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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062597
(43)【公開日】2023-05-08
(54)【発明の名称】心毒性評価方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20230426BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20230426BHJP
   G01N 33/84 20060101ALI20230426BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
C12Q1/02
G01N33/48 M
G01N33/84 Z
G01N33/483 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021172660
(22)【出願日】2021-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100181847
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 かおり
(72)【発明者】
【氏名】足達 慧
(72)【発明者】
【氏名】関野 祐子
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045BB20
2G045CB01
2G045DB07
2G045FA16
2G045FA19
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QR77
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】高い精度の心毒性評価方法を提供する。
【解決手段】少なくとも培養面が脂環構造含有重合体で構成された培養容器内で、心筋細胞を、該心筋細胞の拍動が確認されるまで培地中で培養し、その後、該培地に評価対象の薬剤を添加し、該薬剤を培養した前記心筋細胞に接触させ、その後、培養した前記心筋細胞の拍動をカルシウムイメージングによりモニタリングし、前記薬剤の心毒性を評価する、心毒性評価方法を提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも培養面が脂環構造含有重合体で構成された培養容器内で、心筋細胞を、該心筋細胞の拍動が確認されるまで培地中で培養し、その後、
該培地に評価対象の薬剤を添加し、該薬剤を培養した前記心筋細胞に接触させ、その後、
培養した前記心筋細胞の拍動をカルシウムイメージングによりモニタリングし、前記薬剤の心毒性を評価する、心毒性評価方法。
【請求項2】
前記心毒性は、QT延長率により評価される、請求項1に記載の心毒性評価方法。
【請求項3】
前記脂環構造含有重合体がノルボルネン系開環重合体水素化物である、請求項1または2に記載の心毒性評価方法。
【請求項4】
前記培養面の表面自由エネルギーが30~37mN/mである、請求項1~3のいずれかに記載の心毒性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心毒性評価方法に関し、特に、新規薬剤に関して、副作用予測や臨床試験前のヒトへの投与量決定のために、薬物誘導性の心毒性を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、MEA(Micro Electrode Arrays)を用いた心毒性の評価方法(MEA法)の検討が進んでいる。当該評価方法は、MEAにより心筋細胞シートから得られる細胞外活動電位の波形に現れるFPD(Field Potential Duration)が、心電図におけるQT延長に相当するという知見に基づくものである。
しかしながら、上記の評価方法は、操作が煩雑な上、データを得るのに時間がかかるという問題があった。
【0003】
上記問題に鑑み、本発明者らは、脂環構造含有重合体を材料とする培養容器を用いて、心筋細胞から分泌される心疾患のバイオマーカーを測定し、評価対象の薬剤の心毒性を評価する方法を提案している。(特許文献1、特許文献2)。このような心毒性評価方法によれば、心筋細胞シートを作製する必要がないため、操作が簡便となり、データ取得までの時間を短縮することができる。
【0004】
ところで、培養細胞の観察手法として、細胞の画像解析を利用した多くの方法が開発されており、培養心筋細胞の観察にも用いられている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020/066396号
【特許文献2】国際公開第2020/129774号
【特許文献3】特開2014-076000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らにより更なる検討が進められた結果、提供元(研究機関/製造メーカー等)が異なる細胞間でデータのばらつきが生じ、評価の精度に影響を及ぼし得ることが判明した。また、同じ提供元であっても、細胞の製造ロットの違いにより、同様に、データのばらつきが生じることが判明した。
【0007】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたものであり、評価に使用する細胞が与える影響を低減し、高い精度の心毒性評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の知見に基づきなされたものであって、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の一態様は、少なくとも培養面が脂環構造含有重合体で構成された培養容器内で、心筋細胞を、該心筋細胞の拍動が確認されるまで培地中で培養し、その後、該培地に評価対象の薬剤を添加し、該薬剤を培養した前記心筋細胞に接触させ、その後、培養した前記心筋細胞の拍動をカルシウムイメージングによりモニタリングし、前記薬剤の心毒性を評価する、心毒性評価方法である。
このような方法により、細胞の個体差(培養環境や細胞ソースの違いにより生じる細胞/細胞群間の相違)に起因するデータのバラツキが低減され、再現性の高い測定を行うことができる。さらに、簡便かつ短時間で評価できることに加えて、一度の測定で多くのデータを取得することができる。
【0009】
また、上記態様では、前記心毒性は、QT延長率により評価されることが好ましい。
ここで、QT延長率とは、評価対象の薬剤の毒性に起因して拍動の波形が横軸方向に伸長(または短縮)される割合を指し、基本的には、毒性が高くなるにつれて、QT延長率の変動(プラスまたはマイナス)が大きくなる。
【0010】
また、上記態様では、前記脂環構造含有重合体がノルボルネン系開環重合体水素化物であることが好ましい。脂環構造含有重合体のなかでもノルボルネン系開環重合体水素化物で培養容器の培養面を構成することにより、測定値のバラツキがさらに低減されるためである。
【0011】
また、上記態様では、前記培養面の表面自由エネルギーが30~37mN/mであることが好ましい。このようにすることで、細胞に必要以上のストレスを与えることなく、細胞を培養面に接着させることができ、これにより、測定値のバラツキをさらに抑えることができる。
ここで、表面自由エネルギーとは、インク等がプラスチックや金属の表面にどれだけ接着するかを測定することにより判断される基準である。単位は、mN/mで表され、表面自由エネルギーの値が高いほど接着性が高い。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、評価に使用する細胞が与える影響を低減し、高い精度の心毒性評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、QT延長率を算出するために必要とされる、拍動間距離(D’0.1)の算出方法を説明する図である。
図2図2は、QT延長(+)が観察される薬剤(E-4031)濃度を比較したグラフである。
図3図3は、QT延長(-)が観察される薬剤(Nifedipine)濃度を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の方法は、少なくとも培養面が脂環構造含有重合体で構成された培養容器内で、心筋細胞を、該心筋細胞の拍動が確認されるまで培地中で培養し、その後、該培地に評価対象の薬剤を添加し、該薬剤を培養した前記心筋細胞に接触させ、その後、培養した前記心筋細胞の拍動をカルシウムイメージングによりモニタリングし、前記薬剤の心毒性を評価することを特徴の1つとする。
このような評価方法を用いることで、評価に使用する細胞や製造元や製造ロットの違いに起因するデータのバラツキが低減される。このため、多くの薬剤を使用した長期間にわたる試験であっても、使用される細胞の違いによる影響を受けずに、精度の高い評価を行うことができる。
【0015】
(モニタリング)
心筋細胞の拍動をカルシウムイメージングによりモニタリングする方法は、採用する装置により適宜選択されるが、たとえばイメージサイトメーターCQ1(横河電機社製)の場合、所定の時間間隔で任意の枚数の画像を取得し、Ca2+シグナルを連続的に見ることで心筋細胞の拍動を確認できる。
【0016】
(心毒性評価)
心毒性の評価は、QT延長率を判断基準とすることが好ましい。
QT延長率は、カルシウムイメージングにより得られたデータ(拍動チャート:縦軸(Y)はシグナル強度、横軸(X)は時間(秒))から以下および図1に示されるように算出される。
(1)ベースライン補正:拍動チャートの1拍動内での最小値(図1では「5」)を、拍動チャート全体から差し引いてベースラインをゼロとする(縦軸:Y’)。
(2)規格化:縦軸の最大値が1となるように補正する(縦軸:Y’’)。
(3)拍動間距離(D’0.1)の算出:Y’’=0.1と交差する拍動チャートの2点間の距離を算出する。
具体的には、拍動チャートとY’’=0.1との交点2つのそれぞれを中心とする曲線の2次関数を導出し、2つの2次関数のYに0.1を代入したときの値をそれぞれ小さいほうからX1およびX2とし、これらの差分(X2-X1)を計算することにより、2点間の距離(拍動間距離)を算出する。
(4)薬剤の添加前後で上記拍動間距離(D’0.1)の値を算出し、
QT延長率=(薬剤添加後の拍動間距離/薬剤添加前の拍動間距離)×100
として算出し、評価する。
より精密に評価する場合、各条件(薬剤添加濃度)で得られた拍動間距離(D’0.1)の値を、後述するFridericiaの補正式を用いて、拍動のピーク間距離により補正して「補正QT間隔」を算出し、
QT延長率=(薬剤添加後の補正QT間隔/薬剤添加前の補正QT間隔)×100として算出し、評価する。
【0017】
(細胞およびその培養方法)
本発明において使用される細胞は、心筋細胞であり、例えば、多能性幹細胞由来心筋細胞(なかでも人工多能性幹細胞由来心筋細胞)、胚性幹細胞由来心筋細胞、ヒト由来心筋細胞などが挙げられる。
【0018】
本発明において「心筋細胞の拍動が確認される(まで培養する)」とは、播種した心筋細胞が培養容器内でほぼ全体が拍動していることが確認できれば良く、必ずしも拍動している細胞が同期していなくてもよい。評価結果の精度の観点から、培養細胞全体の拍動が同期していることがより好ましい。
このことから、本発明において、「培地に評価対象の薬剤を添加」するタイミングは、市販の心筋細胞であれば、添付の培養プロトコルに記載されている、心筋細胞の拍動が観測される時間以上培養した時とすることが好ましい。
【0019】
上記細胞を培養するための培地は、心筋細胞を培養し、維持することができれば、特に限定されるものではなく、市販の心筋細胞培養用培地を用いることができる。
上記培地には、添加剤を配合することもできる。添加剤としては、ミネラル、金属、ビタミン成分等が挙げられる。
これらの添加剤は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
上記細胞を培養容器に播種する方法に格別な制限はなく、例えば、必要に応じて、少なくとも培養面を細胞外マトリックス等でコートする。その後、培地に懸濁した細胞をピペット等で培養容器内に播種し、必要に応じて容器を揺動させて培養容器内に細胞を均等に散らした後、インキュベータ内で静置する。細胞外マトリックスとしては、例えば、ゼラチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンなどの天然由来または合成のものが挙げられる。
【0021】
(培養容器)
本発明の培養容器としては、脂環構造含有重合体を培養容器の材料として用いることが可能であれば、任意の形状のものを使用することができる。培養容器の形状としては、ディッシュ、プレート、マイクロ流路チップ、バッグ、チューブ、スキャホールド、カップ、ジャー・ファーメンターなどが挙げられる。
培養容器のうち、少なくとも培養面が脂環構造含有重合体で構成されていればよい。例えば、96ウェルプレートの場合、各ウェルの内側の底面が脂環構造含有重合体で形成されていればよい。バッグの場合、例えば、異なるポリマー材料からなるフィルムの積層体で構成されているものは、最内層(バッグ内面)が脂環構造含有重合体からなるフィルムにより形成されていればよい。
あるいは、培養容器全体が脂環構造含有重合体からなることとしてもよい。例えば、培養ディッシュ、フラスコ、または複数のウェルを有するプレートであれば、脂環構造含有重合体でこれらの容器全体を成形することにより、容器全体を脂環構造含有重合体で構成することができる。
脂環構造含有重合体は、ノルボルネン系開環重合体水素化物であることが好ましい。
【0022】
本発明で使用される培養容器は、滅菌処理することが好ましい。
滅菌処理の方法に格別な制限はなく、高圧蒸気法や乾熱法などの加熱法;γ線や電子線などの放射線を照射する放射線法や高周波を照射する照射法;酸化エチレンガス(EOG)などのガスを接触させるガス法;滅菌フィルタを用いる濾過法;など、医療分野で一般的に採用される方法から、成形体の形状や用いる細胞に応じて、選択することができる。なかでも、培養面の表面自由エネルギーを特定の範囲に維持しやすいことから、ガス法が好ましい。
【0023】
(培養面の表面自由エネルギー)
本発明で使用される培養容器の培養面の表面自由エネルギーは、30~37mN/mの範囲であることが好ましい。培養面の表面自由エネルギーを上記の範囲に制御するためには、細胞の接着性を向上させるために通常行われるプラズマ処理などの表面処理を、培養面に対して行わないことが重要である。上記表面自由エネルギーは、好ましくは、32~36mN/mの範囲である。
【0024】
上記表面自由エネルギーは、所定のレンジで、対応する表面自由エネルギー値がそれぞれ付与されているいくつかのテストインクが、培養面に所定時間の間、接着を維持できるかどうかを測定することにより評価される。より具体的には、培養面に引いたインクの線が水滴にならずに2秒間変わらなければ、培養面の表面自由エネルギーの値は、使用したインクに付与されている表面自由エネルギーの値と同じ数値か、それ以上であることを意味する。インクの成分は、有機溶媒(2-エトキシエタノール、2-プロパノール)と塩基性染料(ホルムアミド)の混合物であり、これらの液体を異なる比率で混ぜ合わせて、種々の表面自由エネルギー値に対応するインクを作製する。
具体的な表面自由エネルギーの測定方法としては、例えば、まず38mN/mの表面自由エネルギー値が付与されているインクを使用して、測定面に線を引き、インクの線が水滴にならず2秒間変わらなければ表面自由エネルギーは38mN/mと同じかそれ以上ということである。この場合、次に、40mN/mの表面自由エネルギー値が付与されているインクを使って同様の測定を行う。インクの線が水滴にならず2秒間変わらなければ、このような測定を、2秒以内にインクの線が水滴に変わるまで、さらに高い値が付与されているインクを使用して行う。
上記の測定において、38mN/m程度のインクで既に水滴に変わるようであれば、38mN/mよりも低い値が付与されているインクを使って同様の測定を行う。例えば、35mN/mの表面自由エネルギー値が付与されているインクで測定面に線を引き、2秒以内にインクの線が水滴にならず2秒間変わらなければ、表面自由エネルギーの値は2つの値の間(35~38mN/m)であることがわかる。
【0025】
(培養面のコーティング)
培養容器の培養面を細胞外マトリックスでコートする方法は、一般的な細胞基質を培養容器にコートする方法と同様であり、通常、培養容器内に上述のコート剤を入れて、培養温度付近の温度で、通常10分間~5時間、好ましくは30分間~2時間静置し、コート剤を培養面に接触させた後、コート剤を除去する方法が採用される。接触時間が短すぎるとコートが不十分となる。一方、培養面を構成する脂環構造含有重合体へのタンパク質吸着性は低く、ポリスチレンなどのように多層吸着しないため、接触時間を長くしても、吸着量が増えることはない。従って、上記の時間以上に接触時間を長くする必要はない。なお、コート剤除去後、乾燥を防ぐために、速やかに培地を添加することが望ましい。
【0026】
脂環構造含有重合体で構成される培養面は水性溶液をはじきやすいため、培養容器に添加するコート剤の量は、一般的なポリスチレン製細胞培養容器に添加するコート剤量より1.5~3倍程度多く添加することが望ましく、具体的には培養面1cmに対して、0.15~0.30mlを添加するのが好ましい。
【0027】
(脂環構造含有重合体)
上記脂環構造含有重合体は、主鎖および/または側鎖に脂環構造を有する樹脂であり、機械的強度、耐熱性などの観点から、主鎖に脂環構造を含有するものが好ましく、分化誘導効率の観点から、極性基を有しないものがより好ましい。ここで、極性基とは、極性のある原子団を指す。極性基としては、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基などが挙げられる。
【0028】
上記脂環構造としては、飽和環状炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和環状炭化水素(シクロアルケン)構造などが挙げられるが、機械的強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造やシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造を有するものが最も好ましい。
【0029】
脂環構造を構成する炭素原子数は、格別な制限はないが、通常4~30個、好ましくは5~20個、より好ましくは5~15個である。脂環構造を構成する炭素原子数がこの範囲内であるときに、機械的強度、耐熱性、および成形性の特性が高度にバランスされ、好適である。
【0030】
脂環構造含有重合体中の脂環構造を有する繰り返し単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、通常30重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。脂環構造含有重合体中の脂環構造を有する繰り返し単位の割合が過度に少ないと耐熱性に劣り好ましくない。脂環構造含有重合体中の脂環構造を有する繰り返し単位以外の残部は、格別な限定はなく、使用目的に応じて適宜選択される。
【0031】
脂環構造含有重合体の具体例としては、(1)ノルボルネン系重合体、(2)単環の環状オレフィン系重合体、(3)環状共役ジエン系重合体、(4)ビニル脂環式炭化水素系重合体、および(1)~(4)の水素化物などが挙げられる。これらの中でも、耐熱性、機械的強度等の観点から、ノルボルネン系重合体およびその水素化物が好ましい。
【0032】
(1)ノルボルネン系重合体
ノルボルネン系重合体は、ノルボルネン骨格を有する単量体であるノルボルネン系単量体を重合してなるものであり、開環重合によって得られるものと、付加重合によって得られるものに大別される。
【0033】
開環重合によって得られるものとしては、ノルボルネン系単量体の開環重合体およびノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体、ならびにこれらの水素化物などが挙げられる。付加重合によって得られるものとしては、ノルボルネン系単量体の付加重合体およびノルボルネン系単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加重合体などが挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系単量体の開環重合体水素化物が、耐熱性、機械的強度等の観点から好ましい。
【0034】
ノルボルネン系重合体の合成に使用可能なノルボルネン系単量体としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン(慣用名ノルボルネン)、5-メチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5,5-ジメチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-エチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-エチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-ビニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-プロペニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-メトキシカルボニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-シアノビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-メチル-5-メトキシカルボニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン等の2環式単量体;
トリシクロ[4.3.01,6.12,5]デカ-3,7-ジエン(慣用名ジシクロペンタジエン)、2-メチルジシクロペンタジエン、2,3-ジメチルジシクロペンタジエン、2,3-ジヒドロキシジシクロペンタジエン等の3環式単量体;
テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(テトラシクロドデセン)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8,9-ジメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-エチル-9-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-エチリデン-9-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-メチル-8-カルボキシメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、7,8-ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3-エン(慣用名メタノテトラヒドロフルオレン:1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレンともいう)、1,4-メタノ-8-メチル-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン、1,4-メタノ-8-クロロ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン、1,4-メタノ-8-ブロモ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン等の4環式単量体;等が挙げられる。
【0035】
ノルボルネン系単量体と開環共重合可能なその他の単量体としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、1,4-シクロヘキサジエン、1,5-シクロオクタジエン、1,5-シクロデカジエン、1,5,9-シクロドデカトリエン、1,5,9,13-シクロヘキサデカテトラエン等の単環のシクロオレフィン系単量体が挙げられる。
これらの単量体は、置換基を1種または2種以上有していてもよい。置換基としては、アルキル基、アルキレン基、アリール基、シリル基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基等が挙げられる。
【0036】
ノルボルネン系単量体と付加共重合可能なその他の単量体としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン等の炭素数2~20のα-オレフィン系単量体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ-3,5,7,12-テトラエン(3a,5,6,7a-テトラヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデンとも言う)等のシクロオレフィン系単量体;1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン等の非共役ジエン系単量体;等が挙げられる。
【0037】
これらの中でも、ノルボルネン系単量体と付加共重合可能なその他の単量体としては、α-オレフィン系単量体が好ましく、エチレンがより好ましい。
これらの単量体は、置換基を1種または2種以上有していてもよい。置換基としては、アルキル基、アルキレン基、アリール基、シリル基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基等が挙げられる。
【0038】
ノルボルネン系単量体の開環重合体、またはノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体は、単量体成分を、公知の開環重合触媒の存在下で重合して得ることができる。開環重合触媒としては、例えば、ルテニウム、オスミウムなどの金属のハロゲン化物と、硝酸塩またはアセチルアセトン化合物、および還元剤とからなる触媒、あるいは、チタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデンなどの金属のハロゲン化物またはアセチルアセトン化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いることができる。
ノルボルネン系単量体の開環重合体水素化物は、通常、上記開環重合体の重合溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素化触媒を添加し、炭素-炭素不飽和結合を水素化することにより得ることができる。
【0039】
ノルボルネン系単量体の付加重合体、またはノルボルネン系単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加重合体は、単量体成分を、公知の付加重合触媒の存在下で重合して得ることができる。付加重合触媒としては、例えば、チタン、ジルコニウムまたはバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いることができる。
【0040】
(2)単環の環状オレフィン系重合体
単環の環状オレフィン系重合体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの、単環の環状オレフィン系単量体の付加重合体を用いることができる。
(3)環状共役ジエン系重合体
環状共役ジエン系重合体としては、例えば、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエンなどの環状共役ジエン系単量体を1,2-または1,4-付加重合した重合体およびその水素化物などを用いることができる。
(4)ビニル脂環式炭化水素重合体
ビニル脂環式炭化水素重合体としては、例えば、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘキサンなどのビニル脂環式炭化水素系単量体の重合体およびその水素化物;スチレン、α-メチルスチレンなどのビニル芳香族系単量体の重合体の芳香環部分の水素化物;などが挙げられる。ビニル脂環式炭化水素重合体は、これらの単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。
【0041】
脂環構造含有重合体の分子量に格別な制限はないが、シクロヘキサン溶液(重合体が溶解しない場合はトルエン溶液)のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレン換算の重量平均分子量で、通常5,000以上であり、好ましくは5,000~500,000、より好ましくは8,000~200,000、特に好ましくは10,000~100,000である。重量平均分子量がこの範囲内であるときに、機械的強度と成形加工性とが高度にバランスし、好適である。
【0042】
脂環構造含有重合体のガラス転移温度は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、通常50~300℃、好ましくは100~280℃である。ガラス転移温度がこの範囲内であるときに、耐熱性と成形加工性とが高度にバランスし、好適である。
本発明における脂環構造含有重合体のガラス転移温度は、JIS K 7121に基づいて測定されたものである。
【0043】
上記脂環構造含有重合体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、脂環構造含有重合体には、熱可塑性樹脂材料で通常用いられている配合剤、例えば、軟質重合体、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、近赤外線吸収剤、離型剤、染料や顔料などの着色剤、可塑剤、帯電防止剤、蛍光増白剤などの配合剤を、通常採用される量、添加することができる。
また、脂環構造含有重合体には、軟質重合体以外のその他の重合体(以下、単に「その他の重合体」という)を混合しても良い。脂環構造含有重合体に混合されるその他の重合体の量は、脂環構造含有重合体100質量部に対して、通常200質量部以下、好ましくは150質量部以下、より好ましくは100質量部以下である。
脂環構造含有重合体に対して配合する各種配合剤やその他の重合体の割合が多すぎると細胞が浮遊し難くなるため、いずれも脂環構造含有重合体の性質を損なわない範囲で配合することが好ましい。
脂環構造含有重合体と配合剤やその他の重合体との混合方法は、ポリマー中に配合剤が十分に分散する方法であれば、特に限定されない。また、配合の順番に格別な制限はない。配合方法としては、例えば、ミキサー、一軸混練機、二軸混練機、ロール、ブラベンダー、押出機などを用いて樹脂を溶融状態で混練する方法、適当な溶剤に溶解して分散させた後、凝固法、キャスト法、または直接乾燥法により溶剤を除去する方法などが挙げられる。
二軸混練機を用いる場合、混練後は、通常は溶融状態で棒状に押出し、ストランドカッターで適当な長さに切り、ペレット化して用いられることが多い。
【0044】
脂環構造含有重合体で構成される容器の成形方法は、所望される培養容器の形状に応じて任意に選択することができる。成形方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、キャスト成形法、インフレーション成形法、ブロー成形法、真空成形法、プレス成形法、圧縮成形法、回転成形法、カレンダー成形法、圧延成形法、切削成形法、紡糸等が挙げられ、これらの成形法を組み合わせることができ、成形後必要に応じて延伸等の後処理をすることもできる。
【実施例0045】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
(実施例I)
培養容器
脂環構造含有重合体として、ゼオネックス(登録商標)790R(日本ゼオン社製、ノルボルネン系開環重合体水素化物:以下、単に「790R」という)を用いて、射出成形法により、0.32cmの底面積を有する円筒形状のウェルを96個含むウェルプレートを培養容器として得た。その後、当該培養容器について酸化エチレンガスによる滅菌処理を行った(以下、この培養容器を「790R製96ウェルプレート」という。)。790R製96ウェルプレートのウェル内底面(細胞と接触する面、すなわち培養面)における表面自由エネルギーは34mN/mであった。ここで、上記表面自由エネルギーは、表面エネルギー値評価インク(Arcotest社製)を用いて測定した。
【0047】
コーティング
790R製96ウェルプレートの各ウェルに対して、滅菌水を用いて10μg/mLに調製したヒトフィブロネクチン(コーニング社製、型番356008)溶液を150μL添加し、37℃で2時間静置した後、各ウェルからヒトフィブロネクチン溶液を取り除き、790R製96ウェルプレートのウェル内底面を、ヒトフィブロネクチンコーティングした。
【0048】
細胞培養
iCell(登録商標)Cardiomyocytes(FUJIFILM Cellular Dynamics社製、型番C1016)を、付属の心筋細胞用解凍培地(FUJIFILM Cellular Dynamics社製、型番M1001)に懸濁して、7.5×10cells/wellで上記プレートに播種し、5%CO雰囲気下37℃の条件で4時間培養を行った。
その後、790R製96ウェルプレートの各ウェルより心筋細胞用解凍培地を取り除き、新たに心筋細胞用維持培地(FUJIFILM Cellular Dynamics社製、型番M1003)を150μL加え、5%CO雰囲気下37℃の条件で培養を行った。
細胞を播種してから2日後に790R製96ウェルプレートの各ウェル内の心筋細胞用維持培地を半量交換した。
【0049】
試薬調整
細胞を播種してから3日後に、Cal520(AAT Bioquest社製、型番21130)の市販試薬チューブ1本に対してジメチルスルホキシド(DMSO)(ナカライテスク社製、型番09659-14)を10μL添加して溶解させ、滅菌水を490μL加えてCal520溶液を作製した。
PluronicF-127(BTI社製、型番59000)を滅菌水で1mg/mLに調製し、PluronicF-127溶液を作製した。
心筋細胞用維持培地(FUJIFILM Cellular Dynamics社製、型番M1003)を用いてCal520溶液が1%、Pluronic-127溶液が0.2%となるようにカルシウム染色液を作製した。
【0050】
データ取得
次に、790R製96ウェルプレートの各ウェルから培養上清を取り除き、上記カルシウム染色液をそれぞれのウェルに対して150μLずつ加え37℃で1時間静置し、心筋細胞をカルシウム染色した。その後、共焦点定量イメージサイトメーターCQ1(横河電機社製、以下単に「CQ1」という)を用いて、それぞれの各ウェル内にある心筋細胞を20fps(frames per second)の条件で30秒間撮影し、600枚の画像データを得、心筋細胞の拍動を確認した。
次に、DMSOを用いてE-4031(TOCRIS社製、型番1808:HERGカリウムチャンネルブロッカー)溶液を希釈し、790R製96ウェルプレートの所定のウェルに16.6μL加え、ウェル内におけるE-4031の終濃度が0.1μMとなるように調製した。同様に、段階希釈を行って、E-4031の終濃度が0.1μM、0.03μM、0.01μM、0.003μMおよび0.001μMとなるように調製し、所定のウェルに16.6μL加えた。
各終濃度のサンプルをn=3とし、サンプル入りのプレートを5%CO雰囲気下37℃の条件で1時間静置した。その後、CQ1を用いて、薬剤が添加されたそれぞれのウェル内にある心筋細胞を20fpsの条件で30秒間撮影し、600枚の画像データを得た。
このようにして撮像された、薬剤添加前後における各600枚の画像をそれぞれ結合し、動画データを得た。
【0051】
評価
その後、画像解析ソフトImageJ(Wayne Rasband社製)を用いて、上記動画データの蛍光輝度を数値化し、ウェルごとの拍動チャート(縦軸:蛍光輝度、横軸:時間(秒))を作成した。
次に、この拍動チャートの1拍動内での最小値を、拍動チャート全体から差し引き、ベースラインがゼロとなるように補正した。その後、縦軸の数値の最大値が1となるように規格化し、拍動間距離(D’0.1)を算出した。E-4031の添加前後における、各濃度でのQT延長率(拍動間距離の延長率)を求め、各濃度についてn=3のサンプルの平均から標準偏差を算出した。結果を表1に示す。
【0052】
(実施例2)
E-4031の代わりにNifedipine(ニフェジピン)(東京化成工業株式会社製、型番N0528:カルシウムチャネルブロッカー)を用いたこと以外は、実施例1と同様に上記「培養容器」~「評価」を行った。結果を表1に示す。
なお、実施例1のE-4031では、その添加により、QT延長率が横軸に対してプラス方向に延長されるのに対し、Nifedipineでは、その暴露濃度が高濃度(例えば、0.010μM以上の濃度)の場合、QT延長率がマイナス方向に延長(すなわち短縮)される。
【0053】
(実施例3)
iCell(登録商標)Cardiomyocytesの細胞ロット(製造ロット)を、CMC-105153にしたこと以外は、実施例1と同様に上記「培養容器」~「評価」を行った。結果を表1に示す。
【0054】
(実施例4)
iCell(登録商標)Cardiomyocytesの細胞ロットを、CMC-105256にしたこと以外は、実施例1と同様に上記「培養容器」~「評価」を行った。結果を表1に示す。
【0055】
(比較例1)
790R製96ウェルプレートの代わりに、ポリスチレン製96ウェルプレート(ファルコン(登録商標)、コーニング社製、型番353916、表面自由エネルギー:43mN/m)を用いたこと以外は、実施例1と同様に上記「コーティング」~「評価」を行った。結果を表1に示す。
【0056】
(比較例2)
790R製96ウェルプレートの代わりに、ポリスチレン製96ウェルプレートを用いたこと以外は、実施例2(Nifedipine使用)と同様に上記「コーティング」~「評価」を行った。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1の結果から、脂環構造含有重合体を材料とする790R製96ウェルプレートを用いた実施例では、ポリスチレン製96ウェルプレートの比較例に比べて、薬剤添加前後における、QT延長率のバラツキが極めて小さいことがわかる。
【0059】
ところで、MEAを用いた薬剤のQT延長評価法(MEA法)に関するAndo H et al., "A new paradigm for drug-induced torsadogenic risk assessment using human iPS cell-derived cardiomyocytes." Journal of Pharmacological and Toxicological Methods, Mar-Apr 2017;84:111-127.の表3-1には、各薬剤の+10%QT延長濃度、+30%QT延長濃度、および-10%QT延長濃度がまとめられている。
【0060】
そこで、E-4031を用いた実施例1、3および4と比較例1において、得られた拍動間距離(D’0.1)から、
Fridericiaの補正式:
補正QT間隔=拍動間距離(D’0.1)/拍動ピークトップ間距離1/3
を用いて補正QT間隔を算出し、+10%のQT延長が観測されるE-4031の濃度および+30%のQT延長が観測されるE-4031の濃度(μM)をそれぞれ算出した。結果を図2に示す。
なお、「拍動ピークトップ間距離」とは、複数回の拍動が記録された拍動チャートにおける各拍動のピーク間の距離を指し、複数のピーク間距離を平均する等、上記文献に記載される方法および公知の方法により算出する。
本実施例では、上記「補正QT間隔」について、薬剤添加前と比較して、10%のQT延長がみられる薬剤の濃度を+10%QT延長濃度と表し、薬剤添加前と比較して30%のQT延長がみられる薬剤の濃度を+30%QT延長濃度と表し、-10%のQT延長がみられる薬剤の濃度を-10%QT延長濃度と表す。
【0061】
同様に、Nifedipineを用いた実施例2と比較例2において、得られた拍動間距離(D’0.1)から、同様にして補正QT間隔を算出し、-10%のQT延長が観測されるNifedipine濃度を算出した。結果を図3に示す。
【0062】
また、比較のため、前述の論文の表3-1に記載されているE-4031(siteD)の+10%QT延長濃度のデータ(Free conc. FPDcF10)、および+30%QT延長濃度のデータ(Free conc. FPDcF30)を抽出し、参考例(比較基準データ)として、図2に併記した。
同様に、Nifedipineの-10%QT延長濃度のデータ(Free conc. FPDc-10)を抽出し、参考例(比較基準データ)として、図3に併記した。
【0063】
図2および3を見ると、790製96ウェルプレートを用いた実施例では、+10%、+30%、-10%のQT延長率が観測される薬剤濃度が、MEA法により導き出される薬剤濃度と非常に相関していることがわかる。一方で、ポリスチレンを培養面の材質とするウェルプレートを用いた比較例では、上記のような相関関係はみられなかった。
以上のことから、カルシウムイメージングによる拍動のモニタリングを行うにあたり、培養面が脂環構造含有重合体であるプレートを用いることで、所定のQT延長が観測される薬剤濃度を高精度に決定できることが確認できた。また、QT延長率を評価の指標とすることで、細胞の個体差に起因する影響を最小限にし、正確な心毒性評価を行えることが確認できた。
図1
図2
図3