(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061813
(43)【公開日】2023-05-02
(54)【発明の名称】試料採取方法及び試料採取システム
(51)【国際特許分類】
G01N 1/08 20060101AFI20230425BHJP
G01N 1/22 20060101ALI20230425BHJP
E21B 49/02 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
G01N1/08 C
G01N1/22 U
E21B49/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021171980
(22)【出願日】2021-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永瀬 睦
(72)【発明者】
【氏名】谷川 直樹
(72)【発明者】
【氏名】堀田 任晃
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AA19
2G052AB04
2G052AC07
2G052AD12
2G052AD32
2G052AD42
2G052BA02
2G052BA29
2G052CA02
2G052CA03
2G052CA43
2G052EA03
2G052EB01
2G052EB11
2G052GA11
2G052HA12
2G052HA17
(57)【要約】
【課題】試料採取のための土壌の掘削に用いられる装置の大型化を抑制しつつ、簡易な構成によって予定の深さにおける試料採取を行う。
【解決手段】試料採取方法が、土壌を地表69から仮掘削することにより、地表69から所定の深さに設定されたサンプリング深さよりも浅い第1の深さに達する第1の掘削穴70を形成するステップと、第1の掘削穴70内を掘削することにより、第1の掘削穴70よりも狭い開口を有し、かつサンプリング深さ以上の第2の深さに達する第2の掘削穴73を形成するステップと、第2の掘削穴73の形成において、第2の掘削穴73内のサンプリング深さに位置する土壌の一部を分析用試料として地表69まで移送するステップと、を含む。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料採取方法であって、
土壌を地表から仮掘削することにより、前記地表から所定の深さに設定されたサンプリング深さよりも浅い第1の深さに達する第1の掘削穴を形成するステップと、
前記第1の掘削穴内を掘削することにより、前記第1の掘削穴よりも狭い開口を有し、かつ前記サンプリング深さ以上の第2の深さに達する第2の掘削穴を形成するステップと、
前記第2の掘削穴の形成において、前記第2の掘削穴内の前記サンプリング深さに位置する土壌の一部を分析用試料として前記地表まで移送するステップと、を含む試料採取方法。
【請求項2】
前記第1の掘削穴を形成するステップは、バケットまたはブレードを有する仮掘削装置によって行われる、請求項1に記載の試料採取方法。
【請求項3】
前記第2の掘削穴を形成するステップは、スクリューを有する本掘削装置によって行われる、請求項1または請求項2に記載の試料採取方法。
【請求項4】
前記第1の掘削穴を形成するステップは、前記第1の掘削穴において、底面と、前記底面及び前記地表を接続する斜面と、を形成するステップを含み、
前記第2の掘削穴を形成するステップは、前記本掘削装置が前記斜面を通過して前記底面に移動するステップを含む、請求項3に記載の試料採取方法。
【請求項5】
前記第1の掘削穴を形成するステップは、前記地表における土壌の爆破によって行われる、請求項1に記載の試料採取方法。
【請求項6】
前記地表まで移送された前記分析用試料の少なくとも一部を、前記地表に配置された試料分析装置に供給するステップを更に含む、請求項1から請求項5のいずれかに記載の試料採取方法。
【請求項7】
前記地表まで移送された前記分析用試料を処理することにより、前記分析用試料から1以上の分析対象成分を分離するステップを更に含み、
前記分析用試料の少なくとも一部を前記試料分析装置に供給するステップでは、前記分析対象成分を前記分析用試料の一部として前記試料分析装置に供給する、請求項6に記載の試料採取方法。
【請求項8】
前記分析対象成分を分離するステップでは、前記分析用試料を加熱することにより、前記分析用試料から前記分析対象成分として水分を分離する、請求項7に記載の試料採取方法。
【請求項9】
試料採取システムであって、
土壌を地表から仮掘削することにより、前記地表から所定の深さに設定されたサンプリング深さよりも浅い第1の深さに達する第1の掘削穴を形成するための仮掘削装置と、
前記第1の掘削穴内を掘削することにより、前記第1の掘削穴よりも狭い開口を有し、かつ前記サンプリング深さ以上の第2の深さに達する第2の掘削穴を形成するための本掘削装置と、
を備え、
前記本掘削装置は、掘削用のスクリューを有し、前記スクリューの回転によって、前記第2の掘削穴内において前記サンプリング深さに位置する土壌の一部を分析用試料として前記地表まで移送可能に設けられた、試料採取システム。
【請求項10】
前記仮掘削装置は、掘削用のバケットまたはブレードを有する、請求項9に記載の試料採取システム。
【請求項11】
前記地表まで移送された前記分析用試料に含まれる分析対象成分について、前記地表において分析を行う試料分析装置を更に備えた、請求項9または請求項10に記載の試料採取システム。
【請求項12】
前記本掘削装置は、前記地表に沿って横向き状態にある待機位置と、前記地表に対して起立状態となる稼働位置との間を変位可能に設けられ、
前記試料分析装置は、前記待機位置と前記稼働位置との間を前記本掘削装置と一体に変位するように設けられた、請求項11に記載の試料採取システム。
【請求項13】
前記分析用試料から前記分析対象成分である水を含む気体を分離するための加熱処理を行う試料処理装置を更に備えた、請求項11または請求項12に記載の試料採取システム。
【請求項14】
前記本掘削装置は、前記スクリューを収容する中空ロッドを有し、
前記中空ロッドは、前記スクリューによって前記地表まで移送された前記分析用試料を排出する開口を有し、
前記試料処理装置は、前記開口から排出された前記分析用試料が自重で落下する位置に設けられた、請求項13に記載の試料採取システム。
【請求項15】
前記試料処理装置は、
前記加熱処理のために前記分析用試料が収容される凹部が形成された中子と、
前記中子を外囲する外筒と、
を備え、
前記中子は、前記外筒内において回転可能に設けられ、
前記外筒は、前記分析用試料が投入される貫通孔からなる試料投入口を有し、
前記試料投入口は、前記中子が所定の回動位置にある場合にのみ、前記凹部と外部とを連通するように設けられた、請求項13または請求項14に記載の試料採取システム。
【請求項16】
前記仮掘削装置、前記本掘削装置、及び前記試料分析装置が搭載された車両を更に備えた、請求項11から請求項15のいずれかに記載の試料採取システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地球外の天体に存在する資源に関する試料の採取に好適な試料採取方法及び試料採取システムに関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙探査技術の発展により、地球外の天体にも多くの有用な資源が存在することが明らかになっている。月や火星などの地中から資源を採掘する場合、地球上と比べて利用できる機器等に大きな制約があるため、地球外でも資源を採掘可能にするための技術が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、月面などの砂地に埋もれている資源を採掘するために、砂地に気体を吹込みながら、砂地を流動化した状態で資源を採掘する資源採掘方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、先端の掘削部と後方の土砂搬送部との径寸法を異ならせたアースオーガと、蠕動運動を利用した推進機構とを組み合わせて、月面などの地盤において掘進を行う装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-148155号公報
【特許文献2】特開2011-169056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
月や火星などの地中から必要な資源を効率良く採掘するためには、目的とする資源が存在する位置(地表からの深さを含む)及びその存在量を予め調査する必要がある。そのためには、予定の深さにおいて資源を含み得る土壌(例えば、鉱物、水などの混合物)の一部を試料として採取し、その試料の成分を分析することにより、目的とする資源が土壌にどの程度の割合で含まれるかを把握することが考えられる。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の従来技術では、気体の吹き込みによって砂地を流動化した状態で資源を採掘するため、地表からの深さを精度良く定めて試料を採取することは難しい。また、特許文献1に記載の従来技術では、砂地の流動化によって土壌の試料を採取した位置の周辺における土壌の状態が乱れる(すなわち、周辺環境の保存が難しい)ため、先にサンプリングした位置の近傍での再サンプリングの信頼性が低下する。
【0008】
また、特許文献2に記載の従来技術では、試料を採取すべき地表からの深さが大きくなると、地表からその深さまで到達可能なより長大なスクリューが必要となる。その結果、スクリューを備えた装置全体が大型化するため、その取り扱い(例えば、地球からの輸送)が難しくなる。また、特許文献2に記載の従来技術で利用する推進機構のような複雑な機構に関する電子制御は、宇宙放射線による悪影響を受けやすい。
【0009】
本発明は、以上の背景に鑑み、試料採取のための土壌の掘削に用いられる装置の大型化を抑制しつつ、簡易な構成によって予定の深さにおける試料採取を可能にする試料採取方法及び試料採取システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、試料採取方法であって、土壌を地表から仮掘削することにより、前記地表から所定の深さに設定されたサンプリング深さよりも浅い第1の深さに達する第1の掘削穴を形成するステップと、前記第1の掘削穴内を掘削することにより、前記第1の掘削穴よりも狭い開口を有し、かつ前記サンプリング深さ以上の第2の深さに達する第2の掘削穴を形成するステップと、前記第2の掘削穴の形成において、前記第2の掘削穴内の前記サンプリング深さに位置する土壌の一部を分析用試料として前記地表まで移送するステップと、を含む構成とする。
【0011】
この態様によれば、設定されたサンプリング深さよりも浅い第1の深さに達する第1の掘削穴を形成し、その第1の掘削穴内を掘削することにより、サンプリング深さ以上の第2の深さに達する第2の掘削穴を形成するため、試料採取のための土壌の掘削に用いられる装置の大型化を抑制しつつ、簡易な構成によって予定の深さにおける試料採取が可能となる。
【0012】
上記の態様において、前記第1の掘削穴を形成するステップは、バケットまたはブレードを有する仮掘削装置によって行われてもよい。
【0013】
この態様によれば、バケットまたはブレードを有する仮掘削装置を用いることにより、サンプリング深さよりも浅い第1の深さに達する第1の掘削穴を容易に形成することができる。
【0014】
上記の態様において、前記第2の掘削穴を形成するステップは、スクリューを有する本掘削装置によって行われてもよい。
【0015】
この態様によれば、試料採取のための土壌の掘削に用いられる装置としてスクリューを有する本掘削装置を用いることにより、設定されたサンプリング深さにおける試料採取を精度良く行うことができる。また、スクリューを利用して試料採取のための土壌の掘削を行うことにより、サンプリング位置の周囲(すなわち、スクリューによって形成された掘削穴の周囲)の土壌の状態(周辺環境)が乱れ難いという利点もある。
【0016】
上記の態様において、前記第1の掘削穴を形成するステップは、前記第1の掘削穴において、底面と、前記底面及び前記地表を接続する斜面と、を形成するステップを含み、前記第2の掘削穴を形成するステップは、前記本掘削装置が前記斜面を通過して前記底面に移動するステップを含んでもよい。
【0017】
この態様によれば、第1の掘削穴の斜面を利用することにより、試料採取のための土壌の掘削に用いられる本掘削装置を、地表から第1の掘削穴の底面(すなわち、第2の掘削穴が形成される位置)まで容易に移動させることができる。
【0018】
上記の態様において、前記第1の掘削穴を形成するステップは、前記地表における土壌の爆破によって行われてもよい。
【0019】
この態様によれば、第1の掘削穴の第1の深さは、高い精度を要求されない(すなわち、第1の深さに多少の誤差が生じても第2の掘削穴の第2の深さによってサンプリング位置を調整可能である)ため、地表における土壌の爆破により、サンプリング深さよりも浅い第1の深さに達する第1の掘削穴を容易に形成することができる。
【0020】
上記の態様において、前記地表まで移送された前記分析用試料の少なくとも一部を、前記地表に配置された試料分析装置に供給するステップを更に含んでもよい。
【0021】
この態様によれば、土壌から採取された分析用試料が長期輸送などによって変質することを抑制しつつ、その分析用試料の成分を分析することができる。
【0022】
上記の態様において、前記地表まで移送された前記分析用試料を処理することにより、前記分析用試料から1以上の分析対象成分を分離するステップを更に含み、前記分析用試料の少なくとも一部を前記試料分析装置に供給するステップでは、前記分析対象成分を前記分析用試料の一部として前記試料分析装置に供給してもよい。
【0023】
この態様によれば、試料分析装置において所望の成分を容易に分析することが可能となる。
【0024】
上記の態様において、前記分析対象成分を分離するステップでは、前記分析用試料を加熱することにより、前記分析用試料から前記分析対象成分として水分を分離してもよい。
【0025】
この態様によれば、試料から分離された水分を含む気体を、試料分析装置において容易に分析することが可能となる。
【0026】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、試料採取システムであって、土壌を地表から仮掘削することにより、前記地表から所定の深さに設定されたサンプリング深さよりも浅い第1の深さに達する第1の掘削穴を形成するための仮掘削装置と、前記第1の掘削穴内を掘削することにより、前記第1の掘削穴よりも狭い開口を有し、かつ前記サンプリング深さ以上の第2の深さに達する第2の掘削穴を形成するための本掘削装置と、を備え、前記本掘削装置は、掘削用のスクリューを有し、前記スクリューの回転によって、前記第2の掘削穴内において前記サンプリング深さに位置する土壌の一部を分析用試料として前記地表まで移送可能に設けられた構成とする。
【0027】
この態様によれば、設定されたサンプリング深さよりも浅い第1の深さに達する第1の掘削穴を仮掘削装置によって形成し、その第1の掘削穴内を、スクリューを有する本掘削装置によって掘削することにより、サンプリング深さ以上の第2の深さに達する第2の掘削穴を形成するため、試料採取のための土壌の掘削に用いられる装置の大型化を抑制しつつ、簡易な構成によって予定の深さにおける試料採取が可能となる。
【0028】
上記の態様において、前記仮掘削装置は、掘削用のバケットまたはブレードを有してもよい。
【0029】
この態様によれば、バケットまたはブレードを有する仮掘削装置を用いることにより、サンプリング深さよりも浅い第1の深さに達する第1の掘削穴を容易に形成することができる。
【0030】
上記の態様において、前記地表まで移送された前記分析用試料に含まれる分析対象成分について、前記地表において分析を行う試料分析装置を更に備えてもよい。
【0031】
この態様によれば、土壌から採取された分析用試料(分析対象成分)が長期輸送などによって変質することを抑制しつつ、その分析用試料の成分を分析することができる。
【0032】
上記の態様において、前記本掘削装置は、前記地表に沿って横向き状態にある待機位置と、前記地表に対して起立状態となる稼働位置との間を変位可能に設けられ、前記試料分析装置は、前記待機位置と前記稼働位置との間を前記本掘削装置と一体に変位するように設けられてもよい。
【0033】
この態様によれば、地表まで移送された分析用試料を試料分析装置に対して速やかに供給可能となるため、採取された分析用試料の変質をより効果的に抑制することができる。
【0034】
上記の態様において、前記分析用試料から前記分析対象成分である水を含む気体を分離するための加熱処理を行う試料処理装置を更に備えてもよい。
【0035】
この態様によれば、試料から分離された水分(分析対象成分)を含む気体を、試料分析装置において容易に分析することが可能となる。
【0036】
上記の態様において、前記本掘削装置は、前記スクリューを収容する中空ロッドを有し、前記中空ロッドは、前記スクリューによって前記地表まで移送された前記分析用試料を排出する開口を有し、前記試料処理装置は、前記開口から排出された前記分析用試料が自重で落下する位置に設けられてもよい。
【0037】
この態様によれば、本掘削装置によって地表まで移送された分析用試料を、試料処理装置に対して容易に供給することができる。
【0038】
上記の態様において、前記試料処理装置は、前記加熱処理のために前記分析用試料が収容される凹部が形成された中子と、前記中子を外囲する外筒と、を備え、前記中子は、前記外筒内において回転可能に設けられ、前記外筒は、前記分析用試料が投入される貫通孔からなる試料投入口を有し、前記試料投入口は、前記中子が所定の回動位置にある場合にのみ、前記凹部と外部とを連通するように設けられてもよい。
【0039】
この態様によれば、試料処理装置に形成された凹部に対し、地表まで移送された分析対象試料を容易に投入することが可能となる。
【0040】
上記の態様において、前記仮掘削装置、前記本掘削装置、及び前記試料分析装置が搭載された車両を更に備えてもよい。
【0041】
この態様によれば、地球外の天体においても、試料採取システムを試料採取場所まで容易に移動させることができる。
【発明の効果】
【0042】
以上の態様によれば、試料採取のための土壌の掘削に用いられる装置の大型化を抑制しつつ、簡易な構成によって予定の深さにおける試料採取を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】実施形態に係る試料採取システムを示す全体構成図
【
図4】本掘削装置が稼働状態にあるシステム本体を示す側面図
【
図6】試料処理装置の内部構造を示すVa-Va線断面図
【
図7】試料処理装置の内部構造を示すVb-Vb線断面図
【
図8】試料採取システムによる試料採取に関する一連の動作を示す説明図
【
図9】
図8中の動作(e)における試料処理装置への試料投入方法の説明図
【
図10】
図8中の動作(e)における試料処理装置の動作の一例を示す説明図
【
図11】試料採取システムの制御系を示すブロック図
【
図12】試料採取システムによる試料採取処理の流れを示すフロー図
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、図面を参照して、実施形態に係る試料採取方法及び試料採取システムについて説明する。説明の便宜上、以下で用いる方向を示す語は、図中に矢印で示した方向(上下、前後、左右など)にしたがう。
【0045】
図1は、実施形態に係る試料採取システム1を示す全体構成図である。試料採取システム1は、例えば地球外の天体において、地中に存在する資源に関する試料採取に用いられる。本実施形態では、試料採取システム1及びその試料採取方法が月の表層に存在する資源(ここでは、水)に関する試料採取に適用された例を示す。
【0046】
試料採取システム1は、月面を走行可能な車両2を含む。車両2は、走行装置10と、走行装置10に支持された車台11と、を備える。車台11には、目的とする資源が存在する土壌の仮掘削を行うための仮掘削装置12が搭載されている。また、車台11には、仮掘削された土壌(すなわち、所定の深さまで掘進された土壌)から、予め設定された所定のサンプリング深さまで、仮掘削よりも精密な掘削(以下、本掘削という。)を行う本掘削装置13が搭載されている。本掘削装置13は、車体をなすシステム本体14に設置されている。システム本体14は、車台11の左側部に取り付けられたベースプレート20を有する。ベースプレート20上には、本掘削装置13が載置される。ベースプレート20は、車台11に対して上下方向に相対移動可能に設けられている。なお、試料採取システム1において仮掘削装置12は省略されてもよい。
【0047】
車両2は、自律制御または遠隔制御によって動作する無人ローバーから構成される。走行装置10は、モータ(非図示)によって駆動される前後、左右にそれぞれ配置された複数のクローラー15を含む。ただし、車両2は、ここに示す構成に限定されず、少なくとも地上または低空を移動可能な移動体から構成され得る。
【0048】
仮掘削装置12は、バケット16と、バケット16を回動可能に支持するアーム17及びブーム18と、ブーム18を回動可能に支持する支持装置19と、を有するショベルを含む。支持装置19は、バケット16、アーム17、及びブーム18を駆動するための駆動装置(非図示)を含む。支持装置19は、車台11に対して前後方向に相対移動可能に設けられている。なお、仮掘削装置12では、掘削用の器具としてバケット16の代わりにブレードが用いられてもよい。また、仮掘削装置12は、ショベルに限らず、少なくとも土壌を掘削可能な機能を有する装置であればよい。
【0049】
図2及び
図3は、それぞれシステム本体14の内部構造を示す平面図及び側面図である。
図2及び
図3では、本掘削装置13は待機状態(すなわち、待機位置)にある。
図4は、本掘削装置13が稼働状態(すなわち、稼働位置)にあるシステム本体14を示す側面図である。
【0050】
図2に示すように、システム本体14は、本掘削装置13、試料処理装置22、試料分析装置23、装置変位機構24、電力供給装置26、及び主制御装置27を含む。
【0051】
本掘削装置13は、前後方向に延在するスクリュー31と、前後方向に延在し、スクリュー31を収容する中空ロッド32と、スクリュー31の後端に接続されることにより、スクリュー31を回転駆動する本掘削用のモータ33と、を有する掘削ドリルを含む。スクリュー31の羽根31Aは、その軸線方向(前後方向)にわたって略同一の外径(最大径)を有する。
【0052】
本掘削装置13は、仮掘削装置12によって仮掘削された土壌の表面から予定のサンプリング深さまで掘削し、その深さにおける土壌の一部(以下、分析用試料という。)を少量(すなわち、分析に必要な量)だけ採取できればよい。したがって、本掘削装置13に用いられる掘削ドリルは、建設工事などに用いられる比較的大型の掘削ドリルとは異なる。本掘削装置13において、地中に挿入されるスクリュー31の外径や軸方向の長さは、比較的小さい値(例えば、10-20mm程度の外径、500-1000mm程度の長さ)に設定可能である。
【0053】
試料処理装置22は、本掘削装置13による本掘削によって採取された分析用試料から分析対象成分(ここでは、水)を含む気体を分離する。試料処理装置22は、システム本体14において本掘削装置13が変位する際に(例えば、待機位置と稼働位置との間を変位する際や、土壌を掘進(または後退)する際に)、本掘削装置13と一体に変位可能なように設けられる。本実施形態では、試料処理装置22は中空ロッド32の後部に固定されている。また、試料処理装置22には、後述する中子51(
図5参照)を回転駆動する試料処理用のモータ35が付設されている。
【0054】
試料分析装置23は、ガス分析計を含む。ガス分析計は、試料処理装置22から供給される分析対象成分を含む気体の光吸収スペクトルを、近赤外半導体レーザ分光により測定し、そのスペクトルカーブの面積値及び高さからその気体に含まれる各成分の濃度を算出する。試料分析装置23は、分析対象成分を水とした場合には、赤外線水分計よりスペクトル分解能が高く、光学窓の汚れ等による透過光量低下や干渉ガスの影響を殆ど受けずに、温度・圧力補正によって高精度の測定が可能である。また、試料分析装置23は、試料処理装置22と同様に、システム本体14において本掘削装置13が変位する際に、本掘削装置13と一体に変位可能なように設けられる。試料分析装置23は、本掘削装置13の適所に対して直接または間接的に固定され得る。
【0055】
装置変位機構24は、回動軸41と、回動軸41の両端(左右端)をそれぞれ支持する軸受42、43と、回動軸41を駆動する装置変位用のモータ44とを含む。回動軸41の左端には、本掘削装置13の中空ロッド32を前後方向(
図4では上下方向)に移動自在に保持するホルダ46が接続されている。回動軸41の右端には、試料分析装置23を支持する支持フレーム47の一端が接続されている。支持フレーム47は、試料分析装置23を前後方向(
図4では上下方向)に移動自在に支持する。なお、ホルダ46は、中空ロッド32を移動させるための駆動機構を備えてもよい。
【0056】
装置変位機構24では、回動軸41が回動すると、その左端に接続されたホルダ46(すなわち、中空ロッド32)及びその右端に接続された支持フレーム47(すなわち、試料分析装置23)も回動する。これにより、本掘削装置13は、
図3に示された横向き状態にある(すなわち、スクリュー31の軸方向が地表と略水平となる)待機位置から、起立状態となる稼働位置まで変位する。本実施形態では、稼働位置にある本掘削装置13では、スクリュー31の軸方向が概ね上下方向(ここでは、月面に直交する方向)と重なる。ただし、これに限らず、スクリュー31の軸方向(すなわち、本掘削装置13の掘進方向)が、地表に対して斜めに交差する構成であってもよい。
【0057】
その後、モータ33が起動することで、
図4に示すように、本掘削装置13は、土壌を掘進しながら下方に移動する。スクリュー31によって掘削された土壌は、中空ロッド32を通して上方(反掘進方向)に送られる。このとき、中空ロッド32は、ホルダ46に支持された状態でスクリュー31と共に下方に移動する。このとき、本掘削装置13に固定された試料処理装置22は、本掘削装置13と共に変位する。また、本掘削装置13に固定された試料分析装置23は、支持フレーム47に支持された状態で本掘削装置13と共に変位する。試料分析装置23は、支持フレーム47の図示しないガイドレール上を滑動する。
【0058】
電力供給装置26は、ベースプレート20上に載置され、主制御装置27によって制御されることにより、試料採取システム1で使用される電力を供給する。
【0059】
主制御装置27は、ベースプレート20上に載置され、試料採取システム1に設けられた各装置を統括的に制御する。主制御装置27は、所定の制御プログラムに基づき各種情報処理や周辺機器の制御等を実行する1以上のプロセッサ、プロセッサのワークエリア等として機能するRAM(Random Access Memory)、プロセッサが実行する制御プログラムやデータを格納するROM(Read Only Memory)、及び無線通信処理を実行するネットワークインターフェースなどを含む。ただし、主制御装置27は、ここに示す構成には限定されない。また、主制御装置27としては、宇宙放射線の影響をより受けにくい構成を採用するとよい。
【0060】
図5は、試料処理装置22の一部透過斜視図である。
図6及び
図7は、それぞれ試料処理装置22の内部構造を示すVa-Va線断面図及びVb-Vb線断面図である。
【0061】
試料処理装置22は、略円柱形状を有する中子51と、中子51を外囲する略筒状を有する外筒52と、を含む。
【0062】
図6及び
図7に示すように、中子51は、本掘削装置13によって採取された土壌の一部を分析対象試料として収容する凹部55を有する。凹部55は、外筒52の内周面に対向する(摺接する)中子51の外周面に開口する。凹部55には、分析対象試料を加熱するためのヒーター57が設けられている。ヒーター57は、凹部55内に投入される分析対象試料を加熱することにより、所定の温度(例えば100-200℃程度)まで昇温させることができる。本実施形態では、ヒーター57の加熱によって凹部55内の分析対象試料に含まれる水分が気化する。
【0063】
また、
図5に示すように、中子51の右面51Aには、凹部55の温度(すなわち、分析対象試料の温度)を測定するための熱電対などの温度計(非図示)がそれぞれ挿入される測定用孔58が複数開口している。中子51の右面51Aには、モータ35(
図2参照)の軸35Aが接続されている。これにより、中子51は、外筒52内において、左右方向に延びる軸線を中心に回転可能である。さらに、中子51の右面51Aには、試料分析装置23よって分析された気体を外部に排出するためのベント孔59が開口している。ベント孔59は、中子51の右面51Aから軸方向に延在する軸方向部59Aと、径方向に延在して外周面に到る径方向部59Bとを有する(
図6参照)。
【0064】
なお、中子51には、凹部55に投入された分析対象試料の重量を測定するための重量センサが設けられてもよい。
【0065】
外筒52は、本掘削装置13によって採取された分析用試料が投入される試料投入口61を有する。試料投入口61は、外筒52の上部において径方向に延在し、その外周面から内周面に到る貫通孔である。試料投入口61は、
図6に示すように、中子51が所定の回転位置にある場合に、その凹部55に連通する。試料投入口61は、外筒52の内周面側から外周面側にかけて(
図5の下方から上方に向かって)その内径が徐々に大きくなるようなテーパー形状を有してもよい。
【0066】
また、外筒52は、凹部55での加熱処理によって分析対象試料から分離された分析対象成分を含む気体を、試料分析装置23に対して送出するための気体送出口63を有する。気体送出口63は、外筒52の上部側において径方向に延在し、その外周面から内周面に到る貫通孔である。気体送出口63には、焼結金属フィルタ64(
図6参照)が設置されている。気体送出口63は、中子51が所定の回転位置にある場合に、凹部55に連通する。また、気体送出口63は、中子51が所定の回転位置にある場合に、そのベント孔59に連通する。ただし、気体送出口63がベント孔59に連通する中子51の回転位置は、気体送出口63が凹部55に連通する中子51の回転位置とは異なる。
【0067】
また、外筒52は、分析を終えた分析対象試料を凹部55から外部に排出するための試料排出口67を有する。試料排出口67は、外筒52の下部において径方向に延在し、その外周面から内周面に到る貫通孔である。試料排出口67は、中子51が所定の回転位置にある場合に、その凹部55に連通する。また、中子51がその回転位置にある場合には、気体送出口63がベント孔59に連通する。試料排出口67は、外筒52の内周面側から外周面側にかけて(
図5の上方から下方に向かって)その内径が徐々に大きくなるようなテーパー形状を有してもよい。
【0068】
なお、試料処理装置22は、本実施形態で示した試料採取システム1における他の装置との組み合わせて用いられることは必須ではなく、試料採取システム1とは異なる他のシステムにも利用され得る。
【0069】
図8は、試料採取システム1による試料採取に関する一連の動作を示す説明図である。
図9は、
図8中の動作(e)における試料処理装置22への試料投入方法の説明図である。
図10は、
図8中の動作(e)における試料処理装置22の動作の一例を示す説明図である。
【0070】
図8に示すように、試料採取システム1による試料採取では、まず、車両2が、試料採取を行うサンプリング場所まで移動する(動作(a)参照)。
【0071】
次に、試料採取システム1は、仮掘削装置12を用いて仮掘削を開始する(動作(b)参照)。このとき、試料採取システム1では、仮掘削装置12によって仮掘削を行う代わりに、公知技術を用いた地表69における土壌の爆破を実施することによって仮掘削が行われてもよい。或いは、仮掘削装置12による仮掘削を開始する前に、地表69における土壌の爆破を実施することによって部分的な仮掘削が行われてもよい。
【0072】
この仮掘削によって車両2が進入可能な程度の大きさを有する仮掘削穴70(第1の掘削穴)が形成される(動作(c)参照)。仮掘削穴70は、地表69と略平行に形成された底面70Aと、底面70Aと地表69とを接続する斜面70Bと、を含む。これにより、本掘削装置13が搭載された車両2は、斜面70Bを通過して底面70Aまで進入可能となる。掘削された土壌は、仮掘削穴70の外に残土(土壌の塊)71として積み上げられる。仮掘削穴70は、地表69から所定の深さに設定されたサンプリング深さ(ここでは、3L)よりも浅い第1の深さ(ここでは、2L)に達する。この第1の深さは、本掘削装置13が掘削可能な深さに応じて(すなわち、本掘削装置13が、仮掘削穴70の底面70Aからサンプリング深さまで到達可能なように)設定される。
【0073】
次に、試料採取システム1は、仮掘削穴70内において、本掘削装置13を用いて本掘削を開始する(動作(d)参照)。このとき、システム本体14(すなわち、ベースプレート20)は、
図1に示した上昇位置(初期位置)から仮掘削穴70の底面70A上の下降位置まで下降する。さらに、本掘削装置13は、装置変位機構24によって、横向き状態にある待機位置から、起立状態となる稼働位置まで変位する。その後、本掘削装置13は、仮掘削穴70の底面70Aから、設定されたサンプリング深さに到達するまで土壌を掘進する。
【0074】
本掘削装置13による本掘削によって、仮掘削穴70の底面70Aに本掘削穴73(第2の掘削穴)が形成される(動作(e)参照)。本掘削穴73は、仮掘削穴70よりも狭い開口を有し、かつサンプリング深さまで到達する第2の深さ(ここでは、1L)を有する。本掘削穴73の第2の深さは、第1の深さと合わせてサンプリング深さ以上となる大きさであればよい。本掘削穴73は、必要に応じてサンプリング深さを超える深さまで到達し得る。
【0075】
本掘削装置13による本掘削では、本掘削穴73の形成において、本掘削穴73内の掘削された土壌が地表まで移送される。
図9に示すように、本掘削装置13の中空ロッド32は、起立状態において試料処理装置22の上方に位置するように設けられた試料採取用の開口32Aを有する。スクリュー31の羽根31Aによって中空ロッド32内を上方に向けて移送された土壌は、開口32Aから順次排出され、試料処理装置22上に自重によって落下する。これにより、その土壌の一部が分析用試料として試料処理装置22に対して投入される。
【0076】
また、本掘削装置13による本掘削では、
図10に示すように、試料処理装置22によって分析用試料が処理された後、試料分析装置23による分析が行われる。
【0077】
試料処理装置22は、試料投入口61を開閉するシャッタ81を備えている。シャッタ81は、本掘削が開始されたときには試料投入口61を閉じる閉位置にある(動作(A)参照)。これにより、サンプリング深さよりも浅い位置にある土壌が、試料投入口61に投入されることが防止される。このとき、中子51は、その凹部55が下向きに開口する位置(すなわち、凹部55が試料排出口67に連通する位置)にある。
【0078】
その後、本掘削装置13による掘進が進んで、分析用試料が開口32A(
図9参照)から排出されるタイミングになると、シャッタ81は、試料投入口61を開放する開位置に移動する(動作(B)参照)。これにより、中空ロッド32の開口32Aから落下した土壌の一部が分析対象試料としてが試料投入口61に投入される。中子51は、シャッタ81が開放される前に(または、シャッタ81が開放されると同時に)、所定量(ここでは、180°)回動することにより、その凹部55が上向きに開口する位置(すなわち、凹部55が試料投入口61に連通する位置)まで移動する。試料投入口61から投入された分析対象試料の凹部55への収容が完了すると、シャッタ81は再び閉位置に移動する。
【0079】
次に、試料処理装置22では、中子51が所定量(ここでは、60°)回動することにより、その凹部55が気体送出口63に連通する位置まで移動する(動作(C)参照)。これと同時に、試料処理装置22では、ヒーター57が起動し、凹部55内の分析対象試料が所定時間加熱される。これにより、分析対象試料に含まれる水分が蒸発し、その蒸発した水分を含む気体が、気体送出口63を通して試料分析装置23(
図4参照)に送出される。試料分析装置23は、試料処理装置22から水分を含む気体が導入されると、その気体に含まれる各成分の濃度を測定する。この分析結果より、所定のサンプリング深さの土壌に分析対象成分である水がどの程度の割合で含まれているかを把握できる。なお、外筒52の気体送出口63は、図示しない配管を介して試料分析装置23の分析ガス導入口に接続されている。
【0080】
その後、試料処理装置22では、中子51が所定量(ここでは、120°)回動することにより、その凹部55が試料排出口67に連通する位置まで移動する(動作(D)参照)。これにより、凹部55内の分析対象試料は、試料排出口67を通して外部に排出される(すなわち、試料排出口67から自重によって落下する)。このとき、ベント孔59の径方向部59Bは、気体送出口63に連通する位置にある。これにより、試料分析装置23からの分析済みの気体が、試料処理装置22のベント孔59に戻され、その軸方向部59Aの開口から外部に排出される。
【0081】
図11は、試料採取システム1の制御系を示すブロック図を示す説明図である。
【0082】
試料採取システム1は、走行装置10を制御する車両制御装置91と、仮掘削装置12及び本掘削装置13を制御する掘削制御装置92と、試料処理装置22を制御する試料処理制御装置93と、試料分析装置23を制御する試料分析制御装置94と、を含む。各制御装置91-94は、主制御装置27から送出される命令に応じて制御を実行する。
【0083】
車両制御装置91は、走行装置10に付設され、車両2の操舵を含めて車両2の走行を制御することにより、試料採取システム1を所望のサンプリング場所まで移動させる。車両制御装置91は、公知技術(例えば、VLBI(Very Long Baseline Interferometry)技術)を用いて月面における車両2の位置(座標)を計測する機能を有する。
【0084】
掘削制御装置92は、仮掘削装置12及び本掘削装置13を選択的に制御する(すなわち、仮掘削装置12及び本掘削装置13の稼働状態を適宜切り替える)ことにより、仮掘削及び本掘削を順次実行する。掘削制御装置92は、本掘削装置13(スクリュー31)の地中への挿入深さを測定可能な公知の装置を含む。
【0085】
試料処理制御装置93は、試料処理装置22において中子51を回転駆動するモータ35および分析対象試料を加熱するヒーター57などを制御する。この制御により、試料処理装置22に投入された分析対象試料の処理(ここでは、分析対象試料から水分を含む気体を分離する処理)が実行される。試料処理制御装置93は、中子51の回動量を制御することにより、中子51を
図10に示した各動作(A)-(D)が実行させる回動位置に移動させることができる。試料処理制御装置93は、中子51の回動位置を検出するセンサや、シャッタ81を開閉するタイミングを計測するためのタイマーなどを含む。
【0086】
試料分析制御装置94は、試料分析装置23を制御することにより、分析対象試料(分析対象成分)の分析を実行する。試料分析制御装置94による分析結果は、主制御装置27に送られて記憶される。
【0087】
電力供給装置26は、バッテリ96を有する。電力供給装置26は、主制御装置27によって制御されることにより、試料採取システム1において電力を使用する全ての装置に対してそれらが必要とする電力をバッテリ96から供給する。なお、電力供給装置26は、必要に応じてバッテリ96を充電するための公知の発電装置(例えば、太陽光発電装置)を備えてもよい。
【0088】
なお、主制御装置27及び制御装置91-94は、必ずしも個別に設けられる必要はなく、それら制御装置の機能のいくつかが統合されて1つの制御装置として構成されてもよい。
【0089】
図12は、試料採取システム1による試料採取処理の流れを示すフロー図である。
【0090】
試料採取処理において、まず、試料採取システム1は、試料を採取すべき場所の情報としてサンプリング位置情報を取得する(ST101)。このサンプリング位置情報は、主制御装置27のメモリに予め記憶されるか、外部(例えば、地球における情報処理装置)との通信によって取得される。サンプリング位置情報には、例えば、天体の表面(ここでは、月面)に設定された位置座標および地表からの深さの値が含まれる。
【0091】
次に、試料採取システム1は、ステップST101で取得したサンプリング位置情報にしたがって目的地(サンプリング場所)を設定し、その目的地まで車両2を移動させる(ST102)。
【0092】
車両2が目的地に到達すると、試料採取システム1は、仮掘削装置12によって仮掘削を実施する(ST103)。試料採取システム1は、仮掘削が完了すると、本掘削(掘進)を開始する(ST104)。この本掘削では、土壌の掘削と共に分析対象試料の採取および分析が並行して実施される。試料採取システム1は、分析対象試料を取得できた(すなわち、試料処理装置22への分析対象試料の投入が完了した)と判定すると(ST105でYes)、本掘削装置13による掘進を一旦停止する(ST106)。
【0093】
そこで、試料採取システム1は、取得した分析対象試料を、試料処理装置22によって処理(すなわち、分析対象試料の加熱によって分析対象成分を分離)する(ST107)。続いて、試料採取システム1は、試料処理装置22によって得られた分析対象成分を含む気体を試料分析装置23に送出し、その気体を試料分析装置23によって分析する(ST108)。
【0094】
その後、試料採取システム1は、試料分析装置23によって正常な分析結果が得られたと判定すると(ST109でYes)、試料採取処理を終了する。一方、ステップST109において、正常な分析結果が得られない場合(ST109でNo)には、再度の掘進を開始し、上述と同様のステップを実行する。ただし、試料採取システム1では、正常な分析結果が得られない場合(ST109でNo)、サンプリング情報の取得(ステップST101)、車両の移動(ステップST102)、及び仮掘削の実施(ステップST103)のいずれかに戻って上述と同様のステップを実行してもよい。
【0095】
また、試料採取システム1では、サンプリング位置情報に複数のサンプリング位置が含まれる場合には、上述のステップと同様のステップを繰り返し実行することにより、複数の場所で試料採取を行うことができる。
【0096】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態や変形例に限定されることなく、幅広く変形実施することができる。
【0097】
例えば、本発明に係る試料採取方法及び試料採取システムは、月以外の他の天体に存在する資源に関する試料の採取に用いられてもよい。場合によっては、本発明に係る試料採取方法及び試料採取システムは、地球上で利用されてもよい。また、試料採取方法及び試料採取システムに関する分析対象成分には、試料分析装置によって同時に分析可能な成分であれば、複数の成分が含まれ得る。上述の実施形態に示した試料採取方法及び試料採取システムの各構成要素は、必ずしも全てが必須ではなく、少なくとも当業者であれば本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。
【符号の説明】
【0098】
1 :試料採取システム
2 :車両
10 :走行装置
11 :車台
12 :仮掘削装置
13 :本掘削装置
14 :システム本体
15 :クローラー
16 :バケット
17 :アーム
18 :ブーム
19 :支持装置
20 :ベースプレート
22 :試料処理装置
23 :試料分析装置
24 :装置変位機構
26 :電力供給装置
27 :主制御装置
31 :スクリュー
31A:羽根
32 :中空ロッド
32A:開口
33 :モータ
35 :モータ
35A:軸
41 :回動軸
42 :軸受
43 :軸受
44 :モータ
46 :ホルダ
47 :支持フレーム
51 :中子
51A:右面
52 :外筒
55 :凹部
57 :ヒーター
58 :測定用孔
59 :ベント孔
59A:軸方向部
59B:径方向部
61 :試料投入口
63 :気体送出口
64 :焼結金属フィルタ
67 :試料排出口
69 :地表
70 :仮掘削穴
70A:底面
70B:斜面
71 :残土
73 :本掘削穴
81 :シャッタ
91 :車両制御装置
92 :掘削制御装置
93 :試料処理制御装置
94 :試料分析制御装置
96 :バッテリ