(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062923
(43)【公開日】2023-05-09
(54)【発明の名称】シリコーン変性プルラン、該変性プルランを含む組成物、並びに化粧料
(51)【国際特許分類】
C08B 37/00 20060101AFI20230427BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20230427BHJP
A61K 8/89 20060101ALI20230427BHJP
A61K 8/31 20060101ALI20230427BHJP
A61Q 19/00 20060101ALN20230427BHJP
【FI】
C08B37/00 D
A61K8/73
A61K8/89
A61K8/31
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021173111
(22)【出願日】2021-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】森谷 浩幸
【テーマコード(参考)】
4C083
4C090
【Fターム(参考)】
4C083AC011
4C083AC012
4C083AD151
4C083AD211
4C083AD212
4C083BB11
4C083CC02
4C090AA02
4C090AA05
4C090BA19
4C090BB12
4C090BB36
4C090BB38
4C090BB52
4C090BB68
4C090BB94
4C090BD01
4C090BD36
(57)【要約】 (修正有)
【課題】不純物量が少ないシリコーン変性プルランを含む組成物であって、保存安定性が高く、化粧料に配合した際の使用感の悪化を引き起こさない組成物、該シリコーン変性プルラン及びその製造方法を提供する。
【解決手段】シリコーン変性プルランは、水分含有量が1.0質量%以下であり、かつカルシウム含有量が100ppm未満であるプルランと下記式(1)で表されるイソシアネート基含有シリコーンの付加反応物である。
(式中、R
1は互いに独立に、炭素数1~8のアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数1~8のフッ素置換アルキル基、炭素数6~12のアリール基、及び炭素数7~12のアラルキル基から選択される基であり、R
2は炭素数1~4のアルキル基またはフェニル基であり、nは1~10の整数であり、aは0~3の整数である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)成分及び(b)成分の付加反応物であることを特徴とするシリコーン変性プルランであって、
(a)水分含有量が1.0質量%以下であり、かつカルシウム含有量が100ppm未満であるプルラン
(b)下記式(1)で表されるイソシアネート基含有シリコーン
【化1】
(式中、R
1は互いに独立に、炭素数1~8のアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数1~8のフッ素置換アルキル基、炭素数6~12のアリール基、及び炭素数7~12のアラルキル基から選択される基であり、R
2は炭素数1~4のアルキル基またはフェニル基であり、nは1~10の整数であり、aは0~3の整数である)
前記シリコーン変性プルラン中の、カルシウム含有量が100ppm未満であり、
かつ、下記式(2)
【化2】
(式中、R
1、R
2、n、及びaは上述の通り)
で表されるウレア基含有シリコーンの含有量が2,000ppm未満である、
前記シリコーン変性プルラン。
【請求項2】
動的粘弾性測定により測定されるガラス転移点100~150℃を有する、請求項1記載のシリコーン変性プルラン。
【請求項3】
前記シリコーン変性プルラン中の、前記式(1)で表されるイソシアネート基含有シリコーンの残存量が2,000ppm未満である、請求項1又は2記載のシリコーン変性プルラン。
【請求項4】
(A)請求項1~3のいずれか1項記載のシリコーン変性プルラン:20~50質量%、及び
(B)シリコーンオイル、炭化水素油、及びエステル油から選ばれる1つ以上の油剤:50~80質量%
を含む、組成物。
【請求項5】
JIS K7117-1:1999に準拠して測定される25℃での粘度50~200,000mPa・sを有する、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
請求項4又は5記載の組成物を含む化粧料。
【請求項7】
シリコーン変性プルランの製造方法であって、
(a)水分含有量が1.0質量%以下であり、かつカルシウム含有量が100ppm未満であるプルランと
(b)下記式(1)で表されるイソシアネート基含有シリコーン
【化3】
(式中、R
1は互いに独立に、炭素数1~8のアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数1~8のフッ素置換アルキル基、炭素数6~12のアリール基、及び炭素数7~12のアラルキル基から選択される基であり、R
2は炭素数1~4のアルキル基またはフェニル基であり、nは1~10の整数であり、aは0~3の整数である)
とを付加反応させることにより前記シリコーン変性プルランを得る工程を含み、
該シリコーン変性プルラン中の、カルシウム含有量が100ppm未満であり、かつ、下記式(2)
【化4】
(式中、R
1、R
2、n、及びaは上述の通り)
で表されるウレア基含有シリコーンの含有量が2,000ppm未満である、前記製造方法。
【請求項8】
前記付加反応を有機金属化合物存在下で行う、請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
前記有機金属化合物が、アセチルアセトン金属錯体、又は、カルボン酸ビスマスである、請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
前記(a)成分100質量部に対する(b)成分の配合量が500~700質量部である、請求項7~9のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項11】
前記付加反応を有機溶剤中で行い、該有機溶剤の量が前記(a)成分100質量部に対して1,000~10,000質量部である、請求項7~10のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項12】
前記シリコーン変性プルラン中、前記式(1)で表されるイソシアネート基含有シリコーンの残存量が2,000ppm未満である、請求項7~11のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項13】
前記シリコーン変性プルランが動的粘弾性測定により測定されるガラス転移点100~150℃を有する、請求項7~12のいずれか1項記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーン変性プルラン、該変性プルランを含む組成物、並びに化粧料に関する。より詳細には不純物量の低減されたシリコーン変性プルラン、及び該シリコーン変性プルランの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から多糖類に対してシリコーンを変性させたシリコーン変性多糖類が検討されてきた(特許文献1、2)。例えば、特許文献1には、セルロースとシリコーンの両方の性質を具備した、シロキサン含有セルロース誘導体が記載されている。特許文献2には、プルランとシリコーン化合物の両方の性質を兼備したシロキサン含有プルランが記載されている。また、シリコーン変性多糖類を化粧品に配合することも検討されてきている(特許文献3-6)。特許文献3には、特定のシリコーン化多糖化合物を有機紫外線吸収剤と共に併用することを特徴とする日焼け止め化粧料が記載されている。特許文献4にはシリコーン化多糖化合物含有の油中水型乳化化粧料が記載されている。特許文献6には、シリコーン化プルランを含む目元用化粧料組成物が記載されている。特許文献3~6に記載されているように、シリコーン変性多糖類を含む化粧料は耐水性、耐油性が高く、使用感にも優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-145201号公報
【特許文献2】特開平8-134103号公報
【特許文献3】特開平10-29921号公報
【特許文献4】特開2001-278729号公報
【特許文献5】国際公開第2012/133293号
【特許文献6】特開2017-218413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のシリコーン変性多糖類は有機油に溶解させた場合の保存安定性に問題があった。より詳細には、外観が濁っていたり、針状の結晶が析出したりすることがあった。この原因は、イオン性金属塩の残存や、未反応モノマーの2量化体の析出によると考えられている。それゆえに、組成物とした際に安定しているシリコーン変性プルランが求められてきた。また、未反応モノマーはイソシアネート基を持つため、残存量が多い場合に皮膚への刺激性が懸念される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたもので、シリコーン変性プルラン、及び油剤を含む組成物であって、安定性を改善したシリコーン変性プルラン含有組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。特には、不純物量が少ないシリコーン変性プルランを含む組成物であって、保存安定性が高く、化粧料に配合した際の使用感の悪化を引き起こさない組成物を提供することを目的とする。このようなシリコーン変性プルラン含有組成物は、安全性が高く、透明性の高い組成物を提供することができる。
【0006】
プルランは一般的にプルランの生産菌を培養して生産され、その際の培地にイオン性の無機塩が使用される。本発明者は、従来の問題に対して鋭意検討を行った結果、プルランがカルシウム等の無機塩を有している場合、シリコーン変性プルランを含む組成物が濁ってしまうこと、プルランをシリコーン変性する際に副反応が優先してしまうことを見出した。また、プルランは水酸基を持っているため経時で吸湿する。その水分による副反応でシリコーン変性プルラン製造時にウレア基含有シリコーンが生成し、該ウレア基含有シリコーンは洗浄工程を経ても除去が困難である。そこで、プルランを予め脱水することで、シリコーン変性プルラン製造時のウレア基含有シリコーンの生成を抑制できることを見出した。
【0007】
さらに、プルランとシリコーン変性イソシアネートとの反応触媒として、従来より有機スズやアミンが用いられてきた。しかし、有機スズは安全性に問題があり、アミン触媒は触媒活性が低い問題があった。そこで、本発明の製造方法では、特定の触媒を用いることによって、シリコーンの付加率を向上し、ガラス転移点100~150℃を有するシリコーン変性プルランを提供できることを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、下記(a)成分及び(b)成分の付加反応物であることを特徴とするシリコーン変性プルランであって、
(a)水分含有量が1.0質量%以下であり、かつカルシウム含有量が100ppm未満であるプルラン
(b)下記式(1)で表されるイソシアネート基含有シリコーン
【化1】
(式中、R
1は互いに独立に、炭素数1~8のアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数1~8のフッ素置換アルキル基、炭素数6~12のアリール基、及び炭素数7~12のアラルキル基から選択される基であり、R
2は炭素数1~4のアルキル基またはフェニル基であり、nは1~10の整数であり、aは0~3の整数である)
前記シリコーン変性プルラン中の、カルシウム含有量が100ppm未満であり、
かつ、下記式(2)
【化2】
(式中、R
1、R
2、n、及びaは上述の通り)
で表されるウレア基含有シリコーンの含有量が2,000ppm未満である、
前記シリコーン変性プルランを提供する。
さらに、当該シリコーン変性プルランを含む組成物、及び該組成物を含む化粧料、並びに上記シリコーン変性プルランの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のシリコーン変性プルランは副生成物などの不純物量が少ない。本発明のシリコーン変性プルラン含有組成物は、不純物量が少ないことで保存安定性が改善され、化粧料に配合した際、使用感の悪化を引き起こさない。また、安全性、透明性が高く、コーティング剤や塗料への添加を好適に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0011】
本発明のシリコーン変性プルランは、下記(a)成分及び(b)成分の付加反応物であることを特徴とする。
(a)水分含有量が1.0質量%以下であり、かつカルシウム含有量が100ppm未満であるプルラン
(b)下記式(1)で表されるイソシアネート基含有シリコーン
【化3】
(式中、R
1は互いに独立に、炭素数1~8のアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数1~8のフッ素置換アルキル基、炭素数6~12のアリール基、及び炭素数7~12のアラルキル基から選択される基であり、R
2は炭素数1~4のアルキル基またはフェニル基であり、nは1~10の整数であり、aは0~3の整数である)
【0012】
本発明のシリコーン変性プルランは、カルシウム含有量が100ppm未満であり、
かつ、下記式(2)
【化4】
(式中、R
1、R
2、n、及びaは上述の通り)
で表されるウレア基含有シリコーンの含有量が2,000ppm未満である。さらに好ましくは、上記式(1)で表されるイソシアネート基含有シリコーンの残存量が、2,000ppm未満である。
【0013】
本発明において(a)プルランは、水分含有量がプルラン全体の1.0質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.05質量%以下であることを特徴とする。水分含有量の下限値は特に制限されず少なければ少ない方がよい。好ましくは0.001質量%以上であり、より好ましくは0.005質量%以上である。水分含有量が上記上限値を超えると、(b)イソシアネート基含有シリコーンとの反応の際、副生成物として上記式(2)で表されるウレア基含有シリコーンが多量に生成してしまうことがあり好ましくない。プルラン中の水分含有量の測定方法は、カールフィッシャー法で測定することができる。
プルランの水分含有量を1.0質量%以下にする方法は特に制限されないが、例えば、プルランを50~120℃で減圧乾燥する方法や、ヘキサンやトルエンなどと共沸脱水して水を除去する方法がある。
【0014】
本発明のプルランに含まれるカルシウム含有量は、プルラン全体の100ppm未満であることを特徴とし、好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは30ppm以下である。カルシウム含有量の下限値は特に制限されず少なければ少ない方がよい。好ましくは、0.01ppm以上であり、より好ましくは0.1ppm以上である。カルシウム含有量が上記上限値以上であると、反応時の副生成物として上記式(2)で表されるウレア基含有シリコーンが多量に生成する恐れがある。また得られる組成物の外観が濁ることがあるため好ましくない。本発明においてカルシウム含有量は、ICP発光分光分析法で測定したカルシウム元素換算の値を指す。
【0015】
上記プルランは、重量平均分子量1,000~5,000,000を有することが好ましく、30,000~400,000を有することがより好ましい。該重量平均分子量は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)分析(溶媒:DMF、プルラン換算、25℃)により測定される。
【0016】
本発明におけるプルランは、上述した要件を満たすものであればよく、市販のプルランを精製したものであればよい。また予め脱塩精製処理されたプルランの市販品を脱水処理して用いてもよい。例えば、化粧品用として販売されている株式会社林原社製のプルラン(脱塩精製処理品)を脱水処理して用いることが好ましい。
【0017】
(b)成分はイソシアネート基含有シリコーンであり、下記式(1)で表される。
【化5】
式(1)中、R
1は、互いに独立に、炭素数1~8のアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数1~8のフッ素置換アルキル基、炭素数6~12のアリール基、及び炭素数7~12のアラルキル基から選択される基である。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、及びオクチル基等が挙げられる。シクロアルキル基の例としては、シクロペンチル基、及びシクロヘキシル基等が挙げられる。フッ素置換アルキル基の例としては、トリフロロプロピル基、ノナフルオロヘキシル基、及びヘプタデカフロロデシル基等が挙げられる。アリール基の例としては、フェニル基、及びトリル基等が挙げられる。アラルキル基の例としては、ベンジル基、及びフェネチル基等が挙げられる。好ましくは炭素数1~8のアルキル基、或いはフェニル基であり、より好ましくはメチル基である。
【0018】
R2は炭素数1~4のアルキル基またはフェニル基である。中でも、メチル基、エチル基、またはフェニル基が好ましい。nは1~10の整数であり、好ましくは2~8の整数であり、より好ましくは3~6の整数であり、最も好ましくは3である。aは0~3の整数であり、好ましくは0、1または2であり、最も好ましくは0である。
【0019】
(b)イソシアネート基含有シリコーンとしては、例えば下記式で表される化合物が挙げられる。
【化6】
【0020】
本発明のシリコーン変性プルランは(a)プルランと(b)イソシアネート基含有シリコーンの付加反応物である。(a)プルランと(b)イソシアネート基含有シリコーンとを付加反応させる際の配合比としては、プルラン100質量部に対してイソシアネート基含有シリコーン500~800質量部であることが好ましく、より好ましくは600~700質量部である。
【0021】
上記付加反応は(c)有機溶剤中で行うことが好ましい。有機溶剤としては、酢酸ブチル等のエステル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を混合しても良い。(c)有機溶剤の量は、適宜調整されればよいが、プルラン100質量部に対して有機溶剤1,000~10,000質量部であることが好ましい。なお、本発明で用いる(c)有機溶剤はその水分量が少ないことが好ましい。好ましくは、有機溶剤中の水分量は5,000ppm以下が好ましく、1~1,000ppmがより好ましい。当該範囲内であれば、副生成物の生成を抑えることができるため好ましい。
【0022】
上記付加反応は通常無触媒でも進行するが、本発明の製造方法では触媒を用いるのがよい。触媒は、触媒活性や安全性の観点から、鉄、ビスマス、ジルコニウム、チタン、アルミニウム、及び銅などの金属元素を含む有機金属化合物が好ましい。有機金属化合物触媒はアミン触媒などに比較して触媒活性が高く、シリコーンの付加率を向上することができる。これにより、不純物量が低減され、ガラス転移点100~150℃を有するシリコーン変性プルランを提供できる。有機金属化合物としては、例えば、アセチルアセトンアルミニウム、アセチルアセトン鉄、アセチルアセトン銅、アセチルアセトンチタン、及びアセチルアセトンジルコニウムなどのアセチルアセトン金属錯体、又は、カルボン酸ビスマスが挙げられる。特に好ましくはアセチルアセトン金属錯体であり、中でもアセチルアセトン鉄錯体がよい。有機金属化合物の量は、プルラン100質量部に対して0.0001~0.1質量部、好ましくは0.001~0.5質量部が好ましい。本発明の製造方法では、当該有機金属化合物を触媒とすることにより、付加反応率が上がり、不純物量を低減することができる。
【0023】
付加反応温度は好ましくは50~150℃である。反応時間は適宜選択されればよい。反応終了後、洗浄、乾燥することで、シリコーン変性プルランを得ることができる。当該本発明の製造方法により得られるシリコーン変性プルランは副生成物が少ないことを特徴とする。すなわち、シリコーン変性プルラン中の、カルシウム含有量が100ppm未満であり、かつ、上記式(2)で表されるウレア基含有シリコーンの含有量が2,000ppm未満であることを特徴とする。好ましくは、上記式(1)で表される原料イソシアネート基含有シリコーンの残存量が2,000ppm未満である。
【0024】
シリコーン変性プルラン中、カルシウム含有量は100ppm未満であり、50ppm以下が好ましく、10ppm以下がより好ましく、さらには5ppm以下であるのが好ましい。下限値は特に制限されず少なければ少ないほど良いが、例えば0.01ppm以上である。カルシウム含有量が上記上限値以上であると、得られる組成物の外観が白濁し、組成物中で沈殿が生成する場合があり、審美性が損なわれる。カルシウム含有量は、上述したプルラン中のカルシウム含有量測定法にて測定すればよい。
【0025】
シリコーン変性プルラン中、上記式(2)で表されるウレア基含有シリコーンの含有量は2,000ppm未満であり、1,800ppm以下であることが好ましく、1,500ppm以下であることが好ましく、1,000ppm以下であることがより好ましい。下限値は特に制限されず少なければ少ないほど良いが、例えば0.1ppm以上であり、好ましくは1ppm以上である。含有量が上記上限値以上であると、外観が白濁し、経時で沈殿が析出するおそれがある。当該ウレア基含有シリコーンは洗浄で除去することが難しい。ウレア基含有シリコーンの含有量はガスクロマトグラフ法によって測定できる。
【0026】
さらにシリコーン変性プルラン中、上記式(1)で表される原料イソシアネート基含有シリコーンの残存量は、好ましくは2,000ppm未満であり、1,800ppm以下であることが好ましく、1,500ppm以下であることがより好ましく、1,000ppm以下であることがさらに好ましい。下限値は特に制限されず少なければ少ないほど良いが、例えば0.1ppm以上であり、好ましくは1ppm以上である。残存量が上記上限値以上であると、組成物中で経時で沈殿が析出するおそれがある。また、化粧品に配合する場合は安全上好ましくない。イソシアネート基含有シリコーンの残存量は、ヘッドスペースガスクロマトグラフ法によって測定できる。
【0027】
本発明のシリコーン変性プルランはガラス転移点100~150℃を有することが好ましく、より好ましくは110~140℃である。ガラス転移点が当該範囲内であれば、強靭でかつ柔軟性のある皮膜を形成するため、化粧品に使用した際に肌負担がなく、持続性に優れたものにすることができるため好ましい。なお、本発明のガラス転移点は、動的粘弾性測定により測定した値である。
【0028】
本発明はさらに上記シリコーン変性プルランと各種油剤とを含む組成物を提供する。好ましくは
(A)上記シリコーン変性プルラン:20~50質量%、及び
(B)シリコーンオイル、炭化水素油、エステル油から選ばれる1つ以上の油剤:50~80質量%
を含むシリコーン変性プルラン組成物を提供する。
【0029】
(B)成分において、シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルポリシロキサン、トリストリメチルシロキシメチルシラン、カプリリルメチコン、フェニルトリメチコン、テトラキストリメチルシロキシシラン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルヘキシルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体等の低粘度から高粘度の直鎖或いは分岐状のオルガノポリシロキサンが挙げられる。または、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、テトラメチルテトラハイドロジェンシクロテトラシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン等の環状オルガノポリシロキサン、アミノ変性オルガノポリシロキサン、ピロリドン変性オルガノポリシロキサン、ピロリドンカルボン酸変性オルガノポリシロキサン、高重合度のガム状ジメチルポリシロキサン、ガム状アミノ変性オルガノポリシロキサン、ガム状のジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体等のシリコーンゴム、及びシリコーンガムやゴムの環状オルガノポリシロキサン溶液が挙げられる。
【0030】
炭化水素油としては、直鎖状、分岐状、さらに揮発性の炭化水素油等が挙げられる。例えば、オゾケライト、α-オレフィンオリゴマー、軽質イソパラフィン、イソドデカン、イソヘキサデカン、軽質流動イソパラフィン、スクワラン、合成スクワラン、植物性スクワラン、スクワレン、セレシン、パラフィン、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ポリエチレン・ポリプロピレンワックス、(エチレン/プロピレン/スチレン)コポリマー、(ブチレン/プロピレン/スチレン)コポリマー、流動パラフィン、流動イソパラフィン、プリスタン、ポリイソブチレン、水添ポリイソブテン、マイクロクリスタリンワックス、及びワセリン等が挙げられる。高級脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、イソステアリン酸、及び12-ヒドロキシステアリン酸等が挙げられる。
【0031】
エステル油としては、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸2-ヘキシルデシル、アジピン酸ジ-2-ヘプチルウンデシル、モノイソステアリン酸N-アルキルグリコール、イソステアリン酸イソセチル、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、ジ-2-エチルヘキサン酸エチレングリコール、2-エチルヘキサン酸セチル、トリ-2-エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、テトラ-2-エチルヘキサン酸ペンタエリスリトール、オクタン酸セチル、オクチルドデシルガムエステル、オレイン酸オレイル、オレイン酸オクチルドデシル、オレイン酸デシル、ジオクタン酸ネオペンチルグリコール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、クエン酸トリエチル、コハク酸2-エチルヘキシル、酢酸アミル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ステアリン酸イソセチル、ステアリン酸ブチル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル、乳酸セチル、乳酸ミリスチル、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソトリデシル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸2-エチルヘキシル、パルミチン酸2-ヘキシルデシル、パルミチン酸2-ヘプチルウンデシル、12-ヒドロキシステアリル酸コレステリル、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸2-ヘキシルデシル、ミリスチン酸ミリスチル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、ラウリン酸エチル、ラウリン酸ヘキシル、N-ラウロイル-L-グルタミン酸-2-オクチルドデシルエステル、ラウロイルサルコシンイソプロピルエステル、リンゴ酸ジイソステアリル等が挙げられる。グリセライド油としては、アセトグリセリル、トリイソオクタン酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル、トリイソパルミチン酸グリセリル、トリベヘン酸グリセリル、モノステアリン酸グリセリル、ジ-2-ヘプチルウンデカン酸グリセリル、トリミリスチン酸グリセリル、及びミリスチン酸イソステアリン酸ジグリセリル等が挙げられる。
【0032】
本発明のシリコーン変性プルラン組成物は外観が透明であり、かつ、医薬部外品原料規格2006記載の回転粘度測定法により測定した25℃における粘度が、50~200,000mPa・sであることが好ましい。
【0033】
シリコーン変性プルラン組成物は、該シリコーン変性プルラン30質量%及びイソドデカン等の炭化水素油70質量%からなる組成物1質量部と、アセトン1.5質量部との比率で混合した場合に、白色沈殿を生じることが好ましい。当該アセトンとの混合試験で白色沈殿を生じずに溶解する場合は、組成物の経時安定性や化粧品、コーティング剤に配合した際の安定性が悪くなることがある。本発明のシリコーン変性プルラン組成物は、ガラス転移点100~150℃を有するようにシリコーン変性されることにより、アセトンと混合した場合に白色沈殿を生じるものとなる。
【0034】
本発明のシリコーン変性プルラン組成物は化粧料に添加することができる。シリコーン変性プルラン組成物の配合量は特に制限されないが、化粧料全体の0.05~20質量%、好ましくは0.1~10質量%の範囲で添加するのが好適である。
【0035】
化粧料としては、化粧料に許容可能な成分を任意に含むものである。形態は、粉体、油性、油中水型エマルション、水中油型エマルション、非水エマルション、W/O/WやO/W/O等のマルチエマルション等が挙げられる。化粧料とは、例えば、化粧水、乳液、クリーム、クレンジング、パック、オイルリキッド、マッサージ料、美容液、美容オイル、洗浄剤、脱臭剤、ハンドクリーム、リップクリーム、しわ隠し等のスキンケア化粧料、メイクアップ下地、コンシーラー、白粉、パウダーファンデーション、リキッドファンデーション、クリームファンデーション、油性ファンデーション、頬紅、アイシャドウ、マスカラ、アイライナー、アイブロウ、口紅等のメイクアップ化粧料、シャンプ-、リンス、トリートメント、セット剤等の毛髪化粧料、制汗剤、日焼け止めオイルや日焼け止め乳液、及び日焼け止めクリーム等の紫外線防御化粧品組成物等が挙げられる。また化粧料の形状としては、液状、乳液状、クリーム状、固形状、ペースト状、ゲル状、粉末状、プレス状、多層状、ムース状、スプレー状、スティック状、及びペンシル状等、種々の形状を選択することができる。
【実施例0036】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
下記において、実施例1-2で用いたプルランは、脱塩精製された、重量平均分子量200,000を有する株式会社林原の化粧品用プルランである。比較例1-2で用いたプルランは、非脱塩精製品である、重量平均分子量200,000を有する株式会社林原のプルランPF-20である。
【0037】
[実施例1]
7,000mlの反応器にプルラン100gとヘキサン1,300gを入れ、撹拌しながら80℃で2時間、減圧下で共沸脱水させた。プルランの含水量は200ppm、カルシウム含有量は10ppmであった。そこにN-メチルピロリドン3,000g、アセチルアセトン鉄錯体0.03gを添加し、120℃で加熱溶解した。そこに上記式(3)で表されるイソシアネート基含有オルガノポリシロキサン560gを滴下した。120℃で5時間攪拌反応させた後、反応液から分離したN-メチルピロリドン2,600gを抜き出し、残った樹脂にヘキサン2,300gを加え、撹拌溶解させた。そこにメタノールを1,200g加えて撹拌し、メタノール層を廃棄した。この洗浄操作を2回繰り返した後、80℃で8時間、減圧乾燥させて525gのシリコーン変性プルランを取り出した。シリコーン変性プルランはガラス転移点が125℃であった。
得られたシリコーン変性プルラン中のカルシウム含有量は1ppm未満であり、下記式(3)で表されるイソシアネート基含有オルガノポリシロキサンの含有量は200ppmであり、下記式(4)で表されるウレア基含有オルガノポリシロキサンの含有量は50ppmであった。
【化7】
【化8】
【0038】
上記シリコーン変性プルラン30g、イソドデカン70gを混合溶解して粘度450mPa・sで淡黄色透明の組成物を得た。この組成物1gとアセトン1.5gを混合したところ、白色沈殿が析出した。さらにこの組成物は室温で1ヶ月後も外観の変化はなかった。
【0039】
[実施例2]
5,000mlの反応器にプルラン100gとヘキサン400gを入れ、撹拌しながら80℃で2時間、減圧下で共沸脱水させた。プルランの含水量は400ppm、カルシウム含有量は10ppmであった。そこにN-メチルピロリドン1,500g、カルボン酸ビスマス(製品名:K-KAT XK-640、KING INDUSTRY社製)0.05gを添加し、120℃で加熱溶解した。そこに上記式(3)で表されるイソシアネート基含有オルガノポリシロキサン600gを滴下した。120℃で5時間攪拌反応させた後、メチルエチルケトン1,000gを加え、撹拌溶解させた。この溶液をメタノール3,000gに加えて撹拌し、樹脂を析出させた。メタノール300gで3回洗浄し、80℃で8時間、減圧乾燥させて600gの樹脂を取り出した。得られたシリコーン変性プルランはガラス転移点が118℃であった。
得られたシリコーン変性プルラン中のカルシウム含有量は1ppm未満であり、上記式(3)で表されるイソシアネート基含有オルガノポリシロキサンの含有量は1,800ppmであり、上記式(4)で表されるウレア基含有オルガノポリシロキサンの含有量は1,500ppmであった。
【0040】
上記シリコーン変性プルラン30g、イソドデカン70gを混合溶解して粘度750mPa・sで淡黄色透明の組成物を得た。この組成物1gとアセトン1.5gを混合したところ、白色沈殿が析出した。さらにこの組成物は室温で1ヶ月後も外観の変化はなかった。
【0041】
[比較例1]
7,000mlの反応器にプルラン(含水量:3.5%、カルシウム含有量:1,200ppm)100gを入れた。そこにN-メチルピロリドン3,000g、トリエチルアミン10gを添加し、120℃で加熱溶解した。そこに上記式(3)で表されるイソシアネート基含有オルガノポリシロキサン560gを滴下した。120℃で5時間攪拌反応させた後、反応液から分離したN-メチルピロリドン1,800gを抜き出し、残った樹脂にヘキサン2,300gを加え、撹拌溶解させた。そこにメタノールを1,200g加えて撹拌し、メタノール層を廃棄した。この洗浄操作を2回繰り返した後、80℃で8時間減圧乾燥させて470gの樹脂を取り出した。得られたシリコーン変性プルランはガラス転移点が155℃であった。
得られたシリコーン変性プルラン中のカルシウム含有量は700ppmであり、上記式(3)で表されるイソシアネート基含有オルガノポリシロキサンの含有量は7,000ppmであり、上記式(4)で表されるウレア基含有オルガノポリシロキサンの含有量は8,000ppmであった。
【0042】
上記シリコーン変性プルラン30g、イソドデカン70gを混合溶解して粘度1,400mPa・sで淡黄色白濁の組成物を得た。この組成物1gとアセトン1.5gを混合したところ、白色沈殿は生じず、透明溶解した。さらにこの組成物は室温で1ヶ月後に白色の沈殿が生じ、経時安定性に劣った。
【0043】
[比較例2]
7,000mlの反応器に110℃で2時間乾燥させたプルラン100gを入れた。プルランの含水量は1.2%、カルシウム含有量は1,200ppmであった。そこにN-メチルピロリドン3,000g、トリエチルアミン10gを添加し、120℃で加熱溶解した。そこに上記式(3)で表されるイソシアネート基含有オルガノポリシロキサン560gを滴下した。120℃で5時間攪拌反応させた後、反応液から分離したN-メチルピロリドン1,800gを抜き出し、残った樹脂にヘキサン2,300gを加え、撹拌溶解させた。そこにメタノールを1,200g加えて撹拌し、メタノール層を廃棄した。この洗浄操作を2回繰り返した後、80℃で8時間減圧乾燥させて480gの樹脂を取り出した。得られたシリコーン変性プルランはガラス転移点が155℃であった。
得られたシリコーン変性プルラン中のカルシウム含有量は700ppmであり、上記式(3)で表されるイソシアネート基含有オルガノポリシロキサンの含有量は6,000ppmであり、上記式(4)で表されるウレア基含有オルガノポリシロキサンの含有量は7,000ppmであった。
【0044】
上記シリコーン変性プルラン30g、イソドデカン70gを混合溶解して粘度1,200mPa・sで淡黄色白濁の組成物を得た。この組成物1gとアセトン1.5gを混合したところ、白色沈殿は生じず、透明溶解した。さらにこの組成物は室温で1ヶ月後に白色の沈殿が生じ、経時安定性に劣った。
【0045】
本発明の製造方法によれば副生成物などの不純物量が少ないシリコーン変性プルランを提供することができる。本発明のシリコーン変性プルランを含む組成物は保存安定性が改善され、化粧料に配合した際、使用感の悪化を引き起こさない。また、安全性、透明性が高く、コーティング剤や塗料への添加を好適に行うことができる。