(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061145
(43)【公開日】2023-05-01
(54)【発明の名称】エルゴチオネイン含有飼料、及び当該飼料で飼育された養殖魚
(51)【国際特許分類】
A23K 50/80 20160101AFI20230424BHJP
A23K 10/16 20160101ALI20230424BHJP
【FI】
A23K50/80
A23K10/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021170956
(22)【出願日】2021-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】市川 惠一
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 遼子
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
【Fターム(参考)】
2B005GA01
2B005KA03
2B005MB02
2B005MB09
2B150AA08
2B150AB04
2B150AB05
2B150AC16
2B150AC17
2B150AC18
(57)【要約】
【課題】ERG含有飼料の提供にあたり、植物原料を用いた場合、ERGを高濃度に含ませようとすると、植物原料の添加量が多くなり、摂食障害が生じる。そこで、安定して養殖魚を飼育可能な、植物原料のエルゴチオネイン含有飼料を提供することを目的とする。
【解決手段】麹菌固体発酵物を原料としたエルゴチオネイン高含有の飼料を開発することにより、養殖魚に摂食障害を引き起こさず、安定して養殖魚の飼育が可能になった。かかる飼料を用いて養殖魚を飼育することで、色及び食味が優れた養殖魚の提供が可能になる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.001%以上のエルゴチオネインを含有し、麹菌固体発酵物を原料とする飼料。
【請求項2】
前記麹菌固体発酵物が、0.35g/麹菌固体発酵物1kg以上のエルゴチオネインを含む、請求項2に記載の飼料。
【請求項3】
前記麹菌固体発酵物を、飼料に1~10質量%となるように配合された、請求項1又は2に記載の飼料。
【請求項4】
養殖魚の飼育用である、請求項1~3のいずれか一項に記載の飼料。
【請求項5】
前記養殖魚が、マグロ類養殖魚である、請求項4に記載の飼料。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の飼料を用いて養殖魚を飼育することを含む、養殖魚の製造方法。
【請求項7】
水揚げ前の1月以内に、請求項1~5のいずれか一項に記載の飼料を給餌する工程を含む、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の製造方法により、製造された養殖魚。
【請求項9】
前記養殖魚が、マグロ類の養殖魚である、請求項8に記載の養殖魚。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エルゴチオネイン(以下、ERGと表記する場合がある。)含有飼料、並びにかかるERG含有飼料を用いた養殖魚の飼育の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
養殖魚の飼料としては、タンパク質含量が高く魚類の必要なアミノ酸をバランスよく含む魚粉や必須脂肪酸を含む魚油が用いられてきた。しかしながら、魚粉や魚油の原料となる魚について世界的に漁獲高が減少し、価格が高騰している。こうした背景により、持続可能な魚粉代替飼料の開発が求められている。こうした魚粉代替飼料の使用により、養殖魚により高い価値を付加することも期待されている。しかしながら、植物性原料や動物性原料から製造された魚粉代替飼料では、養殖魚、特に海水魚において摂食障害が生じてしまうことが知られている。
【0003】
キノコ由来のエルゴチオネインが、甲殻類の黒変や、魚類の血合いの変色に関わるポリフェノールオキシダーゼ(PPO)の活性を阻害することが報告されている(非特許文献1:食品と容器(2011)vol. 52, No.7)。また、エルゴチオネインは、強力な抗酸化作用を有するのみならず、エラスターゼ阻害作用、チロシナーゼ阻害作用といった生理作用を有し、また生体酸化防御システムに関与することも報告されており、美白やしわ予防といった美容・食品分野、さらには、医療分野での応用も試みられている。したがって、魚類の変色を防止するという目的の他、エルゴチオネインを含有する機能食品として養殖魚を開発することを目的として、エルゴチオネインを配合された養殖魚飼料の開発が期待されている。
【0004】
エルゴチオネインの製造方法として、タモギタケなどの担子菌からの抽出、化学合成、微生物を用いた発酵が試みられている。タモギタケなどの担子菌からの抽出は、原材料の取得に時間がかかり、大量生産には適していない。エルゴチオネインを大量に得るために、C1化合物資化性の細菌や酵母を用いた発酵(特許文献1:国際公開第2016/104437号)、さらにはエルゴチオネイン生合成遺伝子を過剰発現させた微生物を用いた発酵(特許文献2:国際公開第2017/150304号)について研究がされている。
【0005】
しかしながら、こうした製法に基づいて得たエルゴチオネインは非常に高価であり、養殖魚の飼料への配合は、コストが見合っていなかった。また、遺伝子を導入した微生物を用いた場合、飼料安全法による評価・管理が必要とされており、飼料開発の障害となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2016/104437号
【特許文献2】国際公開第2017/150304号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】食品と容器(2011)vol. 52, No.7, 432-438
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ERG含有飼料の提供にあたり、植物原料を用いた場合、ERGを高濃度に含ませようとすると、植物原料の添加量が多くなり、摂食障害が生じるという課題を見出した。そこで、安定して養殖魚を飼育可能な、植物原料のエルゴチオネイン含有飼料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが、エルゴチオネイン含有飼料の提供にあたり、鋭意研究を行ったところ、麹菌固体発酵物を原料とすることで、養殖魚に摂食障害を引き起こさない、エルゴチオネイン高含有の飼料を開発し、本発明に至った。
そこで、本発明は下記に関する:
[1] 0.001%以上のエルゴチオネインを含有し、麹菌固体発酵物を原料とする飼料。
[2] 前記麹菌固体発酵物が、0.35g/麹菌固体発酵物1kg以上のエルゴチオネインを含む、項目2に記載の飼料。
[3] 前記麹菌固体発酵物を、飼料に1~10質量%となるように配合された、項目1又は2に記載の飼料。
[4] 養殖魚の飼育用である、項目1~3のいずれか一項に記載の飼料。
[5] 前記養殖魚が、マグロ類養殖魚である、項目4に記載の飼料。
[6] 項目1~5のいずれか一項に記載の飼料を用いて養殖魚を飼育することを含む、養殖魚の製造方法。
[7] 水揚げ前の1月以内に、項目1~5のいずれか一項に記載の飼料を給餌する工程を含む、項目6に記載の製造方法。
[8] 項目6又は7に記載の製造方法により、製造された養殖魚。
[9] 前記養殖魚が、マグロ類の養殖魚である、項目8に記載の養殖魚。
【発明の効果】
【0010】
エルゴチオネイン高含有麹菌固体発酵物を原料にして飼料を製造することで、摂食障害を引き起こさないエルゴチオネイン含有飼料を提供した。また、かかる飼料により飼育された養殖魚では、エルゴチオネイン含量が増加し、色及び食味が改善した。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、麹菌を用いて麹菌固体発酵物中のERGを高含有にさせる発酵条件で発酵した際の、発酵日数に対するERG含有量の変化を示すグラフである。
【
図2】
図2は、発酵中の麹菌固体発酵物の水分量変化を示すグラフである。
【
図3】
図3は、ERG高含有麹菌固体発酵物を原料とする飼料を用いて飼育された養殖魚の魚体中のERG含有量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<ERG含有飼料>
本開示の一実施形態にかかる飼料は、エルゴチオネインを含む。より具体的に、かかる飼料は、乾燥重量で0.001%~0.1%のエルゴチオネインを含む。かかる飼料は、ERG高含有麹菌固体発酵物を原料とする。ERG高含有麹菌固体発酵物を、通常用いられるモイストペレット等の飼料に1~50%混合することで製造することができる。ERG高含有麹菌固体発酵物の配合割合の上限は、摂食を阻害しない観点で、30%、20%又は10%を使用することができる。ERG高含有麹菌固体発酵物の配合の下限は、エルゴチオネイン含有量を高める観点で、1%、5%、又は10%を使用することができる。ERG含有飼料のERG高含有麹菌固体発酵物以外の原料としては、通常用いられるモイストペレットに用いられる原料が挙げられ、一例として、魚粉、魚油が挙げられる。ERG含有飼料中のERGは、通常、ERG高含有麹菌固体発酵物に由来するものである。より好ましくは、本発明のERG含有飼料は、添加されたERG及び/又はキノコ由来のERGを含まない。ERG高含有麹菌固体発酵物を原料とし、乾燥重量で0.001%~0.1%のエルゴチオネインを含む試料を、特にERG高含有麹含有飼料をと呼ぶものとする。
【0013】
ERG含有飼料は、魚類用の飼料である。ERG高含有麹含有飼料を給餌して養殖することにより、エルゴチオネインが蓄積された養殖産物を製造することができる。ERG高含有麹含有飼料を給餌して養殖された養殖魚の可食部は変色しにくく、また味が落ちにくく、製品価値が高い。また、エルゴチオネインを含有する養殖魚は、抗酸化物質であるエルゴチオネインを摂取できる点で栄養価として優れている。したがって、ERG含有飼料を給餌して養殖されたエルゴチオネインを含有する養殖魚を、機能性表示食品とすることもできる。かかる機能性表示として、エルゴチオネインのエラスターゼ阻害作用、チロシナーゼ阻害作用に基づく美肌又は美白作用、過酸化脂質の生成に基づく生活習慣病予防作用、活性酸素除去に基づく認知症やアルツハイマー病の予防作用がなどの機能を表示することができる。
【0014】
<ERG高含有麹菌固体発酵物>
ERG高含有麹菌固体発酵とは、下記に詳述する麹中のERG高含有化方法で製造された麹菌固体発酵物を意味する。ERG高含有麹菌固体発酵物は、通常の発酵条件、例えば麹菌固体発酵物水分量を25%以下で発酵した場合、と比較してERGの含有量が、5倍以上、好ましくは10倍以上、より好ましくは20倍以上、さらに好ましくは50倍以上、さらにより好ましくは100倍以上増加する。一例として、ERG高含有麹菌固体発酵物は、0.35g/麹菌固体発酵物1kg以上、好ましくは0.4g/麹菌固体発酵物1kg以上、より好ましくは0.5g/麹菌固体発酵物1kg以上、さらに好ましくは0.8g/麹菌固体発酵物1kg以上、さらにより好ましくは1.0g/麹菌固体発酵物1kg以上のERGを含有する。本開示のERG高含有麹菌固体発酵物に含まれるERGは、麹菌により生成されたものであり、添加や濃縮されたものではない。ERG高含有麹菌固体発酵物は、その製造工程によってのみ識別されるものであり、生成したERG高含有麹菌固体発酵物の成分や特性による特定は不可能であるか又は非実際的である。
【0015】
<ERG高含有化方法>
本開示の一実施形態にかかるERG高含有化方法とは、下記に詳述する麹菌固体発酵物中のERGを高含有にさせる発酵条件で麹菌固体発酵する方法を意味する。かかるERG高含有化方法は、原料及び通常の発酵条件により製造された麹菌固体発酵物に比較して、ERG含有量が増大された麹菌固体発酵物を製造する方法を意味する。
【0016】
麹菌固体発酵物中のERGを高含有にさせる発酵条件には、固体培地と麹菌の混合物の初発の水分量及び発酵中の水分量を4日間以上制御することが重要である。より具体的に、発酵中の固体培地と麹菌の混合物の水分量を、4日目以降も25%以上に維持することが必要である。発酵中の固体培地と麹菌の混合物の水分量を25%未満にした場合、麹菌固体発酵物中のERGを高含量にすることはできない。したがって、本開示の一実施形態にかかるERG高含有麹菌固体発酵物の製造方法では、固体培地と麹菌とを混合して発酵する工程において、発酵工程にわたり混合物中の水分量を25%以上に維持することを特徴とする。また、発酵初期に発熱し、水分が急激に失われうる。したがって、発酵期間及び過程を考慮すると、培養開始時の固体培地と麹菌の混合物の初発の水分量が45%未満である場合、発酵中の発酵物の水分量を25%以上に維持させることが困難となる(
図2)。そこで、本開示の一実施形態にかかるERG高含有麹菌固体発酵物の製造方法は、固体培地と麹菌の混合物の初発の水分量を45%以上に調整する工程を含みうる。
【0017】
ERG高含有麹菌固体発酵物は、麹菌を培養する通常の固体培地を発酵することで調製される。このような固体培地は、好ましくは固形分中にタンパク質10%以上含む固体培地である。このような固体培地の原料として、タンパク質20%以上を含む豆類、魚、肉、藻類並びにそれらの加工物を利用することができる。タンパク質20%以上を含む加工物として、脱脂大豆、魚粉、肉紛、スピルリナ粉が挙げられる。本発明の固体培地は、膨化処理した原料を含むことがさらに好ましい。固体培地は、上述の原料を沸騰したお湯で蒸すか又は煮込み、場合により破砕することで調製することができる。
【0018】
その他の発酵条件は、本技術分野において用いられる通常の条件を使用することができる。例えば、培地の初発pHは5~10に調整される。発酵温度は20~40℃に設定され、発酵時間は4日以上であり、好ましくは4~10日間、好ましくは5~7日間、より好ましくは6~7日間が望ましい。発酵中に麹菌固体発酵物の水分量を維持する観点から、高湿度下で培養することが好ましく、麹菌固体発酵物の水分値を制御するために湿度を調整することができる。また、発酵は4日以上の長期間、高水分量の発酵となるため雑菌の繁殖を防止した環境下で行うことが望ましい。無菌的に培養できる容器、山崎式製麹装置やドラム製麹装置を使ってもよい。
【0019】
一例として、麹菌の代表的な株であるAspergillus oryzae RIB326株を用いた場合、本発明にかかる製造方法でERG高含有麹菌固体発酵物を製造した場合、0.35g/麹菌固体発酵物1kg以上、好ましくは0.4g/麹菌固体発酵物1kg以上、より好ましくは0.5g/麹菌固体発酵物1kg以上、さらに好ましくは0.8g/麹菌固体発酵物1kg以上、さらにより好ましくは1.0g/麹菌固体発酵物1kg以上のERGを含むERG高含有麹菌固体発酵物を製造することができる(
図1)。
【0020】
<麹菌>
麹菌としては、アスペルギルス(Aspergillus)属に属する任意の菌を用いることができる。一例として、アスペルギルス オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス ソーヤ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス リューキューエンシス(Aspergillus luchuensis)、アスペルギルス・タマリ(Aspergillus tamarii)が挙げられる。麹菌の菌株としては、例えば、Aspergillus oryzae RIB326株など公的に入手可能な菌株、種麹屋などから市販されている種麹に含まれる菌株、又は清酒、醤油醸造蔵等の飲食品製造環境などから分離して得られる菌株を使用することができる。
【0021】
また、麹菌としては、野生株を使用してもよいし、一般的な変異導入方法を用いてさらにERG高生産の変異株を使用してもよい。変異導入方法としては、例えば、物理的にDNAを損傷し変異を導入する紫外線(UV)やX線照射、化学的にDNAを損傷し変異を導入するN―メチル―N’―ニトロ―N―ニトロソグアニジン(NTG)やエチルメタンスルホン酸(EMS)などのアルキル化試薬による処理などが挙げられる。食品を製造する観点から、遺伝子非組み換え株を使用することが好ましい。麹菌は、麹菌を培地に培養したもの、又は麹菌を培養し、胞子を十分に着生させて乾燥させたものであってもよい。原料と共に乾燥されてもよいし、胞子のみが回収された物であってもよい。
【0022】
<ERGの分析方法>
ERG高含有麹菌固体発酵物又はERG含有飼料からERGを抽出する方法は、本技術分野に周知の方法を用いて行われうる。抽出溶媒は、ERGが溶解するものであれば特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトンなどの有機溶媒;これらの有機溶媒と水とを混合させた含水有機溶媒;水、温水及び熱水などが挙げられる。溶媒を加えた後、適宜、破砕処理を加えながらERGを抽出することができる。抽出溶媒温度は、室温から100℃の範囲に設定することができる。
【0023】
ERGの抽出方法の一実施態様としては、例えば、ERG高含有麹菌固体発酵物を水に加えた懸濁液を調製し、次いで得られた懸濁液を98~100℃、15分間などの加温処理に供した後に、遠心分離することにより上清を回収し、次いで回収した上清をろ過して不溶物を取り除く方法が挙げられる。また、該加熱処理した懸濁液を、遠心分離に供することなく、ろ過してもよい。
【0024】
また、上記加温処理に代えて、例えば、超音波破砕機、フレンチプレス、ダイノミル、乳鉢などの破壊手段を用いて菌体を破壊する方法;ヤタラーゼなどの細胞壁溶解酵素を用いて菌体細胞壁を溶解する方法;SDS、トリトンX-100などの界面活性剤を用いて菌体を溶解する方法などの菌体破砕処理に供してもよい。これらの方法は単独又は組み合わせて使用することができる。
【0025】
得られた抽出液は、遠心分離、フィルターろ過、限外ろ過、ゲルろ過、溶解度差による分離、溶媒抽出、クロマトグラフィー(吸着クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーなど)、結晶化、活性炭処理、膜処理などの精製処理に供することによりERGを精製することができる。
【0026】
ERGの定性的又は定量的分析は、特に限定されず、例えば、HPLCなどにより行うことができる。HPLC分離条件は、当業者であれば適宜選択することができ、例えば、後述する実施例に記載する条件で実施できる。
【0027】
<養殖魚の製造方法>
本開示の一実施形態における養殖魚の製造方法は、ERG含有飼料を用いて養殖魚を飼育することを含む。養殖魚の製造方法は、単に飼育方法ということもできる。養殖魚の製造方法により飼育され、製造された養殖魚を本開示の一実施形態における養殖魚という。ERG含有飼料は、一例として、少なくとも10回継続して給餌される。給餌は、通常時期については、1日1回の飽食給餌、冬季については2日1回の飽食給餌とすることができる。ERG含有飼料は、任意のタイミングで給餌されてもよいが、食味を改善する観点から、水揚げ前にERG含有飼料による給餌期間を設けて給餌されるのが好ましい。より具体的に、半年以内、例えば3月以内、1月以内、2週間以内、12日以内、又は10日以内の給餌期間にわたり給餌される。色及び/又は食味を改善する十分な効果を発揮する観点から、数日以上、例えば10日以上の期間にわたり給餌されうる。飼育期間の水温は、魚種に応じて適宜選択されるが、一例としてマグロ類を養殖するには10℃~32℃とする。
【0028】
養殖するマグロ類としては、任意のマグロ類であってよいが、一例として40kg以下の4年未満のマグロ類が望ましい。40kg以下の4年未満のマグロ類養殖魚は、4年以上成長したマグロ類養殖魚と比較して一般に酸味が強く、喫食に適していない。一方で、水揚げ前にエルゴチオネイン高含有飼料による給餌期間を設けることで、魚体中のエルゴチオネイン含有量を増加させ(
図3)、また酸味を低減させることができる(実施例3)。水揚げ前にERG高含有麹含有飼料による給餌期間が長いほど、エルゴチオネイン含有量を増加させ、マグロ類養殖魚、特に4年未満の養殖魚の酸味を低減することができる。エルゴチオネイン含有量の増加は、ERG高含有麹含有飼料のERG含有量又は給餌期間に応じ変化する。一例として、ERG高含有麹含有飼料を給餌された養殖魚では、ERG高含有麹非含有飼料を給餌した対照と比較し、10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、さらにより好ましくは50%以上ERG含有量が増加する。
【0029】
また、水揚げまでの養殖期間を短縮することで、赤潮等によるマグロ類養殖魚に対する壊滅的な被害のリスクを低減することができる。本飼育方法では、水揚げ前に上述した飼育期間継続して、ERG高含有飼料による給餌が行われていれば、他の飼料の給餌を行う期間があってもよい。他の飼料としては、生餌(アジ、サバ等)、モイストペレット等を挙げることができる。
【0030】
<養殖魚>
本開示の一実施形態における養殖魚として、養殖が可能な任意の魚種が挙げられる。一例として、マグロ類、ブリ類、タイ類、フグ類、サケ・マス類、ヒラメ・カレイ類用の飼料とすることが好ましい。マグロ類の養殖魚としては、マグロ族及びハガツオ族を挙げることができる。マグロ族としては、マグロ属、ソウダガツオ属、スマ属、カツオ属等を挙げることができ、ハガツオ族としては、イソマグロ属、ハガツオ属等を挙げることができる。マグロ類としては、例えば、マグロ属のビンナガ、クロマグロ、ミナミマグロ、タイセイヨウマグロ、タイセイヨウクロマグロ、キハダ、メバチ、コシナガ等、カツオ属のカツオ、ソウダガツオ属のヒラソウダ及びマルソウダ、スマ属のスマ等、ハガツオ属のハガツオを挙げることができ、あるいは、ビンナガ、クロマグロ、ミナミマグロ、タイセイヨウマグロ、タイセイヨウクロマグロ、キハダ、メバチ、コシナガ、ハガツオ又はスマを挙げることができる。好ましくは、ビンナガ、クロマグロ、タイセイヨウマグロ、タイセイヨウクロマグロ、キハダ、メバチ、コシナガ、ハガツオ又はスマを挙げることができる。
【0031】
<可食部の製造方法>
本開示の一実施形態にかかる可食部の製造方法は、上述した一実施形態における飼育方法で得られたマグロ類養殖魚を用意すること、用意されたマグロ類養殖魚から、可食部を採取すること、前記可食部を容器に収容することを含み、必要に応じて、他の工程を含むことができる。
【0032】
加工形態としては、例えば、マグロ類養殖魚から更に頭部及び尾部が除去された、いわゆるヘッドレス形態と、ヘッドレス形態を左右及び背側と腹側に分けて、四つ割り状態にした、いわゆるロイン形態を挙げることができる。
【0033】
マグロ類養殖魚及びその可食部は、ウシ、ブタ、トリ等の家畜類、他の養殖魚等の飼料、ペットフードなどの動物用飼料としても用いることができる。
【0034】
本開示において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。本開示において%は、特に言及がない限り質量%を意味する。
【0035】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例0036】
実施例1:脱脂大豆を培地としたERG高含有麹菌固体発酵物の製造
ビニール袋に、膨化処理した脱脂大豆(タンパク質含量約48%)640gを入れ、沸騰したお湯480mlを添加し蒸した(お湯を添加し蒸した後の固体培地のタンパク質含量約27%)。室温に冷却後、2.4gのAspergillus oryzae RIB326株の種培養物(小麦ふすま培養物)を加えよく攪拌し、板蓋に平らに盛り込んだ。湿度95%、32℃で発酵し、麹菌固体発酵物の温度が40℃に達したら、室温を25℃に変更し、湿度管理は停止させ、7日間発酵し、ERG高含有麹菌固体発酵物を得た。発酵開始後、1日目、3日目、4日目、7日目に麹菌固体発酵物を秤量し、水分量を計算した(
図2)。また、発酵開始後1日目、2日目、3日目、6日目に麹菌固体発酵物の一部を取得した。
【0037】
実施例2:ERGの分析方法
(1)ERGの抽出
ERG高含有麹菌固体発酵物を5g秤量し、75%エタノールを加えた後にERG高含有発酵物を破砕し、1日室温で放置し、ERG高含有麹菌固体発酵物からERGを抽出した。下記の分析条件でERG含有量を測定したところ、1kgのERG高含有麹菌固体発酵物に含まれるERGの含有量は、1.1gであった。同様に、発酵開始後1日目、2日目、3日目、6日目の発酵物についてもERG含有量を測定し、グラフに示した(
図1)。
参考例として、みやここうじ四角型(株式会社 伊勢惣社製)、米こうじH(コーセ-フーズ社製)、米こうじS(コーセーフーズ社製)について、同様にERGを抽出し、下記の分析条件でERG含有量を測定した。それぞれのエルゴチオネイン含有量は、下記の通りであった。
【表1】
【0038】
(2)LCMS解析条件
分析装置: UPLC CQ micro;Waters
UPLC
カラム: 2.5 HILIC 3.0mml.D.×150mm
溶媒A: アセトニトリル
溶媒B: 5mM 酢酸アンモニウム/H2O
流速: 0.5ml/min 80%溶媒A
inject: 2μL
質量分析計
ESI: ES+
Cone V: 21V
Capillary V:4.5kV
Source temperature:120℃
Desolvation temperature:400℃
MS Scanモード
【0039】
(3)LC―MS/MSでのエルゴチオネイン分析条件
分析装置: UPLC CQ micro;Waters
UPLC
カラム: 2.5 HILIC 3.0 mml.D.×150 mm
溶媒A: 0.1%ギ酸/アセトニトリル
溶媒B: 0.1%ギ酸/H2O
流速: 0.5ml/min 80%A
inject: 2μL
質量分析計
ESI: ES+
Cone V: 21V
Capillary V: 4.5kV
Source temperature:120℃
Desolvation temperature:400℃
Collision energy:11V
Trace: m/z 230.1>186.1
Collision energy:20V
Trace: m/z 230.1>127.0
【0040】
実施例3:ERG含有飼料によるマグロ類養殖魚の飼育
(1)ERG含有飼料の製造
実施例1で製造されたERG高含有麹菌固体発酵物をモイストペレット飼料(販売元:)に平均2.69%(2.43―3.05%)混合し、ERG含有飼料を製造した。ERG含有飼料のERG含有率は、乾燥重量で0.011%であった。
【0041】
(2)飼育方法
ERG有飼料を、3歳魚のマグロに計1日1回、12日間、計12回給餌した。
対照区にはERG高含有麹を含まないモイストペレット飼料を同期間、同回数、同じく3歳魚のマグロに給餌した。
【0042】
(3)魚体計測
試験区から3尾、及び対照区から2尾を釣りによって取上げを行った。
マグロは取上げ直後に船上で血抜き、神経締め及び内臓・鰓の除去を行い、加工場でのロイン加工まで氷水中で保管した。
取上げたマグロは上記の処理をした状態で、試験区が個体1:魚体重31.9kg及び尾叉長119cm、個体2:魚体重30.6kg及び尾叉長118cm、及び個体3:魚体重34.7kg及び尾叉長126cm、対照区が個体1:魚体重29.4kg及び尾叉長116cm、及び個体2:魚体重34.6kg及び尾叉長122cmであった。
氷水中で保管した魚体は、ロイン加工を行い官能評価まで氷中で輸送・保管を行った。
【0043】
(4)官能評価
官能評価は、社内で選抜・訓練された24名の評価者を用いて、分析型及び嗜好型評価により実施した。官能評価の各項目は、絶対評価で点数化した。官能評価の各項目は一定の基準で評価できるよう訓練された評価者によって酸味については0から酸味が増加するに従い1、2、3、4と5段階、硬さについては、軟らかいものから硬いものへ‐3、-2、-1、0、+1、+2、+3の7段階の点数化を行った。
【0044】
官能評価の結果、分析型評価では、対照区と比べ試験区では「酸味」が有意(P<0.05)に低下した。また、「硬さ」は有意傾向(P=0.08)であったが、対照区と比べ試験区が低下した(表2)。
【表2】
【0045】
官能評価(嗜好型評価)では、味を総合的に評価することにより「総合評価」として評価を点数化した(表3)。
【表3】
【0046】
(5)マグロ魚体中のERG量の測定
試験区及び対照区から得られた魚体を秤量し、75%エタノールを加えた後に魚体を破砕し、1日室温で放置し、ERGを抽出した。下記の分析条件でERG含有量を測定し、魚体1gあたりのERG含有量について結果をグラフに示した(
図3)。
【0047】
(5-1)LCMS解析条件
分析装置: UPLC CQ micro;Waters
UPLC
カラム: 2.5 HILIC 3.0mml.D.×150mm
溶媒A: アセトニトリル
溶媒B: 5mM 酢酸アンモニウム/H2O
流速: 0.5ml/min 80%溶媒A
inject: 2μL
質量分析計
ESI: ES+
Cone V: 21V
Capillary V:4.5kV
Source temperature:120℃
Desolvation temperature:400℃
MS Scanモード
【0048】
(5-2)LC―MS/MSでのエルゴチオネイン分析条件
分析装置: UPLC CQ micro;Waters
UPLC
カラム: 2.5 HILIC 3.0 mml.D.×150 mm
溶媒A: 0.1%ギ酸/アセトニトリル
溶媒B: 0.1%ギ酸/H2O
流速: 0.5ml/min 80%A
inject: 2μL
質量分析計
ESI: ES+
Cone V: 21V
Capillary V: 4.5kV
Source temperature:120℃
Desolvation temperature:400℃
Collision energy:11V
Trace: m/z 230.1>186.1
Collision energy:20V
Trace: m/z 230.1>127.0