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特開2023-61133AMPK活性化剤、運動機能向上剤、筋持久力向上剤および筋萎縮抑制剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061133
(43)【公開日】2023-05-01
(54)【発明の名称】AMPK活性化剤、運動機能向上剤、筋持久力向上剤および筋萎縮抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/192 20060101AFI20230424BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230424BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230424BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20230424BHJP
【FI】
A61K31/192
A61P43/00 111
A61P21/00
A61P3/00
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021170940
(22)【出願日】2021-10-19
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】591082421
【氏名又は名称】丸善製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100201606
【弁理士】
【氏名又は名称】田岡 洋
(72)【発明者】
【氏名】吉野 進
【テーマコード(参考)】
4C206
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA21
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA36
4C206MA57
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZA94
4C206ZC19
4C206ZC21
(57)【要約】
【課題】天然物由来の化合物の中から、AMPK活性化作用、運動機能向上作用、筋持久力向上作用および筋萎縮抑制作用において優れた作用を有するものを見出し、それらを有効成分とするAMPK活性化剤、運動機能向上剤、筋持久力向上剤および筋萎縮抑制剤を提供する。
【解決手段】本発明のAMPK活性化剤、運動機能向上剤、筋持久力向上剤および筋萎縮抑制剤の有効成分として、下記式(I)で表される化合物を用いる。また、本発明のAMPK活性化用経口組成物、運動機能向上用経口組成物、筋持久力向上用経口組成物および筋萎縮抑制用経口組成物に、下記式(I)で表される化合物を配合する。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される化合物を有効成分とすることを特徴とするAMPK活性化剤。
【化1】
【請求項2】
下記式(I)で表される化合物を有効成分とすることを特徴とする運動機能向上剤。
【化2】
【請求項3】
下記式(I)で表される化合物を有効成分とすることを特徴とする筋持久力向上剤。
【化3】
【請求項4】
下記式(I)で表される化合物を有効成分とすることを特徴とする筋萎縮抑制剤。
【化4】
【請求項5】
下記式(I)で表される化合物を配合したことを特徴とするAMPK活性化用経口組成物。
【化5】
【請求項6】
下記式(I)で表される化合物を配合したことを特徴とする運動機能向上用経口組成物。
【化6】
【請求項7】
下記式(I)で表される化合物を配合したことを特徴とする筋持久力向上用経口組成物。
【化7】
【請求項8】
下記式(I)で表される化合物を配合したことを特徴とする筋萎縮抑制用経口組成物。
【化8】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然物由来の化合物を有効成分とする、AMPK活性化剤、運動機能向上剤、筋持久力向上剤および筋萎縮抑制剤に関するものである。さらに本発明は、当該化合物を配合したAMPK活性化用経口組成物、運動機能向上用経口組成物、筋持久力向上用経口組成物および筋萎縮抑制用経口組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
筋肉は、立つ、歩く、姿勢を維持するといった日常生活のあらゆる動作に欠かせない器官であるため、筋肉の機能を維持し、可能であれば向上させることは、健康的な日常生活を送るうえで非常に重要である。定期的な運動を行うことが筋機能の維持に重要であることは広く認識されているものの、運動が不足しがちな成人においては、加齢による影響と相俟って、筋肉量の顕著な減少といった筋機能の低下が認められる。特に、高齢者は一般に筋肉量が少なく、運動能力が低下しており、安全に生活するために筋肉量低下の抑制が望ましい場合がある。また、手術後や病気療養などで長期の安静が必要な場合には、筋肉量の減少が起きることがあり、治癒後の日常生活への早期復帰の妨げとなることから、筋肉量の減少を抑制することが望ましい。
【0003】
一方、運動を好むヒト(例えば、競技者、スポーツ愛好家等)は、運動能力を向上させるため、必要な筋肉量の増加が望まれる場合がある。また、運動能力の向上のためには、筋肉量を増加させるとともに、筋持久力を向上させることも重要である。
【0004】
筋持久力を向上させる方法として、筋肉細胞におけるエネルギー代謝機能を向上させる方法が考えられる。筋肉細胞におけるエネルギー代謝は、AMPK(5'-AMP-activated protein kinase)を介したシグナル経路が重要であると考えられている(非特許文献1,2)。生体内でエネルギーが欠乏した状態になると、細胞内のAMP濃度が上昇し、AMPKが活性化する。筋肉細胞におけるAMPKの活性化は、転写共役因子であるPGC-1α(Peroxisome proliferator activated receptor γ coactivator 1α,Gene Symbol:Ppargc1a)の発現を促進する。PGC-1αは、ミトコンドリアの生合成に関与しており、PGC-1αの発現促進によりミトコンドリアの生合成を介してエネルギー代謝や持久力の亢進が期待される。また、AMPKの活性化は、インスリン非依存的に、グルコーストランスポーターであるGLUT4(glucose transporter 4,Gene Symbol:Slc2a4)の発現を促進するとともに、GLUT4の細胞膜上への移行を誘導し、グルコースの細胞内輸送を促進する。GLUT4の発現促進および細胞膜上への移行により、グルコースの細胞内輸送は促進され、血糖値が低下する。したがって、GLUT4の発現促進および細胞膜上への移行は高血糖症、糖尿病、糖尿病関連疾患(例えば、肥満、高脂血症、高コレステロール血症、脂質代謝異常、高血圧症、脂肪肝、メタボリックシンドリーム、動脈硬化症)、または糖尿病合併症(例えば網膜症、腎症、神経障害、白内障、ケトーシス)の予防に関与していると考えられている。
【0005】
一方、筋肉量の増加(あるいは減少抑制)は、Akt(別名プロテインキナーゼB)を介したシグナル経路の関与が知られている。Aktは、成長ホルモンや運動刺激等により活性化されるセリン/スレオニンキナーゼであり、Aktが活性化すると、mTOR(mammalian target of rapamycin)の活性化を誘導してタンパク合成が促進されるとともに、筋萎縮関連遺伝子として知られるMuRF-1(Gene Symbol:Trim63)、MAFbx/Atrogin-1(Gene Symbol:Fbxo32)等の発現を抑制し、筋肉の異化(分解)を抑制する(非特許文献3,4)。
【0006】
近年、骨格筋からサイトカインが分泌されることが見いだされ、ミオカインとの概念が提唱されている。ミオカインとして最初に発見されたのはインターロイキン-6(IL-6)である。IL-6は、これまで炎症性サイトカインとして知られてきたが、骨格筋からのIL-6の分泌は、運動時間や筋肉量に相関しており、筋肥大や代謝機能維持に関与していると考えられている(非特許文献5)。
【0007】
AMPK活性化作用を有するものとして、5-アミノ-4-イミダゾールカルボキシアミドリボヌクレオシド(5-amino-4-imidazolecarboxamide ribonucleoside,AICAR)が知られている(非特許文献6)。また、筋持久力向上作用を有するものとして、発酵茶から抽出される高分子ポリフェノール(特許文献1)、ブラックジンジャー抽出物(特許文献2)等が報告されている。
【0008】
一方、筋肉量を増加させる方法として、成長ホルモンやステロイド剤の使用が知られているが、これらは副作用の問題を有している。その他、筋委縮抑制作用あるいは筋肉量増加作用を有するものとして、オルニチンまたはその塩(特許文献3)、ケンペリア・パルウィフローラ抽出物およびそれから分離したフラボン系化合物(特許文献4)等が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010-037323号公報
【特許文献2】特開2016-008180号公報
【特許文献3】国際公開第2007/077995号
【特許文献4】国際公開第2013/172681号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Med. Sci. Sports Exerc.,2006年,vol.38,pp.1945-1949
【非特許文献2】糖尿病,2012年,第55巻第5号,pp.306-308
【非特許文献3】生化学,2014年,第86巻第3号,pp.367-371
【非特許文献4】FEBS J,2013年,vol.280,pp.4294-4314
【非特許文献5】FEBS J.,2013年,vol.280,pp.4131-4148
【非特許文献6】FEBS Lett.,1994年,vol.353,pp.33-36
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、天然物由来の化合物の中から、AMPK活性化作用、運動機能向上作用、筋持久力向上作用および筋萎縮抑制作用において優れた作用を有するものを見出し、それらを有効成分とするAMPK活性化剤、運動機能向上剤、筋持久力向上剤および筋萎縮抑制剤を提供することを目的とする。
また、本発明は、AMPK活性化作用、運動機能向上作用、筋持久力向上作用および筋萎縮抑制作用において優れた作用を有する天然物由来化合物を配合した、AMPK活性化用途、運動機能向上用途、筋持久力向上用途または筋萎縮抑制用途に用いられる経口組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明のAMPK活性化剤、運動機能向上剤、筋持久力向上剤および筋萎縮抑制剤は、下記式(I)で表される化合物を有効成分とすることを特徴とする。また、本発明のAMPK活性化用経口組成物、運動機能向上用経口組成物、筋持久力向上用経口組成物および筋萎縮抑制用経口組成物は、下記式(I)で表される化合物を配合することを特徴とする。
【0013】
【化1】
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、上記式(I)で表される化合物を有効成分とすることにより、作用効果を有するAMPK活性化剤、運動機能向上剤、筋持久力向上剤および筋萎縮抑制剤を提供することができる。さらに、上記式(I)で表される化合物を配合することにより、AMPK活性化用途、運動機能向上用途、筋持久力向上用途および筋萎縮抑制用途に好適な経口組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態に係るAMPK活性化剤、運動機能向上剤、筋持久力向上剤および筋萎縮抑制剤は、下記式(I)で表される化合物を有効成分とするものである。また、本実施形態に係るAMPK活性化用経口組成物、運動機能向上用経口組成物、筋持久力向上用経口組成物および筋萎縮抑制用経口組成物は、下記式(I)で表される化合物が配合されるものである。
【0016】
【化2】
【0017】
上記式(I)で表される化合物は、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸(3-(4-Hydroxy-3-methoxyphenyl)propionic Acid)とも呼ばれるケイ皮酸誘導体である。以下、本明細書において、上記式(I)で表される化合物を化合物(I)ということがある。
【0018】
化合物(I)は、例えば、化合物(I)を含有する植物抽出物から単離・精製することにより製造することができる。この場合、このような化合物(I)を含有する植物抽出物は、植物の抽出に一般に用いられている方法によって得ることができる。化合物(I)を含有する植物としては、例えば、米、大麦、小麦、大豆、小豆、とうもろこし等が挙げられる。
【0019】
化合物(I)は、例えば、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロペン酸(3-(4-Hydroxy-3-methoxyphenyl)propenoic Acid)もしくはその誘導体、またはこれらを含有する組成物(例えば、植物の破砕物または抽出物等)を、フェノール酸還元酵素を有する微生物により醗酵させ、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロペン酸を化合物(I)に変換した後、得られた醗酵物を抽出・単離・精製することにより製造することもできる。3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロペン酸を含有する組成物としては、例えば、コーヒー、コムギ、トウモロコシ、トマト、マテ、ヨモギ、ゴボウ等の植物の破砕物及び抽出物などが挙げられる。また、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロペン酸は木本植物及び草本植物におけるリグニンの構成成分であるため、リグニンまたはこれを含有する組成物を醗酵原料として利用してもよい。一方、フェノール酸還元酵素を有する微生物としては、例えば、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus fermentum、Lactobacillus gasseri、Lactobacillus johnsonii、Lactobacillus crispatus、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus amylovorus、Lactobacillus delbrueckii、Lactobacillus buchneri、Lactobacillus kefiranofaciens、Lactobacillus gallinarum、Enterococus faecalis等の乳酸菌などが挙げられる。
【0020】
上記植物または醗酵物などから化合物(I)を抽出・単離・精製する方法は特に限定されず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出処理は、抽出原料としての上記植物または醗酵物を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供すればよい。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0021】
抽出溶媒としては、極性溶媒を使用することが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を組み合わせて、室温または溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
【0022】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本実施形態において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0023】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1~5の低級脂肪族アルコール;1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2~5の多価アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の炭素数3~5の低級脂肪族ケトン等が挙げられる。
【0024】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は任意であり、適宜調整することができる。例えば、水と親水性有機溶媒との混合液を抽出溶媒として使用する場合には、任意の比率、すなわち0:100超、100:0未満(容量比,以下同様に表記)の間で混和して用いることができ、適宜調整することができる。
例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を抽出溶媒として使用する場合には、水と低級脂肪族アルコールとの混合比(容量比)を9:1以上とすることができ、さらには7:3以上とすることができ、あるいは水と低級脂肪族アルコールとの混合比を1:9以下、さらには2:8以下とすることができる。また、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水と多価アルコールとの混合比を8:2以上、あるいは1:9以下とすることができ、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水と低級脂肪族ケトンとの混合比を9:1以上、あるいは2:8以下とすることができる。
【0025】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5~15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温または還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥すると乾燥物が得られる。
【0026】
以上のようにして得られた抽出液、当該抽出液の濃縮物または当該抽出液の乾燥物から化合物(I)を単離・精製する方法は、特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。例えば、抽出物を展開溶媒に溶解し、シリカゲルやアルミナ等の多孔質物質、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体やポリメタクリレート等の多孔性樹脂等を用いたカラムクロマトグラフィーに付して、化合物(I)を含む画分を回収する方法等が挙げられる。この場合、展開溶媒は使用する固定相に応じて適宜選択すればよいが、例えば固定相としてシリカゲルを用いた順相クロマトグラフィーにより抽出物を分離する場合、展開溶媒としてはクロロホルム:メタノール=95:5等が挙げられる。さらに、カラムクロマトグラフィーにより得られた化合物(I)を含む画分を、ODSを用いた逆相シリカゲルクロマトグラフィー、再結晶、液-液向流抽出、イオン交換樹脂を用いたカラムクロマトグラフィー等の任意の有機化合物精製手段を用いて精製してもよい。
【0027】
〔AMPK活性化剤,運動機能向上剤,筋持久力向上剤,筋萎縮抑制剤〕
以上のようにして得られる化合物(I)は、優れたAMPK活性化作用、運動機能向上作用、筋持久力向上作用および筋萎縮抑制作用を有しているため、AMPK活性化剤、運動機能向上剤、筋持久力向上剤および筋萎縮抑制剤の有効成分として用いることができる。
言い換えると、AMPK活性化剤、運動機能向上剤、筋持久力向上剤または筋萎縮抑制剤を製造するために、化合物(I)を使用することができる。
本実施形態のAMPK活性化剤、運動機能向上剤、筋持久力向上剤および筋萎縮抑制剤は、医薬品、医薬部外品、化粧品等の幅広い用途に使用することができる。
【0028】
ここで、化合物(I)が有する運動機能向上作用は、例えば、前述したAMPK活性化作用、筋持久力向上作用および筋萎縮抑制作用、さらにはPGC-1α mRNA発現促進作用、GLUT4 mRNA発現促進作用、IL-6 mRNA発現促進作用、筋肉量増加作用、MuRF-1 mRNA発現抑制作用、Atrogin-1 mRNA発現抑制作用、およびAkt活性化作用からなる群より選択される1種または2種以上の作用に基づいて発揮されるものであってよい。ただし、化合物(I)が有する運動機能向上作用は上記作用に基づいて発揮される運動機能向上作用に限定されるものではない。
【0029】
ここで、化合物(I)が有する筋持久力向上作用は、例えば、AMPK活性化作用、PGC-1α mRNA発現促進作用、GLUT4 mRNA発現促進作用、およびIL-6 mRNA発現促進作用、からなる群より選択される1種または2種以上の作用に基づいて発揮されるものであってよい。ただし、化合物(I)が有する筋持久力向上作用は上記作用に基づいて発揮される筋持久力向上作用に限定されるものではない。
【0030】
また、本実施形態の筋持久力向上剤は、化合物(I)のPGC-1α mRNA発現促進作用、GLUT4 mRNA発現促進作用、またはIL-6 mRNA発現促進作用を利用して、それぞれPGC-1α mRNA発現促進用途、GLUT4 mRNA発現促進用途、またはIL-6 mRNA発現促進用途に用いることができる。
言い換えると、化合物(I)は、PGC-1α mRNA発現促進剤、GLUT4 mRNA発現促進剤、またはIL-6 mRNA発現促進剤の有効成分として用いることもできる。
【0031】
ここで、化合物(I)が有する筋萎縮抑制作用は、例えば、筋肉量増加作用、MuRF-1 mRNA発現抑制作用、Atrogin-1 mRNA発現抑制作用、およびAkt活性化作用からなる群より選択される1種または2種以上の作用に基づいて発揮されるものであってよい。ただし、化合物(I)が有する筋萎縮抑制作用は上記作用に基づいて発揮される筋萎縮抑制作用に限定されるものではない。
【0032】
また、本実施形態の筋萎縮抑制剤は、化合物(I)の筋肉量増加作用、MuRF-1 mRNA発現抑制作用、Atrogin-1 mRNA発現抑制作用、またはAkt活性化作用を利用して、それぞれ筋肉量増加用途、MuRF-1 mRNA発現抑制用途、Atrogin-1 mRNA発現抑制用途、またはAkt活性化用途に用いることができる。
言い換えると、化合物(I)は、筋肉量増加剤、MuRF-1 mRNA発現抑制剤、Atrogin-1 mRNA発現抑制剤、またはAkt活性化剤の有効成分として用いることもできる。
【0033】
なお、本実施形態に係るAMPK活性化剤、運動機能向上剤、筋持久力向上剤および筋萎縮抑制剤の有効成分として、単離した化合物(I)に替えて、化合物(I)を含有する組成物を用いてもよい。ここで、本実施形態における「化合物(I)を含有する組成物」には、化合物(I)を含有する植物を抽出原料として得られる抽出物、化合物(I)を含有する醗酵物、及び当該醗酵物を抽出原料として得られる抽出物が含まれる。また、「抽出物」には、抽出処理により得られる抽出液、当該抽出液の希釈液もしくは濃縮液、または当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物が含まれる。
【0034】
本実施形態に係るAMPK活性化剤、運動機能向上剤、筋持久力向上剤および筋萎縮抑制剤の有効成分として、化合物(I)を含有する組成物を用いる場合は、組成物中に化合物(I)が0.1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。化合物(I)の純度を高めたものを有効成分として使用することによって、より一層作用効果に優れたAMPK活性化剤、運動機能向上剤、筋持久力向上剤および筋萎縮抑制剤を得ることができる。
【0035】
本実施形態のAMPK活性化剤、運動機能向上剤、筋持久力向上剤および筋萎縮抑制剤は、化合物(I)または化合物(I)を含有する組成物のみからなるものでもよいし、化合物(I)または化合物(I)を含有する組成物を製剤化したものでもよい。
【0036】
本実施形態のAMPK活性化剤、運動機能向上剤、筋持久力向上剤および筋萎縮抑制剤は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味・矯臭剤等を用いることができる。AMPK活性化剤、運動機能向上剤、筋持久力向上剤および筋萎縮抑制剤は、他の組成物(例えば、皮膚化粧料、頭髪化粧料等)に配合して使用することができるほか、軟膏剤、外用液剤、貼付剤等として使用することができる。
【0037】
本実施形態のAMPK活性化剤、運動機能向上剤、筋持久力向上剤および筋萎縮抑制剤を製剤化した場合、化合物(I)または化合物(I)を含有する組成物の含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜設定することができる。
【0038】
なお、本実施形態のAMPK活性化剤、運動機能向上剤、筋持久力向上剤および筋萎縮抑制剤は、必要に応じて、AMPK活性化作用、運動機能向上作用、筋持久力向上作用および筋萎縮抑制作用を有する他の天然抽出物等を、化合物(I)または化合物(I)を含有する組成物とともに配合して有効成分として用いることができる。
【0039】
本実施形態のAMPK活性化剤、運動機能向上剤、筋持久力向上剤および筋萎縮抑制剤の患者に対する投与方法としては、経口投与、経皮投与等が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防又は治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。また、本実施形態のAMPK活性化剤、運動機能向上剤、筋持久力向上剤および筋萎縮抑制剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0040】
本実施形態のAMPK活性化剤は、有効成分である化合物(I)が有するAMPK活性化作用を通じて、AMPKを活性化し、これにより、筋肉におけるエネルギー代謝を向上させることができる。ただし、本実施形態のAMPK活性化剤は、これらの用途以外にも、AMPK活性化作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
例えば、本実施形態のAMPK活性化剤は、そのAMPK活性化作用により、糖代謝や脂質代謝を活性化することができるため、糖代謝異常に起因する疾患、例えば、糖尿病、糖尿病関連疾患、糖尿病合併症など;脂質代謝異常に起因する疾患、例えば、高脂血症、高コレステロール血症、肥満、脂肪肝、動脈硬化症など;の予防、治療または改善用途に用いることができる。
【0041】
本実施形態の運動機能向上剤は、有効成分である化合物(I)が有する運動機能向上作用、例えば、AMPK活性化作用、筋持久力向上作用、筋萎縮抑制作用、PGC-1α mRNA発現促進作用、GLUT4 mRNA発現促進作用、IL-6 mRNA発現促進作用、筋肉量増加作用、MuRF-1 mRNA発現抑制作用、Atrogin-1 mRNA発現抑制作用、およびAkt活性化作用からなる群より選択される1種または2種以上の作用を通じて、筋持久力を向上させるとともに、筋委縮を抑制し(あるいは筋肉量を増加させ)、これらにより、筋機能を向上させることができ、運動機能を向上させることができる。ただし、本実施形態の運動機能向上剤は、これらの用途以外にも、AMPK活性化作用、筋持久力向上作用、筋萎縮抑制作用、PGC-1α mRNA発現促進作用、GLUT4 mRNA発現促進作用、IL-6 mRNA発現促進作用、筋肉量増加作用、MuRF-1 mRNA発現抑制作用、Atrogin-1 mRNA発現抑制作用、またはAkt活性化作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0042】
本実施形態の筋持久力向上剤は、有効成分である化合物(I)が有する筋持久力向上作用、例えば、AMPK活性化作用、PGC-1α mRNA発現促進作用、GLUT4 mRNA発現促進作用、およびIL-6 mRNA発現促進作用からなる群より選択される1種または2種以上の作用を通じて、筋肉におけるエネルギー代謝を向上させ、筋持久力を向上させることができる。ただし、本実施形態の筋持久力向上剤は、これらの用途以外にも、筋持久力向上作用、AMPK活性化作用、PGC-1α mRNA発現促進作用、GLUT4 mRNA発現促進作用、またはIL-6 mRNA発現促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0043】
本実施形態の筋萎縮抑制剤は、有効成分である化合物(I)が有する筋萎縮抑制作用、例えば、筋肉量増加作用、MuRF-1 mRNA発現抑制作用、Atrogin-1 mRNA発現抑制作用、またはAkt活性化作用からなる群より選択される1種または2種以上の作用を通じて、筋萎縮を抑制させることができる。筋萎縮抑制用途に包含されるものとして:筋萎縮症(muscular atrophy)、筋肉減少症(sacopenia)、緊張減退症(atony)、筋異栄養症(muscular dystrophy)、筋肉退化、筋無力症等の筋萎縮関連疾患の予防、治療または改善;運動能力の低下抑制、維持または向上;筋力の低下抑制、維持または向上;基礎代謝量向上;などの用途が挙げられる。ただし、本実施形態の筋萎縮抑制剤は、これらの用途以外にも、筋萎縮抑制作用、筋肉量増加作用、MuRF-1 mRNA発現抑制作用、Atrogin-1 mRNA発現抑制作用、またはAkt活性化作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0044】
また、本実施形態のAMPK活性化剤、運動機能向上剤、筋持久力向上剤および筋萎縮抑制剤は、それぞれAMPK活性化作用、運動機能向上作用、筋持久力向上作用および筋萎縮抑制作用において優れた作用を有するので、これらの作用機構に関する研究のための試薬としても好適に利用することができる。
【0045】
〔AMPK活性化用経口組成物,運動機能向上用経口組成物,筋持久力向上用経口組成物,筋萎縮抑制用経口組成物〕
化合物(I)は、AMPK活性化作用、運動機能向上作用、筋持久力向上作用および筋萎縮抑制作用において優れた作用を有しているため、経口組成物に配合するのに好適である。この場合、化合物(I)または化合物(I)を含有する組成物をそのまま配合してもよいし、化合物(I)から製剤化した、AMPK活性化剤、運動機能向上剤、筋持久力向上剤または筋萎縮抑制剤を配合してもよい。
【0046】
化合物(I)もしくは化合物(I)を含有する組成物、または化合物(I)もしくは化合物(I)を含有する組成物から製剤化したAMPK活性化剤、運動機能向上剤、筋持久力向上剤または筋萎縮抑制剤を経口組成物に配合することにより、AMPK活性化用途、運動機能向上用途、筋持久力向上用途または筋萎縮抑制用途に好適な経口組成物とすることができる。上記作用は、経口組成物に付与されることで作用効果が発揮されやすいため、好適である。
【0047】
ここで、経口組成物とは、人の健康に危害を加えるおそれが少なく、通常の社会生活において、経口又は消化管投与により摂取されるものをいい、行政区分上の食品、医薬品、医薬部外品等の区分に制限されるものではない。したがって、本実施形態における「経口組成物」は、経口的に摂取される一般食品、飼料、健康食品、保健機能食品(特定保健用食品,栄養機能食品,機能性表示飲食品)、医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものである。本実施形態に係る経口組成物は、当該経口組成物またはその包装に、化合物(I)が有する好ましい作用を表示することのできる経口組成物であることが好ましく、保健機能食品(特定保健用食品,機能性表示食品,栄養機能食品)、医薬部外品または医薬品であることが特に好ましい。
【0048】
化合物(I)もしくは化合物(I)を含有する組成物、または化合物(I)もしくは化合物(I)を含有する組成物から製剤化したAMPK活性化剤、運動機能向上剤、筋持久力向上剤または筋萎縮抑制剤を経口組成物に配合する場合、それらにおける有効成分の配合量は、使用目的、症状、性別等を考慮して適宜変更することができるが、添加対象となる経口組成物の一般的な摂取量を考慮して、化合物(I)の成人1日あたりの摂取量が約1~1000mgになるようにするのが好ましい。なお、添加対象経口組成物が顆粒状、錠剤状またはカプセル状の経口組成物の場合、化合物(I)もしくは化合物(I)を含有する組成物、または化合物(I)もしくは化合物(I)を含有する組成物から製剤化したAMPK活性化剤、運動機能向上剤、筋持久力向上剤または筋萎縮抑制剤の添加量は、添加対象経口組成物に対して通常0.1~100質量%であり、好ましくは5~100質量%である。
【0049】
本実施形態の経口組成物は、化合物(I)をその活性を妨げないような任意の経口組成物に配合したものであってもよいし、化合物(I)を主成分とする栄養補助食品であってもよい。
【0050】
本実施形態の経口組成物を製造する際には、例えば、デキストリン、デンプン等の糖類;ゼラチン、大豆タンパク、トウモロコシタンパク等のタンパク質;アラニン、グルタミン、イソロイシン等のアミノ酸類;セルロース、アラビアゴム等の多糖類;大豆油、中鎖脂肪酸トリグリセリド等の油脂類などの任意の助剤を添加して任意の形状の経口組成物にすることができる。
【0051】
化合物(I)を配合し得る経口組成物は特に限定されないが、その具体例としては、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末を含む);アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;そば、うどん、はるさめ、ぎょうざの皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、チューインガム、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子等の菓子類;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;スープ、シチュー、サラダ、惣菜、漬物;その他種々の形態の健康・栄養補助食品;錠剤、カプセル剤、ドリンク剤などが挙げられ、これらの経口組成物に化合物(I)を配合するときに、通常用いられる補助的な原料や添加物を併用することができる。
【0052】
なお、本実施形態のAMPK活性化剤、運動機能向上剤、筋持久力向上剤、筋萎縮抑制剤、AMPK活性化用経口組成物、運動機能向上用経口組成物、筋持久力向上用経口組成物、および筋萎縮抑制用経口組成物は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物(例えば,マウス,ラット,ハムスター,イヌ,ネコ,ウシ,ブタ,サル等)に対して適用することもできる。
【実施例0053】
以下、試験例、配合例等を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。なお、本試験例においては、被験試料として化合物(I)(東京化成工業社製,3-(4-Hydroxy-3-methoxyphenyl)propionic Acid,試料1)を使用した。
【0054】
〔試験例1〕筋萎縮抑制作用試験
化合物(I)(試料1)を用い、以下のようにして、ラット筋萎縮モデルに対する筋萎縮抑制作用を試験した。
【0055】
8週齢の雄Crlj:WIラット(日本チャールス・リバー社より購入)を、管理温度:20.0~26.0℃、管理湿度:40.0~70.0%RH、明暗各12時間、換気回数:12回/時に維持された動物を飼育した。飼育期間中、飼料は固型飼料(CRF-1,オリエンタル酵母工業社製)を給餌器に入れて自由摂取させた。ただし、後述する後肢懸垂飼育期間中のラットは、床へのバラマキにより飼料を摂取させた。飲料水は水道水を給水瓶を用いて自由摂取させた。5日間の検疫期間および2日間の馴化期間を経て、各群の平均体重及び分散がほぼ等しくなるように無作為抽出法により上記ラットを表1に示す1群につき各8匹に分けた。
【0056】
【表1】
【0057】
ラット用尾懸垂クリップで尾を挟んで天井のレールに装着し、ラットの後肢が床から離れた状態(後肢懸垂)とし、この状態で群分け日の群分け後から14日間飼育することで筋萎縮を誘導した。なお、後肢懸垂飼育期間中のラットは、動物は前肢にて飼育ケージ内を移動可能であり、水と餌は自由に摂取可能であった。
また、第2群には、表1に示す用量の化合物(I)を投与した。化合物(I)(試料1)を注射用水に溶解し、経口ゾンデを取り付けた注射筒を用い、強制経口投与した。群分け日を初日(投与1日)として、1日1回、14日間投与し、投与14日の翌日(投与15日)を飼育期間最終日とした。
【0058】
後肢懸垂飼育の最終日(投与15日)に、イソフルラン麻酔下でヘパリンNa処理真空採血管および翼付静注針を用いて腹大動脈から血液を採取した。採血後、腹大動脈から放血して安楽死させ、左右の腓腹筋およびヒラメ筋を摘出した。摘出した腓腹筋およびヒラメ筋は、左右別々に重量を測定した(表2の値は合計値)。
結果を表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
表2に示すように、第1群(対照群)と比較して、第2群(投与群)ではヒラメ筋および腓腹筋の重量が増加していた。この間、体重については第1群および第2群で差を認めなかった。
以上より、化合物(I)の投与により筋肉量が増加したものと認められた。
【0061】
〔試験例2〕筋萎縮モデルにおける遺伝子発現解析試験
上記試験例1で摘出した腓腹筋について、リアルタイムPCRによる遺伝子発現解析試験を実施した。
【0062】
上記試験例1で摘出した腓腹筋について、組織を破砕し、RNeasy(R) Lipid Tissue Mini Kit(キアゲン社製)を用いて総RNAを抽出した。得られた総RNAを分光光度計にて定量し、71.4ng/μLになるように総RNAを調製した。
【0063】
この総RNA1000ngを鋳型とし、SuperScript(R) VILOTM cDNA Synthesis Kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を使用して逆転写反応を行った。反応液は20μLとし、操作は上記キットの付属マニュアルに準拠した。サーマルサイクラー(GeneAmp(R) PCR System 9700,Life Technologies社製)を用い、逆転写反応(25℃10分、42℃60分、85℃5分)を行うことにより、cDNA溶液を得た。
【0064】
さらに、TaqMan(R) PreAmp Master Mix(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いてcDNAの増幅を行った。増幅には、標的遺伝子および内部標準遺伝子に対応するTaqman(R) Gene Expression Assays(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)全てを1本のチューブに混合し、TE緩衝液で希釈して用いた。各遺伝子に対応するTaqman(R) Gene Expression AssaysのアッセイIDは、Trim63(アッセイID:Rn00590197_m1)、Fbxo32(同Rn00591730_m1)、Ppargc1a(同Rn00580241_m1)、Slc2a4(同Rn00562597_m1)、Il6(同Rn01410330_m1)、である。なお、内部標準遺伝子としてさらにGapdh(同Rn01775763_g1)を用いた。cDNA増幅反応は、上記サーマルサイクラーを用い、95℃10分の後、95℃15秒→60℃4分を14サイクルとした。
【0065】
得られたcDNA増幅液を鋳型として、リアルタイムPCRを実施した。リアルタイムPCRは、 TaqMan(R) Universal Master Mix II,no UNG(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を使用して行った。解析を行う遺伝子に対応するAssay mixは、それぞれのTaqman(R) Gene Expression Assays(各遺伝子のアッセイIDは前述)を、遺伝子ごとに調製した。反応条件は、Thermal mix(50℃2分,70℃30分,25℃10分を1サイクル)、UNG反応(50℃2分を1サイクル)、Taq酵素活性化(95℃10分を1サイクル)の後、PCR(95℃15秒→60℃1分を40サイクル)とした。
【0066】
反応終了後、解析ソフトウェア(Fluidigm Real Time PCR Analysis 4.5.2,Fluidigm社製)を使用してCt値を算出した。得られた各遺伝子のCt値を、内部標準遺伝子GAPDHのCt値にて標準化し、第1群(対照群)を基準(1.00)としたときの相対値を算出した。
結果を表3に示す。
【0067】
【表3】
【0068】
表3に示すように、タンパク質分解に寄与するユビキチンリガーゼをコードする遺伝子であるMuRF-1(Gene Symbol:Trim63)およびAtrogin-1(同Fbxo32)は、第2群(投与群)で第1群(対照群)と比較して遺伝子発現が減少傾向にあると認められた。
一方、筋肉増加に寄与する遺伝子であるPGC-1α(同Ppargc1a)、GLUT4(同Slc2a4)、IL-6(同Il6)は、第2群(投与群)で第1群(対照群)と比較して遺伝子発現が増加傾向にあると認められた。
そのため、化合物(I)の投与によるこれらの遺伝子の発現減少または増加は、筋肉量増加に寄与したものと考えられる。
【0069】
〔試験例3〕筋萎縮モデルにおけるキナーゼ活性化解析試験
上記試験例1で摘出した腓腹筋について、筋肉量増加に寄与するキナーゼであるAMPKおよびAktのリン酸化状態を、Luminex測定およびELISA測定により評価した。
【0070】
上記試験例1で摘出した腓腹筋について、組織を破砕し、組織抽出液を回収した。総タンパク濃度を定量し、後述するLuminex測定およびELISA測定には、いずれも1ウェルあたり総タンパク量が10μgとなるように用いた。
【0071】
AMPKは、総AMPK(t-AMPK)についてはPathScan(R) Total AMPKα Sandwich ELISA Kit(Cell Signaling Technology社製,カタログ番号:7961C)を用い、Thr172リン酸化AMPK(p-AMPK)についてはPathScan(R) Phospho-AMPKα (Thr172) Sandwich ELISA Kit(Cell Signaling Technology社製,カタログ番号:7959C)を用い、それぞれ測定した。
Aktは、MILLIPLEX(R) MAP Phospho/Total Akt 2-Plex Magnetic Bead Kit 96-well Plate Assay(EMD Millipore社製,カタログ番号:48-618MAG)を用い、総Akt量(t-Akt)とリン酸化Akt(p-Akt,Ser473)とを1反応系にて一括して測定した。
なお、内部標準として、GAPDHを、Total GAPDH Magnetic Bead MAPmateTM(EMD Millipore社製,カタログ番号:46-667MAG)を用いて測定し、上記AMPKおよびAktの測定値を標準化した。
結果を表4に示す。
【0072】
【表4】
【0073】
表4に示すように、AMPKおよびAktは、第2群(投与群)で、第1群(対照群)と比較してリン酸化型が増加傾向にあると認められた。
そのため、化合物(I)の投与によるこれらのキナーゼの活性化は、筋肉量増加に寄与したものと考えられる。
【0074】
〔配合例1〕
常法により、以下の組成を有するカプセル剤を製造した。なお、カプセルとしては、2号ハードゼラチンカプセルを使用した。
<1カプセル(1錠200mg)中の組成>
化合物(I) 10.0mg
コーンスターチ 70.0mg
乳糖 100.0mg
乳酸カルシウム 10.0mg
ヒドロキシプロピルセルロース(HPC-L) 10.0mg
【0075】
〔配合例2〕
常法により、以下の組成を有する経口液状製剤を製造した。
<1アンプル(1本100mL)中の組成>
化合物(I) 0.3質量%
ソルビット 12.0質量%
安息香酸ナトリウム 0.1質量%
香料 1.0質量%
硫酸カルシウム 0.5質量%
精製水 残部(100質量%)