(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023060972
(43)【公開日】2023-05-01
(54)【発明の名称】印刷物の機械処理方法
(51)【国際特許分類】
G07D 7/12 20160101AFI20230424BHJP
G07D 7/20 20160101ALI20230424BHJP
B42D 25/387 20140101ALN20230424BHJP
【FI】
G07D7/12
G07D7/20
B42D25/387
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021170678
(22)【出願日】2021-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 直子
【テーマコード(参考)】
2C005
3E041
【Fターム(参考)】
2C005HA02
2C005HB10
3E041AA02
3E041BB02
3E041BB03
3E041BB04
3E041BB05
3E041CA01
(57)【要約】
【課題】銀行券などの貴重印刷物について、流通時の機械処理において紫外線を照射することにより除菌するとともに、除菌に用いられる光源を利用して真偽判別を行う機械処理方法を提供する。
【解決手段】本発明は、基材の少なくとも一部に、パターンが形成された印刷物の機械処理方法であって、印刷物に第1の紫外線を照射し、印刷物を除菌する除菌工程と、紫外線の照射による、基材又はパターンの少なくとも一つの光学特性を読み取り、印刷物の真偽判別を行う真偽判別工程と、から成る印刷物の機械処理方法に関するものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一部に、パターンが形成された印刷物の機械処理方法であって、
前記印刷物に第1の紫外線を照射し、前記印刷物を除菌する除菌工程と、
前記紫外線の照射による、前記基材又は前記パターンの少なくとも一つの光学特性を読み取り、前記印刷物の真偽判別を行う真偽判別工程と、
から成ることを特徴とする印刷物の機械処理方法。
【請求項2】
前記光学特性が、光反射特性又は光透過特性の少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載の印刷物の機械処理方法。
【請求項3】
前記光学特性が、紫外線透過特性又は紫外線吸収特性の少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載の印刷物の機械処理方法。
【請求項4】
前記光学特性が、蛍光材料又はりん光材料の発光特性の少なくとも一つであることを特徴とする請求項1記載の印刷物の機械処理方法。
【請求項5】
前記真偽判別工程は、前記除菌工程において前記第1の紫外線を照射した前記パターンに対して、前記第1の紫外線波長とは異なる第2の紫外線波長を照射し、前記パターンの発光特性を読み取ることを特徴とする請求項1記載の印刷物の機械処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀行券、商品券などの貴重印刷物における流通時の除菌及び真偽判別を行う機械処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我々の生活空間には、様々なカビ、微生物、細菌又はウイルス(以下、「細菌等」という。)が存在している。近年、新型コロナウイルス感染症が拡大している状況にあり、これらの感染症の流行が起こるたびに、銀行券や硬貨による感染リスクが話題に挙がる。
【0003】
これについて、銀行券や硬貨の機械処理において除菌する方法は、以前から提案されており、例えば、機械処理において搬送される銀行券の両面に紫外線を照射し殺菌を行うことが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、貴重印刷物は、偽造あるいは改ざん防止の目的で偽造防止技術が施され、当該偽造防止技術を真偽判別方法により真正か偽物かを判別することが一般的に知られている。例えば、紫外線のUV-A(315~400nmの波長域領域)とUV-C(200~280nmの波長域領域内)を併用するものであり、基材に第1蛍光体を含む第1領域と、第2蛍光体を含む第2領域を備え、第1領域と第2領域が一部隣接し、UV-A内の不可視光が照射されたとき、第1蛍光体と第2蛍光体は、互いに同色として視認される色の光を発光し、UV-C内の不可視光が照射されたとき、互いに異色として視認される色の光を発光する発光媒体であり、視認される色により真偽判別する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2993690号公報
【特許文献2】特許第5699313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、銀行券を紫外線で殺菌することに限定されており、紫外線をより有効活用する方法が求められていた。
【0007】
また、特許文献2に記載の技術は、紫外線のUV-CとUV-Aの2種類の蛍光発光を利用し、発光色の差異により真偽判別を行うため、印刷物に2つの発光領域を設ける必要があった。さらに、発光媒体の真偽判別において、発光波長の異なる2つの蛍光照射部及び検知部を設ける必要があり、機械処理装置のコストが高くなるという問題があった。そのため、印刷物及び機械装置において設計の自由度が低いという課題があった。
【0008】
そこで、本発明は、前述した問題の解決を目的としたものであり、貴重印刷物の流通における機械処理に関して、貴重印刷物を除菌することにより、感染症に対するリスクを抑制するとともに、貴重印刷物の真偽判別を、低コストかつ省スペースにて構成できる機械処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の機械処理方法は、基材の少なくとも一部に、情報パターンが形成された印刷物の機械処理方法であって、
印刷物に第1の紫外線を照射し、印刷物を除菌する除菌工程と、
紫外線の照射による、基材又はパターンの少なくとも一つの光学特性を読み取り、印刷物の真偽判別を行う真偽判別工程と、から成ることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の機械処理方法は、読み取る光学特性が光反射特性又は光透過特性の少なくとも一つであることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の機械処理方法は、読み取る光学特性が紫外線透過特性又は紫外線吸収特性の少なくとも一つであることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の機械処理方法は、読み取る光学特性が蛍光材料又はりん光材料の発光特性の少なくとも一つであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の機械処理方法の真偽判別工程は、除菌工程において第1の紫外線を照射したパターンに対して、第1の紫外線波長とは異なる第2の紫外線波長を照射し、パターンの発光特性を読み取ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、流通における貴重印刷物の機械処理において、紫外線を貴重印刷物に照射することにより貴重印刷物の除菌を行うとともに、除菌に用いられる光源を利用した真偽判別が可能となることから、印刷物の除菌と真偽判別を行う機械処理を低コストかつ省スペースで効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明における印刷物の機械処理方法のフローを示す図。
【
図2】本発明における機械処理の対象となる印刷物の一例を示す図。
【
図3】本発明における印刷物の機械処理装置の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態を以下に説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他様々な形態が実施可能である。
【0017】
(フロー)
図1は、本発明における印刷物(1)の機械処理方法のフローである。本発明における印刷物(1)の機械処理方法は、印刷物(1)を除菌する除菌工程(S1)と、印刷物(1)を真偽判別する真偽判別工程(S2)を少なくとも有する。
【0018】
(基材)
本発明において、機械処理方法の対象となる印刷物(1)は、真偽判別を必要とする銀行券、商品券など、市中において流通する貴重印刷物である。
本発明において、印刷物(1)に用いられる基材(2)は、紙、フィルム、シート、又は紙をフィルムでコーティングした複合基材等、特に限定されない。基材(2)が紙の場合は、化学パルプ、GP、PGW、RMP、TMP、CTMP、CMP、CGP等の機械パルプ、DIP等の古紙パルプから選ばれる少なくとも1種の等の公知のパルプを紙料として形成し、厚みとしては、0.1mm程度が好ましい。
基材(2)がフィルムやシートである場合は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、塩化ビニル樹脂などの公知の汎用プラスチックを選択し、厚みとしては、0.05~0.2mm程度が好ましい。また、基材(2)は光反射性や光透過性を有してもよいし、双方の特性を有してもよい。本発明において、パターン(3)の読取を透過で行う場合は、基材(2)は透明であることが好ましい。
【0019】
(パターン)
図2に示すように、本発明の印刷物(1)は、基材(2)の少なくとも一部にパターン(3)が形成されて成る。本発明において、パターン(3)は、インキを用いてオフセット印刷、凹版印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷などで形成されたものでもよいし、ホログラムやスレッドなどの偽造防止要素が、基材(2)に付与されたものでも、漉き込まれたものでもよい。
基材(2)に形成されるパターン(3)は、
図2(a)に示すように1つに限定されず、
図1(b)に示すように、基材(2)に複数のパターン(3-1、3-2)を有してもよい。複数のパターン(3)を有する場合、基材(2)上の別々の領域に形成されてもよいし、複数のパターン(3)が隣接して形成されてもよい。また、パターン(3)と別のパターン(3)の少なくとも一部が積層されていてもよい。
さらに、
図2(a)及び
図2(b)の例では、基材(2)の片面にパターン(3)が形成されているが、パターン(3)は基材(2)の両面に形成されてもよい。なお、パターン(3)が基材(2)の両面に形成される場合、パターン(3)は表裏で別々の領域に形成されてもよいし、基材(2)を介して表裏で隣接して形成されてもよいし、基材(2)を介して表裏の少なくとも一部の領域が同じ位置に形成されてもよい。パターン(3)の図柄について特段制約はないが、後述する安定した読取を行うためには、図形、マーク、記号などのベタ模様が好ましい。なお、本実施の形態では、パターン(3)が印刷により形成されたものを例として、以下説明する。
【0020】
(除菌)
本発明において、除菌とは、増殖可能な菌数を対象物から有効数を減少させることをいい、除菌の対象となる菌は、大腸菌、黄色ブドウ球菌、腸内細菌、ブドウ球菌、緑膿菌、カンシダのような真菌(真菌感染症)等が挙げられる。また、本発明は、除菌のほか、除ウイルスにも有効であり、除ウイルスの対象となるウイルスとしては、レトロウイルス、サイトメガロウイルス、ロタウイルス、パラミクソウイルス、ポリオウイルス、DNAウイルス又はRNAウイルス等のヒトに対して病原性を有するウイルスが挙げられる。本発明では、「除菌」の定義に「除ウイルス」も含める。
【0021】
(機械処理装置)
まず、本発明における印刷物(1)の機械処理方法に用いる機械処理装置(T)の一例について、
図3を用いて説明する。
【0022】
図3(a)に示すように、本発明における印刷物(1)の機械処理装置(T)は、出納部(A)、搬送部(B)、紫外線照射部(U)、読取部(Y)、判別部(H)(図示せず)、収納部(C)を備えている。以下、各部について説明する。
【0023】
出納部(A)は、印刷物(1)を一枚ずつ搬送部(B)へ繰り出す機構であり、エアさばき、エア吸引、繰り出しローラ等が用いられる。
【0024】
搬送部(B)は、印刷物(1)を紫外線照射部(U)まで搬送する機構であり、搬送ローラや搬送ベルト等が用いられる。
【0025】
紫外線照射部(U)は、搬送される印刷物(1)全体の除菌を行うための機構であり、
図3に示すように、紫外線照射部(U)に搬送される印刷物(1)の位置に対して、上部と下部にUV-Cの照射器(U)が設けられている。UV-Cの照射器(U)は、紫外線LED、カソードエミッタ、水銀ランプ、キセノランプ、ハロゲンランプ、重水素ランプなどがあるが、除菌に有効な紫外線波長を効率良く照射できる高出力紫外線LED又はUV-C発光出力の高い水銀ランプを用いることが好ましい。
【0026】
読取部(Y)は、受光器(Y)であり、印刷物(1)の基材(2)及び/又はパターン(3)の光学特性を読み取る機構である。受光器(Y)としては、光電子増倍管、各種センサ、各種カメラなどが用いられる。また、印刷物(1)の基材(2)やパターン(3)の光学特性に応じて、読取部(Y)は、搬送される印刷物(1)に対して、上部あるいは下部の片側、または両側に設けられる。本発明における光学特性は、印刷物(1)の基材(2)やパターン(3)が有する反射、透過、吸収、発光等に係る機械読取可能な特性をいう。読取部(Y)は、紫外線照射部(U)の近傍に設けられていてもよいし、紫外線照射部(U)から印刷物(1)が搬送された先に、設けられてもよい。また、読取部(Y)は、読み取られる光学特性に応じて、少なくとも1つ以上設けられる。
【0027】
判別部(H)(図示せず)は、少なくとも1つの読取部(Y)において読み取った光学特性を、真正品の光学特性と比較し、特性が同一か否か判別し、判別した結果(印刷物が真正か否か)を、装置内部あるいは外部のモニタ等への出力やコンピュータへの保存を行う部位である。
光学特性の比較及び判別方法としては、例えば、印刷物(1)を受光センサにて読み取った出力波形と予め登録しておいた真正品の正常な各波形と比較することにより真正か否かを判別してもよいし、印刷物(1)をカメラにて撮像した画像を用い、光学特性の有無を確認することにより、真正か否かを判別してもよく、本発明においては、任意の比較・判別方法を用いることができる。
【0028】
収納部(C)は、読取部(Y)にて読み取った後に搬送部(B)において搬送される印刷物(1)を一枚ずつ収納する機構であり、収納ローラ、羽根車、収納ボックス等が用いられる。 収納部(C)は、1箇所に限らず、複数箇所設けられていてもよい。例えば、収納部(C)を2箇所設ければ、判別部(H)において真正と判別された印刷物(1)と、真正でないと判別された印刷物(1)を分けて収納することができる。
以上が本発明の機械処理を構成する装置であるが、本発明の機械処理を構成する装置については、上記構成に限定されない。
【0029】
(除菌工程)
次に、機械処理装置(T)を使用した印刷物(1)の除菌工程(S1)について説明する。
図3(a)は、機械処理装置(T)の搬送状態を示すものである。
【0030】
図3(a)に示すように、除菌工程(S1)では、搬送される印刷物(1)一枚一枚に対し、紫外線照射部(U)から紫外線を照射することにより、印刷物(1)を除菌する。紫外線の照射波長は、UV-C(200~280nm)の範囲であり、除菌効果を高めるためには、除菌に効果の高い260nm付近が最も好ましい。
紫外線照射は、
図3(a)及び(b)に示すとおり、除菌する上で、印刷物(1)の表裏両方に紫外線を照射することが好ましい。このとき、印刷物(1)への紫外線照射は、
図3(a)に示すように表裏両面一度に照射してもよいし、
図3(b)に示すように片面ずつ照射してもよい。
【0031】
(真偽判別工程)
次に、機械処理装置(T)を使用した印刷物(1)の真偽判別工程(S2)について説明する。真偽判別工程(S2)では、機械処理において、印刷物(1)が一枚一枚搬送されている過程で、印刷物(1)が有する少なくとも一つの光学特性を読み取り、真偽判別を行うが、この真偽判別に印刷物(1)を除菌するための紫外線照射を用いる点が本発明の特徴である。真偽判別工程(S2)では、
図3(a)及び(b)に示すように、印刷物(1)に対して、除菌工程(S1)の紫外線照射部(U)から照射される紫外線を用いて、印刷物(1)の真偽判別を行う。
【0032】
読取対象は、紫外線(UV―C)の照射により基材(2)自体が有する光学特性でもよいし、パターン(3)自体が有する光学特性でもよい。また、基材(2)及びパターン(3)の双方の光学特性の違いでもよい。例えば、基材(2)の光学特性と、基材(2)とパターン(3)の積層領域の光学特性の違いを読取対象とすることもできる。
本発明における真偽判別工程(S2)について、第1の形態、第2の形態、第3の形態及び第4の形態として、説明する。
【0033】
(第1の形態)
本発明における真偽判別工程(S2)の第1の形態は、除菌工程(S1)において、照射した紫外線を用いて印刷物(1)の基材(2)及び/又はパターン(3)の光反射及び/又は透過特性を読み取り、真偽判別するものである。例えば、
図4(a)に示すように、基材(2)が光反射特性を有するものであれば、光反射特性を読取可能な場所に設けたセンサやカメラを用いて、光反射特性を読み取り真偽判別を行う。また、
図4(b)に示すように、例えば、基材(2)が、光透過性を有するものであれば、光透過特性を読取可能な場所に設けたセンサ等を用いて基材(2)の光透過特性を読み取り、真偽判別を行う。
【0034】
第1の形態において、
図4(a)及び
図4(b)では、基材(2)の光反射及び/又は透過特性を読み取る例で説明したが、パターン(3)が基材(2)と同様の特性を有していれば、
図5(a)及び
図5(b)に示すように、パターン(3)についても基材(2)と同様の真偽判別を行うことができる。また、基材(2)とパターン(3)とで、光反射及び/又透過特性が異なる場合、特性の差を用いて真偽判別に用いることもできる(図示せず)。なお、第1の形態において、読取対象となる領域が光反射・透過特性を有すればよく、基材(2)全体あるいはパターン(3)全体が光反射・透過特性を有する必要はない。
【0035】
(第2の形態)
本発明における真偽判別工程(S2)の第2の形態は、除菌工程(S1)において、照射した紫外線を用いて印刷物(1)における紫外線透過及び/又は吸収特性を読み取り、真偽判別を行うものであり、読取対象は、印刷物(1)の基材(2)及び/又はパターン(3)である。第2の形態として、印刷インキにてパターン(3)が形成された例について、第2-1の形態、第2-2の形態及び第2-3の形態として説明する。
【0036】
本発明における真偽判別工程(S2)の第2-1の形態は、印刷物(1)のパターン(3)を形成するインキがUV-C(200~280nm)に吸収特性を有する材料を含有する場合である。
例えば、
図5(a)に示すように、印刷物(1)に形成されたパターン(3)の紫外線吸収特性の有無等を読み取り、真偽判別を行う。紫外線吸収特性を有する材料は、UV-C(200~280nm)の透過吸収特性に特徴があればよく、ジヒドロキシベンゾフェノン系、シアノアクリレート系及びベンゾトリアゾール系吸収剤、紫外線散乱特性のある二酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。また、UVインキのビヒクルとして使用される紫外線硬化型樹脂は、UV-Aの吸収特性は大きくないがUV-C(200~280nm)に吸収特性を示すことから、特別な材料を用いずに、コストの低い読取要素となる。
【0037】
第2-2の形態は、印刷物(1)のパターン(3)に形成されたインキが紫外線透過インキ組成物を含有するような場合である。例えば、
図5(b)に示すように、パターン(3)が紫外線透過特性を有するものであれば、パターン(3)の紫外線透過特性の有無あるいは紫外線透過量等を読み取り、真偽判別を行う。
【0038】
第2-3の形態は、
図2(b)において説明したように、基材(2)に複数のパターン(3-1、3-2)を有する場合である。パターン(3)は、UV-Cの照射に吸収特性を有するパターン1(3-1)とUV-Cの照射に透過特性を有するパターン2(3-2)が隣接し、かつ、パターン1(3-1)とパターン2(3-2)が同色のペア図柄となっている。例えば、パターン1(3-1)は、紫外線硬化型樹脂を使用したUVインキで形成され、パターン2(3-2)はUV-Cに吸収性の低い、一例としてスチレン・アクリル系水溶性樹脂からなる水性インキで形成された場合、紫外線照射部(U)でUV-Cを照射したとき、パターン1(3-1)は光を吸収して暗く、パターン2(3-2)は光を透過して明るく検知される(図示せず)。このようにして、効果の高い真偽判別を行うことができる。
【0039】
上記では、パターン(3)の紫外線透過及び/又は吸収特性を読み取る例を説明したが、基材(2)自体が同様の特性を有すれば、基材(2)に対して同様の真偽判別を行うことができる。また、基材(2)とパターン(3)とで、紫外線透過・吸収特性が異なる場合、それぞれの特性を読み取り、真偽判別に用いてもよい。
【0040】
(第3の形態)
本発明における真偽判別工程(S2)の第3の形態は、除菌工程(S1)において、照射した紫外線を用いてパターン(3)の発光特性を読み取り、真偽判別を行うものである。基材(2)に形成されるパターン(3)については、第2の形態と同様であるため、説明を省略する。なお、第3の形態の説明のために
図6から及び
図8において示すパターン(3)上の点線は、発光状態を説明上示すものであり、実際に視認されるものではない。
【0041】
第3の形態においてパターン(3)が有する発光特性について説明する。パターン(3)における発光特性は、パターン(3)に形成されるインキに配合された読取可能な材料が有する発光特性である。読取可能な材料とは、蛍光材料、りん光材料など、紫外線照射により蛍光あるいはりん光を発する材料をいい、インキに適宜配合して用いられる。インキには、油脂類、天然樹脂、合成樹脂などの公知の材料をワニスとして選択して使用すればよい。
【0042】
これらの材料を用いた第3の形態を、第3-1の形態、第3-2の形態、第3-3及び第3-4の形態として説明する。
【0043】
第3-1の形態は、
図6(a)に示すように、パターン(3)に蛍光材料が含まれたインキが形成された印刷物(1)の真偽判別を行うものである。
図6(a)に示すように、除菌工程(S1)で印刷物(1)に紫外線が照射され、当該紫外線による蛍光発光を読取部(Y)で読み取り真偽判別を行う。真偽判別工程(S2)では、蛍光発光を検知して、真正品の発光特性と合致すれば真正と判断し、合致しなければ真正ではないと判別する。
【0044】
第3-2の形態は、
図6(b)に示すように、パターン(3)にりん光材料が配合されたインキが形成された印刷物(1)の真偽判別を行うものである。
図6(b)に示すように、除菌工程(S1)で印刷物(1)に紫外線が照射され、搬送部(B)により印刷物(1)が搬送された先で、当該紫外線によるりん光発光を読取部(Y)で読み取って真偽判別を行う。真偽判別工程(S2)では、りん光発光を検知して、真正品の発光特性と合致すれば真正と判断し、合致しなければ真正ではないと判別する。
【0045】
第3-3の形態は、
図7に示すように、パターン(3)に蛍光材料及びりん光材料が配合されたインキが形成された印刷物(1)の真偽判別を行うものである。
図7に示すように、除菌工程(S1)で印刷物(1)に紫外線が照射され、当該紫外線による蛍光発光を第1読取部(Y1)で第1の読取を行い、さらに搬送部(B)により印刷物(1)が搬送された先で、当該紫外線によるりん光発光を第2読取部(Y2)で第2の読取を行って真偽判別を行う。真偽判別工程(S2)では、蛍光発光及びりん光発光を検知して、真正品の発光特性と合致すれば真正と判断し、合致しなければ真正ではないと判別する。第3-3の形態では、2つの読取により真偽判別が行えることから、より高い精度で真偽判別を行うことができる。なお、第3-3の形態では、第1の読取において、蛍光発光の反射特性を読み取ったが、
図8に示すように、第1の読取において、蛍光発光の透過特性を読み取ることもできる。
【0046】
第3-1から第3-3の形態において、蛍光りん光材料は、除菌に効果のあるUV-C(200~280nm)照射により発光する発光体であればよく、無機材料としては、Sr10(PO4)6Cl2:Eu2+、SrMgAl10O17:Eu2+、LaPO4;Ce3+,Tb3+、Y2O2:Eu3+、Y(P,V)O4:Eu3+、ZnS:Mn2+、Zn2SiO4:Mn2+、等があり、特に、LaPO4;Ce3+,Tb3+、Zn2SiO4:Mn2+、Y(P,V)O4:Eu3+、Y2O2:Eu3+は一般的なUVランプであるブラックライトで発光しないため秘匿性があり、且つ本発明の読取装置で判別できる。
【0047】
パターン(3)に形成されたインキに含まれる蛍光りん光材料は、1種類の蛍光りん光材料を含有しても、複数の蛍光りん光材料を含有してもよい。1種類の蛍光りん光材料を含む場合は、印刷インキにZn
2SiO
4:Mn
2+又は、ZnS:Mn
2+の組成物が5.0重量%以上15.0重量%以下で含有することで、
図7に示すように、UV-Cの照射により、第1読取部(Y1)にて緑色又は橙色の蛍光を読み取ることができる。また、蛍光読取後、2~10m/Secで移送された印刷物(1)のパターン(3)について、第2読取部(Y2)にて緑色又は橙色のりん光を読み取ることができる。なお、インキには、蛍光りん光材料以外の色材として、例えば着色顔料等を混合してもよい。
【0048】
また、パターン(3)に形成されたインキに蛍光りん光材料を2種類含有する場合は、印刷インキとしてZn
2SiO
4:Mn
2+及びY(P,V)O
4:Eu
3+の組成物をそれぞれ、1.0重量%以上10.0重量%以下で含有することで、
図7に示すように、UV-Cの照射により、第1読取部(Y1)にてZn
2SiO
4:Mn
2+及びY(P,V)O
4:Eu
3+の混合色である黄色の発光を読み取ることができる。また、蛍光読取後、2~10m/Secで移送された印刷物(1)のパターン(3)について、第2読取部(Y2)にて、Zn
2SiO
4:Mnの緑色のりん光を読み取ることができる。
【0049】
なお、蛍光りん光材料を用いる場合は、UV-Cの照射波長に合わせて発光強度が高く、かつ、りん光の残光時間及び強度が、第2読取部(Y2)で検知できる材料を適宜選択すればよい。
【0050】
また、蛍光読取及びりん光読取に際しては、光源からの光や受光したい波長以外の光を遮るUVカットフィルタなどを適宜使用しても構わない。センサの劣化又は汚れを防止するためパッケージの中に収容してもよい。紫外線照射により印刷物(1)から発した光は、適宜ミラーを用いてセンサまで導光してもよい。パターン(3)に対して反射又は透過で読取が可能であるが、透過の場合は、基材(2)内部の散乱により受光強度が小さくなるため、印刷物(1)の基材(2)の組成、厚みを適宜調整すればよい。
【0051】
続いて、第3-4の形態について、
図9を用いて説明する。第3-4の形態は、特許第5256532号に開示されている二光子励起に関し、パターン(3)を形成するインキに、無機又は有機蛍光材料が含有されていなくても所定の条件で蛍光発光する樹脂組成物を含有するものである。パターン(3)を形成するインキは、アクリロイル基の官能基密度0.5mmol/g以上を有する多官能アクリレートを含んで成る樹脂と、光吸収により分子内開裂してラジカルを発生するラジカル光重合開始剤とを含んで成る樹脂組物で形成されている。あるいは、分子内にエチレン性不飽和基とビスフェノール骨格を有する多官能アクリレートを含んで成る樹脂と、光吸収により分子内開裂してラジカルを発生するラジカル光重合開始剤とを含んで成る樹脂組成物で形成されている。これらの樹脂組成物は、着色顔料、染料、光輝性材料、磁性材料、導電性材料及び/又はクロミック材料等着色剤や機能性材料を含有してもよい。また、パターン(3)は、上述した樹脂組成物が単独のインキで形成されてもよいし、
図2(b)に示すようなペア印刷であり、パターン1(3-1)が樹脂組成物で形成され、パターン2(3-2)は樹脂組成物を含まないインキで形成されていてもよい。
【0052】
図9に示すように、第1の紫外線として紫外線照射部(U)から、UV-C領域(260nm)の紫外線が照射されたパターン(3)では、励起物質(励起中間体)が形成される。また、励起物質が形成されたあとに、印刷物(1)が読取部(Y)に搬送され、第2の紫外線としてUV-A照射器(L)により、さらに365nmの紫外線が照射されると、励起物質(励起中間体)が励起する二光子励起による発光する。読取部(Y)では、当該発光を読み取り真偽判別を行う。真偽判別方法(S2)としては、パターン(3)の発光検知の有無あるいは、パターン(3-1)及びパターン(3-2)を含むパターン(3)の発光検知プロファイル、取得画像のパターンマッチング等があり、適宜選択できる。以上が第3-4の形態に係る説明である。
【0053】
真偽判別工程(S2)に係る第1の形態から第3の形態において、受光器(Y1、Y2)については、光電子増倍管やフォトダイオードなどの光センサがあるが、フォトダイオード素子が小型で安価であり応答が速く適している。フォトダイオード素子を印刷物(1)全面から発する光を受光できるよう搬送系の幅方向に配列したリニアセンサ又はカメラを使用した画像センサとして用いることができる。受光器内で光電変換された電気信号は、必要に応じて増幅してもよい。
【0054】
なお、搬送の速度は、除菌効率、印刷物(1)の搬送適性、紫外線照射部(U)から第2読取部(Y)の距離や印刷物(1)の印刷層に付与する読取材料の光学特性に応じて設定すればよいが、概ね2~10m/Sec、好ましくは、2~5m/Secが好ましい。
【実施例0055】
本発明の機械処理方法について、本実施例を用いて説明する。しかしながら、本発明は、本実施例により限定されるものではない。
【0056】
機械処理の対象となる印刷物(1)は、基材(2)として0.09mm厚の白色上質紙を用いた。印刷インキは、Zn2SiO4:Mn2+を10.0重量%配合したUVフレキソインキを用い、アニロックスローラ140L/inchとしてフレキソ印刷を行い、円状ベタの図柄のパターン(3)を形成した。
【0057】
次に、印刷物(1)の機械処理方法は、
図7(a)で示すように、出納部(A)に収納されている印刷物(1)を一枚ずつ繰り出し、搬送部(B)により3m/minの搬送速度で紫外線照射部(U)まで搬送され、照射器(U)として低圧水銀ランプを用い、紫外線の波長254nmの光を印刷物(1)の両面に照射し、除菌した。
【0058】
また、除菌と同時に、第1読取部(Y1)の受光器として光電子増倍管を用い、印刷物(1)のパターン(3)が示される緑色の蛍光発光を反射で読み取り、光電変換処理を施し、13Vの出力が得られた。
【0059】
次に、印刷物(1)は、第2読取部(Y2)に移送され、受光器(Y2)にシリコンフォトダイオードを用いて、パターン(3)の緑色のりん光を反射で受光し、4.5Vの出力が得られた。
【0060】
蛍光の閾値を10V、りん光の閾値を4.0Vと設定しており、得られた蛍光の出力が13V及びりん光の出力が4.5Vであることから、閾値以上の出力が得られ真正と判定された。
実施例2について、実施例1と同様の構成は省略して説明する。印刷物(1)は、基材(2)として0.055mmの厚さのポロプロピレンシートを用いた。印刷インキは、ZnS:Mn2+を30重量%配合した油性オフセットインキを使用し、オフセット印刷を行い、円状のベタのパターン(3)を形成した。
また、除菌すると同時に、第1読取部(Y1)の受光器としてシリコンフォトダイオードを用いて、印刷物(1)のパターン(3)が示した橙色の蛍光発光を透過で読み取り、640mVの出力が得られた。
次に、印刷物(1)は、第2読取部(Y2)に移送され、受光器として、同じくシリコンフォトダイオードを用いて、印刷物(1)のパターン(3)が示した橙色のりん光発光を透過で受光して読み取り、光電変換処理を施し、100mVの出力が得られた。
蛍光の閾値を500mV、りん光の閾値を50mVと設定しており、得られた蛍光の出力が640mV及びりん光の出力が100mVであることから、閾値以上の出力が得られ真正と判定された。