(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006193
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】リチウム吸着用造粒体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/30 20060101AFI20230111BHJP
【FI】
B01J20/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021108664
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 伸也
(72)【発明者】
【氏名】工藤 陽平
(72)【発明者】
【氏名】高野 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】平郡 伸一
(72)【発明者】
【氏名】浅野 聡
【テーマコード(参考)】
4G066
【Fターム(参考)】
4G066AA13A
4G066AA20D
4G066AA26A
4G066AA26B
4G066BA36
4G066CA45
4G066DA07
4G066FA02
4G066FA22
4G066FA26
4G066FA34
(57)【要約】
【課題】商業ベースでリチウムの生産を行う場合に、溶離工程でのマンガンの溶出を十分に抑制することができるリチウム吸着用造粒体の製造方法を提供する。
【解決手段】リチウム吸着用造粒体の製造方法は、リチウム吸着剤の前駆体の粉末と、結合剤と、を混錬し混錬物を得る混錬工程と、前記混錬物を成型加工し、第1造粒体を得る造粒工程と、前記第1造粒体を焼結し、第2造粒体を得る焼結工程と、を含む。このような構成により、リチウム吸着剤の前駆体に含まれているマンガンの価数を2から4に変えることができ、溶離工程でのマンガンの溶出を抑制できる。また、商業ベースでの生産において、リチウム吸着剤を繰り返し使用することが可能となる。加えて、溶離工程で得られる溶離液内のマンガン濃度を抑制できるので、溶離工程以後の工程の負荷を軽減できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム吸着剤の前駆体の粉末と、結合剤と、を混錬し混錬物を得る混錬工程と、
前記混錬物を成型加工し、第1造粒体を得る造粒工程と、
前記第1造粒体を焼結し、第2造粒体を得る焼結工程と、を含む、
ことを特徴とするリチウム吸着用造粒体の製造方法。
【請求項2】
前記焼結工程での焼結温度が520℃以上600℃以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載のリチウム吸着用造粒体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム吸着用造粒体の製造方法に関する。さらに詳しくは、リチウム吸着剤の前駆体を含む、リチウム吸着用造粒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1では、かん水からのリチウム回収システムが開示されている。この文献では、リチウム吸着剤を用いてかん水からリチウムを吸着するとともに、吸着されたリチウムを脱着させ、高純度Li2CO3を生成するまでが開示されている。
【0003】
また、特許文献1には、リチウムを選択的に吸着するリチウム吸着剤の前駆体の製造方法が開示されている。この製造方法によれば、リチウム吸着剤の前駆体として、マンガン酸リチウムが大気圧化で得られる。特許文献2では、このようなマンガン酸リチウムを用いたリチウム含有溶液の製造方法が開示されている。この製造方法によれば、リチウムをリチウム吸着剤から溶離させる溶離工程でのマンガンの溶出を抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/203274号
【特許文献2】国際公開第2020/116607号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】湯 衛平、“かん水からのリチウム回収システム開発”、[online]、平成22年6月11日、公益財団法人かがわ産業支援財団、[平成30年11月22日]、インターネット(www.kagawa-isf.jp/rist/seika-happyou/21tang.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2でのマンガン溶出の抑制は、溶離工程での酸溶液の酸濃度を特定することでマンガン溶出の抑制を行っている。しかるに、商業ベースで特許文献2の製造方法を実施しようとしたとき、溶液全体において酸濃度の濃度を均一に保つことは難しく、マンガン溶出の抑制が不十分になる可能性があるという問題がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、商業ベースでリチウムの生産を行う場合に、溶離工程でのマンガンの溶出を十分に抑制することができるリチウム吸着用造粒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明のリチウム吸着用造粒体の製造方法は、リチウム吸着剤の前駆体の粉末と、結合剤と、を混錬し混錬物を得る混錬工程と、前記混錬物を成型加工し、第1造粒体を得る造粒工程と、前記第1造粒体を焼結し、第2造粒体を得る焼結工程と、を含むことを特徴とする。
第2発明のリチウム吸着用造粒体の製造方法は、第1発明において、前記焼結工程での焼結温度が520℃以上600℃以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1発明によれば、混錬工程と造粒工程とを経た後に、第1造粒体を焼結する焼結工程が設けられていることにより、リチウム吸着剤の前駆体に含まれているマンガンの価数を2から4に変えることができる。リチウム吸着剤の前駆体には、2価のマンガンが4価にならずに残存し、その2価のマンガンが溶離工程で溶出することが考えられていたが、焼結工程が設けられることにより、2価のマンガンのほとんどが4価のマンガンに変わる。4価のマンガンは、水に溶けにくいため、溶離工程でのマンガンの溶出を抑制できる。これにより、商業ベースでの生産において、リチウム吸着剤を繰り返し使用することが可能となる。また、本願のリチウム吸着用造粒体が溶離工程で使用されると、溶離工程で得られる溶離液内のマンガン濃度を抑制できるので、溶離工程以後の工程の負荷を軽減できる。
第2発明によれば、焼結工程での焼結温度が520℃以上600℃以下であることにより、さらに確実に2価のマンガンを4価のマンガンとすることができるので、マンガンの溶出をより抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係るリチウム吸着用造粒体の製造方法のフロー図である。
【
図2】焼結温度とマンガン溶出量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するためのリチウム吸着用造粒体の製造方法を例示するものであって、本発明はリチウム吸着用造粒体の製造方法を以下のものに特定しない。
【0012】
本発明に係るリチウム吸着用造粒体の製造方法は、リチウム吸着剤の前駆体の粉末と、結合剤と、を混錬し混錬物を得る混錬工程と、前記混錬物を成型加工し、第1造粒体を得る造粒工程と、前記第1造粒体を焼結し、第2造粒体を得る焼結工程と、を含む。
【0013】
リチウム吸着用造粒体の製造方法において、混錬工程と造粒工程とを経た後に、第1造粒体を焼結する焼結工程が設けられていることにより、リチウム吸着剤の前駆体に含まれているマンガンの価数を2から4に変えることができる。リチウム吸着剤の前駆体には、2価のマンガンが4価にならずに残存し、その2価のマンガンが溶離工程で溶出することが考えられていたが、焼結工程が設けられることにより、2価のマンガンのほとんどが4価のマンガンに変わる。4価のマンガンは、水に溶けにくいため、溶離工程でのマンガンの溶出を抑制できる。これにより、商業ベースでの生産において、リチウム吸着剤を繰り返し使用することが可能となる。また、本願のリチウム吸着用造粒体が溶離工程で使用されると、溶離工程で得られる溶離液内のマンガン濃度を抑制できるので、溶離工程以後の工程の負荷を軽減できる。
【0014】
また、本発明に係るリチウム吸着用造粒体の製造方法は、焼結工程での焼結温度が520℃以上600℃以下である。焼結工程での焼結温度が520℃以上600℃以下であることにより、さらに確実に2価のマンガンを4価のマンガンとすることができるので、マンガンの溶出をより抑制できる。
【0015】
<実施形態>
(リチウム吸着剤の前駆体)
混錬工程では、リチウム吸着剤の前駆体の粉末と、結合剤と、が混錬され、混錬物が得られる。この混錬工程で用いられるリチウム吸着剤の前駆体について説明する。なお、
図1には、本発明の一実施形態に係るリチウム吸着用造粒体の製造方法のフロー図が示されている。リチウム吸着剤の前駆体は、混錬工程で用いられる。
【0016】
リチウム吸着剤は、リチウムを含有する溶液からリチウムを選択的に吸着するものであれば特に限定されない。リチウム吸着剤としては、例えばマンガン酸リチウムから得られるH1.6Mn1.6O4、H1.33Mn1.67O4などが該当する。リチウム吸着剤は、リチウム吸着剤の前駆体であるLi1.6Mn1.6O4、Li1.33Mn1.67O4から数1、2のようにLiと水素を置換することにより得られる。
【0017】
[数1]
Li1.6Mn1.6O4+1.6HCl→H1.6Mn1.6O4+1.6LiCl
【0018】
[数2]
Li1.33Mn1.67O4+1.33HCl→H1.33Mn1.67O4+1.33LiCl
【0019】
(混錬工程)
図1には、本発明の一実施形態に係るリチウム含有溶液の製造方法のフロー図を示す。リチウム吸着剤から、リチウムを含むリチウム含有溶液を得る製造方法を、商業ベースで実現する場合、リチウム吸着剤を粒状にして所定の容器に収容し、その容器内に塩酸などの酸溶液を通液させる方法が最も適切である。この場合、リチウム吸着剤の前駆体を粒状にする必要がある。本発明は、リチウム吸着剤の前駆体からリチウム吸着用造粒体を得る製造方法に関する。
【0020】
本実施形態に係るリチウム吸着用造粒体の製造方法は、混錬工程を有する。混錬工程では、リチウム吸着剤の前駆体の粉末と、結合剤と、が混錬され、混錬物が得られる。ここで結合剤としては、例えばシリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、酸化カルシウム、二酸化ケイ素、ケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化カルシウムなどの無機バインダー;ベントナイト、カオリナイトなどの粘土系バインダー;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース系バインダー;ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイドなどの高分子バインダーなどを用いることができる。本実施形態では、アルミナゾルを用いることが好ましい。アルミナゾルとは、水を分散媒とした、アルミナ水和物のコロイド溶液であり、例えばカタロイドAP1(日揮触媒化成株式会社)などが該当する。リチウム吸着剤の前駆体とアルミナゾルとの割合は、例えば重量比で4:1である。溶媒としては、各種の水性溶媒または有機溶媒を用いることができる。
【0021】
(造粒工程)
図1に示すように、造粒工程では、混錬工程で得られた混錬物が成型加工され、第1造粒体が得られる。第1造粒体の大きさは特に限定されないが、粒度が0.5mm以上2mm以下の粒状体であることがより好ましい。0.5mm以上の粒度の粒状体からなる場合、本発明の吸着剤を容器に充填して通水した場合に、粒子が容器内で詰まりにくく、容器内で圧損が上昇することを防止できる。また、粒径が2mmより大きい場合はリチウムの吸着速度が遅くなり、吸着効率が悪くなるところ、粒度を2mm以下とすることで、吸着性能を高いものとすることができる。造粒工程では、例えば撹拌混合造粒、転動造粒、押し出し造粒、破砕造粒、流動層造粒、噴霧乾燥造粒(スプレードライ)、圧縮造粒等を採用することができる。本実施形態に係る造粒体の粒度が特定範囲であることは、具体的には、JIS Z8801規格による各粒度に対応する目開きの篩を用いて確認できる。
【0022】
(焼結工程)
図1に示すように、焼結工程では、造粒工程で得らえた第1造粒体が焼結され、第2造粒体が得られる。第1造粒体は、例えば電気炉であらかじめ定められた温度を、あらかじめ定められた時間保持されることで焼結され、第2造粒体となる。
【0023】
温度は、450℃以上800℃以下が好ましく、520℃以上600℃以下がさらに好ましい。保持時間は、4時間以上6時間以下が好ましい。
【0024】
<実施例>
以下、本発明に係るリチウム吸着用造粒体の製造方法の具体的な実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
(実施例1)
リチウム吸着剤の前駆体であるマンガン酸リチウムを造粒する結合剤として、アルミナゾル(カタロイドAP1(日揮触媒化成株式会社))が用いられた。この結合剤が、全体の重量の20%になるよう、リチウム吸着剤の前駆体(Li
1.6Mn
1.6O
4)の粉末と混錬し(混錬工程)、成型加工して第1造粒体を得た(造粒工程)。この第1造粒体を、電気炉を用いて450℃で5時間焼結し、第2造粒体、すなわちリチウム吸着用造粒体を得た(焼結工程)。得られた第2造粒体をガラスカラムに装填し、まずリチウム吸着剤の前駆体(Li
1.6Mn
1.6O
4)を、リチウム吸着剤(H
1.6Mn
1.6O
4)とした後、吸着工程、および溶離工程を実施し、リチウム含有溶液を得た。実施例では、得られたリチウム含有溶液内のマンガンの量を測定し、このマンガンの量が所定の範囲内にあるかどうかを確認した。具体的には、溶離工程ではBV10(BVはBed Volumeの略であり、カラム内のリチウム吸着剤の体積の何倍かを表す単位である。)まで通液し、BV1毎のマンガン濃度を測定した。BV1から10までで溶出したマンガン量の総和を、装填した造粒体の重量で割り、造粒体1グラム当たりのマンガン溶出量を算出した。このマンガン溶出量を表1および
図2に示す。
【0026】
(実施例2)
実施例2でのパラメータは、焼結工程での温度を500℃とした以外は実施例1と同じである。実施例2でのマンガン溶出量を表1および
図2に示す。
【0027】
(実施例3)
実施例3でのパラメータは、焼結工程での温度を520℃とした以外は実施例1と同じである。実施例3でのマンガン溶出量を表1および
図2に示す。
【0028】
(実施例4)
実施例4でのパラメータは、焼結工程での温度を550℃とした以外は実施例1と同じである。実施例4でのマンガン溶出量を表1および
図2に示す。
【0029】
(実施例5)
実施例5でのパラメータは、焼結工程での温度を600℃とした以外は実施例1と同じである。実施例5でのマンガン溶出量を表1および
図2に示す。
【0030】
(実施例6)
実施例6でのパラメータは、焼結工程での温度を700℃とした以外は実施例1と同じである。実施例6でのマンガン溶出量を表1および
図2に示す。
【0031】
(実施例7)
実施例7でのパラメータは、焼結工程での温度を800℃とした以外は実施例1と同じである。実施例7でのマンガン溶出量を表1および
図2に示す。
【0032】
【0033】
表1および
図2から、リチウム吸着用造粒体の製造方法が、焼結工程を含むことにより、リチウム吸着剤の前駆体に含まれる2価のマンガンを4価のマンガンに変えることができ、マンガン溶出量を抑制できる。この焼結工程での温度は、450℃以上800℃以下が好ましく、520℃以上600℃以下がさらに好ましい。保持時間は、4時間以上6時間以下が好ましいことがわかる。