(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023060701
(43)【公開日】2023-04-28
(54)【発明の名称】タンパク質の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 21/02 20060101AFI20230421BHJP
C07K 1/02 20060101ALI20230421BHJP
C07K 14/435 20060101ALI20230421BHJP
C12N 15/54 20060101ALI20230421BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230421BHJP
【FI】
C12P21/02 A ZNA
C07K1/02
C07K14/435
C12N15/54
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021170433
(22)【出願日】2021-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 孝
(72)【発明者】
【氏名】木川 隆則
(72)【発明者】
【氏名】樋口 佳恵
【テーマコード(参考)】
4B064
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA02
4B064CA21
4B064CC24
4B064CE12
4H045AA20
4H045BA41
4H045FA70
4H045GA26
(57)【要約】
【課題】無細胞タンパク質合成系を用いたタンパク質合成におけるタンパク質の可溶性を改善できるタンパク質の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】コールドショックタンパク質、及びコールドショックタンパク質をコードするコード領域を含む核酸のいずれか一方又は両方を含む無細胞タンパク質合成系の反応液で、グルタチオン-S-トランスフェラーゼタグを有するタンパク質を合成する。また、無細胞タンパク質合成系の反応液でグルタチオン-S-トランスフェラーゼタグを有するタンパク質を合成する方法において、合成に用いる鋳型核酸における、前記グルタチオン-S-トランスフェラーゼタグのN末端から連続する11個又は12個のアミノ酸配列をコードする領域の塩基配列を最適化する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コールドショックタンパク質、及びコールドショックタンパク質をコードするコード領域を含む核酸のいずれか一方又は両方を含む無細胞タンパク質合成系の反応液で、グルタチオン-S-トランスフェラーゼタグを有するタンパク質を合成する、タンパク質の製造方法。
【請求項2】
前記グルタチオン-S-トランスフェラーゼタグのN末端から連続する11個又は12個のアミノ酸配列が、配列番号1または2で表されるアミノ酸配列である、請求項1に記載のタンパク質の製造方法。
【請求項3】
合成に用いる鋳型核酸における、前記グルタチオン-S-トランスフェラーゼタグのN末端から連続する11個又は12個のアミノ酸配列をコードする領域の塩基配列が、配列番号3~11のいずれかで表される塩基配列である、請求項1又は2に記載のタンパク質の製造方法。
【請求項4】
合成に用いる鋳型核酸における前記グルタチオン-S-トランスフェラーゼタグをコードする領域の塩基配列が、RNAの二次構造を回避するアルゴリズム、及びコドンとGC含有率を発現生物種に合わせて最適化するアルゴリズムを含むソフトウェアによって最適化されている、請求項1~3のいずれか一項に記載のタンパク質の製造方法。
【請求項5】
前記コールドショックタンパク質が大腸菌由来のCspAであり、かつ、合成に用いる鋳型核酸における、前記グルタチオン-S-トランスフェラーゼタグのN末端から連続する11個又は12個のアミノ酸配列をコードする領域の塩基配列が、配列番号7~9のいずれかで表される塩基配列である、請求項1~4のいずれか一項に記載のタンパク質の製造方法。
【請求項6】
反応温度を4~30℃とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のタンパク質の製造方法。
【請求項7】
無細胞タンパク質合成系の反応液でグルタチオン-S-トランスフェラーゼタグを有するタンパク質を合成する方法であって、
合成に用いる鋳型核酸における、前記グルタチオン-S-トランスフェラーゼタグのN末端から連続する11個又は12個のアミノ酸配列をコードする領域の塩基配列が、配列番号4、6~11のいずれかで表される塩基配列である、タンパク質の製造方法。
【請求項8】
前記反応液が、細胞抽出液を含む溶液である、請求項1~7のいずれか一項に記載のタンパク質の製造方法。
【請求項9】
前記細胞抽出液が、大腸菌由来の細胞抽出液である、請求項8に記載のタンパク質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の製造方法としては、タンパク質の翻訳に必要な因子を細胞抽出液として取り出し、細胞内の反応系を試験管内で再構成した無細胞タンパク質合成系を用いる方法が知られている(特許文献1、2)。細胞抽出液としては、大腸菌、昆虫細胞、コムギ胚芽、タバコ細胞及び動物細胞由来の細胞抽出液が知られており、キット化されたものが市販されている。
【0003】
無細胞タンパク質合成系は、迅速にタンパク質を合成できる、標識タンパク質や細胞毒性タンパク質を合成できる、反応液組成を自由に変更できる、PCR産物を鋳型として使用できる、遺伝子組換え実験に該当しない、といった利点がある。しかし、無細胞タンパク質合成系は、得られるタンパク質の可溶性が不十分となることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平7-110236号公報
【特許文献2】特開平4-200390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、無細胞タンパク質合成系を用いたタンパク質合成におけるタンパク質の可溶性を改善できるタンパク質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]コールドショックタンパク質、及びコールドショックタンパク質をコードするコード領域を含む核酸のいずれか一方又は両方を含む無細胞タンパク質合成系の反応液で、グルタチオン-S-トランスフェラーゼタグを有するタンパク質を合成する、タンパク質の製造方法。
[2]前記グルタチオン-S-トランスフェラーゼタグのN末端から連続する11個又は12個のアミノ酸配列が、配列番号1または2で表されるアミノ酸配列である、[1]に記載のタンパク質の製造方法。
[3]合成に用いる鋳型核酸における、前記グルタチオン-S-トランスフェラーゼタグのN末端から連続する11個又は12個のアミノ酸配列をコードする領域の塩基配列が、配列番号3~11のいずれかで表される塩基配列である、[1]又は[2]に記載のタンパク質の製造方法。
[4]合成に用いる鋳型核酸における前記グルタチオン-S-トランスフェラーゼタグをコードする領域の塩基配列が、RNAの二次構造を回避するアルゴリズム、及びコドンとGC含有率を発現生物種に合わせて最適化するアルゴリズムを含むソフトウェアによって最適化されている、[1]~[3]のいずれかに記載のタンパク質の製造方法。
[5]前記コールドショックタンパク質が大腸菌由来のCspAであり、かつ、合成に用いる鋳型核酸における、前記グルタチオン-S-トランスフェラーゼタグのN末端から連続する11個又は12個のアミノ酸配列をコードする領域の塩基配列が、配列番号7~9のいずれかで表される塩基配列である、[1]~[4]のいずれかに記載のタンパク質の製造方法。
[6]反応温度を4~30℃とする、[1]~[5]のいずれかに記載のタンパク質の製造方法。
[7]無細胞タンパク質合成系の反応液でグルタチオン-S-トランスフェラーゼタグを有するタンパク質を合成する方法であって、合成に用いる鋳型核酸における、前記グルタチオン-S-トランスフェラーゼタグのN末端から連続する11個又は12個のアミノ酸配列をコードする領域の塩基配列が、配列番号4、6~11のいずれかで表される塩基配列である、タンパク質の製造方法。
[8]前記反応液が、細胞抽出液を含む溶液である、[1]~[6]のいずれかに記載のタンパク質の製造方法。
[9]前記細胞抽出液が、大腸菌由来の細胞抽出液である、[7]に記載のタンパク質の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、無細胞タンパク質合成系を用いたタンパク質合成におけるタンパク質の可溶性を改善できるタンパク質の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】例1におけるGSTの合成の電気泳動結果である。
【
図2】例2におけるGST融合タンパク質の合成量(蛍光値)を示した図であって、
図2(a)は反応温度30℃、
図2(b)は反応温度23℃、
図2(c)は反応温度16℃の結果である。
【
図3】例3におけるGST融合タンパク質の合成の電気泳動結果である。
【
図4】例4におけるGST融合タンパク質の合成量(蛍光値)を示した図であって、
図4(a)は反応温度23℃、
図4(b)は反応温度16℃の結果である。
【
図5】例5におけるGST融合タンパク質の合成量(蛍光値)を示した図であって、
図5(a)はSq12、Sq18、Sq23、Sq24、
図5(b)はSq15、Sq18、Sq25の結果である。
【
図6】例6におけるGST融合タンパク質の合成の電気泳動結果である。
【
図7】例7におけるGST融合タンパク質の合成の電気泳動結果である。
【
図8】例8におけるGST融合タンパク質の合成の電気泳動結果である。
【
図9】例9におけるGST融合タンパク質の合成の電気泳動結果である。
【
図10】例10におけるGST融合タンパク質の合成の電気泳動結果である。
【
図11】例11におけるGST融合タンパク質の合成の電気泳動結果であって、Hisタグ、Sq12、Sq13、Sq15の結果である。
【
図12】例11におけるGST融合タンパク質の合成の電気泳動結果であって、Hisタグ、Sq18、Sq19、Sq20の結果である。
【
図13】例12におけるGST融合タンパク質の合成の電気泳動結果であって、Hisタグ、Sq12、Sq13、Sq15の結果である。
【
図14】例12におけるGST融合タンパク質の合成の電気泳動結果であって、Hisタグ、Sq18、Sq19、Sq20の結果である。
【
図15】例13におけるGST融合タンパク質の合成の電気泳動結果であって、Hisタグ、Sq12、Sq13、Sq15の結果である。
【
図16】例13におけるGST融合タンパク質の合成の電気泳動結果であって、Hisタグ、Sq18、Sq19、Sq20の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書及び特許請求の範囲における以下の用語は、以下の意味を示す。
「無細胞タンパク質合成系」とは、タンパク質の翻訳に必要なタンパク質因子を細胞抽出液として取り出し、細胞内の反応系を試験管内で再構成することで目的とするタンパク質を合成する系である。無細胞タンパク質合成系には、DNAを鋳型としてRNAを合成する無細胞転写系、及びmRNAの情報を読み取ってリボソーム上でタンパク質を合成する無細胞翻訳系を含む無細胞転写翻訳系と、無細胞翻訳系との両方が包含される。
「コールドショックタンパク質」とは、Pfamデータベース(バージョン32.0)のCSDファミリー(PF00313)に対してスコア値100以上で適合するアミノ酸配列を有するタンパク質ないしはタンパク質ドメインである。
「~」で表される数値範囲は、~の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。
【0010】
[第1実施形態]
第1実施形態に係るタンパク質の製造方法は、コールドショックタンパク質(以下、「Csp」ともいう。)、及びCspをコードするコード領域を含む核酸のいずれか一方又は両方を含む無細胞タンパク質合成系(以下、「CF系」ともいう。)の反応液で、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(以下、「GST」ともいう。)タグを有するタンパク質を合成する方法である。すなわち、Cspの存在下のCF系の反応液でタンパク質合成を行い、目的タンパク質にGSTタグが付加されたGST融合タンパク質を得る方法である。
第1実施形態は、とりわけ低温でのタンパク質合成において、得られるタンパク質の可溶性を改善できる点で有効である。
【0011】
CF系には、CF系に必要な成分を含む細胞から抽出した細胞抽出液、あるいはタンパク質合成に必要な因子を個別に精製して混合した再構成型無細胞タンパク質合成法に用いられる溶液を用いることができる。タンパク質合成に必要な因子としては、リボソーム、アミノアシルtRNA合成酵素、tRNA、翻訳終結因子等が挙げられる。
反応液としては、細胞抽出液を含む溶液が好ましい。
【0012】
細胞抽出液としては、例えば、リボソーム、アミノアシルtRNA合成酵素、tRNA等のタンパク質合成に関与する翻訳系に必要な成分、又は、転写系及び翻訳系に必要な成分を含む植物細胞、動物細胞、真菌細胞、細菌細胞から抽出した細胞抽出液が挙げられる。具体的には、例えば、大腸菌、小麦胚芽、タバコ細胞、ウサギ網赤血球、マウスL-細胞、エールリッヒ腹水癌細胞、HeLa細胞、CHO細胞、出芽酵母等からの細胞抽出液が挙げられる。
【0013】
細胞抽出液としては、抽出液調製の安定性とスケーラビリティの点から、大腸菌由来の細胞抽出液が好ましい。大腸菌由来の細胞抽出液としては、例えば、大腸菌(BL21等)細胞からのS30抽出液(以下、「大腸菌S30抽出液」ともいう。)、S12抽出液等が挙げられる。大腸菌S30抽出液は、転写及び翻訳に必要な大腸菌の全ての酵素と因子を含んでいる。
【0014】
細胞抽出液の調製方法は、特に限定されず、公知の方法を採用できる。例えば、大腸菌S30抽出液は、Zubay G., Ann Rev Genet, (1973) 7, 267-287、Seki, E., Matsuda, N., Yokoyama, S., and Kigawa, T. (2008), Anal. Biochem.等に記載の方法で調製できる。
細胞抽出液の調製方法としては、具体的には、まず大腸菌を培養し、菌体を遠心分離等により回収する。回収された菌体を洗浄した後、緩衝液に再懸濁し、フレンチプレスやガラスビーズ、ワーリングブレンダー等を用いて破砕する。破砕された大腸菌の不溶物質を遠心分離で除去し、プレインキュベーション混合液と混合してインキュベーションする。この操作によって内在性の核酸(DNA、RNA)は分解されるが、さらにカルシウム塩やマイクロコッカスのヌクレアーゼ等を添加して内在性の核酸を分解させてもよい。続いて、透析により内在性のアミノ酸、核酸、ヌクレオシド等を除き、適量ずつ分注して、液体窒素中、又は-80℃にて保存する。
なお、細胞抽出液は、市販品を使用してもよい。
【0015】
反応液中の細胞抽出液の含有量は、反応液中の終濃度(細胞抽出液の260nmの吸光度A260換算量)として40~200であることが好ましく、50~150がより好ましい。細胞抽出液の含有量が前記範囲内であれば、目的タンパク質を高効率に合成しやすい。
【0016】
細胞抽出液には、転写及び翻訳に必要な全ての酵素と因子が含まれているが、タンパク質合成の反応液に用いる際に、さらに補充的な成分を添加してもよい。
補充的な成分としては、例えば、基質となるL-アミノ酸、エネルギー源、塩、各種イオン、緩衝液、エネルギー再生系、核酸分解酵素阻害剤、還元剤、抗菌剤が挙げられる。
【0017】
L-アミノ酸としては、例えば、天然の20種類のアミノ酸、又はそれらの誘導体が挙げられる。目的タンパク質として、同位体標識された標識タンパク質を製造する場合は、安定同位元素もしくは、放射性同位元素で標識された標識アミノ酸を用いる。
エネルギー源としては、例えば、アデノシン三リン酸(ATP)、シチジン三リン酸(CTP)、グアノシン三リン酸(GTP)、ウリジン三リン酸(UTP)(以下、この4つを総称してNTPと呼ぶ。)、クレアチンホスフェート(CP)、ホスホエノールピルビン酸(PEP)、グルコースが挙げられる。また、NTPの代わりにアデノシン一リン酸(AMP)、シチジン一リン酸(CMP)、グアノシン一リン酸(GMP)、及びウリジン一リン酸(UMP)(以下、この4つを総称してNMPと呼ぶ。)を反応液に添加し、代謝酵素を利用することによってNTPを系内で合成させてもよい(Calhoun KA and Swartz JR, Biotechnol. Prog., 2005, 21, 1146-1153)。
塩としては、例えば、酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、グルタミン酸カリウム、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、塩化カルシウムが挙げられる。
緩衝液としては、例えば、Tris-酢酸、HEPES-KOHが挙げられる。
【0018】
エネルギー再生系としては、ATP再生系が好ましい。ATP再生系としては、例えば、10~100mMのCPと0.02~5μg/μLのクレアチンキナーゼ(CK)との組み合わせや、1~20mMのPEPと0.01~1μg/μLのピルビン酸キナーゼ(PK)との組み合わせ等が挙げられる。PK及びCKは、いずれもADPをATPに再生する酵素であり、それぞれPEP及びCPを基質として必要とする。
【0019】
核酸分解酵素阻害剤としては、例えば、RNaseインヒビターが挙げられる。
還元剤としては、例えば、ジチオスレイトール(DTT)が挙げられる。
抗菌剤としては、例えば、アジ化ナトリウム、アンピシリンが挙げられる。
【0020】
タンパク質合成活性を増強させる目的で、ポリエチレングリコール(PEG)、葉酸、cAMP、tRNA等を添加してもよい。また、目的タンパク質の鋳型としてDNAを用いる場合には、RNA合成の基質であるNTPかその前駆体(NMP、ヌクレオシド等)、RNAポリメラーゼ(T7、T3、及びSP6 RNAポリメラーゼ等)等を含むことができる。タンパク質が三次元構造を形成するのを助ける働きを持つシャペロンタンパク質類(例えば、DnaJ、DnaK、GroE、GroEL、GroES及びHSP70等)や、ジスルフィド結合異性化酵素(DsbC等)を添加してもよい。
補充的な成分は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0021】
大腸菌S30抽出液を用いる場合、反応液は、大腸菌S30抽出液、L-アミノ酸、緩衝液、塩、NTP、及びエネルギー源を含むことが好ましい。例えば、大腸菌S30抽出液、HEPES-KOH、DTT、NTP(ATP、CTP、GTP、UTP)、CP、CK、少なくとも1種のアミノ酸(天然の20種類のアミノ酸、又はそれらの誘導体)を含む反応液が挙げられる。
【0022】
補充的な成分は、細胞抽出液とは別に保存しておき、使用直前に混合することが好ましい。補充的な成分を細胞抽出液に予め混合して凍結融解を行い、RNA分解酵素複合体を除去することもできる(国際公開第2000/183805号)。
【0023】
本実施形態では、CF系の反応液に、Csp及びCsp鋳型核酸のいずれか一方、又は両方が含まれる。本発明では、Cspを用いることが好ましい。
Cspは、低温環境下への適応に関与すると考えられており、細菌から高等動植物に至るまで多く見出されている。Cspとしては、例えば、大腸菌由来のCspA、CspB、CspC、CspE、CspG及びCspI、シュワネラ属のShewanella livingstonensis由来のSliCspC、Bacillus属のBacillus subtilis由来のBsuCspBが挙げられる。大腸菌由来のCspAは、低温環境下で最も顕著に発現されるCspである。反応液に含まれるCspは、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0024】
Cspを用いる場合、反応液中のCspの含有量は、0.5~1.5μg/μLが好ましく、反応温度が16~23℃の場合には0.8~1.2μg/μL、16℃よりも低温の場合には1.2~1.5μg/μLがより好ましい。Cspの含有量が前記範囲内であれば、目的タンパク質を高効率に合成しやすい。
【0025】
Csp鋳型核酸は、CF系において、Cspを合成するための鋳型となる核酸である。CF系の反応液中にCsp鋳型核酸が含まれることで、反応中にCspが合成されて、Cspを含む反応液となる。Cspは低温環境においても速やかに合成されるため、Csp鋳型核酸を用いる場合でもCspの存在下で目的タンパク質が合成される。反応液に含まれるCsp鋳型核酸は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0026】
Csp鋳型核酸を用いる場合、反応液中のCsp鋳型核酸の含有量は、0.1~1.0ng/μLが好ましく、0.2~0.8ng/μLがより好ましく、0.2~0.4ng/μLがさらに好ましい。Csp鋳型核酸の含有量が前記範囲内であれば、目的タンパク質を高効率に合成しやすい。
【0027】
本実施形態では、鋳型核酸として、鋳型DNAを用いてもよく、鋳型RNAを用いてもよい。すなわち、鋳型DNAを無細胞転写翻訳系に加えてGST融合タンパク質を合成してもよく、鋳型RNAを無細胞翻訳系に加えてGST融合タンパク質を合成してもよい。
鋳型DNAを用いる場合、GST融合タンパク質の鋳型DNAの形態は、特に限定されず、組換えDNA技術により作製されたプラスミドDNA等の環状二本鎖DNA、あるいはPCRによって調製した直鎖状DNAのいずれでもよい。本発明では、直鎖状鋳型DNAを用いても安定かつ高効率にGST融合タンパク質を合成できる。
【0028】
本実施形態におけるGSTタグとしては、日本住血吸虫(Shistosoma japonicum)由来遺伝子から発現するGST(分子量:26kDa)を利用することができる。また、野生型GSTに加えて、GSTタグの発現量を高め得る変異を含む変異型GSTを用いることもできる。
合成するGST融合タンパク質において、GSTタグは目的タンパク質のN末端側に付加されていることが好ましい。
【0029】
目的タンパクに付加するGSTタグとしては、例えば、N末端から連続する11個のアミノ酸の領域が、野生型と同じである配列番号1で表されるアミノ酸配列になっているGSTタグ、及び、N末端から2番目にリジンが挿入されている、N末端から連続する12個のアミノ酸の領域が配列番号2で表されるアミノ酸配列になっているGSTタグを例示できる。配列番号2で表されるアミノ酸配列のように、GSTタグのN末端から2番目にリジンを挿入すると、可溶性が改善されたタンパク質が発現しやすくなる。
以下、GSTタグにおいて、配列番号1で表されるN末端から11番目のアミノ酸(リジン)までの領域と、配列番号2で表されるN末端から12番目のアミノ酸(リジン)までの領域とをまとめて「領域A」ともいう。
【0030】
また、鋳型核酸においては、可溶性が改善されたタンパク質が発現しやすい点から、GSTタグの開始コドンの周辺にサイレントミューテーションが導入されていることが好ましい。より具体的には、鋳型核酸のGSTタグの領域Aをコードする領域にサイレントミューテーションが導入されていることが好ましい。
【0031】
鋳型核酸のGSTタグの領域Aをコードする領域の塩基配列としては、例えば、配列番号3~11で表される塩基配列を例示できる。なかでも、可溶性が改善されたタンパク質が発現しやすい点から、配列番号4~11で表される塩基配列が好ましく、配列番号4、6~11で表される塩基配列がより好ましい。
なお、鋳型核酸のGSTタグの領域Aをコードする領域の塩基配列が配列番号4、6、8、10、11で表される配列の場合、N末端から連続する12個のアミノ酸の領域が配列番号2で表されるアミノ酸配列になっているGSTタグが発現する。
【0032】
鋳型核酸におけるGSTタグをコードする領域の塩基配列は、GSTタグにおける領域A以降のC末端までの領域(以下、「領域B」ともいう。)も含めて、以下の(a)及び(b)のアルゴリズムを含むソフトウェアによって最適化されていることが好ましい。これにより、可溶性が改善されたタンパク質がさらに発現されやすくなる。前記ソフトウェアは、さらに以下の(c)~(e)の少なくとも1つのアルゴリズムをさらに含んでもよい。
(a)RNAの二次構造を回避する。
(b)コドンとGC含有率を発現生物種に合わせて最適化する。
(c)潜在的なスプライス部位やRNAを不安定化する配列を除去する。
(d)mRNAを安定化する配列を追加する。
(e)イントロンを除去する。
【0033】
前記ソフトウェアとしては、生物種に合わせた遺伝子配列の最適化が可能なソフトウェアを使用でき、具体的には、GeneOptimizer(登録商標)(Thermo Fisher Scientific)、GENEius(EUROFINS)を例示できる。
【0034】
本実施形態では、1種の鋳型核酸のみを用いてもよく、GSTタグをコードする領域の塩基配列が異なる鋳型核酸を2種以上併用してもよい。
CspとしてCspAを用いる場合、可溶性が改善されたタンパク質が発現しやすい点から、合成に用いる鋳型核酸におけるGSTタグの領域Aをコードする領域の塩基配列は、配列番号7~9のいずれかで表される塩基配列であることが好ましい。
【0035】
反応液中の鋳型核酸の含有量は、細胞抽出液のタンパク質合成活性、目的タンパク質の種類等によって適宜設定でき、例えば、0.5~10ng/μL程度とすることができる。
【0036】
本実施形態におけるタンパク質の合成方法としては、透析法、バッチ法、及び重層法(Sawasaki, T., Hasegawa, Y., Tsuchimochi, M., Kamura, N., Ogasawara, T., Kuroita, T.and Endo, Y. (2002) FEBS Lett. 514, 102-105)を適用でき、透析法が好ましい。
透析法は、反応液である内液と反応基質を含む外液とを透析膜(限外ろ過膜)によって隔離し、振盪又は撹拌可能な閉鎖系で合成する方法である。透析法では、透析膜を介して、合成に必要な基質が外液から反応液に供給されるとともに、反応液中の余計な副産物を外液中に拡散させることで、より長時間反応を持続させることができる。そのため、より高いタンパク質合成量を得ることが可能となる。
【0037】
反応温度は、4~30℃が好ましく、16~23℃がより好ましい。
反応時間は、バッチ法の場合、2~6時間が好ましく、16℃以下の反応においては4~6時間がより好ましい。透析法の場合、1~40時間が好ましく、5~40時間がより好ましい。
【0038】
透析内液と透析外液を隔てる透析膜の分画分子量は、3,500~100,000が好ましく、10,000~50,000がより好ましい。
振盪速度又は撹拌速度は、例えば、100~300rpmとすることができる。
【0039】
GST融合タンパク質を合成した後は、GST融合タンパク質を精製することが好ましい。GST融合タンパク質の精製方法としては、公知のタンパク質の精製方法を採用でき、例えば、硫酸アンモニウム又はアセトン沈殿、酸抽出、アニオン又はカチオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイト、等電点クロマトグラフィー、クロマトフォーカシング等が挙げられる。これらの精製方法は、単独で行ってもよく、2つ以上を組み合わせて行ってもよい。GSTタグを特異的に認識する吸着材を利用したアフィニティー精製法を使用してもよい。
GST融合タンパク質の同定及び定量は、活性測定、免疫学的測定、分光学的測定、アミノ酸分析等により、必要に応じて標準サンプルと比較しながら行うことができる。
【0040】
[第2実施形態]
第2実施形態に係るタンパク質の製造方法は、CF系の反応液でGSTタグを有するタンパク質を合成する方法であって、合成に用いる鋳型核酸における、GSTタグのN末端から連続する11個又は12個のアミノ酸配列をコードする領域の塩基配列を、配列番号4、6~11のいずれかで表される塩基配列とする。すなわち、第2実施形態のタンパク質の製造方法は、CF系のタンパク質合成において、鋳型核酸のGSTタグの領域Aをコードする塩基配列を配列番号4、6~11のいずれかで表される塩基配列とする方法である。これにより、CF系で合成されるタンパク質の可溶性が改善される。
【0041】
第1実施形態の説明においてCF系の反応液について述べたことは、Cspを含むこと以外は第2実施形態のCF系にも該当する。
第2実施形態で用いる鋳型核酸は、第1実施形態で用いる鋳型核酸と同様に、領域Bも含めて、前記したソフトウェア、例えばGeneOptimizer(登録商標)(Thermo Fisher Scientific)、GENEius(EUROFINS)等によって最適化されていることが好ましい。
【0042】
本実施形態でも、1種の鋳型核酸のみを用いてもよく、GSTタグをコードする領域の塩基配列が異なる鋳型核酸を2種以上併用してもよい。
反応液中の鋳型核酸の含有量は、細胞抽出液のタンパク質合成活性、目的タンパク質の種類等によって適宜設定でき、例えば、0.5~10ng/μL程度とすることができる。
【0043】
本実施形態におけるタンパク質の合成方法としては、第1実施形態と同様の方法を例示でき、透析法が好ましい。
反応温度は、4~30℃が好ましく、23~30℃がより好ましい。
反応時間は、バッチ法の場合、2~6時間が好ましく、16℃以下の反応においては4~6時間がより好ましい。透析法の場合、1~40時間が好ましく、5~40時間がより好ましい。
【0044】
本実施形態においても、GST融合タンパク質を合成した後は、GST融合タンパク質を精製することが好ましい。GST融合タンパク質の精製方法としては、第1実施形態で例示した方法と同じ方法を例示できる。
【0045】
本発明のタンパク質の製造方法で製造したタンパク質の用途は、特に限定されない。例えば、X線結晶解析やNMR測定による立体構造の解析、酵素による物質生産等に用いることができる。本発明では、可溶性が改善されたタンパク質を高効率に製造できる。そのため、例えば多量のタンパク質が必要な立体構造の解析や酵素による物質生産に好適である。
【実施例0046】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0047】
[例1]
配列番号21で表されるアミノ酸配列を有するGSTを合成するための鋳型DNAとして、T7プロモーター、リボソーム結合配列、配列番号12、14、16、18、20で表される塩基配列のいずれか、及びT7ターミネーターを含む直鎖状DNAをPCRによって調製した。また、配列番号22で表されるアミノ酸配列を有するGST(N末端から2番目にリジンを挿入したGST)を合成するための鋳型DNAとして、T7プロモーター、リボソーム結合配列、配列番号13、15、17、19で表される塩基配列のいずれか、及びT7ターミネーターを含む直鎖状DNAをPCRによって調製した。これら配列番号12~20で表される塩基配列を含む直鎖状DNAを鋳型として用いて、CF系の反応液でGST(Sq12~Sq20)を合成した。なお、配列番号12で表される塩基配列を含む直鎖状DNAを鋳型として発現させたGSTをSq12と示し、他の直鎖状DNAを鋳型とした場合も同様に示す。
大腸菌S30抽出液としては、大腸菌BL21 codon plus株から調製された安定同位体標識セルフリー合成用酵素液(大陽日酸)を使用した。酵素やアミノ酸等を除くタンパク質合成用試薬として、LMCP(D-Glu)を使用した。
各鋳型DNAを用いたタンパク質合成反応は、下記の表1に示した組成の反応液を、表2に示した組成の透析外液に対して透析し、18時間行った。反応温度は30℃、23℃または16℃とした。反応スケールとしては、内液(反応液)を30μL、透析外液500μLとした。
【0048】
表1及び表2中の「LMCP(D-Glu)」とは、緩衝液としてHepesKOH(pH7.5)、塩としてD-グルタミン酸カリウム及び酢酸アンモニウム、エネルギー源としてATP、転写用基質としてGTP、CTP及びUTP、その他の試薬としてcyclicAMP、フォリン酸、DTT及びポリエチレングリコールを含む混合物である。
【0049】
【0050】
【0051】
反応後の全画分(T)と可溶画分(S)とを、トリシンを15%含むSDS(Sodium dodecyl sulfate)-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(15%Tricine-SDS-PAGE)に供した後、CBB染色した。結果を
図1に示す。
【0052】
図1に示すように、Sq12とSq13の比較、及びSq14とSq15の比較から、N末端から2番目にリジンを挿入することにより、GSTの発現量が増加することが分かった。また、N末端から2番目にリジンが挿入されていないSq18においても、16℃でもGSTの発現量が多かった。これらSq12~20においては、Sq15~Sq20のGSTの発現量が特に多かった。
【0053】
[例2]
GFP(緑色蛍光タンパク質)のN末端にGSTタグを有するGST融合タンパク質の鋳型DNAとして、プラスミドDNAを調製した。このプラスミドDNAは、T7プロモーター、リボソーム結合配列、配列番号12~20で表される配列のいずれか、GFPタンパク質の改変体(GFPS1)遺伝子、及びT7ターミネーターから構成されている。
前記プラスミドDNAを1.0ng/μL用いる以外は例1と同様の方法で、GSTタグ(Sq12~Sq20)を有するGFP(GST融合タンパク質)を合成した。
GST融合タンパク質の合成量は、GFPの蛍光値から判定した。反応液を緩衝液(20mM Tris-HCl、pH7.5、300mM NaCl)で希釈後、マルチモードマイクロプレートリーダーSpectraMax i3(Molecular Devices)を用いて励起485nm、蛍光535nmでGFPS1の蛍光値を測定した。結果を
図2に示す。
【0054】
図2に示すように、Sq12とSq13の比較、及びSq14とSq15の比較から、GSTのN末端から2番目にリジンを挿入することにより、GST融合タンパク質の合成量が増加した。また、N末端から2番目にリジンが挿入されていないSq18においても、16℃でもGST融合タンパク質の合成量が多かった。これらSq12~20においては、Sq15~Sq20のGSTタグを有するGST融合タンパク質の合成量が特に多かった。これらの傾向は例1でGSTのみを発現させた場合と同様であった。
【0055】
[例3]
大腸菌由来の精製CspAを1.0μg/μLの濃度となるように反応液に添加する以外は例1と同様の方法で、配列番号12~20で表される塩基配列を含む直鎖状DNAを鋳型として用いて、GST(Sq12~Sq20)を合成した。なお、精製CspAはCF系で合成した。反応温度は23℃または16℃とした。
各種の鋳型DNAを用いたときのCspAを添加した場合(Csp+)と添加していない場合(Csp-)の反応後の全画分(T)と可溶画分(S)を15%Tricine-SDS-PAGEに供した後、CBB染色した。結果を
図3に示す。
【0056】
図3に示すように、Csp存在下のCF系ではGSTが十分に発現した。特にSq16~18のGSTの発現量が多かった。
【0057】
[例4]
GFP(緑色蛍光タンパク質)のN末端にGSTタグを有するGST融合タンパク質のプラスミドDNAを1.0ng/μL用いる以外は、例3と同様の方法で、GSTタグ(Sq12~Sq20)を有するGFP(GST融合タンパク質)を合成した。反応温度は23℃または16℃とした。
例2と同様の方法で測定したGST融合タンパク質の合成量(GFPの蛍光値)を
図4に示す。
【0058】
図4(a)及び
図4(b)に示すように、Csp存在下のCF系ではGST融合タンパク質が十分に発現した。特にSq16~18のGSTタグを有するGST融合タンパク質は発現量が多かった。
【0059】
[例5]
GFPのN末端にGSTタグを有するGST融合タンパク質の鋳型DNAとして、プラスミドDNAを調製した。このプラスミドDNAは、T7プロモーター、リボソーム結合配列、配列番号12、15、18、23、24又は25で表される配列、GFPタンパク質の改変体(GFPS1)遺伝子、及びT7ターミネーターから構成されている。
反応温度を30℃、23℃または16℃とした以外は例4と同様の方法で、GSTタグ(Sq12、Sq15、Sq18、Sq23、Sq24、Sq25)を有するGFP(GST融合タンパク質)を合成した。
例2と同様の方法で測定したGST融合タンパク質の合成量(GFPの蛍光値)を
図5に示す。
【0060】
Sq23のGSTタグの鋳型DNA(配列番号23)は、GSTタグの領域Aをコードする塩基配列にサイレントミューテーションが導入されているが、領域Bをコードする塩基配列は野生型と同じである。Sq24のGSTタグの鋳型DNA(配列番号24)は、GSTタグの領域Aをコードする塩基配列が野生型と同じであるが、領域Bをコードする塩基配列が最適化されている。Sq18のGSTタグの鋳型DNA(配列番号18)は、GSTタグの領域Aをコードする塩基配列がSq23と同じで、領域Bをコードする塩基配列がSq24と同じである。
Sq25のGSTタグの鋳型DNA(配列番号25)は、Sq23のN末端から2番目にリジンを挿入したGSTタグである。Sq15、Sq18、Sq25のGSTタグの鋳型DNA(配列番号15、18、25)は、GSTタグの領域Aをコードする塩基配列がそれぞれ異なり、領域Bをコードする塩基配列が同じである。
【0061】
図5(a)に示すように、Sq24のGSTタグに比べてSq23のGSTタグの方がGST融合タンパク質の合成量が多く、Sq18のGSTタグを有するGST融合タンパク質に近かった。このことは、鋳型核酸において、GSTタグの領域Bをコードする塩基配列よりも、領域Aをコードする塩基配列を最適化する方が可溶なGST融合タンパク質の合成量を増加させる効果が高いことを示している。
図5(b)に示すように、Csp存在下のCF系ではSq15のGSTタグに比べてSq25のGSTタグの方がGST融合タンパク質の合成量が多く、Sq18のGSTタグを有するGST融合タンパク質に近かった。このことは、鋳型核酸において、GSTタグの領域Aをコードする塩基配列には、Csp存在下のCF系におけるGST融合タンパク質の合成量を増加させるために至適な配列が存在することを示している。
【0062】
[例6]
キナーゼ(MAP2K6)のN末端にHisタグ(N11)を有するGST融合タンパク質の鋳型DNAとして、T7プロモーター、リボソーム結合配列、Hisタグ配列(N11)、MAP2K6遺伝子、及びT7ターミネーターを含む直鎖状DNAをPCRによって調製した。前記鋳型DNAを1.5ng/μL用いる以外は例1と同様の方法で、Hisタグを有するキナーゼを合成した。
キナーゼ(MAP2K6)のN末端にGSTタグを有するGST融合タンパク質の鋳型DNAとして、T7プロモーター、リボソーム結合配列、配列番号12又は18で表される塩基配列のいずれか、MAP2K6遺伝子、及びT7ターミネーターを含む直鎖状DNAをPCRによって調製した。前記鋳型DNAを1.5ng/μL用い、ポリエチレングリコールを含まない反応液を用いる以外は、例1と同様の方法で、GSTタグを有するキナーゼ(GST融合タンパク質)を合成した。
また、大腸菌由来の精製CspAを1.0μg/μLの濃度となるように反応液に添加する以外は同様の方法で、Hisタグを有するキナーゼとGST融合タンパク質を合成した。
各種の鋳型DNAを用いたときのCspAを添加した場合(Csp+)と添加していない場合(Csp-)の反応後の全画分(T)と可溶画分(S)を15%Tricine-SDS-PAGEに供した後、CBB染色した。結果を
図6に示す。
【0063】
[例7]
キナーゼ(AURKB)のN末端にHisタグ配列(N11)又はGSTタグを有するGST融合タンパク質の鋳型DNAとして、T7プロモーター、リボソーム結合配列、Hisタグ配列(N11)、AURKB遺伝子、及びT7ターミネーターを含む直鎖状DNAと、T7プロモーター、リボソーム結合配列、配列番号12又は18で表される塩基配列のいずれか、AURKB遺伝子、及びT7ターミネーターを含む直鎖状DNAを用いる以外は、例6と同様の方法でHisタグ融合タンパク質とGST融合タンパク質を合成した。
各種の鋳型DNAを用いたときのCspAを添加した場合(Csp+)と添加していない場合(Csp-)の反応後の全画分(T)と可溶画分(S)を15%Tricine-SDS-PAGEに供した後、CBB染色した。結果を
図7に示す。
【0064】
[例8]
キナーゼ(SYK)のN末端にHisタグ配列(N11)又はGSTタグを有するGST融合タンパク質の鋳型DNAとして、T7プロモーター、リボソーム結合配列、Hisタグ配列(N11)、SYK遺伝子、及びT7ターミネーターを含む直鎖状DNAと、T7プロモーター、リボソーム結合配列、配列番号12又は18で表される塩基配列のいずれか、SYK遺伝子、及びT7ターミネーターを含む直鎖状DNAを用いる以外は、例6と同様の方法でHisタグ融合タンパク質とGST融合タンパク質を合成した。
各種の鋳型DNAを用いたときのCspAを添加した場合(Csp+)と添加していない場合(Csp-)の反応後の全画分(T)と可溶画分(S)を15%Tricine-SDS-PAGEに供した後、CBB染色した。結果を
図8に示す。
【0065】
[例9]
プロテインキナーゼ阻害物質(TRIB2)のN末端にHisタグ配列(N11)又はGSTタグを有するGST融合タンパク質の鋳型DNAとして、T7プロモーター、リボソーム結合配列、Hisタグ配列(N11)、TRIB2遺伝子、及びT7ターミネーターを含む直鎖状DNAと、T7プロモーター、リボソーム結合配列、配列番号12又は18で表される塩基配列のいずれか、TRIB2遺伝子、及びT7ターミネーターを含む直鎖状DNAを用いる以外は、例6と同様の方法でHisタグ融合タンパク質とGST融合タンパク質を合成した。
各種の鋳型DNAを用いたときのCspAを添加した場合(Csp+)と添加していない場合(Csp-)の反応後の全画分(T)と可溶画分(S)を15%Tricine-SDS-PAGEに供した後、CBB染色した。結果を
図9に示す。
【0066】
[例10]
ヘリカーゼ(MCM5)のN末端にHisタグ配列(N11)又はGSTタグを有するGST融合タンパク質の鋳型DNAとして、T7プロモーター、リボソーム結合配列、Hisタグ配列(N11)、MCM5遺伝子、及びT7ターミネーターを含む直鎖状DNAと、T7プロモーター、リボソーム結合配列、配列番号12又は18で表される塩基配列のいずれか、MCM5遺伝子、及びT7ターミネーターを含む直鎖状DNAを用いる以外は、例6と同様の方法でHisタグ融合タンパク質とGST融合タンパク質を合成した。
各種の鋳型DNAを用いたときのCspAを添加した場合(Csp+)と添加していない場合(Csp-)の反応後の全画分(T)と可溶画分(S)を15%Tricine-SDS-PAGEに供した後、CBB染色した。結果を
図10に示す。
【0067】
図6~
図10に示すように、GSTタグを有するGST融合タンパク質は、Hisタグを有するタンパク質に比べて合成量が多く、かつ可溶性であった。また、反応液にCspが含まれることにより、可溶なGST融合タンパク質の合成量が増加した。
【0068】
[例11]
プロテインキナーゼ阻害物質(TRIB2)のN末端にHisタグ配列(N11)又はGSTタグを有するGST融合タンパク質の鋳型DNAとして、T7プロモーター、リボソーム結合配列、Hisタグ配列(N11)、TRIB2遺伝子、及びT7ターミネーターを含む直鎖状DNAと、T7プロモーター、リボソーム結合配列、配列番号12、13、15、18、19又は20で表される塩基配列のいずれか、TRIB2遺伝子、及びT7ターミネーターを含む直鎖状DNAを用いる以外は、例6と同様の方法でHisタグ融合タンパク質とGST融合タンパク質を合成した。反応温度は30℃または16℃とした。
各種の鋳型DNAを用いたときのCspAを添加した場合(Csp+)と添加していない場合(Csp-)の反応後の全画分(T)と可溶画分(S)を15%Tricine-SDS-PAGEに供した後、CBB染色した。結果を
図11及び
図12に示す。
【0069】
[例12]
キナーゼ(AURKC)のN末端にHisタグ配列(N11)又はGSTタグを有するGST融合タンパク質の鋳型DNAとして、T7プロモーター、リボソーム結合配列、Hisタグ配列(N11)、AURKC遺伝子、及びT7ターミネーターを含む直鎖状DNAと、T7プロモーター、リボソーム結合配列、配列番号12、13、15、18、19又は20で表される塩基配列のいずれか、AURKC遺伝子、及びT7ターミネーターを含む直鎖状DNAを用いる以外は、例11と同様の方法でHisタグ融合タンパク質とGST融合タンパク質を合成した。
各種の鋳型DNAを用いたときのCspAを添加した場合(Csp+)と添加していない場合(Csp-)の反応後の全画分(T)と可溶画分(S)を15%Tricine-SDS-PAGEに供した後、CBB染色した。結果を
図13及び
図14に示す。
【0070】
[例13]
ヘリカーゼ(MCM5)のN末端にHisタグ配列(N11)又はGSTタグを有するGST融合タンパク質の鋳型DNAとして、T7プロモーター、リボソーム結合配列、Hisタグ配列(N11)、MCM5遺伝子、及びT7ターミネーターを含む直鎖状DNAと、T7プロモーター、リボソーム結合配列、配列番号12、13、15、18、19又は20で表される塩基配列のいずれか、MCM5遺伝子、及びT7ターミネーターを含む直鎖状DNAを用いる以外は、例11と同様の方法でHisタグ融合タンパク質とGST融合タンパク質を合成した。
各種の鋳型DNAを用いたときのCspAを添加した場合(Csp+)と添加していない場合(Csp-)の反応後の全画分(T)と可溶画分(S)を15%Tricine-SDS-PAGEに供した後、CBB染色した。結果を
図15及び
図16に示す。
【0071】
図11~
図16に示すように、30℃で沈殿傾向の高いGST融合タンパク質は、16℃で合成反応を行うことで可溶性が向上し、Hisタグを有するタンパク質に比べて可溶性が高かった。また、反応液にCspが含まれることにより、可溶なGST融合タンパク質の合成量が増加した。特にSq13、Sq15、Sq18、Sq19のGSTタグを有するGST融合タンパク質は発現量が多かった。