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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062742
(43)【公開日】2023-05-09
(54)【発明の名称】液晶性樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/81 20060101AFI20230427BHJP
【FI】
C08G63/81
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021172821
(22)【出願日】2021-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】西山 寛樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 浩一
【テーマコード(参考)】
4J029
【Fターム(参考)】
4J029AA06
4J029AB04
4J029AD01
4J029BB04A
4J029BB05A
4J029BB10A
4J029BB12A
4J029BB13A
4J029BC05A
4J029BC06A
4J029BD04A
4J029BD07A
4J029BH01
4J029CB05A
4J029CB06A
4J029CB10A
4J029CC06A
4J029CD03
4J029DA15
4J029EB04A
4J029EB05A
4J029EB08
4J029EC05A
4J029EC06A
4J029EC08
4J029EC10
4J029ED08A
4J029EE05
4J029EE06
4J029JB161
4J029JC021
4J029JC022
4J029JC051
4J029JC062
4J029JC072
4J029JC091
4J029JC361
4J029JC371
4J029JF121
4J029JF131
4J029JF141
4J029JF151
4J029JF161
4J029JF221
4J029JF231
4J029JF241
4J029JF261
4J029JF281
4J029JF321
4J029JF371
4J029JF471
4J029JF481
4J029JF541
4J029JF561
4J029JF581
4J029KC01
4J029KC04
4J029KD02
4J029KD07
4J029KE02
4J029KE05
4J029KE09
4J029KE15
(57)【要約】
【課題】従来よりも低コストで液晶性樹脂を製造する方法を提供する。
【解決手段】(A)有機溶媒中で原料モノマーを重縮合し、オリゴマーを得ること、及び(B)有機溶媒を除去し、100Torr未満の圧力下において(A)で得られたオリゴマーを溶融状態で重縮合して液晶性樹脂を得ること、を含む、液晶性樹脂の製造方法とする。
(A)および(B)を、酸触媒の存在下で行うことが好ましい。酸触媒が、酸解離定数pKaが1以下である酸性化合物と窒素原子を1以上有する有機塩基化合物との塩(S1)、及び、酸解離定数pKaが1以下である酸性化合物と2~4価の金属との塩(S2)から選択される1以上を含むことが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)有機溶媒中で原料モノマーを重縮合し、オリゴマーを得ること、及び
(B)有機溶媒を除去し、100Torr未満の圧力下において(A)で得られたオリゴマーを溶融状態で重縮合して液晶性樹脂を得ること、
を含む、液晶性樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記有機溶媒が炭化水素系溶媒を含む、請求項1に記載の液晶性樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶媒が、キシレン、トルエン、ベンゼン、デカリン、及びシクロヘキサンからなる群より選択される1以上を含む、請求項1又は2に記載の液晶性樹脂の製造方法。
【請求項4】
(A)および(B)を酸触媒の存在下で行う、請求項1から3のいずれか一項に記載の液晶性樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記酸触媒の添加量が、原料モノマーに対して0.01~10モル%である、請求項4に記載の液晶性樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記酸触媒が、酸解離定数pKaが1以下である酸性化合物と窒素原子を1以上有する有機塩基化合物との塩(S1)、及び、酸解離定数pKaが1以下である酸性化合物と2~4価の金属との塩(S2)から選択される1以上を含む、請求項4又は5に記載の液晶性樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記塩(S1)及び/又は前記塩(S2)を構成する酸性化合物がスルホン酸基を有する、請求項6に記載の液晶性樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記塩(S1)を構成する有機塩基化合物がアミノ基を有する、請求項6又は7に記載の液晶性樹脂の製造方法。
【請求項9】
前記塩(S2)を構成する金属が2~3価である、請求項6から8のいずれか一項に記載の液晶性樹脂の製造方法。
【請求項10】
前記塩(S1)及び/又は前記塩(S2)を構成する酸性化合物がハロゲン化アルキルスルホン酸を含む、請求項6から9のいずれか一項に記載の液晶性樹脂の製造方法。
【請求項11】
前記塩(S1)を構成する有機塩基化合物がハロゲン化芳香族アミンを含む、請求項6から10のいずれか一項に記載の液晶性樹脂の製造方法。
【請求項12】
前記塩(S2)を構成する金属が3価である、請求項6から11のいずれか一項に記載の液晶性樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶性樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全芳香族ポリエステル及び全芳香族ポリエステルアミド等の液晶性樹脂は、高温での溶融時に液晶性を示す樹脂であり、高流動性、低バリ性、耐リフロー性等に優れることから、多様な分野で用いられている。全芳香族ポリエステル及び全芳香族ポリエステルアミドは、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール等の原料モノマーのヒドロキシ基をアシル化剤で予めアシル化し、その後、脱酢酸による重縮合反応により合成するのが一般的である。アシル化剤としては、一般的に無水酢酸等の酸無水物が用いられている(例えば特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-19866号公報
【特許文献2】国際公開第2020/026746号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アシル化剤として一般的に用いられている酸無水物は、比較的高価であるため、より低コストで液晶性樹脂を製造する方法が求められている。例えば、アシル化によるヒドロキシ基の活性化を経由することなく、フェノール性ヒドロキシ基とカルボキシ基とを直接エステル化反応させることによって芳香族ポリエステル及び全芳香族ポリエステルアミドを製造することができれば、低コストで液晶性樹脂を製造することが可能になる。
【0005】
本発明は、従来よりも低コストで液晶性樹脂を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の態様を有する。
[1](A)有機溶媒中で原料モノマーを重縮合し、オリゴマーを得ること、及び
(B)有機溶媒を除去し、100Torr未満の圧力下において(A)で得られたオリゴマーを溶融状態で重縮合して液晶性樹脂を得ること、
を含む、液晶性樹脂の製造方法。
[2]前記有機溶媒が炭化水素系溶媒を含む、[1]に記載の液晶性樹脂の製造方法。
[3]前記有機溶媒が、キシレン、トルエン、ベンゼン、デカリン、及びシクロヘキサンからなる群より選択される1以上を含む、[1]又は[2]に記載の液晶性樹脂の製造方法。
[4](A)および(B)を酸触媒の存在下で行う、[1]から[3]のいずれかに記載の液晶性樹脂の製造方法。
[5]前記酸触媒の添加量が、原料モノマーに対して0.01~10モル%である、[4]に記載の液晶性樹脂の製造方法。
[6]前記酸触媒が、酸解離定数pKaが1以下である酸性化合物と窒素原子を1以上有する有機塩基化合物との塩(S1)、及び、酸解離定数pKaが1以下である酸性化合物と2~4価の金属との塩(S2)から選択される1以上を含む、[4]又は[5]に記載の液晶性樹脂の製造方法。
[7]前記塩(S1)及び/又は前記塩(S2)を構成する酸性化合物がスルホン酸基を有する、[6]に記載の液晶性樹脂の製造方法。
[8]前記塩(S1)を構成する有機塩基化合物がアミノ基を有する、[6]又は[7]に記載の液晶性樹脂の製造方法。
[9]前記塩(S2)を構成する金属が2~3価である、[6]から[8]のいずれかに記載の液晶性樹脂の製造方法。
[10]前記塩(S1)及び/又は前記塩(S2)を構成する酸性化合物がハロゲン化アルキルスルホン酸を含む、[6]から[9]のいずれかに記載の液晶性樹脂の製造方法。
[11]前記塩(S1)を構成する有機塩基化合物がハロゲン化芳香族アミンを含む、[6]から[10]のいずれかに記載の液晶性樹脂の製造方法。
[12]前記塩(S2)を構成する金属が3価である、[6]から[11]のいずれかに記載の液晶性樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来よりも低コストで液晶性樹脂を製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
【0009】
[液晶性樹脂の製造方法]
本発明者は、原料モノマーをオリゴマー化し、その後減圧下において溶融状態でオリゴマーを重縮合反応させることで、アシル化工程を経なくとも液晶性樹脂を製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本実施形態に係る液晶性樹脂の製造方法は、
(A)有機溶媒中で原料モノマーを重縮合し、オリゴマーを得ること、及び
(B)有機溶媒を除去し、100Torr未満の圧力下において(A)で得られたオリゴマーを溶融状態で重縮合して液晶性樹脂を得ること、
を含む。
本実施形態に係る液晶性樹脂の製造方法によれば、アシル化剤を用いる必要がなく、従来よりも低コストで液晶性樹脂を製造することができる。また、アシル化工程が不要であるので、従来よりも効率的に液晶性樹脂を製造することができる。工程(A)及び工程(B)は引き続き行うことができ、その場合はより効率的に液晶性樹脂を製造することができる
【0011】
「液晶性」とは、光学異方性溶融相を形成し得る性質を有することをいう。異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することができる。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージに載せた溶融試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。液晶性を有する樹脂は、直交偏光子の間で検査したときに、たとえ溶融静止状態であっても偏光は通常透過し、光学的に異方性を示す。
【0012】
<(A)オリゴマー化工程>
工程(A)では、有機溶媒中で原料モノマーを重縮合し、オリゴマーを得る。原料モノマーをオリゴマー化することで、アシル化工程を経由することなく、後述する工程(B)においてフェノール性ヒドロキシ基とカルボキシ基とを直接エステル化反応させることによって液晶性樹脂を製造することができる。原料モノマーをオリゴマー化せずにそのまま工程(B)において重縮合反応させたとしても、液晶性樹脂が得られないか、又は収率が低く実用的ではない。
【0013】
「オリゴマー」とは、原料モノマーの2量体~8量体のことを意味している。オリゴマーが生成したことは、反応液1mLをアセトン10mL中に入れて23℃で30分間撹拌した際に溶媒に不溶な沈殿物が生じることで確認することができる。
【0014】
(原料モノマー)
原料モノマーは、芳香族ヒドロキシカルボン酸、及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことが好ましい。
芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその重合可能な誘導体としては、特に限定されず、例えば、p-ヒドロキシ安息香酸(4-ヒドロキシ安息香酸:HBA)、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、m-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-3-ナフトエ酸、6-ヒドロキシ-4-ナフトエ酸、4-ヒドロキシ-4’-カルボキシジフェニルエーテル、2,6-ジクロロ-p-ヒドロキシ安息香酸、2-クロロ-p-ヒドロキシ安息香酸、2,6-ジメチル-p-ヒドロキシ安息香酸、2,6-ジフルオロ-p-ヒドロキシ安息香酸、4-ヒドロキシ-4’-ビフェニルカルボン酸、バニリン酸等を挙げることができる。これらから選択される少なくとも1種の化合物を用いることができる。
中でも、入手の容易さの点で、p-ヒドロキシ安息香酸及び6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0015】
原料モノマーは、さらに、以下の(1)及び/又は(2)を満たすことができる。
(1)芳香族若しくは脂環族ジカルボン酸及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、及び/又は、
(2)芳香族若しくは脂環族ジカルボン酸及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、芳香族若しくは脂環族ジオール、芳香族若しくは脂環族ヒドロキシアミン、芳香族若しくは脂環族ジアミン、及びこれらの重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を含む。
【0016】
芳香族ジカルボン酸としては、特に限定されず、例えば、テレフタル酸(TA)、イソフタル酸(IA)、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、及び下記一般式(I)で表される化合物等を挙げることができる。
一般式(I):
(Y:-(CH-(n=1~4)及び-O(CHO-(n=1~4)より選ばれる基である。)
【0017】
脂環族ジカルボン酸としては、特に限定されず、例えば、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸等を挙げることができる。重合可能な誘導体としては、特に限定されず、例えば、上記化合物のアルキルエステル(炭素数1~4程度)、ハロゲン化物等を挙げることができる。
【0018】
芳香族ジオールとしては、特に限定されず、例えば、2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(BP)、ハイドロキノン、レゾルシン、下記一般式(II)で表される化合物、及び下記一般式(III)で表される化合物等を挙げることができる。
【0019】
一般式(II):
(X:アルキレン(C~C)、アルキリデン、-O-、-SO-、-SO-、-S-、及び-CO-より選ばれる基である。)
【0020】
一般式(III):
【0021】
脂環族ジオールとしては、特に限定されず、例えば、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジオール等を挙げることができる。重合可能な誘導体としては、特に限定されず、上記化合物のアルキルエステル(炭素数1~4程度)、ハロゲン化物等を挙げることができる。
【0022】
芳香族ヒドロキシアミンとしては、特に限定されず、例えば、p-アミノフェノール、m-アミノフェノール等を挙げることができる。脂環族ヒドロキシアミンとしては、特に限定されず、例えば、4-ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸、3-ヒドロキシシクロペンタンカルボン酸等を挙げることができる。重合可能な誘導体としては、特に限定されず、上記化合物のアルキルエステル(炭素数1~4程度)、ハロゲン化物等を挙げることができる。
【0023】
芳香族ジアミンとしては、p-フェニレンジアミン等を挙げることができる。脂環族ジアミンとしては、特に限定されず、例えば、1,4-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロペンタンジアミン等を挙げることができる。重合可能な誘導体としては、特に限定されず、上記化合物のアルキルエステル(炭素数1~4程度)、ハロゲン化物等を挙げることができる。
【0024】
原料モノマーの具体的な組み合わせとしては、例えば、
(I)(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、及び、
(II)(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、(b)芳香族若しくは脂環族ジカルボン酸及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、(c)芳香族若しくは脂環族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を含む等の組み合わせを例示することができる。さらに上記の構成成分に必要に応じ分子量調整剤を併用してもよい。
【0025】
(有機溶媒)
有機溶媒は、炭化水素系溶媒であることが好ましい。炭化水素系溶媒を用いることで副反応により生成する水を少なくすることができ、その結果工程(B)において水による逆反応を抑制して重縮合反応をより促進することができる。
炭化水素系溶媒としては、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、ノルマルヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン等の脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素及びそれらの混合物からなる炭化水素系溶媒が挙げられる。
一実施形態において、有機溶媒は、脂環族炭化水素及び芳香族炭化水素から選択される1以上を含むことが好ましい。
【0026】
一実施形態において、有機溶媒は、キシレン、トルエン、ベンゼン、デカリン、及びシクロヘキサンからなる群より選択される1以上を含むことが好ましい。これらから選択される1以上を用いることで、副反応により生成する水をより少なくすることができ、その結果工程(B)において水による逆反応をより抑制して、重縮合反応をさらに促進することができる。
【0027】
(オリゴマー化)
原料モノマーを、上記した有機溶媒中で、触媒の存在下、100~180℃(好ましくは120~140℃)で、1~8時間(好ましくは4~6時間)重縮合反応させることにより、オリゴマーを得る(オリゴメリゼーション)。反応時の圧力は、常圧(760Torr)であることが好ましい。
【0028】
(触媒)
触媒は、オリゴマーを容易に得ることができる観点から、酸触媒を含むことが好ましい。一実施形態において、有機溶媒中で原料モノマーを重縮合しオリゴマーを得る工程(A)は、酸触媒の存在下で行われることが好ましい。
触媒は、引き続き行われる工程(B)における触媒としても用いることができる。一実施形態において、工程(A)及び工程(B)が、酸触媒の存在下で行われることが好ましい。
【0029】
酸触媒としては、オリゴマーをより容易に得ることができる観点から、酸解離定数pKaが1以下である酸性化合物(以下、単に「酸性化合物」ともいう。)と窒素原子を1以上有する有機塩基化合物(以下、単に「有機塩基化合物」ともいう。)との塩(以下、「塩(S1)」という。)、及び、酸解離定数pKaが1以下である酸性化合物(以下、単に「酸性化合物」ともいう。)と2~4価の金属との塩(以下「塩(S2)」という。)から選択される1以上を含むことが好ましい。
【0030】
塩(S1)及び塩(S2)は、酸性化合物と有機塩基化合物との塩そのもの、又は、酸性化合物と2~4価の金属との塩そのものを使用することの他に、反応系内で酸性化合物と有機塩基化合物とを共存させることにより、又は反応系内で酸性化合物と2~4価の金属塩とを共存させることにより、酸性化合物との塩を形成させてもよい。酸性化合物と有機塩基化合物又は2~4価の金属塩とは、反応系内で反応して塩を形成し得る。2~4価の金属塩としては、2~4価の金属のハロゲン化物、硫化物、水酸化物、炭酸塩等が挙げられる。
【0031】
(酸性化合物と有機塩基化合物との塩(S1))
塩(S1)は、酸解離定数pKaが1以下である酸性化合物と窒素原子を1以上有する有機塩基化合物との塩である。塩(S1)は、少なくとも一つの酸性化合物のアニオンと少なくとも一つの有機塩基化合物のカチオンとで構成されている。
酸性化合物(アニオン成分)は、酸解離定数pKaが1以下であり、好ましくは0.65以下であり、より好ましくは-14.0~0.65であり、さらに好ましくは-14.0~-2.0である。酸性化合物の酸解離定数pKaが1を超えると、重縮合反応速度の向上効果が低下することがあり好ましくない。なお、上記pKaは、25℃における水溶液中でのpKaを意味する。
【0032】
酸性化合物としては、有機酸化合物が挙げられ、例えばスルホン酸基(-SOH)、スルホニル基(-SO-)から選ばれる1以上の官能基を少なくとも一つ有する有機酸化合物が挙げられ、これらから選ばれる1以上を用いることができる。すなわち、上記塩は、スルホン酸アニオン、スルホニルイミドアニオンから選ばれる1以上のアニオン成分を含むことが好ましい。一実施形態において、酸性化合物は、スルホン酸基を有する。
【0033】
酸性化合物は、酸性度、又は常温における取り扱いの簡便さの点で、スルホン酸を含むことが好ましい。スルホン酸としては、例えば、置換基を有してもよいアルキルスルホン酸、置換基を有してもよいアリールスルホン酸等が挙げられる。アルキルスルホン酸としては、例えば、メタンスルホン酸(pKa:-2.6)等が挙げられる。アリールスルホン酸としては、例えば、ベンゼンスルホン酸(pKa:0.7)、p-トルエンスルホン酸(pKa:-2.8)、ナフタレンスルホン酸(pKa:0.17)、ドデシルベンゼンスルホン酸(pKa:-0.45)、1.3-ベンゼンジスルホン酸(pKa:-1.4)等が挙げられる。
酸性化合物は、酸性度の調整、又は沸点降下の点で、ハロゲン化スルホン酸及び/又はハロゲン化アルキルスルホン酸を含むことが好ましい。ハロゲン化スルホン酸及び/又はハロゲン化アルキルスルホン酸としては、フルオロスルホン酸(pKa:-10)、ジフルオロメタンスルホン酸(pKa:-2.0)、トリフルオロメタンスルホン酸(pKa:-14.0)、パーフルオロブタンスルホン酸(pKa:-13.2)、パーフルオロヘキサンスルホン酸(pKa:-12.3)等が挙げられ、これらから選ばれる1以上を含むことが好ましい。中でも、トリフルオロメタンスルホン酸が最も好ましい。
一実施形態において、酸性化合物は、ハロゲン化アルキルスルホン酸を含む。
【0034】
あるいは、本実施形態においては、上記酸性化合物をそのまま用いる他に(又は上記酸性化合物と後述する有機塩基化合物との塩をそのまま用いる他に)、反応系内で当該酸性化合物アニオンを発生し得る化合物を用いることができる。反応系内で上記酸性化合物を発生させることにより、上記酸性化合物(又は酸性化合物と有機塩基化合物との塩)を用いた場合の効果と同じ効果を得ることができる。
【0035】
反応系内でスルホン酸基を少なくとも一つ有する有機酸化合物を発生し得る化合物としては、モノ、ジ又はトリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル、モノ、ジ又はトリフルオロメタンスルホン酸tert-ブチルシリル、モノ、ジ又はトリフルオロメタンスルホニルハライド、トリフルオロメタンスルホン酸金属塩等が挙げられる。これらの化合物は、カルボン酸の存在や、加熱により反応系内にモノ、ジ又はトリフルオロメタンスルホン酸アニオンを発生し得る。
【0036】
有機塩基化合物は、有機オニウムカチオンを発生する化合物であり、窒素原子を1以上有する。すなわち、上記塩は、窒素カチオンを少なくとも含む。原料モノマーを、窒素原子を1以上有する有機塩基化合物と上記した酸性化合物との塩の存在下で反応させることで、驚くべきことに、反応速度を高めることができるだけでなく、ガスの発生をより低減させ、かつ液晶性樹脂の明度が低下することを防ぐことができることが分かった。
【0037】
有機塩基化合物(カチオン成分)は、当該有機塩基化合物の塩基性度の点で、共役酸の酸解離定数pKaが13.0未満であることが好ましく、-10.0~8.0であることがより好ましく、-8.0~6.0であることがさらに好ましい。
なお、有機塩基化合物の共役酸の酸解離定数pKaは、25℃における水溶液中でのpKaを意味する。
【0038】
窒素原子を1以上有する有機塩基化合物としては、置換基を有してもよい、アルキルアミン、芳香族アミン、脂環式アミン、含窒素複素環化合物等が挙げられる。すなわち、上記塩は、置換基を有してもよいアルキルアンモニウムカチオン、置換基を有してもよい芳香族アンモニウムカチオン、置換基を有してもよい脂環式アンモニウムカチオン、置換基を有してもよい含窒素複素環化合物カチオンから選ばれる1以上を含む。
【0039】
アルキルアミンとしては、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(共役酸の酸解離定数pKa:11.0)、トリメチルアミン(共役酸の酸解離定数pKa:9.8)、トリエチルアミン(共役酸の酸解離定数pKa:10.8)等が挙げられる。
芳香族アミンとしては、ジフェニルアミン(共役酸の酸解離定数pKa:0.7)、アニリン(共役酸の酸解離定数pKa:4.6)、トリフェニルアミン(共役酸の酸解離定数pKa:-3.0)等が挙げられる。
脂環式アミンとしては、シクロペンチルアミン(共役酸の酸解離定数pKa:10.7)、シクロヘキシルアミン(共役酸の酸解離定数pKa:10.7)等が挙げられる。
含窒素複素環化合物としては、2,5-ジメチルピロリジン(共役酸の酸解離定数pKa:11.4)、N,N-ジメチルピペラジン(共役酸の酸解離定数pKa:4.6)、N-メチルモルホリン(共役酸の酸解離定数pKa:7.38)、N-アセチルモルホリン(共役酸の酸解離定数pKa:-0.7)、ジメチルアミノピリジン-N-オキシド・水和物(共役酸の酸解離定数pKa:3.9)、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン(DMAP、共役酸の酸解離定数pKa:9.7)、4-メトキシピリジン-N-オキシド(MPO、(共役酸の酸解離定数pKa:2.3)等が挙げられる。
【0040】
有機塩基化合物は、塩基性度の点で、アミノ基を有することが好ましく、共役酸の酸解離定数pKaの調整、又は沸点降下の点で、ハロゲン化芳香族アミンを含むことがより好ましい。ハロゲン化芳香族アミンとしては、ペンタフルオロアニリン(共役酸の酸解離定数pKa:-0.16)、2-フルオロピリジン(共役酸の酸解離定数pKa:-0.44)等が挙げられる。
【0041】
有機塩基化合物は、中でも、ジフェニルアミン、ペンタフルオロアニリンから選択される1以上を含むことが好ましい。すなわち、上記塩は、ジフェニルアンモニウムカチオン、ペンタフルオロアニリウムカチオン、及び2-フルオロジメチルアミノピリジニウムカチオンから選ばれる1以上を含むことが好ましい。
【0042】
酸性化合物と有機塩基化合物との塩(S1)の具体例としては、例えば、以下の化合物:
が挙げられる
【0043】
酸性化合物と有機塩基化合物との塩(S1)は、上記の(ペンタフルオロフェニル)アンモニウムトリフルオロメタンスルホナート(PFPAT)、(ペンタフルオロフェニル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド及びジフェニルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート(DPAT)から選択される1以上を含むことが好ましい。
【0044】
(酸性化合物と2~4価の金属との塩(S2))
塩(S2)は、酸解離定数pKaが1以下である酸性化合物と2~4価の金属との塩である。塩(S2)は、少なくとも一つの2~4価金属カチオンと、前記2~4価金属カチオンの価数に応じた数の酸性化合物のアニオンとで構成されている。酸解離定数pKaが1以下である酸性化合物については、上記塩(S1)と同じであるからここでは記載を省略する。
【0045】
2~4価の金属としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等の周期表第2族元素;スカンジウム、イットリウム等の周期表第3族元素;チタン、ジルコニウム、ハフニウム等の周期表第4族元素;マンガン等の周期表第7族元素;亜鉛等の周期表第12族元素;ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム等の周期表第13族元素;ケイ素、ゲルマニウム、スズ等の周期表第14族元素;アンチモン、ビスマス等の周期表第15族元素;鉄、銅等の遷移元素;ランタン、イッテルビウム、ガドリニウム等のランタノイド;等が挙げられる。
【0046】
一実施形態において、2~4価の金属は、2~3価であることが好ましく、3価の金属であることがより好ましい。一実施形態において、2~4価の金属は、チタン(IV)、ジルコニウム(IV)、ビスマス(III)、スカンジウム(III)、アルミニウム、ガドリニウム、スズ(II)、インジウム(III)、ランタン、マグネシウム(II)、カルシウム(II)、マンガン(II)、鉄(II)及び亜鉛から選択される1以上を含むことが好ましく、ビスマス(III)を含むことがより好ましい。
【0047】
一実施形態において、塩(S2)は、ビスマス(III)トリフルオロメタンスルホナート、トリフルオロメタンスルホン酸マグネシウム(II)、マンガン(II)ビス(トリフルオロメタンスルホナート)、トリフルオロメタンスルホン酸アルミニウム、インジウム(III)トリフルオロメタンスルホナート、トリフルオロメタンスルホン酸ガドリニウム、トリフルオロメタンスルホン酸ランタン(III)から選ばれる1以上を含むことが好ましく、ビスマス(III)トリフルオロメタンスルホナートを含むことがより好ましい。
【0048】
(触媒の添加量)
触媒の添加量は、原料モノマーに対して、0.01~10モル%であるであることが好ましく、0.05~5モル%であることがより好ましく、0.08~1モル%であることがさらに好ましい。
【0049】
酸性化合物と有機塩基化合物又は2~4価の金属塩とを反応系内で共存させることにより塩(S1)又は塩(S2)を発生させる場合の、酸性化合物、有機塩基化合物及び2~4価の金属塩の添加量は、例えば、以下のようにすることができる。
酸性化合物(又は反応系内で酸性化合物を発生し得る化合物)の添加量は、[(酸性化合物の分子量/生成する塩の分子量)×50]~[(酸性化合物の分子量/生成する塩の分子量)×5000]ppmであることが好ましく、[(酸性化合物の分子量/生成する塩の分子量)×100]~[(酸性化合物の分子量/生成する塩の分子量)×3000]ppmであることがより好ましい。
有機塩基化合物の添加量は、酸性化合物の酸部位に対して塩基部位が0.8~1.2当量であることが好ましく、酸性化合物の酸部位に対して塩基部位が0.9~1.1当量であることがより好ましい。
2~4価の金属塩の添加量は、酸性化合物の酸部位に対して金属部位が0.8~1.2当量であることが好ましく、酸性化合物の酸部位に対して金属部位が0.9~1.1当量であることがより好ましい。
【0050】
(その他の配合剤)
工程(A)において、必要に応じて、重合速度促進の観点から、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルチミン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等の脂肪酸を配合することができる。中でも、配合剤の沸点の観点からステアリン酸を用いることが好ましい。
脂肪酸の添加量は、モノマーに対して0.1~10当量であることが好ましく、0.5~2当量であることがより好ましい。
【0051】
(オリゴマー)
工程(A)において得られるオリゴマーは、数平均分子量が250以上であることが好ましく、300~1200であることがより好ましく、350~600であることがさらに好ましい。数平均分子量が250以上である場合は、後述する工程(B)において減圧下かつ溶融状態で重縮合反応させる際に原料モノマーが揮発することを防ぐことができ、より高い収率で液晶性樹脂を得ることができる。
数平均分子量は、特開平5-271394号公報に記載されている、アミン分解HPLC法によって算出されるカルボキシ末端基量から算出した値とする。
【0052】
<(B)溶融重縮合工程>
工程(B)では、上記工程(A)後の反応液から有機溶媒を除去し、100Torr未満の圧力下において工程(A)で得られたオリゴマーを溶融状態で重縮合して液晶性樹脂を得る。
【0053】
反応液から有機溶媒を除去することで、溶融重合することができる。有機溶媒を除去する方法は、限定されず、例えば蒸留、ろ過等により行うことができる。工程(A)に引き続き工程(B)を行うことができる点で、蒸留が好ましい。一実施形態において、反応液から有機溶媒を留去する。工程(A)に引き続き工程(B)を行う場合は、後述する昇温過程で有機溶媒を留去することができる。
【0054】
工程(B)において、反応容器内の温度を、好ましくは140~360℃、より好ましくは180~320℃まで、好ましくは1~4時間、より好ましくは2~3時間かけて昇温する。これにより溶融状態で重合を進めることができる。またこの過程において有機溶媒を留去することができる。
【0055】
上記昇温過程において、反応温度が140~220℃、好ましくは180~200℃となった時点で、反応容器内の圧力(ゲージ圧)を、100Torr未満(好ましくは1~20Torr、より好ましくは7~12Torr)に減圧する。これにより、オリゴマーが溶融状態で重縮合反応し、液晶性樹脂が生成される。反応容器内を減圧にしない場合は、オリゴマーの重縮合反応が進行せず液晶性樹脂が得られない。
【0056】
減圧にした後の重縮合反応の反応時間は、好ましくは0.5~3.5時間であり、より好ましくは1~2時間である。
【0057】
工程(B)において、必要に応じて、重縮合反応で副生する、水及びその他の低沸点成分を留去しながら行うことができる。
【0058】
工程(B)では、オリゴマーを重縮合反応させるための触媒を用いることができる。触媒としては、上記工程(A)で記載したものが挙げられる。工程(B)が工程(A)に引き続き行われる場合は、工程(A)で使用した触媒を工程(B)における重縮合反応の触媒とすることができる。
【0059】
本実施形態に係る液晶性樹脂の製造方法によれば、高い収率で液晶性樹脂を製造することができる。一実施形態において、工程(B)において得られる液晶性樹脂の、原料モノマーの使用量に対する収率が、50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、75%以上であることがさらに好ましい。
【0060】
(固相重合工程)
本実施形態の製造方法においては、工程(B)において得られた樹脂を、さらに固相重合させる工程を有していてもよい。固相重合により、原料樹脂の分子量の増加を図ることができ、強度や耐熱性に優れた液晶性樹脂を得ることができる。
【0061】
固相重合は、従来公知の方法を用いることができる。例えば、減圧又は真空下、窒素ガス等の不活性ガス気流中で、原料樹脂の液晶形成温度よりも10~120℃低い温度で加熱することにより行うことができる。なお、液晶性樹脂は固相重合が進むにしたがってその融点も上昇するので、原料樹脂の元の融点以上で固相重合することも可能である。固相重合は、一定の温度で実施してもよいし段階的に高温にしてもよい。加熱方法は、特に限定されず、マイクロ波加熱、ヒータ加熱等を用いることができる。
【0062】
[液晶性樹脂]
本実施形態の製造方法により得られる液晶性樹脂は、液晶性ポリエステル及び液晶性ポリエステルアミドから選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。液晶性ポリエステル及び液晶性ポリエステルアミドとしては、特に限定されないが、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドであることが好ましく、芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位を構成成分として有する芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドであることが特に好ましい。また、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドを同一分子鎖中に部分的に含むポリエステルとすることもできる。
【0063】
芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドとしては、より具体的には、
(1)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上からなるポリエステル;
(2)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上とからなるポリエステル;
(3)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上、とからなるポリエステル;
(4)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(c1)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上と、(c2)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミド;
(5)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上と、(c1)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上と、(c2)芳香族ジオール、脂環族ジオール、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミド等、を挙げることができる。
【0064】
液晶性樹脂の分子量(重量平均分子量Mw)は、特に限定されず、工程(B)で得られた樹脂の分子量としては、10000~150000であることが好ましく、50000~130000であることがより好ましい。固相重合工程で得られた樹脂の分子量としては、12000~170000であることが好ましく、70000~150000であることがより好ましい。なお、重量平均分子量Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定することができる。
【0065】
液晶性樹脂の融点は、特に限定されず、250~380℃とすることができる。液晶性樹脂の溶融粘度は、特に限定されず、溶融重合(工程(B))で得られた樹脂としては、液晶性樹脂の融点よりも10~30℃高いシリンダー温度及びせん断速度1000sec-1で測定した溶融粘度が、5Pa・s以上150Pa・s以下であることが好ましく、さらに好ましくは、10Pa・s以上100Pa・s以下である。さらに固相重合工程を行った場合の樹脂は、液晶性樹脂の融点よりも10~30℃高いシリンダー温度及びせん断速度1000sec-1で測定した溶融粘度が、5Pa・s以上200Pa・s以下であることが好ましく、さらに好ましくは、10Pa・s以上150Pa・s以下である。
【0066】
「液晶性樹脂の融点よりも10~30℃高いシリンダー温度」とは、液晶性樹脂が溶融粘度の測定が可能な程度まで溶融することができるシリンダー温度を意味しており、融点よりも何℃高いシリンダー温度とするかは、10~30℃の範囲で原料樹脂の種類によって異なる。液晶性樹脂は、粉粒体混合物の形態とすることができ、ペレット等の溶融混合物(溶融混練物)の形態とすることもできる。
【実施例0067】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0068】
[実施例1]
(工程(A))
重合容器に下記の原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で4時間反応させた。
(原料)
4-ヒドロキシ安息香酸(HBA):37.73g(73モル%)
6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸;19.01g(27モル%)
Bi(OTf):ビスマス(III)トリフルオロメタンスルホナート、東京化成工業(株)製、246mg(0.1モル%)
ステアリン酸(東京化成工業(株)製):1.07g(1モル%)
反応液から1mLを抜き出し、アセトン10mL中に入れ、23℃で0.5時間撹拌後、静置した。その結果、溶媒に不溶の白色の沈殿物が目視で確認された。
また、特開平5-271394号公報に記載されている、アミン分解HPLC法によって算出されるからカルボキシ末端基量から数平均分子量を算出したところ、数平均分子量は442であった。具体的には、沈殿物をn-プロピルアミンで分解し、HPLC(Thermo Fisher製「Ultimate 3000」)を用いて、末端から生じた分解生成物を主鎖由来の分解生成物と分離し、そのピーク強度よりカルボキシ末端基量(mmol/kg)を算出した。1000000をカルボキシ末端基量(mmol/kg)で除した値を数平均分子量として算出した。
【0069】
(工程(B))
その後、温度を290℃まで1.25時間かけて昇温し、反応温度が180℃に達した時点から10Torr(即ち1330Pa)まで減圧して、副生する水、及びその他の低沸分を留出させながら、55分間、溶融重合により重縮合を行った(工程(B))。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出した。
得られた液晶性樹脂の収率は89%であった。
【0070】
[実施例2]
ステアリン酸を用いないこと以外は、実施例1と同じ方法で工程(A)及び工程(B)を行った。
工程(A)の後の反応液から1mLを抜き出し、アセトン10mL中に入れ、23℃で0.5時間撹拌後、静置した。その結果、溶媒に不溶の白色の沈殿物が目視で確認された。また、工程(A)において、実施例1と同じ方法で算出した数平均分子量は、422であった。
工程(B)後に得られた液晶性樹脂の収率は79%であった。
【0071】
[実施例3]
Bi(OTf)に代えて、PFPAT(東京化成工業(株)製、125mg、0.1モル%)を用いた以外は、実施例1と同じ方法で工程(A)及び工程(B)を行った。
工程(A)の後の反応液から1mLを抜き出し、アセトン10mL中に入れ、23℃で0.5時間撹拌後、静置した。その結果、溶媒に不溶の白色の沈殿物が目視で確認された。また、工程(A)において、実施例1と同じ方法で算出した数平均分子量は、398であった。
工程(B)後に得られた液晶性樹脂の収率は85%であった。
【0072】
[比較例1]
工程(A)を行わないこと以外は、実施例1と同じ方法で原料モノマーを溶融重合により重縮合を行った。つまり、重合容器に実施例1に記載の原料を仕込んだ後、温度を290℃まで1.25時間かけて昇温し、反応温度が180℃に達した時点から10Torr(即ち1330Pa)まで減圧して、副生する水、及びその他の低沸分を留出させながら溶融重合により重縮合を行った(工程(B))。得られた液晶性樹脂の収率は40%であり、十分に重縮合反応が進行しなかった。
【0073】
[比較例2]
工程(B)において、減圧せずに重縮合反応を試みたこと以外は、実施例1と同じ方法で工程(A)及び工程(B)を行った。
工程(A)の後の反応液から1mLを抜き出し、アセトン10mL中に入れ、23℃で0.5時間撹拌後、静置した。その結果、溶媒に不溶の白色の沈殿物が目視で確認された。また、工程(A)において、実施例1と同じ方法で算出した数平分子量は、420であった。
工程(B)後の反応液は、攪拌トルクの上昇が確認されず、液晶性樹脂は生成されなかった。
【0074】
[比較例3]
Bi(OTf)に代えて、KOAc(酢酸カリウム、東京化成工業(株)製、38mg、0.1モル%)を用いた以外は、実施例1と同じ方法で工程(A)及び工程(B)を行った。
工程(A)の後の反応液から1mLを抜き出し、アセトン10mL中に入れ、23℃で0.5時間撹拌後、静置した。その結果、溶媒不溶物は目視で確認されなかった。
工程(B)後の反応液は、攪拌トルクの上昇が確認されず、液晶性樹脂は生成されなかった。
【0075】
[比較例4]
Bi(OTf)を用いなかったこと以外は、実施例1と同じ方法で工程(A)及び工程(B)を行った。
工程(A)の後の反応液から1mLを抜き出し、アセトン10mL中に入れ、23℃で0.5時間撹拌後、静置した。その結果、溶媒不溶物は目視で確認されなかった。
工程(B)後の反応液は、攪拌トルクの上昇が確認されず、液晶性樹脂は生成されなかった。
【0076】
(重量平均分子量:M
実施例1~3及び比較例1で生成された液晶性樹脂の重量平均分子量(Mw)を、以下の方法で測定した。結果を表1に示した。
装置:GPC(東ソー(株)製「HLC-8320GPC」)
条件:
展開溶媒:3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェノール/クロロホルム=1/4(1.0mL/min)
測定温度:40℃
【0077】
【表1】
【0078】
表1に示すように、工程(A)によってオリゴマーを生成した後に、工程(B)によって減圧下でオリゴマーを溶融状態で重縮合した実施例1~3の方法では、アシル化剤を用いなくとも液晶性樹脂を製造することができる。その結果、従来よりも低コストで液晶性樹脂を製造することができる。実施例1~3は、液晶性樹脂の収率がいずれも70%を超えていた。
これに対して、オリゴマーを生成せずに原料モノマーを重縮合した比較例1,3,4では、液晶性樹脂が得られなかった、又は収率が低く実用的ではなかった。比較例2に示すように、オリゴマーを生成した後にオリゴマーの重縮合を試みた場合でも、減圧しない場合は液晶性樹脂が得られなかった。