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特開2023-60773触媒および揮発性有機化合物の除去方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023060773
(43)【公開日】2023-04-28
(54)【発明の名称】触媒および揮発性有機化合物の除去方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/83 20060101AFI20230421BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20230421BHJP
【FI】
B01J23/83 A ZAB
B01D53/86 150
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021170561
(22)【出願日】2021-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】000158312
【氏名又は名称】岩谷産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(72)【発明者】
【氏名】今中 信人
(72)【発明者】
【氏名】布谷 直義
(72)【発明者】
【氏名】泉 浩一
(72)【発明者】
【氏名】川端 亮次
【テーマコード(参考)】
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
4D148AA23
4D148AB01
4D148AB03
4D148BA06X
4D148BA13X
4D148BA18X
4D148BA37X
4D148BA42X
4D148BD01
4D148DA03
4D148DA13
4G169AA02
4G169BA02A
4G169BA02B
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC44A
4G169BC44B
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BD05A
4G169BD05B
4G169CA02
4G169CA10
4G169CA15
4G169CA17
4G169DA05
4G169EA02X
4G169EB18Y
4G169EC22X
4G169EC22Y
4G169EC25
(57)【要約】
【課題】より単純な構成で、高い揮発性有機化合物の分解能力を有する触媒を提供すること。
【解決手段】Gd10SiCoO27-δの組成式で表され、0.5≦δ≦1を満たす酸化物からなる、揮発性有機化合物を分解するための触媒である。前記の触媒は、アパタイト型の結晶構造を有するものであってよい。前記触媒は、複数の一次粒子が集合してなる二次粒子を含み、前記二次粒子の少なくとも表面において、隣接する前記一次粒子間に間隙が形成された形態を有してもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Gd10SiCoO27-δの組成式で表され、0.5≦δ≦1を満たす酸化物からなる、揮発性有機化合物を分解するための触媒。
【請求項2】
前記酸化物が、アパタイト型の結晶構造を有する、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記触媒は、複数の一次粒子が集合してなる二次粒子を含み、前記二次粒子の少なくとも表面において、隣接する前記一次粒子間に間隙が形成された形態を有する、請求項1または請求項2に記載の触媒。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の触媒を準備する工程と、
前記触媒に揮発性有機化合物を含む気体を接触させつつ、200℃以上340℃以下の温度に加熱することにより前記揮発性有機化合物を分解する工程と、を備える、
揮発性有機化合物の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒および揮発性有機化合物の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場等から排出される排気ガスに含まれる揮発性有機化合物を分解するために、触媒が用いられる(例えば特許文献1)。特許文献1では、酸化ジルコニウム、酸化チタンおよび酸化ケイ素からなる群から選択される1種以上の金属酸化物と、白金、パラジウムおよびイリジウムからなる群から選択される1種以上の貴金属とを含む燃焼触媒が開示されている。また、特許文献2は、揮発性有機化合物を分解する触媒として、少なくとも2種類の粒子を含む混合物である触媒を開示している。特許文献2は、主触媒である第1の粒子としてペロブスカイト型の結晶構造を有しLaCoOあるいはLa1-xBaCoO3-x/2の組成式で表される化合物を含有するとともに、助触媒である第2の粒子としてアパタイト型の結晶構造を有するLa10SiCoO27-δ(0.5≦δ≦1)の組成式で表される酸化物を含有する触媒を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2009/157434号
【特許文献2】特開2020-116570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
揮発性有機化合物を分解するための触媒は、より単純な構成で、高い揮発性有機化合物の分解能力を有することが好ましい。そこで、より単純な構成で、高い揮発性有機化合物の分解能力を有する触媒を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示にかかる触媒は、Gd10SiCoO27-δの組成式で表され、0.5≦δ≦1を満たす酸化物からなる、揮発性有機化合物を分解するための触媒である。
【発明の効果】
【0006】
上記触媒によれば、助触媒を要することなく、揮発性有機化合物を容易に分解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施の形態1における触媒を用いて揮発性有機化合物を除去する方法を示すフローチャートである。
図2】基体の内部に触媒を配置した第1構造体を示す斜視図である。
図3】第1構造体の構造を示す概略断面図である。
図4】排気ガス処理装置の構造を示す概略図である。
図5】実施例1で得られた触媒のSEM画像を示す図である。
図6】実施例2で得られた触媒のSEM画像を示す図である。
図7】実施例3で得られた触媒のSEM画像を示す図である。
図8】実施例1、2、3で得られた触媒のXRD測定の結果を示す図である。
図9】実施例1,2、3で得られた触媒の触媒活性測定の結果を示す図である。
図10】比較例1で得られた触媒の触媒活性測定の結果を示す図である。
図11】比較例2で得られた触媒の触媒活性測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[実施形態の概要]
本開示にかかる触媒は、Gd10SiCoO27-δの組成式で表され、0.5≦δ≦1を満たす酸化物からなる触媒である。前記触媒は、揮発性有機化合物を分解するための触媒である。
【0009】
本開示にかかる触媒を揮発性有機化合物(以下、VOCsということがある。)に接触させつつ加熱すると、触媒を構成する粒子の表面上で触媒自身が持つ格子内酸素(O2-)により、VOCsの酸化反応が生じると考えられている。なお、反応により格子内酸素は失われるが、空気中の酸素分子(O)を分解し、酸化物イオン(O2-)として取り込むことにより補填されると考えられる。
【0010】
従来、VOCsの分解において、コバルト酸ランタン(LaCoO)やコバルト酸ランタンバリウム(La1-xBaCoO3-x/2)を主触媒として、かつ、La10SiCoO27-δの組成式で表され、0.5≦δ≦1を満たし、アパタイト型の結晶構造を有する酸化物を助触媒として用いる触媒組成物が知られている(例えば特許文献2)。La10SiCoO27-δ(0.5≦δ≦1)の組成式で表される酸化物は、助触媒として用いられるが、主触媒として単独で使用するには充分な活性を有さないと考えられていた。これに対して本開示では、Gd10SiCoO27-δの組成式で表され、0.5≦δ≦1を満たす酸化物は、優れたVOCsの分解触媒活性を有し、単独で触媒として用いられ得るものであることを見出した。本開示にかかる触媒によれば、助触媒を要することなくVOCsを容易に分解することができる。GdはLaと同じランタノイドに属する元素であるが、ランタノイドの中でも、Gdを含む酸化物は優れたVOCs分解触媒活性を有することが見出された。
【0011】
前記の触媒は、アパタイト型の結晶構造を有するものであってよい。前記酸化物がアパタイト型の結晶構造を有する場合、より優れたVOCs分解活性を有する触媒が得られる。
【0012】
前記触媒は、複数の一次粒子が集合してなる二次粒子を含み、前記二次粒子の少なくとも表面において、隣接する前記一次粒子間に間隙が形成された形態を有してもよい。触媒粒子がこのような形態を有する場合、より優れたVOCs分解活性を有する触媒が得られる。特定の理論に拘束されるものではないが、本開示の触媒では、一次粒子間に形成された間隙がVOCsおよび酸素の拡散経路となって、高い触媒活性を発揮すると考えられている。
【0013】
また本開示は、前記触媒を準備する工程と、前記触媒に揮発性有機化合物を含む気体を接触させつつ、200℃以上340℃以下の温度に加熱することにより前記揮発性有機化合物を分解する工程と、を備える、揮発性有機化合物の除去方法に関する。このようにすることで、触媒を構成する粒子の表面上で触媒自身が持つ格子内酸素(O2-)により、VOCsの酸化反応が生じると考えられている。また、反応により格子内酸素は失われるが、空気中の酸素分子(O)を分解し、酸化物イオン(O2-)として取り込むことによって格子内酸素は補填されると考えられる。したがって、本願の揮発性有機化合物の除去方法によれば、揮発性有機化合物を容易に分解することができる。
【0014】
[実施形態の具体例]
(触媒)
本開示にかかる触媒は、Gd10SiCoO27-δの組成式で表され、0.5≦δ≦1を満たす酸化物である。この酸化物は高温耐久性を有し、1000℃程度の熱処理に対しても失活せず安定な材料である。この酸化物からなる触媒粒子の表面上で空気中の酸素が分解し、VOCsの酸化反応が生じる。
【0015】
本開示にかかる触媒は、アパタイト型の結晶構造を有する酸化物であることが好ましく、アパタイト単相であることがより好ましい。またこれに制限されず、GdSiO相を有していてもよい。また、SiO相、GdSiO相、および、Gd相が混在していてもよい。いずれの結晶構造を有する場合も、VOCs分解活性を得ることができる。
【0016】
本開示にかかる触媒は、複数の一次粒子が集合してなる二次粒子を含むことが好ましい。一次粒子の大きさは、例えば50nm~10μm程度である。ここで、「一次粒子の大きさ」とは、触媒粒子の表面のSEM画像に表れる、粒子の部分を測定した値である。例えば10個から1000個程度の一次粒子について大きさを測定し、それらの平均値を「一次粒子の大きさ」とできる。50nm~10μm程度の一次粒子に加えて、50nm未満の小さな粒子や、10μmを超える大きな粒子が混在していてもよい。一次粒子の形態は球形であってもよく、球形に限定されない。例えば、楕円球形やコイン状、不定形の塊状であってもよい。触媒粒子に含まれる一次粒子の形態は一様であってもよく、多様な形態の一次粒子が集合していてもよい。なお、一次粒子とは触媒を構成する三次元構造物を電子顕微鏡(SEM)等で観察する時に、最小の構成単位として観察される三次元構造物を意味している。
【0017】
前記の一次粒子が集合して、二次粒子を構成する。二次粒子の大きさは特に制限されず、例えば10μm~100μm程度である。ここで、「二次粒子の大きさ」とは、触媒粒子の表面のSEM画像に表れる、粒子の部分を測定した値である。例えば10個から1000個程度の二次粒子について大きさを測定し、それらの平均値を「二次粒子の大きさ」とできる。10μm~100μm程度の二次粒子に加えて、10μm未満の小さな粒子や、100μmを超える大きな粒子が混在していてもよい。二次粒子の形態は特に制限されず、不定形の塊状であってもよいし、球状、紡錘状等であってもよい。触媒に含まれる二次粒子は一定の大きさおよび形態であってもよいし、多様な大きさおよび形態を有する二次粒子が混在してもよい。なお、二次粒子とは、触媒を構成する三次元構造物を電子顕微鏡(SEM)等で観察する時に、最小の構成単位として観察される一次粒子が集合して形成された三次元構造体を意味している。
【0018】
二次粒子の少なくとも表面において、隣接する一次粒子の間に間隙が形成されている。一次粒子の間の間隙は、例えばSEM画像において空隙として観察される。空隙の形態は特に制限されないが、例えば、二次粒子の表面において開口するとともに、二次粒子の表面から深さ方向にも一定程度の空間が形成された形態である。例えば、二次粒子の表面における開口部よりも二次粒子の深さ方向に大きく広がる空隙が形成されていてもよい。また、本開示にかかる触媒は、表面に凹凸を有していても実質的な空隙を含まない塊状の粒子から構成される触媒であってもよい。
【0019】
(触媒組成物)
Gd10SiCoO27-δの組成式で表され、0.5≦δ≦1を満たす酸化物である本開示にかかる触媒は、触媒組成物中に含有されていてもよい。本開示にかかる触媒は、主触媒として、触媒組成物中に含有されうる。本開示にかかる触媒を含む触媒組成物は、助触媒として機能する化合物が存在しない場合であっても、高いVOCs分解活性を発揮する。具体的には、本開示の触媒を含む触媒組成物において、Gd10SiCoO27-δの組成式で表され、0.5≦δ≦1を満たす酸化物以外の、助触媒として機能する化合物の含有割合は1質量%以下でよく、好ましくは0.1質量%以下でよく、より好ましくは0質量%であってよい。本開示にかかる組成物は、Gd10SiCoO27-δの組成式で表され、0.5≦δ≦1を満たす酸化物に加えて、助触媒を含まない(0質量%である)組成物であってよい。また、Gd10SiCoO27-δの組成式で表され、0.5≦δ≦1を満たす酸化物に加えて、助触媒を含んでもよい。助触媒としては例えば、酸化セリウム(CeO)等が挙げられる。助触媒を含有する場合、触媒組成物全体に対する助触媒の割合は特に制限されず、用いる助触媒の種類や性質に応じて適宜選択できる。触媒組成物全体に対する助触媒の割合は、例えば0~80質量%とでき、60~80質量%程度とすることも好ましい。
【0020】
触媒組成物においては、主触媒としてのGd10SiCoO27-δの組成式で表され、0.5≦δ≦1を満たす酸化物以外に、例えば分散媒を含んでよい。このような分散媒としては例えば、セラミックスの粒子を用いうる。セラミックス粒子としては例えば、アルミナ(Al)、シリカ(SiO)、コージェライト(2MgO・2Al・5SiO)およびムライト(3Al・2SiO)等が挙げられる。セラミックス粒子として例えば、立方晶であるγ‐アルミナを好適に用いることができる。分散媒を含むことで、触媒として機能する粒子が凝集することを抑制し、触媒の表面積の低下を抑制することができる。したがって、VOCsの酸化反応が促進される。
【0021】
分散媒の平均粒子径は、例えば、5nm以上であり、好ましくは10nm以上である。分散媒の平均粒子径の上限は、特に限定されないが、例えば1μm未満である。また、触媒組成物における分散媒の含有率は、触媒粒子の含有率との関係で適宜決定でき、特に制限されないが、例えば、0~30質量%とできる。
【0022】
(触媒の機能)
本開示にかかる触媒は、VOCsを分解するための触媒として用いられ得る。VOCsは、揮発性を有し、大気中で気体状となる有機化合物の総称である。VOCsには、トルエン、キシレン、酢酸エチル等が含まれ、これらに制限されない。典型的には、トルエンが分解対象物である。触媒の活性は、一定量かつ一定温度の触媒に対して一定量のトルエンを接触させた時に、トルエンを完全に分解できる温度を指標として示される。より低温でトルエンを分解できることが好ましい。トルエンが完全に分解される温度(トルエン完全分解温度)は、トルエン完全転化温度ともいう。トルエンの完全分解温度は、200℃以上、340℃以下であることが好ましく、320℃以下であればより好ましく、300℃以下であればさらに好ましい。
【0023】
(触媒の製造方法)
本開示にかかる触媒の製造方法は特に制限されず、異なる製造方法によって得られたGd10SiCoO27-δ(0.5≦δ≦1)がいずれもVOCs分解活性を有することが確認されている。製造方法の一例として、いわゆるゾルゲル法が挙げられる。具体的には、例えば、酸とアルコール(例えばエタノール)との混合液に、酢酸ガドリニウムおよび硝酸コバルトを加えて溶解させ、続いて、アルコキシシラン(例えばテトラエトキシシラン)を加えて攪拌し、原料溶液を得る。次いで、分散剤(例えばポリビニルピロリドン)を加えてさらに攪拌し、続いて加熱によって溶媒を留去してゲルを得る。得られたゲルを仮焼きおよび焼成し、Gd10SiCoO27-δ(0.5≦δ≦1)の組成式で表される酸化物を作製する。
【0024】
ゾルゲル法による製造方法の各工程は、公知の条件ないし方法を適宜選択して実施できる。具体的には例えば、原料溶液を得る工程では、酢酸ガドリニウム四水和物(Gd(CH3COO)3・4H2O)と、硝酸コバルト六水和物(Co(NO3)2・6H2O)と、テトラエトキシシラン(Si(OC2H5)4)とを、9.5~10.5:0.5~1.5:4.5~5.5のモル比で含む原料溶液を調製すればよい。ゲルを得る工程は、例えば、30~80℃において、1~24時間攪拌を行うことができる。溶媒の留去は例えば180℃に加熱して行うことができる。仮焼きは、例えば、大気中において、300℃~400℃で6~24時間、実施できる。焼成は、例えば、空気流通下で600~1600℃で1~24時間、実施できる。
【0025】
また本開示にかかる触媒は、いわゆる共沈法によって好適に得ることができる。具体的には、例えば、アンモニア水溶液にケイ酸ナトリウムを添加したアルカリ性の溶液中に、酢酸ガドリニウムおよび硝酸コバルトを含む水溶液を滴下した混合液を得る工程と、かかる混合液を攪拌して析出物を得る工程と、析出物を回収および乾燥する回収工程と、得られた析出物を焼成する工程と、を含む製造方法である。このような製造方法によって、Gd10SiCoO27-δの組成式で表され、0.5≦δ≦1を満たし、アパタイト型の結晶構造を有する酸化物が得られる。
【0026】
共沈法による製造方法の各工程は、公知の条件ないし方法を適宜選択して実施できる。具体的には例えば、混合液を得る工程では、14~30%のアンモニア水溶液中に、ケイ酸ナトリウム九水和物(Na2SiO3・9H2O)と、酢酸ガドリニウム四水和物(Gd(CH3COO)3・4H2O)と、硝酸コバルト六水和物(Co(NO3)2・6H2O)とを、4.5~5.5:9.5~10.5:0.5~1.5のモル比で混合する混合液を調製すればよい。攪拌工程は、例えば、30~80℃において、1~24時間攪拌を行うことができる。回収は例えば吸引濾過等によって実施でき、80~100℃で乾燥を行うことができる。焼成工程では例えば、大気中において、600℃~1600℃で1~24時間、焼成を実施できる。これらの焼成温度および時間によれば、VOCs分解の優れた活性を有する触媒が得られる。
【0027】
また、本開示にかかる触媒は、いわゆる固相法によって好適に得ることができる。具体的には、例えば、粉末状の二酸化ケイ素と、粉末状の酸化ガドリニウムと、粉末状の四酸化三コバルトとを混合した原料粉末を得る工程と、原料粉末を固めてペレットを得る工程と、ペレットを焼成する工程と、を含む製造方法である。このような製造方法によって、Gd10SiCoO27-δの組成式で表され、0.5≦δ≦1を満たし、アパタイト型の結晶構造を有する酸化物の粒子であって、一次粒子の間に間隙が形成された粒子が得られる。
【0028】
固相法による製造方法の各工程は、公知の条件ないし方法を適宜選択して実施できる。具体的には例えば、原料粉末を得る工程では、粉末状の二酸化ケイ素(SiO2)と、粉末状の酸化ガドリニウム(Gd2O3)と、粉末状の四酸化三コバルト(Co3O4)とを、4.5~5.5:9.5~10.5:0.5~1.5のモル比で混合する。混合物の均一性を向上させるため、あるいはその他の目的で、混合に続いてボールミル等を用いて粉砕を行ってもよい。ペレットの成型は、加圧成型によることができる。焼成工程では例えば、大気中において、600℃~1600℃で1~24時間、焼成を実施できる。これらの焼成温度および時間によれば、VOCs分解の優れた活性を有する触媒が得られる。
【0029】
得られた触媒は単独で使用してもよいし、他の材料と混合して、触媒組成物として用いてもよい。焼成工程の前に、本開示にかかる触媒の材料と他の材料とが混合され、一体に焼成されてもよい。
【0030】
(VOCsの除去方法)
前述の触媒ないし触媒組成物を用いて、VOCsを除去する方法を説明する。図1は、本開示にかかる触媒を用いてVOCsを除去する方法を示すフローチャートである。VOCsとして例えばトルエンを除去する場合について説明する。
【0031】
図1を参照して、本実施の形態の触媒を用いてトルエンを除去する方法では、まず工程(S10)として、触媒を準備する工程が実施される。例えば、粉末状(粉体)の触媒が、コージェライト等のセラミックス製の基体の表面に付着される。例えば、スラリー状の触媒を基体の表面に塗布することで、触媒を基体の表面に付着させることができる。このようにすることで、触媒を取扱い易くすることができる。
【0032】
図2は、セラミックス製の基体の内部に本開示にかかる触媒を配置した第1構造体を示す斜視図である。図3は、図2中の線分A-Aで切断した場合の断面の一部を示す断面図である。図2において、Y軸方向は本体部の中心軸に沿った方向である。X-Z平面は、Y軸方向に垂直な平面である。図2および図3を参照して、第1構造体1は、セラミックス製の基体10と、触媒20と、を含む。基体10を構成する材料は、例えばコージェライトである。基体10は、本体部101と、第1内壁部111~119と、第2内壁部120~128と、を含む。
【0033】
本体部101は、中空円筒状の形状を有する。第1内壁部111~119は、X軸方向に互いに平行に間隔をあけて配置された平板状の形状を有する。第2内壁部120~128は、Z軸方向に互いに平行に間隔をあけて配置された平板状の形状を有する。第1内壁部111~119と、第2内壁部120~128とは、直交するように配置される。第1内壁部111~119と、第2内壁部120~128とが交差することで、本体部101の一方の開口部から他方の開口部に至る複数の貫通孔Sが形成される。Y軸方向から平面的に見て、貫通孔Sの外形は正方形状を有する。図3を参照して、第2内壁部123,124,125の表面を覆うように触媒20が付着している。第2内壁部123,124,125だけでなく、本体部101の内壁面、第1内壁部111~119および第2内壁部120~128の表面を覆うように触媒20が付着している。すなわち、基体10における貫通孔Sを規定する壁面を覆うように触媒20が付着している。
【0034】
次に、工程(S20)として、トルエンを分解する工程が実施される。工程(S20)においては、工程(S10)にて準備された第1構造体1にトルエンを接触させる。具体的には、基体10に保持された触媒20にトルエンを含む気体を接触させつつ、触媒20を200℃以上340℃以下の温度に加熱する。トルエンを含む気体は、貫通孔S内を通過することにより触媒20に接触する。これにより、トルエンを分解することができる。
【0035】
次に、工程(S30)として、触媒20を再生する工程が実施される。工程(S30)においては、第1構造体1における基体10に保持された触媒20が再生される。具体的には、トルエンを分解する工程の後に、触媒20を600℃以上1000℃以下の温度に加熱し、30分間以上保持する。触媒20を再生する工程における加熱温度は、好ましくは700℃以上1000℃以下であり、さらに好ましくは800℃以上1000℃以下である。また、触媒20を再生する工程における保持時間は、好ましくは1時間以上である。これにより、触媒20を再生することができる。
【0036】
次に、工程(S40)として、再度、トルエンを分解する工程が実施される。具体的には、触媒20にトルエンを含む気体を接触させつつ、触媒20を200℃以上340℃以下の温度に加熱する。これにより、トルエンを分解することができる。
【0037】
工場の排気ガス等に含まれる揮発性有機化合物は、珪素(Si)を含む場合がある。このような場合、触媒20に珪素が付着すると、触媒の活性が低下してしまう。本開示にかかる触媒を構成するGd10SiCoO27-δは、構造中に珪素を含む。そのため、熱処理を行うことで上記のような珪素を構造中に取り込むことができる。Gd10SiCoO27-δは、構造中の珪素が多少増加しても安定である。このため、触媒粒子に珪素が付着することが抑制される。したがって、本開示にかかる触媒ないし触媒組成物によれば、珪素が付着することによる触媒活性の低下が抑制される。
【0038】
上記実施の形態の触媒20は、例えば、排気ガス処理装置に取り付けられて用いられる。図4は、排気ガス処理装置の構造を示す概略図である。図4を参照して、排気ガス処理装置2は、収容部30と、配管31,32と、を含む。収容部30は、側壁部301と、蓋部302,303と、を含む。側壁部301は、中空円筒状の形状を有する。側壁部301の一方の開口を閉塞するように蓋部302が配置される。側壁部301の他方の開口を閉塞するように蓋部303が配置される。側壁部301および蓋部302,303に取り囲まれる内部空間Tには、触媒20を含む第1構造体1が配置される。配管31の一方の端部は、蓋部303に接続されている。配管31の他方の端部は、排気ガスを外部へと排出する設備、例えば塗料や接着剤などの化学製品製造設備に接続されている。配管31は、排気ガスの流入路である。配管32の一方の端部は、蓋部302に接続されている。配管32の他方の端部は、排気ガスが排出される外部空間に位置するように配置される。配管32は、排気ガスを排出する排出路である。なお、配管32は、さらなる排気ガス処理装置に接続されてもよい。トルエンを含む排気ガスは、配管31を通じて収容部30に流入する。収容部30に流入した排気ガスに含まれるトルエンは、第1構造体1に含まれる触媒20によって分解が促進される。そして、排気ガスは、配管32を通じて外部空間に排出される。
【実施例0039】
本開示にかかる触媒のサンプルを作製し、触媒の構造およびトルエンを分解する効果を確認する実験を行った。実験の手順は以下の通りである。
【0040】
(実施例1)
酢酸3mlおよびエタノール75mlの混合液に、酢酸ガドリニウム四水和物2.55g、および硝酸コバルト六水和物0.182gを加え溶解させた後、テトラエトキシシラン0.71mlを添加して、1時間撹拌した。その後、分散剤としてポリビニルピロリドン22.3g加えて、80℃で6時間撹拌した。その後、ホットスターラーを用いて180℃に加熱することで溶媒の留去を実施し、定温乾燥機により80℃で12時間加熱し、ゲルを作製した。得られたゲルをマントルヒーターにより350℃で仮焼を実施した後、合成空気を流通させて1000℃で2時間焼成し、Gd10SiCoO27-δの組成式で表される酸化物を得た。
【0041】
(実施例2)
28%のアンモニア水溶液10mlおよび水10mlの混合液に、ケイ酸ナトリウム九水和物0.426gを加え、溶解させた。その後、酢酸ガドリニウム四水和物1.199gおよび硝酸コバルト六水和物0.0873gを水20mlに溶解させた水溶液を滴下して、原料混合液を得た。この原料混合液を60℃で1時間撹拌し、析出物を含む混合液を得た。析出物を含む混合液から、沈殿物を吸引濾過にて回収した。次いで、回収した沈殿物を80℃で乾燥させた後、大気中、1000℃で2時間焼成し、Gd10SiCoO27-δの組成式で表される酸化物を得た。
【0042】
(実施例3)
酸化ガドリニウム0.725g、四酸化三コバルト0.032g、二酸化ケイ素0.120gを混合した後にペレット成型を行った。得られたペレットをPt板に乗せ、大気中1400℃で2時間焼成し、Gd10SiCoO27-δの組成式で表される酸化物を得た。
【0043】
(比較例1)
28%のアンモニア水溶液10mlおよび水10mlの混合液に、ケイ酸ナトリウム九水和物0.426gを添加し、硝酸プラセオジム六水和物1.305gおよび硝酸コバルト六水和物0.0873gを水10mLに溶解させた溶液を滴下して、原料混合液を得た。この原料混合液を60℃で1時間攪拌し、析出物を含む混合液を得た。析出物を含む混合液から、沈殿物を吸引濾過にて回収した。次いで、回収した沈殿物を80℃で乾燥させた後、大気中、1000℃で2時間焼成し、Pr10SiCoO27-δの組成式で表される酸化物を得た。
【0044】
(比較例2)
28%のアンモニア水溶液10mlおよび水10mlの混合液に、ケイ酸ナトリウム九水和物0.426gを添加し、酢酸ネオジム六水和物1.018gおよび硝酸コバルト六水和物0.0873gを水10mLに溶解させた溶液を滴下して、原料混合液を得た。この原料混合液を60℃で1時間攪拌し、析出物を含む混合液を得た。析出物を含む混合液から、沈殿物を吸引濾過にて回収した。次いで、回収した沈殿物を80℃で乾燥させた後、大気中、1000℃で2時間焼成し、Nd10SiCoO27-δの組成式で表される酸化物を得た。
【0045】
(評価1:触媒粒子の形態の確認)
実施例1~3および比較例1,2で得られた触媒粒子の形態を、SEM(SSX-550、島津製作所製)を用いて観察した。観察結果を図5図7に示す。
【0046】
(評価2:粉末X線回折(XRD)測定)
実施例1~3および比較例1,2のサンプルについて、粉末X線回折によって結晶相を確認した。XRDの測定は、粉末X線回折装置(SmartLab、リガク製)を用いて、Cu-Kα管球(40kV、30mA)、10~70°の範囲、10°/minのスキャンスピード、0.04°の間隔の条件で実施した。測定結果を表1および図8に示す。
【0047】
(評価3:触媒活性の測定)
実施例1~3および比較例1、2のサンプルについて触媒活性測定を行った。触媒活性測定は、固定床流通式装置により評価した。前処理としてサンプル0.1gにアルゴンガスを流通させて、200℃で2時間加熱した。その後、サンプルに空気およびトルエンを含んだ混合ガス(トルエン濃度:900ppm)を20ml/minの流量で流通させて、各温度におけるトルエン転化率を測定した。ここで、トルエン転化率とは、反応したトルエンの割合である。トルエン転化率は、サンプルを通過した後の混合ガスをガスクロマトグラフで分析することで算出した。ガスクロマトグラフのカラムとしては、信和化工株式会社製「SunPak-A」を用いた。測定結果を図9図11に示す。
【0048】
(結果)
評価結果を表1にまとめて示す。
【表1】
【0049】
表1に示されるとおり、実施例1~3で得られた酸化物は、助触媒等の他の化合物等を併用しない場合であっても、トルエン完全分解温度が270℃~310℃であり、良好なVOCs分解触媒活性を示した。特に、実施例2、3で得られた酸化物の粒子は、アパタイト型の結晶構造を有し、一次粒子の間に多数の間隙が形成された二次粒子を形成していた(図6、7参照)。一方、比較例1、2で得られた酸化物は、トルエン完全分解温度が320℃、350℃であり、実施例1~3と比較して、VOCs分解活性が不足していた。このように、本開示にかかる触媒によれば、助触媒を用いない単純な構成であっても十分な活性を有し、トルエンを容易に分解することができることが確認された。
【0050】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本願の触媒は、揮発性有機化合物を分解するための触媒として特に有利に適用される。
【符号の説明】
【0052】
1 第1構造体、2 排気ガス処理装置、10 基体、20 触媒、30 収容部、31,32 配管、101 本体部、111,112,113,114,115,116,117,118,119 第1内壁部、120,121,122,123,124,125,126,127,128 第2内壁部、301 側壁部、302,303 蓋部。
図1
図2
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図5
図6
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図11