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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061323
(43)【公開日】2023-05-01
(54)【発明の名称】研磨装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/30 20120101AFI20230424BHJP
   B24B 37/005 20120101ALI20230424BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20230424BHJP
【FI】
B24B37/30 E
B24B37/005 A
H01L21/304 622K
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021171253
(22)【出願日】2021-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100169960
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 貴光
(72)【発明者】
【氏名】永井 大智
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158AB04
3C158BA02
3C158BA05
3C158BB04
3C158BB06
3C158BB08
3C158BC01
3C158CB01
3C158DA12
3C158DA17
3C158EA13
3C158EB01
5F057AA16
5F057AA31
5F057BA15
5F057BA21
5F057BB05
5F057CA12
5F057DA03
5F057FA02
5F057FA19
5F057GA02
(57)【要約】
【課題】ワークを精度良く研磨可能な研磨装置を提供する。
【解決手段】CMP装置1は、ワークWを保持可能なチャック19と、チャック19の周方向に沿って並設されて、エアにより膨張してワークWの一部を研磨パッド5に向けて押圧可能な第2のエアバッグ16A~16Dと、第2のエアバッグ16A~16Dに供給されるエアの圧力をそれぞれ調整可能なコントローラ6と、を備えている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨ヘッドに保持されたワークをプラテン上の研磨パッドに押し当てて研磨する研磨装置であって、
前記ワークを保持可能なチャックと、
前記チャックの周方向に沿って並設されて、エアにより膨張して前記ワークの一部を前記研磨パッドに向けて押圧する複数の部分押圧部と、
各部分押圧部に供給されるエアの圧力をそれぞれ調整可能なコントローラと、
を備えていることを特徴とする研磨装置。
【請求項2】
前記チャックの周方向の全周に亘って設けられ、エアにより膨張して前記ワーク全面を前記研磨パッドに向けて押圧する全体押圧部をさらに備え、
前記部分押圧部は、前記全体押圧部内に収容されていることを特徴とする請求項1に記載の研磨装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークを研磨する研磨装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造分野では、シリコンウェハ等(以下、「ワーク」という)を研磨して平坦化するCMP装置が知られている。
【0003】
特許文献1記載の研磨装置は、化学的機械的研磨、いわゆるCMP(Chemical Mechanical Polishing)技術を適用した研磨装置である。このCMP装置は、研磨ヘッドに装着されたワークを研磨パッドに押圧してワークを研磨するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-159385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ワークの裏面が研磨ヘッドのチャックに保持され、ワークの表面を研磨パッドに押圧して研磨する裏面基準研磨では、ワークに作用する圧力分布がワークの周方向に略均一に設定されるため、ワークの結晶方位に起因して研磨後のワーク形状に傾きが生じたり、初期膜厚が周方向に不均一なワークを均一な厚みに研磨できない場合があった。
【0006】
そこで、ワークを精度良く研磨するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る研磨装置は、研磨ヘッドに保持されたワークをプラテン上の研磨パッドに押し当てて研磨する研磨装置であって、前記ワークを保持可能なチャックと、前記チャックの周方向に沿って並設されて、エアにより膨張して前記ワークの一部を前記研磨パッドに向けて押圧する複数の部分押圧部と、各部分押圧部に供給されるエアの圧力をそれぞれ調整可能なコントローラと、を備えている。
【0008】
この構成によれば、複数の部分加圧部をそれぞれ膨張・収縮させることにより、ワークに作用する圧力分布をワークの周方向において自在に調整可能なため、ワークの結晶方位や不均一な初期膜厚を考慮してワークの周方向において圧力分布を対応させ、研磨面内において異なる研磨圧力をワークに作用させることとなり、ワークを精度良く平坦に研磨することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、ワークを精度良く平坦に研磨することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係るCMP装置を模式的に示す斜視図。
図2】研磨ヘッドの要部を模式的に示す縦断面図。
図3】第1のエアバッグ及び第2のエアバッグの位置関係を示す平面図。
図4】ワーク及び第2のエアバッグの位置関係を示す平面図。
図5】(a)は第1のエアバッグによる圧力分布を示す模式図であり、(b)は第1のエアバッグ及び第2のエアバッグによる圧力分布を示す模式図である。
図6】4つの第2のエアバッグをそれぞれ膨張・収縮させた際にワークWに作用した圧力を計測した画像。
図7】任意のピーク位置に所望の圧力を作用させる場合に、第2のエアバッグに供給するエアの圧力を算出する過程を示す模式図。
図8】(a)は実施例1、2及び比較例1におけるX軸上の研磨除去量を示すグラフであり、(b)は実施例1、2及び比較例1におけるY軸上の研磨除去量を示すグラフである。
図9】(a)は実施例3、4及び比較例2におけるX軸上の研磨除去量を示すグラフであり、(b)は実施例3、4及び比較例2におけるY軸上の研磨除去量を示すグラフである。
図10】(a)は実施例5におけるX軸上のワークの厚みを示すグラフであり、(b)は実施例5におけるY軸上のワークの厚みを示すグラフである。
図11】(a)は実施例5におけるX軸上の研磨除去量を示すグラフであり、(b)は実施例5におけるY軸上の研磨除去量を示すグラフである。
図12】実施例5の各工程におけるワークの厚みバラつきレンジを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態について図面に基づいて説明する。なお、以下では、構成要素の数、数値、量、範囲等に言及する場合、特に明示した場合及び原理的に明らかに特定の数に限定される場合を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも構わない。
【0012】
また、構成要素等の形状、位置関係に言及するときは、特に明示した場合及び原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似又は類似するもの等を含む。
【0013】
また、図面は、特徴を分かり易くするために特徴的な部分を拡大する等して誇張する場合があり、構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。また、断面図では、構成要素の断面構造を分かり易くするために、一部の構成要素のハッチングを省略することがある。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係るCMP装置1を模式的に示す斜視図である。CMP装置1は、ワークWの一面を平坦に研磨するものである。CMP装置1は、プラテン2と、研磨ヘッド10と、を備えている。ワークWは、例えば、シリコンウェハであるがこれに限定されるものではない。
【0015】
プラテン2は、円盤状に形成されており、プラテン2の下方に配置された回転軸3に連結されている。回転軸3がモータ4の駆動によって回転することにより、プラテン2は図1中の矢印D1の方向に回転する。プラテン2の上面には、研磨パッド5が貼付されており、研磨パッド5上に図示しないノズルから研磨剤と化学薬品との混合物であるCMPスラリーが供給される。
【0016】
研磨ヘッド10は、プラテン2より小径に形成されており、研磨ヘッド10の上方に配置された回転軸10aに連結されている。回転軸10aが図示しないモータの駆動によって回転することにより、研磨ヘッド10は、図1中の矢印D2の方向に回転する。研磨ヘッド10は、図示しないヘッド移動機構によって垂直方向及び水平方向に移動可能に構成されている。研磨ヘッド10は、ワークWを研磨する際に下降して研磨パッド5にワークWを押圧する。
【0017】
CMP装置1の動作は、コントローラ6によって制御される。コントローラ6は、CMP装置1を構成する構成要素をそれぞれ制御するものである。コントローラ6は、例えばコンピュータであり、CPU、メモリ等により構成される。なお、コントローラ6の機能は、ソフトウェアを用いて制御することにより実現されても良く、ハードウェアを用いて動作するものにより実現されても良い。
【0018】
次に、研磨ヘッド10の構造について説明する。図2は、研磨ヘッド10の要部を模式的に示す縦断面図である。
【0019】
研磨ヘッド10は、回転軸10aに接続されたヘッド本体11を備えている。ヘッド本体11は、回転伝達部12を介してベース部材13に連結されており、ヘッド本体11、回転伝達部12及びベース部材13は、回転軸10aと共に回転する。
【0020】
ベース部材13の上方には、ボルトB1を介してPPS製のプレートホルダ14が締結されている。これにより、研磨ヘッド10に入力される回転駆動力が、ベース部材13を介してプレートホルダ14に伝達される。
【0021】
プレートホルダ14とヘッド本体11との間に、第1のエアバッグ15と、第2のエアバッグ16と、が介装されている。
【0022】
第1のエアバッグ15は、略円環状に形成されている。第1のエアバッグ15は、図示しない圧縮空気源から圧空ライン15aを介して供給されるエアによって膨張、収縮自在である。圧縮空気源から供給されるエアの圧力は、コントローラ6により制御される図示しないレギュレータによって調整される。第1のエアバッグ15は、供給されるエアの圧力に応じてプレートホルダ14全体を加圧することで、ワークW全体が研磨パッド5に押圧される研磨圧力を調整する。
【0023】
第2のエアバッグ16は、4つ設けられている。また、第2のエアバッグ16は、第1のエアバッグ15内に収容されている。図3に示すように、4つの第2のエアバッグ16は、略円状にそれぞれ形成され、平面から視て研磨ヘッド10の回転中心まわりに略同心円上に配置されている。
【0024】
図4に示すように、4つの第2のエアバッグ16は、ワークWの中心を通り互いに直交するX軸又はY軸の各軸上であって正の領域及び負の領域に1つずつ配置されている。以下、4つの第2のエアバッグ16をそれぞれ区別する場合には、オリフラOFに近いY軸上の負の領域に配置された第2のエアバッグ16の符号の末尾に「a」を付し、第2のエアバッグ16Aを基準として平面から視て時計回りの順に第2のエアバッグ16の符号の末尾に「B」、「C」、「D」を付す。なお、第2のエアバッグ16の設置数は4に限定されず、3以下であっても5以上であっても構わない。
【0025】
第2のエアバッグ16は、図示しない圧縮空気源から圧空ライン16aを介して供給されるエアによって膨張、収縮自在である。圧縮空気源から供給されるエアの圧力は、コントローラ6により制御される図示しないレギュレータによって調整される。第2のエアバッグ16は、供給されるエアの圧力に応じて、直下に位置するプレートホルダ14の一部を加圧することで、ワークWが研磨パッド5に押圧される研磨圧力をワークWの周方向において局所的に変化させる。また、第2のエアバッグ16が、高剛性のヘッド本体11の下面に固定されて下方に向けて膨張可能に構成されていることにより、例えば、膨張可能な第1のエアバッグ15の下面に第2のエアバッグ16が積層される場合と比べて、第2のエアバッグ16の膨張、収縮を容易に制御することができる。
【0026】
図2に戻り、ベース部材13の下方には、ポーラスチャック17が設けられている。ポーラスチャック17は、アルミナ製のチャックテーブル18と、多孔質アルミナ製のチャック19と、を備えている。
【0027】
チャックテーブル18は、ボルトB2を介してベース部材13に締結されている。これにより、研磨ヘッド10に入力される回転駆動力が、ベース部材13を介してポーラスチャック17に伝達される。
【0028】
チャック19は、チャックテーブル18の下面に埋設されている。チャック19は、ライン18aを介して図示しない真空源、冷却水源に接続されている。真空源を起動させることにより、ポーラスチャック17の保持面17aにワークWが吸着保持される。また、冷却水源から供給される冷却水は、室温と略等しく温調されており、研磨後にチャック19を通水することでチャック19を冷却する。
【0029】
このようにして、研磨ヘッド10は、ワークWの裏面がチャック19に吸着保持された状態でワークWの表面が研磨パッド5に押し当てられ、第1のエアバッグ15及び第2のエアバッグ16の膨張に伴ってワークWに荷重が伝わることにより、ワークWは、研磨面としての保持面17aの形状が転写されるように研磨される(裏面基準研磨)。保持面17aは、ラップ加工によって約1μm以下の平坦度に設定されている。
【0030】
次に、第1のエアバッグ15又は第2のエアバッグ16によってワークWに付与させる荷重を調整する手順について説明する。
【0031】
まず、図5(a)に示すように、第1のエアバッグ15による荷重(以下、「通常荷重」という)では、ワークWの中央付近の圧力が高く、ワークWの中央から外周に向かって圧力が徐々に低下するような中凸状の圧力分布が得られる。このような通常荷重の圧力分布は、ワークWの周方向において略均一に形成されるため、例えば、結晶方位に起因して研磨後に傾きが生じたり初期膜厚が不均一なワークWを略均一な厚みに研磨するには適当とは言い難い。
【0032】
第2のエアバッグ16A~16Dに供給するエアの圧力をそれぞれ調整することにより、ワークWに作用する圧力分布を変更することができる。図6(a)~(i)は、ニッタ株式会社製 面圧分布測定システム「I-SCAN」を用いて、第1のエアバッグ15を収縮させた状態で第2のエアバッグ16A~16Dを膨張・収縮された場合に、ワークWに作用した圧力を測定した画像であり、明るい領域ほど強い圧力が作用していることを示す。なお、図6(a)~(i)に示す画像は、底面から視たワークWに作用した圧力分布を示しており、図4とはX軸の正負の向きが逆転している。
【0033】
図6(a)は、第2のエアバッグ16C、16Dに圧力8.5psiのエアをそれぞれ供給した場合にワークWに作用した圧力を示し、図6(b)は、第2のエアバッグ16Cに圧力12psiのエアを供給した場合にワークWに作用した圧力を示し、図6(c)は、第2のエアバッグ16B、16Cに圧力8.5psiのエアをそれぞれ供給した場合にワークWに作用した圧力を示し、図6(d)は、第2のエアバッグ16Dに圧力12psiのエアを供給した場合にワークWに作用した圧力を示し、図6(e)は、第2のエアバッグ16A~16Dの何れにもエアを供給していない場合にワークWに作用した圧力を示し、図6(f)は、第2のエアバッグ16Bに圧力12psiのエアを供給した場合にワークWに作用した圧力を示し、図6(g)は、第2のエアバッグ16A、16Dに圧力8.5psiのエアをそれぞれ供給した場合にワークWに作用した圧力を示し、図6(h)は、第2のエアバッグ16Aに圧力12psiのエアを供給した場合にワークWに作用した圧力を示し、図6(i)は、第2のエアバッグ16A、16Bに圧力8.5psiのエアをそれぞれ供給した場合にワークWに作用した圧力を示す。
【0034】
図6(b)、(d)、(f)、(h)に示すように、第2のエアバッグ16A~16Dの何れか1つを加圧した場合には、加圧された第2のエアバッグ16A~16Dの直下及びその周辺に作用する圧力が増加する。
【0035】
また、図6(a)、(c)、(g)、(i)に示すように、第2のエアバッグ16A~16Dのうち隣り合う2つを加圧した場合には、加圧された2つの第2のエアバッグ16A~16Dの直下及びその周辺並びにそれらの間に作用する圧力が増加する。
【0036】
このようにして、ワークWの周方向において圧力分布を移動させる場合には、図7に示すように、ワークWの周方向における圧力分布が最大となるピーク位置Pの座標に応じて、ピーク位置Pに作用させたい圧力Fをベクトル分解し、ピーク位置Pを挟んで隣り合う2つの第2のエアバッグ16A~16Dにそれぞれ供給するエアの圧力を算出する。
【0037】
すなわち、図7に示すように、第2のエアバッグ16C、16Dの間にピーク位置Pを設定する場合、ピーク位置P及び原点Oを結んだ線分とX軸との成す角度をΘとすると、第2のエアバッグ16Cに加圧する圧力をFsinΘ、第2のエアバッグ16Dに加圧する圧力をFcosΘに設定する。例えば、角度Θを60度、ピーク位置Pに作用させる圧力を12psiに設定する場合には、第2のエアバッグ16Cに供給されるエアの圧力を10.4psi、第2のエアバッグ16Dに供給されるエアの圧力を6psiにそれぞれ設定する。
【0038】
このようにして、図5(b)に示すように、第2のエアバッグ16による荷重(以下、「部分荷重」という)では、通常荷重時とは異なる形状の圧力分布が得られる。すなわち、部分荷重の圧力分布は、ワークWの周方向において不均一に形成される。これにより、通常荷重と部分荷重とを組み合わせることにより、ワークWの結晶方位や初期膜厚に応じて適切な圧力分布を設定し、研磨後の膜厚が略均一なワークWを得ることができる。
【0039】
なお、第2のエアバッグ16は、第1のエアバッグ15内に収容されているため、第1のエアバッグ15が膨張した状態で、第2のエアバッグ16を膨張させる場合、第2のエアバッグ16に供給されるエアの圧力は、第1のエアバッグ15に供給されるエアの圧力より大きく設定される。
【0040】
具体的には、第1のエアバッグ15に供給されるエアの圧力をPall、ワークWの面積をSw、第1のエアバッグ15の面積をSa、ポーラスチャック17がワークWを加圧する圧力をWPとすると、第2のエアバッグ16にそれぞれ供給されるエアの圧力Pzは、Pz>Pall=(Sw/Sa)*WPの関係式を満たすように設定される。
【0041】
また、通常荷重及び部分荷重の組み合わせは同時であっても先後であっても構わない。例えば、ワークWは、オリフラOF周辺は特異点となり、研削加工及び研磨加工において除去量が不連続的に増加する現象(ダレ)が生じることがある。そこで、第1のエアバッグ15のみを膨張させてワークWを研磨する通常研磨の後に、第1のエアバッグ15を収縮させた後に、第2のエアバッグ16B~16Dを順に膨張させて、オリフラOF周辺を除くワークWを研磨することにより、オリフラOF周辺を除いたワークW全面を研磨することにより、オリフラOF周辺のダレを解消することができる。
【実施例0042】
次に、LiTaO3(タンタル酸リチウム)から成るワークWに対して、通常荷重でCMP研磨を行った場合(比較例1)、及び通常荷重及び部分荷重を組み合わせてCMP研磨場合(実施例1、2)について説明する。
【0043】
比較例1及び実施例1、2での研磨条件を表1に示し、比較例1及び実施例1、2におけるX軸上(Y座標:0)の研磨除去量の分布を図8(a)に示し、Y軸上(X座標:0)の研磨除去量の分布を図8(b)に示す。なお、表1中の「Zone3」、「Zone4」は、それぞれ第2のエアバッグ16C、16Dに対応する。
【表1】
【0044】
図8(a)、(b)によれば、比較例1では、X座標が負の領域(特に、―25mm以下)における研磨除去量が、X座標が正の領域における研磨除去量より相対的に大きく、また、Y座標が負の領域(特に、―25mm以下)における研磨除去量が、Y座標が正の領域における研磨除去量より相対的に大きいため、ワークW面内における研磨除去量に偏りが生じていることが分かる。
【0045】
一方、実施例1では、第1のエアバッグ15による通常荷重に加えて、第2のエアバッグ16C、16Dによる部分荷重を行うことにより、X座標が正の領域の研磨除去量及びY座標が正の領域における研磨除去量がそれぞれ増加して、ワークW面内における研磨除去量の偏りが緩和されていることが分かる。
【0046】
また、実施例2では、第2のエアバッグ16C、16Dに供給されるエアの圧力をさらに加圧することにより、X座標が正の領域における研磨除去量及びY座標が正の領域における研磨除去量がさらに増加し、X座標が正の領域における研磨除去量が、X座標が負の領域における研磨除去量より相対的に大きく、Y座標が正の領域における研磨除去量が、Y座標が負の領域における研磨除去量より相対的に大きいため、ワークW面内における研磨除去量の偏りが、比較例1とは対照的であることが分かる。
【0047】
次に、SiC(炭化ケイ素)から成るワークWに対して、通常荷重でCMP研磨を行った場合(比較例2)、及び通常荷重及び部分荷重を組み合わせてCMP研磨場合(実施例3、4)について説明する。
【0048】
比較例2及び実施例3、4での研磨条件を表2に示し、比較例2及び実施例3、4におけるX軸上(Y座標:0)の研磨除去量の分布を図9(a)に示し、Y軸上(X座標:0)の研磨除去量の分布を図9(b)に示す。なお、表1中の「Zone4」は、第2のエアバッグ16Dに対応する。
【表2】
【0049】
図9(a)、(b)によれば、比較例2では、X座標が負の領域における研磨除去量が、X座標が正の領域における研磨除去量より相対的に大きい傾向にあり、ワークW面内における研磨除去量に偏りが生じていることが分かる。
【0050】
一方、実施例3では、第1のエアバッグ15による通常荷重に加えて、第2のエアバッグ16Dによる部分荷重を行うことにより、X座標が正の領域における研磨除去量が増加し、ワークW面内における研磨除去量の偏りが緩和されていることが分かる。
【0051】
また、実施例4では、第2のエアバッグ16Dに供給されるエアの圧力をさらに加圧することにより、X座標が正の領域における研磨除去量がさらに増加し、X座標が正の領域における研磨除去量が、X座標が負の領域における研磨除去量より相対的に大きい傾向となり、ワークW面内における研磨除去量の偏りが、比較例2とは対照的であることが分かる。
【0052】
次に、LiTaO3から成るワークWを段階的に部分加圧して、オリフラOF周辺のダレを改善する場合(実施例5)について説明する。実施例5での研磨条件を表3に示す。なお、表3中の「Zone1」は、第1のエアバッグ16Aに相当し、「Zone2」は、第1のエアバッグ16Bに相当し、「Zone3」は、第1のエアバッグ16Cに相当し、「Zone4」は、第1のエアバッグ16Dに相当する。
【表3】
【0053】
図10(a)は、各工程におけるX軸上(Y座標:0)のワークWの厚みを示し、図10(b)は、各工程におけるY軸上(X座標:0)のワークWの厚みを示す。また、図11(a)は、各工程におけるX軸上(Y座標:0)の研磨除去量の分布を示し、図11(b)は、各工程におけるY軸上(X座標:0)の研磨除去量の分布を示す。図12は、各工程におけるワークW面内の厚みのバラつきを示すグラフである。
【0054】
図10(a)、(b)、図12中の「研磨前」は、通常荷重によるCMP研磨前のワークWを示す。図10(b)に示すように、オリフラOF周辺(Y座標:―50mm以下)では、ワークWの厚みが著しく減少するダレが生じていることが分かる。また、図12に示すように、ワークW面内で0.34μm程度の厚みバラつきが生じていることが分かる。
【0055】
このようなワークWに対して、まず、第1のエアバッグ15のみを膨張させてワークWを研磨する(通常研磨)。通常研磨後のワークWは、図10(a)、(b)に示すように、中央付近が最も薄く、外周に向かって徐々に厚くなる中凹状に研磨される。また、図11(a)、(b)に示すように、通常研磨の研磨除去量は、中央付近が最も大きく、外周に向かって徐々に小さい。しかしながら、図12に示すように、ワークW面内での厚みバラつきは、通常研磨前後で顕著な変化はない。
【0056】
次に、第1のエアバッグ15を収縮させた後に、第2のエアバッグ16B~16Dを順に膨張させて、オリフラOF周辺を除くワークW全面を部分研磨する(部分研磨1)。部分研磨1では、図11(a)、(b)に示すように、Y軸上において、オリフラOF周辺はほとんど研磨されていない上に、ワークWの中央付近と比べてワークWの中腹から周縁に亘る領域(X<-約25mm且つ約25mm<X、約25mm<Y)の研磨除去量が顕著に多いことが分かる。これにより、部分研磨1後のワークWは、図10(a)、(b)に示すように、オリフラOF周辺を除くワークW全面が研磨され、ワークWの中凹形状が緩和される。また、図12に示すように、ワークW面内での厚みバラつきが、0.25μmまで改善されていることが分かる。
【0057】
なお、本実施例では、部分加圧1の後に、第2のエアバッグ16A~16Dを順に膨張させてワークWをさらに研磨する2段階目の部分加圧(部分研磨2)を行っている。部分研磨2は、通常研磨で生じた中凹形状を改善してワークWを略平坦に形成ものであり、通常研磨の研磨除去量が小さく、通常研磨後のワークWの中凹が浅い場合には省略しても構わない。
【0058】
部分研磨2では、図11(a)、(b)に示すように、ワークWの中央付近と比べてワークWの中腹から周縁に亘る領域(X<-約25mm且つ約25mm<X、Y<-約25mm且つ約25mm<Y)の研磨除去量が顕著に多いことが分かる。これにより、部分研磨2を経たワークWは、図10(a)、(b)に示すように、ワークWの中凹形状がさらに緩和される。また、図12に示すように、ワークW面内での厚みバラつきが、0.2μmまでさらに改善される。
【0059】
このようにして、本実施形態に係るCMP装置1は、研磨ヘッド10に保持されたワークWをプラテン2上の研磨パッド5に押し当てて研磨する研磨装置であって、ワークWを保持可能なチャック19と、チャック19の周方向に沿って並設されて、エアにより膨張してワークWの一部を研磨パッド5に向けて押圧可能な第2のエアバッグ16A~16Dと、第2のエアバッグ16A~16Dに供給されるエアの圧力をそれぞれ調整可能なコントローラ6と、を備えている構成とした。
【0060】
この構成によれば、第2のエアバッグ16A~16Dをそれぞれ膨張・収縮させることにより、ワークWに作用する圧力分布をワークWの周方向において自在に調整可能なため、ワークWの結晶方位や不均一な初期膜厚を考慮してワークWの周方向において圧力分布を対応させることができ、研磨面内において異なる研磨圧力をワークWに作用させることにより、ワークWを精度良く平坦に研磨することができる。
【0061】
また、本実施形態に係るCMP装置1は、チャック19の周方向の全周に亘って設けられ、エアにより膨張してワークW全面を研磨パッド5に向けて押圧する第1のエアバッグ15をさらに備え、第2のエアバッグ16A~16Dは、第1のエアバッグ15内に収容されている構成とした。
【0062】
この構成によれば、第2のエアバッグ16A~16Dが、平面から視て第1のエアバッグ15に重なるように配置されていることにより、第1のエアバッグ15によるワークWの周方向において均一な圧力分布と第2のエアバッグ16A~16DによるワークWの周方向において不均一な圧力分布とを組み合わせて、ワークWに作用する圧力分布を容易に調整することができる。
【0063】
また、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り、上記以外にも種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【0064】
上述した実施形態では、ワークWを周方向において略均一な圧力分布で加圧する第1のエアバッグ15と、ワークWを周方向において均一でない圧力分布で加圧する第2のエアバッグ16A~16Dと、を備えているCMP装置1を例に説明したが、例えば、第2のエアバッグ16A~16Dに代えて、第1のエアバッグ15を複数のエア室に区分し、ワークWを周方向において略均一な圧力分布で加圧する場合には、全てのエア室を膨張させ、ワークWを周方向において均一でない圧力分布で加圧する場合には、少なくとも一つのエア室を膨張させるように構成しても構わない。
【符号の説明】
【0065】
1 :CMP装置
2 :プラテン
3 :(プラテンの)回転軸
4 :モータ
5 :研磨パッド
6 :コントローラ
10 :研磨ヘッド
10a:(研磨ヘッドの)回転軸
11 :ヘッド本体
12 :回転伝達部
13 :ベース部材
14 :プレートホルダ
15 :第1のエアバッグ(全体押圧部)
16、16A~16D:第2のエアバッグ(部分押圧部)
17 :ポーラスチャック
17a:保持面
18 :チャックテーブル
19 :チャック
W :ワーク
図1
図2
図3
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図5
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図10
図11
図12