(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062474
(43)【公開日】2023-05-08
(54)【発明の名称】シリコン単結晶引き上げ装置、およびシリコン単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20230426BHJP
C30B 15/20 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
C30B29/06 502K
C30B29/06 502H
C30B15/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021172477
(22)【出願日】2021-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 福生
(72)【発明者】
【氏名】小原 隆
(72)【発明者】
【氏名】川上 泰史
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BA04
4G077CF10
4G077EA03
4G077EA04
4G077EB01
4G077EG24
4G077EG25
4G077EH05
4G077EH10
4G077HA12
4G077PA04
4G077PF55
(57)【要約】
【課題】揮発性ドーパントが添加されたシリコン融液からチョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶引き上げ装置において、有転位化の発生を抑制する。
【解決手段】揮発性ドーパントが添加されたシリコン融液Mからチョクラルスキー法によりシリコン単結晶SMを引き上げるシリコン単結晶引き上げ装置1であって、シリコン融液Mが貯留された坩堝3が格納されているメインチャンバ10と、メインチャンバ10の上方に接続され、シリコン単結晶を取り出すためのプルチャンバ11と、メインチャンバ10とプルチャンバ11との間を遮断するゲートバルブ12と、プルチャンバ11内のガスを排気する排気ポンプ20と、プルチャンバ11と排気ポンプ20とを接続する配管22と、を備え、配管22は、ガスを排気する際のプルチャンバ11の減圧速度を調整する減圧速度調整部21を有するシリコン単結晶引き上げ装置1を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性ドーパントが添加されたシリコン融液からチョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶引き上げ装置であって、
前記シリコン融液が貯留された坩堝が格納されているメインチャンバと、
前記メインチャンバの上方に接続され、前記シリコン単結晶を取り出すためのプルチャンバと、
前記メインチャンバと前記プルチャンバとの間を遮断するゲートバルブと、
前記プルチャンバ内のガスを排気する排気ポンプと、
前記プルチャンバと前記排気ポンプとを接続する配管と、を備え、
前記配管は、前記ガスを排気する際の前記プルチャンバの減圧速度を調整する減圧速度調整部を有するシリコン単結晶引き上げ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のシリコン単結晶引き上げ装置において、
前記配管の一部の内径は、他部の内径よりも小さく、
前記一部が前記減圧速度調整部として機能する、シリコン単結晶引き上げ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のシリコン単結晶引き上げ装置において、
前記配管は、前記プルチャンバに接続された第一配管と、前記第一配管と接続される第二配管と、を有し、
前記一部は、前記第二配管であるシリコン単結晶引き上げ装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のシリコン単結晶引き上げ装置において、
前記配管は、開閉度を変更することで前記ガスの流量を調整可能な流量調整バルブを備え、前記流量調整バルブが前記減圧速度調整部として機能する、シリコン単結晶引き上げ装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のシリコン単結晶引き上げ装置を用いた、シリコン単結晶の製造方法であって、
前記ゲートバルブによって前記メインチャンバと遮断された前記プルチャンバからガスを排気する際に、
前記プルチャンバの内圧が、少なくとも排気開始から前記プルチャンバの内圧が第一圧力値に低下するまでの減圧速度を調整するシリコン単結晶の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のシリコン単結晶の製造方法において、
少なくとも大気圧から90kPaに低下するまでの減圧速度DSは以下の範囲内である、シリコン単結晶の製造方法。
-9.8kPa/秒 ≦ DS ≦ 0kPa/秒
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶引き上げ装置、およびシリコン単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコン融液からチョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶の製造において、シリコン単結晶の抵抗値を低減するために、引き上げ前にドーパントが添加されている。一方で、低抵抗率のシリコン単結晶は、引き上げ途中で有転位化が発生し易いということが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
シリコン単結晶の引き上げ中に有転位化が発生した場合には、既に成長させたシリコン単結晶を再度溶融させて、再度引き上げを行うのが一般的である。ドーパントがリン、ヒ素、アンチモンなどの揮発性ドーパントの場合は、それまでにシリコン融液の表面から蒸発したドーパントを追加で添加しなければならない。
【0004】
単結晶の有転位化が発生したことによりドーパントを追加で添加する際は、引き上げ用のケーブルにドーパント供給装置を取り付けて、このドーパント供給装置を用いてドーパントを添加することが一般的である。ドーパント供給装置の取り付けは、メインチャンバとプルチャンバとの間を遮断し、プルチャンバの内圧を大気圧にした状態で行う。ドーパント供給装置の取り付け後は、プルチャンバ内を真空排気し、不活性ガス雰囲気に置換するガス置換を実施する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、シリコン単結晶の引き上げ中には、シリコン融液の表面から揮発性ドーパントが蒸発し、アモルファスとなってチャンバの内壁に付着することが知られている。このアモルファス由来のパーティクルが引き上げ中のシリコン単結晶に付着することでシリコン単結晶が多結晶化してしまう。
また、上記した真空排気の際にプルチャンバの内圧が急激に減少すると、内壁に付着していたアモルファス由来のパーティクルが舞い上がり、舞い上がったパーティクルが引き上げ中のシリコン単結晶に付着するなどして単結晶の有転位化発生率が高くなってしまう課題がある。
【0007】
そこで、本発明は、揮発性ドーパントが添加されたシリコン融液からチョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶引き上げ装置において、有転位化の発生を抑制することができるシリコン単結晶引き上げ装置、およびこのシリコン単結晶引き上げ装置を用いたシリコン単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のシリコン単結晶引き上げ装置は、揮発性ドーパントが添加されたシリコン融液からチョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶引き上げ装置であって、前記シリコン融液が貯留された坩堝が格納されているメインチャンバと、前記メインチャンバの上方に接続され、前記シリコン単結晶を取り出すためのプルチャンバと、前記メインチャンバと前記プルチャンバとの間を遮断するゲートバルブと、前記プルチャンバ内のガスを排気する排気ポンプと、前記プルチャンバと前記排気ポンプとを接続する配管と、を備え、前記配管は、前記ガスを排気する際の前記プルチャンバの減圧速度を調整する減圧速度調整部を有することを特徴とする。
【0009】
上記シリコン単結晶引き上げ装置において、前記配管の一部の内径は、他部の内径よりも小さく、前記一部が前記減圧速度調整部として機能することが望ましい。
【0010】
上記シリコン単結晶引き上げ装置において、前記配管は、前記プルチャンバに接続された第一配管と、前記第一配管と接続される第二配管と、を有し、前記一部は、前記第二配管であることが望ましい。
【0011】
上記シリコン単結晶引き上げ装置において、前記配管は、開閉度を変更することで前記ガスの流量を調整可能な流量調整バルブを備え、前記流量調整バルブが前記減圧速度調整部として機能することが望ましい。
【0012】
本発明のシリコン単結晶の製造方法は、前記ゲートバルブによって前記メインチャンバと遮断された前記プルチャンバからガスを排気する際に、前記プルチャンバの内圧が、少なくとも排気開始から前記プルチャンバの内圧が第一圧力値に低下するまでの減圧速度を調整することを特徴とする。
【0013】
上記シリコン単結晶の製造方法において、請求項6に記載のシリコン単結晶の製造方法において、少なくとも大気圧から90kPaに低下するまでの減圧速度DSは以下の範囲内である、シリコン単結晶の製造方法。
-9.8kPa/秒 ≦ DS ≦ 0kPa/秒
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、プルチャンバ内のアモルファス由来のパーティクルが舞い上がらず、パーティクルに起因する単結晶の有転位化の発生率を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係るシリコン単結晶引き上げ装置の一実施形態の概略構成を示す縦断面図である。
【
図2】本発明に係るドーパント供給装置の一実施形態の概略構成を示す縦断面図である。
【
図3】実施例および比較例の第二配管の内径、流量調整バルブの開度、減圧速度、パーティクル最大個数、および有転位化発生回数を示す表である。
【
図4】実施例および比較例のプルチャンバの内圧の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
本発明は、坩堝内のシリコン融液に揮発性ドーパントが添加された後のガス置換工程に適用する。シリコン融液の表面から蒸発した揮発性ドーパント、あるいはドーパント供給装置から蒸発した揮発性ドーパントがアモルファスとなってプルチャンバの内壁に付着している可能性が高いからである。特に、揮発性ドーパント供給工程とガス置換工程とを複数回繰り返すシリコン単結晶製造に本発明は好適である。例えば、1つの坩堝から複数本のシリコン単結晶を製造するマルチプリング法、あるいはシリコン単結晶の引き上げ中に有転位化が発生した場合に行う揮発性ドーパントの再添加等において好適に用いることができる。
図1は、本発明に係るシリコン単結晶引き上げ装置1の一実施形態の概略構成を示す縦断面図である。シリコン単結晶引き上げ装置1は、CZ法を用いてシリコン単結晶SMを製造する装置である。
図1に示されるように、シリコン単結晶引き上げ装置1は、チャンバ2と、坩堝3と、ヒーター4と、引き上げ部5と、熱遮蔽体6と、断熱材7と、坩堝軸8と、排気装置9とを備えている。
【0017】
チャンバ2は、シリコン単結晶SMの引き上げを行うメインチャンバ10と、メインチャンバ10の上部に接続され、引き上げられたシリコン単結晶SMが収容されるプルチャンバ11とを備えている。
また、メインチャンバ10とプルチャンバ11の間には、メインチャンバ10とプルチャンバ11との間を遮断するゲートバルブ12が設けられている。
プルチャンバ11には、アルゴン(Ar)ガスなどの不活性ガスをチャンバ2内に導入するガス導入口13が設けられている。メインチャンバ10の下部には、真空ポンプ(図示せず)の駆動により、メインチャンバ10内のガスを排出するガス排気口14が設けられている。
【0018】
坩堝3は、メインチャンバ10内に配置され、シリコン融液Mを貯留する。
ヒーター4は、坩堝3の外側に所定間隔を隔てて配置され、坩堝3内のシリコン融液Mを加熱する。
引き上げ部5は、一端に種結晶SCまたはドーパント供給装置50(
図2参照)が取り付けられるケーブル15と、ケーブル15を昇降及び回転させる引き上げ駆動部16とを備えている。
【0019】
熱遮蔽体6は、引き上げられるシリコン単結晶SMを囲むように設けられ、ヒーター4からシリコン単結晶SMへの輻射熱を遮断する。
坩堝軸8は、坩堝3を下方から支持する支持軸であり、坩堝3を所定の速度で回転及び昇降させる駆動装置(図示せず)に接続されている。
【0020】
排気装置9は、プルチャンバ11内のガスを排気して、プルチャンバ11の内圧を減じる装置である。排気装置9は、プルチャンバ11内のガスを排気する排気ポンプ20と、プルチャンバ11と排気ポンプ20とを接続する配管22と、を備える。
配管22は、プルチャンバ11からガスを排気する際のプルチャンバ11の減圧速度(排気速度)を調整する減圧速度調整部21を備える。
ここで、プルチャンバ11の減圧速度を「調整する」とは、プルチャンバ11の減圧速度を特定の範囲内に収めることを意味する。この「特定の範囲」としては、減圧速度をDSとすると、少なくとも大気圧から90kPaに低下するまでの減圧速度DSの範囲として、以下の数式(1)の範囲を挙げることができる。
-9.8kPa/秒 ≦ DS ≦ 0kPa/秒 ・・・(1)
【0021】
配管22は、プルチャンバ11に接続された第一配管23(配管22の他部)と、第一配管23と排気ポンプ20とを接続する第二配管24(配管22の一部)とを有する。第一配管23上には、プルチャンバ11と排気ポンプ20とを連通させたり切り離したりする機能を有する遮断バルブ26が設けられている。
【0022】
配管22は、配管22の途中に設けられた流量調整バルブ25を有する。
流量調整バルブ25は、開閉度を変更することで配管22を流れるガスの流量を調整するバルブである。本実施形態の流量調整バルブ25は、バタフライバルブである。なお、流量調整バルブ25は、配管22を流れるガスの流量を調整できればよく、バタフライバルブに限らず、ニードルバルブ、ゲートバルブ、グローブバルブ、ボールバルブなどのバルブを採用することができる。
流量調整バルブ25は、減圧速度調整部21として機能する。
なお、減圧速度調整部21としての機能とは、プルチャンバ11内のガスを排気する際にプルチャンバ11の減圧速度を特定の範囲内に収めることが出来れば足り、必ずしも減圧速度を様々な値に変更する機能を含む必要はない。
【0023】
第一配管23の長さは、例えば800mmである。第一配管23の内径は80mmである。第一配管23の内径は50mm以上100mm以下とすることが好ましい。
第二配管24の長さは、例えば1500mmである。第二配管24は、両端部から中央に向かうに従って漸次内径が小さくなるテーパ形状の一対の縮径部24aと、両端部より内径が小さく形成されている本体部24bとを有する。
【0024】
縮径部24aの内径は、最も大きい位置で80mmであり、最も小さい位置で25mmである。本体部24bの内径は、25mmである。本体部24bの内径は、20mm以上30mm以下とすることが好ましい。
第二配管24は、第二配管24の全長の70%以上90%以下が本体部24bとなるように形成されている。なお、「第二配管24の内径」は「第二配管24の本体部24bの内径」と同意である。
【0025】
第二配管24は、第二配管24の内径が第一配管23の内径よりも小さくなるように形成されている。これにより、第二配管24は、減圧速度調整部21として機能する。
なお、一般的には、排気ポンプ20の負荷を軽減するためにプルチャンバ11と排気ポンプ20を結ぶ配管22の内径を大きくし配管抵抗を小さくする。排気ポンプ20の負荷が小さければ、効率的に排気できる、あるいは、より小型の排気ポンプを用いることができるからである。
【0026】
第一配管23および第二配管24は、第一配管23の内径をD1、第二配管24の内径をD2とすると、以下の数式(2)を満たすように形成されている。
1/5 ≦ D2/D1 ≦ 3/5 ・・・ (2)
【0027】
D2/D1が1/5より小さいと、排気時間が長くなり好ましくない。また、D2/D1が3/5より大きいと、減圧速度を十分に低くすることができず好ましくない。
【0028】
排気ポンプ20としては、例えばスクロール型ドライ真空ポンプや、多段ルーツ型ドライ真空ポンプなどのポンプの採用が可能である。
【0029】
次に、本発明の実施形態のシリコン単結晶引き上げ装置1によるシリコン単結晶の製造方法について説明する。
本発明は、電気抵抗率が非常に低いn型シリコン単結晶の製造に好適であり、n型ドーパント(揮発性ドーパント)がヒ素(As)である場合は1.0mΩ・cm以上25mΩ・cm以下、n型ドーパントがリン(P)である場合は0.5mΩ・cm以上25mΩ・cm以下、n型ドーパントがアンチモン(Sb)である場合は8mΩ・cm以上40mΩ・cm以下の電気抵抗率のn型シリコン単結晶の製造に好適である。
【0030】
本実施形態のシリコン単結晶の製造方法では、シリコン単結晶SMの引き上げ中に有転位化が発生した場合には、既に成長させたシリコン単結晶SMを再度溶融させた後、それまでの間にシリコン融液Mの表面から蒸発した揮発性ドーパントに対応する量の揮発性ドーパントを、ドーパント供給装置50(
図2参照)を用いて追加で添加する。
以下、揮発性ドーパントを追加する方法について説明する。揮発性ドーパントを追加する方法は、ゲートバルブ遮断工程と、ドーパント供給装置取り付け工程と、ガス置換工程と、揮発性ドーパント供給工程と、を有する。
【0031】
ゲートバルブ遮断工程では、引き上げ部5の引き上げ駆動部16を操作してケーブル15をプルチャンバ11内に移動させた後、ゲートバルブ12を操作して、メインチャンバ10とプルチャンバ11との間を遮断する。
【0032】
ドーパント供給装置取り付け工程では、プルチャンバ11に設けられた図示しない単結晶取り出し用ドアを開放して、プルチャンバ11内を大気圧にした後、有転位化した単結晶の種結晶SCを取り外し、揮発性ドーパントが収納されたドーパント供給装置50をケーブル15に取り付ける。
【0033】
ドーパント供給装置50は、固体状態の揮発性ドーパントを揮発させて、坩堝3内のシリコン融液Mに添加させる装置である。
図2に示されるように、ドーパント供給装置50は、下方が開放された有底円筒形状のアウター容器51と、アウター容器51の内側に配置され、上方が開放された有底円筒形状のインナー容器52と、を備えている。アウター容器51とインナー容器52とは、周方向の複数箇所で接続部53を介して接続されている。アウター容器51およびインナー容器52は、例えば、透明石英によって形成することができる。
揮発性ドーパントDは、インナー容器52の内部に収納される。なお、ドーパント供給装置50の構成は、上記した構成に限ることはない。
【0034】
ガス置換工程は、ドーパント供給装置50が収容されたプルチャンバ11内を真空排気し、不活性ガス雰囲気に置換する工程である。
ガス置換工程では、まず、プルチャンバ11の単結晶取り出し用ドアを閉じ、遮断バルブ26を閉じた状態で排気ポンプ20を起動する。
次いで、流量調整バルブ25の開度を75%以下に設定した後、遮断バルブ26を開けて真空排気を行い、不活性ガス雰囲気に置換する。流量調整バルブ25の開度は75%以下の一定値に維持する。
【0035】
この際、第二配管24の内径が第一配管23の内径より小さく、かつ、流量調整バルブ25の開度が75%以下とされていることによって、減圧速度は、第二配管24の内径が第一配管23の内径と同じで、かつ、流量調整バルブ25を設けない場合と比較して、低くなる。
【0036】
必要に応じて真空排気を複数回実施して、プルチャンバ11の不活性ガス雰囲気および内圧をメインチャンバ10と同じにし、揮発性ドーパント供給工程を実施する。
【0037】
揮発性ドーパント供給工程では、ゲートバルブ12を開けた後、ドーパント供給装置50をシリコン融液Mの表面に近づける。これにより、ドーパント供給装置50の内部の揮発性ドーパントDが気化してドーパントガスがアウター容器51とインナー容器52との間の隙間を介してシリコン融液Mに添加される。
【0038】
上記実施形態によれば、ガス置換工程の際、減圧速度調整部21によりプルチャンバ11の減圧速度が低くなっていることによって、急激にプルチャンバ11の内圧が減少することがない。これにより、プルチャンバ11内のアモルファス由来のパーティクルが舞い上がらず、パーティクルに起因する単結晶の有転位化の発生率を低減することができる。
【0039】
また、流量調整バルブ25が減圧速度調整部21として機能することによって、流量調整バルブ25を調整することで、所望の減圧速度に調整することができる。
また、配管22が、第一配管23と、流量調整バルブ25が設けられた第二配管24と、を有し、第二配管24の内径が第一配管23の内径よりも小さいことによって、流量調整バルブ25の開度によらず、減圧速度を低減させることができる。
【0040】
上記実施形態では、流量調整バルブ25の開度を75%以下に設定後、流量調整バルブ25の開度を変化させなかったが、これに限ることはない。
具体的には、ゲートバルブ12によってメインチャンバ10と遮断されたプルチャンバ11からガスを排気する際に、プルチャンバ11の内圧が、少なくとも排気開始の大気圧から90kPa(第一圧力値)に減圧する際の減圧速度を調整すればよい。例えば、排気開始後(遮断バルブ26を開けた後)、流量調整バルブ25を漸次開けてプルチャンバ11の内圧が90kPaになった所定のタイミングで流量調整バルブ25の開度を100%にしてもよい。
このように、排気開始後の所定のタイミングで流量調整バルブ25を開けることによって、排気開始直後の減圧速度を低減しながら排気完了までの所要時間を短縮することができる。
【0041】
また、上記実施形態では、配管22が第一配管23と第二配管24とからなる構成としているが、これに限ることはなく、第一配管23を廃し、第二配管24の最上流部に遮断バルブ26を設ける構成としてもよい。
また、配管22に流量調整バルブ25を設ければ、必ずしも配管22の一部の内径を他部の内径よりも小さくする必要はない。すなわち、減圧速度調整部21を、内径が一定の配管22と流量調整バルブ25とからなるものとしてもよい。
また、配管22の一部の内径を他部の内径よりも小さくすれば、必ずしも流量調整バルブ25を設ける必要はない。すなわち、減圧速度調整部21を、配管22の一部の内径が他部の内径よりも小さい配管22のみとしてもよい。
また、上記実施形態では、第二配管24を直線状としているが、これに限ることはなく、第二配管24の本体部24bはベンドした形状であってよい。
【0042】
次に、本発明の実施例および比較例について説明する。
実施例および比較例では、第二配管24の内径および流量調整バルブ25の開度を変更し、プルチャンバ11の内圧の変化、パーティクルの最大個数(個/秒)、および単結晶の有転位化発生回数(回/バッチ)を比較した。
パーティクルの個数は、リアルタイムパーティクルカウンターを用いて、粒径が0.1μm以上のパーティクルの個数を1秒毎に測定した。
有転位化発生回数は、バッチ毎の有転位化発生回数をカウントした。
リアルタイムパーティクルカウンターは、ゲートバルブ12によってメインチャンバ10から遮断されたプルチャンバ11の底部に設置し、プルチャンバ11からガスを排気する際のプルチャンバ11内のパーティクルの個数を計測した。
【0043】
単結晶の有転位化発生回数については、より少ないことが好ましいが、従来の有転位化発生回数の統計などから検討し、従来よりも有転位化発生回数の少ない3.0回/バッチ以下とすることを目標とした。
【0044】
図3は、実施例および比較例の第二配管24の内径、流量調整バルブ25の開度、大気圧(101.325kPa)から90kPaまでの減圧速度(kPa/秒)、パーティクル最大個数(個/秒)、および有転位化発生回数(回/バッチ)を示す表である。
図4は、実施例および比較例のプルチャンバ11の内圧の変化を示すグラフである。
図4の横軸は時間(秒)、縦軸はプルチャンバ11の内圧(kPa)である。
【0045】
図3および
図4に示されるように、第二配管24の内径を25mm、流量調整バルブ25の開度を100%とした実施例1では、減圧速度が-9.8kPa/秒となった。また、第二配管24の内径を25mm、流量調整バルブ25の開度を75%とした実施例2では、減圧速度が-5.4kPa/秒となった。さらに、第二配管24の内径を25mm、流量調整バルブ25の開度を50%とした実施例3では、減圧速度が-2.1kPa/秒となった。
一方、第二配管24の内径を80mm、流量調整バルブ25を設けなかった比較例1では、減圧速度が-13.7kPa/秒となった。
【0046】
図3に示されるように、減圧速度が-13.7kPa/秒であった比較例1では、パーティクルの最大個数が138個/秒で、有転位化発生回数は3.5回/バッチとなった。
一方、比較例1と比べて第二配管24の内径を小さくし、減圧速度が-9.8kPa/秒であった実施例1では、パーティクルの最大個数が93個/秒で、有転位化発生回数は3.0回/バッチとなり、有転位化発生回数3.0回/バッチ以下の目標を達成できた。
【0047】
また、第二配管24の内径を25mm、流量調整バルブ25の開度を75%とし、減圧速度が-5.4kPa/秒であった実施例2でも、パーティクルの最大個数が47個/秒で、有転位化発生回数は2.5回/バッチとなり目標を達成することができた。
さらに、第二配管24の内径を25mmとし、流量調整バルブ25の開度を50%とした実施例3では、パーティクルの最大個数が11個/秒で、有転位化発生回数は2.1回/バッチとなりさらに良好な結果となった。
【0048】
以上の結果より、減圧速度調整部21を備えるシリコン単結晶引き上げ装置1において、第二配管24の内径を第一配管23よりも小さくすることによって、有転位化発生回数を3.0回/バッチ以下にできることがわかった。すなわち、第二配管24の内径を第一配管23よりも小さくして、少なくとも大気圧から90kPaに低下するまでの減圧速度DSを以下の数式(3)の範囲内とすることが好ましい。
-9.8kPa/秒 ≦ DS ≦ 0kPa/秒 ・・・ (3)
【0049】
また、第二配管24の内径を第一配管23よりも小さくし、かつ、流量調整バルブ25の開度を75%以下にすることによって、有転位化発生回数を2.5回/バッチ以下にできることがわかった。すなわち、第二配管24の内径を第一配管23よりも小さくし、かつ、流量調整バルブ25の開度を75%以下にすることによって、少なくとも大気圧から90kPaに低下するまでの減圧速度DSを以下の数式(4)の範囲内とすることがより好ましい。
-5.4kPa/秒 ≦ DS ≦ 0kPa/秒 ・・・ (4)
【符号の説明】
【0050】
1…シリコン単結晶製造装置、2…チャンバ、3…坩堝、4…ヒーター、5…引き上げ部、6…熱遮蔽体、7…断熱材、8…坩堝軸、9…排気装置、10…メインチャンバ、11…プルチャンバ、12…ゲートバルブ、13…ガス導入口、14…ガス排気口、15…ケーブル、16…引き上げ駆動部、20…排気ポンプ、21…減圧速度調整部、22…配管、23…第一配管、24…第二配管、24a…縮径部、24b…本体部、25…流量調整バルブ、26…遮断バルブ、50…ドーパント供給装置、M…シリコン融液、SC…種結晶、SM…シリコン単結晶。