栄養障害型の3型に大別され、四肢末梢や大関節部などの外力を受けやすい部位に、軽微な外力により水疱やびらんを生じる。水疱・びらんは、単純型と優性栄養障害型では比較的速やかに治癒し、単純型は治癒後、瘢痕も皮膚萎縮も残さないが、優性栄養障害型は瘢痕を残す。接合部型と劣性栄養障害型では水疱・びらんは一般に難治であり、治癒した場合は接合部型では皮膚萎縮を、劣性栄養障害型では瘢痕を残す。生下時の臨床所見では鑑別することが難しく、電子顕微鏡、免疫染色、遺伝子診断、成長とともに変化する臨床所見と併せて総合的に診断する。早期診断は、皮膚と全身をうまく管理する上で有用な情報となる。稀少難治性疾患のため診断治療には専門施設や専門医による検査とアドバイスが必要となる。
【表1】
【0003】
表皮水疱症の治療方法は、現段階では根治療法は無く、対症療法のみである。その対症療法も病型により異なるので、まず正確な病型診断が必須不可欠である。また本症は病型
によっては種々の合併症を発生することにより、病状が増悪し、患者の日常生活を著しく制限することがあるので、各種合併症に対する処置も必要になる。さらに本症は難治の遺伝性疾患であるため、家系内患者の再発の予防にも配慮する必要がある。
【0004】
<局所療法>
水疱、びらん、潰瘍などを流水洗浄したのち、ガーゼとびらんが固着することを防ぐため、ワセリンガーゼなどを塗布する。この際、水疱内容はあらかじめ穿刺排液しておく(水疱蓋は除去しない)。指趾間の癒着を伴う症例では、指間にワセリンガーゼを挟むなどして、指趾間の癒着を予防する。抗生物質含有軟膏の長期間にわたる使用は耐性菌の出現の原因となるため、特別な場合を除き、抗生物質含有軟膏を積極的に使用する必要はない。びらんや潰瘍の悪化が認められた場合は、真菌や細菌感染の合併、特に劣性栄養障害型表皮水疱症では皮膚癌の出現の可能性があるため、皮膚生検や真菌検査、細菌培養検査などを積極的に施行する。基本的には軟膏療法を1日1回実施する。
【0005】
<全身療法>
栄養補給:特に劣性栄養障害型表皮水疱症では口腔粘膜や食道の病変により、栄養を十分摂取できず、慢性的な栄養不良、貧血になっていることが非常に多い。そのためエンシュアリキッドなどの栄養剤の経口摂取が有用である。経口摂取が困難な場合は経鼻チューブや点滴で、栄養を補給することもある。そう痒がはげしい場合は抗ヒスタミン剤が奏功することもある。
【0006】
<合併症に対する治療>
劣性栄養障害型と接合部型において、指(趾)間癒着、皮膚悪性腫瘍、食道狭窄、幽門狭窄、肛門部のびらん・狭窄、栄養不良、結膜びらん、貧血などが問題になることが多い。また、重篤な合併症のひとつに続発性全身性アミロイドーシスがある。
表皮水疱症の合併症はQOLを著しく低下させるものが多くそれだけに、治療の必要性が
高い。形成術や拡張術、栄養管理など臨床各分野の専門医の協力を得て、診断治療にあたることが重要である。(非特許文献1)
【0007】
しかし、遺伝子異常を正常化する安全かつ確実な方法論が確立していない現在、表皮水疱症をはじめとする遺伝性疾患の根治的療法は未だない。
一方、近年の再生医療の研究の進展により、骨髄移植、骨髄幹細胞移植等による表皮水疱症の治療が探索されつつある。
【0008】
例えば、以下のような知見が公表されている。(非特許文献2)
(1)骨髄由来細胞による皮膚再生メカニズム:長年広範囲の表皮剥離を繰り返す結果、大
量の表皮幹細胞を喪失している表皮水疱症患者皮膚の表皮再生機序として、骨髄内幹細胞が末梢循環を介して損傷部皮膚に動員され、水疱部皮膚の再生に寄与していることを明らかにした。(非特許文献3、非特許文献4)
(2) 表皮水疱症に対する骨髄移植療法:米国ミネソタ大学の研究グループは世界で初めて劣性栄養障害型表皮水疱症に対する骨髄移植を実施し、皮膚症状の改善効果を報告した。しかし、7 例中2 例が経過中に死亡しており、より安全な骨髄移植治療プロトコール開発が必要不可欠である。(非特許文献5)
(3) 表皮水疱症に対する骨髄間葉系幹細胞移植療法:南米チリの研究グループは、重症劣性栄養障害型表皮水疱症の2 症例に対して健常者骨髄由来培養間葉系幹細胞を皮下移植し、その有効性を明らかにした(非特許文献6)。また、英国やエジプトのグループは、重症劣性栄養障害型表皮水疱症の患者に対して健常者骨髄由来培養間葉系幹細胞を点滴投与し、その有効性を報告した(非特許文献7、非特許文献8)。しかし移植した間葉系幹細胞は数ヶ月で次第に減少する可能性も併せて示された。
(4)表皮水疱症に対する骨髄間葉系幹細胞血中動員因子を利用した再生誘導医療の可能性
:剥離表皮から放出されるHMGB1 が末梢血液を介して骨髄間葉系幹細胞を剥離表皮部皮膚に集積させて損傷皮膚再生を強く誘導していることが見出された。(非特許文献4)
上記の通り、表皮水疱症の根治的療法を目指し、遺伝子治療や再生治療の基礎的、臨床的研究が精力的に進められている。しかし、現在も、安全性と有効性が確認された、表皮水疱症を完全に治癒させる治療法は見いだされておらず、さらなる根治的治療の実現が待たれている。
【0009】
一方、出澤らの研究により、間葉系細胞画分に存在し、遺伝子導入やサイトカイン等による誘導操作なしに得られる、SSEA-3(Stage-Specific Embr
yonic Antigen-3)を表面抗原として発現している多能性幹細胞(Mul
tilineage-differentiating Stress Enduring
cells;Muse細胞)が間葉系細胞画分の有する多能性を担っており、組織再生
を目指した疾患治療に応用できる可能性があることが分かってきた(例えば、特許文献1;非特許文献9~11)。しかしながら、表皮水疱症の治療にMuse細胞を使用し、期待される治療効果が得られることを明らかにした例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】:「稀少難治性皮膚疾患に関する調査研究班ホームページ」http://kinan.info/)
【非特許文献2】Tamai K. J Natl Inst Public Health 2011; 60: 118-124.
【非特許文献3】Chino T et al. Am J Pathol 2008; 173: 803-814.
【非特許文献4】Tamai K et al. Proc Natl Acad Sci USA 2011; 108: 6609-6614.
【非特許文献5】Wagner JE et al. N Engl J Med 2010; 363: 629-639.
【非特許文献6】Conget P et al. Cytotherapy 2010; 12: 429-431.
【非特許文献7】Petrof G et al. J Invest Dermatol 2015; 135: 2319-2321.
【非特許文献8】El-Darouti M et al. Dermatol Ther 2016; 29: 96-100.
【非特許文献9】Kuroda Y et al. Proc Natl Acad Sci USA 2010; 107: 8639-8643.
【非特許文献10】Wakao S et al. Proc Natl Acad Sci USA 2011; 108: 9875-9880.
【非特許文献11】Kuroda Y et al. Nat Protc 2013; 8: 1391-1415.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、表皮水疱症等の皮膚疾患の治療のための細胞製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、実験的に皮膚を損傷したマウスにヒトMuse細胞を血管から投与することによって、ヒト型のコラーゲンが創傷部位において発現し、損傷の修復が早まることを見出した。同様に、遺伝的に17型コラーゲン(COL17)を欠損した表皮水疱症モデルマウスにおいて、表皮に水疱を形成させた後にヒトMuse細胞を血管等から投与することにより、ヒト型の17型コラーゲンを表皮に供給できることを見出し、それにより、Muse細胞が表皮水疱症の治療に使用できることを見出した。さらに、Muse細胞から皮膚疾患の治療に有用なケラチノサイトおよび線維芽細胞などの皮膚細胞を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1]生体の間葉系組織又は培養間葉系細胞に由来するSSEA-3陽性の多能性幹細胞を含む、表皮水疱症を治療するための細胞製剤。
[2]表皮水疱症が、単純型表皮水疱症である、[1]に記載の細胞製剤。
[3]表皮水疱症が、接合部型表皮水疱症である、[1]に記載の細胞製剤。
[4]表皮水疱症が、栄養障害型表皮水疱症である、[1]に記載の細胞製剤。
[5]栄養障害型表皮水疱症が、優性栄養障害型表皮水疱症又は劣性栄養障害型表皮水疱症である、[4]に記載の細胞製剤。
[6]前記多能性幹細胞が、以下の性質の全てを有する多能性幹細胞である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の細胞製剤:
(i)テロメラーゼ活性が低いか又は無い;
(ii)三胚葉のいずれの胚葉の細胞に分化する能力を持つ;
(iii)腫瘍性増殖を示さない;及び
(iv)セルフリニューアル能を持つ。
[7]前記多能性幹細胞が、以下の性質の全てを有する多能性幹細胞である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の細胞製剤:
(i)SSEA-3陽性;
(ii)CD105陽性;
(iii)テロメラーゼ活性が低いか又は無い;
(iv)三胚葉のいずれかの胚葉に分化する能力を持つ;
(v)腫瘍性増殖を示さない;及び
(vi)セルフリニューアル能を持つ。
[8]生体の間葉系組織又は培養間葉系細胞に由来するSSEA-3陽性の多能性幹細胞から分化誘導された皮膚細胞。
[9]皮膚細胞がケラチノサイトおよび/または線維芽細胞である、[8]に記載の皮膚細胞。
[10][8]または[9]に記載の皮膚細胞を含む、皮膚疾患を治療するための細胞製剤。
[11]皮膚疾患が表皮水疱症である、[10]に記載の細胞製剤。
[12]上記[1]~[6]のいずれかに記載の細胞製剤の有効量を、治療を必要とする患者に投与する工程を含む、表皮水疱症の治療方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、表皮水疱症の患者に対し、Muse細胞を血管等から投与、あるいは対象の水疱・びらんを形成した皮膚部位及びその周辺に直接投与することにより、損傷皮膚を再建及び修復し、皮膚症状を改善又は回復させることができる。したがって、本発明のMuse細胞を含む細胞製剤は表皮水疱症の治療に使用できることができる。
【0016】
Muse細胞は、水疱・びらんを形成した皮膚部位に効率的に遊走して生着することができ、生着した部位で表皮細胞へと自発的に分化するので移植に先立って治療対象細胞への分化誘導が不要である。また、非腫瘍形成性であり安全性にも優れる。さらに、Muse細胞は免疫拒絶を受けないことから、ドナーから製造された他家製剤による治療も可能である。従って、上記に示す優れた性能を有するMuse細胞によって、表皮水疱症の患者の治療に対する容易に実行可能な手段を提供することができる。
【0017】
本発明ではまた、表皮水疱症等の皮膚疾患の患者に対し、Muse細胞から分化誘導させたケラチノサイトおよび線維芽細胞などの皮膚細胞を皮膚疾患部位及びその周辺に投与することにより、損傷皮膚を再建及び修復し、皮膚症状を改善又は回復させることができる。したがって、本発明のMuse細胞から分化誘導させた皮膚細胞を含む細胞製剤は表皮水疱症等の皮膚疾患の治療に使用できることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は各群の全層創傷モデルマウスの創傷部位(投与0,3,6,9日後)の写真である。
【
図2】
図2は各群の全層創傷モデルマウスの創傷部位における、上皮化率の経時変化を示すグラフである。
【
図3】
図3は各群の全層創傷モデルマウスの創傷部位の組織切片における、ヒト核およびヒト7型コラーゲン(COL7)を染色した結果を示す顕微鏡写真である。
【
図4】
図4はMuse細胞(中)またはHBSS(右)が投与されたCOL17ノックアウトマウスの皮膚の状態を示す写真である。左は投与前を示す。
【
図5】
図5はMuse細胞が投与されたCOL17ノックアウトマウスの皮膚におけるヒトCOL7遺伝子(A)およびヒトCOL17遺伝子(B)の発現を解析したRT-PCRの結果を示す電気泳動写真である。レーンLは電気泳動マーカー、レーン1~6はMuse細胞が投与されたCOL17ノックアウトマウス6匹の結果、レーン7は正常ヒトケラチノサイト(陽性コントロール)、レーン8は正常B6マウス(陰性コントロール)、レーン9は水のみ。
【
図6】
図6はMuse細胞が投与されたCOL17ノックアウトマウスの皮膚組織切片におけるヒトCOL7を染色した結果を示す顕微鏡写真である。
【
図7】
図7はMuse細胞のケラチノサイトへの分化を示す写真である。
【
図8】
図8はMuse細胞から分化させたケラチノサイトにおけるケラチノサイトマーカーの発現を示す免疫染色の写真である。
【
図9】
図9はMuse細胞から分化させたケラチノサイトにおけるケラチノサイトマーカーの発現を示すRT-PCRの写真である。
【
図10】
図10はMuse細胞の線維芽細胞への分化を示す写真である。
【
図11】
図11はMuse細胞から分化させた線維芽細胞における線維芽細胞マーカーの発現を示す免疫染色の写真である。
【
図12】
図12はMuse細胞から分化させた線維芽細胞における線維芽細胞マーカーの発現を示すRT-PCRの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<1>Muse細胞を含む細胞製剤
本発明は、SSEA-3陽性の多能性幹細胞(Muse細胞)を含む、表皮水疱症を治療するための細胞製剤に関する。なお、治療には症状の治癒、緩和、再発防止などが含まれる。本発明を以下に詳細に説明する。
【0020】
1.適用疾患
本発明のSSEA-3陽性の多能性幹細胞(Muse細胞)を含む細胞製剤は、表皮水疱症の治療に使用される。
本発明において、「表皮水疱症」とは、皮膚基底膜領域における接着構造制御蛋白質の遺伝子異常等の原因により表皮・真皮間の接着機能が破綻し、日常生活の軽微な外力で表皮が基底膜レベルで剥離して水疱、潰瘍および/またはびらんを形成する遺伝性水疱性皮膚難病をいう。
【0021】
本発明において、表皮水疱症とは、水疱の形成する部位によって単純型表皮水疱症、接合部型表皮水疱症、栄養障害型表皮水疱症(例えば、優性栄養障害型表皮水疱症、劣性栄養障害型表皮水疱症など)の3型に大別され、例えば、四肢末梢や大関節部などの外力を受けやすい部位に、軽微な外力により水疱やびらんを生じるものである。
【0022】
2.細胞製剤
(1)多能性幹細胞(Muse細胞)
本発明の細胞製剤に使用される多能性幹細胞は、出澤らが、ヒト生体内にその存在を見出し、「Muse(Multilineage-differentiating St
ress Enduring)細胞」と命名した細胞である。Muse細胞は、骨髄液、
脂肪組織(Ogura,F.,et al.,Stem Cells Dev.,Nov 20,2013(Epub)(published on Jan 17,2014))や皮膚の真皮結合組織等から得ることができるほか、広く組織や臓器の結合組織に存在することが知られている。また、この細胞は、多能性幹細胞と間葉系幹細胞の両方の性質を有する細胞であり、例えば、細胞表面マーカーである「SSEA-3(Stage-specific embryonic antigen-3)」陽性細胞、好ましくはSSEA-3陽性かつCD-105陽性の二重陽性細胞として同定される。したがって、Muse細胞又はMuse細胞を含む細胞集団は、例えば、SSEA-3単独又はSSEA-3及びCD-105の発現を指標として生体組織から分離することができる。Muse細胞の分離法、同定法、及び特徴などの詳細は、国際公開第WO2011/007900号に開示されている。また、Muse細胞が様々な外的ストレスに対する耐性が高いことを利用して、蛋白質分解酵素処理や、低酸素条件、低リン酸条件、低血清濃度、低栄養条件、熱ショックへの暴露、有害物質存在下、活性酸素存在下、機械的刺激下、圧力処理下など各種外的ストレス条件下での培養によりMuse細胞を選択的に濃縮することができる。なお、本明細書においては、表皮水疱症を治療するための細胞製剤として、SSEA-3を指標として用いて、生体の間葉系組織又は培養間葉系組織から調製された多能性幹細胞(Muse細胞)又はMuse細胞を含む細胞集団を単に「SSEA-3陽性細胞」と記載することがある。また、本明細書においては、「非Muse細胞」とは、生体の間葉系組織又は培養間葉系細胞に含まれる細胞であって、「SSEA-3陽性細胞」以外の細胞を指すことがある。
【0023】
Muse細胞又はMuse細胞を含む細胞集団は、細胞表面マーカーであるSSEA-3又はSSEA-3及びCD-105を指標として生体組織(例えば、間葉系組織)から調製することができる。ここで、「生体」とは、哺乳動物の生体をいう。本発明において、生体には、受精卵や胞胚期より発生段階が前の胚は含まれないが、胎児や胞胚を含む胞胚期以降の発生段階の胚は含まれる。哺乳動物には、限定されないが、ヒト、サル等の霊長類、マウス、ラット、ウサギ、モルモット等のげっ歯類、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ロバ、ヤギ、フェレット等が挙げられる。本発明の細胞製剤に使用されるMuse細胞は、生体の組織から直接マーカーを持って分離される点で、胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹(iPS)細胞と明確に区別される。また、「間葉系組織」とは、骨、滑膜、脂肪、血液、骨髄、骨格筋、真皮、靭帯、腱、歯髄、臍帯、臍帯血、羊膜などの組織及び各種臓器に存在する組織をいう。例えば、Muse細胞は、骨髄や皮膚、脂肪組織、血液、歯髄、臍帯、臍帯血、羊膜などから得ることができる。例えば、生体の間葉系組織を採取し、この組織からMuse細胞を調製し、利用することが好ましい。また、上記調製手段を用いて、線維芽細胞や骨髄間葉系幹細胞などの培養間葉系細胞からMuse細胞を調製してもよい。
【0024】
また、本発明の細胞製剤に使用されるMuse細胞を含む細胞集団は、生体の間葉系組織又は培養間葉系細胞に外的ストレス刺激を与えることにより、該外的ストレスに耐性の細胞を選択的に増殖させてその存在比率を高めた細胞を回収することを含む方法によっても調製することができる。
前記外的ストレスは、プロテアーゼ処理、低酸素濃度での培養、低リン酸条件下での培養、低血清濃度での培養、低栄養条件での培養、熱ショックへの暴露下での培養、低温での培養、凍結処理、有害物質存在下での培養、活性酸素存在下での培養、機械的刺激下での培養、振とう処理下での培養、圧力処理下での培養又は物理的衝撃のいずれか又は複数の組み合わせであってもよい。
前記プロテアーゼによる処理時間は、細胞に外的ストレスを与えるために合計0.5~
36時間行うことが好ましい。また、プロテアーゼ濃度は、培養容器に接着した細胞を剥がすとき、細胞塊を単一細胞にばらばらにするとき、又は組織から単一細胞を回収するときに用いられる濃度であればよい。
前記プロテアーゼは、セリンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、システインプロテアーゼ、金属プロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ又はN末端スレオニンプロテアーゼであることが好ましい。更に、前記プロテアーゼがトリプシン、コラゲナーゼ又はジスパーゼであることが好ましい。
【0025】
なお、本発明の細胞製剤においては、使用されるMuse細胞は、細胞移植を受けるレシピエントに対して自家であってもよく、又は他家であってもよい。
【0026】
上記のように、Muse細胞又はMuse細胞を含む細胞集団は、例えば、SSEA-3陽性又はSSEA-3及びCD-105の二重陽性を指標にして生体組織から調製することができるが、ヒト成人皮膚には、種々のタイプの幹細胞及び前駆細胞を含むことが知られている。しかしながら、Muse細胞は、これらの細胞と同じではない。このような幹細胞及び前駆細胞には、皮膚由来前駆細胞(SKP)、神経堤幹細胞(NCSC)、メラノブラスト(MB)、血管周囲細胞(PC)、内皮前駆細胞(EP)、脂肪由来幹細胞(ADSC)が挙げられる。これらの細胞に固有のマーカーの「非発現」を指標として、Muse細胞を調製することができる。より具体的には、Muse細胞は、CD34(EP及びADSCのマーカー)、CD117(c-kit)(MBのマーカー)、CD146(PC及びADSCのマーカー)、CD271(NGFR)(NCSCのマーカー)、NG2(PCのマーカー)、vWF因子(フォンビルブランド因子)(EPのマーカー)、Sox10(NCSCのマーカー)、Snai1(SKPのマーカー)、Slug(SKPのマーカー)、Tyrp1(MBのマーカー)、及びDct(MBのマーカー)からなる群から選択される11個のマーカーのうち少なくとも1個、例えば、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個又は11個のマーカーの非発現を指標に分離することができる。例えば、限定されないが、CD117及びCD146の非発現を指標に調製することができ、さらに、CD117、CD146、NG2、CD34、vWF及びCD271の非発現を指標に調製することができ、さらに、上記の11個のマーカーの非発現を指標に調製することができる。
【0027】
また、本発明の細胞製剤に使用される上記特徴を有するMuse細胞は、以下:
(i)テロメラーゼ活性が低いか又は無い;
(ii)三胚葉のいずれの胚葉の細胞に分化する能力を持つ;
(iii)腫瘍性増殖を示さない;及び
(iv)セルフリニューアル能を持つ
からなる群から選択される少なくとも1つの性質を有してもよい。好ましくは、本発明の細胞製剤に使用されるMuse細胞は、上記性質を全て有する。
ここで、上記(i)について、「テロメラーゼ活性が低いか又は無い」とは、例えば、TRAPEZE XL telomerase detection kit(Millipore社)を用いてテロメラーゼ活性を検出した場合に、低いか又は検出できないことをいう。テロメラーゼ活性が「低い」とは、例えば、体細胞であるヒト線維芽細胞と同程度のテロメラーゼ活性を有しているか、又はHela細胞に比べて1/5以下、好ましくは1/10以下のテロメラーゼ活性を有していることをいう。
上記(ii)について、Muse細胞は、in vitro及びin vivoにおいて、三胚葉(内胚葉系、中胚葉系、及び外胚葉系)に分化する能力を有し、例えば、in
vitroで誘導培養することにより、肝細胞(肝芽細胞又は肝細胞マーカーを発現する細胞を含む)、神経細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、骨細胞、脂肪細胞等に分化し得る。また、in vivoで精巣に移植した場合にも三胚葉に分化する能力を示す場合がある
。さらに、静注により生体に移植することで傷害を受けた臓器(心臓、皮膚、脊髄、肝、
筋肉等)に遊走及び生着し、組織に応じた細胞に分化する能力を有する。
上記(iii)について、Muse細胞は、増殖速度約1.3日で増殖するが、浮遊培養では1細胞から増殖し、胚様体様細胞塊を作り一定の大きさになると14日間程度で増殖が止まる、という性質を有するが、これらの胚様体様細胞塊を接着培養に移行すると、再び細胞増殖が開始され、細胞塊から増殖した細胞が約1.3日の増殖速度で広がっていく。さらに精巣に移植した場合、少なくとも半年間は癌化しないという性質を有する。
また、上記(iv)について、Muse細胞は、セルフリニューアル(自己複製)能を有する。ここで、「セルフリニューアル」とは、1個のMuse細胞から浮遊培養で培養することにより得られる胚様体様細胞塊に含まれる細胞から3胚葉性の細胞への分化が確認できると同時に、胚様体様細胞塊の細胞を再び1細胞で浮遊培養に持っていくことにより、次の世代の胚様体様細胞塊を形成させ、そこから再び3胚葉性の分化と浮遊培養での胚様体様細胞塊が確認できることをいう。セルフリニューアルは1回又は複数回のサイクルを繰り返せばよい。
【0028】
(2)Muse細胞を含む細胞製剤の調製及び使用
本発明のMuse細胞を含む細胞製剤は、限定されないが、上記(1)で得られたMuse細胞又はMuse細胞を含む細胞集団を生理食塩水や適切な緩衝液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水)に懸濁させることによって得られる。この場合、自家又は他家の組織から分離したMuse細胞数が少ない場合には、細胞移植前に細胞を培養して、所定の細胞数が得られるまで増殖させてもよい。なお、すでに報告されているように(国際公開第WO2011/007900号パンフレット)、Muse細胞は、腫瘍化しないため、生体組織から回収した細胞が未分化のまま含まれていても癌化の可能性が低く安全である。また、回収したMuse細胞の培養は、特に限定されないが、通常の増殖培地(例えば、10%仔牛血清を含むα-最少必須培地(α-MEM)など)において行うことができる。より詳しくは、上記国際公開第WO2011/007900号パンフレットを参照して、Muse細胞の培養及び増殖において、適宜、培地、添加物(例えば、抗生物質、血清)等を選択し、所定濃度のMuse細胞を含む溶液を調製することができる。ヒト対象に本発明のMuse細胞を含む細胞製剤を投与する場合には、ヒトの腸骨から骨髄液を採取し、例えば、骨髄液からの接着細胞として骨髄間葉系幹細胞を培養して有効な治療量のMuse細胞が得られる細胞量に達するまで増やした後、Muse細胞をSSEA-3の抗原マーカーを指標として分離し、自家又は他家のMuse細胞を細胞製剤として調製することができる。あるいは、例えば、骨髄液から得られた骨髄間葉系幹細胞を外的ストレス条件下で培養して有効な治療量に達するまでMuse細胞を増殖、濃縮した後、自家又は他家のMuse細胞を細胞製剤として調製することができる。
【0029】
また、Muse細胞の細胞製剤への使用においては、該細胞を保護するためにジメチルスルフォキシド(DMSO)や血清アルブミン等を、細菌の混入及び増殖を防ぐために抗生物質等を細胞製剤に含有させてもよい。さらに、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を細胞製剤に含有させてもよい。当業者は、これら因子及び薬剤を適切な濃度で細胞製剤に添加することができる。このように、Muse細胞は、各種添加物を含む医薬組成物として使用することも可能である。
【0030】
上記で調製される細胞製剤中に含有するMuse細胞数は、表皮水疱症の治療において所望の効果が得られるように、対象の性別、年齢、体重、患部の状態、使用する細胞の状態等を考慮して、適宜、調整することができる。なお、対象とする個体はヒトなどの哺乳動物を含むがこれに限定されない。また、本発明のMuse細胞を含む細胞製剤は、所望の治療効果が得られるまで、複数回、適宜、間隔(例えば、1日に2回、1日に1回、1週間に2回、1週間に1回、2週間に1回、1ヶ月に1回、2ヶ月に1回、3ヶ月に1回、6ヶ月に1回)をおいて投与されてもよい。したがって、対象の状態にもよるが、治療上有効量としては、例えば、一個体あたり一回につき1×103細胞~1×1010細胞で1年間の間に1~10回の投与量が好ましい。一個体における投与総量としては、限定されないが、1×103細胞~1×1011細胞、好ましくは1×104細胞~1×1010細胞、さらに好ましくは1×105細胞~1×109細胞などが挙げられる。
【0031】
本発明の細胞製剤に使用されるMuse細胞は、表皮水疱症の損傷皮膚へと遊走し、生着する性質を有する。したがって、細胞製剤の投与において、細胞製剤の投与部位や投与方法は限定されず、患部への局所投与でもよいし、静脈等への投与でもよい。
【0032】
本発明のMuse細胞を含む細胞製剤は、表皮水疱症の患者の損傷皮膚の修復及び再生することができる。損傷皮膚の修復及び再生は、例えば、COL7やCOL17などのコラーゲンタンパク質の発現回復および/または発現上昇により確認できる。すなわち、本発明のMuse細胞を含む細胞製剤は、コラーゲンタンパク質の発現回復および/または発現上昇作用を有する。
【0033】
<2>Muse細胞から分化誘導された皮膚細胞およびそれを含む細胞製剤
本発明においては、Muse細胞から分化誘導されたケラチノサイトおよび/または線維芽細胞などの皮膚細胞を細胞製剤として使用することもできる。
ケラチノサイトとはケラチンを産生する細胞であり、表皮細胞または角化細胞ともよばれる。Muse細胞からケラチノサイトへの分化誘導は、例えば、Muse細胞をケラチノサイト増殖因子(KGF)と上皮増殖因子(EGF)を含む培地で培養する、好ましくはMuse細胞をKGFとEGFを含む培地で培養した後に、KGFとEGFと肝細胞増殖因子(HGF)とインスリン様増殖因子2(IGF2)を含む培地で培養することによって行うことができる。ここで、KGFの好ましい濃度範囲は例えば5~20ng/mlであり、EGFの好ましい濃度範囲は例えば20~40ng/mlであり、IGF2の好ましい濃度範囲は例えば40~80ng/mlである。好ましい培養期間は例えば7~28日である。
線維芽細胞とは、コラーゲンやエラスチンなどの真皮成分を産生する細胞であり、Muse細胞から線維芽細胞への分化誘導は、例えば、Muse細胞をトランスフォーミング増殖因子-β2(TGF-β2)とアスコルビン酸(AA)を含む培地で培養する、好ましくはMuse細胞をTGF-β2とAAを含む培地で培養した後に、AAを含む培地で培養することによって行うことができる。ここで、TGF-β2の好ましい濃度範囲は例えば30~60μg/mlであり、AAの好ましい濃度範囲は例えば20~80mmol/lである。好ましい培養期間は例えば7~28日である。
【0034】
Muse細胞から分化誘導されたケラチノサイトおよび/または線維芽細胞などの皮膚細胞を含む細胞製剤は表皮水疱症のみならず、皮膚細胞の補充療法によって治療しうる皮膚疾患全般の治療に使用できる。
【0035】
Muse細胞から分化誘導された皮膚細胞を含む細胞製剤の使用においては、該細胞を保護するためにジメチルスルフォキシド(DMSO)や血清アルブミン等を、また、細菌の混入及び増殖を防ぐために抗生物質等を細胞製剤に含有させてもよい。さらに、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を細胞製剤に含有させてもよい。
【0036】
細胞製剤の投与量は皮膚疾患の治療において所望の効果が得られるように、対象の性別、年齢、体重、患部の状態、使用する細胞の状態等を考慮して、適宜、調整することができる。なお、対象とする個体はヒトなどの哺乳動物を含むがこれに限定されない。また、細胞製剤は、所望の治療効果が得られるまで、複数回、適宜、間隔(例えば、1日に2回、1日に1回、1週間に2回、1週間に1回、2週間に1回、1ヶ月に1回、2ヶ月に1回、3ヶ月に1回、6ヶ月に1回)をおいて投与されてもよい。したがって、対象の状態にもよるが、治療上有効量としては、例えば、一個体あたり一回につき1×103細胞~1×1010細胞で1年間の間に1~10回の投与量が好ましい。一個体における投与総量としては、限定されないが、1×103細胞~1×1011細胞、好ましくは1×104細胞~1×1010細胞、さらに好ましくは1×105細胞~1×109細胞などが挙げられる。投与方法は特に制限されないが、皮膚疾患部位またはその周辺に局所投与することが好ましい。皮膚細胞はシート化して患部に適用してもよい。
【0037】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例0038】
ヒトMuse細胞の調製
ヒトMuse細胞の分離及び同定に関する国際公開第WO2011/007900号に記載された方法に準じて、Muse細胞を得た。Muse細胞は間葉系幹細胞をストレス条件下で培養することにより拡大富化培養した。また、市販のMSCを購入してMSC群として使用した。
【0039】
実施例1.全層創傷モデルマウスでの評価
成体C57BL/6マウスの背面に全層創傷を施してモデルとして用いた。全層創傷を施して
から30分以内に、上記で調製したMuse細胞 (3×10
5/マウスまたは3×10
4/マウス)
、MSC (3×10
5/mouse)またはHBSS 200μlを尾静脈注射し、治療効果を調べた。
なお、上皮化率は以下のようにして算出した。
創傷作成時および作成後3、6、9、11日目の背部皮膚を、定規とともにデジタルカメラで撮影し、それぞれの皮膚潰瘍面積(mm
2)をImage Jソフトウェア(バージョン1.50i)を用いて算出した。創傷作成時の面積を基準値として、面積の縮小率を%で算出した。
【数1】
【0040】
結果を
図1及び
図2に示す。いずれの群でも時間の経過とともに創傷は治癒したが、3日目の時点において、Muse細胞(3×10
5/マウス)投与群ではMSC投与群やHBS
S投与群と比べて有意に早い治癒と高い上皮化率が見られ、表皮水疱症の治療にMuse細胞の投与が有効であることが示された。
【0041】
また、14日目に創傷部位の皮膚組織を単離し、切片を作製して、核染色およびヒトCOL7を染色したところ、
図3に示すように、Muse細胞投与群では表皮および真皮にヒトCOL7の存在が確認され、投与されたMuse細胞が皮膚に遊走し表皮と真皮の接着に必要な分子を産生したことが確認できた。
【0042】
実施例2.COL17ノックアウト表皮水疱症モデルマウスでの評価
COL17遺伝子ノックアウトマウス(参考文献Nat Med. 2007 Mar;13(3):378-83.)
(3~4週齢)において、表皮を摩擦して水疱を形成させ、水疱形成から30分以内にMuse細胞 (3 ×10
5/マウス)を尾静脈より注射した。1ヶ月後に皮膚の状態を観察した結果、
図4に示すように、HBSSを投与したコントロールマウスでは被毛状態が悪く、傷や粘膜びらんの形成が広範に認められたが、Muse細胞を投与したマウスでは被毛状態、傷の形成ともに軽度であった。また、投与1ヶ月後の皮膚組織を単離し、そこからRNAを抽出し、RT-PCRにより、ヒト由来COL7遺伝子およびCOL17遺伝子の
発現を調べた。結果を
図5に示す。その結果、Muse細胞投与マウスではヒトCOL7およびヒトCOL17の存在が確認され、投与されたMuse細胞が接着因子を供給していることが確認できた。ヒトCOL7の発現はタンパク質レベルでも確認できた(
図6)。
【0043】
実施例3.Muse細胞のケラチノサイトへの分化誘導
以下の手順でMuse細胞を培養することにより、ケラチノサイトへの分化誘導を行った。
0日目 Muse細胞のプレーティング
1日目 DMEM lowグルコース培地+10%FBS+KGF(10ng/ml)+EGF(20~30ng/ml)で3日間培養
4日目 DMEM lowグルコース培地+10%FBS+KGF(10ng/ml)+EGF(20~30ng/ml)+HGF(10ng/ml)+IGF2(60ng/ml)で1日おきに培地を交換しながら8~14日間培養
【0044】
結果を
図7~9に示す。
図7に示すように、分化8日目の細胞はケラチノサイト様の形態を示した。また、
図8および9に示すように、分化誘導した細胞はタンパク質レベルおよびmRNAレベルでケラチノサイトマーカーの発現を示した。
【0045】
実施例4.Muse細胞の線維芽細胞への分化誘導
以下の手順でMuse細胞を培養することにより、線維芽細胞への分化誘導を行った。
0日目 Muse細胞のプレーティング
1日目 10ml DMEM lowグルコース培地+2μl TGF-β2(50μ
g/ml)+60μl AA(50mM)+100μl ITS-A(インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム)で1日おきに培地を交換しながら6日間培養
7日目 DMEM lowグルコース培地+20%FBS+60μl AA(50mM
)で1日おきに培地を交換しながら10日間培養
17日目 DMEM lowグルコース培地+10%FBSで培養
【0046】
結果を
図10~12に示す。
図10に示すように、分化10日目の細胞は線維芽細胞様の形態を示した。また、
図11および12に示すように、分化誘導した細胞はタンパク質レベルおよびmRNAレベルで線維芽細胞マーカーの発現を示した。
本発明の細胞製剤は、表皮水疱症の患者に投与することにより、損傷皮膚を再建及び修復し、皮膚症状を改善又は回復させることができ、表皮水疱症の治療に応用することができる。
生体の間葉系組織又は培養間葉系細胞に由来するSSEA-3陽性の多能性幹細胞を含む、表皮水疱症を治療するための細胞製剤。