(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061041
(43)【公開日】2023-05-01
(54)【発明の名称】蛍光X線分析装置および蛍光X線分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/223 20060101AFI20230424BHJP
【FI】
G01N23/223
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021170794
(22)【出願日】2021-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】工藤 志緒
(72)【発明者】
【氏名】辻川 葉奈
(72)【発明者】
【氏名】土屋 恒治
(72)【発明者】
【氏名】深井 隆行
(72)【発明者】
【氏名】泉山 優樹
(72)【発明者】
【氏名】関 雄太
(72)【発明者】
【氏名】山田 充子
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA04
2G001BA14
2G001BA29
2G001EA03
2G001JA02
2G001LA11
(57)【要約】
【課題】 試料ステージ上の試料の反りによる前記測定面の高さの変化または傾斜の度合いに応じて試料ステージを移動させることによって高さや傾きを補正することなく、測定時間の補正をすることでX線分析を行うので精確なX線強度を得ることができ、確度の高い分析結果を得ることができる蛍光X線分析装置および蛍光X線分析方法を提供する。
【解決手段】 三次元測定機構6で試料S表面の高さHや傾斜角度を求め、標準照射位置の高さと三次元測定機構で測定した高さや傾斜角度との差分と測定時間との相関関係などから補正照射時間を算出し、X線源から試料にX線を照射し前記補正照射時間に基づいてX線検出器3で蛍光X線を検出して分析器4で分析する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料上の照射ポイントに入射X線を照射する放射線源と、
前記試料から放出される蛍光X線及び散乱X線を検出し、前記蛍光X線及び前記散乱X線のエネルギー情報を含む信号を出力するX線検出器と、
前記信号を分析する分析器と、
前記試料を載置する試料ステージと、
前記試料ステージ上の前記試料と前記放射線源及び前記X線検出器とを相対的に移動可能なステージ移動機構と、
前記試料における前記入射X線の照射ポイントの形状情報を測定可能な三次元測定機構と、
前記照射ポイントの形状情報と予め記憶してある標準照射位置の形状情報との差分を前記照射ポイントの変位として算出し、前記変位に基づいて、前記照射ポイントの測定時間を調整する制御コンピュータと、
を備えていることを特徴とする蛍光X線分析装置。
【請求項2】
前記ステージ移動機構が、前記試料内の複数の前記照射ポイントの位置に前記試料ステージを移動可能であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項3】
前記形状情報が、高さ及び傾斜角度の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1又は2に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項4】
前記三次元測定機構が、レーザ変位計またはプローブ式測定器であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項5】
蛍光X線分析装置による蛍光X線分析方法であって、
前記蛍光X線分析装置が、試料上の照射ポイントに入射X線を照射する放射線源と、前記試料から放出される蛍光X線及び散乱X線を検出し、前記蛍光X線及び前記散乱X線のエネルギー情報を含む信号を出力するX線検出器と、前記信号を分析する分析器と、前記試料を載置する試料ステージと、前記試料ステージ上の前記試料と前記放射線源及び前記X線検出器とを相対的に移動可能なステージ移動機構と、前記試料における前記入射X線の照射ポイントの形状情報を測定可能な三次元測定機構と、前記照射ポイントの形状情報と予め記憶してある標準照射位置の形状情報との差分を前記照射ポイントの変位として算出し、前記変位に基づいて、前記照射ポイントの測定時間を調整する制御コンピュータと、を備え
前記ステージ移動機構が、前記試料の前記照射ポイントに前記試料ステージを移動するステップと、
前記三次元測定機構が、前記照射ポイントにレーザ光を照射すると共に、前記照射ポイントから発生した2次レーザ光を受光し、前記照射ポイントの形状情報を取得して前記制御コンピュータへ送信するステップと、
前記制御コンピュータが、前記照射ポイントの形状情報と予め記憶してある標準照射位置の形状情報との差分を前記照射ポイントの変位として算出するステップと、
前記差分と前記入射X線の照射時間との相関関係に基づいて前記照射ポイントにおける補正照射時間を前記制御コンピュータで算出し記憶するステップと、
前記補正照射時間で前記放射線源から前記入射X線を前記照射ポイントに照射し前記X線検出器により検出した前記信号を前記分析器で検出するステップとを有していることを特徴とする蛍光X線分析方法。
【請求項6】
前記試料内の複数の照射ポイントの位置に前記試料ステージを移動させて、前記三次元測定機構の前記測定と前記分析器の前記分析とを行うことを特徴とする請求項5に記載の蛍光X線分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント基板等の試料中に含まれる金属元素等の検出が可能な蛍光X線分析装置及び蛍光X線分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリント基板や半導体基板などの試料表面の複数箇所を順次入射X線を照射して、試料全面について蛍光X線分析による定量分析、膜厚分析、元素の面内分布(マッピング)分析するにあたり、試料の反りなどの変形が大きい試料について、各測定箇所での試料表面の高さおよび傾きのために測定確度が低下していた。
【0003】
そこで、特許文献1ではレーザ干渉を用いた三次元測定器(表面形状測定装置)で試料表面における各測定箇所の傾きおよび高さを測定し、各測定箇所における試料表面の高さおよび傾きに基づいて試料と放射線源(励起X線源)及びX線検出器(蛍光X線検出器)とを相対的に移動可能な位置調整機構(調整機構)で試料表面の高さおよび傾きを調整し、調整後にその測定箇所にX線を入射させ、そのX線によって発生した蛍光X線を検出することで測定することが知られていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記事情を背景としてなされたもので、被測定物の反りなどによる凹凸や傾斜があった場合、特許文献1のように試料表面における各測定部の傾きおよび高さをレーザなどの三次元測定器で測定し、位置調整機構で各測定部位における試料表面の高さおよび傾きを三次元測定器で求めた高さおよび傾きに応じて調整し、その測定部位にX線を入射させ、そのX線によって発生した蛍光X線を検出するという方法では、測定部位ごとに傾きや高さ測定結果に基づいて位置調整を行い測定するために、測定に時間がかかるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、第1の発明に係るX線分析装置は、試料上の照射ポイントに入射X線を照射する放射線源と、前記試料から放出される蛍光X線及び散乱X線を検出し、前記蛍光X線及び前記散乱X線のエネルギー情報を含む信号を出力するX線検出器と、前記信号を分析する分析器と、前記試料を載置する試料ステージと、前記試料ステージ上の前記試料と前記放射線源及び前記X線検出器とを相対的に移動可能なステージ移動機構と、前記試料における前記入射X線の照射ポイントの形状情報を測定可能な三次元測定機構と、前記照射ポイントの形状情報と予め記憶してある標準照射位置の形状情報との差分を前記照射ポイントの変位として算出し、前記変位に基づいて、前記照射ポイントの測定時間を調整する制御コンピュータと、を備えていることを特徴とする。
【0007】
すなわち、この蛍光X線分析装置では、照射ポイントの形状情報と予め記憶してある標準照射位置の形状情報との差分を照射ポイントの変位として算出し、この変位に基づいて、照射ポイントの測定時間を調整する制御コンピュータを備えているので、測定時間の補正・調整だけ行って、測定部位ごとに傾きや高さの測定結果に基づいて機械的な位置調整を行う必要が無いことで、大幅に測定時間を短縮することが可能になる。
したがって、試料の被測定面に凹凸や傾斜があっても、その形状を照射ポイントの形状情報として測定し、これを標準照射位置の形状情報と比較して差分に応じた入射X線による測定時間の補正、すなわち入射X線の強度の補正を行うことで、精確なX線強度を得ることができ、短時間で高精度な分析結果を得ることができる。
【0008】
第2の発明に係るX線分析装置は、第1の発明において、前記ステージ移動機構が、前記試料内の複数の前記照射ポイントの位置に前記試料ステージを移動可能であることを特徴とする。
【0009】
第3の発明に係るX線分析装置は、第1又は2の発明において、前記形状情報が、高さ及び傾斜角度の少なくとも一方であることを特徴とする。
【0010】
第4の発明に係るX線分析装置は、第1から3の発明のいずれかにおいて、前記三次元測定機構が、レーザ変位計またはプローブ式測定器であることを特徴とする。
【0011】
第5の発明に係るX線分析方法は、 蛍光X線分析装置による蛍光X線分析方法であって、前記蛍光X線分析装置が、試料上の照射ポイントに入射X線を照射する放射線源と、前記試料から放出される蛍光X線及び散乱X線を検出し、前記蛍光X線及び前記散乱X線のエネルギー情報を含む信号を出力するX線検出器と、前記信号を分析する分析器と、前記試料を載置する試料ステージと、前記試料ステージ上の前記試料と前記放射線源及び前記X線検出器とを相対的に移動可能なステージ移動機構と、前記試料における前記入射X線の照射ポイントの形状情報を測定可能な三次元測定機構と、前記照射ポイントの形状情報と予め記憶してある標準照射位置の形状情報との差分を前記照射ポイントの変位として算出し、前記変位に基づいて、前記照射ポイントの測定時間を調整する制御コンピュータと、を備え、前記ステージ移動機構が、前記試料の前記照射ポイントに前記試料ステージを移動するステップと、前記三次元測定機構が、前記照射ポイントにレーザ光を照射すると共に、前記照射ポイントから発生した2次レーザ光を受光し、前記照射ポイントの形状情報を取得して前記制御コンピュータへ送信するステップと、前記制御コンピュータが、前記照射ポイントの形状情報と予め記憶してある標準照射位置の形状情報との差分を前記照射ポイントの変位として算出するステップと、前記差分と前記入射X線の照射時間との相関関係に基づいて前記照射ポイントにおける補正照射時間を前記制御コンピュータで算出し記憶するステップと、前記補正照射時間で前記放射線源から前記入射X線を前記照射ポイントに照射し前記X線検出器により検出した前記信号を前記分析器で検出するステップとを有していることを特徴とする。
【0012】
第6の発明に係るX線分析方法は、第5の発明において、前記試料内の複数の照射ポイントの位置に前記試料ステージを移動させて、前記三次元測定機構の前記測定と前記分析器の前記分析とを行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、試料ステージ上の試料の反りによる測定面の高さ変化、または傾斜の度合いに応じて試料ステージを移動させることによって高さや傾きを補正することなく、測定時間の補正をすることでX線分析を行うので精確な蛍光X線強度を得ることができ、確度の高い分析結果を得ることができる。そのため、蛍光X線強度、定量分析値も安定させることができる。さらに、高さや傾きの調整を試料ステージなどの移動機構で行わないため、短時間で測定結果を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る蛍光X線分析装置100の構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る蛍光X線分析装置100における標準照射位置P2の場合のブロック図である。
【
図3】本発明に係る第1の実施形態に係る蛍光X線分析方法のフローチャートである。
【
図4】X線源2から入射X線を照射ポイントP1に一定時間照射した際に、X線検出器3で検出される蛍光X線のカウント数と標準照射位置P2の高さH0と高さHの差分Dとの相関関係である。
【
図5】標準照射位置P2の高さH0と高さHの差分Dと入射X線の照射量が一定になるように算出した測定時間との相関関係である。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係る蛍光X線分析装置100の試料ステージとX線源とX線検出器の配置を示す上面からの概略図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係る蛍光X線分析装置100の試料ステージとX線源とX線検出器の配置を示す側面からの概略図である。
【
図8】X線源2から入射X線を照射ポイントP1に一定時間照射した際のX軸の傾斜角度と検出される蛍光X線カウント数の相関関係である。
【
図9】X軸の傾斜角度と入射X線の照射量が一定になるように算出した測定時間との相関図である。
【
図10】X線源2から入射X線を照射ポイントP1に一定時間照射した際のY軸の傾斜角度と検出される蛍光X線カウント数の相関関係である。
【
図11】Y軸の傾斜角度と入射X線の照射量が一定になるように算出した測定時間との相関図である。
【
図12】X線源2から入射X線を照射ポイントP1に一定時間照射した際のX軸の入射X線の照射量が一定になるように算出した標準照射位置P2の高さH0と高さHの差分Dが+5mmと-5mmの場合の傾斜角度とカウント数との相関図である。
【
図13】差分Dが異なる場合の傾斜角度と入射X線の照射量が一定になるように算出した測定時間との相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の第1の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各構成部分を認識可能な大きさとするため、必要に応じて縮尺を適宜変更している。
図1は本発明の第1の実施形態に係る蛍光X線分析装置100の構成を示すブロック図である。
【0016】
蛍光X線分析装置100は、例えばエネルギー分散型の蛍光X線分析装置であって、試料Sを載置する試料ステージ1と、試料S上の照射ポイントに入射X線を照射するX線源(放射線源)2と、試料Sから放出される蛍光X線及び散乱X線を検出し、蛍光X線及び散乱X線のエネルギー情報を含む信号を出力するX線検出器3と、前記信号を分析する分析器4と、観察機構5と、試料Sにおける入射X線の照射ポイントP1の形状情報を測定可能なレーザ変位計(三次元測定機構)6と、試料ステージ1上の試料SとX線源2及びX線検出器3とを相対的に移動可能なステージ移動機構7と、照射ポイントP1の形状情報と予め記憶してある標準照射位置P2の形状情報との差分を照射ポイントP1の変位として算出し、前記変位に基づいて、照射ポイントP1の測定時間を調整する制御コンピュータ8とを備えている。
【0017】
上記ステージ移動機構7は、試料S内の複数の照射ポイントP1の位置に試料ステージ1を移動可能である。
上記形状情報は、高さH及び傾斜角度の少なくとも一方である。なお、本実施形態では、高さHを形状情報として測定している。
【0018】
X線源2は試料ステージ1より上方に位置し、試料S上の任意の照射ポイントP1に入射X線(放射線)X1を照射する。X線源2は例えば、管球内のフィラメント(陽極)から発生した熱電子がフィラメント(陽極)とターゲット(陰極)との間に印加された電圧により加速され、ターゲット(W(タングステン)、Mo(モリブデン)、Rh(ロジウム)など)に衝突して発生したX線を入射X線X1としてベリリウム箔などの窓から出射するものである。
【0019】
X線検出器3は試料ステージ1より上方に位置しつつX線源2と離間している。X線検出器3は、試料Sから放出される蛍光X線及び散乱X線を検出し、この蛍光X線及び散乱X線のエネルギー情報を含む信号を出力する。X線検出器3は例えば、X線の入射窓に設置されている半導体検出素子(例えば、SDDフォトダイオードであるSi(シリコン)素子)(図示略)を備え、X線光子1個が入射すると、このX線光子1個に対応する電流パルスを発生させるものである。この電流パルスの瞬間的な電流値が、入射した蛍光X線のエネルギーに比例する。また、X線検出器3は、半導体検出素子で発生した電流パルスを電圧パルスに変換及び増幅し、信号として出力するように設定されている。
分析器4は、X線検出器3に接続されて出力された信号を分析する。分析器4は例えば、上記信号から電圧パルスの波高を得てエネルギースペクトルを生成する波高分析器(マルチチャンネルアナライザー)である。
【0020】
観察機構5は、光学顕微鏡やCCDカメラ等を有しており、電球等の照明手段(図示せず)で照明された試料Sの画像を、画像データとして表示可能な光学系である。観察機構5は、試料ステージ1より上方に位置しつつX線源2と離間している。観察機構5は、ミラー5aとビームスプリッター5bを介して試料Sの画像を視認または撮像できるものである。
【0021】
本実施形態の三次元測定機構として用いるレーザ変位計6は、試料ステージ1より上方に位置しつつ、X線源2より下方でX線源2と離間して配置されている。レーザ変位計6は1次レーザ光L1を横方向に照射可能であり、試料S上の任意の照射ポイントP1におけるレーザ変位計6までの高さH(試料ステージ表面に対して垂直方向)が測定可能になっている。レーザ変位計6としては、例えば図示しない半導体レーザ素子等からなる発光部と、CCD(図示略)、光位置検出素子(PSD)又はリニアイメージセンサ等からなる受光部と、投光レンズ及び受光レンズとを備え、三角測量を応用した反射型センサ(三角測距方式のレーザ変位センサ)を用いることができる。レーザ変位センサは一般に市販されている。なお、「可視光」とは、JIS-Z8120に規定する短波長側が360~400nm、長波長側が760~830nmの波長の光である。
ここで、1次レーザ光L1の光軸はミラー6bで下方向に反射され、入射X線X1の光軸と同軸になるように設定されている。但し、ミラー6bは可動式であって、X線による分析時に入射X線X1の進路(光軸)上から退避可能になっている。
【0022】
このようにして、レーザ変位計6から照射された1次レーザ光L1は照射ポイントP1に照射される。そして、照射ポイントP1に1次レーザ光L1を照射すると2次レーザ光L2が発生し、この2次レーザ光L2はレーザ変位計6内の受光部(図示せず)に回帰する。従って、この2次レーザ光L2の感知状態を検出することで、試料S表面の照射ポイントP1からレーザ変位計6までの高さHの高さ情報を取得し、この高さ情報を制御コンピュータ8に出力する。
【0023】
なお、本実施形態では、試料ステージ1は、試料Sを載置した状態で左右の水平移動と垂直移動、および傾斜移動が可能なXYZθステージであり、ステージ移動機構7により制御される。
【0024】
制御コンピュータ8は、分析器4から送られるエネルギースペクトルから特定の元素に対応したX線強度を判別する制御部本体(図示せず)と、これに基づいて分析結果を表示するディスプレイ部(図示せず)と、照射ポイントP1の位置入力等の各種命令や分析条件等を入力可能な操作部(図示せず)とを備えている。また、制御コンピュータ8の制御部本体は試料ステージ1の移動を制御するステージ移動機構7等と通信制御する機能も備えている。制御部本体は、公知のCPU、ROM、RAM、ハードディスク等の記録媒体、及びステージ移動機構7の作動及び停止を行う制御回路基板等(図示せず)を備える。
【0025】
上記制御コンピュータ8は、照射ポイントP1の形状情報と予め記憶してある標準照射位置P2の形状情報との差分Dを照射ポイントP1の変位として算出する。
また、制御コンピュータ8は、差分Dと入射X線の照射時間との相関関係に基づいて照射ポイントP1における補正照射時間を算出し記憶する。
さらに、上記分析器4は、補正照射時間でX線源2から入射X線を照射ポイントP1に照射しX線検出器3により検出した前記信号を検出する。
【0026】
すなわち、制御コンピュータ8は、レーザ変位計6から高さH情報(形状情報)を取得し、高さHと標準照射位置P2の高さH0との差分D(変位のある試料表面の高さHから標準位置P2の試料表面の高さH0を引いたもの)の距離を算出し記憶する。
ここで、
図2は本発明の第1の実施形態に係る蛍光X線分析装置100における標準照射位置P2の場合のブロック図である。
標準照射位置P2は、試料S表面の照射ポイントP1の高さHがX線源2からの入射X線X1の照射軸と、X線検出器3の(最良感度の)向きとが交差する位置である。そして、標準照射位置P2の高さH0は予め制御コンピュータ8に記憶されている。
【0027】
図4は、X線源2から入射X線を照射ポイントP1に一定時間照射した際に、X線検出器3で検出される蛍光X線のカウント数と標準照射位置P2の高さH0と高さHの差分Dとの相関関係を示しており、この相関関係が予め制御コンピュータ8に記憶されている。
図5は、入射X線の照射量が一定になるように標準照射位置P2の高さH0と高さHの差分Dと測定時間との相関関係を示す。
【0028】
次に、制御コンピュータ8は、
図5の相関関係に基づいて、照射ポイントにおける差分Dの距離から補正測定時間(補正照射時間)を算出し、X線源2から照射ポイントP1に入射X線を照射して、算出した補正測定時間で試料Sから放出される蛍光X線及び散乱X線を蛍光X線検出器3で検出し、この蛍光X線及び散乱X線のエネルギー情報を含む信号を分析器4に出力する。
【0029】
次に、蛍光X線分析装置100を用いた蛍光X線分析方法について、
図3を参照して説明する。
図3は、例えばプリント基板の面内の複数箇所を蛍光X線分析装置100にて分析する場合におけるフローチャートを示す。
【0030】
まず、制御コンピュータ8はステージ移動機構7により試料Sの面内の所定位置に試料ステージ1を移動させて位置合わせする(ステップS1)。
【0031】
次に、レーザ変位計6から照射ポイントP1に可視光レーザを照射し、レーザ変位計6は照射ポイントP1から発生した2次レーザ光を受光して高さHを測定し、測定した高さHのデータを制御コンピュータ8へ送信する(ステップS2)。
【0032】
同様に、試料Sの面内の複数の所定位置において上記ステップS1とステップ2を繰り返して、レーザ変位計6から送信された各位置の照射ポイントP1の高さHのデータを制御コンピュータ8が記憶する(ステップS3)。
【0033】
ここで、制御コンピュータ8は、取得した照射ポイントP1の高さH情報に基づき、予め制御コンピュータ8に記憶してある標準照射位置P2の高さH0と測定した各高さHの差分Dの距離を算出し記憶する(ステップS4)。
標準照射位置P2は、試料S表面の照射ポイントP1の高さHがX線源2からの入射X線X1の照射軸と、X線検出器3の(最良感度の)向きとが交差する位置である。そして、標準照射位置P2の高さH0は予め制御コンピュータ8に記憶されている。
【0034】
また、
図4は、X線源2から入射X線を照射ポイントに一定時間照射した際に、X線検出器3で検出される蛍光X線のカウント数と標準照射位置P2の高さH0と高さHの差分Dとの相関関係を示し、予め制御コンピュータ8に記憶されている。
なお、
図4は、試料Sの測定元素がニッケル(Ni)における相関関係を示すが、測定元素や入射X線強度や検出器感度などに依存するので、これに限定されるものではない。
【0035】
図5は、入射X線の照射量が一定になるように算出した標準照射位置P2の高さH0と高さHの差分Dと測定時間との相関関係を示す。
次に、制御コンピュータ8は、
図5の相関関係に基づいて、ステップS3で記憶された各照射ポイントP1における差分Dの距離から補正測定時間(補正照射時間)を算出する(ステップS5)。
【0036】
ステージ移動機構7により試料S内の所定の照射ポイントP1の位置に試料ステージ1を移動させる(ステップS6)。
【0037】
X線源2から入射X線を照射ポイントP1に照射して前記ステップS5で算出した補正測定時間でX線検出器3により検出し、分析器4で分析する(ステップS7)。
【0038】
同様に、試料Sの面内の複数の所定位置において上記ステップS6とステップ7を繰り返して、X線源2から入射X線を照射ポイントP1に照射して前記ステップS5で算出した補正測定時間(補正照射時間)ごとにX線検出器3により検出し、分析器4で分析する(ステップS8)。
【0039】
次に、本発明の第2の実施形態について、図面を参照して説明する。
本発明の第2の実施形態に係る蛍光X線分析装置100の試料ステージとX線源とX線検出器の配置を示す概略図として
図6が上面図、
図7が側面図である。それ以外については本発明の第1の実施形態の
図1の構成に準ずる。
【0040】
本発明の第2の実施形態で用いるレーザ変位計6は、試料S上の任意の照射ポイントP1における傾斜角度θ(試料ステージ表面に対して水平方向)を形状情報として測定可能になっている。
【0041】
レーザ変位計6から照射された1次レーザ光L1は照射ポイントP1に照射される。そして、照射ポイントP1に1次レーザ光L1を照射すると2次レーザ光L2が発生し、この2次レーザ光L2はレーザ変位計6内の受光部(図示せず)に回帰する。従って、この2次レーザ光L2の感知状態を検出することで、試料S表面の傾斜角度θ情報を取得し、この傾斜角度θ情報を制御コンピュータ8に出力する。
【0042】
ここで、試料ステージ1のXY軸において、X線源2の入射X線の照射軸とX線検出器3の(最良感度の)向きが、X軸に同軸になるように設定されている。
なお、
図7において試料Sの表面が紙面の右側(検出器3側)に傾斜するのをX軸のプラス角度、
図6において試料Sの表面が紙面の上側に傾斜するのをY軸のプラス角度とする。
図8は、予め制御コンピュータ8に記憶されている、X線源2から入射X線を照射ポイントP1に一定時間照射した際のX軸の傾斜角度と検出される蛍光X線カウント数の相関関係である。
図9は、X軸の傾斜角度と入射X線の照射量が一定になるように算出した測定時間との相関図である。
図10は、予め制御コンピュータ8に記憶されている、X線源2から入射X線を照射ポイントP1に一定時間照射した際のY軸の傾斜角度と検出される蛍光X線カウント数の相関関係である。
図11は、Y軸の傾斜角度と入射X線の照射量が一定になるように算出した測定時間との相関図である。
図12は、予め制御コンピュータ8に記憶されている、X線源2から入射X線を照射ポイントP1に一定時間照射した際のX軸の入射X線の照射量が一定になるように算出した標準照射位置P2の高さH0と高さHの差分Dが+5mmのD1と-5mmのD2の場合の傾斜角度とカウント数との相関関係を示す。
図13は、差分Dが+5mmのD1と-5mmのD2の傾斜角度と入射X線の照射量が一定になるように算出した測定時間との相関図である。
【0043】
次に、制御コンピュータ8は、
図9の相関関係、および
図11の相関関係に基づいて、照射ポイントにおけるXY方向の傾斜角度から補正測定時間(補正照射時間)を算出し、X線源2から照射ポイントに入射X線を照射させ、算出した補正測定時間で試料Sから放出される蛍光X線及び散乱X線を蛍光X線検出器で検出させ、この蛍光X線及び散乱X線のエネルギー情報を含む信号を分析器に出力する。
【0044】
上記高さまたは傾斜角度の計測は、レーザ変位計6から照射された1次レーザ光L1の光路を固定し、試料ステージ1を動かして行っているが、1次レーザ光L1の光路を可動にする方法でも構わない。
【0045】
また、高さと傾斜角度の両方の変位があった場合、
図12に示すように高さに変位がなかった場合と直線の傾きは同様で切片が異なるグラフとしてあらわされる。例えば、差分Dが+5mmの場合がD1、差分Dが-5mmの場合がD2のようになる。任意の高さでの傾斜角度とカウント数との相関関係は予め制御コンピュータ8に記憶されている。
【0046】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態は、エネルギー分散型の蛍光X線分析装置であるが、本発明を、他の分析方式、例えば波長分散型の蛍光X線分析装置や、全反射蛍光X線分析装置に用いることもできる。
【0047】
なお、本実施形態では三次元測定機構としてレーザによる非接触式のレーザ変位計を用いたが、プローブによる接触式の測定器(プローブ式測定器)を用いてもよい。
【0048】
また、本実施例では同じ成分を持つ複数の標準試料などから求めた検量線を用いる検量線法を用いたが、FP(ファンダメンタルパラメータ)法でも用いてもよい。FP法では試料に対してX線源とX線検出器がどのような位置関係になっているかという情報を有しているが、その補正も行う。
【符号の説明】
【0049】
1・・・試料ステージ
2・・・X線源(放射線源)
3・・・X線検出器
4・・・分析器
5・・・観察機構
5a・・・ミラー
5b・・・ビームスプリッター
6・・・レーザ変位センサ(三次元測定機構)
6b・・・ミラー
7・・・ステージ移動機構
8・・・制御コンピュータ
P1・・・照射ポイント(変位あり)
P2・・・照射ポイント(標準)
L1・・・1次レーザ光
L2・・・2次レーザ光
X1・・・入射X線
X2・・・2次X線
S・・・試料
H・・・試料表面の高さ(変位あり)
H0・・・試料表面の高さ(標準)