(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062502
(43)【公開日】2023-05-08
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20230426BHJP
C30B 1/06 20060101ALI20230426BHJP
H01L 21/20 20060101ALI20230426BHJP
H01L 21/203 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B1/06
H01L21/20
H01L21/203 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021172512
(22)【出願日】2021-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐沢 洋幸
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智久
【テーマコード(参考)】
4G077
5F103
5F152
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BE08
4G077CA05
4G077CA09
4G077ED04
4G077ED06
4G077EG16
4G077EG19
5F103AA01
5F103BB60
5F103DD17
5F103GG01
5F103HH03
5F103KK10
5F103NN01
5F103PP02
5F103RR08
5F152LL02
5F152LM04
5F152MM18
5F152NN05
5F152NN27
5F152NQ02
(57)【要約】
【課題】エピタキシャル膜を、低コストで形成する半導体装置の製造方法を実現する。
【解決手段】単結晶の半導体で主面となる第1面を有する種結晶103、および、種結晶103と同じ材料組成を持つ単結晶の半導体で主面となる第2面を有する原料結晶105、を準備し、第1面と第2面とを接触させて配置する工程と、その工程の後、種結晶103側よりも原料結晶105側の温度が高くなる温度勾配を設けて種結晶103および原料結晶105を加熱することで、原料結晶105が接する種結晶103の第1面の上に、エピタキシャル膜を形成する工程とを有する、半導体装置の製造方法を用いる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)単結晶の半導体で主面となる第1面を有する種結晶、および、前記種結晶と同じ材料組成を持つ単結晶の半導体で主面となる第2面を有する原料結晶、を準備し、前記第1面と前記第2面とを接触させて配置する工程、
(b)前記(a)工程の後、前記種結晶側よりも前記原料結晶側の温度が高くなる温度勾配を設けて前記種結晶および前記原料結晶を加熱することで、前記原料結晶が接する前記種結晶の前記第1面の上に、エピタキシャル膜を形成する工程、
を有する、半導体装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置の製造方法において、
前記種結晶の前記第1面の面積は、前記原料結晶の前記第2面の面積よりも大きく、
前記(b)工程では、前記種結晶の前記第1面上で前記原料結晶の前記第2面と接触する領域に選択的に前記エピタキシャル膜を形成する、半導体装置の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の半導体装置の製造方法において、
前記原料結晶は、前記第2面に露出する第1p型領域と第1n型領域とを有し、前記エピタキシャル膜は、前記第1p型領域と前記第1n型領域とのそれぞれに対応する第2p型領域および第2n型領域とを有している、半導体装置の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法において、
前記種結晶および前記原料結晶は炭化珪素である、半導体装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法において、
前記種結晶の前記第1面および前記原料結晶の前記第2面は、鏡面加工されている、半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造方法であって、特に単結晶の成長工程を有するものに関する。
【背景技術】
【0002】
現在SiCバルク単結晶の成長方法としては、昇華法(PVT:Physical Vaper Transport)および溶液法などが知られており、商用的には昇華法が採用されている。一方、SiC基板へのエピタキシャル結晶成長法としては、シランまたは炭化水素などのガス原料を用いたCVD法が主流である。
【0003】
特許文献1には、SiC基板へのエピタキシャル結晶成長法として超近接昇華成長法が記載されている。これは、種となる単結晶SiC基板(例えば4H-SiC)に対向させて、原料となる高純度SiC焼結体からなる原料を近接又は密接させて配置(例えば0~0.6mm以下)し、1600~2100度に加熱して、種となる単結晶SiC基板の表面にエピタキシャル成長で単結晶SiC薄膜を成長する結晶成長方法である。
【0004】
特許文献2には、種結晶となるα-SiC単結晶基板(6H-SiCまたは4H-SiC)上に、99%以上の高純度SiC焼結体からなる原料をその一部の接触を含めて重ね合わせ配置した状態で、α-SiC単結晶基板側が低温に保たれるような温度差を持たせて熱処理することが記載されている。この工程により、α-SiC単結晶基板に接する焼結体部分を低温に保たれるα-SiC単結晶基板上で再結晶させて、α-SiC単結晶基板の結晶軸と同方位に配向された単結晶を一体に成長させる。
【0005】
非特許文献1には、種となる単結晶3C-SiC基板に対向させて、原料となる単結晶または多結晶のSiCウェハを0.5~1mmの間隔で配置し、1600~1800度に加熱して、温度勾配が低い側の種となる単結晶3C-SiC基板の表面にエピタキシャル成長で単結晶3C-SiC薄膜を成長する結晶成長方法(Sublimation epitaxy)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-339397号公報
【特許文献2】特開2000-1399号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】F. La Via et al., Materials Science in Semiconductor Processing, 78, (2018), pp.57-68
【非特許文献2】Yuchen Shi et al., "A comparative study of high-quality C-face and Si-face 3C-SiC(111) grown on off-oriented 4H-SiC substrates",J. Phys. D: Appl. Phys. 52, (2019), 345103
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
半導体結晶基板は様々な導電型/濃度の結晶が、基板上に3次元的に配置され構成されている。半導体装置の製造工程では、様々な結晶が層状に種基板全面に成長された基板を出発物として、所望の3次元的配置となるようリソグラフィー、エッチング、不純物拡散などのプロセスを用いてトップダウン的に形成することが考えられる。このように、多くの装置を使用して多段階プロセスにより半導体装置の製造を行う場合、製造コストが高いという問題がある。
【0009】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される実施の形態のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0011】
一実施の形態である半導体装置の製造方法は、単結晶の半導体で主面となる第1面を有する種結晶、および、種結晶と同じ材料組成を持つ単結晶の半導体で主面となる第2面を有する原料結晶、を準備し、第1面と第2面とを接触させて配置する工程と、その工程の後、種結晶側よりも原料結晶側の温度が高くなる温度勾配を設けて種結晶および原料結晶を加熱することで、原料結晶が接する種結晶の第1面の上に、エピタキシャル膜を形成する工程と、を有するものである。
【発明の効果】
【0012】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0013】
本発明によれば、半導体装置の製造コストを抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態1である半導体装置の製造工程を示す概略図である。
【
図2】
図1に続く半導体装置の製造方法を示す概略図である。
【
図3】表面が未処理の種結晶を用いて成長させたエピタキシャル膜のX線回折ロッキングカーブを示すグラフである。
【
図4】表面がエッチング処理済みの種結晶を用いて成長させたエピタキシャル膜のX線回折ロッキングカーブを示すグラフである。
【
図5】エピタキシャル膜の成長レートの温度依存性を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施の形態2である半導体装置の製造工程を示す斜視図である。
【
図7】本発明の実施の形態2の変形例1である半導体装置の製造工程を示す概略図である。
【
図8】本発明の実施の形態3である半導体装置の製造工程を示す概略図である。
【
図9】本発明の実施の形態3である半導体装置の製造方法を説明する概略図である。
【
図10】
図9に続く半導体装置の製造方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なときを除き、同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。また、実施の形態を説明する図面においては、構成を分かり易くするために、平面図または斜視図などであってもハッチングを付す場合がある。さらに、実施の形態を説明する図面においては、構成を分かり易くするために、断面図においてハッチングを省略する場合がある。
【0016】
(実施の形態1)
本発明者らは、昇華法とは異なるエピタキシャル成長法として、原料を表面平滑な単結晶とし、これを種結晶の表面に接触するように配置した状態で昇温することでエピタキシャル成長を行うエピタキシャル成長法を検討した。以下に説明する実施例により、発明者らは、当該エピタキシャル成長法を用いることで、欠陥の少ない結晶を成長させられることを見出した。本実施の形態は、2つの単結晶を接触させた後、両結晶面に温度差を持たせつつ昇温させることにより、低温側の接触面に高品質な単結晶をエピタキシャル成長させるものである。
【0017】
すなわち、本実施の形態の半導体装置の製造方法は、単結晶の半導体基板の1つの主面に、半導体基板と同じ材料組成を持つ単結晶の原料半導体の1つの面を接触させて配置する工程と、半導体基板側よりも原料半導体側の温度が高くなる温度勾配を設けて半導体基板および原料半導体を加熱することで、原料半導体が接する半導体基板の主面の上に、エピタキシャル膜を形成する工程、とを有するものである。
【0018】
<実施例>
以下に実施例について図を用いて説明する。
図1は、本実施例においてエピタキシャル成長に用いる成膜装置である。
【0019】
図1に示すように、成長装置は、成長室110を有している。成長室110の周囲にはRFコイルによる原料加熱機構102が配置されている。
図1では原料加熱機構102の上下断面のみを図示している。成長室110内には、断熱機構114と、断熱機構114の上面に接して配置された多結晶SiCサセプター113と、多結晶SiCサセプター113の上面に接して配置された原料結晶105と、原料結晶105を挟むように原料結晶105の横に配置された仕切り部材106とが配置されている。原料結晶105は、上側の主面と、当該主面の反対側の裏面とを有している。
【0020】
原料加熱機構102には、RFコイルによる誘導加熱を用いたが、抵抗加熱または赤外線ランプ加熱などを用いてもよい。
【0021】
成長室110内には、ガス109を供給することが可能である。ガス109は、例えば、エピタキシャル膜の成長を促進する昇華促進ガス(例えばH2(水素)またはHCl(塩酸))または冷却ガス(例えばAr(アルゴン))などを含む。仕切り部材106は、ガス109に対して耐性を有し、原料結晶105から離間するように配置されている。また、成長室110は、内部の気体を外部に排気する排気機構111を備えている。
【0022】
原料結晶105上には、原料結晶105の主面(上面)に接するように、種結晶103を配置する。すなわち、成長室110内にて、4H-SiCの単結晶からなる原料結晶105と、4H-SiCの単結晶からなる種結晶103とを、それぞれのSi極性面同士を対向させて接触させる。このように、原料結晶105と種結晶103とは、互いに同じ材料組成を持つ。以下では、原料結晶105と種結晶103との接触面を単に接触面と呼ぶ場合がある。
【0023】
なお、
図1では原料結晶105よりも、種結晶103の接触面積が小さい態様を例示しているが、両者の面積関係に制限はない。実施の形態2等で後述するように原料結晶よりも、種結晶の接触面積が大きくてもよい。また、両者が同じ大きさであってもよく、例えば同じ大きさの市販の単結晶基板(ウェハ)を直接使用することでもできる。また原料結晶105はその形状等に応じて原料結晶基板、原料半導体、原料半導体基板または板状の結晶片などのように呼ぶこともできる。同様に種結晶103も、種結晶基板、種半導体、種半導体基板、被成長結晶、被成長基板または板状の結晶片などのように呼ぶこともできる。また原料結晶、種結晶に、単結晶ウェハの上にエピタキシャル層が形成されているエピタキシャルウェハを用いてもよい。
【0024】
エピタキシャル成長を行う工程では、まず、成長室110を減圧後、昇華促進ガスであるH2(水素)を成長室110内に40SLMの流量で導入し、成長室110内を200mbarの圧力に保った。次に、原料加熱機構102により、多結晶SiCサセプター113を、原料結晶105が1600度となるよう加熱し、60分間その状態を保持した。つまり、原料結晶105を構成する材料が昇華する温度で加熱を行う。このとき、多結晶SiCサセプター113により原料結晶105が過熱されるが、それよりも高い温度で種結晶103を過熱する機構は存在しないため、温度勾配により、種結晶103は原料結晶105よりも低温となる。
【0025】
これにより、
図2に示すように、原料結晶105と種結晶103との間に、4μmの厚さを有するSiC単結晶であるエピタキシャル膜112をエピタキシャル成長した。エピタキシャル膜112は種結晶103の表面(接触面)上に成長したものであり、種結晶103に対し固定されている。これに対し、エピタキシャル膜112は原料結晶105の主面から容易に離すことができる。
【0026】
具体的な結晶成長の実験は、以下の表1に示す結晶成長1~3の3通りの条件で行った。
【0027】
【0028】
ここで、原料結晶105は、(0001)面(Si面)から4°オフした面に主面を持つ市販の4H-炭化珪素(SiC)単結晶ウェハ(厚さ約400μm)から切りだした板状の結晶片を用いた。また、種結晶103は、(0001)面(Si面)から0.07°または1.0°オフした面に主面を持つ市販の4H-炭化珪素(SiC)単結晶ウェハ(厚さ約400μm)から切り出した板状の結晶片を用いた。原料結晶105および種結晶103の主面は鏡面加工されており、その表面粗さは、RMS粗度で0.01~2nm程度である。結晶成長中は原料結晶105および種結晶103のそれぞれの鏡面加工された主面同士を対向させて接触させた。原料結晶105は導電型をn型とするための窒素不純物を1×1019cm-3程度の濃度で含み、種結晶103は窒素を含まない半絶縁(SI)型である。ここで原料結晶105のオフ角は4°を用いたがこれには限定されず、0°~10°あるいはこれを超えるオフ角であってもよい。
【0029】
<結晶成長1>
種結晶103のオフ角が0.07°のものを使用した場合、成長したエピタキシャル膜112の結晶の多型は3Cだった。ここで、
図3に、本実施例で形成するエピタキシャル膜112のX線回折ロッキングカーブのグラフを示す。当該グラフの縦軸は、基板の最表面をX線回折法により結晶性を評価するために用いられる検出器で検出したX線のカウント数、つまり強度を示す。また、当該グラフの横軸は、結晶の軸の揺らぎの角度を示す。なお、ここでは、エピタキシャル成長の前に種結晶103に対しエッチング処理などを行っていない。
図3に示すように、(111)からのX線回折ロッキングカーブの半値幅aは15s(秒)だった。これは、バルク単結晶を成長するための昇華法単結晶成長装置で4H-SiC基板の表面に3C-SiCエピタキシャル膜を成長した場合に得られる一般的な値である70~140s(非特許文献2参照)と比べてとても低い数値であり、本実施例により成長した結晶の欠陥が少ないことを示すものである。
【0030】
ここで、回転選択性の評価をすると、回転選択性の比は1:1であり回転選択性が観察されず、3C-SiCで発生し易いと言われている双晶が顕著に発生していることが分かった。回転選択性の評価は、X線回折法におけるファイスキャンのピーク強度比から見積もる。回折面は3C-SiC結晶の(113)面である。この面は平面内で3回回転対称であり、この面のファイスキャンを行うと120度間隔に3本の回折ピークが現れる。双晶は2つの3C-SiC結晶が面内で60度回転して成長したものであるため、双晶が存在すると60度間隔に6本のピークが現れる。1セットの120度間隔の3本のシグナルカウント合計ともう1セットの3本のカウント合計との比をもって回転選択性とする。比が1の場合は回転選択性なし、有意に1ではないと判断される場合選択性あり、である。回転選択性なしということは、双晶が顕著に発生していることを意味する。
【0031】
また、エピタキシャル膜112は3C-SiCに窒素がドーピングされた際に特徴的な黄色をしていた。
【0032】
<結晶成長2>
結晶成長2においても成長したエピタキシャル膜112の結晶の多型は3Cだった。結晶成長2における成長前の種結晶103の成長面へのエッチング処理は、プロパンガス1sccmと水素ガス40SLMとの混合ガスを15分間流すことにより行った。
図4に結晶成長2の、エピタキシャル膜112のX線回折ロッキングカーブのグラフを示す。
図4に示すように、(111)からのX線回折ロッキングカーブの半値幅bは26sだった。こちらも、昇華法でエピタキシャル膜を成長した場合に得られる一般的な値である70~140s(非特許文献2)と比べてとても低い数値であり、本実施例により成長した結晶の欠陥が少ないことを示すものである。
【0033】
さらに双晶の発生を確認するためX線回析法によるファイスキャン測定をしたところ、回転選択性は10:1になっており、双晶の発生を抑えられている。すなわち、種結晶103に対しエッチング処理を行うことで、双晶の発生を抑え、高品質なエピタキシャル膜を成膜することができる。
【0034】
なお、ここでいう双晶とは、3C-SiCに顕著な現象であり、面内で60度回転した2つの方位の結晶が接触して混在することを意味する。別の表現をすれば、ABCABC・・・とACBACB・・・の積層体とが接触して混在することを意味する。それらの2つの結晶の境界では、結晶欠陥が形成され易い。したがって、双晶の発生を抑えることで、結晶欠陥の少ない高品質なエピタキシャル膜を成膜することができる。
【0035】
また、結晶成長2でもエピタキシャル膜112は、3C-SiCに窒素がドーピングされた際に特徴的な黄色をしていた。
【0036】
<結晶成長3>
また、オフ角が1.0°の種結晶103を使用した場合、成長したエピタキシャル膜112の結晶の膜厚はオフ角が0.07°の場合と同じく4μmだったが、当該結晶の多型は4Hだった。ここで結晶成長1および2で見られたような双晶の発生は観察されなかった。これはエピタキシャル膜112の多型が4Hであるためで、一般に4Hでは3Cに見られるような双晶の発生は起こらないためである。エピタキシャル膜112は4H-SiCに窒素がドーピングされた際に特徴的な緑色をしていた。
【0037】
以上の結晶成長1~3の結果から以下のような知見が得られた。
【0038】
すなわち、種結晶103のオフ角を変えることにより、成長するエピタキシャル膜の多型を制御できる。つまり、4H-SiCからなる種結晶103上に、4H-SiCからなるエピタキシャル膜112を成長させるホモエピタキシャル成長を行うことができ、3C-SiCまたは6H-SiCなどからなるエピタキシャル膜112を成長させるヘテロエピタキシャル成長を行うこともできる。種結晶のオフ角を0~0.3度にすると3C-SiCの選択性が高まり、その角度以上では4H-SiCの選択性が高まる.
一般的に、3C結晶はノンドープの場合は無色透明でN(窒素)をドープすると黄色になり、4H結晶はノンドープの場合には無色透明でN(窒素)をドープすると緑色になることが知られている。今回成長したものは3C結晶が黄色、4H結晶が緑色だったため、それぞれN(窒素)がドープされていることが確認できた。これは、原料結晶105に含まれる窒素がエピタキシャル膜中に取り込まれたことを示す。すなわち、原料結晶105のドーパント濃度を変えることにより、エピタキシャル膜の導電型および不純物濃度を制御できる。言い換えれば、成長するエピタキシャル膜112の導電型および不純物濃度は、原料結晶の導電型および不純物濃度から転写された状態となる。
【0039】
図5に、エピタキシャル膜の成長レートと温度との関係をグラフに示す。
図5の縦軸は、エピタキシャル膜の成長レートであり、横軸は原料結晶の温度Tg(具体的には、原料結晶を搭載したサセプターの表面温度)である。その他の成長条件は前述した結晶成長1と同じである。
図5に示すように、原料結晶の温度が高いほど、成長レートは大きくなる。したがって、エピタキシャル膜の成長レートは、温度により制御可能である。
【0040】
本発明者らは、本実施例において、エピタキシャル成長は、
図1に示す種結晶103と原料結晶105との接触面の種結晶103側だけで起こったことを確認した。結晶成長1と同じ条件で、種結晶103と原料結晶105とを対向させたまま、上下を反転させ前述と同じ操作を行ったところ、原料結晶105の接触面だけに4H-SiCの成長が起こった。つまり、
図1の種結晶103と原料結晶105との相互の位置を換えたところ、種結晶103に比べて誘導加熱される多結晶SiCサセプター113側から遠い位置に配置された原料結晶105の表面においてエピタキシャル膜が成長した。このことから、エピタキシャル成長は2つの基板同士の接触面のうち低温側の面で起こることが分かる。
図1に示す構造では、多結晶SiCサセプター113、断熱機構114、ガス109の位置関係から、多結晶SiCサセプター113側の原料結晶105の温度が種結晶103よりも常に高いため、エピタキシャル膜112は種結晶103の表面に成長した。
【0041】
<本実施の形態の効果>
非特許文献2のバルク単結晶のための昇華法で4H-SiC基板表面に成長した3C-SiCに比べX線回折ロッキングカーブの半値幅を減少させることができた。すなわち、原料の結晶表面と種結晶の表面とを接触させた状態で昇温することで3C-SiCエピタキシャル成長を行えば、欠陥の少ない高品質な結晶(エピタキシャル膜)を形成できる。つまり、半導体装置の性能を向上できる。
【0042】
3C-SiCエピタキシャル膜の成長においては、種結晶の成長面の前処理(エッチング処理)をして上述の結晶成長法を採用することで、双晶の発生度を抑制することができる。
【0043】
本実施の形態において、エピタキシャル成長は、2つの結晶同士の接触する領域のみで起こる。このため、接触部位を選択することにより、エピタキシャル結晶を部分的かつ位置を選択して成長させることができる。このことについては、実施の形態2において
図6を用いて後述する。
【0044】
また、種結晶の成長面のオフ角を制御することにより、エピタキシャル結晶の多型を制御することができる。
【0045】
さらに、高温側の結晶が含む不純物は、エピタキシャル結晶に接触面を介して取り込まれる。そのため、導電型、不純物濃度、多型の異なる様々なエピタキシャル結晶を3次元的に成長し配置することができる。したがって、昇華法を用いてエピタキシャル成長を行い、かつ、成膜とパターニングを繰り返して半導体層からなる3次元的なパターンを形成する場合に比べ、少ないプロセスで低コストに半導体装置を製造できる。
【0046】
(実施の形態2)
本実施の形態において、エピタキシャル成長は、2つの結晶同士の接触する領域のみで起こる。このため、
図6に示すように、接触部位を選択することにより、エピタキシャル結晶を部分的かつ位置を選択して成長させることができる。本発明者らは、この実施の形態の概念を「エピスタンプ」と命名した。すなわち、種結晶主面の任意の場所にスタンプを押すように原料結晶の材料を転写することができる。
図6には、
図1と異なり種結晶3aを下側に配置し、その上方から原料結晶5pまたは5nを種結晶3aの主面に接触させた状態でエピタキシャル成長を行った場合における、製造工程中の半導体装置の斜視図を示す。ここで行うエピタキシャル成長工程では、上側の原料結晶5p、5nを、下側の種結晶3aよりも高い温度に加熱してエピタキシャル膜12p、12nを形成する。
【0047】
原料結晶5pはp型の導電型を有し、支持体17pの下面に保持されている。支持体17n、17pは、後述する実施の形態3でも説明するように、それぞれ種結晶3aの主面のX-Y平面に対して移動でき、さらに接近と離間を垂直方向(Z方向)で可能とする図示されない移動機構(アクチュエータ)に接続されている。原料結晶5nはn型の導電型を有し、支持体17nの下面に保持されている。種結晶3aの主面の面積は、原料結晶5p、5nのそれぞれの下面の面積よりも大きい。支持体17pまたは17nを移動させることで、種結晶3aの主面の所望の位置に所望の導電型および所望の不純物濃度を有するエピタキシャル膜12pまたは12nを形成可能である。エピタキシャル膜12p、12nは、平面視において、互いに隣接させて形成することも、互いに重ねて形成することも可能である。すなわち、種結晶3aの主面のうち、原料結晶5pまたは5nの下面と接する領域上に選択的にエピタキシャル膜12pまたは12nを形成できる。
【0048】
<変形例1>
以下のようにして、原料基板の表面の溝構造を、種結晶に転写することも可能である。
【0049】
すなわち、
図7に示すように、半導体ウェハである種結晶3bと、種結晶3bと同じ直径を有する半導体ウェハである原料基板5bとを用意し、原料基板5bの主面全面に、当該主面に沿う第1方向に複数並ぶ溝を有する溝構造を形成する。その後、種結晶3bの主面に原料基板5bの主面を接触させた状態で、上述したエピタキシャル成長工程を行うことにより、種結晶3bの主面上に当該溝構造を転写できる。つまり、種結晶3bの主面上に、当該主面に沿う第1方向に延在するエピタキシャル膜12bを、平面視で第1方向に直交する第2方向に複数並ぶ構造を形成できる。
【0050】
(実施の形態3)
以下では、
図1および
図2を用いて説明した工程とは異なり、種結晶を下側に配置し、その上方から原料結晶を種結晶の主面に接触させた状態でエピタキシャル成長を行う場合について説明する。また、ここでは、種結晶の主面に沿う方向においてn型層とp型層とが繰り返し配置された構造を有する原料結晶を用いる場合について説明する。
【0051】
本実施の形態の半導体装置の製造方法は、原料半導体は、その1つの面に露出するp型領域とn型領域とを有し、製造されるエピタキシャル膜は、それらの第1p型領域および第1n型領域に対応する第2p型領域および第2n型領域を有するものである。つまり、第2p型領域および第2n型領域が、その配置、平面視における形状、導電型および不純物濃度が、第1p型領域および第1n型領域のそれぞれに対応するものである。
【0052】
本実施の形態は、基板の層方向にp型層とn型層を繰り返し形成した基板を垂直に切断し、そのp型層とn型層が露出した切断面を原料結晶の一つの面として利用するものである。
【0053】
ここでは、まず、
図8に示すように、半導体基板SB上に、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法などを用いて、n型領域(n型層)NR1とp型領域(p型層)PR1とを交互に繰り返し積層する。n型領域NR1およびp型領域PR1のそれぞれの膜厚は、例えば5μmである。続いて、n型領域NR1およびp型領域PR1からなる積層膜を切り出して当該積層膜の表面を研磨することで、当該積層膜からなる原料結晶(原料単結晶)5を用意する。つまり、原料結晶5は、pn繰り返し構造を有する。なお、ここではn型領域NR1およびp型領域PR1のそれぞれをCVD法により成膜することについて説明したが、n型領域とp型領域とからなる繰り返しの積層構造は、イオン注入法により形成してもよい。上記のようにして用意した原料結晶5を用いて、以下に説明する成膜装置を用いてエピタキシャル成長を行う。
【0054】
図9に示すように、本実の形態の成膜装置は、
図1の装置と同様に成長室10、サセプター13、加熱機構(種結晶加熱機構)14および仕切り部材6を有している。ここでは、サセプター13上に種結晶3を配置している。種結晶3は、主面と、当該主面の反対側の裏面とを有している。成長室10は、成長雰囲気と内部の圧力とを所望の値に保つものである。サセプター13は、耐熱性を有し、例えばSiC(炭化珪素)、TaC(炭化タンタル)またはグラファイトにより構成されている。加熱機構14は、RF(Radio Frequency、コイル)または抵抗加熱機構である。仕切り部材6は、高温耐性を有し、下記の昇華促進ガス9に対し耐性を有する。
【0055】
また、成長室10内において、種結晶3の主面の上方には、当該主面に沿う方向(横方向、水平方向)および当該主面に対して垂直な方向(縦方向)に移動可能な支持体17が配置されている。支持体17は、3軸位置決め機構1と、3軸位置決め機構1の下面に固定された断熱セパレーター15と、断熱セパレーター15の下面に固定された原料加熱機構2とを有している。支持体17の下面には、
図8で用意した原料結晶5を、原料加熱機構2の下面に接するように保持している。3軸位置決め機構1は、原料結晶5を種結晶3の主面の所望の位置に接触させるために、支持体17を移動させる機構である。原料結晶5の下面は、上述した切り出しおよび研磨の工程により平坦化されている。
【0056】
成長室10内には、必要に応じて、冷却・シールガス7、シールガス8および昇華促進ガス9を供給可能である。また、成長室10内には、冷却ガス16を供給可能である。冷却・シールガス7は、不活性なガスであり、例えばN
2(窒素)またはAr(アルゴン)が用いられる。シールガス8は、原料加熱機構2を腐食しないものであり、例えばAr(アルゴン)が用いられる。昇華促進ガス9は、原料結晶5をエッチングする、またはエピタキシャル膜12(
図9参照)の成長を促進するものであり、例えばH
2(水素)またはHCl(塩酸)が用いられる。冷却ガス16には、例えばAr(アルゴン)が用いられる。また、成長室110は、内部の気体を外部に排気する排気機構11を備えている。
【0057】
本実の形態では、あらかじめ種結晶3の主面が一部露出する開口部を除いて種結晶被覆体4で覆われた基板を準備する。種結晶被覆体4は、原料結晶5と接触していない種結晶3の表面が水素によりエッチングされることを防ぐ役割を有する。したがって、種結晶被覆体4は、成長部分以外の表面保護が必要ない場合には設けなくてもよい。この基板は、まず、種結晶3の主面に例えばSiN(窒化シリコン)からなる種結晶被覆体4を形成する。続いて、種結晶被覆体4に、フォトリソグラフィー技術およびエッチングで深さ20μmの開口部を形成して種結晶3の主面の一部を露出させる。
【0058】
次に、当該開口部が形成された種結晶3を成長室10内にセットする。成長室10内では、当該開口を通じ、当該開口の底部で露出する種結晶3の主面に原料結晶5を接触させる。成長室10を減圧後、昇華促進ガス9を導入し、成長室10を200mbarの圧力に保つ。
【0059】
次に、原料加熱機構2により、原料結晶5の温度を1600度になるよう加熱し、加熱機構14により、種結晶3の温度を1550度の温度になるよう加熱し、80分間その状態を保持する。つまり、ここでは、上側の原料結晶5を、下側の種結晶3よりも高い温度に加熱し、その状態を維持する。
【0060】
これにより、
図10に示すように、原料結晶5と接触していた種結晶3の面(接触面)には、原料結晶5が有するpn繰り返し構造に対応するpn繰り返し構造を有するエピタキシャル膜(エピタキシャル結晶)12が、エピタキシャル成長する。エピタキシャル膜12は、例えば50μmの厚さを有する。続いて、種結晶被覆体4をHF(フッ化水素)水溶液にてエッチングして除去することで、主面上の一部分にpn繰り返し結晶が配置された結晶基板(種結晶3)を得ることができる。
【0061】
すなわち、種結晶被覆体4の主面上に形成されたエピタキシャル膜12は、種結晶被覆体4の主面に沿う方向において繰り返し並ぶn型領域NR2およびp型領域PR2を有している。このようにして形成したエピタキシャル膜12のpn繰り返し構造は、例えば、スーパージャンクション構造のMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)のpカラムおよびnカラムとして用いることができる。
【0062】
<本実施の形態の効果>
本実施の形態の半導体装置の製造方法を用いず、基板の主面方向に並ぶpn繰り返し構造を形成する場合には、次のような工程を要する。すなわち、まず、基板上にn型のエピタキシャル膜をCVD法などを用いてエピタキシャル成長させる。次に、フォトリソグラフィー技術によりストライプ状のマスクパターンを形成した後、当該マスクパターンをイオン注入阻止用のマスクとして用いてp型の不純物イオンをエピタキシャル膜にイオン注入することで、複数並ぶpカラムを形成する。次に、半導体層が所望の厚みとなるまで活性化アニールを複数回繰り返し行い、これにより所望のpn繰り返し構造を作製する。
【0063】
または、基板上にn型のエピタキシャル膜をCVD法などを用いてエピタキシャル成長させる。次に、フォトリソグラフィー技術によりストライプ状のマスクパターンを形成した後、当該マスクパターンをエッチング防止用のマスクとして用いて、エピタキシャル膜にストライプ状に複数の溝を形成する。次に、エピタキシャル成長法により、それらの溝のそれぞれを埋め込むp型のエピタキシャル膜(pカラム)を形成する。これにより所望のpn繰り返し構造を作製する。
【0064】
上記ように、複数種類の工程を行って、pn繰り返し構造を作製する場合、半導体装置の製造コストが高いという問題がある。
【0065】
これに対し、本実施の形態の半導体装置の製造方法では、pn繰り返し構造を持つ原料結晶5を用意し、これを種結晶3の主面に接触させて加熱を行うことで、所望のpn繰り返し構造を所望の厚さで作製できる。したがって、少ないプロセスで低コストに半導体装置を製造できる。
【0066】
以上、本発明者らによってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0067】
例えば、各部の材質、導電型、および製造条件などは前述した実施の形態の記載に限定されるものではなく、各々多くの変形が可能であることはいうまでもない。ここで、説明の都合上、半導体基板および半導体膜の導電型を固定して説明したが、前述した実施の形態に記載した導電型には限定されない。
【0068】
上記の実施の形態では、炭化珪素(SiC)を種結晶および原料結晶の例として説明したが、昇華現象により結晶成長可能な結晶であれば適用できる。そのような材料の主なものは、窒化ガリウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化ガリウムなどである。
【符号の説明】
【0069】
1 3軸位置決め機構
2、102 原料加熱機構
3、3a、3b、3c、103 種結晶
4 種結晶被覆体
5、5n、5p、105 原料結晶
5b、5c 原料基板
6、106 仕切り部材
7 冷却・シールガス
8 シールガス
9 昇華促進ガス
10、110 成長室
11、111 排気機構
12、12b、12c、12n、12p、112 エピタキシャル膜
13 サセプター
14 加熱機構
15 断熱セパレーター
16 冷却ガス
17、17n、17p 支持体
102 原料加熱機構
109 ガス
113 多結晶SiCサセプター
114 断熱機構
NR1、NR2 n型領域
PR1、PR2 p型領域
SB 半導体基板