(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023060629
(43)【公開日】2023-04-28
(54)【発明の名称】レーザ装置
(51)【国際特許分類】
H01S 5/22 20060101AFI20230421BHJP
H01S 5/14 20060101ALI20230421BHJP
【FI】
H01S5/22 610
H01S5/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021170330
(22)【出願日】2021-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100180529
【弁理士】
【氏名又は名称】梶谷 美道
(74)【代理人】
【識別番号】100125922
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 章子
(74)【代理人】
【識別番号】100184985
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 成康
(74)【代理人】
【識別番号】100218981
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】高野 哲至
(72)【発明者】
【氏名】小川 尚史
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AA08
5F173AB46
5F173AB64
5F173AB66
5F173AD06
5F173AH22
5F173MF02
5F173MF13
5F173MF28
5F173MF39
(57)【要約】
【課題】波長結合ビームにおける収差の発生を抑制する。
【解決手段】レーザ装置は、共振器を形成する第1ミラーおよび第2ミラーと、ミラー間に配置されて異なる波長でレーザ発振する複数のレーザ発振領域を含む半導体レーザ素子であって、複数のレーザ発振領域は、各レーザ発振領域から出射されたレーザ光の進行軸が互いに近づくようにレーザ光を伝搬させる導波路部を有する半導体レーザ素子と、半導体レーザ素子と第2ミラーとの間に配置されてレーザ光をコリメートビームに変換するコリメータと、コリメータと第2ミラーとの間においてコリメートビームが交差する位置に配置された回折格子であってコリメートビームを波長に応じて異なる角度で回折して波長結合ビームを形成し、第1方向に出射する回折格子とを備える。第2ミラーの少なくとも一部は、平面ミラーであり、回折格子から出射された波長結合ビームを第1方向とは反対の第2方向に反射して回折格子に戻す。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振器を形成する第1ミラーおよび第2ミラーと、
前記第1ミラーと前記第2ミラーとの間に配置され、動作時に互いに異なる波長でレーザ発振する複数のレーザ発振領域を含む半導体レーザ素子であって、前記複数のレーザ発振領域は、各レーザ発振領域から出射されたレーザ光の進行軸が互いに近づくように前記レーザ光を伝搬させる導波路部を有している、半導体レーザ素子と、
前記半導体レーザ素子と前記第2ミラーとの間に配置され、前記複数のレーザ発振領域から出射されたレーザ光を複数のコリメートビームに変換するコリメータと、
前記コリメータと前記第2ミラーとの間において前記複数のコリメートビームが交差する位置に配置された回折格子であって、前記複数のコリメートビームを波長に応じて異なる角度で回折して波長結合ビームを形成し、前記波長結合ビームを第1方向に出射する、回折格子と、
を備え、
前記第2ミラーの少なくとも一部は、平面ミラーであり、前記回折格子から出射された前記波長結合ビームを前記第1方向とは反対の第2方向に反射して前記回折格子に戻す、レーザ装置。
【請求項2】
前記半導体レーザ素子は、前記複数のレーザ発振領域を有するレーザバーであり、
前記レーザバーは、
前記複数のレーザ発振領域のそれぞれの一端が並んだ光出射面と、
前記複数のレーザ発振領域のそれぞれの他端が並んだ光反射面と、
を有し、
前記光反射面には、前記第1ミラーを形成する反射膜が設けられており、前記光出射面には反射防止膜が設けられている、請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項3】
前記半導体レーザ素子は、前記導波路部を規定する複数のリッジおよび/または複数のストライプ電極を有している、請求項2に記載のレーザ装置。
【請求項4】
前記複数のリッジおよび/または複数のストライプ電極は、平面視において、前記光出射面に対して異なる角度を形成する部分を有している、請求項3に記載のレーザ装置。
【請求項5】
前記複数のリッジおよび/または複数のストライプ電極は、平面視において、前記光出射面に対して直交する方向に延びる部分を有している、請求項4に記載のレーザ装置。
【請求項6】
前記複数のレーザ発振領域のそれぞれは、前記第2ミラーによって反射された前記波長結合ビームが前記回折格子によって回折されて形成する複数の光線に含まれる所定波長の光線の入射を受け、
前記複数のレーザ発振領域のそれぞれは、入射した前記光線のピーク波長で発振する、請求項1から5のいずれか1項に記載のレーザ装置。
【請求項7】
前記コリメータは、それぞれが対応する前記レーザ光の前記進行軸に平行な光軸を有する複数のコリメートレンズを有している、請求項1から6のいずれか1項に記載のレーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザ素子から出射された波長が異なる複数のレーザビームを回折格子によって1つのビームに結合させる技術が開発されている。このような技術は、波長合波(WBC:Wavelength Beam Combining)と称されている。特許文献1は、半導体レーザ素子から出射された複数のビームを結合レンズによって回折格子上に集光し、同軸上に重畳して単一ビームを形成するレーザシステムを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているレーザシステムは、複数のビームを結合レンズによって回折格子上に集光する構成を備えている。この構成は、結合レンズを用いているため、収差が発生するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示のレーザ装置は、例示的な実施形態において、共振器を形成する第1ミラーおよび第2ミラーと、前記第1ミラーと前記第2ミラーとの間に配置され、動作時に互いに異なる波長でレーザ発振する複数のレーザ発振領域を含む半導体レーザ素子であって、前記複数のレーザ発振領域は、各レーザ発振領域から出射されたレーザ光の進行軸が互いに近づくように前記レーザ光を伝搬させる導波路部を有している、半導体レーザ素子と、前記半導体レーザ素子と前記第2ミラーとの間に配置され、前記複数のレーザ発振領域から出射されたレーザ光を複数のコリメートビームに変換するコリメータと、前記コリメータと前記第2ミラーとの間において前記複数のコリメートビームが交差する位置に配置された回折格子であって、前記複数のコリメートビームを波長に応じて異なる角度で回折して波長結合ビームを形成し、前記波長結合ビームを第1方向に出射する、回折格子と、を備える。前記第2ミラーの少なくとも一部は、平面ミラーであり、前記回折格子から出射された前記波長結合ビームを前記第1方向とは反対の第2方向に反射して前記回折格子に戻す。
【発明の効果】
【0006】
本開示の実施形態によれば、収差の発生を抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本開示の実施形態におけるレーザ装置の構成例を模式的に示す平面図である。
【
図2】
図2は、一般的な半導体レーザ素子の導波路部を模式的に示す平面図である。
【
図3】
図3は、本開示の実施形態におけるレーザ装置が備える半導体レーザ素子の導波路部の例を模式的に示す平面図である。
【
図4】
図4は、
図3のIV-IV線における半導体レーザ素子の断面図である。
【
図5】
図5は、
図3のV-V線における半導体レーザ素子の断面図である。
【
図6】
図6は、回折格子による回折を模式的に示す図である。
【
図7】
図7は、レーザ発振領域のゲイン曲線と、単一縦モードで発振しているときのレーザ光のスペクトルを模式的に示す図である。
【
図8】
図8は、本開示の実施形態におけるレーザ装置の他の構成例を模式的に示す平面図である。
【
図9】
図9は、本開示の実施形態におけるレーザ装置が備える半導体レーザ素子の導波路部の他の例を模式的に示す平面図である。
【
図10】
図10は、本開示の実施形態におけるレーザ装置が備える半導体レーザ素子の導波路部の更に他の例を模式的に示す平面図である。
【
図11】
図11は、本開示の実施形態におけるレーザ装置が備える半導体レーザ素子の導波路部の更に他の例を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態によるレーザ装置を詳細に説明する。複数の図面に表れる同一符号の部分は同一または同等の部分を示す。構成要素の寸法、材質、形状、その相対的配置などの記載は、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、例示することを意図している。各図面が示す部材の大きさや位置関係などは、理解を容易にするなどのために誇張している場合がある。
【0009】
<第1実施形態>
図面を参照しながら、本開示によるレーザ装置の実施形態を説明する。図面には、参考のため、互いに直交するX軸、Y軸、およびZ軸が示されている。
【0010】
まず、
図1を参照する。本実施形態におけるレーザ装置100は、共振器を形成する第1ミラーM1および第2ミラーM2、および、第1ミラーM1と第2ミラーM2との間に配置された半導体レーザ素子10を備える。半導体レーザ素子10は、動作時に互いに異なる波長でレーザ発振する複数のレーザ発振領域10Xを含む。図示される例において、半導体レーザ素子10は、4個のレーザ発振領域10Xを有するレーザバーである。4個のレーザ発振領域10Xは、動作時において、それぞれ、λ1、λ2、λ3、λ4の波長でレーザ発振を行い、波長がλ1、λ2、λ3、λ4のレーザ光を出射する。1個のレーザバーが含むレーザ発振領域10Xの個数は4に限定されず、3であってもよいし、5以上、例えば10以上であってもよい。半導体レーザ素子10は、複数のレーザ発振領域10Xを規定する複数のリッジおよび/または複数のストライプ電極を有し得る。
【0011】
図2は、一般的な半導体レーザ素子10Qが有するレーザ発振領域10Xの形状を模式的に示す平面図である。レーザ発振領域10Xから出射されたレーザ光Lの進行軸は互いに平行である。言い換えると、半導体レーザ素子10Qにおいて、レーザ光を伝搬させる各導波路部はZ軸方向に沿って直線状に延びている。
【0012】
これに対して、本実施形態のレーザ装置100では、
図1に示されるように、複数のレーザ発振領域10Xが、各レーザ発振領域10Xから出射された各レーザ光Lの進行軸が互いに近づき、交差するようにレーザ光を伝搬させる導波路部を有している。以下、この点を詳細に説明する。
【0013】
図3は、本実施形態におけるレーザ装置100が備える半導体レーザ素子10の導波路部18を模式的に示す平面図である。半導体レーザ素子10の断面構成については後述する。半導体レーザ素子10を構成するレーザバーは、複数のレーザ発振領域10Xのそれぞれの一端が並んだ光出射面10Fと、複数のレーザ発振領域10Xのそれぞれの他端が並んだ光反射面10Rとを有する。光反射面10Rには、
図1に示されるように、第1ミラーM1を形成する反射膜が設けられる。また、光出射面10Fには、反射防止膜が設けられる。このような反射膜および反射防止膜の例は、誘電体多層膜である。第1ミラーM1と第2ミラーM2とが形成する共振器は、「外部共振器」と呼ばれる。
【0014】
図3の例において、導波路部18は、Z軸方向に沿って直線状に延びる第1部分18aと、ゼロよりも大きな曲率でカーブする第2部分18bとを含んでいる。
図3の例では、O-O線(一点鎖線)の左側に第1部分18aが位置し、O-O線の右側に第2部分18bが位置している。この例において、O-O線はX軸に平行な直線である。しかし、第1部分18aと第2部分18bとの境界のZ軸方向における位置が同じである必要はない。言い換えると、第1部分18aのZ軸方向における長さは、導波路部18ごとに異なっていてもよい。なお、第2部分18bの全体が曲率を有している必要はなく、第2部分18bが直線部分を含んでいてもよい。重要な点は、第2部分18bの端から出射されるレーザ光の進行方向がZ軸に対して所定の角度を形成するように、第2部分18bが光出射面10Fに対して傾斜している(直交していない)ことである。この「所定の角度」の大きさについては、後述する。
【0015】
次に、
図4および
図5を参照して、半導体レーザ素子10の構成例を説明する。
図4は、
図3のIV-IV線における半導体レーザ素子10の断面図であり、
図5は、
図3のV-V線における半導体レーザ素子10の断面図である。
【0016】
図示される半導体レーザ素子10は、第1導電型半導体基板11aと、第1導電型半導体層11bと、活性層11cと、第2導電型半導体層11dとを備えている。ここで、「第1導電型」は、p型およびn型の一方であり、「第2導電型」は、p型およびn型の他方である。第1導電型半導体層11bおよび第2導電型半導体層11dのそれぞれは、クラッド層およびガイド層などの複数の層を含む多層構造を備えてもよい。また、活性層11cは、単一量子井戸構造または多重量子井戸構造を備えていてもよい。
【0017】
第2導電型半導体層11dの上部には、リッジ13が設けられている。個々のリッジ13の上面には第2導電側電極(ストライプ電極)15が形成されている。第1導電型半導体基板11aの下面には第1導電側電極14が設けられている。隣り合う第2導電側電極15は、第2導電型半導体層11d上に形成された絶縁層17によって互いに電気的に分離されている。第2導電側電極15の上にはパッド電極16が設けられている。
【0018】
なお、第2導電型半導体層11dは、リッジ13内において、第2導電側電極15に接する部分にコンタクト層を備えていてもよい。リッジ13は、
図3における導波路部18の形状およびサイズを規定する。このため、
図3の導波路部18の第1部分18aおよび第2部分18bの平面レイアウトは、リッジ13の平面レイアウトによって規定される。リッジ13の平面レイアウトは、第2導電型半導体層11dの上部(例えばクラッド層の上部)をエッチングする工程におけるエッチングマスクの形状によって所望の形状に規定することができる。
【0019】
第1導電側電極14および第2導電側電極15は、それぞれ、駆動回路に接続される。駆動回路によって第1導電側電極14と第2導電側電極15との間に所定の電圧が印加されると、各リッジ13内をY軸方向に電流が流れる。活性層11cのレーザ発振領域10Xを流れる電流が閾値を超えると、レーザ発振領域10Xでは電荷の反転分布が形成され、所定の波長範囲にある光を増幅してレーザ発振を生じさせることが可能になる。各レーザ発振領域10Xの幅は、リッジ13またはストライプ電極15の幅によって規定される。各レーザ発振領域10Xは、半導体レーザ素子10内における光が出射するまでの光路にあたる部分であり、導波路部を含む。
【0020】
図3の例では、平面視において、光反射面10Rに対して導波路部18の直線状に延びる第1部分18aは直交している。このため、直線状に延びる第1部分18aから光反射面10Rに入射したレーザ光は、直線状に延びる第1部分18a内に正反射される。このことは、第1部分18aが光反射面10Rに対して傾斜している場合に比べて、反射による損失を低下させる効果をもたらす。
図3の構成例によれば、並走する導波路部18の第2部分18bが所定の方向にカーブし、かつ、第1部分18aが光反射面10Rに直交しているため、複数のレーザ発振領域10Xから出射されるレーザ光Lの進行軸を互いに近づけ、交差させるとともに、光反射面10Rによる反射損失の増加を抑制することができる。またレーザ光Lの進行軸を互いに近づけ、交差させるため、集光レンズを設けなくてもよい。複数のレーザ光を1つの集光レンズに入射させると、集光レンズの中央部に入射するレーザ光と周縁部に入射するレーザ光とによる収差が発生するおそれがある。集光レンズを設けないことで、部品点数を削減しつつ、収差の発生を抑制することができる。
【0021】
なお、光出射面10Fでは、半導体レーザ素子10からレーザ光Lが出射されるだけではなく、後述する第2ミラーM2によって反射されたレーザ光が半導体レーザ素子10に戻ってくる。
図3に示されるように、平面視において、導波路部18の第2部分18bは光出射面10Fに対して傾斜している。レーザ光Lが光出射面10Fを通過するとき、屈折が生じる。この屈折の効果を考慮して、導波路部18の第2部分18bと光出射面10Fとの間の角度が決定され得る。
【0022】
上述したように、導波路部18の平面レイアウトは、リッジ13および第2導電側電極(ストライプ電極)15の平面レイアウトによって規定される。このため、本実施形態では、複数のリッジ13および/または複数のストライプ電極15は、平面視において、それぞれ光出射面10Fに対して異なる角度を形成する部分を有し、かつ、光反射面10Rに対して直交する方向に延びる部分を有している。
【0023】
半導体レーザ素子10としては、例えば、青色の光を放射する半導体レーザ素子、緑色の光を放射する半導体レーザ素子、または、赤色の光を放射する半導体レーザ素子などを採用することができる。紫外や赤外等の、青色、緑色、赤色以外の光を放射する半導体レーザ素子を採用してもよい。本明細書において、青色の光は、発光ピーク波長が420nm~494nmの範囲にある光である。緑色の光は、発光ピーク波長が495nm~570nmの範囲にある光である。赤色の光は、発光ピーク波長が605nm~750nmの範囲にある光である。青色の光または緑色の光を発する半導体レーザ素子の例は、窒化物半導体を含む。窒化物半導体としては、例えば、GaN、InGaN、およびAlGaNを用いることができる。赤色の光を発する半導体レーザ素子の例は、InAlGaP系やGaInP系、GaAs系やAlGaAs系の半導体を含む。レーザ装置100を例えば金属材料の加工に用いる場合、加工対象となる金属材料の吸収率が高い波長で発振する半導体レーザ素子10を用いることが望ましい。
【0024】
【0025】
本実施形態において、レーザ装置100は、半導体レーザ素子10と第2ミラーM2との間に配置されたコリメータ20を備える。コリメータ20は、複数のレーザ発振領域10Xから出射されたレーザ光Lを複数のコリメートビーム12に変換するように構成されている。複数のコリメートビーム12の進行軸が互いに近づき、交差する。コリメータ20は、コリメータレンズの集まりである。コリメータ20は、レーザ発振領域10Xの個数に等しい個数のレンズが1個のプラスチック材料から形成されたレンズアレイであってもよいし、複数のレンズが並べられた光学部品アセンブリであってもよい。ある態様において、コリメータ20は、それぞれが対応するレーザ光Lの進行軸に平行な光軸を有する複数のコリメートレンズを有し得る。コリメータ20は、コリメータレンズの集まりであるため、半導体レーザ素子10から出射された複数のレーザ光Lがそれぞれ異なるコリメータレンズに入射する。このことにより、1つのレンズに複数のレーザ光Lが入射する場合と比較して、半導体レーザ素子10とコリメータ20との距離を短くすることができる。また、複数のレーザ光Lをそれぞれ異なるコリメータレンズの中央部に入射させることができるため、レーザの波形に乱れが生じることを抑制できる。
【0026】
図1では、半導体レーザ素子10から出射されたレーザ光Lおよびコリメートビーム12を、単純な直線で示している。実際のレーザ光Lおよびコリメートビーム12は、進行方向に直交する平面内において強度分布を有する光ビームである。この強度分布は、光ビームの進行方向に直交する平面内において、例えばガウス分布などの分布関数によって近似することができる。本開示において、ビームの直径を「ビーム径」と称する。そして、ビーム径は、ビーム中心の光強度に対して1/e
2以上の光強度を持つ領域のサイズによって定義する。ここで、「e」は、ネイピア数である。光ビームの強度分布は、必ずしも軸対称である必要はない。半導体レーザ素子10から出射される光は、Z軸方向に進行するとき、Y軸方向およびX軸方向に発散する。この例において、Y軸方向に発散する角度は、X軸方向に発散する角度よりも大きい。このため、半導体レーザ素子10について、Y軸方向を「速軸」、X軸方向を「遅軸」と呼ぶことができる。半導体レーザ素子10から出射されたレーザ光Lは、出射直後はX軸(遅軸)方向に長軸を有する楕円状の強度分布(ニアフィールドパターン)を有しているが、Z軸方向に進行していくと、Y軸(速軸)方向に長軸を有する楕円状の強度分布(ファーフィールドパターン)を有する。コリメータ20は、このようなレーザ光Lの速軸方向の発散角度および遅軸方向の発散角度を小さくするように作用する。この場合、コリメータ20は、例えば、レンズ面の母線方向(曲率がゼロの方向)がXZ面内においてレーザ光Lの進行方向に直交する方向に平行な4個のシリンドリカルレンズ(速軸コリメートレンズ)と、それぞれのレンズ面の母線方向がY軸方向に平行な4個のシリンドリカルレンズ(遅軸コリメートレンズ)の組合せであり得る。
【0027】
コリメータ20を透過して発散角が小さくなったコリメートビームは、厳密には平行光ではなく、発散角とビーム径の積が有限の値を有するガウシアンビームに近似される。図面では、このような光ビームの進行方向を模式的に示すため、光ビームの中心軸を直線によって表現している。これらの直線は、各光ビームの中心を通る光線を示していると考えてもよい。
【0028】
各コリメートビーム12のビーム径は、複数のレーザ発振領域10Xの中心間距離以下である。各レーザ発振領域10Xの幅は、例えば、1μm以上200μm以下であり得る。この幅は、隣接するレーザ発振領域10Xの中心間距離の20~80%の長さであり得る。
【0029】
図1に示されるレーザ装置100は、コリメータ20と第2ミラーM2との間において、複数のレーザ発振領域10Xから出射されるレーザ光Lの進行軸が交差する位置に所定の角度に配置された回折格子Gを備える。コリメータ20から出射された複数のコリメートビーム12は、それぞれ、異なる角度で回折格子Gの同一の領域64に入射する。回折格子Gは、複数のコリメートビーム12を領域64で回折する。回折格子Gで回折した複数のコリメートビーム12は合波され、波長結合ビーム40を形成し、第1方向50に出射される。
【0030】
本実施形態において、回折格子Gの回折溝の延びる方向はY軸方向に平行である。
【0031】
以下、
図6を参照しながら、回折格子Gの構成および機能を説明する。
【0032】
図6は、複数のコリメートビーム12が回折格子Gの同一領域に入射し、そこで回折される様子を模式的に示す図である。この例において、領域64に入射したコリメートビーム12は、回折格子Gで回折されて同軸に重畳されて波長結合ビーム40を形成する。
【0033】
回折格子Gに入射する4本のコリメートビーム12の入射角αを、それぞれ、α1、α2、α3、α4とする。入射角αは、回折格子Gの法線方向66に対してコリメートビーム12の中心軸が形成する角度である。
【0034】
コリメートビーム12が回折格子Gに入射して形成される透過回折光の回折角をβとすると、以下の式1の関係が成立する。
sinα + sinβ = N・m・λ ・・・(式1)
ここで、Nは回折格子Gの単位長さあたりの溝数、mは回折次数、λは光の波長である。
【0035】
回折次数mを1とすると、例えば、N=2220、波長λが410.0nm、入射角αが45.0度の場合、回折角βは11.77度に等しくなる。6の例において、4本のコリメートビーム12のうち、波長λ=λ4=410.0nmのコリメートビーム12が入射角α=α4=45.00度で回折格子Gの領域64に入射し、回折されて第1方向50に出射されるとする。この例において、入射角α1、α2、α3で回折格子Gに入射するコリメートビーム12が、いずれも、第1方向50に沿って同軸上の1次回折光を形成するのは、それぞれの回折角βが11.77度に等しくなるときである。入射角α1、α2、α3の大きさは、半導体レーザ素子10における導波路部18の構成と回折格子Gの向きに応じて決定される。そして、入射角αによって波長λが決まる。例えば、α1=46.26度、α2=45.84度、α3=45.42度の場合、λ1=416.92nm、λ2=414.63nm、λ3=412.32nmのときに式1の関係が満たされる。このようにして、入射角α1、α2、α3、α4と回折角βが決まると、式1から、波長λ1、λ2、λ3、λ4が決まる。表1は、式1の関係を満足する波長λ、入射角α、回折角βの幾つかの例を示している。
【0036】
【0037】
半導体レーザ素子10の複数のレーザ発振領域10Xは、例えば表1に示される波長λを含む所定の波長範囲でレーザ発振が可能である。本実施形態のレーザ装置100によれば、式1の関係を満足する波長λを有するコリメートビーム12が選択的に同軸に重畳されて波長結合ビーム40を形成する。この波長結合ビーム40は、後述する構成により、第2ミラーM2によって部分的に反射されてレーザ発振領域10Xに帰還する。その結果、各レーザ発振領域10Xでは、レーザ発振可能な波長範囲のうち、式1を満足する特定の波長λ1、λ2、λ3、λ4で選択的に鋭く発振することができる。
【0038】
図7は、レーザ発振領域10Xのゲイン曲線と、式1を満足する波長λの単一縦モードで発振しているレーザ光のスペクトルとを模式的に示す図である。1個の半導体レーザ素子10が有する複数のレーザ発振領域10Xは、同一のゲイン曲線を有し得る。しかし、表1に示されるように、式1を満足する波長λ1、λ2、λ3、λ4の大きさは、入射角α1、α2、α3、α4に依存して異なる。このため、それぞれのレーザ発振領域10Xでは、互いに異なる波長λ1、λ2、λ3、λ4の光が選択的に増幅され、レーザ光として出射される。表1の例において、波長λ1、λ2、λ3、λ4は、410.00nmから413.92nmの範囲にある。このため、半導体レーザ素子10の各レーザ発振領域10Xは、この範囲よりも広い範囲で発振することができるゲイン特性を有することが求められる。
【0039】
上記の説明において、回折格子Gの領域64に入射するコリメートビーム12の入射角α1、α2、α3、α4は、半導体レーザ素子10における導波路部18の構成と回折格子Gの向きに応じて決定されると述べた。しかし、レーザ発振が生じる前の段階では、
図7のゲイン曲線で示されるようにブロードな波長幅を有する光が半導体レーザ素子10から出射され得る。その結果、回折格子Gにおける特定の領域64に入射した光線の回折角βは有限の幅を有し得る。しかし、第2ミラーM2が同軸上に回折するコリメートビームを正反射するため、その結果、所定の方向に回折される光の波長を有する光が各レーザ発振領域10Xに帰還して、その波長で発振することが可能になる。
【0040】
第2ミラーM2の少なくとも一部は、平面ミラー70である。平面ミラー70は、回折格子Gから出射された波長結合ビーム40を第1方向50とは反対の第2方向52に反射して回折格子Gに戻すように構成されている。また、第2ミラーM2は、波長結合ビーム40の一部を透過する部分反射型のミラーである。第2ミラーM2を透過した波長結合ビーム40がレーザ装置100から取り出されて利用される。
【0041】
各レーザ発振領域10Xは、第2ミラーM2で反射された波長結合ビーム40が回折格子Gによって回折されて形成され複数の光線(回折ビーム)に含まれる所定波長の光線の入射を受ける。複数のレーザ発振領域10Xのそれぞれは、入射した光線のピーク波長で発振する。
【0042】
なお、上記の実施形態において、回折格子Gは、透過型の回折格子であるが、回折格子Gは反射型の回折格子であってもよい。
図8は、
図1に示すレーザ装置100において、回折格子Gを反射型の回折格子に置き換えた改変例を模式的に示す図である。
【0043】
図示される例において、回折は、回折格子Gの光入射側表面で生じているように記載されている。しかし、回折は、回折格子Gにおける光入射側表面の反対側に位置する裏面で生じてもよいし、回折格子内部で生じてもよい。
【0044】
次に、
図9から
図11を参照して、本実施形態における半導体レーザ素子10が備える導波路部18の他の構成例を説明する。
【0045】
上述の
図3の例では、平面視において、すべての導波路部18の第2部分18bはカーブしているが、導波路部18の構成は、この例に限定されない。ある導波路部18は、直線状に延びる第2部分18bを有していてもよい。例えば、
図9に示される例では、奇数本の導波路部18のうち、中央に位置する導波路部18では、第1部分18aおよび第2部分18bの両方が直線状に延びている。このような構成によっても、各レーザ発振領域10Xから出射されたレーザ光Lの進行軸が互いに近づき、交差するようにできる。
【0046】
直線状に延びる導波路部18の位置は、半導体レーザ素子10の中央に限定されない。
図10の例において、
図10中の下端に位置する導波路部18が直線状に延びている。なお、
図3および
図9の例では、平面視において、半導体レーザ素子10の中央を通ってZ軸方向に平行に延びる直線に関して、複数の導波路部18が対称に配置されている。しかし、
図10に示されるように、複数の導波路部18が対称に配置されている必要はない。また、
図11に示されるように、すべての導波路部18における第2部分18bが、Z軸方向に対してX軸の負側に傾斜していてもよい。これとは逆に、すべての導波路部18における第2部分18bが、Z軸方向に対してX軸の正側に傾斜していてもよい。なお、すべての導波路部18における第2部分18bがZ軸方向に対してX軸の負側に傾斜している第1の半導体レーザ素子10と、すべての導波路部18における第2部分18bがZ軸方向に対してX軸の負側に傾斜している第2の半導体レーザ素子10とを組み合わせて使用してもよい。
【0047】
上記の各実施形態におけるレーザ装置によれば、複数のレーザ発振領域を有する半導体レーザ素子の導波路が、各レーザ発振領域から出射されたレーザ光の進行軸を互いに近づき、交差するようにレーザ光を伝搬させる。レーザ光の進行軸が交差する位置に回折格子を配置するため、1個の回折格子によって波長結合ビームを形成することができ、集光レンズなどを用いなくてもよく、部品点数を減らしつつ、収差の発生を抑制することができる。部品点数の減少は、光学ロスによるパワー低下を抑制することを可能にする。また、リッジの中心間距離をレーザ光の出射点間隔よりも広くできるため、発熱するレーザ発振領域を疎に配列して放熱性能の改善を可能にする。更に、互いに波長が異なるレーザビームが同軸上に重畳した波長結合ビームが得られるため、単一波長のレーザビームでは達成できないような高い光強度を実現することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本開示のレーザ装置は、高出力のレーザ光源が必要とされる産業用分野、例えば各種材料の切断、穴あけ、局所的熱処理、表面処理、金属の溶接、3Dプリンティングなどに利用され得る。
【0049】
本開示のレーザ装置は、ファイバレーザ装置の励起光源、あるいは、材料を直接に照射して加工するダイレクトダイオードレーザ装置のレーザ光源として利用され得る。
【符号の説明】
【0050】
10・・・半導体レーザ素子、10F・・・半導体レーザ素子の光出射面、10R・・・半導体レーザ素子の光反射面、10X・・・レーザ発振領域、12・・・コリメートビーム、20・・・コリメータ、40・・・波長結合ビーム、50・・・第1方向、52・・・第2方向、70・・・平面ミラー、100・・・レーザ装置、G・・・回折格子、M1・・・第1ミラー、M2・・・第2ミラー