(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061266
(43)【公開日】2023-05-01
(54)【発明の名称】害虫駆除剤
(51)【国際特許分類】
A01N 59/06 20060101AFI20230424BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20230424BHJP
A01P 9/00 20060101ALI20230424BHJP
【FI】
A01N59/06 Z
A01P7/04
A01P9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021171162
(22)【出願日】2021-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100191204
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 春彦
(72)【発明者】
【氏名】平山 浩喜
(72)【発明者】
【氏名】中村 明則
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AC01
4H011AE01
4H011BB18
(57)【要約】
【課題】植物への影響が小さく、即効性のある害虫駆除剤を提供すること。
【解決手段】
消石灰微粒子と界面活性剤と水とを含有する水性スラリーであって、消石灰微粒子の平均粒子径(D50)が0.1~1.0μmであり、かつ、消石灰微粒子の含有割合が8~50質量%である、害虫駆除剤である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
消石灰微粒子と界面活性剤と水とを含有する水性スラリーであって、
前記消石灰微粒子の平均粒子径(D50)が0.1~1.0μmであり、かつ、前記消石灰微粒子の含有割合が8~50質量%である、害虫駆除剤。
【請求項2】
界面活性剤の含有割合が、2~20質量%であることを特徴とする請求項1記載の害虫駆除剤。
【請求項3】
ポリプロピレンシートに対する接触角が、5~50°であることを特徴とする請求項1又は2記載の害虫駆除剤。
【請求項4】
スプレー式であることを特徴とする請求項1~3のいずれか記載の害虫駆除剤。
【請求項5】
駆除対象の害虫が、ヤマビル、ナメクジ、カタツムリ、毛虫、芋虫及び青虫から選ばれる軟体害虫であることを特徴とする請求項1~4のいずれか記載の害虫駆除剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナメクジ等の害虫を駆除する害虫駆除剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、農薬を使用しない無農薬栽培の野菜が好まれるようになってきているが、無農薬栽培を行う農園においては、ナメクジ、カタツムリ等の害虫による食害が問題となっている。このような状況下、メタアルデヒド製剤が、ナメクジ、カタツムリ等の害虫に対する誘引性毒餌として使用されている(特許文献1参照)。しかしながら、このメタアルデヒド製剤は、接触しても直接殺すことができず、即効性に欠け、十分に満足のいく効果が得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、植物への影響が小さく、即効性のある害虫駆除剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく研究する中で、農薬に該当せず、殺菌効果のある消石灰(水酸化カルシウム)に着目した。しかしながら、消石灰は、強アルカリであるため、粉のままの使用では、農薬ほどではないものの、植物への影響が懸念される。
【0006】
このような状況下、本発明者らは、さらに鋭意研究を進めた結果、微粒子化した消石灰を含む水性スラリーとすることにより、付与後に消石灰の炭酸化(不活性化)が即座に進み、植物へのダメージを抑制することができ、さらに水性スラリーに界面活性剤を含有させることで、濡れ性の向上により植物の葉等で薄く広範囲に広がり、植物へのダメージを抑制することができると共に、害虫への濡れ性や浸透性が高まり、少量の消石灰でも十分な殺傷力を発揮することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の通りのものである。
[1]消石灰微粒子と界面活性剤と水とを含有する水性スラリーであって、
前記消石灰微粒子の平均粒子径(D50)が0.1~1.0μmであり、かつ、前記消石灰微粒子の含有割合が8~50質量%である、害虫駆除剤。
【0008】
[2]界面活性剤の含有割合が、2~20質量%であることを特徴とする上記[1]記載の害虫駆除剤。
[3]ポリプロピレンシートに対する接触角が、5~50°であることを特徴とする上記[1]又は[2]記載の害虫駆除剤。
[4]スプレー式であることを特徴とする上記[1]~[3]のいずれか記載の害虫駆除剤。
[5]駆除対象の害虫が、ヤマビル、ナメクジ、カタツムリ、毛虫、芋虫及び青虫から選ばれる軟体害虫であることを特徴とする上記[1]~[4]のいずれか記載の害虫駆除剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明の害虫駆除剤は、植物への影響が小さく、即効性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の害虫駆除剤は、消石灰微粒子と界面活性剤と水とを含有する水性スラリーであって、消石灰微粒子の平均粒子径(D50)が0.1~1.0μmであり、かつ、消石灰微粒子の含有割合が8~50質量%である。
【0011】
本発明の害虫駆除剤は、植物等に寄生する害虫に直接付与して害虫を殺傷するものである。本発明の害虫駆除剤は、微粒子化した消石灰を含む水性スラリーであることから、付与後に消石灰の炭酸化(不活性化)が即座に進み、アルカリ焼け等の植物へのダメージを抑制することができる。また、界面活性剤を含有することから、濡れ性の向上により植物の葉等で薄く広範囲に広がり、植物へのダメージを抑制することができ、また、害虫への濡れ性や浸透性が高まり、少量の消石灰でも十分な殺傷力を発揮することができる。
【0012】
本発明の害虫駆除剤が対象とする害虫としては、本発明の害虫駆除剤の作用により死亡する害虫であれば特に制限されるものではなく、例えば、ヤマビル、ナメクジ、カタツムリ、毛虫、芋虫、青虫等の軟体害虫の他、アリ、ダンゴムシ等を挙げることができる。これらの中でも、ヤマビル、ナメクジ、カタツムリ、毛虫、芋虫、青虫等の軟体害虫が好ましい。
【0013】
毛虫、芋虫、青虫は、チョウ目(ガ目)の幼虫をいい、例えば、アゲハチョウ科、シロチョウ科、シジミチョウ科、タテハチョウ科、セセリチョウ科の蝶の幼虫や、ミノガ科、セミヤドリガ科、イラガ科、マダラガ科、ハマキガ科、メイガ科、カギバガ科、アゲハモドキガ科、ツバメガ科、シャクガ科、カレハガ科、オビガ科、カイコガ科、ヤママユガ科、イボタガ科、スズメガ科、シャチホコガ科、ドクガ科、ヒトリガ科、コブガ科、ヤガ科の蛾の幼虫を挙げることができる。毛虫、芋虫、青虫の区別は厳密ではないが、長い毛で体を覆われているものを毛虫、長い毛で体を覆われていないもののうち、緑色以外のものを芋虫、緑色のものを青虫と分類することができる。
【0014】
本発明の害虫駆除剤における消石灰微粒子の平均粒子径(D50)としては、0.1~1.0μmであり、0.1~0.8μmが好ましく、0.1~0.5μmがより好ましい。この範囲の微粒子を用いることにより、消石灰の不活性化が即座に進み、植物へのダメージを抑制することができる。また、本発明の害虫駆除剤は、1.2μm以上の消石灰微粒子をできる限り含まないことが好ましく、例えば、1.2μm以上の消石灰微粒子が5体積%以下であることが好ましく、3体積%以下であることがより好ましく、1体積%以下であることがさらに好ましい。
【0015】
平均粒子径(D50)は、体積基準で求めた粒度分布の全体積を100%とした累積体積分布曲線において50%となる点の粒子径、すなわち体積基準累積50%径を意味する。粒度分布は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(例えば、(株)堀場製作所製LA-960)により求めることができる。
【0016】
本発明の害虫駆除剤における消石灰微粒子の含有割合としては、8~50質量%であり、10~40質量%であることが好ましく、10~30質量%であることがより好ましい。この範囲の量の消石灰微粒子を含有することにより、確実に害虫を死亡させることができる。
【0017】
本発明の害虫駆除剤における界面活性剤の含有割合としては、2~20質量%であることが好ましく、3~15質量%がより好ましく、3~10質量%がさらに好ましい。この範囲の量の界面活性剤を含有することにより、葉等で薄く広がって植物へのダメージを抑制できると共に、害虫への濡れ性や浸透性が高まって殺傷効果が向上する。
【0018】
界面活性剤としては、イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤等、いずれの界面活性剤を用いてもよい。イオン性界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム等を挙げることができる。両性界面活性剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等を挙げることができる。ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、アセチレングリコール、アセチレンアルコール等を挙げることができる。その他、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等を用いることもできる。
【0019】
本発明の害虫駆除剤のポリプロピレンシートに対する接触角としては、5~50°であることが好ましく、40°以下が好ましく、35°以下がより好ましく、30°以下がさらに好ましい。これにより、植物や害虫に対する十分な濡れ性を担保することができる。
【0020】
なお、本発明における接触角は、ポリプロピレンのシートに対して液滴を滴下して20秒後の液滴の接触角をいう。測定には、例えば、動的表面張力計PCA-1(協和界面化学社製)を用いることができる。
【0021】
本発明の害虫駆除剤においては、上記成分の他に、他の成分を含有してもよく、例えば、アルコールを含有することが好ましい。アルコールを含有することにより、害虫への浸透性を高めることができる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソププロピルアルコール等を挙げることができ、安全性等の点から、エタノールが好ましい。
【0022】
アルコールの含有割合としては、2~20質量%であることが好ましく、3~15質量%がより好ましく、3~10質量%がさらに好ましい。この範囲の量のアルコールを含有することにより、害虫駆除剤を害虫へ効率よく浸透させることができ、殺傷性を向上させることができる。
【0023】
本発明の害虫駆除剤は、スプレー式(噴霧式)、滴下式等として用いることができ、使いやすさの点や過剰な付与を抑制できる等の点から、スプレー式が好ましい。本発明の害虫駆除剤は、微小な消石灰微粒子及び界面活性剤を含み、安定してスラリー状態を保持できることから、スプレー式を好適に用いることができる。
【0024】
本発明の害虫駆除剤は、消石灰微粒子と界面活性剤と水とを混合して製造することができる。例えば、特許第4606238号公報に記載の製造方法により消石灰微粒子分散液を製造し、かかる消石灰微粒子分散液に、適量の界面活性剤と水を添加することにより製造することができる。
【実施例0025】
以下に実施例及び比較例を示すが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0026】
以下の原材料を用いて害虫駆除剤を製造した。
消石灰微粒子として、微粒子消石灰スラリー「カルセッター」(株式会社トクヤマ製)を用いた。平均粒子径(D50)は、0.2~0.4μmであり、1.0μm以上の粒子をほぼ含んでいない。なお、比較例3においては、消石灰微粒子に代えて、炭酸カルシウム微粒子を用いた。
界面活性剤として、オルフィンE1010(日信化学工業株式会社製)を用いた。
アルコールとして、エタノールを用いた。
【0027】
具体的な配合割合は、表1に示す通りである。
また、各害虫駆除剤の接触角の測定結果をあわせて示す。接触角の測定は、動的表面張力計PCA-1(協和界面化学社製)を用いて行い、ポリプロピレンのシートに対して液滴を滴下して20秒後の液滴の接触角を読み取った。
【0028】
【0029】
実施例1~6及び比較例1~3の害虫駆除剤を、ナメクジ、キアゲハ幼虫(芋虫)、イラガ幼虫(毛虫)に対して付与(滴下)した。滴下後、害虫が10分間動かなくなることで害虫の死亡を確認した。
その結果を表2に示す。
【0030】
【0031】
表2に示すように、本発明の害虫駆除剤を少量付与することにより、害虫を死亡させることができた。
【0032】
次に、実施例1~6の害虫駆除剤と、下記表3に示す配合の比較例4~7の消石灰スラリー又は粉末消石灰を、トマト、ジャガイモ、ナツミカンの葉に対して付与(散布)した。散布してから5日後に、葉に付着した消石灰を取り除き、葉上にアルカリ焼けが起きている葉の割合(散布した葉の枚数に対するアルカリ焼けを起こした葉の枚数)を確認した。
【0033】
【0034】
その結果を表4に示す。
なお、葉のアルカリ焼けの評価は、以下の基準で行った。
○:アルカリ焼けを起こした葉が無い、または5%未満
△:アルカリ焼けを起こした葉の枚数が5%以上25%未満
×:アルカリ焼けを起こした葉の枚数が25%以上
【0035】
【0036】
表4に示すように、比較例4~7の消石灰スラリー又は粉末消石灰では、葉のアルカリ焼けが生じたが、本発明の実施例1~6の害虫駆除剤では、葉のアルカリ焼けがほとんど生じず、植物への影響はほとんどなかった。