(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062558
(43)【公開日】2023-05-08
(54)【発明の名称】イセエビ増殖礁及びイセエビの育成方法
(51)【国際特許分類】
A01K 61/77 20170101AFI20230426BHJP
A01K 61/59 20170101ALI20230426BHJP
【FI】
A01K61/77
A01K61/59
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021172603
(22)【出願日】2021-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】594018267
【氏名又は名称】株式会社中研コンサルタント
(71)【出願人】
【識別番号】000164438
【氏名又は名称】九州電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】久恒 成史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕明
(72)【発明者】
【氏名】古江 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】坪田 晃誠
【テーマコード(参考)】
2B003
2B104
【Fターム(参考)】
2B003AA01
2B003BB01
2B003CC02
2B003CC04
2B003DD01
2B003EE02
2B104AA17
2B104BA06
(57)【要約】
【課題】汎用性が高く、かつ、ポストラーバや稚エビの定着性を向上させることが可能なイセエビ増殖礁及びイセエビの育成方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係るイセエビ増殖礁は、コンクリートブロックが中心部と4本の脚部とを備える四脚消波ブロック状に形成され、第1の脚部の中心線及び第2の脚部の中心線が一平面上において中心部の内部を共通の始端として所定の内角を形成するように外向きに延び、第1の脚部及び第2の脚部は内角に対応する表面に一方の内角表面部を有し、第3の脚部の中心線及び第4の脚部の中心線が、他平面上において中心部の内部を共通の始端として所定の内角を形成するように外向きに延び、第3の脚部及び第4の脚部は内角に対応する表面に他方の内角表面部を有し、凹部群が一方の内角表面部に設けられた一方の凹部群と他方の内角表面部に設けられた他方の凹部群とから構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポストラーバや稚エビがその成長に合わせて棲み替えるための、内径及び奥行き寸法の異なる複数種類の凹部を有する凹部群が表面に設けられた少なくとも一つのコンクリートブロックから構成されるイセエビ増殖礁であって、
該コンクリートブロックが、中心部と、該中心部から外向きに延びる方向に中心線が形成される第1~第4の4本の脚部と、を備える四脚消波ブロック状に形成され、
第1の脚部の中心線及び第2の脚部の中心線が、一平面上において、前記中心部の内部を共通の始端として、所定の内角を形成するように外向きに延びていて、前記第1の脚部及び前記第2の脚部は、前記内角に対応する表面に一方の内角表面部を有すると共に、
第3の脚部の中心線及び第4の脚部の中心線が、前記一平面と交差する他平面上において、前記中心部の内部を共通の始端として、所定の内角を形成するように外向きに延びていて、前記第3の脚部及び前記第4の脚部は、前記内角に対応する表面に他方の内角表面部を有し、
前記凹部群が、前記一方の内角表面部に設けられた一方の凹部群と、前記他方の内角表面部に設けられた他方の凹部群と、から構成される、イセエビ増殖礁。
【請求項2】
前記一方の凹部群が、第1の脚部に設けられた第1の凹部群と、第2の脚部に設けられた第2の凹部群と、から構成されると共に、前記他方の凹部群が、第3の脚部に設けられた第3の凹部群と、第4の脚部に設けられた第4の凹部群と、から構成され、
前記第1~第4の凹部群が、それぞれ、内径及び奥行き寸法の異なる少なくとも4個の凹部を有する、請求項1に記載のイセエビ増殖礁。
【請求項3】
前記第1~第4の凹部群が、内径5mm以上50mm以下、奥行き15mm以上150mm以下である凹部を有する、請求項2に記載のイセエビ増殖礁。
【請求項4】
前記コンクリートブロックが、リサイクル原料を含むコンクリート組成物を硬化した硬化体である、請求項1~3のいずれか一つに記載のイセエビ増殖礁。
【請求項5】
前記リサイクル原料が木質バイオマス灰である、請求項4に記載のイセエビ増殖礁。
【請求項6】
複数のコンクリートブロックが積み上げられて構成される、請求項1~5のいずれか一つに記載のイセエビ増殖礁。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一つに記載のイセエビ増殖礁を用いてイセエビを育成する、イセエビの育成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イセエビ増殖礁、及び、該イセエビ増殖礁を用いたイセエビの育成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イセエビ資源の確保及び増殖のためには、産卵後、沖合から沿岸に戻ってくる最初の段階であるポストラーバを着底させた後、ポストラーバや稚エビが安全に棲みつき、親エビへと成長できる環境条件が重要となる。
【0003】
従来、ポストラーバや稚エビは、海藻等を隠れ場として生息しているものと推測されていた。しかしながら、近年では、ポストラーバや稚エビは、海藻近傍の岩礁表面に形成された円筒状の凹部に隠れることが圧倒的に多く、体にぴったり合ったサイズの凹部に身を隠すことで、生存確率を高めていることが報告されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、ポストラーバや稚エビがその成長に合わせて体をぴったり入れることが可能な凹部として、内径及び奥行き寸法の異なる8段階の大きさの凹部が開示されていて、これにより、ポストラーバや稚エビの生残率が向上することが示されている。そのため、このような内径及び奥行き寸法の異なる複数種類の凹部が設けられたイセエビ増殖礁の実用化に向けて、種々の形態が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献2では、内径及び奥行き寸法の異なる複数種類の凹部を側面部に設け、かつ、その側面部の上方に位置する頂部に海藻類を取り付けるための取付部を設けたイセエビ増殖礁が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-90639号公報
【特許文献2】特開2013-172651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載のイセエビ増殖礁は、ポストラーバや稚エビが定着するものの、海藻類を取り付ける取付部を備えるため大掛かりであり、また、大型の海藻が生えない地域では不向きであることから、汎用性の点で課題があった。
【0008】
このような事情に鑑み、本発明は、汎用性が高く、かつ、ポストラーバや稚エビの定着性を向上させることが可能なイセエビ増殖礁、及び、該イセエビ増殖礁を用いたイセエビの育成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行ったところ、従来、海岸線の護岸や水制を目的に設置される消波ブロックを用いることで、汎用性の高いイセエビ増殖礁を提供できることを見出し、本発明を想到するに至った。
【0010】
本発明に係るイセエビ増殖礁は、ポストラーバや稚エビがその成長に合わせて棲み替えるための、内径及び奥行き寸法の異なる複数種類の凹部を有する凹部群が表面に設けられた少なくとも一つのコンクリートブロックから構成されるイセエビ増殖礁であって、該コンクリートブロックが、中心部と、該中心部から外向きに延びる方向に中心線が形成される第1~第4の4本の脚部と、を備える四脚消波ブロック状に形成され、第1の脚部の中心線及び第2の脚部の中心線が、一平面上において、前記中心部の内部を共通の始端として、所定の内角を形成するように外向きに延びていて、前記第1の脚部及び前記第2の脚部は、前記内角に対応する表面に一方の内角表面部を有すると共に、第3の脚部の中心線及び第4の脚部の中心線が、前記一平面と交差する他平面上において、前記中心部の内部を共通の始端として、所定の内角を形成するように外向きに延びていて、前記第3の脚部及び前記第4の脚部は、前記内角に対応する表面に他方の内角表面部を有し、前記凹部群が、前記一方の内角表面部に設けられた一方の凹部群と、前記他方の内角表面部に設けられた他方の凹部群と、から構成される。
【0011】
前記イセエビ増殖礁は、中心部と、該中心部から外向きに延びる方向に中心線が形成される第1~第4の4本の脚部と、を備える四脚消波ブロック状に形成される。すなわち、海岸線の護岸や水制を目的に設置される消波ブロックをイセエビ増殖礁として用いることができるため、汎用性が高い。また、前記イセエビ増殖礁は、ポストラーバや稚エビがその成長に合わせて棲み替えるための、内径及び奥行き寸法の異なる複数種類の凹部を有する凹部群が表面に設けられると共に、該凹部群が、一方の内角表面部に設けられた一方の凹部群と、他方の内角表面部に設けられた他方の凹部群と、から構成されている。すなわち、第1の脚部及び第2の脚部における一方の内角表面部、及び、第3の脚部及び第4の脚部における他方の内角表面部に前記凹部群が設けられているため、4本の脚部のうち、いずれの3本の脚部で着底しても前記凹部群が設けられる位置が同じ配置となる。そして、このような配置で設けられた前記凹部群は、少なくとも水平方向に開口、又は、やや下方に向かって開口する凹部を有するため、ポストラーバや稚エビが入りやすく、かつ、砂等の堆積物が入り込みにくくなり、ポストラーバや稚エビの定着性を向上させることができる。
【0012】
本発明に係るイセエビ増殖礁は、前記一方の凹部群が、第1の脚部に設けられた第1の凹部群と、第2の脚部に設けられた第2の凹部群と、から構成されると共に、前記他方の凹部群が、第3の脚部に設けられた第3の凹部群と、第4の脚部に設けられた第4の凹部群と、から構成され、前記第1~第4の凹部群が、それぞれ、内径及び奥行き寸法の異なる少なくとも4個の凹部を有していてもよい。
【0013】
前記イセエビ増殖礁は、前記第1~第4の凹部群が、それぞれ、内径及び奥行き寸法の異なる少なくとも4個の凹部を有していることにより、ポストラーバや稚エビがその成長に応じて、体にぴったり合ったサイズの凹部を近い場所で探すことができるため、移動距離が短くて済む。これにより、ポストラーバや稚エビの生存確率を高めて、定着性をより向上させることができる。
【0014】
本発明に係るイセエビ増殖礁は、前記第1~第4の凹部群が、内径5mm以上50mm以下、奥行き15mm以上150mm以下である凹部を有していてもよい。
【0015】
前記イセエビ増殖礁は、斯かる構成により、ポストラーバや稚エビがその成長に応じて、いずれかの凹部に体をぴったり入れることが可能になるため、ポストラーバや稚エビの定着性をより向上させることができる。
【0016】
本発明に係るイセエビ増殖礁は、前記コンクリートブロックが、リサイクル原料を含むコンクリート組成物を硬化した硬化体であってもよい。
【0017】
前記イセエビ増殖礁は、斯かる構成により、環境負荷を低減することができる。
【0018】
本発明に係るイセエビ増殖礁は、前記リサイクル原料が木質バイオマス灰であってもよい。
【0019】
前記イセエビ増殖礁は、斯かる構成により、従来、産業廃棄物として処理されている木質バイオマス灰を再利用することができるため、環境負荷をより低減することができる。
【0020】
本発明に係るイセエビ増殖礁は、複数のコンクリートブロックが積み上げられて構成されていてもよい。
【0021】
前記イセエビ増殖礁は、斯かる構成により、コンクリートブロック間に隙間が形成される。稚エビから成長した親エビは、前記隙間に入って外敵から身を隠すことができるため、新たな棲み処を探す必要がなくなり、その結果、親エビの定着性も向上させることができる。また、前記イセエビ増殖礁は、前記隙間に他の魚介類も棲みつきやすくなるため、他の魚介類も育成することができる。
【0022】
本発明に係るイセエビの育成方法は、上述のイセエビ増殖礁を用いてイセエビを育成する。
【0023】
前記イセエビの育成方法は、斯かる構成により、汎用性の高いイセエビ増殖礁を用いて、ポストラーバや稚エビの定着性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、汎用性が高く、かつ、ポストラーバや稚エビの定着性を向上させることが可能なイセエビ増殖礁、及び、該イセエビ増殖礁を用いたイセエビの育成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るイセエビ増殖礁におけるコンクリートブロック1の斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すコンクリートブロック1の上面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示すコンクリートブロック1の側面図である。
【
図4】
図4は、
図1に示すコンクリートブロック1が複数積み上げられて構成されたイセエビ増殖礁の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本実施形態に係るイセエビ増殖礁、及び、イセエビの育成方法について説明する。なお、以下の図面において同一又は相当する部分には同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0027】
<イセエビ増殖礁>
以下、本実施形態に係るイセエビ増殖礁について説明する。本実施形態に係るイセエビ増殖礁は、少なくとも一つのコンクリートブロック1から構成される。すなわち、一つのコンクリートブロック1をイセエビ増殖礁として用いてもよいし、複数のコンクリートブロック1を積み重ねてイセエビ増殖礁として用いてもよい。
【0028】
以下、コンクリートブロック1について説明する。
図1は、本実施形態に係るイセエビ増殖礁におけるコンクリートブロック1の斜視図である。
図2は、
図1に示すコンクリートブロック1の上面図である。
図3は、
図1に示すコンクリートブロック1の側面図である。
【0029】
図1に示すように、コンクリートブロック1は、中心部2と、該中心部2から外向きに延びる方向に中心線C1~C4が形成される第1~第4の4本の脚部31~34と、を備える四脚消波ブロック状に形成される。
【0030】
図1及び
図2に示すように、第1の脚部31の中心線C1及び第2の脚部32の中心線C2は、一平面上において、中心部2の内部を共通の始端S1として、所定の内角を形成するように外向きに延びている。ここで、一平面とは、始端S1から延びる中心線C1及び中心線C2によって形成される平面であり、
図3に示すA-A線断面を含む平面である。そして、第1の脚部31及び第2の脚部32は、中心線C1及び中心線C2によって形成される内角に対応する表面に一方の内角表面部41を有する。
【0031】
図1及び
図3に示すように、第3の脚部33の中心線C3及び第4の脚部34の中心線C4は、他平面上において、中心部2の内部を共通の始端S2として、所定の内角を形成するように外向きに延びている。ここで、他平面とは、始端S2から延びる中心線C3及び中心線C4によって形成される平面であり、
図3に示すXZ平面である。また、他平面は、中心線C1及び中心線C2によって形成される一平面と交差する平面である。そして、第3の脚部33及び第4の脚部34は、中心線C3及び中心線C4によって形成される内角に対応する表面に他方の内角表面部42を有する。
【0032】
中心線C1及び中心線C2によって形成される内角、並びに、中心線C3及び中心線C4によって形成される内角は、特に限定されるものではないが、安定して着底させる観点から、例えば、100°以上160°以下とすることができる。
【0033】
図1に示すように、中心部2において、中心線C1及び中心線C2における始端S1と、中心線C3及び中心線C4における始端S2とは、一平面上において所定の間隔を空けて配置される。すなわち、中心部2は、所定の長さを有する直胴状に形成される。始端S1と始端S2との間の距離は、特に限定されるものではないが、安定して着底させる観点から、各脚部の長さよりも短いことが好ましい。なお、脚部の長さとは、該脚部の中心線上における始端から脚部の先端までの長さを言う。
【0034】
コンクリートブロック1では、ポストラーバや稚エビがその成長に合わせて棲み替えるための、内径及び奥行き寸法の異なる複数種類の凹部を有する凹部群が表面に設けられている。具体的には、
図1~3に示すように、凹部群は、一方の内角表面部41に設けられた一方の凹部群51と、他方の内角表面部42に設けられた他方の凹部群52と、から構成される。また、一方の凹部群51は、第1の脚部31に設けられた第1の凹部群51aと、第2の脚部32に設けられた第2の凹部群51bと、から構成されると共に、他方の凹部群52は、第3の脚部33に設けられた第3の凹部群52aと、第4の脚部34に設けられた第4の凹部群52bと、から構成される。
【0035】
第1~第4の凹部群51a,51b,52a,52bは、それぞれ、内径及び奥行き寸法の異なる8個の凹部を有する。そして、これら8個の凹部は、各脚部の表面にランダムに設けられている。なお、各凹部は、有底の円筒状に形成される。
【0036】
各凹部の内径は、5mm以上50mm以下であることが好ましく、8mm以上46mm以下であることがより好ましい。また、各凹部の奥行きは、15mm以上150mm以下であることが好ましく、22mm以上131mm以下であることがより好ましい。
【0037】
具体的には、第1~第4の凹部群51a,51b,52a,52bは、それぞれ、以下に示す8段階の大きさの凹部を有することが好ましい。
1段階目:内径8mm以上12mm未満、奥行き22mm以上35mm未満
2段階目:内径12mm以上15mm未満、奥行き35mm以上40mm未満
3段階目:内径15mm以上17mm未満、奥行き40mm以上47mm未満
4段階目:内径17mm以上21mm未満、奥行き47mm以上55mm未満
5段階目:内径21mm以上24mm未満、奥行き55mm以上64mm未満
6段階目:内径24mm以上29mm未満、奥行き64mm以上78mm未満
7段階目:内径29mm以上36mm未満、奥行き78mm以上94mm未満
8段階目:内径36mm以上46mm以下、奥行き94mm以上131mm以下
【0038】
第1~第4の凹部群51a,51b,52a,52bの形成方法は、特に限定されるものではなく、ドリル等で凹部を直接穿孔することにより形成してもよいし、コンクリートブロック1の打設時に、型枠に前記凹部に対応する凸部を設けることにより形成してもよい。また、凹部があらかじめ配設されたプレートを、コンクリートブロック1の表面に取り付けてもよい。
【0039】
コンクリートブロック1は、例えば、第1の脚部31、第2の脚部32、及び、第4の脚部34(又は、第3の脚部33)の3本の脚部で着底させた場合、第1の凹部群51a及び第2の凹部群51bにおける各凹部が、水平方向に開口、又は、やや下方に向かって開口する。また、第3の脚部33、第4の脚部34、及び、第1の脚部31(又は、第2の脚部32)の3本の脚部で着底させた場合、第3の凹部群52a及び第4の凹部群52bにおける各凹部が、水平方向に開口、又は、やや下方に向かって開口する。このように、コンクリートブロック1は、いずれの3本の脚部で着底しても、水平方向に開口、又は、やや下方に向かって開口する凹部を有する。
【0040】
コンクリートブロック1は、リサイクル原料を含むコンクリート組成物を硬化した硬化体であることが好ましい。リサイクル原料としては、例えば、木質バイオマス灰、石炭灰、スラグ、再生骨材、鋳物砂等が挙げられる。これらの中でも、リサイクル原料は、木質バイオマス灰であることが好ましい。
【0041】
コンクリートブロック1の大きさは、特に限定されるものではなく、例えば、X軸方向の長さを1m以上6m以下、Y軸方向の長さを1m以上6m以下、Z軸方向の長さを1m以上6m以下とすることができる。
【0042】
本実施形態に係るイセエビ増殖礁は、中心部2と、該中心部2から外向きに延びる方向に中心線C1~C4が形成される第1~第4の4本の脚部31~34と、を備える四脚消波ブロック状に形成される。すなわち、海岸線の護岸や水制を目的に設置される消波ブロックをイセエビ増殖礁として用いることができるため、汎用性が高い。また、前記イセエビ増殖礁は、ポストラーバや稚エビがその成長に合わせて棲み替えるための、内径及び奥行き寸法の異なる複数種類の凹部を有する凹部群が表面に設けられると共に、該凹部群が、一方の内角表面部41に設けられた一方の凹部群51と、他方の内角表面部42に設けられた他方の凹部群52と、から構成されている。すなわち、第1の脚部31及び第2の脚部32における一方の内角表面部41、及び、第3の脚部33及び第4の脚部34における他方の内角表面部42に前記凹部群が設けられているため、4本の脚部31~34のうち、いずれの3本の脚部で着底しても前記凹部群が設けられる位置が同じ配置となる。そして、このような配置で設けられた前記凹部群は、少なくとも水平方向に開口、又は、やや下方に向かって開口する凹部を有するため、ポストラーバや稚エビが入りやすく、かつ、砂等の堆積物が入り込みにくくなり、ポストラーバや稚エビの定着性を向上させることができる。
【0043】
また、前記イセエビ増殖礁が複数のコンクリートブロック1から構成される場合には、コンクリートブロック1間に隙間が形成され、該隙間に親エビが棲みつきやすくなるため、親エビの定着性も向上させることができる。
【0044】
本実施形態に係るイセエビ増殖礁は、一方の凹部群51が、第1の脚部31に設けられた第1の凹部群51aと、第2の脚部32に設けられた第2の凹部群51bと、から構成されると共に、他方の凹部群52が、第3の脚部33に設けられた第3の凹部群52aと、第4の脚部34に設けられた第4の凹部群52bと、から構成され、第1~第4の凹部群51a,51b,52a,52bが、それぞれ、内径及び奥行き寸法の異なる8個の凹部を有していることにより、ポストラーバや稚エビがその成長に応じて、体にぴったり合ったサイズの凹部を近い場所で探すことができるため、移動距離が短くて済む。これにより、ポストラーバや稚エビの生存確率を高めて、定着性をより向上させることができる。
【0045】
本実施形態に係るイセエビ増殖礁は、第1~第4の凹部群51a,51b,52a,52bが、内径5mm以上50mm以下、奥行き15mm以上150mm以下である凹部を有していることにより、ポストラーバや稚エビがその成長に応じて、いずれかの凹部に体をぴったり入れることが可能になるため、ポストラーバや稚エビの定着性をより向上させることができる。
【0046】
本実施形態に係るイセエビ増殖礁は、コンクリートブロック1が、リサイクル原料を含むコンクリート組成物を硬化した硬化体であることにより、環境負荷を低減することができる。
【0047】
本実施形態に係るイセエビ増殖礁は、前記リサイクル原料が木質バイオマス灰であることにより、従来、産業廃棄物として処理されている木質バイオマス灰を再利用することができるため、環境負荷をより低減することができる。
【0048】
以下、複数のコンクリートブロック1が積み上げられて構成されたイセエビ増殖礁について説明する。
図4は、
図1に示すコンクリートブロック1が複数積み上げられて構成されたイセエビ増殖礁の正面図である。コンクリートブロック1の積み上げ方は、特に限定されるものではなく、ランダムな配置で積み上げることができる。ただし、凹部が水平方向に開口、又は、やや下方に向かって開口するように配置される確度を上げるため、積み始めの1段目のコンクリートブロック1は、重なり合うこと無く設置されることが望ましい。積み上げるコンクリートブロック1の個数は、特に限定されるものではない。
【0049】
複数のコンクリートブロック1が積み上げられたとしても、いくつかのコンクリートブロック1は必ず、凹部が水平方向に開口、又は、やや下方に向かって開口するように配置される。そのため、ポストラーバや稚エビが入りやすく、かつ、砂等の堆積物が入り込みにくくなり、ポストラーバや稚エビの定着性を向上させることができる。
【0050】
また、複数のコンクリートブロック1が積み上げられて構成されたイセエビ増殖礁は、コンクリートブロック1間に隙間が形成される。稚エビから成長した親エビは、前記隙間に入って外敵から身を隠すことができるため、新たな棲み処を探す必要がなくなり、その結果、親エビの定着性も向上させることができる。また、前記イセエビ増殖礁は、前記隙間に他の魚介類も棲みつきやすくなるため、他の魚介類も育成することができる。他の魚介類としては、例えば、アワビ、サザエ、クエ、カサゴ等が挙げられる。
【0051】
<イセエビの育成方法>
次に、本実施形態に係るイセエビの育成方法について説明する。本実施形態に係るイセエビの育成方法は、上述のイセエビ増殖礁を用いてイセエビを育成する。
【0052】
具体的には、まず、上述のイセエビ増殖礁を、ポストラーバや稚エビが本来生息している場所である、外海に面した海藻群落(藻場)の中やその周辺の海底に設置する。設置する際は、コンクリートブロック1の4本の脚部のうち、いずれか3本の脚部で着底させる。なお、イセエビ増殖礁が複数のコンクリートブロック1から構成される場合には、少なくとも最下段のコンクリートブロック1をこのように着底させる。設置場所の水深は、台風時の波浪の影響による移動、転倒、破損等を回避する観点から、20mよりも浅いことが好ましい。また、イセエビ増殖礁は、海底に設置した後は、移動せずに使用し続けることが好ましい。ただし、設置した後に海藻が生えなかった場合はこの限りではない。
【0053】
設置後1~2ヶ月程度で、コンクリートブロック1の表面がテングサやフクロノリ等の短い海藻で覆われる。これにより、大型の海藻が生えない地域においてもイセエビを育成することができる。
【0054】
続いて、このようにして設置したイセエビ増殖礁において、ポストラーバや稚エビを育成する。ポストラーバや稚エビは、コンクリートブロック1の表面に生えたテングサやフクロノリ等の短い海藻に棲む小型の海中生物を餌としながら、コンクリートブロック1の表面に形成された、体にぴったり合ったサイズの凹部に棲みつく。そして、ポストラーバや稚エビは、その成長に合わせて、より大きなサイズの凹部へと棲み替える。ここで、ポストラーバとは、稚エビに成長する前段階のプエルルス幼生(通称ガラスエビ)である。また、稚エビとは、孵化から1~2年の間のイセエビの幼体であり、体長は2~10cmである。ポストラーバや稚エビは、海底を歩きながら凹部で生活をする。
【0055】
イセエビ増殖礁が複数のコンクリートブロック1から構成される場合には、上述のようにして設置したイセエビ増殖礁において、親エビも育成することができる。親エビは、コンクリートブロック1間に形成された隙間に棲みつく。ここで、親エビとは、孵化から2年経過後のイセエビであり、凹部での生活をやめ、隙間で生活をする。
【0056】
本実施形態に係るイセエビの育成方法は、上述のイセエビ増殖礁を用いてイセエビを育成することにより、汎用性の高いイセエビ増殖礁を用いて、ポストラーバや稚エビの定着性を向上させることができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えることができる。また、上記及び下記の複数の実施形態の構成や方法等を任意に採用して組み合わせてもよい(1つの実施形態に係る構成や方法等を他の実施形態に係る構成や方法等に適用してもよい)ことは勿論である。
【0058】
本実施形態に係るイセエビ増殖礁において、コンクリートブロック1では、中心部2において、中心線C1及び中心線C2における始端S1と、中心線C3及び中心線C4における始端S2とが、一平面上において所定の間隔を空けて配置される。しかしながら、本発明は当該構成に限定されるものではなく、始端S1と始端S2とが同じ位置に配置されていてもよい。すなわち、コンクリートブロック1は、中心部2が直胴状に形成されているものに限られない。
【0059】
本実施形態に係るイセエビ増殖礁において、コンクリートブロック1では、第1~第4の凹部群51a,51b,52a,52bが、それぞれ、内径及び奥行き寸法の異なる8個の凹部を有している。しかしながら、本発明は当該構成に限定されるものではなく、第1~第4の凹部群51a,51b,52a,52bが、それぞれ、内径及び奥行き寸法の異なる少なくとも4個の凹部を有していてもよい。また、第1~第4の凹部群51a,51b,52a,52bが、それぞれ、同じ大きさの凹部を複数個有していてもよい。一形態として、内径及び奥行き寸法の異なる4段階の大きさの凹部を2個ずつ有していてもよい。同じ大きさの凹部を複数個有する場合、サイズが小さい凹部をより多く有することが好ましい。
【0060】
本実施形態に係るイセエビ増殖礁において、コンクリートブロック1の表面に設けられた凹部は円筒状に形成される。しかしながら、本発明は当該構成に限定されるものではなく、細長い形状のものであればよい。
【符号の説明】
【0061】
1 コンクリートブロック
2 中心部
31 第1の脚部
32 第2の脚部
33 第3の脚部
34 第4の脚部
41 一方の内角表面部
42 他方の内角表面部
51 一方の凹部群
52 他方の凹部群
C1 第1の脚部の中心線
C2 第2の脚部の中心線
C3 第3の脚部の中心線
C4 第4の脚部の中心線