(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006178
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】母材の補強方法及びそれにより得られる複合体
(51)【国際特許分類】
B32B 7/022 20190101AFI20230111BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
B32B7/022
E04G23/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021108641
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】西野 晶拡
(72)【発明者】
【氏名】杉山 哲也
【テーマコード(参考)】
2E176
4F100
【Fターム(参考)】
2E176AA00
2E176BB29
4F100AB03C
4F100AT00A
4F100AT00C
4F100AT00E
4F100BA05
4F100BA10A
4F100BA10E
4F100CB00B
4F100CB00D
4F100DA11C
4F100DH02A
4F100DH02E
4F100GB07
4F100GB31
4F100GB32
4F100JK07A
4F100JK07B
4F100JK07C
4F100JK07D
4F100JK07E
(57)【要約】 (修正有)
【課題】母材の両側に補強材を接着剤にて接着することによる、耐剥離性と剛性とが両立し、コストや作業性の点でも有利であり、しかも、軽量化を実現することができる、母材の補強方法及び複合体を提供する。
【解決手段】複合体の厚み中心線を挟んで母材の両側に補強材が接着され、かつ、下記式(1)及び(2)を満足する母材の補強方法。
E
1とt
1は、補強材の弾性係数と厚みを表し、E
2と2t
2は、母材の弾性係数と厚みを表し、Gとhは、接着剤からなる接着層のせん断弾性係数と厚みを表し、lは、母材と補強材との接着半長を表す。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材の表面に補強材を接着剤にて接着して複合体にする母材の補強方法であって、
得られる複合体の長手方向の断面で見た場合に、複合体の厚み中心線を挟んで両側に補強材が接着され、かつ、下記式(1)及び(2)を満足することを特徴とする、母材の補強方法。
【数1】
E
1とt
1は、補強材の弾性係数と厚みを表す。
E
2と2t
2は、母材の弾性係数と厚みを表す。
Gとhは、接着剤からなる接着層のせん断弾性係数と厚みを表す。
lは、母材と補強材との接着半長を表す。
【請求項2】
前記複合体は、板状母材の表裏両面に補強材が接着されたものであり、該板状母材の長手方向の断面における厚み中心線を挟んでその両側に補強材が接着される、請求項1に記載の母材の補強方法。
【請求項3】
前記複合体は、中空部を有する断面箱型形状の中空柱状母材の内壁面又は外壁面に補強材が接着されたものであり、該中空柱状母材の長手方向の断面における厚み中心線を挟んでその両側に補強材が接着される、請求項1に記載の母材の補強方法。
【請求項4】
前記補強材が繊維強化複合材料からなる、請求項1~3のいずれかに記載の母材の補強方法。
【請求項5】
前記母材が鋼材からなる、請求項1~4のいずれかに記載の母材の補強方法。
【請求項6】
母材の表面に補強材が接着剤にて接着された複合体であって、
該複合体の長手方向の断面で見た場合に、複合体の厚み中心線を挟んで両側に補強材が接着されており、かつ、下記式(1)及び(2)を満足することを特徴とする、母材に補強材が接着されてなる複合体。
【数2】
E
1とt
1は、補強材の弾性係数と厚みを表す。
E
2と2t
2は、母材の弾性係数と厚みを表す。
Gとhは、接着剤からなる接着層のせん断弾性係数と厚みを表す。
lは、母材と補強材との接着半長を表す。
【請求項7】
前記複合体は、板状母材の表裏両面に補強材が接着されたものであり、該板状母材の長手方向の断面における厚み中心線を挟んでその両側に補強材が接着される、請求項6に記載の母材に補強材が接着されてなる複合体。
【請求項8】
前記複合体は、中空部を有する断面箱型形状の中空柱状母材の内壁面又は外壁面に補強材が接着されたものであり、該中空柱状母材の長手方向の断面における厚み中心線を挟んでその両側に補強材が接着される、請求項6に記載の母材に補強材が接着されてなる複合体。
【請求項9】
前記補強材が繊維強化複合材料からなる、請求項6~8のいずれかに記載の母材に補強材が接着されてなる複合体。
【請求項10】
前記母材が鋼材からなる、請求項6~9のいずれかに記載の母材に補強材が接着されてなる複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、母材の補強方法及びそれにより得られる複合体に関し、詳しくは、特に制限されるものではないが、橋梁、建築物等の建設構造物や自動車、船舶等の輸送機といった構造物を補修補強(本明細書では単に「補強」という。)するような場合であったり、また、例えば、鋼材に補強材を接着して軽量化を図りながら剛性を担保して車両製造等に利用可能な複合体を得ることができる母材の補強方法、及び、それにより得られた母材に補強材が接着されてなる複合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木製の建設材で造られた構造物はもとより、鉄鋼やコンクリート等を利用した構造物であっても、それらは腐食や塩害、荷重等の様々な原因で年数の経過と共に強度が低下し、亀裂や歪みを生じてしまう。場合によっては破壊や崩壊を招いてしまうことがある。
【0003】
これらを防ぐために、高力ボルトや添接板等を用いて建設材を拘束する方法や溶接により補修する方法等を採用することができるが、近年、繊維強化複合材料等からなる補強材を接着剤で接着して補強する方法が注目されている(例えば特許文献1、2参照)。
【0004】
構造物を構成する母材の表面に補強材を接着剤にて接着する補強方法では、添接板として重量のある補強鋼板を使用する必要がなく、また、ボルト孔を設けるなどの特殊な加工も不要であることから、比較的短時間で作業を進めることができる。また、溶接のように鋼材からなる構造物にその対象が制限されるといったこともない。
【0005】
このような補強材を接着する補強方法では、接着剤として、熱に強く耐水性にも優れるエポキシ樹脂が主に使用される。しかも、エポキシ樹脂接着剤は、一般に高強度、高剛性であるため、補強材による補剛効果を十分に発現せしめることができる。
【0006】
ところが、このようなエポキシ樹脂を用いたり、接着剤による接着層の厚みを薄くしたような、いわゆる「剛」の接着では、剛性変化部で剥離が生じやすい。それを防ぐために、エポキシ樹脂よりも柔らかい接着剤を用いたり、接着層の厚みを大きくして、いわゆる「柔」の接着により耐剥離性を向上させることも考えられるが、それでは補強材による補剛効率が十分に得られなくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】再公表2006-088184号公報
【特許文献2】特開2009-119607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
繊維強化複合材料等の補強材を母材の表面に接着剤で接着する補強方法は、ボルトや添接板等を用いずに構造物を補強することができる。そのため、補強材による補剛効率が高ければ、補強のために使用する材料を必要最小限に抑えることができて、コストや作業性の点で有利である。また、補強材による補剛効率は、構造物を補強するにあたって、その軽量化を図る上でも極めて重要になる。
【0009】
ところが、上述したように、補強材による補剛効率を高めるために、いわゆる「剛」の接着を用いると、補強材と母材との接着端部での応力集中により剥離が生じやすくなってしまう。これを解消するために、いわゆる「柔」の接着を用いると、今度は補剛効率が下がってしまい、これらはトレードオフの関係にある。
【0010】
そこで、本発明者らは、母材の表面に接着剤にて補強材を接着する母材の補強方法において、母材と補強材との耐剥離性能や剛性発現に寄与する要因についての詳細な検討を行った。その結果、母材の表面に補強材を接着して複合体を得るにあたり、所定の式で表されるパラメータに基づくことで、耐剥離性と剛性とが両立された補強構造が実現されることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
したがって、本発明の目的は、母材の表面に補強材を接着剤にて接着して複合体にする母材の補強方法において、耐剥離性と剛性とが両立されて、コストや作業性の点でも有利であり、しかも、軽量化を実現することができる母材の補強方法を提供することにある。
【0012】
また、本発明の別の目的は、耐剥離性と剛性とが両立されて、しかも軽量化が実現できる母材に補強材が接着されてなる複合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
〔1〕母材の表面に補強材を接着剤にて接着して複合体にする母材の補強方法であって、
得られる複合体の長手方向の断面で見た場合に、複合体の厚み中心線を挟んで両側に補強材が接着され、かつ、下記式(1)及び(2)を満足することを特徴とする、母材の補強方法。
【数1】
E
1とt
1は、補強材の弾性係数と厚みを表す。
E
2と2t
2は、母材の弾性係数と厚みを表す。
Gとhは、接着剤からなる接着層のせん断弾性係数と厚みを表す。
lは、母材と補強材との接着半長を表す。
〔2〕前記複合体は、板状母材の表裏両面に補強材が接着されたものであり、該板状母材の長手方向の断面における厚み中心線を挟んでその両側に補強材が接着される、〔1〕に記載の母材の補強方法。
〔3〕前記複合体は、中空部を有する断面箱型形状の中空柱状母材の内壁面又は外壁面に補強材が接着されたものであり、該中空柱状母材の長手方向の断面における厚み中心線を挟んでその両側に補強材が接着される、〔1〕に記載の母材の補強方法。
〔4〕前記補強材が繊維強化複合材料からなる、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の母材の補強方法。
〔5〕前記母材が鋼材からなる、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の母材の補強方法。
〔6〕母材の表面に補強材が接着剤にて接着された複合体であって、
該複合体の長手方向の断面で見た場合に、複合体の厚み中心線を挟んで両側に補強材が接着されており、かつ、下記式(1)及び(2)を満足することを特徴とする、母材に補強材が接着されてなる複合体。
【数2】
E
1とt
1は、補強材の弾性係数と厚みを表す。
E
2と2t
2は、母材の弾性係数と厚みを表す。
Gとhは、接着剤からなる接着層のせん断弾性係数と厚みを表す。
lは、母材と補強材との接着半長を表す。
〔7〕前記複合体は、板状母材の表裏両面に補強材が接着されたものであり、該板状母材の長手方向の断面における厚み中心線を挟んでその両側に補強材が接着される、〔6〕に記載の母材に補強材が接着されてなる複合体。
〔8〕前記複合体は、中空部を有する断面箱型形状の中空柱状母材の内壁面又は外壁面に補強材が接着されたものであり、該中空柱状母材の長手方向の断面における厚み中心線を挟んでその両側に補強材が接着される、〔6〕に記載の母材に補強材が接着されてなる複合体。
〔9〕前記補強材が繊維強化複合材料からなる、〔6〕~〔8〕のいずれかに記載の母材に補強材が接着されてなる複合体。
〔10〕前記母材が鋼材からなる、〔6〕~〔9〕のいずれかに記載の母材に補強材が接着されてなる複合体。
【発明の効果】
【0014】
本発明の補強方法を用いて母材を補強することで、耐剥離性と剛性とが両立された補強構造を実現することができる。そのため、補剛効率を高めながら、補強のために使用する材料を必要最小限に抑えることができて、コストや作業性の点で有利であり、しかも、それにより得られる複合体の軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の補強方法により、板状母材に補強材を接着した複合体の一例を示すものであり、(a)はその長手方向を断面で示した断面(縦断面)説明図であり、(b)は切断線A-Aに沿った断面(横断面)説明図である。
【
図2】
図2は、
図1の複合体が長手方向に引張荷重2Pを受けた場合のせん断応力τについて、接着長2lにおける位置xとの関係で示したものである。
【
図3】
図3は、剛性発現率ξを求めるにあたっての考え方を示した模式説明図である。
【
図4】
図4は、clと応力集中係数αとの関係、及び、clと剛性発現率ξとの関係をそれぞれグラフにしたものである。
【
図5】
図5は、本発明の補強方法により、角パイプ形状をした中空柱状母材に補強材を接着した複合体の一例を示すものであって、(a)は中空柱状母材の斜視説明図であり、(b)は得られた複合体の横断面(中空柱状母材の切断線B-Bに沿った場合の断面)説明図である。
【
図6】
図6は、本発明の補強方法により、ハット型形状をした母材に板状母材を接着してなる中空柱状母材に補強材を接着した複合体の一例を示すものであって、(a)は中空柱状母材の斜視説明図であり、(b)は得られた複合体の横断面(中空柱状母材の切断線C-Cに沿った場合の断面)説明図である。
【
図7】
図7は、複合体の厚み中心線Hと複合体の剛性中心線H’との関係を示す説明図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施例で作製した試験複合体を説明するための模式図であって、(a)は斜視説明図であり、(b)は縦断面説明図である。
【
図9】
図9は、本発明により理想的な補強方法を実現するための関係式〔式(1)及び(2)〕からなる領域と、実験例での各試験複合体の結果をプロットしたグラフである。
【
図10】
図10は、Shear lag理論を説明するための従来例であって、2つの被着体を接着剤で接着して接着層を有した継手部を示す断面(縦断面)説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明は、母材の表面に補強材を接着剤にて接着して複合体にする母材の補強方法であって、得られる複合体の長手方向の断面で見た場合に、複合体の厚み中心線を挟んで両側に補強材が接着され、かつ、下記式(1)及び(2)を満足することを特徴とする。
【数3】
E
1とt
1は、補強材の弾性係数と厚みを表す。
E
2と2t
2は、母材の弾性係数と厚みを表す。
Gとhは、接着剤からなる接着層のせん断弾性係数と厚みを表す。
lは、母材と補強材との接着半長を表す。
【0017】
本発明の補強方法では、上記の式(1)及び(2)に基づくことで、耐剥離性と剛性とが両立した補強構造が実現可能になる。このうち、式(2)におけるcはShear lag理論に登場する微分方程式でも用いられるものであり、例えば、下記の式で言えばωで表されるものである。
【数4】
(式中のE’
1とt’
1は、ダブルラップ構造における上部の被着体と下部の被着体のいずれか一方の弾性係数と厚みを表し、E’
2とt’
2は、残りの被着体の弾性係数と厚みを表す。また、G’とh’は、ダブルラップ構造において接着剤からなる接着層のせん断弾性係数と厚みを表す。)
【0018】
すなわち、Shear lag理論は、例えば、
図10に示した重ね合わせ継手のように、伸び変形のみ生じることを仮定した2つの被着体31を接着剤で接着して接着層12を有する継手部を形成した場合に、上下の被着体31と接着層12とをいずれも弾性体として見なして、これらの被着体31のx軸方向に引張荷重Pを掛けて互いに引っ張ると、接着層12中に均一なせん断応力の生じない、いわゆる“せん断遅れ”が発生するというものである。そして、この“せん断遅れ”が起こると、接着層12の端部にせん断応力が集中して剥離が生じると考えられる。
【0019】
Shear lag理論は、接着剤で異種材料を接着した際のせん断応力分布を扱った理論である。そのため、本発明では、上述した式(2)中のcのように、母材や補強材、接着剤からなる接着層の厚みや弾性係数等を材料パラメータとして利用するが、
図10に示したような被着体の継手とは違い、本発明の補強方法は、母材の表面に補強材を接着して複合体にする、母材と補強材の連続構造に係るものである。
【0020】
図1には、本発明における母材の補強方法によって得られた複合体の一例が示されている。この複合体は、板状の母材である板状母材1の表裏両面に接着剤からなる接着層2により補強材3が接着されたものである。そして、
図2には、
図1の複合体がその長手方向(x軸方向)に引張荷重2Pを受けた場合のせん断応力τが、母材と補強材との接着長2lにおける位置xとの関係で示されている。この
図2では、先に述べたShear lag理論のせん断応力分布をもとにするが、複合体の長手方向での接着中央部(x=0)でせん断応力τが最小値となり、この接着中央部を中心にせん断応力分布は左右対称となって、接着両端でせん断応力τ(接着端部応力τ
x=±l)が最も高くなると考えられる。なお、
図2中に示す平均せん断応力は、位置x=-l~lでの応力の平均値を表す。また、
図1(a)に示したように、この複合体では、母材の厚み中心線Mを挟んで両側に対称となるように補強材が接着されていることから、引張荷重は2Pとしている。
【0021】
そこで、本発明では、母材と補強材との剛性比rを上記式(4)で表すとして、上記式(3)で表される材料パラメータcに対して母材と補強材との接着半長lを乗じたclが十分に大きいと仮定して、先の
図1に示したような連続構造の複合体での接着端部応力τ
x=±l(MPa)、接着層の端部応力の集中係数α、及び、剛性発現率ξについて、Shear lag理論に基づいて導き出すと、下記の表1で示した式で表すことができる。なお、表1中には先述の材料パラメータc、剛性比rも併せて示している。
【表1】
【0022】
これらの式を求めるにあたり、
図1に示したような両面接着構造では、その引張における0≦x≦lの範囲での接着層に働くせん断応力の分布は、下記(8)のように表されることが知られている。
【数5】
ここで、双曲線関数においては、clが十分に大きくなるとsinh(cl)とcosh(cl)の値はほとんど等しくなる。言い換えればtanh(cl)≒1とみなすことができる。
【0023】
そこで、表1に示した接着端部応力の式はx=lであることから、上記の式(8)にこれを大入し、また、clが十分に大きくなるとすれば、接着端部応力τ
x=lは下記のように表すことができる。なお、先の
図2に示したように、接着端部応力は両端で等しくなる(τ
x=-l=τ
x=+l)。
【数6】
【0024】
また、接着層端部の応力集中係数α(以下、単に応力集中係数αという)とは、先の
図2で示したような接着長での平均せん断応力に対する接着端部応力τ
x=-l,+lの割合(接着端部応力/平均せん断応力)を表すものである。つまり、先のτ(l)を平均せん断応力τ
aveで割ったものが応力集中係数αであり、平均せん断応力τ
aveは引張力Pを接着面積で割ったP/lで求まることから、この応力集中係数αは下記のように表すことができる。
【数7】
【0025】
更に、剛性発現率ξとは、
図3に模式図を示したように、母材に補強材を接着した複合体に対して引張荷重を掛けたときの接着層端部の変位について、接着層が無い状態で母材と補強材の完全合成断面を仮定した場合での変位を比較したものである。つまり、複数材料からなる部材のすべての断面が引張や曲げの力に対して有効であるとして、母材と補強材との間でのずれ変形が無く、完全に一体化している状態(概念上の理想状態)が完全合成断面である。そして、剛性発現率ξは、「複合体の剛性(i)/完全合成断面を仮定した場合の複合体の剛性(ii)」から求められる。
【0026】
ここで、剛性発現率ξ%を表1に記した式(7)で表すにあたり、上記「複合体の剛性(i)」に関して、母材の接着長に生じる引張応力は、下記のとおりになる。
【数8】
これを母材の弾性率で除することで母材のxの位置でのひずみが計算でき、更にそのひずみを長さ方向の全接着範囲について積分すると、母材の接着長での平均ひずみや伸び量が計算できる。その際、clが十分に大きくなるとすれば、複合体の平均ひずみは母材の接着長での平均ひずみと同じ意味となり、複合体の見かけの弾性率は「引張力2P/複合体の断面積2t
1+2t
2/複合体の平均ひずみ」として計算でき、これに複合体の断面積を乗じれば複合体の剛性(i)となる。また、「完全合成断面を仮定した場合の複合体の剛性(ii)」については、「補強材の剛性+母材の剛性」から求めることができる。
【0027】
そして、このclと耐剥離性能の指標になる応力集中係数αとの関係、及び、clと剛性の指標になる剛性発現率ξとの関係をグラフにしたものが
図4である。
図4中、近似曲線で表されるものがclと剛性発現率ξとの関係を示すグラフである。また、近似直線で表されるものがclと応力集中係数αとの関係を示すグラフである。いずれも横軸にclをとり、左縦軸は剛性発現率ξの値を示し、右縦軸は応力集中係数αである。また、これらのグラフでは、それぞれ母材と補強材との剛性比をr=0.25、0.5、1、2、4としている。
【0028】
本発明では、接着層端部での剥離を防ぎつつ、複合体としての剛性をできるだけ高くしたいことから、耐剥離性能の指標になる応力集中係数αと剛性の指標になる剛性発現率ξについて、以下のとおりに条件設定した。すなわち、剛性発現率ξについては、一般に、接着構造において、接着剤の剛性が母材に対して低いため、補強材の剛性が完全に発現することはなく、剛性発現率ξが50%以上であれば十分な剛性が担保されると言うことができる。また、応力集中係数αについては10以下であれば耐剥離性能を満たすと言える。ちなみに、エポキシ樹脂を接着剤として用いた、いわゆる「剛」の接着をなすような場合、応力集中係数αが10以下を達成するのは一般に困難である。
【0029】
そこで、本発明における母材の補強方法での理想的な状態を剛性発現率ξが50%以上であり、かつ、応力集中係数αが10以下であるとして、
図4に示した各グラフの式を解くと(rとclは共に0以上である)、下記i)及びii)のとおりになる。つまり、上記のような理想的な状態を得るためにはiii)の条件を満たす必要がある。
【数9】
【0030】
ここで、本発明における母材の補強方法において使用される母材と補強材の種類やそれらの厚み等を考慮すれば、剛性比rは9以下であるのが現実的である。そのため、接着層端部での剥離を防ぎつつ、複合体としての剛性をできるだけ高くできるような理想的な補強方法を実現するにはr≦9であり、かつ、r≦cl≦(10/r)+10、すなわち本発明における式(1)及び(2)を満たすようにすればよい。なお、後述する実施例では、この式(1)及び(2)からなる領域をグラフで図示している(
図8)。
【0031】
本発明において、補強対象となる母材については特に制限されず、補強を必要とするあらゆる構造物に使用されるものであって、例えば、鋼材、アルミ材(アルミ合金材を含む、以下同様)、チタン材(チタン合金)、マグネシウム(マグネシウム合金)等が挙げられるが、なかでも好適には鋼材である。
【0032】
鋼材の材質としては、鉄と、ステンレス鋼を含む鉄系合金等が挙げられるが、鉄鋼材料、及び、鉄系合金であることが好ましく、他の金属種に比べて弾性率が高い鉄鋼材料であることがより好ましい。そのような鉄鋼材料としては、例えば、自動車に用いられる薄板状の鋼板として日本産業規格(JIS)等で規格された一般用、絞り用あるいは超深絞り用の冷間圧延鋼板、自動車用加工性冷間圧延高張力鋼板、一般用や加工用の熱間圧延鋼板、自動車構造用熱間圧延鋼板、自動車用加工性熱間圧延高張力鋼板をはじめとする鉄鋼材料があり、一般構造用や機械構造用として使用される炭素鋼、合金鋼、高張力鋼等も挙げることができる。このような鉄鋼材料の成分は特に限定されないが、Fe、Cに加え、Si、Mn、S、P、Al、N、Cr、Mo、Ni、Cu、Ca、Mg、Ce、Hf、La、Zr、Sbのうち1種又は2種以上を含有してもよい。これら添加元素は、求める材料強度及び成形性を得るために適宜1種又は2種以上を選定し、含有量も適宜調整することができる。
【0033】
なお、上記のような各種の鉄鋼材料は、590MPa以上の引張強度を有することが好ましく、980MPa以上の引張強度を有することがより好ましい。
【0034】
また、鉄鋼材料には、任意の表面処理が施されていてもよい。ここで、表面処理とは、例えば、亜鉛めっき及びアルミニウムめっきなどの各種めっき処理、クロメート処理及びノンクロメート処理などの化成処理、並びに、サンドブラストのような物理的もしくはケミカルエッチングのような化学的な表面粗化処理が挙げられるが、これらに限られるものではない。また、めっきの合金化や複数種の表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、少なくとも防錆性の付与を目的とした処理が行われていることが好ましい。
【0035】
鉄鋼材料に施すめっきの種類は特に限定されず、例えば亜鉛系めっき等のような公知の各種のめっきを用いることができる。例えば、めっき鋼板(鋼材)として、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、Zn-Al-Mg系合金めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、電気Zn-Ni系合金めっき鋼板等が用いられ得る。
【0036】
また、補強を必要とする構造物としても特に制限はなく、自動車や電車、船舶、飛行機等の運輸・輸送機器のほか、ドローン等の無人航空機、液晶ディスプレイ等の製造工場における産業用ロボット部材等を始めとする一般産業分野の構造物、河川、道路、鉄道等の橋梁をはじめ、ビル、家屋、畜舎等の建築物や、標識等の建設物といった建設構造物、その他の各種構造物及び構造体を例示することができる。なお、母材の厚みについては特に制限されるものではないが、例えば、これらの構造物を構成する鋼材の例で言えば、一般には0.8~9mmの範囲内である。
【0037】
また、補強材についても特に制限されないが、ガラス繊維や炭素繊維などの強化繊維を使用した織物、編物又は不織布、繊維を一方向に引き揃えた一方向材料(UD材)に樹脂を含浸硬化させたものや、前記強化繊維の短繊維を樹脂中に分散させて得た、繊維強化複合材料(Fiber Reinforced Plastics:FRP)であることが好ましい。
【0038】
FRPに用いられる繊維材料(強化繊維材料)は、ガラス繊維や炭素繊維、アラミド繊維、バサルト繊維、セラミック繊維などが挙げられるが、本発明においてはガラス繊維や炭素繊維が好ましく、炭素繊維が特に好ましく使用される。
【0039】
また、FRP補強材は板状であることが好ましく、製造に際しては積層したFRP成形用プリプレグを加熱加圧成形する方法(オートクレーブ法、熱プレス法)や、金型内に配置した強化繊維基材に液状樹脂を注入し、含浸・効果する方法(RTM法)、連続繊維に樹脂を含浸させて金型に引き込んで加熱硬化する方法(引抜成形法)、強化繊維の短繊維を含む樹脂材料を溶融して金型に射出して成型する方法(射出成型法)などの一般公知の方法を特に制限なく利用することができる。なお、補強材の幅については、補強材の種類や得られる複合体の用途、補強の目的等に応じて変わるため一概に特定するのは難しいが、一般的には、複合体の長手方向に垂直の断面で見た場合の幅が10~300mm程度である。また、補強材の厚みについても同様に、その種類や補強の目的等によって変わるが、例えば、上記のような繊維強化複合材料からなる場合、一般的には1~20mmの範囲内である。
【0040】
また、補強材を形成する樹脂(マトリックス樹脂)としては特に限定はなく、エポキシ樹脂やビニルエステル樹脂などの熱硬化性樹脂や、ナイロンやポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、フェノキシ樹脂などの熱可塑性樹脂のいずれもであってもよい。
【0041】
更に、本発明で用いる接着剤についても特に制限はなく、一般に採用されるような熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を用いることができる。例えば、熱硬化性樹脂としては、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂等が好適に使用され、一方、熱可塑性樹脂としては、熱可塑性ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、エチレン酢酸ビニル等が好適に使用可能である。なお、接着剤として用いる樹脂は、補強材として使用する繊維強化複合材料に用いられる樹脂と同じにしてもよく、互いに異なる樹脂を用いるようにしてもよい。また、これらの接着剤により形成される接着層の厚みについては、一般に0.1~5mmの範囲内である。
【0042】
本発明における母材の補強方法では、得られる複合体の長手方向の断面で見た場合に、複合体の厚み中心線を挟んで両側に補強材が接着されるようにする。これは、片側だけに補強材が接着された場合には、引張荷重を掛けた場合に複合体における曲げの影響を無視することができなくなるためである。母材と補強材とが同程度の弾性係数を有して、かつ、互いに厚みも同程度の場合には、母材の片側に補強材が接着された複合体にしても本発明の考え方を適用することができるが、母材とは異なる材料の補強材を用いて軽量化を図りつつ、母材を補強するといった考え方においてこれは現実的ではない。そのため、本発明では、母材に引張を加えた際に発生する偏心曲げの影響を考慮して、複合体の長手方向に対して垂直な断面(横断面)で見た場合の複合体の厚み中心線を挟んで、その両側に補強材が接着されるようにして母材を補強する場合に特定している。
【0043】
このような補強の形態として、先ず、先の
図1に示したような、板状母材の表裏両面に補強材が接着される場合が挙げられる。つまり、この例では、
図1(b)のとおり、板状母材1の長手方向の断面における厚み中心線Mを挟んで、その両側に補強材3が接着層2を介して接着される。
【0044】
これ以外にも、中空部を有する断面箱型形状の中空柱状母材に対して、その内壁面又は外壁面に補強材を接着するような形態も挙げられる。例えば、
図5では、
図5(a)に示したように、角パイプの形状をして中空部4を有する断面箱型形状の中空柱状母材11に対して、
図5(b)で示した断面(横断面)のように、対向する内壁面にそれぞれ接着層2を介して補強材3が接着される。つまり、角パイプの形状をした中空柱状母材11の横断面における厚み中心線Mを挟んでその両側に補強材3が接着される。その際、内壁面ではなく、中空柱状母材11の外壁面に接着層2を介して補強材3を接着するようにしてもよい。
【0045】
また、
図6の例では、
図6(a)に示したように、ハット型形状をした母材21aに板状母材21bを接着して中空部4を有する中空柱状母材21に対して、
図6(b)で示した断面(横断面)のように、対向する内壁面にそれぞれ接着層2を介して補強材3が接着される。つまり、ハット型形状母材21aに板状母材21bが貼り合わされてなる中空柱状母材21の横断面における厚み中心線Mを挟んでその両側に補強材3が接着される。この場合においても、補強材3はハット型形状母材21aと板状母材21bの外壁面にそれぞれ接着されるようにしてもよい。
【0046】
なお、本発明では、先の
図5やこの
図6の例のように、補強材の幅が母材の幅と一致しない場合も含まれるが、すなわち、
図5(b)で示される補強材3の幅と母材1の幅とが一致せず、或いは、
図6(b)で示される補強材3の幅と母材21a又は21bの幅とが一致しないような場合での補強方法もその対象として含まれるが、このような場合には、母材に補強材が接着された接着領域において本発明が作用する。
【0047】
本発明においては、上述したように、母材に引張を加えた際に発生する偏心曲げの影響を考慮して、複合体の長手方向の断面で見た場合の厚み中心線を挟んで、その両側に補強材が接着されるようにして母材を補強するが、複合体に曲げモーメントが加わったとしても応力分布への影響を実質的に無視することができるようにする観点から、好ましくは、比H’/Hの百分率が2%以内になるようにするのがよい。ここで、H’は母材の重心高さ(重心位置)と複合体の剛性の中心線との距離を表す偏心距離であり、Hは複合体全体の厚みを表す。
【0048】
先の
図1の例において、板状母材1の表裏両面における接着層2の厚みと補強材3の厚みとがいずれも同じであり、かつその材質も同じであってせん断弾性係数や弾性係数が同一であれば、板状母材1の重心高さと複合体の剛性中心線とは一致して、比H’/Hの百分率は0%である。一方で、例えば、
図7に示したように、先の
図6に示した中空柱状母材21を用いる例において、
図6(b)とは違い、ハット型形状母材21aの外壁面側に接着層2を介して補強材3を接着する場合には、
図6における中空柱状母材21の重心高さと複合体の剛性中心線との距離である偏心距離H’と、複合体の高さHとの比H’/Hの百分率〔(H’/H)×100〕が2%以内であれば、複合体に曲げモーメントが加わったとしても応力分布への影響を実質的に無視することができて、本発明を確実に適用することができる。同様に、先の
図1の例において、板状母材1の表裏両面における補強材3の材質や厚みが異なる場合でも、この比H’/Hの百分率が2%以内であれば、本発明を確実に適用することができる。
【0049】
本発明における母材の補強方法は、上述したように、自動車や電車、航空機などの運輸・輸送機器の補強や、産業用ロボットやドローン等のような一般産業分野構造物における構造部材の補強をはじめ、橋梁、建築物、建設物等のような建設構造物の補強のように、各種構造物に使用される鉄鋼やアルミなどの軽金属等の母材を補強する場合に適用することができるほか、母材に補強材を接着して、軽量化を図りながら剛性を担保して複合体を得るような場合にも適用することができる。すなわち、例えば、鋼材に補強材を接着して、電車や自動車等の車両製造等に利用可能な複合体を得ることや、産業用ロボットのアームやドローンの構造部材に利用可能な複合体を得るような場合にも好適に利用することができる。
【実施例0050】
本発明に係る母材の補強方法の作用効果を実証するために、以下の実験例を行った。なお、本発明はこれらの内容に制限されるものではない。
【0051】
(実施例1)
母材、補強材、及び接着剤を用いて、試験複合体を作製した。この試験複合体は、
図1に示したように、厚さ2t
2=1.6mm、幅w=25mm、長さL=250mmの板状母材1の表裏面(上下面)に対して、それぞれ厚さt
1=0.4mm、幅w=25mm、長さ2l=160mmの補強材3が厚みh=0.2mmの接着層2を介して接着されたものである。なお、
図8(a)には、実施例1に係る試験複合体の斜視図が示されており、
図8(b-2)はその縦断面図を示す。
【0052】
この試験複合体を形成する部材のうち、板状母材1としては、弾性係数E2=206000MPaの高張力鋼板を使用した。また、補強材3としては、エポキシ樹脂をマトリックスとする弾性係数E1=411000MPaのピッチ系一方向強化CFRP(ピッチ系CFRP-1)を使用した。このCFRPの炭素繊維はピッチ系炭素繊維(日本グラファイトファイバー社製XN-80)である。更に、接着剤としては、せん断弾性係数G=20MPaのポリウレア系接着剤(日鉄ケミカル&マテリアル社製ポリウレア系接着剤FU-Z)を使用した(表2では単にポリウレア系と表記する)。
【0053】
試験複合体を得るにあたっては、板状母材1及び補強材3の各接着面を#120のサンドペーパーで研磨し、脱脂してから、板状母材1の表裏両面にそれぞれ接着剤にて補強材3を接着して、室温20℃の恒温状態で硬化を確実に進めるために7日養生した。先に記した試験複合体の各寸法と弾性係数、せん断弾性係数は、いずれも養生後のものである。これらの値について表2にまとめて示している。
【0054】
【0055】
上記のようにして得られた試験複合体について、先に記した式(4)に基づき母材と補強材との剛性比rを求めると共に、式(3)の材料パラメータcを用いてclを求めた。また、以下に記した方法により試験複合体の評価を行った。これらについて表3にまとめて示す。また、
図9には、前述した理想的な補強方法を実現するための関係式〔式(1)及び(2)〕からなる領域が破線で囲まれるようにして図示されており、本実施例に係る試験複合体が該当する箇所をプロット(実1の●)で示している。
【0056】
[鋼材弾性域での剥離評価]
上記で得られた試験複合体に対する引張試験を万能試験機(インストロン社製5985型万能材料試験機)を用いて変位制御により試験速度2mm/minの条件にて行い、同様の方法にて行った板状母材1として用いた鋼材単体の引張試験での鋼材の降伏強度(299MPa)と比較することで評価を行った。
すなわち、鋼材単独での降伏強度を基準として試験複合体の接着層2の剥離強度が高ければ「剥離あり」と判断し、接着層2の剥離強度が低ければ「剥離なし」と判断した。
【0057】
[剛性発現率ξ]
前述したように、剛性発現率ξ(%)は「複合体の剛性(i)/完全合成断面を仮定した場合の複合体の剛性(ii)」から求められるところ、本実施例ではFEM解析(シミュレーション)により評価した。
すなわち、解析ソフトウェアとしてエムエスシーソフトウェア社Marcを使用し、本実施例に係る母材、補強材及び接着剤と同じ材料で、同じ形状からなる試験複合体をモデル化し、x軸方向(長手方向)に引張荷重を与えて、(ii)接着層無しで母材と補強材とを一体化した場合(完全合成)の複合体剛性と、(i)本実施例の試験複合体での複合体剛性とを求めて、(i)の数値を(ii)の数値で除することで剛性発現率ξ(%)を算出した。
【0058】
【0059】
(実施例2~4、比較例1~3)
使用する部材のうち補強材と接着剤を表2に示したものに変更し、また、各部材の寸法や厚みを表2に示したように変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2~4及び比較例1~3に係る試験複合体を得た。ここで、表2で示した補強材におけるPAN系CFRPは、エポキシ樹脂をマトリックスとする弾性係数E
1=135000MPaのPAN系一方向強化CFRPであって、このCFRPの炭素繊維はPAN系炭素繊維(三菱ケミカル社製TR50S)である。また、ピッチ系CFRP-2は、エポキシ樹脂をマトリックスとする弾性係数E
1=137000MPaのピッチ系疑似等方強化CFRP([(0/45/90/-45)s]3)であって、このCFRPの炭素繊維はピッチ系炭素繊維(日本グラファイトファイバー社製XN-80)である。一方、接着剤については、実施例1で使用したポリウレア系接着剤の他に、せん断弾性係数G=1154MPaのビスフェノールA系エポキシ樹脂接着剤(ナガセケムテックス社製AW136N/HY994)を使用した(表2では単にエポキシ系と表記する)。なお、
図8(a)は、実施例2~4、比較例1~3の試験複合体の斜視図である。
図8(b-1)は、実施例2の試験複合体の縦断面図であり、
図8(b-2)はその他の実施例、比較例の試験複合体の縦断面図に相当する。
【0060】
得られた試験複合体について、実施例1と同様にして評価した。結果を表3及び
図9に示す。なお、
図9のプロットでは、各実施例、比較例ごとに該当する試験複合体の位置をプロットしているが、その際、上記剥離評価の結果が剥離なしの場合には●で示し、剥離ありの場合には×で示している。
【0061】
上記結果から分かるように、比較例1~3に係る試験複合体は、少なくとも先の剥離評価で剥離が認められるか、又は剛性発現率ξが50%に達しないものであり、これらの試験複合体は
図9に示されるとおり、本発明の式(1)及び(2)からなる領域から外れるものであった。それに対して、実施例1~4に係る試験複合体は、剥離評価で剥離は認められず、剛性発現率ξも50%以上を示す(60%以上を示す)ものであり、これらはいずれも本発明の式(1)及び(2)からなる領域に含まれていた。
【0062】
したがって、本発明によれば、耐剥離性と剛性とが両立された補強構造を実現することができる。しかも、補剛効率を高めながら、補強のために使用する材料を必要最小限に抑えることができ、コストや作業性の点でも有利であり、それによって得られる複合体の軽量化も図られることになる。