(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062562
(43)【公開日】2023-05-08
(54)【発明の名称】異物の検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/2206 20180101AFI20230426BHJP
G01N 23/203 20060101ALI20230426BHJP
G01N 23/2252 20180101ALI20230426BHJP
【FI】
G01N23/2206
G01N23/203
G01N23/2252
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021172609
(22)【出願日】2021-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】冨井 和弥
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 智子
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA05
2G001BA15
2G001CA01
2G001CA03
2G001DA06
2G001EA03
2G001HA13
2G001JA11
2G001NA17
2G001QA02
2G001RA01
(57)【要約】
【課題】SEMを用いて重金属元素を含有する異物を高い確率で検出することができる方法を提供する。
【解決手段】走査型電子顕微鏡を用いて異物を検出する方法であって、前記走査型電子顕微鏡を用いて試料の高角度反射電子像を取得し、該高角度反射電子像内にある試料中の異物から、所定値以上の明度を示す異物を特定し、該特定した異物についてエネルギー分散型X線分光法により元素分析を行い、重金属元素を含有する異物を検出する異物の検出方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査型電子顕微鏡を用いて異物を検出する方法であって、
前記走査型電子顕微鏡を用いて試料の高角度反射電子像を取得し、
該高角度反射電子像内にある試料中の異物から、所定値以上の明度を示す異物を特定し、
該特定した異物についてエネルギー分散型X線分光法により元素分析を行い、重金属元素を含有する異物を検出することを特徴とする異物の検出方法。
【請求項2】
前記所定値以上の明度を示す異物を特定するとき、
前記高角度反射電子像において、マンセル明度で、前記試料中の異物以外の部分を示すベース色の明度を3以下に調整し、前記異物を特定するための明度の所定値を8以上とすることを特徴とする請求項1に記載の異物の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて重金属元素を含有する異物を検出する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体に使用されるシリコンウェーハではシリコンとドーパントが主原料となっており、その他の元素、特に金属元素は半導体デバイスを動作させる際の妨げになることが知られている。そのため製造工程では周囲にある金属をできるだけ排除する必要がある。ただし、その周囲にある異物等が金属を含む物質か否かが不明な場合が多い。そこでSEMによる観察では、エネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)による分析(EDX分析)を用いて異物に含まれている金属元素を検出することができる。
【0003】
特許文献1ではSEM像の視野内の明るさの閾値を利用して、視野内の欠陥を検出する方法が述べられている。また特許文献2ではSEMの反射電子像を用いることで凹凸像や組成像が得られることが開示されている。さらに特許文献3ではシリコンウェーハ上の欠陥について、SEMの二次電子像を用いてコントラストを持つ部分を狙ってEDX分析を実施することが述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2016/152582号
【特許文献2】特開平11-273608号公報
【特許文献3】特開2015-220296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らはSEMの視野内にある物質から金属が含まれる異物を効率よく探し出す方法を検討した。
SEMを用いて異物を特定する方法として、特許文献1では明るさの閾値を変化させることによってSEMの視野内にある欠陥を特定する方法が述べられているが、金属を含む物質かどうかは特定できない。
また反射電子像を利用した特許文献2は組成像が得られることが述べられている。しかし、具体的な像が示されておらず、金属元素の有無の特定ではない。
さらに二次電子像を利用した特許文献3では、EDX分析を狙う個所としてコントラストを持つ部分が指定されているが、この狙う個所が高い確率で金属が検出できるとの記載はない。
【0006】
本発明は、前述のような問題に鑑みてなされたもので、その目的は、SEMを用いて重金属元素を含有する異物を高い確率で検出することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、走査型電子顕微鏡を用いて異物を検出する方法であって、
前記走査型電子顕微鏡を用いて試料の高角度反射電子像を取得し、
該高角度反射電子像内にある試料中の異物から、所定値以上の明度を示す異物を特定し、
該特定した異物についてエネルギー分散型X線分光法により元素分析を行い、重金属元素を含有する異物を検出することを特徴とする異物の検出方法を提供する。
【0008】
SEMでは一般的に二次電子と反射電子が検出できるが、二次電子像よりも反射電子像の方が組成情報を見やすい。また、反射電子を低角度で検出した低角度反射電子像では試料表面の凹凸情報によるコントラストが強く出やすいが、高角度で検出した高角度反射電子像の方では組成情報によるコントラストが強く出やすい。つまり、低角度よりも高角度の方がコントラストへの組成情報の影響が大きい。また、重い元素ほど反射電子を多く放出するため、重金属元素のような重い元素になるほどコントラストが得られやすい(高い明度が得られやすい)。
以上より、本発明のように高角度反射電子像から所定値以上の明度を示す異物を特定すれば、その特定した異物には重金属元素を含有している可能性が極めて高い。このように極めて高い確率で重金属元素を含有する異物を検出することができ、検出に要する作業時間の大幅な短縮を図ることができる。
【0009】
このとき、前記所定値以上の明度を示す異物を特定するとき、
前記高角度反射電子像において、マンセル明度で、前記試料中の異物以外の部分を示すベース色の明度を3以下に調整し、前記異物を特定するための明度の所定値を8以上とすることができる。
【0010】
このように色の見本となるマンセル明度を使用することで、作業者の感性に頼ることなく、検出作業に携わる作業者全員が同じように当該異物の検出が可能となるし、作業の難易度を下げることができる。また、異物を特定するための明度の所定値を上記のようにすることで、より高い確率で重金属元素を含有した異物を検出できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、SEMを用いて重金属元素を含有する異物を高い確率で検出できる。そのため、その異物を探し当てる検出作業時間の大幅な短縮が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の異物の検出方法の一例を示すフロー図である。
【
図2】高角度反射電子像の一例である。実施例で取得した高角度反射電子像の一例でもある。
【
図4】実施例で取得した高角度反射電子像のうち、重金属元素が含まれていると予想され、EDX分析にまわす異物の特定例である。
【
図5】比較例2で取得した二次電子像の一例である。
【
図6】比較例3で取得した低角度反射電子像の一例である。
【
図7】SEM装置の構造の一例を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について図面を参照しながら実施の形態を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
まず、本発明者らが本発明を見出した経緯について説明する。
前述したように、SEMでは一般的に二次電子と反射電子が検出できる。まず二次電子像で観察する場合、二次電子像は反射電子像と比較して、帯電現象(すなわちチャージアップと言われる現象)によりコントラストを持ちやすい性質がある。そのため、組成情報については二次電子像より反射電子像の方が見やすい特徴がある。
【0014】
さらに、SEMの装置によっては、この反射電子の検出に関して、入射電子の放出位置に近い高角度の反射電子を検出する検出器と、比較的試料に近い低角度の反射電子を検出する検出器に分かれているものがある。その場合は、低角度より高角度の検出器で検出した反射電子像の方がより重金属元素の検出確率が向上する。
【0015】
これは角度によりコントラストの特徴が変わるからである。一般的に反射電子は2つの特徴がある。1つは正反射する比率が高い。2つ目は原子番号依存性を持つ。
前者については、入射電子が試料の真上から放出される位置にあり、試料表面がほぼ水平の平面であれば反射電子は入射電子の放出位置に近く高角度に反射するが、試料表面に異物などの凹凸がある場合、その凹凸の斜面に対して反射するため反射方向は自ずと低角度になる。そのため、試料の凹凸情報は低角度に出やすい。つまり低角度では高角度に比べて組成情報の割合が少なくなる。
次に後者は、重い元素ほど反射電子を多く放出する性質がある。そのため原子番号の大きい物質ほどコントラストが得られやすくなる(言い換えると、高い明度が得られやすくなる)特徴がある。
そこで本発明者らは、高角度反射電子像を利用し、かつ、明度に所定の基準を設けて異物を特定すれば、重金属元素を含有する異物を高い確率で検出することが可能となることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
図1は、本発明の異物の検出方法を示すフロー図である。
<S1:異物の採取>
図1のS1に示す異物の採取について、ここでは半導体に使用されるシリコンウェーハを例にとり説明する。前述したように、シリコンウェーハの製造工程では周囲にある金属をできるだけ排除する必要があるが、その周囲にある異物等が金属を含む物質か否かが不明である場合が多い。このような不明な異物が採取の対象となる。また当該異物は砂粒のように形状は様々で、大きさは1mmにも満たない場合がほとんどである。採取の方法は、刷毛などで集め、ポリエチレンなどの袋に保管する方法や、採取の対象物に、後述のカーボン両面テープを直接接触させて採取するなど様々な方法が挙げられる。
【0017】
<S2:SEM観察前の異物の固定>
次に
図1のS1で採取した異物は、SEMでの観察前に、S2で示すように当該異物の固定が必要となる。
ここでSEM観察の準備について簡単に説明する。まずSEMの試料台を用意する。この試料台にカーボン両面テープを貼る。このカーボン両面テープはSEM用であれば市販品で良い。次に、このカーボン両面テープ上に前記S1で採取した異物を載せる。この他、S1で直接カーボン両面テープを異物に接触させた場合では、SEMの試料台に既に異物が付着したカーボン両面テープを貼り付けるだけで良い。ここでは、この異物付きのカーボン両面テープを試料とする。
【0018】
<S3:試料のSEM観察(高角度反射電子像の取得)>
図1のS3では試料のSEM観察を行う。SEMにより入射電子を試料に入射し、該試料から放出した反射電子を検出器により検出して反射電子像を取得する。このとき本発明では、反射電子を入射電子の入射方向に近い角度で(すなわち、高角度で)検出する。
図2には、試料のSEM観察として実際の高角度反射電子像を示した。ここで使用したSEM装置は、日立ハイテクノロジーズ社製のSU8200シリーズである。ただし、ここに挙げたSEM装置に限らず、高角度の反射電子像が出力できるSEMであれば良い。
【0019】
ここで一般的な市販のSEM装置の一例について説明する。
図7にSEM装置の構造の概略を示す。SEM装置1は試料Sに電子線(入射電子Ei)を照射する照射部2、試料Sから反射された電子を検出するための検出器(高角度の反射電子Erh用の検出器3、低角度の反射電子Erl用の検出器4)を備えている。そして、高角度反射電子像を取得するときは検出器3、低角度反射電子像を取得するときは検出器4を使用することができ、ユーザーは使用する検出器の切り替えにより高角度反射電子像や低角度反射電子像をそれぞれ取得することができる。
なお前述したようにSEM装置の仕組みはこれに限定されず、少なくとも高角度反射電子像を取得可能なものであれば良い。
【0020】
<S4:EDX分析を行う異物の特定>
次の
図1のS4では、S3のSEM観察で取得した高角度反射電子像内(観察時の視野内)にある試料中の異物から、EDX分析を行う異物を絞り込む作業に入る。この高角度反射電子像内にある明度の高い異物(所定値以上の明度を示す異物)を特定(選択)することが、重金属元素を含有する異物を高い確率で検出することにつながる。その明度の指標は特に限定されないが、好ましくはマンセル明度を用いることができる。他の明度の指標としては例えばグレースケール法が挙げられる。
【0021】
図3ではマンセル明度の色見本を示した。マンセル明度とは、正式にはマンセル表色系との名称でJIS Z8721に規定があり、明度はその一部である。マンセル明度は
図3のように黒が0で白が10、さらに中間色から構成されているが、
図3の色見本は印刷によって変化するため、実際はJIS Z8721の色見本が使用される。
【0022】
異物を絞り込む作業手順について説明する。取得した高角度反射電子像において、まず異物の無い場所(異物以外の部分)が前記カーボン両面テープである。このカーボン両面テープがベース色となり、このベース色をマンセル明度で0以上3以下に調整する。ちなみに、この調整は難しい作業ではない。より具体的には、SEM装置付属の明るさを調整するつまみを使用することで簡単に調整可能である。
【0023】
次に異物を絞り込むが、その明るさがマンセル明度で8以上10以下である異物を特定する。ここで、上記のような明度の閾値で特定された異物の数は高角度反射電子像内に1個でも複数個でも構わない。該当するものが存在しなければ、その高角度反射電子像内では0個となる。その場合、視野を移動して所定の明度の異物を探せばよい。
なお、ベース色の明度の調整値や、特定のための明度の閾値は特に限定されず、ベース色となる部分の材質や、検出を狙う重金属元素の種類等によって適宜決定することができる。
以上のような明度の指標(マンセル明度)や閾値の設定により、異物の特定結果が作業者に左右されてしまうことを防ぐことができるため、安定した検出を行うことができる。
【0024】
<S5:特定異物のEDX分析と重金属元素を含有する異物の検出>
図1のS4で特定された異物について、次のS5ではEDX分析を実施する。このEDX分析を行うことで、異物を構成する重金属元素を特定することが可能となる。従って、使用するSEM装置にはEDX検出器が必要となる。
そして分析の結果から、S4で特定した異物のうち重金属元素を含有する異物を検出する。
【0025】
以上のような本発明の異物の検出方法であれば、例えば試料中に異物が大量にあったとしても、高角度反射電子像の利用および高明度の異物の特定によって、極めて確率高く重金属元素を含有する異物を検出することができ、効率が良い。そのため、検出作業に要する時間の短縮化を図ることができる。
【実施例0026】
以下、本発明の実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、後述するように、実施例および比較例1-3では同一の試料、すなわち、異物が付着したカーボン両面テープ5枚を用意し、1枚あたり5箇所でのSEM観察・EDX分析により異物の検出を行ったが、各例で観察箇所を変えている。これはSEM観察やEDX分析を実施することでSEM焼けと呼ばれる観察対象の電子線焼けが発生するためである。このように各々の例で、互いに別の観察視野で、25箇所の観察・分析を行った。
(実施例)
本実施例では、シリコン単結晶インゴット製造工程の周辺で採取された異物について金属元素を同定する実験を行った。具体的には結晶引き上げ炉に使用される部材の周辺を、上記カーボン両面テープを直接接触させることにより異物を付着させて採取した。ここまでが
図1のS1としての作業である。
図1のS2として、上記で既に異物が付着したカーボン両面テープが準備されているため、SEMの試料台にこのカーボン両面テープを貼り付けた。
【0027】
図1のS3として、S2で準備したSEMの試料台をSEM装置(日立ハイテクノロジーズ社製のSU8200シリーズ)内にセットし、観察を実施した。そこで観察されたSEM像は高角度反射電子像であり、前述した
図2と同じである。倍率は2000倍である。異物の大きさは様々あるが、その多くは2~3μmである。
図1のS4として、S3で得られた高角度反射電子像(
図2)(視野内)にある異物の中から、重金属元素を含んでいると予想される異物の特定を試みた。
図2においてベース色は既にマンセル明度で3以下(より具体的には2程度)に調整されている。そこでマンセル明度で8以上の明るさがある異物について特定した。その結果が
図4の矢印の先にある異物である。
図4のようにこの視野からは3個の異物(丸数字1~3)が特定された。
図1のS5として、S4で特定された3個の異物についてEDX分析を実施した。その結果、丸数字1の異物からはZn(亜鉛)、丸数字2の異物からはNi(ニッケル)、丸数字3の異物からはCr(クロム)およびNi(ニッケル)が検出され、S4で特定された異物の全てから重金属元素が検出できた。
【0028】
以上が1つ目の観察箇所におけるフローである(第一検出例)。前述したように、実際に準備した試料はカーボン両面テープが5枚分であり、それぞれのテープについて5箇所の高角度反射電子像を観察した。すなわち合計で視野25箇所の高角度反射電子像がある。
上記のように第一検出例では視野内に3個の特定された異物があった。この第一検出例も含まれるが、25箇所の視野の高角度反射電子像からは105個の異物が特定された。そのうち、102個の異物から重金属元素が実際に検出された。
【0029】
要するに、本発明のような高角度反射電子像の利用かつ高明度の異物の特定により、重金属元素を含有した異物が97%という高確率で検出されたことになる。
【0030】
(比較例1)
実施例で準備した異物が付着した5枚のカーボン両面テープを使用した。観察像も実施例と同じように高角度反射電子像を利用した。実施例とは別の観察視野で1枚のカーボン両面テープにつき5箇所(計25箇所)を観察・分析した。
実施例と異なる点について説明する。実施例ではマンセル明度で8以上の明るさを有した異物を特定したのに対し、比較例1ではベース色についてはマンセル明度を3以下(実施例と同様に2程度)に調整したが、異物の特定に関しては明るさと無関係に視野内の3つの異物を特定し、それらについてEDX分析を実施した。すなわち、25箇所の観察視野からEDX分析した異物の合計が75個となる。その結果、重金属元素が実際に検出された異物は13個であった。
【0031】
要するに、高角度反射電子像の利用かつ明度無関係での異物の特定により、EDX分析を実施した異物の重金属元素が検出された確率は17%であった。
この結果から、実施例のように明度の基準を設けて異物を特定して(特には明度の高い異物を特定して)EDX分析を行うことが重金属元素含有異物を探す際に極めて有効であることが分かった。またその明るさの指標としてマンセル明度という色見本を用いることが、より高確率で重金属元素含有異物を探す際の助けとなった。
【0032】
(比較例2)
実施例で準備した異物が付着した5枚のカーボン両面テープを使用した。実施例、比較例1とは別の観察視野で1枚のカーボン両面テープにつき5箇所(計25箇所)を観察・分析した。
実施例と比較例2の異なる点について説明する。実施例では高角度反射電子像を使用したが、比較例2では二次電子像を使用した。異物の特定方法は、実施例と同様にマンセル明度を用いた。すなわち、ベース色をマンセル明度で3以下(実施例と同様に2程度)に調整し、マンセル明度が8以上の明るさを有した異物を特定した。
図5は、高角度反射電子像である
図2と同じ視野の二次電子像である。この
図5の二次電子像では、
図2の高角度反射電子像と比較して高い明度の異物が増えていることが分かる。ここでマンセル明度8以上の異物は232個あった。これらの異物について1つ1つEDX分析を実施したところ、重金属元素が実際に検出された異物は67個であった。
【0033】
要するに、二次電子像の利用かつ高明度の異物の特定により、EDX分析を実施した異物の重金属元素が検出された確率は29%であった。
このように二次電子像で強いコントラスト(高い明度)がある異物の3割程度に重金属元素が含有されていることが分かったが、9割以上の確率で検出できた実施例とは大きな差があった。
【0034】
(比較例3)
実施例で準備した異物が付着した5枚のカーボン両面テープを使用した。実施例、比較例1、比較例2とは別の観察視野で1枚のカーボン両面テープにつき5箇所(計25箇所)を観察・分析した。
実施例と比較例3の異なる点について説明する。実施例では高角度反射電子像を使用したが、比較例3では低角度反射電子像を使用した。異物の特定方法は、実施例と同様にマンセル明度を用いた。すなわち、ベース色をマンセル明度で3以下(実施例と同様に2程度)に調整し、マンセル明度が8以上の明るさを有した異物を特定した。
図6は、高角度反射電子像である
図2と同じ視野の低角度反射電子像である。この
図6の低角度反射電子像では、前述の比較例2と同様で、
図2の高角度反射電子像と比較して高い明度の異物が増えていることが分かる。ここでマンセル明度8以上の異物は178個あった。これらの異物について1つ1つEDX分析を実施したところ重金属元素が検出された異物は73個であった。
【0035】
要するに、低角度反射電子像の利用かつ高明度の異物の特定により、EDX分析を実施した異物の重金属元素が検出された確率としては41%であった。
このように低角度反射電子像で強いコントラスト(高い明度)がある異物の4割程度に重金属元素が含有されていることが分かったが、9割以上の確率で検出できる実施例とは大きな差があった。
【0036】
以上から、本発明の効果で示したように、SEM像のうち高角度反射電子像を用い、かつ、所定値以上の明度を基準にして異物を特定することで重金属元素を含有する異物を高い確率で検出できる。そのため、作業時間の大幅な短縮が可能となる。さらにはそれだけでなく、特にはマンセル明度という色見本を用いることで、作業の難易度が低下し、本作業に携わる作業者全員が同じように当該重金属含有異物の高い確率での検出が可能となる。
【0037】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。